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14-bit, 50MS/s, 1.8V動作A/D変換器を実現する ビットブロック回路の研究
修士論文要旨 (2011 年度) 14-bit, 50MS/s, 1.8V 動作 A/D 変換器を実現する ビットブロック回路の研究 A research of the bit-block circuit to realize a 14-bit, 50MS/s and 1.8V operational A/D converter 電気電子情報通信工学専攻 寺本 紘伸 Hironobu Teramoto 1 はじめに Digital Output nbit ディジタル信号はアナログ信号と比較して圧縮、伸張、伝 Digital Correction 送、加工などが容易であるため、電子機器における信号処 Latch Latch Latch Latch Latch 理の多くはディジタル信号により行われる。しかし、映像、 音などの自然界の情報はアナログ信号であるため、アナロ グ信号をディジタル信号に変換する A/D 変換器が必要不可 欠となる。特にディジタルビデオカメラ等の映像機器で用 いられる A/D 変換器には高精度かつ高速な性能が要求され Latch MSB Analog Input S/H LSB 1st bitblock 2nd bitblock nth bitblock る。本稿では、電源電圧 1.8V、高速、高精度として 14bit、 Vout +Vref 50MS/s で動作する A/D 変換器を実現する回路について述 べる。 Vin 01 10 Vout -Vref subADC 2 2 00 パイプライン型 A/D 変換器の構成 1.5bit(00, 01, 10) Digital Output 図 1 にパイプライン型 A/D 変換器のブロック図を示す。 +Vref Vin subDAC -Vref/4 +Vref/4 -Vref 図 1: パイプライン型 A/D 変換器 パイプライン型 A/D 変換器はビットブロック回路を直列 に複数段接続した構成となっている。各ビットブロックは sw3 (ck2) 1.5 bit のディジタルコードの出力と、ディジタル判定結果と 入力信号の誤差を 2 倍化した信号を次段へ出力する機能を 持つ。出力ディジタルコードはクロックに同期されて、ディ ジタルコレクションにおいて補正される。各ビットブロック 回路に要求される A/D 変換の速度は全体の出力 bit 数に関 係なく 1 bit/1 クロックサイクルでよく、高速動作が可能と なる。また、変換中に入力を保持するために、初段のビット ブロックの入力回路としてサンプル・ホールド (S/H) 回路 が設けられている。この回路の誤差はそのまま A/D 変換器 の誤差となるため、高い精度が要求される。S/H 回路はオ ペアンプ、キャパシタ、スイッチによって形成されており、 すでにオペアンプとキャパシタについては解析済みである ンとなっている。Cf がオペアンプの帰還経路に接続され、 ため、本稿では、最適な応答となるようなスイッチのサイ ホールドモードに移る直前の入力電圧 Vin が出力される。つ ズを決定することを目的とする。 まり、S/H 回路の出力電圧はホールドモードに決定される 3 S/H 回路の応答の最適化 3.1 モデル化 sw2 (ck1) sw1 (ck1d) Vin Cf sw5 (ck2) Vout sw4 (ck1) Hold Sample ck1 ck1d ck2 図 2: S/H 回路 ため、ホールドモードにおける応答を最適化する必要があ る。 ホールドモードの状態を考えると、解析する上では sw3、 図 2 に S/H 回路の構成を示す。実際には全差動構成と sw5 の影響を考えればよいことが分かる。先に述べた通り している。sw1 は歪みを低減した PMOS サンプリングス イッチを、sw2-sw5 は CMOS スイッチを用いている。サン sw3 と sw5 は CMOS スイッチを使用しており、実際に扱 う場合にはスイッチはオン抵抗を持つ。一般的な CMOS ス プルモードでは sw1、sw2、sw4 がオンし、sw3、sw5 がオ イッチのオン抵抗は式 (1) で表される。スイッチのサイズ フとなり、キャパシタ Cf に入力電圧 Vin を充電する。ホー パラメータである W が大きくなるにつれて Ron は小さく ルドモードでは sw1、sw2、sw4 がオフし、sw3、sw5 がオ なるということが確認できる。 図 3 にスイッチをオン抵抗で置き換えたものを示す。R3 Ci = 0.2pF、A0 = 94074.70272(=99.5dB) としている。 が sw3 の、R5 が sw5 のオン抵抗であり、直列接続である これらのオン抵抗を一纏めにし Ron として定義する。本稿 ではこの Ron を用いて解析を行う。 3.2 伝達関数の導出 図 4 のモデルより A0 = gm1 gmL r1 rL ≫ 1 として導出し た伝達関数、式 (2) より、極、零点の式を導出すると 4 %R 4 %R 4QP z1,2 8QWV = p − Ci rL ± (Ci rL )2 − 4A0 Ci C1 r1 rL 2Ci C1 r1 rL 8QWV 459ߩࠝࡦᛶ᛫ q 4QP44 459ߩࠝࡦᛶ᛫ p1,2 = − α± 図 3: スイッチのオン抵抗 α2 − 4A0 Cp2 Ci C1 r1 (Ron + rL ) (5) 2Cp Ci C1 r1 (Ron + rL ) = C1 r1 (Cp + Ci ) + Cp Ci (Ron + rL ) α %R 8KP8Z (4) 4QP となる。 今、スイッチのオン抵抗 Ron によって応答を制御するこ 8KP とを考えると、式 (4)、式 (5) より、零点を制御することは UKPINGRQNGQRCOR 8 %K IO T できない。そのため、Ron に対する極の振る舞いを検討す 8QWV 8Z % IO. ることで応答の最適化を狙う。式 (2) の極成分と、2次の T. 標準形の式と比較することで Ron とダンピングファクタζ ࠕࡦࡊߩ․ᕈ F$ # との関係式が求まる。(式 (3)) これより、各パラメータ値を R HW/*\ H M*\ 代入して、ζの値を振った時の Ron の振る舞いは表 1 のよ うな関係となっている。 二つの極はζ=1 を境に異なる二つの実数極になるか、共 図 4: 伝達関数モデル 役複素極になるかが決まってくる。表 1 の通り、異なる二 図 4 に S/H 回路の伝達関数モデルを示す。実際のオペア つの実数極 (過制動) に落とし込むためにはオン抵抗を Ron ンプは3段構成のアンプを用いており2つポールを持つが、 < − 680 となるように設定しなければならず、これは不可 今回は2つ目のポールが十分高域にあると仮定し、シング 能である。実現可能な範囲が Ron > 0 であることからζ< ルポールモデルとして検討した。gm1 はオペアンプの入力 0.592 と決まる (※ 1)。 トランジスタのトランスコンダクタンス、r1 は差動段 (初 段) の出力インピーダンス、C1 はファーストポールを生成 4 シミュレーション結果とスイッチサイズの決定 する寄生容量を模し、gmL は利得段の利得と出力段のトラ 伝達関数モデル、トランジスタレベルにおける過渡応答 ンスコンダクタンスの積、rL は出力段の出力インピーダン のシミュレーション結果をそれぞれ図 5、図 6 に示す。それ スとしている。また、Cp はオペアンプの入出力間に接続さ ぞれ、ζ=0.500、0.535、0.550 となるように Ron を設定し れた帰還容量、Ci はオペアンプの入力に付く寄生容量であ シミュレーションを行った。また、各々の場合のセトリン る。S/H 回路ではサンプルモードで Cp に蓄えた電荷がホー グ時間を表 2 に示す。 ルドモードにおける入力源となる。そのため伝達関数を求 図 5、図 6、また、表 2 より、伝達関数モデル、トランジ める際は Cp の電荷を直列電圧源 Vin によって表す。 スタレベル、どちらにおいてもζが小さくなる (Ron が大き 尚、各パラメータ値は gm1 = 8.122ms、r1 = 17.46k Ω、 くなる) につれてセトリング時間は速くなっていることが分 C1 = 1.35nF、gmL = 638ms、rL = 1.04k Ω、Cp = 2pF、 かる。しかし、オーバーシュートが大きくなる点が懸念さ Ron Vout Vin = ≒ µn Cox 1 ¡W ¢ L n (VDD − Vin − Vtn ) + µp Cox ¡W ¢ L p (1) (Vin − Vtp ) s2 Cp Ci C1 r1 rL + sCp Ci rL + A0 Cp s2 Cp Ci C1 r1 (Ron + rL ) + s[C1 r1 (Cp + Ci ) + Cp Ci (Ron + rL )] + A0 Cp p − α1 ± α21 − 4(Cp Ci )2 α2 2(Cp Ci )2 Ron = α1 = 2Cp Ci C1 r1 (Cp + Ci ) + 2(Cp Ci )2 rL − 4A0 Cp2 Ci C1 r1 ζ2 α2 = (C1 r1 (Cp + Ci ))2 + 2Cp Ci C1 r1 rL (Cp + Ci ) + (Cp Ci rL )2 − 4A0 Cp2 Ci C1 r1 rL ζ2 (2) (3) 表 1: ζと Ron の関係 ζ 2.000 1.500 Ron [Ω] -950 -880 1.000 0.700 0.592 -680 -300 0 0.575 0.550 0.535 0.500 64 160 240 420 極状態 2 実根 重根 共役複素根 制動状態 不足制動 臨界制動 過制動 れる。オーバーシュートが大きくなると出力電圧が許容誤 差範囲外に出る可能性が増し、セトリング時間が劣化する 原因となるからである。そのため、現状 (Ron = 240) より オン抵抗を大きくすることは望ましくない。よって、ζ> Ron = R3 + R5 であることに着目する。Ron が一定なら応 答は変わらないと考えられるので、前述した設定範囲にお いて sw3 と sw5 のサイズを変更し、シングル出力誤差を最 小にできるような Ron を見積もる。 0.535 とする (※ 2)。 3UY %R ജ㔚8KPR=8?8KPP=8? ℂᗐജ=8? Ꮕേ ࠨࡦࡊࡦࠣᵄᢙ/*\ PUએౝߦ᧤ %I XQNV 8 % 図 7: sw5 がオンしたとき 3UY ᄢ 3UY %R ⸵ኈ⺋Ꮕ rW8 8 Ḵ Ǯ XNQV 8 Ǯ Ǯ %I % %R %I % ٤ ٤ ٤ 図 8: sw3 がオンしたとき 図 5: 伝達関数モデルによる過渡応答 誤差を小さくするために sw3、sw5 のどちらを大きく、ま たは小さくするのかを考える。図 7、図 8 にそれぞれ sw5、 ജ㔚8KPR=8?8KPP=8? ℂᗐജ=8? Ꮕേ sw3 を切り替えた際の電荷の動きを示す。Cp に蓄えられた 電荷が出力へ影響を与えることを前提とし、sw5 がオンす XQNV 8 ࠨࡦࡊࡦࠣᵄᢙ/*\ PUએౝߦ᧤ ると sw5 から生じたスイッチングノイズ Qsw5 が Cp にたま り出力誤差に影響を与える。一方、sw3 がオンし、sw3 の スイッチングノイズ Qsw3 が Cp に加わると、C 、Cg の電荷 ᄢ が引き抜かれるためオペアンプの入力電圧が上昇する。そ れに応じて出力電圧は減少、さらには Cp を介し、出力の XNQV 8 ⸵ኈ⺋Ꮕ rW8 減少分だけオペアンプの入力端子電圧が減少する (0V に近 づく)。オペアンプの入力電圧が 0V となると、C 、Cg にた Ǯ Ǯ Ǯ まっていた電荷が Cp に引き抜かれ、Cp にたまる電荷量は sw3 の影響を受ける以前の状態に戻る。そのため、sw3 に よるスイッチングノイズの影響は出力誤差に影響を及ぼさ ٤٤ ٤ 図 6: トランジスタレベルによる過渡応答 ないと考えられる。 sw3、sw5 のサイズを 1/2 にした時の出力波形を図 9 に 示す。sw3 のサイズを 1/2 にしても出力誤差はほとんど変 表 2: セトリング時間 ζ 0.550 0.535 0.500 settling time(model) 4.80ns 4.77ns 4.74ns settling time(tr) 7.40ns 7.23ns 7.10ns わらず、sw5 のサイズを 1/2 にすると出力誤差は大きく低 減した。これにより、sw5 の影響は受けるが sw3 の影響は ほとんど受けないことが分かる。よって、sw3 のサイズを 大きく (R3 を小さく) し、sw5 のサイズを小さく (R5 を大 ※ 1、※ 2 より、ζ及び Ron の設定範囲は 0.535 <ζ< きく) することでシングル出力誤差を低減する。 Ron = 160 Ω で一定、または、Ron = 240 Ω で一定なる 0.592、オン抵抗値では 0 < Ron < 240 となる。ここで、 ようにスイッチサイズを変更した時の出力誤差を表 3、表 ᓥ᧪ߩࠨࠗ࠭ O8 59ࠍ ck Mn O8 XQNV 8 in out Mp ԛᓥ᧪ߩࠬࠗ࠶࠴ sw3 Mn: (5/0.18)2, Mp: (5/0.18)8 ԝឭ᩺ߔࠆࠬࠗ࠶࠴ sw3 Mn: (5/0.18), Mp: (5/0.18)24 sw5 Mn: (5/0.18)2, Mp: (5/0.18)8 sw5 Mn: (3/0.18)2, Mp: (3/0.18)8 ck/ 図 10: 提案するスイッチのサイズ ℂᗐ ԛ ᓥ᧪ߩࠬࠗ࠶࠴ (a)sw3 のサイズを 1/2 にした場合 O8 ԝ ឭ᩺ߔࠆࠬࠗ࠶࠴ XQNV 8 O8 ᓥ᧪ߩࠨࠗ࠭ O8 59ࠍ XQNV 8 O8 ℂᗐ 図 11: 提案するスイッチの出力誤差 (b)sw5 のサイズを 1/2 にした場合 ⸵ኈ⺋Ꮕ rW8 図 9: 各スイッチの出力誤差への影響 ԛ ᓥ᧪ߩࠬࠗ࠶࠴ XNQV 8 ԝ ឭ᩺ߔࠆࠬࠗ࠶࠴ 表 3: Ron = 160 Ω でサイズを変更した場合 変更状態 出力電圧 (誤差) 1 ° sw3=sw5 1.31589V(+15.89mV) 2 ° sw3 × 2、sw5 × 2/3 1.31032V(+10.32mV) 3 ° sw3 × 3、sw5 × 3/5 1.30948V(+9.48mV) PU PU 図 12: 提案するスイッチの応答 (許容誤差範囲近傍) 表 4: Ron = 240 Ω でサイズを変更した場合 変更状態 出力電圧 (誤差) 5 結論 4 ° sw3=sw5 1.31032V(+10.32mV) 5 ° sw3 × 2、sw5 × 2/3 1.30675V(+6.75mV) スイッチサイズの決定について述べた。この回路ブロック 6 ° sw3 × 3、sw5 × 3/5 1.30607V(+6.07mV) を完成させるためには未だ未解析であったスイッチのサイ 本稿では、ビットブロックの入力回路である S/H 回路の ズを最適応答となるように定める必要があった。スイッチ 4 にそれぞれ示す。それぞれの Ron においてどこまで誤差 を低減できるのか考えると、Ron = 160 Ω でシングル出 力誤差は+9.5mV 程度、Ron = 240 Ω でシングル出力誤差 は+6mV 程度まで小さくすることができることが分かる。 また、Ron が一定であるため理論的に sw5 は 1/2 サイズよ り小さくできない。このことから、Ron が大きければ出力 電圧をより理想値に近づけることができる。 ここまでの検討から、以下のことが確認できた。 1) Ron が大きいとセトリング時間は短い 2) Ron が大きいと出力電圧をより理想値に近づける 以上より、0 < Ron < 240 の範囲において最大である 240 Ωを Ron の設定値とし、出力電圧がより理想値に近い表 4 6 図 10) のサイズが適当と考えられる。 におけるパターン °( 従来のスイッチと提案するスイッチの出力誤差と応答を 比較したものを図 11、図 12 に示す。セトリング時間の差は 0.1ns 程度でありオーバーシュートの大きさも一定である。 これより、応答が一定のまま出力誤差が低減されているこ とが確認できた。 の持つオン抵抗に着目し、ホールドモードの状態での S/H 回路のモデル化を行い、伝達関数を導出することで Ron と ζの関係性を示した。また、伝達関数とシミュレーション結 果よりスイッチのオン抵抗 Ron の最適値、かつ sw3 と sw5 のサイズを決定した。検討した S/H 回路を他回路と複合し た際に問題が生じるか確認することが今後の課題である。 謝辞 本研究を行うにあたり、多大なる御指導を賜わった杉本 泰博教授に心より感謝の意を表します。 参考文献 [1] A. M. Abo and P. R. Gray, “A 1.5-V, 10-bit, 14.3MS/s CMOS Pipeline Analog-to-Digital Converter,” IEEE J. Solid-State Circuits, vol. 34, no. 5, pp. 599-606, May 1999. [2] Behzad Razavi, Design of Analog CMOS Integrated Circuits, McGraw-Hill Companies, Inc., 2001. [3] 宮原 正也, 松澤 昭, ‘スイッチのオン抵抗がパイプライン 型 ADC 性能に及ぼす影響とセトリング時間最適設計技術の検 討,” 電子情報通信学会技術研究報告. ICD, 集積回路 107(163), 35-40, 2007-07-19