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アクティブ MMI 型光 RAM メモリ素子に関する研究

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アクティブ MMI 型光 RAM メモリ素子に関する研究
アクティブ MMI 型光 RAM
メモリ素子に関する研究
九州大学大学院総合理工学府
姜
海松
2012 年 2 月
目 次
概要
...............................................................................................................................1
第1章
序論 ............................................................................................................. 3
1.1
研究背景と目的 ......................................................................................... 3
1.2 光バッファ(RAM)メモリ素子に関する研究 ........................................... 6
1.3 双安定レーザーの概要 .............................................................................. 8
1.4 アクティブ MMI(多モード干渉導波路)双安定レーザー ...................... 12
1.5 本論文の構成 ........................................................................................... 16
参考文献 ........................................................................................................... 19
第2章
アクティブ MMI 型光 RAM メモリ素子の基本原理 ........................... 26
2.1 序 .............................................................................................................. 26
2.2 MMI による横モード結像の基本原理 ................................................... 27
2.2.1
MMI 導波路結像の一般原理 ....................................................... 28
2.2.2
0 次モードと 1 次モード光の結像 .............................................. 32
2.3 光モード間の双安定の一般条件 ............................................................ 36
2.4 アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの動作原理 ................... 42
2.4.1
アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーのレート方程式 ... 43
2.4.2
ヒステリシス幅と相互利得抑制係数との関係 .......................... 47
参考文献 ........................................................................................................... 52
第3章
横モード間光双安定動作原理の実証 ..................................................... 55
3.1 序 .............................................................................................................. 55
3.2 シミュレーションによる動作原理の実証 ............................................. 56
3.2.1
MMI 導波路の設計 ...................................................................... 56
I
3.2.2
3.3
3.4
シミュレーションの実証結果 .................................................... 60
実験による動作原理の実証 ................................................................... 65
3.3.1
素子の設計試作 ............................................................................ 66
3.3.2
試作素子の実験実証結果 ............................................................ 67
結果の考察 ............................................................................................... 70
参考文献 .......................................................................................................... 72
第4章
横モード間光双安定原理の活用による光メモリ素子の動作実証 ....... 75
4.1
序 .............................................................................................................. 75
4.2
小型化と広ヒステリシス幅の実証 ........................................................ 76
4.3
4.4
4.2.1
小型化と広ヒステリシス幅の設計手法 ..................................... 77
4.2.2
小型化と広ヒステリシス幅の実験実証 ..................................... 81
4.2.3
結果の考察 ................................................................................... 87
4bit 集積素子同一低動作電流実証 ......................................................... 88
4.3.1
4bit 集積素子の設計試作 ............................................................ 89
4.3.2
4bit 集積素子の同一低動作電流の実験実証 .............................. 90
極広ヒステリシス幅の実証 ................................................................... 94
4.4.1
部分 MMI 可飽和吸収領域構造の提案 ...................................... 94
4.4.2
極広ヒステリシス幅の実験実証 ................................................ 97
4.4.3
結果の考察 ................................................................................. 101
参考文献 ......................................................................................................... 103
第5章
低閾値電流化の検討 .............................................................................. 106
5.1 序 ............................................................................................................ 106
5.2 低閾値電流化設計原理 .......................................................................... 108
II
5.3 低閾値電流の実験実証 .......................................................................... 112
5.4 結果の考察 ............................................................................................. 116
参考文献 ......................................................................................................... 118
第6章
ハイメサ導波路構造アクティブ MMI 光 RAM メモリ素子の動作
実証 ......................................................................................................... 121
6.1 序 ............................................................................................................ 121
6.2 ハイメサ導波路構造素子の設計試作 .................................................. 122
6.3 試作素子の動作実証結果 ...................................................................... 127
6.3.1
双安定特性の実証 ....................................................................... 128
6.3.2 単一波長発振の実証 ................................................................... 130
6.3.3 全光メモリ動作の実証 ............................................................... 130
6.3.4
高速メモリ動作の実証 ............................................................... 134
参考文献 ......................................................................................................... 138
第7章
総括 ......................................................................................................... 141
7.1 まとめ .................................................................................................... 141
7.2 今後の展望 ............................................................................................. 143
参考文献 .......................................................................................................... 145
付録 A.1 半導体レーザーの発振原理 .................................................................. 146
付録 A.2 多重量子井戸構造 ................................................................................. 151
付録 A.3 半導体レーザーの試作工程 .................................................................. 152
謝辞 .............................................................................................................................155
III
概
要
本論文は、小型化と高集積化可能なアクティブ多モード干渉導波路(MMI:
MultiMode-Interferometer)型光 RAM(Random Access Memory)メモリ素子に関する
研究について述べたものである。アクティブ多モード干渉導波路(MMI)の横モー
ド間光双安定動作原理を提案し、その動作特性の実証結果を忠実に記述し、光
RAM メモリ素子への実用性について議論した。
将来の光通信による過大な電力消費問題への解決策の一つとして、全光ルー
タの実現が期待されており、光 RAM メモリ素子はその実現のためのキーデバイ
スである。アクティブ MMI 双安定レーザー(Active-MMI BLD)を用いた光 RAM
メモリ素子は製作プロセスが容易、任意の遅延時間が設定可能、メモリ保持時
間が長い、動作が速い、高集積化が可能などの利点を持つため、光 RAM メモリ
素子の候補として注目されている。しかし、素子サイズが比較的大きく(既報告
では 1mm 程度)、小型化の際同一条件で駆動するための十分に広いヒステリシス
幅(動作条件設定範囲)の確保が大きな課題であった。本研究では、片側端で共通
ポートを持つ非対称型アクティブ MMI の横モード間(0 次、1 次間)の光双安定動
作原理を提案し、その動作特性の実験検証を行い、アクティブ MMI 型光 RAM
メモリ素子が小型化しても十分に広いヒステリシス幅が確保できることを実証
した。
本論文は 7 章より構成されており、横モード間光双安定動作原理を実験的に
実証した結果をまとめたものである。第 1 章ではアクティブ MMI 型光 RAM メ
1
モリ素子研究を行った研究背景及び研究目的について述べる。第 2 章では、ア
クティブ MMI 双安定レーザーの横モード間の光双安定動作原理を理論的に説明
して、広いヒステリシス幅の実現にはモード間相互利得抑制領域の確保が重要
であることを説明する。第 3 章では、シミュレーション及び実験による横モー
ド間光双安定動作原理の実証について述べる。第 4 章では、横モード間双安定
動作原理の活用により、小型化及び広いヒステリシス幅の実現、4bit 集積素子の
同一動作電流の実現、極広ヒステリシス幅の実現について述べる。第 5 章では、
アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの低閾値電流化の実証について述べ
る。第 6 章では、ハイメサ導波路構造を用いたアクティブ MMI 横モード間双安
定レーザーの単一波長発振及び全光高速メモリ動作の実証について述べる。最
後に第 7 章では、総括として研究のまとめと今後の展望について述べる。
2
第1章
序
論
1.1 研究背景と目的
近年、光通信は光伝送路の持つ広帯域性や光デバイスの高速性によりめざま
しい進歩を遂げている。ネットワークの急速の発展と共に、遠隔医療、テレビ
会議、スポーツ、映画などを代表例とする映像情報の増大が要因で、ネットワー
クのデバイスと通信トラフィック量が急増している。今のスピードで増え続け
ると、2015 年にはネットワーク接続型のデバイスが 150 億台を超え、世界人口
の 2 倍に達すると米国シスコ社が予測している[1]。さらに 2015 年には世界のネッ
トワークトラフィックの総量が 4 倍に増え、年間 966 エクサバイトに達すると
予測している[1]。日本のネットワークも増え続けていて、情報省の発表による
電気ルータ年間消費電力 [億 kWh]
104
年間総発電力(2007 年)
103
消費電力
102
3
10
トラフィック
年率 1.39 倍増加 10
102
10
1
2000
1.71Tbps (2010.11)
2010
2020
100
10-1
2030
インターネットトラフィック [Tbps]
104
105
年
図 1.1 日本のネットワークのトラフィックの増大と電気ルータの消費電力
の予測。ネットワークの通信トラフィック量の増加により電気ルー
タでの消費電力も急増している[3]。
3
と、日本のネットワークを流れるトラフィックの規模は、2010 年 11 月時点で約
1.71T(テラ)bps 相当であり、2009 年からの 1 年間だけで約 1.3 倍増えていた[2]。
図 1.1 に日本のネットワークのトラフィックの増大と電気ルータの消費電力を示
す[3]。通信量の増加と共に、ネットワーク機器の電気消費量も増え続けて、特
に電気ルータでの多大な消費電力が懸念されている。2001 年におよそ 7 億キロ
ワット時と推定されたのに対し 2006 年の同じ調査ではその 10 倍以上に増加し
ていることが分かる。2006 年時点での国内総電力発電量は、およそ 1 兆キロワッ
ト時であることから、ルータはその 1%の電力を消費していたことになる。今後
もネットワークの通信トラフィック量は年率 1.3 の倍率で増加する見込みであり、
今の技術のままで行くと、2022 年には電気ルータでの消費電力は 2007 年の国内
総電力発電量に相当する試算となり、消費電力の制約からネットワークの利用
を制限されることも懸念されている。電気ルータでの多大な電力消費の原因の
一つは光ー電気の二重変換である。図 1.2 に現存の電気ルータの信号処理の仕組
みを示す[4]。現在、ネットワークの光化は進んでおり、バックボーン回線での
信号転送はほぼ光化されている。しかし、ルータにおいては信号のルーティン
グの役割をしている光バッファメモリ技術が確立していないため、ルータに送
られた光信号は一旦電気信号に変換して電気回路により大量のバケット信号交
換を行った後、再び光信号に変換して送りだす仕組みとなっている。このよう
な二重変換による消費電力は現在ルータの全消費電力の約 25%を占めるという
試算となっている[4]。今後のトラフィック量の増加と伴い、電気ー光の二重変
換による電力消費問題は更に深刻化になると懸念されている。この多大な電力
4
図 1.2 現在ネットワーク電気ルータの信号処理の仕組みの説明図。電気ルー
タでの信号の二重変換による消費電力は現在ルータの全消費電力の
約 25%を占めるという試算となっている[4]。
消費問題を解決し、大容量で高速なネットワークを発展するには、光のままで
信号処理を行う全光ルータの実用化技術の確立が必要である。
全光ルータの実用化には、光のままで光信号をルーティングする技術が不可
欠である。その方式としては一般的に、光信号を波長単位でパスとして割り当
てる「光波長ルーティング」、行き先ごとにあらかじめまとめられたパケットを
光バースト信号として切り替える「光バーストルーティング」、そしてパケット
単位でルーティングする「光パケットルーティング」の三つの形態がある[5]。
特に、パケットルーティングは将来の光ネットワークの高速・大容量伝送に期
待される究極のパケットルーティング技術とも言われ、現在盛んに研究が行わ
れている[6-8]。全光パケットルーティングの実現の最大の課題は、光技術によ
るデータ転送による衝突時のバッファリングである。バッファリング機能の役
5
割をしているのが光バッファメモリ(RAM)で、高速光通信に適する技術要求が
高いため現在のところ有効な実用化技術が確立されていない。アクティブ多モー
ド干渉導波路型双安定レーザー(Active-MMI BLD)を用いた光 RAM メモリ素子は
製作プロセスが容易、任意遅延時間が設定可能、メモリ保持時間が長い、動作
が速い、高集積化が可能などの利点を持つため、光 RAM メモリ素子の候補とし
て注目されている[9-13]。しかし、素子サイズが比較的大きく(既報告では 1mm
程度)、集積型光ランダムアクセスメモリ(RAM)の基本構成要素としては課題が
あった[9]。そこで、本研究では、小型でも安定動作ができるアクティブ MMI
横モード間双安定レーザーを提案して、その動作の実験検証を行い、光 RAM メ
モリ素子としての実用化を目指している。
1.2 光バッファ(RAM)メモリ素子に関する研究
光バッファというのは、光信号を一時的に溜めて記憶する機能である。例え
ば、同じ方向に行きたい二つの光信号が同時に伝送されてきた場合、一方の信
号を待たせる必要がある。このとき、一方の光信号を一時的に溜めておき、他
方の光信号のルーティング処理が終了した後、溜められた光信号のルーティン
グ処理を行う必要がある。このような一時的に光信号を溜めておく役割をする
のが光バッファ(RAM) メモリである。光パケットルータ用の光 RAM メモリ素
子は、高速で大容量の光信号のルーティング処理をするため、速いスイッチン
グスピードだけではなく、少なくとも数百ナノ秒オーダのスイッチ保持時間が
必要である[5-6]。その技術的な要求が高いため、さまざまな研究機関で盛んに
6
研究が行われてきたが[14-22]、現在のところ実用化まで至っていない。表 1.1
に最近提案された光 RAM メモリ素子の技術特性について比較した。
表 1.1
タイプ
年
Coupled laser
2001
diodes
Micro-ring
2004
laser
SOA-MZI
2005
Injection
locked FP
2006
光 RAM メモリ素子技術の比較
特
長
課
題
任意遅延時間設定可能
速度が遅い
保持時間長い
同一電流設定困難
動作速い、低エネルギー
作製プロセス複雑
小型化、集積可能
同一電流設定困難
任意遅延時間設定可能
動作電流高い
保持時間長い
サイズが大きい
動作速い、低エネルギー
同一電流設定困難
プロセス簡単
動作波長依存性強い
動作速い、低エネルギー
作製プロセス複雑
小型化、集積可能
同一電流設定困難
小型化、高集積可能
作製プロセス複雑
動作速い、低エネルギー
保持時間短い
参考
[15]
[16]
[17]
[18]
laser diode
DFB laser
2008
フォトニック
結晶
2008
偏光双安定
小型化、高集積可能
2008
VCSEL
Active-MMI
2005
BLD
Active MMIDBR-BLD
2006
動作速い、低エネルギー
2008
BLD(本研究)
[20]
作製プロセス複雑
同一電流設定困難
[21]
偏光依存性強い
作製プロセス容易
小型化が困難
動作速い、高集積化可能
同一電流設定困難
動作波長範囲広い
素子サイズ大きい
[10]
動作速い、低エネルギー
作製プロセス複雑
[22]
作製プロセス容易
Active-MMI
[19]
小型化、高集積可能
動作速い、低エネルギー
[9]
[11]
モード間切り替え
[12]
[13]
表 1.1 に示すように、最近の光 RAM メモリ素子に関する研究は、光半導体レー
7
ザーによる光双安定素子とフォトニクス結晶を用いた光 RAM メモリ素子が主流
となっている。フォトニクス結晶型光 RAM メモリ素子は、小型化、高集積化可
能、低スイッチングエネルギー、高速動作などの利点から近年注目を浴びてい
るが、製作プロセスが複雑、メモリ保持時間が短いなどの欠点から現時点では
成熟な実用化技術として確立されていない。光半導体レーザーを用いた光 RAM
メモリ素子は、光による任意遅延時間設定が可能、メモリ維持時間が長い、高
集積化が可能などの特長を持つ。しかし、通常の双安定レーザーは小型化の際
双安定特性である電流ー光出力のヒステリシス幅(素子の動作設定可能な電流範
囲)狭くなるため、個々の素子性能などのバラつきから集積化時に全素子の同一
動作電流の設定困難が課題となっていた。本研究で提案しているアクティブ MMI
横モード間双安定レーザーは、小型化ながら非常に広いヒステリシス幅が得ら
れて、全素子の同一動作電流設定が可能となった。更に、ハイメサ導波路構造
を用いて、グレーティング構造等が不要でより簡単な方法で素子の単一波長発
振を実現して、高速メモリ動作を実現した。
1.3 双安定レーザーの概要
一つの入力値に対して二つの安定な出力を持つ現象を双安定と呼んでいる。
光双安定素子は、二つの安定な出力状態を入力光によって制御できる。双安定
半導体レーザーは半導体レーザーの一種で、注入電流及び入力光に対して二つ
の出力を持ち、入力光によって出力が制御できる特長を持つ。半導体レーザー
の双安定動作構造を最初に提案したのは Lasher らで[23]、1964 年、半導体レー
8
ザーが発明されて間もない頃だった。1965 年に Nathan らは Lasher らが提案した
構造に基づいて GaAs 半導体レーザーの双安定動作を初めて実証した[24]。1970
年代に半導体レーザーの室温連続発振が達成され、その後、InGaAsP/InP 系の半
導体レーザー及び結晶成長技術の発展と伴って、1981 年河口[25]と Harder[26]
らによって双安定半導体レーザーに関する研究が再開され、さまざまなタイプ
の双安定半導体レーザーが提案・実証されてきた。半導体レーザーの双安定動
作は、波形整形、光アンプ、光メモリ、波長変換、光論理などに応用されてい
る[27]。特に、入力光によって ON-OFF のメモリ動作特性は、光メモリ及び光論
理素子への応用に期待され、今まで盛んに研究を行ってきた。双安定レーザー
の動作原理から、屈折率の非線形性を利用した分散型、吸収係数の非線形性を
利用した吸収型、発振モードの相互利得抑制効果を利用したモード双安定型と
分かれている。
分散型双安定半導体レーザー[28-29]は、リング型共振器[15-16]と非線形媒質
のファブリーペロー共振器型があるが、光共振器の通過特性が、電流注入及び
光注入で生じる屈折率の変化によって帰還を受けることにより、双安定特性が
生じる[30-32]。非線形媒質ファブリーペロー共振器型は光増幅器としての応用
が多く見られる。リング型共振器双安定半導体レーザーを光 RAM メモリとして
の応用の報告が多く見られている[15]。最も特性がいいのは 2004 年 M. T. Hill ら
により提案されたマイクロリングレーザー(Micro-ring laser)[16]で、小型で低消費
エネルギーなどの特長を持つが、製作プロセスが難しいなどの欠点がある。
吸収型双安定半導体レーザー[33-35]は、レーザー共振器内可飽和吸収体を導
9
領域 A
I2
領域 B
光出力
Output [a.u.]
I1
ON
(信号光入射)
OFF
Injection current [a.u.]
活性層
(b)
(a)
図 1.3 吸収型双安定半導体レーザーの構造図及び電流ー光出力特性。(a)
双安定半導体レーザーの構造図。 (b)双安定半導体レーザーの電
流ー光出力特性。可飽和吸収領域の働きにより、電流ー光出力のヒ
ステリシスを実現する。
入することで、注入電流の不均一により、注入電流及び入力光に対し出力光の
双安定特性を生じる。基本的な吸収型双安定半導体レーザーは、図 1.3(a)に示す
ように、2 分割された電極を持ち、注入電流の不均一によって図 1.3(b)に示すよ
うな電流ー光出力のヒステリシス特性を持つ。このヒステリシスは素子の光双
安定特性の特徴で、広いほど安定した双安定性が得られる。双安定レーザーを
メモリ素子として応用する際は、このヒステリシス幅が素子の動作電流設定範
囲であり、広いほど全集積素子の同一動作電流の設定が可能となる。ヒステリ
シス幅は、可飽和吸収領域の長さにより決められ、長いほどヒステリシス幅は
広くなるが、素子の閾値電流が高くなることが懸念される。吸収型双安定レー
ザーの利得領域での注入電流をヒステリシス幅内に設定して、外部から光をキャ
ビティ内に入射するとレーザーが発振して、入力光がなくなっても発振が維持
されてメモリ動作を実現できる。ところが、吸収型双安定レーザーの立ち上が
り、立下りは基本的にキャリア密度の変動によって律速されるため、10Gbps 程
10
度が限界となり、将来の高速光ネットワークへの応用は困難がある[27]。この問
題を解決するために、提案されたのがモード間双安定型レーザーである。
二つの発振モードがある半導体レーザーにおいて[9][13][21]、発振モードの間
は非線形利得により相互利得抑制効果が生じ、
モード間の双安定が実現できる。
半導体レーザーは利得飽和によりホールバーニング効果が起こり、発振するモー
ドが自身の利得を飽和させる以上に他のモードの利得を飽和させる特性を持っ
ている[36-37]。この特性によって、二つの発振モードの間は、相互利得抑制効
果が生じ、一つのモードが発振するともう一つのモードが抑制され、二つの光
の間は双安定が得られる。モード間双安定レーザーは、外部から光を入射させ、
二つモードの光の発振状態を制御することができ、光モード間の切り替えが実
現できて、メモリとして動作する。モード間双安定型レーザーは、モード間の
切り替えを利用するため、スイッチングスピードが吸収型双安定レーザーより
極端に速い特長を持つ。通常二つの発振モードの間には強い相互利得抑制効果
が得られにくいため、素子に可飽和吸収領域を設けて、相互利得抑制効果を強
化させる。モード間双安定動作を行う半導体レーザーは、主に TE モードと TM
モード間の双安定を利用する偏光型[38-40]と、横モード間の双安定を利用する
アクティブ MMI 型[9-13]に分かれている。偏光型双安定レーザーは、1984 年
Chen[38]らにより初めに提案されて、半導体レーザーの TE モードと TM モード
光の間の双安定を利用してメモリ動作を実現する。Kawaguchi 教授ら[21]による
動作実証されたメモリ素子は、サイズが小さく、動作エネルギーが少ないなど
の特長があるが、素子のヒステリシス幅が狭く(1~3mA 程度)、動作の偏光依存
11
性が強いなどの欠点がある。アクティブ MMI 双安定レーザーは、2003 年に竹
中らによって提案され[9]、複数の異なるモードを意図的に発生干渉させるアク
ティブ MMI の特長を生かして、光の双安定を実現し、全光フリップフロップ動
作を実証した。しかし、彼らが提案しているアクティブ MMI 双安定レーザーは
モード間の相互利得抑制領域が小さいため、素子のサイズが大きく、ヒステリ
シス幅が狭いなどの欠点がある。これに対し、我々が提案しているアクティブ
MMI 横モード間双安定レーザー[11-13]は、極端に大きい相互利得抑制領域が確
保でき、小型化の際にも広いヒステリシス幅が確保できる。
1.4 アクティブ MMI(多モード干渉導波路)双安定レーザー
多モード干渉導波路(MMI: MultiMode-Interference)は、
「自己結像」に基づいた
光多モード干渉を利用した導波路である[41]。
多モード光に関する研究の基礎は、
今からおよそ 170 年昔の 1836 年に発見されたタルボ効果(Talboteffect) [42]に遡る。
「自己結像」に基づいた光多モード干渉現象に基づくことで、多モード光導波
路内で、入射光と同じ光フィールドが 1 個若しくは複数個、導波方向に沿って
周期的に現れる。これを利用して、例えば N 入力 N 出力の受動合分岐光導波路
技術などとして、主に 1990 年以後盛んに研究されるようになってきた[43-44]。
1997 年、複数の異なるモードを意図的に発生させて、干渉させることが可能な
「アクティブ(Active)」MMI デバイスが浜本教授によって提案・実証された[45]。
図 1.4 は提案されたアクティブ MMI レーザーの概要図を示す[45]。MMI 導波路
部においてマルチモード光が発生し、干渉しながら周期的に結像されている。
12
アクティブ MMI は光増幅器用励起レーザーとして多く検討され[46-47]、最大光
出力 1.46W、1W 出力時の駆動電圧 1.75V という優れた素子性能が報告されてい
る[47]。半導体レーザー以外でも、アクティブMMI は光アンプ、光スイッチ[48-49]
にも応用される例が報告されている。近年は、アクティブ MMI の応用領域は更
に発展され、MMI 現象を利用する高出力 SLED[50]、モード制御を利用する光
RAM メモリ素子[9-13]、単一波長レーザー発振[51]などにも応用されている。
Single-Transverse-Mode Waveguide Region
1×1-MMI
Coupler
Optical Field
Output-Beam
(a)
(b)
図 1.4
Active MMI レーザーの概要図[45]。(a)導波路上面図、(b)ビーム伝
搬法による光フィールド分布計算結果。MMI 導波路部においては
マルチモードが発生し、周期的な干渉を経てシングルモードとし
て出力されている。
アクティブ MMI 双安定レーザーは、MMI 導波路での二つのモードの相互干
渉により生じるモード間相互利得抑制効果と可飽和吸収領域の働きにより二つ
の発振モード間の双安定を実現している。製作プロセスが簡単、高集積化が可
13
能、任意遅延時間設定が可能、メモリ保持時間が長いなどの特長がある。図 1.5(a)
に 2003 年に竹中ら[9]により提案されたアクティブ MMI 双安定レーザーの構造
を示す。このアクティブ MMI は二つの入力ポートと二つの出力ポートを持ち、
二つの対称経路の発振モードがある。二つの発振モードは MMI カプラの交叉し
ている部分で干渉し合うことでモード間の相互利得抑制効果が生じる。この相
互利得抑制効果だけでは二つのモードの間は充分な双安定性が得られないため、
相互利得抑制領域
相互利得抑制領域
可飽和吸収領域
(a)
可飽和吸収領域
(b)
図 1.5 アクティブ MMI 双安定レーザーの構造図。(a)既報告アクティブ
MMI 双安定レーザー、二つの光モードの間の相互利得抑制領域は
MMI カプラの内のごく一部のみである。(b)アクティブ MMI 横モー
ド間双安定レーザー、片側の共通ポートを利用することで、より大
きなモード間相互利得抑制領域が確保できる。
14
素子に可飽和吸収領域を設けている。二つのモード間の相互利得抑制効果と可
飽和吸収領域の働きによって、安定した光双安定性が得られ、素子の電流ー光
出力のヒステリシスが実現できる。このヒステリシス幅内に動作電流を設定し、
外部から一方のポートから光を入射すると、この経路の発振モードが励起され、
メモリは ON 動作を実現する。この時、入射光が消えても、メモリは ON 状態を
維持する。この発振状態で、もう一つの経路から光を入射すると、入射経路の
モードがすべての利得を奪い、発振することになり、対称経路での発振は止まっ
てしまい、メモリは OFF 動作を実現する。このような動作で、全光で制御する
1bit メモリ動作を実現し[10][22]、更にこの原理の適用により 40Gbps パケットス
イッチング動作も実現した[52]。
しかし、この構造のアクティブ MMI 双安定レーザーは、素子サイズが比較的
大きく(既報告では 1mm 程度)、ヒステリシス幅が狭い、動作電流が高いなど集
積型光ランダムアクセスメモリ(RAM)の基本構成要素として課題があった。動
作電流を低減するために、有効な方法は素子の小型化であるが、素子を小型化
する際、二つの光モードの間の相互利得抑制領域は MMI カプラの内のごく一部
にのみであるため、全体に占める相互利得抑制領域の割合は更に小さくなり、
十分な双安定性が得られないので、結果としてヒステリシス幅が狭くなる。可
飽和吸収領域を長くすることで、ヒステリシス幅は広くなるが、素子の閾値電
流も高くなり、低動作電流の実現は難しくなる。そこで、我々はアクティブ MMI
の二つのモード間の相互利得抑制領域を大きくする方法について検討して見た。
図 1.5(b)に示すような、レーザーの入力を一つのポートにすれば、入力ポートの
15
部分はすべて二つのモード間の相互利得抑制領域となり、MMI カプラ内の相互
利得抑制領域まで加えると、二つの入力ポートを持つ構造より極端に広い相互
利得抑制領域が実現できると考えた。ところが、同じ入力端を使用する場合、
通常同一波長の光では同一経路を伝搬するため、二つの発振モードを実現する
ことができない。この問題を解決するために、我々は光のモードに着目し、0 次
モード光と 1 次モード光間の双安定を利用するアクティブ MMI 横モード間双安
定レーザーの動作原理を提案した[11]。二つの独立の横モード(0 次モード、1 次
モード)が、片側の共通ポートから入射し、MMI カプラ内でそれぞれ異なる経路
を通って、異なるポートから出力できれば、モード間により大きな相互利得効
果が得られ、可飽和吸収領域を短く設計しても充分なヒステリシス幅が得られ
ると考えられる。更に、入射ポートの長さが素子全長に占める割合を変えるこ
とによって、モード間の相互利得抑制領域の割合を変更することが可能となり、
素子のヒステリシス幅がコントロルできると考えられる。この原理を用いて、
我々は 315µm まで素子を小型化し、39mA の低閾値電流と共に広いヒステリシ
ス幅を実証した[12]。そして、アクティブ MMI 型光 RAM 素子の 4bit 集積素子
の同一動作電流を実証し[53]、世界最高なヒステリシス幅を確認した[54]。その
上、ハイメサ導波路構造を用いることで、光 RAM メモリ素子の単一波長発振と
共に 40Gbps 信号による全光高速メモリ動作を実証した[13]。
1.5 本論文の構成
本論文は 7 章で構成され、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーを用い
16
た光 RAM メモリ素子の動作原理の提案、及び実験による検証結果をまとめたも
のである。
第 1 章では、本研究の背景と目的を述べる。現存の光 RAM メモリ素子の研究
について述べ、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーを用いた光 RAM メ
モリ素子に関する研究の必要性及び目的を述べる。
第 2 章では、アクティブ MMI 双安定レーザーの横モード間の双安定動作原
理を理論的に説明する。二つの光モード間の相互利得抑制領域とヒステリシス
幅との関係を理論的に解析して、モード間の相互利得抑制領域とヒステリシス
幅との関連について説明する。
第 3 章では、シミュレーションによる新動作原理の検証結果を示した後、実
際の試作素子のメモリ素子特性の評価結果を示す。その結果、(1)シミュレー
ションから大きな相互利得抑制領域が得られること、(2)試作した結果、既報
告の半分の素子サイズにもかかわらず、8mA と比較的に広いヒステリシス幅
が得られること、を明らかにする。
第 4 章では、横モード間相互利得抑制領域の割合を大きくすることによる、
更なる小型化と広いヒステリシス幅の実験実証結果を示す。その上、4bit 集積
素子の同一低動作電流の実証結果と部分 MMI 可飽和吸収領域設計による極広
ヒステリシス幅の実証結果を示す。その結果、(1)素子長 315µm と更なる小型
設計としたにもかかわらず、低閾値電流値(58mA)と極めて広いヒステリシス
幅(32mA 、対閾値電流比 55%)が得られたこと、(2)4bit 集積素子の 8mA の共
通動作電流領域および全集積素子の同一電流動作を確認したこと、(3)部分 MMI
17
可飽和吸収領域構造の適用による世界最高のヒステリシス幅 94mAを実現した
こと、を明らかにする。
第 5 章では、横モード間相互利得抑制領域とヒステリシス幅の関係の実験実
証の結果を用いて、低閾値電流と共に広いヒステリシス幅が実現できる設計に
よる低閾値電流化を示す。7mA(対閾値電流比 18%)と十分に広いヒステリシス
幅を維持した上で、低閾値電流 39mA を実現したことを示す。
第 6 章では、ハイメサ導波路構造を用いたアクティブ MMI 横モード間双安
定レーザーの試作素子の動作実証結果を示す。その結果、(1)コア層とクラッ
ド層の高い屈折率の差による素子の単一波長発振を確認したこと、(2)25ps の
短い光パルス信号による全光高速メモリ動作を実現したこと、
を明らかにする。
第 7 章では、これまでの研究結果をまとめ、今後の展望について述べる。
18
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25
第2章
アクティブ MMI 型光 RAM メモリ
素子の基本原理
2.1 序
相互利得抑制領域
可飽和吸収領域
相互利得抑制領域
可飽和吸収領域
(b)
(a)
図 2.1 アクティブ MMI 双安定レーザーの構造図。(a)既報告アクティブ
MMI 双安定レーザー。(b)アクティブ MMI 横モード間双安定レー
ザー。
我々は、既報告のアクティブ MMI 型光 RAM メモリ素子(図 2.1(a))の素子サイ
ズが比較的大きく、また、ヒステリシス幅(素子の動作電流設定可能範囲)が狭い
という課題を解決するために、図 2.1(b)に示すような横モード間光双安定動作原
理を利用するアクティブ MMI 型光 RAM 素子を提案した。この横モード間光双
安定は、片側端で共通ポートを用いることで、光モード間の相互利得抑制領域
が飛躍的に大きく確保でき、結果として、広いヒステリシス幅が実現できると
考えられる。ところがこの構造では、通常同一波長の光が同一経路を伝搬する
ため、二つの発振モードを実現するのは不可能である。そこで、我々は光のモー
ドに着目して、もし 0 次モード光と 1 次モード光が同じポートから入射され、
それぞれの伝搬経路を通って異なるポートから出力できれば、この構造で異な
26
第2章
アクティブ MMI 型光 RAM メモリ
素子の基本動作原理
2.1 序
相互利得抑制領域
可飽和吸収領域
相互利得抑制領域
可飽和吸収領域
(b)
(a)
図 2.1 アクティブ MMI 双安定レーザーの構造図。(a)既報告アクティブ
MMI 双安定レーザー。(b)アクティブ MMI 横モード間双安定レー
ザー。
我々は、既報告のアクティブ MMI 型光 RAM メモリ素子(図 2.1(a))の素子サイ
ズが比較的大きく、また、ヒステリシス幅(素子の動作電流設定可能範囲)が狭い
という課題を解決するために、図 2.1(b)に示すような横モード間光双安定動作原
理を利用するアクティブ MMI 型光 RAM 素子を提案した。この横モード間光双
安定は、片側端で共通ポートを用いることで、飛躍的に光モード間の相互利得
抑制領域が大きく確保でき、結果として、広いヒステリシス幅が実現できると
考えられる。ところがこの構造では、通常同一波長の光が同一経路を伝搬する
ため、二つの発振モードを実現するのは不可能である。そこで、我々は光のモー
ドに着目して、もし 0 次モード光と 1 次モード光が同じポートから入射され、
それぞれの伝搬経路を通って異なるポートから出力できれば、この構造で異な
26
る光モード間の双安定が実現でき、素子を小型化しても十分に広いヒステリシ
ス幅が確保できると考えた。
2 章では、アクティブ MMI 横モード光間双安定レーザーの基本動作原理につ
いて説明する。2.2 では、まず MMI 導波路においてのモード結像の理論を簡単
に紹介して、片側端で共通ポートを持つ構造で、0 次モードと 1 次モード光がそ
れぞれ異なるポートから伝搬できることを理論的に解析する。2.3 では、二つの
光モード間の一般的な双安定動作条件について説明する。2.4 では、アクティブ
MMI 横モード双安定レーザーの一般動作原理を述べ、定常状態でのレート方程
式を用いて光モード間の相互利得係数とヒステリシス幅との関係を示す。ヒス
テリシス幅は、二つの光モード間の相互利得抑制係数が増えるとともに、線形
的に増加できることを理論的に解析する。相互利得抑制領域が大きくなると、
光モード間の相互利得抑制係数も増え、結果として広いヒステリシス幅が得ら
れることを説明する。
2.2 MMI による横モード結像の基本原理
多モード干渉導波路(MMI: MultiMode-Interference)は、
「自己結像」に基づいた
光多モード干渉が利用された導波路である[1-4]。MMI 導波路構造の中心部は、
多モードの光を許容する導波路となっていて、この導波路内で「自己結像」に
基づいた光の多モード干渉現象が生じ、入射光と同じ光フィールドが 1 個若し
くは複数個、導波方向に沿って周期的に現れる。図 2.2 に一つの例として、MMI
導波路の中心部においての光モード伝搬のシミュレーション図を示す。中心か
27
図 2.2 MMI 導波路構造中心部においての光モード伝搬のシミュレーショ
ン図。MMI 導波路内部には入射光と同じ光フィールドが 1 個もし
くは複数個、導波方向に沿って周期的に現れている。
ら入射した 0 次モード光がそれぞれ違う位置で 1、3、5 個の結像をしているこ
とが見られる。光モードの結像位置は、入射光の入射位置、波長、導波路の屈
折率、MMI 導波路の幅などによって決められている。MMI 導波路の設計はこの
結像条件に満たす必要がある。それでは、まず MMI 導波路中心部の各光モード
の結像の条件について説明する。
2.2.1 MMI 導波路結像の一般原理
本項の説明は論文[1]に基づいている。図 2.3(a)に示すような y 方向に一様な構
造をもつスラブ導波路で、TE 波が z 方向へ伝搬する時の各モードのフィールド
分布と伝搬定数を考察する[1]。クラッド層の屈折率は nc、コアの実効屈折率は
nr、導波路の実際の幅は WMMI、グースヘンシェンシフトを考慮した仮想的な導
波路の幅、即ち導波路の実効幅は We である。二次元のスラブ導波路の TE 波は
コアの中で
∂2Ey
∂x
2
+
∂2Ey
∂z
2
+ k02 nr2 E y = 0
28
(2.1)
i=0
z
x
WMMI We
0
x
We
(a)
図 2.3
(b)
i=1
(a) y 方向に一様な構造をもつスラブ導波路。(b) i=0,1 の場合の x
方向のフィールド形状。
を満たす。あるモードにいて考えると、モードは z 方向に e-jβz の依存性を持ち、
x 方向の依存性を Αe − jk x x + Βe jk x x で表すと、式(2.1)は
k x2 + β 2 = k02 nr2
(2.2)
となる。ここで、
k0 =
2π
λ0
である。モードの次数を i とすると(i=0,1,2,…),
(2.3)
図 2.3(b)より kx は次のような形
で書ける。
kx =
(i + 1)π
We
(2.4)
ここで、We は導波路の実効屈折幅で、TE モードの時、
We ≈ WMMI + (
λ0 2
−1
)(nr − nc2 ) 2
π
である。
式(2.2)から伝搬係数を求める。
29
(2.5)
β 2 = k 02 nr2 − k x2 = k 02 nr2 − {

(i + 1)π 2 
} 
∴ β = k 02 nr2 − {
We


1
2
(i + 1)π 2
}
We
≈ k 0 nr −
(i + 1) 2 πλ0
4nrWe2
(2.6)
式(2.6)は各モードの伝搬定数とモード番号 i に関係する二次式で近似されて
いることが分かる。式(2.6)を利用して二つのモードのビート長を求めることがで
きる。0 次モードと 1 次モードのビート長 Lπを次のように定義する[1]。
4n W 2
π
≅ r e
β 0 − β1
3 λ0
Lπ =
(2.7)
同様に 0 次モードと i 次モードの伝搬定数差は
i (i + 2)π
3Lπ
β0 − βi ≅
(2.8)
である。直線状導波路における任意フィールドは、モードの重ね合わせで表現
できる。式で表現すると、
E y ( x, z ) = ∑ ci φi ( x)e − jβi z
(2.9)
i
である。0 次モードの位相を基準に考えると、他のモードと 0 次モードの位相差
は(2.10)のように表される。
E y ( x, z )
e
即ち、e
j
i (i + 2) π
z
3 Lπ
− jβ0 z
= ∑ ci φi e
− j ( βi − β0 )
= ∑ ci φi e
j
i (i + 2) π
z
3 Lπ
(2.10)
i
i
は伝搬による位相差を表している。例えば、ある z 位置において、
式(2.10)の値がすべてのモードで 1(中括弧の中が 2πの整数倍)となる時、入射端
と同じ形の像が形成される。
通常の MMI 導波路の結像条件は
30
LMMI = n ⋅ 3Lπ
(2.11)
である。光モードが MMI 入射して、MMI で伝搬して同じ形で結像するために
は、 e
j
i (i + 2) π
z
3 Lπ
が 2πの整数倍になる必要がある。即ち、
exp[ j
i (i + 2)π
LMMI ] = exp[ j ⋅ i (i + 2)π ]
3Lπ
(2.12)
になる必要がある。この条件を満たすためには、 LMMI = n ⋅ 3Lπ となる必要があ
る。入射位置が左右対称時の結像条件は
LMMI = n ⋅
3Lπ
4
(2.13)
である。入射が左右対称の時、マルチモード導波路長が 1/4 の大きさで 1xN 分
岐構造が実現可能となる。即ち、
exp[ j
i (i + 2)π
i (i + 2)π
LMMI ] = exp[ j ⋅
]
3Lπ
4
(2.14)
になる必要がある。そのため、LMMI は式(2.13)を満たす必要がある。
M 個入射で、N 個出力がある MMI 導波路において、入射した光を関数 fin(x)
として表す場合、 LM
N =
M
3Lπ 位置での出力関数は fout(x)の形で表すことができ
N
る[5]。
f out ( x) =
1
C
N −1
∑ f in ( x − xq ) exp( jφq )
q =0
ただし、
M
W
N
M
φq = q ( N − q ) π
N
xq = ( 2 q − N )
31
(2.15)
N −1
xq
q =0
W
C = exp( jβ0 LMMI ) ∑ exp[− jπ
である。ここで、q は LM
N =
+ jφq ]
(2.16)
M
3Lπ 位置での結像の数、
xq は入力光より出力光
N
が x 方向での位置ずれ、φq は入力光と出力光の位相差を意味している。ただし、
C は係数であり、像が逆位相で重なる時は、打ち消し合う、 C = N である。こ
の時、出力された各モードのパワーは
2
1
Pout ( x) = ∑ f in ( x − x q ) exp( jφq )
C
(2.17)
と表す。
2.2.2 0 次モードと 1 次モード光の結像
図 2.4
MMI 横モード双安定レーザーの 0 次モードと 1 次モード光の伝搬
予想図。0 次モードと 1 次モード光が共通ポートから入射され、
MMI 導波路中心部で自己干渉を行い、異なるポートから出力され
ると考えられる。
続いて我々が提案している MMI 導波路での 0 次モードと 1 次モードの伝搬の
様子について説明する。横モード間双安定レーザーを実現するには、0 次モード
光と 1 次モード光が図 2.4 のように共通ポートから入射して、それぞれ異なる
32
1 次モード
fin(x)
0 次モード
0
-W
W
x
-fin(-x)
図 2.5 光のモード関数を-W から W の範囲まで拡張する時の説明図。
光のモードは-x 側は奇対称な形になると仮定する。
ポートから出力する必要がある。しかし、実際に 0 次モード光と 1 次モード光
が同じ入射位置から入射して、MMI 導波路内で干渉しながら伝搬し、ほぼ対称
して出力するのを実証することが難しい。そこで、我々は MMI の結像の条件に
基づいて、MMI 導波路の幅と長さを決め、光の入射位置と出力位置を指定して、
それぞれの出力位置での各モードの出力パワーについて計算した。もし、0 次
モード及び 1 次モードの光の各自の出力端から出力されるパワーが同じであれ
ば、独立した二つのモードとして伝搬できると考えられる。
解析をより簡単にするために、図 2.5 に示すように光のモード関数を-W から
W の範囲まで拡張して、-x 側は奇対称な形になるとし、境界条件 f(-W)=f(W)を
満たすと仮定する[5]。M 個入射光の N 個出力がある MMI 導波路において、入
射した光を関数 fin(x)として表す場合、位 LM
N =
M
3Lπ 置での出力関数は fout(x)
N
が、
1
f out ( x) =
C
N −1
∑ f in ( x − xq )(−1) q exp( jφq )
q =0
33
(2.18)
であることを仮定する。MMI 導波路の幅を W とし、長さを 3/4Lπとして、入射
ポートの位置が x 方向の W/4 の時、出力側の x 方向の W/4 と 3W/4 の位置での
出力パワーを計算する。ここで、コア層とクラッド層の比屈折率差が高いため、
導波路の幅を実効幅として仮定する。MMI の長さを 3/4Lπとしているため、M=1
で、N= 4 である。入力関数 fin(x)が x 方向の W/4 位置から入射する時、伝搬方向
の LMMI=3/4Lπ位置において、q、xq、φq の値はそれぞれ(q=0, xq=-W, φq=0)、(q=1,
xq=-W/2, φq=3/4π)、(q=2, xq=0, φq=π)、(q=3, xq=W/2, φq=3/4π))の四つの値を持つ。
x>0 領域のみ考えると、
f out ( x) =
1
W
3
W
3 
 f in ( x + W ) − f in ( x + ) exp( j π ) + f in ( x) exp( jπ ) − f in ( x − ) exp( j π )
C
2
4
2
4 
(2.19)
となる。これらのモードを重ね合わせると、伝搬方向が LMMI=3/4Lπ位置におい
て、x 方向の W/4 の付近の出力関数は
f out ( x) =
1
1
1 
W
+ j
)
− f in ( x) − f in ( x − ) * (−
2
C
2
2 
(2.20)
となり、出力パワーP は
1
W
1
1
+j
P = f out ( x) = 2 f in ( x) + f in ( x − ) * (−
)
2
C
2
2
2
2
1 
1
W  1
W 
=  f in ( x) −
f in ( x − ) +  f in ( x − )
4 
2  2
2 
2
2
2


(2.21)
である。同じように、3W/4 付近の出力関数及びパワーは
f out ( x) =
1
1
1 
W
+ j
)
 f in ( x + W ) − f in ( x + ) * (−
2
C
2
2 
34
(2.22)
1 
1
W 
1
W 
P =  f in ( x + W ) +
f in ( x + ) +  f in ( x + )
4 
2 
2
2 
2

2
2


(2.23)
である。0 次モードの場合は、fin(x) = fin(x-W/2), fin(x+W) = -fin(x-W/2)の関係が、1
次モードの場合は、 fin(x) =- fin(x-W/2)、 fin(x+W) = -fin(x-W/2) の関係がある。
式(2.20~2.23)を用いて x=W/4 と x=3W/4 の出力位置において各モードのパ
ワーを計算した結果を図 2.5 に示す。W/4 出力位置において、0 次モードと 1 次
モードのそれぞれの出力パワーは(2.24)のように表される。
0 次モード出力パワー: P0 = (2 +
1 次モード出力パワー: P1 = (2 −
2
2
2
2
) f in ( x)
) f in ( x)
2
(2.24a)
2
(2.24b)
3W/4 の出力位置においての 0 次モードと 1 次モードのそれぞれの出力パワー
は(2.25)のように表される。
0 次モード出力パワー: P0 = (2 −
1 次モード出力パワー: P1 = (2 +
2
2
2
2
) f in ( x)
) f in ( x)
2
2
(2.25a)
(2.25b)
これは、0 次モード光は x=W/4 の位置から MMI に入射する時、x=W/4 に出
力位置では入力パワーの約 85%、x=3W/4 の出力位置では入力パワーの約 15%
の出力があることを意味している。1 次モード光は、0 次モード光と逆で x=W/4
に出力位置では約 15%、x=3W/4 の出力位置では 85%の出力がある。アクティ
ブ MMI の発振は各経路の利得について考える必要があって、経路間の利得差が
3dB 以上であれば、利得が高い方が安定した発振動作が期待できる[6]。0 次モー
ド光の場合、x=W/4 から出力される経路が x=3W/4 から出力される経路より
35
70%以上強い、即ち二つの経路の利得差が 7dB 以上であるため、x=W/4 の経路
が安定した発振となると考えられる。同じ原理で、1 次モードは x=3W/4 の経路
が安定した発振となる。その為、0 次モードと 1 次モードの発振はそれぞれ独立
して、異なる経路を通って異なるポートから出力できると考えられる。
z
LMMI=3/4Lπ
x
x=W/4
W
x=W/4
2
P0 = (2 − 2
2 ) f in ( x)
P0 = (2 + 2
2 ) f in ( x)
2
x=3W/4
図 2.5
P1 = (2 + 2
2 ) f in ( x)
P1 = (2 − 2
2 ) f in ( x)
2
2
0 次モード光と 1 次モード光が各ポートからの出力パワーの計算
結果。x=W/4 の位置から入射する時、x=W/4、x=3W/4 の出力位
置で出力される 0 次モードと 1 次モードのパワーが対称性を持つ。
2.3 光モード間の双安定の一般条件
レーザーが二つの発振モードを持つ場合、利得飽和によって二つの発振モー
ドの間は相互利得抑制が生じて、この相互利得抑制によって二つのモードは双
安定性を持つ[7-8]。モード間の相互利得抑制に寄与しているのは、非線形利得
である。Tang らは二つの光モードの双安定の一般条件について分析した[9]。こ
こで、彼らの分析に基づいて、光モード間の双安定の一般条件について説明す
36
る[10-12]。
一つの光モードの非線形利得は次のように表す[10]。
gi ( I i ) =
gi 0
(1 + εii I i )
(2.26)
ここで、gi0 は線形利得で、Ii は光モードの強度である。ɛii は自己飽和利得係数で
ある。ɛiiIi <<1 の場合、式(2.26)は g i ( I i ) = g i 0 (1 − ε ii I i ) となる。
レーザーなどで二つの発振モードを持つ場合、二つの発振モードの強度変化
はお互いの強度に非線形的に依存している。その強度の時間的な変化を(2.27)の
ように表す[9]。
dI1
= g1I1 (1 − ε11I1 − ε12 I 2 )
dt
dI 2
= g 2 I 2 (1 − ε21I1 − ε22 I 2 )
dt
(2.27a)
(2.27b)
ここで、ɛ11 と ɛ22 は自己飽和係数で、ɛ12 と ɛ21 は相互利得抑制係数である。定
常状態において、
dI1
dI
= 0, 2 = 0 であるため、方程式(2.27a)と(2.27b)は
dt
dt
I1 = 0
I2 = 0
or
or
ε 11 I 1 + ε 12 I 2 = 1
ε 21 I 1 + ε 22 I 2 = 1
(2.28a)
(2.28b)
を満たす。我々は、式(2.28) に基づいて、I1 を横軸、I2 を縦軸として、ɛ11ɛ22>ɛ12ɛ21
の時の二つの光のモードの強度と自己飽和係数と相互利得抑制係数との関係グ
ラフを図 2.6 に示す[11]。図 2.6 に示すように、二つのモードの相互利得抑制効
果が弱い時、即ち ɛ11ɛ22>ɛ12ɛ21 の場合、二つのモードの定常状態を満足させるの
は三つの点である。I1 軸及び I2 軸にある点は、I1 もしくは I2 のモードが発振して
いない状態である。二つのモードの強度が 0 でないのは、X(x1,x2)の点であり、
この点が、定常状態の二つのモードの強度の関係である。
37
x1 = (ε12 − ε22 ) (ε21ε12 − ε11ε22 )
(2.29a)
(2.29b)
x2 = (ε21 − ε11 ) (ε21ε12 − ε11ε22 )
I2
1/ɛ12
İ1>0
İ2<0
1/ɛ22
İ1<0
İ2<0
X(x1,x2)
İ1<0
İ2>0
İ1>0
İ2>0
0
0
図 2.6
1/ɛ11
1/ɛ21
I1
ɛ11ɛ22>ɛ12ɛ21 の時の二つの光のモードの強度と自己飽和係数と相互
利得抑制係数との関係グラフ。二つのモードの定常状態を満足さ
せるのは三つの点である[11]。
続いて、二つのモードの相互利得抑制効果が弱い場合(ɛ11ɛ22>ɛ12ɛ21)と強い
(ɛ21ɛ12>ɛ11ɛ22)場合、二つのモードの強度の変化について検討してみる[9]。図 2.7
にそれぞれ異なる飽和係数及び相互利得抑制係数を用いて計算した二つのモー
ドの強度の変化について示す。相互利得抑制効果が弱い場合、即ち ɛ11ɛ22>ɛ12ɛ21
が満たす時、図 2.7(a)~(c)に示すように、一つまたは二つの光のモードの安定動
作が得られる。この場合は二つのモードの間は安定した双安定状態を得られに
くい。その一方、相互利得抑制効果が強い場合、即ち ɛ21ɛ12>ɛ11ɛ22 を満たす時、
38
Mode2 の強度
1.0
(a)
ɛ12/ɛ22=0.7
ɛ21/ɛ11=0.7
(d)
1.4
1.4
(b)
0.7
1.1
(e)
0.9
1.4
(c)
1.1
0.7
(f)
1.4
0.9
0.5
Mode2 の強度
0
1.0
0.5
Mode2 の強度
0
1.0
0.5
0
0
0.5
0
1.0
Mode1 の強度
0.5
1.0
Mode1 の強度
図 2.7 異なる自己飽和係数と相互利得抑制係数を持つ時の Mode1 と
Mode2 の強度の関係グラフ(I1 と I2 はそれぞれ 1/ɛ11 と 1/ɛ22 までの
数値をとる)。すべてのケースについて g1 と g2 は同じだと仮定す
る。(a)~(c) ɛ11ɛ22>ɛ12ɛ21 の場合の二つのモードの関係グラフ。(d)~(f)
ɛ21ɛ12>ɛ11ɛ22 の場合の二つのモードの関係グラフ[8]。
安定した双安定状態が得られている。図 2.7(d)に示すように X が位相面の第一象
限にある場合、二つのモードの間は双安定性が得られる。まだ、ɛ21ɛ12>ɛ11ɛ22 の
39
状態で、x1>0,x2<0 の時、図 2.7(f)のようにモード 2 が発振する;x1<0,x2>0 の時、
図 2.7(e)のようにモード 1 が発振する。これらの結果から、二つのモード間の双
安定を得るためには、必ずモード間の相互利得抑制効果を強くする必要、即ち
ɛ21ɛ12>ɛ11ɛ22 を満たす必要があることが分かる。
通常の半導体レーザーの発振は内部損失が関わっている。ここで内部損失を
考慮した時の二つのモードの双安定動作条件について考察して見る[13]。内部損
失を考慮した二つの光のモードの強度の方程式は次の式(2.27)で示される[10]。
dI1
g1
=(
− l1 ) I1
dt
1 + ε11 I1 + ε12 I 2
(2.30a)
dI1
g2
=(
− l2 ) I 2
dt
1 + ε 22 I 2 + ε 21 I1
(2.30b)
ここで、l はモードの利得に依存しない損失である。定常状態において、式(2.30)
は
I1 = 0
or
g1
− l1 = 0
1 + ε11 I 1 + ε12 I 2
(2.31a)
I2 = 0
or
g2
− l2 = 0
1 + ε 22 I 2 + ε 21 I 1
(2.31b)
を満たす。この三つの安定状態は、自己飽和係数及び相互利得抑制係数によっ
て決定される。ここで、双安定条件を求めるために、次のように x1,x2 を定義す
る。
x1 =
1 g2
1 g1
( − 1) −
( − 1)
ε21 l2
ε11 l1
(2.32a)
x2 =
1 g1
1 g2
( − 1) −
( − 1)
ε12 l1
ε22 l2
(2.32b)
二つの光のモードは x1,x2 によって発振状態が決められる[13]。
1)
x1<0
x2>0 :モード 1 が発振する。
40
2)
x1>0
x2<0:モード 2 が発振する。
3)
x1>0
x2>0:モード 1 とモード 2 が同時に発振する。
4)
x1<0
x2<0:二つのモードの間に双安定が得られる。
条件 4)の双安定条件を満たすためには、ɛ21ɛ12>ɛ11ɛ22 になることが求められて
いる。この結果は、内部損失を考慮しない時の二つのモードの双安定とほぼ同
じである。
通常双安定半導体レーザーにおいて、二つの光モード間は 100%の相互利得抑
制効果を得られにくいため、可飽和吸収領域を設けることでより大きなモード
間の双安定を確保する。可飽和吸収領域を設ける際の二つのモードの強度依存
方程式は次の(2.32)に示す。
dI1
g1
a1
=(
−
− l1 ) I1
dt
1 + ε11 I1 + ε12 I 2 1 + ε a1 I1 + ε a12 I 2
(2.33a)
dI1
g2
a 21
=(
−
− l2 ) I 2
dt
1 + ε 22 I 2 + ε 21 I1 1 + ε a 2 I 2 + ε a 21 I1
(2.33b)
ここで、a は可飽和吸収領域での線形利得で、ɛa1 と ɛa2 は可飽和吸収領域での自
己飽和係数で、ɛa12 と ɛa21 は可飽和吸収領域での相互利得抑制係数である。定常
状態において、式(2.28)は
I1 = 0
or
I2 = 0
or
g1
1 + ε11 I 1 + ε12 I 2
g2
1 + ε 22 I 2 + ε 21 I 1
−
−
a1
1 + ε a1 I 1 + ε a12 I 2
a 21
1 + ε a 2 I 2 + ε a 21 I 1
− l1 = 0
(2.34a)
− l2 = 0
(2.34b)
を満たす。双安定条件を求めるために、次のように式(2.34)を変換する。
41
′ = ε11 −
ここで、ε11
g1
− a1 = 0
′ I1 + ε12
′ I2
1 + ε11
(2.35a)
g2
− a2 = 0
′ I 2 + ε21
′ I1
1 + ε22
(2.35b)
g1
g
g
g
′ = ε 22 − 2 ε a 2 ; ε12
′ = ε12 − 1 ε a12 ; ε 21
′ = ε 21 − 2 ε a 21
ε a1; ε 22
a1
a2
a1
a2
である。双安定条件を求めるために、次のように x’1,x’2 を定義する。
x1′ =
1 g2
1 g1
(
( − 1)
− 1) −
′ l2
′ l1
ε 21
ε11
(2.36a)
x 2′ =
1 g1
1 g2
( − 1) −
(
− 1)
′ l1
′ l2
ε12
ε 22
(2.36b)
異なる x’1,x’2 に対して、モード 1 とモード 2 の状態は次のように表される[13]。
x’2>0:モード 1 が発振する。
1)
x’1<0
2)
x’1>0 x’2<0:モード 2 が発振する。
3)
x’1>0
x’2>0:モード 1 とモード 2 が同時に発振する。
4)
x’1<0
x’2<0:二つのモードの間に双安定が得られる。
4)の双安定条件を満たすためには、ɛ’21ɛ’12>ɛ’11ɛ’22 になることが求められてい
る。この場合、ɛ12ɛ21<ɛ11ɛ22 になっても二つのモードは双安定状態を得られる[13]。
この結果から、双安定レーザーにおいて可飽和吸収領域を設けることで、二つ
のモード間の双安定性が確保できると考えられる。
2.4
アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの動作原理
2.3 では二つの光モード間の双安定の一般条件について説明した。二つのモー
ド間の双安定を実現するために、モード間の相互利得抑制係数の相乗が自己飽
和係数の相乗より大きくする必要がある。即ち、光モード間の双安定を実現す
42
るためには、大きな相互利得抑制係数の確保が重要である。大きな相互利得抑
制係数が確保できればモード間の強い相互利得抑制効果が得られて、結果とし
て広いヒステリシス幅が実現できると考えられる。この小節では、まず、アク
ティブ MMI 横モード間双安定レーザーの基本動作のレート方程式を示す。その
後、レート方程式を用いて定常状態においての相互利得抑制係数とヒステリシ
ス幅との関係を解析して、大きな相互利得抑制係数を確保することで広いヒス
テリシス幅が得られる原理を説明する。
2.4.1 アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーのレート方程式
半導体レーザーのレート方程式は注入したキャリア密度と光子密度の関係の
時間的な変化を簡単に表現することができる。式(2.37)は通常の半導体レーザー
のレート方程式を表す[14-16]。
dN
I
N
=
− Γg ( N ) Sv g −
dt qV
τs
(2.37a)
dS
S
N
= Γg ( N ) Sv g −
+ βsp
dt
τp
τs
(2.37b)
ここで、I は注入電流、q は電荷素量、V は活性層体積、τs は非発光キャリア寿
命、N はキャリア密度、S は光子密度、Γ は光閉じ込め係数、g(N)は利得、vg は
群速度、τp は光子寿命、βsp は自然放出結合係数である。利得 g(N)とキャリア密
度は次のような線形関係を持つ[15]。
g (N)=a(N-N0)
(2.38)
ここで、a は利得定数、N0 は透明キャリア密度である。自然放出結合を無視すれ
43
ば、注入電流とキャリア密度は
N=
τs I
qV
(2.39)
の関係があるため、閾値電流は
I th =
qVN th
τs
(2.40)
となる。従って、閾値電流と閾値利得の関係は次(2.41)のようになる[16]。
I th =
g
qV
( N 0 + th )
τs
a
(2.41)
二つの横モード光間の相互利得抑制効果を考慮したレート方程式を
(2.42-2.44)のように表す[17]。
dN
I
N
=
− − v g Γ1 g1 S1 − v g Γ2 g 2 S 2
dt
qV τ s
(2.42)
dS1
S
N
= v g Γ1 g1 S1 − 1 + β sp
dt
τ p1
τs
(2.43)
dS 2
S
N
= v g Γ2 g 2 S 2 − 2 + β sp
dt
τ p2
τs
(2.44)
ここで、S1 と S2 はそれぞれ 0 次モードと 1 次モードの光の強度で、τp1 と τp2
はそれぞれの光子寿命で、g1 と g2 はそれぞれ 0 次モード光と 1 次モード光の利
得である。利得領域で 0 次モードと 1 次モードの間は相互利得抑制効果があり、
利得はそれぞれの光の強度と次のような関係がある。
g1 =
g(N )
1 + ε11 S1 + ε12 S 2
(2.45)
g2 =
g(N )
1 + ε 22 S 2 + ε 21 S1
(2.46)
ここで、ɛ11 と ɛ22 はそれぞれ 0 次モードと 1 次モードの自己飽和係数で、ɛ12 と
44
ɛ21 は 0 次モードと 1 次モードの相互利得抑制係数である。式(2.45)と(2.46)を式
(2.42-2.44)に代入すると、0 次モードと 1 次モードの間のレート方程式は次のよ
うになる。
g ( N )v g Γ1 S1
g ( N )v g Γ2 S 2
dN
I
N
=
−
−
−
dt
qV τ s 1 + ε11 S1 + ε12 S 2 1 + ε 22 S 2 + ε 21 S1
(2.47)
g ( N )v g Γ1 S1
dS1
S
N
=
− 1 + β sp
1 + ε11 S1 + ε12 S 2 τ p1
dt
τs
(2.48)
g ( N )v g Γ2 S 2
dS 2
S
N
=
− 2 + β sp
1 + ε 22 S 2 + ε 21 S1 τ p 2
dt
τs
(2.49)
式(2.47-2.49)を用いて、二つのモードの閉じ込め係数、光子の寿命、キャリア
の寿命などを一定値として設定して、電流を増加させ、異なる自己飽和係数及
び相互利得係数を設定した時の二つの光のモードの強度の変化についてシミュ
レーションした結果[11][17]、二つのモードの双安定性は相互利得係数に依存し、
ɛ21ɛ12>ɛ11ɛ22 の時、二つのモード間に双安定が得られることが分かった。これは、
2.3 で議論した二つのモード間の双安定条件と同じである。自己飽和係数と相互
利得抑制係数について、Yamada らはバンド内緩和過程を含む密度行列の定式を
用いて、その関係を求めた:ɛ11=ɛ22= kɛ12=kɛ12(k は 0 から 2 までの値を取る)[18-20]。
通常の半導体レーザーにおいて、相互利得抑制係数は自己飽和係数より最大 2
倍となる。
モード間光双安定半導体レーザーにおいて、二つの光モードの間は 100%の相
互利得抑制効果が得られにくいため、可飽和吸収領域を設けることでより大き
なモード間の双安定を確保する。式(2.50~2.52)に単純な可飽和吸収領域を持つ双
安定レーザーのレート方程式を示す[21-23]。
45
dN g
dt
=
Ig
qV g
−
Γg g ( N ) Sv g
1 + ε11 S
−
Ng
(2.50)
τs
Γg a ( N ) Sv g N a
dN a
I
= a −
−
dt
qVa
1 + ε a11 S
τ sa
(2.51)
(1 − h) g g ( N ) hg a ( N )
Ng
N
dS
S
=[
+
]ΓSv g −
+ β sp
+ β sp a
dt
1 + ε11 S
1 + ε a11 S
τp
τs
τ sa
(2.52)
ここで、下付き文字 g と a はそれぞれ利得領域と可飽和吸収領域を意味して、
h は可飽和吸収領域の長さの割合である。我々のアクティブ MMI 横モード間双
安定レーザーにおいて、利得領域と可飽和吸収領域の活性層構造は同じで、可
飽和吸収領域には電流注入をしない。これらの条件を用いて、(2.50-2.52)のレー
ト方程式の定常状態での注入電流と光子密度の変化を分析したところ、h が大き
いほどヒステリシス幅は広くなるが、閾値電流も高くなることが分かった。こ
れより、可飽和吸収領域の割合を減少させるのが、素子の閾値電流を低減する
有効な手段であることが明らかになった。
式(2.53-2.56)に可飽和吸収域を持つアクティブ MMI 横モード双安定レーザー
のレート方程式を示す[24]。
dN g
dt
=
Ig
qV g
−
Ng
τs
−
g g ( N )v g Γ1 S 1
1 + ε11 S 1 + ε12 S 2
−
g g ( N )v g Γ2 S 2
1 + ε 22 S 2 + ε 21 S1
(2.53)
g a ( N )v g Γ1 S1
g a ( N )v g Γ2 S 2
dN a
I
N
= a − a −
−
dt
qV a τ s 1 + ε a11 S1 + ε a12 S 2 1 + ε a 22 S 2 + ε a 21 S1
(2.54)
Ng
(1 − h) g g ( N )
hg a ( N )
N
dS1
S
=[
+
+ β sp a
]Γ1v g S1 − 1 + β sp
dt
τ p1
τ sa
τs
1 + ε11 S1 + ε12 S 2 1 + ε a11 S1 + ε a12 S 2
(2.55)
(1 − h) g g ( N )
Ng
hg a ( N )
N
dS 2
S
=[
+
+ β sp a
]Γ2 v g S 2 − 2 + β sp
dt
τ p2
1 + ε 22 S 2 + ε 21 S1 1 + ε a 22 S 2 + ε a 21 S1
τs
τ sa
(2.56)
定常状態でこの式を用いて電流注入とモード間の双安定の関係を分析した結
46
果[24]、可飽和吸収領域を設けることで、相互利得抑制係数が自己飽和係数より
小さい場合、即ち ɛ12ɛ21<ɛ11ɛ22 であってもモード間の双安定性があることが分
かった。h が大きいほどヒステリシス幅が広くなっているが、閾値電流が高くな
る傾向が見られた。
これらの分析で、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーにおいて、低閾
値電流と共に広いヒステリシス幅を得るには、短い可飽和吸収領域と大きい
モード間相互利得抑制係数が必要であると考えられる。
2.4.2
ヒステリシス幅と相互利得抑制係数との関係
ここまでの説明でモード間相互利得抑制係数を大きくすることで、ヒステリ
シス幅が広くなることが分かった。この節では、レート方程式を用いて相互利
得抑制係数とヒステリシス幅との関係を具体的に解析し、導出する。説明上便
利のため、ヒステリシスの二つの閾値電流のうち、低い方を低閾電流値、高い
方を高閾電流値として定義する。低閾電流値は素子のキャビティの内部損失に
依存し、二つの発振モード間の相互利得抑制効果の影響を受けていないと考え
られる。その為、素子のキャビティ長及び可飽和吸収領域長が一定の時は、低
閾電流値はほぼ一定だと考えられる。高閾電流値は可飽和吸収効果及びモード
間の相互利得抑制効果に依存している。可飽和吸収領域の割合が一定な場合、
モード間相互利得抑制効果が高いほど高閾電流値が高くなり、結果として広い
ヒステリシス幅が得られると考えられる。
問題をより明確に解析するため、ここではモード間の相互利得抑制効果だけ
47
を考慮したレート方程式を用いることにした。定常状態での式(2.47-2.49)におい
て、キャリア密度と光子の密度が時間的な変化がないため、次のように表す。
g ( N )v g Γ1S1
g ( N )v g Γ2 S 2
I
N
= +
+
qV τ s 1 + ε11S1 + ε12 S 2 1 + ε22 S 2 + ε21S1
0=
0=
g ( N )v g Γ1S1
1 + ε11S1 + ε12 S 2
g ( N )v g Γ2 S 2
1 + ε22 S 2 + ε21S1
(2.57)
−
S1
N
+ βsp
τ p1
τs
(2.58)
−
S2
N
+ βsp
τ p2
τs
(2.59)
自然結合項を無視して、まず、式(2.58)を用いて S2 と S1 関係式を導出する。
S2 =
1 ε11
1
−
S1 −
v g Γ1τ p1 g ( N )
ε12 ε12
ε12
(2.60)
(2.60)を(2.59)に代入して整理すれば S1 が得られる。
S1 = [
ε22 Γ1τ p1 + ε12 Γ2 τ p 2
ε12 ε21 − ε11ε22
]v g g ( N ) −
ε22 + ε12
ε12 ε21 − ε11ε22
(2.61)
更に、この S1 式を(2.60)に代入して、S2 を導出する。
S2 =
ε21Γ1τ p1 + ε11Γ2 τ p 2
ε22 + ε12
]v g g ( N )
−[
ε12 ε21 − ε11ε22
ε12 ε21 − ε11ε22
(2.62)
続いて、式(2.61)と(2.62)を式(2.57)に代入し、式(2.40)のキャリア密度と注入電
流との関係を用いて、利得と相互利得抑制係数との関係を導出する。その結果、
g(N ) =
( τ p 2 − τ p1 )(ε12 + ε21 )
[ε12 Γ2 τ 2p 2 − ε21Γ1τ 2p1 + (ε22 Γ1 − ε11Γ2 ) τ p 2 τ p1 ]v g
(2.63)
となった。式(2.41)の閾値電流と閾値利得の関係を(2.63)に代入すると、(2.64)の
ような高閾電流値と相互利得抑制係数との関係が得られる。
( τ p 2 − τ p1 )(ε12 + ε21 )
+ aN 0 } * qV
I th = {
2
2
aτ s
[ε12 Γ2 τ p 2 − ε21Γ1τ p1 + (ε22 Γ1 − ε11Γ2 ) τ p 2 τ p1 ]v g
48
(2.64)
表 2.1 に示すように、各パラメータの値[25-27]を設定し、式(2.64)に代入した。
そして、ɛ12 =ɛ21 と仮定して、ɛ12 と高閾電流値との関係を求めた。
表 2.1
計算に使われたパラメータの数値
記号
パラメータ
数値
単位
ɛ11,ɛ22
自己飽和係数
8×10-17
cm3
Γ1
0 次モード光閉じ込め係数
0.3
Γ2
1 次モード光閉じ込め係数
0.2
τp1
0 次モードの光子寿命
1.0×10-12
s
τp2
1 次モードの光子寿命
1.2×10-12
s
τs
キャリア寿命
3×10-9
s
vg
群速度
6.7×109
cm·s-1
N0
透明キャリア密度
0.83×1018
cm-3
a
利得係数
1.63×10-16
cm2
V
活性層体積
0.5×10-9
cm-3
q
電荷素量
1.6×10-19
C
相互利得抑制係数 ɛ12 を 8×10-17 から 1.6×10-16 までの数値を関係式(2.64)に代入
して、高閾電流値を求め、相互利得抑制係数と高閾電流値との関係グラフを作っ
た。図 2.8(a)に得られた相互利得係数と高閾電流値との関係グラフを示す。相互
利得抑制係数の増加に伴って、高閾電流値はほぼ比例的に増加していることが
分かる。低閾電流値が一定として考えた場合、高閾電流値の増加はヒステリシ
ス幅の増加であると考えられる。図 2.8(b)に相互利得抑制係数の増加に伴うヒス
テリシス幅の増加について示す。今回のモデルの計算において、相互利得抑制
49
係数の増加と伴い、素子の電流ー光出力のヒステリシス幅は最大 23mA まで広
げられるという結果が得られた。
これらの解析結果から、光モード間の相互利得抑制係数と素子の電流ー光出
力のヒステリシス幅は線形的な関係を持ち、相互利得抑制係数の増加に伴って、
素子のヒステリシス幅も広くなることが分かる。
光の発振モードの自己飽和係数と相互利得抑制係数は光のモードの非線形利
得に関連している。通常のファブリーペローレーザーにおいて、光モードの非
線形性による相互利得抑制係数は
ε jk =
ω j
2ε 0
32
μ10 2 n I3
2
∫ g NL F j (r ) Fk (r ) dr
(2.65)
である[18-20]。ここで、ɛ0 は真空中の誘電率で、μ0 は真空の透磁率で、nI はレー
ザー活性層の実効屈折率で、ωj はモードの振動数で、 gNL は非線形利得で、Fj,k(r)
は空間の定在波の関数である。
∫
2
F j (r ) Fk (r ) dr 項は二つのモード間の重な
りを表していて、(2.65)式から、相互利得抑制係数と二つのモードの重なり即ち
モード間の相互利得抑制領域の間はある比例関係が存在すると考えられる。相
互利得抑制領域を大きくすることで、モード間の相互利得抑制係数も大きくな
り[28]、結果としてモード間双安定レーザーのヒステリシス幅が広げることが可
能となる。我々が提案しているアクティブ MMI 横モード間双安定レーザーは、
二つの横モード光間に大きなモード間相互利得抑制領域が確保できるため、素
子を小型化しても広いヒステリシス幅が得られると考えられる。
50
高閾電流値 Ith [mA]
80
70
60
50
8
10
12
14
-17
相互利得抑制係数 ɛ12 [×10 cm3 ]
(a)
16
ヒステリシス幅の増加 [mA]
25
20
15
10
5
0
8
10
12
14
16
相互利得抑制係数 ɛ12 [×10 cm ]
(b)
-17
図 2.8
3
相互利得抑制係数と高閾電流値及びヒステリシス幅の関係。(a)相
互利得抑制係数と高閾電流値の関係。 (b)相互利得抑制係数とヒ
ステリシス幅の関係。相互利得抑制係数の増大に伴ってヒステリ
シス幅は広くなる。
51
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54
第3章
横モード間光双安定動作原理の実証
3.1 序
2 章ではアクティブ MMI 双安定レーザーの横モード光間双安定動作の基本原
理について説明した。MMI 導波路において光横モード(0 次モードと 1 次モード)
の自己結像の原理を理論的に分析した後、光モード間の相互利得抑制効果によ
る双安定動作の原理を理論的に説明して、モード間の相互利得抑制領域と素子
の電気ー光出力ヒステリシス幅との関係を理論的に解析した。これらの分析か
ら、二つの光モード間の双安定を利用する双安定レーザーにおいて、相互利得
抑制領域が大きいほどヒステリシス幅が広くなることが分かった。我々が提案
しているアクティブ MMI の横モード間(0 次モードと 1 次モード)光双安定動作
原理は、二つの横モードの光が同じ入力ポートを共通経路としているため、小
型化してもより大きなモード間相互利得抑制領域が確保でき、結果として広い
ヒステリシス幅が得られると期待できる[1-2]。
3 章では、シミュレーション及び実験による横モード間光双安定動作原理の実
証結果を述べる。3.2 には、まずビーム伝搬法(BPM: Beam Propagation Method)の
を用いて、アクティブ MMI 横モード間双安定の動作原理の実証について説明す
る。MMI 導波路内での各横モード光の伝搬の様子を示した後、伝搬経路での 0
次モードと 1 次モードの光強度分布を分析して、二つの光モード間の相互利得
抑制領域を計算する。3.3 にはシミュレーションの結果に基づいて実際に試作し
た素子の動作実証結果について説明する。試作素子は、既報告アクティブ MMI
55
双安定レーザーと比較して、半分のサイズまで小型化され、96mA の低い閾値電
流と比較的に広い 8mA のヒステリシス幅を実現した。3.4 にはアクティブ MMI
横モード間双安定レーザーと既報告のアクティブ MMI 双安定レーザーの動作特
性との比較を述べる。
3.2 シミュレーションによる動作原理の実証
この節では、シミュレーションによるアクティブ MMI 横モード間双安定レー
ザーの動作原理の実証結果を示す[3-4]。シミュレーションは RSoft の BeamPROP
という解析ソフトで行う[6]。このソフトではアクティブデバイスの動作特性に
ついて計算できないため、今回のシミュレーションは、アクティブ MMI 双安定
レーザーをパッシブ MMI 導波路と想定して、導波路内の 0 次モードと 1 次モー
ド光の伝搬の様子について分析する。その上で、0 次モードと 1 次モードの光強
度の分布を解析して、二つの横モード間の相互利得抑制領域を計算する。同じ
サイズにした既報告 MMI 双安定レーザー[7-8]の相互利得抑制領域を計算して、
横モード間双安定動作原理との比較を行う。
3.2.1 MMI 導波路の設計
シミュレーションを行う前に、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの
入力ポートの長さ、MMI 領域の幅と長さ、出力ポートの長さなどを設計する必
要がある。アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの活性層は、多層結晶構
造と比べて閾値電流の低減及び高光出力ができる InGaAsP の 7 層多重量子井戸
56
とした。レーザーの構造はダブルヘテロ接合(DH: Double Heterostructure)で、リッ
ジ型導波路とした。リッジ型導波路は、 横モードを安定化した屈折率導波型
レーザーの一つで、他の屈折率導波路と比べて製作プロセス工程が簡単である
[9-12]。図 3.1(a)に想定した双安定レーザーの導波路の端面構造を示す。導波路
のコアとクラッド層の等価屈折率は層構造により計算する。表 3.1 に想定する
ウェハの成分と各層のパラメータについて示す。
表 3.1. 今回用いたエピウェハ (1550nm 波長帯で用いる InP ウェハ)
No
Item Name
Thickness
(μm)
1
InP Substrate
-
2
N-InP
0.5
3
U-InGaAsP
InGaAsP Barrier
(-0.2~-0.35%)
InGaAsP QW(+0.85
~1.1%CS)
InGaAsP Barrier
(-0.2~-0.35%)
InGaAsP QW(+0.85
~1.1%CS)
InGaAsP Barrier
(-0.2~-0.35%)
InGaAsP QW(+0.85
~1.1%CS)
InGaAsP Barrier
(-0.2~-0.35%)
InGaAsP QW(+0.85
~1.1%CS)
InGaAsP Barrier
(-0.2~-0.35%)
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
InGaAsP QW(+0.85
~1.1%CS)
DP
λ(μm)
reflactive
index
index
difference
0.92
3.17
0
±10%
0.92
3.17
0
0.08
±10%
1.15
3.3
0.13
0.01
±5%
1.2
3.34
0.16
0.0055
±5%
1.53
3.50
0.33
0.01
±5%
1.2
3.33
0.16
0.0055
±5%
1.53
3.50
0.33
0.01
±5%
1.2
3.33
0.16
0.0055
±5%
1.53
3.50
0.33
0.01
±5%
1.2
3.33
0.16
0.0055
±5%
1.53
3.50
0.33
0.01
±5%
1.2
3.33
0.16
0.0055
±5%
1.53
3.50
0.33
57
14
InGaAsP Barrier
(-0.2~-0.35%)
15
16
InGaAsP QW(+0.85
~1.1%CS)
InGaAsP Barrier
(-0.2~-0.35%)
17
18
InGaAsP QW(+0.85
~1.1%CS)
InGaAsP Barrier
(-0.2~-0.35%)
0.01
±5%
1.2
3.33
0.16
0.0055
±5%
1.53
3.50
0.33
0.01
±5%
1.2
3.33
0.16
0.0055
±5%
1.53
3.50
0.33
0.01
±5%
1.2
3.33
0.16
19
U-InGaAsP
0.08
±10%
1.15
3.3
0.13
20
P-InP
0.05
±10%
0.92
3.17
0
21
P-InGaAsP
0.005
±10%
1.2
3.34
0.17
22
P-InP
0.15
±10%
0.92
3.17
0
23
P-InP
0.3
±10%
0.92
3.17
0
24
P-InP
1.5
±10%
0.92
3.17
0
25
P-1.36PQ
0.025
±10%
1.36
3.43
0.26
26
P-1.5PQ
0.025
±10%
1.5
3.5
0.33
27
P-In0.53Ga0.47As
0.15
±10%
1.67
3.17
0
28
P-InP
0.05
±10%
0.92
3.17
0
表 3.1 に示したのはレーザーのコア層の層構造であり、これらのパラメータを
用いて、波長を 1.55µm とした時のコア層の等価屈折率を計算した。素子のクラッ
ド層は、層 No. 28 から No. 22 までエッチングして、その部分に BCB 樹脂(ベン
ゾシクロブテン、屈折率 1.543)を埋め込む構造となっている(図 3.1(a)を参考)。
コア層と同じ計算方法でクラッド層の等価屈折率を計算した結果、コア層の屈
折率 nr は 3.2107、クラッドの屈折率 nc は 3.1725 となった。このコア層とクラッ
ド層の等価屈折率を用いて、式(3.1)を用いて 1 次モード光が許容できる入力ポー
ト(出力ポート)の幅を決める[13]。続いて(3.2-3.4)式を用いて、シミュレーション
に使う MMI 導波路の設計を行った[14-16]。
58
WN ≤
λ
nr
We ≈ WMMI + (
nr
2(nr − nc )
(3.1)
λ0 nc
−1
)( )(nr2 − nc2 ) 2
π nr
(3.2)
π
4nrWe2
Lπ ≡
≈
β0 − β1
3 λ0
LMMI =
(3.3)
3
Lπ
4
(3.4)
ここで、nr と nc はそれぞれコア層とクラッド層の等価屈折率で、λ0 は自由空
間波長、βはモードの伝搬定数である。求めた MMI の各パラメータを設定して、
実際にシミュレーションを行い、各パラメータを微調整して、MMI 導波路での
伝搬様子を確認しながら、最適なパラメータを決めた。表 3.2 にシミュレーショ
ンで求められた最適な各種パラメータを示す。図 3.1(b)に求めた最適なアクティ
ブ MMI 横モード双安定レーザーの導波路構造を示す。
表 3.2
シミュレーションで用いた各パラメータ
パラメータ
使用した値
自由空間波長
1.55
[μm]
コア層等価屈折率
3.2107
クラッド層等価屈折率
3.1725
MMI 長
275
[μm]
MMI 幅
10
[μm]
入力ポート長
80 [μm]
入力ポート幅
4
出力ポート長
195 [μm]
出力ポート幅
4
59
[μm]
[μm]
BCB
ウェハの No. 28 から No. 22 層まで
エッチングして、BCB で埋め込む。
BCB
p-InP
n-InP
InP
基板
InGaAsP MQW 活性層
(波長 1.55µm)
(a)
80µm
195µm
4µm
4µm
10µm
4µm
275µm
550µm
(b)
図 3.1 シミュレーションに使うアクティブ MMI 横モード間双安定レー
ザーの構造図。(a)リッジ型導波路の端面図。InGaAsP の 7 層多重量
子井戸である。(b)設計したアクティブ MMI 横モード間双安定レー
ザーの構造図。
3.2.2 シミュレーションの実証結果[3-4]
まず、0 次モードと 1 次モード光の伝搬経路について調べた。図 3.2 で BPM
のシミュレーションによる 0 次モードと 1 次モード光の伝搬の様子を示す。(a)
に示すのは 0 次モード光の伝搬の様子で、入射した 0 次モード光は MMI 導波路
で干渉を起こしながら伝搬され、下の出力ポートから入射光のパワーの約 85%
が出力される。 (b)に示すのは 1 次モード光の伝搬の様子で、0 次モードと同じ
60
Lateral position [μm]
Lateral position [μm]
-10
Intensity [a.u.]
-10
0
10
0.0
1.0
20
(b)
Intensity [a.u.]
0
10
20
0.0
0
図 3.2
1.0
(a)
100
200
300
400
500
Propagation direction [μm]
光モード伝搬のシミュレーション結果。0 次モード光と 1 次モー
ド光はそれぞれ異なる経路を通って異なるポートから出力される
ことが確認できた。(a) 0 次モード光伝搬図 。(b)1 次モード光伝搬
図。
ように、入射した 1 次モード光は MMI 導波路で干渉しながら伝搬され、上のポー
トから入射光パワーの 85%が出力される。これは 2 章で求めた計算結果と同じ
である。アクティブの場合、0 次モードの伝搬の二つの経路において、下のポー
トから出力される経路が得られる利得が上のポートから出力される経路より
7dB 多いため、下のポートから出力される経路が発振モードとなる。1 次モード
61
の場合は、0 次モード光と逆で、上のポートから出力される経路が発振モードと
なる。これより、0 次モード光と 1 次モード光はそれぞれ異なる経路を通って異
なるポートから出力されると考えられる。
続いて、我々は二つの横モード光の間の相互利得抑制領域(光分布の重なり)
についてシミュレーションを行った。既報告アクティブ MMI 双安定レーザー
[7-8]を我々のアクティブ MMI 横モード間双安定レーザーを同じサイズにし、お
互いの横モード間の相互利得抑制領域を比較した。図 3.3 にその結果を示す。ア
クティブ MMI 横モード間双安定レーザーは、入力ポート全体が相互利得抑制領
域となるため、この入力ポート領域と MMI 領域での相互利得抑制領域をプラス
すると、非常に幅広い領域で相互利得抑制領域が見られた。既報告方式では MMI
領域の中心のみに光モード間に相互利得抑制領域が見られた。
0th mode
Mode 1
図 3.3
1st mode
Mode 2
二つの動作方式の光のモード間の相互利得抑制領域の比較。横
モード光間双安定動作方式は入力端から MMI 領域まで非常に大
きい相互利得抑制領域が見られる。
62
更に、我々は BPM シミュレーションの結果を用いて横モードの間の相互利得
抑制領域について詳しく計算した。比較のため、既報告アクティブ MMI 双安定
レーザーも我々の素子と同じサイズとして縮小して、そのモード間相互利得抑
制領域について計算した。光モード間の相互利得抑制領域を計算するため、ま
ずモード間の光分布の重なり面積を求めた。MMI 領域での光モードの強度分布
を分析して、MATLB を用いて光フィルードの分布グラフを作成した。図 3.4 は
光フィルード分布グラフの一例として、MMI の中心部における光モードのフィ
ルード分布グラフを示す。縦軸は光強度で、横軸は MMI 導波路の横方向で、青
い部分が相互光分布重なりである。このグラフを用いて、各光モードの光フィ
ルードの面積と光分布の重なり部分の面積を MATLAB プログラムで計算した。
Optical intensity [A.U.]
Optical intensity [A.U.]
計算した光フィルードの面積を用いて、我々は光モード間の重なりを式(3.5)
0th mode
1st mode
Lateral direction [µm]
Mode 2
Mode 1
Lateral direction [µm]
(a)
(b)
図 3.4 MMI 中心部での光モードフィルード分布のグラフ。縦軸は光強度
で、横軸は MMI 導波路の横方向で、青い部分が相互光分布重なり
である。(a) 横モード間双安定動作方式。(b)既報告動作方式。
63
のように定義した。
Overlap (%) = Aoverlap / min(A0,A1)
(3.5)
Aoverlap は二つの光の重なり部分の面積で、A0 は 0 次モード光フィルード分布
の面積で、A1 は 1 次モード光フィルード分布の面積である。MMI 領域を 5μm ず
つ区切り、各区間のモード間の光分布重なりを計算して、これらの数値の平均
値を二つの光モード間の相互利得抑制領域として定義した。
その結果、MMI 領域において横モード間双安定動作原理では 76%、既報告動
作原理では 63%の光モード間相互利得抑制領域が得られた。ところが、我々が
提案している横モード間光双安定動作方式では、MMI 領域だけではなく、モー
ド間の共通ポートである入力ポートには 100%の相互利得抑制領域があるため、
MMI 領域内の光モード間相互利得抑制領域だけを評価するのは不充分である。
ここで、二つの方式の入力端から MMI 領域出力端までのモード間のこの相互利
得抑制領域を計算してみた。その結果、横モード間双安定型は 81%で、既報告
型は 51%であって、明らかに横モード間光双安定動作原理で幅広いモード間相
互利得抑制領域が得られることが分かる。また、今後の小型化を視野に入れ、
素子を小型化の際に、得られる相互利得抑制領域についてシミュレーションし
てみた。図 3.5 に小型化と伴って得られるモード間の相互利得抑制領域の変化の
傾向をグラフに示した。既報告型では、小型化に従って相互利得抑制領域が減
少する傾向となったが、我々の提案する横モード間双安定動作型では、入力端
の相互利得抑制領域もあることから MMI を小型化しても幅広く相互利得抑制領
域が得られる結果となった。この大きな相互利得抑制領域によって、素子の小
64
型化の際には、十分に広いヒステリシス幅が確保できると考えられる。
相互利得抑制領域
[%]
100
80
60
40
横モード間双安定
20
0
既報告
0
100
200
300
Total length [μm]
400
図 3.5 素子の小型化と伴って得られるモード間の相互利得抑制領域の変
化の傾向グラフ。横モード間双安定動作原理の適用によって、素子
は小型化しても大きいな相互利得抑制領域が得られる。
3.3 実験による動作原理の実証 [4-5]
我々はアクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの動作原理を BPM シミュ
レーションによって検証した。既報告のアクティブ MMI 双安定レーザーと比べ
て横モード間光双安定動作原理で、より大きな光のモード間の相互利得抑制領
域が得られることが確認できた。この結果より、小型化の際にも広いヒステリ
シス幅が確保できると考えられる。しかし、BPM によるシミュレーションはパッ
シブの MMI 導波路を想定して行っているもので、アクティブデバイスについて
は電流注入による動作特性などの諸特性については評価できない。特に、アク
ティブの場合は電流注入によって導波路のプラズマ効果により実効屈折率の変
65
化があるので、MMI デバイスの中で光モードの結像位置が変わって、光が設計
通りに伝搬しない可能性もある。そのため、実際にシミュレーションで使った
同じパラメータの素子を設計試作して、その動作特性について実験で検証する
必要がある。この小節では、まず素子の設計試作の方法について説明して、実
験により素子の動作特性評価結果について示す。
3.3.1 素子の設計試作
3.2 節で説明したシミュレーションの結果に基づいて、素子の設計を行った。
素子の全長を 550µm にし、MMI 長 275µm、MMI 幅 10µm、入力ポートの幅を 4µm
とした。二つの光モード間の相互利得抑制領域が 100%達していないため、75µm
の可飽和吸収領域を設けた。図 3.6(a)に設計した素子の詳しい構造を示す。素子
の活性層は InGaAsP/InP-MQW(波長 1.55µm,7 重量子井戸)とした。多重量子井戸
は InP 基板の上で結晶成長を行った。素子の導波路構造はリッジ型とし、BCB(ベ
ンゾシクロブテン)を埋め込むことで、コア層とクラッド層を作った。図 3.6(b)
に MQW を用いたリッジ型導波路の構造図を示す。
ウェハの結晶成長には MOVPE(有機金属気相成長法)を用いて層構造を形成し
た。素子の試作は i 線ステッパを用いて導波路構造パターニング用マスクを形成
し、そののち RIE 法によってリッジ導波路構造を形成した[8-11]。図 3.6(c)に一
つのチップにした素子の端面写真を示す。チップのサイズは 550×300µm である。
試作した素子の動作特性を評価するために、まず AlN 材のヒートシンクに熔着
した後、特注したステムに熔着した。
66
195µm
4µm
80µm
4µm
10µm
4µm
可飽和吸収領域
75µm
275µm
550µm
(a)
BCB
InP 基板
p-InP Cladding
Layer
n-InP Cladding InGaAsP/InGaAsP
Layer
MQW Active Layer
(λ=1.55µm)
(b)
図 3.6
(c)
試作した素子の構造図。(a) アクティブ MMI 双安定レーザー導波
路構造図。(b) MQW を用いたリッジ型導波路の構造図。(c)試作し
た素子の端面写真。
3.3.2
試作素子の実験実証結果 [3]
まず、双安定特性を表す素子の電流ー光出力特性について評価した。素子に 0
から 130mA の電流を注入した後、続いて 130mA から 0mA の電流を注入してか
ら、0 次モード光と 1 次モード光の出力をそれぞれ測定した。図 3.7 に素子の電
流ー光出力特性の評価結果を示す。試作素子は双安定特性を表わし、約 104mA
で発振し、閾値より低い電流でも発振し続け 96mA まで発振していて比較的に
67
大きなヒステリシス幅 8mA を確認した。既報告アクティブ MMI 双安定レーザー
の 155mA の閾値電流と比べて、閾値電流は約 37%低減された一方、ヒステリシ
ス幅は同じくらいの広さが確保できた。ヒステリシス幅内での素子の ON-OFF
比は 15dB であることから、安定したメモリ動作が期待できる。
5
CW@25oC
Output power [dBm]
0
-5
-10
-15
0th mode
1st mode
-20
-25
70
図 3.7
80
90
100
110
Injection current [mA]
120
130
試作素子の電流ー光出力特性(双安定特性)。試作素子は双安定特
性を表わし、約 104mA で発振し、閾値より低い電流でも発振し続
き 96mA まで発振していて比較的に大きなヒステリシス幅 8mA が
確認できた。
次は、素子の近視野像を確認した。シミュレーションにより 0 次モードと 1 次
モード光がそれぞれの経路を通ってそれぞれのポートから出力されるのを実証
した。そこで、実際試作した素子の発振状態での近視野像(NFP: Near Field Pattern)
を確認した。図 3.8 に素子の発振する様子を表わす NFP を示す。この NFP から
0 次モード光と 1 次モード光が予想通り違う経路を通って発振することが確認で
68
きる。
図 3.8 試作素子の発振様子を表す近視野像。0 次モード光と 1 次モード
光が予想通り違う経路を通って発振することが確認できた。
アクティブ MMI 双安定レーザーのヒステリシス内に動作電流値を設定して、
Set 光として光を入射すると光信号によって発振を開始し、入射光が無くなって
も発振が続け、1bit メモリとして動作する。この ON 動作は、非常に重要な動作
特性であり、もし素子が ON 動作を行わない場合、メモリとしての実用性がな
くなる。そこで、我々は試作素子にヒステリシス内の動作電流を注入しながら
Set 光を入射して、素子のメモリ動作を確認した。
素子に 100mA の電流を注入しながら波長が 1550nm の光を-12dBm の強度から
段々強くしながら入射し、0 次モード光と 1 次モード光の出力をそれぞれ測定し
た。図 3.9 にメモリ ON 動作実験の測定結果を示す。約-8dBm の光を入射する時、
素子は ON になり、0 次モード光の ON-OFF 比は 17dB、1 次モード光の ON-OFF
比は 15dB という良好な結果が確認できた。
69
Output power [dBm]
5
0
-5
-10
-15
-20
-12
-10
-8
-6
-4
Incident light intensity [dBm]
-2
図 3.9 試作素子のメモリ ON 動作特性。素子は約-8dBm の光を入射する時
ON になり、0 次モード光の ON-OFF 比は 17dB、1 次モード光の
ON-OFF 比は 15dB と良好な結果が確認できた。
3.4
結果の考察
ここまで、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの動作原理の実証につ
いて説明した。シミュレーションの結果により、我々が提案している横モード
間光双安定動作原理では、既報告より大きい相互利得抑制領域が得られること
が分かった。実際に素子を設計試作して、素子の動作特性を評価した結果、試
作素子は 550µm まで小型化され、96mA の低閾値電流と 8mA という比較的に大
きなヒステリシス幅を実証した。
表 3.3 にアクティブ MMI 横モード間双安定レー
ザーと既報告アクティブ MMI 双安定レーザーの動作特性の比較を示す。横モー
ド間光双安定動作原理の適用により、既報告より素子のサイズは約 45%小型化
され、素子の閾値電流も約 37%低減された。その一方、横モード間光双安定レー
ザーの可飽和吸収領域の割合が既報告とほぼ同じにも関わらず、8mA という比
70
較的に広いヒステリシス幅が得られた。これは二つのモード間の大きな相互利
得抑制領域によるものだと考えられる。これらの実証結果により、アクティブ
MMI 横モード間双安定レーザーは小型化にしても広いヒステリシス幅が確保で
き、光 RAM メモリ素子として実用化が期待できると考えられる。今後の高集積
化を考慮すると、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの更なる小型化と
広いヒステリシス幅の実現が求められる。4 章では、横モード間光双安定動作原
理を活用して、更なる素子の小型化と広いヒステリシス幅の実証について述べ
る。5 章からは、この原理の適用によりされた素子の優れた特性について述べる
[17-20]。
表 3.3
二つタイプのアクティブ MMI 双安定レーザー動作特性の比較
横モード双安定[4-5]
デバイス全長 (内 MMI 長)
既報告[6-7]
550 µm (275 µm)
1000µm (595 µm)
75 µm
120 µm
可飽和吸収領域の割合
13%
12%
相互利得抑制領域
81%
51%
Ith(低閾値電流)
96 mA
155 mA
Iop(双安定動作中心電流)
100mA
160mA
ヒステリシス幅
8 mA
8 mA
ON-OFF
17dB
10dB 以上
メモリ動作必要入射光強度
-8dBm 以上
(0dBm)
ON 切替後の光出力
約 1~-2dBm
約-10~-15dBm
可飽和吸収領域長
71
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74
第4章
横モード間光双安定原理の活用による
光メモリ素子の動作実証
4.1 序
3 章ではシミュレーションと実験により、アクティブ MMI 横モード間双安定
レーザーの動作原理を実証した。BPM のシミュレーションでは、横モード間光
双安定動作原理は既報告より光横モード間の大きな相互利得抑制領域が確保で
きることを明らかにした。そして、この大きな相互利得抑制領域の確保によっ
て、メモリ素子のサイズが 550μm までに小型化され、96mA と比較的低い閾値
電流、かつ、8mA と比較的に広いヒステリシス幅を実証した。ところが、光 RAM
メモリ素子は将来高レベルの集積が想定され、更なる小型化及び低消費電力が
求められ、加えて、広いヒステリシス幅が必要となる。特にヒステリシス幅が
狭いと、実用化時に重要な全集積素子の同一電流駆動が困難となる。そこで横
モード間光双安定動作原理の光モード間の共通ポートを利用する特長を生かし
て、更なる素子の小型化と広ヒステリシス幅を検討した。4 章では、横モード間
光双安定動作原理の活用によって、実現したアクティブ MMI 型光 RAM メモリ
素子の動作特性について述べる。
4.2 では小型化と共に広ヒステリシス幅の実証について述べる。光の閉じ込め
がより強い活性層構造を設けることで、素子のサイズを 315µm までに小型化し
た。そして、二つの横モード間の相互利得領域割合を大きくすることで、広い
ヒステリシス幅 32mA を実現した。
75
4.3 では、4bit 集積素子の全集積素子の同一条件メモリ動作の実証について述
べる。素子の小型化を実現しながら広いヒステリシス幅が確保できる設計手法
を用いて、4bit 集積素子を試作した。集積素子は、355×1200µm2 サイズのチップ
に集積され、比較的に広いヒステリシス幅を実現し、全集積素子の同一動作電
流 55mA を実証した。
4.3 では部分 MMI 可飽和吸収領域構造による極端に広いヒステリシス幅の実
証について述べる。MMI 領域のうち、二つの光横モード間の相互利得抑制効果
が比較的に弱い領域を可飽和吸収領域とする部分 MMI 可飽和吸収領域構造を提
案して、世界最高のヒステリシス幅 94mA を実現した。
4.2 小型化と広ヒステリシス幅の実証 [1-3]
通常の半導体レーザーにおいて、閾値電流を低減するには、素子の小型化に
伴う活性層面積の減少が有効な手段である。ところが、双安定レーザーにおい
ては、単純な小型化設計だけでは双安定動作にとって重要なヒステリシス幅が
狭くなることが懸念される。ヒステリシス幅を広くするには、可飽和吸収領域
の割合を高くすることが有効であるが、それに伴ってデバイスの内部損失も高
くなり、素子の閾値電流が大きくなってしまう上に、高集積化にとって重要な
小型化の妨げとなる。この課題を解決するためには、閾値電流を維持するとと
もにヒステリシス幅を広げる手法が必要となる。これまでの検証で、光モード
間の相互利得抑制領域の増大によりヒステリシス幅が広くなることと素子の閾
値電流に大きな影響を及ばないことが確認できた。そこで、我々はアクティブ
76
MMI 横モード間双安定レーザーの特長を生かして、小型化を実現しながら光横
モード間の相互利得抑制領域を大きくすることで広いヒステリシス幅を確保す
る方法について検討した。
4.2.1
小型化と広ヒステリシス幅の設計手法
アクティブMMI横モード双安定レーザーのサイズを決めるのは素子のMMI領
域で、MMI領域を小型化するには、1 次モード光が許容できる入力ポート及び出
力ポートの幅、即ちカットオフ幅を狭くする必要がある。導波路のカットオフ
幅は導波路の光の閉じ込め及びコア層とクラッド層の等価屈折率の差により決
められ、等価屈折率の差が大きいほど光の閉じ込めが強くなり、カットオフ幅
が狭くなる。尚、光の閉じ込めを強くすれば素子の発光効率の上昇、閾値電流
の低減も期待できる。そこで、より大きなコア層とクラッド層の等価屈折率の
差を得るため、素子のウェハの各層の構造について改めに設計を行った。その
結果、素子のコア層の等価屈折率n eff は 3.22、クラッド層の等価屈折率n c は 3.17
で、コア層とクラッド層の屈折率差が 0.05 となった。このコア層とクラッド層
の等価屈折率を用いて、式(3.1-3.4)より入力ポート及び出力ポートの幅、MMI
領域の幅と長さについて設計を行った[4-5]。結果、入力ポート及び出力ポート
の幅を 2.7μm、MMI領域の幅を 7.4µm、MMI領域の長さを 133µmにすることに
した。アクティブMMI横モード間双安定レーザーは前回試作より、MMI領域の
長さはおよそ半分のサイズまでに縮短され、面積は 1765µm2縮小された。この
活性層面積の減少により素子の閾値電流の低減を期待する。
77
続いで、素子を小型化しても広いヒステリシス幅が確保できる方法について
検討した。2 章で光モード間相互利得抑制領域とヒステリシス幅との関係を理論
的に分析した結果、光モード間の相互利得抑制領域が大きいほど素子のヒステ
リシス幅が広くなることが分かった[6-8]。しかし、通常の光モード間の双安定
レーザーにおいては、光モード間の相互利得抑制領域の調整は不可能で、今ま
ではモード間の相互利得抑制領域の増大による広いヒステリシス幅の実現例は
報告されていなかった。我々が提案しているアクティブ MMI 横モード間双安定
レーザーは、入力ポート領域において二つの光モード間に 100%の相互利得抑制
領域があるため、この入力ポートの長さを長くすれば、素子の利得領域におけ
る相互利得抑制領域が大きくなる。素子の利得領域におけるモード間の相互利
得抑制領域が大きいほど、二つのモードの間は強い相互利得抑制効果が生じる
こととなり、結果として広いヒステリシス幅が実現できると考えられる。
素子の利得領域における、入力ポートの長さの調整により与えるモード間の
相互利得抑制効果の変化をより簡単で明確に説明するため、ここで 3 章でのシ
ミュレーション計算結果に基づいて、相互利得抑制領域割合という概念を式(4.1)
のように定義した[9]。
Ltotal − LSA
Г ovelap
∫
= 0
Г overlap ( z )dz
Ltotal − LSA
(4.1)
ここで、Г ovelap(z)は光の伝搬方向においてのモード間の相互利得抑制領域で、
L total は素子の全長で、L SA は可飽和吸収領域の長さである。素子の可飽和吸収領
域は非利得領域で、横モード間の相互利得抑制効果に寄与しないため、相互利
78
得抑制領域割合の計算から除外する。この相互利得抑制領域割合は、利得領域
における二つの光の横モードの相互利得抑制領域の割合で、モード間の相互利
得抑制効果を表している。相互利得抑制領域割合が高いほど、利得領域におけ
る光横モード間の相互利得抑制効果も強くなり、結果として広いヒステリシス
幅が得られると考えられる。
アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの二つの横モード間の相互利得抑
制領域は、入力ポート領域では 100%、出力ポート領域では 0%、MMI 領域では
76%(3 章でのシミュレーションの計算結果)であることから、式(4.1)は
Ltotal − LSA
Г ovelap
∫
= 0
Г overlap ( z )dz
Ltotal − LSA
≅
Lin + LMMI * 0.76
Ltotal − LSA
(4.2)
となる。(4.2)式を用いて、前回の試作した素子の相互利得抑制領域割合を計算し
た結果、約 60%であった。そこで、今回はより広いヒステリシス幅を確保する
ため、モード間の相互利得抑制領域の割合を前回の試作より 15%以上大きくな
るよう、素子の設計を行った。比較のため他に相互利得抑制領域割合が 65%の
デザインも設計した。図 4.1 に設計した二つのデザインの構造図を示す。素子の
入力ポートの幅は 2.7µm、MMI 長は 133µm、MMI 幅 7.4µm にした。デザイン
A(図 4.1(a))は、素子全長を 315µm、入力のポート長を 116μm、出力ポート長を
66μm にし、デザイン B(図(4.1(b))は、素子全長を 365µm、入力ポート長を 116μm、
出力ポート長を 116μm と設計した。二つのデザインの可飽和吸収領域は共に
50µm として設計した。素子は通常の InGaAsP/InP-MQW 活性層(波長 1.55µm,7 重
量子井戸)を用いて、リッジ構造とした。
79
相互利得抑制領域割合 75%
66µm
2.7µm
7.4µm
116µm
133µm
(a)
可飽和吸収領域
50µm
315µm
相互利得抑制領域割合 65%
116µm
7.4µm
116µm
可飽和吸収領域
50µm
133µm
365µm
(b)
BCB
p-InP Cladding
Layer
図 4.1
InGaAsP/InGaAsP
MQW Active Layer
(λ=1.55µm)
InP 基板
n-InP Cladding
Layer
(c)
試作した素子の構造図。(a) デザイン A の構造図、相互利得抑制領
域割合を 75%にした。(b) デザイン B の構造図、相互利得抑制領域
割合を 65%にした。(c) MQW を用いたリッジ型導波路の構造図。
80
4.2.2
小型化と広ヒステリシス幅の実験実証
我々は、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザー小型化設計を行いながら、
より広いヒステリシス幅を確保するため、可飽和吸収領域の代わりに二つの横
モード光間の相互利得抑制領域割合を大きくした。相互利得抑制領域割合を大
きくした効果を検証するため、実際試作した素子の測定を行った。
図 4.2(a)と(b)に試作した二つのタイプの素子の電流ー光出力特性を示す。比較
のため、前回試作した素子の電流ー光特性を図 4.2 の(c)に示す。デザイン A は
58mA から 90mA までの極端に広いヒステリシス幅 32mA を、デザイン B は
63mA から 77mA までの比較的に広いヒステリシス幅 14mA を実現した。この二
つのデザインの可飽和吸収領域の割合をほぼ同じであることから、ヒステリシ
ス幅の違いは相互利得抑制領域割合の違いによるものだと考えられる。まだ、
二つのデザインの低閾電流値がほぼ同じであることから、2 章で説明した通り、
アクティブ MMI 双安定レーザーの低閾電流値は、素子のキャビティの内部損失
に依存し、素子のキャビティ長及び可飽和吸収領域長が一定の場合は、ほぼ一
定だと考えられる。
デザイン A は低閾値電流 58mA を実現して、前回より(96mA、(図 4(c)参照)約
39%低減された。これは小型化に伴って素子の活性層面積の低減によるものだと
考えられる。一方、可飽和吸収領域を前回より短く設計したにも関わらず極端
に広いヒステリシス幅を 32mA 実現した。これは、二つのモード間の相互利得
抑制領域割合を 75%まで大きくした結果によるものだと考えられる。
81
Output power [dBm]
10
0
-10
315μm
0th mode
1st mode
(a)
CW@ 25oC
0
65%
Whys=14mA
-10
365μm
-20
-30
10
Output power [dBm]
75%
Whys=32mA
-20
-30
10
Output power [dBm]
CW@ 25oC
0th mode
1st mode
(b)
CW@ 25oC
0
60%
Whys
=8mA
-10
550μm
-20
-30
50
0th mode
1st mode
70
90
Injection current [mA]
図 4.2 試作素子の電流ー光出力特性。(a)
特性,(b)
(c)
110
デザイン A 素子の電流ー光出力
デザイン B 素子の電流ー光出力特性。(c)前回試作素子の
電流ー光出力特性。横モード間の相互利得抑制領域割合を 75%まで
大きくした結果、32mA の極端に広いヒステリシス幅を実証した。
82
試作した素子の電流ー光出力特性を確認した後、我々は素子の近視野像につ
いて確認して見た。図 4.3 でデザイン A の NFP を示す。素子発振の際、0 次モー
ドと 1 次モードはそれぞれ異なるポートから出力される様子が確認できた。こ
れは、素子が小型化されても 0 次モードと 1 次モードはそれぞれ発振でき、こ
の発振からモード間は相互利得抑制効果が生じていると考えられる。
図 4.3
素子の NFP。素子のサイズを前回より小型化にされたが、0 次モー
ドと 1 次モードは変わらず、それぞれ異なるポートから出力される
ことが分かる。
続いて、我々はデザイン A のメモリ ON 動作実験を行った。素子のヒステリ
シス幅が極端に広いため、メモリ ON 動作実験の際に設定できる電流値もより
多くなった。測定結果、設定した電流値が違うことによって、メモリ ON 状態
になる入射光の最適な波長と最低パワーが異なった。これは、異なる注入電流
値によって、MMI 領域内の屈折率の変化によるものだと考えられる。表 4.1 に 0
次モードの実験結果を示す。素子動作の ON-OFF 比は 18dB 以上になり、小型化
したにも関わらず、前回の試作より安定したメモリ動作が得られた。
83
表 4.1 0 次モード光 ON 動作入射光の最適波長一覧表
CW 電流値(mA)
最適波長(nm)
入射パワー(dBm)
ON-OFF 比(dB)
65
1568
-7
21
70
1567
-11.3
21
75
1566
-12
21
実際の光 RAM メモリ素子のメモリ動作は、CW 光ではなくパルス光によるも
のである。そこで、我々は試作素子にパルス光を入射して、素子の動的メモリ
動作特性について評価した。今回の動的メモリ動作の実証実験で、メモリの ON
動作はパルス光を入射することによって実現させ、OFF 動作は電流を下げるこ
とによって実現した。バイアス T を用いて CW 電流とパルス電流を同時に素子
に注入する。CW 電流はヒステリシス幅より少し低い電流値を設定して、この上
にパルス電流を加えると、素子に注入した電流は、素子の双安定動作電流範囲
であるヒステリシス幅内にある状態とヒステリシス幅より低い状態となる。素
子への注入電流がヒステリシス幅内にある時、パルス光が入射すると素子はメ
モリ ON 状態となり、光の入射を中止してもメモリ ON 状態は維持される。この
時、注入したパルス電流を切ると素子への注入電流はヒステリシス幅より低く
なり、素子はメモリ OFF 状態となる。パルス光の周期とパルス電流の周期を同
期させることで、メモリ素子は光パルス信号により ON 動作ができ、パルス電
流を切ることにより OFF 動作ができる。図 4.4 にメモリの動的特性測定の実験
装置図を示す。セット光は可変波長光源で生成し、パルス・パターン・ジェネ
84
レータ(PPG)とマッハツェンダー変調器により変調させてパルス光信号を作る。
パルス光信号は先球ファイバーを用いて素子に入射させる。素子から出力され
たパルス光は 3dB カプラにより入射パルス光から分離させ、減衰器(ATT)でパ
ワーを落として、アバランシェ・フォトダイオード(APD)により電気信号に転換
した後、デジタルオシロスコープ(DSO) を用いて読み取る。
同期
PPG
パルス電流源
DSO
CW電流源
APD
バイアスT
ATT
3dBカプラ
MOD
TLD
Isolator
TLD:可変波長光源
MOD: マッハツェンダー変調器
PPG:パルスパタンジェネレータ
ATT:光減衰器
Isolator: アイソレータ
APD: アバランシェ・フォトダイオード
DSO:デジタルオシロスコープ
図 4.4 素子の動的メモリ動作特性測定の実験装置図。可変波長光源の CW
光を LN 変調器とパルスパタンジェネレータにより変調させてパル
ス光を生成して、レンズファイバーを通ってメモリ素子に入射する。
図 4.5 に得られた動的メモリ動作特性を示す。一番上のパルス信号は素子の出力
信号で、真中はパルス電流源の信号で、一番下のパルス信号はパルス光入射信号
である。デバイスに CW 電流 60mA、パルス電流 10mA を注入しながら、パルス
幅が 20ns で、繰り返し周期 20μs の入射光パルスを入射して、素子のメモリ動作
85
を検証した。入射光パルス信号はパルス電流より 750ns の遅延時間を設定した。
素子は入射光パルス信号によって ON となり、メモリ ON になるのに必要な最低
エネルギーが 50fJ であった。そして、素子から 1.5ns の立ち上がり時間と、1250ns
のメモリ維持時間が確認された。パケット通信用の光 RAM メモリ素子は、ナノ秒
オーダーの立ち上がり時間、数百ナノ秒のメモリ維持時間が求められている[13]
ので、今回の実証結果から、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーはパケッ
ト通信用の光 RAM メモリ素子として活用できると考えられる。
Rise time ~1.5ns
40
60
Time [ns]
80
100
(a)
(b)
Optical
Signal [a.u.]
RAM
o/p [a.u.]
20
Electrical
Gate [a.u.]
0
0
10
20
30
Time [μs]
40
(c)
50
図4.5 素子の動的メモリ動作特性の測定結果。(a)素子の出力信号。(b)パル
ス電流源の信号。(c)パルス光入射信号である。パルス光信号はパルス
電流源信号より750ns遅延されている。
86
4.2.3
結果の考察
我々はアクティブ MMI 横モード双安定レーザーの、利得領域におけるモード
間相互利得抑制領域割合を大きくすることで、広いヒステリシス幅が得られる
ことを初めて実証した。表 4.2 に今回試作した二つのデザインと前回試作した素
子の諸特性について比較した。
表 4.2
今回試作と前回試作素子の特性比較
デザイン A
デザイン B
前回試作[14]
315 µm
365 µm
550 µm
1.7×10-5cm2
2.0×10-5cm2
4.6×10-5cm2
50 µm
50 µm
75 µm
可飽和吸収領域の割合
15%
14%
13%
相互利得抑制領域割合
75%
65%
60%
58mA
63mA
96 mA
3.4kA/cm2
3.1kA/cm2
2.0kA/cm2
高閾電流値
90mA
77mA
104mA
動作中心電流
70mA
70mA
100mA
ヒステリシス幅
32mA
14mA
8 mA
素子全長
活性層面積
可飽和吸収領域長
低閾電流値
低閾値電流密度
表 4.2 の比較から、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーのモード間相
互利得抑制領域割合と素子の特性の関係を次のようにまとめられる。
(1) 可飽和吸収領域が一定の場合、素子のヒステリシス幅は二つのモード間の
相互利得抑制領域割合に依存する。
87
(2) 相互利得抑制領域割合を大きくしても、素子の低閾電流値にほぼ影響を与
えない。低閾電流値は素子のキャビティ損失に依存し、キャビティ長と可飽和
吸収領域長が一定の場合、ほぼ一定である。
(3) 相互利得抑制領域割合を大きくすることで、素子の高閾電流値は高くなる。
素子の高閾電流の増加により、素子のヒステリシス幅が広くなる。
(4) 相互利得抑制領域割合を調整することで、素子のヒステリシス幅をコント
ロールすることが可能である。
これより、2 章で説明した相互利得抑制領域とヒステリシス幅の関係を実験で
実証した。通常の双安定レーザーにおいてはこのような相互利得抑制領域割合
の増加による素子の広ヒステリシス幅の実現は不可能であるが、横モード間光
双安定動作原理を用いることで簡単に実現できた。今後、この原理を用いて、
アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの更なる小型化と低閾値電流と共に
広いヒステリシス幅の実現が期待できる。
4.3 4bit 集積素子の同一低動作電流の実証[15]
光ルータ用の光 RAM メモリ素子は、将来高レベルの集積が想定され、実用性
を考えると、全集積素子の同一動作条件の設定が求められる。アクティブ MMI
横モード間双安定レーザーのヒステリシス幅は素子の動作電流設定可能な範囲
であり、広いほど集積の際に全集積素子が同一動作電流での動作の可能性が高
くなる。4.2 では、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーを小型化設計と
ともにモード間の相互利得抑制領域割合を大きくする設計手法について説明し
88
た。この手法を用いて、アクティブ MMI 横モード双安定レーザーの小型化を実
現し、低い閾電流値 58mA と極端に広いヒステリシス幅 32mA を実証し、メモ
リ素子としての優れたメモリ動作特性を実証した。素子の集積化の際、もしこ
の手法を活用すれば、小型化ながら個々の集積素子の広いヒステリシス幅が実
現できるので、全集積素子の同一動作電流の設定範囲が確保できると考えられ
る。そこで、素子を小型化しながら広ヒステリシス幅が確保できる設計手法を
用いて、4bit 集積素子を試作して、その動作特性について評価した。
4.3.1 4bit 集積素子の設計試作
図 4.6(a)に試作した 4bit 集積素子の単一素子の構造を示す。素子全長を 355µm
で、入力ポートの幅を 2.7µm、MMI 領域幅を 7.4µm、MMI 領域長を 123µm、入
力ポートの長さを 116µm、出力ポートの長さを 116µm として設計した。可飽和
吸収領域は 50µm とし、広いヒステリシス幅を確保するために、二つの光モード
間の相互利得抑制領域の割合を 65%とした。試作素子は、閉じ込めが強い
InGaAsP/InP-MQW 活性層(波長 1.55µm、7 層量子井戸)を用い、導波路構造はリッ
ジ型導波路とした。図 4.6(b)に 4bit 集積素子の構造図を示す。集積素子の間素子
と素子の間の間隔は 300µm にして、全集積素子のサイズは 355×1200µm2 である。
素子の製作プロセス工程は特に複雑な工程ではなく、通常の半導体レーザー
のプロセス工程と同じである。ウェハの結晶成長には MOVPE(有機金属気相成
長法)を用いて層構造を形成した。その後、i 線ステッパを用いて導波路構造パ
ターニング用マスクを形成し、そののち RIE 法によってリッジ導波路構造を形
89
成した。図 4.6(c)に試作した 4bit 集積素子の上面写真を示す。4bit 集積素子は
355×1200µm2 のサイズの一つのチップに集積されている。
116µm
2.7μm
7.4µm
116µm
相互利得抑制領域 65%
可飽和吸収領域
50µm
123µm
355µm
(a)
1200μm
1200μm
355μm
(c)
355μm
(b)
図4.6
4bit 集積素子の構造図。(a) 単一素子の構造説明図。(b)4bit集積素子
の構造図。(c) 4bit集積素子の上面写真。4 bit集積素子は355×1200µm2
のサイズの一つのチップに集積されている。
4.3.2
4bit 集積素子の同一低動作電流の実験実証
試作した集積素子を、AlN 材のヒートシングに熔着した後、特注した 4bit ス
テムに熔着してから素子の動作特性について評価した。まず 4bit 集積素子の電
流ー光出力特性について調べた。図 4.7 にその結果を示す。各集積素子に 0 から
90
80mA の電流を注入した後、続いて 80mA から 0mA の電流を注入してから、0
次モード光と 1 次モード光の出力をそれぞれ測定した。その結果、素子#1 は
47~61mA、素子#2 は 50~59mA、素子#3 は 52~63mA 、素子#4 は、48~60mA の
ヒステリシス幅が確認された。四つの集積素子は共通のヒステリシス 50~59mA
を持ち、8mA という共同動作電流範囲を持つ。これより個別に動作電流設定す
Output power [dBm]
る必要がないことが確認できた。素子の閾値電流も 50mA 程度となっており、
CW@25oC
5
0th mode
1st mode
-5
-15
-25
Bit#1
-35
Output power [dBm]
0
20
40
60
Injection current [mA]
80 0
Bit#2
20
40
60
80
Injection current [mA]
5
-5
-15
-25
-35
0
図 4.7
Bit#3
20
40
60
Injection current [mA]
80 0
Bit#4
20
40
60
Injection current [mA]
80
4bit 集積素子の電流ー光出力特性。Bit#1 は 47~61mA、Bit#2 は
50~59mA、Bit#3 は 52~63mA 、Bit#4 は、48~60mA のヒステリシ
ス幅が確認された。4bit 集積素子は 8mA の共同動作電流範囲を持
つ。
91
これは素子の活性層の低減によるものだと考えられる。一方、二つのモード間
の相互利得抑制領域の割合を 65%にした結果、素子は比較的に広いヒステリシ
ス幅を得られて、全集積素子の同一動作電流の設定が可能となった。
続いて、我々は 4bit 集積素子の動的メモリ特性を評価した。図 4.8 にその結果
を示す。一番上のパルス信号は素子の出力信号で、真中はパルス電流源の信号
で、一番下のパルス信号はパルス光入射信号である。全集積素子に同一動作電
流 55mA を設定し、パルス幅が 20ns で、繰り返し周期 20μs の入射光パルス信号
(λ=1.56μm)を入射して、素子のメモリ動作を検証した。入射光パルス信号はパル
ス電流より 750ns の遅延時間を設定した。全集積素子は入射光パルス信号によっ
て ON になり、メモリ ON になるのに必要な最低エネルギーが 50fJ であった。
そして、全集積素子において 1.5ns の立ち上がり時間と、1250ns のメモリ維持時
間が確認された。すべての集積素子は同一動作条件の設定でメモリ動作を行い、
これより、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの集積素子は個別に動作
条件の設定する必要がないことを実証した。
これらの結果から、小型化しながら広ヒステリシス幅を確保する設計手法を
活用すれば、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーを用いた光 RAM メモ
リ素子が、個々の素子が十分に広いヒステリシス幅が確保できるため、高集積
化の際にも全集積素子の同一動作条件でのメモリ動作を実現できると考えられ
る。我々は、近い将来アクティブ MMI 横モード間双安定レーザー型光 RAM メ
モリ素子が光ルータ用の光 RAM メモリ素子として実用化されることを期待す
る。
92
Optical pulse Gate voltage O/p signal O/p signal
[a .u.]
[a.u.]
[a .u.]
[a .u.]
0 10 20 30 40 50 60
Time [ns]
Bit#1
Optical pulse Gate voltage O/p signal O/p signal
[a .u.]
[a.u.]
[a .u.]
[a .u.]
0
図 4.8
Rise time ~1.5ns
Rise time ~1.5ns
10
0
20
30
Time [μs]
0 10 20 30 40 50 60
Time [ns]
Bit#3
0
10
0 10 20 30 40 50 60
Time [ns]
Bit#2
20
30
Time [μs]
10
20
30
Time [μs]
0 10 20 30 40 50 60
Time [ns]
Bit#4
0
10
20
30
Time [μs]
4bit 集積素子の動的メモリ特性の測定結果。全集積素子の同一動
作条件の設定でメモリ動作を実証した。全集積素子から 1.5ns の
立ち上がり時間、1250ns のメモリ維持時間という優れたメモリ動
作特性を実証した。
93
4.4 極広ヒステリシス幅の実証[16-18]
4.2 では、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーを小型化設計とともに
モード間の相互利得抑制領域割合を大きくする設計手法について説明した。こ
の手法を用いて、アクティブ MMI 横モード双安定レーザーの小型化を実現し、
低い閾電流値 58mA と極端に広いヒステリシス幅 32mA を実証し、メモリ素子
としての優れたメモリ動作特性を実証した。更なる広ヒステリシス幅を実現す
るために、我々は MMI 領域の一部を可飽和吸収領域として設ける、部分 MMI
可飽和吸収領域構造を提案して、極端に広いヒステリシス幅を実証した[13-15]。
この小節では、部分 MMI 可飽和吸収領域の構造及び試作素子の実験実証結果に
ついて述べる。
4.4.1
部分 MMI 可飽和吸収領域構造の提案
アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーは、利得領域における光モード間
の相互利得抑制領域によってモード間に相互利得抑制効果が生じて、相互利得
抑制効果が強いほど光モード間は強い光双安定が得られ、広いヒステリシス幅
が実現される。その一方、素子の可飽和吸収領域は電流注入がないため非利得
領域であり、二つのモード間の相互利得抑制効果に寄与しない。もし、アクティ
ブ MMI 横モード間双安定レーザーの利得領域における二つのモード間の相互利
得抑制効果が弱い部分を全部可飽和吸収領域として設ければ、二つの光のモー
ドの間は、極めて強い相互利得抑制効果が得られると考えられる。この極めて
強い相互利得抑制効果によって、素子の極端に広いヒステリシス幅が得られる
94
と考えられる。
そこで、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの二つのモード間の相互
利得抑制領域のモード間相互利得抑制効果ついて詳しく分析して見た。素子の
出力ポートには、二つのモードの相互利得抑制領域はほぼ存在しないと考えら
れる。MMI 領域において、図 4.9 に示すように 0 次モードと 1 次モード光は入
力側の共通ポートから入力されるので、入力側に近い部分は相互利得抑制効果
が高いと考えられる。しかし、これに対し出力側は二つの光モードがそれぞれ
分離して出力ポートに出力されるので、出力側に近い部分は二つのモード間の
相互利得抑制効果が弱いと考えられる。3 章で説明した計算方法で、MMI 領域
におけるモード間相互利得抑制領域を詳しく解析した結果、出力側で MMI の面
強い相互利得抑制効果領域
(85%の相互利得抑制領域、MMI 面積の約 85%占める)
弱い相互利得抑制効果領域
(60%の相互利得抑制領域、MMI面積の約15%占める)
図 4.9 MMI 領域のモード間相互利得抑制領域分布図。出力側で MMI 面積の
約 15%を占める部分は弱い相互利得抑制効果領域で、残りの部分は
強い相互利得抑制効果領域である。
95
積の約 15%を占める部分では相互利得抑制効果が比較的に弱くて、この部分で
の相互利得抑制領域が約 60%であった。残りの MMI 領域では、相互利得抑制効
果が比較的に強く、相互利得抑制領域が約 85%であった。MMI 領域での弱い相
互利得抑制効果領域と出力ポートの全部を素子の利得領域から外すと、素子の
利得領域には極端に強い相互利得抑制効果が生じることができると考えられる。
そこで、MMI 領域のうち二つの光モード間の相互利得抑制効果が比較的弱い領
域を可飽和吸収領域とする部分 MMI 可飽和吸収領域構造を提案した。この構造
により、MMI 領域の一部を可飽和吸収領域化した場合であっても、レーザー発
振状態となれば、アクティブ MMI 現象が生じて、極めて強いモード間の相互利
得抑制効果が得られると期待される。このモード間の極端に強い相互利得抑制
効果の働きにより、極端に広いヒステリシス幅が実現できると期待される。
シミュレーションで分析した結果に基づいて試作素子を設計した。図 4.10(a)
に設計した部分 MMI 可飽和吸収領域構造を持つ素子の構造を示す。素子の全長
を 335µm、アクセスポートの幅を 2.7µm、MMI の幅を 7.4µm、MMI 長を 153µm、
入力ポート長を 117µm、出力ポートを 65µm とした。可飽和吸収領域の長さは、
MMI 領域の一部 25µm と出力ポート長 65µm 合わせて 90µm にした。試作素子は、
閉じ込めが強い InGaAsP/InP-MQW 活性層(波長 1.55µm、7 層量子井戸)を用い、
導波路構造はリッジ型導波路とした。図 4.10(b)に MQW を持つ素子のリッジ型
導波路の構造図を示す。素子のウェハの結晶成長には MOVPE(有機金属気相成
長法)を用いて層構造を形成した後、i 線ステッパを用いて導波路構造パターニン
グ用マスクを形成し、そののち RIE 法によってリッジ導波路構造を形成した。
96
335µm
25µm
65µm
2.7µm
7.4µm
117µm
153µm
強い相互利得抑制効果領域 弱い相互利得抑制効果領域
(85%相互利得抑制領域)
(60%相互利得抑制領域)
可飽和吸収領域
利得領域
(a)
BCB
p-InP Cladding
Layer
InGaAsP/InGaAsP
MQW Active Layer
(λ=1.55µm)
InP 基板
n-InP Cladding
Layer
(b)
図 4.10 部分 MMI 可飽和吸収領域を持つ素子の構造図。 (a) 素子の構造図。
(b) MQW を持つリッジ型導波路の構造図。
4.4.2
極広ヒステリシス幅の実験実証
アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの利得領域での光モード間の相互
利得抑制効果を強くするために、MMI 領域のモード間の相互利得抑制効果が弱
い部分を全部非利得領域とする部分 MMI 可飽和吸収領域構造を提案して、素子
97
を設計試作し、その動作特性を評価した。
まず、素子の電流ー光出力特性を確認した。図 4.11 に試作素子の電流ー光出
力特性を示す。試作素子に 0 から 200mA の電流を注入した後、続いて 200mA
から 0mA の電流を注入してから、0 次モード光と 1 次モード光の出力をそれぞ
れ測定した。試作素子は電流ー光双安定を表し、約 168mA で発振して、閾値よ
り低い電流でも発振し続き 72mA まで発振していて極端に広いヒステリシス幅
94mA を確認した。4.2 で説明したデザイン A に比べて可飽和吸収領域の割合が
約 11%高くなったため、素子の低閾電流値が約 13mA 高くなるという結果になっ
た。その一方、素子はデザイン A より 3 倍も広いヒステリシス幅 94mA を実現
Output power [dBm]
10
CW@25oC
0
94mA
-10
-20
0th mode
1st mode
-30
0
40
80
120
160
200
Injection current [mA]
図 4.11
試作素子の電流ー光出力特性。試作素子は、部分 MMI 可飽和吸
収領域構造を設けることで、極端に広いヒステリシス幅 94mA を
実現した。
98
し、これは世界でも最高レベルであった。この極端に広いヒステリシス幅は、
可飽和吸収領域長を大きく設けたことと部分 MMI 可飽和吸収領域構造で極端に
強い相互利得抑制効果が得られたことによるものだと考えられる。
試作した素子の電流ー光出力特性を確認した後、我々は素子の近視野像につ
いて確認して見た。図 4.12 でその近視野像を示す。素子発振の際、0 次モード
と 1 次モードはそれぞれ異なるポートから出力される様子が見られる。これは、
MMI 領域の一部を可飽和吸収領域化した場合であっても、レーザーが発振状態
となれば、アクティブ MMI 現象は生じていることを意味している。アクティブ
MMI 現象が生じることで、素子の利得領域では 0 次モードと 1 次モード光の間
で強い相互利得抑制効果が生じて素子が強い光双安定を表すことができると考
えられる。この結果により、アクティブ MMI デバイスにおいて、MMI 領域を
利得領域と非利得領域に分割しても MMI 現象が生じることを初めて確認した。
図 4.12
素子の NFP。MMI 領域の一部を可飽和吸収領域化した場合で
あっても、0 次モードと 1 次モードは変わらず、それぞれ異なる
ポートから出力されることが分かる。
99
続いて、我々は試作素子の動的メモリ動作特性を評価した。図 4.13 にその結
果を示す。デバイスに CW 電流 72mA とパルス電流 30mA を動作電流として設
定し、パルス幅が 20ns で、繰り返し周期が 600ns の光パルス信号を入射して素
子のメモリ動作を実証した。入射光パルス信号はパルス電流源より 80ns の遅延
時間を設定した。素子はパルス光信号によって ON になり、メモリ ON になるの
に必要な最低エネルギーは 30fJ であった。素子は、1.5ns の立ち上がり時間と、
520ns のメモリ維持時間を実現した。部分 MMI 可飽和吸収構造においても、通
Rise time ~1.5ns
Optical pulse Gate voltage Device output
[a.u.]
[a.u.]
[a.u.]
0
0
10
20
30
Time
600ns
40
50
300ns
20ns
600
1200
1800
Time
図 4.13
部分 MMI 可飽和吸収領域構造を持つ素子の動的特性の測定結果。
素子はパルス光信号によって ON となり、1.5ns の立ち上がり時間
と 520ns のメモリ維持時間を実現した。
100
常の可飽和吸収領域構造のアクティブ MMI 横モード間双安定レーザーと同じよ
うな優れた動的メモリ特性が確認できた。この結果から、部分 MMI 可飽和吸収
領域構造を用いたアクティブ MMI 横モード双安定レーザーも光 RAM メモリ素
子として活用できると考えられる。
4.4.3
結果の考察
アクティブ MMI 横モード双安定レーザーにおいて、MMI 領域でのモード間の
相互利得抑制効果が弱い部分を非利得領域として設ける部分 MMI 可飽和吸収領
域構造を用いて、極端に広いヒステリシス幅 94mA を実現した。この極端に広
いヒステリシス幅は、MMI 部分可飽和吸収領域構造によって得られた極端に強
いモード間相互利得抑制効果及び可飽和吸収領域を大きく設けた効果によるも
のだと考えられる。図 4.14 に示すように通常の可飽和吸収領域構造を持つアク
ティブ MMI 双安定レーザーにおいて、可飽和吸収領域の割合の増加によりヒス
テリシス幅は線形的に大きくなる傾向がある。この傾向に従うと、通常の可飽
和吸収領域の構造では、可飽和吸収領域長を 90µm に設けた場合、ヒステリシス
幅は 40mA 至らない見込みである。しかし、部分 MMI 可飽和吸収領域構造を持
つアクティブ MMI 横モード双安定レーザーは、見積もったヒステリシス幅の二
倍以上の極端に広いヒステリシス幅 94mA を実現した。この結果から、可飽和
吸収領域の増加よりも、モード間相互利得抑制効果の増加が広いヒステリシス
幅の実現に最も寄与すると考えられる。部分 MMI 可飽和吸収領域構造を設ける
ことで、素子の利得領域におけて極端に強いモード間相互利得抑制効果が生じ
101
て、この極端に強いモード間相互利得抑制効果の働きによって、通常の可飽和
吸収領域構造より極端に広いヒステリシス幅が実現できたと考えられる。今後
の素子の設計において、この部分 MMI 可飽和吸収領域構造を活用して、更なる
小型化と広いヒステリシス幅の実現が期待できる。
Hysteresis window [mA]
100
80
60
40
部分 MMI 可飽和
吸収領域構造
20
通常の可飽和吸
収領域構造
0
図 4.14
0
40
80
120
160
Saturable absorber length LSA [μm]
200
部分 MMI 可飽和吸収領域と通常の出力ポートだけ可飽和吸収領
域構造のヒステリシス幅の比較図。部分 MMI 可飽和吸収領域構
造により、極端に広いヒステリシス幅が実現できる。
102
参考文献
[1]
H. A. Bastawrous, H.Jiang, Y.Tahara, S.Matusuo, and K.Hamamoto, “Extremely
wide and uniform hysteresis windows (32mA) for integrated optical RAM using
novel active MMI-BLD”, Tech. Dig. OFC 2009, (San Diego,USA), OTuk2(2010).
[2]
H. Jiang, H. A. Bastawrous, Y. Tahara, S. Matusuo and K. Hamamoto,
“Demonstration of wide hysteresis window bi-stable laser diode using different
lateral mode paths in active multimode interferometer,” Tech. Dig. MOC 2009
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[3]
姜 海松, ハニー・アヤド・バスタワロス, 田原裕一朗, 松尾慎治, 浜本貴一,
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モリ素子”, 電子情報通信学会技術研究報告,vol. 109, no. 243, pp. 1-5(2009).
[4]
L. B. Soldano, E. C. M. Pennings, “Optical multi-mode interference devices based
on self-imaging: principles and applications”, Journal of Lightwave Technology,
Vol. 13, No. 4, pp. 615-627(1995).
[5]
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waveguides, Ch. 1, Academic Press (2000)
[6]
C. L. Tang, A. Schremer, and T. Fujita, “Bistability in two-mode semiconductor
lasers via gain saturation”, Appl. Phys. Lett., vol. 51, no. 18, pp.
1392-1394(1987).
[7]
A. E. Siegman, Lasers, (University Science Books, California, 1986), Chap. 25.
103
[8]
M. Yamada, “Transverse and longitudinal mode control in semiconductor
injection lasers”, IEEE J. Quantum Electronics, vol. QE-19, no. 9, pp. 1365-1380
(1983).
[9]
H. Jiang, H. A. Bastawrous, T. Hagio, S. Matusuo, and K. Hamamoto, “Low
hysteresis threshold current (39mA) active multi-mode-interferometer (MMI)
bi-Stable laser diodes using lateral-modes bi-stability”, IEEE J. Sel. Top.
Quantum Electron., vol. 17, no5, pp. 1258-1263(2011).
[10] Y.
Kokubun,
“Semiconductor
optical
waveguides”,
in
Handbook
of
semiconductor lasers and photonic integrated circuits, Edited by Y. Suematsu and
A. R. Adams, Ch. 3,
Chapman and Hall (1994).
[11] 土屋治彦•三上 修, 半導体フォトニクス工学, コロナ社(1995).
[12] 米津広雄, 光通信素子光学, 工学図書株式会社版(1984).
[13] D. J. Blumenthal, J. E. Bowers, L. Rau, H.-F. Chou, S. Rangarajan,W.Wang, and
K. N. Poulsen, “Optical signal processing for optical packet switching networks,”
IEEE Commun. Mag., vol. 41, pp. S23–S29 (2003).
[14] H. Jiang, H. A. Bastawrous, H. Saikaku, Y. Tahara, S. Matusuo, and K. Hamamoto,
“Optical bit-memory element based on bi-Stability between different lateral
modes using novel active multi-mode-interferometer (MMI) for random access
memory (RAM) application”, Enginee. Science Reports, Kyushu University, vol.
31, no1, pp. 1-6(2009).
104
[15] Hany Ayad Bastawrous, Haisong Jiang ,Yuichiro Tahara, Shinji Matsuo and Kiichi
Hamamoto, “Integrated 4-bit memory elements with single common and low
operation current (55mA) using novel active MMI”, Proc. ECOC 2009( Vienna,
Austria), P.2.15(2009).
[16] Hany Ayad Bastawrous, Haisong Jiang, Yuichiro Tahara, Shinji Matsuo, and
Kiichi Hamamoto, “Optical memory elements with extremely wide hysteresis
window (94mA) using partly saturable-absorber novel active MMI bi-stable laser
diodes” Tech. Dig. OFC 2010, (San Diego,USA), JWA34(2010).
[17] 姜
海松,ハニー・アヤド・バスタワロス,田原裕一朗,松尾慎治,浜本
貴一, “部分 MMI 可飽和吸収領域構造によるアクティブ MMI 双安定レー
ザーの極広ヒステリシス幅化”, 2010 年秋季第 71 回応用物理学会学術講
演会,(長崎),6-pH-17(2010).
[18] 姜
海松,ハニー・アヤド・バスタワロス,田原裕一朗,松尾慎治,浜本
貴一, “アクティブ MMI による広ヒステリシス幅双安定レーザー”, 電子
情報通信 2010 年ソサイエティ大会,(大阪),C-4-11(2010).
105
第5章
低閾値電流化の検討
5.1 序
我々は、横モード間双安定動作原理の活用により、58mA の閾値電流と 32mA
の広いヒステリシス幅を実証した。将来の光ルータへの実用化には、更なる低
閾値電流の実現が求められる。現在の最新の電気ルータであるシスコ社の CRS-1
ルータは,1.2 Tbps の処理能力で 15.5kW の電力を消費している。将来の低消費
電力の観点から光ルータの消費電力は 1kW 以下まで低減されるのが望ましい。
光メモリの総消費電力はルータの消費電力のおよそ 30%を占めると予測してい
るため、光 RAM メモリの総消費電力は 300W 以下まで低減させる必要がある。
光ルータの信号処理の仕組みが電気ルータと異なり、バッファ処理に必要なメ
モリの量は単純に計算することができないが、例えば 1 パケット(1500Byte)12000
個のメモリ素子を集積した場合、個々の素子の電力消費は 30mW 以下まで抑え
る必要がある。アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの電圧は 1V 位で、
この目標を達成するには閾値電流は 30mA 以下までの実現が望まれる。しかし、
現状ではこの目標を実現するのが難しいので、まず閾値電流を 40mA 以下まで
低減するのを目指して検討した。
通常双安定レーザーの低閾値電流を実現するには、素子の小型化に伴う活性
層面積低減あるいは、短可飽和吸収領域化による内部損失の低減が効果的な手
段である。我々は、素子を小型化することで、閾値電流を約 39%低減するのに
成功した[3-6](ここで議論される閾値電流は、双安定レーザーの二つの閾電流値
106
第5章
低閾値電流化の検討
5.1 序
我々は、横モード間双安定動作原理の活用により、58mA の閾値電流と 32mA
の広いヒステリシス幅を実証した。将来の光ルータへの実用化には、更なる低
閾値電流の実現が求められる。現在の最新の電気ルータであるシスコ社の CRS-1
ルータは,1.2 Tbps の処理能力で 15.5kW の電力を消費している。将来の低消費
電力の観点から光ルータの消費電力は 1kW 以下まで低減されるのが望ましい。
光メモリの総消費電力はルータの消費電力のおよそ 30%を占めると予測してい
るため、光 RAM メモリの総消費電力は 300W 以下まで低減させる必要がある。
光ルータの信号処理の仕組みが電気ルータと異なり、バッファ処理に必要なメ
モリの量は単純に計算することができないが、例えば 1 パケット(1500Byte
長)12000 個のメモリ素子を集積した場合、個々の素子の電力消費は 30mW 以下
まで抑える必要がある。アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーの電圧は 1V
位で、この目標を達成するには閾値電流は 30mA 以下低減させる必要がある。
しかし、現状ではこの目標を実現するのが難しいので、まず閾値電流を 40mA
以下まで低減するのを目指して検討した。
通常双安定レーザーの低閾値電流を実現するには、素子の小型化に伴う活性
層面積低減あるいは、短可飽和吸収領域化による内部損失の低減が効果的な手
段である。我々は、素子を小型化することで、閾値電流を約 39%低減するのに
成功した[3-6](ここで議論される閾値電流は、双安定レーザーの二つの閾電流値
106
のうち、低い閾電流値で、即ち低閾電流値である。説明上便利のため、特別な
説明がない限り、閾値電流はすべて低閾電流値を指す)。更なる閾値電流の低減
を実現するため、我々は可飽和吸収領域の減少による閾値電流の低減について
検討した。しかしながら、単純な短可飽和領域設計だけでは双安定動作にとっ
て重要なヒステリシス幅も狭くなり、動作電流の同一設定ができず、高集積化
の際の妨げとなることが懸念される。そこで、我々は短可飽和吸収領域ととも
に広いヒステリシス幅が得られる手法について検討した。5 章では、アクティブ
MMI 双安定レーザーの低閾値電流と共に広いヒステリシス幅が実現できる設計
手法による低閾値電流化について述べる[7-9]。
5.2 では低閾値電流を実現するための素子の設計原理について述べる。実験で
得られた試作素子の電気ー光出力の特性評価結果を用いて、横モード間相互利
得抑制領域とヒステリシス幅との関係、可飽和吸収領域と閾値電流との関係を
分析する。その分析結果に基づいて、可飽和吸収領域を短尺化しても、充分な
モード間相互利得抑制領域割合を確保することで、低閾値電流と共に広いヒス
テリシス幅が実現できる設計手法について説明する。
5.3 では、低閾値電流と共に広いヒステリシス幅が実現できる設計手法を用い
て試作した素子の実験実証結果について述べる。可飽和吸収領域を 25μm に短
尺化して、充分な相互利得抑制領域割合を確保する設計により、広ヒステリシ
ス幅特性を維持したまま、低閾値電流化(39mA)を実現した。
5.4 では、低閾値実証結果を分析して、更なる低閾値電流の実現について議論
する。充分なモード間相互利得抑制領域の確保によって、可飽和吸収領域を設
107
けなくても比較的に広いヒステリシス幅が実現できる可能性を示して、アク
ティブ MMI 横モード双安定レーザーの更なる低閾値電流の実現について議論す
る。
5.2 低閾値電流化設計原理 [7-9]
前述のように、双安定レーザーの低閾値電流化を実現するには、素子の小型
化だけでなく、可飽和吸収領域の短尺化も有効な手段である。通常の半導体レー
ザーにおいては、可飽和吸収領域を短くすることで、双安定動作にとって重要
なヒステリシス幅が狭くなることが懸念されていて、低閾値電流と共に広いヒ
ステリシス幅の実現が困難である。ところが、アクティブ MMI 横モード間双安
定レーザーにおいては、素子のヒステリシス幅は可飽和吸収領域だけではなく、
二つのモード間相互利得抑制領域割合にも関連している。アクティブ MMI 横
モード間双安定レーザーは、二つの横モード間の相互利得抑制領域を大きくす
ることで[10-12]、素子のヒステリシス幅が広げられる[5]。そして、モード間相
互利得抑制領域割合を調整することで、素子のヒステリシス幅のコントロール
が可能となる。アクティブ MMI 双安定レーザーのこの特長を活用して、可飽和
吸収領域を短くしながら充分なモード間相互利得抑制領域割合を確保すれば、
低閾値電流とともに広ヒステリシス幅が実現できると考えられる。ところが、
半導体レーザーの二つの発振モード間の双安定現象と可飽和吸収領域現象を同
時に扱うことで、その解析が難しいので、今まで低閾値電流とともに広ヒステ
リシス幅が実現ための具体的な設計手法は確立されていなかった。そこで、異
108
なるモード間相互利得抑制領域割合及び異なる可飽和吸収領域長を持つ試作素
子から得られた実験結果を用いて、可飽和吸収領域と閾値電流の関係、相互利
得抑制領域割合とヒステリシス幅の関係を解析して、低閾値電流とともに広ヒ
ステリシス幅が実現のための設計について検討して見た。
表 5.1
試作素子の構造
LSA
[μm]
Гoverlap
[%]
Ltotal
[μm]
Lin
[μm]
LMMI
[μm]
Lout
[μm]
WMMI
[μm]
Wport
[μm]
50
76
305
116
123
66
7.4
2.7
50
64
355
116
123
116
7.4
2.7
75
62
355
91
123
141
7.4
2.7
表 5.2
試作素子の電流ー光出力特性
Гoverlap
[%]
LSA
[μm]
Ltotal
[μm]
Ith [mA]
Whys
[mA]
∆Ihys
[%]
76
50
305
53
23
43
64
50
355
50
10
20
62
75
355
60
18
30
今回分析に使われた試作素子の詳しい構造を表 5.1 に示す。そして、表 5.2 に
三つのタイプから得られた電流ー光出力特性についてまとめた。この表で、L SA
は可飽和吸収領域長、Г overlap はモード間相互利得抑制領域割合で、L total 、L in、L MMI、
L out はそれぞれ、素子の全長、入力ポート長、MMI領域長、出力ポート長である。
W MMI はMMI領域の幅で、W port は入力ポートの幅である。I thは閾値電流で、W hys
はヒステリシス幅である。∆I hysはヒステリシス幅対閾値電流比で、図 5.1 にその
概念説明図を示す。素子の低閾値電流化に伴うヒステリシス幅の変化をより正
109
確に表すためにこの概念を導入した。通常、素子の高集積化の際、10%以上の
∆I hys確保できれば、全集積素子の同一動作電流の設定が可能だと考えられる。
Output power [a.u.]
図 5.2 に得られた可飽和吸収領域と相互利得抑制領域割合と閾値電流との関
Whys
∆Ihys [%] = (Whys / Ith)*100%
Ith
Injection current [a.u.]
図 5.1
∆Ihys の概念説明図。素子の高集積化の際、10%以上の∆Ihys が確保で
きれば、全集積素子の同一動作電流の設定は可能だと考えられる。
係をグラフに示す。横軸は可飽和吸収領域長で、縦軸は閾値電流値である。図
5.2 から、可飽和吸収領域の短縮と伴い、素子の閾値電流が線形的に低減される
ことが分かる。これは可飽和吸収領域が短いほどキャビティの内部損失が少な
くなり、結果として閾値電流が低減されると考えられる。その一方、相互利得
抑制領域割合の増大による閾値電流の大きな変化は見られていない。この結果
から、素子の閾値電流は主に可飽和吸収領域によるキャビティの内部損失に依
存して、相互利得抑制領域割合とは直接関連がないと考えられる。これらの分
析より、素子の閾値電流を低減するには、可飽和吸収領域を短くするのが有効
だと考えられる。図 5.2 に示した結果から、40mA より低い閾値電流を実現する
には、可飽和吸収領域の長さを 30µm より短く設計する必要がある。
110
Hysteresis threshold Ith [mA]
80
60
40
Гoverlap = 76%
Гoverlap = 64%
20
0
0
25
50
75
100
Saturable absorber length LSA [μm]
図 5.2
可飽和吸収領域と相互利得抑制領域割合と閾値電流との関係のグラ
フ。可飽和吸収領域の減少に伴って、素子の閾値電流は線形的に低
減される。相互利得抑制領域割合の増大による閾値電流の大きな変
化は見られていない。
可飽和吸収領域長を 30µmより短く設計した場合、10%以上の対閾値電流比
(∆I hys)のヒステリシス幅を確保するために、充分なモード間相互利得抑制領域の
割合を確保する必要がある。図 5.3 にモード間相互利得抑制領域と可飽和吸収領
域と∆I hys との関係グラフを示す。横軸はモード間相互利得抑制領域割合で、縦
軸は∆I hysである。図 5.3 より、可飽和吸収領域を同じ長さに設定した場合、∆I hys
はモード間相互利得抑制領域割合の増加に伴って線形的に増加されていること
が分かる。これは 2 章で理論分析した、モード間の相互利得抑制領域の増加に
よって相互利得抑制係数が大きくなり、結果としてヒステリシス幅が広くなる
結果と一致している。可飽和吸収領域を 50µmと 75µmに設けた時、相互利得領
域割合の変動によって得られた∆I hysの変化傾向から、可飽和吸収領域が 25µmに
111
設ける時の傾向を見積もって、図 5.3 にその推測傾向ラインを虚線として表した。
この推測ラインから、可飽和吸収領域を 25µm とした場合、10%以上の∆I hysを確
保するためには、モード間の相互利得抑制領域割合は少なくとも 60%以上を確
保する必要があると考えられる。
80
LSA=75μm
LSA=50μm
LSA=25μm (仮定ライン)
∆Ihys [%]
60
40
20
0
50
60
70
80
90
Гoverlap [%]
図 5.3 モード間相互利得抑制領域と可飽和吸収領域と∆Ihys の関係のグラフ。
可飽和吸収領域を同じ長さに設定した場合、∆Ihys はモード間相互利
得抑制領域割合の増加に伴って線形的に増加されている。
5.3
低閾値電流の実験実証[7-9]
5.2 では、異なるモード間相互利得抑制領域割合及び異なる可飽和吸収領域割
合を持つ試作素子から得られた実験結果を用いて可飽和吸収領域と閾値電流と
の関係、相互利得抑制領域割合とヒステリシス幅との関係を分析して、低閾値
電流と広いヒステリシス幅が確保できる設計手法について検討した。その結果、
112
アクティブMMI横モード双安定レーザーにおいて 40mAより低い閾値電流を実
現するためには、可飽和吸収領域長を 30µmより短く設計する必要があることを
明らかにした。又、可飽和吸収領域長を 30µmより短く設計する時 10%以上のヒ
ステリシス幅比∆I hys を確保するためには、少なくとも 60%以上のモード間相互
利得抑制領域割合を確保する必要があることを明らかにした。この分析結果に
基づいて、実際に素子を設計して[13-14]、素子の電流ー光出力特性について評
64%
25µm
65%
305µm
(a)
50µm
355µm
(b)
65%
75µm
375µm
(c)
図 5.4
試作した素子の構造図。(a) 構造 A: 可飽和吸収領域 25µm、相互
利得抑制領域割合 64%。(b)構造 B: 可飽和吸収領域 50µm、相互利
得抑制領域割合 65%。 (c)構造 C: 可飽和吸収領域 75µm、相互利
得抑制領域割合 65%。
113
価した。図 5.4(a)に試作した素子の構造図を示す。素子の全長は 305µm、入力ポー
トの幅は 2.7µm、MMI長は 123µm、MMI幅は 7.4µm、入力のポート長を 91μm、
出力ポート長を 91μmにした。可飽和吸収領域長を 25µmとし、モード間相互利
得抑制領域割合は 64%なるように素子を設計した。可飽和吸収領域長及び相互
利得抑制領域の割合が素子の閾値電流とヒステリシス幅への影響を確認するた
め、同じ相互利得抑制領域割合を有し、異なる可飽和吸収領域長(50μm、75μm)
を有する素子も併せて設計試作した(図 5.4(b),(c)を参照)。
素子は通常の InGaAsP/InP-MQW 活性層(波長 1.55µm,7 重量子井戸)を用いて、
リッジ構造とした。ウェハの結晶成長には MOVPE(有機金属気相成長法)を用いて
層構造を形成し、i 線ステッパを用いて導波路構造パターニング用マスクを形成し、
そののち RIE 法によってリッジ導波路構造を形成した[15-17]。
図 5.5 に試作した三つの構造の素子の電流ー光出力特性を示す。構造Aから、
39mA の低い閾値電流、7mA(18%の対閾値電流比∆Ihys)が確認された。素子の 305µm
までの小型化、加えて可飽和吸収領域の 25μmまでの短尺化によって、比較的に低
い閾値電流 39mAを実現した。その一方、64%の充分なモード間相互利得抑制領域
割合を確保したため、25μmという短い可飽和吸収領域長にも関わらず、7mA(閾値
電流との比 18%)の広いヒステリシス幅を実現した。構造Bからは 50mAの閾値電流
と 22%の∆I hys、構造Cからは 65mAの閾値電流と 28%の∆I hysが確認された。この結
果から、素子の閾値電流は、可飽和吸収領域の増大と伴って高くなっており、この
結果から、∆I hysは可飽和吸収領域の増大と伴って増えていく傾向は見られるが、可
飽和吸収領域の長さを 25μm大きくするごとに、∆Ihysは 6%以上増えていないことが
分かる。
114
Output power [dBm]
10
CW@ 25oC
0
∆Ihys=18%
-10
-20
64%
0th mode
1st mode
-30
25µm
305µm
(a)
Output power [dBm]
-40
10
0
∆Ihys=22%
-10
65%
-20
50µm
355µm
-30
(b)
Output power [dBm]
-40
10
0
65%
∆Ihys=28%
-10
75µm
-20
375µm
-30
(c)
-40
0
図 5.5
20
40
60
80
Injection current [mA]
100
試作した素子の電流ー光出力特性。(a) 構造 A の特性(可飽和吸収
領域 25µm、相互利得抑制領域割合 64%)。(b)構造 B の特性(可飽
和吸収領域 50µm、相互利得抑制領域割合 65%)。(c)構造 C の特性
(可飽和吸収領域 75µm、相互利得抑制領域割合 65%)。
115
5.4
結果の考察
我々は、アクティブ MMI 横モード双安定レーザーの相互利得抑制領域を大き
くして、可飽和吸収領域を短く設計することによって低閾値電流化を実現した。
305µm のサイズの素子を試作して、より短い可飽和吸収領域 25µm を設けるこ
とで、比較的に低い閾値電流 39mA を実現した。その一方、64%の充分なモード
間相互利得抑制領域割合を確保しため、25μm という短い可飽和吸収領域長にも
関わらず、7mA のヒステリシス幅(閾値電流との比 18%)を実現した。しかし、
閾値電流はまだ目標の 30mA には達していないもので、将来の光ルータの高集
積化に実用するには、更なる低閾値電流が求められる。
そこで、モード間相互利得抑制領域割合が 65%の時、素子の可飽和吸収領域
の短尺化が閾値電流及びヒステリシス幅への影響について詳しく分析した。図
5.6 に可飽和吸収領域長と閾値電流との関係図を示す。図 5.6 より、閾値電流は
Hysteresis threshold Ith [mA]
100
Гoverlap ≈ 65%
80
60
40
20
0
0
25
50
75
100
Saturable absorber length LSA [μm]
図 5.6 可飽和吸収領域長と閾値電流との関係図。閾値電流は可飽和領域長
と正の相関関係があり、26mA までに低減させるのが可能である。
116
可飽和領域長と正の相関関係があり、可飽和吸収領域の短尺化に伴って減小し
ていることがわかる。尚、可飽和吸収領域を設けない場合、閾値電流は最低 26mA
までに低減できると推定する。
図 5.7 に可飽和吸収領域長とヒステリシス幅対閾値電流比∆I hys の関係図を示
す。図 5.7 より、∆I hysも可飽和吸収領域長と正の相関関係があり、可飽和吸収領
域の短尺化に伴っては減少されるが、その減少幅が閾値電流の減少幅より小さ
いことが分かる。この傾向に従うと、可飽和吸収領域を設けなくても、10%以上
の∆I hys が確保できる試算となる。これより、充分なモード間の相互利得抑制領
域を確保すれば、可飽和吸収領域を設けなくても比較的に広いヒステリシス幅
が得られると考えられる。今後、この設計手法の活用によって、アクティブMMI
横モード双安定レーザーの広ヒステリシス幅の確保とともに、更なる低閾値電
流化が期待できる。
100
Гoverlap ≈ 65%
∆Ihys [%]
80
60
40
20
00
25
50
75
100
Saturable absorber length LSA [μm]
図 5.7
可飽和吸収領域長とヒステリシス幅対閾値電流比∆Ihys との関係図。
可飽和吸収領域を設けなくても、10%以上の∆Ihys が確保できる。
117
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修,半導体フォトニクス工学, コロナ社(1995).
[17] 米津広雄, 光通信素子光学, 工学図書株式会社版(1984).
120
第6章
ハイメサ導波路構造アクティブ MMI 型光
RAM メモリ素子の動作実証
6.1 序
我々は、アクティブ MMI 型光 RAM メモリ素子の実用化を目指して、横モー
ド(0 次モード、1 次モード)間の光双安定動作原理を提案して、その動作原理の
実験検証を行った。この原理の適用によって、アクティブ MMI 型光 RAM メモ
リ素子は小型化しても十分に広いヒステリシス幅が確保できることを明らかに
して、39mA の低い閾値電流と 7mA(対閾値比 18%)の広いヒステリシス幅を実証
し[1]、4bit 集積素子の全集積素子の同一動作電流を実証した[2]。将来、光 RAM
メモリとしての実用化を考えると、光ファイバーとの結合が必要であり、その
ためには曲線導波路による出射端間隔拡大が必須であるが、リッジ構造のまま
では曲線導波路領域が過大となり、小型化の妨げとなる。曲線導波路領域の小
型化の実現には、高い比屈折率差が必要で、ハイメサ構造導波路はリッジ構造
導波路と比べて閉じ込めが強くて極めて高い比屈折率差を持つため、曲線導波
路の微小化が期待できる[3]。一方、ハイメサ導波路構造を持つアクティブ MMI
デバイスは、極めて高い比屈折率差により、横モードだけではなく縦モードの
自己干渉も強く生じて[4]、グレーティング構造等が不要での単一波長発振が期
待できる[5]。そこで、我々は、ハイメサ導波路構造をもつアクティブ MMI 横モー
ド双安定レーザーについて検討した。6 章では、ハイメサ導波路構造を用いたア
クティブ MMI 型光双安定レーザーの単一波長発振の実証、25ps の短い光パルス
121
信号による高速全光メモリ動作の実現について述べる。
6.2 ではハイメサ導波路構造を用いた素子の設計試作について述べる。有限要
素法(FEM: Finite Element Method)電磁界分布解析で得られたハイメサ導波路の
コア層の等価屈折率の計算結果を示して、素子の設計試作の方法について説明
する。
6.3 では、試作したハイメサ導波路構造の光 RAM メモリ素子の動作特性実証
結果について述べる。試作した素子は、安定した双安定特性を表し、比較的に
低い閾値電流 60mA と比較的に広いヒステリシス幅 9mA を実現し、副モード抑
圧比(SMSR: Side Mode Suppression Ratio)が 25dB 以上の単一波長発振を実現した。
その上、全光による素子の ON-OFF 動作が確認され、25ps の極端に短い光パル
ス信号による全光高速メモリ動作を実現した。
6.2 ハイメサ導波路構造素子の設計試作
ハイメサ導波路は図 6.1(a)に示すように半導体をコア層とし、屈折率が 1.0 の
空気や 1.5 程度の低屈折率誘電体をクラッド層とする導波路で、リッジ導波路(図
6.2(b))に比べて、横方向においてコア層とクラッド層の間極めて高い比屈折率差
が得られて、光の閉じ込めが極めて強いなどの特長を持っている。この高い比
屈折率差によって、µm オーダーの曲げ半径が許容できる微小導波路の実現に期
待される。InP 系半導体レーザーへの応用は 1999 年 Yoshimoto らによって提案
実証され[6]、強い光の閉じ込め、小型化実現可能、製作プロセス工程簡単など
の特長を持ち、全光スイッチ、光変調器、光フィルタなどに応用されている[7-9]。
122
コア層
コア層
比屈折率差:
10%以上
比屈折率差:
1~2%
(a)
(b)
図 6.1 (a) ハイメサ導波路構造図。(b) リッジ導波路構造図。ハイメサ導波
路は屈折率が 1.0 の空気や 1.5 程度の低屈折率誘電体をクラッド層と
して、極めて強い光の閉じ込めが得られる。
ハイメサ導波路構造を持つ非対称アクティブ MMI デバイスは、極めて高い比
屈折率差と非対称アクティブ MMI 構造により、MMI 領域におけて比較的シャー
プな自己干渉像が得られて横モードだけではなく縦モードの自己干渉も強く生
じて[4]、グレーティング構造等が不要での単一波長発振が期待される[5]。そし
て、アクティブ MMI 横モード間双安定レーザーにおいては、強い光閉じ込めに
よって、より強いモード間の相互利得抑制効果が生じて、安定した光双安定が
得られて光によるメモリ動作の実現が期待できる。一方、ハイメサ導波路構造
の適用により、コア層とクラッド層の高い比屈折率差によって、素子の小型化
も期待される。そこで、今回はハイメサ導波路構造を持つアクティブ MMI 横モー
ド間双安定レーザーを試作して、その動作特性について検証した[10-12]。
まず、ハイメサ導波路においての 0 次モードと 1 次モードの伝搬についてシ
ミュレーションを行った。その為には、アクティブ MMI 双安定レーザーの設計
を行う必要がある。強い光閉じ込めを得るため、今回素子の活性層は InGaAsP
123
の 8 層多重量子井戸とし、クラッド層は屈折率が 1.55 のポリイミドとした。ハ
イメサ導波路構造において、素子の活性層とクラッド層の比屈折率差が大きい
ため、有限要素法(FEM)を用いて導波路のコア層の等価屈折率及びカットオフ幅
について計算した[13]。図 6.2(a)に導波路幅と各モードの等価屈折率のグラフを
示す。図 6.2(b)に同じ計算方法で得られたリッジ導波路のグラフを示す。図 6.2
Equivalent refractive index
3.24
0th mode
Cut-off
3.20
1st mode
Cut-off
3.16
3.12
1
2
2nd mode
Cut-off
3
4
Waveguide width [μm ]
(a)
5
Equivalent refractive index
3.24
0th mode
Cut-off
3.20
1st mode
Cut-off
3.16
3.12
1
2
2nd mode
Cut-off
3
4
Waveguide width [μm ]
(b)
5
図 6.2 有限要素法(FEM)を用いて計算した導波路幅と各モードの等価屈折
率のグラフ。(a) ハイメサ導波路構造。(b) リッジ導波路構造。
124
より、ハイメサ構造がリッジ構造よりカットオフ幅が大きいことが分かる。そ
して、リッジ構造において等価屈折率は導波路幅の変化に関係なくほぼ定数で
あるが、ハイメサ構造の等価屈折率は導波路の幅の変化によって大きく変わり、
定数ではないことが分かる。これは、ハイメサ導波路の高い比屈折率差により
コア層とクラッド層の境界において光フィルードが不連続によるものだと考え
られる。そしてこの不連続により、MMI 導波路は横モードだけではなく縦モー
ドにも自己干渉が生じると考えられる[4]。
続いて、コア層とクラッド層の等価屈折率及びカットオフ幅を用いてアク
ティブ MMI 導波路の設計を行って[14]、
0 次モードと 1 次モード光の伝搬シミュ
レーションを行った。図 6.3 にその結果を示す。図 6.3 より、比屈折率比が高い
ハイメサ構造においても、0 次モード光と 1 次モード光はそれぞれ異なる経路を
通って異なるポートから出力されることが確認できた。
シミュレーションの結果に基づいて、素子を設計試作した。ハイメサ構造に
おいてカットオフ幅がリッジ構造より大きいので、素子のサイズもリッジより
も大きくなることが懸念される。そこで、小型化を実現するため、今回アクセ
スポートの幅を 1 次カットオフ幅のぎりぎりの 3µm とした。図 6.4(a)に素子の
構造図を示す。素子の全長を 315µm にし、MMI 長 133µm、MMI 幅 8µm、入力
ポート長を 145µm、出力ポート長を 37µm とした。低い閾値電流を実現するた
め、可飽和吸収領域長を 25µm として設けて、その代わりモード間相互利得抑制
領域割合を 80%とした。素子の活性層は InGaAsP/InP-MQW(波長 1.55µm、8 重
量子井戸)とし、多重量子井戸は InP 基板の上で結晶成長を行った。電流を流す
125
1.0
Intensity [A.U.]
0.0
th
0 mode
(a)
1.0
Intensity [A.U.]
0.0
st
1 mode
(b)
図 6.3 ハイメサ構造導波路において光モード伝搬のシミュレーション結
果。0 次モード光と 1 次モード光はそれぞれ異なる経路を通って
異なるポートから出力されることが確認できた。(a) 0 次モード光
伝搬図。(b)1 次モード光伝搬図。
ことを考えて、クラッド層は空気ではなく屈折率が 1.55 のポリイミドを埋め込
むことにした。図 6.4(b)に MQW を用いたハイメサ導波路の端面図を示す。
ウェハの結晶成長には MOVPE(有機金属気相成長法)を用いて層構造を形成し
た。素子の試作は i 線ステッパを用いて導波路構造パターニング用マスクを形成
し、そののち RIE 法によってハイメサ導波路構造を形成した[15-18]。形成した
ハイメサ導波路にポリイミドを塗布し、導波路の上と下に電極を付けた。図
126
6.4(c) に 試 作 素 子 の 端 面 写 真 を 示 す 。 試 作 し た 素 子 の チ ッ プ の サ イ ズ は
315×300µm である。素子の動作特性を評価するために、まず AlN 材のヒートシ
ングに熔着した後、特注したステムに熔着した。
相互利得抑制領域割合
37µm
3µm
8µm
145µm
133µm
(a)
ポリイミド p-InP
可飽和吸収領域
25µm
315µm
ポリイミド
n-InP
315µm
(c)
InP 基板
InGaAsP/InGaAsP
MQW
(b)
図 6.4
ハイメサ導波路構造を持つ試作素子の構造図。(a) 素子の構造図。
(b) ハイメサ導波路の端面図。(c) 試作した素子の端面写真。
6.3 試作素子の動作実証結果[11-12]
素子の単一波長発振及び全光メモリ動作を実現するために、コア層とクラッ
ド層の比屈折率差が大きいハイメサ導波路構造を持つアクティブ MMI 横モード
127
双安定レーザーを試作した。この小節では、試作した素子の動作実証結果につ
いて述べる。
6.3.1 双安定特性の実証
図 6.5 に試作した素子の電流ー光出力特性を示す。試作素子から 60mA の低閾
値電流と 9mA(対ヒステリシス幅比 15%)が確認できた。25µm 短い可飽和吸収領
域長にも関わらず比較的に広いヒステリシス幅が確認された。しかしながら、
同じ可飽和吸収領域長、サイズがほぼ同じのリッジ構造の素子に比べると少し
短い結果となった。表 6.1 にリッジ構造とハイメサ構造の素子の特性を比較した
結果を示す。表 6.1 に示すように、ハイメサ構造の素子の閾値電流及び閾値電流
5
CW@25oC
Output power [dBm]
0
-5
-10
-15
-20
40
図 6.5
50
60
Injection current [mA]
70
80
試作素子の電流ー光出力特性(双安定特性)。試作素子は双安定特
性を表わし、60mA の低閾値電流と 9mA(対ヒステリシス幅比 15%)
が確認された。
128
表 6.1
ハイメサ構造とリッジ構造素子特性比較
構造
Ltotal
[μm]
LSA
[μm]
Ith
[mA]
Гoverlap
[%]
Jth
[kA/cm2]
Whys
[mA]
∆Ihys
[100%]
ハイメサ
315
25
60
80
3.4
9
15
リッジ [1]
305
25
39
65
2.6
7
18
密度がリッジ構造より高くなっている。これは、ハイメサ構造の活性層の部分
と低熱伝導性材料のポリイミドが直接接続しており、リッジ構造と比べて素子
内部の散熱効果が悪いのが原因である。一方、今回試作したハイメサ構造の素
子に 80%の高いモード間相互利得抑制領域を設けたが、リッジ構造素子より狭
いヒステリシス幅比が確認された。今回小型化のため、アクセス導波路の幅を
ぎりぎりの 1 次カットオフ幅として設定したので、1 次モード光は1次モードと
して発振していない可能性も考えられる。そのため、モード間の相互利得抑制
効果が予想通り得られていない可能性もあると考えられる。そこで、素子の近
視 野 像 (NFP) を 確 認 し 、 図 6.6 に そ の 結 果 を 示 す 。 図 6.6 よ り 、 素 子 の
図 6.6 ハイメサ構造素子の近視野像。アクセス導波路の幅をぎりぎりの
1 次カットオフ幅として設けたため、1 次モード光としての発振
は確認できなかった。
129
1 次ポート側の光は 0 次ポート側より非常に弱く、1 次モード光として発振して
ないことが分かる。1 次モード光の不十分発振によって、大きなモード間相互利
得抑制領域割合を設けたにもかかわらず、横モード間の高い相互利得抑制効果
が得られず、結果として、相互利得抑制領域割合が小さいリッジ構造導波路よ
り狭いヒステリシス幅が得られたと考えられる。
6.3.2 単一波長発振の実証[10-12]
続いて素子の発振スペクトルを確認した。図 6.7(a)にハイメサ構造の試作素子
の発振スペクトルを示す。比較のため、図 6.7(b)にリッジ構造の素子の発振スペ
クトルを示す。ハイメサ構造素子はリッジ構造より優れた単一波長発振を実現
しており、波長 1549nm の発振で、25dB 以上の副モード抑圧比(SMSR)が確認で
きた。この優れた単一波長発振特性は、コア層とクラッド層の極めて高い比屈
折率差と非対称アクティブ MMI 構造により、MMI 領域におけて比較的シャー
プな自己干渉像が得られ、横モードだけではなく縦モードも自己干渉現象が生
じたことによって得られたと考えられる[4-5]。これより、ハイメサ構造のアク
ティブ MMI 双安定レーザーはグレーティング構造を有する必要なく、単一波長
発振ができることを示唆する。
6.3.3
全光メモリ動作の実証
アクティブ MMI 横モード双安定レーザーのヒステリシス幅内に動作電流を設
定して、0 次ポート側から光を入射すると二つのモードの光間の相互利得抑制効
130
果により、素子の 0 次モード光が励起され素子はメモリ ON 動作をする。この
時、1 次ポート側の中心軸から少しずらして光を入射すると、モード間の相互利
得抑制効果より、素子の 1 次モード光が励起され、0 次モード光は抑制され素子
はメモリ OFF 動作をする。このように素子は入射光によってセットリセットさ
Output power [dBm]
-10
-20
-30
SMSR>25dB
-40
-50
1546
1548
1550
1552
Wavelength [nm]
(a)
1554
1556
1548
1550
1552
Wavelength [nm]
(b)
1554
1556
-20
Output power [dBm]
-30
-40
-50
-60
-70
-80
1546
図 6.7 素子の発振スペクトル。(a) ハイメサ構造素子の発振スペクトル。
(b) リッジ構造素子の発振スペクトル。
131
れ、1bit メモリとして動作する。今回の試作素子の 1 次モード光の発振が不十分
なので、1 次モード光の励起は難しいが、0 次モードへの抑制効果はあるため、
素子の OFF 動作は期待できる。
まず、素子の ON 動作について実証した。試作した素子に 65mA の動作電流
を設定して、素子が発振していない状態で、発振波長 1549nm の光を入射し、素
子のメモリ ON 動作を検証した。入射光を-26dBm の強度から段々強くして入射
し、素子の出力を測定した。図 6.8 に素子のメモリ ON 動作実験の測定結果を示
す。非常に低いパワーの-21dBm の光が入射した時、素子は ON となり、16dB の
ON-OFF 比が確認できた。
5
λin=1549nm
Output power [dBm]
0
-5
-10
-15
-20
-26
-24
-22
-20
Incident light intensity [dBm]
-18
図 6.8 試作素子のメモリ ON 動作特性。素子は非常に低い-21dBm の光が
入射する時 ON となり、ON-OFF 比は 16dB である。
次はメモリ OFF 動作について実証した。素子に同じ動作電流 65mA を設定し
て、素子が発振している状態で、1554nm の光を入射したとき、メモリ OFF 動作
132
が確認できた。図 6.9 にその結果を示す。入射光を-26dBm の強度から段々強く
して入射して、素子の出力を測定したところ、-24dBm の光を入射する時、素子
の出力は弱くなり、OFF 状態となった。このメモリ OFF 動作は、横モードに関
連する縦モード間の相互利得抑制効果によって得られたと考えられる。前述の
ように、ハイメサ構造のアクティブ MMI 横モード双安定レーザーにおいて、極
めて高いコア層とクラッド層の比屈折率比により、横モードだけではなく縦
モードにも干渉が生じる。その為、横モード間の相互利得抑制効果は縦モード
にも及ぼすと考えられる。素子の ON 動作及び OFF 動作に用いたセットリセッ
ト光は、それぞれ横モードの 0 次モードと 1 次モードに関連していると考えら
れ、モード間の相互利得抑制効果により全光メモリ動作が実現できる。素子に 0
次モード関連発振波長 1549nm を入射すると、モード間の相互利得抑制効果によ
5
λin=1554nm
Output power [dBm]
0
-5
-10
-15
-20
-26
-24
-22
-20
Incident light intensity [dBm]
-18
図 6.9 試作素子のメモリ OFF 動作特性。素子は非常に低い-24dBm の光に
より OFF 動作を行い、ON-OFF 比は 16dB である。
133
り、素子は発振し、メモリ ON となる。この状態で、1 次モード関連の発振波長
1554nm の光が入射すると、モード間の相互利得抑制効果により、0 次モード関
連発振波長が抑制され発振しなくなるが、1 次カットオフ幅の不十分設計により、
1 次モードの発振もなくなり、結果としてメモリ OFF となる。これより、ハイ
メサ構造のアクティブ MMI 横モード双安定レーザーの光による ON-OFF 動作が
確認でき、1bit メモリとしての動作が実証された。素子の ON-OFF 動作に必要な
スイッチングパワーはそれぞれ、非常に低い-21dBm と-24dBm であり、ON-OFF
比は 16dB であることが確認できた。
6.3.4 高速メモリ動作の実証[11-12]
将来の光ルータのパケット通信用に光 RAM メモリとして実用するには、高速
光信号によるメモリ動作の実証が必要である。6.3.3 では、ハイメサ構造のアク
ティブ MMI 横モード双安定レーザーの光による ON-OFF 動作が実証された。
この節では、高速光信号入射による素子のメモリ動作について実証する。
図 6.10 に高速メモリ動作実証実験の装置図を示す。1549nm のセット光及び
1554nm のリセット光は二つの可変波長光源から生成され、ビットパルス・パター
ン・ジェネレータ(PPG)とマッハツェンダー変調器を用いて変調され、セットリ
セットパルス光信号を作る。アレイ導波路回折格子を用いてセットリセットパ
ルス光信号を分離して、ファイバー遅延線によりセット光パルスとリセット光
パルス信号の遅延を作る。セット光パルス信号とリセット光パル信号を、サキュ
レーターを通して先球ファイバーを用いて素子に入射させる。素子からの出力
134
信号は、デジタルオシロスコープ(DSO)より読み取る。
Trigger
BPG
DSO
Data
EDFA
TLD1
MOD
TLD2
1549nm
AWG
1554nm
Set
ATT
Reset
ATT
EDFA
Coupler
(50:50)
Circulator
ODL
Current Source
メモリ素子
TLD: 可変波長光源;MOD: マッハツェンダー変調器;EDFA: 光アンプ;
ATT: 光減衰器;BPG: ビットパタンジェネレータ;DSO: デジタルオシ
ロスコープ;AWG: アレイ導波路回折格子;ODL: ファイバー遅延線
図 6.10
高速メモリ動作実証実験装置図。1549nm と 1554nm のセットパ
ルスとリセット光パルス信号は、先球ファイバーを用いて素子
に入射させ、メモリ動作を実証する。
メモリ素子は入射したセットリセット光パルス信号により、ON-OFF 動作を繰
り返し、最短 25ps の光高速信号によりメモリ動作を実現した。図 6.11 にその実
証結果を示す。セットパルスとリセットパルス間は 1.6ns の遅延を設定した。素
子は、セット光パルス信号によって ON 動作を、リセット光パルス信号によっ
て OFF 動作を行い、40Gbps の高速光信号パルスによるメモリ動作を実現した。
メモリ ON と OFF に必要なスイッチングエネルギーは、極めて低い 7.1 fJ と 3.4 fJ
であることが確認できた。その上で、世界トップレベルの立ち上がり時間 121ps
135
と立下り時間 25ps が確認できた。素子が ON になる時間が OFF になる時間より
遅いのは、素子の ON 動作は、光入射に伴い双安定レーザーに注入されていた
キャリアが発光に寄与し、レーザー発振開始に至る過程が含まれるためと考え
られる。素子の小型化あるいは素子の端面にコーティングをすることで、素子
の立ち上がり時間を速くすることができる。
今回実証された高速光パルス信号によるメモリ動作特性から、我々はアク
ティブ MMI 横モード間双安定レーザーを用いた光 RAM メモリ素子は将来の高
速パケット通信用のメモリ素子として活躍できると確信する。
136
Reset pulse
[a.u.]
Set pulse
[a.u.]
3.2 ns
Device output
[a.u.]
1.6 ns
(a)
2
Device output
[a.u.]
0
4
6
Time [ns]
(a)
8
10
121 ps
150
Device output
[a.u.]
0
300
450
Time [ps]
(b)
600
25 ps
0
図 6.11
25 ps
150
300
450
Time [ps]
(c)
600
25ps の高速光パルス信号によるメモリ動作実証結果。(a) セッ
トパルス、リセットパルス、素子の出力パルス。(b) 素子の立
ち上がり時間。
(c) 素子の立下り時間。
137
参考文献
[1]
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138
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[12] H. Jiang, Y. Chaen, T. Hagio, K. Tsuruda, M. Jizodo, S. Matsuo, J. Xu, C.
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139
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修, 半導体フォトニクス工学, コロナ社(1995).
[18] 米津広雄, 光通信素子光学, 工学図書株式会社版(1984).
140
第7章
総 括
7.1 まとめ
通信トラフィック量の急増による電力消費問題の解決策の一つとして、全光
ルータの実現が求められる。光 RAM(Radom Access Memory) メモリ素子は、
全光ルータのキーデバイスであり、全光信号処理においてバッファリング機能
の役割を任う重要なデバイスであるが、その技術的な要求が高いため実用化ま
で に は 至 っ て な い 。 ア ク テ ィ ブ 多 モ ー ド干 渉 導 波 路 型 双 安 定 レ ー ザ ー
(Active-MMI BLD)を用いた光 RAM メモリ素子は製作プロセスが容易、任意の
遅延時間が設定可能、メモリ保持時間が長い、動作が速い、高集積化が可能な
どの利点を持つため、光 RAM メモリ素子の候補として注目されている。しか
し、素子サイズが比較的大きく(既報告では 1mm 程度)、小型化の際同一条件
駆動するための十分に広いヒステリシス幅(動作条件範囲)の確保が大きな課
題であった。この課題を解決するために、本研究では片側端で共通ポート持つ
非対称型アクティブ MMI の横モード間(0 次、1 次間)の光双安定動作原理を提
案して、その動作原理の実証を行ってきた。今までの研究で、横モード間光双
安定動作原理を用いて、素子の小型化ながら広いヒステリシス幅が確保できる
設計手法を独自に解明し、優れた素子の動作特性を実証した。具体的には、下
記通りである。
(1) レート方程式から横モード間双安定動作原理を理論的に分析して、広いヒ
ステリシス幅の実現にはモード間相互利得抑制領域の確保が重要であることを
141
解明し、モード間相互利得抑制係数とヒステリシス幅の正の相関関係を明らか
にした。BPM シミュレーションを用いて、モード間の相互利得抑制領域につい
て計算し、横モード間双安定動作原理を用いることでより大きな相互利得抑制
領域が得られることを実証した。この原理の適用により、既報告素子より半分
小型化された素子(550µm)を試作し、8mA と比較的に広いヒステリシス幅を実現
した。
(2) 素子を小型化しながら広いヒステリシス幅を確保できる設計手法を検討
して、横モード間相互利得抑制領域の割合を大きくすることによって、更なる
小型化と広いヒステリシス幅を実現した。315µm の更なる小型化素子を設計試
作して、低閾値電流値(58mA)と極めて広いヒステリシス幅(32mA 、対閾値電流
比 55%)を実現した。この小型化しながら広いヒステリシス幅が得られる設計手
法を用いて 4bit 集積素子の 8mA の共通動作電流領域および全集積素子の同一電
流動作を確認した。更なる広いヒステリシス幅を実現するために、モード間相
互利得抑制効果を極めて強く得られる部分 MMI 可飽和吸収領域構造を提案し、
その適用による世界最高のヒステリシス幅 94mA を実現した。
(3) 試作した素子の実験結果を用いて横モード間相互利得抑制領域とヒステ
リシス幅、可飽和吸収領域と閾値電流との関係を解析して、低閾値電流と広ヒ
ステリシス幅が得られる設計手法を検討した。素子の低閾値電流化を実現する
ために、可飽和吸収領域を短尺化し、充分なモード間の相互利得抑制領域を確
保する設計手法によって、7mA(対閾値電流比 18%)と十分に広いヒステリシス幅
を維持した上で、低閾値電流 39mA を実現した。その上、実験的に横モード間
142
相互利得抑制領域とヒステリシス幅は正の相関関係があることを解明し、充分
なモード間相互利得抑制領域を確保できれば可飽和吸収領域設けなくてもヒス
テリシス幅が得られる可能性を示して、更なる低閾値電流化及び広ヒステリシ
ス幅の実現の可能性を示した。
(4) 素子の単一波長発振及び高速メモリ動作を実現するために、ハイメサ導波
路構造の素子を試作してその動作を検証した。ハイメサ導波路構造のコア層と
クラッド層の高い比屈折率差と非対称 MMI 構造によって、アクティブ MMI 双
安定レーザーは横モードだけではなく縦モードにも自己干渉現象が起きて、グ
レーティング不要での単一波長発振を実現した。更に、25ps の極端に短い光パ
ルス信号によるメモリ動作を実証し、世界でもトップレベルの立ち上がり時間
を実現し、光ルータの高速パケット通信への応用の可能性を示した。
これらの実証結果により明らかにしたアクティブ MMI 横モード間双安定の優
れた動作特性は、光 RAM メモリ素子として将来の光ルータへの実用化の可能性
を示している。
7.2
今後の展望
アクティブ MMI 型光 RAM メモリ素子に関する研究で、横モード間の光双安
定動作原理を用いて、小型化しても充分なヒステリシス幅が確保できる素子の
特長を実験的に実証して、グレーティング不要での素子の単一波長発振を実現
し、高速光パルス信号によるメモリ動作を実証した。将来の光ルータへの実用
143
化技術として確立するために、考えられるいくつの改善点について述べると:
(1) 更なる低閾値電流化:低閾値電流 39mA を実証したが、実際に光ルータへ
の応用には 30mA より低い閾値電流の実現が求められる。素子の低閾値電流化
は、短可飽和吸収領域化が有効な手段で、300µm のサイズの素子において、可
飽和吸収領域を設けない場合、閾値電流は最低 26mA までに低減できる見込み
である[1]。しかし、短可飽和吸収領域化最大の課題は、ヒステリシス幅が狭く
なることで、もし充分なモード間の相互利得抑制領域の確保できれば、可飽和
吸収領域を設けなくても(あるいは極端に短い可飽和吸収領域)、比較的に広いヒ
ステリシス幅が得られる見込みである[1]。この極短可飽和吸収領域設計と充分
なモード間相互利得抑制領域の確保による更なる低閾値電流化が期待できる。
(2) 高集積化の実証:極短可飽和吸収領域設計と充分なモード間相互利得抑制
領域が確保できる素子の最適化設計による素子の高集積化を実現し、全集積素
子の同一動作電流を実現することで、アクティブ MMI 型メモリ素子の実用性を
実証する。
(3) モード間の切り替えによる全光メモリ動作の実現:ハイメサ構造でのメモ
リ動作は、モード間の切り替えによる全光メモリ動作ではない。将来の光通信
は、マルチモードの光バッファメモリの実現が求められていて[2]、0 次モードと
1 次モード光による切り替えの実現が重要である。アクセスポートの幅を 1 次モ
ードが許容できる幅として設計して、ハイメサ構造の強い光閉じ込めを利用し
て、0 次モードと 1 次モードの強い双安定性を実現によって、モード間の切り替
えの実証が期待できる。実用上、各ポートとのファイバーへの結合を考えると、
144
出力ポートを曲線導波路としての設計が望ましい。
(4) 光 RAM 素子のパケット信号のスイッチング動作の実証:40Gbps の高速信
号の光パルス信号によるメモリ動作を実証したので、実際 40Gbps のパケット信
号のスイッチング動作の実証も可能である[3]。このパケット信号のスイッチン
グ動作が実現できれば、アクティブ MMI 型光 RAM メモリの光パケットルータ
への実用性を更に実証できる。
参考文献
[1]
H. Jiang, H. A. Bastawrous, T. Hagio, S. Matusuo, and K. Hamamoto, “Low
hysteresis threshold current (39mA) active multi-mode-interferometer (MMI)
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Quantum Electron., vol. 17, no5, pp. 1258-1263(2011).
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Opt. Express, vol. 14, no. 22, pp. 10785-10789(2006).
145
付
録
A.1 半導体レーザーの発振の原理
[1-7]
励起を増していくと誘導放出の割合が増し、光の増幅利得が増加する。光の
増幅媒体を介して光の共振器(Cavity)を構成すれば、光波の発振が得られる。
増幅媒体は、具体的にはダブルヘテロ接合の狭いバンドギャップ層(活性層)
である。ダブルヘテロ接合では広いバンドギャップを持つ n 型および p 型クラ
ッド層から、それぞれ、電子およびホールが注入され、活性層内に閉じ込めら
れる、いわゆるキャリヤー閉じ込め効果があるから、活性層を薄くすれば、わ
ずかな電流で高い注入キャリヤー密度、すなわち高い利得が得られる。
光の共振器として最も基本的なものは、1 対の並行平滑な鏡を対向させたファ
ブリーペロー(Fabry-Perot)型共振器といわれるものである。結晶格子には特定の
割れやすい面がある。それは光波にとって十分平らな反射面である。活性層を
この反射面に垂直になるように配置すれば、活性層に沿って増幅しながら進行
した光は、反射面で反射され、向きを 180 度変えて進行する。これを繰り返し
た時、増幅利得(Gain)が共振器損失(Cavity loss)に打ち勝てば、レーザー発振が生
じる。
図 A.1 において、エネルギー反射率 R1 の反射面から Pi なるエネルギーの光が
活性層に入射したとする。増幅利得によって指数関数的に増加する光エネルギ
ーは、共振器長 L を走行して他方の反射面で反射(エネルギー反射率 R2)を受け、
元の方向に戻る。反射面は互いに平行平滑なため、この反射は繰り返される。
146
反射面の外に放出される光出力 P0 は、各反射での透過光出力の和で与えられる。
活性層での利得係数を g、活性層での光吸収やヘテロ界面での凸凹による散乱等
の損失係数を αi とすると、次式が得られる。
 (1 − R1 )(1 − R2 ) exp{( g − α i ) L}
P0 = Pi 

 1 − R1 R2 exp{2( g − α i ) L} 
(A.1)
式(A.1)の分母が 0 になれば P0 は無限大となり、単なる増幅から発振、すなわ
ちレーザー発振に変わる。この条件からレーザー発振開始(Threshold)の条件とし
て次式が得られる。
 1
ln
 R1 R2
g th ≡ g = α i +
2L



(A.2)
半導体レーザーでは、一般に、R≡R1=R2 の場合が多いから、レーザー発振条件
は Rexp{(g-αi)L}=1 となり、次式が得られる。
1
ln 
R
g th = α i +
L
(A.3)
式(A.2)、(A.3)は、利得=共振器損失という形になっている。右辺第 1 項は活
性層に依存する吸収、散乱損失であり、右辺第 2 項は指数関数的に増加した光
出力が反射面で透過(1-R)によって失われる損失を共振器長全体に割りふったも
のである。また、式(A.1)の分母が 0 という条件は、別の見方をすれば、共振器(活
性層)内の任意の点 z から発した光が 2 つの反射面で 1 回ずつ反射されて元に戻
ってきた時、光の強度が出発時の強度に等しい、ということを意味している。
これからわかるように、レーザー発振の種となる光は、活性層内で生じた自然
放出光の内のレーザー発振モードに等しい成分のものである。
147
光は電磁波であるから、波としての位相(Phase)にも条件がある。すなわち、1
周して戻ってきた時の位相が出発時の位相と一致していなければならない。活
性層内での波長を λ とすると、
mλ = 2 L
m = 1,2,3, 
(m − 1 : モード次数 )
(A.4)
を満たさなければならない。このことは、両反射面に節の位置する定在波がで
きることを意味する。
活性層内での波長 λ は、活性層内の屈折率を nr、真空中の波長を λ0 とすると、
λ=λ0/nr であるから、式(A.4)は、
λ
m 0
 nr

 = 2 L

(A.5)
となる。したがって、発光ダイオードのような幅広いスペクトルと異なり、式
(A.5)が満たされる波長 λ0 に、鋭い固有のスペクトルをもつレーザー光が得られ
る。
レーザー発振が得られるためには、式(A.2)または(A.3)と式(A.5)が満たされな
ければならない。式(A.2)または(A.3)を満たすためには、共振器損失はほぼ一定
であるから、電流を増して利得係数 g を大きくしなければならない。式(A.2)ま
たは(A.3)が成り立つ利得が得られる時の電流は、閾値電流 Ith(Threshold current)
といわれ、レーザー発振開始電流となる。
閾値電流以上の電流では、レーザー光は一定の効率で外部に放出される。活
性層に沿って反射面から放出されるレーザー光は、活性層内での損失によって
吸収・散乱を受ける以外は、反射面の透過率に従って反射面より外部に放射さ
148
れる。したがって、レーザー発振状態での効率、すなわち注入キャリヤー数の
増加に対して、外部に放出される光子数の増加する場合、外部微分量子効率
(External differ entail quantum efficiency)ηd は、R≡R1=R2 の場合、次式で与えられる。
ηd ≡ ηi
反射損失(透過)
全損失
ここで、ηi は内部微分量子効率(Internal differential quantum efficiency)といわれ、
活性層内部での光子数/注入キャリヤー数変換効率を意味する。その結果、半
導体レーザーの P-I 特性曲線は図 A.2 のように、閾値電流以上では光出力は電流
に対して直線的に増加する形になる。
任意の動作電流 I での光出力 P0 は次式から求められる。
1
hν
P0 = η ⋅
⋅ ( I − I th )
2
q
(A.6)
なお、式(A.10)の外部微分量子効率の代わりに、次式の微分効率またはスロー
プ効率(Slope efficiency)Sd も用いられる。
Sd =
光出力の増分 ∆P0
=
電流の増分
∆I
149
(A.7)
L
R1
R2
ファブリーペロー型共振器
P0
Pi
図 A.1. 多重反射。L は共振器長、R1,R2 は反射率。
自然放出光領域
[mW]
レーザー発振領域
光出力
ΔP
ΔI
Pth
Ith
電流 [mA]
図 A.2 半導体レーザーの電流ー光出力(P-I)特性。半導体レーザーは閾値
を持ち閾値電流以上では光出力は電流に対して直線的に増加す
る形になる。
150
A.2 多重量子井戸(Multiple Quantum Well : MQW)構造[7]
図 A.3 にバンド端(Band edge)における多重量子井戸のバンド構造を示す。活性
層厚が小さくなると、光閉じ込め係数が小さくなり、その結果、発振閾値電流
密度が急激に増大するという問題がある。そこで、光波の閉じ込められる領域
に複数の量子井戸層を形成することによって、光閉じ込め係数を実質的に高め
ることができる。ただし、隣接する量子井戸間に大きなエネルギー障壁が存在
するために、キャリヤーが伝搬するにつれてキャリヤーの注入効率が低下する。
その結果、全ての量子井戸層のキャリヤー分布を均一にすることが難しい。
Ec
Ev
図 A.3
MQW 構造。光閉じ込め係数を実質的に高めることが出来る。
151
A.3 半導体レーザー試作工程
基本的な半導体レーザーの製作手順を図 A.4 に示す。まず図中①の様に、感
光膜を形成する。フォトレジストとは、後の工程であるエッチング時に加工を
妨げる役割をする薄膜である。続いて、あらかじめ設計した回路をマスクとし
て作製し、②の様にこれを通して紫外線を当てて露光する。感光した部分を現
像液にて洗い流す事で③のように回路の転写が完了する。この工程までをリソ
グラフィ工程という。
リソグラフィ工程が済むと,④のようにフォトレジストのない薄膜をエッチ
ングする。今回はレーザーの構造としてリッジ型導波路を用いるため、エッチ
ングは活性層の手前で止める。次に⑤のように BCB(Benzocyclobutene)樹脂によ
ってエッチング部をコーティングする。その後、⑥で BCB 部の頭出しエッチン
グを行い、⑦に示すように残ったフォトレジストを除去する。そして、最後に
⑧、⑨で p 電極、n 電極を形成する。
152
⑤ BCBコーティング
BCB
クラッド層
活性層
クラッド層
基板
基板
① フォトレジスト塗布
⑥ 頭出しドライエッチング
基板
基板
② 露光
⑦ レジスト除去
光
感光
基板
基板
⑧ p電極形成
③ 感光部を現像、除去
基板
基板
⑨ n電極形成
④ エッチング
基板
基板
図 A.4 半導体レーザー製造過程。
153
参
考
論
文
九州大学大学院総合理工学府
姜
海松
参考文献
[1] 米津宏雄, 光通信素子工学, 工学図書株式会社(1984).
[2] K. Aiki, M. Nakamura, T. Kuroda, J. Umeda, R. Ito, N. Chinone, and M. Maeda,
“Transverse mode stabilized AlxGa1-xAs injection lasers with channeled-substrate
planar structure”, IEEE Journal of Quantum Electronics, vol. 14, no. 2, pp.
89-94(1978).
[3] 沼居
貴陽, 半導体レーザー工学の基礎, 丸善株式会社(1996).
[4] T. Tsukada, “GaAs-Ga1-xAlxAs buried-heterostructure injection lasers”, Journal
Applied Physics, vol. 45, no. 11, pp. 4899-4906(1974).
[5] K. Saito and R. Ito, “Buried-Heterostructure AlGaAs lasers”, IEEE Journal of
Quantum Electronics, vol. 16, no. 2, pp. 205-215(1980).
[6] 岡本
勝就, 光導波路の基礎, コロナ社(1992).
[7] Y. Yamamoto, “Coherence, amplification, and quantum effects in semiconductor
lasers”, Wiley-Interscience (1991).
154
謝
辞
本論文は、著者が九州大学大学院総合理工学府量子プロセス理工学専攻にお
けるアクティブ MMI 型光 RAM メモリ素子に関する研究成果をまとめたもので
ある。
本研究において、常に親身の御指導、御教授を賜りました浜本貴一教授に心
より感謝を申し上げます。また、貴重なご意見をいただきました、内野喜一郎
教授、堤井君元准教授、山形幸彦准教授、富田健太郎助教に感謝いたします。
本研究において、研究プロジェクトとして資金面にて御協力頂きました独立
行政法人情報通信研究機構(NICT)関係各位に厚く御礼申し上げます。
本研究における素子の試作過程において、快く素子の製作を行って頂くだけ
でなく、工程における数々の御助言、ご議論を頂きました NTT フォトニクス研
究所の松尾慎治様に厚く御礼申し上げます。
本研究において、同じ研究を進行してきた光 RAM メモリ素子研究グループの
Hany Ayad Bastawrous さん、西角拓高さん、田原裕一朗さん、萩尾拓真さん、茶
円豊さん、鶴田一魁さん、地蔵堂真さんに心から感謝致します。数々の実験等
に御助力頂き、結果を出すことが出来た事に深く感謝致します。又、素子の高
速メモリ動作の評価におけて、ご協力・議論いただいたデンマーク工科大学の
Christophe Peucheret 教授と徐競さん及び高速光通信グループの皆さまに深く感
155
謝致します。
また、浜本研究室のメンバーとして、研究に留まらず様々な面で助けていた
だいた臧志刚さん、日隈康裕さん、中島大介さん、陳嬌さん、また内野研究室・
浜本研究室の多くの卒業生、在校生の皆様、そして秘書の有銘しづかさん、櫻
木由美さんと皆様には深く感謝を申し上げます。
最後に、五年間の大学院の勉強及び研究に、常に温かく支えてくれた夫と息
子、両親にこころから感謝します。
2012 年 2 月
著
156
者
付
録
A.1 半導体レーザーの発振の原理
[1-7]
励起を増していくと誘導放出の割合が増し、光の増幅利得が増加する。光の
増幅媒体を介して光の共振器(Cavity)を構成すれば、光波の発振が得られる。
増幅媒体は、具体的にはダブルヘテロ接合の狭いバンドギャップ層(活性層)
である。ダブルヘテロ接合では広いバンドギャップを持つ n 型および p 型クラ
ッド層から、それぞれ、電子およびホールが注入され、活性層内に閉じ込めら
れる、いわゆるキャリヤー閉じ込め効果があるから、活性層を薄くすれば、わ
ずかな電流で高い注入キャリヤー密度、すなわち高い利得が得られる。
光の共振器として最も基本的なものは、1 対の並行平滑な鏡を対向させたファ
ブリーペロー(Fabry-Perot)型共振器といわれるものである。結晶格子には特定の
割れやすい面がある。それは光波にとって十分平らな反射面である。活性層を
この反射面に垂直になるように配置すれば、活性層に沿って増幅しながら進行
した光は、反射面で反射され、向きを 180 度変えて進行する。これを繰り返し
た時、増幅利得(Gain)が共振器損失(Cavity loss)に打ち勝てば、レーザー発振が生
じる。
図 A.1 において、エネルギー反射率 R1 の反射面から Pi なるエネルギーの光が
活性層に入射したとする。増幅利得によって指数関数的に増加する光エネルギ
ーは、共振器長 L を走行して他方の反射面で反射(エネルギー反射率 R2)を受け、
146
元の方向に戻る。反射面は互いに平行平滑なため、この反射は繰り返される。
反射面の外に放出される光出力 P0 は、各反射での透過光出力の和で与えられる。
活性層での利得係数を g、活性層での光吸収やヘテロ界面での凸凹による散乱等
の損失係数を αi とすると、次式が得られる。
 (1 − R1 )(1 − R2 ) exp{( g − α i ) L}
P0 = Pi 

 1 − R1 R2 exp{2( g − α i ) L} 
(A.1)
式(A.1)の分母が 0 になれば P0 は無限大となり、単なる増幅から発振、すなわ
ちレーザー発振に変わる。この条件からレーザー発振開始(Threshold)の条件とし
て次式が得られる。
 1
ln
 R1 R2
g th ≡ g = α i +
2L



(A.2)
半導体レーザーでは、一般に、R≡R1=R2 の場合が多いから、レーザー発振条件
は Rexp{(g-αi)L}=1 となり、次式が得られる。
1
ln 
R
g th = α i +
L
(A.3)
式(A.2)、(A.3)は、利得=共振器損失という形になっている。右辺第 1 項は活
性層に依存する吸収、散乱損失であり、右辺第 2 項は指数関数的に増加した光
出力が反射面で透過(1-R)によって失われる損失を共振器長全体に割りふったも
のである。また、式(A.1)の分母が 0 という条件は、別の見方をすれば、共振器(活
性層)内の任意の点 z から発した光が 2 つの反射面で 1 回ずつ反射されて元に戻
147
ってきた時、光の強度が出発時の強度に等しい、ということを意味している。
これからわかるように、レーザー発振の種となる光は、活性層内で生じた自然
放出光の内のレーザー発振モードに等しい成分のものである。
光は電磁波であるから、波としての位相(Phase)にも条件がある。すなわち、1
周して戻ってきた時の位相が出発時の位相と一致していなければならない。活
性層内での波長を λ とすると、
mλ = 2 L
m = 1,2,3, 
(m − 1 : モード次数 )
(A.4)
を満たさなければならない。このことは、両反射面に節の位置する定在波がで
きることを意味する。
活性層内での波長 λ は、活性層内の屈折率を nr、真空中の波長を λ0 とすると、
λ=λ0/nr であるから、式(A.4)は、
λ
m 0
 nr

 = 2 L

(A.5)
となる。したがって、発光ダイオードのような幅広いスペクトルと異なり、式
(A.5)が満たされる波長 λ0 に、鋭い固有のスペクトルをもつレーザー光が得られ
る。
レーザー発振が得られるためには、式(A.2)または(A.3)と式(A.5)が満たされな
ければならない。式(A.2)または(A.3)を満たすためには、共振器損失はほぼ一定
であるから、電流を増して利得係数 g を大きくしなければならない。式(A.2)ま
たは(A.3)が成り立つ利得が得られる時の電流は、閾値電流 Ith(Threshold current)
148
といわれ、レーザー発振開始電流となる。
閾値電流以上の電流では、レーザー光は一定の効率で外部に放出される。活
性層に沿って反射面から放出されるレーザー光は、活性層内での損失によって
吸収・散乱を受ける以外は、反射面の透過率に従って反射面より外部に放射さ
れる。したがって、レーザー発振状態での効率、すなわち注入キャリヤー数の
増加に対して、外部に放出される光子数の増加する場合、外部微分量子効率
(External differ entail quantum efficiency)ηd は、R≡R1=R2 の場合、次式で与えられる。
ηd ≡ ηi
反射損失(透過)
全損失
ここで、ηi は内部微分量子効率(Internal differential quantum efficiency)といわれ、
活性層内部での光子数/注入キャリヤー数変換効率を意味する。その結果、半
導体レーザーの P-I 特性曲線は図 A.2 のように、閾値電流以上では光出力は電流
に対して直線的に増加する形になる。
任意の動作電流 I での光出力 P0 は次式から求められる。
1
hν
P0 = η ⋅
⋅ ( I − I th )
2
q
(A.6)
なお、式(A.10)の外部微分量子効率の代わりに、次式の微分効率またはスロー
プ効率(Slope efficiency)Sd も用いられる。
Sd =
光出力の増分 ∆P0
=
電流の増分
∆I
149
(A.7)
L
R1
R2
ファブリーペロー型共振器
P0
Pi
図 A.1. 多重反射。L は共振器長、R1,R2 は反射率。
自然放出光領域
[mW]
レーザー発振領域
光出力
ΔP
ΔI
Pth
Ith
電流 [mA]
図 A.2 半導体レーザーの電流ー光出力(P-I)特性。半導体レーザーは閾値
を持ち閾値電流以上では光出力は電流に対して直線的に増加す
る形になる。
150
A.2 多重量子井戸(Multiple Quantum Well : MQW)構造[3]
図 A.3 にバンド端(Band edge)における多重量子井戸のバンド構造を示す。活性
層厚が小さくなると、光閉じ込め係数が小さくなり、その結果、発振閾値電流
密度が急激に増大するという問題がある。そこで、光波の閉じ込められる領域
に複数の量子井戸層を形成することによって、光閉じ込め係数を実質的に高め
ることができる。ただし、隣接する量子井戸間に大きなエネルギー障壁が存在
するために、キャリヤーが伝搬するにつれてキャリヤーの注入効率が低下する。
その結果、全ての量子井戸層のキャリヤー分布を均一にすることが難しい。
Ec
Ev
図 A.3
MQW 構造。光閉じ込め係数を実質的に高めることが出来る。
151
A.3 半導体レーザー試作工程
基本的な半導体レーザーの製作手順を図 A.4 に示す。まず図中①の様に、感光
膜を形成する。フォトレジストとは、後の工程であるエッチング時に加工を妨
げる役割をする薄膜である。続いて、あらかじめ設計した回路をマスクとして
作製し、②の様にこれを通して紫外線を当てて露光する。感光した部分を現像液
にて洗い流す事で③のように回路の転写が完了する。この工程までをリソグラフ
ィ工程という。
リソグラフィ工程が済むと,④のようにフォトレジストのない薄膜をエッチン
グする。今回はレーザーの構造としてリッジ型導波路を用いるため、エッチン
グは活性層の手前で止める。次に⑤のように BCB(Benzocyclobutene)樹脂によっ
てエッチング部をコーティングする。その後、⑥で BCB 部の頭出しエッチング
を行い、⑦に示すように残ったフォトレジストを除去する。そして、最後に⑧、
⑨で p 電極、n 電極を形成する。
152
⑤ BCBコーティング
BCB
クラッド層
活性層
クラッド層
基板
基板
① フォトレジスト塗布
⑥ 頭出しドライエッチング
基板
基板
② 露光
⑦ レジスト除去
光
感光
基板
基板
⑧ p電極形成
③ 感光部を現像、除去
基板
基板
⑨ n電極形成
④ エッチング
基板
基板
図 A.4 半導体レーザー製造過程。
153
参考文献
[1] 米津宏雄, 光通信素子工学, 工学図書株式会社(1984).
[2] K. Aiki, M. Nakamura, T. Kuroda, J. Umeda, R. Ito, N. Chinone, and M. Maeda,
“Transverse
Mode
Stabilized
AlxGa1-xAs
Injection
Lasers
with
Channeled-Substrate Planar Structure”, IEEE Journal of Quantum Electronics, vol.
14, no. 2, pp. 89-94(1978).
[3] 沼居
貴陽, 半導体レーザー工学の基礎, 丸善株式会社(1996).
[4] T. Tsukada, “GaAs-Ga1-xAlxAs Buried-Heterostructure Injection Lasers”, Journal
Applied Physics, vol. 45, no. 11, pp. 4899-4906(1974).
[5] K. Saito and R. Ito, “Buried-Heterostructure AlGaAs lasers”, IEEE Journal of
Quantum Electronics, vol. 16, no. 2, pp. 205-215(1980).
[6] 岡本
勝就, 光導波路の基礎, コロナ社(1992).
[7] Y. Yamamoto, “Coherence, Amplification, and Quantum Effects in Semiconductor
Lasers”, Wiley-Interscience (1991).
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