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高等教育における米中間の国際教育連携に関する一考察

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高等教育における米中間の国際教育連携に関する一考察
Kobe University Repository : Kernel
Title
高等教育における米中間の国際教育連携に関する一考
察(A Study of Sino-U.S. Linkages in International Higher
Education)
Author(s)
黒田, 千晴
Citation
神戸大学留学生センター紀要,21:21-46
Issue date
2015-03
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81008891
Create Date: 2017-03-29
神戸大学
21
留学生センター紀要 21:21 〜 46,2015
高等教育における米中間の国際教育連携に関する一考察
黒田 千晴
キーワード:中国、アメリカ、国際教育連携、学生移動、孔子学院
1.はじめに
中華人民共和国(以下、中国と記す)は、1978年の改革開放政策導入後、とりわ
け1992年の社会主義市場経済体制への移行後、驚異的な経済成長を遂げた。中国は
2011年アメリカ合衆国(以下、アメリカと記す)に次ぐ世界第2位の経済大国とな
り、著しい経済力を背景に国際社会におけるプレゼンスを拡大しており、国際高等
教育の分野においても、中国の台頭は目覚しい。近年、中国の台頭を受け、世界情
勢においては、アメリカと中国の米中二強時代の始まりが指摘されているが、それ
に呼応するかのように、米中両国政府は、両国間の国際教育連携や研究者や学生の
移動を促進し、次世代の両国関係を担う人材を育成する政策を主導している。特に
中国政府は高等教育の国際化や国際教育交流の促進を、国家の文化・外交政策戦略
の一環として位置付け、教育や中国語、中国文化の世界における普及を通して、中
国のイメージを向上し、中国に対する理解を深め、中国の国際的な影響力を拡大す
る施策を次々に講じている。このような中国政府の一連の政策は、教育や文化の普
及を通した中国政府の「ソフト・パワー」 戦略であると指摘されている(Yang
1)
2009、2010、Chen 2010、McCafferty 2013)
。
中国政府は、2004年より中国語・中国文化の普及を促進する教育機関、孔子学院
を世界各国に設置しているが、2014年10月の時点で、世界120カ国に471の孔子学院
と730の孔子課堂 が設けられており、その内、アメリカには、99校の孔子学院と
2)
356の孔子課堂が設置されている 。アメリカに設置されている孔子学院の数は世界
3)
最多であり、中国政府が中国語・中国文化の普及の先方として、戦略的にアメリカ
を重視していると言えよう。
一方、アメリカでも、特にオバマ政権下において、中国との戦略的パートナーシッ
プの確立が外交政策の要として位置づけられており、経済・外交・安全保障の各面で、
中国との関係強化を担う「中国通」の次世代のアメリカ人の育成が、アメリカの「ス
マート・パワー」 戦略の一環として重視されている(McGiffert 2009b)。2009年に
4)
は、オバマ大統領が米中関係の重要性に鑑み、2010 ~ 2014年の4年間で、中国に
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留 学 す る ア メ リ カ 人 学 生 を10万 人 に 増 加 さ せ る と い う 派 遣 留 学 計 画“100,000
Strong Initiative”を始動している 。米中間の国際教育連携の促進及び留学交流の
5)
拡大を通して、次世代の両国関係を担うアメリカ人の専門家を育成することを意図
した政策である。
新中国成立後の米中教育交流は、1980年代後半以後の中国人アメリカ留学者の増
加やアメリカの教育機関の中国進出の拡大が主流であったが、2000年代以後は、ア
メリカ人中国留学者の著しい増加や孔子学院プロジェクトによる中国の教育機関の
アメリカ進出など、より双方向的かつ多層的な様相を呈している。一方で、アメリ
カの学術界においては、高等教育の国際化の進展に伴い、政治、及び法体系が全く
異なる中国(政府・大学)との連携が多様かつ緊密に深化していく過程において、
学問の自由や大学の自治など、教育の公共性が脅かされるといった懸念が出されて
いる。しかし、この分野における先行研究は、米中間の教育交流を歴史的視座から
丹念に検証した阿部(1985)
、大塚(1984)
、Gu(2006)等の研究や米中間の教育
交流、研究者交流及び国際教育連携プログラムについてまとめたInstitute of
International Education(2008)の報告書等が見られるだけで、管見の限り、昨今
の米中間の国際教育連携を包括的に検証した論考はみられない。
そこで本稿では、高等教育における米中間の国際教育連携に関して、まず、2000
年代以後、両国間の留学交流(学生移動)が、どのような展開を見せているのか、
各種統計資料を基に考察する。更に、米中両国政府が文化・外交戦略の一環として
主導している国際教育政策を概観した上で、米中間の教育連携の一つの形態である
アメリカにおける孔子学院の展開を検証する。これらの検証を通して、米中間の国
際教育連携の諸相とその課題の一端を明らかにすることを試みる。
2.米中間の留学交流の現況
2- 1.中国人学生のアメリカ留学
表1 中国人留学生の留学先国上位15カ国(2012)
順位
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留学先国
人数
1
アメリカ
2
日本
210,452
96,592
3
オーストラリア
87,497
4
イギリス
76,913
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黒田千晴
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5
韓国
43,698
6
フランス
26,479
7
カナダ
26,238
8
ドイツ
18,323
9
香港
17,938
10
マカオ
13,077
11
ニュージーランド
11,337
12
ロシア
9,842
13
タイ
8,444
14
イタリア
7,645
15
マレーシア
6,484
出典: Global Flow of Tertiary-Level Students. UNESCO Institute for Statistics issued on May 5, 2014
http://www.uis.unesco.org/Education/Pages/international-student-flow-viz.aspx(2014年10月21
日アクセス)の統計資料を基に筆者作成
新中国成立後の米中間の教育交流は、東西冷戦体制下におけるイデオロギー対立
により、極めて限定的な民間交流に限られていた。その後、1978年の改革開放政策
の始動を契機に、中国政府が全方位外交の方針の下、社会主義諸国以外にも派遣留
学を開始したこと、また米中国交正常化を契機に、両国間の教育交流も徐々に拡大
していく。更に、中国では1992年に社会主義市場経済体制へと移行し、これを受け、
1993年2月には、共産党中央委員会・国務院が「中国教育改革及び発展綱要」 を
6)
発表、大胆な規制緩和と市場原理の導入による一段の高等教育改革の方向性が示さ
れた。また政府は、
「中国教育改革及び発展綱要」の中で、「留学を支持し、帰国を
奨励、往来は自由(中国語で「支持留学、鼓励留学、去来自由」
)という政府の海
外留学に対する方針を明示している。以後、中国の著しい経済成長とそれに伴う中
間層の収入増加、高等教育需要の高まり、そして2001年のWTO正式加盟を受けた
私費留学に関する規制の撤廃等、中国をめぐる国内外の要因により、新たに豊かに
なった「普通の人々」
(杉村2010)による海外私費留学が急速に拡大していく。結果、
アメリカ、英国、オーストラリアなどの主要な英語圏、また欧州、日本等の留学生
受入国において、中国人留学生数の著しい増加がみられるようになる。その中でも
アメリカが、中国人の留学先として絶対的人気を誇っている。表1は、中国人留学
生の留学先国の内訳を表したものであるが、アメリカへの留学生数は、約21万人と、
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2位の日本(約96,000人)以下を大きく引き離していることが確認できる。
表2は、Institute of International Education(IIE) が発表しているアメリカの
7)
高等教育機関に在籍する外国人留学生数の出身国別内訳を表したものである。
表2 アメリカの高等教育機関に在籍する外国人留学生数 出身国別内訳
順位
出身国
総計
2011/12
2012/13
2012/13
前年度比
(人)
(人)
割合(%)
(%)
764,495
819,644
100.0
7.2
中国
194,029
235,597
28.7
21.4
2
インド
100,270
96,754
11.8
- 3.5
3
韓国
72,295
70,627
8.6
- 2.3
1
4
サウジアラビア
34,139
44,566
5.4
30.5
5
カナダ
26,821
27,357
3.3
2.0
6
台湾
23,250
21,867
2.7
- 5.9
7
日本
19,966
19,568
2.4
- 2.0
8
ベトナム
15,572
16,098
2.0
3.4
9
メキシコ
13,893
14,199
1.7
2.2
10
トルコ
11,973
11,278
1.4
- 5.8
出典:Institute of International Education Open Doorsの統計資料を元に筆者作成
いずれの年度も中国人留学生が最多であり、2012/13年度には前年度比21.4%の
伸び率を示している。2012/13年度、アメリカの高等教育機関に在籍している中国
人留学生数は、留学生総数の約30%弱を占めるに至っている。
近年の傾向として挙げられるのは、学部レベルに在籍する中国人留学生数の増加
である。表3は、アメリカの高等教育機関に在籍する中国人学部留学生数とその割
合の推移を表したものであるが、2007年以後、学部レベルに在籍する中国人留学生
数が急速に増加していることがわかる。2001/2002年度の学部中国人留学生の割合
は5%に過ぎなかったのが、2010/2011年度には、43%にまで拡大している。アメ
リカ政府は、従来、学部レベルの中国人留学生に対するビザ発給要件を厳しく制限
していたが、2000年代中盤以後、徐々に規制を緩和する措置を取り、学部レベルの
中国人留学生の増加に繋がったとみられる。また、何より中国経済の順調な発展に
より、アメリカの大学の高額な学費、生活費を全て私費で負担することが出来る中
国人富裕層、中間層が拡大したこと、2001年のWTO加盟により、中国において私
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費留学に対する規制が完全に撤廃されたこと、また、財政状況が厳しい州立大学等
がフルコストを支払ってくれる中国人留学生を積極的にリクルートしていることな
どが、
学部レベルに在籍する中国人留学生の増加の背景として挙げられる。しかし、
教育現場からは、中国人学部留学生急増に伴う課題も報告されている。例えば、
Bartlett and Fischer(2011)は、
アメリカ東部の州立大学であるデラウエア大学で、
2007年にはわずか8名だった中国人学生が、2011年には517名にまで増加し、その
結果、時に英語力が十分でない中国人留学生が多数を占めるクラスにおいて、ディ
スカッションやプレゼンテーションを中心とした授業運営に支障を来たす事例が見
られるなど、問題点を指摘している。中西部のミネソタ大学では、過去数年間に学
部レベルの中国人学生が急増し、初めて親元を離れ、ホームシックや異文化不適応
に見舞われる学生への対応に追われているとのことである 。
8)
表3 アメリカの高等教育機関に在籍する中国人学部留学生数と割合の推移
年
学部生数(人)
学部生
前年度比(%)
中国人
2010/11
56,976
43
留学生総数(人)
157,277
2009/10
39,921
31
52
127,628
2008/09
26,275
27
60
98,235
2007/08
16,450
20
65
81,127
の割合(%)
43
2006-07
9,988
15
7
67,723
2005/06
9,304
15
12
62,582
2004/05
8,299
13
3
62,523
2003/04
8,034
13
- 15
61,765
2002/03
9,484
15
10
64,757
2001/02
8,659
14
5
63,211
出典:Institute of International Education Open Doorsの各年度の統計を元に筆者作成
2- 2.アメリカ人学生の中国留学
次に、アメリカから中国への学生移動に関する統計を確認する。中国教育部が
2014年2月に発表した最新の統計によると、2013年度、中国の高等教育機関に在籍
した留学生数は356,499人に上り、アメリカは韓国に次ぐ送り出し国となっている 。
9)
Institute of International Education(IIE)の統計からも、中国へ留学するアメリ
カ人大学生が過去10年間にいかに急増したか見て取れる。表4は、2001/2002年度
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と2011/2012年度のアメリカ人大学生の海外留学者総数及び中国への留学者数を表
したものである 。2001/2002年度から2011/2012年度の10年間で、アメリカ人大学
10)
生の海外留学者総数は、154,168人から283,332人へ増加、伸び率にして約1.8倍の増
加がみられる。内、中国への留学者数は、3,911人から14,887人となっており、約
3.8倍の増加がみられ、中国への留学者数が、全体の海外留学者数を上回る勢いで
伸びていることが確認できる。
表4 アメリカ人大学生海外留学者数の推移及び中国留学者数の推移
アメリカ人大学生海外留学者総数(人)
内中国への留学者数(人)
中国への留学者が留学者総数に占める割合
2001/02
2011/12
154,168
283,332
3,911
14,887
2.54%
5.25%
出典:Institute of International Education Open Doorsの各年度の統計を元に筆者作成
表5は、2010/2011年度及び2011/2012年度のアメリカ人大学生の留学先国、上位
10カ国のリストである。中国は、アジア地域における1番人気のある留学先となっ
ており、中国への留学者数は全体の約5.3%を占めている。
表5 アメリカ人大学生の留学先国別内訳
留学先国
総計
2010/11
2011/12
2011/12
(人)
273,996
(人)
283,332
割合(%)
100.0
前年度比(%)
3.4
1
英国
33,182
34,660
12.2
3.4
2
イタリア
30,361
29,645
10.5
4.5
3
スペイン
25,965
26,480
9.3
- 2.4
4
フランス
17,019
17,168
6.1
2.0
5
中国
14,596
14,887
5.3
0.9
6
ドイツ
9,018
9,370
3.3
2.0
7
オーストラリア
9,736
9,324
3.3
3.9
8
コスタリカ
7,230
7,900
2.8
- 4.2
9
アイルランド
7,007
7,640
2.7
9.3
10
日本
4,134
5,283
1.9
9.0
出典:Institute of International Education Open Doorsの各年度の統計を元に筆者作成
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黒田千晴
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交換留学や語学研修目的の留学だけでなく、中国の大学で学位取得を目指すアメ
リカ人学生も増加傾向にある。表6は、2010/2011年度及び2011/2012年度、海外の
大学に所属し、
学位取得を目指すアメリカ人学生の留学先内訳を示したものである。
本統計は、Institute of International Education(IIE)が海外のパートナー機関の
協力を得て取りまとめたものである。海外の大学等で学位取得を目指すアメリカ人
学生は、2011/12年度、46,571人となっており、内、英国(16,745人)、カナダ(9,280
人)
、ニュージーランド(2,467人)
、オーストラリア(2,498人)、アイルランド(991
人)と英語圏の大学に在籍する学生数が計31,981人、全体の約69%を占めている。
中国の大学で学位取得を目指すアメリカ人学生数は2,184人で全体に占める割合は
約4.6%に過ぎない。しかし、他のアジア諸国と比較すると、中国の大学で学位取
得を目指す学生が圧倒的多数となっていることがわかる。中国の大学で学位取得を
目指す学生数は、2,184人、日本の大学の正規課程に在籍するアメリカ人学生数(505
人)の約4倍に上る。更に、前年度からの増加率で見ると、中国で学位取得を目指
すアメリカ人学生の数は、前年度比31.1%増となっており、顕著な増加が見られる。
表6 海外の大学等で学位取得を目指すアメリカ人学生の留学先
留学先国
2010/11(人)
総計
44,403
2011/12(人) 前年度比(%)
46,571
5.2
1
英国
16,185
16,745
3.5
2
カナダ
9,310
9,280
- 0.3
3
フランス
4,358
4,449
2.1
4
ドイツ
3,704
4,057
9.5
5
ニュージーランド
1,839
2,467
34.1
6
オーストラリア
2,570
2,498
- 2.8
7
中国
1,666
2,184
31.1
8
オランダ
1,500
1,650
10
9
アイルランド
915
991
8.3
10
スペイン
1,036
951
- 8.2
11
スウェーデン
460
540
17.4
12
日本
560
505
- 9.8
13
デンマーク
142
154
8.5
14
マレーシア
158
100
- 36.7
出典:Belyavina, Li, and Bhandari(2013)p.5を参照の上、筆者作成
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このように、中国の大学に在籍し、学位取得を目指すアメリカ人学生が増加傾向
にあるが、これらの学生達は、どのレベルの学位取得を目指しているのであろうか。
Belyavina, Li and Bhandari(2013)が取りまとめた調査によると、2011/2012年度、
中国の高等教育機関の学位プログラムに在籍したアメリカ人学生の内、学部課程に
在籍した学生は、1,028人(47%)
、修士課程に在籍した学生が917人(42%)、博士
課程に在籍した学生は239人(11%)となっている。学部課程に在籍する学生が約
半数弱となっているが、大学院修士課程レベル、博士課程レベルの学生を合わせる
と53%に上っており、特に近年、修士課程に在籍する学生数が急速に増加している
とのことである。
以上、各種統計に表れている通り、米中間の学生移動は、数の面においては未だ
圧倒的に中国からアメリカへという学生の流れが主流であるが、ここ10年の間に、
中国を留学先として選ぶアメリカ人学生が着実に増加している。更に、学生の在籍
段階を見ても、アメリカの大学に在籍する学部レベルの中国人学生の著しい増加が
見られる他、中国の大学に在籍するアメリカ人大学院生も急速に増加しており、米
中間の留学交流は、規模の上でも、交流形態の多様化という面でも顕著な発展が見
られる。
今日、世界の留学生の圧倒的主流は私費留学生であり、これら「普通の人々」が、
自らの興味・関心やキャリアアップのため、大学間協定の枠組みや、語学研修の機
会を生かして、或いは学位取得を目指して、自らの意思で留学を志している。米中
間の学生移動も、国家の戦略に関わらず、自らの意思と資金により自由に国境を越
え学んでいる「普通の人々」による私費留学が主流であるが、米中両国は、特に
2000年代後半以後、両国の留学交流や国際教育連携を推進する政策を取っており、
これらの一連の政策が両国間の国際教育連携の規模の拡大や多様化といった側面に
一定の影響力を与えていると考えられる。特に中国では、高等教育の国際化に関す
る中央政府の方針が、教育部の法令や通達として教育部直属の大学に速やかに伝達
され、各大学は教育部の指針に従って留学生教育にかかわる制度を整備したり、新
たな国際共同教育プログラムを立ち上げたりといった施策を講じている。そこで、
次節以降では、中国、アメリカ両国政府による国際教育政策を概観した上で、これ
らの政策が両国の高等教育及び両国間の国際教育連携にどのようなインパクトをも
たらしているのか検討していきたい。
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黒田千晴
高等教育における米中間の国際教育連携に関する一考察 29
3.米中両国の文化・外交戦略としての国際教育政策の推進
3- 1.中国政府の外国人留学生政策
中国政府は、改革開放政策の導入以後、一貫して、教育の対外開放を推進し、高
等教育の国際化を推進してきた。高等教育の国際化は、高等教育の多様化、民営化、
市場化とともに中国の高等教育改革の柱として導入され、国際化を促進することに
より、研究、教育の質の向上を図ってきた。改革開放以後、中国政府が推進してき
た高等教育の国際化に関する施策は多岐にわたるが、1980年代から2000年頃にかけ
ての政策は、主としてアメリカ、イギリスを中心とする英語圏の先進国の「先導的」
な教育資源を「輸入」し、
高等教育における教育・研究の質の向上を目指すこと(Yang
2010)、派遣留学を通して国家の発展に寄与する高度人材を育成すること、更に海
外留学帰国者を優遇する政策を打ち出し、高度人材の帰国を奨励することに重点が
置かれていた(大塚2010、白土2011)
。
一方、著しい経済成長を背景に、国際社会におけるプレゼンスが向上したこと、
一連の徹底した高等教育改革により、中国の高等教育が規模の面でも教育・研究の
質の面でも顕著な発展を遂げたことなどを受けて、政府は「中国教育のブランド化」
を目指し、中国の教育を積極的に外国に「輸出」することを奨励し始める(Yang
2010)
。例えば、2004年に出された国家教育計画の綱領的文書「2003 - 2007教育進
行行動計画」の第11条「教育の対外開放をより一層拡大する」という条項において、
対外中国語教育を大いに推進し、国際教育市場を積極的に開拓することや、外国人
留学生の受け入れを更に拡大し、
「中国教育のブランド化」を図るという政策方針
が示されている 。更に、2007年には、胡錦濤総書記(当時)が中国共産党第17回
11)
全国代表大会において、ソフト・パワー戦略の一環としての中国文化の振興の必要
性を指摘している 。このように、中国政府は、改革開放以後「輸入」一辺倒であっ
12)
た教育の分野において、
「輸出」にも力を入れて、海外に打って出る(中国語で「走
出去」
)方針を掲げている。その戦略を具現化する方策が、留学生の受け入れ拡大
に向けた政策であり、孔子学院の世界展開である。
3- 1- 1.中国の英知を「英語」で発信―英語による留学生教育の拡大
中国政府は建国60周年にあたる2009年、2020年までに外国人留学生の受け入れを
50万人に拡大する政策方針を表明している(大塚2010、黒田2010b)。その後、2010
年7月に中国共産党中央委員会・国務院より、今後10年にわたる中国の教育改革・
発展を方向付ける綱領的文書「国家中長期教育改革・発展計画綱要(2010-2020)
」
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30
が公布・施行されたのを受け、中国教育部は、2010年9月「中国留学計画」 を正
13)
式に発表、2020年までに50万人の外国人留学生を受け入れ、中国をアジア最大の留
学生受け入れ国とするという発展目標を明示している。また具体的な目標として、
「我が国の国際的地位、教育の規模および教育水準に適応する外国人留学生事業と
サービス体系を構築し、留学教育に従事する高水準の教員を多数育成し、中国の特
色を生かした留学生教育を実施する大学群と、ハイレベルな学科群を形成し、中国
の事情に詳しく中国に友好的な素質の高い留学生を多数育成すること」と本計画の
趣旨を記している。目標実現に向けた具体的な施策として、留学生政策、法規、制
度の整備、管理体制と留学生に対するサービスの拡充、新入生募集方法の改革、中
国の特色を生かした、
また国際的に競争力のある学位プログラムを重点的に支援し、
国際的影響力を高めること、教師の育成、評価方法の改革、教育の質の評価システ
ムの構築と教育の質の改善、保障等を挙げている 。
14)
更に中国教育部は、
「中国留学計画」の公布と同時に「中国留学計画プロジェク
ト進行表」 を発表し、2020年までの間に、中国の初等、中等、高等教育機関で受
15)
け入れる留学生数(延べ数)を2020年までに50万人とし、内、高等教育機関で学歴
教育 を受ける留学生数(実数)を15万人とするという数値目標を掲げている。更
16)
に、高等教育段階において、留学生教育のモデル校を毎年10カ所増設すること、中
国語を教授言語とする競争力のある専攻課程を毎年50カ所増設すること、英語を教
授言語とする競争力のある専攻課程を3年間に50カ所増設することとしている。
中国では従来、学歴教育を受ける留学生は、留学生のみを教育対象とする中国語
専攻(中国語で「漢語言専業」
)の学部課程に入学する留学生
17)
を除き、国内の中
国人学生と同様、既存の課程で中国語を教授言語とする教育を受けるのが一般的で
ある。従って、一部、医学教育、理工系の分野、International MBA等の専門職大
学院等、英語による教授が行われている課程に入学する者を除き、中国の大学の学
部、修士、博士課程に入学するには、その準備段階として中国語の習得が必須であ
る。しかし2000年代頃から、留学生を対象とした英語を教授言語とするプログラム
が医学部において設置されたのに加えて、2005年頃から、北京大学、復旦大学、中
国人民大学等、中国の重点大学において、理工系、人文・社会学系の幅広い分野に
おいて、英語を教授言語とする留学生を対象とした修士課程プログラムが相次いで
開設されている(敬2008)
。Kuroda(2014)は、北京大学、清華大学、復旦大学、
中国人民大学の4大学に設置されている英語を教授言語とする8つの修士課程プロ
グラムを対象とした調査を実施している。これらの調査を通して、中国政府と大学
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が一体となり、中国の学問・英知・研究成果、中国の価値観を発信し、「中国通」「親
中家」など、中国に友好的な人材を育成するという趣旨の下、英語を教授言語とす
る留学生対象の学位プログラムの設置を進めていると指摘している。また、これら
のプログラムが、中国語の習得に時間を割くことなく、中国の有名大学の修士学位
取得を希望する留学生の受け皿として機能しており、アメリカ人学生も一定数在籍
していることを確認している(Kuroda 2014)。前節で触れた通り、Belyavina, Li
and Bhandari(2013)の調査結果によると、2011/2012年度、中国の高等教育機関
の学位プログラムに在籍したアメリカ人学生の内、学部課程に在籍した学生は、
1,028人(47%)
、修士課程に在籍した学生が917人(42%)
、博士課程に在籍した学
生は239人(11%)となっており、特に近年、修士課程に在籍する学生数が急増し
ている。その背景要因として、中国教育部の方針を受けて、主要大学が英語を教授
言語とする修士課程プログラムを相次いで開設したことが、中国の大学におけるア
メリカ人学生の受け入れ拡大に繋がっていると考えられる(Belyavina 2013)。
しかし、Kuroda(2014)は、英語を教授言語とする修士課程プログラム(以下、
英語プログラムと記す)を対象に実施した調査結果に基づき、英語プログラムには、
教育や学位の質保証などの面において課題が残ると指摘している(p.458)。Kuroda
(2014)によると、中国人学生を主たる教育対象とした中国語を教授言語とする修
士課程プログラム (以下、既存のプログラムと記す)の募集用件、カリキュラム、
18)
教学内容と英語プログラムのそれには明確な差異がみられ、英語プログラムの教学
内容は既存のプログラムと比較して明らかに初歩的な内容を含んでいる 。また、
19)
英語プログラムは留学生のみを対象としたいわゆる「アイランド・プログラム」で
あり、大学全体の教育研究活動との統合が図られておらず、留学生と中国人学生の
授業内での交流は限定的である(Kuroda 2014, p.458)。
中国では、英語を教授言語とする留学生を対象とした学位プログラムが矢継ぎ早
に設置されており、拡大・発展の速度には目を見張るものがある。留学生を対象と
した英語プログラムの整備が、アメリカ人留学生の中国留学を促進していることは
間違いない。しかし、教育内容や教育形態、すなわち教育や学位の質をどのように
保証していくのか、更なる検証が必要であろう。
3- 2.“100,000 Strong Initiative”10万人のアメリカ人学生を中国へ
オバマ政権下のアメリカ政府も、中国を戦略的なパートナーとして位置づけ、米
中関係の強化を促進するための政策方針が示されている。2009年11月、オバマ大統
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領は、2010年~ 2014年にかけての4年間に10万人のアメリカ人を中国へ留学させ
るというプロジェクト“100,000 Strong Initiative”を発表、その後、2010年5月の
ヒラリー・クリントン国務長官(当時)の訪中を機に正式に始動している。“100,000
Strong Initiative”の趣旨は、米中間の外交的、経済的、文化的つながりを強化す
る中国に精通した次世代のアメリカ人専門家を育成することにある 。本計画の実
20)
現に向けて、連邦政府(国務省教育文化局)が、中国留学奨学金の拡充や中国留学
プログラムの拡充を主導しており、2013年1月には、ヒラリー・クリントン国務長
官(当時)により、独立・超党派のNPO法人The 100,000 Strong Foundation(以下、
財団と記す)が創設された。当財団は「中国語教育と中国留学を通して米中関係を
より強固なものにすること、次世代の米中関係を担うアメリカ人を育成するという
国を挙げた運動を主導すること」をミッションとして掲げており、財団設立以後
“100,000 Strong Initiative”に関する事業を主管している。
このように、アメリカ政府は、全面的にアメリカ人学生の中国留学を奨励してい
るが、実際に連邦政府が“100,000 Strong Initiative”において提示した奨学金は、
フルブライト奨学金(Fulbright Student Program)、ギルマン奨学金(Benjamin
A. Gilman International Scholarship Program)、The Critical Language
Scholarship(CLS)Program 、National Security Language Initiative for Youth
(NSLI-Y)
、ボーレン奨学金(Boren Scholarships and Fellowships)等、既存の奨
学金であり、中国留学に特化したものではない。現時点で、連邦政府として、中国
留学の促進のために新たに予算措置がなされて創設された奨学金は確認できず、民
間の奨学金財団に中国留学の奨学金創設を呼びかけているのが実情であると推察さ
れる。
これに対して、中国政府は“100,000 Strong Initiative”の発足を受けて、中国政
府奨学金、Chinese Bridge Scholarships(中国語で、「漢語橋奨学金」)のアメリカ
人 学 生 に 対 す る支 給枠 を10,000人に 拡大 す る こと を表 明し、 中国 政府と して、
“100,000 Strong Initiative”
の実現を全面的に支援する姿勢を明確にしている。更に、
2012年より、孔子学院総本部/国家漢弁は、各国の孔子学院が申請窓口となる中国
研究に従事する博士課程の学生や若手研究者に対する奨学金、研究助成金を支給す
るプログラムConfucius China Study Plan(CCSP、中国語では、
「孔子新漢学計画」)
を開始しており、
これらの枠組みも、
アメリカ人学生及び研究者の中国留学へのルー
トとして活用される。
このようにオバマ政権は、米中関係の重要性に鑑み、連邦政府主導で次世代の米
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中関係を担う人材、中国に精通したアメリカ人専門家の育成に乗り出している。短
期、長期に関わらず、Study Abroad Activitiesの一環として中国に滞在するアメ
リカ人は着実に増加しており、2014年に100,000人の目標に達成すると予測されて
いる(Belyavina 2013)
。しかし、アメリカ側が学生に提供する資金面の支援は極
めて限定的である。これに対し、中国政府は、潤沢な資金を以て、アメリカ人学生
を対象とした中国政府奨学金の支給枠を拡大しており、これに倣うように中国の主
要大学も、アメリカの協定校の学生を対象とした、大学独自の奨学金を提供すると
ころも出ている(Belyavina 2013)
。
“100,000 Strong Initiative”は、アメリカ政府
が旗を振り、主導してはいるが、それに呼応し、実際に奨学金支給という資金面に
おいて、全面的な支援をしているのは中国側であるといえよう 。
21)
以上、中国、アメリカ両政府による国際教育政策について、その概要を検証して
きたが、次節では、米中教育連携の一形態である、アメリカにおける孔子学院の展
開について考察する。
4.米中間の国際教育連携の進展とその課題
4- 1.アメリカにおける孔子学院の展開
孔子学院の世界展開は、中国教育部の直属の政府機関である孔子学院総本部/国
家漢弁が統括している。
「世界に中国語を広め、世界各国の中国に対する理解と友
好を深め、世界における中国の影響力を拡大する」という趣旨に則り、2003年に始
動した「中国語ブリッジプロジェクト」
(中国語では、
「漢語橋工程」
)において、
世界各国に孔子学院を設置することが示された(黒田2010a)。その後、中国政府は、
2013年に「孔子学院発展計画(2012 - 2020)」を発表し、2015年までに500校の孔
子学院と1000カ所の孔子課堂を全世界に設立し、孔子学院の学生数を100万人に、
孔子学院が提供する遠隔教育を受ける学生数を50万人とするという数値目標を公表
している 。孔子学院は、中国と外国の教育機関の協力の下に設立される非営利の
22)
教育機関であり、
「孔子学院章程」 に「世界各国(地域)の人民の中国語学習の需
23)
要に応じ、世界各国(地域)の人民の中国の言語、文化に対する理解を促進させ、
中国と世界各国の教育文化交流を強化し、中国及び外国の友好関係を発展させ、多
元的な文化の発展を促進し、調和のとれた世界を構築する。」とその趣旨が記され
ている。
2004年11月に韓国ソウルに孔子学院第1号が設立され(大塚2007)、同年アメリ
カにも、ワシントンD.C.に位置する州立大学、メリーランド大学に北米初の孔子学
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院が設立されている。メリーランド大学の孔子学院、Confucius Institute at
University of Maryland(以下CI at Marylandと記す)は、中国政府(漢弁)の強
い働きかけにより、中国天津の南開大学とのパートナーシップにより開設されてい
る(黒田2010a)
。CI at Marylandが東海岸に設置されたのと前後して、西海岸のサ
ンフランシスコ州立大学にも孔子学院、Confucius Institute at San Francisco State
University(以下、CI at SFSUと記す)が設立されている(黒田2011)
。CI at
Marylandが中国政府のイニシアティブにより設立されたのに対し、CI at SFSUは、
サンフランシスコ州立大学側の積極的な誘致によって設置に至っている(黒田
2011)
。2005年に上記2校が設立されたのを皮切りに、その後、全米各地に矢継ぎ
早に孔子学院が設立されている。孔子学院総本部/国家漢弁は、各国のニーズ、地
域コミュニティーや設置先機関のニーズに合わせて多様な形態の孔子学院が並立す
ることを奨励しており、孔子学院の設置・運営・管理に自主性、柔軟性を認めてい
る(黒田2010a)
。この方針に則り、極めて短期間の間に、全米各地の大学や初等中
等教育機関に孔子学院が次々に設立されている。2014年10月現在、アメリカには99
校の孔子学院が全米各地に設置されているが、99校の内、78校がアメリカの州立大
学、州立カレッジとの提携により設立されている 。背景には、地域の教育委員会
24)
や地域の学校との連携が盛んな州立大学に孔子学院を設置することにより、アメリ
カの初等中等教育における中国語教育、中国文化の普及を促進するという中国政府
、地域のコミュニティーや中国とのビジネスを振興する産
の意図と (黒田2010a)
25)
業界及びこれらの需要に応える州立大学側のニーズに合致していることが挙げられ
る。
例えば、アメリカの中西部、ミネソタ州にあるミネソタ大学では、地域コミュニ
ティーに対する教育支援と孔子学院での教育活動を有機的に結びつけるため、孔子
学院Confucius Institute at University of Minnesota(以下、CI at U of M)の設立
に際し、初等、中等教育段階の教員養成に実績のある大学を提携先として選定して
いる 。ミネソタ大学は、中西部における有数の総合研究型大学であると同時に、
26)
州立大学として教員養成や地域コミュニティーに対する教育支援活動を積極的に展
開している。CI at U of M設置の契機となったのは、シカゴにある中国総領事館を
通じての中国政府からの働きかけによるものであるが、パートナー大学の選定につ
いては、ミネソタ大学が主導権を持ち、ミネソタ大学の教職員で構成した使節団が
中国に赴き、中国語教育に定評のある複数の大学を視察した上で提携先を決定した
との事である。ミネソタ大学の周辺には、
従来から中国系のコミュニティーがあり、
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中国系の住民の間による中国語教育のニーズの高まりや産業界からの要請に応じ、
最もニーズに適した教育を提供できるパートナーとして、小中学校における中国語
教育のノウハウを有する首都師範大学を選んだとのことである。メリーランド大学、
サンフランシスコ州立大学、ミネソタ大学の3大学に設置されている孔子学院はい
ずれも、地域の初等、中等教育機関の中国語教師に対するセミナーの実施や、地域
の小中学生、高校生を対象とした中国語・中国文化講座の開講、社会人を対象とし
た語学講座の開設、春節や中秋節など、中国の伝統的な祝祭日にちなんだイベント
などを実施している。これらの孔子学院は、大学内に設置されてはいるが、学習者
として想定されている主要なターゲットは、むしろ大学外のコミュニティーに置か
れている。
一方、研究者交流の拡大の一環として孔子学院設置に至ったケースもある。例え
ば、カリフォルニア州にある世界有数の名門大学、スタンフォード大学では、
School of Humanities & Sciences, the Department of East Asia Languages and
Culturesと北京大学との長年の共同研究、研究者交流の実績を下に、Confucius
Institute at Stanford University(以下、CI at Stanford)が設立されている 。CI
27)
at Stanfordでは、主として中国文学、中国学に関する研究活動としてシンポジウム、
フォーラム、ワークショップ等の開催、共同研究の推進及び、両大学間の大学院レ
ベルの学生交流が活動の中心である。
以上、見てきた通り、2005年の、CI at Marylandの誕生から2014年にかけての約
10年弱という極めて短期間に、99校の孔子学院、356の孔子課堂が全米各地に設立
されたわけであるが、驚異的な速さで多数の孔子学院の設立を可能とした要因は、
中国の大学と外国の教育機関との共同設置・運営を行う「共同方式(中国語では、
合作方式)
」が採用されたことにある。孔子学院総本部/国家漢弁は、「孔子学院章
程」において、孔子学院の設置に関し「言語教育及び文化交流活動を実施する機能
を備え、孔子学院章程で定めた要件を満たす中国国外の機関は、孔子学院設置の申
請を行うことが出来る。
」
(第一章総則、第九条)としており、中国側と外国の教育
機関の「共同方式」を採用することは必須ではない 。しかし、アメリカを始め、
28)
世界各国に設置されている孔子学院の大半は、「共同方式」を採用しており、中国
側の孔子学院総本部/国家漢弁と中国の大学等の教育機関が、中国語教師の派遣、
教材の提供を担い、当地の教育機関が、オフィススペース、教室等の場所の提供を
行うというのが一般的である。
「共同方式」で運営される孔子学院は、中国側、外
国側の双方から理事会のメンバーを構成する。資金については、原則として中国側
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と当地の教育機関が1対1の割合で供出することとされており、孔子学院総本部/
国家漢弁から初動資金が提供される。次年度以後の資金については、各孔子学院が
年度ごとの事業計画書を作成し、孔子学院総本部/国家漢弁に提出、そこでの審査、
承認を経て、孔子学院総本部/国家漢弁から資金が提供されることとなってい
る 。しかし、実際、中国側と受け入れ側の教育機関がどのように資金を分担して
29)
いるのか明らかにされておらず、1対1の原則通りの運営がなされているのかは不
透明である。
4- 2.孔子学院をめぐる議論
サンフランシスコ州立大学やミネソタ大学のように、積極的に孔子学院の誘致に
乗り出したケースも見られるが、アメリカの学術界では、孔子学院に関する批判的
な意見が次々に出されているのも事実である。シカゴ大学名誉教授のSahlins(2013)
は、シカゴ大学に設置された孔子学院について、学内での十分な議論とコンセンサ
スを経ずに設立された経緯や孔子学院の協定書が非公開で不透明である点、中国側
が派遣する中国語教師の選定基準が不明瞭であること、孔子学院総本部/国家漢弁
が、孔子学院で使用するテキストを指定していることに対し、強い疑義を表明して
いる。更に、孔子学院総本部/国家漢弁が「孔子学院章程」
、第一章総則、第六条
で定めている「孔子学院が設立された国の法律、規則を遵守し、当地の文化、教育
の伝統、社会習慣を尊重すると共に、中国の法律や規則に違反しないこと」という
条項を例に挙げ、表現の自由、学問の自由の保証が憲法で保証されているアメリカ
とそうではない中国の法律を同時に遵守することは事実上不可能であると指摘した
上で、複数の孔子学院において、直接的、間接的に、ダライ・ラマ、チベット独立、
天安門事件、法輪功等の中国政府がタブーとする事項に関して、直接的、間接的な
言論統制がなされていると事例を挙げている(Sahlins2013)。
2014年6月には、全米大学教授協会(the American Association of University
2014)が、孔子学院の展開を批判する声明を発表している。全米大学教授協会は、
孔子学院が中国政府の手先として機能しており、学問の自由を無視することを許さ
れていると糾弾し、孔子学院における教育・学術活動は、中国共産党政権の傘下に
ある機関(孔子学院総本部/国家漢弁)の監督下にあると指摘している。他国の文
化宣伝機関であるブリティッシュ・カウンシル(イギリス)
、ゲーテ・インスティ
テュート(ドイツ)
、アリアンス・フランセーズ(フランス)が独立の機関として
設置されているのと異なり、孔子学院がアメリカのキャンパス内に設置されている
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点を取り上げ、第三者(すなわち、中国政府)がアメリカの大学における教育・学
術活動を管理することを許容することは、
「学問の自由」の原則に反するとしている。
その上で、孔子学院を設置しているアメリカの大学が、1)孔子学院における教育・
学術活動に関わる管理権限(講師の採用、カリキュラムの決定権、テキストの選定
権)を持つこと、2)孔子学院の講師達に、アメリカの大学教員と同じ学問の自由
を保障すること、3)大学と中国の国家漢弁との協定書を大学の全ての構成員に公
開することとし、これらの条件が保証されない限り、孔子学院との連携を撤廃する
べきであると主張している。孔子学院において、学問の自由が保証されていないと
いった批判や疑義は、アメリカはもとより、カナダ、オーストラリアでも同様の議
論がみられる(Guttenplan 2012、Paradise 2009、Sahlins 2013、Yang 2010)。ヨー
ロッパでは、2008年3月にストックフォルム大学に設置されている孔子学院に対し
て、現地の中国大使館が孔子学院を通じて、政治的な監視を行うとともに、プロパ
ガンダを伝播し、教育研究の自由を阻害しているといった批判がなされている
(Starr 2009)
。2014年9月には、シカゴ大学が孔子学院の契約更新を見送る声明を
続いて、
ペンシルベニア州立大学も、
孔子学院の閉鎖を表明している(Belkin
発表 、
30)
2014)
。
シカゴ大学やペンシルベニア州立大学のように、独自のアジア研究、中国研究の
学科を擁し、研究者の層の厚い大学にとっては、孔子学院の有無は問題にならない
であろう。しかし、財政難に苦しむ州立大学や、独自に中国研究、中国語教育等を
実施することが難しい小規模な大学にとって、孔子学院を通じて提供される資金、
教材、教師は極めて価値のあるものであり、影響力は絶大である。このように孔子
学院に依存する大学ではあえて中国側がタブーとする事項を取り上げることを避け
るなど、
「自己検閲」が働くとその影響力の拡大を指摘する声もある(Paradise
2009、Sahlins 2013)
。Guttenplan(2012)
、Sahlins(2013)は、孔子学院総本部/
国家漢弁が、スタンフォード大学に対して孔子学院設置の初動資金として400万ド
ルの資金提供と引き換えに、同大学の教員がチベットについて講じることを禁じる
よう要請したため、スタンフォード大学が初動資金の受け取りを断ったという事例
も取り上げている。
アメリカにおける孔子学院は、中国政府及び中国の大学の積極的な働きかけとア
メリカの州立大学や地域コミュニティーにおける中国語教育へのニーズの高まりが
相まって、順調にその数を増やしてきた。孔子学院は、中国語教育、中国文化に関
する地域の活動拠点として、また中国の大学とアメリカの大学の学術交流、教育交
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流等、連携を促進するプラットフォームとして、更には地域の中国語、中国文化活
動の教育拠点として機能しており、その点を積極的に評価する声も聞かれる(Yang
2010、Zhao & Huang 2010)
。実際、地域の小中学校や高校で展開されている中国
語教育活動は、初級中国語の授業や、書道や太極拳のレッスンと言った文化交流活
動である。孔子学院が開講している社会人を対象とした中国語授業においても、中
国でのビジネス慣習や、
ビジネス中国語に関するものであり、そのような場では、
「学
問の自由」が問題に挙がることはほとんど皆無である。しかし、全米大学教授協会
(the American Association of University 2014)が主張する通り、アメリカの大学
内に設置された孔子学院の運営の透明性を担保し、「学問の自由」をいかに保障す
るかという点について、米中間には厳然とした隔たりがある。
4.おわりに
以上、本稿では、主として2000年代以降の米中間の高等教育における学生移動の
状況を見たうえで、米中両国政府が主導する国際教育政策を検証した。更に、アメ
リカにおける孔子学院の展開を確認し、昨今の一連の孔子学院を巡る議論を検証し
てきた。
2000年代以後、米中間の国際教育連携は、アメリカ人中国留学者の著しい増加や
孔子学院プロジェクトによる中国の教育機関のアメリカ進出など、より双方向的に
展開している。特に2000年代中盤以後は、アメリカのキャンパスにおいて、中国人
学部留学生が急増しているのに加え、アメリカの州立大学を中心に、矢継ぎ早に孔
子学院が設立されるなど、
アメリカの大学における「中国」の存在感が増している。
また、オバマ政権が主導している“100,000 Strong Initiative”においても、学生へ
の奨学金提供は、中国政府の奨学金に大きく依存している。著しい経済成長を背景
に、中国の国際社会での存在感は益々高まることが予想され、オバマ政権が、
“100,000 Strong Initiative”において明言している通り、中国語、中国文化、中国
社会を正しく理解する中国に精通した次世代の人材を育成することは、アメリカだ
けでなく、各国に共通する喫緊の課題であろう。中国の大学が留学生の新たな受け
皿として設置している英語による学位プログラムや、孔子学院は、米中間の学生移
動や研究交流を発展させるプラットフォームとして積極的に活用されている。しか
し、Sahlins(2013)が、表現の自由、学問の自由の保証が憲法で保証されている
アメリカとそうではない中国の法律を同時に遵守することは事実上不可能であると
「孔子学院章程」の矛盾を鋭く突いた通り、米中間の国際教育連携の推進には、根
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源的な課題が残されている。本稿では、紙幅の都合上、触れることが出来なかった
が、アメリカの大学の信条である「学問の自由」だけでなく、教育プログラムの質
をいかに保障するかという点についても、孔子学院に関わらず、中国で展開してい
るアメリカの大学と中国の大学との連携プログラムにも当てはまる課題である。グ
ローバリゼーションの進展によりあらゆる分野において、国際的な競争が高まる中
で、アメリカ、中国を始め、各国政府は、高等教育の国際化や国際教育連携の促進
を、経済、文化、外交政策の一環として位置づけ、国際教育政策を推し進めている。
このように、教育・研究に関連する国際的な学術活動が外交・経済戦略にからめと
られていく昨今の潮流が、今後、教育の場にどのような影響を与えていくのか、引
き続き注意深く検証していく必要があるであろう。
付記:本研究は、科学研究費補助金基盤研究(C)(課題番号:25381130)の助成
を受けて実施した。本稿は、日本比較教育学会第50回大会(2014年7月12日於:名
古屋大学)において口頭で発表した内容に加筆・修正を加えて執筆したものである。
本研究の実施にあたり、
インタビュー調査に協力いただいた各位に謝意を表したい。
注
1)「ソフト・パワー」とは、軍事力や経済力などのハード・パワーと対置する概
念としてアメリカ、ハーバード大学のJoseph. S. Nye Jr.が提唱したものであり
(Nye1990)
、その国の価値観、文化や教育、外交、政策等を通して、国が望む結
果を得る能力であり、その国の文化的な魅力等により、他国に好意的に受け入れ
られるよう促し、味方につける力であると説明されている(Nye2004)。Yang
(2009、2010)
、Chen(2010)
、McCafferty(2013)等は、中国政府は、中国語や
中国文化を世界に普及することを通して、中国のイメージを向上し、中国に対す
る理解を深め、中国の国際的な影響力を拡大することを趣旨として孔子学院の世
界展開や外国人留学生の受け入れを行っており、これらの施策は中国政府の「ソ
フト・パワー」戦略であると指摘している。
2)孔子課堂の「課堂」は、日本語のクラスルーム、教室といった意味となる。孔
子学院が通常、中国の大学と外国のパートナー大学の共同により、外国の大学の
敷地内に設置される教育機関であるのに対し、孔子課堂は、外国の中学校や高等
学校等の中等教育機関やカルチャーセンター等の施設に付設されていることが多
い。
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40
3)孔子学院総本部/国家漢弁ホームページ
http://www.hanban.org/confuciousinstitutes/node_10961.htm(2014年10月20日
アクセス)
4)
「スマート・パワー」は、
「ソフト・パワー」同様、Joseph. S. Nye Jrが提唱し
た概念であり、
「ハード・パワー」と「ソフト・パワー」の双方を適切に組み合
わせる戦略を指す(Nye 2011)
。
5)米国国務省ホームページ US Department of State, 100,000 Strong Initiative
http://www.state.gov/100k/(2014年10月20日アクセス)
6)中華人民共和国共産党中央委員会・国務院「中国教育改革和発展綱要」
(1993
年2月13日公布・施行)http://www.eol.cn/20010101/19627.shtml(2014年10月
21日アクセス)
7)Institute of International Educationは、
1919年に設立されたアメリカニューヨー
クに本部を置く非営利の国際教育機関であり、フルブライトプログラム(アメリ
カ政府の奨学金プログラム)等の留学プログラムを多数運営している他、アメリ
カの国際教育に関する調査研究を行っており、国際教育交流に関する統計資料も
提供している。
8)2013年8月7日、ミネソタ大学International Student and Scholar Servicesの
Associate Directorに対し、筆者が実施したインタビュー調査による。
9)中華人民共和国教育部「2013年度我国留学人員状況」
(2014年2月21日発表)
http://www.moe.gov.cn/publicfiles/business/htmlfiles/moe/s5987/201402/164235.
html(2014年10月30日アクセス)
10)IIEの統計におけるアメリカ人大学生数とは、IIEが調査対象としたアメリカの
高等教育機関に在籍する学生で、単位取得のために海外の大学に一定期間在籍し
た学生数を表している。その大半は、アメリカの大学と中国の大学との間に締結
された学生交流協定等により中国の大学に赴いた交換留学生やダブル・ディグリ、
ジョイント・ディグリ等のプログラムの枠組みで留学した学生であり、短期の語
学研修生や、中国の大学で学位取得を目指す学生数は本統計に含まれていない。
11)中華人民共和国教育部「2003 - 2007年教育振興行動計画」(2004年2月20日制
定)http://www.gov.cn/gongbao/content/2004/content_62725.htm(2014年10
月30日アクセス)
12)Xinhua News Agency(2007)
“Hu Jintao calls for enhancing“soft power”of
Chinese culture”
.
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黒田千晴
高等教育における米中間の国際教育連携に関する一考察 41
http://news.xinhuanet.com/english/2007-10/15/content_6883748.htm(2014年10
月30日アクセス)
13)中華人民共和国教育部「留学中国計画」
(2010年9月21日制定)
http://www.moe.gov.cn/publicfiles/business/htmlfiles/moe/moe_850/201009/
xxgk_108815.html(2014年10月21日アクセス)
14)中華人民共和国教育部「留学中国計画」
(2010年9月21日制定)
http://www.moe.gov.cn/publicfiles/business/htmlfiles/moe/moe_850/201009/
xxgk_108815.html(2014年10月21日アクセス)
15)中華人民共和国教育部「留学中国計画分項目工作進程規劃表」
(2010年9月21
日発布)http://www.moe.gov.cn/ewebeditor/uploadfile/20100929111327264.doc
(2014年10月26日ダウンロード)
16)中国では、留学生に対する教育を学歴教育と非学歴教育の2種類に分類してい
る。学歴教育とは、専科(日本の短期大学部相当)、本科(日本の大学学部相当)、
碩士課程(日本の大学院修士課程/博士前期課程相当)
、博士課程(日本の大学
院博士後期課程相当)における学位取得を前提とした正規教育を指す。留学生の
身分は、専科生(短期大学部生)
、本科生(学部生)、碩士研究生(大学院修士課
程生)、博士研究生(大学院博士課程生)とされる。非学歴教育とは、日本の大
学における「非正規教育」に相当する。身分は、語学研修生を含む普通進修生(学
部聴講生・研究生)
、高級進修生(大学院聴講生・研究生)、訪問学者(客員研究
員等)も非学歴教育を受ける「留学生」に含まれている。非学歴教育は、1か月
程度の短期語学研修から、1学期、或いは2学期等の学期単位の交換留学、交換
留学以外の学位取得を目指さない研究留学や研修も含まれている。
17)漢語言専業は、北京語言大学、北京外国語大学、北京師範大学、復旦大学等で
開設されている留学生のみを対象とした4年間の本科課程(学部正規課程)であ
る。留学生は、4年間、留学生のみクラスで中国語を初級から学び所定の学問を
修め、卒業の要件を満たせば、本科卒業の学歴と学士学位が授与される。中国人
学生を主たる対象とした中国語専攻、中国文学専攻等とは異なる。
18)中国人学生を対象とした中国語を教授言語とする学士課程、修士課程、博士課
程プログラムも、外国人留学生に門戸が開かれており、語学力、学歴等の所定の
要件を満たし、各大学が実施する外国人留学生を対象とした試験に合格すれば入
学が認められる。
19)Kuroda(2014)は、複数の英語プログラムが、学部レベルの交換留学生の受
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け皿としての役割も果たしていると指摘している。
20)米国国務省ホームページ US Department of State, 100,000 Strong Initiative
http://www.state.gov/100k/(2014年10月20日アクセス)
21)中国政府は、中国にとって戦略的に重要な国や地域からの留学生に中国政府奨
学金を重点的に支給する施策を採っている。例えば、中央アジアのカザフスタン
やパキスタンからの留学生数が、中国に在籍する留学生数統計の上位にランクし
ている。なお、中国政府の留学生受け入れ政策の詳細については、黒田(2010b)
を参照のこと。
22)孔子学院総本部/国家漢弁「孔子学院発展規計画(2012-2020)」
http://www.hanban.edu.cn/article/2013-02/28/content_486129.htm(2014年10月
31日アクセス)
23)孔子学院総本部/国家漢弁「孔子学院章程」
http://www.hanban.org/confuciousinstitutes/node_7537.htm#no1(2014年10月
31日アクセス)
24)孔子学院総本部/国家漢弁ホームページ
http://www.hanban.org/confuciousinstitutes/node_10961.htmより筆者算出。
(2014年10月31日アクセス)
25)テキサス州ヒューストンの独立学区、フロリダ州ブロワード郡公立学校区にそ
れぞれ孔子学院が設立されており、中国政府が、初等、中等教育を管轄する地域
の教育委員会等に相当する部門との連携を重視していることがうかがわれる。
26)CI at U of M の設立の経緯、活動内容等に関する記述は、2013年9月13日、
ミネソタ大学中国センターのDirectorに対し、筆者が実施したインタビュー調査
に基づくものである。
27)CI at Stanfordの設立の経緯、活動内容等に関する記述は、2012年9月21日、
CI at StanfordのManagerに対し、筆者が実施したインタビュー調査に基づくも
のである。
28)孔子学院総本部/国家漢弁「孔子学院章程」
http://www.hanban.org/confuciousinstitutes/node_7537.htm#no1(2014年10月
31日アクセス)
29)孔子学院総本部/国家漢弁「孔子学院章程」
http://www.hanban.org/confuciousinstitutes/node_7537.htm#no1(2014年10月
31日アクセス)
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黒田千晴
高等教育における米中間の国際教育連携に関する一考察 43
30)シカゴ大学ホームページ
http://news.uchicago.edu/article/2014/09/25/statement-confucius-instituteuniversity-chicago(2014年10月20日アクセス)
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A Study of Sino-U.S. Linkages in International Higher Education
KURODA Chiharu
In accordance with China’s rise, Sino-U.S. linkages in international higher
education has expanded and diversified over the last decade. Citing the strategic
importance of the Sino-U.S. relationship, both the Chinese and the U.S.
governments have proactively implemented strategic policies that strengthen
mutual ties and compel future generations to take the lead in bi-national affairs
through educational activities. Despite this growing phenomenon little attention
has been paid to this area. This paper aims to fill the gap in the literature by
investigating current trends of student mobility between two countries and
examining recent government policies(U.S. and Chinese)in relation to
international education. An examination of Confucius Institutes on U.S. campuses
highlights the process of expanding China’s influence through various
educational activities. The growing presence of Confucius Institutes on U.S.
campuses attracts controversy. There is apprehension among U.S. academics
that the acceptance of the CIs restricts the independence and integrity of U.S.
universities.
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