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page1-100 - 新エネルギー・産業技術総合開発機構
「アルミニウムの不純物無害化・マテリアルリサイクル
技術開発」事後評価報告書
平成18年2月
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
研究評価委員会
平成18年2月
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
理事長 牧野 力 殿
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
研究評価委員会 委員長 曽我 直弘
NEDO技術委員・技術委員会等規程第31条の規定に基づき、別添のとおり
評価結果について報告します。
目
次
はじめに
分科会委員名簿
審議経過
評価概要
研究評価委員会におけるコメント
研究評価委員会委員名簿
第1章
評 価
1.プロジェクト全体に関する評価結果
1.1 総論
1.2 各論
2.個別テーマに関する評価結果
2.1 アルミニウム再生材中の鉄の許容量拡大
2.2 アルミリサイクルのビジネスモデルの構築
1
2
3
4
7
8
1-1
3.評点結果
第2章
評価対象プロジェクト
1.事業原簿
2.分科会における説明資料
参考資料1
評価の実施方法
2-1
2-2
参考資料 1-1
はじめに
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構においては、被評価プロジェク
ト毎に当該技術の外部の専門家、有識者等によって構成される研究評価分科会を研究
評価委員会によって設置し、同分科会にて被評価対象プロジェクトの研究評価を行い、
評価報告書案を策定の上、研究評価委員会において確定している。
本書は、「アルミニウムの不純物無害化・マテリアルリサイクル技術開発」の事後
評価報告書であり、第5回研究評価委員会において設置された「アルミニウムの不純
物無害化・マテリアルリサイクル技術開発」(事後評価)研究評価分科会において評
価報告書案を策定し、第8回研究評価委員会(平成18年2月27日)に諮り、確定
されたものである。
平成17年3月
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
研究評価委員会
1
「アルミニウム不純物無害化・マテリアルリサイクル技術開発」
事後評価分科会委員名簿
(平成17年12月現在)
氏名
分科会
会長
分科会
会長代理
分科会
委員
中村
崇
所属、職位
東北大学 多元物質科学研究所
資源変換・再生研究センター 教授・センター長
原田 幸明
独立行政法人物質・材料研究機構
エコマテリアル研究センター センター長
伊藤 吾朗
茨城大学 工学部 教授
金子 憲治
日経 BP 社
小池 正俊
富士重工業株式会社 スバル技術本部材料研究部
材料研究第一課 主任
千葉 晃司
日産自動車(株)先行車両開発本部先行車両開発部
プラットフォーム開発グループ 主担
日経エコロジー編集部
副編集長
敬称略、五十音順
2
審議経過
z
第1回 分科会(平成17年12月8日)
公開セッション
1.分科会の設置、資料の確認
2.分科会の公開について
2.評価の実施方法及び評価報告書の構成について
3.プロジェクトの全体概要
4.プロジェクトの詳細
5.プロジェクトの概要
非公開セッション
6.実用化・事業化の見通し
7.全体を通しての質疑
8.今後の予定
z
第8回
研究評価委員会(平成18年2月27日)
3
評価概要
1.総 論
1)総合評価
アルミニウムの一次地金を供給できない我が国にとって自動車部材で使用されるアルミニウム
を水平リサイクルする技術開発は、自動車軽量化を支える大きな意味があり、3R の高度化の観
点として、将来のライフサイクル指向型の素材開発を意識し、高付加価値製品の技術的可能性を
プロセス・性能・実用の観点から総合的に取り組んだ意欲的課題であり、自動車用アルミニウム
材として要求される特性をクリア出来たことは非常に大きな成果であると考える。開発されたア
ルミのリサイクル技術は、加工性を含む性能評価も競争材料にひけをとらないことが示せた意義
は大きく、当該プロセス以外の分野でもその TRC 法の利用が急速に進む可能性がある
ただし、
各ワーキングの情報交換が不十分で、
特に技術開発とビジネスモデル間の連携が薄く、
今後、生産性の向上などの要因でプロセス設計目標が変わる場合に対応できるか否かという課題
が残されている。LCA 分析に関しては、カスケードリサイクルとの競合という視点からの分析も
必要で、他分野への波及を積極的に位置づけておくこと、その段階での 3R へのニッチ的なビジ
ネスの可能性の分析を行なうことが組み込まれていたならば、より実践的な成果になったものと
思われる。
2)今後に対する提言
自動車に使用するアルミニウム部材の割合が一定量を超えないと、
リサイクルの効果がでない。
現状でもヨーロッパ車と比較してアルミ化率が低い問題点をどうように克服するかアルミニウム
業界全体として取り組む必要がある。
また、本課題の結果、3R 対応技術という課題設定で TRC による尤度のある組成域での展延性
に富む高付加価値素形材化の可能性が示されており、リサイクルプロセスに限定することなく、
TRC の応用技術をわが国の素材製造技術として根付かせる努力を行なうべきである。
今後は、各企業が独自に自動車メーカーなどと組んで、事業化に向け、手を打っていく段階であ
り、そのためには、自動車メーカーや部品メーカーが本ソフトを活用して、アルミ部品の LCA
が試算できるような広報活動を望む。
2.各 論
1)事業の位置付け・必要性について
アルミニウムの一次地金を供給できない我が国にとって自動車部材で使用されるアルミニウム
を水平リサイクルする技術開発は、自動車軽量化を支える大きな意味がある。さらに、産業全体
に占める自動車産業の位置を考慮すると、今後使用量の急増が予想される車体用アルミ素材につ
いて、車体から車体に再利用できる技術的可能性をプロセス・性能・実用の観点から総合的に取
り組んだ意欲的課題であり、3R プログラムの選定基準や国際的なエネルギー需給動向の見通し
から考えて妥当であり、NEDO の関与が必要とされる事業といえる。
リサイクルプロセス自体がすでに TRC に絞り込まれていたが、オスプレーなど他のプロセス
の可能性も、実験的検証は困難にしても、それらのプロセスを明示し理論的側面や文献調査など
4
をふくめて検討対象とすべきであった。
なお、リサイクルの対象となる廃自動車のスクラップ回収方法が大きな課題であり、低コストで
安定量を確保できるスクラップ回収のインフラ整備が望まれる。
2)研究開発マネジメントについて
現行の自動車ボディ用合金の Fe 量の許容量、試験溶解調査に基づき、Fe 許容量の目標が、具
体的・定量的に設定されていることは、評価できる。また、将来自動車にアルミニウムが使用さ
れた場合の循環システムに関するビジネスモデルを同時に提案した点は非常に評価できる。
また、実施者の構成に、成果の受け手が組み込まれていたことは、実用化に向けた課題を掴む
ために非常に有効であった。更に、技術委員会に自動車メーカーや JARI が参加している点も良
い。
アルミは、鉄に比べカスケードルサイクルの需要先が限られているため、今から車体から車体
へのリサイクル技術の確立に取り組むという考え方は妥当なものだろう。現在のカスケードリサ
イクルによるアルミスクラップの買い取り価格よりも、高い買取り価格でも成り立つビジネスモ
デルを目指していることは、現実的な視点を持っている。
ただし、TRC 技術開発とアルミニウム循環ビジネスモデルの関連が多少薄い感があり、できれ
ば全体のプロジェクトリーダーを明確にするのが望ましい。
TRC 技術開発とアルミニウム循環ビジネスモデルの関連が多少薄く、Fe 緩和材開発とリサイク
ルのビジネスモデルワーキングでの相互の情報交換が不足していたと思われ、十分に成果の受け
取り手の意見を反映させた方が良かった。
3)研究開発成果について
TRC による Fe の許容量拡大は世界初と評価でき、この手法により製造された板材は自動車ボ
ディ材として汎用性を十分に有すると評価できる。また、溶湯圧延法という新たな技術領域を開
拓することが期待される。
カスケードリサイクルとの競合を意識し、再生展伸材における鉄の許容量の拡大、ビジネスモ
デルの構築、評価モデルの構築を掲げて、自動車解体事業者、素材加工事業者、自動車メーカー
のすべてが WIN―WIN の関係を構築できる可能性を示したことは、たいへん評価できる。デー
タベースの構築や LCA を計算するソフトができたことも非常に有効なことである。
また、この技術は必ずしもアルミニウム材への自動車部材への適用だけでなく、アルミダイキ
ャスト中心だったアルミリサイクル市場に新たな用途開拓につながる可能性もあり、この課題を
通じて高付加価値素材への TRC の応用の可能性を明らかにできたことによる波及効果も大きく
期待される。
しかし、組織のキャラクタリゼーションと特性の関係、プロセス因子と組織の関係などで普遍化
できるかたちで成果がまとめられておらず、今後生産性の向上などの要因でプロセス設計目標が
変わる場合に対応できるか否かという課題が残されている。また、技術開発、ビジネスモデルと
LCA 分析との整合性に問題があったように思う。特許網を構築できるような特許出願がなされて
いないように思える
5
4)実用化、事業化の見通しについて
溶湯圧延法関連技術の高度化につながることは明らかであり、目標とした 0.4%Fe の開発材
にて、自動車パネル用アルミニウム材に要求される特性をクリアした。また、ビジネスモデルの
開発では、将来の自動車部材アルミニウム化の問題点を明確にし、開発ならびに事業展開に一定
の指針を与えることに成功している。
ただし、3R との関係では、まだアルミ材自体の普及は低く、今回開発の生産技術は時間当た
りの生産性に問題があり、コストダウン、導入普及、事業化までの期間、事業化とそれに伴う経
済効果等の見通しが明確でないように思われる。今後、実際に車体から回収したアルミスクラッ
プを使った再生材製造の検証や、自動車メーカーと協力してそのアルミ再生を使った車体を試作
し評価してもらうなど、より実践的な検証が必要であろう。また、生産性のより高い工法を採用
すればさらにコストメリットは拡大し、実用化の可能性は非常に高くなるのではないかと思う。
6
研究評価委員会におけるコメント
第8回研究評価委員会(平成18年2月27日開催)に諮り、了承された。研究評
価委員からのコメントは特になし。
7
研究評価委員会
委員名簿
委員長
曽我
直弘
滋賀県立大学
学長
委員長代理
西村 吉雄
東京工業大学
監事
委員
伊東
弘一
大阪府立大学
大学院
委員
稲葉
陽二
委員
大西
優
株式会社カネカ
委員
尾形
仁士
三菱電機株式会社
上席常務執行役
委員
黒川
淳一
横浜国立大学大学院
工学研究院・システムの創生部門
委員
小柳
光正
東北大学大学院
工学研究科バイオロボティクス専攻
教授
委員
佐久間
東京大学大学院
新領域創成科学研究科
教授
委員
冨田
房男
放送大学
委員
架谷
昌信
愛知工業大学
委員
平澤
泠
東京大学名誉教授
委員
吉原
一郎
一紘
日本大学
法学部
工学研究科
機械系専攻
教授
教授
顧問
北海道学習センター
工学部機械学科
アルバック・ファイ株式会社
開発本部長
環境学専攻
教授
所長
教授
理事
技術顧問
(合計
13 名)
(敬称略、五十音順)
8
第1章
評価
この章では、分科会の総意である評価結果を枠内に掲載している。なお、枠の
下の○、●、●が付された箇条書きは、評価委員のコメントを原文のまま、参考と
して掲載したものである。
1.プロジェクト全体に関する評価
1.1 総論
1)総合評価
アルミニウムの一次地金を供給できない我が国にとって自動車部材で使用され
るアルミニウムを水平リサイクルする技術開発は、自動車軽量化を支える大きな
意味があり、3R の高度化の観点として、将来のライフサイクル指向型の素材開発
を意識し、高付加価値製品の技術的可能性をプロセス・性能・実用の観点から総
合的に取り組んだ意欲的課題であり、自動車用アルミニウム材として要求される
特性をクリア出来たことは非常に大きな成果であると考える。開発されたアルミ
のリサイクル技術は、加工性を含む性能評価も競争材料にひけをとらないことが
示せた意義は大きく、当該プロセス以外の分野でもその TRC 法の利用が急速に進
む可能性がある
ただし、各ワーキングの情報交換が不十分で、特に技術開発とビジネスモデル
間の連携が薄く、今後、生産性の向上などの要因でプロセス設計目標が変わる場
合に対応できるか否かという課題が残されている。LCA 分析に関しては、カスケ
ードリサイクルとの競合という視点からの分析も必要で、他分野への波及を積極
的に位置づけておくこと、その段階での 3R へのニッチ的なビジネスの可能性の分
析を行なうことが組み込まれていたならば、より実践的な成果になったものと思
われる。
<肯定的意見>
○ 個別テーマについて当初の目標を達成できている。また、技術開発の成果は発
展性もあると思われる。
○ 3R の高度化の観点として、将来の循環型社会でのものづくりを意識し高付加価
値製品→高付加価値製品である CAR_BODY to CAR_BODY の技術的可能性を
プロセス・性能・実用の観点から総合的に取り組んだ意欲的課題であり、設定
した課題目標は基本的に達成できている。
○ 重要なテーマを取り上げ、かつ実施体制も整っている。
目標がほぼ完全に達成されている。
○ 設定した目標に対し、概ね順調にクリアしている。既存技術を高度化するとい
う手法でコスト競争力のある、車体から車体へのアルミリサイクルの技術とビ
ジネスモデルの可能性を示すことに成功した。事業化を念頭にした堅実な技術
開発は評価できる。
○ 自動車用アルミニウム材として要求される特性をクリア出来たことは非常に大
きな成果であると考える。残る課題となっている生産技術、品質管理について
1-1
も今後の取組みで解決されていくものと思われ、早期実用化を期待したい。
○ アルミの地金を持たない日本にとって本開発は必要不可欠なものである。した
がって本研究は実施する価値がある。
目標値を満足する材料開発ができたこと、LCA試算のためのデータベースやソ
フトが開発できたこと、さらにリサイクル手法を明確にしたことは評価できる。
<問題点・改善すべき点>
● 個別テーマ特に技術開発とビジネスモデル間の連携が薄い。技術開発について
は今回開発した TRC 法が本質的に自動車部材に使用可能な生産速度を達成で
きるかどうか示すべき。
● 3R に対する問題解決型のかたちをとりながらも、TRC 技術の積み上げ型の研
究開発になっており、当初からそれを意識した計画、すなわち、3R に適用し効
果を発揮する以前の段階での他分野への波及を積極的に位置づけておくこと、
その段階での 3R へのニッチ的なビジネスの可能性の分析を行なうこと、が組
み込まれていたならばより実践的な成果になったものと思われる。
● 目標値が低いと評価される(Fe 許容量拡大)。
マネジメントについて競争的要素がまったくない。
成果を強調するあまり、実用化・事業化に向けての問題点がほとんど示されて
いない(Fe許容量拡大)。
● ただ、国が関与する研究開発としては、その技術的な革新性においてやや物足
りなさが残る。「異物を許容する」という手法の宿命から、永遠の循環利用を
想定しない過渡的な技術とも言える。また、LCA 分析に関しては、カスケード
リサイクルとの競合という視点からの分析も必要だったように思う。
● 現状の FSW を用いて広幅の板を生産する手法では、コスト上不利になると考
える。今後の実用化を考える場合、自動車の外板パネル材として使用してくた
めには、広幅コイルの安定した供給するための生産技術の開発が必須と考える。
● 市場実績から目標値をさらに高いものに修正して、開発すべきだったと思う。
実用化するためにさらなる高生産性に向けた技術開発を実施すべきだった。
各ワーキング同士の情報交換が不十分だし、受け取り手の意見を十分に反映す
るように企画部会にも参加させるようにしたほうが良かった。
1-2
2)今後に対する提言
自動車に使用するアルミニウム部材の割合が一定量を超えないと、リサイクルの
効果がでない。現状でもヨーロッパ車と比較してアルミ化率が低い問題点をどうよ
うに克服するかアルミニウム業界全体として取り組む必要がある。
また、本課題の結果、3R 対応技術という課題設定で TRC による尤度のある組成
域での展延性に富む高付加価値素形材化の可能性が示されており、リサイクルプロ
セスに限定することなく、TRC の応用技術をわが国の素材製造技術として根付か
せる努力を行なうべきである。
今後は、各企業が独自に自動車メーカーなどと組んで、事業化に向け、手を打っ
ていく段階であり、そのためには、自動車メーカーや部品メーカーが本ソフトを活
用して、アルミ部品の LCA が試算できるような広報活動を望む。
z
TRC 法が本質的に大幅な生産速度向上を達成できることを示し、
その技術開発
を行うべきである。
ビジネスモデルでも示してあるが、自動車に使用するアルミニウム部材の割合
をが一定量を超えないと、リサイクルの効果がでない。現状でもヨーロッパ車
と比較してアルミ化率が低い問題点をどうように克服するかアルミニウム業
界全体として取り組む必要がある。
z
本課題の結果、3R 対応技術という課題設定で TRC による尤度のある組成域で
の展延性に富む高付加価値素形材化の可能性が示されており、リサイクルプロ
セスに限定することなく、TRC の応用技術をわが国の素材製造技術として根付
かせる努力を行なうべきであり、国としてもそれをバックアップすることで、
最終的に循環型社会対応の技術が定着することになる。
また、本課題でとりくんだ素材のライフサイクルの観点からの特性、経済、環
境の評価の3軸は今後の素材技術開発においても定着させるべきであり、その
際、特性評価はより適用製品(本課題の場合は自動車)サイドとの連携をつよめ
るとともに、経済・環境評価は製品にとどまらず社会全体での物質バランスな
どを考慮したものへと発展させるようなアプローチを推奨していくことが今
後のアジア圏等での経済競争、環境協調に貢献していくうえで必要となってく
る。
z
今回の成果を生かす意味で、広幅化は必須であり、次段階の研究開発テーマと
してほしい(Fe 許容量拡大)。
z
アルミスクラップという極めて経済価値の高い素材の循環に関しては、国の関
与は最小限に抑えるべきだろう。今後は、各企業が独自に自動車メーカーなど
と組んで、事業化に向け、手を打っていく段階であろう。
1-3
z
安定した品質、供給量を確保できる溶湯圧延法の生産技術革新に期待する。さ
らに、早期実用化され、昨今の素材単価高騰に対して、コストダウンアイテム
としての機能を果たしていただきたい。
z
実用化に向けての課題(Fe 許容量向上、生産性向上)が明らかになったので、
さらに開発をすべきである。本開発は実用化されないと開発した意味がない。
本成果を自動車メーカーや部品メーカーの方に広く知ってもらう必要性があ
ると思う。そのためには、もう少し広報活動が必要である。さらに自動車メー
カーや部品メーカーの人が本ソフトを活用して、アルミ部品のLCAが試算でき
るようにしていただきたい。たとえば、Web上で試算できるようにするとか。
1-4
1.2 各論
1)事業の位置付け・必要性について
アルミニウムの一次地金を供給できない我が国にとって自動車部材で使用され
るアルミニウムを水平リサイクルする技術開発は、自動車軽量化を支える大きな意
味がある。さらに、産業全体に占める自動車産業の位置を考慮すると、今後使用量
の急増が予想される車体用アルミ素材について、車体から車体に再利用できる技術
的可能性をプロセス・性能・実用の観点から総合的に取り組んだ意欲的課題であり、
3R プログラムの選定基準や国際的なエネルギー需給動向の見通しから考えて妥当
であり、NEDO の関与が必要とされる事業といえる。
リサイクルプロセス自体がすでに TRC に絞り込まれていたが、オスプレーなど
他のプロセスの可能性も、実験的検証は困難にしても、それらのプロセスを明示し
理論的側面や文献調査などをふくめて検討対象とすべきであった。
なお、リサイクルの対象となる廃自動車のスクラップ回収方法が大きな課題であ
り、低コストで安定量を確保できるスクラップ回収のインフラ整備が望まれる。
<肯定的意見>
○ 自動車部材のアルミニウム化は、燃費向上に有効な軽量化に欠くべからざるも
のである。一方アルミニウムの一次地金を供給できない我が国にとって自動車
部材で使用されるアルミニウムを水平リサイクルする技術開発は、自動車軽量
化を支える大きな意味がある
○ 3R の高度化の観点として、将来の循環型社会でのものづくりを意識し高付加価
値製品→高付加価値製品である CAR_BODY to CAR_BODY の技術的可能性を
プロセス・性能・実用の観点から総合的に取り組んだ意欲的課題である。
○ 下記の問題点を除いては、3R プログラムの選定基準等に適合している。
○ 日本の場合、川下の産業の発言力が強く、川上(素材)産業は短期的研究開発
のみに注力せざるを得ない。このような現状を考えると、本事業は、企業独自
では取り組めないものであり、NEDO の関与が必要とされる事業といえる。
○ 産業全体に占める自動車産業の位置を考慮すると、本事業の波及効果は絶大で
あり、この点でも NEDO の関与が必要とされる事業といえる。
日本のアルミニウム産業はとくに精度に関する技術力は高いものの、企業統合
が進んでいる欧米に比べて、競争力は今ひとつの感がある。本事業目的のよう
な長期的利益につながる目的は、NEDOが関与し、各企業が力を合わせること
が容易であるという点で、妥当と評価する。
内外の技術開発動向の全貌を把握しているわけではないが、この分野において
世界のトップグループにあることは間違いなく、今後も世界をリードしていく
意味で、事業目的は妥当と考える。
1-5
中国に続いてインドといった巨大人口を抱えるアジアの国々が、経済成長を成
し遂げるなかで、エネルギー需要は拡大の一途をたどると容易に予想される。
アルミニウムのリサイクルに要するエネルギーと新地金製造に要するエネル
ギーを比較すると、本事業目的は、国際的なエネルギー需給動向の見通しから
考えて、妥当であり、国際貢献にも資すると評価する。
○ 品位が劣化し、需要先が不安定なカスケードリサイクルに比べ、同じ用途に戻
せるリサイクルが、需要と供給の安定性という観点から、より優れた循環シス
テムであることは自明である。ただ、実経済の中では、高品位な素材に戻すリ
サイクルシステムは、技術集約度の低いカスケードリサイクルに、コスト競争
で勝てないことが多い。このプログラムによって、今後使用量の急増が予想さ
れる車体用アルミ素材について、車体用ボディから車体用ボディに再利用でき
る技術的、経済的な可能性を見極めておくことは、たいへん意義がある。
○ 近年、自動車用アルミニウムの採用が増加傾向にある中、Body to Body のクロ
ーズドリサイクルの実現は非常に重要な検討テーマである。本事業の実用化に
よって、アルミニウムの低コスト化が進み、自動車へのアルミニウムの採用が
さらに広がるものと考える。従って、事業の趣旨、規模から判断して NEDO 事
業として妥当であると考える。
○ CO2 削減を達成する一つの方策である自動車の軽量化に大きく貢献する材料と
してアルミが最有力である。しかしながら日本にはアルミ精錬をやっていない
ことや地金を輸入している等、コストが高く、欧米に比べて十分に使用されて
いないのが事実である。しかしながらアルミはリサイクル可能な材料であり、
本プロジェクトの技術開発によりパネルからパネルへのリサイクルができるこ
とは資源を持たない日本にとって非常に価値のあるものである。この技術を持
つことは、日本のアルミがグローバルで競争力をもつことになり、それを使用
した自動車は非常に競争力のあるものになり得る。したがって、本研究開発は
非常に意味のあるものであると判断する。
少量で合金は異なるが、自動車用アルミ板材としてリサイクル材が実用化され
てきているので、本研究の価値はある。
<問題点・改善すべき点>
● リサイクルプロセス自体がすでに TRC に絞り込まれていたが、オスプレーなど
他のプロセスの可能性も、実験的検証は困難にしても、それらのプロセスを明
示し理論的側面や文献調査などをふくめて検討対象とすべきであった。そこが
あいまいなため 3R のための開発か TRC の開発かが不鮮明で、3R に便乗した
1-6
TRC の売り込みの感を与えている。
● 3R のうちの Recycle のみを対象とし、Reduce、Reuse には考慮が払われてい
ない。ただしこれは事業目的の設定の問題であり、改善の余地はない。
● ただ、今回の技術課題が、果たして NEDO の関与が必要なほど、難易度が高い
ものであったのか、やや疑問の余地もある。「0.4%まで鉄の含有を許容できる
アルミリサイクル技術」は同じ品質に戻して永遠に循環可能なリサイクル技術
とは言えず、異物を取り除くタイプの完全循環技術に比べ、相対的に難易度は
低いといえる。そもそも技術開発においては、担当者の能力が高く順調に成果
を上げるほど、技術的障害が低く見えてしまうため、“難易度”のレベルを推
し量るのは難しい。専門外の人間にとっては、開発担当者の説明に依存する部
分が大きいが、今回、技術開発の核心部分で「それ以上はノウハウのところも
ある」というコメントがあり、評価しがたい面がある。アルミのスクラップは、
他の素材に比べ、経済的な価値が高く、将来、車体用に多用されても、使用済
みアルミが廃棄される可能性はない。仮に将来的にカスケード利用が行き詰ま
った場合、自律的に高度なリサイクル技術が生まれる可能性は大きい。
● 自動車用ボディパネル材として、技術課題の多くは解決されたものと思われる
が、リサイクルの対象となる廃自動車のスクラップ回収方法が大きな課題であ
ると考える。
低コストで安定量を確保できるスクラップ回収のインフラ整備を期待したい。
● 目標達成度の指標の適正性の各項目は、自動車で使用される材料の特性と同じ
である点は評価できる。
技術委員会に自動車メーカーやJARIが参加している点は良い。
自動車リサイクル法が施行されたが、それを前向きに捉えて開発を進めた点は
良いと思う。
<その他の意見>
z アルミボディ自体がまだ普及過程の軽量材料であり、直接的な 3R への効果よ
り、将来の循環型志向の製造技術開発としての典型的取り組みとして位置づけ、
波及効果などを強く意識しておく側面の強い課題であったが、現行技術への代
替技術開発的な段階にとどまっている。課題名には明確に「TRC による」を頭
につけるなど限定性をもたせ、逆にこの開発による TRC の波及効果も射程内
に入れておくべきであり、同時にそれは他のプロセスによる Al の不純物無害
化マテリアルリサイクルの技術開発の可能性へも道を開くことになる。
1-7
2)研究開発マネジメントについて
現行の自動車ボディ用合金の Fe 量の許容量、試験溶解調査に基づき、Fe 許容量
の目標が、具体的・定量的に設定されていることは、評価できる。また、将来自動
車にアルミニウムが使用された場合の循環システムに関するビジネスモデルを同
時に提案した点は非常に評価できる。
また、実施者の構成に、成果の受け手が組み込まれていたことは、実用化に向け
た課題を掴むために非常に有効であった。更に、技術委員会に自動車メーカーや
JARI が参加している点も良い。
アルミは、鉄に比べカスケードルサイクルの需要先が限られているため、今から
車体から車体へのリサイクル技術の確立に取り組むという考え方は妥当なものだ
ろう。現在のカスケードリサイクルによるアルミスクラップの買い取り価格より
も、高い買取り価格でも成り立つビジネスモデルを目指していることは、現実的な
視点を持っている。
ただし、TRC 技術開発とアルミニウム循環ビジネスモデルの関連が多少薄い感
があり、できれば全体のプロジェクトリーダーを明確にするのが望ましい。
TRC技術開発とアルミニウム循環ビジネスモデルの関連が多少薄く、Fe緩和材開
発とリサイクルのビジネスモデルワーキングでの相互の情報交換が不足していた
と思われ、十分に成果の受け取り手の意見を反映させた方が良かった。
<肯定的意見>
○ 単にアルミニウムの高度リサイクルを実現するための不純物許容量(鉄)の増大
だけでなく、将来自動車にアルミニウムが使用された場合の循環システムに関
するビジネスモデルを同時に提案した点は非常に評価できる。
○ 研究開発計画と事業体制は、マテリアルリサイクルのプロセスとその素材評価
にとどまらず、加工性、溶接性、腐食などのリサイクル後のライフサイクルを
意識した性能評価とさらに環境、経済のライフサイクル評価を含むなど、将来
のライフサイクル指向型の素材開発を意識できる取り組みとなっている。
○ 現行の自動車ボディ用合金の Fe 量の許容量、試験溶解調査に基づき、Fe 許容
量の目標が、具体的・定量的に設定されていることは、評価できる。
ビジネスモデルの構築、LCA的視点からの評価モデルの構築については、定量
的目標値がないが、事業の性格上やむをえないものと理解する。
スケジュール、予算、要素技術(相互の関係や順序を含む)など、研究開発計
画については妥当と評価される。
研究開発実施者の事業体制:技術委員会委員長、主任研究者、企画部会長、三
つのWG主査が選任されており、メンバーにアルミニウム製造6社すべてが加わ
っているとはいえ、安易な業界横並び体制でないことが理解できる。真に技術
力と事業化能力を有する企業を実施者として選定しているといえる。
1-8
研究管理法人の役割:実施各企業に研究管理を任せるのは困難であり、研究管
理法人(JRCM)は必要な役割を担っているといえる。
実施者間の連携:WGメンバーの構成を見る限り連携には十分な体制と考えら
れる。
成果の受け取り手への普及・および受け取り手から関与を求める体制:技術委
員会に自動車メーカー2社、(財)日本自動車研究所から委員が選任されており、
十分と評価される。
○ 今後、自動車により高度な燃費性能が求められるのは必至で、軽量素材で最も
有望なアルミの使用量が増えるのは確実である。アルミは、鉄に比べカスケー
ドルサイクルの需要先が限られているため、今から車体から車体へのリサイク
ル技術の確立に取り組むという考え方は妥当なものだろう。また、自動車リサ
イクル法は、車体に関しては自立的に循環するという前提に立っていることか
ら、将来的にアルミの車体から車体へのリサイクルは、カスケードリサイクル
との競争にさらされることになる。このことを踏まえ、現在のカスケードリサ
イクルによるアルミスクラップの買い取り価格よりも、高い買取り価格でも成
り立つビジネスモデルを目指していることは、現実的な視点を持っている。
○ 実施者の構成に、成果の受け手が組み込まれていたことは、実用化に向けた課
題を掴むために非常に有効であったと評価したい。
○ 目標達成度の指標の適正性の各項目は、自動車で使用される材料の特性と同じ
である点は評価できる。
○ 技術委員会に自動車メーカーや JARI が参加している点は良い。
自動車リサイクル法が施行されたが、それを前向きに捉えて開発を進めた点は
良いと思う。
<問題点・改善すべき点>
● 一方で技術開発とアルミニウム循環ビジネスモデルの関連が多少薄い感があり、
できれば全体のプロジェクトリーダーを明確にすることが望ましい。
● 現時点での代替材料としての材質などの技術開発目標とともに、将来の経済性、
環境影響性(リサイクル需給)からの生産性の目標も掲げるべきであったが、本
開発課題ではその部分での数値的目標が不鮮明なまま取り組まれている。
● JIS6061 合金の Fe 量の上限が 0.7%である現状を考えると、自動車ボディ用合
金の上限がこれより低く抑えられているとはいえ、Fe の許容量の目標値 0.4%
は、一般技術者にはアピールしないと考える。事実、総合評価結果(質問に対
1-9
する回答を含む)の DC-0.4%Fe 材においても、評価 7 項目中 5 項目は「○:
基準材 DC-0.15%Fe 材と同等以上」と評価され、残り 2 項目も「△:基準よ
り低いものの改善により同等となる可能性がある」と評価されている。このこ
とは DC 法によっても、研究開発により目標はクリアできる可能性が高いこと
を示している。
上記Feの許容量は、試験的に溶解した結果に基づいてはいるが、許容量が広い
ほうが、自動車の設計(鉄系部品の取り付け)や解体が容易になることは当然
であり、0.4%が絶対ではない。
研究管理法人:JRCM以外にこの種の役割を担う法人、団体があり、互いに競
争することが望ましいと考える。
実施者間の競争:事業の性格にも由来するが、実施者間の競争が可能な実施内
容とすべきであったと考える。予算が拡大する恐れがあるが、例えばFe量の許
容量拡大については、複数の手法を並行させ、競争的に目標達成を図ることも
できたと考える。
プロジェクトリーダー:不在のため、個別テーマ間の関連が希薄である。
● 今回は溶湯圧延法を検討されましたが、本事業の目標達成のために考えられる
いくつかの達成手段の中から溶湯圧延法を選択されたことと思いますが、溶湯
圧延法を選択することが最善であったと伝わりにくく感じます。ぜひ、溶湯圧
延法をクローズアップして検討した価値がわかるようにして欲しい。
● 目標値設定では事前にアルミフード溶解試験結果をベースに設定されているが、
使用したアルミフードは1仕様であり、市場に出ているものは、Fe 部品の使用
レベルが違うので、目標値設定を間違える可能性があった。したがって市場調
査結果を基に再度目標値の見直しをすべきだと思う。
<実施者意見>
ビジネスモデルWGでは各社の実車からアルミフードを約60枚集めて再溶解試験
を行っており、このときの実験ではシュレッダーから回収されたミックスメタ
ルを分析した結果ですが、Fe量に関するデータは
(0.45%,0.34%,0.28%,0.30%,0.24%)でして、平均0.32%標準偏差0.08%
でありました。この結果の考え方にはいろいろあると思います。最大値だけで
評価するならば目標値は妥当ではありませんが、正規分布として評価すると(平
均+標準偏差)で0.40%となり、このときのカバー率は84%ですので目標値と
しては妥当であると考えられます。最終的には後者の理由により、Fe許容量
0.4%の目標値に対する変更は必要ないと判断しました。
Fe緩和材開発とリサイクルのビジネスモデルワーキングでの相互の情報交換
が不足していたと思われる。
1-10
ユーザーである自動車メーカーの参加や意見が不十分のように思われる。例え
ば、LCAの試算で基準車からアルミ化車への移行シナリオが現実や将来の可能
性の範囲を超えていると思う。
今回一社のみでFe緩和材の開発を実施したが、生産性良い工法でもう一社、別
に開発させて、競争した方が良かったと思う。
企画部会にも自動車メーカーやJARIが参加して、十分に成果の受け取り手の意
見を反映させた方が良かった。何故なら、2回/年の技術委員会では不十分で
あるから。
<その他の意見>
z プロジェクト開始時点からすると中国へのリサイクル資源の流出などが激化
しており、我が国で高品位素材のリサイクル技術を経済的にもなりたたせるこ
とが緊要になってきているが、この課題設定ではリサイクル材は容易に得られ
るものという 5 年前の発想のままのプロセス、経済設定にとどまっているのは
歴史的制約としても、もったいない。
1-11
3)研究開発成果について
TRC による Fe の許容量拡大は世界初と評価でき、この手法により製造された板
材は自動車ボディ材として汎用性を十分に有すると評価できる。また、溶湯圧延法
という新たな技術領域を開拓することが期待される。
カスケードリサイクルとの競合を意識し、再生展伸材における鉄の許容量の拡
大、ビジネスモデルの構築、評価モデルの構築を掲げて、自動車解体事業者、素材
加工事業者、自動車メーカーのすべてが WIN―WIN の関係を構築できる可能性を
示したことは、たいへん評価できる。データベースの構築や LCA を計算するソフ
トができたことも非常に有効なことである。
また、この技術は必ずしもアルミニウム材への自動車部材への適用だけでなく、
アルミダイキャスト中心だったアルミリサイクル市場に新たな用途開拓につなが
る可能性もあり、この課題を通じて高付加価値素材への TRC の応用の可能性を明
らかにできたことによる波及効果も大きく期待される。
しかし、組織のキャラクタリゼーションと特性の関係、プロセス因子と組織の関
係などで普遍化できるかたちで成果がまとめられておらず、今後生産性の向上など
の要因でプロセス設計目標が変わる場合に対応できるか否かという課題が残され
ている。また、技術開発、ビジネスモデルと LCA 分析との整合性に問題があった
ように思う。特許網を構築できるような特許出願がなされていないように思える。
<肯定的意見>
○ 不純物の鉄を従来の 2 倍許容して使用することができる技術開発そのものは開
発できている。また、この技術は必ずしもアルミニウム材への自動車部材への
適用だけでなく、一般的なアルミニウム展伸材としての適用できる可能性があ
り、これからの発展が期待できる。
○ 再生展伸材における鉄の許容量の拡大、ビジネスモデルの構築、評価モデルの
構築という当初掲げた課題は達成できている。また、この課題を通じて高付加
価値素材への TRC の応用の可能性を明らかにできたことによる波及効果も大
きく期待される。
○ 目標の達成度:目標の設定に問題はあるが、達成率はほぼ百パーセントと評価
される。
成果の意義:詳細に見れば、成果(この方法でのFeの許容量拡大)は世界初と
評価される。予算にはおおむね見合っていると考える。また溶湯圧延法という
新たな技術領域を開拓することが期待される。
成果の汎用性(Feの許容量拡大・製品):今回評価した項目以外に重大な欠点
が生じれば別であるが、今回の手法により製造された板材は、自動車ボディ材
として汎用性を十分に有すると評価される。もちろんFe許容量が低く設定され
ている他の用途にも問題なく適用できると考えられる。
1-12
特許等の取得・成果の普及:十分と評価される。
○ 0.4%の鉄を許容するリサイクル技術、ビジネスモデルに関しては、目指したレ
ベルの成果を上げることができた。すでに確立している TRC 法をより高度化す
るという現実的、かつコスト競争力あるリサイクル技術を選択することで、将
来的な事業化にメドを付けた。特に、カスケードリサイクルとの競合を意識し、
現在のアルミスクラップの原料費(買い取り価格)を現状のカスケードリサイク
ルよりも高めに設定することで、自動車解体事業者、素材加工事業者、自動車
メーカーのすべてが WIN―WIN の関係を構築できるビジネスモデルの可能性
を示したことは、たいへん評価できる。こうした試算どおりの条件が達成され
れば、アルミの車体から車体へのリサイクルが実現する可能性は大きい。
また、今回、開発されたアルミのリサイクル技術は、従来の TRC 法の高度化と
も言え、その応用範囲は、車体から車体へのリサイクルだけでなく、これまで
アルミダイキャスト中心だったアルミリサイクル市場に新たな用途開拓につな
がる可能性もある。
○ 目標とした 0.4%Fe の開発材にて、自動車パネル用アルミニウム材に要求され
る特性をクリア出来た成果は非常に大きいものであると評価したい。
○ アルミ二ウム再生材中の鉄の無害化技術において、目標値 0.4%を達成し、従
来の圧延材の DC 材とほぼ同等の性能を有する材料を開発したことは評価でき
る。
アルミ二ウム再生材中の鉄の無害化技術において、新たな課題であるリップル
マークや中心線偏析を実用化できるレベルまで改善している点は評価できる。
自動車アルミ化に関するライフサイクルアセスメント(LCA)において、アル
ミに適用するに当たって、LCAを検討するためのデータベースの構築やLCAを
計算するソフトができたことは非常に有効なことである。
リサイクルの最適な方法を明確にした点は今後実用化を進めるに当たっては、
有効であり、大変評価できる。
特許や論文も十分に出ていると思う。
<問題点・改善すべき点>
● 技術開発に関する特許、論文が多少少ないが、論文はこれからと期待したい。
海外特許をもっと積極的に提出して欲しい。
● TRC の操業パラメータの選択により第 2 相粒子の微細均一化で目標の不純物濃
度での加工性等の付与が可能なことは示されたが、組織のキャラクタリゼーシ
1-13
ョンと特性の関係、プロセス因子と組織の関係などで普遍化できるかたちで成
果がまとめられておらず、今後生産性の向上などの要因でプロセス設計目標が
変わる場合に対応できるか否かという課題が残されている。これは、他応用分
野への波及についても同様である。
また LCA および経済評価は、
効果の出る部分のみを示す受動的な評価モデルの
段階にとどまっており、
これらのモデルを使って TRC によるマテリアルリサイ
クルがどのように組み込まれることが最適かを長所・短所をあわせて提示する
ことができればより説得力があったと思われる。
● 成果の意義:目標設定の妥当性の問題点で述べたとおり、Fe の許容量 0.4%は
それほど困難な目標とは考えられないので、成果は世界最高水準とはいい難い。
● LCA 評価手法に関しては、水力発電によるアルミを多用した自動車を、廃車後
にリサイクルすれば、CO2 削減に寄与することは自明のことと思う。むしろ、
今回の車体から車体へのアルミリサイクルのプロジェクトとの関連という視点
では、LCA 分析で比較すべきは、一般的にはカスケードリサイクルに流れがち
なリサイクルシステムを、技術集約度を上げることで、同じ用途に戻す車体か
ら車体へのリサイクルシステムに転換した場合のトータルでの CO2 の増減と、
経済性の評価だったと思う。その点で、技術開発、ビジネスモデルとLCA分
析との整合性に問題があったように思う。
● ぜひ、海外への特許出願も視野に入れていただきたい。
● 今回、開発した材料は 6000 系材であったが、現時点でリサイクル材料として
入手できるのは、5000 系材料が主流であり、はじめに 5000 系材料で次に 6000
系の鉄緩和材開発を実施したほうが、実用化が早まると思う。
アルミの LCA については、もうすこし自動車メーカーや部品メーカーに広く広
報活動する必要性があると思う。あまり認知度が高くないように思います。
特許網を構築できるような特許出願がなされていないように思える。
<その他の意見>
z 成果の意義:評価者の能力では、成果が市場拡大・市場創造につながるかどう
かは評価できない。
成果の汎用性(Fe の許容量拡大・製造方法):ただちにこの手法が汎用性を
持つかどうかは、リサイクルの動向、内外の政策動向などに左右されると思わ
れ、判断できない。
ビジネスモデル、LCA については、評価者の能力では成果の達成度・意義につ
いて、判断できない。
1-14
z
現時点では、国内のアルミのスクラップ回収量が少ないらしいので、アルミ化
が進んでいる欧米から輸入する等のグローバルでの可能性も検討した方が良
かったと思う。
1-15
4)実用化、事業化の見通しについて
溶湯圧延法関連技術の高度化につながることは明らかであり、目標とした 0.4%
Fe の開発材にて、自動車パネル用アルミニウム材に要求される特性をクリアした。
また、ビジネスモデルの開発では、将来の自動車部材アルミニウム化の問題点を
明確にし、開発ならびに事業展開に一定の指針を与えることに成功している。
ただし、3R との関係では、まだアルミ材自体の普及は低く、今回開発の生産技
術は時間当たりの生産性に問題があり、コストダウン、導入普及、事業化までの
期間、事業化とそれに伴う経済効果等の見通しが明確でないように思われる。今
後、実際に車体から回収したアルミスクラップを使った再生材製造の検証や、自
動車メーカーと協力してそのアルミ再生を使った車体を試作し評価してもらうな
ど、より実践的な検証が必要であろう。また、生産性のより高い工法を採用すれ
ばさらにコストメリットは拡大し、実用化の可能性は非常に高くなるのではない
かと思う。
<肯定的意見>
○ ビジネスモデルも含めアルミニウム材料が置かれている状況を明らかにした点
は評価できる。特にビジネスモデルの開発では、どのような点が将来の自動車
部材アルミニウム化の問題点を明確にし、開発ならびに事業展開に一定の指針
を与えることに成功している。
○ TRC 法によってボディパネルを意識した高付加価値の展延材が実用レベルで
でき、加工性を含む性能評価も競争材料にひけをとらないことが示せた意義は
大きく、当該プロセス以外の分野でもその TRC 法の利用が急速に進む可能性が
ある。
○ 技術的波及効果(Fe の許容量拡大):溶湯圧延法関連技術の高度化につながる
ことは明らかであり、十分に評価できる。
研究開発や人材育成などの促進効果:大いに生じていると評価される。
成果の実用化可能性(Fe の許容量拡大):適用可能性の明確化がなされている
点では評価できる。
○ 車体から車体へのアルミのリサイクルが社会システムとして受け入れられるに
は、アルミ再生材の価格が自動車メーカーにとっては新地金より安く、自動車
解体事業者にとっては、既存のカスケードリサイクル向けの販売より、高く売
れることが必須条件になる。それを実現するには、アルミニウム多用車率が一
定以上に上がり、リサイクルの量産効果が出てくることが前提になる。今回の
ビジネスモデルの試算では、2025 年にアルミニウム多用車率が 2004 年比 1.1
倍程度でも 2015 年にはこうしたコストがクリアできるとの結果になった。現
在の自動車メーカー間の低燃費競争を見ると、この程度の想定は、非現実的と
1-16
は言えず、計画通りの製造コストを達成できれば、近い将来、実現可能と思わ
れる。
○ 目標とした 0.4%Fe の開発材にて、自動車パネル用アルミニウム材に要求され
る特性をクリア出来た成果は非常に大きいものであると評価したい。ぜひ、海
外への特許出願も視野に入れていただきたい。
○ 実用化に向けての課題が明確になった点は良かった。
<問題点・改善すべき点>
● 今回開発の生産技術は時間当たりの生産性に問題があり、まだ自動車部材の製
造技術として商用化するにはもう一段の努力が必要である。少なくとも数倍、
できれば一桁の時間当たりの生産性向上が望まれる。
● 3R との関係では、まだアルミ材自体の普及は低く、その普及の増大を他力期待
で待つかたちでは物質バランス、ロジスティックコスト、生産性の面で実プロ
セスへの適用はおぼつかないのではないかと懸念される。この技術的背景をも
ってアルミ材自体を水平リサイクル素材として現時点からの経済的・環境的メ
リットを打ち出すビジネスモデルに踏み込む必要があった。
● 事業化までのシナリオ:コストダウン、導入普及、事業化までの期間、事業化
とそれに伴う経済効果等の見通しが明確でないように思われる。
● アルミ業界は、アルミ缶からアルミ缶へのリサイクルという成功体験があるだ
けに、車体から車体へのアルミのリサイクルも現実性が高いと見ている。ただ、
アルミ缶からアルミ缶のリサイクルは、ほかの金属が混ざりにくいことや、素
材のノウハウの豊富な非鉄金属メーカー自体が再生材からアルミ缶を製造して
いることなど、高品位リサイクルに有利な条件がそろっているとも言える。車
体から車体へのリサイクルの場合、他の金属が混ざりやすい点や、利用者が自
動車メーカーという品質に最も敏感な産業であることなど、缶に比べるとハー
ドルが高いように思う。今後、実際に車体から回収したアルミスクラップを使
った再生材製造の検証や、自動車メーカーと協力してそのアルミ再生を使った
車体を試作し評価してもらうなど、より実践的な検証が必要だろう。逆に言う
と、今回のプロジェクトはそうした実際のリサイクル現場を想定した技術検証
に課題があった。
● 自動車の軽量化手法のひとつとして軽量材料への材料置換は非常に有効である
が、今後の技術革新によって、その他の手法が主流となる場合も考えられる。
1-17
その時、今回の投資が無駄にならない様、更にコスト競争力を付ける検討を進
めていただきたい。
● 実用化に当たっては、生産性の低い本工法ではなくて、生産性の高いベルトキ
ャスター等の方法で開発することにより、実用化の可能性は非常に高くなるの
ではないかと思う。
材料価格についてあるレベルのコストメリットがあると言っているが上記に指
摘したように、生産性のより高い工法を採用すればさらにコストメリットは拡
大し、それが実用化の推進の原動力になったと思う。
<その他の意見>
z 「3R 下のものつくり」という素材プロセスにとっては困難な条件で TRC の可
能性を引き出そうとした課題であり、その現実的な実用化は 3R プロセス以外
の分野から始まりそれがビジネスモデルの説得性と合わせて 3R のプロセスと
して還流されるであろう事はあらかじめ予測できる。むしろ、3R に還流する
以前の移行段階としてどのような分野での実用化の可能性があるのかを意識
した取り組みとしておくべきであった。
z 経済的・社会的波及効果:事業化の成否にかかっており、ここで評価すること
はできない。
成果の実用化可能性:実用化に向けて課題が明確になっているように見えない。
成果のアピールが強く、すぐ実用化可能のように読み取れるが、上記のシナリ
オが明示されていないので、評価できない。
ビジネスモデル、LCA については、評価者の能力では実用化・事業化について、
判断できない。
z
本来この技術は、実用化してはじめて意味をもつので、実用化に向けて、さら
に開発を継続してほしい。
リサイクル材の入手が困難なため、実用化は難しいとのコメントが出たが、実
際、本研究開発の実施者以外で、実用化されている(Fe 含有量 0.5%の 5000 系
材料)ので、やる気になれば、実用化が可能だと思う。
1-18
2.個別テーマに関する評価結果
2.1 アルミニウム再生材中の鉄の許容量拡大
研究開発成果について、実用化の見通しについて、今後に対する提言
目標がほぼ完全に達成されている。鉄不純物の多いリサイクル原料に対応する
TRC 技術として凝固過程の制御に伴うプロセス課題を解決し、かつ、機械的性質
のみならず加工性、腐食性などのライフサイクル全般を意識した所定の性能を達成
できたことは、循環型社会での生産技術としての TRC の可能性を実証し実用段階
を近づけたものとして大きく評価できる。
しかし、市場実績から目標値をさらに高いものに修正して、開発すべきだったと
思う。実用化するためにさらなる高生産性に向けた技術開発を実施すべきだった。
また、研究成果としては材料評価に偏りすぎており、プロセスとしての普遍性、適
用性がどこまであるのかがよく見えてこない。プロセス因子をより多角的に検討し
実用化を加速していくべきである。
1990 年代に使用されている材料はほとんどが 5000 系であるので、実用化する
のであれば、5000 系材の材料開発を先にすべきだったと思う。今後は、広幅化は
必須であり、早期に試験してほしい。
なお、TRC 法による鉄化合物の微細化技術はアルミニウム展伸材製造の一つと
してこれから発展する可能性があるので、生産性を高める研究を行いながら自動車
以外の製品にも使用することを検討して欲しい。
研究開発成果について、実用化の見通しについて
<肯定的意見>
○ 鉄の不純物としての影響を最小化するために急冷溶湯圧延である TRC 法を採
用し、一定レベルの圧延材を製造するプロセス開発に成功したのは評価できる
○ 鉄不純物の多いリサイクル原料に対応する TRC 技術として凝固過程の制御に
伴うプロセス課題を解決し、かつ、機械的性質のみならず加工性、腐食性など
のライフサイクル全般を意識した所定の性能を達成できたことは、循環型社会
での生産技術としての TRC の可能性を実証し実用段階を近づけたものとして
大きく評価できる。
○ 目標がほぼ完全に達成されている。
○ 鉄の許容量 0.4%まで拡大し、低品質しか作れない TRC 法で、DC 材と比較し
て遜色ないレベルまで板を開発した点は評価できる。
<問題点・改善すべき点>
1-19
● 前述したように生産性の向上とさらに大型化装置の開発
● 得られた素材の性能面では比較材と比してとりわけ優れた性能は得られておら
ず、むしろ、設備のフレキシビリティや操業の安価性さらにはここで対象とさ
れたような原料に対する尤度(ロバストさ)が TRC の優位性であろうが、研究成
果としては材料評価に偏りすぎており、プロセスとしての普遍性、適用性がど
こまであるのかがよく見えてこない。助成対象の事業者の中の経験的蓄積だけ
でなく、プロセス因子と組織の関係などをある程度公表し学界などでの議論を
リードすることでさらに問題点や課題を鮮明化できたはずであり、その点でも
論文の発表数などが新たな技術を定着させようとするには迫力に欠けている。
また機械的性質の面でも、圧延加工度の小ささというハンディキャップを克服
したわけであるから、それが組織学的にどのような意味を持つのかなどで学界
の議論とバックアップが得られるような積極的な成果発表による技術の普遍化
が今後望まれる。
● 結果の表現が楽観的すぎるように感じる。実用化・事業化に向けての問題点が
明示されていない。
● 市場実績から目標値をさらに高いものに修正して、開発すべきだったと思う。
実用化するためにさらなる高生産性に向けた技術開発を実施すべきだった。
1990 年代に使用されている材料はほとんどが 5000 系であるので、実用化する
のであれば、5000 系材の材料開発を先にすべきだったと思う。
<今後に対する提言>
z TRC 法による鉄化合物の微細化技術はアルミニウム展伸材製造の一つとして
これから発展する可能性があるので、生産性を高める研究を行いながら自動車
以外の製品にも使用することを検討して欲しい。
z
TRC がリサイクル原料などにも対応した尤度のある原材料を使用でき、かつ、
競争材料、競争プロセスと同等の高品質を得ることができることが示された上
に立って、プロセス因子をより多角的に検討し実用化を加速していくべきであ
る。その際、この研究成果を学界などに還元し、TRC に特有の組織・プロセス・
特性の関係の議論を並行しておこし、急冷以外の微細化の手法、熱処理技術な
どここで覆えなかった分野からの協力も得ることのできる取り組みとして、日
本独自の尤度が大きく小回りの利く 21 世紀型の高品質素材生産プロセスとし
て世界に発信できる努力を行っていただきたいものである。
1-20
z
広幅化は必須であり、早期に試験してほしい。
z
実用化に向けての課題(Fe 許容量向上、生産性向上)が明らかになったので、
さらに開発をすべきである。本開発は実用化して初めて開発した意味をもつ。
1-21
2.2 アルミリサイクルのビジネスモデルの構築
研究開発成果について、実用化の見通しについて、今後に対する提言
ビジネスモデルの構築に関しては、不確実性が高く、かつカギを握る要素である
リサイクル多用車率で 4 ケースに分けて複数の可能性を示したこと、また関東圏に
おける再生溶解業の実際の処理能力を想定するなど、マクロとミクロを見据えた現
実的な分析がなされていた。
LCA においては、アルミニウムの使用段階での軽量化の効果、地金製造の負荷、
マテリアルリサイクルによる軽減効果がそれぞれとらえられ、総合的にみても優れ
たシステムとなりうることが示されたことは意義がある。また、これらを時間の関
数としてとらえ均衡突破点がどの時点にあるかという設定を行ったことはモデル
手法として優れている。加えて、アルミを使う上でのメリットが算出できるシステ
ムやデータ-ベースが充実したことは評価できる。
しかしながら、実際にアルミニウムを適用する例としては、圧倒的にフード、ト
ランクが多い。今後もこの傾向は続いていくものと思われ、ドア、フェンダーを回
収量に組み込むのは少々危険と感じる。また、リサイクルビジネスモデルでは、鉄
を含めた不純物のマテリアルフロー解析がなされておらず、将来蓄積した場合の対
応が見えない。
ビジネスモデル、LCA 両者とも現状の価格体系やインベントリーを用いており、
時間の関数としてとらえるならば、一次近似としての現行モデルで均衡点がほぼ十
年後と出た段階でこれらのパラメータの変動シナリオも検討すべきではなかった
か。また、ビジネスモデルにおいては、均衡が取れる以前には経済的動機付けが乏
しく技術適用のないまま陳腐化するというシナリオをいかにして避けるかという
ところまで踏み込んで欲しかった。
実際にアルミが自動車にどれくらい使われるかは、競合する軽量素材(高張力鋼
板、マグネシウム、複合材)の技術進歩にもかかっている。ビジネスモデルや LCA
分析では、こうした競合材との比較をすることも必要であろう。
研究開発成果について、実用化の見通しについて
<肯定的意見>
○ アルミニウムの自動車部材としての使用シナリオをリサイクルと合わせて見通
せるモデルとなっており、かつ LCA 的にも将来の CO2 削減に寄与することが
示され、成果を挙げている。
○ ビジネスモデルにおいては、ネックとなるスクラップの回収、解体、流通部分
に焦点をあて、既存のポテンシャルを利用しても経済的な成立性のあることを
示しえたことは意義がある。LCA においては、アルミニウムの使用段階での軽
量化の効果、地金製造の負荷、マテリアルリサイクルによる軽減効果がそれぞ
れとらえられ、総合的にみても優れたシステムとなりうることが示されたこと
1-22
は意義がある。また、これらを時間の関数としてとらえ均衡突破点がどの時点
にあるかという設定を行ったことはモデル手法として優れている。
○ 十分な成果を挙げていると評価できる。
○ ビジネスモデルの構築に関しては、不確実性が高く、かつカギを握る要素であ
るリサイクル多用車率で 4 ケースに分けて複数の可能性を示したこと、また関
東圏における再生溶解業の実際の処理能力を想定するなど、マクロとミクロを
見据えた現実的な分析がなされていた。
○ 自動車の解体、スクラップ回収に関しての実態調査や将来予測が充実しており、
目標とした成果に対して、評価できると考える。
○ アルミを使う上でのメリットが算出できるシステムやデータ-ベースが充実し
たことは評価できる。
リサイクル手法を明確にした点も価値のある成果だと思う。
<問題点・改善すべき点>
● 今回は不純物として鉄に注目して技術開発されたが、リサイクルビジネスモデ
ルでは、鉄を含めた不純物のマテリアルフロー解析がなされておらず、将来蓄
積した場合の対応が見えない。
● ビジネスモデル、LCA 両者とも現状の価格体系やインベントリーを用いており、
時間の関数としてとらえるならば、一次近似としての現行モデルで均衡点がほ
ぼ十年後と出た段階でこれらのパラメータの変動シナリオも検討すべきではな
かったか。また、ビジネスモデルにおいては、均衡が取れる以前には経済的動
機付けが乏しく技術適用のないまま陳腐化するというシナリオをいかにして避
けるかというところまで踏み込んで欲しかった。LCA においても、鋳造材料の
スクラップなどとの国内のマテリアルフローバランスを考えてもボディ to ボ
ディが優れているなどの社会性のある評価に踏み込めばより説得力が増したも
のと思える。
● LCA 分析に関しては、すでに3)でコメント済みだが、このプロジェクトに伴
って実施するならば、カスケードリサイクルとの比較に重きを置くべきであっ
た。質問の回答では、「溶かす」点で鋳物ダイキャストとほとんど同じなので、
CO2 排出量はほとんど同じとのことであったが、そうした点を定量評価したう
えで、カスケードリサイクルに比べ、費用当たりで付加価値を高める効果が大
きいことをアピールすることもできたように思う。
1-23
● 回収可能量を推定する際の前提条件に少々無理がある。今回、ドアやフェンダ
ーを代表値として取り上げられているが、実際にアルミニウムを適用する例と
しては、圧倒的にフード、トランクが多い。今後もこの傾向は続いていくもの
と思われ、ドア、フェンダーを回収量に組み込むのは少々危険と感じる。
● 自動車メーカーや部品メーカーに対して、本結果の認知度が高くないと思われ
る。
<今後に対する提言>
z アルミニウムの循環使用について自動車以外の製品も含めたビジネスモデル
に発展できるようにデータの整備を期待したい。
z
ビジネスモデルについては、二つの課題がある。ひとつは、アルミ化率が増え
均衡点に達する以前に成立しうるニッチのビジネスモデルを提示することで
あり、いまひとつは、将来の循環型社会において「TRC ベースの水平リサイク
ルが極めて経済的に優れている」ことを示しうるモデルの提示である。特に、
使用済み資源が中国に流出しようとしているときにアルミニウムなどの基礎
素材業関係がこれらを提示し得るか否かは日本の資源戦略にもかかわってく
る。
素材の LCA においても、単一製品の LCA の適用から国や世界のマテリアルフ
ローを意識した社会 LCA として提示できるようにしていくべきであり、今回
のプロセスに対する場合も、使用済みアルミニウムをアルミニウム業の手で自
動車ボディ素材に戻すことが他のリサイクル選択より社会全体として LCA 的
効果が大きいことを示せるようにモデルを高度化する必要がある。今回の事業
は、そのための基礎的な情報を整理し基盤を作ったものとして、今後のこの分
野での展開を期待する。
z
実際にアルミが自動車にどれくらい使われるかは、競合する軽量素材(高張力
鋼板、マグネシウム、複合材)の技術進歩にもかかっている。ビジネスモデル
や LCA 分析では、こうした競合材との比較をすることも必要だろう。リサイ
クルも含めた LCA 分析をすれば、リサイクル性の良いアルミのメリットが強
調され、自動車メーカーに対するアピールにもなる。
z
今回は、Body to Body を考えたクローズドリサイクルのビジネスモデルを検討
されましたが、今後、廃自動車から発生するアルミスクラップ量は、増加傾向
にあると思われ、今回開発された技術は、発展性を持っているものと考える。
自動車用パネル材の品質が確保されたことからも、その他方面への適用を視野
1-24
に入れながら市場の拡大が期待できる
z
本成果を自動車メーカーや部品メーカーの方に広く知ってもらう必要性があ
ると思う。そのためには、もう少し広報活動が必要である。さらに自動車メー
カーや部品メーカーの人が本ソフトを活用して、アルミ部品の LCA が試算で
きるようにしていただきたい。たとえば、Web 上で試算できるようにするとか。
1-25
3.評点結果
2.8
1.事業の位置付け・必要性
1.8
2.研究開発マネジメント
2.2
3.研究開発成果
1.5
4.実用化、事業化の見通し
0.0
1.0
2.0
3.0
平均値
評価項目
素点(注)
平均値
1.事業の位置付け・必要性について
2.8
A
A
A
B
A
A
2.研究開発マネジメントについて
1.8
B
C
B
B
B
B
3.研究開発成果について
2.2
B
B
B
A
B
B
4.実用化、事業化の見通しについて
1.5
C
B
C
A
C
C
(注)A=3,B=2,C=1,D=0 として事務局が数値に換算し、平均値を算出。
<判定基準>
(1)事業の位置付け・必要性について
(3)研究開発成果について
・非常に重要
・重要
・概ね妥当
・妥当性がない、又は失われた
・非常によい
・よい
・概ね妥当
・妥当とはいえない
→A
→B
→C
→D
(2)研究開発マネジメントについて
・非常によい
・よい
・概ね適切
・適切とはいえない
→A
→B
→C
→D
(4)実用化、事業化の見通しについて
→A
→B
→C
→D
・明確に実現可能なプランあり
・実現可能なプランあり
・概ね実現可能なプランあり
・見通しが不明
1-26
→A
→B
→C
→D
第2章
評価対象プロジェクト
1.事業原簿
次ページに当該事業の推進部室及び研究実施者から提出された事業原簿を示す。
2-1
「アルミニウムの不純物無害化・
マテリアルリサイクル技術開発」
(事後評価)分科会 資料 4-1
課題設定型産業技術開発費助成事業
「アルミニウムの不純物無害化・マテリアルリサイクル技術開発」
事業原簿
(公開)
担当部
独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構
環境技術開発部
―目次―
概 要
技術開発課題
3Rプログラム基本計画
用語集
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
1. NEDOの関与の必要性・制度への適合性 ...................................................................................................................... 1
1.1 NEDOが関与することの意義 ..................................................................................................................................... 1
1.2 実施の効果(費用対効果)............................................................................................................................................ 1
2. 事業の背景・目的・位置づけ ................................................................................................................................................. 1
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
1. 事業の目標................................................................................................................................................................................... 4
2. 事業の計画内容 ......................................................................................................................................................................... 5
2.1 研究開発の内容 ............................................................................................................................................................... 5
2.2
研究開発の実施体制................................................................................................................................................... 10
2.3
研究の運営管理 ............................................................................................................................................................ 10
3. 情勢変化への対応 ................................................................................................................................................................. 10
Ⅲ.研究開発成果について
1. 事業全体の成果 ....................................................................................................................................................................... 12
2. 研究開発項目毎の成果......................................................................................................................................................... 12
①アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術 ................................................................................................................ 13
②アルミリサイクルのビジネスモデルの構築
・スクラップ利用のための課題の整理とリサイクルビジネスモデルの確立 ................................................. 72
・自動車アルミ化に関するライフサイクルアセスメント(LCA) ........................................................................154
概 要
作成日
プログラム名
3Rプログラム
プロジェクト名
アルミニウムの不純物無害化・マテリアルリサ
イクル技術開発
担当推進部/担当者
環境技術開発部/主査 長 洋光
平成17年12月1日
プロジェクト番号
P02002
自動車スクラップから自動車ボディ用のアルミニウム展伸材を選別して回収し、再度、
自動車用素材(展伸材)として利用することを可能とする再資源化技術を確立するため
に、以下の研究開発を実施する。
0.事業の概要
①アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術
アルミニウム再生材中の鉄の許容量を極大化する技術を実用化するため、鉄が材料特性
に及ぼす影響についての基盤データを系統的に蓄積するとともに、急冷凝固技術により
冷却時間を短縮し形成される晶出物の量を低減し均一微細に分散させること等で、鉄の
影響を極小化する技術を開発する。
②アルミリサイクルのビジネスモデルの構築
アルミニウムスクラップの展伸材への再利用を可能とするため、その実現に向けた課題
の整理を行い、アルミニウムリサイクルのビジネスモデルを確立する。また、あわせて
ライフサイクルアセスメントを実施する。
Ⅰ.事業の位置付け・必
要性について
アルミニウムは、軽量であることから近年自動車等を中心として適用範囲が広がってい
る。経済産業省及び独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構では、将来のア
ルミニウムの適用拡大を見据え、平成 9 年度から、より高強度・高耐食性・省資源性を
有するアルミニウム系スーパーメタルの基盤研究に取り組んできた。革新的温暖化対策
技術プログラムでは、この成果を活用し、平成 14 年度から「自動車軽量化のためのアル
ミニウム合金高度加工・成形技術」の研究開発を行い、2010 年(平成 22 年)までに実
用化する予定である。
一方、現状の自動車スクラップについては、鋳物等の低位な再生地金として資源化され
ているが、アルミニウム需要の拡大に伴い鋳物等への利用も余剰になることが予測され
ている。
このため、自動車スクラップからアルミニウムと他の有益な素材とを選別し、再度、自
動車用素材(展伸材)として利用可能な再資源化技術を早期に確立することが、エネル
ギーの使用の合理化及び循環型社会の構築に資するために必要である。
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
事業の目標
自動車スクラップから回収されたアルミニウムを再度自動車用に高度利用可能な性能を
有するアルミニウム再生材とするため、再生材中の除去困難な鉄を無害化する技術(ア
ルミニウム再生材中の鉄の許容量の極大化)を実用化する。具体的には、展伸材用アル
ミニウム再生材中の鉄の許容量を現行の 0.2%から 0.4%にまで拡大する。
主な実施事項
事業の計画内容
H14fy
H15fy
H16fy
鉄の無害化技術
○
○
○
ビジネスモデルの構築
○
○
○
成果とりまとめ
会計・勘定
開発予算
(会計・勘定別に事業
費の実績額を記載)
(単位:百万円)
開発体制
情勢変化への対応
一般会計
特別会計(高度化)
総予算額
○
H14fy
H15fy
H16fy
総額
0
0
0
0
232
154
93
479
232
154
93
479
経産省担当原課
製造産業局 非鉄金属課
プロジェクトリーダー
設置せず
助成先
(補助率2/3以内)
住友軽金属工業株式会社
財団法人金属系材料研究開発センター
なし
①アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術
開発した TRC 材について、自動車用ボディパネルの要求特性を評価し、鉄含有量 0.4%
においては、すべての特性で要求レベルをクリアした(下表)。(DC 材とは従来の圧延技
術)
性
TRC (Fe%)
0.1 0.4 1.0
性
○
○
○
○
△
△
機械的性質
○
○
○
○
○
△
塗装焼付硬化性
○
○
○
○
○
×
耐
○
○
×
○
△
×
○
○
○
○
○
○
×
○
○
○
○
○
×
○
○
×
○
特
成
形
食
性
ヘム加工性
表 面 品 質
溶 接 性(FSW)
DC (Fe%)
0.15 0.4 0.8
②アルミリサイクルのビジネスモデルの構築
No. 目標
Ⅲ.研究開発成果につい
て
成果
達成度
1 スクラップ利用のため ・現状技術・工程における実勢調査
の課題調査
・フ-ド(塗料付)からのアルミ回収方法を
検討し,塗料除去に有効な「シュレッド+
キルン加熱」方法を開発。
2 LCA評価
新地金使用のアルミ化車およびリサイク
ルアルミ使用のアルミ化車のLCA評価を
実施し,CO2削減の効果の算出。
3 リサイクルビジネスモ
デルの作成
○
○
スクラップ回収量に応じたモデルの提案
○
リサイクル材価格<新地金価格を確認。
投稿論文
査読付き・・・25件
特
出願済・・・9件
許
Ⅳ.実用化、事業化の見
通しについて
(公開可能な内容のみ)
ELV からの展伸材からのアルミニウムスクラップのリサイクルは、その回収量に応じて
ビジネスモデルが異なり、回収量の増加につれて三段階で成長していくもの見込まれ
る。リサイクル回収量の予測から、事業化達成は 2015 年前後と考えられる。
Ⅴ.評価に関する事項
事後評価実施予定(H17年度中)
Ⅵ.技術開発課題に関す
る事項
作成時期
H14年3月 作成
変更履歴
H16年2月 変更
P02002
3Rプログラム
アルミニウムの不純物無害化・マテリアルリサイクル技術開発助成事業
技術開発課題
環境技術開発部
1.技術開発の目的・目標・内容
(1)技術開発の目的
アルミニウムは、軽量であることから近年自動車等を中心として適用範囲が広がっている。経
済産業省及び独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、「NEDO技術開発機
構」という。
)では、将来のアルミニウムの適用拡大を見据え、平成 9 年度から、より高強度・
高耐食性・省資源性を有するアルミニウム系スーパーメタルの基盤研究に取り組んできた。革
新的温暖化対策技術プログラムでは、この成果を活用し、平成 14 年度から「自動車軽量化のた
めのアルミニウム合金高度加工・成形技術」の研究開発を行い、2010 年(平成 22 年)までに実
用化する予定である。
一方、現状の自動車スクラップについては、鋳物等の低位な再生地金として資源化されている
が、アルミニウム需要の拡大に伴い鋳物等への利用も余剰になることが予測されている。
このため、自動車スクラップからアルミニウムと他の有益な素材とを選別し、再度、自動車用
素材(展伸材)として利用可能な再資源化技術を早期に確立することでエネルギーの使用の合
理化及び循環型社会の構築に資することを目的とする。
(2)技術開発の目標
自動車スクラップから回収されたアルミニウムを再度自動車用に高度利用可能な性能を有する
アルミニウム再生材とするため、再生材中の除去困難な鉄を無害化する技術(アルミニウム再
生材中の鉄の許容量の極大化)を実用化する。具体的には、展伸材用アルミニウム再生材中の
鉄の許容量を現行の0.2%から0.4%にまで拡大する。
(3)技術開発内容
上記目標を達成するために、以下の研究開発を実施する。
①アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術
アルミニウム再生材中の鉄の許容量を極大化する技術を実用化するため、鉄が材料特性
に及ぼす影響についての基盤データを系統的に蓄積するとともに、急冷凝固技術により冷
却時間を短縮し形成される晶出物の量を低減し均一微細に分散させること等で、鉄の影響
を極小化する技術を開発する。
②アルミリサイクルのビジネスモデルの構築
アルミニウムスクラップの展伸材への再利用を可能とするため、その実現に向けた課題
の整理を行い、アルミニウムリサイクルのビジネスモデルを確立する。また、あわせてラ
イフサイクルアセスメントを実施する。
2.技術開発の実施体制
本技術開発は、NEDO技術開発機構が、本邦の企業、研究組合、公益法人等の研究機関(原
則、国内に研究開発拠点を有していること。ただし、国外企業の特別の研究開発能力、研究施設
等の活用あるいは国際標準獲得の観点から国外企業との連携が必要な部分はこの限りではな
い。
)から、公募により技術開発実施者を選定する。
3.技術開発の実施期間
本技術開発の実施期間は、平成 14 年度(2002 年度)から平成 16 年度(2004 年度)までの 3 年
間とする。
4.評価に関する事項
NEDO技術開発機構は技術的及び政策的観点から見た技術開発の意義、目標達成度、成果の
技術的意義並びに将来の産業への波及効果等の観点から、外部有識者による技術開発の事後評価を
平成 17 年度に実施する。
5.その他の重要事項
(1)技術開発課題の変更
NEDO技術開発機構は、技術開発内容の妥当性を確保するため、社会・経済的状況、内外
の研究開発動向、政策動向等を総合的に勘案し、達成目標、実施期間、開発体制等技術開発課
題の見直しを弾力的に行う。
(2)根拠法
本プロジェクトは、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構第15条第1項第3
号に基づき実施する。
6.研究開発課題の改訂履歴
(1) 平成 14 年 3 月、設定。
(2) 平成 15 年 3 月、技術開発目標の数値の記述に伴い、改訂。
(3) 平成 16 年 2 月、NEDOの独立行政法人化、組織変更及び様式変更に伴い、当該記載部分の
改訂。
(別紙)研究開発計画
研究開発項目「アルミニウムの不純物無害化・マテリアルリサイクル技術開発助成事業」
1.研究開発の必要性
COP3以降、自動車軽量化によるCO2削減効果に対する関心がとみに高まりを見せており、
自動車ボディへのアルミニウム展伸材の使用量は確実に増加する傾向にある。具体的には、「ふ
た物」と呼ばれる自動車部品(ボンネット、トランクリッド、フロントフェンダー、ドアな
ど)を中心に従来の鉄と置き換える形で自動車ボディのアルミ化は確実に進行している。した
がって、今後数年以内に確実に廃自動車からの展伸材スクラップ(鋳物等と比較して高品位の
アルミニウム)が増加していくことが見込まれる。しかしながら、アルミニウムの場合は、展
伸材のような高品位のスクラップ材ではあっても、技術上の問題から鋳物等の低位な再生地金
として再資源化されているのが現状である。このため、本技術開発で実施しているような、展
伸材スクラップを再び自動車ボディ用展伸材に戻す技術を開発しておかなければ、将来的には
アルミニウムのスクラップ市場が余剰となり、結果的に最終処分せざるを得なくなるアルミニ
ウムスクラップの量が増加することが予想される。
2.研究開発の具体的内容
自動車スクラップから自動車ボディ用のアルミニウム展伸材を選別して回収し、再度、自動車
用素材(展伸材)として利用することを可能とする再資源化技術を確立するために、以下の研
究開発を実施する。
①アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術
アルミニウム再生材中の除去困難な鉄の許容量を極大化することを目的として、溶湯圧
延方式によるアルミニウム板材の鋳造技術を開発する。
②アルミリサイクルのビジネスモデルの構築
廃自動車スクラップから自動車ボディ展伸材として再生利用が可能なアルミニウムを効
率的かつ経済的に分離、回収及び再生することを可能とするために、アルミニウムリサイ
クルのビジネスモデルを構築する。
3.達成目標
自動車スクラップから回収されたアルミニウムを再度自動車用に高度利用可能な性能を有する
アルミニウム再生材とするため、再生材中の除去困難な鉄を無害化する技術(アルミニウム再
生材中の鉄の許容量の極大化)を実用化する。具体的には、展伸材用アルミニウム再生材中の
鉄の許容量を現行の0.2%から0.4%にまで拡大する。
用 語 集
用
語
解
説
不純物無害化技術
不純物の存在によって生成される粗大な金属間化合物を微細にし、かつ材料中
(影響極小化)
に均一に分散させることで、不純物が製品の成形性等に与える影響を極小化す
るための技術で、例えば、急冷凝固技術、加工熱処理技術などがある。
不純物混入の許容範囲
材料特性を満足するために許容される不純物元素含有率の範囲。現行の自動
車用アルミニウムの鉄の許容範囲は 0.2%以下。
急冷凝固技術
結晶の微細化および成分元素の過飽和固溶を目的として、溶融金属を急速に冷
却凝固させる技術。粉末合金の製造,急冷薄帯の製造に用いられる。今回の開
発では、不純物によって生成される金属間化合物を微細かつ均一に材料中に分
散させるために連続鋳造圧延技術を採用する。
晶出物
溶融金属が凝固する際に生成出現する物質。例えば、アルミニウム合金の場合
に、凝固の最初に出現する金属は液体金属よりも合金成分の含有率が少ない純
アルミに近い合金の結晶である。一方、不純物成分は凝固が進行するにした
がって濃化するので、凝固の最終段階には金属間化合物が出現する場合があ
る。6000 系アルミニウム合金の場合には、凝固の最終段階で Al6Fe、Al3Fe、
Mg2Si、βAlFeSi 等が出現する。
均一微細分散
アルミニウム合金中に不純物として混入する鉄は、粗大な金属間化合物を生成
する。この粗大な金属間化合物はき裂の伝播経路を容易に形成するため、材料
の延性を低下させる。この影響を抑制するため、金属間化合物の大きさをを微細
にし、かつ材料中に均一に分散させる技術を開発する。
展伸材
板材、押出形材、管・棒材、鍛造材等など鋳塊を塑性加工および熱処理すること
によって得られる材料の総称。溶融金属から直接所定の形状に凝固させる鋳
物・ダイキャスト材と対比される。
二次地金
アルミニウムスクラップから再生工程によって得られた地金。
真空ダイカスト
鋳型内の真空度を上げることによって、鋳込み中のガスの巻き込みおよび介在
物の巻き込みを抑えたダイカスト法。ダイカストの特徴として高速高圧の射出に
より薄肉化を図ることができ、寸法精度も良い。
析出物
合金の母相から過飽和となって出現した合金相と異なる化合物。例えば、6000
系アルミニウム合金の場合に、Mg2Si 相は材料の強度を増加させるのに有効に
作用するが、βAlFeSi 等の鉄系化合物は成形性等の低下の原因となることが多
い。
金属間化合物
異なる金属元素が一定の比率で結合した化合物。例えば、6000 系アルミニウム
合金の場合のβAlFeSi 等で、粗大な場合は製品の成形性低下の原因となる。
高品質薄肉鋳物
真空ダイカスト法によって得られる熱処理や溶接の可能なダイカスト製品。
DC(Direct Chill)鋳造法
現行のアルミニウム展伸材用合金の鋳造に用いられている半連続水冷鋳造法。
金型の底部にスリットが設けられており、ここから出た冷却水が金型から離れた
鋳塊を直接冷却するしくみになっている。
Ⅰ.事業の位置付け・必要性について
1. NEDO の関与の必要性・制度への適合性
1.1 NEDO が関与することの意義
本事業は、今後使用量が飛躍的に増えると予想されている自動車ボディ用アルミニウム展伸材
(板材)の body to body(廃車の展伸材から新車の展伸材を製造する)リサイクルを実現するための
技術開発およびビジネスモデル構築に関するものである。
自動車用アルミ材のリサイクルシステムの構築は一企業で実現できるものではなく、アルミ材を供
給する多くの企業や自動車メーカーとの情報交換とコンセンサスが必須であるため、高度のマネジメ
ントが必要である。また、自動車リサイクル法や3R関連施策群との効果的な連携をはかるためには、
国の積極的な関与が望まれる。
一方で、アルミニウムスクラップリサイクルのビジネスモデル及び鉄の許容量拡大に関する研究は、
世界的に見ても実用化している事例は存在しないため、公的資金によって本事業を推進することによ
り自動車用アルミニウムのリサイクルモデルを世界に先駆けて発信することも可能となる。
1.2 実施の効果(費用対効果)
自動車のアルミスクラップが展伸材と鋳物材とに選別・分離されてリサイクルされる結果、展伸材
メーカーでのスクラップ使用率は大幅に向上し、余剰スクラップの解消に大きく寄与する。また、既
存の解体工程を利用して大型アルミ部品の解体からリユースへのルートが開けることから、処理コス
トの増加なしにすなわちシュレッダーダストのリデュースが可能となる。
年間の廃車台数を5百万台(今後一定)、廃車される自動車の寿命を10年と仮定すれば、2010
年の廃車には1台あたり28.7kgの展伸材の使用が見込まれており、その80%が展伸材あるい
はそのための2次地金として回収可能と仮定し、その50%が本プロジェクトで提案したリサイクル
システムに乗るものとすれば、年間約57千トンが展伸材に戻ることとなる。2025 年の廃車には1
台当り85.3kgの展伸材の使用が見込まれており、設計技術の進歩で90%が展伸材あるいは展
伸材用2次地金へのリサイクルが可能となり、75%が本プロジェクトで提案したリサイクルシステ
ムを適用することができるとすれば、年間約288千トンのアルミニウムスクラップを展伸材にリサ
イクルすることが可能と見込まれる。
また、本研究開発の成果の実用化の波及効果として、自動車のアルミ化が促進され、ひいては、温
暖化ガス削減に大きく寄与する。ちなみに自動車のアルミ化による軽量化によるCO2 削減効果は、
当該リサイクルシステムが定常状態になったときには、約11百万トン-CO2/年と見込まれる。
2. 事業の背景・目的・位置づけ
(1)背景
バブル経済期に自動車の軽量化がブームとなり、アルミニウム板材が自動車のボディに採用された。
日本では、8年から10年の使用期間で自動車が使用済みとなることから、現在廃車されている自動
車の多くが当時生産されたものである。この時,アルミニウム展伸材のリサイクルのシステムあるい
は技術が確立されていないため、解体されたアルミニウム部品のほとんど全てが鋳物として再生、す
1
なわち、カスケードリサイクルされているのが実態である。一方、地球温暖化防止ための二酸化炭素
排出規制によって、自動車ボディへのアルミニウムの使用が今日再び注目されており、その使用量は
着実に伸びている。特に、自動車ボディ用のアルミニウム展伸材(板材)は、今後飛躍的に増えると予
想されている。このまま使用量が増えていくと、鋳物としての需要だけではスクラップを吸収できな
くなり、使用済み自動車(ELV)から出されるアルミニウム展伸材のリサイクルとしての用途はなく
なってしまう。また、自動車ボディ用の板材に新地金を使い続ければ、新地金の精錬に費やされるエ
ネルギー(電力・熱等)のため、二酸化炭素の排出量を抑制することはできない。
リサイクルの基本は元の原料に再生することであり、異なる製品への再生を前提としていると、ス
クラップ過剰でリサイクルシステムが破綻をきたす結果に陥りやすい。body to bodyのリサイクルを
確立するための研究開発は近い将来必ず必要になる技術であり、事業としても有効なものと考えられ
る。
(2)目的
循環型社会の構築に資するため、自動車素材として増大傾向にあるアルミニウムの高度再資源化技
術を開発するとともに、低コスト化を実現することによって自動車の軽量化・省エネルギー化を促進
する。さらに、自動車リサイクル法案等の法規制に対応する自動車用素材の再利用技術を開発する。
具体的には、①アルミニウム再生材中の鉄の許容量拡大、②アルミニウムリサイクルのビジネスモ
デルの構築、③自動車アルミ化に関するライフサイクルアセスメント(LCA)についての一体的研究
開発を行うことにより、自動車のアルミニウムスクラップを自動車用素材(展伸材)として利用可能
な再資源化技術を確立する。
(3)位置づけ・新規性
鉄の許容量拡大技術については、急冷凝固および、あるいは加工熱処理によって、再生材中の鉄を
均一分散化する方法により実用化技術の開発を行うもので、基礎研究として、鋳造時の冷却速度が機
械的特性に及ぼす影響について検討された例はあるが、実験室レベルの研究にとどまっており、自動
車材料として必要な成形性等の二次特性を含めた実用化技術の検討については、国内外ともになされ
ていないのが現状である。急冷凝固による方法については、NEDO委託事業(平成9年度~13年
度)スーパーメタルプロジェクトにて溶湯圧延法を検討し、Al-Mg-Mn系合金で微細結晶粒を
有する板材を試作したが、溶湯圧延法によれば冷却速度が 100℃/S 以上と速くなり、鉄等の不純物を
十分固溶させることが可能であることを見出しており、その知見・ノウハウを活用できる。
シュレッダーチップからのアルミニウム展伸材と鋳物・ダイカスト材との分離技術開発の重要性は
世界各国で認識され、AA(アメリカアルミニウム協会)やアーヘン工科大学やデルフト工科大学など
で分離技術の研究がなされているものの、いまだに研究段階であり、実用化技術は確立されていない。
本事業は、自動車の解体工程やシュレッダー工程でのアルミニウム展伸材の分離に着目し、それを
可能とするための実態調査、情報収集を行い、かつ関連業界とその情報を共有化することで、コスト
的にも実用可能なシステム構築を図ることに新規性がある。しかし、解体選別などによりスクラップ
中の鉄等の不純物量を極力低減できたとしても、自動車用アルミニウム材には、ヒンジ、ロック等の
鉄製締結部品が使用されており、これらを全て除去することはコスト的に困難と考えられる。そこで、
アルミニウム再生材中の鉄の許容量を拡大することによって、コストアップを抑えつつ展伸材を再び
展伸材にリサイクルしようとするところに新規性がある。
また、アルミニウムスクラップリサイクルのビジネスモデル及び鉄の許容量拡大に関する特許は、
国内外ともに本事業開始時点において存在していないため、本事業は国際市場のグリーン化をリード
2
することができる。
(4)制度への適合性
本事業は、3Rプログラムの目標である産業廃棄物の再利用率の向上に大きく寄与する技術開発で
ある。同時に、将来の余剰アルミスクラップの発生を抑止できるため、最終処分量の低減にも寄与す
るものである。
また、関連施策の観点から言っても、産業技術戦略(2000年4月工業技術院)における社会的
ニーズ(環境と調和した経済社会システムの構築)への対応、知的な基盤の整備への対応を図るもの
である。さらに、「産業発掘戦略-技術革新」(「経済財政運営と構造改革に関する基本方針200
2」(2002年6月閣議決定)に基づき2002年12月取りまとめ)の環境・エネルギー分野に
おける戦略目標(「環境・エネルギー技術へのチャレンジを産業競争力の源泉に」(技術のグリーン
化)、「メイド・イン・ジャパン」の環境ブランド化(産業のグリーン化)及び「日本市場を世界の
エコ市場の登竜門に」(市場のグリーン化))に対応するものである。
3R:廃棄物の発生抑制(Reduce)、製品・部品の再使用(Reuse)、原材料としての再利用(Recycle)
3
Ⅱ.研究開発マネジメントについて
1. 事業の目標
自動車スクラップから回収されたアルミニウムを再度自動車用に高度利用可能な性能を有するアル
ミニウム再生材とするため、再生材中の除去困難な鉄を無害化する技術(アルミニウム再生材中の鉄
の許容量の極大化)を実用化する。具体的には、展伸材用アルミニウム再生材中の鉄の許容量を現行
の 0.2%から 0.4%にまで拡大する。
2. 事業の計画内容
2.1 研究開発の内容
(1)アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術
アルミニウム再生材中の鉄の許容量を極大化する技術を実用化するため、鉄が材料特性に及ぼ
す影響についての基盤データを系統的に蓄積するとともに、急冷凝固技術により冷却時間を短縮
し形成される晶出物の量を低減し均一微細に分散させること等で、鉄の影響を極小化する技術を
開発する。
(2)アルミリサイクルのビジネスモデルの構築
アルミニウムスクラップの展伸材への再利用を可能とするため、その実現に向けた課題の整理
を行い、アルミニウムリサイクルのビジネスモデルを確立する。また、あわせてライフサイクル
アセスメントを実施する。
上記の研究開発項目について、以下の内容にて研究開発を実施する。
(1)アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術
近年、地球環境問題の観点から自動車の軽量化要求が強くなり、自動車へのアルミニウム使用が
増加してきている。一方、廃車時には自動車に使用されたアルミニウムはほとんどが不純物の許
容レベルが大きい鋳物用あるいはダイカスト用合金として再生、いわゆるカスケードリサイクル
されている。そのため、不純物の許容レベルの厳しい展伸材は、新地金及び品位の高い圧延メー
カーの内部発生スクラップを主原料として製造されている。しかしながら、低品位なアルミニウ
ムの需要とのバランスを考慮すれば、今後、アルミニウムスクラップ発生量の増加に伴い、鋳物
等への利用も余剰となることが予想されている。したがって、自動車に使用された展伸材用アル
ミニウム合金を再度展伸材に使用するためには、不純物の除去が不可避であるが、技術的および
コスト的にも完全に除去することは困難と考えられる。
本研究開発は、自動車ボディパネルを再度自動車ボディパネル用合金にリサイクルすることを
目的とし、ヒンジ、ねじ座等からの混入が予想される鉄の許容量を拡大するための実用化技術を
開発しようとするものである。アルミニウム合金では不純物である鉄量が増加すると加工性が低
下することが知られている。この原因は、不純物によって形成される巨大な金属間化合物が亀裂
の起点となるためであると考えられている。
ただし、現在まで、不純物がアルミニウム合金の機械的性質等の基礎特性に及ぼす影響につい
4
ては調査されているが、自動車用材料等の実用化時に要求される成形性等の二次特性に及ぼす影
響に関する研究は行われていない。また、許容量そのものを増加させようという実用化研究は世
界的にも見当たらない。アルミニウム合金中に不純物である鉄が増加すると、一般的には巨大な
アルミ-鉄系の金属間化合物が生成し、成形性等の特性を低下させる。この巨大な金属間化合物
の生成を防止することができれば、特性低下を防ぐことが可能であると考えられる。そのために
は、晶出物あるいは析出物として合金中に存在する金属間化合物を微細化すればよいことになる。
晶出物の微細化には、急冷凝固法が有効であることが知られている。また、析出物を制御するた
めの方法としてはいわゆる加工熱処理が有効であることもよく知られている。従って、これらの
方法を採用することで、鉄を多く含む合金中の金属間化合物サイズを小さくすることが可能であ
ると判断される。
そこで、本研究開発では、自動車ボディ用アルミニウム板材の不純物である鉄の許容量を、現
行材に一般的に見られるレベルの2倍の0.4%に拡大し、不純物である鉄量が増加しても、加
工性等の自動車用ボディ材に要求される特性を低下させない製造技術を開発することを目的とす
る。
具体的アプローチとしては、
(ⅰ)溶湯圧延による急冷凝固法により、冷却速度を従来鋳造法の
数℃/S に対し、100℃/S 以上とすることで、アルミ-鉄系化合物の晶出物を従来法の数 10μmに
対し数μmまで微細化すること、(ⅱ)加工熱処理によって、固溶した鉄が析出する際に生成する
アルミ-鉄系化合物の析出物のサイズを微細化することにより、鉄系の化合物の影響を抑制する
ための実用化技術を開発する。
(ⅰ)に関しては、他の急冷凝固方法として粉末冶金法も知られているが、板材の製造方法と
しては溶湯圧延法が有利であり、一部純アルミニウム等の製造に実用化されている。しかしなが
ら、自動車用ボディ材のように添加元素を多く含む合金系に対する実用化は行われておらず、本
研究開発では、自動車用ボディ材である 6000 系合金の実用化開発のための製造条件を確立する。
開発要素技術としては、溶湯温度、溶湯供給湯面高さ、ロール圧下力、圧延速度等の適正条件把
握と精密な制御技術が課題である。溶湯圧延に関しては、NEDO委託事業(平成9年度~13
年度)スーパーメタルプロジェクトの技術開発で一部の知見を得ており、これを活用する。また、
この開発で導入した溶湯圧延機を改造して本研究開発に供する。
(ⅱ)加工熱処理に関しては、一般に板材等の組織制御方法の一つとして、既に実用化されて
いるが、結晶粒制御等が主であり、本研究開発のように不純物許容量を拡大させるために利用す
る試みは、世界的に見ても例がない。ただし、加工熱処理により析出物を制御可能であることが
知られており、このことは不純物の許容量を拡大することに利用可能と判断される。開発要素技
術としては、冷間圧延工程での材料の温度、圧延速度、加工量、熱処理工程での温度、加熱速度、
保持時間、冷却速度の適正条件把握と精密な制御技術が課題である。
具体的には以下の研究開発に取り組む。
1)現状調査
a)現行材の特性調査
6000 系(Al-Mg-Si)合金を現行 DC 工程および溶湯圧延工程により製造し,機械的性質・成形
性・耐食性等に及ぼす鉄量の影響を調査する。また,スクラップからの不純物混入量を調査
する。これらの調査により、現行 DC 工程での鉄の許容量を確認し、その一方でスクラップか
らの不純物の混入状況から目標として設定している「鉄の許容量を現行材に一般的に見られ
るレベルの2倍の 0.4%」という値が、アルミニウム再生技術としてのニーズに合致するもの
であることを確認する。
b)ボディ材の要求特性の把握
5
自動車ボディ材に要求される特性を把握する。開発しようとしている技術が自動車材に
要求される性能を満たすものであることを確認する。例えば,成形性の優れた材料を開発
しても、耐食性で要求基準を満たさない材料であれば、実際の自動車ボディ材として使用
される可能性はない。技術を開発した後,評価項目として欠けたものが見つかることのな
いよう、予め要求特性を確認する。
c)技術動向調査
特許・文献調査等を通じて現状の技術動向を調査する。この調査により現行の最新技術
の中から、この研究開発に応用可能な技術を得る。また、目標として設定している「鉄の
許容量を現行材に一般的に見られるレベルの2倍の 0.4%」という値が,アルミニウム再
生技術としてのニーズに合致し、妥当なものであることを確認する。
2)再生材中の鉄の許容量拡大技術
a)急冷凝固による許容量拡大の検討
現有の溶湯圧延機を改造し、6000 系合金溶湯圧延材を用いて圧延-熱処理工程を対象
とした材料特性に及ぼす製造条件の影響を調査し、最適な製造条件を確立する。
溶湯圧延機の改造は以下の目的のために実施する。溶湯圧延機は、添加元素の多い合金
を製造するためには大きな圧下力が必要であるが、現状では不十分である。従って、高圧
下力を得るための改造が必要である。また、添加元素の影響によって、凝固温度範囲の変
化、溶湯の性状の変化等を生じるために製造条件は狭くなって行き、制御を高度化する必
要があり、併せて必要な管理項目を制御できるように制御系も充実させる。
溶湯圧延材にはさらに圧延-熱処理工程が必要となることから、圧延条件(圧延時の材
料の温度、圧延速度、加工量など)が材料特性や組織(第二分散粒子の大きさ、分布状態や
結晶粒径など)に与える影響を把握し、急冷凝固法を用いた鉄の許容量拡大技術について
の製造条件を確立する。
b)加工熱処理による許容量拡大に関する研究
6000 系の現行工程による鋳塊を用いて,圧延-熱処理工程を対象として、加工熱処理
による鉄許容量の拡大を検討する。圧延条件(圧延時の材料の温度、圧延速度、加工量な
ど)や熱処理条件(処理温度、加熱速度、保持時間、冷却速度等)が材料特性や組織(第二
分散粒子の大きさ,分布状態や結晶粒径など)に与える影響を把握し、鉄の許容量を拡大
するための製造条件を確立する。併せて溶湯圧延材についても同様な検討を行い、最適な
製造工程を選択する。
(2)アルミニウムリサイクルのビジネスモデルの構築
① スクラップ利用のための課題の整理とリサイクルビジネスモデルの確立
現在、廃車からは、解体工程→シュレッド工程を経てアルミニウムスクラップが回収されてい
る。この時のアルミニウムリサイクルの課題は、シュレッダーチップでの選別を行っても鉄製締結
部品から不可避的に鉄が混入することであり、廃車からのアルミニウムスクラップの大半は Fe 許
容量の大きいアルミニウム鋳物・ダイカスト材にリユースされていることにある。一方、自動車軽
量化を目的として従来はアルミニウム鋳物・ダイカスト材が多用されていたが、今後は自動車への
6
アルミニウム板材や押出材などの展伸材の使用量増加が予測されている。それに伴い、今後は廃車
の解体・シュレッド時におけるアルミニウム展伸材と鋳物・ダイカスト材との混在が予測され、廃
車からのアルミニウム展伸材スクラップをもとの展伸材へとリサイクルする上で、鋳物・ダイカス
ト材との選別は重要な課題である。
これらの課題を解決してアルミニウム展伸材を展伸材にリサイクルするためには、(ⅰ)鉄製締結
部品やアルミニウム鋳物部品の混入量低減、および(ⅱ)不可避的に混入した不純物元素の許容限
拡大や、
(ⅲ)不純物元素の精製除去技術などの技術開発が必要である。
これまでに(ⅰ)の不純物混入量低減を目的として、シュレッダーチップスクラップ中の鉄製部品
やアルミニウム鋳物・ダイカスト部材と、アルミニウム展伸材とを自動選別する技術開発がなされ
ているが、アルミニウム展伸材をさらに合金選別することが可能な技術はまだ実用化されていない。
(ⅱ)の不純物元素の許容限拡大に関しては、アルミニウム合金の機械的特性に及ぼす不純物元素
の影響は調査されているが、自動車用材料として必要な成形性や耐食性などの二次特性に及ぼす影
響に関する調査は少ない。またアルミニウム板材においては急冷凝固による不純物量無害化の可能
性が見られるものの押出材においては既存DC鋳造にて対応する必要がある。(ⅲ)不純物の精製
除去技術に関しては、NEDO の研究成果にあるように実用化に近づいているものの、すべての元素を
精製除去できるものではなく、また精製工程を経るためのコスト増加は避けられず、前処理として
の解体選別との併用は不可欠といえる。
本研究開発においては、より低コストでアルミニウム展伸材のリサイクルを可能とするために、上
流工程である解体工程やシュレッド工程でのアルミニウム展伸材部品の選別に伴う不純物元素低減
を行い、①既存のDC鋳造での製造可能なレベルまで不純物量を低減可能な解体選別方法の検討、
②不純物無害化あるいは精製工程を付与することで、展伸材へのリサイクルを可能とする解体選別
方法の検討を行う。さらに関連業界におけるアルミニウム部材の情報共有化を図ることで、長期的
なリサイクルシステムを構築するものである。
具体的には以下の研究開発に取り組む。
1)現状技術・工程における実態調査
現状主要車種毎の自動車部品と材料構成、廃車および回収部品の流通、解体・シュレッダー業に
おけるアルミニウム部品の回収形態、方法や回収コストなどの実態調査を行い、定量的なデータ
ベース化を図って関連業界に情報を提供する。さらに、将来のアルミニウム多用車における解
体・シュレッド工程の課題を明確化する。
2)リサイクルシステムの将来予測
上記 1)の成果をふまえ、異種アルミニウム部品やマグネシウム部品が混在した際の解体・選別を
想定したシステムを提案する。
3)固相選別法とその性能調査
現存するアルミニウムスクラップ固相選別技術について、スチールとアルミ部品との選別能力
を評価することに加え、異種アルミニウム材料やマグネシウム材料の混在したスクラップを想定し
た性能評価を実地に行い、将来的にも適用可能な高効率・低コストな固相選別方法を選択・推奨す
る。
4)廃車シュレッダーチップからのアルミニウムスクラップ中の不純物混入量把握、および製品特性へ
の影響実態調査
現状工程での不純物元素混入量実態調査結果をもとに、現状の DC 鋳造からの製造工程における
製品特性に及ぼす不純物元素の影響について、単なる引張り特性にとどまらず、破壊靭性や成形
7
性などの実用的かつ定量的なデータを収集する。さらに、その調査結果をもとにアルミニウム多
用車における徹底的な解体・選別工程を施した際の不純物元素混入量を推定し、将来的な組織制
御による不純物許容拡大技術開発における不純物許容限に関する負荷低減の可能性を評価する。
5)アルミニウム展伸材を展伸材にリサイクルするための新しいビジネスモデルの構築
1)~4)をもとに将来的な自動車用アルミニウム部品の増加に対応できるリサイクルモデルを提
案・構築する。すなわち、自動車用アルミ素材情報センター(仮称)にて、アルミ材料情報、アル
ミ製部品情報、アルミ固相選別情報などを一元的に管理し、関連業界(自動車メーカー、自動車解
体業、シュレッダー業界など)にそれらの情報を提供する。これらの情報をもとに、大型アルミ部
品は解体→リユースされ、小型アルミ部品はシュレッダーチップからアルミニウム展伸材と鋳物材
とに選別・分離されたのちに、各々、アルミニウム展伸材再生塊とアルミニウム鋳物・ダイカスト
材再生塊とにリサイクルされて、展伸材メーカーや鋳物・ダイカストメーカーでリサイクルされる。
以上の研究開発におけるブレークスルーのポイントは、従来は各企業や研究所などで個別に実施
されていた研究を統合的に、かつ共通な手法で実証・評価することであり、また将来確実視されてい
る自動車へのアルミニウム材料使用率向上の際にも適用できるリサイクル手法を構築し、それらの定
量的な情報を関連業界で共有化することである。そのために、今回、財団法人金属系材料研究開発セ
ンターが中心となって、アルミニウム関連団体、自動車関連団体や研究所など (具体的には、日本ア
ルミニウム協会、日本アルミニウム合金協会、自動車メーカー、日本自動車研究所、廃車解体団体、
シユレッダー業団体、大学など)の協力を得て実施する。
② 自動車アルミ化に関するライフサイクルアセスメント(LCA)
現在、自動車のLCAは必ずしも確立されておらず、部分的なLCIに止まっている。しかも、
各種材料について、異なる前提条件で試算しており、今後材料横断的に客観的な評価が必要とされて
いる。
また、リサイクルについても種々の変動要因があり、それがどの様に推移するのか、予測し難い
状況にあり、主要変動要因を想定して、簡易で精度の高い評価モデルを構築し、競合材料について
種々比較検討し、各種材料の技術課題を提示することは重要なことである。
本研究開発では、自動車の軽量化を図る各種材料(鉄、プラスチック、アルミニウム)を横断的に、
主要変動要因を想定して、簡易で精度の高い評価モデルを構築する。さらに、将来の主要変動要因の
変域を想定し、今後アルミニウム産業が目指すべき技術課題、目標値、達成時期について考察する。
具体的には以下の研究開発に取り組む。
1)自動車部品の素材変更を評価するLCA評価モデルの作成
2)そのモデルを用いて、自動車材料におけるアルミニウム材料の将来のLCA的有るべき姿を考察
3)COP3 対応で評価バウンダリーを国内に限定したモデルの検討
・アルミニウムの海外の負荷と国内の負荷の弁別
・鉄鋼/プラスチックの海外の負荷と国内の負荷の弁別
・国内限定モデルの問題点の検討
4)アルミニウム・鉄鋼・プラスチックのLCIモデルの調査と作成
a)アルミボディ材のLCIデータ作成
b)鉄鋼・プラスチックの代表的LCIデータ調査
c)リサイクルの効果を公正に評価するルールの策定
以上の研究開発におけるブレークスルーのポイントは、1)産業技術総合研究所などの指導と協力
8
を得て、アルミ圧延7社の保有データをもとに、最新の LCA 評価技術で取組むこと、および 2)アル
ミニウムを自動車に使用するメリットを、簡便・公正・有効に算出できる LCA 評価モデルの構築であ
る。
2.2 研究開発の実施体制および運営管理
研究開発体制図を次ページに示す。
金属系材料研究開発センター(JRCM)はその推進体制に対して研究開発関係先と協議を重ね、
①不純物許容量の拡大技術の開発には住友軽金属工業(株)が、②リサイクルシステムの提案および
③LCA 調査については、
(株)神戸製鋼所、昭和電工(株)、スカイアルミニウム(株)
、住友軽金属工
業(株)
、日本軽金属(株)
、古河電気工業(株)
、三菱アルミニウム(株)の軽金属圧延大手 7 社と
(社)日本アルミニウム協会が取り組みたいとして、JRCMが中心になって実効的な研究開発体制
を整備した。
また、プロジェクトを効果的に推進するためには、本プロジェクトにおける成果のユーザーである
自動車関連企業との連携が不可避であるところから、そのための協力体制の構築もJRCMが中心に
進め、ユーザーからの指摘等をプロジェクトの内容に反映させてきた。
参加会社・団体は、いずれも金属材料および本プロジェクト関連技術の研究開発において豊富な経
験と優れた実績を有している。また、産官学連携による研究開発実績や、国家プロジェクトに深く関
与をして研究を牽引した実績も有する。
プロジェクトの運営管理については、研究開発体制図に示すように、有識者及び自動車メーカーか
らの委員による技術委員会の指導及び助言を仰ぎ、その下に事業全体を統括する企画部会を設置して、
進捗管理、広報、特許管理等を実施した。さらに各テーマ毎のWG(分科会)を開催してそれぞれの
進捗状況等を確認できる体制とした。
2.3 研究開発スケジュールと費用
研究開発スケジュールと費用の実績は下表の通りであった。
実施項目
H14FY
3Q
4Q
H15FY
1Q
2Q
3Q
H16FY
4Q
1Q
2Q
3Q
① アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術
・現状調査
・再生材中の鉄の許容量拡大技術開発
・モデル型による材料の評価
・接合技術の開発
・大型材料の試作および評価
・実用化プラントの検討(量産課題抽出)
開発費用(助成金額)[百万円]
186
119
60
研究員数[人]
17
17
21
開発費用(助成金額) [百万円]
45
35
33
研究員数[人]
24
19
19
② アルミリサイクルのビジネスモデルの構築
・スクラップ利用の課題抽出と解決策検討
・LCA評価
・リサイクルビジネスモデルの作成
9
4Q
年2回開催。
技術委員会
委員長:小島 陽 長岡技術科学大学長
企画部会
研究開発成果について、産
学官の関係者が技術的検
討および指導を行う。
年4~5回開催。
部会長:伊藤 清文(住友軽金属)
主任研究者:渋江 和久(住友軽金属)
住友軽金属(株)
(財)金属系材料研究開発センター
(JRCM)
鉄の無害化
ワーキンググループ
ビジネスモデル
ワーキンググループ
主査:宇都 秀之
主査:大瀧 光弘
事業全体の統括、進捗管
理、特許管理、広報を行う。
適宜開催。
各テーマの進捗
管理を行う。
LCA
ワーキンググループ
主査:大谷 眞
【技術委員会メンバー】
長岡技術科学大学、東京工業大学、横浜国立大学、都立工業高専
(独)産業技術総合研究所、(財)日本自動車研究所、(社)日本アルミニウム協会、(社)日本ア
ルミニウム合金協会、(財)金属系材料研究開発センター
(株)神戸製鋼所、昭和電工(株)、古河スカイ(株)、住友軽金属工業(株)、日本軽金属(株)、
三菱アルミニウム(株) 、自動車メーカー(トヨタ、日産、本田)
経済産業省、NEDO 技術開発機構
【研究者派遣元企業】
(社)日本アルミニウム協会、(株)神戸製鋼所、昭和電工(株)、古河スカイ(株)、住友軽金属
工業(株)、日本軽金属(株)、三菱アルミニウム(株)
研究開発体制図
10
3. 情勢変化への対応
平成 17 年 1 月 1 日より自動車リサイクル法が本格施行された。本法律で対象とする物質は、廃車
から有用物質を取り去った後に残る以下の3物質である。
① フロン類
② エアバッグ類
③ シュレッダーダスト
本事業で対象とする自動車用アルミニウム展伸材は対象外のため、自動車リサイクル法の施行が本
事業に直接与える影響は無いが、法律制定の趣旨からすると、自動車用アルミニウムの高度リサイク
ルへの期待は高まってきたと言える。
11
Ⅲ.研究開発成果について
1. 事業全体の成果
(1)アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術
現行、国内で適用されている代表的な 6000 系ボディパネル板を対象にして、その要求特性の点か
ら開発材を評価し、鉄許容量 0.4%まで適用可能なことを明確化した。
性
TRC (Fe%)
0.1 0.4 1.0
性
○
○
○
○
△
△
機械的性質
○
○
○
○
○
△
塗装焼付硬化性
○
○
○
○
○
×
耐
○
○
×
○
△
×
○
○
○
○
○
○
×
○
○
○
○
○
×
○
○
×
○
特
成
形
食
性
ヘム加工性
表 面 品 質
溶 接 性(FSW)
DC (Fe%)
0.15 0.4 0.8
(2)アルミニウムリサイクルのビジネスモデルの構築
No. 目標
成果
達成度
1 スクラップ利用のため ・現状技術・工程における実勢調査
の課題調査
・フ-ド(塗料付)からのアルミ回収方法を
検討し,塗料除去に有効な「シュレッド+
キルン加熱」方法を開発。
2 LCA評価
3 リサイクルビジネスモ
デルの作成
新地金使用のアルミ化車およびリサイク
ルアルミ使用のアルミ化車のLCA評価を
実施し,CO2削減の効果の算出。
○
○
スクラップ回収量に応じたモデルの提案
リサイクル材価格<新地金価格を確認。
○
2. 研究開発項目毎の成果
研究開発項目毎の成果を次ページから以下の章立てで記載する。
①アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・第 1 章
②アルミリサイクルのビジネスモデルの構築
・スクラップ利用のための課題の整理とリサイクルビジネスモデルの確立 ・・・・・第2章
・自動車アルミ化に関するライフサイクルアセスメント(LCA)
・・・・・・・・・第3章
12
第1章 アルミニウム再生材中の鉄の無害化技術
1-1 目的および目標
1-1-1 研究目的
自動車スクラップから回収されたアルミニウムを再度自動車用に高度利用可能な性能を有
するアルミニウム再生材とするため、再生材中の除去困難な鉄を均一分散化すること等で無
害化(鉄等が性能に及ぼす影響をなくすること)する技術(アルミニウム再生材中の鉄の許容
量の極大化)を確立する。
1-1-2 目標
本開発の目標を表1-1-1 に示す。
表 1-1-1 アルミニウム再生材中の鉄の許容量拡大の技術開発の目標
研究開発項目
中間目標
最終目標
アルミニウム
再生材中の
鉄の許容量
拡大
自動車ボディ用アルミニウム板材
の不純物である鉄について、その
許容量を拡大することが可能な製
造プロセス、すなわち、(ⅰ)溶湯
圧延による急冷凝固プロセス、
(ⅱ)加 工 熱 処 理 プロセスの詳 細
条件を把握する。
自動車ボディ用アルミニウム板材の不
純 物 である鉄 の許 容 量 を現 行 レベル
0.2%の2倍すなわち 0.4%(AA6022 合
金)に拡大する。さらに開発した技術の
実用化に向けて技術的な問題点や経
済的な問題点を明らかにし、実用化技
術を開発する。
1-1-3 開発計画
表1-1-2 開発計画
課
題
1.現状調査
(1)現行材の特性調査
①現行(DC他)材
②急冷凝固(溶湯圧延)材の調査
(2)ボディ材に要求される特性の把握
(3)技術動向調査(特許・文献等の調査)
2.再生材中の鉄の許容量拡大技術開発
(1)急冷凝固による許容量拡大検討
①溶湯圧延装置の改造
②材料特性に及ぼす製作条件の影響
(2)加工熱処理による許容量拡大検討
・材料特性に及ぼす製作条件の影響
(3)適切な開発技術の判断
3.モデル型による材料の評価
①成形性評価装置の設計・製作
②モデル型による材料の評価
4.接合技術の開発
①接合装置の設計製作
②不純物の影響の少ない接合技術開発
5.大型材料の試作および評価
・大型材料の試作および評価
6.実用化プラントの検討
・開発技術のまとめと量産への課題抽出
2002
3Q
2003
4Q
1Q
2Q
2004
3Q
4Q
1Q
2Q
3Q
4Q
現行材で改善を必要とする特性は何かを明確にする
自動車メーカーがボディ材に要求している性能を明確にする
国内外の現行技術の確認
大型材料を試作するための技術と製造条件の確認
実用化に向けての技術的な問題点や経済的な問題点の確認
-13-
1-2 現状調査
1-2-1 自動車軽量化の要請
(1)燃費あるいは排出ガスに関する法規制
自動車の燃費や排出ガスに関する法的規制は1997年の地球温暖化防止京都会議(国連
気候変動枠組み条約第3回締約国会議、通称COP3)で各国の温暖化ガスの排出量が決め
られた後に強化されてきた。
燃費規制については、既に1980年代に米国でガソリン乗用車に対する企業別平均燃費
(CAFE)規 制 値 が規 定 され、燃 費 の向 上 が求 められてきた。CAFE (Corporate Average
Fuel Economy)とはある企業が販売した乗用車の燃費を販売台数で加重平均した値である。
Bush政権になってややトーンダウンしているものの、長期的には規制は強化されている。
COP3では、欧州でのCO 2 の排出量が2008~2012年平均で1990年比の8%減と割り当て
られており、これを受けて欧州自 動車 工業会は自 主協定として、2000年までにCO 2 排出 量
120g/km(CO 2 排出量は炭素換算)以下のモデルを投入すること、2008年までに各社の平均
排出量を140g/kmに削減(1995年比マイナス25%)とすることを決めた 1) 。日本自動車工業会
でも欧州で販売する日本車(新車)について2009年までに 平均排出量を140g/kmに自主的
に達成することを決めた。Volkswagen Lupo 3LTDI(1999年、CO 2 排出量:90g/km、燃費:
2.99 liter/100km) や Audi A2(1999 年 、 1.2l TDI で CO 2 排 出 量 : 81g/km 、 燃 費 : 2.99
liter/100km)は、この自主協定を考慮して発売された車両である。
日本に対してはCOP3でCO 2 の排出量を2008~2012年の平均で1990年比の6%減とする
ことが決められている。1996年のCO 2 の排出量は6800万トンで、現状を放置した場合、2010
年には8100万トンに増えると予想されている。COP3の目標に整合させるためには1995年並
の排 出 に抑 制 する必 要 があり、1300万 トンを削 減 しなければならない。国 内 の運 輸 部 門 の
CO 2 排出量は国内の総排出量の約20%を占めているので、政府の方策として自動車の燃費
向上により350万トン、クリーンエネルギー車等の開発・普及によって90万トンを削減すること
が掲げられている。ガソリン車全体で2010年に1995年比の21.4%燃費改善、ディーゼル車で
2005年に1995年比の13.1%燃費改善、を政府は決定している 2) 。
京都議定書の発効によって、以上の動きはますます強化されると予想する。よって、各自動
車メーカーによる自動車の軽量化およびは燃費の改善はさらに積極的に進められるだろう。
米国に対しては、COP3でCO 2 の排出量を2008~2012年の平均で1990年比の7%減とす
ることが決められた。しかし、2001年、Bush政権下でCOP3の目標からの離脱が表明され、独
自の政策を採ることとなった。なお、COP3への対応だけではなく、米国には1994年に制定さ
れた大気浄化法によってLEV(Low Emission Vehicle)規制が設けられている。これに対応
して、カルフォルニア大気資源局(CARB)により1998年からZEV(Zero Emission Vehicle)の
販売が義務づけられた。しかし、実際には、やや規制が緩和される方向で進んでいる。1996
年には規制の実施が2003年からとなり、さらに、1998年にはPZEV(部分的ZEV)が容認され、
SULEV(超々低公害車)、HEV(ハイブリッド車)、改質型FECVなども対象となっている。この
ような動 きの中 で、カリフォルニア州 では温 室 効 果 ガスの排 出 を規 制 する州 法 AB1493が
-14-
2002年に成立し、実施内容の詳細が検討されている。燃費ではなく、温室効果ガスそのもの
を規制する法律は世界に先駆けて制定されたものであり、今後のCO 2 規制の目安となるか否
か注目されている。2004にCARBから提案されたCO 2 排出量の規制値を表1-2-1に、その効
果予測を図1-2-1に示す。CO 2 排出量を2009年より段階的に抑制し、2014年には乗用車お
よび一部の貨物車(Passenger car/light-duty truck 1)で211g/mile(131g/km)にしようと
いうものである。2030年には規制値を設けない場合に比べてCO 2 の排出量を25%削減できる
としている。
(2)自動車の軽量化と燃費の向上
自動車の燃費を向上させるには、以下の4つの手段が有る 3) 。
①軽量化
②ころがり摩擦の軽減
③空力抵抗の軽減
④車軸効率(エンジン・駆動系のエネルギー損失)改善
Volkswagen Audi Groupは図1-2-2に示すように、10%の軽量化で4~5%の燃費を改善
させることが可能であるとしている。車軸効率を10%改善すると7%の燃費改善が見込まれるも
のの、エンジンの摩擦損失の軽減など技術的に難しい課題がある。また、転がり摩擦の軽減
にはタイヤ技術の向上、空力抵抗の軽減には車のデザインとの両立といった課題があり、しか
も、燃費改善への効果も小さい。よって、軽量化は他の燃費改善策に比較して容易に実施で
きる手段であるとして、軽量化を燃費向上の最も有効な手段と考えている。図1-2-3に示すよう
に車両はモデルチェンジ時の性能向上で装備が増強され、重量が増加する傾向にある。この
ような車両全体の重量増を抑制するためにも車体の軽量化が求められている。
図1-2-4は現行の車両について10・15モード燃費と車両重量の関係をまとめたものである。
車両重量を100kg減少させると、燃費が約1km/l向上することが分かる 4) 。
以上のように、自動車の軽量化は燃費の改善に対して効果的で、しかも、容易に実行でき
ることから、各自動車メーカーで積極的に進められている。
1-2-2 自動車のアルミニウム化状況
(1)自動車部品へのアルミニウムの適用状況
自動車部品へのアルミニウムの適用は鋳物と熱交換器を中心に進められてきた。軽金属協
会(現在のアルミニウム協会)自動車委員会が各自動車メーカーの協力で実施した部品のア
ルミニウム化状況に関するアンケート結果をまとめたものを図1-2-5に示す 5) 。1996年に販売さ
れた26車種(一般車 16車種、10車種)を対象にしている。当時は、バブル経済崩壊後でボデ
ィパネルへのアルミニウムの採用が減った時期であった。このことを考慮してボディパネルにア
ルミニウムを採用した車両はアンケートの対象車に含まれていない。この後、1990年代後半か
ら各自動車メーカーはCOP3への対応ために車体軽量化の検討を再び強化した。
シリンダーヘッド、ピストン、ミッションケース等のパワートレイン系の部品はダイカストや金型
鋳造(低圧鋳造、重力鋳造)鋳物によりアルミニウム化が図られ、日本では90%以上に達して
-15-
いる。また、ラジエーターおよびカーエアコン部品といった自動車用の熱交換器も1990年代に
アルミニウム化が推進され、国産乗用車ではほぼ100%がアルミニウム化されている。一方、車
体部品はエンジンフード(以下、フードとする、ボンネットともいう)を主としたふた物が徐々にア
ルミニウム化されている程度にとどまっている。
国内での自動車のフードへのアルミニウムの採用状況を図1-2-6にフード以外の部位への
アルミニウムの採用状況を図1-2-7に示す。また、欧州と北米での主にふた物へのアルミニウ
ムの採用状況をそれぞれ表1-2-2および1-2-3に示す。
国内では、1990年代前半に米国のCAFE規制に対応するためスポーツカーや高級車のフ
ードにアルミニウムが採用されていった。しかし、バブル経済の崩壊と共に急速に採用が減少
してしまった。1990年代後半になり、COP3への対応から自動車の軽量化が再び要求される
ようになり、車体部品のアルミニウム化が改めて検討されるようになった。現在、フードを主とし
たふた物でアルミニウム化が再度進展しつつある。2004年には本田技研工業のレジェンドで
フード、フロント・フェンダー、トランクリッドに、また、日産自動車のフーガではフード、トランクリ
ッド、ドアにそれぞれアルミニウム製のボディパネルが採用され、国内でもボディパネルにアル
ミニウム板材が多く使われる時代が到来したことを感じさせた。
欧州では、COP3後の自主規制でふた物を主として車体部品にアルミニウムを積極的に採
用している。車体部品としてプレス加工した板材を使用するだけではなく、プレス成形の難し
い部品には高品質で薄肉の真空ダイカスト品を採用する、といった技術も開発されている。
北米ではCAFE規制への対応からフードのアルミニウム化が高級車を主に急速に進められ
た。また、ピックアップトラックの多い北米では、リフトゲートにアルミニウムを採用している例も
多い。近年は燃費規制が緩和される傾向にあるものの、従来のアルミニウム部品の採用実績
から、北米では現在でもなお、自動車部品にアルミニウムが多く使用されている。2000年の時
点では、北米での自動車1台当たりのアルミニウムの使用量は117kgで欧州の78kgよりも多
い 6) 。北米では、エンジンやホイールのアルミニウム化が進んでいることおよびピックアップトラ
ックのような大きな車両にアルミニウム部品が採用されていることによる。
バンパー・レインフォースメントへの押出形材の適用も確実に増加している。押出形材では、
断面の形状の自由度が高いので、鋼板を用いてプレス加工で作製するよりも複雑な断面形
状を得ることができる。有限要素法等を活用して衝撃エネルギーの吸収に有効で、しかも軽い
断面形状が開発されている。
リンクやアーム、ナックルといった足回り(シャシー)部品にはアルミニウム鍛造品あるいはア
ルミニウム鋳物の採用が増えている。日本でも、スポーツカーや高級車にアルミニウム鍛造品
の足回り部品が使用され、採用車種も確実に増加している。足回り部品の軽量化は車両とし
ての軽量化の他、バネ下重量の低減による燃費向上効果も有るため、今後も積極的にアルミ
ニウム部品が採用されると考えられる。
(2)フードへのアルミニウムの適用状況
国 産 乗 用 車 の 車 体 部 品 へ の ア ル ミ ニ ウ ム の 適 用 状 況 を 見 て み る と 、 1985 年 に マ ツ ダ
RX-7のフードにアルミニウム合金板材が採用され、その後、アメリカ合衆国のCAFE規制に対
-16-
応するため、スポーツカーや高級車のフードに採用されていった。しかし、アルミニウムは高価
であるという印象が有ったため、バブル経済の崩壊と共に急速に採用が減少し、国産乗用車
では車体部品のアルミニウム化は一時なくなってしまうように見えた。
1990年代後半になり、地球温暖化現象が強く問題とされるようになると、車体部品として改
めてアルミニウム材料が注目されるようになった。現在、フードを主としたふた物でアルミニウム
化が再度進展しつつある。なお、1990年代前半までの車体のアルミニウム化と1990年代後
半のアルミニウム化では、異なる合金系の材質が採用される傾向にある。1990年代前半まで
のアルミニウム化では、鋼板並の成形性が目標とされ、5022系(Al-4.5%Mg-Cu)の板材が採
用される傾向が強かった。一方、1990年代後半では塗装焼付硬化による板厚減を目的とし
て6000系(Al-Si-Mg)の板材が採用される場合が多い。
一方、欧州では2008年までに各社のCO 2 の平均排出量を140g/kmに削減するという目標
を達成するため、最近数年、ふた物を主として車体部品にアルミニウムが積極的に採用されて
いる。欧州のAlcan(旧Alusuisse)は、欧州で生産台数100千台/年クラスの車両にアルミニウ
ム製のフードが採用されていることから、今後の目標として生産台数200~400千台/年の車両
に対してもフードのアルミニウム化を目指す、としている。実際、約250千台/年生産されている
Mercedes Benz E class(W211、2002年)の車体には、フード、フロント・フェンダー、トランク
リッド、リア・ウォールにアルミニウム板 材が採用されている。また、Peugeot 307(2001年)や
Volvo S40/V50といったCセグメントの車両にもアルミニウム製のフードが採用されており、欧
州では比較 的安 価な車 両のフードにもアルミニウムが採用されるようになった。2004年には
RenaultがBセグメントの車両であるModusにアルミニウム製のフードを採用し、アルミニウム
製フードの採用はさらに安価な車両へと拡大しつつある。Renault Modusの外観を図1-2-8
に示す。
北米でも車体部品としてアルミニウムが採用されている箇所は、フードが大部分である。北
米でのフードへのアルミニウムの適用はCAFE規制への対応から高級車を主に急速に進めら
れた。また、ピックアップトラックの多い北米では、リフトゲートにアルミニウムを採用している例も
多い。北米での自動車のアルミニウム化は一般的にスチールからの単純な材料置換が多い、
とは言え、Multi coneの開発といった工夫も見られる。Multi coneはインナーパネルに円す
い形のくぼみをつけたもので、パネルの剛性を保持したままインナー用の板材の薄肉化を図る
ことができるといった利点がある。
(3)フード以外のふた物のアルミニウム化
フード以外にアルミニウム製のパネルが採用されている部品は、フロント・フェンダー、トラ
ンクリッド、ドアである。いずれの部品もフードより成形が難しいため、フードと比較すると採用
例は少ない。とはいえ、前述のように2004年には本田技研工業のレジェンドでフード、フロン
ト・フェンダー、トランクリッドに、また、日産自動車のフーガではフード、トランクリッド、ドアにそ
れぞれアルミニウム製のパネルが採用されている。レジェンドおよびフーガそれぞれのアルミニ
ウム製ボディパネルの採用箇所を図1-2-9に示す。
欧州では、トランクリッドについては成形の難しい箇所に樹脂を用いる(Volvo S60、S80)、
-17-
部品を分ける(Mercedes Benz E class)といった工夫を行っている。また、ドアおよびバックド
アについてはインナーの成形が難しいことから、アウターをアルミニウム板材、インナーをマグ
ネシウムダイカストとした例も見られる。ドアではMercedes BenzのCL class(2000年)および
SL class (2001年)、バックドアではLupo 3LTDI(1999年)がこのような構造を取っている。
(4)構造部品のアルミニウム化
オールアルミニウムボディ車では押出形材を車体の構造部品に採用している。また、押出
形材がドアフレームに採用される例も見られる。AudiではA2(1999年)やA8(1994年に初代、
2002年にフルモデルチェンジ)のようなオールアルミニウムボディ車だけではなく、スチールを
主体としたA3 (1996年)、A4(2000年)やA6(1994年)でもドアフレームに押出形材を適用して
いる 7) 。ドアフレームへの押出形材の適用は、ドアメーカーであるWagon Automotiveによっ
て多くの車種に展開されつつある。Mercedes Benz A class (W168、1997年)のように押出
形材をステアリングメンバーへ適用する例も見られる。A classのステアリングメンバーは2004
年のモデルチェンジでスチール製になってしまったものの、VolkswagenのLupo(2002年)や
Golf V(2003年)で採用されている。また、Audi A4では、アルミニウム押出形材がサイドシル・
レインフォースメントとして使 用 され、側 面 衝 突 に対 して有 効 に作 用 することが示 された。図
1-2-9にAudi A4のサイドシルの断面を示す 7) 。同様のサイドシルは2004年にフルモデルチェ
ンジしたA6にも採用されている。
Mercedes Benz CL classではBピラーに真空ダイカスト品を採用している。なお、Audiの
オールアルミニウムボディ車であるA2(1999年)やA8(1994年)には多くの構造部品に薄肉で
大型の真空ダイカスト部品が使われており、スペースフレーム構造を取る際に真空ダイカスト
が有効な部品となっている。
以上のように、欧州では車体部品としてアルミニウムを使用する場合に、ただ単にスチール
からアルミニウムへ材料置換を行うのではなく、アルミニウムの特徴をうまく利用する工夫が行
われている。
BMWの5 series(E60、2003年 )では、Aピラーよりも前 の部 分 の構 造 をアルミニウム化
(Lightweight Aluminium Front Endと呼ぶ)した 8) 。フロントを軽量化することによって、単
に車 体 重 量 を抑 えるだけでなく、操 縦 の安 定 性 向 上 を図 っているとのことである。BMW 5
seriesは構造部品をスチール・アルミニウム・ハイブリッド構成とした世界で初めての量産車と
して注目されている。5 seriesでの車体へのアルミニウムの使用箇所を図1-2-11に示す。同様
の構造は6 series(E63/64, 2003年)でも採用された。
(5)バンパー等のアルミニウム化
バンパー・レインフォースメントへの押出形材の使用も確実に増加している。バンパー・レイ
ンフォースメントには、ロ、日、目、田の字等の断面を持つ押出形材が使用されている。富士
重工業のフォレスター(2002年)では衝突エネルギーの吸収を考慮して図1-2-12に示すような
凸字型の断面を持つバンパー・レインフォースメントを搭載した。
また、バンパーと車体の間に衝突時のエネルギーを吸収するための部品(クラッシュボックス、
変形エレメント等と呼ばれる)を設ける車両が増えており、この部品にもアルミニウムが多く採用
-18-
されている。Audi A4(2001年)の変形エレメントを図1-2-13に示す。
1-2-1-3 自動車のリサイクルに関する法規制
自動車の大量生産、普及に伴って廃棄される自動車も問題とされるようになった。日本でも
2002年7月、使用済み自動車(End of Life Vehicle、略してELV)の再資源化等に関する法
律(通称、自動車リサイクル法)が成立し、自動車の製造、流通・販売、廃棄・リサイクルの各段
階を通じて、循環型社会 を考慮した体制を取ることが義務づけられるようになった。これは、
ELVに関するEU指令に倣って制定されたものである。しかし、シュレッダーダストの廃棄場所
に関する問題は欧州よりも日本で深刻であること、車検制度により陸運局が自動車の所有者
を良く把握していることなどの理由から、国内で構築されつつある自動車リサイクルシステムの
方が欧州各国の制度よりも円滑に機能すると見られている。自動車リサイクル法に基づくELV
処理の流れを図1-2-14に示す。
ELV の処理問題は、1990 年に香川県豊島(てしま)のシュレッダーダストの不法投棄が表
面化したのを契機として国内でも活発に議論されるようになった。豊島での不法投棄事件で
は、現場から高濃度の鉛が検出されたことから、それまでは安定型処分場に埋立処分されて
きたシュレッダーダストに 1996 年 4 月 1 日以降、管理型処分場への埋立処分が義務づけら
れた。以後、シュレッダーダストの処分費用は高騰し、ELV の引取も有償となる傾向が強くな
った。
このような状況の中で通商産業省(現在の経済産業省)によりリサイクルの目標が設定され
た。さらに、「使用済み自動車リサイクル・イニシアチブ」の策定・公表を経て自動車リサイクル
法の成立となった。この法律は「循環型社会形成推進基本法」に基づくもので、この法律の成
立により、容器包装、家電、食品、建設に続いて自動車も製造、流通・販売、廃棄・リサイクル
を通じて、循環型社会を考慮した体制を取ることを義務づけられることとなった。
このように現在はリサイクルの考慮なしには、自動車向けの材料を考えることができない状
況である。ELVの廃棄および処分には、以下の3点が問題となる。
①シュレッダーダスト等の廃棄場所が限られている
②有害物質を含む環境負荷物質が使用されている
③再生された材料の品質は元の材料の品質よりも低い(カスケードリサイクルに使用)
①については、1997 年 5 月 23 日付けで通産省から公表された使用済み自動車のリサイク
ル・イニシアチブでは、
・2002 年1月からの ELV について 85%以上(埋立処分容量;1996 年の 3/5 以下)
・2015 年1月からの ELV について 95%以上(埋立処分容量;1996 年の 1/5 以下)
が目標とされている。2000 年 10 月21日発効されたEU指令もほぼ同様の内容である。
②については、上記の EU 指令で鉛、水銀、カドミウム、6 価クロムが規制されている。国内
では、鉛の使用量に数値目標が示されている(2005 年までに 1996 年の概ね 1/3 以下等)の
みで、他の有害物質については自動車メーカーが自主的に使用を抑制するための技術開発
を行っている。
一方、③については、鋳物用の材料として再生されているのが実態である。自動車の車体
-19-
の大部分を占めているスチールについては、鋼板として再生する技術が開発されているもの
の、自動車用の薄鋼板ではなく、建設工事現場等に見られる敷板の類にしか再生されていな
い。また、アルミニウムについては鋳物用合金あるいはダイカスト合金としての需要が十分にあ
るため、展伸材 to 展伸材のリサイクルは全く実施されていないのが実情である。
とは言え、今後、自動車の車体部品としてアルミニウム展伸材の需要が伸びてくると、リサイ
クルする際の用途としての鋳物用合金は飽和状態に達してしまうと予想される。欧州では車体
部品用のダイカスト品に展伸材並の純度のアルミニウム合金が使用されているので、アルミニ
ウムの需要全体に対する通常の鋳物用合金(二次合金)の比率はさらに低いものとなる。これ
らの状況を踏まえて、欧州アルミニウム協会では、図 1-2-15~-17 に示すように 2015 年には
展伸材 to 展伸材のリサイクルで 30 万 ton/年が再利用されると予想している。
また、北米の状況を見ると、Ford と Alcan との間でプレス工場から出るブランキング後のスク
ラップを Alcan が引き取り、自動車ボディ材のリサイクルを行うことが 2002 年 10 月に合意され
ている。ELV からの自動車ボディ材のリサイクルではないものの、リサイクルへの関心が高まっ
て い る こ と を 示 す も の で あ る 。 2003 年 2 月 に ア メ リ カ 合 衆 国 エ ネ ル ギ ー 省 よ り 提 示 さ れ た
“Aluminum Industry Technology Roadmap”には、アルミニウム材料の製造分野で必要とされ
ている研究開発の最高位に位置するものの一つとしてスクラップの使用を許容したリサイクル
性高い合金の開発が示されている。“Aluminum Industry Technology Roadmap”より当該箇所
を図 1-2-18~-20 に示す。
参考文献
1) Official Journal of the European Communities, 13.2.1999, L40/49.
2) 香川 勉:第42・43回 白石記念講座「地球環境問題を視野に入れた最先端の自動車技
術」テキスト,日本鉄鋼協会,(2000),1.
3) Horst E. Friedrich: Automobiltechnische Zeitschrift, 104-3 (2002), 258.
4) 日本アルミニウム協会homepageより自動車アルミ化委員会,(2003).
5) 軽金属協会 自動車委員会:自動車部品のアルミ化調査報告(第6回), (1997).
6) Roland Harings: 4. Euroforum-Fachtagung “Aluminium im Automobilbau”,
(2002).
7) Sonderausgabe ATZ/MTZ Der neue Audi A4, November (2000).
8) BMW 英文広報資料 The BMW 5 series saloon, (2003)
-20-
表1-2-1 カルフォルニア州法AB1493のCO 2 規制値案
図1-2-1 カルフォルニア州法AB1493のCO 2 規制の効果予測
-21-
Rolling resistance
Aerodynamic drag
Axle efficiency
Vehicle weight
Vehicle weight m
Rolling resistance fR
Aerodynamic drag cW *A
Axle efficiency grad
図1-2-2 燃費向上の手段と効果(Volkswagenの資料より)
重量増
タンク等の大型化
・快適性
・高性能(高速)
・安全性
・環境適応性
(どんなところでも走る)
エンジン開発
サスペンション等の強化
Golf 4世代で40% 700kg→1000kg(エンジンパワーアップにより排気量増,燃費増)
図1-2-3 軽量化要求の背景(自動車の性能向上と重量増加の状況)
-22-
図1-2-4 10・15モード燃費と車両重量の関係
1996年(社)軽金属協会自動車委員会のアンケート調査による
軽自動車:4台,小型自動車(1500~1600cc):5台,小型自動車(1800~2000cc):4台
普通自動車(3000~3500cc):3台,小型自動車(1600~2000cc,RV):5台,普通自動車(2200
~3500cc,RV):5台
シリンダーヘッド
ピストン
シリンダーブロック
オイルパン
部品
インテークマニホールド
トランスミッションケース
コンデンサ
ラジエータ
エバポレータ
ホイール
リンク・アーム類
バンパーレインフォースメント
0
20
40
60
採用率 (%)
図 部品へのアルミニウムの採用状況
80
図 1-2-5 自動車部品へのアルミニウムの採用状況(アルミニウム協会のアンケートによる)
-23-
100
'86
'87
'88
'89
'90
'91
'92
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
マツダ RX-7
日産自動車 フェアレディ
日産自動車 スカイラインGT-R
マツダ ロードスター
マツダ ユーノスコスモ
本田技研工業 NSX (オールアルミボディ)
日産自動車 レパード Jフェリー
マツダ センティア
スズキ カプチーノ
全インプレッサ
富士重工業 インプレッサWRX
三菱自動車 ランサーエボルーション
トヨタ自動車 スープラ
トヨタ自動車 セリカGT-4
マツダ ユーノス800
全レガシー
富士重工業 レガシーターボ
日産自動車 セドリック/グロリア
本田技研工業 インサイト(オールアルミボディ)
'03
'04
本田技研工業 S2000
日産自動車 シーマ
トヨタ自動車 ソアラ
日産自動車 スカイライン
日産自動車 ステー
富士重工業 フォレスター
ダイハツ コペン
マツダ RX-8
トヨタ自動車 プリウス
トヨタ自動車 クラウン
本田技研工業 レジェンド
日産自動車 フーガ
図 1-2-6 エンジンフードへのアルミニウムの採用状況
-24-
'05
'86
'87
'88
'89
'90
'91
'92
'93
'94
'95
'96
'97
'98
'99
'00
'01
'02
'03
オールアルミボディ車
本田技研工業 NSX
本田技研工業 インサイト
フロントフェンダー
日産自動車 スカイラインGT-R
三菱自動車 ランサーエボルーション
本田技研工業 レジェンド
トランクリッドおよびバックドア
日産自動車 フェアレディZ コンバーチブル
日産自動車 シーマ
トヨタ自動車 アルテツァ ジータ
富士重工業 レガシー ワゴン
トヨタ自動車 プリウス
日産自動車 フーガ
本田技研工業 レジェンド
ドア
マツダ RX-8
日産自動車 フーガ
サンルーフおよび脱着ルーフ
日産自動車 インフィニティQ45
本田技研工業 アコード
スズキ カプチーノ
本田技研工業 CR-X デルソル
トヨタ自動車 スープラ
トヨタ自動車 RAV4
本田技研工業 S2000
トヨタ自動車 ソアラ
ダイハツ コペン
三菱自動車 ランサーエボルーション
図 1-2-7 エンジンフード以外の車体部品へのアルミニウムの採用状況
-25-
'04
'05
表 1-2-2 欧州でのアルミニウムボディパネル(ふた物)の採用状況
メーカー(グループ)
ブランド
モデル
ボンネット ボンネット以外の部品
E クラス
○
S クラス
○
メルセデス・ベンツ CL クラス
ダイムラー・クライス
○
ラー
マイバッハ
フォルクスワーゲン
フォルクスワーゲン・
アウディ
SL クラス
○
CLS クラス
○
マイバッハ
○
フェートン
○
ルポ (3LTDI)
○
A6(2004年3月より)
アウディ
オールロードクアトロ
TT
7シリーズ
5シリーズ
(2003 年7月より)
6シリーズ
(2004 年3月より)
BMW
Z4
PSA
プジョー
シトロエン
アルファロメオ
ゼネラルモータース
オペル
サーブ
ボルボ
フォード
ランドローバー
○
○
ベルサティス
クリオ
モーダス
307
407
607
C5
156 GTA
ベクトラ
シグナム
9-3
S40/V50
S60
S80
V70
レンジローバー
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
ディスカバリー
○
ディフェンダー
○
ラグナ(ラグナネバダ)
ルノー
○
○
○
○
A3, A4, A6, オールロードクアトロ, TT: アルミニウム製ドアフレーム
-26-
トランクリッド,フロント・フェン
ダー,アッパーバック,ルー
ムパーティション
ルーフ,ドアアウター,Bピ
ラー他(ドアインナー: Mgダ
イカスト)
トランクリッド,フロント・フェン
ダー,ルーフ,ドアアウター
(インナー:Mgダイカスト)
ドア,ルーフ,フロント・フェン
ダー
トランクリッド,ドア
ドア,フロント・フェンダー,
バ ック ドア ( バ ッ ク ド ア イ ンナ
ー:Mg ダイカスト)
フロント・フェンダー
フロント・フェンダー
フロント・フェンダー,フロント
エンドストラクチャー
フロントエンドストラクチャ
ー,ドア
フロント・フェンダー,ドア
トランクリッド
トランクリッド
(バックドア:樹脂)
ドア,フロント・フェンダー
バックドア(アウター),フロン
ト・フェンダー,リア・フェンダ
ー,ルーフ
ドア,ルーフ,フロント・フェン
ダー,リア・フェンダー
表 1-2-3 北米でのアルミニウムボディパネル(ふた物)の採用状況
メーカー
(グループ)
ゼネラルモータース
ブランド
モデル
シボレー
タホ,サバーバン
ベンチャー
ビューイック
パークアベニュー
ルセーブル
キャデラック
GMC
オ ー ル ズ
モービル
レンズボー
セビル
ドゥビル
エスカレード
CTS
ユーコン
ユーコン XL
オーロラ
シホーテ
ポンティアック ボンネビル
モンタナ
フォード
フォード
トーラス
レインジャー
F150
エクスプローラ
エクスペディション
リンカーン
タウンカー
LS
マーキュリー マウンテーニア
ダイムラークライスラー クライスラー コンコード
LHS
プリマス
プローラー
-27-
ボンネット
トランク リフト
リッド ゲート
○
フロント
フェンダー
その他
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
ドア
図1-2-8 ルノー モーダス(フードにアルミニウムを採用)
フロント・フェンダー
トランクリッド
フード
(a) 本田技研工業 レジェンド
フード
ドア
トランクリッド
(b) 日産自動車 フーガ
図1-2-9 レジェンドとフーガのアルミニウム製パネルの採用箇所
-28-
Side shill reinforcement
図1-2-10 アルミニウム押出形材によるサイドシル・レインフォースメント(Audi A4)
Lightweight Aluminium Front End
図1-2-11 軽量化フロントエンド構造(BMW 5 series)
-29-
図1-2-12 押出形材による凸字型のバンパー・レインフォースメント(富士重工業フォレスター)
図1-2-13 アルミニウム製変形エレメント(Audi A4)
-30-
図1-2-14 自動車リサイクル法に基づく使用済み自動車処理の流れ
Aluminium Demand for Cars per Year
( Western Europe )
B
( 1998 - 2015: expected growth )
3000
Total
2000
d high
Wrought an
g alloys
in
st
ca
purity
1000
Standard casting alloys
0
1990
1995
2000
2005
Years
2010
2015
図 1-2-15 自動車向けのアルミニウム需要予測(西ヨーロッパ)
-31-
Fig. 5
Z/ÖK-014a.cdr
13.11.98
Consumption in '000 tons per annum
4000
Aluminium in cars: scrap potential,
recycling market, new applications
situation 1997 (EU)
(figures without unit: million tons)
primary aluminium
all products,
applications
imports / exports
0.3
scrap
market
Europe
0.2
auto
14 million cars/year
75 kg Al/car
0.85
secondary
production
1.9
cast
scrap from all used
products and processes
cast
wrought
ELV: 8.5 millions/a processed
45 kg Al/car
0.4
.
dismantling and shredder
Fig. 6
Z/ÖK-012ay
00.11.98
0.3
direct
consumption wrought
> 0.7
図 1-2-16 自動車向けアルミニウムのリサイクル市場の状況(1997 年 EU)
Aluminium in cars: scrap potential,
recycling market, new applications
scenario 2015 (EU)
primary aluminium
(figures without unit: million tons)
imports / exports
0.5
0.5
scrap
market
Europe
direct
consumption wrought
> 1.2
all products,
applications
1.5
15 million cars/year
200 kg Al/car
1.5
secondary
production
3.1
cast
ELV: 9.5 millions/a processed
113 kg Al/car
0.8
dismantling and shredder
0.3
Fig. 7
図 1-2-17 自動車向けアルミニウムのリサイクル市場の予測(2015 年 EU)
-32-
Z/ÖK-013ay
00.11.98
scrap from all used
products and processes
cast
wrought
図 1-2-18 “Aluminum Industry Technology Roadmap”の表紙
(アメリカ合衆国エネルギー省提示,アメリカアルミニウム協会発行)
-33-
図 1-2-19 アルミニウム製品の製造工程に必要とされている研究開発のうち最高位に位置づ
けられる技術開発 “Aluminum Industry Technology Roadmap”より
-34-
他 の Fabrication に 関 す る R & D Needed: “Manufacturing Efficiency,” “Predictive
Capabilities,” “Sensors and Measurement”
図 1-2-20 “Aluminum Industry Technology Roadmap”より製造分野で必要とされている研究
開発
-35-
1-2-3 自動車用フードの構造と要件
自動車用フードの外観および構造例を図1-2-21に示す。フードは外板(アウター),内板(イ
ンナー),補強材,ヒンジ,ロックから構成される。アウターは表側であり,特に,表面品質に厳し
い部品である。長期の使用にわたって,塗装の美麗さとともに耐食性が要求される。さらに,耐
デントなどが要求される。インナ-はフードとしての剛性を維持するとともに,最近では,歩行
者保護の観点から衝突吸性が要求される。補強材は部分的に強度が必要な部分に装着され
る。アルミニウム製フードでは,アウタ-,インナー,補強材がアルミ化される。しかし,ヒンジや
ロックは鉄製部品である。
インナー
アウター
図1-2-21 自動車用フードの外観および構造例
アルミ板 → プレス工程 →
量産性
・品質安定
・納期
低コスト
成形性
・深絞り,
・張出し
(接合性)
・テーラ-ド
ブランク材
組付
ヘム加工
・曲げ性
(接合性)
→
塗装焼付
表面処理性
BH性
・時効硬化
図 1-2-22 エンジンフードの製造から車体の塗装までの工程
-36-
→ 製品
塗装鮮鋭性
耐食性
強度
主要部品であるアウターおよびインナーの代表的な製造工程を図1-2-22に示す。アウター
およびインナーともに,素材メーカーから供給された板材をもとに,自動車メーカーではプレス
成形-組立-塗装の工程により製品となる。上述の最終製品としての要件の他に,自動車メ
ーカーにおける製造工程上の要件が求められる。プレス工程は,絞り加工-抜き加工-曲げ
加工から構成され,これらの工程において割れや歪が発生しないことが重要である。
アウター材では特に厳しい曲げ加工が施される。これは,アウター材とインナー材とを組み
付けるさいに,図1-2-23に示すヘム構造がとられることが多く,アウター材は密着曲げに近い
厳しい曲げ加工を受ける。曲げ変形能が小さいアウター材では,曲げ加工外周部に割れが発
生してしまう。組立工程では,補強材などとの接合性,塗装工程では電着塗装の前処理とし
て実施されるリン酸亜鉛処理性が特に重要である。
表1-2-4に,アウターおよびインナー材の製品および製造工程上の要件をまとめて示す。
ヘム加工
図1-2-23 ヘム構造と割れ
表 1-2-4 アウター材およびインナー材の製品および製造工程上の要件
特
性
成
形
性
機 械 的 性 質
塗 装 焼 付 硬 化 性
耐食性( 表面処理性)
アウター材
○
○
○
◎
インナー材
◎
○
-
○
◎
◎
○
-
-
○
表面品質(塗装鮮映性等)
ヘ ム 加 工 性
接
合
性
1-2-4 フード用アルミニウム合金の変遷
国内におけるフードへのアルミニウムの適用については先に述べたとおりであるが,材質に
ついては1990年代前半と1990年代後半以降とで,異なる傾向がある。1990年代前半までの
アルミニウム化では,鋼板並の成形性が目標とされ5022系(Al-4.5%Mg-Cu)の板材が採用 さ
-37-
れる傾向が強かった。しかし,5000系合金では,プレス成形後,局部的にストレッチャーストレ
インと呼ばれる歪模様が発生し,塗装後の外観品質上問題となることがあり,成形条件に留
意する必要がある。一方,1990年代後半では塗装焼付硬化による板厚減,ストレッチャースト
レイン対策さらにはリサイクルの観点から6000系(Al-Si-Mg)の板材が採用される場合が増加し
てきている。
表1-2-5に自動車用ボディパネルに用いられている代表的な5000系および6000系合金の
主な特徴を比較して示す。6000系合金は熱処理型合金として分類されている。本系はMgお
よびSiを主添加元素として構成される合金であり,時効硬化とよばれる熱処理により強度を高
めることができる。この熱処理は500-550℃での保持(溶体化処理)後,常温に焼入れし,その
後,200℃付近で保持する方法であり,材料強度が高められる。自動車用パネル材では,焼
入れ状態(T4と称す)で自動車メーカに納入し,このT4状態(柔らかい状態)でプレス成形し
た後,塗装の乾燥工程(170-200℃)における熱を利用して時効硬化(強度を高める)させ,所
定の強度を確保しようとするものである(ベークハード:BH)。5000系合金は非熱処理型合金
であり,ベークハードによる強度向上は望めない。また,ストレッチャーストレインは,5000系合
金で顕著に発生するものであり,自動車用ボディパネル用6000系合金では発生しない。リサ
イクルの観点からは,アルミ合金はいずれもリサイクル性に優れるが,6000系合金はアルミニ
ウム展伸材のなかで最も広く使用されており(全展伸材の約50%),さらに,前述のとおり自動
車においても,鍛造品や押出品として適用されている。また,MgやSiの合金添加量が比較的
少なく,6000系合金は鋳物やダイキャストへのカスケードリサイクルにも利用しやすい。
表 1-2-5 5000 系自動車ボディ材と 6000 系自動車ボディ材の比較
項
目
成形性
ストレッチャーストレインマーク
塗装焼付硬化(ベークハード)性
耐食性
リサイクル性
5000 系自動車ボディ材
良好
あり
なし
良好
6000 系自動車ボディ材
深絞り性がやや低い
なし
あり
良好
低
高
1-2-5 開発目標値の設定理由
本開発の目標Fe量は0.4%である。これは,現工程(DC)材の材料特性に及ぼすFe量の影
響から設定するとともに,自動車フードのリサイクルにおけるFe量の増加量の点から検討した。
現行DC材においては,不純物Fe量の増加により,曲げ性およびベークハード性が低下するこ
とが報告されており,本開発においても確認された。特に、曲げ性はFe量が0.5%以上で劣化
した(図1-2-24)。また、リサイクル性については、アルミフードの溶解で鉄が0.2%程度増加す
ることが判明した。現状DC材のFe量が0.1%程度であるとし,さらに,自動車の寿命を10年,
溶解炉へのリサイクルしたフードの投入量を50%とすれば1回のリサイクルでFeが0.1%増加する
ことになり,3回のリサイクル(新地金使用後40年間リサイクル)でFe量が0.4%となると試算され
-38-
る。もちろん,不純物が増加し,フード材への適用ができなくなっても,鋳物へのカスケードリサ
イクルには使 用 できる。これらより,フード材 からフード材 へのリサイクルには少 なくともFe量
0.4%まで展伸材として利用できるようにする必要があり、本開発における目標値をFe量0.4%
とすることは妥当と判断した。
限界曲げ半径 / mmmm
限界曲げ半径
1.0
圧延方向
0.5
90° 方 向
0° 方 向
圧延方 向
0
0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
1.2
e量 ( mass%)
F eF量
m ass%
図
曲 図げ6 加
性に に
e量 の 影 響
す Fぼ
e 量す
の 影F響
曲工
げ性
及 ぼ及
図1-1-24 曲げ性に及ぼすFe量の影響(6000系DC材)
市販フ-ド
インナー
Fe量
Δ0.1~0.2%
0.14
フ-ド
鉄部品:0.17kg(1.6%)
全体 :10.6kg
切断(□100mm)・溶解
溶解後
凝固・分析
・Fe増量 0.1~0.2%
・リサイクル回数 2回(新地金使用車両から,約30年使用)
(*その後,薄めて使用 or カスケ-ド)
図1-2-25 アルミフードの溶解試験
-39-
1-2-6 開発プロセスの選定理由
図1-1-26に自動車ボディパネル用アルミ板の現状の製造工程(DC法)を本開発プロセス
(TRC法)と比較して示す。現状のDC法では,溶解後,厚さ500-600mm,幅1000-2000mm
の圧延用スラブ形状に鋳造される。得られたスラブは,表面欠陥や内部組織の不均一などを
改善するため,表層の機械的な面削や均質化熱処理が施される。その後,数mmの厚さまで
熱間圧延された後,製品厚さ(1mm程度)まで冷間圧延される。必要に応じて,中間および
最終の熱処理が施される。一方,開発プロセス(TRC法)は,溶解後,溶湯のまま圧延装置に
注入され,圧延ロール間で凝固し,数mm程度の薄板となる(DC法の鋳造,圧延が同時に行
われる)。その後はDC法と同様である。DC法とTRC法との主な違いを表1-2-6に示す。
DC鋳造
鋳造
表面切削
均質化処理
熱延
冷延
最終熱処理
工程の簡略化(省エネルギー)
溶湯圧延
溶湯圧延
冷延
急冷凝固による晶出
物の制御(微細化)
最終熱処理
加工熱処理による析
出物の制御(微細化)
図 1-1-26 DCおよびTRC法による自動車用アルミ板の製造工程
表 1-2-6 DC 法と TRC 法の主な違い
鋳塊の厚さ
冷却速度
鋳塊表層部の組織
均質化処理
熱間圧延
生産性
DC 法
500~600mm
数℃/s
面削により除去
あり
TRC 法
3 ~ 10mm
数 100~1000℃/s
鋳肌のままで製品
なし
あり
高
なし
低
-40-
万トン
中国,米国World
Estimated World
・低品質品(建材,ホ
Continuous cast
イル,器物など) アルミ板の生産能力
・設備コスト安価
国内生産量 : 板生
産量の1%以下
最大
1060mm幅
2000
1800
生産能力(年)
1600
1400
1200
1000
800
600
400
連続鋳造材の生産能力
200
0
1960
1970
1980
1990
2000
図 1-2-27 全世界のアルミニウムの生産能力と溶湯圧延による生産能力
図 1-2-28 溶湯圧延材によるアルミニウム製品
-41-
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