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対流顕熱+人工排熱
表6-2、図6-9は23区別に大気に排出している熱を顕熱(対流顕熱+人工排熱)、潜熱 (蒸発潜熱+人工排熱)別に表したもので、顕熱と潜熱の合計が大きいほど大気熱負 荷量が大きい地区といえる(値は1∼24時の時間値を平均したもの)。最も多いのが 千代田区(167W/㎡)で、次いで港区、新宿区、豊島区、渋谷区、中央区、台東区 (120W/㎡以上)などが放熱の多い区となっている。逆に負荷量の小さい区は、江 東区(60W/㎡)が最も小さく、葛飾区、江戸川区、大田区(90W/㎡未満)などで ある。まず、大気熱負荷量の大きな区は負荷量を減らす必要がある。 大気を直接暖めるという意味では、顕熱の多い区が熱汚染の排出源となる。グラフ の上半分の顕熱で見ると、豊島区、千代田区、台東区などが上げられる。しかし、そ の内容を見ると千代田区では対流顕熱が少なく人工排熱が62%を占めているのに対 して、豊島区は人工排熱が32%と少ない。これは建物の冷房などで千代田区の地表面 温度が低くなり対流顕熱が少なくなる代わりに、エネルギーを消費して人工排熱(空 冷機による顕熱、冷却塔による潜熱)を大量に放出していることを示している。この 結果が人工排熱の「事務所・住宅の排熱」として現れている。一方、豊島区は対流顕 熱が中心であり地表面温度が人工化で上昇し熱放出が行われていることを示してい る。このため、千代田区では省エネ等による人工排熱の削減、豊島区では地表面被覆 の改善がより必要な改善策と考えられる。 世田谷区、渋谷区、千代田区、港区では他の区に比べて蒸発潜熱が多い。これは農 地や大規模な緑地が地表面の熱を蒸発散作用により大気に放出していることを表し ている。このように大気を暖めない方法で熱を放出する部分を大きくすることも重要 である。仮に千代田区や渋谷区でこの蒸発潜熱が顕熱に代わるとすれば、さらに大気 を暖める原因となる。 (参考) ○顕熱(大気を直接暖める) 対流顕熱:建物や舗装表面から大気に直接放出される熱 人工排熱:自動車排ガスや空冷式の冷房機から大気に直接放出される熱 ○潜熱(気化熱を周囲から奪い大気の温度上昇を抑制する) 蒸発潜熱:土壌や緑から蒸発によって水蒸気の形で大気に放出される熱 人工排熱:水冷式の冷却塔などから水蒸気の形で大気に放出される熱 以上のように、大気熱負荷量は対策を検討する上で対象地区の排熱特性を分析する ことができ、また対策を講じた場合の効果や影響などが分析できる。 69 表 6-2 23区別日平均顕熱・潜熱 顕 熱(W/㎡) 区名称 千代田区 中央区 港区 新宿区 文京区 台東区 墨田区 江東区 品川区 目黒区 大田区 世田谷区 渋谷区 中野区 杉並区 豊島区 北区 荒川区 板橋区 練馬区 足立区 葛飾区 江戸川区 潜 熱(W/㎡) 事務所・住 事業所排熱 自動車排熱 地表面顕熱 宅等の排熱 51 54 34 31 20 32 21 11 16 15 10 8 25 12 10 25 12 15 11 8 8 9 9 6 4 8 5 2 1 1 4 6 1 3 0 2 1 0 2 3 2 4 0 3 4 4 14 15 11 8 9 12 11 7 9 8 6 8 10 7 7 9 7 7 9 6 9 8 8 42 29 54 64 66 65 47 27 62 71 60 75 70 64 69 78 59 65 64 78 67 57 57 顕熱合計 人工排熱 蒸発潜熱 潜熱合計 112 102 108 108 97 110 82 49 92 95 79 92 106 84 86 114 80 89 88 92 87 78 78 39 23 21 18 6 8 6 5 7 4 3 2 10 3 2 13 3 3 3 1 2 2 2 15 4 13 8 10 7 2 6 7 8 5 17 16 7 9 6 6 2 11 14 6 5 4 55 27 34 26 16 15 8 11 14 12 7 18 26 10 10 19 9 5 13 15 8 7 6 大気熱負荷量 120 80 60 40 20 代 田 区 中 央 区 港 区 新 宿 区 文 京 区 台 東 区 墨 田 区 江 東 区 品 川 区 目 黒 区 大 田 区 世 田 谷 区 渋 谷 区 中 野 区 杉 並 区 豊 島 区 北 区 荒 川 区 板 橋 区 練 馬 区 足 立 区 葛 飾 区 江 戸 川 区 0 -20 千 熱流量(日平均W/㎡) 100 -40 -60 図 6-9 23区別日平均顕熱・潜熱の分布 70 顕 熱 自動車排熱 事業所排熱 事務所・住宅等の排熱 地表面顕熱 潜 熱 人工排熱 蒸発潜熱 6.3.2 東京23区の将来状況と対策の効果 1)将来状況 東京の将来状況として、都市化がさらに進行した場合と緑地が減少した場合を想定 しその影響をシミュレートした。また、参考として全くの自然状態の場合についても 計算を行った。 表6-3 将来状況シミュレーションケース ケース 内容 現況 現況 現況の建物、道路、事業所、植生状態をシミュレート 将来 都心部の都市化進行 センターコアと呼ばれる中心部で今後とも都市化が進 行し、事務所、住宅地の拡大・高密化、これに伴う交 通需要の増加により人工排熱が増加し緑が減少する場 合 緑地の減少 周辺部の農地や緑の多い住宅地が開発され高密な住宅 地になる場合 参考 自然状態 建物などの都市的要素がなくすべて緑で覆われている 場合 注)設定内容の詳細は表6-4を参照 シミュレーションの結果はすべて14時と22時の現況に対する温度差で図6-10に示 した。なお、対策の効果を評価するため、毎時のシミュレーション結果について30℃ を超える面積を算出し、24時間分を合計した値:30℃超時間面積(℃km2)も同時に算 出して現況との比較を行った。 71 表6-4 都市レベルシミュレーションケースの詳細条件(東京23区を対象、32.5km×32.5km、500mメッシュ) 現況 NO. 項目(ケース名) 0 現況 1 センターコア 都市化 影響 対策 参考 2 緑地減少 3 人工排熱削減 4 透水性舗装の拡大 5 屋上緑化 内容 現況の建物、道路、事業所、土地利 用、植生状態をシミュレート UCSSparameter設定方法 ・水面率(fwater),水面温度(twater),草地・裸地率(ssind),舗装率 ・樹木率(ftree),樹林平均高さ(htree),平均標高(zgrnd) ・建物占有率(bldr),建物平均高さ・幅・代表構造(bldh,w,n) ・時間別人工排熱量(建物,事業所<2層>,自動車交通) 環状6号(山手通り)−荒川ラインの 内側(センターコア)の都市化の進展 [都市化の内容] ①容積率、建蔽率の増加 ②建物・事業所排熱の増加 ③自動車交通量(排熱)の増加 ④緑地の減少 ・センターコア部分を以下のように変化させる。 ①現況建物容積20%増加(bldr,h:増加,bldn:RC化) ②建物排熱量は原単位も増加することを想定し50%増加 ③交通需要増大に伴う自動車排熱の30%増加 ④宅地の増加による緑地、裸地・草地の減少:ftree,ssind 50%減少 ・他は現況と同じ ①農地系緑地の消滅 ②宅地の緑減少 ・全域に以下のような変化を与える。 ①生産緑地の50%,その他農地の100%宅地化(アスファルト化) ②果樹園等農地型樹林の消滅。「緑の多い住宅地」ftree=0.5→0.1 ③建物の増加、人工排熱の増加は想定しない。 ①建築物の省エネ対策 ②自動車交通量の削減 ・建物・事業所排熱の30% 低減 ・自動車交通排熱の10% 低減 ①透水性舗装の増大 ・全舗装面の20%透水性舗装=草地・裸地化(ssindの増加) ①屋上緑化 ・全建物屋上の50%緑化 ・建物・事業所排熱の50% 低減 ・自動車交通排熱の20% 低減 ・全舗装面の50%透水性舗装=草地・裸地化(ssindの増加) ・全建物屋上の50%緑化 6 複合対策 人工排熱削減+道路対策+屋上緑化 7 自然状態 ・高台(標高10m以上)のftree=0.8,それ以外の低地のftree=052 都市的要素がすべてなく緑に覆われて ・地覆は全て草地・裸地としてssind設定 いる状態をシミュレート ・平均標高、水面率は現況と同じ(埋立地はある) 72 図 6-10(1)ケース1:都心部の都市化進行 14:00 22:00 都心部の都市化が進行した場合、人工排熱の増加などにより大手町・東京・新橋などのビジ ネス地区で昼間に0.9℃の気温上昇が見られる。センターコア(環6内側)はすべて気温が上昇 し、この気温上昇はセンターコア周辺地域にも及んでいる。また、夜間(22:00)にも影響が 残り港、渋谷、新宿および台東区を中心としたエリアで0.2℃以上の気温上昇が見られ、セン ターコアは確実に高温化が進むと予想される。30℃超時間面積は現況の1.34倍に達する。 図6-10(2)ケース2:緑地の減少 14:00 22:00 緑地の減少は主に緑地部分の気温上昇をもたらす。この影響は世田谷、練馬、板橋区などに見 られ、夜間もこの方面は気温上昇が残されている。都心部でも国立自然教育園付近でスポット的 な気温上昇が見られる。緑の減少は人工排熱ほど直接的ではないが確実に気温上昇につながると いえる。 73 2)対策の効果 現況に対して、都市スケールで人工排熱の削減、透水性舗装、屋上緑化及びこれら の対策を複合的に行った場合の効果をシミュレートした。 表6-5 対策シミュレーションケース ケース 対策 内容 人工排熱削減 建物の省エネ対策、自動車交通量の削減を行った場合 透水性舗装の拡大 舗装面(道路や宅地の舗装面など)の20%を透水性舗装 に変更した場合 屋上緑化 23区内の全建物の屋上を緑化した場合 複合対策 人工排熱削減+透水性舗装の拡大+屋上緑化 注)設定内容の詳細は表6-4を参照 シミュレーションの結果はすべて14時と22時の現況に対する温度差で図6-11に示 した。 74 図6-11(1) ケース3:人工排熱削減 22:00 14:00 建物・事業所の排熱を30%削減、自動車交通の排熱を10%削減することにより、都心部の昼間気 温を0.4℃以上低下することができる(もともと排熱が大きいため同じ30%でも絶対値も大きい)。 また、都心6区をはじめ23区全域で気温の低減効果が見られる。一方、夜間の気温には大きな変 化がなく、人工排熱削減対策は(事業所が活動する)昼間の高温対策に向けた対策といえる。 図6-11(2) ケース4:透水性舗装の拡大 14:00 22:00 全舗装面の20%を土壌と同じ機能を持った透水性舗装にした場合、昼間に気温が低下する部分 もあるが、人工排熱削減ほど顕著ではない。この原因としては、対象とした面積が小さく都市気 候を変化させるほどのインパクトにはならなかったことが考えられる。 75 図6-11(3) ケース5:屋上緑化 14:00 22:00 23区の屋上を50%緑化(あるいは緑化と同じ機能を持った屋根材の使用)することで、昼間 の気温は23区全域で減少し、品川、目黒、世田谷、江戸川、葛飾、文京、台東、荒川区などの 地区(住宅地)で0.1∼0.2℃程度の低下が見られる。 図6-11(4) ケース6:総合対策 14:00 22:00 以上試算した対策を総合的に適用した場合、昼間気温が都心区で0.7℃低下する。低下が大きな ところは中央・千代田・新宿などのビジネス街である。この状態は事業所の終業時まで続き、夜 間(10時)になると極端な低減域はなくなるが、23区全体にわたって0.2℃程度の気温低下が見ら れる。また、30℃を超える時間・面積は現況に比べて21.3%低減される。 76