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職業教育の研究を通じて見えてくる大学教育のあり方とは

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職業教育の研究を通じて見えてくる大学教育のあり方とは
桜美林大学大学院大学アドミニストレーション研究科
(2013.12.14 発行)
J.F.Oberlin University Graduate School of Higher Education Administration
職業教育の研究を通じて見えてくる大学教育のあり方とは
とある依頼があって、
昨年秋から今年の夏にかけてオーストラリアの職業教育訓練に関する
調査を行っていた。普段どっぷりと大学教育の世界につかっている者としては、新たな知見
が得られたと同時に、一歩離れた視点から、大学教育のあり方について考えるきっかけとな
った。
もちろん、大学人として修行中の身としては、大きなことを申すつもりは毛頭なく、そのよ
うな見識もない人間であることは重々承知しているが、せっかくの機会なので、オーストラリ
アの職業教育訓練について紹介しつつ、そこから見えてくる大学教育のあり方について考えて
みたい。
オーストラリアの第三段階教育とは?
そもそも、我々にとって馴染みのないオーストラリアの第三段階教育はどのようなものなの
我妻 鉄也
だろうか?オーストラリアの第三段階教育は、高等教育(Higher Education)と職業教育訓練
桜美林大学
(Vocational Education and Training)という二つのセクターから構成されている。高等教育セ
大学アドミニストレーション研究科助手
クターでは、言うまでもなく、主として学位プログラムが提供されている。一方、職業教育訓
練セクターでは、サーティフィケートやディプロマといった職業資格を授与する職業教育訓練プログラムが提供されてい
る。オーストラリアには、オーストラリア資格枠組みという高等教育機関や職業教育訓練機関が授与する資格(学位やサ
ーティフィケートなど)の指針を記した全国共通の資格枠組みがあり、レベル 1 からレベル 10(職業教育訓練セクターが
授与する資格はレベル 1 からレベル 6 とレベル 8)まで各資格が分類されている。例えば、レベル 1 のビジネスに関する
資格は CertificateⅠin Business といった形式となり、プログラム修了者に授与される。
職業教育訓練プログラム
項目
達成基準
職業教育機関では、産業界が策定した「トレーニングパッケージ」 1.リソースの選択と準備 1.1 要求されたビジネス文書を作成するために適切な機器やソフトウェ
アを選択する。
という各資格を授与する上で必要な技能や知識を明示した要綱に従
1.2 情報や組織の要求に従いレイアウトや書式を選択する。
1.3 デザインの基本原則を用いて文書のデザインを会社や顧客の要求に
一致したものにする。
いプログラムを作成している。このトレーニングパッケージに示さ
1.4 文書や出版物を依頼してきた人と半型や書式について検討し明確にす
る。
れている技能や知識の内容がとても具体的であり興味深い。簡単で
2.1 業務や組織の要求に従いファイルやデータを確認した上で、開封し、作
2.文書のデザイン
成する。
はあるがビジネスに関連した要綱についてみていこう。
(詳しくは
2.2 効果的な見出しをつけ、情報の体裁や見栄えを最高のものにする。
2.3 デザインやレイアウトを調和のとれたものにするため、様々な機能を
『新版 オーストラリア・ニュージーランドの教育』
(東信堂刊)を
使用する。
2.4 決められた要求の中で入力機器を操作する。
参照のこと)例えば、CertificateⅢin Business(一般事務やカス 3. 文書の作成
3.1 組織の要求に従い指定の時間内に文書を完成させることができる。
3.2 書式やレイアウトに関する業務上の要求を満たした文書が作成されて
いることを確認する。
タマー・サービスの職種に対応し中等教育後1~2 年で取得する資格)
3.3 データを失うことなく文書を記録し保存する。
3.4 文書のデザインや作成の初歩的な問題を解決するためマニュアル、
の場合、
「ビジネス文書の作成とデザイン」
、
「帳簿の管理」
、
「データ
ブックレット、ヘルプデスクを利用する。
4.1 出力前に文章の読みやすさ、正確さ、統一性、書式、レイアウト
4. 文書の完成
ベースの作成や利用」
、
「多様な消費者へのサービスの提供と管理」
、
に関する校正をする。
4.2 要求を満たすよう文書を修正する。
4.3 組織の要求に従った形式で名前を付けて保存し、データの消去や破損
「消費者からの苦情処理」といった項目からなる 12 の「ユニット」
などなくアプリケーションを終了する。
4.4 要求に従い文書印刷し提出する。
でプログラムを構成する。ここでは、
「ビジネス文書の作成とデザイ
ン」のユニットの達成基準について表に記した。この表からもわか
るとおり、ビジネス文書の作成準備から完成に至る項目について詳細に達成基準が定められている。
職業教育訓練の研究を通じて見えてくる大学教育のあり方
このように事細かに技能について提示された要綱を眺めていると、大学教育との差異や大学教育のあるべき姿が自ずと
見えてきてしまうのは私だけであろうか。
改めて、大学での教育とは、単にスキルを習得する場ではなく思考を訓練する場であると、私には思えてくるのである。
昨今の大学では職業に役立つスキルをいかに身に付けさせるかといったことが課題となっている。もちろん、大学教育
は学生や社会のニーズに答えていく必要はある。しかしながら、大学教育とは、単に職業に役立つスキルを身につけるだ
けでなく、汎用性の高い能力を身につけるための思考を鍛える場であるのではないだろうか。
大学時代に交換留学先(イギリスの大学の経済学科)で見た「3 年間で学んだ経済学の知識の全てが、今後の人生にお
いて必ずしも役に立つとは限らない。しかしながら、たくさんのプロブレムセット(演習問題)を通じて鍛えられた論理
的な思考力は一生のものである。
」という卒業生へのはなむけのメッセージを、15 年経った今、あらためて思い出す。
出会いを大切に
エール
秋学期も後半となり、在学生の皆さんは、学修に、お仕事に、そして今学期で修了を目指す皆さんは、
修士論文執筆のラストスパートに・・・と多忙な日々を過ごされていることと思います。
私は、今年 4 月より四谷キャンパス事務室勤務となり、主に大学アドミニストレーション研究科 通
信教育課程を担当しております。
私事ではございますが、母校でもある桜美林大学に入職以来、長期にわたり国際交流関係の部署にて
主に留学生派遣業務を担当し、その後、設立して丸 1 年が経ったところであったリベラルアーツ学群担
当として教務系や学群運営に係るお仕事をさせていただき、この度、これまで未知の世界であった大学
院、そして、存在をかろうじて知っていた程度(すみません!)の通信教育課程担当となりました。
それぞれの部署では「留学してみたい!」というような目的を持つ学生との出会いが多かったかと思
笛木 良恵
えば、少人数の授業に出るのが怖い、通学が困難、といった学生からの相談の多さに驚くことも。この
桜美林大学
ように同じ学士課程でも様々なタイプの学生対応の現場を経験した私ですが、次は大学院、それも大学
四谷キャンパス事務室
アドミニストレーション研究科担当と決まった時には、新たな学生との出会いに、期待とそれ以上の緊
張を覚えました。そして、通信教育課程を担当し始め、学生の皆さんの大学経営、学生支援の専門家を
目指すという明確な目的意識、そして、日々の業務をこなしながら教材を読み、レポートを仕上げ、四
谷まで通学し、修士論文の完成を目指す姿には敬服せずにはいられません。そのような皆さんを微力な
がら事務担当として精一杯サポートしたいという思いを強くしております。特に通信教育課程では、自
学学修が中心となり不安や孤独を感じることもあるかもしれませんが、入学の目的や目標はそれぞれで
も同じ志を持つ仲間、時には厳しく真剣に指導をしてくださる先生方やアカデミックアドバイザー等、
桜美林大学での出会いを是非パワーにしてください。皆さんとの出会いに感謝をしながら、桜美林大学
での皆さんの学修が有意義なものとなりますよう、心より応援しています!
新入生の決意表明
学びの機会に感謝して!
9 月に大学アドミニストレーション研究科(通信課程)に入学した武庫川女子大学の田中 邦子で
す。中学から 10 年間学んだ母校に就職して、早ウン十年。就職指導や情報教育支援の業務を担当し
てきましたが、大学の組織や教育について体系的に学んだことはありませんでした。先輩方の努力に
よって築かれた母校を大切にし、更に発展させて後輩に受け継ぐのが自分の役割だと思うものの、そ
の為の知識も能力も圧倒的に不足していると痛感し、科目等履修を経て正式に本研究科で学ばせてい
ただくことを決めました。
仕事との両立は予想以上に大変で、睡魔に襲われながら、毎晩課題と悪戦苦闘していますが、業務
に対する視点が“武庫川の職員”から“これからの私学そして日本の高等教育”へと少しずつ広がっ
てきたと感じています。学びの機会をいただいたことへの感謝の気持ちを大切に一歩一歩進んでいき
たいと思っておりますので、どうぞ宜しくお願いいたします。
修了生の声
田中 邦子
武庫川女子大学
大学アドミニストレーターへの道
今から2年前、四谷キャンパスで大学院説明会に参加した際、
「君なら修士論文も大丈夫だよ。
」と
高橋真義先生からうれしい言葉をかけていただいたことをきっかけに半年前倒しして秋入学に挑戦し
たことを今でも思い出します。私の職場には桜美林大学大学院に進学した方はいなかったため、修了
する直前まで手探りで勉強した日々は大変有意義なものとなりました。同じ志を持ち勉強に励む院生
と触れ合うたび、
「本当に進学して良かった。
」と心から思い、協力してくれた妻や職場の方々に感謝
の気持ちで一杯になったことを今でも鮮明に覚えています。本研究科では、同じ志を持つ仲間に出会
えたこと、論理的思考とアウトプットができるようになったこと、そして良い師に会えたこと等大変
素晴らしいものを得ることができました。経験した院生生活を糧に、自らが大学アドミニストレータ
ーになるべくこれまで以上にがんばります。素晴らしい機会をくれた「桜美林に感謝」
■2014 年 4 月入学者選抜
出願締切:2014 年1月 31 日(金)必着
試験日:2014 年 2 月 15 日(土)までの随時
合格発表:面接等試験実施日より概ね 1 週間後
■2014 年度 桜美林大学入学式■
日時:2014 年 4 月 7 日(月) 13 時 00 分より開式
場 所:東京国際フォーラム ホールA
問合せ先:町田キャンパス 042-797-0438
四谷キャンパス 03-5376-1321
北谷 仁宏
九州国際大学
修了生の声
人生の宝を社会へ
青年期に大学で学ぶ事が出来なかった私は、いつか必ず大学で学びたい・・という志を持ち続け、インタ
ーネットで学ぶ事が出来る八洲学園大学を卒業後、大学経営について専門的にしかも通信教育で学べる大
学院を探していました。そして、桜美林大学アドの合格通知が届くと家内は「奇跡が起こった!」と言って
誰よりも応援してくれました。しかし、関心があるとはいえ大学経営とは全く無縁で、教員でも職員でも
ない者が果たして終了する事ができるだろうか・・等と当初は不安でした。2 年で終了予定が 3 年半に延び
ましたが、汗と涙の苦闘の末、漸く 2013 年秋の終了式を迎える事ができました。これには鈴木教授、ゼ
ミの仲間達のよきご指導・アドバイスがありました。心から感謝致します。
大学アドでの学びは人生の宝です。この宝を更に増殖させて、社会の一隅を照らす優しい光とならせて
いただきたいと願っております。今後とも皆様のよきご指導をお願い致します。
修了生の声
津久井 修司
東京グッドライフ
アカデミー
大学院での学び
入学のきっかけは修士課程で学び論文を仕上げることで、これまでの教育経験を一区切りしたいという
思いと 200 校以上に増えた看護系大学教育の行方を探ってみたいと思ったからでした。また、大学に奉職
していながら「大学について何を知っているのだろう」という素朴な疑問を解決してみたいとの思いもあ
りました。とはいえ、研究対象として“大学”について考えるということは予想以上に難しいものでした。
それは、知っているようで知らなかったこと、
「当たり前」だと思っていたことについて調べ直し、再度、
認識を改めていくという過程でした。社会人になってからの学びは生半可な知識があるだけに、やり直し
の難しさでもあると感じました。修士論文「看護基礎教育における大学教育の責務と範囲-質保証の観点
柴田 恵子
からの主導的役割-」において、自身の仕事を含め看護師養成教育について考えられたことは、私の貴重
九州看護福祉大学
な財産になりました。
◆イギリス便り◆
武村 秀雄 教授
Oxford Brookes 大学の教職員から 6 月 17 日の週は学位授与式ですと言われた時、
「え!一週間?」と聞き間違えたと思っていま
したら、本当に一週間授与式が続きました。この大学では 18 学部ありますので月から土曜日まで、一日 3 回計 18 回ありました。
つまり、学長は 18 回の祝辞と、修了生全員と握手しながら一人ひとりに声をかけました。学士号の学位は 修了試験の結果に応じ
て序列ができており、優等学位と普通学位が授与されます。優等学位そのものにも1級、2級(2級の上と下)
、3級の 4 段階の学
位区別が存在しています。この区別の意味は重要で、優等学位の1級または2級の上以上でないと大学院の受験資格はなく、更に、
一流企業もそこまでの修了者しか雇用しないという不文律があるということです。しかも、生涯その成績は付いて回るという厳し
さがあります。従って、学生の学修への姿勢は真剣そのものです。この一週間は大学から修了生の努力に対して敬意と尊厳を顕す
重要なセレモニーとなっています。当然ながら、修了生にとっても保護者にとっても大変歓迎されている式典になっているようで
す。
問題も指摘されていました。通常授業週の後に試験期間が一週間以上あり、その上に一週間の学位授与式があることから、実質
的な授業は 12 週間しかないという現状に対して、学生に申し訳ないと多くの教員が言っておりました。特に、米国からの教員は米
国式単位計算から修正の必要性を強調していました。その後の議論でも意見は出ましたが、決定的な是正案らしきものが出てこな
いので、
「単純に夏休みが長すぎるのでは」と言いましたら、嫌な顔をされました。考えたこともなかったようです。
現在、教育の喫緊課題は全国統一試験である「GCSE」
(中等教育修了一般資格試験)[義務教育は 5 歳~16 歳、計 12 年)] と「GCE
A レベル」
(大学入学資格試験)であり、長年にわたって「英国バカロレア」構築を目指してきましたが、社会構造と教育制度の複
雑さから結果的に大いなる後退を余儀なくされたようです。
少し脱線しますが、英国人のシステム創りは世界をリードしてきました。しかし、その後の管理・運営や改革能力が欠けている
ように見えます。そのシステム自体、伝統と誇りという権威に鎮座するあまり旧態依然と化してしまう傾向も否定できません。そ
の顕著な例が郵便制度や地下鉄網であり、やはり英国にとって産業革命が早すぎたと言われていますが言い得て妙ですね。
■第 12 回大学アドミニストレーション研究会■
【日
時】
:
【場
所】
:
【プログラム】
16:00~
16:10~
17:00~
18:30~
18:45~
2013年12月14日(土)16:00~18:30 ※ 終了後、情報交換会
桜美林大学 四谷キャンパス 地下ホール
開会挨拶
諸星 裕
大学アドミニストレーション研究科長
問題提起 「学び続ける大学職員に必要な大局観を考える」
合田 隆史
国立教育政策研究所フェロー/和歌山大学客員教授
前文部科学省生涯学習政策局長
ディスカッション
指定討論者
田村 幸男 大学アドミニストレーション研究科通信1期生 目白大学財務担当理事
川並 順
大学アドミニストレーション研究科通学1年 聖徳大学幼児教育専門学
校助教授/聖徳大学・聖徳大学短期大学部入学センター広報課長
賞雅 郁子
大学アドミニストレーション研究科通学1.5期生/学校法人恵泉女学
園内部監査室長
司 会
高橋 真義
大学アドミニストレーション研究科教授
閉会
懇親会
2013 度春学期修了生 修士論文・研究成果報告テーマ一覧
専修
通信
氏
名
題
目
津久井 修司
賀川豊彦と戦後キリスト教系学校の復興-大学の校地・校舎を中心に-
北谷 仁宏
教職協働時代における大学アドミニストレーターの役割に関する研究
-高等教育政策と大学経営の現状分析を通じて-
古西 美佐子
大学における資金源多様化に関する分析—新たな資金源の可能性の考察—
柴田 恵子
看護基礎教育における大学教育の責務と範囲-質保証の観点からの主導的役割-
寺西 紀仁
私立大学に対する経常費補助金の交付に関する考察-大衆化する高等教育に対する助成のあり方
について-
編集後記
厳しさをます高等教育界で、皆さまには学生のために大いに学び続
け、
「大局観」とともに「人間力」を磨いていただきたいと切望いた
します。この秋から、大学アドミニストレーション研究科では、皆さ
まの学びのチャンスを活かすべくローリングアドミッション方式に
よる入試といたしました。関係各位にご案内をお願いいたします。
■原稿を募集します/投稿先:[email protected] 高橋真義
発行:桜美林大学大学院
大学アドミニストレーション研究科
〒194-0294 町田市常盤町3758
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