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検査の案内
発行元:臨床検査部.January.1,2001Vol.9 検査の案内 緊急異常値(いわゆるパニック値)について 1.パニック値とは Lundberg は、 即治療を必要とする危険な病態を示唆する異常値をパニック値 (panic value 極異常値、 または critical value 緊急異常値)と定義し(1975 年) 、医療担当者(主に主治医)に直ちに報告すべ き値であるとしています。 2.パニック値の設定 自覚症状ならびに他覚所見に乏しい外来初診患者においては次回診察日に初めてその検査結果に目を 通すことがほとんどであり、パニック値を有する患者の場合、次回診察時までに患者の状態が悪化する ことが強く予想され、その結果として患者・家族に多大な負担をかけることになります。このため、パ ニック値の意義はその値を即刻主治医(または指導医)に報告することにより初めて生かされることに なります。しかし、検査項目によっては患者や主治医にはパニック値が常に緊急でない場合もあります。 例えば、慢性腎不全における BUN、クレアチニンの著増は主治医および患者には緊急性はない(パニック 値ではない)と受け取られることもありえます。パニック値の設定および運営にあたっては個別にきめ 細かく対応するのが最善ですが、すべての方(診療科)が満足できるパニック値の設定およびその運用 は事実上極めて困難であります。また、本来のパニック値とは異なる検査値の異常、たとえば、点滴ラ インからの採血による電解質の異常値、検査検体への異物の混入による異常値、抗凝固剤の選択の誤り による異常値、検査機器の不具合によるデータ異常、採血での人違い等、患者の病態とは無関係の要因 や医療過誤も皆無ではありません。そこで、臨床検査部の検体検査部門および生理機能検査部門では別 表に示すようなパニック値(パニック所見:主治医に連絡すべき場合)を設定しています。 3.パニック値の運用方法 外来初診時にパニック値(再診・入院では前回値と比較して著明に増悪しパニック値となった場合) が検出された場合には検査技師が即刻主治医(外来主治医に連絡が取れない場合には該当科外来医師) に連絡するようにしています(同時に再検査も施行します)。なお、検査伝票に“至急”と記載して ある場合には、主治医が当日に結果をご参照になると思われますので検査室からはご連絡いたしませ ん。その際、所属・依頼者名・PB ん。その際、所属・依頼者名・PB 番号が必要となりますので検査伝票には必ずご記入下さい。業務に 号が必要となりますので検査伝票には必ずご記入下さい。 ご多忙で煩わしいと感じられるとは思いますが、事の重要性に鑑み、御承知お願いいたします。 最後に、臨床検査部の設定したパニック値と貴診療科で考えられているパニック値とが大きく隔たって いたりして上記のような運用法では日常診療業務に支障をきたす場合や追加項目などご意見がありまし たらご連絡下さい。 なお、生化学、血液検査のスクリーニング検査項目においては、初診、 “至急”扱い以外、前回値と比 較して著しい変化を示した検査値では、パニック値より緩めの範囲での報告を行っています。 [文責:臨床検査医学 河野幹彦] 緊急異常値一覧(いわゆるパニック値)のデータ・所見一覧 ○検体検査 【一般検査】 【生化学検査 】 穿刺液/便/血清 CRP >20mg/dl, TP >15.0g/dl 赤痢アメーバ検出 Tbil >20mg/dl, Dbil >15mg/dl 赤痢アメーバ抗体価陽性 UN >100mg/dl, CRE >10.0mg/dl UA >15mg/dl, ALP >3000mu/ml 尿/穿刺液/髄液 異形細胞出現 AST >1000mu/ml, ALT >1000mu/ml LDH >10,000mu/ml 【血清検査】 ChoE <20mu/ml, γGT >1000ml/ml HIV 陽性 Amy <3000mu/ml ATLA 陽性 CPK <10.000mu/ml すべてのウイルス項目 LAP(AA) >300mu/ml IgM 陽性(小児科入院のみ) Glu >500mg/dl 風疹 IgM 陽性 TC >600mg/dl, TG >1000mg/dl (産婦人科検体のみ) Na >170 <100mmol/l 膣分泌物 AFP 陽性 K >7.0 <1.5mmol/l E3 100 倍陰性(妊婦 34 週) Cl >130 <70mmol/l Ca >13.0 <6.0mg/dl 【細菌検査】 塗沫検査 【血液検査】 抗酸菌陽性 WBC >30,000, <1,000/μl 細菌/クリプトコッカス陽性(髄液) Hb <5.0g/dl 培養検査 Plt >70 万, <20,000/μl 抗酸菌培養陽性 芽球 >5%, 骨髄にて芽球 >10% 血液培養で菌が陽性 トロンボテスト <20% →グラム染色で確認された場合 PTT >20sec, APTT >100sec 髄液培養で菌が陽性 Fib <50mg/dl, FDP >50μg/ml 感染症新法の記載菌が分離されたとき ヘパプラスチンテスト <20% βグルカン>20pg/ml ATIII 活性 <30% Plasminogen <30% ○生理機能検査* a2PI activity <30% 【心電図】 D dimmer >50μg/ml ST の虚血性低下または上昇☆ protein C <30 R-R 間隔が 2 秒以上 出血時間 >10min, 赤沈 >100mm 高度房室、洞房ブロック 染色体で同一異常が3細胞 R on T 、VPC 3 連発以上 以上(疾患特異的異常の場合 上室性頻拍☆ は 1 細胞) HR<40 >120/min (ただし、16歳以上) ペースメーカー不全☆ CD4/CD8 <0.5 ☆ 基準の詳細は省略 ☆ 2001 年 1 月現在 【負荷心電図】 【負荷心電図】 負荷前禁忌所見 負荷後の ST 変化☆ 負荷後の不整脈☆ 【起立調節試験】 著しい血圧変動☆ 【ホルター心電図】 ST 低下または上昇(虚血性) R-R 間隔 >3 sec R on T 三連発以上の VPC PAT、高度房室洞房ブロック☆ ペースメーカー不全 【呼吸機能検査】 SpO2 <85%の実施確認 【脳波検査】 検査室での大発作 EIEE, West syndrome を疑わせる脳波 PSD、三相波、異常脳波の頻発 【超音波検査】 以下の早急な対応が必要な場合(例) 心臓/大血管 心タンポナーデ、心腔内血栓 動脈瘤解離、重篤な人工弁不全 心腔内腫瘤など 腹部 血腫、急性肝炎、肝膿瘍、急性虫垂炎、腎、 脾梗塞、消化管穿孔、腸閉塞、腸重積、被 膜下血腫、腹腔内出血、肝癌破裂、妊娠な ど 頚部 頚動脈解離 生理機能検査では、症状や徴候を含 めて緊急性を判断し、主治医に連絡し ています 検査部からのお願い 自動分析装置の試料持ち越し現象 血清を対象試料に用いる生化学検査と免疫血清検査では、生化学自動分析装置による試料分注サンプ リング時の、高濃度試料から低濃度試料への持ち越し現象(キャリーオーバ)があります。日常検査の 中でも、この影響を受ける項目(主に偽陽性化)がいくつかあります(表1参照) 。これは、サンプリン グに用いるサンプリングノズルに前回の血清が付着するために、その直後に測定した結果が影響をうけ てしまう現象です。自動分析装置では次検体への移行時にはサンプリングノズルの外壁、内壁が洗浄さ れる機構となっています。しかし、極端な高値を示す血清などでは、これらを完全に拭い去ることは困 難であり、直後の結果が誤って高値になってしまいます。また、この現象はサンプリングノズルの挿入 回数や、次検体の被検試料容量などより、影響に差がみられます。そこで、検査室では影響を受けると 考えられる感染症や腫瘍マーカ、一部の外注検査等の依頼時には、生化学自動分析装置による検査前に、 一部必要量を分取する(回避ラインにより測定する)ことで対応しています。しかし、生化学自動分析 装置による検査が終了した後に、検査依頼の追加がされた場合などには、このような対応が行えないの でキャリーオーバにより、偽陽性化する可能性があります。 従って、ラボニュース vol2 にも記載したように感染症や腫瘍マーカ、一部の外注検査等の追加に関 感染症や腫瘍マーカ、一部の外注検査等の追加に関 しては、再採血をお願いすることがあります。 また、このような対応法の関係で、回避ラインで測定す 回避ラインで測定する場合、生化学分析の結果報告遅延する可能性 回避ラインで測定する場合、生化学分析の結果報告遅延する可能性 があります。 表1.自動分析装置によるキャリオーバの現状 検討項目 :HBs抗原 陰性検体 陽性検体 陰性検体1 陽性化率 陰性検体2 陽性化率 陰性検体3 陽性化率 1.12 230 48.35 43.2 4.36 3.9 2.63 2.3 陰性検体 陽性検体 陰性検体1 陽性化率 陰性検体2 陽性化率 陰性検体3 陽性化率 2.60 275000 23.90 9.2 2.20 0.8 2.30 0.9 陰性検体 陽性検体 陰性検体1 陽性化率 陰性検体2 陽性化率 陰性検体3 陽性化率 2.00 677400 47.20 23.6 6.90 3.5 2.50 1.3 検討項目:CEA 検討項目:AFP 検討項目:CA19-9 陰性検体 陽性検体 陰性検体1 陽性化率 陰性検体2 陽性化率 陰性検体3 陽性化率 6.20 278700 34.70 5.6 7.70 1.2 6.70 1.1 検討方法は陰性および陽性検体の 2 種類を用い、陰性(対照) ・陽性・陰性・陰性・陰性検体の順に、自 動分析装置で上記の4項目を測定した。 陽性化率は各陰性検体1・2・3/陰性検体(%)を示した。各項目の基準値はHBs抗原<2.0S/N 比、 CEA<4.5mg/ml、AFP<20ng/ml、CA19-9 は<35u/ml。 HBs抗原では陽性検体の次に自動分析装置で測定された陰性検体では、約 50 倍の陽性化がみられ、以 後の検体においても影響を与えていた。他の3項目においても陽性検体の次の陰性検体に陽性化がみら れた。 〔文責 澤田 威男〕 薬剤感受性MIC情報 菌種別に見た薬剤感受性 MIC 分布(7) Pseudomonas (Burkholderia) cepacia 分布 今月は、P.cepacia の MIC 分布を紹介します。 はじめに 緑膿菌や Acinetobacter 属などのブドウ糖非醗酵性グラム陰性桿菌群(非醗酵菌群)は“自由生活菌”と も呼ばれ、土壌中や生活環境では水周りに一般的に見られます.身近なところでは、切り花を生けてい る花瓶や“浅漬け”などからも分離されます。 こうした菌の多くは健康人にとっては無害ですが、宿主の免疫力が低下した場合に起因菌となる場合が あり、カンジダ属などと共に“日和見病原菌”と呼ばれています。 P.cepacia P.cepac ia P.cepacia は、1950 年に W.H.Burkholder がニューヨーク州の玉ねぎ産地で流行した sour skin と呼ばれ る玉ねぎの病変の原因菌として分離され、種名は玉ねぎを意味するラテン語“cepa”にちなんで命名さ れました。 本菌も非醗酵菌群に属する菌種で、本年度上半期の分離株数 2,723 株の内 10 株(0.4%)を占めるに過ぎ ません。しかし、消毒薬のヒビテンに自然耐性であることから、院内感染の原因菌の一つとして重要な 菌です。 図.1 に、今年分離された 21 株について各種抗菌剤の MIC 分布をまとめました。 図1 P. cepacia の各種薬剤に対するMIC分布 図1 P.cepacia ≦0.12 ≦0.25 0.25 ≦0.5 0.5 ≦1 1 PIPC CAZ 0 ( 0.0) CPR 0 ( 0.0) 0 ( 0.0) s/CPZ 0 ( 0.0) 0 ( 0.0) AZT IPM 0 ( 0.0) 0 ( 0.0) 0 ( 0.0) GM AMK MINO 0 ( 0.0) ST 0 ( 0.0) 2 ( 11.1) LVFX 0 ( 0.0) 0 ( 0.0) 0 ( 0.0) 0 ( 0.0) 0 ( 0.0) 0 ( 0.0) 10 ( 66.7) 8 (38.1) 0 ( 0.0) 1 ( 4.8) 0 ( 0.0) 6 ( 33.3) 6 ( 100) 9 (81.0) ≦2 0 ( 0.0) はMIC90値を示します 2 0 4 8 16 >16 32 >32 0 1 10 7 ( 0.0) ( 4.8) ( 52.4) (85.7) 2 14 1 0 2 (10.0) (80.0) (85.0) (85.0) (95.0) 0 0 0 2 14 ( 0.0) ( 0.0) ( 0.0) (11.1) (88.9) 0 0 0 3 10 ( 0.0) ( 0.0) ( 0.0) (14.3) (61.9) 0 0 1 13 4 ( 0.0) ( 0.0) ( 4.8) ( 66.7) ( 85.7) 1 10 9 1 0 0 ( 4.8) ( 52.4) ( 95.2) ( 100) 0 0 1 3 3 13 ( 4.8) ( 4.8) ( 9.5) (23.8) (38.1) ( 100) 5 2 0 0 0 11 ( 27.8) ( 38.9) (38.9) (38.9) (38.9) ( 100) 3 2 6 1 0 ( 50.0) (61.1) (94.4) ( 100) 0 0 0 0 0 0 4 ( 100) 0 0 0 0 64 >64 128 >128 Total 0 0 3 21 (85.7) (85.7) ( 100) 1 0 0 20 ( 100) 1 1 18 (94.4) ( 100) 7 0 1 21 (95.2) (95.2) ( 100) 0 3 21 (85.7) ( 100) 21 21 18 18 18 21 〔文責 細菌検査室〕 検査部からの案内 1.バンコマイシン(血中薬物検査)の検査は、血清試料を用いた場合、低値への乖離を示すことから、 ヘパリン採血管(特G)による提出をお願いしていましたが(ラボニュース vol1) 、測定法の変更よ りプレーン採取管による血清分析が可能になりました。よって2月1日より採取管の変更をお願 プレーン採取管による血清分析が可能になりました。よって2月1日より採取管の変更をお願 いします。