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マインドリーディングの推測方略 - 東京成徳大学・東京成徳短期大学
マインドリーディングの推測方略 ―感情,選好,性格の推測における投影とステレオタイプ化の使い分け― 石 井 辰 典* Mindreading Strategy: Selective Utilization of Projection and Stereotyping in Inferences about Others’ Affective State, Preference, and Personality Tatsunori ISHII It has been argued that social judgment is affected by our own mental states (projection) and stereotype knowledge (stereotyping). Recently, Ames (2004a, b) offered and examined a similarity contingency model for mental states inference, which predicted people selectively use projection and stereotyping depending on perceived similarity to a target person. This study aims to test this model with different samples (Japanese university students) and tasks from previous studies. However, the results did not support the model. First, Japanese participants employed projection unanimously regardless of the perceived similarity to the target person in inference about her affective states and preferences. Second, they employed both projection and stereotyping in inference about her personality. These results suggest that the model is incompatible with an East Asian cultural context, and the inference about others’ personality is based on different computation from that about affective state and preferences. Keywords: mindreading, projection, stereotyping * Tatsunori ISHII 健康・スポーツ心理学科(Department of Health and Sport Psychology) 179 東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 21 号(2014) 毎日の生活の中で私たちは,他者がどんなこ 研究がなされている(e.g., Gopnik & Wellman, とを考えているか,どんな気持ちであるかと 2012; Meltzoff, 2007; Carruthers & Smith, いったことに思いを巡らせている。例えば,自 1996)。 分が母親の誕生日にどんなプレゼントを贈ろう かと考えるという場面を想像してみほしい。そ 社会心理学における議論 の場面ではきっと,どんなプレゼントを好むだ 社会心理学においても,人々が他者の心的状 ろうかとか,2つの候補の内どちらをより喜ん 態の推測についての研究が蓄積されている。特 でくれるかといったことを考えることだろう。 に,他者の意見や態度,好み,性格特性,感情 また,友人と喧嘩をした翌日には,多くの人 などについて人々が下す判断は社会的判断と呼 は,まだ相手は自分のことを怒っているだろう ばれ,人々はどのような判断をする傾向・バイ か,それとももう許してくれているだろうかな アスを持つのか,またその傾向・バイアスはど どと思うだろう。 のような社会状況下で現れやすいかといった点 このように私たちは他者の心的状態を推測す について明らかにしてきた。 ることができる。ただし,他者の心は直接観察 例えば,社会的判断においては,他者の所属 することはできないのだから,そうであれば, する集団やカテゴリーに関するイメージ,特に そこには何らかの情報を用いて他者の考えや気 ステレオタイプ(stereotype)が,その判断に 持ちを計算し,検討をつけるといった心的なプ 大きな影響を及ぼすことが知られている。例 ロセスが存在するはずである。それでは私たち えば,“男性は理系科目が得意である”という は一体,どのようにして観察不可能な他者の考 ステレオタイプを使って,“あの人は男性だか えや気持ちを推測しているのだろうか? ら,きっと理系科目が得意だろう”と考えるわ この問題については,心の哲学や認知科 けである。実際に,80年台に北米で行われた実 学,心理学などをはじめとする多くの分野に 験では,人々は社会的階層の低い他者は,総じ おいて様々な議論がなされている。例えば心 て学力レベルが低いと判断する傾向を示した の哲学によれば,私たちが他者の心的状態を と報告されている(Darley & Gross, 1983)。 推測・理解できるという現象に対してシミュ これは,“社会階層の低い者は,貧しく知的 レーション・セオリー(simulation-theory)と 教育を十分に受けていない”という,“社会 セオリー・セオリー(theory-theory)という 階層が低い者”に関するステレオタイプが判 2種類の説明があり得るという(e.g., Nicholas 断に影響を及ぼしたのだと解釈されている。 & Stich, 2003)。そして認知科学者や神経科 その後も,ステレオタイプが社会的判断に及 学者は,実証研究を通じてどちらがより妥当 ぼす影響について多数の研究がなされており な説明であるかを検討している(e.g., Appley, (e.g., Cohen, 1981; Devine, 1989),他者の心 2008; Malle & Hodge, 2005; Suzuki, Harasawa, 的状態の判断に,人々がステレオタイプを判断 Ueno, Gardner, Ichinohe, Haruno, Cheng, & の枠組みとして用いていることが示唆される。 Nakahara, 2012)。また発達心理学では,他者 なお,このように他者にステレオタイプを当て の内に心的状態を想定し,その内容を推測・理 はめる判断の仕方・方略は,ステレオタイプ化 解する能力は心の理論(Theory of Mind)と (stereotyping, 以下ST化と表記)と呼ばれて 呼ばれており,この能力の解明のために多くの いる。 180 マインドリーディングの推測方略 そのほかで有名なバイアスとしては,自己中 していることが示唆されてきた。一方で,社会 心性バイアス(ego centric bias)がある。こ 的判断における自己の影響についても研究が蓄 れは,“他者は自分と同じような心的状態に 積されており,私たちが投影方略を用いて他者 ある”と判断してしまうバイアスのことを指 の心的状態を判断することが示されている。 す。このバイアスの現れとされる現象は様々あ それでは,社会的判断におけるステレオタイ るが,代表例として合意性推測の過大視,あ プの影響と自己の影響はどのように整理できる るいはフォールス・コンセンサス効果(false ろうか?言い換えれば,人々がST化を使うの consensus effect, Ross, Greene, & House, はどのような条件下であり,投影を使うのはど 1977)を挙げることができるだろう。例えば, のような条件下なのだろうか? 学生に“着ぐるみを着て大学内を30分間歩いて この点について,Ames(2004a, b)は, 回ってほしい”と頼んだところ,6割の学生が “類似性随伴モデル(similarity contingency 承諾し,残り4割が拒否したとする。そしてこ model)”を提案している(Figure 1.参照)。 の学生たちに,他の学生は一体どのくらいの割 このモデルによれば,人々は自分と類似してい 合で承諾・拒否するかについて推測してもら ると感じられた他者に対しては投影をより強く う。すると,着ぐるみを着ることに承諾した学 用いるが,類似していないと感じられた他者 生は,実際には6割が承諾したのだが,“7割く に対してはST化をより強く用いるとされる。 らいの学生は承諾するだろう”と判断し,拒 そして彼はこの仮説の検討する一連の研究を行 否した学生も“全体の半分くらいの学生は拒否 い,これを支持する結果を得ている。 するだろう”と判断する傾向を見せるのであ 例えばAmes(2004a)の研究1では,参加者 る。このように人々は,自分の判断に対して他 は“アリスという名の医学部学生が,自分の受 者が合意する程度を,実際以上に多く見積もる 講している授業を担当する教授が困っている場 のである。なぜこうしたことが起きるのだろう 面に遭遇し,その教授のことを助ける”という か?その理由は,私たちが他者の考えや気持ち シナリオを読み,その状況でのアリスの心的状 を推測するときに,自分が持つ考えや気持ち 態について推測を行った。具体的には,“アリ を他者に適用・投影するからだと考えられてい スは成績のためではなく親切心から教授を助け る(e.g., Krueger, 2003; 工藤, 2010; Nickerson, たと思う”といった8つの質問項目に対して12 1999)。その結果,他者は自分と同じ心的状態 件法で評定を行った。その後,参加者自身がア にあると判断してしまう(合意性推測の過大視 が起きる)というわけである。なお,人々が自 分の心的状態を他者に適用・投影するという判 断の方略は社会的投影(social projection), あるいは単に投影と呼ばれている。 投影とST化:2つの方略の使い分け 以上の議論を整理すると,まず社会的判断に おけるステレオタイプの影響が示されており, 私たちがST化を用いて他者の心的状態を判断 Figure 1. A similarity contingency model of mental states inference. This figure is from Ames (2004b). 181 東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 21 号(2014) リスと同じ状況に遭遇したらどのような心的状 人大学生)や課題を用いても得られるかを検討 態になると思うか(“自分ならば,成績のため する。もしモデルが高い妥当性を持つならば, ではなく親切心から教授を助けるだろう”など この仮説と合致する結果が得られるだろう。 8項目),また典型的な医学部学生が同じ状況 まず研究1では,感情状態を扱った検討を行 に遭遇したらどのような心的状態になると思 う。すなわち,参加者に標的人物を紹介し,そ うか(例えば“典型的な医学部学生ならば,成 の人物が体験した出来事についてのビネット 績のためではなく親切心から教授を助けるだろ (vignette, 行動描写)を読んでもらう。そし う”など8項目)についても同様に評定を行っ て,標的人物がその出来事を経験する中でどん た。そして,アリスの心的状態についての評定 な感情状態になったかについて推測し,評定す 値が,自分の心的状態の評定値と典型的な医学 るように求める。また,自分がその出来事を体 部学生についての評定値のどちらとより強く関 験したらどんな感情を抱くか,そして標的人物 連しているかを検討した。その結果,アリスに の所属する集団の典型的人物がその出来事を体 対する評定値と自分に対する評定値の正の関連 験したらどんな感情を抱くかについても評定を は,自分とアリスの間に類似点があった(類似 求める。そして,これら評定間の関連が,標的 性を高く知覚した)参加者のデータにおいて, 人物に対する知覚された類似性の高さによって 類似点がなかった(類似性を低く知覚した)参 どのように変わるかを検討する。なお,研究1 加者のデータよりも有意に高かった。一方で, は,扱っている心的状態が感情状態や気持ちで アリスに対する評定値と典型的医学部学生に対 ある点とビネットを用いた研究である点で,上 する評定値の正の関連は,類似点がなかった参 で紹介したAmes(2004a)の研究1と対応があ 加者のデータにおいて,類似点があった参加者 る。つまり,この研究1はAmes(2004a)の研 のデータよりも有意に高かったのである。つま 究1の直接的な追試研究と位置づけられる。 り,投影は,他者に対し類似性を高く知覚した これに対して研究 2 では,性格(personality) 場合により強く用いられ,ST化は類似性を低 の判断と選好(preference)の判断を用いる。 く知覚した場合に用いられるという仮説に合致 まず研究 1 と同様に,参加者に標的人物を紹介 した結果であった。 するが,その後ビネットは呈示せずに,“この 人物には,どのくらい明るいという言葉が当て 本研究の目的:類似性随伴モデルの検討 はまるか?”といった質問を行い,評定を求め 類似性随伴モデルは,社会的判断におけるス る(性格判断)。また“この人物なら A と B の テレオタイプの影響と自己の影響を整理したと どちらをより好むか?”といった質問を行い, いう点で,高く評価できる。そこで本研究で 評定を求める(選好判断)。同時に,自分や典 は,このモデルのさらなる妥当性を検討するこ 型的人物に対しても性格判断や選好判断を求 とを目的にとする。具体的には,このモデルか める。そして,これら性格判断間の関連と選好 ら導かれる仮説――類似性を高く知覚した他 判断間の関連を,標的人物に対して類似性を高 者の心的状態の判断には投影がST化よりも強 く感じた場合とそうでない場合とで比較する。 く用いられるが,低く知覚した他者に対しては Ames(2004a)においても標的人物の性格や ST化が投影よりも強く用いられる――に合致 選好を尋ねる質問が含まれていたが,性格判断 する結果が,先行研究と異なるサンプル(日本 や選好判断という形で用いられていたわけで 182 マインドリーディングの推測方略 はなかった。したがって,この研究 2 は Ames かけて行うというものだった。アルバイト終了 (2004a)の概念的追試として位置づけられる。 後,日給を受け取って家路につくが,自宅で給 なお,本研究で扱うステレオタイプは,“関 料を確認すると,もらえるはずの金額よりも少 西出身者ステレオタイプ”とする。その理由 ないことがわかった”というものであった。 は,本研究の参加者である関東の大学生は、関 第2セクションは,自分の心的状態について 西出身者のイメージを広く共有しており,想像 の評定であった。まず参加者に,もしAさんが が容易であると考えられるためである。 体験した出来事(ビネット)を自分が体験した 研究1 としたら,どんな気持ちになると思うかを想像 するよう求めた。そして,“自分なら,初めて 方法 の土地できちんと目的地にたどり着けるか,不 参加者 東京成徳大学の学部学生62名(女性 安になると思う”,“自分なら,道に迷った 24名,男性37名,未回答1名)が参加した。平 時,約束の時間に遅れてしまうかもしれない 均年齢は20.4歳(SD = 1.09)であった。 と,焦る気持ちになると思う”,“自分なら, 質問紙 質問紙は4つのセクションから構成 通りがかりの人を呼び止めて道を尋ねること されていた。第1セクションには,標的人物の に,緊張すると思う”,“自分なら,アルバイ 紹介,知覚された類似性の評定,ビネットの呈 トの給料が足りないのを知って,怒りを感じる 示が含まれた。まず参加者に標的人物の紹介文 と思う”などの7つの質問を呈示し,それぞれ を読んでもらった。標的人物は“関西で生まれ に対して“まったくそう思わない”を1,“ど 育った21歳女性Aさん”とし,Aさんは現在東 ちらとも言えない”を4,“強くそう思う”を7 京の大学に通っていること,テレビのドラマ とする7件法で回答を求めた。 番組が好きであり録画をするほどであること, 続く第3セクションは標的人物の心的状態に そして運動,特にフィギュア・スケートが好き ついての評定であった。まず参加者に,先ほど で,スポーツ番組もよく見ていることといった の出来事を体験する中で,Aさんはどんな気持 情報を含む紹介文を呈示した。そして,この ちになったと思うかを想像してほしいと教示 Aさんに対してどの程度自分と似ていると感じ した。そして,自分の場合と同様の7つの質問 たかについて,“まったく似ていない”を1, (“Aさんなら,初めての土地できちんと目的 “どちらとも言えない”を4,“とてもよく似 地にたどり着けるか,不安になったと思う”, ている”を7とする7件法で回答を求めた。 “Aさんなら,道に迷った時,約束の時間に遅 続いてAさんについてのビネットを呈示し, れてしまうかもしれないと,焦る気持ちになっ 内容を理解しながらよく読むようにと教示し たと思う”など)を呈示し,それぞれに対して た。ビネットの内容は“Aさんがアルバイトの 7件法で回答を求めた。 ために,これまで一度も行ったことのない地域 最後の第4セクションでは,典型的関西出身 のある駅で降り立った。しかし,目的の場所に 者の心的状態についての評定であった。まず参 行く途中で迷ってしまい,道行く人に道順を尋 加者に,Aさんが体験した出来事を多くの関西 ねながら,ようやく目的地に辿り着いた。そし で生まれ育った人々の身に起きたら,この人々 てアルバイトが始まるが,その内容は,書類を はどんな気持ちになると思うかを想像しても コンピューターに入力するという作業を5時間 らった。そして,同様の7つの質問(“多くの 183 東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 21 号(2014) 関西人なら,初めての土地できちんと目的地に 状態についての評定値の2つ,従属変数を標的 たどり着けるか,不安になると思う”,“多く 人物の心的状態についての評定値とする重回帰 の関西人なら,道に迷った時,約束の時間に遅 分析を実施した(式1を参照)。そして,この れてしまうかもしれないと,焦る気持ちになる 分析から算出される,自分についての評定値 と思う”など)を呈示し,それぞれに対して7 に係る非標準化偏回帰係数をどの程度参加者が 件法で回答を求めた。 投影を用いたかの指標とし,典型的関西出身者 最後に参加者の性別と年齢を尋ねて,質問を についての評定値に係る非標準化偏回帰係数を 終えた。なお,標的人物に対する評定と典型的 どの程度参加者がST化を用いたかの指標とし 関西出身者に対する評定の順番(第3セクショ た。これら2つの指標を全参加者分算出し,類 ンと第4セクションの順番)は,参加者間でカ 似性の評定値の各段階で平均値を算出した。 ウンターバランスを取った。 手続き 授業時間を利用して質問紙の配布・ y = b0 + b1 x1 + b2 x2 ・・・式1 注1 回収を行った。まず本研究は“想像力に関する アンケート調査”であると説明され,実施者か なお,回答の不備により6名のデータでこの ら学生へ研究への協力が依頼された。その際に 重回帰分析が実行できなかった。また,重回 は,参加協力はボランティアであること,プラ 帰分析においてVIFが5以上を示した参加者の イバシー情報は守られることなどが説明され データは,多重共線性の問題から信頼のおける た。そして協力に承諾した学生がその場で質問 分析結果が得られなかったと判断し,除外し 紙への回答を行った。全員が回答を終えたとこ た。最終的に54名のデータが以降の分析の対象 ろで一斉に回収を行った。 となった。 知覚された類似性 分析対象となった54名の 結果 類似性評定は次のように分布していた。すなわ データの処理 標的人物の心的状態の判断 ち,1が3名,2が7名,3が8名,4が9名,5が23 において参加者が投影とST化をそれぞれどの 名,6が4名,7が0名であった。以降の分析に耐 程度強く用いたかを検討するために,Ames えうるデータ数を考慮して,まず1,2と評定し (2004a)にならい以下の分析を行った。 た参加者をまとめて知覚された類似性がもっ まず,投影を用いたのならば,標的人物の心 とも低い群とした。また5,6,7と評定した参 的状態についての評定値(あるいは7項目に対 加者をまとめて知覚された類似性がもっとも高 する評定のパターン)は,自分の心的状態につ い群とした。こうして,類似性の高さについ いての評定値(評定パターン)と強く正の関連 て評定値1&2(n = 10),3(n = 8),4(n = をするはずである。またST化を強く用いたの 9),5&6&7(n = 27)という4群を設けた。 なら,標的人物についての評定値は典型的関西 分散分析 知覚された類似性の高さによっ 出身者についての評定値(評定パターン)と強 て投影の指標とST化の指標がどのように変化 く正の関連をするはずである。 するのかを検討するために,類似性の高さ4 そこで,これらの関連の強さを指標化するた (1&2 vs. 3 vs. 4 vs. 5&6&7)×方略2(投影 めに,参加者ごとに,独立変数を自分の心的状 vs. ST化)の分散分析を実施した(Figure 2.参 態についての評定値と典型的関西出身者の心的 照)。その結果,方略の主効果が有意で,総じ 184 マインドリーディングの推測方略 ないのだろうか?この点を検討するために,研 究2を行う。 研究2 研究2では,他者の選好と性格という2つの心 的状態を扱い,選好や性格の判断において投影 とST化がどのように使い分けられているかを 検討する。具体的には,研究1と同じ標的人物 Figure 2. Projection and stereotyping in judgments about affective states as a function of the perceived similarity to the target person. Error bars indicate SEs. を参加者に呈示し,標的人物に対する性格判 断,自分に対する性格判断,典型的関西出身者 に対する性格判断を求める。次に,標的人物に 対する選好判断,自分に対する選好判断,典型 て投影の指標(M = 0.33, SD = 0.53)の方が, 的関西出身者に対する選好判断を求める。そし ST化の指標(M = -0.16, SD = 0.34)よりも高 て,これら3つの性格判断間の関連と3つの選好 い値を示していた(F (1,50) = 20.33, p < .01, 判断間の関連についてそれぞれ分析を行い,標 ηp = .29) 。その他,類似性の主効果や類似 的人物に類似性を感じた場合には,投影をより 性 × 方略の交互作用効果は有意ではなかった 強く用いてその心的状態を判断するが,類似性 (Fs < 1.5, n.s., ηp < .01)。 を感じない場合にはST化を使って心的状態を 2 注2 2 判断するという仮説を検討する。 考察 研究1では,日本人参加者を対象にAmes 方法 (2004a)の研究1を追試し,類似性随伴モデル 参加者 東京成徳大学の学部学生52名(女 から導かれる仮説に合致する結果が得られるか 性22名,男性28名,未回答2名,平均年齢18.3 を検討した。その結果,確かに標的人物に類 歳,SD = 0.44)であった。 似性を比較的高く感じた群(評定値5&6&7) 質問紙 研究2の質問紙は7つのセクションか では,投影の指標のほうがST化の指標より高 ら構成されていた。第1セクションの内容は研 かった。しかしながら,この傾向は標的人物に 究1と同様であった。すなわち,“関西出身で 類似性を感じなかった群(評定値1&2,3,4) 東京の大学に通うAさん,21歳の女性。彼女は でも維持された。すなわち,標的人物に対する テレビドラマが好きで,運動も好きである”と 類似性の感覚の高さにかかわらず,一貫して投 いった紹介文を読んでもらい,このAさんに対 影がST化よりも強く用いられていたことを示 してどの程度自分と似ていると感じたかについ 唆する結果であった。Ames(2004a)と同様 て7件法で回答を求めた。 に,ビネットを用い感情状態を扱ったが,その 第2セクションでは,参加者に標的人物につ 結果は仮説に合致せず,Ames(2004a)の結 いての性格判断を求めた。具体的には,まず参 果を再現するものではなかった。 加者に性格のBig Five理論に基づく5種類20個 それでは,選好や性格といった感情とは異な の性格特性語(例えば,“社交的”,“自信 る種類の心的状態を扱っても,仮説は支持され のない”,“まじめ”,“短気”,“のみ込 185 東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 21 号(2014) みが遅い”など)を呈示した。そして,これ を見るならどちらを選ぶと思う?フランス映 らの特性語がAさんにどの程度当てはまるかと 画,イタリア映画”など),6件法で回答を求 思うかについて,“まったく当てはまらない” めた。 を0%,“非常によく当てはまる”を100%とし 最後に,参加者の性別と年齢を尋ねて質問を た場合に何%くらいであると思うかと質問し, 終えた。なお,性格判断や選好判断において, 10%区切りの11件法で回答を求めた。第3セク 自分の判断と典型的関西出身者の判断のどちら ションと第4セクションは,自分と典型的関西 を行うか(第3セクションと第4セクションの順 出身者に対する性格判断であった。自分の性格 番,第6セクションと第7セクションの順番) 判断では,先ほどの20個の特性語が普段の自分 は,参加者間でカウンターバランスが取られ にどの程度当てはまるかと尋ね,同様の11件法 た。すなわち,自分に対する判断が先である質 で回答を求めた。典型的関西出身者の性格判断 問紙と,典型的関西出身者に対する判断が先で では,20個の特性語が多くの関西で生まれ育っ ある質問紙を同数作成し,配布した。 た人々にどの程度当てはまると思うかと尋ね, 手続き 手続きは研究1と同様であった。 11件法で回答を求めた。 第5セクションでは,参加者に標的人物につ 性格判断の結果 いての選好判断を求めた。具体的には,まず参 データの処理 研究1と同様に,独立変数を 加者に,“Aさんなら左右2つの選択肢のうち 自分の心的状態についての評定値と典型的関西 どちらがより好みであると思うか”と尋ねる質 出身者の心的状態についての評定値,従属変数 問を12問呈示した(例えば,“Aさんは,映画 を標的人物の心的状態についての評定値とする を見るならどちらを選ぶと思う?フランス映画 重回帰分析を,参加者ごとに実施した。そし (左選択肢),イタリア映画(右選択肢)”, て,自分についての評定値に係る非標準化回帰 “Aさんは,食後に飲むならどちらを選ぶと思 係数を投影の指標,典型的関西出身者について う?コーヒー(左),紅茶(右)”,“Aさん の評定値に係る非標準化回帰係数をST化の指 は,国内旅行に行くならどちらを選ぶと思う? 標とした。これら2つの指標を全参加者分算出 屋久島(左),白神山地(右)”など)。そし し,類似性の評定値の段階ごとに平均値を算出 て,これらに対して,“迷わず左選択肢を選 した。 ぶ”を1,“迷わず右を選ぶ”を6とする6件法 なお,回答の不備により16名のデータは重回 で回答を求めた。第6セクションと第7セクショ 帰分析が実行できなかった。また,分析におい ンは,自分と典型的関西出身者に対する選好判 てVIF5以上を示したケースはなかった。最終 断であった。自分の選好判断では,自分なら2 的に36名のデータが分析対象となった。 つの選択肢のうちどちらを選ぶかと尋ね(例え 知覚された類似性 分析対象となった36名 ば,“あなたは,映画を見るならどちらを選 の類似性評定は1が1名,2が2名,3が7名,4が ぶ?フランス映画,イタリア映画”など),同 8名,5が10名,6が6名,7が2名と分布してい 様の6件法で回答を求めた。典型的関西出身者 た。以降の分析に耐えうるデータ数を考慮し の選好判断では,多くの関西で生まれ育った て,まず1,2,3と評定した参加者をまとめ 人々なら2つの選択肢のうちどちらを選ぶと思 て,知覚された類似性がもっとも低い群とし うかと尋ね(例えば,“多くの関西人は,映画 た。また6,7と評定した参加者をまとめて知覚 186 マインドリーディングの推測方略 Figure 3. Projection and stereotyping in the personality judgment task as a function of the perceived similarity to the target person. Error bars indicate SEs. Figure 4. Projection and stereotyping in the preference judgment task as a function of the perceived similarity to the target person. Error bars indicate SEs. された類似性がもっとも高い群とした。こう の群を設けた。 して,類似性の高さについて評定値1&2&3(n 分散分析 類似性の高さ4(1&2&3 vs. 4 vs. = 10),4(n = 8),5(n = 10),6&7(n = 5 vs. 6&7)×方略2(投影 vs. ST化)の分散分 8)という4群を設けた。 析を実施したところ,方略の主効果が有意で 分散分析 知覚された類似性の高さによっ あった(F (1, 47) = 14.4, p < .001, ηp2 = .23)。 て,投影の指標とST化の指標がどのように変 すなわち,総じて投影の指標( M = 0.19, SD 化するのかを検討するために,類似性の高さ4 = 0.38)の方が,ST化の指標(M = -0.13, SD (1&2&3 vs. 4 vs. 5 vs. 6&7)×方略2(投影 = 0.42)よりも高い値を示した( Figure 4 .参 vs. ST化)の分散分析を実施した(Figure 3.参 照)。 照)。その結果,方略や類似性の主効果,そし また,仮説の検証とは直接関係ないものの, てこれらの交互作用効果のいずれも認められな 類似性により方略使用の程度が異なるというパ かった(Fs < 1.5, n.s., ηp < .01)。 ターンが示された(F (3,47) = 2.24, p = .10, ηp2 2 = .13)。投影とST化の指標を合わせた値は, 選好判断の結果 類似性評定が4の群(M =0.12, SD = 0.44)の方 データの処理 性格判断と同様のデータ処理 が5の群(M = -0.1, SD = 0.41)に比べ高く(p を行った。回答の不備により1名のデータは重 = .03),また6&7の群(M = 0.14, SD = 0.43) 回帰分析が実行できなかった。また、分析に の方が5の群に比べ高かった(p = .04)。最 おいてVIF5以上を示したケースはなかった。 後に,交互作用効果は有意ではなかった( F 最終的に分析対象となったのは51名のデータで (3,47) = 0.19, p = .91, ηp2 = .01)。 あった。 知覚された類似性 分析対象となった51名の 考察 類似性評定の分布は,1が1名,2が3名,3が9 研究2では,性格や選好の判断において,類 名,4が13名,5が17名,6が6名,7が2名であっ 似性随伴モデルが示す通りに投影とST化が使 た。性格判断の結果と同様に分類を行い,類似 い分けられているかを検討した。その結果,ま 性の高さについて1&2&3(n = 13),4(n = ず性格判断においては,類似性の各群によって 13),5(n = 17),6&7(n = 8)という4つ 投影の指標とST化の指標の高さに違いが認め 187 東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 21 号(2014) られなかった。参加者は,知覚された類似性 なぜ結果は仮説と合致しなかったか? の高さにかかわらず,投影とST化を同程度用 それでは,なぜ“知覚された類似性が高いほ いていたことが示唆された。この結果はモデル ど投影がより強く用いられ,それが低いほど から導かれる仮説とは合致しないものである。 ST化がより強く使われる”という仮説は支持 また,選好判断の結果も仮説とは合致しなかっ されなかったのだろうか。 た。類似性の低い群でも高い群でも,総じて投 まず,感情状態や選好の判断の結果について 影の指標の方がST化の指標よりも高かったの 考察する。これらの判断では,知覚された類似 である。つまり,他者の選好判断において参加 性の高さにかかわらず一貫して投影が強く用い 者は,知覚された類似性の高さに関わらず一貫 られていた。こうした結果が得られた理由とし して投影を強く使っていたことが示唆された。 て,本研究の参加者が日本人であったことが 総合考察 挙げられるかもしれない。集団の認知に関す る文化差について検討したYuki(2003)によ 本研究では,社会的判断における類似性随伴 れば,北米の人々にとって集団とは,比較的同 モデル(Ames, 2004a, b)の妥当性を,先行研 質の成員から構成された明確な実体(entity) 究とは異なるサンプルや課題を用いて検討し であるという。それに対して,東アジアの人々 た。具体的には,このモデルから導かれる“類 は,集団を比較的個性的・個別的な人同士の 似性を高く知覚した他者の心的状態の判断には つながりやネットワークとして捉えるという 投影がST化よりも強く用いられるが,低く知 (Figure 5.参照)。このことを踏まえれば,日 覚した他者に対してはST化が投影よりも強く 本人参加者が“関西出身のAさん”という情報 用いられる”という仮説に合致する結果が,日 を目にしても,“Aさんは,多くの関西出身者 本人サンプルを用いたり,感情状態の判断の他 と同じ特徴を持つ”とは考えにくいだろう。そ に性格判断や選好判断を用いたりしても得られ うであれば,Aさんの心的状態の推測に関西出 るかどうかを2つの研究から検討した。その結 身者に関するステレオタイプを用いる程度も低 果,感情状態や選好の判断においては,知覚さ くなる,つまりST化はあまり使われないとい れた類似性の高さに関わらず,一貫して投影が うことになる。そしてST化を利用する代わり ST化よりも強く用いられていたことが示され に参加者は,投影を用いたのかもしれない。 た。一方で,性格の判断においては,知覚され なお,本研究と同じく類似性随伴モデルにつ た類似性の高さに関わらず,投影とST化が同 いて検討した研究として,石井・竹澤(2012) 程度用いられていたことが示された。 とIshii & Takezawa(2012)の報告がある。彼 以上から,本研究の結果はいずれも類似性随 伴モデルから導かれる仮説とは合致しないもの であった。総合考察では,まず仮説と合致しな い結果が得られた理由について考察し,次に感 情状態や選好の判断と性格の判断とで異なる結 果が得られた点について考察する。そして,こ れらから類似性随伴モデルの妥当性と適用範囲 について議論をしたい。 188 Figure 5. Cognitive representations of self and in-group in North American (left) and East Asian (right) cultural contexts. “S” indicates “Self”. This figure is from Yuki (2003). マインドリーディングの推測方略 らもAmes(2004a)を日本において追試して メカニズムが働いていた可能性がある。私たち いるが,本研究と同じように,参加者は類似他 は,他者に関する少量の情報から,その他者が 者にも非類似他者にも投影をより強く用いたと どのような性格をしているかについて豊富に推 報告している。そして,ST化が文化によって 測できることが示されているのである。例え 使われる程度が異なる文化依存的な心的状態の ば,社会心理学の印象形成の分野では,人々は 推測方略であり,投影方略は文化に依存しない 暗黙の性格観(implicit personality theory)と 普遍的な方略である可能性を指摘している。 いうべきものを持つと指摘されている。私たち 以上のように,北米での先行研究と異なり, は,“明るい”という性格特性を持つ人は,同 日本ではST化が使われにくい傾向があると考 時に“社交的”であったり,“陽気”であった えられる。ただし,この説明は感情状態や選好 りするという風に推論をするというわけであ の判断に対しては当てはまるが,性格判断には る。言い換えれば,私たちはある性格特性を 当てはまらない(研究2の性格判断において, 持つ人が別の性格特性をどの程度強く持つか 投影とST化が同程度使われていたことが示唆 という関係性について,既に知識体系というべ されている)。この点はどのように解釈したら きものを持っている。さらに,他者の性格特性 良いだろうか。 の推測は,その他者の行動描写を見ただけで 自発的・自動的に進行すると考えられている なぜ感情や選好の判断と性格判断で結果が異 (Winter & Uleman, 1984)。これは自発的特 なったか? 性推測と呼ばれており,私たちの性格特性の推 感情や選好の判断と性格判断とで結果が異 測が,他の心的状態の推測とは異なる性質を持 なっていたことは,これらの間で推測のメカニ つ可能性を示している。 ズムが異なっている可能性を示しているかもし こうした議論を踏まえると,標的人物Aさん れない。 についての紹介文やビネットを読んだ時点で, 日常生活において,私たちが他者の感情状態 参加者はAさんについて比較的明瞭な性格イ や好みを推測するときには,その他者の表情を メージを,意識はせずとも,形成していたかも 参考にしたり,あるいは過去にその人物がどん しれない。そうであれば,自分の心的状態やス な感情状態になっていたか,どんなものを選択 テレオタイプを参照せずとも,参加者は標的人 したか(好んでいたか)といった情報を参照し 物Aさんについての性格判断が行えただろう。 たりする。それに対して,本研究の参加者は, 以上のように,感情状態や選好と性格では, 表情や過去の履歴といった情報を利用すること その判断のメカニズムに違いがあると考えられ はできなかった。質問紙を用いていることから る。そして,そのことが本研究で見られた感情 表情は参照できず,標的人物は参加者にとって や選好についての判断結果と性格判断の結果の まったく新奇な(架空の)人物であったからで 違いを生んだのかもしれない。ただ,この説明 ある。したがって参加者は,自分の心的状態 はなぜ性格判断において投影とST化が同程度 や(本研究では使われなかったものの)ステレ 使われていたかという点まで解決するものでは オタイプといった社会的知識を利用するほかな ない。推測メカニズムに違いがあるとすれば, かったのだろう。 その違いが投影やST化の使用にどのような帰 一方で,性格の判断にはこれとは異なる推測 結をもたらすか。こうした点については,今後 189 東京成徳大学研究紀要 ―人文学部・応用心理学部― 第 21 号(2014) の検討が必要である。 もちろん,弁護士ステレオタイプを扱った石 井・竹澤(2012)やIshii & Takezawa(2012) 類似性随伴モデルの妥当性 でも,本研究の研究1と同様の結果が報告され これまでの議論を踏まえて,類似性随伴モデ ていることから,結果の一般化可能性はある程 ルの妥当性と適用範囲について考察する。ま 度担保されているとも言える。ただし,これら ず,このモデルの適用範囲について,北米など の研究では性格判断や選好判断は扱っておら の集団を実体のあるカテゴリーとして認識する ず,研究2の再現性については,別のステレオ 文化圏に限られる可能性が指摘できる。既に述 タイプを用いるなどして,改めて検討する必要 べたように,東アジアでは,標的人物を,その があろう。 人物の所属する集団の成員と同質であるとは捉 第二に,本研究ではサンプル数がそれほど多 えない傾向にあると思われる。こうした文化の くなかった上に,分析における除外データが多 人々は,他者の心的状態においてST化を適用 かった。さらに,研究1と研究2で判断順序が一 する傾向は低く,代わりに投影を使うのだと考 貫していないなど,方法上の修正点も認められ えられる。 る。こうした点は確かに細かな点であるが,本 また,Ames(2004a, b)も指摘する通り, 研究結果の信頼性(頑健さ,再現性)は改めて 心的状態の推測といっても,表情などの非言語 確認する必要がある。 的情報やその人物についての知識が使える状況 第三に,類似性随伴モデルの妥当性について なのか,そうした情報が使えない状況なのかに さまざまに考察したが,これはあくまで推測の よって,推測に用いる情報やそのメカニズムは 域を出ていない。例えば,北米と東アジアでの 異なる。そして,表情や知識が使えない状況に 比較文化研究を行っているわけではない。ま おいて,類似性随伴モデルは有効になる。ただ た,性格判断と選好判断を行った参加者は同一 し,たとえ表情や相手についての知識が使えな であるため,これらの結果は直接比較可能であ くても,人々は性格特性については比較的少な る。しかし,感情状態と性格判断を行った参加 い情報から豊富に推測ができるのであり,こう 者は別であるため,直接の比較は難しいかもし した場合には,投影やST化を用いずとも性格 れない。さらに,性格判断においてのみ異なる の推測や判断が可能であろう。したがって,性 結果のパターンが得られた点について明確な説 格の判断においては,このモデルがどの程度 明がつけられなかった。このモデルの妥当性に 当てはまるかは検討の余地が残ると言えるだろ ついて議論するには,以上の問題をクリアする う。 必要がある。 他者の心的状態を推測する能力は,ヒト 今後の課題 に特有の認知能力である可能性が議論され 最後に,本研究の限界と今後の課題について ており(e.g., Humphrey, 1986 垂水訳 1993; 3点議論する。 Tomasello, 1999 大堀・中澤・西村・本多訳 第一に,本研究では扱ったステレオタイプは 2006),ヒトの社会を理解する上で重要な能力 関西出身者ステレオタイプのみであった。した であると思われる。以上の検討を通じて,他者 がって,本研究の結果がこのステレオタイプに の心的状態の推測メカニズムについて,社会心 固有のものであったとの批判も可能であろう。 理学にとどまらず,心の哲学や認知科学神経科 190 マインドリーディングの推測方略 学,発達心理学などの知見と整合の取れる理論 体系を構築することが重要であろう。 注 注1 yは従属変数で,今回は他者の心的状態につ いての評定値。x1とx2は独立変数で,それぞれ自分 の心的状態についての評定値(x1)と典型的関西出 身者の心的状態についての評定値(x2)。b0は定数 項,b1はx1の非標準化偏回帰係数,b2はx2の非標準 化偏回帰係数である。b1の値は,x2からx1への影響 を除いた時, x1の変動よってyの変動をどれだけ説明 できるかを示し,b2も同様にx1からx2への影響を除 いた時,x2の変動よってyの変動をどれだけ説明で きるか示す。そして,b 1を投影の指標,b 2をST化 の指標とした。 注2 統計的仮説検定の結果だけでなく効果量も 示すべきという議論(APA, 2001,Klein, 2004) に従って,効果量を示す。今回の分析は反復測度 2 2 を含むため,partial η (ηp ,偏イータ二乗)用い 2 た。なお,ηp は次の式で求められる。 ηp2 = SSfactor / (SSfactor + SSerror) SSfactorは要因の平均平方(sum of square), SSerrorは誤差の平均平方を表す。すなわちηp2は, 要因と誤差で説明できるデータ変動のうち,要因 によって説明できる変動がどの程度を占めるかと いう割合を示す。この指標は.10を小さな効果,.25 を中程度の効果,.40以上なら大きな効果と解釈で きる。 引用文献 American Psychological Association. 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Social Psychology Quarterly, 66, 166-183. 謝辞 本研究の計画段階において,竹澤正哲先生(北 海道大学大学院文学研究科)に多くの助言を頂き ました。記して感謝申し上げます。 付記 本研究は,筆者の指導のもとで,東京成徳大学 応用心理学部健康スポーツ心理学科の2013年度卒 業生が実施したものである。 192