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2000.K1.1.3
高熱伝導率炭素繊維製造技術の研究開発
( 高熱伝導炭素材料グル―プ) ○加藤 攻、木原 勉、田所寛之
島田政紀、高島洋明、中村 勉
高川 實、越川 健
1. 試験研究の内容
本研究は、超強酸触媒(HF/BF 3 )を用い、石油留分から紡糸性および配向性に優れた炭素
繊維(以下CFと略す)用原料ピッチを製造し(触媒合成ピッチ)、これを紡糸・焼成して既存の
高熱伝導率品と同等以上の性 能を有する安価なCFを 製造するプロセスを開発 することを目的と
する。
本年度は高熱伝導率CF 用 ピッチ製造の方向性を探 るためのピッチ 合成条件の開発を行うとと
もに、既設の大型ベンチ紡糸・焼成設備を用いて石炭ピッチおよび市販合成ピッチから高熱伝導率
CFを試作し、製造に伴う問題点の検討と、ハンドリング性の評価法および熱伝導率測定法確立に
向けての検討を行った。また、高熱伝導率CF試作用連続黒鉛化炉の導入と試運転および運転技術
の確立に向けての検討と同時に断熱材の調査・検討も行った。以下に研究細目と内容を示した。
1.1 高熱伝導率炭素繊維製造技術
1.1.1石油留分からのピッチ製造条件の検討
石油系油種中に多く含むナフタレン留分のモデル化合物として混合メチルナフタレン(1-メチル
ナフタレン/2-メチルナフタレン=6/4),1-メチルナフタレンおよび 2-メチ ルナフタレンを原料と
し、HF/BF3 触媒で重合した合成ピッチのCF原料としての評価を行った。
(1)反応条件の最適化検討
ピッチの溶融紡糸過程での熱変質、および分解によるガスの発生を抑制するために、ピッチの軟
化点を低く抑える必要がある。そこで、原料として混合メチルナフタレン,1-メチル ナフタレンお
よび 2-メチルナフタレンを用いて様々な反応温度でピッチを合成し、生成したピッチの軟化点を
フローテスター法で、また結晶子の厚み(Lc)をX線回折で測定し反応温度および原料種と軟化
点およびLcとの相関について検討した。
(2)熱的評価
不融化時の発熱による異常昇温を集束および積載技術で改良を図るため、ピッチ繊維の不融化時
の発熱量測定を空気/二酸化窒素混合ガス中でDSC装置を用いて行った。
(3)単孔紡糸による力学特性評価
試作したピッチを単孔紡糸による紡糸性の評価と得られたピッチ繊維の不融化、炭化、黒鉛化処
理を行いCFを試作し、その力学特性を評価した。
(4)ピッチの熱安定性
ピッチを加熱して溶融紡糸する際に、ピッチから発生する熱分解ガスが多いとノズル表面の汚れ
が早く進行し、糸切れが生じ易くなり紡糸性自体を損ねるとともに、長期紡糸安定性にも影響を与
える。試製ピッチについて、溶融紡糸時のピッチ軟化点の上昇とピッチから発生する熱分解ガスに
ついて測定を行った。
1.1.2 紡糸技術の基礎検討
(1)紡糸用ピッチの黒鉛化性に関する検討
高熱伝導率を発現させる要因として、原料ピッチ自体の黒鉛化性とCFの熱伝導率の相関性に関
して検討を行った。
(2)紡糸粘度に関する検討
高熱伝導率を発現させるために効果があると考えられる紡糸粘度について、1Kノズルを用いて、
低粘度での多フィラメント紡糸を行った。
(3)市販低軟化点触媒合成ピッチの CF 化試験
触媒合成ピッチ原料としてメチルナフタレンを用いた場合はピッチの軟化点が低くなる傾向が有
る為、低軟化点紡糸用ピッチのモデルとしてナフタレンを原料とした市販低軟化点触媒合成ピッチ
の紡糸・不融化試験を実施した。
(4)紡糸速度と熱伝導率に関する検討
紡糸速度の低減がCF熱伝導率にどのような影響を与えるかについて検討した。
1.1.3既設設備を用いたCF製造条件の開発
(1)高積載不融化技術の検討
高積載不融化技術の開発を目指し、大型紡糸設備で紡糸されたピッチ繊維を用いて、不融化条件
の検討を行った。
(2)高熱伝導率CFの試作試験
石炭系および市販合成ピッチから高熱伝導率CFを試作し、力学特性および熱的特性を測定した。
(3)表面処理条件の検討
CFRPの層間剪断強度を高めるためにはCFに表面処理を施さなければならないが、この表面
処理のし易さの要因を把握するため、CFの表面分析を行った。
1.2高熱伝導率CFの性能評価技術の確立
本年度は、超高弾性率CFを複合材料用強化繊維として使用する際のハンドリング性と密接な関
係にあるクリップ強度とCFの断面方向の結晶性についての調査と、レーザーフラッシュ法による
熱伝導率評価方法を確立するために、純金属を用いて測定精度の確認、高熱伝導率炭素繊維を用い
て測定サンプルを試作し、試料厚みならびに Vf の熱伝導率に与える影響についてを調べた。
1.3 連続黒鉛化実現に向けた技術
1.3.1 断熱材の評価
断熱材の高温特性を把握するため、市販断熱材の高温下での耐熱性および酸素存在下での耐酸化
性について調べた。
1.3.2連続黒鉛化設備の導入
連続黒鉛化設備を導入し、運転条件確立に向けての試運転と同時に断熱材の実炉評価を実施した。
2.
試験研究の結果と解析
2.1高熱伝導率CF製造技術
2.1.1石油留分からのピッチ製造条件の検討
(1)反応条件の最適化検討
(イ)反応温度の制御によるピッチの低軟化点化
混合メチルナフタレンピッチ(以下メチルナフタレンピッチと略す)を合成する際の反応温度がピッチの軟
化点に与える影響を検討した。結果を図 2.1-1 に示した。混合メチルナフタレン、1-メチル ナフタ
レンおよび 2-メチルナフタレンのいずれの原料から合成した場合でも反応温度の低下に伴い、軟
化点は低下した。また、同一反応温度下において合成したメチルナフタレンピッチの軟化点は 1メチルナフタレンピッチと 2-メチルナフタレンピッチの中間的な値を取らずに 1-メチル ナフタレ
ンピッチや 2-メチルナフタレンピッチよりも高かった。反応温度を選択することにより合成ピッ
チの軟化点を低く抑えることが可能であり、溶融紡糸過程でのピッチ変質や分解によるガスの発生
を抑制できるものと考えられる。
280
260
軟化点(℃)
240
220
mix-mN
1-mN
2-mN
200
180
160
140
120
220
240
260
反応温度(℃)
280
300
注)mix-mN、1-mN、2-mN は混合メチルナフタレンピッチ、1-メチルナフタレンピッチ、2-メチルナフタレンピッチの略
図 2.1-1 反応温度と生成ピッチの軟化点
(ロ)軟化点と Lc との相関
合成ピッチの軟化点と Lc との相関を検討した。結果を図 2.1-2 に示した。いずれの合成ピッチ
も軟化点の上昇に伴い Lc は増大し、80Å程度の値に収束すると考えられる。また、軟化点が 220℃
程度を下回ると Lc の減少は顕著になり、さらに Lc の減少の度合は原料メチルナフタレンとの相関
があり 2-メチルナフタレン<1-メチルナフタレン<混合メチルナフタレンの順であった。これに
より、高熱伝導率 CF 用途の合成ピッチとしては軟化点が 220℃程度以上であった方がより好まし
いと考えられる。
85
Lc(Å)
80
mix-mN
1-mN
2-mN
75
70
65
60
190
210
230
軟化点(℃)
250
270
図 2.1-2 軟化点と Lc との相関
(2)熱的評価
試製ピッチの粉末で発熱量を昇温系で測定した。測定条件は空気/二酸化窒素(2%)中2 ℃/分
で350℃まで昇温し測定した。測定装置は理学電機製の示差走査熱量型 8059E2 を用い た。結果
を図2.1−3 に示す。試作メチルナフタレンピッチ(AR7)の不融化発熱量は比較として用いたナフタレンピッ
発熱量 (J/g)
チや AR1 に比べて多く、発熱開始温度も低いことが確認された。
1800
1600
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
AR5(NP)
AR1(mNP)
AR8(1mNP)
AR9(2mNP)
AR7(mNP)
0
100
200
温度 ℃
300
400
図 2.1-3 粉末ピッチの不融化発熱量(NO2 雰囲気下)
(3)試作ピッチの単孔紡糸によるCF力学特性評価
小型ベンチスケ−ルを用いて試作した触媒合成ピッチの中、AR1、AR5 につい て評価した。0.2φ
-0.4L のノズルを用いて単孔紡糸した結果を表 2.1-1 に示す。
AR1,AR5 とも良好な紡糸性を示した。得られたピッチ繊維を不融化、炭化、黒鉛化処理した後の
CFの弾性率および強度は、同じ不融化条件を採用したにもかかわらず AR1 の方が 高い値を示した。
今後、不融化条件の最適化が図れれば、さらに高い力学特性が期待できるものと思われる。
表 2.1-1 紡糸、焼成条件とCFフィラメント引張物性
使用ピッチ
紡糸粘度
不融化条件
Pa・s
℃*min
引張弾性率
GPa
引張強度
MPa
糸 径
μm
AR1(メチルナフタレンピッチ)
54
250*60
760
3900
8.9
AR5(ナフタレンピッチ)
53
250*60
620
3600
9.6
注)バッチ炭化温度:700℃、バッチ黒鉛化温度:2500℃
(4)ピッチの加熱安定性
(イ)溶融紡糸時の軟化点の上昇
メチルナフタレンピッチからLcの大きいピッチを試作し、紡糸性等の評価を行った結果、糸切れ等が頻発
し、ピッチ繊維試料を得ることができなかった。そこで、試作ピッチの熱安定性について調べた。
試作ピッチは窒素下、350℃、1時間保持(紡糸時の脱気温度)で軟化点が10℃も上昇してお
り、軟化点の上昇が紡糸できなかった一因ではなかったかと思われる(表 2.1-2)。 今後、高い
Lcを維持しつつ、軟化点の低いピッチの開発が必要である。
表 2.1-2 合成ピッチの熱安定性試験結果
Lc
Lot No.
原料組成
軟化点
BI
QI
℃
AR1
AR5
AR6
mNP
%
350℃*1h 保持後
%
nm
の軟化点 ℃
236
65.3
20.2
3.8
236
280
76.0
32.0
2.3
280
258
75.2
42.9
5.8
268
NP
mNP
注)NP はナフタレンの略、mNP は混合メチルナフタレンの略。
(ロ)熱分解ガスの測定
試作した合成ピッチの 加 熱時に発生する分解ガス 量をガスクロマトグラフ ィ−(島 津 製 作所
GC-8A)で測定した。対象ガスは水素、メタン、エタン、プロパンとした。
図 2.1-6 に今回評価した 5 種のピッチについての、トータルガス発生速度の温度による変化を示
し た 。 ナ フ タ レ ン ピ ッ チ ( AR5 ) に 比 べ メ チ ル ナ フ タ レ ン ピ ッ チ の 発 生 量 は 多 く 、 AR9> AR7 >
AR8=AR1>>AR5 の順であった。紡糸の際の糸 切れの原因はガス発生によるものと思われる。
ト-タルガス発生量 ml/g
2
1.5
1
AR5(NP)
AR1(mNP)
AR7(mNP)
AR8(1mNP)
AR9(2mNP)
0.5
0
250
300
350
測定温度 ℃
400
図 2.1-6 温度と分解ガスの関係
2.1.2 紡糸技術の基礎検討
(1)紡糸用ピッチの黒鉛化性に関する検討
CF の高熱伝導率を発現させる要因として、黒鉛化性の異なる石炭系紡糸用ピッチとこれより得
られた CF の熱伝導率の相関性を検討した。
図 2.1-7 に示すとおり、紡糸用ピッチの黒鉛化性は CF の熱 伝導率に大きな影響を及ぼし、2950℃
程度で黒鉛化された CF に関して、黒鉛化性の最も異なるピッチ A とピッチ C では電 気抵抗率から
推定した熱伝導率で約 100W/mK 異なると推定された。
3 .4
ピ ッ チの 黒 鉛化 性 :A <B < C
電気 抵 抗率
μΩm
3 .2
ピ ッチ A
ピ ッチ B
ピ ッチ C
3 .0
2 .8
2 .6
2 .4
2 .2
2 .0
28 00
28 50
29 00
黒 鉛化 温度
図 2.1-7
29 50
30 00
℃
黒鉛化温度と電気抵抗率の関係
(2)紡糸粘度に関する検討
高熱伝導率を発現させるための要因として、紡糸粘度を下げピッチ分子の繊維軸方向の配向を高
めることが効果があることから、1K ノズルを用いて、超低粘度での多フィラメント紡糸を試みた。
その結果、30Pa・s 以下の紡糸粘度ではピッチ繊維の配向性が向上するものの、紡糸性が悪化す
る傾向が認められた。今後、低粘度紡糸に適応した糸条冷却条件やノズル形状を最適化する必要が
ある
(3)市販低軟化点触媒合成ピッチのCF化試験
SP295℃と SP270℃の市販触媒合成ピッチの軽質分量と紡糸時の糸切れ頻度の関係を図 2.1-8 に
示す。なお、ピッチの軽質分量は SP+55℃おける不活性雰囲気中での重量減少値を用いた。SP295℃
品で は 軽 質分 量 の 増加 に伴 い 、 紡 糸 性が 顕 著 に悪化 す る傾 向 が ある が 、SP270℃品で は 軽 質 分 量
0.6%まで増加しても紡糸性の悪化は認められなかった。低軟化点ピッチでは紡糸温度が低くなる
為、ピッチの熱分解等の紡糸性劣化要素が低減されるものと考えられる。
一方、SP270℃品の不融化に関しては反応条件を SP295℃品に比べマイルドな条件としたにもかか
わらず暴走反応が発生した。低軟化点ピッチは不融化反応性がきわめて高く、集束改善等による不
融化反応熱の抜熱促進が重要であることを認識した。
0.8
SP29 5℃
SP27 0℃
平 均 糸 切 れ 頻 度 (回 / km)
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
TG減 量 (wt % )
図 2.1-8 ピッチの軽質分量と紡糸性の関係
(4)紡糸速度と熱伝導率に関する検討
紡糸における高熱伝導率化の方法として、紡糸粘度を下げる、あるいは紡糸速度を下げることが
有効と考えられるが、紡糸粘度の低下により熱伝導率は向上するものの、紡糸安定性を著しく低下
させる。そこで、紡糸速度が紡糸性および熱伝導率にどのような影響を及ぼすかについて検討した。
単孔紡糸での紡糸速度を 300m/min から 110m/min に下げても紡糸性は良好であった。得られたピ
ッチ繊維を不融化・炭化した後、2800℃で5分間焼成した。その結果を図 2.1-9 に示し たが、CF
の電気抵抗率は紡糸速度を下げると低くなる傾向にある。即ち、紡糸速度の低減で熱伝導率が向上
することが示唆される。また、不融化温度を20℃下げることで、さらに熱伝導率が高くなる。
電気抵抗率 μΩm
3
2.5
2
1.5
25 0不融化
23 0不融化
1
0
10 0
20 0
30 0
紡糸速度 m/min
図 2.1-9 紡糸速度と電気抵抗率
40 0
2.1.3 既設設備を用いたCF製造条件の開発
(1)高積載不融化技術の検討
多フィラメント紡糸ではピッチ繊維の積載密度が高くなる為、不融化反応で発生する熱を効率的
に抜熱する事が必要であり、このためピッチ繊維の集束を高めることが必要となるため、集束剤の
シリコンオイルの粘度と不融化時の抜熱性の関係を評価した。不融化時の抜熱性は不融化炉内循環
風の圧力損失値ΔP[Pa]より次式で求まる平均圧力損失係数により評価した。
ΔP=ζ(ρ u 2 /2)
ζ:平均圧力損失係数、ρ:循環風密度、 u :循環風速
抜熱性評価結果を中間品強度ならびに黒鉛化糸強度と併せて表 2.1-3 に示す。平均圧力損失係数
が低いほどピッチ繊維の集束および抜熱性が良好と考えられる。シリコンオイルの粘性が低いほど
ピッチ繊維の集束が良好である傾向が認められる。
表 2.1-3
集束剤
A
B
C
集束剤評価結果
中間品
束破断強度
gf
2100
2840
2970
平均圧力損失係数
−
300
305
315
Si オイル粘度
cm 2 /s
0.16
0.26
0.77
黒鉛化糸
強度
MPa
3770
3750
3140
(2)高熱伝導率CFの試作試験結果
石炭系および市販触媒合成ピッチから試作した繊維を用いて、高温で黒鉛化および表面処理を行
って、CFの諸物性を測定した。結果を表 2.1-4 に示す。触媒合成系での軟化点による電気抵抗率
に差はなく、ほぼ同等の熱伝導率が発現されると予想される。
表 2.1-4
CF試作条件および物性
黒鉛化・表面処理条件
原料ピッチ
CF物性
黒鉛化温度
表面処理量
弾性率
強度
ILSS
電気抵抗率
℃
−
GPa
MPa
MPa
μΩm
2900
3
859
3440
−
2.58
2965
4
918
3680
58
2.22
合成系
2900
4
848
3650
−
2.67
(SP295℃品)
2955
4
872
3510
−
2.38
2900
4
893
2840
−
2.64
石炭系
合成系
(SP270℃品)
(3)表面処理条件の検討
CFRPの層間剪断強度(ILSS)を高めるためにはCFに表面処理を施さなければならないが、
同一グレ−ド(60 トン品)で電解酸化をしたものの ILSS は石炭ピッチ系CF(CT)よりも合成ピ
ッチ系CF(AR)の方が高い値を示す。CFRPの ILSS はCF表面の凹凸によるアンカ−効果
や電解酸化により導入された酸素官能基により決まると考えられている。そこで、CF表面を原子
間力顕微鏡(AFM)でCF表面の凹凸を観察したが、石炭ピッチ系と合成ピッチ系の有意差は認めら
れない。次に電解酸化により導入された酸素量をX線光電子分光法(XPS)で測定した。その結
果を表 2.1-5 に示したが、石炭ピッチ系よりも合成ピッチ系の方が酸素量は多い。これはCF表面
の結晶性が合成ピッチ系の方 が低いことから電解酸化 を受けやすいことがレ− ザ−ラマン分光測
定から示唆される(測定装置は日本分光製NRS2100 型、レ−ザ−波長 514.5nm を用い た)。導入
した酸素量がどの程度、接着強度に寄与しているかを把握するため、電解酸化後のCFを 1500℃
窒素下で脱官能基処理を行った。その結果、1500℃加熱後の酸素量は未処理繊維と同程度まで減少
した。脱官能基後の ILSS 測定結果を表 2.1-6 に示したが、脱官能基後の ILSS は電解 酸化品より低
下するものの、未処理よりは高い値を示した。さらに、電解酸化後および脱官能基後の表面積の増
加率を高分解能電子顕微鏡で測定したところ、電解酸化後および脱官能基後の表面積は未処理より
も僅かであるが増加していることが確認された。しかも、合成ピッチ系CFの方が増加率が高かっ
た。したがって、電解酸化によるILSSの向上は、導入された酸素官能基の化学結合だけでなく、
電解酸化で生じた表面の微細な凹凸による機械的な結合の寄与も大きいものと思われる。
表 2.1-5 電解酸化および脱官能基後のCF表面酸素量と表面結晶性
CF
CT
AR
未処理繊維
1
O/C
%
50c/m2
4
2
1500℃焼成
1
7
1
CF 表面結晶性 R値
(R=I1360/I1580)
0.34
0.64
表 2.1-6 電解酸化および脱官能基後のILSS
CF
CT
AR
2.2
ILSS MPa
未処理繊維
50c/m2
28
69
46
76
1500℃焼成
59
65
高熱伝導率CFの性能評価技術の確立
(1)クリップ強度測定技術
触媒合成ピッチを原料としたCFの複合材料用強化繊維として使用する際に、多くの場合はプ
リプレグ化あるいは織物化しなければならない。したがって、CFのハンドリング性が良くなけれ
ば毛羽やヤ−ン切れ等が発生し、品位の低下やコストアップ要因ともなる。今年度は試作したCF
の弾性率とクリップ強度の相関性、クリップ強度とCF結晶性について調査した。結果を図 2.2-1
に示したが、クリップ強度は高弾性率ほど低くなる傾向を示した。また、クリップ強度は細径繊維
の方が有利であることが分かった。
ラマン分光により測定した繊維断面の結晶性は表面では高いものの、繊維中心に向かって急激に
結晶性が低下する(黒鉛構造に基づくラマンバンド 1580cm -1 の半価巾がシャ−プになれば黒鉛化性
が高い)。この傾向は7および10μ糸とも同じであるが、7ミクロン糸の方が繊維内部の結晶性
は均一である。この繊維内部の結晶性の均一性がクリップ強度の向上に反映しているものと考えら
れる(図 2.2-2)。
2500
半価巾 cm-1
クリップ強度(1.6mm経) MPa
26
3000
2000
1500
1000
10μ糸
7μ糸
500
0
0
200
24
22
20
7μ
10μ
18
16
400
600
800
引張弾性率 GPa
1000
0
2
4
6
深さ μm
図 2.2.-1 CF弾性率とクリップ強度 図 2.2.-2
繊維断 面の結晶性
(2)熱伝導率測定技術
レーザーフラッシュ法による熱伝導率評価方法を確立するための基礎検討を行った。その結果、
銅およびニッケルの金属サンプル(純物質)を用いてレーザーフラッシュ装置で測定した比熱およ
び熱拡散率は文献値と良く一致しており、精度面で問題ないことを確認した。
また、試験片作製面では、CFRP の測定サンプルの厚みが 3mm 以上、体積分率(Vf)が 50∼60%
で熱伝導率が再現性良く測定できることを確認した。
2.3 連続黒鉛化実現に向けた技術
2.3.1断熱材の開発
断熱材の高温特性を把握するため、市販のピッチ系断熱材3種類を高温・窒素下での耐熱性およ
び高温・空気下での耐酸化性を調べた。その結果を表 2.3-1 に示す。2500 ゚ C、窒素 下における断
熱材A,B,Cの耐熱性は同一であるが、700゚ C、空気下での耐酸化性はB=C>A の順であっ
た。耐酸化性が低かった断熱材Aの試験後の表面には無数の穴が確認された。なお、断熱材B、C
については今年度導入した超高温黒鉛化炉で小スケ−ルの実証化試験を実施したところ、ラボテス
トとほぼ同様な結果が得られた。
表 2.3-1 断熱材の耐熱性および耐酸化性試験結果
断熱材
A
B
C
耐熱性
2500 ゚ C*1h (N2)
○
○
○
耐酸化性
700 ゚ C*15min(Air)
×
○
○
2.3.2連続黒鉛化設備の導入
高熱伝導率CF試作には超高温での黒鉛化処理が必要であり、最高 3000℃まで昇温可能な抵抗
加熱式の黒鉛化炉を導入した。試運転では高温昇温能力および炉内温度分布を検証し、いずれも設
計通りであることを確認した。
3.
試験研究の成果
3.1高熱伝導率炭素繊維製造技術の開発において、以下の成果を挙げた。
(1)反応温度および触媒量を選択することにより、メチルナフタレンピッチの高結晶性を維持し
つつ、軟化点を低く抑えることが可能となり、溶融紡糸過程でのピッチの変質や分解によるガ
ス発生が抑制できるとともに、紡糸時にピッチ分子を高度に配向させることができる見通しを
得た。
(2)紡糸時に起こる糸切れの要因が合成ピッチの加熱時に発生する分解ガス量の影響が大きいこ
とが分かった。また、合成ピッチの軟化点を低く抑えることが分解ガスの抑制に有利である
ことが分かった。
(3)CFの熱伝導率を発現させる要因として、原料ピッチの黒鉛化性を上げることが有利である
ことを見いだした。
(4)紡糸粘度を下げることは紡糸性を低下させるものの、ピッチ分子の繊維軸方向の配向を高
めることには有利であることが分かった。
(5)低軟化点紡糸用ピッチは不融化反応性が高く、反応制御は難しくなるが、紡糸性は極めて良
好であることが分かった。得られるCFの物性には軟化点による差がなく、ほぼ同等の引張強
度、弾性率、熱伝導率が得られることが確認できた。
(6)紡糸速度を下げることはCFの生産性を低下させるものの、高熱伝導率化には有利な方法で
あることが確認できた。
(7)集束剤のシリコンオイルの粘度とピッチ繊維の集束性の関係を把握するとともに、集束剤付
与設備の最適化によりピッチ繊維の集束改善に目処を得た。
(8)CFRPの層間剪断強度は電解酸化により導入された酸素官能基との化学結合だけでなく、
電解酸化で生じた表面の微細な凹凸による機械的な結合の寄与も大きいことが分かった。
3.2高熱伝導率炭素繊維の性能評価技術の開発において、以下の成果を挙げた。
(1)CFのハンドリング性の指標となるクリップ強度は高弾性率ほど低くなることが分かり、
また繊維径が小さいことと、繊維断面の結晶性が均一であることが有利であることが分かった。
(2)金属純物質を用いたレーザーフラッシュ装置による比熱、熱拡散率の測定において、測定
精度面で問題のないことが確認できた。また、CFRPの試料厚みを3mm以上、Vfは50
∼60%で測定すれば、再現性の良い熱伝導率デ−タが得られることが確認できた。
3.3連続黒鉛化実現に向けた技術開発において、以下の成果を挙げた。
(1)市販断熱材の耐熱性と耐酸化性の評価により、超高温連続黒鉛化炉の長寿命化に向けて断
熱材の構造、予備焼成温度等に目処を得た。
(2)超高温昇温能力を有する連続黒鉛化炉を導入し、その性能を確認した。
4.まとめ
(1) ピッチの高温流動性の向上を図るため、石油留分中に多く含むナフタレン留分のモデル化
合物として工業用ナフタレン、混合メチルナフタレン、1-メチルナフタレンおよび2-メチル
ナフタレンをHF/BF3 触媒で重合反応の検討を行い、高熱伝導率CF用ピッチとして要求
される高温流動性に優れたピッチ製造法に目処をつけた。
(2) 原料ピッチ性状、紡糸条件および不融化条件とCFの熱伝導率との因果関係を考察し、高
熱伝導率CF試作へ反映させた。
(3) 大型ベンチ装置を用いて、高積載不融化によるCFの試作および石炭ピッチと市販合成ピ
ッチから高熱伝導率CFを試作し、力学特性および熱特性を評価した。
(4) 高熱伝導率CFの層間剪断強度の向上を図るため、CF表面の凹凸観察、CF表面の結晶
化度と電解酸化挙動との検討と考察を行い、高熱伝導率で層間剪断強度に優れたCFの製造
法に目処をつけた。
(5) CFのハンドリング性の指標となるクリップ強度の測定法の確立とクリップ強度の改善
に目処をつけた。
(6)CFの熱伝導率の測定法を確立し、高熱伝導率CF試作へ反映させた。
(7)製造コストおよび操業面から高効率焼成用の超高温昇温能力を有する連続黒鉛化炉を導入
した。また、炉および周辺設備の性能確認により超高温最適連続運転に目処をつけた。
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