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戦前に埋設した管の更生工法の選定と今後の課題

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戦前に埋設した管の更生工法の選定と今後の課題
戦前に埋設した管の更生工法の選定と今後の課題
オリジナル設計(株)秋田事務所技術一課
岸
功
1.はじめに
下水道施設の適正な維持管理、事故の未然防止及びライフサイクルコストの最小化を図
るため、平成 20 年度に「下水道長寿命化支援制度」が新規事業として創設された。それに
伴い、管きょの改築を効率よく行うために、周辺環境へ与える影響の低減に配慮した更生工
法が都市部を中心に多く採用されている。
更生工法は、自立管では 1986 年に反転工法が施工されたのを初めとし、1990 年に形成
工法、複合管については 1993 年に製管工法が(財)下水道新技術推進機構の建設技術審査
証明を取得した。その後も様々な技術的要望・需要に対して我が国の管更生技術は急速な進
歩・発展を続け、現在は 50 種もの更生工法が存在する。
その一方で、各工法の特性や特徴が多種多様であるうえ、更生管きょの構築が現場で製品
を加工する現場製作物であり、様々な地域特性や気象条件等の中での高度な品質管理が最
も重要となる。従来の下水道整備における工法選定は、現場条件、土質条件、周辺環境、そ
して経済性を重視して選定を行っていたが、管きょの改築においては、更生管の長期的な品
質確保を原則とした工法選定を行う事が
重要である。
本稿では、秋田市における管きょ改築実
施設計業務(更生工法実施設計:φ250 ㎜
~φ400 ㎜ L=1,078m、φ800 ㎜~φ
1,200 ㎜ L=989m)より、管路調査によ
る既設管の考察(評価手法)~更生工法選
定までの設計事例を報告する。
2.秋田市下水道長寿命化計画の概要
秋田市の下水道は、大正 15 年に建設が
開始され、昭和7年から下水道事業として
事業着手した。現在は上位計画である「流
域別下水道整備総合計画」を基に、全体計
画を 8,119.8ha(雨水 7,365.5ha)とし、
平成 32 年度を目標年次として事業を推進
している。下水道処理人口普及率は、平成
23 年度末で 90.5%となっている。
平成 24 年度に「秋田市下水道長寿命化
- 57 -
図‐1
秋田市 管路経過年数分布図
計画」として採択を受けた施設(対象管路延長L=10.94km 図‐1)は、昭和 12 年~昭和
59 年に建設された合流管であり、このうち 9.80km(90%)が標準耐用年数 50 年を超過、
70 年を経過している施設も 8.38km(77%)となっている。
対象施設の約 50%は、秋田市地域防災計画で位置づけられている緊急輸送路線に埋設さ
れており、かつ防災拠点の排水を受け持つ都市機能として重要な管路である。当地区では、
下水道管の老朽化に起因した道路陥没事故も発生しており、地域住民からの改築要望も強
く、早急な対応が必要とされている。
3.管路状況(管路の状態と考察、課題)
管路内調査(潜行目視・TVカメラ調査)の結果、建設より 70 年を超過した管路におい
て、以下に示す特徴が判明した。
・管目地が 1.0mピッチである。
(管の有効長L=1.00m/本)
・管厚がJIS標準規格より厚い(人孔接続部にて確認)
これらの特徴を整理し、文献等による調
査を行った結果、対象管路は昭和 12 年に
表‐1
JES 下水道鉄筋コンクリート管規格書
我が国初の鉄筋コンクリート管規格(JE
S第 354 号A14)に基づき生産された「J
ES下水道用鉄筋コンクリート管」である
ことが判明した(表-1)。
昭和 25 年にJISA5305(遠心力鉄筋
コンクリート管)が規格制定され、昭和 44
年にはJSWAS A-1(下水道用鉄筋
コンクリート管)が規格制定されている事
から、施工年度から判断して、対象施設の
大半は「JES下水道用鉄筋コンクリート
管」であると想定される。また、JES規
格管は、戦時体制によって鉄筋の入手が困
難となり、鉄筋をなるべく使用しない管が
要望されるに至り、昭和 16 年には、いわ
ゆる“手詰め式製法”の管について「下水
道コンクリート管臨時規格」が制定されて
いる。したがって、対象管路には鉄筋量が
極端に少ない管路が含まれている可能性
もある。
管きょ更生工法の選定にあたっては、既
設管の状態を適切に判断し、現有の耐力等の構造性能を評価する必要がある。特に複合管は、
既設管の残存強度を期待し、既設管と更生材を一体構造とした新たな耐力を有する管路を
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構築する工法であるため、既設管の耐力の評価が更生後の耐力に大きく影響する事から、残
存強度の評価手法が設計の妥当性に大きく関与するといえる。
このような背景を踏まえ、本業務では適正な既設管の評価手法が大きな課題となった。
4.既設管劣化度調査(評価)手法
4.1 呼び径 800mm未満
小~中口径管路の非破壊検査法として、衝撃弾性波検査法が「(財)下水道新技術推
進機構 新技術研究成果証明」を取得しているが、同検査法は「JSWAS A-1」及び「JIS
A5372」における「外圧管 1 種」を対象として検証を行い、技術確立された検査法であ
る。具体的には、管に軽い衝撃を与えることにより発生する弾性波(振動)を、加速度
センサ等による計測から周波数分布の特性を解析し、新管における周波数分布を指標
値として評価する。したがって、JSWAS および JIS 規格に該当しない今回の既設管には
採用できない。
以上より、呼び径 800mm未満はTVカメラ調査結果による、管きょの破損、クラッ
ク、腐食、継手ズレ等の既設管の状態の判断を基本とするが、それを残存強度として数
値化する事は困難であるため、呼び径 800mm未満の管更生工法の選定は、既設管きょ
の残存強度を考慮しない自立管として施工することが品質確保上(安全確保上)適切と
考えた。
4.2 呼び径 800mm以上
呼び径が 800mm以上の管きょにおいて、調査員が管きょ内に潜行して行う劣化度調
査には、中性化深さ試験、コンクリート強度試験、鉄筋腐食調査がある。コンクリート
強度試験としては、テストハンマーを用いてコンクリートの反発度を測定し、コンクリ
ートの強度を推定する方法(反発度法)と、コアサンプリングして圧縮強度試験を行い
強度を測定する方法がある。
テストハンマーを用いた反発度法による評価は、試験方法が簡易であり、構造物に損
傷を与えない非破壊試験として多く用いられているが、対象施設はコンクリートの配
合、品質、品種に対して不明な点が多いほか、年数を経過したコンクリートは炭酸化の
ため高い反発度を示す事が多く、試験値の妥
当性に疑問が残った。
一方でコアサンプリングによる圧縮強度試
験は、構造物から直接コアを採取し試験を行
うため、より正確な試験値を得られる。また、
従来のコアリング試験はφ100mmのコアリ
ングが必要であったが、現在は“ソフトコアリ
ング法” としてφ25mmの小口径コアからの
解析・評価が可能である(図-2)。
図‐2
これらを踏まえ、試験的にテストハンマー
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小口径コアリングの概要
とφ25mm小口径コアによる試験結果の比較を行った。試験結果を表-2 に示す。
※
下水道用鉄筋コンクリート管(JSWAS A-1)の圧縮強度は、一般的に 50N/㎟とされている。
試験結果が示す通り、テストハンマーによる測定値は、ばらつきが多かった。(※最大
値-最小値=11.7N/㎟)
テストハンマーによるコンクリート強度算出は、材令補正や含水補正のほか、“骨材の
最大寸法による補正”を必要とするが、対象施設において骨材最大寸法は不明であるため
補正は行っていない。また、コンクリート厚が薄いこと、内面が曲面であることを考慮す
ると、反発度法による評価は妥当とは言えないと判断した。
以上より、呼び径 800mm以上における既設管劣化度は、ソフトコアリング法による圧
縮強度試験結果により評価を行う事とした。
5.更生工法の選定と構造計算
5.1 呼び径 800mm未満
【4.1】に基づき、呼び径 800mm未
表‐3
満の管きょは、自立管として工法選定
を行う。自立管は施工方法の違いによ
って反転工法と形成工法に大別され、
更に挿入後の更生管の硬化方法によっ
て、光硬化、熱硬化、熱形成に分類さ
れ、使用材料には 1)不飽和ポリエステ
ル樹脂、2)エポキシ樹脂、3)ビニエ
ステル樹脂、4)硬質塩化ビニル樹脂、
高密度ポリエチレン樹脂がある(表3)。
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自立管工法一覧表(例)
秋田市においては、過去にも維持管理上で問題があった路線を対象に、自立管による管
更生を行っているが、その際の工法選定は現場条件(各工法における作業ヤードの確保)
および経済性を重視して行われてきた。
管更生工法における最も重要なポイントは、材料を現場施工で構築する事であり、つま
り高度な品質管理が要求される。例えば不飽和ポリエステル樹脂は、樹脂含浸させたガラ
ス繊維の束を型に巻き付け熱硬化反応させるものである。このため、形状精度維持に厳密
な温度管理が必要となり、高度な施工管理が要求される。対して硬質塩化ビニル樹脂(熱
可塑性)は、工場で形成された管を現場で化学反応なしに加熱冷却による変形だけで製管
するため、熱硬化工法より管理が容易である。したがって、管路長が長くなるほど出来高
の品質信頼性が高くなるといえる。
硬質塩化ビニル樹脂(熱可塑性)は工場出荷時に品質が決まり、現場では熱を加えるが
形が変わるだけで品質に変化はない。対して熱硬化は、熱や光によって現場で化学反応を
起こし、現場で品質を作り上げる事になる。また、硬質塩化ビニル樹脂は「(社)日本下
水道協会 工場認定制度 Ⅱ類」に登録されているため、竣工時検査(管材の品質)を省略
でき、費用面、工期面でもメリットになる。
以上より、本検討では更生管の品質確保を最優先とし、硬質塩化ビニル樹脂を使用した
熱可塑による形成工法を選定した。
5.2 呼び径 800mm以上
(財)下水道新技術推進機構の建設技術審査証明を取得した自立管工法のうち、呼び径
800mm以上に対応可能な工法は 2 工法あるが、いずれも適用最大口径がφ800mmであ
り、更生材に不飽和ポリエステル樹脂を使用した工法である。現場構築型の管更生工法は、
管径が大きくなるにしたがい更生厚や硬化強度などの品質管理が難しくなるほか、
“更生
材のシワ、変形の抑制”に対する施工技術も高度なものになる。それに加え、自立管の施
工条件として、管きょ内をドライな状態にする必要があり、汚水量が多い幹線管きょは大
規模な水替え(仮排水)の問題が発生し、現実的ではない。
( 例:モデル路線φ800mm Q=0.614 ㎥ /sec ⇒ 汎用水中ポンプφ150mm 11kw 14
台)
以上より、呼び径 800mm以上は複合管(製管工法)を採用した。
5.3 構造計算(複合管)
複合管における構造計算は、JES下水道用鉄筋コンクリート管規格(表-1)および圧
縮強度試験結果、中性化試験結果を基に更生厚を算出したが、昭和 16 年に臨時制定され
た「下水道コンクリート管臨時規格」に関する資料が一切無い状態であった。
円形管における構造計算において、鉄筋量を減らした場合には、管厚を厚くする事によ
って強度を補うのが一般的とされる。各路線の管厚調査結果では、「JES下水道用鉄筋
コンクリート管規格」に記載された管厚を大きく上回る路線は無かったため、同規格の
「甲種管」または「乙種管」として構造計算を行った。
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6.おわりに
長寿命化計画策定時における施工
方法の検討では、物理的理由、社会的
影響の考慮、および経済比較結果に
よって改築工法(開削工法又は非開
削工法)を選定している(図‐3)。し
かし、施工の確実性、それによる適正
な耐用年数の確保、体系化された施
工管理などを考慮すると、特に浅く
埋設された路線においては、開削工
法による布設替えが原則であり、単
純に経済性のみで選択をすべきでは
ない。したがって、実施設計時におい
ては、再度、開削工法による布設替え
が不可能なのかを検証し、長期的な
品質確保を最優先とした工法選定を
行う必要があると考える。
また、特に秋田市のように戦前に
図‐3
改築工法選定フロー
埋設された規格不明管に対する設計
では、安易に JIS 規格等を参考とした想定値による構造計算を行うべきでは無い。今回の業
務において、様々な鉄筋コンクリート管メーカーへ問い合わせ、「JES下水道用鉄筋コン
クリート管規格」を入手したことによって、複合管における構造計算の妥当性が確認できた
が、「下水道コンクリート管臨時規格管」への対応に課題が残った結果になっている。しか
し、同規格は“手詰め”という製法から「手詰め管」とも呼ばれており、そもそもどのよう
な工程で、どのようなコンクリート配合、養生等の品質管理が行われていたのかも不明であ
り、仮に構造形式やコンクリート強度が判明しても、残存強度を考慮した複合管の設計には
「管更生の性能保証」の観点より採用出来ないと考える。したがって管路調査によって「手
詰め管」と判断された路線は、確実に品質を確保できる開削工法や自立管、または改築推進
工法を選定すべきであろう。
以上を踏まえ、今後は長寿命化計画策定時の工法検討においても、布設年度による管種の
違いに十分留意して計画を策定する必要があると考える。
参考文献
1)管きょ更生工法における設計・施工管理ガイドライン(案)
-平成 23 年 12 月- 社団法人日本下水道協会
2)下水道管路施設改築・修繕に関するコンサルティング・マニュアル(案)
-平成 24 年 4 月- 一般社団法人 管路診断コンサルタント協会
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