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「パソコン市場の実態を語る」∼国内パソコン市場の現状と今後について

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「パソコン市場の実態を語る」∼国内パソコン市場の現状と今後について
「パソコン市場の実態を語る」∼国内パソコン市場の現状と今後について∼
株式会社マルチメディア総合研究所
取締役主席研究員
武村
三幸
氏
インターネットニーズの拡大、ブロードバンド環境の整備が進み、国内パソコン市場は
99 年度以降 1,000 万台の大台を維持している。また、パソコン普及率は 02 年度には 50%
に到達し、パソコンは、国民 2 人に 1 人が持っている生活必需品となりつつある。
表①には、JEITA非加盟メーカー(デルなど)及びホワイトボックス系(アロマシ
ステム、FIC販売など)を含んだ新品パソコン市場の年度別出荷データを示した。当研
究所が統計を開始したのは 94 年。それ以前の国内パソコン市場は、NEC の PC9800 シリ
ーズの独壇場でシェア 50~60%を持ち“パソコン=PC98=NEC”と言われていた。それが
94 年にコンパックコンピュータ(現ヒューレットパッカード)が日本市場に参入し、低価
格の PC・AT 互換機を大々的に投入したことで、今日に至るパソコン低価格競争及びメー
カーシェア争いのスタートが切って落された。また、95 年には大型コンピュータビジネス
からの脱却(ダウンサイジング)を図ろうとする富士通が PC・AT 互換機(FMV シリーズ)
を投入している。さらに 99 年にはデザインに特化したソニーVAIO が人気を集めはじめ、
一方でデルコンピュータの Web 直販を柱とする低価格商品が市場を牽引した。最近の傾向
を見たとき、00 年度をピークに 01・02 年度と前年割が続いているものの、03 年度は景気
回復への期待感で個人消費と企業設備投資が活性化することが予想されること、Y2K 問題
時に導入した企業ユーザーの買い換え時期にあたることなどのプラス要因が見られ、再び
上昇に向う模様だ。また、出荷金額は 00 年度の2兆 3,500 億円をピークに価格競争の激し
さを反映し、台数実績以上にダウンしている。ただし、パソコン単体でも 02 年度 1 兆 7,700
億円を売上げており、国内経済全体を見まわしてもこれだけ大きな市場規模を持つ商品は
そう多くはないことも事実。加えて、パソコン利用時に必要となるソフトウェアおよびプ
リンターなどの周辺機器を含めればさらに市場規模は大きくなり、4~5 兆円の巨大マーケッ
トだといえる。
表①新品パソコン市場の動向(JEITA 非加盟、ホワイトボックス系を含む)
1 ,3 9 9
単位:万台
1 ,2 1 4
1 ,0 6 5
7 38
69 6
97
1 ,2 4 0
1 ,1 2 4
767
569
33 4
金額(億円)
単価(万円)
94
95
96
9,230
27.6
13,900
24.4
18,400
24.9
17,250
24.8
98
99
00
01
17,000
22.2
20,830
19.6
23,500
16.8
19,000
15.7
02
03
年度
(予測)
17,700
15.7
18,500
14.9
※マルチメディア総合研究所調べ
㈱マルチメディア総合研究所
-1-
表②中古パソコン市場の動向
110
単位:万台
96
79
69
年度
00
01
02
※マルチメディア総合研究所調べ
03
(予測)
㈱マルチメディア総合研究所
表②は、最近注目を集めている中古パソコン市場の動向を示したものである。同市場は、
ソフマップを中心とする個人ユースとパシフィックネットを中心とする企業ユースで構成
されているが、現時点では 7:3 の割合で個人ユースが多くを占めている。個人ユースの比
率が高いのは、ソフマップで取引されているパソコンは購入後 1~2 年程度の比較的新しい
商品(VAIO などの個人向けパソコンが多い)であること、それに対しパシフィックネット
で取引されているのは購入後 4 年程度を経過した企業で使用していたリース切れの古い商
品であるため、自ずと新しい商品に人気が集まる結果となっている。また、企業ユースで
は一度に同一スペックのまとまった台数が必要となることが多く、商品確保の困難性が高
いことも、企業ユースの伸びを抑えている要因の 1 つだと言える。今年の 10 月 1 日からは、
個人ユーザーが利用するパソコンのリサイクル法が施行され、パソコンの廃棄が有料化さ
れることで“値段はいくらでもお金がもらえて、しかも引取り責任を代行してくれる中古
買取り業者に持ち込んだ方が得だ”と考えるユーザーが増加し、中古パソコン市場の活性
化を促すとともに、同市場への注目度もさらに高くなることが予測される。
-2-
表③全体市場の動向
単位:万台
1,468
69
1,293
79
1,350
1,220
110
96
中古
1,399
1,214
新品
1,240
1,124
年度
00
01
02
03
(予測)
※マルチメディア総合研究所調べ
㈱マルチメディア総合研究所
表③は、新品パソコンと中古パソコンを合わせた、言い換えれば現実の国内パソコン市
場規模の推移を表したものである。表①の新品同様、00 年度が 1,468 万台でピークである
ことに変わりないが、中古市場の台頭により 01 年度・02 年度のダウン幅は新品単体で見る
よりも 88.1%、94.4%と小さくなっており、パソコン需要は多少の波はあるが堅調そのもの
だと言っても過言ではない。
表④Web 直販の動向
単位:万台
1 1 .3 %
8 .2 %
5 .7 %
4 .9 %
69
140
92.7
69.5
100
Web直販率
63
44.5
48
24.5
21.5
29.7
00
01
02
※マルチメディア総合研究所調べ
注1)上記実数は前ページのその他ルートの内数である
注2)上記実数はパソコンメーカーが実施しているWeb・Tel・Fax販売のみを対象としている
(ソフマップなどのリセラーのWeb販売は含まれていない)
ビジネス
個人
40
年度
03 (予測)
㈱マルチメディア総合研究所
表④は、02 年度以降伸びの著しい Web 直販の実績(PC メーカーの新品のみを対象)推
移である。デルコンピュータが本格的に Web 直販を開始した時点では“Web 直販は米国の
-3-
ように国土が広く店舗流通網が及ばないという地理的要因とパソコンを活用するユーザー
がホワイトカラーに限定されパソコンのことを解かっているという購入者の属性要因がな
ければ、Web 販売は成立しない。よって日本では定着しないだろう”との意見が大半を占
めていた。しかし、00 年度以降の状況を見るかぎり Web 直販は今後も成長が見込まれ、03
年度には国内パソコン(メーカー新品のみ)市場全体の 11%を占める勢いである。また、
Web 直販利用者の 68%がビジネスユーザー、32%が個人ユーザーである。この比率を 17~18
万円もの高価な商品を目で確認することもなく個人で購入することに抵抗感がまだある、
とみるのかそれとも、元々国内パソコンのビジネス:個人比率は 7:3 程度で市場の実態を
反映した数字である、と評価するかによって今後の Web 直販の将来性への見方は異なるだ
ろうが、メーカー側は更なる低価格競争に打ち勝つためコスト削減を継続せざるをえない
こと、ユーザーもメーカーから直接購入する Web 直販価格が最も安いとなれば、自ずと
Web 直販は今後のパソコン流通形態の柱の 1 つだと判断せざるをえない。ただ1つ気にな
るのは、メーカー毎に差異はあるが、パソコン本体売上が Web 直販全体の 70~90%をも占
め、周辺機器、ソフトウェア比率が低いことである。ユーザーからみれば1つのショップ
(Web)から全てが購入できれば便利である。しかし、現実にはパソコンメーカーの Web
サイトにはその品揃えが整っておらず、周辺機器、ソフトウェアはリセラー(ソフマップ、
ヨドバシカメラなど)及び周辺機器メーカーなどの Web サイトから購入している。メーカ
ーの Web 直販を更に拡大するには、周辺機器、ソフトウェアなどパソコン本体以外の品揃
えの充実が必要不可欠である。
表⑤国内パソコン市場予測(新品のみ)
10 0%
1,399
1,240
1,2 14
1,124
1,065
670
570
738.4
7 66.5
696.3
273.2
215.9
480.4
50%
店頭ルート 店頭ルート
その他ルート
293
その他ルート
729
465.2
520
496.5
496
473.5
569
644
627.5
720
0%
96
97
98
99
00
※マルチメディア総合研究所調べ
01
02
03
(予測)
年度
㈱マルチメディア総合研究所
表⑤は、03 年度国内パソコン市場(メーカー新品のみ)に対する当研究所予測である。
当研究所では、パソコン流通を量販店・パソコンショップなどで販売される店頭ルートと
メーカー直販(Web 直販含む)及び Sier などが販売するその他ルートに分類している。店
頭ルートには、個人ユーザーに加えビジネスユーザーも 20~30%含まれ、その他ルートにも
Web 直販分に個人ユーザーが 30%程度含まれる。そのため、当研究所では個人ユーザーと
-4-
ビジネスユーザーの比率を、02 年度ベースで個人 36%に対しビジネス 64%程度だと推測し
ている。03 年度は、ビジネスユーザー主体のその他ルートが躍進の原動力である。その他
ルート 15%増の要因は、政府が着手した IT 投資促進税効果による設備投資の活性化、Y2K
問題時導入ユーザーの買い換え期が 03~04 年度にあたること、加えて株価の回復など経済
環境に明るさが戻りつつあることなどがあげられる。また、店頭ルートは景気回復による
個人消費の伸びに期待したいが、実際その効果が現れるのは今年後半から来年度以降とな
りそう。パソコンリサイクル法が 10 月 1 日に施行されるにあたり、リサイクル費用が上乗
せされ商品価格がアップすることを嫌って前倒し購入する“駆込み需要”を期待する声も
聞こえてくるが、メーカー関係者、量販店・パソコンショップ関係者によれば家電リサイ
クル法の施行時の経験及び現状のユーザー動向を見るかぎり、現時点の予測を上回るよう
な“駆込み需要”は期待できそうにない状況で、店頭ルートは前年比 5%増程度に収まるみ
込み。
表⑥国内メーカー別シェア推移
2001年度メーカーシェア
シャープ
2.9%
日本HP
3.6%
その他
12.5%
2002年度メーカーシェア
シャープ
3.0%
日本HP
3.8%
日立製作所
5.0%
NEC
21.7%
日立製作所
5.5%
東 芝
7.2%
NEC
22.2%
日本IBM
6.3%
富士通
20.8%
日本IBM
7.7%
その他
11.3%
ソニー
12.7%
富士通
21.2%
ソニー
11.1%
東 芝
8.0%
デル
8.1%
デル
5.4%
※マルチメディア総合研究所調べ
㈱マルチメディア総合研究所
表⑥は、新品パソコンの 01・02 年度メーカー別シェアの推移である。NEC をトップに
主要メーカーが 9 社ランクインしている。また、その他メーカーの中にはアップル、松下
電器産業、沖電気、パイオニアなど及びアロマシステム、FIC 販売などのホワイトボック
ス系など合計 20 社ほどが含まれており、上位メーカーと合わせて 30 社ほどが国内パソコ
ン市場に参入していることになる。現状のパソコン事業の最大の問題点は、商品そのもの
のスペックがほぼ同じで、他社商品との差別化を価格でしかアピールできていない点にあ
る。そのため、価格競争は激しくなるばかりでトップメーカーであっても利益を確保でき
ないとの事態に陥っている。トップシェアの企業が利益を確保できない事業というのは歪
な事業である。しかも、市場規模が 2 兆円前後を誇る事業においてである。また、参入企
業数が 30 社もある市場・事業とは国内全体を見渡しても他に見当たらない。猫も杓子もパ
ソコン・インターネットと IT バブルに踊らされ、我も我もとメーカーが参入してきた結果
にほかかならず、メーカー独自のコンセプト・特色が明確な商品を生み出せない要因とも
なっている。一方、OS はマイクロソフト、CPU はインテルで構成されるパソコンでメー
-5-
カー固有の特色を打出すのは難しいことなのかもしれない。しかし、それが困難なのであ
れば、これだけ多くの企業が参入し凌ぎを削っている状況そのものがおかしいものだとい
える。キヤノンのようにパソコン市場が右肩上がりで成長していた 99 年に早々とパソコン
事業から撤退し、そのリソースをプリンター・PPC 事業など得意分野に投入して業績を好
転させている企業例があることも見逃せない事実である。ユーザーの観点からすれば、“よ
り良い商品を選択できる環境を考えると、国産メーカーが 2~3 社、外資 1 社が存続すれば
十分である。よって、残り 25~26 社は必要ない。事業を健全化するためにも吸収合併、自
主撤退の進むことが望ましい”といえる。
また、吸収合併という点でいえば、来るべきユビキタス社会に対応するためにコンピュ
ータメーカーと AV・家電メーカーとの融合が必要である。パソコンの現在の問題点の1つ
に利用方法・用途を明確化した商品作りとそれを啓蒙する活動がなされていないというこ
とがある。価格の安さやスペックの向上のみをアピールしても、メーカーは一層のコスト
削減を常時課題として抱え、ユーザーはパソコンに対してだから何が出来るのかとの不満
を大きくするのみである。ADSL 環境下で AV・家電・パソコンがどのように連携し何が出
来るのか、ユーザーの生活シーンのなかでどのようにパソコンが役立つのか、パソコンの
役割は何なのかを明確に打ち出し、
“うちのパソコンを使えば、他の商品にないこんなこと
が出来ます。または同じことを行ってもこれだけ早くできる”など具体性に富んだ商品説
明が必要とされている。現在 2 兆円前後の市場規模を維持してきたパソコン市場が、今後
更に発展していくためには取組むべき課題は多い。
■本件に関する問合せ先
株式会社マルチメディア総合研究所
取締役主席研究員
武村
三幸
(e-mail:[email protected])
TEL:03-5777-0161
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