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異種の二つの量の割合の学習における単位の考えの育成
小学校 算数科 異種の二つの量の割合の学習における単位の考えの育成 -図を効果的に活用させる算数的活動の工夫- 加藤 1 彰子 研究の趣旨 小学校算数科「量と測定」領域においては,長さや重さのような量のほかに,第5学年から人口密度 や速さのような異種の二つの量の割合としてとらえられる数量を扱うことになる。長さや重さのよう な量を比べる場合は,その量の大小で「長い・短い」「重い・軽い」を判断することができる。しかし, 混み具合や人口密度のような数量を比べる場合には,人数と面積という異なった二つの量が関わって いるため,一方の量の大小では判断することができない。そのため,どちらか一方にそろえ,もう一 方の量で比べる,つまり単位量当たりの大きさを用いて比べることが必要になる。ところが,この二 つの量のどちらを単位量とするかによって,単位量当たりの大きさを求める除法の式や商の意味が変 わってしまう。ここに,「単位量当たりの大きさ」の単元の学習で,子どもが混乱する原因がある。 小学校学習指導要領実施状況調査(平成24年度:国立教育政策研究所)においては,「単位量当たり の大きさ」の学習に関わる問題の正答率が,全体の37.3%と低かった。また,児童質問調査では,「単 位量当たりの大きさ」の学習がよく分かったと回答した児童は29.7%,教師質問調査では,この学習は 児童にとって理解しにくいと回答した教師は,全体の8割以上であった。子どもにとっても教師にと っても,課題が多くある単元であることが分かる。 平成25年度の全国学力・学習状況調査においては,「混み具合を比べる式の意味理解」を問う問題の 正答率が,45.7%であった。また,平成26年度福島県学力調査においては,「問題の場面を理解し,単 位量当たりの考えを使って解く」問題の正答率が,33.9%と低かった。 これらのことからも,単位量や単位の大きさに着目して問題を解決することや,単位量当たりの大 きさを求める除法の式の意味を理解することに課題があることは明らかである。 この課題解決に向け,異種の二つの量の割合の学習において,単位の大きさや関係に着目する考え, つまり,単位の考えを育成することが重要であると考え,本主題を設定した。 さらに,今までの自分の実践を振り返り, 「小数のわり算」での除法の意味指導が不十分であったこ とが, 「単位量当たりの大きさ」に大きく影響したのではないかと考えた。そこで,一年次には,副主 題を「除法の式の意味理解を深める算数的活動の工夫」とし, 「小数のわり算」と「単位量当たりの大 きさ」の単元につながりをもたせた。つまり, 「小数のわり算」で身に付けた単位の考えを生かし, 「単 位量当たりの大きさ」の学習に取り組ませることで,除法の式の意味理解を深めることをねらいとし て実践した。その結果,図と関連付けて除法の式の意味を理解させることができた。しかし, 「問題場 面がイメージできない」 「イメージするための手段が分から ない」「図をかこうとするものの,自力ではかけない」「正 しい図に表すことができず,数量関係をとらえきれないま ま立式する」など,思考・表現の道具として,主体的に図 を活用できない子どもの姿が見られた。問題場面を図に表 すこと,図を操作しながら思考し,立式することに課題が あると分かった。また,図を操作して友達に説明すること ができるようになったものの,言葉や式を用いて説明を論 理的に記述することにおいては,十分ではなかった。 そこで,二年次は,副主題を「図を効果的に活用させる 算数的活動の工夫」とし,思考・表現の道具として, 「図→ 式→言葉(結論) 」という三つのステップで思考過程を順序 図1 研究構想図(二年次) - 1 - 立ててまとめる活動を取り入れるなど,図を効果的に活用させる算数的活動を充実させ,そのよさを 十分に実感させることで,研究主題に迫った(図1) 。 2 研究仮説 異種の二つの量の割合の学習において,以下の視点に基づいた手だてを講じれば,単位の考えを 育成することができるであろう。 <第一年次> 【視点1】 育成したい単位の考えの明確化 【視点2】 子どもの問いを引き出す工夫 【視点3】 問題場面・図・式を関連付ける算数的活動の工夫 <第二年次> 【視点1】 「図のかき方」を習得させる指導の工夫 【視点2】 図を操作しながら,思考過程を表現する活動の工夫 【視点3】 単位の考えを活用するよさや楽しさを実感できる活動の工夫 3 研究内容 (1) 研究対象 ① 第一年次 研究協力校 ② 第二年次 <図に関する実態調査> <授業実践> 小学校第5学年1組(32名) 研究協力校 研究協力校 小学校第5学年4クラス(116 名) 小学校第6学年3クラス(96 名) 小学校第5学年1組(29名) 小学校第6学年1組(32名) (2) 研究方法 ① 視点に基づいた授業実践 ② 検証方法 ア 事前アンケート,事後アンケート イ 実態調査 ウ 全国学力・学習状況調査等を基にした事後テスト (3) 研究経過 月 4・5 研 究 内 容 研究計画立案,理論研究,研究協力校への依頼,実態調査 〈一年次〉 〈二年次〉 ○授業実践Ⅰ ○図に関する実態調査 第5学年「小数のわり算」 (総時数15時間) ○中間発表会 ○中間発表会 ○授業実践Ⅰ 6~11 ○授業実践Ⅱ 第6学年「速さ」(総時数15時間) ○授業実践Ⅱ 第5学年「単位量当たりの大きさ」 (総時数15時間) 第5学年「単位量当たりの大きさ」 (総時数13時間) 12~3 研究紀要作成,所員研究発表会 研究紀要・研究報告書作成 - 2 - 4 研究の実際と考察 (1) 第一年次研究の実際と考察 授業実践Ⅰ 小数のわり算(総時数15時間) 授業実践Ⅱ 単位量当たりの大きさ(総時数15時間) ① 育成したい単位の考えの明確化 初めに, 「小数のわり算」と「単位量当たりの大きさ」の 各単元において,育成したい単位の考えを明確にし,指導 計画を作成した(資料1)。その上で,これらの単元をつな ぐ単位の考えを導きだし,授業実践を行った(図2) 。 「小数のわり算」で身に付けた単位の考えを生かし,「単 位量当たりの大きさ」の学習に取り組ませることで,除法 の式の意味理解を深めることを目的とした。 図2 単元をつなぐ単位の考え ② 子どもの問いを引き出す工夫 育成したい単位の考えを基に,「どんな大きさで比べればよいか」「何を単位や単位量として計算し ているのか」という単位や単位量に着目した問いを引き出すために,次のように問題場面を工夫した。 【授業実践Ⅰ】 小数のわり算の導入において,「2mで390円のリボンと1.6mで320円のリボンでは,どちらが安い か」という問題場面を提示した。比較する場面にすることで, 「どうしたら比べられるだろう」という 問いを引き出し,子ども自身が「1m当たりの値段」という単位量に着目できるようにした。 また,子どもの誤答を取り上げることで,子どもの問いを引き出した。例えば,あまりのあるわり 算において, 「6.3mのリボンを1.5mずつ切ると,リボンは何本できるか」という問題を提示した。す ると何人かの子が, 「6.3÷1.5=4あまり3」としていた。そこで,その子の式を取り上げた。「あま りが3になるのはおかしい」ということから, 「この計算は何を基にして計算しているんだろう」とい う問いを引き出すことができた。 【授業実践Ⅱ】 「3㎡に30人いる場合と6㎡に50人いる場合では,どちらが混んでいるといえるか」という問題場 面を提示した。このような問題を提示することで,面積と人数のどちらを単位量にすればよいかだけ でなく, 「3と6」 「30と50」のような数値を用いることで, 「3㎡」や「10人」など「1以外の単位に もそろえることができそうだ」という問いを引き出した。公倍数や公約数の考えに気付きやすい数値 で問題を提示することで,いろいろな単位や単位量に着目することができた。 ③ 問題場面・図・式を関連付ける算数的活動の工夫 【授業実践Ⅰ】 「問題場面を図に表すこと」 「図を操作し,式化すること」について重点をおいて指導した。 まず, 「小数のわり算」の導入場面で,小数の除法の式の意味を考えさせた。除法の式の意味につい て考えやすいように,問題の数値を整数とし,「2mで390円のリボンの1m当たりの値段」を求める 場面で考えさせた。既習事項であることから,子どもたちは容易に「390÷2」と立式することができ た。しかし, 「なぜ,390円(値段)を2でわると,1mの値段を求めることができるのか」を問うと, 式の意味を正しく説明できる子どもは少なかった。そこで,説明するための手がかりとして,テープ 図(図3)を提示した。この図を基に,子どもたちは,リボンの長さを半分(÷2)にすると1mに なるから,値段も半分(÷2)になるという関係に気付くことができた。同様に,リボンの長さが3 mや10mであっても,1mにするには長さを同じ数でわるから,値段もその数でわると1mの値段を - 3 - 求めることができることを確認した。そし て,図3のように,矢印等を書き込ませ, 図を操作することで,長さと値段の関係を とらえ,式に表すことができるようにした。 次に, 「1.6mで320円のリボンの1m当た りの値段」について考えさせた。長さが小 数になっても,整数のときと同じように図 図3 二つの数量関係をとらえた図 を操作し,長さと値段という二つの量の関 係をとらえさせることができた(図3) 。適用問題においても, 子どもたちは,除法の式が1に当たる量を求めることについ て説明することができるようになった(図4) 。 さらに, 「320÷1.6」の計算の仕方を考える授業においては, 計算の仕組み(何を単位とした計算か)を理解させた。小数 のかけ算での既習事項を基に1.6を10倍し,整数に直して, 「320÷16」と考えている子どもが多くいた。しかし,商をど うしたらよいか分からず,悩んでいる子どももいたため,こ こでも図に表して考えさせた。子どもたちは「値段320円を16 でわるということは,長さも16でわることになるから,1.6 図4 子どものノート ÷16になる。つまり,0.1mの値段を求 めていることになる」と図を操作しな がら説明することができた(図5) 。図 を操作することにより,320÷16が「0.1 mあたりの値段」を求めていることに 気付くことができた。そして,図に矢 印を書き込みながら「1m当たりの値 段」を求めるためには,320÷16の商を 図5 図を操作しながら説明する様子 10倍する必要があることを説明した。 図に表して考えることで,計算の仕組みを理解することができた。 【授業実践Ⅱ】 「小数のわり算」で使った図を基に,「式や商の意味について考えること」ができるようにした。 この単元では,二つの量のうち,どちらを単位量とするかによって,除法の式と商の意味が変わっ てしまう。そこで,何を単位量にしたのか,商が何を表しているのか,イメージしやすくするために, 問題の状況を表した2種類の図を用いた(図6) 。この図は,面積をテープ図で表し,その中に人を表 す●を書き込んだ図である。 混み具合を比べる場合, 「1人当たりの面積」 を求める式は,「5÷8」となり,「1㎡当た りの人数」を求める式は,「8÷5」となる。 問題の状況を表した図に表し,矢印や数値を 書き込むなど,図を操作することで,式を理 解することができるようにした。 また,どちらを単位にするかによって,商 図6 問題の状況を表した図 が大きい方が混んでいることを表すときと, 商が小さい方が混んでいることを表すときがあることを,この図の単位量に着目して考えることがで きるようにした。 - 4 - 「100g当たり200円のぶた肉を500円分買うと,何 g買えるか」という授業を行った。ここでは,図に 表すことで,何を基にして考えればよいか明らかに し,二つの量の関係をとらえることができるように した。 「200円」を単位量として,500円がどれくらい に当たるのか考え,500円当たりの重さを求める子ど もや「1円」を単位量として,1円当たりの重さを 求めてから500円当たりの重さを考える子どもがい た(図7) 。いずれも,問題場面からは関係がとらえ にくい問題であったが,図を操作することで,正し く立式することができた。また,図を操作しながら 説明することで,それぞれの考えを共有することが できた。そのため,終末の適用問題を解く場面では, 友達の解き方で解こうとする子どもや問題に応じて 図7 子どもが黒板にかいて説明した図 効率的な解き方を選んで解こうとする子どもがいた。 さらに,単位の考えを活用する場として,単元末 に学習レポートや単元末新聞として,学習内容をま とめさせた。活用する場を設定することで,目的に 応じて単位を選び,単位にそろえて比べることのよ さを実感できるようにした。「単位量当たりの大き さ」では,学習が終わった後に,単元末新聞を作成 させた(図8)。今まで学習したことを,ノートを 振り返りながら,例えば,単位量当たりの大きさの 学習をしていない下学年の子どもが読んでも,意味 図8 「単位量当たりの大きさ」新聞 や求め方などが分かるように,相手意識をもって作 成させるようにした。子どもたちは,授業の中で使った図や言葉を用いて,順序立ててまとめること ができた。 (2) 第二年次研究の実際と考察 一年次の実践においては,図を使って考えることに重点をおいて取り組んできたため,式の意味を 説明する際に,図を基に説明することができるようになってきた。しかし,問題を解くときに,自分 で図に表して考える子どもは全体の約3割くらいであった。子どもにとって,図に表すことが難しく, 自分で図に表して思考・表現することのよさを実感させることができなかったためであると考えられ る。説明の道具としてだけでなく,思考の道具としても図を効果的に活用させ,そのよさを実感でき るようにするために,二年次の実践を行った。 授業実践Ⅰ 授業実践Ⅱ 第6学年 第5学年 「速さ」(総時数 15 時間) 「単位量あたりの大きさ」 (総時数 13 時間) ① 「図のかき方」を習得させる指導の工夫 単位量当たりの大きさは,異種の二つの量の割合で ある。数を相対的にみる必要があるため,問題場面を 容易にとらえることができない。問題場面のイメージ 図9 - 5 - 図に関する実態調査 をつかみ,数量関係をとらえやすくするためには,問題場面を図に表し,可視化することが有効であ ることは一年次の取り組みからも明らかである。しかし,今年度,単元の学習前に行った,図に関す る実態調査の結果(資料2)から,第5学年,第6学年ともに,半数以上の子どもたちが異なる二つ の数量の関係を図に表すことができていないことが分かった(図9)。そこで,単元の導入時に「図の かき方」を指導する時間を設け,問題場面を図に表すスキルを身に付けさせるようにした(図 10)。 ここでは,第5学年の授業実践Ⅱを中心に述べる。 まず,何を単位量としたか,商が何を表している のかをイメージできるようにするために,子どもた ちにとって既習であるテープ図や一年次の「単位量 当たりの大きさ」の授業で使用した問題の状況を表 した図を提示した。そして,どちらが混んでいると いえるか,商の大きさをとらえ判断することができ るようにした。その後で,自分で簡潔に図に表すこ とができるようにするために,2本の数直線図へと 抽象化を図った。 混み具合を比べる場面において,人数の数値だけ 提示し, 「どちらが混んでいるか」を聞いた。子ども たちが,人数だけでは比べることができないこと, もう一つの数量である面積が必要であることに気付 くことができるようにした。そうすることにより, 数直線も人数と面積それぞれを表すために,2本必 図 10 「図のかき方」と表した2本の数直線図 要であることを子どもたちに気付かせることができ た。 そして,2本の数直線に,問題から分かっている単位や数値を書き込ませた。ここでは,二つの数 量の関係をとらえ,対応させて書くことが重要である。そこで,一つの量を書き込んだ後で,もう一 方の量について教師が間違ったところに書くことで,子どもたちに二つの数量を対応させて書く必要 性に気付くことができるようにした。 次に,図から単位や単位量を決め,図に書き込ませた。例えば,単位を「人数」 ,単位量を「1人」 とした場合,人数を表した数直線図に「1」を書き,「1」にするために,「8」を何でわればよいか 考えさせ,矢印を書き込ませながら, 「÷8」と記入させた。 最後に,もう一方の量である面積においても,同じように矢印とわる数を書き込むことで,二つの 数量の関係をとらえ,1人当たりの面積を求めるための式を考えることができるようにした。 このかき方を指導し,単元を通して繰り返し使用させることで,問題解決のストラテジーとして身 に付けることができるようにした。その結果,ほとんどの子どもが,二つの数量の関係をとらえ,問 題場面を図に正しく表すことができるようになった。 また,6年生は昨年度から図を活用してきたこともあり,容易 に図に表すことができるようになった。最初は,量の大きさを正 確に数直線図に表していた子どもも,単元が進むにつれ,必要な 数値だけを取り出して関係を見いだした関係図(図 11)に表すな ど,さらに抽象化を図ることができた。 図 11 関係図 ② 図を操作しながら,思考過程を説明する活動の工夫 二つの数量のどちらを単位にするかによって,除法の式の除数と被除数が逆になり,商の意味も変 わってくる。つまり,混み具合や速さの判断が逆になってしまう。そこで,除法の式と商の意味につ いて,図を操作しながら根拠を明確にした説明ができるようにするために,ステップシート(図 12) - 6 - を作成し,活用した。このステップシートは, 「図→式→ 言葉(結論)」という三つのステップで,思考過程を順序 立ててまとめるものである。これを基に,子どもたちが 図と式を関連付けて説明できるようにした。そして,単 元の学習が進むにつれ,ステップシートがなくても三つ のステップを意識してノートに思考過程を表現させるこ とをねらい,指導に当たった。 算数的活動として,図や式に表し説明する活動のほか に,次のような活動も取り入れた。 第6学年では,式を読む活動を行った。発表者が提示 図 12 ステップシート(第5学年) した式の意味について,違う式を立てた子どもたちが説 明する活動である。この活動により,除数と被除数が逆になった二つの式の違いを,根拠を明確にし て説明させることができた。あわせて,選んだ単位や単位量によって図の操作手順が変わることを確 認することができた。 第5学年では,全体での学び合いの 後,板書を振り返りながら,ステップ シートを修正する活動を行った(図 13) 。子どもが,より分かりやすい説明 にするために,言葉を吹き出しで補っ たり,訂正したりする活動である。こ のことで,より適切な説明へと,表現 図 13 板書と言葉を補ったワークシート を洗練させるようにした。 ③ 単位の考えを活用するよさや楽しさを実感させる活動の工夫 単位の考えを活用する場として,単元末に作問活動を取り入れた。作問活動では,次の三つの活動 を行った。一つめは,日常生活の中から単位量当たりの考えが用いられている場面を見いだす活動。 二つめは,問題を作る活動。三つめは,作成した問題を互いに解き合ったり,図を基に解説し合った りする活動である。 これらの活動が, 「図のかき方」の習熟を図ったり,図を操作しながら思考過程を説明する力を高め たりする場になるように,作問シートを工夫した(図 14) 。 この作問シートは,左側に日常生活の場面から 見いだした二つの数量と作成した問題文,右側に 三つのステップ「図→式→言葉(結論)」で思考過 程を記入するシートである。思考過程を記入する 欄は二つ設けた。選んだ単位によって変わる二通 りの図や式を, 確認できるようにするためである。 また,このシートを,問題を解き合い解説し合う 活動において, 「解説書」として活用させた。第6 学年は,作問シートに一つの解き方を,もう一つ の解き方はノートに書かせた。 図 14 作問シート(第5学年) それぞれの活動については,次のとおりである。 ア 日常生活の中から単位量当たりの考えが用いられている場面を見いだす活動 【実践授業Ⅰ】 グループでどんなときに「速い」 「遅い」を使うか話し合わせた。日常生活の中から,様々な事象を 見付ける活動で,速さを比べる場面だけではなく,台風が通り過ぎるおおよその時間を求める際に, - 7 - 単位量当たりの考えが使われると気付くことができた。 【授業実践Ⅱ】 スーパーマーケットの広告を示すことで,「100g当たり98円」「3パックで148円」など単位量当た りの考えが使われている場面を見付けやすくした。それを手がかりに,重さと値段の関係以外にも, 栄養成分表示や燃費など,様々な場面で単位量当たりの考えが使われていることに気付く子どもがお り,それを全体の場で共有した。 イ 問題を作る活動 比べるために必要な二つの数量は何かを吹き出しに書かせ,二つの数量の関係をとらえて問題を作 ることができるようにした。また,その際,問題 文の数値を吟味させた。現実味のある数値にする ことは,もちろんのこと,1を単位量とするだけ でなく,5や 10 などを単位量として考えることが できる数値にさせた。そうすることで,問題に応 じていろいろな単位量にそろえて比べ,数を相対 的にとらえることができるようにした。 第6学年においては,速さ比べの問題のほかに, 「速さ」「道のり」 「時間」の関係を基にした問題 図 15 速さの問題(第6学年) も作成させた(図 15・資料3) 。 ウ 作成した問題を互いに解き合ったり,図を基に解説し合ったりする活動 問題を解き合う活動では,隣の友達の問題を解くように させた。早く解き終わった子どもには,同じグループの友 達の問題に取り組むように伝え,たくさんの問題に取り組 めるようにした。困ったときには,問題を作った友達にヒ ントをもらったり,図の操作の仕方を質問したりすること ができるようにし,主体的に取り組めるようにした。 また,友達の問題を二通りの解法で解くようにさせた。 第5学年では,ワークシートに二つの解答欄を設け(図 16) , 第6学年では,一つの解答はワークシートに,もう一つは ノートに書くようにした。 【授業実践Ⅰ】 速さ比べの問題においては,比べ方を二通りの単位で解 いた子が多かった。また,速さ比べの問題と「速さ」 「道の り」 「時間」の関係を基にした問題の両方を解くようにさせ た。多様な問題に取り組ませることにより,問題によって 図 16 ワークシート(第5学年) 表す図が変わり,操作の順番や矢印の向きが変わることを 理解することができた。また,解説し合う活動に おいては,解答者が説明した内容について,出題 者に助言させたことで,表現を洗練する場にする ことができた。 【授業実践Ⅱ】 ワークシートには,混み具合の比べ方を二通り の単位量で解いた子どもが多かった。そのため, 第5学年では,出題者の「解説書」と違う解法の 子どもがいたが,「図→式→言葉(結論)」のステ 図 17 友達の比べ方を確認する子ども ップで互いの比べ方を解説させたことで,多様な - 8 - 考えにふれさせることができた(図 17) 。 このように,友達にヒントをもらいながら解いたり,解説し合ったりする協働的な学習は,子ども たちの学習意欲を高めることにつながった。作問活動により,知識・技能の習熟を図るとともに,単 位の考えを活用するよさや楽しさを実感させることができた。 5 研究の成果と課題 (1) 研究の成果 ① 図に関する実態調査結果より 図に表すことができるようになった子どもの割合を,実践前後で比較すると,第5学年,第6学年 ともに大幅に向上したことが分かる(図 18) 。 第5学年 実践前(5月) 実践後(11月) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 11% 第6学年 0% 20% 80% 100% 100% 実践後(9月) ■ 60% 53% 実践前(5月) 80% 40% 図に表すことができるようになった子ども 図 18 図の実態調査の変容 また,意識調査では, 「式や答えがすぐ思いう かばないとき,図や表にかいて考えていますか」 という項目で,肯定的な回答をした子どもの割 合が増えた(図 19) 。特に,2年間授業実践を 行い,継続して図を活用してきた第6学年は, ほぼ全員が肯定的な回答をした。単位の考えが 可視化できる図のよさを,実感を伴って味わわ せることができたのではないかと考える。実際 に問題を解決する場面においても,思考・表現 の道具として,主体的に図を活用する子どもの 姿が見られた。 式や答えが思い浮かばないとき,図や表をかいて考えていますか 第5学年 0% 実践前 (H27年5月) 実践前 (H26年10月) 実践後 (H27年9月) 40% 32% 実践後 (H27年11月) 第6学年 20% 60% 46% 52% 0% 20% 34% 80% 60% 36% 7% 14% 17% 31% 40% 100% 80% 27% 100% 3% 63% 3% 34% 事後テストの結果より 全国学力・学習状況調査,学習指導要領実施 思う どちらかといえば思う あまり思わない 思わない 状況調査から,授業実践に関わる問題を取り上 げ,実践1か月後に事後テストを行い,全国平 図 19 意識調査の変容 均正答率と比較した(図 20) 。 第5学年の混み具合の比べ方を説明し,混んでいる方を選ぶ問題において,全国平均正答率をやや 上回ったものの,全体の53.6%の子どもたちは誤答であり,その主な原因は,混み具合の判断にあっ た。ただし,完答には至らなかったが,誤答だった子どもたちの約半数は,混み具合の比べ方を,筋 道を立てて説明することまでは,できていた。 第6学年の速さの比べ方を説明し,速い方を選ぶ問題では,78.9%の子どもたちが完答することが でき,全国平均正答率を上回る結果となった。これは,「図→式→言葉(結論)」という三つのステッ プで比べ方を説明したり,式を読んだりするなど,多様な算数的活動を取り入れてきたためと考える。 ② - 9 - また, 第5学年, 第6学年ともに, 単位量当たりの考えを活用する問題 において,全国正答率を上回る結果 となった。これは,日常生活の事象 における問題の解決に,単位量当た りの考えを活用することができるか を問う問題である。両学年ともに, 単元末に作問活動を取り入れ,単位 の考えを活用する機会を多くしたこ とで,活用する力を高めることがで きたと考えられる。 以上のことから,図を効果的に活 図 20 事後テストの結果 用し,単位の大きさや関係に着目し て問題を解決する力,つまり,単位の考えが育成されたと考えることができる。よって,三つの視点 に基づいた実践は有効であったと推察できる。 (2) 今後の課題 事後テストの結果から,混み具合を判断すること,つまり,除法の商の意味理解に課題が残った。 結論を出す際,商が大きい方が混んでいるという子どもたちの思い込みなどにより,初めにもった見 通しとずれてしまうのである。今後は,商の意味を確実にとらえさせるために, 「1㎡当たり○人だか ら,商が大きい方が混んでいる」 「1人当たり△㎡だから,商が小さい方が混んでいる」と,判断基準 を明確にさせなければならないと感じた。そのためにも,課題解決の見通しと振り返りを重視する必 要があると考える。 「図→式→言葉(結論)」というステップで解決させた後,再度,それぞれを問題 場面に当てはめて,妥当性を吟味させていきたい。 また,図の指導は,単元や領域を問わず,発達段階に応じて,系統的に,継続的に行っていく必要 があると感じた。 □ 参考文献 1) 2) 3) 4) 小学校学習指導要領解説 算数編(文部科学省 東洋館出版社 2008 年) 平成25年度 全国・学力学習状況調査【小学校 算数】報告書(国立教育政策研究所 平成26年度 全国・学力学習状況調査【小学校 算数】報告書(国立教育政策研究所 小学校学習指導要領実施状況調査 教科別分析と改善点等(算数) 2013年) 2014年) (国立教育政策研究所教育課程研究センター 2015 年) 5) 小学校算数科 数学的な考え方・態度の指導事例集5年(片桐重男 明治図書 1990 年) 6) 平成26年度福島県学力調査実施結果報告書(福島県教育委員会 2015年) 7) 平成27年度用「新編新しい算数」内容解説資料 演算決定に関わる図の取り扱いと系統 (東京書籍 2015 年) 8) 平成27年度教授資料小学校算数 線分図・数直線の指導の系統(教育出版 2015年) - 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