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論文 最終校正前原稿 視覚障害者用三次元物体認識支援システム

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論文 最終校正前原稿 視覚障害者用三次元物体認識支援システム
論文小特集 ■ 福祉のための画像応用
論文 最終校正前原稿
視覚障害者用三次元物体認識支援システム
− 対話型三次元触覚ディスプレイシステム −
正会員
河 井 良 浩† , 富 田 文 明 †
A Support System for the Visually Disabled
to Recognized 3D Objects
– Interactive 3D Tactile Display System –
Yoshihiro Kawai† and Fumiaki Tomita †
Abstract We have been developing a support system that enables the visually disabled to actively recognize three-dimensional objects or environments, as an application system of 3D computer vision. This
is a total system which has input, processing, and output functions. Using a stereo camera system as an
input device allows 3D visual information to be obtained. The visual information is converted into tactile
and auditory information which can be easily understood by the visually disabled. As one of the output
devices, we have developed an interactive 3D tactile display, which presents visual patterns by tactile pins.
Also, it can function as a digitizer. It is possible for a user to communicate with this system.
1.
は
じ め
に
一方,近年三次元コンピュータビジョン技術の発達
は著しく,この技術が福祉分野にも適用されるべき時
視覚情報者用の支援システムに関する製品は,OP-
期が来たとも言える.本研究では,従来のシステムで
TACON を始めとしてその大半は文字拡大,読み取
は行われていない高度な情報処理によって獲得できる
り,読み上げなどであり,対象は「文字」が中心であ
三次元視覚情報を,視覚障害者が健常者と同様に直接
る.しかし文字以上の情報量を持ったもの,つまり図
的かつ能動的に選択し知覚することのできる情報処理
形(二次元)や物体,空間(三次元)に対するアクセ
システムの開発を目指している.
ス手段はほとんどないのが現状であり,人に説明して
視覚代行を考えた場合,残された感覚の内,触覚・
もらうか,実際に触ってみなければならないことが多
聴覚が情報伝達には有用である.触覚は皮膚が網膜と
い.このような二・三次元に対する視覚支援の研究開
同様な二次元的な広がりを有しているため,空間配置,
発が望まれている 1) − 12) .
物体形状を表すのに適しており,聴覚は概念を伝達す
るのに優れている.そこで,この二つの感覚を視覚の
キーワード:視覚障害者,三次元,ステレオビジョン,触覚ディ
スプレイ
1996 年 4 月 11 日,The Second Annual ACM Conference on
Assistive Technologies で発表
1996 年 11 月 27 日受付,1997 年 2 月 27 日最終受付
†
電子技術総合研究所 知能システム部(〒 305 つくば市梅園
1–1–4, TEL 0298–58-5951 )
†
Electrotechnical Laboratory (1–1–4, Umezono, Tukuba,
Ibaraki 305, Japan)
870 (130)
代行感覚とした三次元視覚情報を伝達する支援システ
ムの研究・開発を進めている.
現在開発中のシステムは,視野が広く可変のステレ
オカメラから非接触に得られる多様な三次元視覚情報
を,対話型三次元触覚ディスプレイと三次元音響ディ
スプレイによって表現する支援システムである(図 1).
映像情報メディア学会誌 Vol. 51, No. 6, pp. 870 ∼877 (1997)
A
AAAAAAAAAAAA
AAAAA
AAAAAAA
AAA
A
AAAAAAAAAAAA
AAAAA
AAAAAAA
AAA
AAAAAAAAAAAA
AAAAA
AAAAAAA
AAA
AAA
AAAAAAAAAAAA
AAA
AAAAA
AAAAAAA
AAA
AAA
AAAAAAAAAAAA
AAA
AAAAA
AAAAAAA
AA
AAAAAAAAAAAA
AAA
AAAAA
AAAAAAAAAAAA
AAA
AAAAAA
AAAAA
AAAAAAAAAAAA
AAA
AAAAAA
AAAAAAAAAAAA
触覚
視覚
復元
&
認識
ステレオ視
触覚ディスプレイ
聴覚
音響ディスプレイ
入力
処理
図1
出力
支援システム概念図
Conceptual diagram of the support system.
装置」が開発された 10)11) .ピンは 64 × 64 の千鳥格
子配列で,ピン直径 2.5 mm,間隔 3 mm,高さ 0∼
10 mm の可変であり,三次元物体の形状表示が可能
なディスプレイである.ただし,システム全体の大き
さが机二個分あり,装置のメインテナンスが事実上不
可能な装置である.
今回我々が開発した対話型三次元触覚ディスプレイ
の特徴は,単に三次元情報を表示できるだけでなく,
ディジタイザの機能を有している点である.この機能
により視覚障害者は一方的に情報を与えられるだけで
なく,システムとのやりとりをしながら対象を理解し
ていくことが可能となる.また,過去の研究例 6) − 9)
でその有効性が示されているように,触覚と聴覚の両
システムは入力,処理,出力部からなり,入力部は二
感覚を用いており,得られた視覚情報を理解しやすい
台のカメラシステムを用いている.処理部ではステレ
システムとしている.
オ画像を解析し,シーン中の物体,環境の三次元構造
本論文では,触覚を通して情報伝達をする装置であ
復元を行う.得られた視覚情報を単純に触覚・聴覚に
る対話型触覚ディスプレイを中心とした三次元物体認
メディア変換するだけでなく,物体認識を計算機側で
識支援システム(図 1グレー部分)について説明する.
行うことにより,情報量の圧縮を行い,必要な情報の
2.
みを伝達する.そして,これらの情報を対話的なイン
触覚ディスプレイシステム
ターフェースで触覚・聴覚を通して使用者に伝える.
本章では対話型触覚ディスプレイシステムのハード
触覚による二・三次元情報伝達装置として様々な機器
ウェア部分の詳細を説明する.システム全体は図 2で
があるが,本システムではピンが二次元的に配列され
あり,左から触覚ディスプレイ,カメラ,カメラ制御
ていて,ピンが突出するタイプの触覚ディスプレイを
部,ワークステーション,そして合成音声出力装置が
採用し,使用者が能動的触知覚(指などを積極的に動
並んでいる.システム構成は図 3であり,システムの
かして知覚する)を行えるようにした.過去の開発・研
入力・出力部であるステレオカメラシステム,触覚ディ
究における二次元図形表示に関しては,例えばドイツ
スプレイ,合成音声出力装置について以下に説明する.
metec 社が製品化しており,表示部は 372 × 186 mm
で 120 × 60 ピンで構成されている.これは空間解像
度も高く,図形をそれなりに表示できる.このシステ
ムのピンの高さはオン・オフの二段階(0, 0.7 mm)
である.また著者の一人は,ピンの高さを三段階にし
2. 1
入力部(ステレオカメラシステム)
入力部であるステレオカメラシステム 13) はパーソ
ナルコンピュータ NEC PC–9801Ne(OS:Lnyx† )に
より制御されている.各カメラはパルスモータ駆動に
よるパン,チルト制御が可能で,最大 50◦ / 秒の回転
た 8 × 8 ピンの触覚ディスプレイを作製し,視覚情報
速度であり,移動物体の追従には十分な性能である.
そのものでなく,システムで集約された情報を提示す
カメラは Sony の 3CCD カメラ XC–007 で,画像入力
るシステムの研究を行った 6) .しかしこれらは,高さ
方向の解像度がなく,三次元表示には適していない.
また,二次元情報である地図情報に関しては牧野ら
が立体地図と音声で提示するシステム 7) ,皆川らは著
者の一人のシステム 6) を発展させ,視覚障害者自らが
触覚と聴覚を組み合わせて地図を作成できるシステム
を作成し,地図および環境理解の実験,考察を行った
8)9)
.これらの研究では,触覚と聴覚情報の組み合わ
せによって視覚障害者の理解力が高まることが報告さ
れている.
一方,三次元情報を表すディスプレイに関しては,
医療福祉機器研究所において「盲人用三次元情報表示
ボードは SUN SPARCstation の s-bus 用 Data Cell
Limited 社の S2200(640 × 480,RGB 画像)を使用
している.
2. 2
出力部(触覚ディスプレイ)
触覚を通して情報を伝達する出力装置として三次元
触覚ディスプレイを開発した.この触覚ディスプレイ
(図 4)は二次元の格子状に配置された凸状のピンでパ
ターンを表示するものである.ピンの高さは触覚情報
量を増加させるためと,三次元形状を表示するために
†
高度なリアルタイムシステムで要求される高速,高信頼応答
性のマルチプロセス対応リアルタイム OS
論文 最終校正前原稿 □ 視覚障害者用三次元物体認識支援システム − 対話型三次元触覚ディスプレイシステム −
(131) 871
図2
図4
システム全景
Overview of the system.
AAAA
AA
AAAA
AA
AA
AAAAA
AAAAA
AAAAA
制御装置
ステレオ
カメラ
システム
画像
ボード
触覚ディスプレイ
Tactile display.
NEC
PC-9821Ne
ノート
パソコン
ネットワーク
SUN
SS20 M61
S2200
ワーク
ステーション
AAAAAAA
AA
AA
AAAAA
AA
AAAAAA
AAAAA
AA
RS-232C
合成音声 触覚
装置
ディスプレイ
図3
RS-232C
制御装置
選択
ボタン
システム構成図
Composition of the interactive tactile display system.
10mm
0-6mm
5mm
数段階に制御可能となっている.他の触覚ディスプレ
イとの大きな相違点は,ディジタイザの機能を有して
いる点である.つまり,出力装置としてだけではなく,
入力装置としても利用できる.また,音声情報を聞く
ことや表示モードを切替えることに使用する選択キー
も用意されている.
触覚ディスプレイの仕様は以下の通りである.
• ピン配列:16 × 16 本
• 表示部寸法:175 × 175 mm
• ピン直径:5 mm
• ピン間隔:10 mm
• ピン高さ:0∼6 mm (1 mm 単位)
AAA
AA AAA
AA
AAA
AAA AAA
AAA
A
AA
AAA
A AAA
AA
AAA
AAA
AAAAAA
ステッピ
ングモータ
スクリュー
構造
タクト
スイッチ
図5
触覚ディスプレイ内部構造
Tactile display mechanism.
• ピン駆動:ステッピングモータ
• スイッチ:タクトスイッチ
• 外寸:550(W) × 530(L) × 195(H) mm
• 重量:28 kg
されている.ステッピングモータを駆動するための
ピンは格子状に配置され,その内部構造は図 5に示
mm のモータを採用した.ピン間隔を狭めるために二
872 (132)
ボードが外周部に配置されている.ピンが指で押され
た場合でも同じ高さを維持できる力を持った直径 10
映像情報メディア学会誌 Vol. 51, No. 6, (1997)
入力画像
境界表現
テクスチャ
領域
シェイジング
3次元復元
モデル
データベース
認識
位置、姿勢、形状
図6
セグメントベースト
ステレオ
相関法ステレオ
ステレオビジョンシステム
Stereo vision system.
層構造にし,ピン間隔を 10 mm にした.ピン上部の
もある.一方,受動的ステレオ法はレンジファインダ
スクリュー構造がモータの回転力を垂直移動に変換し
に比べ制約条件が少ない.対応探索問題が最大の課題
ている.各ピンの最下部にカード式電卓で使用されて
であるが,我々はこの受動的ステレオ法でも十分な復
いるタクトスイッチを設け,どのピンが押されている
元,認識ができるようなシステムを開発している(図
かを知ることができる.
6)14) − 23) .本ステレオ法はセグメントベースドステ
また選択キーは計算機のマウスとほぼ同じ大きさで,
三つのボタンで構成されている.これは使用者が音声
情報を聞く場合や表示モードを変更する時に利用する.
2. 3
出力部(合成音声出力装置)
聴覚の出力として,本システムでは合成音声出力装
置を用い,触覚では伝えられない情報や,触覚より簡
レオ法と相関法の二つの組み合わせであり,以下にそ
れぞれの手法について説明する.
3. 1
セグメントベーストステレオ
セグメントベースト法は物体の境界線の対応を求
め,三次元ワイヤーフレームを復元する手法である
16) − 18)
.図 7の処理手順に沿って説明する.
潔に伝達できる情報のために使われる.RS–232C を
左右の画像でそれぞれ境界線を抽出し,分岐点,屈
通して制御可能で,日本語音声出力可能なリコーの
曲点,変曲点,遷移点などの特徴点でセグメントに
VC–1 を使用している.
分割し,境界線表現である B-Rep (boundary representation) 14) で表す.ステレオ対応においては,こ
の B-Rep のセグメントを対応単位として処理を行う.
3.
ステレオビジョン
観測されたシーンの三次元情報獲得のために,本シ
対応探索は局所的なものではなく,領域の境界を構成
ステムでは複数台のカメラを用いたステレオビジョン
する境界線セグメントの連結性に基づいて大局的に対
システムを使用する.三次元情報獲得手段としてこの
応を評価する.つまり,基準となる画像の各境界線と
他に能動的ステレオ法のレンジファインダシステムも
類似の形状・特徴を持つセグメント列をもう一方の画
あるが,面情報などの復元は容易に行える反面,入力
像中から見つけ出すことで,局所的なセグメント間の
装置が複雑,高価であり,測定環境,測定可能距離が
対応ではなく,境界線というより大局的な基準を用い
限定される.また,認識処理が複雑になるなどの問題
た対応を求めることができる.
論文 最終校正前原稿 □ 視覚障害者用三次元物体認識支援システム − 対話型三次元触覚ディスプレイシステム −
(133) 873
画像
セグメンテ
ーション
境界線
セグメン
トの連結
対応候補
探索
図7
2D B-Rep
対応パス
探索
対応評価
弱対応除去
多重対応除去
単独対応除去
3次元情報
セグメントベーストステレオの処理手順
Flow chart for segment based stereo.
シェイジ
ング領域
画像
微分
(強度、方向)
エッジ検出
相関法
ステレオ
セグメント
ベースト
ステレオ
境界線
テクスチ
ャ領域
図8
相関法
ステレオ
3次元情報
3次元情報
3次元
情報
3次元情報
相関法ステレオの処理手順
Flow chart for correlation based stereo.
まず前処理として,エピポーラ条件,セグメントの
ここでいうテクスチャ領域は多数の小領域が隣接関
属性(輝度,方向性など)で左右のセグメント対であ
係にある集合を意味する.抽出はまず明るさの一様性
る対応候補を見つける.各候補には左右のセグメント
に基づいてエッジを検出し,画像の分割を行う.小領
の対応区間の長さ,輝度差を反映した類似度を与える.
域の隣接関係を調べ,小領域の集合領域を一つの領域,
この処理により対応探索範囲を軽減できる 16) .
テクスチャ領域とする 19) .
次に画像の各境界線において,対応候補のセグメン
シェイジング領域はエッジ強度が一定値以上で,方
ト間の連結を調べる.連結性はセグメント間の近距離
向に連続性があるとし,この領域を求める.この処理
性,同輝度性,同角度性の三要素で評価する 17) .これ
でおおよそのシェイジング領域は求まるが,ステップ
により,左右セグメント対を節点,連結を辺とする有
状エッジを含む領域幅が狭い領域も含まれる.この領
向グラフができる.このグラフの中から各候補の類似
域を収縮・膨張処理で削除し,シェイジング領域を求
度の和が最大となるパスを探索し,そのパスに属する
める 20) .
セグメント対を対応候補として残し,パスを反映した
三次元復元においては,セグメントベーストステレ
大局的な類似度を各セグメント対の類似度に代入する
オで求めた対応する境界線の視差を利用してテクス
18)
.
チャ領域同志,シェイジング領域同志において,画素
ここまでの段階ではまだ信頼性の低い対応や,左右
単位で相関を求める.領域は境界線の内側に存在する
のセグメント間で一対一の対応関係ではなく,重複,
ので,境界線の視差を相関探索範囲の境界条件とする
つまり多重対応関係にあるものもある.そこで,類似
ことで,エピポーラ線上における探索範囲を小さくす
度を基にその値が低い対応や,どのセグメントにも連
ることができる.具体的には,画像を順方向,逆方向
結していない単独対応,対応区間の重複する対応を除
ラスタ走査を行い,境界線の視差を対応探索範囲の初
く処理を行い,左右の一意な対応関係を求める 17) .
期値として近傍で相関を計算し,最良の相関を得られ
以上の処理手順により境界線の視差が求まり,三次
元情報を復元できる.
3. 2
相関法ステレオ
相関法は表面形状データを得るために使われるが,
すべての画素に対しては行わない.前処理として相関
る時の視差を選ぶ.この処理で対象領域全体の視差を
計算できる.これにより,セグメントベーストステレ
オ,相関法ステレオのそれぞれの手法で復元された三
次元データをお互いに矛盾が生じることなく統合でき,
物体の形状データを得られる.
法を適用するのに適した領域を抽出し,その領域に対
3. 3
してのみ処理を行う.これにより時間,誤対応問題を
三 次 元 デ ー タ 獲 得 後 ,物 体 認 識 処 理 が 行 わ れ る
軽減できる.本手法ではテクスチャ領域 19) とシェイ
ジング領域
20)
を図 8の処理で求め,相関を計算し三
次元復元を行う.
874 (134)
21) − 23)
認識
.現在のところ物体の幾何モデルをあらかじ
めデータベースに用意しておく幾何モデルベーストな
認識である.
映像情報メディア学会誌 Vol. 51, No. 6, (1997)
「コップ」
です。
本
鉛筆
ボール
全体像モード
把手のあるコップです。
大きさは約10cmで、色は
白です。
対象シーン
輪郭像モード
図9
対話インターフェース概念図
Interactive interface.
三次元空間において,回転行列 R,平行移動ベクト
ル t とすると,座標変換行列 T は
T =
R
t
0 0 0 1
凹凸像モード
で表される 4 × 4 の行列式で表現できる.すなわち認
識は物体モデルと観測データを照合し,T を計算する
処理である.処理は初期照合(局所的な幾何特徴を用
いる)と微調整(全体的な形状を用いる)の二段階で
行う.以下に処理の概要を示す.
対象シーンにおける物体の有無,位置,姿勢,形状を
知ることができる.
4.
インターフェース
システムと視覚障害者との対話システムに関しては
現在開発中である.ディスプレイの解像度は現在 16
× 16 と低いため,一度にたくさんの情報を表示でき
ない.これを補う方法として,多段階表示を採用して
いる(図 9).表示モードには以下の三つがある.
( 1 ) 全体像モード(環境)
初期照合では,基本的には物体モデルと観測データ
( 2 ) 輪郭像モード(物体)
間で可能性のある全ての組み合わせを考える.モデル
( 3 ) 凹凸像モード(物体)
の各頂点に着目し,頂点を構成する二つのベクトルの
位置,姿勢がほぼ一致する頂点をデータから検索し,
その組み合わせを対応候補とする.これから座標変換
行列の初期値 T0 が求まる.これにより求まった組み
合わせを対応候補とする.
微調整においては,まずモデルを T0 で座標変換す
る.モデルのサンプル点に対応する観測データ点を探
認識された環境は,まず (1) でそれぞれの物体の空
間的配置関係が把握できるよう,上方から見た配置図
が表示される.一つのピンの突起が一つの物体を表し,
使用者はディスプレイを指で走査することで物体の位
置関係を理解する.このモードでは,音声情報キーを
押すことで,
「全部で四つの物体があります.
」といった
全体情報を聞くことができる.また,ディジタイザ機
索し,その三次元距離が最小となるように T を計算す
能により各ピンを押すと合成音声で「コップです.
」と
以下になるまで T を更新する.
状を知るために表示モード変更キーを押し,(2) また
る.新たに求めた T で同様な処理を行い,誤差が閾値
これにより,モデルとデータ間で座標変換が求まり,
いった物体名も聞くことができる.次にその物体の形
は (3) のモードに移る.これらのモードでは物体の輪
郭線,三次元である凹凸が表され,物体の形状を知覚
論文 最終校正前原稿 □ 視覚障害者用三次元物体認識支援システム − 対話型三次元触覚ディスプレイシステム −
(135) 875
することができる.音声情報として,図 9 の例のよう
ピンの高さが可変である.また,各ピンにスイッチを
に「把手のあるコップです.大きさは約 10cm で,色
設けることでディジタイザの機能も搭載している.使
は白です.
」といった,物体の大きさ,色なども得られ
用者は本システムと対話的なやりとりが可能となり,
る.これら三つの表示モードを行き来し,三次元視覚
ステレオビジョンにより得られた三次元物体,環境の
情報を触覚と聴覚で理解することができる.
認識ができる.
5.
考
察
現在,ステレオビジョンにおいては,画像処理(三
ユーザインターフェースは現在まだプロトタイプで
あり,視覚障害者との実験を通して改良を行う予定で
ある.環境認識においては物体の位置関係を表す全
次元復元,認識)はソフトウエアのみによる処理であ
体像モードがあり,上方から見た場合の表示である.
るため,実時間での処理は行えない.図 6の例では,
これとカーナビゲーションで採用されているバード
SUN Ultra1 Model 170(UltraSPARC-I 167MHz)
において,復元まで 3 秒,認識(コップ)は 1 秒かか
ビューと同様な斜め上方の視点からの表示との比較検
る(セグメントベーストステレオのみ).処理のハー
ディスプレイの解像度の制限を補うよう二種類の輪郭・
ド化による処理時間の短縮を検討しなければならない.
凹凸モードがあるが,さらに形状認識のしやすい表示
また,認識においては,幾何モデルベーストなもので
法を検討する.
あるため,あらかじめデータベースに登録していない
ものは認識できないという制限がある.
今回開発した触覚ディスプレイは,ピンの高さが可
変である点が特徴であり,三次元情報を表示できる.
討を行う.また,三次元物体の認識に関しては,触覚
今後,種々の被験者実験を通してシステムの改良点
を見い出すと共に,ビジョンシステムの効率化・実時
間化,柔軟性のある対話システム,触覚・聴覚の効果
的な統合方法の開発などを行う予定である.
しかし,プロトタイプであり,解像度が 16 × 16 と低
本研究に際し,触覚ディスプレイを製作して下さっ
いため,細かい表現ができない.より高解像度なディ
た三菱マテリアル株式会社メカトロ・生産システム開
スプレイはメインテナンス性が悪く,高価であると
発センターの方々,および,日頃御指導を頂く PGV
いった点で非現実的である.我々の関心は現在のとこ
グループの各位に感謝致します.
ろ触覚ディスプレイそのもの自身の開発よりも,総合
的な視覚支援システムにおける触覚ディスプレイの効
果的な使用法であり,聴覚情報をも含めた対話的なイ
ンターフェースの研究・開発に重きを置いている.
触覚ディスプレイの表示モードには二つの形状表示
モードがあり,凹凸像表示モードでは立体形状を表現
することができる.ただし,縦横の長さに比べ高さ方
向の変化が少ないため,正確に三次元形状を表示でき
るとはいえない.例えば,ボールを表示した場合凸状
に盛り上がった円形になり,半球を表示できない.し
かし,定性的な立体形状を把握することはできる.ま
たエッジ部分がはっきりしていない場合,つまり,高
さがなだらかに変化している場合はその変化を知覚し
づらいという傾向がある.凹凸像モードのこれらの欠
点を補う意味で輪郭像モードがあり,これら二つの表
示モードで形状を認識するインターフェースになって
いる.
6.
む
す
び
三次元コンピュータビジョンの視点から視覚障害者
用支援システムである対話型触覚ディスプレイシステ
ムを開発した.触覚ディスプレイは触覚による情報量
を増加するため,および,三次元形状を表現するため,
876 (136)
〔参 考 文 献〕
1)L. Kay: “Electronic Aids for Blind Persons : an Interdisciplinary Subject”, IEE Proc., vol.131, part A, No.7.
pp.559–576 (1984)
2)K. A. Koczmarec, J. G. Webster, and W. J. Tompkins: “Electrotactile and Vibrotactile Displays for Sensory Substitution Systems”, IEEE Trans. Biomed. Eng.,
vol.38, pp.1–16 (1991)
3)R. Kowalik and I. Postawka: “The Concept of a Full
Screen Tactile Display (FSTD) Driven by Electrochemical Reactions”, Proc. of 4th Int. Conference on Computers for Handicapped Persons, pp.455–460 (1994)
4)J. Fricke and H. Bähring: “A Graphic Input/Output
Table for Blind Computer Users”, Proc. of 3rd Int. Conference on Computers for Handicapped Persons,
pp.172–179 (1992)
5)J. Fricke and H. Bähring: “Displaying Laterally Moving Tactile Information”, Proc. of 4th Int. Conference
on Computers for Handicapped Persons, pp.461–468
(1994)
6)河井,大西,杉江:“盲人用図面認識支援システム”,信学論,
J72–D–II ,9,pp.1526–1533 (1989)
7)牧野,石井,馬場,大塚,大和:“盲人用地図作製および音
声案内システムの開発”,信学論,J73–A,3,pp.619–625
(1990)
8)皆川,大西,杉江:“触覚と聴覚による盲人用図表現システ
ム”,信学論,J77–D–II ,3,pp.616–624 (1994)
9)皆川,大西,杉江:“盲人の地図および環境の理解に関する
実験と考察”,信学論,J79–D–II ,5,pp.989–991 (1996)
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Display for the Blind: System Design”, Proc. of 3rd In-
映像情報メディア学会誌 Vol. 51, No. 6, (1997)
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pp.422–430 (1992)
11 )技術研究組合 医療福祉機器研究所’:“20年のあゆみ”,
pp.288–296 (1996)
12 )G. Jansson: “3–D Perception from Tactile Computer
Displays”, Proc. of 3rd Int. Conference on Computers
for Handicapped Persons, pp.233–237 (1992)
13 )H. Takahashi and T. Suehiro: “Stereo Vision for the
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14 )角,石山,植芝,河井,杉本,富田:“画像の境界表現のデータ
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(1994)
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ラキャリブレーション”,平 8 信学総全大,2,pp.366 (1996)
16 )石山,角,河井,植芝,富田:“セグメントベーストステ
レオにおける対応候補探索”,信学技法,PRMU96–136
(1997)
17 )河井,植芝,石山,角,富田:“セグメントベーストステレオ
における連結性と対応評価”,信学技法,PRMU96–135
(1997)
18 )植芝,河井,角,石山,富田:“セグメントベーストステレオに
おける対応パスの効率的探索”,信学技法,PRMU96–137
(1997)
19 )佐藤,富田:“テクスチャー領域の両眼立体視”,情処学 CV
研資,CV55–5 (1988)
20 )高城,河井,石山,富田:“微分ベクトルに基づくシェイジン
グ領域の抽出”,第 53 回情処学全大,2,pp.327–328 (1996)
21 )角,富田:“ステレオビジョンによる3次元物体の認識”,信
学論,J80–D–II ,5 (1997) [掲載予定]
22 )角,富田:“ステレオビジョンにより円錐複合体の認識”,情
処学 CV 研資,CV98–7 (1996)
23 )角,河井,富田:“セグメントベーストステレオによる自由
曲面体の認識”,信学技法,PRMU96–149 (1997)
かわ い よしひろ
河井良 浩 1989 年,名古屋大学大学院博士
課程前期課程情報工学専攻了.同年,電子技
術総合研究所入所.現在,知能システム部 視
覚エイドラボリーダー.コンピュータビジョ
ン,医療福祉機器開発の研究に従事.
とみ た ふみあき
富田文 明 1978 年,大阪大学大学院博士
課程修了.同年,電子技術総合研究所入所.
現在,知能システム部 タスク指向ビジョンラ
ボリーダー.コンピュータビジョン,知能ロ
ボットの研究に従事.工学博士.
論文 最終校正前原稿 □ 視覚障害者用三次元物体認識支援システム − 対話型三次元触覚ディスプレイシステム −
(137) 877
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