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多国籍企業による貧困削減ビジネスの可能性

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多国籍企業による貧困削減ビジネスの可能性
多国籍企業による貧困削減ビジネスの可能性
−国際ビジネス研究の新たな課題−
菅原
秀幸
http://www.SugawaraOnline.com
1.問題意識と目的−貧困削減はビジネスになるか?
今 日 ま で 国 際 社 会 は 貧 困 の 削 減 に 多 大 な 努 力 を 払 い 続 け 、 金 額 に し て 2.5 兆
ド ル 以 上 ( 日 本 の 国 家 予 算 の 約 4 年 分 ) を 過 去 50 年 ほ ど の 間 に 費 や し て き た
(Lodge and Craig, 2006b)。 そ れ に も か か わ ら ず 、 世 界 の 半 数 以 上 の 人 々 が 今
もなお貧困に苦しんでいるという現実がある。
1 日 2 ド ル (購 買 力 平 価 換 算 、 以 下 同 様 )未 満 で 暮 ら す 貧 困 層 が 、 世 界 に は 今
も 約 28 億 人 い る 。こ れ は 世 界 人 口 の 約 53% に も 相 当 す る (World Bank, 2005)。
さ ら に 1 日 5 ド ル 以 下 で 暮 ら す 人 々 で は 、図 1 に 示 す 通 り 約 40 億 人 、世 界 人 口
の 約 65% に も の ぼ っ て い る と い う 1 。
図 1
世界の所得ピラミッド
(資 料 ) World Bank (2005)よ り 作 成 。
この厳しい現実に直面する時、これまで行なわれてきた貧困削減への取組み
− 構 造 調 整 融 資 、開 発 援 助 、 債 務 放 棄 、教 育 振 興 、 人 口 増 加 の 抑 制 な ど の 処 方 箋
−は、どれ一つとして期待されたほどの十分な成果を挙げてはいなく、明らか
に間違っていたといえるであろう。国際機関と先進国政府による開発援助や、
1
非政府組織による貧困削減への取り組みは、決して否定されるものではないと
はいえ、明らかに再考を迫られているであろう。従来からのアプローチを続け
るだけでは不十分であり、何らかの新たな解決策が求められるようになってい
る。
そこで本稿の目的は、貧困削減に対する新しい一つのアプローチとして、従
来の処方箋とはまったく異なる「多国籍企業による貧困削減」の可能性につい
て検討することにある。
つまり、
「 多 国 籍 企 業 に よ る 貧 困 削 減 は 可 能 か 」、
「多国籍企業による貧困削減
は ビ ジ ネ ス に な る か 」、「 多 国 籍 企 業 は 貧 困 削 減 の キ ー ・ プ レ ー ヤ ー と な り 得 る
か」という魅力的で挑戦的な課題について、その可能性を検討することが本稿
の目的である。
遅々として進まない貧困削減の現実を前にして、多国籍企業が利益追求とい
う行動原理に即して、貧困削減に有効な解決策の一つを提示できるという議論
が 、 21 世 紀 に は い っ て か ら 高 ま っ て き て い る (Lodge, 2002a; Prahalad and
Hammond, 2002a; Rangan, et al., 2007; Hammond, et al., 2007; United
Nations Development Programme)。 こ れ ら の 主 張 の エ ッ セ ン ス は 、 多 国 籍 企
業のもつ多様で豊富な経営資源、活動規模、活動領域を活用するならば、従来
の方法とは異なった貧困削減のための新しいビジネスモデルが期待できるとう
ことにある。
こ の「 多 国 籍 企 業 に よ る 貧 困 削 減 」と い う ア イ デ ィ ア は 非 常 に 魅 力 的 で あ り 、
これまでにない解決策として期待がもてる。とはいえ世界人口の半数をはるか
に超える貧困層の存在という厳しい現実を前に、はたして実際にどの程度役立
つのであろうか。この問いに対する答えを探るために、まず初めに「多国籍企
業による貧困削減」をめぐるこれまでの議論を整理して分析した上で、そこか
ら明らかになる課題について検討する。
人類の未来をも危ぶませている差し迫った問題は2つ。貧困問題と環境問題
である。特に途上国では、貧困と環境破壊は密接に関係し、両者の間には悪循
環のメカニズムが存在している。貧困は環境破壊の原因であると同時に結果に
もなっている。貧困であるがゆえに、その日一日の暮らしのために、自然のも
つ再生可能なレベルを超えて収奪的に利用することになる。結果として、より
一層の環境破壊をもたらし、自然からの恵みを享受することを困難にし、さら
に貧困に拍車がかかる。そのために一層、自然環境を収奪的に利用する。そし
て環境破壊がますます進む。この悪循環のメカニズムは容易に断ち難く、途上
国 に お け る 環 境 問 題 と 貧 困 問 題 の 両 者 を い か に し て 解 決 す る か は 、21 世 紀 の 世
界が直面する最大の課題といえるであろう。
すでに、環境問題に対しては、企業が主体となり市場のメカニズムによって
解 決 し よ う と す る 取 り 組 み が 進 め ら れ て き た 。そ こ か ら 環 境 ビ ジ ネ ス が 生 ま れ 、
いまでは「環境はビジネスになる」といわれている。では、同じように企業が
2
主体となり市場のメカニズムによって貧困問題を解決することは、果たして出
来 る の で あ ろ う か 。「 貧 困 削 減 は ビ ジ ネ ス に な る 」 の で あ ろ う か 。
これは、国際ビジネスの研究領域にとって最重要の課題であろう。われわれ
先進国に住む者にとっては、貧困問題を身近に感じることがなかなか出来ない
ために無関心になりがちであり、解決に向けての取組みはどうしても後回しに
なってしまう。このようなわれわれに対して、プラハラッドは次のように問い
か け る (Prahalad and Hammond, 2002a)。「 40 億 人 が 苦 し む 貧 困 の 削 減 に 取 り
組むこと以上に、差し迫った課題はあるのだろうか。多国籍企業は、豊富な技
術、能力、資源をもっている。それを、本当に求めている人々のために使わず
に、物で溢れている人々に、従来製品のバリエーションを増やして、さらに売
りつけようと努力することに、はたして説得力があるのであろうか」と。
学会の中だけで行なわれている、ほとんど社会との接点のないテクニカルな
研究の精緻化をめぐる議論を超えて、人類に差し迫った課題の解決に取り組む
ことは、国際ビジネスの研究意義の一つであろう
2.新しいアプローチによる貧困の削減−市場は貧困削減に有効か?
何事においても、これまでやってきたやり方がうまくいかない場合には、対
処の仕方は2つある。一つは、これまでのやり方をより一層工夫して、なんと
か成果が出るようにする。もう一つは、これまでのやり方とはまったく違うや
り 方 を 考 え 出 す 。こ こ で の ア プ ロ ー チ は 後 者 で あ る 。貧 困 削 減 に 対 す る 過 去 50
年間の歴然たる失敗は、明らかに後者のアプローチの必要性を示唆している。
ウィリアム・イースタリー(元世銀エコノミスト)は、これまで試みられてき
た貧困解決策のことごとくが失敗に終わっている原因は、人はインセンティブ
に反応するという最も基礎的な経済学の原理に反していることであると、述べ
て い る (Easterly, 2001)。こ の イ ン セ ン テ ィ ブ の 提 供 に 最 も 長 け て い る の が 、他
ならぬ多国籍企業であろう。
ではここで、
「 多 国 籍 企 業 に よ る 貧 困 の 削 減 」と い う 魅 力 的 な ア イ デ ィ ア を め
ぐるこれまでの議論を整理してみると、主として3つの流れがある。つまり、
(A)C.K.プ ラ ハ ラ ッ ド (ミ シ ガ ン 大 学 ビ ジ ネ ス ス ク ー ル 教 授 )ら に よ る 議 論 、 (B)
ジ ョ ー ジ .C.ロ ッ ジ (ハ ー バ ー ド 大 学 ビ ジ ネ ス ス ク ー ル 教 授 )ら に よ る 議 論 、 (C)
国 連 開 発 計 画 (UNDP)に よ る 議 論 で あ る 。こ れ ら は い ず れ も 、
「多国籍企業によ
る 貧 困 の 削 減 」を 共 通 の 目 的 と し て お り 、重 な り あ う 部 分 が か な り あ る も の の 、
鍵となる概念が異なっていて主張にも差異がある。以下では、それぞれについ
て検討していく。
(A )プ ラ ハ ラ ッ ド & ハ モ ン ド ― BOP 市 場 の 開 拓
従来の広く共有された見方では、貧困層には購買力などなく、もっぱら援助
すべき対象として捉えられており、ニーズをもったマーケットとして考えられ
3
る こ と は 皆 無 で あ っ た 。多 国 籍 企 業 か ら す る と 、40 億 人 の 貧 困 層 は 、慈 善 事 業
や社会貢献の一環として考えられることはあっても、決して顧客とはなり得な
かった。
このような一般的な見方に対して、貧困層をボトム・オブ・ザ・ピラミッド
(BOP)と 名 づ け 2 、 新 し い マ ー ケ ッ ト と し て 貧 困 層 を 捉 え る 見 方 が 提 唱 さ れ た
(Prahalad and Hammond, 2002a; Prahalad, 2002)。 こ れ ま で ま っ た く 相 手 に
さ れ る こ と の な か っ た 、年 収 2000 ド ル 以 下 、つ ま り 一 日 5 ド ル 以 下 の 所 得 で 暮
ら す 40 億 の 人 々 (世 界 の 人 口 の 約 65% )を 巨 大 市 場 に 変 え る こ と で 、 多 国 籍 企
業 に と っ て さ ら に 成 長 す る 機 会 が 開 け る と 論 じ て い る 。BOP 市 場 の 開 拓 が 、多
国籍企業の新たな成長戦略であると主張する。
援 助 す べ き 貧 困 者 を 、購 買 力 を も っ た 消 費 者 に 変 え る 。こ れ に よ っ て 、40 億
人という大いなる成長の可能性を秘めた巨大なマーケットが出現する。まさに
一石二鳥。貧困問題の解決という朗報と共に、巨大市場の出現という、なんと
も 魅 力 的 な シ ナ リ オ で あ る 。果 た し て 、こ ん な こ と が 現 実 に な る の で あ ろ う か 。
プ ラ ハ ラ ッ ド は 、長 年 培 っ て き た 思 い 込 み を 捨 て 去 り 、BOP 市 場 の 実 情 に 合
っ た 新 し い 原 則 に よ っ て 可 能 に な る と い う (Prahalad,2002)。彼 は BOP 市 場 で
の 多 く の 事 例 分 析 を 通 し て 、5 つ の 誤 解 を た だ し 、BOP で 成 功 す る た め の 新 し
い 12 の 原 則 を 見 つ け 出 し て い る 。ま ず 5 つ の 誤 解 と は 以 下 の 通 り で あ り 、事 実
はこの反対にあると指摘する。
誤解1.貧困者には購買力がない。
誤解2.貧しい人は生活必需品しか購入しない。
誤解3.途上国市場では価格が抑えられ利益が出ない。
誤解4.途上国の人は技術リテラシーが低い。
誤解5.多国籍企業は途上国で搾取している。
こ れ ら の 誤 解 を 乗 り 越 え て 、次 の 12 の 原 則 に そ っ て ビ ジ ネ ス を 展 開 す る な ら
ば、十分に事業を成功させることができるという。
原則1.コスト・パフォーマンスを劇的に向上させる。
原則2.最新技術を活用してハイブリッド型で解決する。
原則3.規模の拡大を前提にする。
原則4.環境資源を浪費しないような製品開発を行う。
原則5.求められる機能を一から考え直す。
原則6.製品を刷新するだけではなく、提供するプロセスを革新する。
原則7.スキルレベルが低いので、現地での作業を単純化する。
原則8.教育レベルの低い顧客に対して教育を工夫する。
原則9.劣悪な環境にも適応させる。
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原 則 10. 貧 困 層 の 消 費 者 特 性 に 合 っ た イ ン タ ー フ ェ ー ス を 設 計 す る 。
原 則 11. 貧 困 層 に 低 コ ス ト で ア プ ロ ー チ す る 革 新 的 な 方 法 を 生 み 出 す 。
原 則 12. こ れ ま で の 常 識 を 捨 て 、 BOP 市 場 の 新 し い パ ラ ダ イ ム を 創 る 。
国 際 ビ ジ ネ ス の 標 準 的 な テ キ ス ト で は 、先 進 諸 国 で 興 っ た イ ノ ベ ー シ ョ ン が 、
発展途上国を終着点として、順次波及していくプロセスが描かれている。具体
的にいうならば、プロダクトサイクル論や雁行形態型経済発展論では、先進国
の多国籍企業による発展途上国への直接投資が、発展途上国に経済成長をもた
らす過程が分析されている。
では一体、これらの標準的な議論と、ここで提唱されている「多国籍企業に
よ る 貧 困 削 減 」に は 、い か な る 違 い が あ る の で あ ろ う か 。そ の 違 い は 、
「経済ピ
ラミッドの上層から下層へ」という多国籍企業がこれまでとってきたアプロー
チではなく、
「 経 済 ピ ラ ミ ッ ド の 下 層 か ら 上 層 へ 」と い う ア プ ロ ー チ に あ る 。つ
ま り 、BOP 市 場 で そ の 特 性 に あ わ せ た イ ノ ベ ー シ ョ ン を 興 し 、新 し い ビ ジ ネ ス
モ デ ル を 確 立 す る の で あ る 。 先 進 国 で の イ ノ ベ ー シ ョ ン を BOP へ 波 及 さ せ る
という従来のパターンとは、この点においてまったく異なる。
最 新 の 調 査 分 析 (Hammond, et al., 2007)で は 、40 億 人 か ら な る BOP 市 場 は 、
約5兆ドルの規模(日本の実質国内総生産にほぼ匹敵)を有していると推計さ
れ て お り 、「 次 な る 40 億 人 (The Next 4 Billion)」と 呼 ん で 市 場 と し て 有 望 性 を
強 調 し て い る( 内 訳 は 図 2 に 示 す よ う に 、水 道 ; 200 億 ド ル 、ICT; 510 億 ド ル 、
保 健 医 療 ; 1580 億 ド ル 、 運 輸 ; 1790 億 ド ル 、 住 宅 ; 3320 億 ド ル 、 エ ネ ル ギ ー ;
4330 億 ド ル 、 食 品 ; 2 兆 8950 億 ド ル )。
図2
BOP の 市 場 規 模 (セ ク タ ー 別 推 計 )
(出 所 ) Hammond, et al.(2007), p29.
5
基 本 的 商 品 と サ ー ビ ス へ の ア ク セ ス が 難 し い BOP に 対 し て 、 市 場 ベ ー ス の
アプローチによって、革新的な商品・ビジネスモデルを提供し、これらの層の
生活水準の向上に貢献するとともに、企業にとっても5兆ドル市場へのアクセ
スにより、大きなビジネス機会が得られると論じている。
こ の 研 究 で は 、多 く の 具 体 的 な 事 例 と 客 観 的 な デ ー タ に よ っ て 、BOP 市 場 の
可 能 性 を 指 摘 し て い る 。 そ し て BOP で 成 功 し て い る 企 業 に は 、 以 下 の 4 つ の
基本的戦略が見出されるとしている。
戦 略 1 . BOP 市 場 に 集 中 す る ( BOP の ニ ー ズ を 満 た す ユ ニ ー ク な 製 品 、 サ
ー ビ ス 、 技 術 に よ っ て )。
戦 略 2 . 価 値 の 創 造 を 現 地 化 す る ( フ ラ ン チ ャ イ ズ や 代 理 店 方 式 に よ っ て )。
戦略3.商品やサービスの購入を可能にするビジネスモデルをつくる(資金
面 や 物 理 的 側 面 に お い て )。
戦 略 4 . 斬 新 な パ ー ト ナ ー シ ッ プ (政 府 、 NGO、 多 様 な 利 害 関 係 者 と )の 構 築
(B )ロ ッ ジ & ク レ イ グ ― 世 界 開 発 企 業 (W D C )の 創 設
貧 困 に あ え ぐ 70 ほ ど の 途 上 国 で は 、政 府 に 貧 困 削 減 の 意 志 も 能 力 も な い 。国
際社会からのこれまでの援助は、それを真に必要とする貧困層には行き渡らず
に、おびただしい数の汚職や腐敗をうみ出した。その結果、巨額の債務だけが
残されることになった。このような失望的な現実から明らかになったことは、
これら途上国政府や世界銀行などの国際援助機関といった公的セクターに任せ
ていては、貧困の削減は難しいということである。
そこで、貧困削減のための効率的で持続的な変革のエージェントとして、多
国籍企業に光があてられる。非営利の公的アクターでは貧困の削減は遅々とし
て進まないので、営利追求を目的とする多国籍企業こそが、慈善事業としてで
はなく本来の事業として、貧困削減に極めて重要な役割を果たし貢献できると
い う 。そ の 理 由 と し て 、次 の 2 つ が あ げ ら れ て い る (Lodge and Wilson, 2006a)。
第一に、経済成長こそが貧困削減の最良の処方箋であるということは周知の
事実である。そして、それは現地の中小企業の成長いかんにかかっている。す
でにアジア諸国の成功例が示すように、経済成長の原動力は企業であり、特に
中小国内企業がその中心となってきた。多国籍企業は世界市場へのアクセス、
資金の調達、技術の提供といった面において、国内企業の成長をたすけ、経済
成長を牽引する役割を果たす。
第二に、貧困は多様な要因が複雑に絡み合って生じているので、その削減に
は体系的で包括的なアプローチが必要である。それに最も適しているのは多国
籍企業であり、効率的で持続的に変化を促すことが出来る。
このように貧困の削減に果たす多国籍企業の役割に期待が寄せられてはいる
ものの、途上国への投資には極めて高いリスクが伴っている。多国籍企業によ
6
る投資の必要性は高くても、そのリスクの大きさとの間に、かなりのギャップ
が存在する。いかにしてリスクを最少化して、途上国への投資を利益あるもの
とし、持続的な事業展開を可能とするかが、最大の課題となる。
こ の 課 題 に 対 し て 、ロ ッ ジ は 世 界 開 発 企 業 (World Development Corporation:
WDC)を 提 唱 す る 。 こ の 組 織 は 、 国 連 の 下 に 創 設 さ れ 、 途 上 国 で の 長 い 経 験 を
も つ 12 社 く ら い の 多 国 籍 企 業 が パ ー ト ナ ー と し て 資 本 参 加 し 、 他 に OECD 加
盟 国 政 府 、 国 際 金 融 公 社 (IFC)、 世 界 銀 行 、 NGO か ら も 役 員 を 迎 え 入 れ て 運 営
される。
WDC の 対 象 は 、投 資 が ほ と ん ど 、も し く は ま っ た く 行 な わ れ て こ な か っ た 、
グローバリゼーションに取り残された国や地域である。現地の政府、産業界、
コ ミ ュ ニ テ ィ の リ ー ダ ー た ち と の 協 議 の 上 で 、プ ロ ジ ェ ク ト の 可 能 性 を 検 討 し 、
プロジェクトを設計する。このプロジェクトは、営利事業として採算がとれ、
持続可能であり、結果として参加企業に利益をもたらさなければならない。
慈善事業として途上国社会のニーズを満たすのではなく、企業戦略の一環と
して行なわれる必要がある。これは、多国籍企業が、国際機関、政府、非政府
組織との協力によって、貧困削減にビジネス手法を使ってアプローチし、多国
籍企業のもつ技術、能力、資源を活用しようとする試みである。
途上国政府がうまく機能していない場合には、多国籍企業がそれに代わる役
割を果たしている事例は、すでに少なからずあるという。ネスレ社はインドや
ブラジルで地域開発の仕事を担い、シェル社はナイジェリアで教育プログラム
を提供している。他にも、インドでのユニリーバー社、ベネゼエラでのコカコ
ーラ社、コスタリカでのインテル社、アルバニアでのランド・オ・レイクス社
の活動事例があげられる。これらは、現地の人々に仕事を提供し収入を増やす
だけではなく、教育を改善し、人々を動機付けることになる。こうして社会に
変化がもたらされ、人々に貧困から抜け出す道が開かれる。
こ れ を WDC の 下 で 行 な う こ と で 、 多 国 籍 企 業 は リ ス ク を 最 少 化 し て 持 続 可
能 な 事 業 展 開 が 可 能 と な る 。 さ ら に 、 何 か に つ け て NGO か ら 非 難 さ れ て き た
多 国 籍 企 業 で あ る が 、 レ ジ テ ィ マ シ ー (legitimacy 正 統 性 /正 当 性 )を 得 る こ と
で、非難を回避することも可能となる。
し か し 、 WDC 構 想 の 実 現 は 、 主 と し て イ デ ィ オ ロ ギ ー 的 な い く つ か の 理 由
のために、なかなか難しいと、ロッジ教授はいう3。多国籍企業アレルギーが
根強いこと、貧困削減は政府の仕事であると多くの人々が考えていること、
NGO は 貧 困 削 減 へ の 多 国 籍 企 業 の 関 与 を 嫌 う こ と 、 開 発 問 題 を 専 門 と す る エ
コノミストは問題全体に目を向けることがほとんどなく、貧困削減の現実に関
心がないこと、などを指摘している。そこで、これらのイディオロギー的な制
約があまりないアジアで、まず開始することを提唱している。
す で に こ の 構 想 は 、 実 現 に 向 け て の 一 歩 を 踏 み 出 し て お り 、 Fedex 社 が 社 員
を配置して実際のプランを立て、広く参加企業を募り始めている4。
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(C ) 国 連 開 発 計 画 (U N D P )―G S B の 始 動
2000 年 に 開 催 さ れ た 国 連 ミ レ ニ ア ム・サ ミ ッ ト に は 、世 界 の 147 国 家 元 首 を
含 む 189 加 盟 国 が 参 加 し 、21 世 紀 の 国 際 社 会 の 目 標 と し て 、国 連 ミ レ ニ ア ム 宣
言 を 採 択 し た 。そ し て 、ミ レ ニ ア ム 開 発 目 標 (Millennium Development Goals:
MDGs)の 一 つ と し て 、2015 年 ま で に 世 界 の 貧 困 層 を 半 減 さ せ る と い う 目 標 が 掲
げ ら れ た 。 こ の 目 標 達 成 に 向 け て 、 国 連 開 発 計 画 (UNDP)に よ っ て 始 め ら れ た
の が 、Growing Sustainable Business(GSB/持 続 可 能 な ビ ジ ネ ス 育 成 )で あ る 。
このプロジェクトの目的は、商業的に成り立つと同時に貧困削減にも役立つ
よ う な 、 企 業 主 導 に よ る 「 解 決 策 」 を 促 す こ と に あ る (United Nations
Development Programme)。 こ れ は 、 企 業 が 市 場 原 理 に 基 づ い て 途 上 国 で 活 動
して得られる商業上の利益と、途上国における開発上の利益を合致させること
で、企業と途上国の双方にとってメリットが最大になるという考え方に基づい
ている。
GSB は 、厳 し い ビ ジ ネ ス 環 境 の 途 上 国 で 企 業 が 事 業 を 行 う た め の 支 援 を 提 供
し 、リ ス ク 軽 減 に 貢 献 す る こ と を 狙 っ て い る 。GSB の メ カ ニ ズ ム は 、単 な る 社
会貢献や慈善活動ではない。収益性を高め、新市場に参入するために自らの中
核ビジネスの分野で、商業的に成立する事業プロジェクトを開拓しようとする
企業に対するサービスである。このように、通常のビジネス活動と途上国支援
を 同 時 に 行 う 方 法 を 企 業 が 採 用 で き る よ う に 支 援 す る の が GSB の 目 的 で あ る 。
2002 年 か ら UNDP に よ っ て GSB が 開 始 さ れ 、 現 在 ま で 16 カ 国 ( ア ル バ ニ
ア 、ボ ス ニ ア・ヘ ル ツ ェ ゴ ビ ナ 、カ ン ボ ジ ア 、エ ル・サ ル バ ド ル 、エ チ オ ピ ア 、
インドネシア、ケニヤ、マケドニア、マダガスカル、マラウィー、モルドバ、
モンテネグロ、セルビア、タンザニア、トルコ、ザンビア)で実施されるに至
っている。
こ れ ら の 国 々 で は 、 20 万 ∼ 2,300 万 ド ル 規 模 の 数 多 く の 投 資 が 実 現 し て き て
い る 。こ れ ら の 投 資 で は 、UNDP 独 自 の 能 力 を 活 か し て 、途 上 国 に 中 立 的 な 場
を提供し、そこでの情報の共有や問題提起、適切な地元パートナーの結集を実
現している。
特 に GSB プ ロ グ ラ ム に よ る 途 上 国 で の 事 業 展 開 が 有 望 な 分 野 と し て 、 次 の
4 つ が あ げ ら れ て い る 。( 1 ) バ イ オ 燃 料 と 再 生 可 能 エ ネ ル ギ ー 、( 2 ) 農 作 物
と 流 通 シ ス テ ム 、( 3 ) マ イ ク ロ ・ フ ァ イ ナ ン ス と 保 険 、( 4 ) デ ジ タ ル 格 差 改
善と生活向上事業。具体的事例としては、エリクソン社によるタンザニア農村
部での通信インフラの整備、ユニリーバー社によるタンザニアでのアランブラ
ッキア・ナッツ油の供給・販売網の確立、先進 7 カ国エネルギー基金によるマ
ダガスカル農村部の電化などが、すでに始まっている。
3.多国籍企業による貧困削減のための必要条件と十分条件
世 界 の 貧 困 層 を 一 口 に BOP と 呼 ん で も 、そ の 置 か れ て い る 政 治 的 、社 会 的 、
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経 済 的 環 境 は 実 に 多 様 で あ る 。 そ の た め 、 BOP と し て 一 括 り に し て 、 40 億 人
の 巨 大 市 場 と 考 え る こ と は 難 し い で あ ろ う 。「 次 な る 40 億 人 市 場 」 と い っ て み
ても、実際には図3の通り、所得階層別にみた場合では、構成人口に大きな差
異が見られる。
図3
BOP市場の所得別階層
( 出 所 ) Hammond, et al., (2007), p13
とはいえ、貧困の削減に万能なアプローチなど存在するはずはなく、これま
で数々の失敗を繰り返してきた中で、一つの可能性に満ちた新しいアプローチ
の萌芽が見えてきたことは確かである。
多国籍企業は貧困の削減に対して、慈善事業や社会貢献の一環としてアプロ
ーチするのではなく、多国籍企業本来の正攻法、すなわち利益追求という行動
原理にそって活動を展開する中で、結果として貧困の削減に貢献できるという
可能性が明らかにされてきた。この視点は、従来にはまったくなかった革新的
なものであろう。
しかしこの革新的なアプローチである「多国籍企業による貧困削減」が現実
のものとして成果を挙げるためには、必要条件と十分条件が満たされなくては
ならない。いずれの条件が満たされなくても、この魅力的なアプローチは、絵
に描いた餅におわってしまう。
多国籍企業が、イノベーションの終着点として発展途上国を捉えるのではな
く 、 イ ノ ベ ー シ ョ ン の 出 発 点 と し て BOP を 捉 え る こ と 。 そ し て 、 先 に プ ラ ハ
ラ ッ ド が あ げ て い る 12 の 原 則 に そ っ て 、貧 困 層 を 巻 き 込 ん で BOP で イ ノ ベ ー
ションを興すことが必要条件となってくる。
これを実際に行なうのは容易ではない。ここで直面することになる主要な3
つ の 課 題 が 指 摘 さ れ て い る (Rangan, Quelch, Herrero and Barton, 2007)。 第
一 は 、 多 国 籍 企 業 の マ ネ ジ ャ ー と BOP の 人 々 と の 間 に あ る 大 き な 文 化 的 相 違
である。生活様式や思考様式に、あまりにも大きな相違があるので、多国籍企
業のマネジャー達には想像もつかず考えられないような世界で、新たに事業を
行なわなければならない。
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第二に、深刻なインフラの未整備がある。道路、港湾、鉄道、通信網などの
物理的インフラは、効率的な物流には不可欠である。さらに法律が未整備であ
ったり、形だけ整っていても実際には機能していないような状況にしばしば直
面することになる。
第 三 に 、 所 得 の 低 い BOP 市 場 で 利 益 を 上 げ て 持 続 的 に 事 業 を 行 な っ て い く
ためには、販売のスケールが鍵となる。高付加価値商品ではなく、低付加価値
商 品 を 大 量 に 販 売 す る こ と が 必 要 に な る 。つ ま り 、BOP 市 場 で の ビ ジ ネ ス モ デ
ルの基本は薄利多売にある。しかし市場が分断されているために、必要なスケ
ールに到達するまでには、険しい道のりがある。
以上のような困難を乗り越えるためには、相当の覚悟と努力が求められる。
それまでの経営手法を大きく見直す必要に迫られるので、経営者たちは、リス
ク の 高 い 未 知 の BOP 市 場 に そ れ ほ ど の 価 値 が あ る の だ ろ う か と 逡 巡 す る の は
当然であろう。従来通りの経営で十分であり、なにもわざわざ自ら進んでリス
クをおかす必要はないと考えるのは当たり前である。
これに対して、先にあげたプラハラッドの問いかけがよみがえる。多国籍企
業のもつ豊富な技術、能力、資源を、それらを本当に求めている発展途上国の
人々のために使わずに、成熟しきった先進国市場で努力することに、はたして
どれほどの意義と説得力があるのであろうか。
現在のように貧富の格差が大きく、世界の半数以上の人々が貧困にあえぐ状
況が続くと、次のような暗いシナリオが、近い将来の姿として現実味を帯びて
くる。発展途上国では混沌とした経済状況が続き、政府の崩壊、内戦、戦争に
見舞われる。テロが依然として世界に脅威を与え続け、安全のために多額の公
的資金や民間資金が費やされる。そして、グローバル市場への抵抗がますます
激しくなる。多くの多国籍企業はリスクを回避しようとして投資を控え、新興
市場から撤退する。こうして世界はいっそう不安定になり、グローバル経済は
失速し、負の循環へと陥る。
この自滅へのシナリオを、世界中に繁栄がもたらされるという明るいシナリ
オに変えるための鍵を握るのが、多国籍企業である。すなわち多国籍企業が、
BOP 市 場 に 投 資 を お こ な い 参 入 す る か 否 か で あ る と 、プ ラ ハ ラ ッ ド は 主 張 す る 。
しかし、それには高いリスクが伴うので、多国籍企業単独では困難である。
そこで、途上国政府、国際機関、非政府組織との協力および連携が不可欠にな
る 。そ の た め に は 、各 ア ク タ ー の 協 力 の 枠 組 み /プ ラ ッ ト フ ォ ー ム が 必 要 と な る 。
こ れ が 十 分 条 件 で あ り 、 こ れ を 満 た そ う と す る の が 、 ロ ッ ジ の 提 唱 す る WDC
の構想であろう。さらに、その具体的姿の一つとして実際に踏み出したのが、
UNDP に よ る GSB で あ る 。
4.実現に向かっての課題
「多国籍企業による貧困削減」は非常に素晴らしいアイディアであり、その
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アイディアが具現化されている実践例をいくつも取り上げることは出来るもの
の (Jain and Vachani, 2006)、 貧 困 の 撲 滅 と い う 全 体 像 か ら 見 る と 、 い ま の と
ころ、それらの実践例は大海に浮かぶ小島のようなものであろう。
こ れ ま で に 検 討 し た よ う な 必 要 条 件 (多 国 籍 企 業 に よ る BOP で の イ ノ ベ ー シ
ョ ン )と 、十 分 条 件 (リ ス ク 最 少 化 の た め の プ ラ ッ ト フ ォ ー ム )を 満 た す た め の 道
のりは決して平坦ではない。
その第一歩は、すべてのステークホルダーによるビッグ・ピクチャー(全体
像 /大 局 観 ) の 共 有 で あ る 。 す な わ ち 多 国 籍 企 業 と BOP の 人 々 を 主 役 と す る 貧
困削減の新しい試みが、すべての参加者に意義ある成果をもたらすというゆる
ぎない信念の共有である。具体的には、プラハラッドが指摘するように、経営
幹 部 の 姿 勢 と 行 動 が 、 こ れ ま で の BOP へ の 先 入 観 を 打 ち 破 っ て 変 わ る こ と か
ら 始 ま る (Prahalad and Hammond, 2002a; Hammond, et al., 2007)。 B O P
市場に精通した経営幹部を養成しようとしている多国籍企業はごくわずかであ
る。
こ れ ま で の と こ ろ 、 日 本 企 業 で GSB に 参 加 し て い る 企 業 は な く 、 パ イ ロ ッ
ト・プロジェクトが始まろうとしている段階である。日本で行なわれてきたこ
と は 、 UNDP に よ っ て 数 回 の ワ ー ク シ ョ ッ プ が 開 催 さ れ た 程 度 で あ る 。
ま た UNDP と 同 じ く 国 際 機 関 で あ る 国 際 金 融 公 社 (International Financial
Corporation) も 、 Lighting the Bottom of the Pyramid Initiative( 現 在 は
Lighting Africa と 改 称 )と い う プ ロ ジ ェ ク ト を 開 始 し て 、 企 業 に よ る 貧 困 削 減
アプローチの推進を図っているが、日本では企業対象のセミナーの開催に留ま
っており、まだ実動するまでにはこぎ着いていない5。
「多国籍企業による貧困削減」という魅力的なアイディアを多くの日本企業
に広め、共有してもらうことが、最初の第一歩になる。日本の現状はようやく
この出発点に立ったに過ぎない。
そこで、主たる課題として具体的には、以下の5つが考えられる。
課題1.経営幹部の姿勢と行動を、BOP向けにどのように変えることが
できるのか。
課題2.BOPビジネスの主たる対象は、貧困層の中でも所得が2ドルか
ら5ドルの間の層である。2ドル未満の絶対的貧困にあえぐ層に
対しては、はたして可能なのか。
課題3.多国籍企業のほとんどがアメリカ企業であるために、アメリカ・
アレルギーのある途上国では受け入れられるのだろうか。
課 題 4 . UNDP の GSB プ ロ グ ラ ム で は 、 国 連 の 場 が 多 国 籍 企 業 に 汚 染 さ
れ る と い う NGO か ら の 懸 念 の 声 が 強 く な ら な い で あ ろ う か 。
課 題 5 . 汚 職 と 腐 敗 が 蔓 延 し 、 貧 困 層 が 捨 て 置 か れ て い る 70 ほ ど の 途 上
国では、指導者たちは多国籍企業主導の新しいプログラムを歓迎
するのだろうか。
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これらの課題を、いかに克服して貧困削減に向かって前進できるのか。この
試 み は 緒 に 就 い た ば か り で あ り 、今 後 、多 く の 実 践 例 の 積 み 重 ね が 必 要 で あ る 。
困難は伴うが、挑戦する価値は大いにある。
国際ビジネスの研究においても、先のプラハラッドの問いかけと同じ言い回
し を 使 う な ら ば 、 次 の よ う に 問 う こ と が で き る 。「 国 際 ビ ジ ネ ス 研 究 に お い て 、
“多国籍企業による貧困の削減”という課題以上に差し迫った課題はあるのだ
ろうか。多国籍企業のもつ巨大な力を途上国でいかに活かすかを考えずに、物
質的に溢れかえり成熟しきった先進国市場での企業経営について議論すること
に 、 は た し て ど れ ほ ど の 意 義 が あ る の だ ろ う か 。」
それまで否定的に扱われる、あるいは関心が払われてこなかった課題が、後
に経営課題の中核にくるということは、これまでもしばしばあった。例えば慈
善 事 業 の 一 環 と し て し か 考 え ら れ て い な か っ た CSR は 、い ま で は 企 業 経 営 の 中
核 的 課 題 に な っ て い る 。グ ロ ー バ ル 企 業 の ラ ン キ ン グ に は 、CSR に 関 す る 指 標
も加味されるようになっている。
また環境問題も、ビジネスの足を引っ張る厄介者として扱われてきたが、現
在では環境問題への挑戦こそが、新しい成長へとつながると認識されるように
なっている。これらの例と同様に、一顧だにされずに来た40億人、5 兆ドル
の BOP 市 場 が 、 次 な る マ ー ケ ッ ト と し て 脚 光 を 浴 び る よ う に な る と い う こ と
は夢物語ではあるまい。そのような手法やモデルの開発は、まさに魅力的とい
えるであろうし、これまでの開発援助の失敗の歴史を振り返るときに、市場ベ
ースのアプローチが残された有力な選択肢として浮かび上がってくることは確
かである。
新しく革新的なアイディアやアプローチには、当初はしばしば厳しい懐疑の
目が向けられるのが常である。この始まったばかりの試みは、現実的要請への
応えとしてはもちろんのこと、研究課題としての意義も非常に大きく、国際ビ
ジネス研究にとって極めて挑戦的で魅力にあふれた課題といえる。
【注】
一 日 の 所 得 が 2 ド ル 未 満 の 人 々 の 全 世 界 人 口 に 占 め る 割 合 は 、 1981 年 の
66.% 7 か ら 2001 年 の 52.9% へ と 約 15 ポ イ ン ト の 減 少 を 示 し て い る も の の 、中
国 を 除 く と 、こ の 減 少 幅 は 小 さ く な り 、58.8% か ら 54.9% へ と 約 4 ポ イ ン ト の
減 少 に 過 ぎ な く な る (World Bank, 2005)
2 後 に 、 bottom に 代 わ っ て 、 base が 使 わ れ る よ う に な り 、 Hammond, et
al( 2007)で は 、 Base of the Economic Pyramid(BOP)と 呼 ば れ て い る 。
3
菅 原 か ら の email で の 質 問 に 対 し て 、George Lodge 教 授 が 、2007 年 10 月
12 日 に email で 直 接 返 答 し て く れ た 内 容 。
4 Fedex 社 が 実 際 に 作 成 し た W D C の パ ン フ レ ッ ト と 事 業 企 画 書 を 、同 社 の W
D C 担 当 の Wyatt Franks か ら 、 2007 年 10 月 26 日 の email で 入 手 。
5
菅 原 か ら の email で の 質 問 に 対 し て 、 有 地 浩 氏 ( 国 際 金 融 公 社 東 京 駐 在 特
別 代 表 ) が 、 2007 年 11 月 6 日 に email で 直 接 返 答 し て く れ た 内 容 。
1
12
【参考事例】
事例1.特定BOP地域でのイノベーションを、他地域にも波及させる
ヨ ー ド 不 足 に 直 面 す る 人 々 は 、 イ ン ド で は 7000 万 人 以 上 、 全 世 界 で は 2 億
人以上にのぼり、ヨード欠乏症はBOPに広く蔓延している。ユニリーバのイ
ン ド に お け る 子 会 社 H L L (Hindustan Lever Limited)は 、こ の ヨ ー ド 不 足 の 解
消をめざして、食塩内のヨード成分をカプセル化する技術開発に成功。
この技術を使って、HLLは、コートジボアール、ケニア、タンザニア、ガ
ーナ、ナイジェリアでも事業展開を図っている。ユニリーバは、インドを他の
BOP市場のための実験市場とみなして、そこで学んだことすべてを吸収し、
他 B O P 市 場 に お い て も 活 用 し て い る 。 (Hammond, et al., 2007, p101)
事例2.BOP向けの製品を、現地のパートナーと提供する
フランスの食品多国籍企業ダノン社は、バングラディッシュで、マイクロ・
フ ァ イ ナ ン ス 機 関 の グ ラ ミ ン バ ン ク と 、50%ず つ 出 資 し て 合 弁 企 業 を 設 立 し た 。
こうして出来たグラミン・ダノン・フーズ社の事業は、BOPの顧客向けに、
低 価 格 (0.07 ド ル )で 栄 養 価 の 高 い (競 合 製 品 の 3 倍 )ヨ ー グ ル ト の 供 給 で あ る 。
マイクロ・ローンを活用して数頭の牛を飼育している何百という小規模農家
か ら 牛 乳 を 調 達 し て ヨ ー グ ル ト を 生 産 し 、100%生 物 分 解 性 の あ る 容 器 に つ め て 、
やはりマイクロ・ローンを活用して商売を始めた街角のスタンドやキオスクの
販 売 網 を 通 し て B O P の 顧 客 に 提 供 し て い る 。 (Hammond, et al., 2007, p101)
事例3.BOP市場に集中する
ス ー ダ ン 系 英 国 人 起 業 家 の Mo Ibrahim 氏 が 、 1998 年 に 通 信 会 社 の Celtel
社を設立し、ザンビア、シエラレオネ、コンゴで通信事業を開始した。小額の
プリペイド方式を採用して急成長し、マラウイ、がボーン、チャド、ブルキナ
ファソ、ニジェール、ウガンダ、タンザニア、スーダン、ケニヤへと拡大。
600 万 人 の 低 所 得 層 に タ ー ゲ ッ ト を 絞 っ て 事 業 を 行 な っ て い る 。 従 業 員 の
98%は 現 地 の ア フ リ カ 人 で あ り 、 そ の 多 く が 会 社 の 株 を 所 有 し て い る 。 ベ ン チ
ャ ー 企 業 か ら ス タ ー ト し た Celtel 社 は 、短 期 間 で ア フ リ カ の テ レ コ ム・ジ ャ イ
ア ン ト へ と 急 成 長 を 遂 げ た の で あ る 。 (Hammond, et al., 2007, p53)
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謝辞
本稿の執筆にあたっては、以下の諸先生(敬称略)から大変有益なアドヴァ
イ ス を い た だ き ま し た 。 こ こ に 記 し て 謝 意 を 表 し ま す ( 順 不 同 )。
江 夏 健 一( 早 稲 田 大 学 )、多 部 田 直 樹( 国 士 舘 大 学 )、太 田 正 孝 (早 稲 田 大 学 )、
九 里 徳 泰 ( 中 央 大 学 )、 池 上 重 輔 ( 早 稲 田 大 学 )、 篠 崎 恒 夫 ( 小 樽 商 科 大 学 名 誉
教 授 )、石 井 耕 (北 海 学 園 大 学 )、田 中 史 人 (北 海 学 園 大 学 )、大 平 義 隆 (北 海 学 園 大
学 )、 岡 田 行 正 (北 海 学 園 大 学 )、 今 村 聡 (北 海 学 園 大 学 )、 赤 石 篤 紀 (北 海 学 園 大
学 )、遠 藤 雄 一( 北 海 道 情 報 専 門 学 校 )、有 地 浩 (国 際 金 融 公 社 東 京 駐 在 特 別 代
表 )、 George Lodge(ハ ー バ ー ド 大 学 )、 Subhash C. Jain(コ ネ チ カ ッ ト 大 学 )、
Craig Wilson(The Foundation for Development Cooperation)、 Andrew
Russell(FedEx)、 Wyatt Franks(FedEx)、 Lucas Black( UNDP)。
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