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平成27年度・第51集

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平成27年度・第51集
教育研究論文
第
51
集
船橋市総合教育センター
平成27年度
第51回
三
教 咲
諭 小
学
中 校
村
三
教 咲
諭 小
学
佐 校
藤
法
教 典
諭 小
学
田 校
中
芝
教 山
諭 東
小
吉 学
川 校
博
明
脩
平
基
紀
泰
斗
芝
教 山
諭 西
小
谷 学
川 校
船
教 橋
諭 小
学
佐 校
藤
一
仁
圭
一
湊
教 町
諭 小
学
小 校
島
瑠
理
子
養
護
教
諭
三
咲
小
学
校
市
毛
有
美
栄
養
教
諭
法
典
西
小
学
口 校
野
佳
奈
教育研究論文
田
教 喜
諭 野
井
田 小
中 学
校
邦
治
法
教 田
諭 中
学
飯 校
沼
樹
里
済
西
教 海
諭 神
小
荻 学
野 校
市
教 場
諭 小
学
市 校
原
葛
教 飾
諭 小
学
藤 校
巻
克
利
果
林
正
哉
三
教 咲
諭 小
学
尾 校
上
高
教 根
諭 東
小
飯 学
島 校
学
部 校
長 教
育
秋 部
山
哲
史
彩
子
孝
審
教 査
授 員
長
坂
田 日
本
女
仰 子
大
御
教 滝
諭 中
学
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勢
﨑
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育 橋
長 市
教
松 育
本 委
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文 会
化
受賞者
二
教 宮
諭 中
学
竹 校
之
内
裕
美
船
教 橋
諭 特
別
塩 支
田 援
亜 学
沙 校
美
船
教 橋
諭 特
別
永 支
井 援
学
美 校
紀
葛
教 飾
諭 小
学
加 校
瀬
谷
雄
生
葛
教 飾
諭 小
学
石 校
田
小
教 栗
諭 原
小
熊 学
木 校
千
佳
子
総
所 合
長 教
育
秋 セ
元 ン
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大 |
輔
朋
子
法
教 典
諭 西
小
町 学
田 校
若
教 松
諭 小
学
中 校
澤
竜
太
悠
紀
序
昭和40年、当時の船橋市教育委員会学校教育課が「教育実践研究の記録」
と い う 形 で 教 育 論 文 を 募 集 し ま し た 。「 か く れ た 研 究 者 の た め に 、 そ の 発 表 の
機会を開き、これを広く全市の教師の参考に資するため」として始められたこ
の事業は、その後、所管が船橋市立教育研究所、さらに総合教育センターと移
りました。途中、冊子のタイトルが変更されたり、賞が設置されたりと変遷は
ありますが、毎年継続され、今年度で第51回を数えるまでに至り、その都度
論文を冊子にまとめてきております。
さて、この研究論文集は、船橋市内の学校において、日々の教育活動におけ
る自らの実践を問い、新たな方向付けを模索されている方々の貴重な研究と記
録と記録を収めたものです。
創刊された昭和40年度の第1集から今年度で第51集となります。この間
に掲載された論文は806編に上り「船橋教育」の貴重な共有財産となってい
ます。日々の多忙な教育実践の中で、真摯な教職員の皆様の姿がこの論文集に
集積されてまいりました。
本年度も、小学校、中学校、特別支援学校から24編の応募があり、教諭、
養護教諭、栄養教諭の皆様の、それぞれの立場からの論文が寄せられたことは
意義深いものがあります。
応募された論文の内容は,教科・道徳・学級経営だけではなく、小学校英語
活 動 、 ICT 活 用 、 ア ク テ ィ ブ ・ ラ ー ニ ン グ 、 健 康 教 育 、 保 健 教 育 、 給 食 指 導 、
生徒指導、特別支援教育等、多岐に渡り、喫緊の課題に迫るテーマも多くなっ
ています。そして、どの論文からも、子供たちの望ましい変容を願い、教育活
動の工夫・改善に取り組む教職員の皆様の熱い思いが伝わってきました。
この度、24編の論文を「教育研究論文-第51集-」として刊行すること
で、今後の教育実践や研究に何らからの示唆を汲み取っていただければ幸いで
す。
最後に、論文をまとめられた皆様の教育への熱意に心から敬意を表しますと
ともに、論文の審査にあたってくださいました審査員長の日本女子大学教授坂
田 仰先生をはじめとする、審査員の方々、そして、各学校でご指導ください
ました皆様に、衷心より御礼を申し上げます。
平成28年3月
船橋市総合教育センター
所 長
秋元 大輔
“チーム学校”による個に応じた指導
2 0 1 5 ( 平 成 2 7 ) 年 1 2 月 , 中 央 教 育 審 議 会 は ,「 チ ー ム と し て の 学 校 の 在 り 方 と
今 後 の 改 善 方 策 に つ い て 」 と 題 す る 答 申 を 公 に し た ( 中 教 審 第 1 8 5 号 )。 そ の 中 心 課 題
は ,子 ど も と 向 き 合 う 時 間 を 確 保 す る た め の 体 制 を ど の よ う に 整 備 す る か に 置 か れ て い る 。
答申によれば,日本の教員は,学習指導,生徒指導,部活動等,幅広い業務を担い,子ど
もの状況を総合的に把握して指導しているが,その割に欧米諸国と比較して,教員以外の
専門スタッフの配置が少なく,勤務時間が長くなっているという。
その対策として,中央教育審議会が打ち出したのが“チーム学校”である。その実現に
向けて,専門性に基づくチーム体制の構築,学校のマネジメント機能の強化,教員一人ひ
とりが力を発揮できる環境の整備が急務となる。だが,改めて指摘するまでもなく,学校
の主人公は一人ひとりの子どもである。その個性を尊重し,能力を最大限伸ばせるよう,
個に応じた指導が求められている。
第 5 1 回 を 迎 え た 「 教 育 研 究 論 文 」 を ,“ チ ー ム 学 校 ” に よ る 個 に 応 じ た 指 導 と い う 視
点 か ら 捉 え る な ら ば ,若 干 ,不 満 が 残 る 部 分 が 存 在 し て い る 。そ れ は ,管 理 職 ,栄 養 職 員 ,
事務職員等の応募が,皆無あるいは極めて少数に止まっていた点である。船橋市の学校に
おいて“チーム学校”を実現する。この強い決意の下,来年度は,一般教員以外の教職員
が奮起し,多数の応募があることを期待したいと思う。
こ の 点 は さ て お き ,応 募 論 文 の 質 と い う 面 に お い て は ,十 分 に 満 足 の い く 状 況 と い え る 。
24点に上る応募論文の一つひとつが,日頃の教育実践と深く結びついており,子どもと
共に悩み,成長する教員像が読み取れる論文が多かった。中でも,飯島彩子教諭の「科学
的な思考力を高めるための問題解決学習-5年「電流がうみ出す力」の学習を通して-」
は秀逸であった。学校全体としても,また,研究者個人としても,日常の蓄積が遺憾なく
表 現 さ れ て お り , 論 証 も 極 め て 堅 実 で あ る 。「 学 習 過 程 を 工 夫 し , 見 通 し を も っ た 問 題 解
決学習を行う」という基本スタンスは,理科だけではなく,全ての教科・科目に共通する
要素と言えるだろう。
最後に,三咲小学校から4点,葛飾小学校から3点と,同一校から多くの応募があった
ことを記録に止めたい。校長のリーダーシップの下,個々の教員が課題を設定し,研究に
取り組む様子が見て取れる。この研究と教育の往還が,船橋市内の全ての学校に浸透して
い け ば ,“ チ ー ム 学 校 ” に よ る 個 に 応 じ た 指 導 が 自 ず と 実 現 す る の で は な い か 。
平成28年3月1日
審査員長
略
坂田
仰
歴
昭 和 5 8 年 ,立 命 館 大 学 卒 業 後 ,大 阪 府 立 高 等 学 校 で 社 会 科 教 諭 と し て 勤 務 。そ の 後 ,
東京大学大学院法学政治学研究科博士課程を経て,日本女子大学に赴任。専攻分野は,
公 法 学 ,公 教 育 制 度 論 。( 独 )教 員 研 修 セ ン タ ー に お い て 中 央 委 研 修 の 講 師 を 務 め る 等 ,
現 職 教 員 の コ ン プ ラ イ ア ン ス 意 識 の 向 上 に 向 け て 研 究 ,教 育 活 動 を 展 開 し て い る 。ま た ,
教育関係の近著として,
『いじめ防止対策推進法
全 条 文 と 解 説 』学 事 出 版( 2 0 1 3 ),
『生徒指導とスクール・コンプライアンス』学事出版(2015)等がある。
目
序
審査評
次
船橋市総合教育センター所長 秋元
審査員長
坂田
1 教育長賞【研究論文】船橋市立高根東小学校
教諭 飯島
題名 科学的な思考力を高めるための問題解決学習
ー5年「電力がうみ出す力」の学習を通してー
2 優秀賞【実践記録】船橋市立三咲小学校
教諭
題名 発達に課題をもつ児童の理解と支援の在り方
ー発達通級指導教室での指導事例を通してー
3 優秀賞【実践記録】船橋市立法典西小学校
題名 子供の力を伸ばす教師の行動・言葉がけ
ー体育科の実践を通してー
教諭
尾上
大輔
仰
彩子
哲史
町田
竜太
4 優秀賞【実践記録】船橋市立法典西小学校 栄養教諭 口野
題名 行動変容をめざした給食指導
ー第1学年におけるフィールドワークを通してー
佳奈
5 優良賞【実践記録】船橋市立若松小学校
教諭 中澤
題名 青年海外協力隊 帰国後のあゆみ
ー南太平洋の国バヌアツ共和国での2年間の
経験を生かした国際理解教育・外国語活動ー
悠紀
6 優良賞【実践記録】船橋市立三咲小学校
養護教諭 市毛 有美
題名 自らの健康に興味・関心を持ち、実践できる児童の育成を目指して
ー『風邪予防』をテーマにした保健委員会活動4年間の実践報告ー
7 優良賞【研究論文】船橋市立芝山西小学校
教諭 谷川 一仁
題名 社会科学習におけるアクティブラーニングのあり方
ー価値判断を取り入れた「水はどこから」の実践を通してー
8 奨励賞【実践記録】船橋市立船橋小学校
教諭 佐藤 圭一
題名 学校教育目標具現化のための教育課程の編成
ーグランドデザインをもとにした教育課程の具体的方策ー
9 奨励賞【実践記録】船橋市立湊町小学校
教諭 小島瑠理子
題名 社会科における法教育の在り方の一考察
ーCenter for Civic Education による問題解決的な学習を参考にしてー
10 奨励賞【実践記録】船橋市立市場小学校
教諭 市原 果林
題名 0からの特別支援校内体制づくり
ー学級担任と兼務の特別支援教育コーディネーターとしてー
11 奨励賞【実践記録】船橋市立西海神小学校
教諭
題名 思いやりの心を育む道徳教育について
ー要の道徳と他教科との連携を通してー
荻野
克利
12 奨励賞【実践記録】船橋市立葛飾小学校
教諭 藤巻 正哉
題名 確かな学力をはぐくむ算数科学習指導
ー既習事項をいかしたスモールステップを取り入れた、
第5学年「単位量当たりの大きさ」の指導を通してー
13 奨励賞【実践記録】船橋市立葛飾小学校
教諭
題名 学校の実態に合わせた運動時間増加への取組
ー体つくり運動や休み時間の活動を通してー
加瀬谷雄生
14 奨励賞【実践記録】船橋市立葛飾小学校
教諭
題名 主体的に文学的な文章を読むことの学習指導
ー単元を貫く言語活動を位置づけた実践ー
石田
朋子
15 奨励賞【実践記録】船橋市立小栗原小学校
教諭 熊木千佳子
題名 小学校外国語活動において「意味のある」活動を目指して
ータスクを取り入れた活動の試みー
16 奨励賞【実践記録】船橋市立三咲小学校
教諭
題名 書く力の向上を目指した実践記録
ー短作文の取り組みによる効果についてー
中村
博明
17 奨励賞【研究論文】船橋市立三咲小学校
題名 体育の授業における見学者の学び
佐藤
脩平
18 奨励賞【実践記録】船橋市立法典小学校
教諭 田中
題名 子供を変える生徒指導の取り組み
ー共通理解・視覚化と参画のシステムづくりー
基紀
19 奨励賞【実践記録】船橋市立芝山東小学校
教諭
題名 児童が生き生きと活躍する発表作りをめざして
ー創作音楽劇を通してー
吉川
泰斗
20 奨励賞【研究論文】船橋市立田喜野井小学校
教諭
題名 田喜野井小学校健康教育の研究
ー心も体も元気な児童の育成を通してー
田中
邦治
21 奨励賞【実践記録】船橋市立法田中学校
教諭
題名 生徒の学ぶ意欲を高めるための授業づくり
ーICTを活用した授業改善を通してー
飯沼
樹里
22 奨励賞【教材・教具の開発】船橋市立御滝中学校 教諭
題名 地中海性気候をとらえる教具開発
ーイタリアのドリンクメニューを通してー
伊勢﨑
23 奨励賞【実践記録】船橋市立二宮中学校
題名 数学的な表現力を高めるための授業実践
ー図形の証明の学習を通してー
竹之内裕美
教諭
教諭
済
24 奨励賞【実践記録】船橋市立船橋特別支援学校
教諭 塩田亜沙美
教諭 永井 美紀
題名 自立活動におけるソーシャルスキルトレーニングの実践
ー「ほかほか」と「ちくちく」を通してー
教 育 研 究 論 文
第51集
【研究論文】
科学的な思考力を高めるための問題解決学習
~5年「電流がうみ出す力」の学習を通して~
船橋市立高根東小学校 教諭 飯島 彩子
1 主題について
<学習指導要領から>
合える場面があまりないために,自分の考えをな
かなか深めることができなかった。この児童同
現行の学習指導要領(平成20年3月告示)
士の交流が理科学習においては非常に重要だと
は,OECD(経済協力開発機構)のPISA
考える。そこで,科学的思考力・表現力を高める
の調査などでの日本の児童生徒についての課題
ための手立てとして,見通しをもった問題解決学
をうけて,いくつかの改善の方針が出された。本
習を行い,児童同士の「伝え合い活動」の充実を
研究では,その中で「科学的な思考力・表現力の
はかっていきたいと考えた。
育成を図る観点から,学年や発達の段階,指導
できなかったのではないかと考える。また,児童
<単元の設定について>
本単元「電流がうみ出すはたらき」では,電
磁石の性質を調べたり,電磁石のはたらきが大
きくなるための方法を考え調べたりするが,教
師側から与えた実験方法で実験を行ってしま
ったり,実験キットの説明書通りに進めたりす
るような現状がある。また,実験方法を自由に
考えさせると結果が不可能な実験になってし
まうこともある。そこで,単元のはじめにこれ
からの課題となるような問題を見つけ,これか
らの見通しをもたせる。単元を通しての目的
をはっきりとさせれば,解決させるための方法
もおのずと自分たちで考え主体的な活動がで
きるようになるはずである。また,体験活動で
は他のグループが実験している様子を見られ
るようにしたり,結果の共有で表を使ったりす
ることで,比較や検討をしやすくする。さらに
少人数のグループで話し合ったことを全体で
考え,それをそれぞれの個々の考えに戻すとい
う「伝え合い活動」を行うことで自分の考え
が深まるようにしたい。
5年生では身につけるべき問題解決の能力
として「条件制御」があるが,本単元では自分
で目的に合った実験方法を考える中で,条件
制御を意識し,それをふまえて実験の流れを
導き出し,筋道を立ててまとめられるように
させたい。
2 研究の実際
(1) 研究仮説
が互いに情報を伝え合える場面が少なかったこ
学習過程を工夫し,見通しをもった問題解決
とである。実験の気付きが自分だけのものにな
学習を行うことで,児童に目的意識をもたせ,
ってしまい,それをグループや学級全体で共有し
科学的な思考力を高められるだろう。
内容に応じて,例えば,観察・実験の結果を整
理し考察する学習活動,探究的な学習活動を充
実する方向で改善する」〔学習指導要領:改善の
基本方針(ウ)〕に注目し,理科学習における言
語活動の充実を図りたいと考えた。
<児童の実態から>
本学級の児童に,自分の考えを書きなさいと
指示しても,なかなか書けない児童が見受けら
れる。また,自分の考えをノートに予想や考察を
ノートに書いたとしても,的外れな意見や読み手
に伝わらない内容を書く児童もおり,自分の考え
を文章で表現できない児童が多い。観察や実験
において,様子や現象を見ることには意欲的だが,
その結果からわかったことを文章にする活動に
は苦手意識をもっている児童が多いことがわか
った。理科への関心や意識は高いのにもかかわ
らず,ただ現象や実験,ものづくりが楽しいだけ
にとどまり,その先の理解へとつながっていない
のが現状である。
その原因としてはまず,今まで児童は教師主体
の「観察・実験」を行ってきたために,目的をよ
く理解しないままで活動を行ってきたというこ
とが挙げられる。その結果,見通しを持たないま
まで活動をおこない,考察を自分で考えることが
科学的思考力については平成23年度に国
立教育政策研究所教育課程研究センター関係
指定事業研究協議会の資料に記載されている
「科学的な手続きを踏まえ,論理的に考え,表
現できる姿」ととらえ,研究を進める。
(2) 研究の内容・方法
① 船橋市立高根東小学校5年2組26名の
実態調査を行う。
② 科学的な思考力が高まるための問題解決
学習の具体的な方策を検討する。
③ 検証授業を実施する。
④ 研究の結果・考察を行う。
(3) 研究の具体的内容
①実態調査
(調査対象:船橋市立高根東小学 5 年 2 組
26 名 調査方法:質問紙法)
ア 理科への関心・意欲
あま
り好
きで
は…
好き
では
ない,
0とて
も好
き,
15
好き,
10
予想
飼
を書
育,
く,
2 2
特に
なし,
3
ほとんどの児童は「特になし」だったが,次が「書
く・まとめる」
「実験やり方」と続き, 観察や実
験などの活動が好きな一方,それ以外の考察や
まとめには苦手意識をもつている児童が多いこ
とがわかった。これらのことから,本研究では
児童の関心が高かった「実験」を通して,ただ
単に現象を楽しむだけではなく,思考を伴った
活動の中で,わかったことを考えさせ,それを表
現させる言語活動を行っていきたい。
イ
理科活動についての意識
11
11
12
12
12
13
感想をかく
気がついたことを書く
自分の考えを発表する
実験方法を考える
予想を考える
まとめる
実験を行う
0
図4
実験,
13
感想をかく
自分の考えを発表する
観察,
8
気がついたことを書く
実験方法を考える
予想を考える
理科は好きか N=26
特になし, 11
図2
5
4
天気の観察, 2
8
8
火を使った実
験, 2
虫の観察, 2
理科で嫌いなこと N=26
図1~3は理科学習に対する関心や意欲をア
ンケートで調べたものである。図1の「理科が
好きですか」では,クラスの大半が「とても好
き」
「好き」と答えていて「あまり好きではない」
と答えた児童は 1 名だった。理由としては「実
験のやり方がよくわからない」というものだっ
た。この結果から,クラス全体では理科への関
心が高い児童が多いことがうかがえる。また,
「あまり好きではない」と答えた児童に対して
はより分かるような学習の支援を考えていきた
い。図2,3ではそれぞれ理科学習で「好きな
こと」,「嫌いなこと」を質問した。図2の「理
科で好きなこと」を見ると,
「実験」が好きな児
童が一番多く,次に「観察」が多かった。また
一方で,図3の「理科で嫌いなこと」を見ると,
図5
15
20
25
複数回答可
11
11
10
0
書く・まとめ
る, 5
実験のやり
方, 3
図3
実験を行う
理科で好きなこと N=26
月や星の観
察, 1
10
理科学習で得意なこと N=26
まとめる
図1
5
24
理科学習で苦手なこと N=26
10
複数回答可
図4で,実験を行うことが得意な児童が多い
一方で,それ以外の学習を得意とする児童は半
数もいなかった。また図5でも,書いたり発表
したりといったことに苦手意識をもつている
児童が多い。
「実験のやり方の方法がわからな
い」「感想が思いつかない」「発表するのがは
ずかしい」といった理由があった。そこで,ま
ず自分の意見がもてるような体験活動を十分
に行う。その中での個人の気付きを,少人数の
話し合い活動の中で伝える場面をつくる。さ
らにイメージ図なども取り入れ,相手に分かり
やすく伝えられるように試行錯誤することで
表現力を高めていきたい。また,他の人の違っ
た意見から視野を広げ,より自分の考えを深め
させたい。
②科学的な思考力が高まるための問題解決
学習の具体的な方策を検討する。
理科においての主体的な問題解決学習を実
践し,科学的思考力を高めていきたいと考え,
方策を検討した。図6に示したように,導入の
体験活動での気付きを課題とし,今後の見通し
をもたせる。理科学習の流れの中で,伝え合
い活動やイメージ図など思考力を高めるため
の手立てを取り入れることで,問題解決の能力
が育成され,自分の言葉で表現できるようにな
る。そしてゴールとなる科学的な思考力が育
成できるだろうとした。
一人一つの実験道具を与えると確かに一
人当たりの活動時間は多くなるが,自分の結
果だけに固執してしまいがちである。そこ
で,教室の真ん中に大きな枠を作り,釣り竿を
もって魚をつれるようにした。大きな場で児
童の興味をひくのはもちろん,他の人の活動の
様子も見られ,児童同士の交流が深まるだろう
と考えた。
c ルールの変更によって,質の高い気付きを出
させる。まず,児童に場の様子を見させ「磁石
で釣る」という意見を出させた。
「大きな魚ほ
ど得点が高い」
「制限時間は2分間」というル
ールを設定すると,魚を引きずる児童がでてく
る。そこで,「釣った魚は中央の箱の中に入れ
る」というルールに変更した。すると,磁石に
ついた魚がなかなか取れないことに気が付
く。ここで,電磁石の釣り竿を登場させる。
児童は釣り竿の手元のスイッチを切ると,電
流が流れなくなり,魚が上手く箱に入るという
便利さに興味をもつ。また,始めの設定では磁
力の弱い電磁石の釣り竿を使うため,児童はも
科学的思考力の高まりのモデル
っと重い魚も釣ってみたいと思うようにな
方策1 見通しをもたせるための導入
a 興味・関心をもつ導入教材
導入では,釘に魚のイラストをつけて,そ
れを磁石や電磁石の釣り竿でつるという魚
釣りゲームで興味・関心を持たせた。また,
釘の大きさを変えることで,様々な重さの魚
を用意する。釣れない魚があることから,も
っと電磁石のはたらきを大きくしたいと児
童に思わせるねらいがある。安全性を考え,
釘の先にはビニールテープを巻いた。
る。この一連のゲームのルール変更の流れに
図6
上から
銅
爪楊枝
ストロー
よって,磁石の性質を振り返ったり,電磁石の
性質に興味をもっ
たりし,気付きの質
も高くなるはずで
ある。
方策2 理科学習の流れ
理科の学習の流れは,本校が生活科・理科
の研究校であるため,学校全体で統一してお
こなっている。単元を通して,学習課題→予
想→実験→結果→まとめ→感想ですすめてい
て,図
のように掲示物がすべての教室と理科
室に掲示されている。そのため,この学習の流
れに慣れれば,最終的には児童に課題を与えれ
ばこの流れにそって自主的に実験の活動がで
また,鉄以外の素材を使った魚もつくっ
た。磁石は鉄以外の金属や素材にはつかな
いという既習事項が児童に定着していない
という実態があったからだ。
b 互いの活動を見合えるような場の工夫
きるだろうと考える。
理科学習の流れ【
】は児童向けの説明
学習問題 【学習することをつかもう。】
方策4 思考力を高めるための工夫
a ノート指導
・学習問題は前時の感想から出したり,導入
ノートは内
での児童の気付きからたてたりする。
容ご とに 見開
予想
き1 ペー ジを
【今でに学習したことや経験から
考えよう。】 伝え合い活動
実験
【実験の方法を考えて,安全に気を
つけながら正しく実験しよう。】
・条件制御をふまえた計画を立てさせる。
・何度も実験を行い,再現性を確かめる。
【わかりやすく ,正確に記録しよ
結果
伝え合い活動
う。】
・班ごとの結果を言葉・図・表・グラフなど
でまとめ,客観性を検証する。
まとめ【学習問題にかえってまとめよう。
】
・児童の考察からまとめていく。
感想
【おどろき,知りたいこと,新たな問
題を書こう。】
使用し,思考の
過程がわかる
ように,書き方を定着させる。
b イメージ図
電磁石の性質や,はたらきを大きくするた
めの予想としてイメージ図をかかせる。例
えば,「コイルの巻き数を変えるとどうなる
か」という予想では,感覚として巻き数が多
いほうがはたらきは大きくなるだろうと考
えても,なかなか根拠のある予想が考えられ
ない。そこで,イメージ図を使うことで,コイ
ルの巻き数と電流の流れや磁力など様々な
ものと関係付けて予想が考えられ,活用し
た。
方策3伝え合い活動
問題解決学習を行っていく。図7のように,
その中で「考える」「話し合う」「見つける」
の3つの過程を思考が必要な場面に積極的に
取り入れ,場合によってはひとつの問題提起
に対してこの過程を繰り返し行っていく。
考える
自分なりの仮説
振り返り
見つける
話し合う
同じところ
違う意見のよさ
分かりやすい伝達
聞いて理解
図7
3つの思考のサイクル
図8のように思考のサイクルはグループ活
動の中で取り入れていくだけでなく,グルー
プで話し合ったものを全体で取り上げ,話し
合い見つけていくという活動にも取り入れる
ことができる。なるべくたくさんの頻度でこ
の過程を活用することで目的意識や表現力が
高まり,結果として科学的思考力が高まると
考えた。
個々の思考
少人数のグループ
での活動を通して
の思考
図8
学級全体での討議
を通しての思考
過程の活用
c 手作りホワイトボード
既製品のホワイトボードで1人1枚とな
ると,大きいものでは高価であり,また無地
だと児童に書かせた時に字が小さくなる。
そこで,両面使えて,さらに罫線が入ってい
るものと入っていないものとを使用できる
ホワイトボードをラミネートで作成した。
また,話し合い活動で使えるようにグループ
用のも用意した。
d 付箋と掲示物
児童の考えを整理したり,より考えやすく
させたりするために気がついたことを 4 つ
の観点に分けさせた。これらの意見を付箋
に書かせ,前の模造紙に似たような意見で貼
らせることで,思考を整理しやすくする。
e 科学的な言葉はキーワード・話型の使用
(イ)単元目標
予想を考える中での大事な語尾である「~
電磁石の仕組みやはたらきを捉えることが
だろう」や「理由は~だから」を話型として
できるようにする。また,電磁石を強くする
作ってあり,黒板にいつも掲示できるようにし
ことに興味をもち,電流の強さや導線の巻き
た。また,科学的な言葉「電磁石・コイル・は
数などの条件を制御して電磁石の強さの変化
たらき・電流の強さ・向き・性質」などの語
を調べ,電流のはたらきについて捉えること
句はキーワードとして児童が考える文章に取
ができるようにする。更に,身の回りの電磁
り入れさせるようにした。なかなか,書けない
石の利用について調べ,電磁石を利用した道
児童にはホワイトボードにキーワードをパズ
具やおもちゃを作ることができるようにする。
ルのように並べ言葉をつなぎ合わせていく。
次
思考を整理し,
○魚つりゲームをする。
第 1
1
次 方策1 ○ゲームを通して気づ
自分の考えを
言葉で表現で
きるようにさ
せていくねら
学習活動
時
見
いたことを話し合い,付
通 方策3
し
箋に書きまとめる。
を
も 方策4
○今後の学習の見通し
つ
いがある。
をたてる。
方策5 思考力の高まりを判断するための評
価の工夫
a 記述の評価
ノートに書いたものを評価していく。そ
の際,以下の項目を評価基準とし,予想と考
察のそれぞれで得点をつけていく。
得点 評価項目
1
2
3
自分の立場をはっきりとした考え
を書くことができる。
考えた理由を書くことができる。
既習事項や生活の身近なものに関
係付けた根拠がある予想を書くこ
とができる。
図9 「予想」の評価項目と得点
得点
評価項目
1
自分の考えを書くことができる。
2
電流の働きについての考えをもつ
ことができる。
3
条件制御した実験の結果をふまえ
て,根拠ある電流の働きについての
考察を行うことができる。
「~から ~ということがわ かっ
た。」
図10 「考察」の評価項目と得点
b学力テストにおいての評価
教科書会社の作成した学力テストの結果
によって評価を行う。
③検証授業を実施する。
(ア)単元名「電流がうみ出す力」
第
2
次
2
3
4
○100回巻きのコイルを一人一つ作る。
○作ったコイルで釣り竿を作り,魚つりゲーム
を行う。
電
磁
石
の
性
質
○電磁石の性質とはたらきについて磁石の性
質から予想する。
○調べる方法を考え
実験を行い,結果
をまとめる。
第
3
次
5
電
磁
石
の
は
た
ら
き
を
大
き
く
す
る
7
第
4
次
6
8
9
方策1
○電磁石のはたらきを大きくする方法を予想
する。
○自分が予想した方法で,電磁石の釣竿を作り
魚釣りゲームを行う。
○電流計や,魚の重
りを使い,結果を
数値化する。
方策2
○全部のグループの
方策3
結果の一覧からま
方策4
とめを行う。
10
○電磁石を使った身の回りも物について知る。
11
○自分が作りたいおもちゃの計画を立てる,
電
○計画に沿って,電磁石を利用した道具やおも
磁
石 方策3
ちゃをつくる。
を
利
用 方策4 ○つくったおもちゃを紹介し合い,遊ぶ。
し
た
○感想を書いて発表する。
も
の
④研究の結果・考察を行う。
結果① 質問紙による意識の変化
学習後
番号
学習前
感想を書く
気がついたことを書く
自分の考えを発表する
実験方法を考える
予想を考える
まとめる
1113
11
12
12
12
12
13
実験を行う
図 11 理科学習で得意なこと
20
19
19
26
24
24
N=26 複数回答可
図11は学習前後の結果の比較である。
「感
想を書く」,「気がついたことを書く」,「自分
の考えを発表する」
「実験方法を考える」,「予
想を考える」の5つの項目で得意と答えた児
童が増えた。得意になった児童の理由を見る
と,
「書き方がわかるようになった」,「自分の
意見に自信がもてるようになった」,「グルー
プの発表だとはずかしくない」などの意見が
あった。特に「予想を考える」が最も意識が
高くなり,クラスのほぼ全員が得意と感じるよ
うになった。これは,今まで何を書いたらいい
か分からなかった児童が,見通しをもった学習
を繰り返し行ったことで,既習事項から新たな
予想を考えられたり,他の児童の発表を聞いて
考え方を理解できたりしたことが増えた要因
と考える。
結果② 言葉による記述の変化
(ノート記述:予想・考察から)
番号 学習前 第2次 第3次 番号 学習前 第2次 第3次
図1 2の 予 想 1 6 6 6 1 6 6 6
2
1
1
3
で は学 習前 と 後 23 13 13 16 3 3 3 6
を比べると 70% 45 13 33 66 45 11 33 63
6
1
1
1
の児童が,考察で 67 03 11 33 7 3 3 6
は 65%の児童が, 89 33 33 36 89 33 33 36
1
1
3
3
1
6 10
科 学的 な見 方 で 10
3
3
3
11
3
3
6 11
0
1
3
0
1
6 12
書 くこ とが で き 12
3
3
6
13
3
1
6 13
6
6
6
3
1
3 14
るようになった。 14
3
3
6
15
3
3
6 15
3
3
3
1
6
6 16
これは,見通しを 16
3
3
3
17
1
6
6 17
3
3
6
1
1
3 18
も った 授業 で 記 18
1
3
6
19
3
6
6 19
3
6
6
6
6
6 20
述 の書 き方 が わ 20
3
3
6
21
3
3
6 21
1
1
1
1
1
3 22
かったり,伝えあ 22
1
1
1
23
3
3
3 23
1
3
6
3
1
6 24
い 活動 によ っ て 24
1
1
6
25
1
1
6 25
3
3
6
26
1
1
1 26
他 の人 の意 見 を 平均
4.5
2.38 2.65 4.81 平均 2.35 2.81
参考に書けたり 図 12 予想の評価 図 13 考察の評価
した児童が増えたからだと考える。
児童のノート変化(25 の児童ノートから)
学習前
結果③ 学習テストの各項目到達度の変化
思考・表現
技能
知識・理解
学習前と学習後の 学習前
学習後 学習前 学習後 学習前 学習後
90 100 100 100 100
学力テストの到達度 12 100
70
90 100 100 100 100
100 100 100 100 100
を比べた。この学習 34 100
73
80 100
60
90 100
5
80
80 100
80
100
で達成度が上がった 6 57 70 90 80 83
63
80
93
95
75 100
97 100
のは「思考・表現」 79 100
100 100 100
97 100
10
70
70
85 100
70 100
が 36%,技能が 28% 11 100 100 100 100 100 100
12
80 100 100
90
90 100
知識・理解が 60%だ 13 100 90 100 100 100 100
14 100
90
95 100
93 100
った。今まで到達度 15 93 90 90 100 100 100
16 100
80 100 100
97 100
が 60%以下だった児 17 100 100 90 100 100 100
18 100
80 100
80 100 100
童が高くなった結果 19 47 100 100 100 67 80
20
63
70
95 100
80 100
100 100
85
40
97
80
もでた。意識は高く 21
22
60
72
60
40
60
80
97
80 100 100
93 100
て も ,学 力に は結 び 23
24
90
80 100 100
97 100
100 100
95 100 100 100
ついてない児童もい 25
26
87 100 100 100
93 100
86.4 88.3 94.4 90.8 90.7 96.8
るが,問題解決学習
で見通しをもって取 図 14 学習テストの到達度
り
組み,科学的な言葉をしっかりとおさえたこ
とで,「思考・表現」だけでなく「知識・理解」
の学習到達度も高くなったといえる。
3 成果と課題
学習後
今までは,わかったことしか書けなかったが,結果から根拠
ある考察が書けるようになった。
平均
成果
・問題解決学習を繰り返し行った結果,授業に
見通しをもてるようになり,文章を書いたり
発表したりすることに自信がもてた児童が
増えた。
・伝え合い活動や学習過程の工夫を行った結果,
自分なりの考えを言葉で表現できるように
なった。
・学習テストの「知識・理解」も向上した。
課題
・本研究の成果を他の単元でも取り入れて長
期的な考察が必要である。
【参考文献】
『小学校学習指導要領解説
』文部科学省(2008)
研究「科学的思考力・表現力を育成する理科学習
の創造」国立教育政策研究所(2011)
【実践記録】
発達に課題をもつ児童の理解と支援の在り方
- 発達通級指導教室での指導事例を通して -
船橋市立三咲小学校 教諭 尾上 哲史
1 はじめに(問題と目的)
近年,学校が抱える問題の一つに,発達に
課題がある児童生徒の理解と支援があり,こ
の解決に通常学級と特別支援学級をつなぐ,
通級指導教室の役割が注目されている。文部
科学省によると,通級による指導を受けてい
る児童生徒数は,平成26年度には 83,750
名と,過去3年間で 17.1%の増加となった。
この数字は,LD や ADHD が通級指導の対象と
なった平成18年度以降増加し続けており,
9年間で 2.02 倍に達している。
通級指導教室
設置校も増え続け,小・中・特別支援学校で
文部科学省 平成 26 年度 通級による 指導実施調査より
3,809 校となった。通常学級における特別な
教育的ニーズをもつ児童生徒への連続的な支
援,いわゆるインクルーシブ教育システムの
構築という国の教育施策もあり,この増加傾
向は今後も続いていくものと考える。したが
って,このような児童生徒の理解やニーズの
把握,指導・支援する教員間の連携,家庭・
医療との情報共有は,よりいっそう積極的に
行われることが求められている。
本研究は,児童生徒理解と支援機関の連携
を研究した平成26年度県長期研修の内容を
基に,発達通級指導教室の担当として関わっ
たA児童への指導と支援の経過をまとめたも
のである。
2 主題設定の理由
これまでの発達通級指導教室と通常学級と
の連携の在り方についての研究は,
「発達障害
を対象とする通級指導教室と通常の学級との
連携の在り方」
(独立行政法人 国立特別支援
教育総合研究所,平成 23 年)がある。ここで
は発達通級指導担当者の専門性向上の必要性
のほか,児童生徒理解や在籍学級担任との連
携の難しさが報告されている。
そしてそれは,
今年度,私が発達通級指導教室の担当となっ
て実感するものと一致する。私はこれまで通
常学級の担任経験のみであり,発達に課題が
ある児童生徒の理解や支援の方法等,いわゆ
る通級指導担当としての専門性の向上は喫緊
の課題である。一方,定型発達の児童生徒集
団を前提としている通常学級において,どの
程度まで環境調整や合理的配慮が可能と考え
るか,通常学級の担任には何が見えて何が見
えにくいのかなど,通常学級の担任を経験し
てきたからこそ見えるものもあるのではない
か,と考える。
そこで,通級担当児童A児の児童理解や支
援,保護者との関わり,医療との連携の経緯
をまとめ,その時々の通常学級での指導と通
級指導の視点のずれに注目した。そして,児
童生徒理解や支援についての課題を把握し,
解決策や在籍学級担任・家庭・医療への展開
を検討することを,本研究の目的とした。
3 児童の実態と支援の方向性
文部科学省 特別支援教育の在り方に 関する特別委員会報告資料より
(1)A児について
A児は本校通常学級に在籍するが,自閉症
スペクトラム及び ADHD と診断されている。
入学当初より校外への飛び出し,集団不適応
が目立ち,学校では介助員をつけるなどの支
にとって心地よい行動を学習することで,
援を行ってきた。また,本校発達通級指導教
対人面の向上を図る。
室(以下,さくらルーム)が中心になり校内
③A児は見通しが持てない場面では意欲が低
支援体制作りと保護者との関係づくりを進め,
下し,離席・離室が始まる。また,活動の
さくらルームへの入級が決まった経緯がある。
切りかえの苦手さが目立ち,楽しい活動ほ
今年度はじめの進級時は,学級解体や学級
ど切りかえが困難で激しく抵抗することが
担任(以下,担任)交代が影響して,A児の
ある。注意の転導が強く,主目的を忘れた
在籍学級での適応が悪化することが予想され
り,意欲が続かなかったりすることが背景
た。
実際,
私が担当を引き継いだ4月初頭は,
にあるのではないかと考える。
したがって,
授業中の離室・離席が次第に多くなるととも
活動の全体像を押さえることで見通しを持
に対人トラブルが目立つなど,集団不適応の
たせること,誤学習や未学習を埋めてルー
状態が見られた。
ルの徹底を図ること,そしてルールを守れ
たことによる心地良さを体験させていくこ
(2)児童のアセスメントと支援の方向性
とが重要である。
医療機関で行った WISC-Ⅳの検査結果や行
動観察からA児の特徴をまとめる。
これらの支援の方向性を担任,保護者と共
通理解し,A児の学級での適応状況の改善を
図ることにした。また,受診医療機関との情
①周囲の人にわかるように伝えること
報共有にも取り組み,適切な医療の支援を求
が苦手。事物の捉え方が細部だったり
めていくことにした。
独特だったりする。
②視覚情報から関連性や概念を導き出
4 実際の指導,支援の経過と結果
すことが苦手である。
③単純無意味記憶よりも,有意味記憶の
(1)児童の実態把握(運動会の取り組みから)
方が残りやすい。記憶を保持しながら
A児はこれまで,運動会の練習には参加し
複雑な操作をすることは苦手である。
ないものの運動会当日は参加する,という取
④細部の様子は観察できるが,複数の視
り組みを繰り返してきた。そこで,5月の上
覚情報から必要な部分を探し出すこ
旬から始まる運動会練習を前に,担任とA児
とが苦手である。
「木を見て森を見ず」
の運動会練習への参加について方針を確認し
タイプであり,周囲が何をしている
た。練習には,
か,今は何をすべきかを想像すること
は不得手である。
1.みんなと一緒に教室を出る。
これらや学校での行動観察から,さくらル
ームではA児への支援の方向性を以下のとお
り定めた。
2.みんなと一緒に校庭に出る。
3.みんなと一緒に整列する。
の3段階のめあてを
設定した。また,
①A児のつまずきには,
“わかっているのにで
さくらルームでの
きない”ことと,“わからなくてできない” 個別学習では,練習
こととがある。言動からA児の困り感を捉
に参加しなければい
え,それに沿った手立てを構築することが
けない理由を学習し
重要である。
たり,A児の練習
②A児には感情コントロールの弱さや自分の
当日の行動をリスト
通級指導個別学習 ワークシート
思いを周囲に伝えることへの苦手さがある。 化して練習参加まで
したがって,イライラした際は一人で気持
の見通しを持たせたりした。A児は「ぼく,
ちを落ち着けることや,表出言語力の向上
練習頑張る。」と,意欲を見せた。
など社会的スキルの定着を図る必要がある。
練習当日,A児はあらかじめ体操服に着替
また,既に見聞きしていて自然に覚えてい
え,校庭に出るところまでは順調に行動でき
るだろうと思われる暗黙のルールや一般常
た。しかし,整列の直前に校庭の外れにうず
識を身に付けにくい傾向がある。A児が好
くまり,砂いじりを始めてしまった。結局,
きなロールプレイを取り入れながら,相手
A児は列に入れないまま,学年練習が始まっ
た。それでもA児なりの理由があるのだろう
と「めあての2つまではできたね」と評価す
ると,A児は「ここは校庭ではないから,で
きていない」「途中からは入れない」
「ここか
ら見ていたい」などと話した。
以降の練習も,同じ場所にうずくまり,砂
いじりする行動が続いた。練習に参加せず,
毎回繰り返されるこの行動を,私は全く理解
ができなかった。通級指導教室主任にアドバ
イスを求めたところ,
「A児がやらないことに
は何か理由があるはず。そばで行動観察を続
けて,A児なりの理由を見つけること」を助
言された。しかし,同じ状況が繰り返される
ことには,担任とともに「少し頑張れば,練
習に参加できるのではないか」
「寄り添ってい
ることが,却ってA児を甘えさせているので
はないか」と思わずにはいられなかった。
結局,練習参加は運動会直前の数回にとど
まった。参加ができたのは,後述する母との
面談以降である。運動会当日のA児は周りを
見ながら動き,すべての種目をやり遂げるこ
とができた。これは客観的には,
「やれるのに
やらない」
「我儘を言っている」と見られても
仕方ない状況だった。
(2)児童理解(家庭との連携から)
運動会の練習への関わりを通して,A児の
理解のきっかけを得た。運動会を週末に控え
た追い込みの学年練習の傍らで,相変わらず
砂いじりをしているA児が,
「お母さんと相談
してほしい」と話しかけてきた。何を相談し
てほしいのかを尋ねると,
「運動会の練習をや
らなければいけないとわかっているけれど,
砂いじりをやりたくなってしまう。砂いじり
を始めると,やめられない」
と話す。
「だから,
ぼくが砂いじりをやめられるように,相談し
て」
「ぼくが練習に出られるように,お母さん
と先生で相談してほしい」と訴えた。振り返
れば,私が初めて,A児の率直な“困り感”
を受け取った機会だった。
これまで家庭とは,連絡帳を通して学校の
様子を知らせてきたが,
A児の言葉を受けて,
早速A児の母と面談を実施した。
A児の言葉を伝えると,母は当惑したよう
だった。面談を通して保護者からは「家庭で
もA児が考えていることは,わかりにくいこ
とがある」
「やれるはずなのに,やらないこと
が多い」
「行動や考え方が独特で驚くことがあ
る」といった,養育の難しさの言葉が目立っ
た。一方で,校庭の片隅で動こうとしないこ
とについて,保育園の時もみんなの動きを遠
くから見て全体像を把握しようとしているよ
うな様子が見られたこと,いつも座り込む場
所を「ここは校庭ではない」というのは楕円
のトラックの内側を校庭と捉えているのでは
ないか,
といった見立ても聞くことができた。
A児の母の見立ては経験に基づくものであ
り,説得力があった。面談からは,発達に課
題がある子供の養育の難しさを知るとともに,
「子供のことを一番知っているのは,やはり
保護者なのだ」と実感し,家庭との連携や情
報共有の大切さを知った。
面談翌日,相変わらず砂いじりをしている
A児に「A君はここでみんなの練習を見てい
るの?」と尋ねると,顔を上げて「うん。僕
はね,ここで見ていると安心なんだ」と答え
た。
「そうか。それなら,ここで見学しようね。
」
と呼びかけると,じっと練習を見ていた。砂
いじりの手も止まった。
運動会2日前,A児はようやく練習に参加
した。十分に見学して納得できたから参加で
きたのか,それとも残り2日だから練習に参
加したのか,それとも他に理由があるのか,
判然としなかった。しかし「A児は能力が高
いにもかかわらず,やらないと思っていた。
けれど,やれないことが意外に多いのかもし
れない。A児には見えにくいところが多いの
だろうか」と,感じるようになった。だから
こそ家庭と密接に連絡を取り合って,A児の
理解に努めようと考えるようになった。
(3)校内職員との連携
運動会が終わると,A児の学級での適応状
況が急速に悪化した。運動会の特別日課が続
いたことや,苦手の水泳指導が始まったこと
などが要因と思われる。
「勉強なんてしたくない」
と口にすることが多く
なった。授業中の離室の
回数が増し,学級そばの
廊下で寝転んでいたり, A児は自分のイラ イラの状況を,
図書室の床に座り込んで 黒板に書いて伝え た。
本を読んでいたりと,在籍学級にいる時間が
ほとんどなくなった。精神状態も不安定で,
見通し違いが起こると,学級の友達に噛みつ
いてしまったり,担任を蹴ったりするトラブ
ルが起こった。
さくらルームではA児の言葉に寄り添いつ
つ,ソーシャルストーリーを使った学習に取
り組んだり,グループ学習での達成感や満足
感を与える取り組みを進めたりしたが,指導
中に感情を爆発させることもあった。また,
指導後は毎回,学級に戻ることを渋った。学
級まで送っても,廊下に座り込んだり,
「途中
から入るとみんなが注目していや」と入室を
拒んだりした。担任が授業を止めて,A児に
入るように促す,または担任がさくらルーム
に迎えに来るなど,A児の入室のタイミング
は担任でなければ作れない状況になっていた。
担任とA児の関係は良好で,1 対 1 で関わ
るときにはA児は担任の指示を聞くことがで
きた。しかし,授業中に平然と本を読み始め
てしまったり,離席してしまったりと学級集
団の中では落ち着いて学習ができる状態には
ならなかった。
A児は学校外に出ることはなかったが,離
室した際の校内の移動先が次第に広範囲にな
り,担任がA児の所在を確認しに学級を空け
ることが多くなった。担任は「A児の居場所
は学級」
「学級の児童としてA児もみんなと一
緒に活動してほしい」と願っていた。
担任の願いは理解できたものの,この状況
にあるA児には段階を踏まなければ難しいと
考えた。そこで,当面の支援方針を次の 3 点
とした。
①担任がA児を探すために学級を空け
る時間を減らす。
②教室以外のA児の居場所を決める。
③A児の離室行動を,ルールに沿ったも
のにする。
併せて,担任を支援するために,校内での
関係する教職員の共通理解を計った。校内の
特別支援部会でA児の事例を取りあげ,以下
の手立てを確認した。
①A児を校内で見かけたら,担任かさく
らルームに所在を知らせる。
②A児には教室に戻るかさくらルーム
に行くように声を掛ける。
③A児の離室を,
「勝手な離室」から「ル
ールを守った離室」にする。
任がA児の所在を把握することがいくらか容
易になった。
しかし,連携に際しては課題も見えた。A
児の離室先での関わり方が明確でなかったた
め,混乱が生じてしまった。A児が授業中に
学級を抜け出し,少人数教室で読書を始めて
しまうことが続いた。これについて,
「学級で
は授業中の読書は注意している。これを少人
数教室で認めるのはどうか」という意見と,
「校内にA児の居場所を作るためにも,当面
は容認してよいのでは」という意見とで見解
が割れてしまった。児童の行動が広がると,
関係する教職員も増える。連携を有効に働か
せるためには,①児童理解と②支援の目的,
③支援の手立て,④その後の見通し,を明確
にすること,これを密に更新していくことが
不可欠であった。
(4)医療との連携(服薬の調整から)
A児は ADHD の症状を緩和する薬を,
毎朝服
用していた。A児の不適応には多動性や衝動
性に要因がある。しかし,
行動観察を通して,
今のA児の不適応行動は,こだわりや情緒の
不安定さの要因が強いのではないか,と思わ
れるようになった。エピソードを挙げる。
①休み時間を過ぎてもA児が図書室から戻ら
ないとの連絡があり,迎えに行った。A児
は床に座り,本を手に取っていたが,読む
というより眺めているように見えた。A児
に「読んでいるように見えないけど,どう
かしたの」と問うと,黙って頷き,書架の
整頓を始めた。しばらく整頓を手伝ってや
ると満足そうな笑顔になり,唐突に話し始
めた。
「休み時間に教室で本を読んでいたん
だけど,上を見たら天井に虫がいるのが見
えたんだ。ぼく,怖くてここに逃げてきた
んだよ。」
「虫がいると,向かってきそうで
怖い。だから,
教室には行きたくないんだ。
」
もういなくなってると思うよ。確かめに行
こう,と一緒に教室前に行き,廊下から虫
がいなくなっていることを確認すると,よ
うやく納得した。その後は担任の呼びかけ
に応じて教室に戻った。
A児の学年はすべての算数科の授業で少人
数指導が行われているため,少人数担当教員
②外国語活動の時間は英語ルームにも入れず,
の理解と協力は不可欠だった。このため,少
一度も参加できない状態が続いていた。こ
人数担当教員とは積極的に情報共有を図った。
れについてA児母と面談を実施したところ,
これらよって,A児の離室先は,さくらル
「習い事でやっている英語では,教師と 1
ームか少人数教室に絞られるようになり,担
対 1 で会話している。英語はすぐに覚えて
しまうので好きだと思っていた」と,戸惑
っていた。
A児に聞いても「学校の英語は嫌い」と
答えた。集団での活動に難しさがあるのか,
と英語の活動を観察したところ,活動中の
音や振動が意外に大きいことがわかった。
A児に「音や教室の揺れが気になる?」と
確認したところ,「揺れるのは平気だけど,
みんなの声がうるさかったり,いきなり飛
び跳ねたりするから,ざわざわする」と答
えた。そこで,耳栓を用意してやり,
「これ
をつけて勉強してもいいんだよ。試してみ
る?」と提案すると,大いに気に入り,初
めて英語ルームに入ることができた。その
後は「みんなに見られるのは恥ずかしい」
と言って,耳栓を使用しなくなったが,英
語ルームには入るようになった。
A児の言動の記録を振り返ると「つい…し
ちゃった」
「本当は…だった」という言葉が繰
り返し現れる。対人トラブルに注目すると,
衝動性や怒りの感情コントロールの弱さに要
因を求めるが,前述のエピソードのように,
前後の状況やA児が置かれていた環境を考え
ると,A児の不適応の根本にあるのは不安で
はないか,と見立てることができた。
これらの出来事と,そこから導いた見立て
をA児母に提示し,主治医に見解を求めるこ
とを提案した。また,可能であれば,さくら
ルームから学校での様子を,直接伝える医療
相談の機会を設けられないか,検討をお願い
した。
医療相談はA児母と主治医の相談に,さく
らルーム主任と私が同席させていただく形で
実現した。教員として医療と関わることは,
私にとって初めての体験であったが,医療と
連携することの有効性を知るとともに,教育
と医療の相違を再認識する機会になった。
有効性は児童理解に医療の視点が加わるこ
とである。私達教員は小学校,中学校と,区
切られた発達段階で児童生徒を見ることが多
いが,医療は成人,
その後と広い視点で見る。
いかに成長していくか,どのような支援とつ
ながっていくか,そのために,今,必要な支
援は何かを見通すことは,昨年度の長期研修
で体験した相談機関での実習を思い起こさせ
た。また,
「通級で指導されているソーシャル
スキルが本当に発揮されるのは,もう少し時
間が経ってから。子供が社会に出たときに,
『そういえば,小学校で教わったな』と思う
時がくる。だから治療だけでなく,教育が必
要なのだ」との言葉は,教育の支援と医療・
福祉の支援の両輪を整えることの大切さを表
すものだろう。
一方,相違は教育と医療の支援の質的な違
いである。主治医からは,
「この子はこれだけ
不適応を起こしながらも学校に通っている。
ストレスを抱えながらも頑張っている証拠だ。
この子にとって,教室でみんなと一緒に学習
することは,果たしてどれほど大事なことな
のか。不適応がひどくなって,不登校になっ
てしまう恐れがあるなら,無理に教室に入れ
なくても良いのではないか?」と問われた。
長期研修では「医療は個人に対してマイナス
をゼロに戻すこと,教育は集団に対して0か
らどれだけ積み上げるかによって,その効果
を測る」(保坂亨 千葉大学講義「教育相談特
論」2015)という考え方に触れた。教員が主
治医のこの言葉に違和感を覚えるのは,集団
の成長に責任を持つ教育と,個人の原状回復
に責任を持つ医療の違いによるものであろう。
医療と連携を図る際には,こうした相違を考
慮し,医療の見解を教育にチューニングして
いくことが有効性を高めるものと考える。
医療との連携の結果,これまでの ADHD に効
果がある薬を減らすとともに,情緒を安定さ
せる薬が加わることになった。新しい薬の服
用が始まると,A児の離室は目に見えて減少
した。また,A児の学習への負担感を可能な
ところから和らげようと,宿題量の調整にも
取り組むことになった。
(5)支援の成果と今後
運動会後の適応が悪くなった時期のA児は
週27時間のうちに,教室に居られた時間は
7時間であった。夏休み後に若干の不適応が
見られたが,現在は,ほぼすべての時間を学
級で過ごしている。
A児の実態把握に始まり,
表.A児の週(27 時間)当たりの離室状況の推移
週
離室時間
主な出来事
6/1~6/5
20
運動会後
6/29~7/3
4
服薬調整
9/7~9/11
10
10/26~10/30
0
夏季休業後
校外学習,音楽会
担任や家庭との情報共有,検査結果や行動観
察による多面的な児童理解,校内の連携,医
療の支援と,これまでの取り組みによって適
応の状況は改善していると考える。
今後の課題は,A児にとっての学習時間を
増やすことである。A児の苦手さである,
①周囲の人にわかるように伝えること
②「わかるであろう」ことがわからないこと
③記憶を保ちながら取り組むこと
④周囲が何をしているか,今は何をすべきか
を想像すること
を,
学習指導によって高めていく必要がある。
5 まとめ
(1)児童をいかに理解するか
今回の事例では,総合的な児童理解の手段
として,①検査結果,②行動観察,③家庭と
の情報共有,④校内職員との情報共有,⑤医
療との情報共有を行った。
①と⑤に関しては,
発達通級指導教室の専門性ゆえにとることが
できた手段と思われるが,②③④については
通常学級担任においても行っている手段であ
る。この事例からの学びとして,特に③家庭
との情報共有についての有効性を,ここでは
挙げたい。
発達に課題がある児童の不適応は,いわゆ
る定型発達の児童とは異なる独特な認知や,
コミュニケーションの苦手さなどが要因とな
る。つまり,学級の
ような集団環境にこ
そ現れる課題である。
逆に,家庭のような
保護された環境下では,通級教室で感情を高ぶらせる
不適応は起こりにくい。こともあった。
「家では全然問題ない」という保護者の言葉
は,学級担任ならばどこかで耳にしたことの
ある言葉であろう。学級では「できない・や
らない」ことも,家庭では「できる・やる」
ということは,こうした発達に課題のある児
童には十分にあり得ることであり,
「怠け」と
見てしまうのは危険である。
家庭での状況を把握することは,
児童が
「ど
ういう環境・方法ならできるのか,やるのか」
のヒントが得られる可能性がある。家庭との
連携は,児童をより深く理解し,学級での環
境調整や指導方法改善の参考にすることを目
的に行われるべきである。また,こうした目
的であれば,家庭とも関係が作りやすいもの
と考える。
(2)どこまで配慮するか
A児の学級での配慮について,担任の同意
が得られにくかったものがいくつかある。学
級経営上,個別のニーズに応えられないもの
や,発達年齢相応の態度を求めるようなもの
である。前者であれば係・当番活動や学級の
ルールに抵触する恐れのある配慮であり,後
者であれば,学習の姿勢や身の回りの整理整
頓など,態度・行動面の許容範囲である。学
級担任の経験が長い私自身も,通級指導教室
の主任に言わせれば“要求が高い”と言われ
ることがある。
どこまで配慮するかの判断には,
“子供の行
動には理由がある”こと前提にすべきと考え
る。つまり「やらない・やれない」のにはそ
の子なりの理由がある。特に「やれない」こ
とについては,指導や支援がなければ,決し
て「できない」のである。これは定型発達云々
に関わらない。今回の事例では,やらない,
やれなくて一番困っていたのは,A児自身で
あり,それが不適応となって表れていた。不
適応をなくすための配慮を考えるよりも,子
供が困っている状況を改善するための手立て
とした方が,
担任として考えやすいであろう,
と考える
6 おわりに
児童にとって,学級は学校における生活の
基盤であり,学級担任が確かな児童理解のも
とに学級経営を行うことは非常に重要である。
生徒指導提要には,
「一人一人の児童生徒はそ
れぞれ違った能力・適性,興味・関心等を持
っており,児童生徒を多面的に・総合的に理
解していくこと」が重要であると述べられて
いる。
「通常学級に6.5%の割合でいるとさ
れる」
(文部科学省 2011 年)発達に課題を持
つ児童の理解は“集団に対して,限られた時
間において,いかに効果的に教育を行うか”
が求められる通常学級において,重要さと難
しさをもつ。通常学級に在籍する児童の,
「連
携による児童理解」と「多方面からの支援」
の具体的事例として,本研究ではその有効性
がある程度認められたと考える。今後は,こ
れを仮説として,引き続き検証事例を挙げて
いきたいと考えている。
【参考文献,資料】
佐藤慎 二『通 常学 級の特 別支 援』日 本文 化科学 社,2008
佐藤慎二『通常 学級の授業ユ ニバーサル デザイン』 日本文化科 学社, 2010
文 部 科 学 省 『 通 級 に よ る 指 導 の 手 引 』2012
文部 科学 省『 生徒 指導 提要 』2011
【実践記録】
子供の力を伸ばす教師の行動・言葉がけ
-体育科の実践を通して-
船橋市立法典西小学校
教諭
町田
竜太
表 1 は 4 学年に実施した体育授業に関する
形成的授業評価Ⅰ、表 2 は 2 学年に実施した
表現運動に関する形成的授業評価Ⅱの項目で
ある。表 1 は全 9 項目で回答は 5 段階(5 件
法)
,表 2 は全 16 項目で回答は 3 段階(3 件
法)であった。これらを元に、子供の授業に
対する意識の変容を追った。
〔表 1〕H26 4 学年 形成的授業評価Ⅰ
調査項目
評価
質問項目
項目
深く心に残ることや、感動するこ
1
とがありましたか。
今までにできなかったこと(運動
2
や作戦)ができるようになりまし
成果
たか。
「あっ、わかった!」とか「あっ、
3
そうか」と思ったことがありまし
たか。
精一杯、全力を尽くして運動する
4 意欲
ことができましたか。
関心
5
楽しかったですか。
自分から進 んで学習すること が
6
学び できましたか。
方
自分のめあ てに向かって何回 も
7
練習できましたか。
友達と協力して、仲良く学習でき
8
ましたか。
協力
友達とお互い教えたり、助けたり
9
しましたか。
2 実践の方法
〔表 2〕H27 2 学年 形成的授業評価Ⅱ
平成 26 年度と 27 年度の 2 年間で、体育科
調査項目
の「表現運動・リズムダンス」領域の授業実
評価
質問項目
践を行った。すべての授業をビデオ撮りして、
項目
映像と音声の両面から主として 3 つの方法で
いつもの自分と、違った自分に
1
授業の分析を行い、改善点などを探った。
なれましたか。
(1)形成的授業評価
お
そのものに、なりきっておどる
ど
毎時間の授業後に子供たちが振り返りを行
2
楽しさを感じましたか。
る
うもの。質問内容は単元を通して同じで、評
楽
体をいっぱいに使っておもいき
価を数値化して変容を分析した。この評価表
し
3
りおどる楽しさを感じました
さ
を用いて数値の違いを前時と比較することで、
か。
子供の意識の変容とその原因を考察し、次時
4
いろいろな音楽のリズムにのっ
の授業計画に生かしていくことが期待できる。
1
はじめに
授業の質の向上を図るための方法として、
研究授業がある。多くの研究授業では「事後
研究会」が行われ、今日の授業の何がよく、
何に改善が必要だったのかを、会の参加者が
意見を交わすことが多い。確かにここでは、
授業の質を高めるだけでなく、教材研究の大
切さや、子供の実態を捉えることの重要さを
学ぶことができる。
しかし、あくまでその視点は、個人の主観
的なものが多く、捉え方一つでその授業の見
方は大きく変わってしまうという問題がある。
また、若年層であれば、多くの先輩方に意
見をもらい、多面的にその授業を判断するこ
とは可能であるが、経験を重ねた教員が授業
をすると、改善点を指摘されることは少なく、
授業について省察をすることが難しくなって
いる現状がある。
筆者もこれまで、初任や若年層の頃から研
究授業に年間複数回取り組み、多くの学びを
得てきた。しかし、回数を重ねる中で、授業
を多面的に分析し、授業をより良く振り返る
ための方法に問題点を感じるようになってき
た。
そこで本実践では、千葉大学教育学部保健
体育科七澤朱音准教授に 2 カ年に渉りご教授
いただきながら、授業を客観的に評価する方
法を複数行い、授業の質をさらに向上させる
方策を探っていった。
5
6
7
8
9
動
き
を
つ
く
る
楽
し
さ
10
11
12
13
14
15
16
友
達
と
一
緒
に
動
く
楽
し
さ
ておどる楽しさを感じました
か。
ほかの体育の授業にはない動き
の面白さを感じましたか。
思いがけない動きや、アイデア
が偶然出てくる面白さを感じま
したか。
リズムの取り方や、動きを工夫
しておどる楽しさを感じました
か。
思いつくまま、次々と自由にお
どる楽しさを感じましたか。
いろいろな感じや、イメージを
動きで表現する楽しさを感じま
したか。
表現の仕方や、動き方を、いろ
いろ工夫する楽しさを感じまし
たか。
おどっている自分を、人に見て
もらう楽しさを感じましたか。
自分や友達の、新しい一面や意
外な一面を見つけましたか。
友達と自由に関わりながら、一
緒におどる楽しさを感じました
か。
友達と一緒にやることの楽しさ
を感じましたか。
友達と考えを出し合って、一緒
に動きを考える楽しさを感じま
したか。
友達と一緒に動いて、「できた」
という気持ちを感じましたか。
(2)体育授業場面の割合
授業の映像から、学習指導・運動学習・認
知的学習・マネジメントの各場面に費やした
時間を記録し、各割合を分析するもの。
「運動
量が多い」
「教師がしゃべりすぎ」などは、こ
の割合を見ることで検証できる。
自分の授業の場面に費やした時間量と割合
を客観的に調べることで、時間の使い方を意
識して授業に臨むことが期待できる。
(3)運動技能に関する技術的フィードバック
授業の映像と音声から、子供に向けて発し
た言葉をカテゴリーに分類するもの。言葉が
けを、肯定的・矯正的、一般的・具体的、発
問・受理に分類し、その出現頻度を分析した。
先行研究でも、子供たちは、矯正的(助言)
であり、肯定的(賞賛)な指導言語を求める
ことが明らかになっている。さらにそれらは、
具体的なほど成功裏な学習を導きだす。この
分析では、一人一人の子供に、そういった言
葉がけをするためには、より丁寧な教材研究
が必要であると再認識することができる。
3 実践の結果と考察
(1)形成的授業評価から分析する子供の意識
の変容と授業改善
①平成 26 年度
4 学年での授業実践(4 単位時間)を行い、
調査・分析を行った。
単元「4 年 1 組 忍者修行」
領域「表現運動・リズムダンス」
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
評
価
得
点
(
平
均
)
成果
意欲・関心
学び方
協力
総合評価
単元の進行
1
2
〔図 1〕H26 4 学年
調査結果
3
4
形成的授業評価
調査結果〔図 1〕から、どの項目の数値も
非常に高く、子供が授業に対して肯定的に捉
えていたことがわかった。特に、
「意欲関心」
「学び方」
「協力」の項目については、天井効
果が見られるほどであった。それに対し、
「成
果」項目は、平均が低く伸び悩んだ。
この結果から、授業の中で、
「できた!」
「そ
うか!わかった!」と感じる瞬間を意図的に
増やし、1 時間の中で自分の伸びを子供が実
感できる授業計画を立てる必要があると考え
られる。
表現運動やリズムダンス領域は、
「ゴールフ
リー」といわれることもあり、動く楽しさを
感じることは容易であっても、動きの質が高
まったと感じることは難しい。
教師が 1 時間の中での子供の伸びを明確に
評価するとともに、子供が学習前と後での自
分自身の伸びを振り返る時間が必要であろう。
②平成 27 年度
2 学年での授業実践(4 単位時間)を行い、
調査・分析を行った。
単元「2 年 1 組 ワクワクランドへ出発」
領域「表現リズム遊び」
平成 26 年度の調査では、体育の一般的な
調査項目が多かった。平成 27 年度は、表現
運動の授業特性に沿った授業評価を行うため
に質問項目を見直した。また、結果を分析し
やすいように、3 段階で回答させた。
3.05
3.00
2.90
踊る楽し
さ
(
2.95
評
価
得
点
平
均
)
動きをつ
くる楽し
さ
友達と一
緒に動く
楽しさ
総合評価
2.85
2.80
2.75
2.70
2.65
2.60
単元の進行
2.55
2.50
1
2
〔図 2〕H27 2 学年
調査結果
3
4
形成的授業評価
妥当な自己評価が難しいことから、低学年
は質問紙調査が難しいとされる。そのため、
本実践の調査結果は参考数値になってしまう
が、
〔図 2〕から、動き方がわかってきた単元
後半に子供たちが表現運動の楽しさを実感し
ていったことが推察される。
「 この領域の楽し
さは何か=運動の特性」を子供が感じられた
とき、結果に表れた数字以上の達成感を味わ
っていると考えられる。
2カ年に渉り、形成的授業評価を行いなが
らの実践を 2 回行ったが、この調査だけでは
授業改善には情報が不十分であると感じた。
この調査方法は、子供が授業を評価してい
るので、そのときの気分などで数値に差が出
ることが考えられる。さらに、学級経営や担
任との信頼関係などでも数値に変化が出るこ
とが予想される。
しかし、形成的授業評価は、授業後にすぐ
に分析し、数字が低かった原因の分析や、子
供一人一人の意識の変容を追うことで、次時
の授業に向けての方向性を探っていく材料に
なる。
授業を行う際に、学習カード等を用意して
簡単な振り返りを行うことが多く見られるが、
これは形成的授業評価を簡略化したものと捉
えることができ、その変容を分析することで、
普段の授業にも活かせると考えられる。
(2)体育授業場面の割合から分析する授業改
善
平成 26 年度と 27 年度の授業をすべて映像
に残し、授業時間をどのように使ったのかを
4 つのカテゴリーに分類し、その割合を分析
した。
体育授業場面の観察カテゴリーと定義
○学習指導場面…教員がクラス全体の子供を
対象にして説明、演示、指示を与える場面
○認知的学習場面…学習者が認知的な学習活
動を行う場面(話し合いや振り返りなど)
○運動学習場面…学習者が体操、練習、ゲー
ムなど運動活動を行う場面
○マネジメント場面…上記以外の活動で、学
習成果に直接つながらない場面
〔表 3〕H26 4 学年 体育授業場面
観察結果と頻度
単元の進行→
カテゴリー↓
学習指導
認知学習
運動学習
マネジメント
1
2
3
4
43%
3%
34%
20%
43%
0%
47%
10%
39%
0%
47%
14%
41%
6%
30%
23%
平
均
42%
2%
39%
17%
〔表 3〕から、1 時間(45 分)の中で、運
動をしている時間は約 4 割(18 分)というこ
とがわかった。学習指導場面において師範を
見せたり、実際に動きながら説明したりする
ことを考えると、授業時間の半分程度で運動
学習をしているといえる。
〔図 3〕H26
4 学年
単元 1 時間目の様子
〔図 3〕のように、単元の始めは動き方が
分からず、教師の近くに集まって動きが小さ
くなりがちであった。そのため、学習指導場
面を意図的に増やし、単元の経過とともに子
供が自分の動ける場を見つけていけるきっか
けをつくっていった。
しかし、本単元では、単元の進行に関係な
く学習指導場面の割合が変化していなかった
ところに、授業の進め方の問題があると考え
られる。また、教師対子供の時間が多すぎて、
お互いの動きを見合ったり、自分の動きを振
り返ったりする認知的学習場面の時間が少な
かった。
この結果を踏まえて、平成 27 年度は、①
学習指導場面を減らす、②認知的学習場面を
増やす、これら 2 点を意識して授業に臨んだ。
〔表 4〕H27 2 学年 体育授業場面
観察結果と頻度
単元の進行→
カテゴリー↓
学習指導
認知学習
運動学習
マネジメント
1
2
3
4
42%
9%
49%
0%
43%
12%
42%
3%
41%
6%
47%
6%
40%
13%
44%
3%
平
均
41%
10%
45%
4%
〔表 4〕から、平成 26 年度に比べ、認知的
学習場面が増えたことがわかる。低学年にお
ける「見合い」の学習は、運動学習の時間は
減るものの、自分がどう動けばよいのかの手
掛かりとなるため、大変有効であった。また、
「見合い」の際は、体育館の半分を使って動
いたため、子供が見る範囲を絞りやすく、よ
い動きを見つけやすかった。
認知的学習については、一定の成果が見ら
れたが、学習指導の割合は平成 26 年度と変
化があまり見られなかった。これは、教師の
伸ばしたい技能の欲求と、子供の運動欲求に
ギャップがあったためと考えられる。子供は、
「○○がやりたい」と欲求のままに動くが、
教師は自分のイメージに近づく動きをしてほ
しいと思い、授業の中で動きを修正しようと
した。この時間が多かったため、学習指導場
面の割合の改善が見られなかったのではない
かと考えられる。
〔図 4〕にあるような
掲示物を、表現運動の
授業を行う時には作っ
ていた。これは、イメ
ージをふくらませ、ど
のような動きがあるか
を 授 業 前に 共有 す
〔図 4〕H26 4 学年
る 目 的 があ った の
イメージボード
だが、2 年生に対し
ては効果があまり見られなかった。
低学年の子供は、教師が思った以上にその
もののイメージを持っていない。写真には動
きがないので、風船の動きをさせたければ、
実際にゆったりと飛んでいる風船を見せる必
要がある。
学年によって、運動する前のイメージの共
有の仕方を工夫することで、今後学習指導場
面の割合が減っていくと考えられる。
2 年間の体育授業場面の分析によって、運
動量を確保し、子供と教師の思いが合致する
授業をつくることがいかに難しいものである
かを感じた。
今後は、子供の実態に合った授業のねらい
を定め、焦点を絞った指導を意識することで、
日々の授業をよりよいものにしていけるだろ
う。
(3)運動技能に関する技術的フィードバック
から分析する授業改善
体育授業場面の分析から、授業の時間の使
い方を意識する視点を持つことができた。
そこで、学習中に子供にどのような言葉が
けをしているのか。また、その言葉がけは子
供を伸ばすために有効であったのか。教師が
発した言葉をまとめることで、
「教師の役割」
を追求していった。
平成 26 年度と 27 年度の授業で、教師が子
供に向けて発した言葉を 6 つのカテゴリーに
分類し、その回数の変化などから、単元の進
行に伴って、どのような言葉がけをしていけ
ばよいのかを分析した。
表現運動に関する技能的フィードバック観
察カテゴリー
・肯定具体 ・肯定一般 ・矯正具体
・矯正一般 ・発問
・受理
120
(分)
100
80
60
肯定具体
肯定一般
矯正具体
40
矯正一般
20
発問
0
受理
〔図 5〕H26 4 学年
互作用行動 調査結果
学習内容に関わる相
〔図 5〕から、単元の進行とともに、子供
にかけた言葉がけ=「相互作用行動」の回数
が減り、子供の主体性を意識した授業が行わ
れたことがわかる。
しかし、「肯定一般」や、
「矯正一般」の相
互作用がまだまだ多く、子供に具体的で分か
りやすい言葉がけをしているとはいえない。
意図なく言葉がけを増やすのではく、
「今日
は○○を伸ばそう」などの明確なねらいを教
師が持つことが、より具体的な相互作用とな
って、子供の力を伸ばす起爆剤になるであろ
う。
この結果を踏まえ、平成 27 年度は、①よ
り肯定的で具体的な言葉がけを増やす、②運
動の特性に関わる相互作用行動をバランスよ
く行う、以上の 2 点を意識して授業に臨んだ。
(回)
70
60
肯定具体
50
肯定一般
40
矯正具体
30
〔図 6〕H27 2 学年 単元 4 時間目の様子
〔図 6〕のように、単元後半は、全体指導
ではなく、2 人組やグループなどに直接かか
わり、動きのよいところや、さらによくでき
そうなことを瞬時に見つけ、それを子供に伝
えていくようにした。子供の欲求を満たす技
能的な言葉がけの引き出しを、教材研究で十
分に増やしておくことが大切であろう。
300
250
200
(分)
身体・動き
150
空間
100
時間・リズム
50
0
矯正一般
20
発問
10
受理
0
1時間目2時間目3時間目4時間目
〔図 8〕H27 2 学年
互作用行動 調査結果
学習内容に関わる相
〔図 8〕から、単元 4 時間目に具体的な言
葉がけが多く行われたことがわかる。昨年度
の結果を意識して授業を行ったつもりだが、
単元の前半で動きを示範しながら子供の動き
を評価していくのは難しいとあらためて感じ
た。単元の後半に向けて、子供に委ねる時間
を増やし、動きを的確に評価していく必要が
あるだろう。
力性
250
200
150
〔図 7〕H26 4 学年 運動の特性に関わる
相互作用行動 調査結果
〔図 7〕は、相互作用行動の中で、運動の
特性に関わるものを分類したものである。
具体的な言葉がけの中で、
「身体・動き」に
関するものが集中した単元前半に対し、後半
になるにつれ、バランスが取れてきている。
単元の進行に伴い、常に新しい目線での言
葉がけが頻繁に行われると、子供はさらなる
目標に向かって意欲的に動くことができると
考えられる。
100
50
(回)
身体・動き
空間
時間・リズム
力性
0
〔図 9〕H27 2 学年 運動の特性に関わる
相互作用行動 調査結果
〔図 9〕から、単元の進行にともない、動
きを高める具体的な言葉がけが増えていった
ことがわかる。結果が顕著な 4 時間目は、子
供たちを半分に分けて、お互いの動きを見合
う活動を行った。
この時間は示範を見せることがないため、
子供の動きを見ることに集中できた。結果、
子供たち同士が、お互いの動きのイメージを
高め合っている様子が観察できた。
相互作用行動の分析によって、学習時間に
おける教師の行動一つで、子供の動きが大き
く変わり、その結果、意欲や技能の向上につ
ながっていくものとわかった。
今後は、実態に応じた学習形態をとり、ポ
イントを絞った具体的・肯定的な言葉がけを
意識することで、普段の授業で、
「先生に声を
かけてもらって、動き方がわかった!」とい
う場面を増やしていきたい。
4 実践のまとめ
〔表 5 H27 授業前の実態調査〕
そのものになりきって動くことは好きですか
とても
少し
あまり
ぜんぜん
14 人
11 人
4人
4人
〔表 6 H27 授業後の実態調査〕
そのものになりきって動くことは好きですか
とても
少し
あまり
ぜんぜん
29 人
4人
0人
0人
〔図 10〕H26
4 学年
単元 3 時間目の様子
平成 24 年度から表現運動・リズムダンス
領域の実践・研究を始め、4 年目となった。
〔表 5・6〕にあるように、平成 27 年度授業
実施後の調査では、学級のほぼ全員がこの領
域の運動の特性を感じ、
「またやりたい!」と
答えた。
子供の「体を動かすことが好き!」
「体育が
好き!」という期待に応えていくためにも、
教師がより高い専門性と熱意を持って授業を
していく責任をあらためて感じた。
毎回の授業で、丁寧な授業分析をすること
は現実問題としては難しい。それゆえ、日々
の授業の際に、3 つの分析から得られた自分
自身の授業の課題を意識して実践を継続する
必要がある。
〔図 10〕は、リズムダンスでクラスの一体
感が感じられた瞬間の写真である。授業は、
教師と子供が一体となってつくっていく魅力
的な時間だ。今後も目の前の子供と真剣に向
き合い、授業の質を向上させていきたい。
5
おわりに
授業の質の向上を目指して実践と分析を行
ってきたが、自分自身の授業を客観的に分析
することで、己を見つめ直すよい機会になっ
た。
次年度は、リアルタイムな授業改善を目指
し、引き続き千葉大学教育学部七澤朱音准教
授と実践を行っていく予定である。
また、この実践によって得た授業を評価す
る視点を、自分の中だけに留めるのではなく、
体育部や若年層教員に伝えることも同時に大
切であろう。
最後になりますが、授業について助言し、
様々な角度から分析してくださった千葉大学
教育学部七澤朱音准教授に感謝の気持ちを忘
れず、今後も「子供の力を伸ばす教師の行動・
言葉がけ」-体育科の実践-を続けていきた
いと思います。
〔参考文献〕
高橋健夫:体育授業を観察評価する
-授業改善のためのオーセンティック・
アセスメント-:明和出版
村田芳子:新学習指導要領対応 表現運動・
表現の最新指導法:小学館
村田芳子:新学習指導要領対応 表現運動・
リズムダンスの最新指導法:小学館
文部科学省 国立教育政策研究所 教育課程
研究センター:評価規準の作成 評価方法等
の工夫改善のための参考資料 小学校 体育
http://tsukubape1.taiiku.tsukuba.ac.jp/kan
satsu/kyoushi_sougo/main.html
【実践記録】
行動変容をめざした給食指導
―第1学年におけるフィールドワークを通して―
船橋市立法典西小学校 栄養教諭 口野佳奈
1 はじめに
小学生においても、一人で食べる「孤食」・
食卓を囲んでいてもそれぞれが別々のものを
食べる「個食」が定着して久しい(平成 17 年度
国民健康・栄養調査)。栄養教諭として勤務する
なかで、学校給食への期待は多く寄せられるも
のの、児童の給食喫食における行動変容が容易
に進まない例が増えていると感じる。古島ら
(2006)は人との関わりが行動変容に影響を与え
る要因のひとつであるとしている。栄養教諭と
して、児童の行動変容のための具体的な関わり
方を探った。
2 実践の方法
(1)フィールドワークを用いること
フィールドワークとは
調査地で見聞きしたことについての記録(フィ
ールドノーツ)を作成することにより、問題解決
や問題発見を行う方法のこと。仮説生成的な調
査方法。
船橋市では各小学校に 1 名の栄養教諭または
学校栄養職員が配置されている。各人が自校の
教室を訪問し給食指導を行っている。筆者はこ
れまで、教室訪問において児童の様子や行動等
で気になるところを意識するものの、そこから
問題意識を深めていくことはなかった。今回は
フィールドワークと呼ばれる手法を用いて、児
童の様子を日々記録することにより、行動変容
のための有効な給食指導の手法を探った。
(2)第 1 学年児童を対象とすること
第 1 学年児童にとっては、学校給食をはじめ
として、学校生活のすべてが期待と不安の入り
混じる未知の世界である。ほぼ毎日実施される
給食の時間を楽しく過ごすことは、豊かな学校
生活を送ることにつながる。一般的に栄養教諭
または学校栄養職員の教室訪問は第 1 学年に時
間を割くことが多い。学校に 1 名しかいない栄
養教諭または学校栄養職員の指導の効率性、有
効性の観点に立つと、1 年生を中心に教室訪問
を行う利点は数多くある。まず、給食に不慣れ
で、給食についての様々な決まりを知らない学
年であること、これからの在校年数が最も長く、
今後長い期間にわたる指導が可能であること、
発達課題面でみれば、学童期以前の発達課題が
達成できていない場合にも、それらの発達課題
にもどり、やり直しやすいこと。また勤勉性を
養う学童期の初期に、友達から学び、友達に教
えながら望ましい食事の経験を重ねることが
心身の健やかな発達に寄与することが考えら
れる。このため、本実践では第 1 学年を対象と
した。
(3)期待する児童の変容
古島ら(2006)はプロチャスカの行動変容のス
テージの定義「無関心期…健康行動を実践せず、
行動変容の意図もない者」「関心期…健康行動
は実践していないが、行動変容の意図はある者」
「準備期…行動が少しずつ変化しつつある者」
「実行期…健康行動を実践しているが、十分に
定着していない者」「維持期…健康行動を実践
しており、習慣として定着している者」をもと
に、給食における児童の行動を表 1 のとおり、
5 つのステージに分類している。
表1
行動変容の定義(古島ら 2006)
ステージ
1
無関心期
1年生児童の食行動
給食で残すことに抵抗がない
残さないようにしようとする意識
がない者
2
関心期
給食を残すことはいけないと思う
が、どうしたらよいかわからない
者
3
準備期
給食を残さないためには、どうし
たらよいかわかってはいるが、な
かなか実行できない者
4
実行期
給食を残さないように努力、実行
しているが、十分に定着していな
い者
5
維持期
給食を残さず食べ、習慣として定
着している者
本実践記録でも、行動変容のステージとして
表 1 の定義を用いる。
児童の行動変容のステージについては、給食
開始時、7 月 17 日、10 月 23 日、11 月 20 日の
計 4 回の評価を行った。給食開始時は担任と栄
養教諭の記憶によるもの、7 月・10 月・11 月
についてはフィールドノーツと、給食時の残菜
量を資料として分析した。給食時の残菜量につ
いては、その場でメモしたものとデジタルカメ
ラによって撮影したものをデータとし概量を
記録した。
(4)特別支援学級の見学
個別指導の方法について検討するため、近隣
校の特別支援学級を見学させてもらう。
(平成 27 年 7 月 14 日)
・給食に集中できる環境づくりをする
(時間の確保、放送の音量調整、給食の決ま
りの確認等)
・児童の喫食の状況をよく観察する
・児童の喫食の状況に合わせた声かけを行う
・児童の喫食の状況により、量の増減を行う
・ひとつの食べ物、献立の完食(注)にこだわり
すぎず、長期的視点に立った指導を行う
・児童の行動変容を観察し、質・量の結果を問
わず称賛する
などが給食指導のポイントであると感じた。
(注 完食=盛り付けられた料理、食事を残さ
ず食べること)
3 実践の概要
(1)対象
本校の第 1 学年は 5 学級 156 名であるが、個
別指導の在り方を詳細に探るため、対象を 1 学
級(児童数 32 名)に限定する。
(2)期間
平成 27 年 7 月 13 日~17 日、
平成 27 年 9 月 2 日~11 月 20 日
(3)方法
クラス訪問を行い、児童の様子を観察。筆者
は2(4)の給食指導のポイントに基づき、行動変
容ステージ 2 の児童を中心に個別指導を行う。
それ以外の児童についても、必要に応じ指導を
行う。給食時間終了後、筆者は児童の様子や児
童と筆者のやりとりなどをフィールドノーツ
として記録する。フィールドノーツを読み返し
ながら、翌日の個別指導の方法を考える。
4 実践の経過と結果
(1)実践 1
各自食べ終わることができる盛り付け量に
し、完食する経験を重ねる。
(平成 27 年 9 月 2 日~11 月 20 日)
①実践に至るまでの経過
フィールドノーツより
A 児 9 月 28 日
サラダ 15g 程度に減らす。スープも 60~
70gくらい。
牛乳を少し飲み、揚げパンを食べる。3/4
程度たべたところで、筆者が「春雨食べて
みる?」と尋ねた途端、食べるのをやめて
しまった。ティッシュを出して、揚げパン
をさわって汚れた手をふき始めた。春雨サ
ラダでなくても良いので、給食を食べるよ
うに何度かすすめるが、食べ始めず。横を
向いたり、後ろを向いたり、おしゃべりを
したりして、時間をつぶす。A 児の背中側
に座っている友達の進み具合を確認し、そ
の友達が完食していないことにほっとして
いるようにもみえる。バナナを食べるよう
にすすめると、ぎこちない手つきでバナナ
をむく。すぐにバナナを完食。終了時間が
来ると、急いで片づける。サラダの春雨 1
本を食べるように話すと、自席に戻るが、
なかなか食べ始めない。筆者が春雨 1 本を
スプーンにのせ、皿に置くと、自分でスプ
ーンを持ち、すぐに食べ始める。
揚げパン 3/4 個、春雨 1 本、バナナ 1 切
れを食べる。牛乳は少し飲む。サラダ、ス
ープを残す。バナナが食べられたことを、
筆者に報告しにくる。A 児「バナナ、食べ
たよ」筆者「がんばったね。」
今日の献立は、学校全体では人気のある
献立で、筆者は完食する好機であると思っ
ていた。盛り付け量を減らしたが、食べ終
わらなかった。そもそも、完食したいと思
っていないのだろうと筆者が考えていたと
ころに、バナナを食べ終わったことをうれ
しそうに報告してきた。完食したい気持ち
があることがわかった。完食する経験を積
ませたい。
明日は、A 児が減らしたいと申し出てく
るならば、量を減らす。完食の見通しがつ
くことにより、最初のひとくちが始めやす
くなるのではないか。
フィールドノーツより
A 児 10 月 1 日
(9 月 29 日、9 月 30 日は給食のない日課で
あったため、給食時間としては、9 月 28 日
の翌日にあたる)
食前に、ご飯、スープ、鰯のパン粉焼き
の量を減らす。2~3 口で食べ終わる量。牛
乳、フルーツポンチは皆と同じ量。(すべて
を食べ終わったら、おかわりをしてよいこ
とを説明する)
ご飯と魚をほぼ同時に食べ終わる。ただ
し、ご飯の具のマッシュルームとにんじん
が残っていた。筆者「マッシュルームとに
んじんも食べよう。
」隣の席の児童が「口が
痛い」「お腹が痛い」「足が痛い」と言って
いるのに影響を受けたのか「足がかゆい」
と言って、なかなか進まなかった。離れた
席で、友達ががんばって食べている様子を
ちらちら見る。その後、マッシュルームと
にんじんを食べ切る。スープも目をつぶり
ながら、飲み干す。フルーツポンチをさっ
さと食べ、牛乳が残っているが、食器を片
付け始める。牛乳を立ち飲みしながら、片
付けようとしたので、筆者が「座って牛乳
を飲むのよ。飲み終わってから、片付けよ
うね。」と話すと、座って牛乳を飲み、すぐ
に飲み終わる。おかわりはしない。片付け
を早々に終える。黒板に完食マグネットを
張りに行く。完食した数名の友達と、掃除
の時間になるまで、黒板から離れず、歓談
している。(クラスの決まりで、完食した者
は自分の名前を書いたマグネットを黒板に
掲示することができる。完食すると、給食
時間の後で連絡帳にシールをはってもらえ
る。)
級友の行動に影響を受けやすい。完食で
きるとうれしいと感じている。
しばらく食前に盛り付けの量を減らし
て、可能ならばおかわりさせる。完食する
経験を積ませ、習慣にさせたい。
②実践内容
給食当番の配膳終了後、配膳された量を食べ
切れないと思う児童が担任に申告し、担任は盛
り付け量を減らす。
③実践結果
7 月時点で行動変容ステージ 2 だった児童が
「完食したい」という意志を持ち、「このくら
いなら食べられる」という見通しがついたせい
か、苦手なものでも自発的に一口食べてみる行
動が多数出現し、完食できる日も散見されるよ
うになった。10 月時点で全員がステージ 3 以上
に移行した〔表 2〕。しかし、完食の場合でも、
とにかく食べてみたところ、たまたま完食した
という児童が多く、完食するかどうかは、日に
よって変わり、完食の定着には至らない児童が
多数いる。
表2
行動変容ステージごとの人数(人)
ステージ
給食開始
7 月 17 日
10 月 23 日
11 月 20 日
1
2
3
4
5
12
15
0
2
3
0
26
1
2
3
0
0
13
15
4
0
0
6
9
17
(2)実践 2 食べ切るための作戦を考える
(平成 27 年 11 月 6 日~11 月 13 日)
①実践に至るまでの経過
7 月にステージ 2 で、10 月に入りステージ 4
になっていた B 児に完食の理由を質問した。B
児は、食べ切るための方法を教えてくれた。B
児の独創性の高い方法を聞き、児童自身が食べ
切るための方法を考えることの重要性を痛感
した。
B 児とのやりとりは次のようである。
フィールドノーツより
B 児 10 月 29 日
昼休みに廊下で筆者にあいさつしてくれる。B
児「先生!」筆者「B さん、今日もよく食べて
いたね。(クラスの中で完食した順位が)2 番
だった?」B 児「うん」筆者「がんばったんだ
ね。前はそんなに早くなかったよね。残す日も
あったよね。」B 児「うん」筆者「どうやった
ら、今みたいになったんだろう?」B 児「好き
なものを食べちゃうの。」筆者「え?好きなも
のを食べちゃうって?B さん、嫌いな食べ物も
あるよね?」B 児「うん、嫌いなものもある。」
「『よくかんで』ってみんな言うけど、好きな
ものってよくかもうとしても、すぐに食べ終わ
っちゃうの。」「好きなものをすぐに食べ終わ
っちゃうから、食べるの早くなったの。」筆者
「へえ~。そうなんだ。」「でも、そうかもね。
先生も、好きな食べ物は早く食べ終わるかも。
B さん、いいところに気付くね。」B 児「うん。」
筆者「ほかには、B さんが考えた食べ方ってあ
る?」B 児「ん~とね。あるある。食べたこと
の無い食べ物ってよくあるでしょ。」筆者「う
ん。あるある。」B 児「(私ね)食べたことの
無い食べ物から先に食べるようにしてる。先に
ちょっと食べてみるの。そのとき、『おいしい
なあ』って思ったら、それを食べちゃうの。そ
の方がおいしいから。」筆者「へえ~。」B 児
「それくらいかな。」筆者「え?じゃあ、苦手
な食べ物が残っちゃったらどうするの?」B 児
「残っちゃったら、食べるの。」筆者「どうや
って?」B 児「食べれるから。」筆者「へえ~。」
フィールドノーツより
B 児 11 月 2 日
筆者「この前、聞いてなかったことで、聞きた
いことがあるの。聞いてもいい?」B 児「いい
よ。」筆者「苦手なものを食べる時の方法、も
う一度聞いてもいい?」B 児「いいよ。苦手な
ものを食べる時は、『わたしだったら、食べら
れる』って思うの。それか、鼻つまんじゃう。」
筆者「そっか。教えてくれてありがとう。」
②実践内容
特別活動の学習のなかで、給食を食べること
の意味を知り、給食を食べ切る作戦を考えさせ
る。
表 3 題材名「えいよういっぱいだいさくせん」
・給食を減らすことが多いことに気付く
・食べ物を食べて、体が毎日つくりかえら
導
れていることを知る
入
・給食を減らしていると、体をつくる材料
が足りないことに気付く
・どうしたら食べ終わるだろう
・自分の食べ方の特徴を知り課題をみつけ
展
る
開
・今よりもたくさんの量の給食を食べ終わ
る方法を考え、話し合う
・自分の課題を挙げ、食べ切るための方法
終
を考える
末
・考えた内容を互いに発表し合う
〔図 1〕指導資料 1
〔図 3〕指導資料 3
〔図 5〕指導資料 5
③実践結果
11 月 6 日(金)に給食を食べ切る作戦を立てる
授業を実施し、翌週一週間で作戦を実行し、自
己評価を実施した。初めの 2 日間は、クラス全
体で作戦を意識する雰囲気があり、自己評価も
高い児童が多かった。しかし、後半は作戦を意
識しない行動が増え、その都度、各自の立てた
作戦を思い出せるよう、筆者が個別に声をかけ
た。これは、10 月時点でステージ 3 の児童に多
くみられた。
10 月時点でステージ 4 またはステージ 5 の児
童は作戦を守っていることを確認してもらお
うと、給食時間中に筆者に声をかけてくること
が多かった。またこれらの児童のなかには、授
業で立てた作戦のほかにも、その日の献立に合
わせ、給食時間中に新しい作戦を考える児童も
おり、新しい作戦を筆者に説明し、複数の作戦
を組み合わせながら給食を食べる姿もみられ
た。
〔図 2〕指導資料 2
〔図 4〕指導資料 4
〔図 6〕ワークシート1
〔図 7〕ワークシート 2
〔図 8〕ワークシート 3
(3)実践 3 背筋を伸ばす
(平成 27 年 11 月 16 日~11 月 20 日)
①実践に至るまでの経過
実践 1 と 2 の後、全員がステージ 3 以上とな
り、自発的に食べる行動をとるようになってき
たものの、その行動が定着したわけではない。
盛り付けの量を減らしているにもかかわらず、
食べすすまない日もある。そこで実践 1,2 以
外で、効果的な実践内容を検討するため、次の
2 つの観点で児童の行動観察を行った。
1 背筋の伸び
2 主食とおかずの交互食べ
文部科学省『食に関する指導の手引―第一次
改訂版―』213 頁「正しい食べ方」の中で背筋
の伸び・交互食べが挙げられている。東京都教
職員研修センター(2014)は座位姿勢の良い児童
は自己抑制が高い傾向にあるとしており、自己
抑制の例として「嫌いなものでも我慢して食べ
る」を挙げている。交互食べについては東山ら
(2010)が、
「小学校高学年や食欲旺盛な子供には、
副食を食べては主食を食べ、再び副食を食べる、
といった、あたかも主食がハブの中心であるか
のような摂食方法がみられる」としている。
背筋を伸ばし、交互食べを行うことが、食べ
終わることにつながるのではないかと考え、行
動観察を行う。
◆背筋の伸びている児童、伸びていない児童の
行動観察
・給食時間中ずっと背筋が伸びている児童は
いない
・食べている時には背筋が伸びる児童が多
い
・好きな食べ物を食べる時にだけ、背筋が伸
びる児童がいる
・背筋が曲がった状態でも完食できる児童が
いる
・背筋が伸びている時間が長い児童は、皆、
完食している
◎背筋が伸びていることは完食することの
十分条件であるといえる
◆主食とおかずの交互食べができている児童、
できていない児童の行動観察
・交互食べをせずに、完食する児童がいる
・交互食べをして、完食する児童もいる
・交互食べをしても、完食しない児童もいる
◎交互食べと完食の関連を見いだせず
②実践方法
〔図 9〕のような掲示物(日
本経済新聞電子版 2015 年 5
月 31 日「『姿勢悪い子』増加
中『背中ぐにゃり』は集中力
不足の原因に」をもとに作成)
を作成し、給食時間に黒板に
掲示する。背筋が伸びてい 〔図 9〕
ない児童に対して、筆者・ 背筋を伸ばすスト
担任が背筋を伸ばすように レッチの図
個別に声をかける。
③実践結果
実践 3 の期間中、背筋を伸ばすように声をか
ける必要がなかったのは 32 人中 8 人。声をか
けられた児童は、その一瞬、背筋が伸びるが、
すぐにもとの姿勢にもどり、給食を食べること
にはつながらなかった。よい姿勢の基本は、体
作りであり、運動習慣の定着である。根本的な
改善が必要であることを痛感した。
対象学年である 1 年生では交互食べを完食と
関 連付ける ことがで きなかっ たが、東 山ら
(2010)は高学年と食欲旺盛な子供には交互食べ
のような食べ方がみられるとしている。中・高
学年での実践は検討の余地がある。また、背筋
を伸ばすことと交互食べは関連が強いように
思われる。背筋を伸ばしている児童の中には
「茶碗を持つと背筋が伸びる」と話している児
童もいた。今後、実践の方法を検討してみたい。
5 結果
(1)児童の変容
表3
ステージの評価の推移(4 月→7 月→10 月→
11 月)による分類とその人数
ステージの評価
4 月→7 月→10 月→11 月
ステージ 1→2→4→5
ステージ 2→2→4→5
Ⅰ
ステージ 4→4→4→5
ステージ 4→4→5→5
ステージ 5→5→5→5
ステージ 1→2→3→4
ステージ 1→2→4→4
Ⅱ
ステージ 2→2→3→4
ステージ 2→2→4→4
ステージ 2→3→3→4
Ⅲ ステージ 1→2→3→3
人数(人)
2
10
1
1
3
3
1
3
1
1
6
17
9
守っていく必要がある。
6 成果と課題
(1)成果
給食の量を減らす児童は依然として多いが、
食べ切ったあと、減らした児童がおかわりをす
ることが増えた。担任や筆者から指導された内
容や自分で決めた作戦を活用しながら給食を
食べる姿も多くみられるようになった。
(2)課題
ステージが上がった児童が多い一方、〔表 3〕
のⅢグループの児童から、給食を残し満腹感が
得られないので放課後に間食を食べるという
旨の発言を聞くことがあった。今後、学年が上
がるにつれ、午後の授業時間数が増え、間食に
頼る方法がとれない場面が出てくる。家庭と連
携をとり、給食で必要量を食べられるよう、意
識を変えていく方法が必要である。
7 おわりに
児童が給食において行動変容を起こすには、
児童が抱える様々な要素にはたらきかける関
わり方が必要である。本実践では、食べられる
量を盛り付け、食べ切るための作戦を用い、背
筋を伸ばして食べることができるならば、給食
を残さず食べられる児童がいるということが
わかった。また、児童が勇気を出して給食を食
べた時に「食べてよかった」「おいしい」と思
える給食であることが重要だと毎日感じた。今
後も継続して行動変容のための給食指導の手
法を考えていきたい。
【参考文献】
・健康栄養情報研究会(2008)『国民健康・栄養
Ⅰ…11 月の評価でステージ 5 のグループ
の現状』、第一出版
Ⅱ…11 月の評価でステージ 4 のグループ
・古島そのえ・金子佳代子(2006)「小学校1年
Ⅲ…11 月の評価でステージ 3 のグループ
児童の学校給食における食行動の観察」
、
『横
浜国立大学教育人間科学部紀要』
(2)考察
・佐藤郁哉(2002)『フィールドワークの技法―
行動変容のステージの評価を 4 回行う中で、
問いを育てる、仮説をきたえる』新曜社
評価が後退する児童はいなかった〔表 3〕。また
・文部科学省(平成 22 年)『食に関する指導の
給食開始時ステージ 5 の児童は 3 人であったが、
手引―第一次改訂版―』
11 月には 17 人に増えた。また〔表 3〕のⅡグ
・東京都教職員研修センター研修部教育開発課
ループは、苦手な食べ物が多いが、苦手なもの
(2014)『子供の体幹を鍛える研究~正しい姿
が給食で出た時に数口以上を自発的に食べて
勢のもたらす教育的効果の検証~』
いる児童が多く属している。今後、体格が大き
・東山幸恵・今村光章(2010)「給食時における
くなり、幅広い種類の食材を口にする経験を重
学童の食行動観察の試み―栄養教育の立場
ねれば、食べられるものの種類・量が増え、ス
から bite 数・非摂食行動・摂食行動に着目
テージ 5 に移行していくことが予想される。今
して―」『岐阜大学教育学部研究報告 教育
の努力をたたえ、ステージが後退せぬように見
実践研究』
6
[実践記録]
青年海外協力隊 帰国後のあゆみ
-南太平洋の国バヌアツ共和国での2年間の経験を生かした国際理解教育・外国語活動―
船橋市立若松小学校 教諭
1
はじめに
学習指導要領によると「小学校段階では、小学
生のもつ柔軟な適応力を生かして、言葉への自覚
を促し、幅広い言語に関する能力や国際感覚の基
盤を培うため、中学校段階の文法等の英語教育を
前倒しするのではなく、国語や我が国の文化を含
めた言語や文化に対する理解を深めるとともに、
積極的にコミュニケーションを図ろうとする態
度の育成を図ることを目標として、外国語活動を
行うことが適当と考えられる」とある。また、船
橋市では、平成 19 年度に英語教育特区の認定を
受け、市立小学校全学年で英語科の授業が展開さ
れている。
このような中、外国語活動の充実に向け、全国
で様々な実践が行われている。私は元々は外国語
活動に興味があったわけではなく、どちらかとい
うと1年生から外国語活動を行うことに対して
不安を抱いていた。しかし、青年海外協力隊とし
て、バヌアツ共和国にて二年間活動するという貴
重な経験をする機会を得た。帰国後この経験を何
とかして子どもたちに還元できないかと試行錯
誤を続け、やはり一番生かすことができるのがこ
の外国語活動の時間及び国際理解教育であると
考え本実践を行った。
2
実践の仮説
(1)国際理解教育を軸にした外国語活動を行え
ば、積極的にコミュニケーションを図ろうとする
態度を育成することができるだろう。
(2)バヌアツ共和国の紹介による国際理解教育を
行えば、バヌアツを入り口に世界の出来事へ目を
向け、世界の中の日本人としての国際感覚の基盤
を養うことができるだろう。
3
実践の経過
(1)児童の実態
本研究は、帰国後これまでの間に学級と英語ク
ラブにおいて行ったものである。2年とも1年生
の担任をしており、ひらがな、カタカナの指導が
終わった9月から少しずつ実践を行ってきた。英
語クラブについては、帰国後に新設したため、こ
れまでの活動の流れなどは無く、英語に興味のあ
る児童が昨年度は18名、今年度は25名在籍し
ている。(2年連続在籍の児童はいない)
(2)実践の柱
中澤 悠紀
実践にあたり、柱は大きく2本あった。
<柱その1>「国際理解教育のすすめ」
このように題し、折に触れ世界の話を取げるこ
とを心掛けた。異文化理解には「知る⇒興味を持
つ⇒分かり合う」という3つのプロセスがあると
言われている。このプロセスで「相手を思いやる
心」が育成されると考える。他国を一つでもしれ
ば、そこから世界の扉は開いていくのではないだ
ろうか。
図1
国際理解への3ステップ
<柱その2>コミュニケーションツールとし
ての英語
「世界に飛び出したい!」と思った時に必要に
なるのがコミュニケーションツールとしての言
葉(すなわち英語)である。
読売新聞に「英語教育 問われる中身」と題し
た記事があった。中学・高校・大学とこんなに英
語を頑張っているのに話せるようにならないの
は日本くらいである。原因は様々であるが、使う
場面がないというのが大きいだろう。種をまいて
あげれば子どもたちは伸びていけるのではない
かと考え、小さいころから英語を使って外国人と
コミュニケーションを取ることの楽しさを感じ
られる場を提供した。
(3)実践
<クラスでの取り組み>
① 一日一枚バヌアツ講座
帰国したばかりで、初めての異動に1年生の担
任…発達段階から鑑みても海外の話をするのは
早いのではないかという葛藤と、この経験をどう
活かそうか考える余裕もなく日々の業務に追わ
れる毎日であった。そんなとき、参加したJIC
A主催の帰国隊員向けの研修をきっかけに、考え
すぎないでとりあえず発信することも大切とい
う結論に至り、たとえ1年生でも、何かしら響く
ものはあるだろうと、1日1枚バヌアツの写真を
見せるという取り組みを始めた。こどもたちは日
本と比較し、気づいたことを素直に口にしてくれ
た。その着眼点から補足説明を行うという形で授
業をすすめた。
しい!」「9.世界の食料」である。後に感想を
書かせたが、一年生なりに様々なことを感じてい
た。詳しくは実践の考察の項で述べる。
コンテンツ
1.学校に行けない世界の子供たち
2.緑の地球を守ろう
3.笑顔で暮らせる世界に
4.水は命のもと。水がほしい!
5.ジェンダー問題って何?
6.子どもの兵士
7.ゴミだらけの地球にしないために
8.地球温暖化
9.世界の食糧
図4
図2
「ぼくら地球調査隊」内容一覧
空港の様子
上記の空港の写真では「飛行機からなんで階段
で降りるの?」下記の、バスとして走っているワ
ゴン車の写真を見せると「えぇ~こんなのバスじ
ゃない!」
図5 「ぼくら地球調査隊」トップ画像
③ 朝の会 in English
朝の会の司会を英語で行った。内容は以下の図
に示す。スピーチも英語で行い、日直が一周する
ごとに、英語で知らせたいことを話し合って決め、
トピックを変えていった。これにより英語を使う
場面が毎日確保できた。
図3 乗り合いバスの様子
このように自分たちの身近な生活と他国の様
子を比較することで、自分たちの当たり前が他国
の当たり前ではないことに気づくことができた。
一つだけ注意したのは、「途上国=可哀想」とい
うイメージを持たせないようにしたことである。
モノの豊かさでは劣っていても、自然の豊かさや
生きる力は優れているかもしれないこと。そして
写真に写っている彼らはいつも笑顔であること
を強調するようにした。比べることで日本の豊か
さに気づき、感謝の念が芽生えればよいと思う。
② JICA の資料を用いた国際理解の授業
子どもたちに与える情報は協力隊経験に限ら
ず、JICA やユニセフの資料を活用した。これは汎
用性が高く準備時間もかからず大変有効であっ
た。内容としては高学年向けであるが、1年生で
はテレビ画面に映して、担任が内容をかみ砕いて
聞かせる形で行った。扱った内容は「1.学校に
行けない子供たち」「4.水は命のもと。水がほ
☆あさのかい
えいご
ばーじょん
れっつ すたーと もーにんぐ みーてぃんぐ すたんど
あっぷ ぷりーず
Let’s start morning meeting. Stand up please.
ぐっど もーにんぐ えぶりわん 1.2(みんなも)
Good morning everyone 1 2
いんぐりっしゅ りーだー かもん!
English leader come on!
れっつ しんぐ もーにんぐ そんぐ
Let’s sing morning song.
れっつ せっと とぅでいず ごーる
Let’s set today’s goal.
ちぇっく ゆあ ねーむ たぐ
Check your name tag
れっつ すぴーち たいむ
Let’s speech time.
いっつ たいむ とぅ ちぇっく ゆあ へるす あんど
てぃーちゃーず すぴーち
It’s time to check your health and teacher’s speech.
③ 英語劇
図6 朝の会英語 ver.原稿
国語で学習した「おおきなかぶ」の英語劇に挑戦
した。全員が英語の台詞を言う場面を作るように
し、自信を持って皆の前で英語で演技をすること
ができた。動作&英語→日本語訳という形で進ん
でいき、見ている人にも内容が伝わるようにした。
最後の授業参観日に保護者にも見てもらった。
<英語クラブでの取り組み>
① All ビスラマ授業
クラブでは、初回に一切日本語を話さず、突然
ビスラマ語で算数の授業を始めた。内容は1年生
の足し算なので、最初は唖然としている児童も、
何を言っているのか次第にわかってくる。突然指
名されて驚きながらも立式して答えが出たあた
りで、急に日本語に切り替え、その、何を言って
いるのかわかろうとする「気持ち」が異文化理解
の際に一番大事なことだと伝える。それから、バ
ヌアツの紹介を行った。英語クラブで行いたい活
動のアンケートを取ると、話せるようになりたい、
バヌアツの子たちと交流してみたいという意見
が出たので、その辺りに重点を置いて年間計画を
組んだ。
② 手紙交換
初年度はバヌアツのネット環境を加味し、イン
ターナショナルスクールと交流を行った。英文で
手紙を書き、スキャンしてメールに添付して送る
という方法でコストもかからず交流が可能だっ
た。活動に際し、保護者宛てに手紙を出し、顔写
真や名前・学年などの情報を相手校に公開してよ
いか承諾を取った。
一人ひとりに決まったペンパルができ、自分の
書いた手紙に返事が来るというのはかなりモチ
ベーションになったようで、どの児童も毎回英作
文に意欲的に取り組んでいた。英作文の際は、担
当教員二名が相談に乗り、皆の使いたい表現は黒
板に書いたり、個人で英和辞書を持ってきたりし
て取り組んだ。
図7
スカイプ交流の様子
③ Skype交流
手紙が3往復した辺りで、スカイプで交流する
企画を立てた。時差が2時間あるのであちらの業
間休み、こちらの始業前に私のクラスで行うこと
にした。これにより、クラスの児童もバヌアツの
子どもたちの様子を見ることができた。今まで手
紙で交流していた相手と顔を見て話ができると
いうのはなかなか貴重な体験になった。初めての
経験で、声が小さかったり恥ずかしがったりと課
題もあったが、向こうの先生が英語で天気などの
簡単な質問をしてくれたことで、学習したことを
使う場ができたのは、自信につながったのではな
いか。
④ サイクロンPAMへの寄付活動
そのような活動を行っている中、大型サイクロ
ンPAMがバヌアツを襲うというニュースが飛
び込んできた。日本でもしばらくの間、連日トッ
プニュースで報道され、マイナーだったバヌアツ
の知名度が一気に上がった。「バヌアツは大丈夫
なのか」と、クラスの子に限らずたくさんの児童
から声をかけられた。彼らにとってはバヌアツは
もう単なる外国ではなく、友だちの住んでいる国
になったと感じた。
そこで、学校長とも相談し、英語クラブの児童
を中心に募金活動を行うことにした。職員にも寄
付を募り合計 42,000 円集まり、ポートビライン
ターナショナルスクールに送金させていただい
た。幸い学校自体は被害が少なかったそうで、集
まった募金は、被害の大きかった周辺の現地校の
校舎や図書室を修理をするのに使われた。
⑤ 文房具寄付活動
平成27年度には、英語クラブのメンバーは一
新したが、PAMの被害状況を説明すると、何か
自分たちにできることはないかと、子どもたちの
方から意見が出て、使っていない文房具を集めて
送る活動を行うことになった。英語クラブだけで
行う予定だったが、話し合いの末、放送で呼び掛
けたり、教室を回って主旨を説明し、協力を仰ぎ
に行ったりすることとなった。その後各階に箱を
設置し、文房具は続々と集まり、鉛筆約 990 本消
しゴム約 600 個、色鉛筆 26 セットなど総重量 20
kgとなった。
図8
集まった文房具
締め切った後に再び放送で全校に呼び掛け、種
類ごとに分けたり、布に応援メッセージを書いた
りと、さらに多くの児童が関わることができた。
紙の返事を丁寧に書いてくれた。
図9
種類別に分ける様子
図 12
サイクロンの被害は大変残念なことだったが、
この一件で若松の子どもたちの心の中に何かと
ても大事なものが芽生えたように感じた。
英語クラブの児童には今年度初めての英作文
に挑戦してもらい、その後の様子を聞いたり励ま
したりするお手紙を書き、文房具とメッセージと
ともにバヌアツへ送ることにした。
図 10
応援メッセージを書く様子
ちょうど夏休みにバヌアツに行く予定があっ
たので、文房具は直接届けに行った。以前の職場
であるシェファ州教育事務所を窓口にインター
ナショナルスクールと現地校4校を訪問した。
まずはインターナショナルスクール。子どもた
ちは覚えていてくれていて、私が実際に来たこと、
そして日本の友だちが心配して文房具を送って
くれたことに対して大変喜んでいた。
図 11 インターナショナルスクールの児童
続いて現地校。6年生には英語クラブの児童から
の手紙を一人一人に渡し、こちらの顔写真も見せ
たところ皆興味津々に見つめていた。そして、手
鉛筆に大喜びの女の子
文房具の量の多さということではなく、バヌアツ
から遠く離れた日本という国の子供たちがバヌ
アツのために祈ってくれているという事実が、現
地の子供たちや教員の心に響いているのを感じ
た。
図 13
現地校の6年生が手紙の返事をくれた
⑥ クラブで報告
9月の英語クラブでバヌアツに行った際の報
告をした。撮った写真をつなげてスライドを作成
したものと、現地の先生や児童のビデオレターを
流した。皆が集めてくれた文房具は、バヌアツの
子どもたちを勇気づけたという話をし、文房具を
渡した時の様子を伝えた。また、手紙を見せた際
に、一人一人の顔写真を見つめながら感謝の気持
ちを込めてお返事を書いていたと伝え、返事を渡
しました。子どもたちは、興味津々にその手紙を
読み、返事が書きたいということ、そして相手の
一人一人の顔写真を見たいという意見がでた。顔
の見える交流が与える影響の大きさを感じた。
図 14
4
英語クラブでの報告
実践の結果(成果)及び考察と課題
帰国一年目の平成 26 年度の実践は“教師側か
ら場を設定して興味を喚起する”国際理解教育で
あったといえる。それが、2 年目はサイクロンが
あったこともあり、その被害にどう向き合ってい
くか心情面から子どもたちに迫っていく“思いや
り”を中心とした国際理解教育に変わっていった
ように思う。思いやりを中心とした国際理解とは
どういうことか。これには 3 つの柱があると考え
る。
①教師側から場を設定したり情報を提供した
りして興味を喚起していくこと
誰も知らないような小さい国バヌアツが、知名
度がだいぶ上がり、より身近な国と認識してもら
えるようになってきた。クラスの子はバヌアツの
国旗をかけるようになったり、ビスラマ語(バヌ
アツの現地語)の挨拶を覚えたりすることができ
た。たまたま、テレビで取り上げられることも増
えてきて、家族で見たよと報告してくれる子もい
た。保護者との面談でもたびたび話題にあがった。
バヌアツの話だけでなく、昨年度は IS(イスラミ
ックステイト)のニュースが大きく取り上げられ
ていたので、宗教や人種差別の話にもふれたり、
JICA の資料を利用して世界で起きている様々な
問題を取り上げて情報を提供したりした。食料問
題を扱えば、給食を残さないようにしよう、水問
題を扱えば、水の無駄遣いをやめよう、といった
ように子どもたちの言動に変容が見られた。この
ことから、教師のアンテナを高くし、情報提供を
していくことで、世界に目を向けられる子の育成
につながるといえる。
また、同時に感じたのは、低学年だからこれは
早いのでは…と思って躊躇していたような内容
でも、その発達段階に応じて子どもたちは何かを
感じてくれるということである。以下にも記載し
たが、JICA の資料を利用して行った国際理解教育
の授業の感想を読んでもそうだし、英語の最後の
授業の前に ALT と JC にありがとうの手紙を書こ
う!と呼びかけると「英語で書きたい!」という
子が出たこともあった。
・かわいそうだったな。ごめんね、ごはん残して。ごはんが
ちがう国から来ていることは知らなかった。残してごめん
ね。
・意外と日本はごはんをつくっていないということがわかっ
た。意外とごはんを食べられない人がいるんだと思った。
・日本に残しているのがそんなにいるんだね。これからは残
さず食べる。
・外国人はこんなに病気になったり死んじゃったりする人が
いるって初めて知った。
・外国は病気の子が多いことがわかった。給食を残さず食べ
る!日本の食べ物があまりなくてびっくりした。
・これからは絶対に残さず食べる。買いすぎない。
・ぼくもっとごはんを食べるよ。残さずぜったい食べるよ。
・やっぱ好き嫌いはダメだね。好き嫌いしないようにがんば
るぞー!えいえいおー!
図 15
1 年生
食糧問題の感想
黒板に例文を書くと、一生懸命写して、次々と
「じゃあ、こう言いたい時は何て書くの?」と手
紙を書き進めていた。英語に親しみ、聞く話すは
どんどん行い、文法事項を教えずとも、興味のあ
る子は書くにも挑戦してみてもよいのではと感
じた。
・地球にそんなにきけんなことが起きているんだ。
・世界は今大ピンチ。少しでも二酸化炭素を出さない方がいい
んだね。そんなことは初めて知りました。
・これからも電気をむだにしない。
・島が沈むと何人の人が死んじゃうのか。そのことを早くしな
いとダメ。
・温度が何であがったかわかった。いろんなことがわかってよ
かった。
・地球を助けたいから車じゃなくて自転車を使うようにした
い。LED を使うことにします。
・その中でデング熱になりたくないなぁと思った。
・電気はずっとつけちゃダメって気づいた。
・島がそろそろ沈むことなんて初めて聞きました。電気のエネ
ルギーは大切なんですね。
・CO2がいろんなところから出てる。
・初めて知ったことはツバルが沈むこと。
・日本は5番目に CO2 を出していました。今、いろんな島が
沈みかけていました。私は初めて CO2 のことを知りました。
・南極や北極が溶けると島も沈んじゃうってわかった。
・電気を使ったり車を使ったりするだけで CO2 が出ることが
わかった。LED を使うことで普通の電気の8倍も減るのが
わかった。もっといろいろなことを知りたいです。
・南の島はだんだん海に沈んでいる。自分たちができることを
する。
・今地球の体温が高いっていうのがわかった。体温が高くて氷
も溶けて島が沈んでいるというのがわかった。
・二酸化炭素が温度を上げているなんて知らなかった。いろい
ろ世界で起こっていることが大変だったとは知らなかった。
・日本も沈んでしまったら大変だと思った。
図 16
1年生
温暖化の感想
②継続は力なり:思いやりの心を育てる実践を
単発ではなく継続していくということ
英語クラブでは英語の手紙交換は、平成 26 年
度は 3 往復、平成 27 年度は 1.5 往復したところ
である。手紙を書く際は、辞書を持っている子は
辞書を使ったり、教員も2人いるので「こんなこ
とを伝えたい時はどう書けばいいの?」と対話形
式で個別に指導したりして進めた。文法の指導を
行っているわけではないので、初めはかなり手間
のかかる取り組みだったが、続けていくうちに何
となく皆書けるようになった。はじめに顔写真付
きで自己紹介し、毎回一人ひとり決まった相手に
手紙を書くようにしたことがよかったのだと思
う。何より、手紙を書くことに抵抗がなくなり、
早く返事が書きたいという気持ちで意欲的にコ
ミュニケーションをとろうとしていたのが印象
的だった。また、昨年度からバヌアツの話を折に
触れて続けていることで、兄弟関係で興味を持ち、
英語クラブに入ってきた子も複数いた。こうして、
一つの国との交流を続けていくことで、子どもた
ちの中でだんだんと、南の小さな島国がただの外
国ではなく、友達の住む国だと認識されてきたの
だと思う。その国が自然災害で大きな被害を受け
たことで、心から心配する気持ち、友達を思いや
って主体的に動くことができたのだと思う。
③コミュニケーションを取るために、英語を使
う必要性・必然性を仕掛けるということ
これから英語が教科化する中、英語を実際に使
う活動の場を提供することで学習の意欲はぐん
とあがると考えられる。私は手紙という形で交流
したが、方法は手紙でも何でもよい。お互いの顔
が見える交流を行うことで、外国に「友達」がで
きる。この友達とコミュニケーションをとるため
に英語を使う、この必要性・必然性が大事なのだ。
船橋にも姉妹・友好都市が3市ある。市内には
すでに交流を行っている学校もあるようだが、ど
の学校でも望めばその活動が取り入れられるよ
うな窓口が開いているとよいのではないか。オー
デンセ市は英語圏ではないが、第二外国語として
の英語学習が3年生より始まり、大人はほとんど
英語を話すことができるようになっているそう
だ。しかし、ただ漠然と相手校に英語で手紙を書
いて形式的に送りあうのでは不十分だと私は考
える。いかに子どもの目線までおろした活動にで
きるかが鍵だ。といっても、日々忙しい我々教師
にとって、この活動はなかなか手間がかかるのは
事実だ。すべての学校にこの活動を強制してしま
うと、余計な仕事が増えてしまい、国際理解教育
自体が倦厭されてしまいかねない。飽くまでも興
味のある学校、先生がいつでも利用できるような
形でできればよいと考える。小学校卒業時に「外
国の方を相手に、英語で船橋のことおよび自己紹
介ができるようになる」というのが船橋の英語教
育のゴールだと聞いた。紹介する相手として姉妹
校の子どもたちを巻き込むのも、子どもたちの英
語学習への意欲喚起につながるのではないだろ
うか。
【課題】
実践を通して感じた課題としては、3点挙げら
れる。
① 国際理解教育の活動を行う時間の捻出
実践には朝の会や学活、道徳の時間を使ったが、
忙しい中で時間を確保するのはかなり困難であ
る。クラブ活動は思ったように使えるが、月に一
度しかないのが困ったところである。
② 学年・同僚への共通理解
大きい学校になると、普段でも共通理解が難し
い。毎年異動があるので、私がバヌアツに行って
いたということを知らない同僚もいる。その経験
を伝える時間と場所を確保するのが困難である。
また、学級数が多いので学年間で同じ内容を行っ
ていくのも打ち合わせ等の時間を取ることがな
かなか難しい。そして、内容的にももう少し精選
が必要である。引き続き実践を続けていき、より
よい形で広めていけるようにするのが今後の課
題である。
③ 安定的な交流相手
バヌアツのネット事情や学校事情により、安定
して交流を行うのが難しい。そこで姉妹校の活用
を提案したい。
図 17
バヌアツからの手紙
図 18
5
手紙に対する返事(9月)
おわりに
このように、国際理解教育と英語教育は切って
も切れない関係であると私は考える。拙いながら
も協力隊での経験を船橋の子どもたちに還元で
きるように実践を続けていこうと思う。
【参考文献】
1、 JICA 『ぼくら地球調査隊』ホームページ
http://www.jica.go.jp/kids/pages/
2、
『JICA 地球ひろば』ホームページ
http://www.jica.go.jp/hiroba/menu/index.html
【実践記録】
自らの健康に興味・関心を持ち、実践できる児童の育成を目指して
―『風邪予防』をテーマにした保健委員会活動4年間の実践報告―
船橋市立三咲小学校 養護教諭 市毛 有美
ことができ、話をきいてもらえると考えたか
現行学習指導要領では『児童会活動を通して、 らである。話し合った結果、低学年でも善悪
がわかりやすいアンパンマンとバイキンマ
望ましい人間関係を形成し、集団の一員とし
ンに決まった。それ以来、保健委員会のキャ
てよりよい学校生活づくりに参画し、協力し
ラクターとして定着し、全校集会での発表の
て諸問題を解決しようとする自主的、実践的
際には、2人を主役にしている。
な態度を育てる。
』とある。
本校の児童の実態としては、手洗いやうが
3 実践の具体的内容と結果
い、食後の歯みがきなど、基本的な生活習慣
が身についている子が少ない。そこで、本校
平成23年度
の保健委員会活動では、基本的生活習慣を身
につけられるような働きかけを行っている。
「かぜを引きやすい子はどんな子?」
主に、手洗い指導、手洗い場の石けん補充、
ハンカチ・つめ・うがい調べなどの衛生検査、 (1)テーマ決定の理由
歯みがきの呼びかけ、歯みがきカレンダー作
「風邪にかかる子とかからない子では何が
成などである。
違うのか」という疑問が児童から出た。そこ
また、本校の学校保健目標である「自分の
で、どのようなことに気をつけたら風邪にか
健康に興味・関心を持ち、健康な心と体をつ
かりにくくなるのか意見を出し合い、いくつ
くる子どもの育成」を目指し、平成 23 年度
かのポイントに絞って発表することにした。
より保健委員会を中心に、『風邪予防』をテ
ーマにした全校児童集会での発表を実施し
(2)手だて
ている。毎年1月の、風邪やインフルエンザ
風邪を予防するためには、どのようなこと
が流行る時期に、委員会児童が全校児童に伝
に気をつけたらいいのかをテーマに、創作劇
えたいメッセージを、創作劇やクイズなどで
で発表する。
発表している。
風邪のウイルスたちが勉強しているバイ
このような取組を通して、児童に自分自身
キンマン小学校を舞台に、風邪にかかりやす
の健康に興味・関心を持たせ、自分たちで出
い子はどんな子か勉強していく。
来る風邪予防の方法を考え実践できる意欲
最後のまとめのところで、風邪予防につい
を高めるようにしている。
て気をつけて欲しいことを
以下、「風邪予防」をテーマに全校児童集
①好き嫌いをしない
会での保健委員会4年間の実践を紹介する。
②早寝早起きをする
③手あらい・うがいをする
2 実践の方法
④きれいなハンカチで手をふく
毎年 1 月の全校集会での発表に向けて、10
この 4 つに絞って呼びかけた。
月・11 月頃にテーマを保健委員会の児童みん
なで話し合い、決定する。その際に、どのよ
(3)成果と課題
うに指導したらより相手に伝わるか考え、意
発表前の 12 月と発表後の 1 月にそれぞれ 2
見を出し合う。その後、出てきた意見を元に
週間ハンカチ調べを行った。結果は発表前の
教師がまとめ、台本を考える。
12 月は平均 94%(前半:92.4% 後半:
着任して最初の年の平成 23 年度、委員会
95.6%)の児童がハンカチを持ってくること
活動中に、保健委員会のメインキャラクター
が出来たのに対し、発表後の 1月のハンカチ
を作りたいという意見が児童から出た。全校
調べでは平均 95.9%(前半:94% 後半:
児童に、保健委員会の活動だとアピールする
97.8%)の児童がハンカチを持ってくること
1 はじめに
が出来ていた。前半と後半を比較してみると、 2)
どちらも後半の方がよい結果となった。(図
1)ハンカチを持ってくる意識が高まり、習慣
が身についてきていると考えられる結果と
な
っ
た
。
〔図2〕3択クイズ
②スクリーンを使用
実験を保健委員会で行い、そのときの様子
をビデオに撮って伝えた。実験映像の他に、
保健委員会の児童たちが正しいうがいの仕
方を実践している様子も伝えた。「うがいす
るぞう」(図 5)を見ながら実際にうがいして
いる様子を見たことにより、低学年でも手洗
い場のどこを見れば正しいうがいができる
のかすぐわかった様子が見られた。
〔図1〕ハンカチ調べ結果
他の項目について発表後に指導すること
ができなかったことが、反省点となった。
平成24年度
「うがい名人になろう」
(1)テーマ決定の理由
平成 23 年度は気をつけるポイントを 4 つ
挙げたが、1 つのテーマに絞った方が実践し
やすいと感じたため、平成 24 年度は、1つ
のテーマに絞って発表することにした。テー
マは保健委員会で話し合いを行い、風邪予防
の方法として手洗いは知っているが、うがい
をする児童が少ないことから、うがいの大切
さを知り、実践できる子を目指した。しかし、
保健委員自身も正しいうがいの仕方につい
て知らない児童が多かったので、正しいうが
いの仕方がわかる「うがい人形」での実験を
提案した。また、風邪に関するクイズも行い
たいという意見もあがったので、創作劇の中
に風邪に関するクイズと、うがいの実験映像
も入れて発表することにした。
③「うがい人形」の作成・実験
ア 実験内容
うがい人形を作成し、うがいの効果につい
て実験した。
イ 実験方法
顔パネルに口とのどの部分をセットし、
「ブクブクうがい」では横向きのまま、「ガ
ラガラうがい」では人形を上向きにする。ビ
ーズをのどの奥についているウイルスと考
え、のどからつながっているビニール管から
息を吹き込み、ビーズにどのような変化があ
るか観察した。
ウ 実験結果
横を向いたまま行う「ブクブクうがい」で
は、ビーズにあまり変化は見られなかった。
(図 3)
(2)手だて
①風邪予防の簡単な3択クイズ
クイズを入れることにより、基本的な知識
を 楽し く覚 えられ るよ うに した。 (図
〔図3〕ブクブクうがい
上を向いて行う「ガラガラうがい」では、
のどの奥からビーズが勢いよく出ていた。
(図 4)
発表の 1 ヶ月後に業間休みの後と給食前
に「ガラガラうがい」がきちんとできたか 1
週間のうがい調べを行った。初日は 25 学級
中 9 学級しか全員うがいをすることが出来て
いなかったが、最終日の 5 日目には 23 学級
の児童がきちんとうがいをすることができ
ていた。
(図 6)
〔図4〕ガラガラうがい
このことから、のどの奥についているウイ
ルスを取り除くには、上を向いて行う「ガ
ラガラうがい」が大切だということがわか
る結果となった。
④「うがいするぞう」の掲示
上を向いてうがいができるように、手洗い
場の天井に「うがいするぞう」を掲示し、そ
れを見ながらうがいをするように指導した。
〔図6〕うがい調べ結果
このことから、発表後にも継続して呼び
かけしていくことの大切さがわかった。
平成25年度
「ピカピカ手洗い」
(1)テーマ決定の理由
〔図5〕掲示物「うがいするぞう」
⑤「うがいのうた」の放送
意識付けのために、給食前の放送で「ガラ
ガラガラガラガラガラペッ!」といううがい
のうたを流して「うがい」をするように呼び
かけた。
休み時間から帰ってきたときや給食前の
様子を見ていると、手を洗わない子や、洗っ
ても水で濡らしただけの子、ハンカチを持っ
ていなくて洋服で手を拭いている子などを
目にするようになった。そこで保健委員会で
話し合いを行い、正しい手洗いの仕方を知り、
実践できる子を目指した。実験映像があった
方がわかりやすいという意見から、実験映像
と創作劇を使って全校集会で発表すること
にした。
(2)手だて
①スクリーンを使用
実験を保健委員会で行い、そのときの様子
をビデオに撮って実験映像を写した。
②専用ローションとブラックライトの使用
(3)成果と課題
ア 実験内容
実際に実験結果を見て、しっかりと上を向
手洗いチェッカー専用ローションとブラ
かないと、うがいの効果がないということが
ックライトを使用し、手洗いの効果を実験し
わかった様子が見られた。うがいをする際に、 た。
目標物を掲示したことにより、しっかりと上
イ 実験方法
を向いてうがいできる子が増えた。また、音
5 人の児童(A~D)に専用ローションを手に
楽を流すことによってよい意識付けとなり、 塗り込んでもらい、それぞれの洗い方で手を
給食前にうがいをする子が増えた。
洗った後、ブラックライトで照らして手の洗
い残しを検証した。(表 1)
ウ 実験結果
A:水で簡単に洗う
B:水でていねいに洗う
C:石けんを使って簡単に洗う
D:石けんでていねいに洗った後、ハンカチ
で手をふく
E:石けんでていねいに洗った後、洋服で手
をふく(ローションをぬったタオルを洋
服と見立てて拭いてもらった。
)
〔表1〕手の洗い残しの結果
方法 結果
A
まったく
おちてい
ない
B
A よりは
落ちてい
るが、ほと
んど落ち
ていない
C
洗い残し
が目立つ
D
洗い残し
無し
E
所々にロ
ーション
がついて
いる
洗い残しのところが白く光ってどこが洗
えていないかがよくわかる実験結果となっ
た。しっかり手を洗うためには「あわあわ手
あらいの歌」にあわせて洗うのが一番効果的
なことがわかった。また、洋服などで手を拭
くと、E のように汚れやバイ菌がまた手につ
いてしまうこともわかった。
③全校で「あわあわ手洗い」の練習
創作劇の最後に、保健委員全員が舞台に出
てきて「あわあわ手洗いの歌」を歌いながら
全校児童に手洗いの仕方を演示した。その際
に、手の動きがわかりやすいように、左右に
それぞれ違う色の手袋(右手:赤、左手:白)
を は め て 行 っ た 。( 図 7 )
〔図7〕保健委員会の手洗い演示
④「正しい手洗いの仕方」の掲示
手洗い場に手洗いの手順が書いてある掲
示 物 を 貼 っ た 。 ( 図
8)
〔図8〕掲示物「あわあわ手洗いのうた」
⑤「あわあわ手洗いの歌」の放送
休み時間から帰って来た後と、給食の前に
「あわあわ手洗いの歌」を流して、手洗いの
意識付けと習慣化が出来るようにした。
(3)成果と課題
休み時間から帰って来た後、給食の前に
「あわあわ手洗いの歌」を流したことにより、
音楽に合わせてしっかりと手洗いしている
児童を多く見かけるようになった。また、怪
我をして保健室に来た児童の中にも、手を洗
う時に、自然と「あわあわ手洗い」の手順で
洗っている児童を多く見かけるようになっ
た。また、手洗い場に手洗いの仕方を掲示し
たことにより、手順を忘れてしまった児童も
見ながら手を洗うことが出来ていた。
平成 25 年度 6 月、10 月、2 月と 3 回行っ
たハンカチ調べでは、回数を重ねるごとにハ
ンカチを持ってくる児童が多くなり、発表後
に行ったハンカチ調べでは、今までで一番ハ
ンカチを持ってくる児童が多いという結果
だった。特に、毎回初日は忘れてしまう子が
多く、普段持ってきていないのがよくわかる
結果だが、3 回目の初日は 88.7%とハンカ
チを持ってくる児童が増え、手洗いについて
意識が高まったと思える結果となった。
実験を保健委員会で行い、そのときの様子
をビデオに撮って実験映像を写した。
②食パンを使用して実験
ア 実験内容
3 人の児童に外で遊んで来てもらった後、
それぞれ A~C の洗い方で手を洗ってもらっ
た。その後、1 人ずつ食パンに触ってもらい、
食パンにどのような変化が出てくるか検証
した。(表 2)食パンは 1 ヶ月間密封し直射日
光が当たらない所に保管しておいた。
イ 実験結果
A:手を洗わない
B:水で洗う
C:石けんでていねいに洗う
〔表2〕食パンの実験結果
方法 結果
A
大量のカ
ビがはえ
た。
B
カビがま
ばらには
えてきた
C
最初の時
の状態と
変わらず
〔図9〕ハンカチ調べ結果
平成26年度
「手洗い・うがい・マスクで風邪予防」
(1)テーマ決定の理由
新型インフルエンザ流行以来、以前よりマ
スクを付けている児童を多く見かけるよう
になった。しかし、実際には持っているけど
ポケットに入れていたり、付けてはいるが、
顎マスクや、ヒダがきちんと開かれていなか
ったりと、正しいマスクの付け方が出来てい
ない児童が多くいた。そこで保健委員会で話
し合いを行い、マスクについてメインに取り
組み、正しいマスクの付け方について知り、
自分たちで付けることが出来る子を目指し
た。また、手洗い、うがいについては出来る
児童が多くなってきたが、まだ定着できてい
ない児童がいることから、うがいについては
平成 24 年度の時に効果があった「うがい人
形」を使った実験と、手洗いについては前回
とは違う実験方法で実験を行った。
(2)手だて
手洗い
① スクリーンを使用
洗わない手でパンを触ったことで、パンに
カビが生えるという実験結果は、視覚的にわ
かりやすく指導したことにより、インパクト
が大きく、手洗いの大切さを改めて実感した
様子が見られた。
うがい
① スクリーンを使用
うがい人形を作成し、平成 24 年度と同じ
実験を行った。また、保健委員会の児童たち
が「うがいするぞう」を見ながら上を向いて
うがいしている映像を流して、「ガラガラう
がい」の大切さを呼びかけた。
マスク
①テープを使って実際の距離を見せる
風邪を引いている人がマスクをつけない
でいると風邪のウイルスがどれくらい飛ん
でいるか具体物で示した。(図 10)
・話す→1m、咳→3m、くしゃみ→5m
〔図10〕ウイルス飛散の実演
その後、マスクをつけることの意味と大切
さを劇中で説明した。
② スクリーンを使用
間違った付け方の例を挙げ、なぜだめなの
かを説明した後、実際に保健委員会の児童が
正しい付け方・はずし方をしている映像を写
し(図 11)、全校に周知した。
〔図11〕マスクの正しい付け方
(3)成果と課題
実験映像や、具体物の使用、映像でのレク
チャーと、視覚的にわかりやすく発表したこ
とにより、低学年から高学年までと幅広い年
齢層の児童たちにも伝えたいことが伝わっ
た様子だった。しかし、発表時期が例年より
1 ヶ月遅くなってしまったことにより、その
後の委員会活動で事後の調査などができず
に終わってしまったのが反省点となった。
4 実践のまとめ
小学校は 6 歳から 12 歳までと年齢層が幅
広く、発育発達段階も違う。それぞれの発達
段階を踏まえて全校児童に一斉指導をするこ
とは、とても難しいことではあるが、視覚的に
指導することは、どの年代にも有効的な指導
法であることが 4年間の実践を通してわかっ
た。また、その後の学級指導や事後の指導が
とても重要であることも実感した。さらに、
全校集会での発表は、全校児童に発信する場
だけではなく、発表した 5、6年生自身にも、
大きな達成感と自信を与えるものとなった。
発表までの 1 ヶ月から 2ヶ月の間、休み時間
も練習に励み、6 年生を中心に積極的に取り
組む姿が見られた。自主的に練習に参加する
児童やアドバイスをもらいにくる児童も増
え、自分たちで考え、実践し、精神的に大き
く育つ活動となった。
5 おわりに
委員会活動という短い時間の中で、子ども
たちが主体的に活動するためには、教師側の
計画的な準備や支援が大切だということを
実感した。教師が主体でやってしまいがちだ
が、子供たちに自分たちで考える場を作り、
課題解決のために話し合いを行うことが重
要であることがわかり、今後の課題となった。
基本的生活習慣は家庭との連携なしでは
改善することは難しい。取り組みにより少し
ずつ改善されてはいるが、定着まではいって
いない。これからも引き続き取り組みを行い、
児童への指導と家庭への啓発を行っていく
必要がある。自分自身の健康に興味・関心を
持ち、自分たちで考え、実践できる児童の育
成を目指して、効果的な指導法を考え今後も
指導していきたいと思う。
【参考文献】
・保健実験大図鑑 少年写真新聞社
・文部科学省 『小学校新学習指導要領
第6章 特別活動』
【研究論文】
社会科学習におけるアクティブラーニングのあり方
—価値判断を取り入れた「水はどこから」の実践を通して—
船橋市立芝山西小学校 教諭 谷川
1
主題設定の理由
社会科の教員に「社会科の目標は」と聞くと
誰もが「公民的資質の基礎を養う」と答える。
また,千教研社会科部会でも同様に目標を理解
し問題解決的な学習を実践している先生方が多
い。しかし,
「公民的資質」とは,いったいどう
いうことなのだろうか。実際,私も14年間突
き詰めて考えたことはなかった。昨年度長期研
修に出していただき,機会を得たので根本的な
部分から社会科学習というものをとらえていき
たいと考えた。まず,学習指導要領に書かれて
いる内容から抜粋すると,公民的資質とは,
「国
際社会に生きる平和で民主的な国家・社会の形
成者,すなわち市民・国民として行動する上で
必要とされる資質」であり,この資質の具体的
な要素としては,
・国家・社会の形成者としての自覚をもつ
・社会的義務や責任を果たそうとする
・多面的に考えたり,公正に判断したりする
・国際社会で主体的に生きる
・持続可能な社会の実現を目指す
・よりよい社会の形成に参画する
となっている。本研究では,下線部を意識して
研究を進めていきたい。
この資質を育むための指導方法として「小学
校学習指導要領解説 社会編」
(平成 20 年 8 月
告示)では社会科の改善の方針として以下のよ
うに記されている。
一仁
ング」を取り入れていきたいと考える。その理
由として,アクティブラーニングとは「主体的・
協働的な学修」と訳されることがある。この主
体的とは「自ら参画していく資質や能力」その
ものであり,社会科にとってはもっとも重要な
ものである。社会科の授業では知識を教えても
らう場ではなく,自分で問題を見つけ,解決の
方法を考え調べを進めていく,問題解決的な学
習が有効であると考えている。
次に「協働的」学習とは,仲間と力を合わせ
て課題解決に向かっていくことであり,社会科
において考えると,グループで話し合ったり,
クラス全体で話し合ったり,小グループで新聞
やポスターを作成したりする活動である。これ
もまた社会科にとって欠かせない学習活動の一
つとなる。
児童にとって「教えられている」ではなく,
「知りたいから調べる」という姿勢で学習する
ことは今後の大きな指導のポイントとなる。そ
こで,社会科におけるアクティブラーニングの
流れを考える必要がある。私は日頃より社会科
の学習の中に自分の判断と友達の判断の相違点
を考える活動を取り入れ「価値判断」場面を設
けてきた。また,こちらから対立する事象を提
示し価値判断を迫る場面を設けている。価値の
対立を児童が進んで学習する姿や,友達と協力
しながら解決する姿はアクティブラーニングを
連想させる。しかし,今まで「児童の思考力が
高まった授業だ」という「思考力」を評価した
ことはなく自分のやってきた価値判断とアクテ
ィブラーニングの関係性,有効性を一度検証し
てみたいと思い本主題を設定した。
○社会的事象に関心をもって多面的・多角的に考
察し,公正に判断する能力と態度を養い,社会
的な見方や考え方を成長させることを一層重
視する方向で改善を図る。
2 研究の目的
○公共的な事柄に自ら参画していく資質や能力
社会科学習において問題解決的な学習の中に
を育成することを重視する方向で改善を図る。
価値判断をする場面を設定することで,より高
ここに書かれていることを端的に表すと,社
位なアクティブラーニングとなることを明らか
会的な見方や考え方と自ら参画していく資質や
にする。
能力を育てる必要があると示されている。これ
3 研究の手立て
らを育てるためには今まで様々なアプローチが
より高位のアクティブラーニングとして成立
されてきたが,本研究においては平成26年中
させるための手立てとして,
央教育審議会答申であった「アクティブラーニ
(1)問題意識をもてるような導入をし,自力
解決の場面を設定する。
(2)問題解決的な学習の中に価値判断をする
場面を取り入れ,主体的・協働的に解決
する。
手立て1の具体的な場面として,本実践「水
はどこから」において図1の左側の学習過程で
進めていく。問題をつかみ,予想をたて,調べ,
確かめて,まとめる。そして,それまでの学習
をいかす。そこで必要となるのが導入での「知
りたい」
「調べたい」という導入である。「水は
どこから」という単元では,学校の一ヶ月間の
使用量をペットボトルに置き換え並べ,
「こんな
に多くの水が使われていたのか」という驚きと
「こんなに多くの水はどうやってきているのだ
ろう」という疑問を持たせたい。
また,手立て2として価値判断については
「水」というものは誰でも知っていることであ
り,全員が使ったことがあるものである。その
生活経験や既有知識からの価値判断と,新しい
事実を獲得したり,相反する事象を知ったりし
た上での価値判断を行う。また,価値判断を行
うだけでなく,グループやクラスで話し合い,
協働しながら学習を進める。
【資料1 アクティブラーニングの流れ】
そして学校の実態を調べて明らかになった第
3の事実認識「手洗いうがいをしていない人が
多い」「きちんと水を使わないと健康を守れな
い」。これは今までの「限りある資源である水だ
から節水をしよう」という価値判断とは反する
事実である。この事実を得た児童は「それでも
節水」「もっと使用すべき」「どちらも大切」と
いう価値判断に分かれるだろう。ここで大切に
したいことは何を根拠に自分の意見を述べてい
るかということである。また,どの結論に達し
たとしても異なる主張をきちんと理解し,友達
と話し合いがされているのであれば高位の価値
判断と受け取ることができる。また,その後,
話し合いを重ね,表現活動(ポスター作り・新
聞作り・パネル作り・ディベート・プレゼンテ
ーション・など)に対し協働して作り上げるこ
とで,より実感を持ったアクティブラーニング
となる。
4
実践の具体的内容
本研究は4学年の社会科,副読本「私たちの
船橋」の「水はどこから」を実践して,指導計
画として資料1にあるように14時間の展開で
行った。学習過程としては,
「深める」部分を「い
かす」としている。
【資料2 「水は
どこから」指導計画】
学習過程
①つかむ
主な学習活動と内容
○水の使用量と浄水前の自ら疑問を考え学習問題をつかむ。
私たちが使っている水はどこからどのように来ているのだろうか。
資料1において,最初の事実認識からの価値
判断は生活経験や既有知識からの「水は大切」
「水をよく使う」ということになる。そこには
根拠が乏しいと思われる。そこへ第2の事実と
して,千葉県の渇水年表と給水制限が行われた
ときのシュミレーション映像を見せる。この新
しい事実と合わさって「水を大切に使わなけれ
ばいけない」
「節水をしていこう」という価値判
断になる。同じ「大切」という言葉にも,根拠
となる認識があるかないかで重みが変わってく
る。ここでは既有の価値判断に「生活できない
から必要」
「水不足は困るから」という根拠を持
っている段階である。
②たてる
○予想を話し合い,調べる観点をたてる。
③調べる
○調べる観点【水はどこから】について調べる。
④確かめる
⑤調べる
⑥確かめる
・まとめる
○【水はどこから】について調べたことを確かめる。
○調べる観点【どうやってきれいに】について調べる。
○調べる観点【どうやってきれいに】について調べたことを確かめ
て,学習問題に対してまとめる。
私たちが使っている水は川やダムから浄水場を通ってきれいにされて来
ている。浄水場では多くの作業で水を安定して安全に送れるように 24 時
間動いている。
⑦いかす
○利根川水系の渇水年表を見て話し合い,問題意識をもつ。
⑧つかむ
○夏休みの取組を発表し合う。
節水頑張ろうプロジェクト2014「10 月の水の使用量を去年
よりも減らそう」
休み時間
○学校の水の使われ方を調べる。
⑨確かめる
○調査報告をもとに学校で取り組めることを話し合う。
⑩まとめる
⑪調べる
⑫いかす
⑬いかす
課外
○水の使い方について話し合う。
○養護教諭から正しい手の洗い方やうがいの仕方を知る。
○学校全体への呼びかけを考える。
○ポスター作成,放送原稿作成
○ポスターを校内に掲示し,校内放送で学校全体へ呼びかける。
⑭いかす
○10 月の水の使用量を見て話し合う。
(1)問題意識を持たせる導入
ア
指導の手立て
アクティブラーニングの要となる主体的な学
習するためには児童自身が「学習したい」と強
く思う必要がある。そのために必要となるのが
問題解決的な学習であり,もっとも重要なのが
問題意識を持たせる導入だと考える。そこで
○生活経験や既有知識から考えられる素材を
用意する。
○驚きをもたせる事実や資料を提示する。
○予想するための根拠となる資料を提示する。
という要素を意識しながら導入した。具体的な
流れとしては,
①普段の学校生活(蛇口で水を飲んでいる様
子・プールに入っている様子・委員会で水撒
きをしている様子)の写真を見て話し合う。
②家庭(一日一人当たり250L)や学校での
水の使用量(7月の一ヶ月の使用量960㎥)
を量感をつかませるためにペットボトルに置
き換えて,並べると42kmという事実から
驚きをもたせるようにした。
③印旛沼から採取してきた取水前の水を観察し,
臭いや色などを観察させ,浄水についても問
題意識を持たせる。
④今まで出てきた疑問を整理し,使用量から「ど
こから来るのか」,浄水前の水との比較から
「どうやってきれいにしているのか」という
疑問を出し,学習問題をつむ。
【資料3?
を見つけるヒント】
また,学習問題をつか
む際にヒントとなるよう
に,どんなことが知りた
いのかを,どの言葉で表
せばよいのかを資料3を
使って整理する。学習問
題をつかんだあとは予想をもとに調べる計画を
たて,以下の方法で自力解決をしていくように
する。
○教科書・資料集等を使って調べる。
○図書室の物流を使って調べる。
図書室の物流はとても有効であり,年度当初
に各教科の単元を見て,調べ学習に必要な図書
を探しておく。この月にはこの種類の本という
ようにジャンルを決めて借りることができるの
で調べる幅も広がる。本年度は国語,社会,理
科,道徳分野で計画しており,合わせて16単
元において物流を利用する計画である。
○デジタル教科書を使って調べる。
今年度から児童用のPCでも使用できるよう
になり,教科書と同じ内容で調べられるので児
童にとっても安心して調べられる。また,好き
な写真をプリントアウトすることができ,ノー
トの整理にも役立てることができる。
イ 活動の様子
まず,導入の際に写真資料を提示し,資料の
読み取りをするときは「資料から分かる事実」
と「資料からの自分の考え」を持つように伝え
た。今までこのような区別をして考えたことが
なかった児童が多く,困惑した表情だった。
しかし,自分の意見を発表することに対して
は意欲的な児童が多くいた。そこで,学校生活
の場面を提示した際には「休み時間に手を洗っ
ている」や「この蛇口はたぶん4階じゃないか
な」など事実と考えを混同している意見が多く
出てきた。これらの意見も認め,まずは発表し
て自分の意見を伝えようとしたところ,ほぼ全
員が手を上げ,意見を言おうとしている姿が見
られた。その後,事実と意見に関しては「今の
意見は事実と考えのどちらでしょう」と投げか
け,少しずつ意識できるようにしていった。ま
た,友達の意見に付け足しや質問を行うことで,
友達の意見をよく聞きくようになった。友達が
発表しているときは発表している人のほうを向
いて聞く,ということが自然にできていた。自
分の意見との相違点を探そうと注意深く聞いて
いる様子が伺えた。
ウ 児童の感想(導入1/14時終了後)
・写真を見てたくさんのことに気がつけてよか
った。もっと発見してみたい。
・写真からいろいろなことを想像するのが楽し
かった。
・私たちの生活で水をこんなに使っていたなん
てびっくりした。早く調べてみたい。
・一つの写真からこんなにいろいろ発見できる
なんておどろいた。
(2) 価値判断をする場面
ア 指導の手立て
より高位のアクティブラーニングにするため,
学んだことを根拠に,自分なりの価値判断をす
る場面を設けた。授業で学んだことをただ覚え
るのではなく,教材に対しての価値を見出し,
これからの態度へとつなげるためである。また,
独りよがりの価値判断に陥らないためにお互い
の価値判断を話し合う。この話し合いこそが大
切であり,相手の価値判断の根拠を知ることで
自分の価値判断が変わることもありえる。これ
は,これからの社会を生きるためにも必要なこ
とであり,主体性を養うには価値判断を取り入
れることが適していると考えている。そこで
「水」に対する価値判断を資料2の指導計画6,
7,11,14時で取り入れることにした。
イ まとめを終えたの場面(6時)
学習問題に対しまとめをした後の感想。
・多くの人が水の安全を守ってくれていること
がわかった。
・これからは蛇口からも飲んでみようと思った。
・安全な水は私たちの生活に欠かせないものだ
と思った。
この時点では学習したことをきちんとふまえ
た感想が多くあった。しかし,考えたことに対
しての根拠が希薄であり,価値判断の高まりは
感じられない。
ウ 渇水時の様子を見た後の場面(7時)
2007年の利根川水系でおきた渇水のニュ
ースを見たり,関東が大規模な渇水に陥ったと
きのシュミレーションを見たりした。水は川や
沼から浄水場を通って,というような知識だけ
でなく,実際に身の周りでおきた「取水制限」
などを知ることで,より切実感を持って「水に
対しての接し方」を考えていた。児童の感想に
は,
・関東は水不足になりやすいから節水しなきゃ
い
けないと思った。
・今日から水を大切に使おうと思った。
このような「節水」に対して多くの意見があ
り,このあとクラスでどうやって節水に取り組
めばよいのかを話し合った。また,全校児童が
どのように水を使っているのか,自分たちで調
査対象や調査方法を考え,一週間という期間で
調査をした。その結果は児童が予想していた結
果とは違い,手を洗わずに外遊びから教室に戻
ってしまう姿や,トイレから戻るときも指先を
少ししか濡らしていないという結果だった。こ
の結果をふまえて話し合った。
「まったく水を使
わないのが最もよい」という意見は健康を保て
なくなるという理由から否定され,児童は新た
に「健康な生活を送るにはどれくらい水を使え
ばよいか」という疑問をもった。
エ 養護教諭からの話を聞いた場面(11時)
児童が抱いた疑問「健康な生活を送るために
はどれくらい水を使えばよいのか」を養護教諭
に聞いた。すると,普段の手の洗い方ではばい
菌が残っていることや,うがいの必要性が明ら
かになった。この授業後の児童の感想は,
・水をもっと使わないと健康な生活が送れない
と思った。だから大切にするけど水はもっと
使う。
・節水も大切だけど,きちんと水を使わないと
いけないと思った。できるところは節水する。
・今までも健康だったから大丈夫。やっぱり節
水はしないといけない。
というような,
「節水」と「水の使用」に対し
ての意見が分かれた。このあと学習のまとめと
して「水をどのように使ってほしいか」を話し
合い,ノートにまとめた。
オ まとめを終えたの場面(14時)
学習をする中で児童から,
「水は自分たちだけ
が大切に使ってもだめだから周りの人にも伝え
たい」という要望があり,自分たちで原稿を考
え,校内放送をすることになった。しかし,こ
こでまた,お互いの,節水を呼びかけるべきか
健康なくらしを守るために水を使うべきかで,
価値が対立した。特に方向性がなかなか決まら
なかったのは,校内放送であった。授業が終わ
って休み時間になっても,両方の価値をどのよ
うに入れるか廊下で話し合っていた。話し合い
の結果,クラスで原稿を作り,全校放送で呼び
かけを行った。
(資料 4)原稿の内容はそれぞれ
であり,節水に重点を置くクラスと健康を呼び
かけるクラスに分かれた。また,どうしても放
送だけでは伝えきれないということで,校内の
蛇口にポスターを掲示しようということになっ
た。原稿作成後の感想を見てみると,
・水をどうやって使えばいいのかたくさん考え
たけ ど分からなかった。でも,自分は節水
をしていこうと思う。
・節水も大切だと思うけど,今よりももっと水
を使って健康を守らなければいけないと思う
から,
(使用量が)増えても仕方ないと思う。
・結局どちらも大切だと思った。
・どっちか決められないけど,健康を守りなが
ら節水していく。
・これからも水不足になる可能性があるか調べ
てから決めようと思う。
このような感想が見られ,毎時間ごとに価値
判断に根拠が増えているのがわかる。また,友
達の価値判断を聞くことにより,自分の価値判
断を振り返っている様子も見て取れる。この話
し合いがあったことで,協働的な学習の方向性
をスムーズに決めることができ,取り組むこと
ができた。
【資料4
各クラスの放送の様子
上2組
下
日本 がと ても 水 不足 にな りや す いと い
1組】
うこ とが わか り まし た。 わた し たち の住
んで いる 千葉 県 は利 根川 水系 の 水が なく
なり そう にな り ,渇 水に なり ま した 。も
しも 本当 に給 水 制限 や断 水に な った らお
風呂 も入 れな い し, 洗濯 もト イ レも 入れ
ませ ん。 とて も 不清 潔に なっ て 病気 にも
なっ てし まい ま す。そし て,食 べ物 も育 たな い ので 野菜 の値 段 がす ごく 上
がっ てし まう か もし れま せん 。そこ で,去年 の 10 月の 水の 使 用量 より 今
年の 水の 使用 量 を減 らす とい う 目標 にし まし た 。目 標を 達成 す るた めに 蛇
口調 査を して ポ スタ ーを はっ た りし てき まし た 。そ した ら,手 を洗 わな い
校内放送での原稿
人も いま した し ,遊 び なが ら手 を洗 っ てい たり ,出し すぎ た り ,出 しっ ぱ
なし にし て手 を 洗っ てい る人 も いま した 。そ こ で,みな さん に お願 いが あ
りま す。手 を 洗う こと は大 切 です。 でも ,遊 びな がら 手 洗い, うが い, 歯
磨き をす るこ と はや めて くだ さ い。ダ ムの 水 がな くな るだ け です。なの で ,
手を 洗う 時は 石 鹸を 使っ てこ ま めに 蛇口 をし めて く ださ い。手 を洗 った 人
は洗 って ない 人 に呼 び掛 けて く ださ い。ぼく ,わた した ちも 頑 張る ので 全
校の みな さん も 頑張 って くだ さ い。 よろ しく お願 い しま す。
私た ちは 水の 勉 強を して ,水 の 大切 さが わ
かり まし た。 人 間に とっ て, 水 がな いと すご
く困 りま す。 な ので ,み なさ ん にも 大切 な水
をき ちん と使 う ため に協 力し て もら いた いと
思い ます 。そ こ で2 つの 方法 を 考え まし た。
一つ 目は 水を 止 める こと です 。 水を 使わ ない
時は 必ず 止め て くだ さい 。
蛇口 を2 回 ひね って 出し っ ぱな しに す ると ,た った 1 0分 で1 4 0リ ッ
トル の水 が流 れ てし まい ます 。 2つ 目は 出し
すぎ をし ない こ とで す。 えん ぴ つ 2 本 分く らい の 太さ で出 して く ださ い。
また この 他に 南 本町 小学 校 では 問題 があ り ます 。そ れ はす べて の学 年 の蛇
口調 査の 結果 手 を洗 わな い 人が 多い こと で す。 手を 洗 わな いと ばい 菌 がつ
いて 風邪 をひ い てし まい ま す。 なの で水 を こま めに 止 めて 手を 洗っ て ハン
カチ で拭 いて く ださ い。 水 を大 切に しな い とダ ムの 水 がな くな り, 水 がな
くな り大 変な 生 活を 送る こと に なり ます 。な ので ,水 を大 切 にし まし ょう 。
手洗 い, うが い ,歯 磨き を しな がら 水を 節 約し てく だ さい 。水 を節 約 して
いな い人 がい た ら, 声を か けて 注意 をし て くだ さい 。 そこ で私 たち は 10
月の 水の 使用 量 を去 年よ り も減 らす とい う 目標 を立 て まし た。 学校 み んな
で取 り組 んで い きま しょ う。 ご 協力 お願 いし ます 。
5
実践のまとめ
(1)手立て1の検証
「児童が問題意識を持つような導入をし,問題
解決的な学習をする」に関して単元の事前・事
後のアンケートより考察する。
【資料5 学習問題を進んで解決している】
【資料6
る】
社会の出来事に進んでかかわろうとしてい
【資料7
自分の考えを進んで発表している】
まず,問題解決的な学習の要となる問題意識
であるが,資料5の全項目において改善の方向
となっている。ここで注目したいことは「あて
はまらない」と答えた児童である。社会科とい
う教科は明確な答えがなく,自信を持って学習
問題の解決ができたと感じることが,難しく感
じる児童もいる。その中で「あてはまらない」
と回答した児童が0人になったことは大きな成
果といえるのではないだろうか。しかし,未だ
自信を持てていなく,
「少しあてはまる」と回答
した児童も全体の7%であり,今後はより興味
を引き,解決したいと思える教材開発が必要で
ある。
次に資料6「社会の出来事に進んでかかわろ
うとしている」であるが,これも結果が見て取
れる。本単元では「水」という誰にでも共通し
た生活経験から意見を持てる素材であった。こ
れも変化が大きく現れた要因ではないだろうか。
これから学習が進み,様々な単元において同じ
ように身近に感じ,切実感を持つことができる
ようにすることが必要だと考える。
最後に資料7「自分の考えを進んで発表して
いる」であるが,このグラフを見る限り,授業
者として回答に対し違和感を感じた。と,いう
のは感覚としてはほぼ全員が発表していて「少
しあてはまらない」という回答はないと感じて
いた。これは資料5の意欲面との関係性がある
ように思われる。引き続き児童の意欲を掻き立
て,自信を持てるように改善する必要がある。
以上の項目から手立て1の検証としたが,ア
クティブラーニングをより効果的な指導とする
ためには,まず何よりも児童の意欲が必要と感
じたからである。今回の検証授業では児童にと
って最も身近な素材の一つである「水」であっ
たため,みんなが共通の認識を持っており,話
し合いも活発になった。しかし,社会科の単元
は水だけではなく,他の単元でも児童が驚いた
り,児童の持っている認識を覆したりする教材
開発が必要となると考える。
(2) 手立て2の検証
「価値判断をする場面を取り入れ,協働的な
解決をする」に対して児童の感想から検証して
いく。
【資料8 抽出児童 A児,B児の感想】
主な価値判断場面は,6,7,11,14時
である。ここでA児とB児の感想を比較してい
く。 A,
B 児 と
もに「つ
かむ」場
様子がうかがえる。
一方B児は一貫して節水を呼びかけることの大
切さに目を向けていたが,第11時の感想では「手
洗い・うがいは一人一人が困るけれど,節水をし
ないとみんなが困ってしまうから節水のポスター
と放送をするほうがいいと思う」と対立する意見
も踏まえた意見をもっている。両者の感想からそ
れぞれに価値判断を行い,事実認識を得た後に自
分なりの根拠をもってより高次の価値判断が行え
たといえるだろう。このようにそれぞれが自分の
時
6
時
第
6時
「 水はど こから 」のま とめの 場面
第
8時
夏 休みの 取り組 みを振 り返る 場面
7
第
9時
調 査から 学校で の取り 組みを 考える 場面
時
第 12時
学 校全体 への呼 びかけ を考え る場面
第 14時 単 元全体 の振り 返りを する場 面
面 で は
普段の生活で使っている水の使用量や学校での一
ヶ月960㎥という使用量から驚きや疑問をもち
11
時
学習問題をつかんでいる。分量に違いはあるが,
それぞれに自分の言葉で感想が書けている。しか
し,第9時の学校の蛇口の使い方を各グループの
発表を聞いた後から二人の意見が分かれ始めてい
る。A児は第11時に養護教諭からの話を聞いた
後は「みんながきちんと水を使ったら使用量は増
えるかもしれないけど,病気にならないようにす
ることのほうが大切だ」と言っているように,学
校の現状を調査し,節水よりももっと適切に水を
使って健康な生活をすることのほうが大切である
ととらえている。続く第13時でも,A児は一貫
して節水よりも今の学校には適切な使用が大切で
あると述べている。しかし,全校への伝え方を考
えた第14時の感想では「節水も,水をきちんと
使うことも大切(中略)どちらかというと水は使
った方がいいと思うけど,節水もしていかなきゃ
だめだと思う」と,節水と適切な水の使用の両方
14
時
A児
B児
色々な人が努力をして安心安全
な水ができていることがわかっ
た。おいしい水の飲み方を家でも
やってみたい。
3 年前にも取水制限になってい
たなんてびっくりした。日本は水
不足になりやすいから水は大切
にしないといけないと思った。
多くの仕事をして水
道の水がきれいにな
っているとわかった.
やっぱり健康な生活を送るため
に使用量が増えてしまってもち
ゃんと水を使うべきだと思う。水
道局の人も健康が大切と言って
いた。
使用量が増えているのは,みんな
がきちんと手洗いうがいをした
からだと思う。節水も,水をきち
んと使うことも大切だと思った。
自分の意見としては,どちらかと
いうと水は使った方がいいと思
うけど,節水もしていかなきゃだ
めだと思う。
水がない生活は大変だ
と思った。みんなが節水
しなきゃいけない。
手洗い・うがいは一人ひと
りが困るけれど,節水をし
ないとみんなが困ってしま
うから節水のポスターと放
送をすればいい。
使用量が増えていて
残念だった。これから
も水の使い方を呼び
かけていこうと思っ
た。
意見を持てた背景には友達との意見交換が大きな
影響を与えている。また,友達同士だけでなく養
護教諭や家庭など多くの人の協働的な関わりによ
り価値判断の幅を広げている。
次に全体の変化に目を向けてみる。評価の方法
としては毎時間の授業後の感想から価値判断に
かかわる記述を抜き出し,全体の傾向を分析す
【資料9 価値判断を行う場面】
る。図6は表3にある授業後の感想から価値判
断をし,行動につなげようとする記述の割合を
表したものである。
【資料10 価値判断の記述の割合】
に目を向けている。この迷いこそが社会に主体的
にかかわる第一歩であり,友達との協働的な学習
なしでは出てこない意見である。この葛藤こそが
本研究の狙いであり,これからの社会を生き抜く
ための資質となりえると考える。また,この見方・
考え方は中学校での公民分野の「対立と合意・効
率と公正」につながるものであり,小学校段階で
ある程度は身に着けておくべきことである。ただ,
この感想からも学校に対してどのように伝えれば
よいのか,明確な答えは出ておらず,迷っている
ここでの記述としては「自分だったら○○する」
「みんなで○○していく」といったような社会
に対する価値判断を取り上げた。第9時までは
「水は大切である」という価値判断はできてい
てもその水をどうしていくべきかまでは4割弱
の児童しか記述がなかった。しかし,11時に
養護教諭からの話を聞いて友達と話し合った後
の12時以降は,水に対して多くの児童が自分
はどうやって接していくのかを価値判断し,記
述できるようになってきている。
6
研究のまとめ
(1)成果
・資料の提示や教材の工夫により問題意識を持
ち,主体的に自力解決へと向かうことができ
た。
・問題解決的な学習を行う中で「価値判断」場
面を設定することにより,相互の意見交換が
活発になり,より高位のアクティブラーニン
グとなった。
・抽出児童の感想を追うことにより,質的な変
化を捉えることができ思考の過程が明らかに
なった。
・学年全体を対象とした事前アンケートと事後
アンケートから量的な変化を捉えることがで
き,問題解決的な学習が意欲の向上につなが
っていることが明らかになった。
(2)課題
・水の使用量というものは児童が使っているだ
けでなく,学校全体の使用量であるため節水に
対しての結果が曖昧になってしまった。使用量
に最後までこだわっていた児童に対しての手立
てが必要である。
(3)考察
思考力や主体性,アクティブラーニングを数
値化することは難しく,このような機会がなけ
れば熟考することはなかった。しかし,児童の
記述をすべて追ったり,毎時間アンケートをと
ったりすることで,改めて,アクティブラーニ
ングの中に「価値判断」を入れる有効性に確信
が持てるようになった。授業において児童が根
拠を持って発言している姿ほど輝いているもの
はない。この姿が見られたときほど,教師とし
て達成感を感じる。今後は,アクティブラーニ
ングで授業を進めることは当たり前になる。本
研究がアクティブラーニングの進め方の一助と
なれば幸いである。また,今回の研究では触れ
なかったが,社会科の単元では,多くの価値の
対立場面が設定できると考える。例えば,地図
記号の由来,ゴミの処理問題,食糧生産とTP
P,工業生産の輸入と輸出,公共施設建設計画,
選挙のありかた,等である。歴史学習において
も例外ではなく,いつの時代でも権力者と民衆
の間の価値対立,自国と他国との価値対立を教
材開発することができると考える。
また,他教科でも同様である。どんな教科でも
対立する事実認識は設定でき,相互の主張を踏
まえた価値判断を行うことができる。
このような価値判断を取り入れる授業は児童
の発言や思考が活発になりとても楽しい。児童
と一緒に議論をする楽しさを多くの先生方に感
じてほしいと願っている。今回の研究やこれか
らの実践を参考にしていただくことで,価値判
断を取り入れた授業が社会科だけでなく多くの
教科に広まることを期待する。最後に自分自身
がつくづく社会科という教科が好きなんだと再
確認させていただき,研究にかかわってくださ
った多くの方に感謝したい。
[参考文献]
・文部科学省「小学校学習指導要領解説 社会編 平成20年 8 月」 2008 年 東洋館出版
社
・東京教大学社会科教育研究会「社会科教育の本質」 1971年 明
治図書
【実 践記 録】
学校教育目標具現化のための教育課程の編成
~グ ラン ドデ ザイ ンを もと にし た教 育 課程 の具 体的 方策 ~
船橋市立船橋小 学校
1
はじ め に
私は 船橋小 学校の 教務主 任と して2 年目を
迎える。 校舎建て 替えに 伴い、 市場小 学校で
過ごした 2年半を 経て、 昨年度 の10 月より
新校舎で の教育活 動がス タート した。 昨年度
新任の教務主任 だった私は 、教育課程 の管理
に加え、 移転作業 や新校 舎完成 に関わ る行事
等もあり 、日々の 業務に 取り組 むこと で精一
杯だった。
今年度、教務 主任2年目 を迎え、
「 教務主任
としての役割と は何か」
「 自分は教務 主任とし
てどんな ことをし ていけ ばよい のか」 より深
く考えるように なった。
私が考え る教務 主任とし ての最 も大き な役
割は、
「学校教育 目標の具現 化のために 、国 ・
県・市の 動向に目 を向け ながら 、学校 の特性
に合った教育課 程の編成を すること」である。
本校の学校教育 目標は、
「 すすんで学 ぶ 心豊
かでたく ましい児 童の育 成」で あり、 グラン
ドデザイ ン【図 1】をも とにし た、充 実した
活動を進 めていく ことが 、学校 教育目 標の具
現化に近づいて いくと考え る。
現在次 期学習指 導要領 の改訂 作業が 進めら
れており 、特別な 教科と しての 道徳、 課題解
決型の学 習(アク ティブ ・ラー ニング )の推
進等の指 針が示さ れてい る。あ る記事 によれ
ば、全国 学力・学 習状況 調査の 平均正 答率が
良好な県 ほどアク ティブ ・ラー ニング を積極
的に授業 に取り入 れてい るとい う情報も ある。
今後さら なる授業 の工夫 改善も 求めら れてい
くであろ う。千葉 県でも 第2期 千葉県 教育振
興基本計 画「新 みんな で取り 組む『 教育立
県ちば』 プラン」 が平成 27年 2月に 策定さ
れ、船橋市でも 同年、
「教 育振興ビジ ョン及び
後期教育 振興基本 計画」 が策定 され教 育活動
が進められてい る。
今回の教育論文 を機に、校 長・教頭の 指導
のもと、 教務 主 任と しての 立場 で実践 してき
たことを まとめる ととも に、子 どもた ちの健
やかな成長のた め、今後の 教育課程に おいて
教諭
佐藤
圭一
必要なこ とは何か を考え る手が かりに してい
きたい。
【図 1
2
グ ラン ドデ ザイ ン】
実践 の 方法
グランド デザイ ンの「指 導の重 点」と 「経
営の重点 」の充実 を図る ための 具体的 方策を
振り返り検証す る。
3
実践 の 結果
1
指導の重点 における取 り組み
(1)確かな学 力の育成
①授業時数の確 保
短縮日課 や年間 行事時 数の見直 しを行 い、
授業時数 の確保 に努め た。その 結果、 給食
実施回数 も増加 し、上 限である 年間1 85
回実施予 定であ る。年 間標準時 数を現 行の
学習指導 要領と 前学習 指導要領 とで比 較す
ると、全 学年合 計で2 78時間 授業時 数が
増加して いる。 また、 船橋市は 2期制 であ
り、十分 な授業 時数の 確保を目 的とし た特
性を踏ま えて、 教育課 程を策定 してい く必
要がある 。冷暖 房も完 備され、 児童の 学習
環境はよ り整っ ている 。短縮日 課や年 間行
事時数を 見直し 、より 教科に費 やす時 数を
確保するべく可 能性を探っ た。
ア)短縮日課の 見直し
昨年度
家 庭 訪問
夏 季 休業 前 最 終 日
夏 季 休業 明 け 初 日
前 期 成績 処 理
冬 季 休業 前 最 終 日
冬 季 休業 明 け 初 日
後 期 成績 処 理
今年度
授 業 時数 増 減
短縮 4
5 日間
短縮 3
短縮 4
4 日間
平常日課
短縮 3
短縮 4
5 日間
短縮 3
短縮 4
+1
短縮 4
4 日間
平常日課
+4
短縮 3
短縮 4
5 日間
短縮 4
+1
短縮 4
4 日間
+4
+4
1~3 年:+2
4~6 年:+3
1~2 年:+2
3~6 年:+3
【短縮日課見直 しによる授 業時数の増加 】
1 年 :+ 1 8 時 間
2年 : + 1 8 時 間
3 年 : + 1 9時 間
4 年 :+ 2 0 時 間
5年 : + 2 0 時 間
6 年 : + 2 0時 間
短縮日課 を見直 したこ とによ って、 18
~20時間授業 時数が増加 した。
イ)年間行事時 数の見直し
昨年度 今年度
授業 時数 増減
6 年修 学旅 行
行事 6
行事 12
+6
教科 6
5 年雪 国体 験学 習
行事 9
行事 18
+9
教科 9
4 年一 宮宿 泊学 習
行事 6
行事 12
+6
教科 6
全校 遠足
行事 3
行事 4 2/3
+1 2/3
年間の行 事時数 を見直 したこと によっ て、
7~16時間授 業時数が増 加した。
ウ)平成 27 年度 授業時数
学年
時数増減
実施 予定 総時 数
( 昨 年度 比 )
(教科時数+行 事時数)
+25
934
46 1/3
+25
987
41 2/3
+26
1017
36 2/3
+33
1069
27
+36
1082
20
+33
1074
19
短縮日課、年間行事時 数を見直し ことで、
余剰時数 を保ち ながら、 各学年 25~ 33
時間の授業時数 を確保する ことができ た。
②保護者読み聞 かせボラン ティア
平成27年3月 に、
「千葉 県子どもの 読書
活動推進計画( 第三次)」が策定され 、より
読書活動 の充実 が求め られてい る。ま た、
本校では 国語科 の研究 を行って いるこ とか
ら今年度 より保 護者に 協力を依 頼し、 1~
3年生を 対象に 読み聞 かせボラ ンティ アに
取り組んだ【図 3】。以下 に読み聞か せボラ
ンティアの詳細 について示 す。
ア)目的
○本の楽しさ を伝え、児 童の読書 活動を
より豊かにする 。
○研究領域で ある「読む こと」の 日常的
な取り組みとし て位置付け る。
イ)方法
○朝 学習の時 間(8 :25 ~8: 35)
の10分間で実 施する。(月 2回)
○使 用する本 は、保 護者が 用意し たり、
図書室で貸し出 しをしたり する。
1
2
3
4
5
6
年
年
年
年
年
年
1 年生 を迎 える 会
夏 季 休業 明 け 全 校 集 会
冬季休業前全校 集会
冬 季 休業 明 け 全 校 集 会
前期 終業 式
後期 始業式
大掃除①②③
行事
行事
行事
行事
行事
行事
1
1
1
1
1
3
行事
行事
行事
行事
2/3
2/3
2/3
2/3
朝 の 時間
時 程 変更
+1/3
+1/3
+1/3
+1/3
+1
+3
【年間行事時数 の見直しに よる授業時数 の増加】
1 年 :+ 7 時 間
2年 : + 7 時 間
3 年 : + 7 時間
4 年 :+ 1 3 時 間
5年 : + 1 6 時 間
6 年 : + 1 3時 間
余 剰 時数
【図 2
3 年 生児 童 の感 想】
3年生6 7名を 対象に、 読み聞 かせに つい
てのアンケート 調査を行っ た。(複数回 答可)
1
2
3
4
読み 聞か せを いつ も楽 しみ にし てい る 。
→5 6人 (8 7% )
読み 聞か せに よっ て本 が好 きに なっ た 。
→3 6人 (5 6% )
読み 聞か せに よっ て読 む本 の種 類が 増 えた 。
→3 3人 (5 1% )
読み 聞か せに よっ て借 りる 本の 数が 増 えた 。
→2 5人 (3 9% )
【図 3
3 年 生ア ン ケー ト調 査】
児童の感 想文や アンケ ート調 査から 、読
み聞かせ を楽し みにし ている児 童が多 く、
読書に親 しむ児 童が増加 したこ とがわ かる。
また、先 生方に も読み 聞かせを 行って ほし
いという 意見や 、保護 者の方々 に感謝 の気
持ちを表してい る児童もい た。
(2)豊かな心 の育成
①道徳の時間を 学年で揃え る
道徳 の時間を 学年で 揃え、 学年会 で話し
合うこと により 、学年で 共通し た取り 組み
が行われ るよう になった 。また 、3回 ある
授業参観 のうち 、1回は 道徳を 公開す るよ
うにしている。
②道徳授業の 校内研修会
教職 2・3 年目の教員に は、それ ぞれフォ
ローアッ プ研修 Ⅰ・Ⅱが 課せら れてお り、
道徳の授 業研究 を行うこ ととさ れてい る。
講師を招 聘して の授業研 究会を 行い、 事後
研究会は 道徳の 指導力向 上及び 今後の 道徳
の展望を知る目 的として、職員研修と した。
以下は研修の感 想である【 図 4】。
○道 徳 授業 の 基本 的 な流 し 方を 再 確認 す ると と も
に、 資料 選び の大 切さ を改 めて 実感 した 。
【4 年 目教 員】
○「 わ たし た ちの 道 徳」 の 活用 の 仕方 に つい て 理
解を 深め るこ とが でき た 。【 中堅 層 教 員】
○次 期 学習 指 導要 領 の「 特 別な 教 科 道 徳」 に つ
いて 、 詳し く 話を 聞 くこ と がで き 、概 要 を知 る
こと がで きた 。【 ベ テラ ン層 教員 】
【図 4
イ)方法
○千 葉県教育 委員会 が作成 したプ ログラ
ムを活用し授業 を行う。
( 全学年4時 間
の授業展開)
○夏休み 明けの 9月に 照準を 絞り、 全学
年で実施する。
【図 5
6 年 生児 童 ピア サポ ート 感想 】
怪我をし た時に 助けて もらっ た体験 と授
業の内容 を結び つけて 振り返っ ており 、充
実した学習にな ったことが 窺える。
④いじめ防止に 向けた児童 集会
児童会と 生徒指 導部会 が連携 し、子 ども
たちが中 心とな って、 いじめ防 止に向 けた
児童集会 を5月 に行っ た。いじ められ てい
る場面を 子ども たちが 劇化し、 全校で いじ
めについ て考え ること ができた 。集会 の最
後に、
「やめる 勇気」
「とめ る勇気」
「 はなす
勇気」
「みとめ る勇気」の 4つの勇気 をもつ
ことを共 通理解 した【 図 6・7 】。以下 に児
童の感想を示す 。
校 内研 修会 の職 員の 感 想】
経験 年数に応 じて、 授業の 流し方 から今
後の道徳 の教科 化に至る まで幅 広く理 解を
深めることがで きた研修会 になった。
③年間指導計画 の改善
道徳 の年間指 導計画 に、全 学年「 豊かな
人 間 関 係 づ くり プ ロ グラ ム 」( ピ ア サ ポ ー
ト)を位 置付け た。実施 の詳細 を以下 に示
す【図5】。
ア)目的
○豊か な人間 関係を 築く情操 を養う こと
で、いじめ予防 や学級経営 に活かす。
【図 6
6 年 生児 童 の感 想】
【図 7
児 童集 会の 様子 】
(3)健康・体 力の育成
①年間指導計画 の見直し
正課時体育 の充実を目 指し、年間 指導計
画の見直しを行 った。用 具や場所(体育館・
校庭)、季節等に 配慮し、単 元配列の組 み
直しを行った。 また、各単 元における 評価
規準(身につけ させたい力 )を明確に 示し
た。特に器械運 動について は、系統的 な指
導が必要不可欠 なため、技 の系統図【図 9】
を作成し職員に 周知した。 以下に4年 生が
台上前転に取り 組んだ成果 を示す【図 10】。
児童が中 心とな ってい じめ問 題に取 り組
んだこと で、低 学年の 児童も参 加しや すか
ったこと が窺え る。自 分の行動 や言動 を振
り返る機 会にも なって おり、学 校から いじ
めが無く なって ほしい という温 かい気 持ち
がよく表れてい る。
⑤いじめ防止に 向けた道徳 の授業
いじめ防止に向 けた児童集 会後、自己 の
行動を振 り返る 場面と して、全 校でい じめ
防止の道 徳の授 業を実 施した。 私たち の道
徳や副読 本等か ら、学 年の実態 に合わ せて
資料を選定し指 導した【図 8】。以下 に 6 年
生が使用した資 料を示す。
【図 9
段数
6段
5段
4段
3段
2段
1段
【図 10
【図 8
6 年 生児 童 が使 用し た資 料】
本当の友 だちと は、仲 良くす るだけ では
なく、時 にはけ んかを したり、 一緒に 悲し
んだりで きる存 在であ ると考え ている 。い
じめ防止 の一助 となる 道徳の授 業であ った
ことがわかる。
跳 び箱 運動 技の 系統 図 】
距離(cm)
40~60
10~30
40~60
10~30
40~60
10~30
10~30
10~30
10~30
人数
9人
5人
4人
1人
2人
2人
2人
2人
1人
台上 前 転に 取り 組
んだ 結 果、 左の よ
うな 表 の成 果が 得
られ た 。8 時間 扱
いの 単 元で 実施 し
たが 、 多く の児 童
が4 段 以上 の台 上
前転 を でき るよ う
になった。
4 年生 台上前転の 達成度】
②学校保健委員 会の取り組 み
「健康 な身体づ くりに チャレ ンジし よう」
というテ ーマのも と、健 康チャ レンジ カード
【図 11】を活用 し、生活の 自己評価を 行った。
詳細を以下に示 す。
ア)目的
○毎日の生活 を振り返る ことで、
「 健康な身
体づくり 」のた めに自 分に必 要なこと を
知り、自 発的に 健康的 な生活 サイクル を
習慣化すること ができるよ うにする。
イ)方法
○長期休業明 け(5・9・1 月)2 週 間にわた
り、外遊 び・早 寝・早 起き・ 朝ご飯・ 給
食の5項目につ いて振り返 りを行う。
○指 導案 検討 から 関わ って きた が 、事 後研 究 会で の参
観者 から の様 々な 意見 を聞 いて 、自分 の指 導不 足 を
感じ た。講師 とし て指 導 した こと で、自分 自身 の 教
科に 対す る理 解を 深め られ ると とも に 、学 級指 導 に
も活 かす こと がで きた 。【3 年目 教員 】
○講 師と して 指導 する 単元 につ いて 、知識 を 増や すこ
とが 増え た 。ま た若 年層 の先 生方 の手 本と なる よ う
な授 業を 行い 、力量 を高 めて いか なけ れば なら な い
と改 めて 痛感 した 。年 数 を重 ねる と、ある 程度 授 業
がで きる よう にな った り 、保 護者 対応 がで きた り と
慢心 して いた 部分 があ った 。チャ レン ジ精 神を 忘 れ
てい たよ うに 思う 。この よう な機 会を いた だけ た こ
とで 、自 分自 身が 一番 得を した と感 じる 。
【中 堅層 教員】
《5 月 》
【図 12
講師とい う指導す る立場 を経験 したこ とで、
教科や単 元につい てより 理解を 深める ことが
できたこ とがわか る。ま た、よ り力量 を高め
て、若年 層教員の 見本と なった り、チ ャレン
ジ精神を持ち続 けたりと意 欲が表れて いる。
イ)若年層教員 校内研修会
《9 月 》
【図 11
研 修会 の感 想】
1 年 生児 童健 康チ ャレ ンジ カー ド 】
5月と9 月を比 較すると 、外遊 びや朝 ごは
ん、給食 の項目で より自 分に合 った具 体的な
目標を立ててい ることがわ かる。
2 経営の重点 における取 り組み
(1)高め合う 教職員集団
①若年層教員の 育成
5年 目までの 教員を 若年層 教員研 修に参
加させて いる。 その内訳 は、2 ~5年 目ま
で1人ず つ在籍 している 。その 他3名 の臨
時的任用 講師が いるが全 て20 代であ る。
今年度6 年目を 迎えてい る教員 が若年 層教
員のリー ダーと なり、若 年層教 員研修 を組
織してい る。若 年層教員 の指導 力向上 は喫
緊の課題として 私自身捉え ている。そ こで、
主に以下の3つ の取り組み を行ってい る。
ア)若年 層教 員授業 研究の 指導 案検討 及び
事後研究会の参 加
教員は年 1回授 業を公 開する ように して
いる。若 年層教 員につ いては、 希望教 科を
選び調整 をして いく。 指導案検 討は若 年層
教員に教 科主任 や教務 主任を含 めたメ ンバ
ーで行い 、事後 研究会 にも全員 参加し 、指
導力の向上に努 めている。
また、指 導主事 を招聘 しての 事後研 究会
だけでは なく、 中堅層 の教員及 び若年 層の
教員に講 師の役 割を経験 させる ことに より、
さらなる 指導力 の向上 を図って いる。 以下
は授業研 究で講 師を担 当した教 員の感 想で
ある【図 12】。
学 習の 評価 の仕 方や 通知 表の 所見 の 書き 方に
苦手 意識 を感 じて いる 若年 層教 員が 多 いこ とか
ら、 夏季 休業 中に 校内 研修 会を 行っ た 。学 年主
任の 教員 や中 堅層 の教 員に も加 わっ て もら った 。
研修 会の 詳細 につ いて は、 まず 以下 のワ ー ク
シー トを 、若 年層 リー ダー と中 堅層 の 教員 が協
力し て作 成し た。 よい 所見 のイ メー ジ を思 い浮
かべ るこ とか ら始 め、 情報 収集 の仕 方 、言 葉遣
い、 演習 とい う手 順で 進め た【 図 13・14】。
【図 13
研 修会 ワー クシ ート 】
○他 の人 の所 見を 見て 、自分 はあ まり 使っ た こと のな
い表 現等 を知 るこ とが でき た 。【2 年目 教員 】
○演 習を した こと で 、後 期の 所見 の見 通し を もつ こと
がで きた 。語 彙の 少な さ を改 めて 感じ たの で、類 語
辞典 を活 用し てい きた い 。【3 年目 教員 】
○ 1 つ の 言 葉 で も 色 々 な 表 現 の 仕 方 を し て い く 必要
があ るこ とを 改め て感 じた 。【 4 年 目教 員】
○様 々な 観点 から 児童 を見 るこ との 大切 さ を学 び 、今
後の 所見 のた めの ヒン トと なっ た 。【 5 年目 教員 】
○自 分の 所見 を改 めて 振り 返る だけ でな く 、学ん でき
たことを若年層の教員に伝えていく大切さを感じ
た。その ため には 、自分 自身 が学 び続 けて 行く 必 要
があ ると 思う 。
【中 堅 層教 員 】
【図 14
研 修会 の感 想】
語彙の少なさや 表現の仕方 、着眼点等、様々
な気づき があった 。中堅 層の教 員も自 分自身
の振り返 りのよい 機会と なり、 若年層 教員と
積極的に関わろ うとする意 欲が表れて いる。
ウ)授業参観ご との略案の 提出
若年層 教員の指 導力向 上を目 的とし て、授
業参観の 度に、学 習指導 案の略 案を提 出して
いる。以下に職 員の感想を 示す。【図 15】
○略 案を 作成 する こと によ って 、授業 が精 査 され 子ど
もたちにとってよりわかりやすい授業を展開する
こと がで きた 。【 2 年 目教 員】
○略 案を 作成 する こと で 、よ り深 い教 材研 究 をす るこ
とができる。また安心して授業に臨むことができ
た。【3 年 目 教員 】
○指 導案 を書 くこ とに 抵抗 感が 少な くな っ てき た 。ま
た板 書計 画を 整理 する こと がで き 、授 業の 流れ を 再
確認 でき た。【4 年目 教員 】
○略 案を 作成 する こと で、 授業 を見 通す こ とが でき 、
発問 の整 理が でき る。 自分 の力 につ なが っ てい る 。
【5 年 目教 員】
【図 15
略 案提 出の 感想 】
略案の作 成は、 発問計画 や板書 計画等 授業
の見通し ができる といっ た意見 が多い 。自分
自身の力 量の向上 につな がって いると 感じて
いる教員もおり 、若年層教 員の成長を 感じる。
4
実践 の まと め( 成 果と 課題 )
(1)成果
①授業時数の 増加
短縮日課や 年間行事時 数の見直し で 25~
33 時間授業時数 を増やすこ と が で き た 。
②本の貸し出し 冊数の増加
読み 聞かせボ ランテ ィアの 導入で 、昨年
度より 10,000 冊 以上貸 し出し 冊数が 増
加 し た 。 昨 年 度 : 15,000 冊 今 年 度 :
28,000 冊 ※前 期終了時点
③いじめの認知 件数の増加
いじめ 防止の 児童集 会や、一 斉の道 徳授
業により 、いじ めに対 する関 心が高 くな
り、認知件数が 増加した。
④運動技能の向 上
器械運 動の系 統図を 作成し職 員に周 知し
たことで 、学習 課題が 明確化 し、技 の達
成度が向上した 。
⑤若年層教員の 意識や指導 力の向上
数々の 研修や 授業研 究により 、確実 に力
がついてきてい ることを実 感している 。
(2)課題
①柔軟な教育 課程の編成
放課 後の会議 等を削 減して きたが 、すべ
ての教育 課題を 網羅し ていく と無理が 生
じてくる 。優先 順位を 考え、 めりはり を
つけた教 育課程 の編成が 今後求 められ る。
②保護者読み 聞かせボラ ンティアの 充実
全学 年読み聞 かせの 実施を 今後検 討して
いきたい 。また 、保護 者や教 員に読み 聞
かせの研 修等を 行う機 会を設 定するこ と
で、より 充実し た活動 につな がってい く
と考える。
5
終わ り に
学校教 育目標具 現化の ために 、全校 で取り
組んだ成 果の一端 を紹介 した。 組織的 に様々
な取り組 みをした ことに よって 、職員 に一体
感が生ま れ、職員 室が明 るく活 気づい てきて
いる。子 どもたち も一生 懸命歌 を歌っ たり、
黙々と清 掃を行っ たり、 積極的 に意見 を発表
したりと充実し た学校生活 を送ってい る。
今後時代の変 化に伴い、 さらなる教 育課題
が打ち出 されてく るであ ろう。 よき伝 統と時
代のニー ズに合わ せた教 育課程 の編成 が一層
求められ、柔軟 に対応して いく必要が ある。
最後に、 本実践 ができた のも、 全職員 の協
力のおか げである 。感謝 の気持 ちを忘 れず、
これから も船橋小 学校の 子ども たちの 健やか
な成長を願って 、邁進して いきたい。
【参考文献】
○文部科学省(2008),『 小学校学習 指導要領
総則編』,p1-26,東洋館出版 社.
○千葉県 教育委員 会(2015),『 新みん なで取
り組む「教育立 県ちば」プ ラン』,p35- 80.
○船橋市教育委 員会(2015),『船橋の教育』,
p64-102.
○天笠茂(2015 ),「学校 の主体性を 発揮した
教育課程の創造 が課題」,『新教育課程 ライ
ブラリ』2015 年 11 月号,p6-7,ぎょう せい.
○日本教材シス テム(2012 ),『小学 校学習指
導要領 新旧比 較対照 表 第 2 版』p20 -21,
教育出版.
【実践記録】
社会科における法教育の在り方の一考察
-Center for Civic Education による問題解決的な学習を参考にして-
船橋市立湊町小学校 教諭 小島 瑠理子
1 はじめに
現代社会は、法的な関係を基盤として成立す
る社会である。熊本大学教授の吉田勇氏は、法
化社会が一般的に 1980年代から進展してきた
という。
(1)日本の法化論の代表的な研究者で
ある京都大学教授田中成明氏によれば、法化社
会が進展した要因は2つあると考えられてい
る。日本において、1960 年代後半以降の急激
な都市化、工業化の進展により、紛争解決シス
テムが変容し、より一層法の使用が求められる
ようになった。また、1980 年代以降の国際化
の進展により、国際的な企業同士の紛争や貿易
摩擦が起こるようになり、法への自覚が求めら
れるようになった。
(2)
法化社会に対応し、司法改革も進められた。
1997 年から 2001 年まで司法制度改革審議会
が設置された。2001 年の司法制度改革審議会
意見書では、国民の期待に答える司法制度の構
築、司法制度を支える法曹の在り方、および国
民的基盤の確立を改革の三つの柱として掲げ
た。国民的基盤の確立を実現するために、2003
年に法務省に法教育研究会が設置された。そし
て、その成果を引き継ぐ形で、2005 年に法教
育推進協議会が発足し、法教育のあり方を検討
している。
法教育の理念について、法教育研究会『我が
国における法教育の普及・発展を目指して-新
たな時代の自由かつ公正な社会の担い手をは
ぐくむためにー』
(2004 年)では、
「我が国に
おける法教育は、個人の尊厳や法の支配などの
憲法及び法の基本原理を十分に理解させ、自律
的かつ責任ある主体として、自由で公正な社会
の運営に参加するために必要な資質や能力を
養い、また、法が日常生活において身近なもの
であることを理解させ、日常生活においても十
分な法意識を持って行動し、法を主体的に利用
できる力を養う」と述べている。(3)
法教育研究会や法教育推進協議会の提言が、
中央教育審議会の審議にも影響を与え、教育基
本法及び学校教育法の改正もあいまって、法に
関する教育の充実を図る方向性が打ち出され、
2008 年学習指導要領の改訂にも影響を与える
こととなった。
文部科学省は、学習指導要領において、学校
教育における法教育として、法やきまり、国民
の司法参加を始めとする法に関する学習の充
実が必要であることを明示した。
(4)
このような法教育の方向性を踏まえ、本実践
において、法教育の理念に基づく社会科の授業
の一つの在り方を具体化し検討していく。
2 実践の目的
本実践では、社会科の授業において、アメリ
カの Center for Civic Education の教材である
「FOUNDATIONS
OF
DEMOCRACY SERIES 」
(民主主義の諸基礎)の法教育の方法を取り入
れた問題解決的な学習を行うことによって、社
会における問題に対して、子供たちが主体的に
法に基づき様々な立場に立って思考し、公正な
判断をしていくための意志を形成していく。こ
れは、学習指導要領における社会科の目標であ
る平和で民主的な国家・社会の形成者として必
要な公民的資質の基礎を養うことにつながる
と考える。
3 実践の手立て
Center for Civic Education は、アメリカの
公 民 教 育 ( Civic Education )、 法 教 育
(Law-Related Education)などの領域で活躍
している非営利団体である。この教材は、セン
ター発足の契機となったカリフォルニア州弁
護士会と共同で開発した「自由社会における
法」シリーズの改訂版であり、アメリカ立憲民
主主義の基本概念・原理として考えられている
「権利、プライバシー、責任、正義」を初等・
中等教育の各段階で教育するために開発され
たものである。学習内容や学習形態、生活への
応用可能性の観点で参考になると考えた。この
教材の小学校後期段階を訳出したものが、筑波
大学教授江口勇治氏監訳の「わたしたちと法-
権威、プライバシー、責任そして正義」である。
(5)この教材を参考にして、本実践における3
つの手立てとした。
1
(1)単元における問題解決的な学習の設定
先の教材は、権威、プライバシー、責任、
正義の各主題に関した問題に対して、各人が
法的主体となって問題を解決するための意志
決定を行う学習構成となっている。青少年も
実定法をはじめとするいろいろな法規範に取
り囲まれて生活しており、権利や義務が発生
している以上、対立が生じた時は、各人が法
的主体として知的で理性的に意思決定を行い
行動することが必要であるという。このこと
は、日本においても同様である。
よって、単元において児童が私たちの暮ら
しと法がどのように結びついているか調べ、
どのような権利や義務があるのかを理解した
上で、社会において重要な価値や権利が衝突
した場合どうすればよいのかという問題解決
的な学習を設定していく。
(2)現実的な内容の選択
先の教材では、問題として現実的な内容を
取り扱っている。日常で起こりうるような身
近な対立や実際の裁判で争われた事件のよう
な現実的な内容を取り扱うことは、児童にと
って生活への応用可能性が高まり、また、学
習意欲を高めることにつながる。さらに、裁
判事例の取り入れることは、裁判についての
関心を高め、後の裁判員制度の学習にもつな
がると考えた。
(3)問題解決のための考え方の導入
先の教材では、問題解決のための知的道具
(intellectual tool)を使う。これは、問題
に対して考える手順や考えるべき観点を示し
たワークシートであり、これを使用して争点
を確定し問題の分析を行う。本実践でも、こ
のワークシートを利用していく。これは、重
要な権利や価値同士が衝突する場合に有効で
ある。この問題解決のための考え方は、正当
性の根拠として法を用いる。解決策を考える
段階では、予想される行為による個人や社会
全体にとっての利益(報酬、便宜、利点、メ
リットなど)と費用(負担、欠点、デメリッ
トなど)を比較考量(利益衡量)した上で解
決策を意志決定する費用便益分析的アプロー
チを行う。実際に指導する際には、利益や費
用という言葉は難しいので、児童には、メリ
ットやデメリットなど言い換え、補足説明を
する。利益と費用について考慮することは、
行為を行う本人や社会にもたらす影響を把握
することになり、様々な立場にもたらす影響
を理解した上で意志決定を行うことが公正に
判断することにつながると考えた。
4 実践の内容
本実践では、第6学年の単元「わたしたちの
くらしと日本国憲法」における授業を 2015年
9月に6年2組で行った。
(1)単元「わたしたちのくらしと日本国憲法」
における問題解決的な学習の設定
本単元は、小学校学習指導要領社会編の第6
学年の目標(2)を踏まえて内容(2)のイに基づく
単元である。以下の表1のように単元を構成し、
第二次において問題解決的な学習を設定した。
表1「わたしたちのくらしと日本国憲法」の単元構成
次
時
学習の内容
日本国憲法は、私たちのくらしとどのように結
1
びついているのか考えよう。
国民主権と私たちのくらしについて調べる。
一
1
基本的人権の尊重と私たちのくらしについて調
べる。
1
平和主義とわたしたちのくらしについて調べる。
2
日本国憲法と私たちのくらしについてまとめる。
日本国憲法では、国の基本的なあり方を定めて
おり、私たちの生活と結びついている。
意見が分かれた場合には(今回は、プライバシ
1
ーの権利と表現の自由のどちらを優先するの
か)、どうすればよいか考えよう。
「ブログ」にまつわる問題について考える。
二
「ジャニーズおっかけマップ・スペシャル」にま
1
つわる問題について考える。
意見が分かれた場合には、様々な立場に立って
考え、公正に判断を行う。
第一次では、日本国憲法にはどのようなこと
が書かれていて、自分たちの生活とどのように
結びついているのかを学習する。国民主権、基
本的人権の尊重、平和主義について理解し、私
たちの暮らしとの結びつきを調べ、私たちの生
活が日本国憲法の基本的な考え方をもとにし
ていることを理解することを目標とした。
第二次では、基本的人権の発展的な学習とし
て、社会における重要な価値や権利が対立する
場合についてどのように解決していけばよい
か考える問題解決的な学習を行う。問題に対し
て主体的に、第一次で学習した知識を生かし、
法を正当性の根拠として、様々な立場に立って
思考して判断し、自己の考え方を形成して表現
することを目標とした。問題として、プライバ
シーの権利と表現の自由のどちらを優先する
のか意見が異なるという場合を取り上げるこ
ととした。この問題を取り扱うことにより重要
な価値や権利の範囲や限界を知ることになり、
第一次で学習した権利に対する理解を深める
2
ことにもつながると考えた。
そして、人権思想の展開と日本国憲法の成立
の歴史的経緯といった人権思想や日本国憲法が
生まれた背景を理解することにより人権を尊重
する意義を感じることができることを目標とす
る中学校の学習につなげていく。
(2)現実的な内容の選択
第二次では、まず「ブログ」にまつわる問題
について取り上げる。内閣府の調査によると、
近年、小学生や中学生が携帯電話やスマートフ
ォンを所有する割合やパソコンによるインター
ネットを利用する割合が高いことがわかる。
(6)
このクラスにおいても6名(25%)がスマートフ
ォンを、16 名(67%)がキッズ携帯を含む携帯電
話を所有している。また、全員がパソコン等で
インターネットを利用している。子供を取り巻
くこのような状況から、第5学年の「くらしを
支える情報」の学習とつなげて、第6学年にお
いて情報に関する問題を法的な視点で捉え、情
報化社会において法を意識して生活する態度を
養うことは急務であると考えた。そこで、江口
勇治氏・渥美利文氏編著の『
「法教育」Q&Aワ
ーク』を参考にして、A君の名前や住所、住ん
でいる家の様子などの情報が友達のB君のブロ
グに掲載されるという身近で現実的に起こりそ
うな問題を教材化した。
(7)
次時において、実際の裁判を題材とし、プラ
イバシーの権利と表現の自由の問題をどのよう
に解決していくかを学習していくこととした。
裁判事例として、
「ジャニーズおっかけマップ・
スペシャル」にまつわる問題について東京地裁
における 1998 年 11 月 30 日判決を参考に教材
化した。
(8)SMAPなどのアイドルに関する
問題を取り扱うことによって児童の興味や関心
を惹き、初めて触れる裁判事例への抵抗を少な
くし、裁判とはどのようなものかも知ることが
できる。この裁判では、1964年三島由紀夫の小
説「宴のあと」に関する東京地裁の判決におい
て示された他人に知られたくない私事事項の定
義を利用して芸能人の住所情報が私事事項にあ
たるのか判断していることや、また、プライバ
シーの権利と表現の自由との関係やプライバシ
ーを尊重する場合の利益と費用について述べら
れていることから、比較的理解しやすい裁判事
例であると考えた。
(3) 問題解決のための考え方の導入
「FOUNDATIONS OF DEMOCRACY
SERIES」におけるプライバシーの問題解決の
ための知的道具を参考にした問題題解決のため
の考え方を表2に示した。
3
表2 プライバシーの問題解決のための考え方
1.プライバシーを求めている人に注目しなさい。
●誰がプライバシーを望んでいるのか?
●プライバシーの対象は何か?
●なぜプライバシーを望んでいるのか?
2.プライバシーを制限しようとしている人に注目しな
さい。
●誰がプライバシーを制限することを望んでいるの
か?
●どのようにして制限しようとしているのか?
●なぜ制限しようとしているのか?
3.どのようにプライバシーの問題を解決したらよいの
かの決断を助けてくれる考慮事項について考えなさ
い。
●プライバシーを求めることが可能な法的権利をもっ
ているのか?
●プライバシーを制限することが可能な法的権利を持
っているのか。
4.プライバシーを尊重した場合の利益と費用をみつけ
なさい。
●利益(報酬、便宜、利点、メリット)は何か?
●費用(負担、欠点、デメリット)は何か?
5.あなたは、この問題について、どのような見解をと
りますか。
3における考慮事項を発達段階上の理由か
ら法的権利のみとし、道徳的義務を持っている
のか等の項目は省いた。
(4)第二次の実践授業の内容
①「ブログ」にまつわる問題について考える
授業
まず、パソコンや携帯電話を使用しているか
聞き、5年生の「くらしを支える情報」の単元
を振り返り情報化社会であることを確認した。
近年ブログを書く人が増えていることに触れ、
ブログに関する問題である資料1を提示した。
資料1「ブログ」についての問題
A君は、今日遊びに来たB君のブログの中に、このような
記事を見つけました。
「4月1日晴れ。今日は、A君のう
ちに遊びに行ってきました。△□駅をおりて、駅の通りの
3つ目の交差点を右に曲がって、最初の信号を左に曲がっ
たところにある家です。とても大きくてびっくりしまし
た!お父さんは大きい会社の社長さんだそうでぼくも将
来社長になって大きい家に住みたいと思いました。」
資料を読んだ後、A君にとってどんな問題があ
るか考えさせた。プライバシーの権利(中でも
自己情報コントロール権)の侵害の可能性があ
り、プライバシーの権利は「宴のあと」事件で
憲法13条を根拠として認められたことも伝
えた。そして、その後A君はどうしたか児童に
予想させこの話の続きである資料2を示した。
資料2 A君とB君の問題
A君は、B君にこのブログを取り消して欲しいと頼んだ。
しかし、B君は、この記事は自分が一生懸命に書いたもの
だから、取り消したくないと伝えてきた。
そして、問題解決のための考え方が書かれた
ワークシートを使用して考えさせた。
児童の意見は、以下のようになった。
表3 児童の意見
ブログを削除すべき
21名
ブログを削除しなくてもよい
0名
A君が納得できる内容に書き換えるべき
2名
わからない
1名
ブログを削除すべきと答えた児童は、A君が
危険に陥る可能性とB君のブログの内容の重
要度を比較していた。最後に、民事事件は、双
方の話し合いで解決することが原則であるが、
問題が解決しない場合は、第三者に仲介を依頼
し、両者の話し合いがスムーズに進むように援
助してもらったり(調停)、当事者双方が受け入
れることを前提として何らかの解決策を示し
てもらったり(仲裁)する問題解決の方法や裁判
を受けるという方法も私たちには保障されて
いるということを説明した。そして、次回、最
終的に問題の解決を図る裁判の事例を取り上
げて実際に起こったプライバシーの権利と表
現の自由の問題について考えることを伝えた。
②「ジャニーズおっかけマップ・スペシャル」
にまつわる問題について考える授業
前時の学習を振り返った後、実際に裁判にな
った問題について前時の問題解決のための考
え方を使って考えようと伝えた。SMAP など
アイドルグループのメンバーの自宅や実家の
所在地の番号、地図、
建物の写真を掲載した「ジ
ャニーズおっかけマップ・スペシャル」が発売
されることとなり、SMAPら原告Xは、プラ
イバシーの権利の侵害を理由に同書籍と同種
の出版物の出版・販売の差止めを要求したこと
と、神戸地裁尼崎支部によって出版差止めの仮
処分が下されたことも伝えた。そして、差止め
すべきか、出版・販売が認められるべきか考え
るためにワークシートを使用して、原告Xと被
告であるY出版社と取締役の状況を整理した。
その際に、Y出版社の主張を簡潔にした資料3
を示した。
双方が第一次で学習した憲法 13 条や 21 条
を法的権利の根拠としていることを踏まえ、問
題状況を利益と費用の観点から分析し自分の
意見を発表させた。
資料3 Y 出版社と取締役の主張
①個人の住所の情報は、プライバシーにあたらない。
②(仮に①が否定されるとしても)芸能人なのだから、住
居情報を公表してもよい。
③私たちには、表現の自由がある。
Y出版社側の主張から芸能人の住所情報はプ
4
ライバシーにあたるのかの確定が重要であるこ
そして、自分ならどのような意見を持つか考
とに気づかせ、本件の裁判で使用された他人に
えさせた。
知らせたくない私事事項の定義(
「宴のあと」事
(児童の意見)
件で示された)を簡潔にした資料4を提示した。
資料4 他人に知られたくないこととは?
①私生活上のこと
②一般の人の感性を基準にして、公開して欲しくない
と思うこと
③一般の人々に未だ知られていないこと
この定義に住所等の個人情報があてはまるか
児童に予想させると全員が3つの項目に該当す
ると答えた。そして、裁判所の判断を簡潔にし
た資料5を示した。
資料5 他人に知られたくないことの裁判所の判断
・自宅の住所は、私生活上の空間であるから、前記①
にあてはまる。
・自宅等の住所の所在地が公開されたら、ファン等が
全員が差し止めすべきという意見であった。
多くが、情報はいったん流出するとそれを回復
することは難しいということを理由としてい
た。そこで、みんなの意見と裁判所の出した意
見を比べてみようと、判決を簡潔にした資料6
を示した。
自宅に押し寄せたり、郵便物を送りつけたりするか
もしれないとすごく不安になるので、前記②にあて
はまる。
・一般の人々に広く知られていることではないので、
前記③にあてはまる。
次に、プライバシーを尊重した場合に発生す
る利益(メリット)と費用(デメリット)を考
えさせた。
資料6出版・販売差止めの適否についての裁判所の考え
表現の自由は、人権の中でも大切にされるべき重要
な権利であるが、プライバシーの利益は、いったんメ
(児童のワークシート)
ディアによって公表されると流出を止めることが難し
い。よって、その表現する内容がみんなのためになら
ないものであり、かつ、公表された人が重大な損害を
被る恐れがある場合に限って、出版の差し止めをする
ことができるとし、差し止めを認めた。
判決では、児童の考えと同じで差し止めが認
められたが、ただし、表現の自由は人権の中で
も大切にされるべき重要な権利であり、公益を
図る目的がないことや、被害者が、重大な損害
を被る恐れがある場合に限って例外的に差し止
めが許されるとし、プライバシーの権利が表現
の自由より無条件に優先されるというわけでは
ないとしたことを押さえた。裁判所は、法的な
根拠を示しながら論理的に考えるとともに一般
的な社会の常識を考慮して判決を下しており、
こうした裁判所の判決も問題解決の参考にし、
今回のように重要な価値や権利同士が対立し意
見が分かれた場合は、様々な立場に立って思考
し公正に判断し意見を持つことによって解決を
図っていくことが重要であるとまとめた。最後
に今回学習した考え方を生かし、防犯カメラや
高速道路のNシステムはプライバシーの権利の
侵害にあたるのかなど法的な視点から問題意識
を持って考えて欲しいと伝えた。
5
5 成果と課題
(1)アンケート結果 (計24人)
を持つことができることが分かった。法的な知
識の習得に加えて、それらを活用して問題解決
を図るための思考力や判断力の基礎を養うこ
とにつながった。
(4)課題
ワークシートにおいて「ブログを削除すべ
き・削除しなくてもよい」という項目のどちら
かにまるをつけるように設定したが、2択では
なく色々な解決方法を考え出せるようにすべ
きだった。また、費用便益分析的アプローチを
核心とした考え方だけでなく、多様な考え方を
示す必要があると考えた。
①日常生活において法を身近なものと感じているか。
とても
まあまあ
あまり
まったく
授業前
2名
19名
3名
0名
授業後
8名
16名
0名
0名
②社会の問題を法に基づき様々な立場に立って思考し
公正に判断して解決を図ろうと思うか。
とても
まあまあ
あまり
まったく
授業前
1名
15名
8名
0名
授業後
7名
17名
0名
0名
(2)児童の感想
6 おわりに
大学院の時から法教育に興味を持った。今後
もさらに日本や他国の法教育の在り方を学び、
そして、法の専門家との連携し法や裁判事例な
どの研究を深めて、児童にどのように授業を行
っていけばよいのかを考え続けていきたい。
【参考文献】
(1)吉田勇「日本社会における『法化』論の射程」
「法化社会と紛争
解決」成文堂 2006年
(2)田中成明「現代社会と裁判-民事訴訟の位置と役割-」弘文堂
1996年
(3)大村敦志・土井真一編「法教育のめざすもの-その実践に向け
て-」土井真一 第 1 章 法教育の基本理念―自由で公正な社
会の担い手の育成 商事法務 2009年
(4) 江澤和雄「我が国における法教育の現状と当面する課題」
レファレンス1月号 2014年
(5)江口勇治「テキストブック わたしたちと法―権威、プライバ
シー、責任、そして正義」現代人文社 2001年
(6)内閣府 平成 25 年度青少年のインターネット利用環境実態調
査 2014年
(7)江口勇治・渥美利文編著「
〈新指導要領〉ニュー教材シリーズ①
「法教育」Q&Aワーク中学校編」明治図書 2008年
(8)判例タイムズ995号290頁,判例時報1686号68頁
前田陽一「住居情報の公開によるプライバシー侵害と書籍の出
版・販売差止め」判例タイムズNo.1062 2001年
LS憲法研究会 棟居快行編集「プロセス演習 憲法」
(3)成果
授業後に日常生活において法を身近に感じ、
社会の問題を法に基づき様々な立場で思考し
公正に判断し解決を図ろうと思う児童が増え
た。また、問題を取り扱うことによって、権利
の内容がより明確になり、理解を深めることに
つながった。そして、憲法や裁判についての関
心を高めることができた。裁判とはどのような
ものか知るという点では、裁判員裁判の学習に
もつながるのではないかと考えた。また、ワー
クシートを利用すれば、小学生でも自分の考え
信山出版社 2005年
6
【実践記録】
0からの特別支援校内体制づくり
~学級担任と兼務の特別支援教育コーディネーターとして~
船橋市立市場小学校 教諭 市原 果林
1 はじめに
特別支援教育は、現文部科学省の平成13
年「21世紀の特殊教育の在り方について~
一人一人のニーズに応じた特別な支援の在
り方について~(最終報告)」調査研究協力
者会議で特殊教育から特別支援教育への転
換が方向づけられ、平成14年の「今後の特
別支援教育の在り方について(中間まとめ)
」
同会議において、これまでの特殊教育の対象
の障害だけでなく、LD、ADHD、高機能自
閉症の児童も対象に含まれ始まった。
平成15年に文部科学省から最終答申が
出され、直後に船橋市が県内の特別支援教育
推進地域に指定され、各学校で特別支援教育
コーディネーターが指名された。歴史が浅い
ため、他の教科のように積み上げられた経験
や資料がないのだが、特別な支援を要する児
童の増加により、校内体制づくりが急務とな
った。また、特別支援教育コーディネーター
の経験がないものが指名されることも多々
あり、経験者も少ないため、どのようなこと
をしたらよいかわからないと感じている人
も多い。ほとんどの学校では、学級担任が兼
務していることが多く、自分の学級経営をし
ながら、学校全体の支援を要する児童の把握、
担任のサポート、保護者との面談等を行うこ
とは困難であることから、校内体制づくりが
滞ってしまったり、うまく機能していなかっ
たりするのではないだろうか。そのために、
特別支援コーディネーター研修等、初任者や
管理職にも特別支援に関する研究が行われ
ているが、学校により特別支援の校内体制づ
くりに差があるのは否めない。
平成20年に発効された「障害者権利条約」
において、締約国では「あらゆる段階におけ
るインクルーシブな教育制度(包括的教育)
」
を確保することとなっており、日本も昨年1
月に批准を果たした。平成25年6月に交付
された「障害者差別解消法」では、障害者に
対する差別的取り扱いの禁止、合理的配慮の
不提供の禁止が明記されており、これは平成
28年4月より施行され、公的機関には義務
づけられている。
したがって、今まで以上に特別な支援(合
理的配慮)が必要とされることが予測される。
多くの児童に対して、一人一人に合った合理
的配慮を行っていくには、どの学校において
も、特別支援の校内体制の強化が必要不可欠
であると考える。
2 実践の方法
特別支援教育コーディネーターの主な役
割は以下のものが挙げられる。
①特別な支援を要する児童の把握・引き継ぎ
②担任への支援・状況整理
→校内委員会の運営
③保護者との相談
④コーディネーター研修への出席・研修内容
の校内への周知
⑤関係機関の情報収集と連絡調整
(後に役割①のように示す)
これらの役割を、学級担任でも無理なく行え、
特別支援の校内体制が機能していく、すなわ
ち児童と保護者と担任にとって良い方向に
作用する支援ができるように、改善していく
ことにした。また、必要と感じたものは、新
たに方策を考え取り入れていくことにした。
3 実践の記録
平成25年度(コーディネーター初年度)
初年度は、役割④の充実が主であった。な
ぜなら、初めてのコーディネーターであり、
特別支援についての知識がほとんどなかっ
たからである。コーディネーター研修だけで
はなく、市や県の特別支援に関する研修会に
参加し、コーディネーターの役割や特別支援
の在り方について学んだ。その中で学んだ、
支援を要する児童への手立てについて考え
る方法を校内でも取り入れた。
当時本校では、特別な支援を要する児童が
少なかったこともあり、定期的な校内委員会
なども設けていない状況であった。そのため、
臨時特別支援部会を設定し、管理職、学年主
任、コーディネーター、該当児童の学級の担
任に集まってもらい、児童 Aに対して支援の
方法を考えていった。
〔写真1〕
〔写真1〕児童 A に対する手立て
(方法)
①児童 A が1番願っていることを中心に書
く。
(個別の指導計画を参考にするとよい。
)
②どのように支援したら、その願いが実現で
きそうか、各自が思いつくものすべてを付
箋に記入する。
③記入が終わったら、似ているものをグルー
ピングする。
④全体を見て、できそうなものを検討する。
経験年数が豊富な諸先輩方と交流し、個別
の支援方法について学ぶことができた。実際
にここで挙がった「かけ算九九カードの活用」
「学生サポーターを定期的に児童 Aの学級
についてもらう」を行ったことで、児童 Aは
繰り下がりのある引き算を自分の力で解く
ことができるようになった。管理職にも同席
してもらったことで、サポーターの配置など、
その場でスムーズに決めることができた。
課題としては、一人の児童の検討に約2時
間かかるため、特別な支援が必要な児童全員
について行うと、短期間の間に多くの会議を
もたなければいけなくなってしまうことが
挙げられる。遅くとも6月までの間に全員分
検討をする必要があるが、運動会等がある中
特別支援の会議を何度ももつことは難しく、
参加者への負担が大きかった。そのため、こ
の形式の部会は平成25年度のみで、現在は
生徒指導部会といっしょに行っている。学
年に3人以上いる学校であれば、ブロック
ごとに検討することで、児童把握にもつな
がるし、会議時間の短縮にもなると考える。
または、支援を要する児童の中でも、特に
多くの支援を要する児童を学年で検討し
てもらい、数名に絞って実施するのも良い
だろう。本校も児童数が増えてきたことで、
職員数も増加しているので、来年度はブロ
ックごとの検討会を開催していこうと考
えている。
また、コーディネーター初年度は特別支
援校内体制を紙面にしたものも存在しな
かった。最初のコーディネーター研修で、
他校のコーディネーターと交流した際、お
互いの学校の組織図や年間計画を見なが
ら交流するのだが、それぞれの取組の差に
愕然としたことを覚えている。資料があれ
ば充実した支援ができるとは限らないが、
組織図や練られた年間計画は、校内体制の
機能に影響することは言うまでもない。そ
こで、すぐに組織図づくりに取りかかった。
管理職2名と協議をして作成したものが
以下のものである。
〔写真2〕
〔写真2〕特別支援校内組織図
この組織図は今年度も使用している。4月の
職員会議で周知徹底している。作成した当初
は機能していないことの方が多かったが、3
年目となった今年度はケース会議が開かれ
る回数も増え、おおよそ機能しているように
思う。しかし、支援を要する児童童全員に対
して機能しているかと言われたら、している
とは言えないだろう。担任が中心となって対
応しているケースも少なくない。紙面通りに
動くことが重要なわけではないが、より多く
の人が児童に関われるようにしていく体制
づくりを考えていかなければならない。
り学年会でファイルを開いて気になること
を付箋で付け足したり、児童に関係ある資料
や連絡帳のコピーを入れたり、書き加えたり
することが容易ではない。前年度からコーデ
平成26年度(コーディネーター2年目) ィネーター自身も個別の指導計画が活用で
きていないことを感じていたので、各学年に
初年度の最後と新年度の最初に行った活
1冊ファイルを用意し、該当学年の個別の指
動に役割①の特別な支援を要する児童の引
導計画、関係書類等を収めていくようにした。
き継ぎがある。平成24年度から、個別の指
ファイルは鍵がかかる学年のロッカー保管
導計画は何名か作成されていたが、支援が必
にしてもらい、学年会のたびに開き、些細な
要な児童に対してすべて作成されているわ
ことでもよいので書き加えたり、付箋をはっ
けではなかった。そこで、打ち合わせでプリ
たりしてもらうように呼びかけた。完璧に行
ントを配付し、作成することの必要性を伝え
うことは難しいとは思うが、以前より個別の
た。
〔写真3〕
指導計画に書き込みが増えたり、児童の支援
に使ったプリントが入れられたりと活用で
きるようになってきた。学年別にファイリン
グしておくことで、次年度もそのまま使うこ
とができるし、巡回相談や特別支援アドバイ
ザー来校の際も、資料として提示しやすくな
る。
また、本校は平成26年度まで船橋小学校
耐震工事のため、同じ校舎で船橋小学校と共
に生活をしている特殊な状況であった。しか
し、これは児童の交流はもちろん、特別支援
教育コーディネーターとしてとてもよい機
会となった。船橋小学校には通級指導教室も
特別支援学級もあり、折に触れて役割②の児
〔写真3〕個別の指導計画作成依頼
童・担任支援を学級担任兼務のコーディネー
3月と5月に行った理由として、3月は1年
ターとしてどのように行っていったらよい
間のまとめと次年度への引き継ぎ、5月は新
かを教えてもらうことができたのだ。コーデ
しい学級となり1ヶ月、児童の様子もわかっ
ィネーターとしての悩み、本校の支援を要す
てきた頃であるので、そこで実態把握を行う。 る児童、そしてその児童の在籍学級の担任の
前年度から引き継いだ児童いついては必ず
悩みを聞いてもらい、毎回アドバイスをもら
記入してもらう。ここで大切なのは「書くの
うことができた。その中の一つが漢字学習カ
は記入できるところだけでいいので、個別の
ードである。
〔写真4〕
指導計画を早い段階で作成する」ということ
である。本校は千葉県から配付されている様
式を使用しているが、全部記入しようと思う
と担任の負担も大きくなってしまう。書ける
項目だけにすることで、良い意味で気軽に記
入することができるし、支援を要する児童す
べての個別の指導計画を作成することがで
きる。これは学校訪問の時にも指導されたこ
とである。4月末には、支援が必要な児童の
実態調査も行われるので、同じ時期に行うと
〔写真4〕漢字学習カード
スムーズに調査に取りかかることができる。 これは、漢字を覚えることが苦手な児童に、
平成25年度までは、個別の指導計画を全
漢字の意味と形を結びつけ視覚に訴えて覚
学年同じファイルに入れ、金庫にてコーディ
えるため、実際の通級指導でも使われている
ネーターが保管していたが、そうすると学年
教具である。漢字を覚えることが苦手な本校
で気軽に見てもらうことができないし、何よ
児童への支援を相談した時に教えてもらっ
た。実際にこのカードを使ってみると、今ま
で漢字テストが0点だった児童が少ないな
がらも点数を取ることができるようになっ
た。もちろん、小学生で習う全漢字を作るこ
とは難しいが、何文字かだけでもよいので作
り、学習への意欲付けのきっかけをつくると
同時に、少しでも児童に「できた」という成
功体験をさせることが、特別支援では重要で
ある。
支援の方法を教えてもらうだけでなく、経
験のあるコーディネーターの先輩に話を聞
いてもらうことで、自信がつき、次はこれを
提案してみよう、こうしてみようと校内体制
づくりに意欲的に取り組むことができた。こ
の出会いがなければ、今でも必要最低限のこ
としかできていなかったかもしれない。また、
通級指導や特別支援学級の様子や指導の仕
方を知ることができたのもよかった。通級し
ている児童の様子を想像できるし、指導して
くれている担当教員とも、いつでも話すこと
ができたからだ。なかなかこのような状況は
ないが、以上のことから、悩んだ時、困った
時には一人で考えず、誰かに相談して話を聞
いてもらったりアドバイスをもらったりす
ることが、特別支援の校内体制づくりにも必
要不可欠であると考える。つまり、一人で体
制をつくるのではなく、コーディネーターが
できないことは他の職員に協力してもらう
ということである。
2年目からは役割⑤の関係機関の情報収
集と連絡調整にも力を入れた。県の特別支援
アドバイザーに2回来てもらい、さらに市の
特別支援学校の先生にも臨床心理士の先生
とともに3回来校してもらい、支援が必要な
児童の様子を見てもらった後、話し合いの場
を設けた。市の特別支援学校はセンター的役
割を果たしているため、必要であれば、予定
を合わせていつでも来てもらうことができ
る。そのためには、まず校長から児童の様子、
なぜ見てもらいたいかということを直接伝
えてもらう。その後、コーディネーターが該
当学級の担任と特別支援学校側の日程調整
を行った。二人(特別支援学校教諭・臨床心
理士)の目で見てもらうので、より児童の実
態を把握することができたように思う。
県のアドバイザーには、手立てだけでなく、
かけ算九九が苦手な児童のために百玉そろ
ばん、たくさんある情報から必要な情報を見
つけることが苦手な児童のために、見やすい
と思われる蛍光チョークを教えてもらった。
〔写真5〕百玉そろばん
百玉そろばんは、教室の児童が自由に触れて
目に触れる場所に置いておく。かけ算が苦手
な児童は、九九を唱えながら玉を動かし、や
はりこれも視覚に訴え目からもかけ算九九
に関する情報を取り入れ、覚えやすくするた
めの教具である。7の段のかけ算など、どう
しても思い出せない場合は、この百玉そろば
んを使って答えを求めている児童が数名い
る。
蛍光チョークについては、自分の学級の授
業で同じ色(黄色なら黄色)を2本使い、従
来のものと蛍光チョークを児童に比べても
らった。比較した色が黄色である。以下が児
童(32名)の結果である。
蛍光チョークについて
0
3
17
見やすい
12
変わらない
見えにくい
〔図1〕蛍光チョークの見やすさ調査結果
見えにくいと答えた児童の理由としては「目
立つからすぐに見つけられるが、文字を書く
と目立ちすぎて、光るように感じてしまい、
それが気になってしまう」「光って見えるの
で文字の形がわかりにくい」という意見だっ
た。さらに「いつも使っているチョークの方
が色が濃くて落ち着いているので見やすい
と」いう意見も出た。以上の結果から、蛍光
チョークは、線を引くなどマーキングするの
に適していると考えられる。
教具の紹介だけではなく、支援の必要な児
童への支援方法の参考になる「通常学級での
特別支援教育のスタンダード」(東京書籍)
も教えてもらい、職員図書として購入した。
この本は、特別支援教育に力を入れている日
野市の公立小中学校25校の教師650名
が取り組んだユニバーサルデザインの成功
事例集である。すぐにでも実践できる支援が
たくさん掲載されている。学校に1冊あると
よいと言える本である。
アドバイザーや特別支援学校の職員に来
てもらう時の連絡調整は、役割⑤としてとて
も重要である。事前に担任と児童について話
をし、必要であれば書類に記入してもらい、
それをアドバイザーに伝えなければならな
いからだ。座席表や児童の作品等も必要であ
るので、アドバイザー来校までに必要なもの
を連絡するためのプリントを作成した。打ち
合わせで口頭でも伝えるが、プリントを作成
することで正確に理解してもらえ、一度作成
すれば毎回使うことができる。
〔写真6〕
とアドバイザーに伝えなければいけない。学
級担任を兼務している場合、コーディネータ
ーがアドバイザーを直接案内することは難
しいので、案内は管理職にお願いし、作成し
た資料を渡してもらうようにしている。〔写
真7〕前日に管理職にも渡すようにして、児
童の様子やその児童の困り感を伝え、時間の
許す限りアドバイザーとともに様子を見て
もらう。また、前述の個別の指導計画のファ
イルにはさみ、その児童がアドバイザーに見
てもらったという資料にもしている。
平成27年度(コーディネーター3年目)
特別支援教育コーディネーターは悉皆研
修が毎年あり、多くのことを学ぶことができ
る。役割④の研修内容の校内への周知は行っ
ているが、それとは別に講師を招き、校内研
修を行いたいと考えた。管理職からも同じ趣
旨の話をもらい、本校のスクールカウンセラ
ーに講師となってもらい、夏休みに研修を行
った。この研修は役割②の担任支援にもつな
がると考える。本校は経験年数が一桁の学級
担任が半数以上であるので、まずは発達障害
にはどんなものがあり、児童にどのような困
り感があるのかについて話をしてもらった。
その後、検査結果の読み取り方と活用の仕方
を教えてもらった。
〔写真8〕
〔写真6〕アドバイザー来校連絡資料
〔写真7〕アドバイザー用日程表
一度に複数名見てもらうことが多いので、
当日の予定(授業内容や場所など)をきちん
〔写真8〕夏の校内研修の様子
この時に使用したのは、NPO 法人えじそん
クラブが発行している「実力を出しきれない
子どもたち~ADHD の理解と支援のために
~」である。非営利目的であればコピーをし
て自由に使用することができる。ホームペー
ジからもダウンロード可能である。
外部の講師を依頼することはなかなか難
しいが、各学校に配置されているスクールカ
ウンセラーに講師を依頼することで、どのよ
うなことを学びたいか等、事前に綿密に打ち
合わせすることができ、研修後も内容につい
て質問することができた。以下は、研修後の
教職員の感想である。
(一部抜粋)
事前に授業の約束を確認するという支援を
繰り返すことで、今では45分座ることがで
きるようになった。何より、特別な支援を要
する児童について、少しのことでもその児童
の学級担任からコーディネーターに話をし
てもらえるような関係(体制)が根付いてき
たことが大きな成果である。
課題は大きく二つ挙げられる。一つは学級
担任と兼務しているということもあるが、保
護者に特別支援教育、そして特別支援教育コ
ーディネーターについて知ってもらう機会
を設けていないことだ。これは役割③「保護
者との相談」に大きく関わる。本校の特別支
援教育に対する取組を保護者に知ってもら
・クラスの中で気になる子を思い浮かべ
えるような資料を今年度から準備をし、来年
ると、テストを受けてほしいと思う。
度当初に配付できるように進めていきたい。
何ができないのかをはっきりさせて、改
もう一つは、本年度からコーディネーターを
善策や支援を考えていきたい。
二人制にしてもらったのだが、うまく役割分
・
(講師の)経験談の中で、児童の特徴を
担ができていないことだ。二人制を活用し、
理解した上でこそ、より良い対応がで
今以上に充実した校内体制がつくれるよう
きるという話が勉強になった。
にしていきたい。最後に、今年度中に実施し
・支援を要する児童への言葉のかけ方「短
たいこととして、冒頭でも述べた「障害者差
く・具体的に」ということが、とても参考
別解消法」の合理的配慮の不提供の禁止が来
になった。
年度4月から施行されるにあたり、その事実
現在取り組んでいるものは、前述の「通常
を周知徹底し、インクルーシブ教育について
学級での特別支援教育のスタンダード」の実
さらに理解し学んでもらうために、来年度は
践の一つである「一目で分かるみんなの約束」 校内研修会の回数を増やし、更に充実させて
の中から、正しい座り方のポスターを作成し
いきたいと考えている。
ている。絵の得意な児童にどう描いたらみん
なが理解できるか相談しながら、描いてもら
5 おわりに
っているところである。
〔写真9〕
3年前、特別支援教育コーディネーターに
指名された時、誰かに教えてもらうこともで
〔写真9〕
きず、とても不安な1年を過ごしたことを覚
作成中の児童
えている。本論文が、これから特別支援コー
拡大印刷をして、
ディネーターに指名される方々にとって、ほ
全教室に掲示する
んの少しでも勇気づけになれば幸いである。
予定である。
4 成果と課題
毎月の部会やコーディネーター研修の内
容周知、外部との連携、個別の指導計画の作
成と整理等を通して、以前に比べ学校全体が
特別支援教育に対する意欲が高まってきた。
市が開催している研修会の連絡をした時に
は、コーディネーター以外の学級担任も参加
したいと申し出があり、勤務時間外にもかか
わらず共に学んだ。また、特別な支援が必要
な児童への支援も充実し、前期当初は椅子に
座っていることも困難だった児童が、担任と
【参考文献】
・東京都日野市公立小中学校全教師・教育委
員会・小貫悟著(2010)
「通常学級での特
別支援教育のスタンダード」東京書籍
【実践記録】
思いやりの心を育む道徳教育について
―要の道徳と他教科との連携を通して―
船橋市立西海神小学校 教諭
1
はじめに
この十年の間に情報通信機器が大きく発達
した。パソコンやスマートホンからインター
ネットに接続すると、画面の向こう側は、あ
っという間に世界と繋がる。子供たちはゲー
ムに夢中になる。学習で分からないこともイ
ンターネットの画像で調べる。しかし、それ
は全てバーチャルの世界である。収穫したて
の夏野菜は、画像で収穫の方法は見たことが
あるが、収穫の体験はしたことがない。この
ような知識はあるが、体験が伴わない児童は、
情報機器が発達することに比例して、増えた
ように思う。同時に、集団から、個人という
意識が益々強くなる世の中で、
「相手意識」が
希薄になっている昨今、やはりコミュニケー
ションは、大きな課題となっている。
平成 27 年3月 27 日に、道徳は大きな転機
を迎えた。それは「特別な教科 道徳」が設
置されたのである。それにより、学指導要領
も改正された。道徳教育の目標も
道徳教育は、教育基本法及び学校教育基
本法に定められた教育の根本精神に基づ
き、自己の生き方を考え、主体的な判断の
下に行動し,自立した人間として他者と共
によりよく生きていくための基盤となる道
徳性を養うことを目標とする。
となり、それを受けて道徳科の目標は、
よりよく生きるための基盤となる道徳性を
養うため,道徳的諸価値についての理解を
基に,自己を見つめ,物事を多面的・多角
的に考え,自己の生き方についての考えを
深める学習を通して,道徳的な判断力,心
情,実践意欲と態度を育てる。
とされている。
私は、昨年度より、私自身初めて1年生の
担任を経験した。そして今年度は、2年生の
担任をしている。相手を思いやる気持ちを育
む姿勢や心情を養う土台となるのは、低学年
荻野
克利
の時期であると考えた。運良く2年間受け持
つことができた2年4組での、
「 思いやりの心
を育むぽかぽかはあとの道徳教育」について
紹介したい。しかしながら、この実践記録は
平成 26 年4月から始まっており、道徳の時
間のねらい等は、改訂前であるため、完全実
施される平成 30 年までの移行期間というこ
とで、改訂前の内容項目で記述することにし
た。
2 実践の方法
(1) 思いやりの心をキャラクター化する。
入学したての1年生の子供たちに言葉だけ
での指導は難しい。まして、生育歴・発達段
階も異なる4月の1年生には。担任の思いは、
① 相手を思いやるやさしい心
② 自分がされて嫌なことは人にはしない
③ 「ありがとう」
「ごめんなさい」がいえ
る人に
④ 協力する心を大切にする。
ということを指導するにはどうしたら良いか
悩んだ。そこでキャラクター化することによ
り、子供たちの心に浸透するのではないかと
考えた。このキャラクターは「ぽかぽかはあ
と」と名付け、この実践の中にしばしば登場
する。
(2) 道徳の時間と他教科との連携
道徳教育というものは、週1時間の道徳の
時間だけではなく、全ての教育活動で行われ
る。その要として年 38 時間の道徳の時間が
行われなくてはならない。そこで私は、この
「ぽかぽかはあと」の指導を、道徳の時間を
中心にあらゆる教科と連携して、定着を図る
ことを試みた。
(3) 年間 38 時間全ての内容項目が根底に
本実践は、私の学級経営の中心に位置する
「相手を思いやる心」を道徳の内容項目であ
る2-(2)にリンクさせている。しかしな
がら、この項目だけを指導しいるのではなく、
あらゆる内容項目を取り扱っていくことは、
最低条件である。
3 実践の経過と結果
(1) 平成 26 年度 1年4組 28 名
① 4月 国語科「自己紹介しよう」との連携
○ぽかぽかはあととの出会い
入学したしたばかりで、授業も給食を食べ
たら下校するという、1年生最初の日々。4
月中旬に、授業参観が実施されるため、その
日だけ、1年生は5校時を初めて体験した。
最初の授業参観は、学年で相談し、国語で「自
己紹介をしよう」を行うこととした。子供た
ちは画用紙に慣れない手つきで、自分の名前
をひらがなで書き、その周りに自分の好きな
絵を描いた。授業参観当日は、初めての5時
間目そして大勢の保護者に囲まれ、一人一人
自己紹介をした。中には、あまりにも緊張し
てスピーチの途中で泣いてしまう児童がいた
り、1ヶ月前までは保育所ではお昼寝の時間
にあたり、眠たくなってしまう児童がいたり
という状況であった。最後の児童がスピーチ
を終えた後で、私は、こっそり教卓の中にス
ポンジを切って作ったハートを両手で握り締
めて、次のように話をした。
「みんな、やさしい気持ちで最後まできちん
と聞くことができましたね。きっとお話して
いる人も、とってもうれしかったと思います。
先生もとてもうれしかったです。あまりにう
れしくて、先生のハートは・・・」といった
瞬間、握っていたスポンジを、私の胸の前に
開いて、大きくなったスポンジのハートが、
児童の前に当然現れた。「これはね、『ぽかぽ
かはあと』って言うんだよ。」と児童に伝えた。
この日から「ぽかぽかはあと」が4組のキー
ワードの1つになった。
翌日、学級通信で、
「ぽかぽかはあと」の説
明と学級経営の中核となる旨を書き綴り、保
護者に配付をした。また、学級経営案にも、
盛り込み「ぽかぽかはあといっぱいのやさし
い子」の育成に取り組み始めた。
たった1つのスポンジのハートをきっかけ
に、子供たちの心に種を植えた瞬間である。
以後、日常会話の中で「ぽかぽかはあと」と
いう言葉が随所に見られるようになった。
② 5月
資料名「うさぎとかめ」
価値項目 1-(2)勤勉努力
出典 「わたしたちの道徳」(文部科学省)
ねらい 運動会で最後まであきらめない心
を養う。
入学して慣れない小学校生活も1ヶ月も過
ぎ、GW 近辺に、運動会の準備が始まる。ま
だまだ整列などはすぐにはできない。そのよ
うな状況の中で、運動会のかけっこの準備が
始まった。その頃道徳は「うさぎとかめ」を
学習した。お話の教材でも、読み聞かせをす
れば授業に繋がることが分かった。かけっこ
の練習の時、明らかに勝てない勝負になると、
人間やる前から諦めてしまう。
「 この前のかめ
さんは、どうだった?」と聞くと、
「かめさん
は、最後までがんばったんだ。」と言い再び練
習に参加することができた。
1年生は学年で創作ダンス「トトロの森へ
ようこそ!」に取り組んだ。1曲を3部で構
成した。組体操を取り入れたダンス→創作ダ
ンス→傘を広げて集団マスゲーム的ダンスで
ある。
ここで、
「ぽかぽかはあと」は、兄弟学級で
お世話になっている6年生に、視点を移し、
憧れの存在である6年生の組体操を自分たち
も挑戦しようという目標ができた。
「 6年生は
すごいね。」という年上を敬う心の素地となる
種を植えられたように思う。
そして、この頃初めての学年での活動であ
る。120 名が心を1つにして、1つのものを
完成させていく。最初は、バラバラで整列も
時間がかかっていたが、徐々に合図の音に動
きが合ってきた。自分だけではなく、周りの
友達に合わせ、
「みんな」という意識が芽生え
た。
一重に、この体育科との連携により、みん
なで力を合わせると、すごいことができると
いう経験をすることができた。この活動の中
で、友達を励ましたり、気遣ったりする姿が
見られた。体育の授業との連携により、相手
を思いやるあたたかい気持ちの育成に繋がっ
た。
③ 6月
(スポンジのぽかぽかはあと)
体育科「運動会の練習」との連携
生活科「アサガオを育てよう」
との連携
資料名「うちのきんぎょ」
価値項目3-(2)動植物愛護
出典 「1年生の道徳」(文溪堂)
ねらい 身の回りの生き物を大切に育てる
気持ちを養う。
この授業を受けて、飼育や栽培を通して生
き物の成長や命の大切さを伝えられないかと
考えた。たまたま生活科では、アサガオの観
察の学習に入ることもあり、この授業との連
携した。
生活科では、アサガオの種を鉢に植え、毎
日水をあげ、その成長を観察する。それに関
連して私は生活科の授業で次のような話をし
た。
「ある実験をしたそうです。同じように咲い
ているお花が2つあります。1つには、やさ
しい言葉をたくさん言いました。もう1つに
は、バカとか死ねなどの言葉だけを言いまし
た。さて、この2つのお花はどうなったでし
ょうか。」子供たちは、担任からの質問に対し
て真剣に考えた。ある児童が「先生、僕ね、
そんな言葉聞いたら嫌な気持ちになるよ。お
花だって嫌な気落ちになるよ。」と発言した。
私は「その通りです。実はね、優しい言葉を
たくさん言った方はもっと大きくなってお花
がたくさん咲いたんだって。でもね、チクチ
クした言葉をかけた方は、だんだんしぼんで
枯れてしまったそうです。」その話を聞いた翌
日、ある児童は「大きくなーれ、大きくなー
れ」と優しく話しかけっていた。そこでこの
機をとらえ、道徳の授業で「ふわふわ言葉と
チクチク言葉」の学習をし、言葉の力につい
て考え、最後に掲示物として、
「1つの言葉で
けんかして」という詩を紹介した。以後年度
末まで教室前の掲示コーナーに掲示をした。
④ 11 月
で、より良い人間関係を築く上で、再度、
「ぽかぽかはあと」を学習する。ここで私が
主に考えたことは、
「思いやり」とは相手が思
っていることを「察する力」ではないか。授
業は以下のように展開した。
(導入)
○(登場する魚を掲示して)この魚は、どん
な魚でしょうか。
(展開前段)
○「いったいだれさまのつもりなんだ。」と言
った虹魚はどんな気持ちだったでしょう。
○一人ぼっちになってしまった虹魚はどんな
ことを考えていたでしょうか。
○たこに相談して、どんなことを教わりまし
たか。
◎青い魚に「鱗を1枚だけ」と頼まれた虹魚
はどんな気持ちであったか。
(展開後段)
○自分を振り返る。
(終末)
○虹魚に教えてもらったことを鱗の便箋にお
手紙を書く。
読んでいただいて分かる通り、私自身の思
いが強すぎて、発問の数が多く、時間内には
終わらなかった。本時の手立ては2つある。
手だて1 ぽかぽか温度計
温かい気持ちを測る温度計を導入し、
その発問の時の虹魚の気持ちを視覚的に
考えた。
手だて2 板書の劇場化
黒板の中央に画用紙を掲示し、登場人
物を操作し、ミニ劇場を作り、その周り
に板書をした。
しばらく子供たちは、何かしら「虹魚さん
みたいだね。」と会話の中に登場した。
千教研道徳部会授業研
道徳科の授業
資料名「にじいろのさかな」
価値項目2-(2)親切
出典「にじいろのさかな」(講談社)
マーカス・フィスター作
この頃になると、クラスの友達と活発に遊
ぶ中で、些細な喧嘩が現れ始めた。発達段階
上、自己中心的な行動や思考が抜けず、自分
本意な発言や行動をする時期でもある。そこ
(授業の板書の様子)
⑤ 12 月 音楽科「校内音楽祭にむけて」
との連携
11 月頃より、本校は 12 月に開催される音
楽祭に向け、校内はどの学年もすてきな合唱
で包まれる。1年生は「ビューティフルネー
ム」
「いのちのうた」の2曲を歌う。この「い
のちのうた」は大変に難しい歌で、まず1年
生では歌わない。しかし、この歌詞の中に「生
まれてきたこと 育ててもらえたこと出会っ
たこと 笑ったこと そのずべてにありがと
う この命にありがとう」とある。入学式に
両親に手を握られ、あっという間に半年が過
ぎ去り、いつも見守ってくれてありがとうと
いう気持ちを込めて歌うことを話したところ、
「先生、ぽかぽかはあとだね」とある児童が
発言した。
「ではこの歌は、ぽかぽかはあとで
歌いましょう。」と子供たちと決定した。
もう1曲は「ビューティフルネーム」。この
歌の伴奏は児童のオーディションで決定した。
4組の Y 君である。この日のために、数ヶ月
練習してきた Y 君であったが、合唱祭の数日
前にインフルエンザで出席停止となってしま
った。Y 君は、数日泣き続けているという。
急遽、学年で別の児童が演奏することになっ
た。
4組の児童が「やっぱり Y 君のピアノで歌
いたい。」
「 先生、Y 君に弾かせてあげようよ。」
と多くの4組の児童が私に言いにきた。
当日、無事に合唱祭が終わった後で、ある
児童が「先生、Y 君が元気になったら、Y 君
のために4組の音楽祭を開こうよ。」というこ
とを言った。
「Y 君に、弾かせてあげてくださ
い。」と。次の体育館の割り当て日を確認し、
5校時にたまたま使用していない日があり、
そこで学級活動で取り組んでいる4組の 12
月のお誕生会の前半をそれに当てた。4組だ
けのミニ音楽会を開催した。Y 君の保護者の
方には、日時と場所だけを伝え、こっそり参
観に来てくださいとメモを渡した。
体育館は4組の 28 名だけであるが、ピア
ノの場所も入退場も立ち位置、呼びかけも、
全て当日と同じように行った。Y 君の伴奏で
歌い、伴奏が終わると、28 名が大きな拍手を
Y 君に贈った。
だれかを思いやる気持ちというものは、す
ぐには育たない。だれ一人嫌な顔をする子は
いなかった。本当に私は、子供たちの「ぽか
ぽかはあと」に感激した瞬間である。
国語科「スピーチ大会をしよう」
との連携
これまで私は「ありがとう」という言葉を
大切にしてきた。授業参観日に「ありがとう」
の気持ちをスピーチ文にして発表することを
考えた。
そこで事前に道徳の時間に2-(2)の内
容項目で、
「 ありがとう」の授業をおこなった。
・だれにありがとうが言いたいか。
・それはどんなありがとうだろうか。
・ありがとうには色々な意味がある。
「お母さんいつもおいしいご飯をありがと
う」、「元気がないときに励ましてくれた友達
にありがとう」などたくさんのありがとうが
でた。それを国語科のスピーチに繋げた。28
名の中で、3名の児童は校長先生に、1名の
児童は養護教諭に書いた。大半は母親である
が、中には生まれてきた双子の妹やもう引っ
越して会えない友達に書いている児童もいた。
授業参観の時に、校長先生と養護教諭には、
事前にお願いして、その時だけ教室に来てい
ただいた。スピーチが進む中で、どうしても
都合で来校できない保護者には、私が「ぽか
ぽか郵便屋さん」になり、すぐに封筒に入れ、
封をしてその児童の連絡帳に挟むようにした。
道徳の授業で得た道徳的心情や価値を、外
に発信することは、道徳教育で大切なことで
はないでろうか。たくさんの「ありがとう」
に包まれて幸せな時間を過ごすことができた。
そしてスピーチの最後は、私から4組の子供
たちにありがとうのスピーチをした。その中
で「出会うことができて、ありがとう」と締
めくくった。
⑦ 3月
児童会活動「6年生を送る会」
との連携
1年間お世話になった兄弟学級の6年生も
いよいよ卒業間近になる。1年生としては、
お世話になった感謝の気持ちを込めて6年生
を送る会の準備に入った。出し物は劇「オズ
の魔法使い」である。4クラスあるので場面
は4場面設定し、演技役と声役の2つに分け
て、劇を行った。その日の給食は6年生と食
べられる最後の交流給食となる。教室に来て
くれたお世話になった5名の6年生のお兄さ
ん・お姉さんとうれしそうに給食を食べてい
た光景は印象的である。
⑥ 2月
(1年生のオズの魔法使い)
(2) 平成 27 年度 2年4組 28 名
① 4月 ぽかぽかはあとの取り組みを
4組から学年へ
新年度なり、持ち上がり学級のため、今年
度も引き続き「ぽかぽかはあと」の取り組み
を継続して行うことにした。私自身、学年主
任となり、
「ぽかぽかはあと」の取り組みを学
年で行いたい旨を相談したところ、学年の先
生方は快諾してくれた。まずは、手始めに学
年便りのタイトルを「ぽかぽかはあと」とし
た。そしてこのぽかぽかはあとの意味を学年
便りに載せ、学年の保護者の方々に伝えるこ
とから始めた。そして学年のめあてとして、
「ぽかぽかはあと いっぱい」を合い言葉に
学習活動がスタートした。
(学級掲示物の一つ)
② 5月~9月 生活「学区探検に行こう」
との連携
資料名「おきにいりのかさ」
価値項目2-(4) 尊敬・感謝
出典 「2年生の道徳」(文溪堂)
ねらい 日頃世話になっている人に気づき、
感謝の心を養う。
この資料の主人公は大切な傘をなくしてし
まうが、その傘を地域の文房具屋さんが届け
てくれたという話である。
この授業の時に、地域の人ってどんな人か
を考えた。毎朝見守ってくれるスクールガー
ドさん、いつも窓から手を振ってくれるある
家のおばあさん、挨拶をしてくれる商店街の
お店の人など、様々な意見が出た。
そこで生活科の「学区探検をしよう」の学
習と連携させた。まず、学区探検であるが、
1日目 14 号方面に行った。途中で畳屋さん、
自転車屋さん、造園、お寿司屋さんと2年生
が通過すると、お店から顔を出して、挨拶を
してくださった。また、2日目は、飛ノ台方
面。飛ノ台博物館の館長に挨拶をして、遺跡
を見学させていただいた。そして3日目は、
北側の広大な畑方面。その土地代々の農家の
方にお願いをして、野菜の作り方をインタビ
ューした。自分たちの住んでいる地域には、
こんなに色々な人がいて、自分たちは見守ら
れていることを改めて実感できた。
また、9月には、学区探検で立ち寄ること
ができなかった、海神商店街のお店探検にで
かけた。海神商店街のお店を、子供たちが選
び、グループを作り、自分たちで挨拶をして
質問する学習である。10 店舗くらいのお店の
方々が、学区の子供たちのためならと、快諾
していただいた。その後、保護者と一緒に野
菜や魚を買いに行ったという、うれしい連絡
があった。
③ 9月
授業参観
道徳
資料名「ありがとうのやくそく」
価値項目2-(2)親切
出典 pHp研究所 おちまさと文
ねらい おじいさんの一生から、ありがとう
の意味を考え、「ありがとう」が言
えるやさしい心を養う。
この2年で私は、2-(2)の価値項目に
ちなみ、
「ありがとう」をキーワードに3つの
授業を展開した。1つは、
「虹色のさかな」の
道徳の授業。2つめは、国語と連携した「あ
りがとうのスピーチ」。そして3つめ最後にな
るのが、この授業である。しかし、この教材
は、一般企業の研修でも使用されるものであ
り、授業で扱った際は、2年生でも分かるよ
うに、更に文章を噛み砕きわかりやすくし、
イラストや吹き出しを活用した。
(授業参観の様子)
授業の展開は以下の通りである。
(導入)
○「ありがとう」しか言わないおじいさんに
ついてどう思うか。
(展開前段)
○いたずら好きの子供たちの行為についてど
う思うか。
◎おじいさんは、立ちすくんで何を考えたの
だろうか。
○おじいさんが「ありがとう」と言わなかっ
たら、子供たちはどうなっていたでしょうか。
・なぜ、「ありがとう」といえたのでしょう。
(展開後段)
○みんなの心の中に、
「ありがとう」のりんご
はいくつあるでしょう。
(終末)
○感想をりんごのカードに書く。
「ありがとう」しか言わないおじいさんに
「ありがとう」を言わせないように、ちょっ
とした悪戯心が、エスカレートして取り返し
のつかないことをしてしまう。もしかしたら
僕たちも、
「 ついつい」とやってしもうことが、
実はとんでもないことになってしまうと発言
した児童がいた。
「ありがとうは、最高のぽかぽかはあとな
んだね。」と感想を発表してくれた児童もいた。
ことは、大いに反省である。
5
おわりに
この論文を書かせていただきながら、2年
4組の子供たちとの2年間を振り返ることが
できた。道徳を中心に自己研修を進めてきた。
これから数年は道徳が大きな転換期を迎えて
いることは、冒頭にも述べた。
私は、新たな提案として、例えば2-(2)
親切を扱う場合、これからは、おおよそ1年
間に3回程度取り組むことになる。従来であ
れば6月頃・9月頃・1月頃と時期がずれて
いるのが今までの指導であるが、価値を更に
追求するのであれば、それを3週間にまとめ
取りをするなど、これから無限に方法は広が
っている。私は他教科との連携を図り、価値
を深める方法に取り組んだ。その結果、道徳
の価値を深めることができた。
4 成果と課題
現在、本校では音楽祭に取り組んでいる。
相手を思いやるやさしい気持ちを、キャラ
今年の2年生は「ひまわりの約束」という歌
クター化し、
「ぽかぽかはあと」というキーワ
を練習している。この歌詞の中にも、様々な
ードで2年間取り組んできた。キーワード化
「ぽかぽかはあと」が鏤められている。今日
することにより、親しみやすいことから、2
は、その歌詞から「ぽかぽかはあと」探しを
年4組では、日常語として使われている。し
かしながら、今後中学年になり高学年になり、 した。素敵な言葉があった。言葉とは言霊で
あり、やさしい心はやさしい言葉に宿ってい
登場人物の思いに寄り添う時、それがどんな
る。私は「ありがとう」という言葉を大切に
「ぽかぽかはあと」なのか等、その気持ちを
自分なりに説明できる力も必要になってくる。 したい。
「ぽかぽかはあと」を土台として、その感情
の微妙な変化をキーワードでも良いから、説
【参考文献】
明できる力を培わなくてはならない。
赤堀博行『道徳の授業で大切なこと』
週 1 時間の道徳の時間で、しかも、場合に
(2010 年)東洋館出版
よっては同じ価値項目を扱うのに、数ヶ月も
諸富祥彦『本物の「自己肯定感」を育てる道
離れてしまうこともある。しかし、他教科と
徳授業』(2011 年)明治図書
の連携を図ることにより、価値項目が無限に
押谷由夫『道徳の時代をつくる』
(2014 年)
広がることが分かった。それは、私たち教師
教育出版
の工夫次第である。他教科との連携は今以上
坂本哲彦『道徳の授業のユニバーサル
に、計画をしっかりと立てて、1 つの点であ
デザイン』(2014 年)
った道徳の時間を他教科との連携で線を結ぶ
東洋観出版
ことができるのである。
また、特別な支援を要する児童に対する支
援も道徳の授業においても、手だてをしっか
りとする必要がある。授業に参加できるよう
に意志を決定できる場を工夫して行く必要が
あると、改めて感じた。
ワークシートを活用しているが、来年度は、
他教科同様に、道徳のノートを準備し、そこ
に学習の足跡を刻み、自分の心の変化をノー
トで振り返ることができると、更に授業が深
まると考え、今年度ノートを準備しなかった
【実践記録】
確かな学力をはぐくむ算数科学習指導
―既習事項をいかしたスモールステップを取り入れた、第5学年「単位量当たりの大きさ」の指導を通して―
船橋市立葛飾小学校
1
はじめに
21世紀を生きる子どもたちに、基礎的・基
本的な知識・技能、学習意欲及び思考力・判断
力・表現力などの幅広い学力「確かな学力」を
はぐくむことが学校教育において必要である。
この「確かな学力」をはぐくむためには、わか
る授業を実践していくことが重要である。
小学校学習指導要領解説算数編(平成20年
度8月告示)の算数科改訂の基本方針の具体的
な方針として「知識・技能の確実な定着のため、
反復(スパイラル)による教育課程を編成する
こと」や「数量や図形の意味を実感的に理解で
きるようにすることや学習の進歩が感じられる
ことなどを重視しながら、学ぶ意欲を高めるこ
と」が記されている。学習意欲を高め、基礎的・
基本的な知識・技能を確実に習得させ、さらに
数学的な思考力・表現力の育成をしていくこと
が求められている。
算数は学習内容の系統性や連続性が明確であ
るという特性がある。これは、既習事項が定着
していない児童は学年が進むにつれて、新しい
知識・技能の習得が難しくなることにもつなが
る。しかし、限られた授業時数の中で既習事項
の確認にあてられる時間は少ない。そこで、確
かな学力をはぐくむためには、児童の実態に応
じた、単元全体を見通した段階的な指導が必要
であると考えた。
本実践では、既習事項をいかした具体的な活
動を段階的に取り入れたスモールステップでの
指導によって、基礎的・基本的な知識・技能や
学ぶ意欲をはじめとする確かな学力の育成を目
指す。
2 実践の方法
(1)単元について
今回は第5学年「単位量当たりの大きさ」の
単元において実践した。
単位量当たりの大きさの単元で学習する異種
の二つの量の割合は、既知の量から既知の考え
方を使ってつくり出していく新しい量であり、
数値化する過程が重要である。
児童はこれまで1つの量で比較でき、測定の
考えで扱うことができる重さや長さといった量
教諭
藤巻
正哉
を学習しており、基本的な量の性質をもってい
ない量を学習することは初めてである。
異種の二つの量の割合は視覚的に表すことが
難しいためイメージをつかみづらく、内容を理
解しにくい単元である。
平成25年度全国学力・学習状況調査におい
て、異種の二つの量の割合としてとらえられる
数量について、その比べ方や表し方を理解して
いるかどうかをみる問題が出題され、正答率が
50.2%であった。平成25年度全国学力・学習
状況調査報告書に、
「単位量当たりの大きさを求
める除法の式と商の意味を理解することに課題
がある。」と示されているように、多くの児童が
既習である異種の二つの量の割合の表し方や除
法の式と商の意味を理解できていないことがわ
かった。
この単元は、異種の二つの量の割合を比べた
り表したりするために、既習事項を使って単位
量当たりにする考え方が重要であり、多くの既
習事項の理解が前提となる。
単位量当たりの大きさの単元における主な既
習事項は
①除法の式と商の意味
②平均の考え方
③比例の考え方
の3つであると考えられる。
しかし、この既習事項が定着していないため、
何を求めるか理解しないまま立式し、商の意味
を理解できていない児童や、2つの量のどちら
にそろえてもよいため、問題解決への見通しを
もつことが難しく、問題解決の過程で求めた数
値を適切に処理できない児童が多くいた。
このように、多くの既習事項が定着していな
いことや見通しをもって段階的に問題解決でき
ないことが理解しにくい原因であると考える。
この問題点を解決するために、平均や比例の
考え方を用いて公倍数でそろえたり、そろえる
量や商の処理の見通しをもち、立式したりする。
児童が既習事項をいかして段階的に学習し、少
しずつ自信をもちながら、理解を深めていくの
に最適な単元であると考え、本単元で実践する
こととした。
(2)手立てについて
第5学年「単位量当たりの大きさ」において
既習事項をいかして段階的に指導していく中で
確かな学力をはぐくむための手立てとして、以
下の4つを考え、実践した。
①スモールステップでの指導
最初から大きな目標を掲げるのではなく、目
標を細分化し、小さな目標を達成する体験を積
み重ねながら、最終目標に近づいていくため、
スモールステップで指導していくこととした。
一つ一つ丁寧にスモールステップで指導するこ
とで、単位量当たりの大きさの内容について理
解できるようになるだけでなく、各ステップを
理解することで既習事項を定着させ、達成体験
を重ね、学ぶ意欲も高まると考えた。
②指導計画の工夫
数理的な処理のよさを実感させながら、既習
事項をいかして段階的に指導するため、単元の
指導計画を工夫する。また、学習内容の系統性
を考え、単元の根幹となる「単元を貫く大きな
目標・問題」を設定し、第 1 時から、それにむ
かって毎時間学習していく。1時間の学習内容
が単元全体にわたる問題につながっていること
を意識しながら、単元全体を見通して指導して
いく。
③誰もができる活動からの導入
単元の導入では、進んだ児童に合わせた問題
や課題を提示すると遅れた児童は最初から学習
に参加できなくなってしまい、単元全体の学習
に対する意欲も低下する。そのため、導入にあ
たっては、単元の本質にかかわりながらも、誰
もが手をつけることができる課題を提示する。
④問題1・2・3の設定
今までは既習事項を確認した後、1つ目の問
題として本時の目標と深くかかわる問題を自力
解決し、比較検討する。その後、2 つ目の問題
として適用問題に取り組むという流れであった。
本実践では、前時の学習内容と本時の目標を
つなぐ問題1を設定する。問題1を解くことで
既習事項の確認をするとともに、本時の目標と
深くかかわる問題2の解決の見通しをもたせる。
また、問題2よりも容易である問題1を解くこ
とにより、
「できる」という自信をもって、問題
2に取り組むことができる。もし、問題1が自
力解決できないとしても、全体で問題1の解き
方を理解し、問題2を自力解決できれば、達成
感を感じることができ学ぶ意欲の向上につなが
ると考える。1時間の授業の中に3つの問題を
設定することで、1度は「できた」と感じるこ
とができる授業を展開していく。
3 実践の具体的内容
(1)スモールステップでの指導
異種の二つの量の割合は、今まで学習してき
た重さや長さと異なり、単位となる数量を数え
る測定によって数値化できる量ではない。その
上、単位量当たりを求めるために除法を用いる
が、商を求めることができても、意味を理解し
適切に処理することは難しく、児童にとっては
理解しにくい量であると考えられる。
小学校学習指導要領解説算数編では、
「一般に
は、二つの量がかかわっているので、その一方
をそろえて他の量で比較する方法が用いられる。
これらの考えを用いるときには、二つの数量の
間に比例する関係があるという前提がある。ま
た、平均の考えなども前提にしている。」とある。
つまり、単位量当たりの大きさを学習する上で、
比例と平均の考え方が前提となっている。
異種の二つの量の割合の概念をつくる上で、
平均と比例の考え方は重要なものであるが、す
べての児童がこの既習事項を十分理解している
わけではない。平均や比例の考え方などの既習
事項を活用して段階的に学習していく中で、単
位量当たりの大きさの内容とともに既習事項の
理解が深まると考えた。
そこで既習事項をいかしたスモールステップ
を作成し、それに基づいて指導した。単元の導
入では畳の枚数と人数から場所がどれだけ混雑
しているかの度合いである混み具合を学習する。
〔表1〕スモールステップ
ステップ
内
容
前提 均等化して考えることを確認する。
A
(平均の考え方)
数値を大きくしても小さくしても同じ
前提
混み具合をつくることができることを
B
確認する。(比例の考え方)
S①
必要な二量とその二量がそろっていな
いので比べられないこと(一方をそろえ
れば比べられること)を確認する。
S②
どちらをそろえた方がよいかを考え、そ
ろえる量を決める。【チェックシート】
S③
公倍数や公約数でそろえる数値を決め
る。【表】
何を求めるか意味を理解した上で立式
する。
商を求め、適切に処理する。
S④
S⑤
前提となる平均と比例の考え方についても、
単位量当たりの大きさを求める上で重要である
こと、定着していない児童が多いことからスモ
ールステップの中に入れることにした。
大きく分けると、ステップ①が問題を理解す
る段階、ステップ②と③が計画を立てる段階、
ステップ④と⑤が計画を実行する段階として考
え、作成した。
このスモールステップでは、ステップ②と③
においてつまずく児童が多いと考えられる。そ
の上、ステップ④や⑤において、除法の式を立
て、商の意味を理解し、正しく商の処理をする
ことは難しい。問題解決するための見通しや判
断する根拠となるものが必要であると考えた。
そこで、ステップ②では、商の処理の見通し
をもち、そろえる量を判断する根拠とするため
に、下のようなチェックシートを活用する。見
通しをもつために、どちらの量にそろえるか、
計算前に決める機会を設定した。
( 畳の枚数
( 人数 )
こみぐあい
)でそろえると
小
大
(小)
(大)
( 人数 )でそろえると
( 畳の枚数)
小
大
こみぐあい
(大)
(小)
(
人数
)が大きくなると
こみぐあい
も大きくなるので
(
畳の枚数
)でそろえる
〔図1〕そろえる量を決めるチェックシート
チェックシートの( )に異種の2つの量を
記入し、一方をそろえたときの状況をイメージ
して( )に大・小を記入させる。
例えば第1時の畳の枚数と子どもの人数で部
屋の混み具合を比べる問題では、
①畳の枚数をそろえると数(人数)が大きい方
が混みぐあいが大きくなる
②人数をそろえると数(畳の数)が小さい方が
混みぐあいが大きくなる
となる。
通常は、どちらでそろえて比べてもよい。し
かし、本単元においては異種の二つの量の割合
が児童が初めて扱う量であることから児童に比
べ方を選択させることが理解しにくい原因であ
ると考え、本実践ではそろえる量の方向付けを
した。
量の決め方として、既習の量である「長さ」
や「重さ」、「広さ」などの場合、数が大きい方
が、
「長い」
「重い」
「広い」としてきた。同じ異
種の二つの量の割合である「速さ」においても、
遅さではなく速さに興味があるから速い方が数
値が大きくなっている。この考え方からすると、
「こみぐあい」においては、
「数値が大きい方が
こんでいる」となるそろえ方に決めることがで
きる。
最終的にはどちらの方法でも解決できること
を目指すが、理解することが難しく、除法の式
と商の意味理解にも課題があることを考え、最
初の指導として、そろえる量を方向付けするこ
とにより、理解が深まると考えた。
また、第1時でチェックシートを記入後、児
童にどちらのそろえ方がわかりやすいか質問し
たところ、ほとんどの児童が畳の枚数をそろえ
る「大なら大」のそろえ方を選んだ。このよう
なことから、初めは「大なら大」となる方でそ
ろえるように全体で方向付けを行った。
このようにチェックシートを活用することで、
チェックシートが児童にとって判断する根拠と
なり、商の処理の見通しをもつことができた。
次に、ステップ③では、前提 B の比例の考え
方を確認し、式と商の意味を理解し、立式の見
通しをもつために、表を活用した。
÷10
人数
畳
×2
5
10
1
10 20
÷10 ×2
15
30
〔図2〕そろえる数値を決める表
まず、公倍数でそろえ、その後公約数、単位
量にそろえるという学習の流れ、児童の考えに
そった表となる。この表により、比例の考え方
について、確認・定着させながら立式の見通し
をもたせた。
5÷10
1枚
5人
10枚
÷10
〔図3〕4 マスの表
表に慣れ、数値のそろえ方が理解できてきた
ら、4マスの表として活用する。これら2つの
表を活用することで、除法の立式がしやすくな
り、商の意味が理解できた児童が多かった。ス
テップ④や⑤においてもこのチェックシートや
表を問題解決のために活用した。これらが立式
の根拠となり、問題解決への見通しをもつこと
ができていた。
このように、チェックシートや表を活用して、
既習事項をいかしたスモールステップに基づい
た指導を行った。
(2)指導計画の工夫
単位量当たりの大きさの単元では、初めから
除法を使って単位量当たりを求め、混み具合を
比べる指導が一般的である。しかし、除法をは
じめとする既習事項の理解が十分ではない児童
も多い。単位量当たりの大きさのよさを実感さ
せながら、既習事項をいかして段階的に指導す
るために指導計画の工夫が必要であると考え、
本実践では新たに指導計画を作成した。
〔表2〕啓林館『わくわく算数5下』指導計画
時
目標と主な学習活動
1 既習事項の復習
「単位量あたりの大きさ」の準備
2 混み具合を比べることにより、本単元の
学習課題をとらえる。単位量あたりに着
目する考えを理解する。
・部屋わりという場面設定で、たたみの
数と子どもの数からそれぞれの部屋
の混み具合を調べる。【混み具合】
3 日常生活で単位量当たりの考え方が用
いられている場面を知り、これを用い
て、2つの観点から量の大きさを比べる
ことができる。【燃費・収穫量】
4 人口密度について理解し、大きさを比べ
る。【混み具合・人口密度】
5 学習内容の自己評価
時
1
こ
み
ぐ
あ
い
2
3
4
5
〔表3〕本実践で作成した指導計画
主な学習内容
○混み具合は均等化して考えることを知
り、同じ混み具合をつくり、混み具合
について考える。
○公倍数を用いて一方の量をそろえて比
べ、一方の量でそろえると数が大きく
なると混み具合も大きくなることを理
解する。 【混み具合】
○畳の枚数と子どもの人数から3つの部
屋の混み具合を比べることを通して単
位量当たりの大きさを求める。
【混み具合】
○面積と人数から教室の混み具合を比べ
る方法を考える。
○人口密度(1 ㎢あたりの人口)を求める。
【混み具合・人口密度】
○単位量当たりの大きさの考えをもとに
して、畑のとれ高やガソリンの量と車
の走る道のりを比べる。
【燃費・収穫量】
○単位量当たりの大きさの考えを用いて
日常生活での活用場面を見つけ、様々
な練習問題に取り組む。
第1時に前提となる既習事項を具体的な活動
を通して確認する。同じ広さの場所にどれだけ
の人がいるかを混み具合ととらえている児童が
多い。図や表で同じ混み具合をつくる具体的な
活動を行い、混み具合について考察する場を設
定することで概念を形成していった。
また、第1時で2つの部屋の混み具合を比べ
る問題では単位量当たりを扱わず、公倍数でそ
ろえて問題を解決する。第1時で扱う簡単な数
値の2つの部屋の混み具合の比較では、公倍数
を用いて簡単に解くことができる。他の方法で
簡単に求めることができれば、単位量当たりの
大きさの必要性や有用性を児童が感じることは
できない。そこで、本実践では第1時は、どち
らか一方をそろえれば比べることができること、
数が大きいとこんでいる方にそろえるという方
向付けをしっかりと定着させた。第2時で3つ
以上の部屋の混み具合を比べる問題で、公倍数
ではそろえることが難しいと感じたところで公
約数に目を向け、初めて単位量当たりの大きさ
を求める。このことにより単位量当たりの必要
性を実感させ、よさに気付かせることができた。
さらに本実践では、人口密度を目標に第3時
まで混み具合について学習する。第1時から目
標として掲げる単元全体にわたる問題として以
下の問題を児童に示した。
◎F先生が引越し先を探しています。
船橋市と市川市はどちらがこんでいますか。
人口
面積
船橋市
620,000人
85㎢
市川市
470,000人
57㎢
〔図4〕単元全体にわたる問題
自分たちの身近なものを題材にした人口密度
を求める問題である。混み具合を比べるために
3時間の学習で様々な方法を段階的に考えてい
く。第3時までに「数値が大きい方がこんでい
る」となる量でそろえ、単位量当たりを求め、
比べる方法が有効であることに気づく。3時間
の学習の積み重ねが人口密度であり、学習して
きたことが実は日常生活にも用いられている尺
度として使われていることを知った。児童は達
成感を感じるとともに数理的な処理のよさに気
付き、日常生活とのつながりを感じることがで
きていた。
異種の二つの量の割合について、混み具合を
題材として3時間学習し、十分理解した上で、
第4・5時で車の燃費や畑のとれ高についての
問題に取り組み、単位量当たりの大きさが日常
生活にかかわる場面を見つけたり、問題を解い
たりする。このように単元全体を見通した指導
計画を作成し、指導した。
(3)誰もができる活動からの導入
本単元の導入では、混み具合の概念形成にか
かわり、単位量当たりの大きさの学習の前提と
なっている平均や比例の考え方について、具体
的な活動を取り入れた。
①均等化(平均の考え方)を確認する活動
B室はどちらの時間がこんでいるといえますか。
午後5時
午後10時
●
● ●
●●●
●●
●
●
〔図5〕均等化を確認する場面の課題
修学旅行の部屋で5人の子どもがトランプを
して遊んでいる場面と布団で寝ている場面をイ
メージさせた。初めは集まっている方が混んで
いるととらえていた児童も自分で子どもの位置
を動かすことで部屋の大きさも子どもの人数も
変わらないから混み具合は同じであることに気
付くことができていた。
②比例の考え方をもとにした同じ混み具合を
つくる活動
〔図6〕同じ混み具合をつくる場面の児童のノート
図に人を表す○を書き込むことで、同じ混み
具合をつくった。その後、表に数値を書き、一
般化することで、
「数を大きくすれば、同じ混み
具合ができること」
「一方が2倍、3倍…になる
ともう一方も2倍、3倍…となる比例の考え方」
が活動を通して理解できた。
この活動により、除法を用いて単位量当たり
を求めるときに、数を小さくしても、単位量に
しても同じ混み具合をつくることができるとい
うことが理解でき、単位量当たりの大きさを容
易に求めることができた。
また、遅れた児童もこのような活動を導入で
行うことで単元を通して意欲的に学習すること
ができていた。
(4)問題1・2・3の設定
問題を考えることを通して、既習事項を確認
し、解決しながら本時の問題にせまるために、
前時の学習内容と本時の問題をつなぐ問題1を
設定した。児童が1時間で1度は「できた」と
感じることができるように、1時間の学習の中
に3つの問題を設定した。
〔表4〕前時からの学習の流れ(第3時)
前時
人数と畳の枚数
【混み具合】
問題1 人数と面積(㎡) 【混み具合】
問題2 人数と面積(㎢) 【人口密度】
問題3 様々な場所の人口密度 適用問題
前時では、3つの部屋の混み具合を畳の枚数
と人数から単位量当たりを求め、比べた。第3
時では、人口密度を求めることが目標になるが、
人口密度を求める問題は問題2に設定した。
人口密度と前時の学習内容の違いに着目する
と、単位量当たりを求めるために必要な2つの
量の1つが枚数(分離量)から面積(連続量)
に変わり、数値が大きくなる。これは、すでに
人口密度の求め方を知っている児童にとっては
簡単に求めることができるかもしれないが、未
習の児童にとっては難しい。人口÷面積の立式
ができたとしても、それは大きい数÷小さい数
であり、除法の意味を理解して単位量当たりを
求めることができたのかは判断しにくい。
そこで、本時の人口密度と前時の学習内容を
つなぐ問題1を設定した。1つの量が分離量(畳
の枚数)から連続量(面積)になるが数値も大
きくない上に児童がイメージしやすい教室と音
楽室の混み具合を問題とした。
理解の速い児童は様々な場所の人口密度を求
める問題3の適用問題に意欲的に取り組むこと
ができた。遅れた児童は問題1では自力解決す
ることはできなかったが、問題1に取り組み、
解き方を理解したことで本時の目標である人口
密度を求める問題2を自力解決することができ
た。問題2を自力解決できなかった児童もいた
が、問題3ではしっかりと立式し、解くことが
できていた。どの児童も3つの問題のいずれか
を自力解決することができていた。
4
実践のまとめ
児童が単位量当たりの大きさについて理解で
きているか、スモールステップとのかかわりを
考えて問題を作成し、授業実施前後で調査した。
この調査結果や意識調査、児童の感想などをも
とに本実践について考察する。
〔表5〕調査問題とスモールステップとのかかわり
ステップ
ステップ
ステップ
番号
番号
番号
前提 A
①
④
1,2
5
10,11,12
前提 B
②
⑤
3,4
6,7
13,14
③
未習
8,9
15
〔図7〕調査問題の正答率
(1)成果
①除法の式や商の意味、比例などの既習事項の
理解を深めることができた。
本単元における既習事項は、除法の式と商の
意味、比例と平均の考え方の主に3つであった。
その3つとかかわる調査問題1~4、10~
14の正答率が上がっていることから、既習事
項をいかしたスモールステップで学習していく
中で既習事項の理解が深まったと考える。
②表やチェックシートを活用したスモールス
テップでの指導により、問題解決への見通し
をもたせることができ、単位量当たりの大き
さの学習内容を理解することができた。
スモールステップの各ステップにかかわる問
題の正答率や人口密度で 94.1%、畑のとれ高の
問題で 88.2%の児童が単位量当たりを正しく
求め、正答していることから単位量当たりの大
きさの学習内容を十分理解できたと考える。
③単位量当たりのよさに気付くことができた。
事後調査で「単位量当たりの大きさのよさを
知ることができた。」と答えた児童は 100%であ
った。
「単位量はとても便利だと思った。」
「1当
たりで比べるとわかりやすいことがわかった。」
「単位量当たりの大きさは生活の役に立つこと、
いかせることがわかった。」など、よさについて
の感想が多くあった。これは指導計画を工夫し、
単元全体にわたる問題を設定し、必要性を感じ
て単位量当たりを求めたことにより、単位量当
たりのよさに気付くことができたと考える。
④既習事項の定着が十分でない児童も単元を
通して意欲的に学習することができた。
「もっと勉強したいと思った。」「勉強してと
てもよかった。」「混み具合は見た目ではわから
ないけど、ちゃんと計算したらわかったのでお
もしろかった。」「初めは難しかったけど、よく
わかっておもしろかった。」などの感想やノート
から、児童が意欲的に学習できたことがわかっ
た。誰もができる活動から導入し、段階的に問
題を解き、
「できた」という達成感を感じながら、
内容を理解していくことで多くの児童が意欲的
に学習できたと考える。
(2)課題
①スモールステップで学習していく中で、表や
チェックシートの活用は有効であったが、そ
れらを十分理解せずに操作的に活用する児童
もいた。除法の式と商の意味について系統的
に指導するとともに、数直線など多様な方法
で解決できるように指導する必要がある。
②児童にとってイメージすることが難しいこの単
元においては、体感させることや視覚的にとら
えさせることを導入として取り入れることで
さらに理解を深められることが考えられる。
③他の単元においても既習事項をいかしたスモー
ルステップでの指導を考えていく必要がある。
5
おわりに
今回の実践は、私自身が指導している中で、
この指導で児童が確かな学力を身に付けること
ができているのかという不安や疑問から生まれ
たものであった。本実践を通して、大きな目標
に向かって、段階的に丁寧に指導していき、児
童が「できた」という達成感を感じながら、学
習を進めていくことの大切さを改めて感じるこ
とができた。
本実践での指導の方法を他の単元でも実践し
ていくとともに、児童が「もっと勉強したい。」
「勉強してよかった。」と思えるような指導の方
法をさらに探っていきたいと思う。
これからも子どもたちに「確かな学力」をは
ぐくむために、私自身も学び続けていきたい。
【参考文献】
・島田和昭(2011)『問題解決にもとづく算数指
導』東洋館出版社
・文部科学省(2008)『小学校学習指導要領解説算
数編』東洋館出版社
【実践記録】
学校の実態に合わせた運動時間増加への取組
-体つくり運動や休み時間の活動を通して-
船橋市立葛飾小学校
1 はじめに
(1)文部科学省の調査結果から
文部科学省 が出した平 成26年度 全国体
力・運動能力・運動習慣等調査の全国の小学
5年生を対象に調査した「1週間の総運動時
間と体力合計点との関連」
(総運動時間は正課
時体育を除く)によると、1週間の総運動時
間が420分未満の児童と420分以上の児
童では、男女共に体力テストの合計点に約6
点差が出ている。(図1参照)
教諭
加瀬谷
雄生
画を立てたいと考えた。特に1日の運動時間
が60分未満の児童に焦点を当てていきたい。
(2)本校の運動現状と児童の実態
本校は全校1,400人余りの大規模校で
ある。1日で運動ができる時間は正課時体育
を除いて朝運動の7:45~8:00の15
分と2回の休み時間のうち、片方1回(20
分間)である。放課後は校庭を使用できない
ため、他の学校と比べると、運動できる時間
は極端に少ない。また、人数の関係上ボール
を蹴ることは安全面から禁止されているなど、
遊びの幅が狭くなっている。
また、正課時体育では他クラスと合同で実
施する上、週に1回しか室内体育が行えない。
その為運動場所や用具の数に制限がかかり、
偏りのある運動内容になってしまったり、連
続性のない体育になってしまったりする。そ
うしたところから技能面を向上させることが
できず、苦手意識を持ち、運動量の減少につ
ながってしまうと考えた。
今回は4年生276人を対象にアンケート
(図2~6参照)を行い実態調査をした。そ
して学校の現状を踏まえながら、運動量増加
につながる取組を考えた。
<アンケート内容>
〔図1〕1週間の総運動時間と体力合計点
との関連(文部科学省 2014)
また、420分未満の児童は、1日にする
と運動時間が60分にも満たないことになる。
60分以上
私が小学校の時のことを考えてみると、学校
では朝運動・業間・昼休み、また放課後の時
19%
間やその後のクラブ活動まで運動を行ってお
30分~60分
32%
未満
り、1日だけでも運動時間は60分を簡単に
越えてしまっていた。そう考えると1日に運
0分~30分未
動時間が60分未満の児童がいる現状は憂慮
満
49%
すべき事態であり、体力向上にはつながらな
いことが懸念される。
運動量の増加に比例して体力が向上するこ
とに繋がるならば、児童には是非とも運動量
〔図2〕1日の運動時間(体育の時間は除く)
の増加を図りたい。そこで学校において運動
量を増加させるにはどんな取組をすればいい
か、学校の現状と児童の実態において実践計
100%
80%
60%
40%
20%
0%
運動が好き
運動が嫌い
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
毎日
2日~4日
1日もしくは
遊ばない
〔図3〕運動への関心
〇休み時間に校庭で遊んでいますか。(図6)
5%
12%
49%
34%
運動が得意
走るのが好き
おもしろい
みんなで出来るから
〔図4〕運動が好きな理由
2%
20%
43%
35%
60分以上運動しているほとんどの児童は
運動が好きであり、理由は「運動が得意だか
ら」や「走るのが好き」が多かった。また、
休み時間も毎日校庭で遊んでいる傾向が見ら
れる。
しかし、60分未満の児童には、運動嫌い
な傾向にあり、理由は「走ることが嫌い」が
圧倒的に多く、次に「苦手なものが多いから」
になった。そして業間休みに毎日遊ぶ割合も
少なく、
「本を読んでいた方が面白い」や「同
じ遊びしかできないのでつまらなくなる」が
理由として多く挙がった。
このことから、運動量が少ない子はやはり
運動自体が好きでないことがわかる。その中
でも特に走ることに抵抗があるため、嫌いに
なってしまったと考える。また休み時間も外
遊びは少なく、遊びの楽しさに気づけないよ
うである。
2
走るのが嫌い
苦手なものが多い
つまらない
その他
実践の目的
休み時間における遊びを工夫したり、走る
ことへの意識を変えたりすることによって、
運動が好きになり、主体的に活動するように
させる。そして普段の運動時間増加につなげ
ていく。
〔図5〕運動が嫌いな理由
3
実践の方法
実際に学校でできる朝運動や、業間休み・
昼休みを有効に活用し、教師から児童が興味
を持てるような運動を紹介したり、児童自身
で、楽しい遊びを考えられる場を設けたりす
る。また、正課時体育内の体つくり運動を通
して、走ることへの意識を変えて、主体的に
運動できるようにする。今回は自分のクラス
で実践して、変容があるか確かめる。
4 実践の内容
(1)休み時間における遊びの工夫
まず朝のスピーチテーマの中の1つに「み
んなに紹介したいオススメの遊び」というテ
ーマを盛り込んだ。すると何人かの児童が、
知っている遊びを紹介すると「おもしろそう」
「やってみたい」という声が上がったところ
から、
「じゃあ、クラスみんなで楽しい遊びを
考えてみよう」と投げかけた。
① 遊びを考える
児童には、
(図7参照)の用紙を配付し、新
たな遊びを考えさせた。また、考えるのが難
しそうな児童には、既に知っている遊びを少
し変化させながら、考えるように声をかけた。
しかし、休み時間にクラス全体で行うことを
目的としているので、考える際の注意として
「わかりやすいルールにする」
「 動いている時
間が多くなるようにする」の2つを提示した。
〔図7〕遊びを考えるためのワークシート
②発表
4人グループを作り、それぞれが考えた遊
びを発表させた。その時に、先ほどの3観点
の項目を乗せた評価カードを作り、お互いの
考えを聞いて、実際にできそうで、面白そう
な遊びを1つ決めた。
その後グループ毎に決めた遊びを全体で発
表し、さらにより良い遊びにするためにはど
うすればいいか、意見を出し合い、遊びを決
めた。(図8,9)行う日は週に2回と決まっ
た。
〔図8〕発表風景
〔図9〕自主的に考えた活動内容
③活動
朝の時間にその日に行う遊びを簡単に確認
してから遊びに入ったが、ルールが把握しき
れていないことで、中断してしまったり、ト
ラブルが起きたりしてしまったので、その都
度話し合いの時間を設け、より良い遊びにな
るようにした。すると次第にトラブルも減り、
スムーズに遊べるようになった。
また、最初は2日間だけだったのが、途中
から子どもたち自身から、
「今日はみんなで遊
ぶ日ではないけれど、この遊びをしませんか」
と朝の時間や給食時間にクラス全体に声をか
ける姿が多くなった。その他にも、休み時間
や家庭で新たな遊びを考え、紹介し合う姿が
見られるようになってきた。
(2)朝運動における取組
朝の7時45分~8時の間は朝運動として
全学年が校庭に出て運動することができる。
だが、登校時間に個人差があり、全員が参加
することは難しく、業間休みのような活動で
はできない。また、朝の早い時間となり、運
動に抵抗を示す児童も多いので、
「 人数が何人
でもできる運動」はもちろんだが、その中で
も「児童があまり経験したことがないもの」
「結果が数字として表すことができるもの」
を前日の帰りの会で紹介し興味・関心を持た
せ、朝運動への参加率を高めた。
(3)正課時体育内での取組
葛飾小では最初に述べたように、児童数が
多く、そこで正課時体育では主運動前の体つ
くり運動を工夫し、全員が楽しく取り組めて、
意欲を向上させることを第一目的にした。そ
うすることで主体的に運動に取り組み、運動
量増加につながると考えた。また今回は児童
が運動嫌いになる原因の1つである「走る」
ことへの興味を持たせるようにした。また、
ネーミングもユニークなものにし、親しみや
すいようにした。
(1)サーキットトレーニング
このコースを作り、5分間の間何周できるか
取り組んだ。また、さらに意欲を高めるため
にカードを作り、1周ごとに色を塗るように
した。
(2)マーカー集め競争
ゴムボール
スタート位置
マーカー
ミニハードル
①ボールはさみ腿上げ
・ボールを足ではさみ、マーカーにぶつから
ないように移動させる。
②マーカータッチ
・4色の色のマーカーをそれぞれタッチする
(2回繰り返す)
③ハードルジャンプ(横)
・ミニハードルの上を両足踏切で10回ジャ
ンプ
④ハードルダッシュ
・ハードルをぶつからないように越えていく
クラスを4チームに分け、リレー形式でた
くさんマーカーを集めたチームの勝ち
他にもマーカーに点数を決めて、合計得点
の多いチームが勝ちとした。
(3)マーカー片付け競争
マーカー集め競争が終わった後に、4色の
マーカーを置き、集めたマーカーを同じ色
の所に重ねてくる。リレー形式で、先にな
くなったチームの勝ち。
・ボール挟み腿上げ
・マーカータッチ
(4)タッチ&ゴー
赤
黄
青
・ハードルジャンプ
〔図11〕授業風景
・ハードルダッシュ
白
中心に色違いの7つのマーカーを置く。4
直線上にマーカーを置く。
白→青→白→黄→白→赤→白の順に触ったら、 つのそれぞれのマーカーからスタートし、中
心にあるマーカーを自分のスタート地点に3
リレー形式で次の人がスタート
つ持ってきた人の勝ち。ただし、
「1度に持て
(5)ネコとネズミ
るマーカーは1つ」
「 相手のスタート地点にあ
るマーカーも持ってこられる」
「投げない」の
3つのきまりがある。
(8)マーカー色オニ
鬼
ネコ
ネズミ
「ネコ」と「ネズミ」に分かれる。指導者が
「ネネ・・、ネコ!(ネズミ!)」と言い、言
われた方が追いかけ、言われない方が逃げる。
後ろにあるラインまで捕まえる(逃げ切る)
ことができれば勝ち。
(6)春夏秋冬ゲーム
青
ライン
黄
マーカーを散らばさせる。鬼を決め、鬼が
色を言った瞬間にゲームスタート。
鬼より先に色のマーカーにタッチしたらセー
フ。タッチされたら鬼になる。
1~3の実践を3ヶ月行い1ヶ月毎にアン
ケートを取り、運動意識や、運動時間の変容
を見た。
5
オニ
実践の結果と考察
100%
90%
白
赤
80%
70%
60%
マーカーで4色の囲いを作る。鬼を2,3
人決める。鬼は囲いの中には入れない。指導
者が色を言い、その囲いに移動する。タッチ
された、もしくは時間切れは鬼になる。
(7)マーカーくださいな!!
50%
40%
30%
20%
10%
0%
9月
10月
60分以上
30分以上60分未満
0分~30分未満
〔図12〕運動時間の推移
周りと色の違うマーカ ー
同色のマーカーを4つ置き四角形作る。
11月
100%
90%
80%
70%
60%
50%
40%
30%
20%
10%
0%
9月
好き
10月
普通
11月
嫌い
〔図13〕走ることの意識
3ヶ月に及ぶ実践から、少しずつではある
が、運動への意識を変えることや運動時間を
増加させることができた。
今回は主体的に運動するために、児童自身
で朝の時間や休み時間の活用の仕方を考えた
が、遊びを考えることはとても面白いらしく、
授業時間以外でも考えて紹介する姿が多く見
られた。そのような取組により、朝の時間や
休み時間で体を動かす時間が増えた。また、
走ることが好きな児童も増加傾向にあること
から、工夫した動きを取り入れることによっ
て、楽しく意欲的に活動できたからだと考え
る。
また、正課時体育内では主にミニマーカー
を使用した。他の用具と比べて、運びやすく
準備に時間がかからないという利点があった。
(1)実践の成果
実践期間中に児童から「おもしろい」や「楽
しい」との声が多く聞かれた。そして何より
笑顔で活動していたことが良かった。本校で
は11月に体力強化月間として、学校全体で
朝学習の時間にマラソンに取り組むが、実際
にその時間になると「やりたくない」との声
があがるのが現状である。やはり小学校段階
では目的意識を持って走ることは難しく、単
調な動きでは飽きてしまう。色々な動きを取
り入れることで効果的に運動時間増加に結び
付けることができた。
(2)実践の課題
今回は4年生を対象に行い、運動増加に結
び付けることができた。しかし他学年でも同
じ実践で運動増加が見込めるのかは試すこと
ができなかった。クラスなら接する時間も多
いため、いろいろな取り組みができるが、学
校全体で取り組むとなると、さらに工夫が必
要になると考える。特に本校のような大規模
校だとさらに難しいはずである。また、今回
は運動時間が体力に向上につながることを実
際に自分の目で確かめることはできなかった。
次は学校全体で運動増加につながる取組を長
い期間をかけて実践し、実践前と実践後で体
力に変化があるかというところまで確かめて
いきたい。
6 終わりに
今回の実践を通して、まずは児童が楽しく
取り組んでいたことは大変良かったと感じる。
だが、同時に走ることに対して二極化してい
ることにも驚いた。
現代の子どもたちは放課後に習い事などで、
運動時間を確保することが難しくなっている。
したがって、学校生活の中では運動できる時
間を可能な限り確保しなければいけないと考
える。しかしその中で、運動離れを引き起こ
してしまうと、運動を全くしない児童が増え
てしまい、生涯にわたって運動習慣が身に付
いていない状態が続いてしまうことにもなり
かねない。それらを防ぐためにも、教師が工
夫を施した場を設けて、運動が好きになる児
童を育てていかなければいけないと感じた。
特に運動時間が多く確保できる小学校段階が
大切であると思う。
[参考文献]
文部科学省
「平成 26 年度全国体力・運動能力、運動習
慣等調査結果」
【実践記録】
主体的に文学的な文章を読むことの学習指導
―単元を貫く言語活動を位置づけた実践―
船橋市立葛飾小学校
1
はじめに
新学習指導要領において,各教科一層の言語
活動の充実が求められている。とりわけ国語科
は,他教科の基盤となる言語能力を養うという
重要な役割を担っている。国語の学習活動はす
べてが言語活動であることから,単元で身に付
けさせたい力を明確にし,
「単元を貫いて」言語
活動を位置付ける必要がある。文部科学省教科
調査官の水戸部修治氏は,以下のように述べる。
国語科でいう言語活動は,「音読する」「話
し合う」といったばらばらの言語活動を指し
てはいません。言語活動を行う過程が,児童
生徒の課題解決の過程になるようにするこ
とが重要です。従来の「知識・技能を教え込
む授業」「段落ごとに詳細な読解を求める授
業」ではなく,児童生徒が複数の言語活動で
身に付けた言語能力を統合し,言語を自分で
活用できる「総合的な言語活用能力」を培う
「言語活動を重視した授業」が求められます。
そこで,それぞれの言語活動を包括した言語
活動をゴールに据えた「単元を貫く言語活動」
という視点が必要となります。授業に「単元
を貫く言語活動」という視点が入ると,授業
に「児童生徒が主体的に活動する」「学習の
見通しが共有できる」「相手意識・目的意識
が明確になる」などの効果があります。(水
戸部修治『特集「単元を貫く言語活動」授業
づくり徹底解説&実践事例24』2013,P10)
このように,単元の中に一貫して言語活動を
設定すれば,児童は目的をもって主体的に読む
ことができるようになり,実生活で生きて働く
言語の力が身に付いていくだろう。
しかし,どのように単元の言語活動を設定し,
取り組んでいけば良いのだろうか。特に国語科
における「読むこと」は,ゴールの明確な「書
くこと」や「話すこと」に比べると,児童が学
習課題を解決する過程となるような一貫した言
語活動が設定しにくい。先行研究や実践事例は
あるものの,いざ教室で取り組むとなると「ど
のような言語活動を設定すればよいか」
「 付けた
教諭
石田
朋子
い力に最適な言語活動がこれで合っているか」
等多くの疑問が浮かび,なかなか単元構想をイ
メージできないのが,私の正直な思いである。
そこで,以上のような課題意識を元に,「読
むこと」の授業において,言語活動をどのよう
に位置づけて単元を構想していけばよいか考え
ていきたい。中でも,
「文学的な文章」を読む単
元について焦点を当てて実践を行い,記録とし
てまとめていく。実践を行う中で,児童が主体
的に文章について考え,思いをもち,それを表
現できる力を育んでいきたい。
2
実践の方法
教育出版の教科書教材である3年生『おにた
のぼうし』,5年生『大造じいさんとがん』,6
年生『きつねの窓』で単元構想を考え,実践す
る。
水戸部氏の挙げる,国語科における言語活動
具体化のポイント(以下4点)を意識して授業
を行い,児童の変容を探りたい。また,単元を
貫く言語活動を位置づけたモデル(図1)の考
えを参考にし,第一次で学習課題の見通しをし
っかりと持たせ,第二次の教材文を読む活動と
第三次の表現する活動を連動させながら授業を
行いたい。
(1)本単元で付けたい力を見極める。
(2)付けたい力を付けるための最適な言語
活動を選定する。
(3)言語活動を,単元を貫いて位置づける。
(4)児童の「大好き!」「知りたい!」「伝
えたい!」を重視する。
(図1)単元を貫く言語活動を位置づけたモデル
3 実践の具体的内容と結果
(1)3年生での実践
①単元名
「おにた日記を書き,絵日記交流会をしよう」
②教材名『おにたのぼうし』
③付けたい力
・場面の移り変わりに注意しながら,出来事,
登場人物の気持ちの変化などについて叙述
を基に想像して読む。(読むこと)
・文章を読んで考えたことを発表し合い,一人
一人の感じ方について違いのあることに気
付く。(読むこと)
④単元を貫く言語活動
『おにたのぼうし』を読んで,物語の中心人
物であるおにたになりきって日記を書き溜
めていき,学級の友だちと交流する。
◆指導過程(全9時間)
時 学習活動
第 1 ○単元のめあてを知り,学習計画を
一
立てる。
次
・教師のモデルを見る。
・日記の要素を確認する。
・絵日記交流会のための学習の見通
しを持ち,学習計画を立てる。
第 2 ○物語のあらすじを読み取る。
○場面や中心人物の気持ちの変化
二
をもとにして,日記を書くための
次
場面わけを行う。
(一)まことくんの家から出ていく
おにた
(二)女の子の家の中に入るおにた
(三)病気の母親と心配をかけまい
とする女の子の様子を見たお
にた
(四)ごちそうを届けるおにた
(五)消えてしまったおにた
(六)しずかな豆まきをする女の子
3
○(一)~(六)の場面を読み取っ
4
5
て話し合い,日記を1ページずつ
6
7
書く。
8
第 9 ○完成した「おにた日記」を班で読
三
み合い,交流する。
次
◆第一次
『おにたのぼうし』は,情景がわかりやすく
登場人物の性格や気持ちも想像しやすい作品で
ある。また,行間の空きにより場面展開もわか
りやすい。中心人物になりきって日記を書き進
めることで,場面の移り変わりや,登場人物の
気持ちの変化に着目して読む力をつけられるだ
ろうと考えた。
学習のはじめに,教師が作った既習教材『モ
チモチの木』の「豆太日記」を用意して紹介し
た。同じように「おにた日記」を書き,友だち
と絵日記交流会をするという学習のめあてをも
たせた。 その際,日記には「日付,場所,出来
事,登場人物の気持ち,その気持ちになった理
由,場面の絵」を入れて書くことを確認した。
この学級の児童たちは,4月から継続して週
に一度日記を書いていたこともあり,モデルを
見た段階で「書きたい」という声が多く挙がっ
た。
◆第二次
絵日記交流会に向けて,『おにたのぼうし』
を読み,毎時間の学習を「おにた日記」にまと
める活動を行った。 一時間の授業の中で,前半
は学級全体でその場面の「日付」「場所」「出来
事」「気持ち」を読み取り,話し合った。
そして後半で読み取ったことを元に,自分の
日記に気持ちや考えをまとめる活動を行った。
毎時間のまとめとして,日記の 1 ページにぴっ
たりの題名を考え,一言で書き表すようにさせ
た。
書き終えた児童から席を立ち,終わった友だ
ち同士で自由に日記を見合う時間も設けた。そ
の際,個々の物語の解釈に違いがあることも認
め,自分の読みを大切にしていけるようにした。
図2
児童の日記
◆第三次
完成した「おにた日記」を班ごとに4~5人
の友だちと読み合う絵日記交流会を行った。最
後の1ページに付箋を貼らせて,感想を伝え合
わせた。自分と同じ考えはピンクの付箋,自分
とは異なる考えは青の付箋,上手に本文を引用
できていることや,気持ちがよく伝わることに
は黄色の付箋と色分けした。
〈児童の感想〉
・一冊の日記を書いて,その時その時のおにた
の気持ちがよくわかった。
・友だちに「絵の部分が上手だね」とほめても
らって,もっと日記を書きたいと思った。
・自分と同じ考えのピンクの付箋がたくさんつ
いていて,自分と同じ考えの人が多くて嬉し
くなった。
◆授業後の考察
主人公になりきって日記を書く活動を設定
したことで,どの児童も,その人物の気持ちに
自然に寄り添うことができた。子どもたちの発
達段階からも,人物になりきって書くという方
法に,楽しみながら意欲的に取り組むことがで
きた。また,1ページずつ日記が増えていくこ
とも達成感があったようで,意欲を保って物語
を読み取っていた。そして,最後に自分の書い
た日記を交流することで,感想や考えを伝え合
うことができ,同じ物語を読んでも,感じ方や
解釈が違うことに気付かせることができた。
6
7
8
・一の場面(うなぎつりばり作戦)
を読み,記事を書く。
・二の場面(タニシばらまき作戦)
を読み,記事を書く。
・3の場面(おとり作戦)を読み,
トップ記事を書く。
・4の場面を読み,「正々堂々と戦
う」とはどういうことかについて
考え,大造じいさんへのインタビ
ュー記事としてまとめる。
・残りの記事にどんなことが書け
るか話し合い,自分で工夫した
記事を書く。
○4の場面を読み,「正々堂々と戦
う」とはどういうことかについて
考え,それに対する自分の考えを
話し合う。
○完成した新聞を読み合う。
(2)5年生での実践
①単元名
「新聞記者になって,物語の重大ニュースを
スクープしよう」
②教材名『大造じいさんとがん』
③付けたい力
・登場人物の相互関係や心情,場面についての
描写をとらえ,自分の考えをまとめる。(読
むこと)
④単元を貫く言語活動
『大造じいさんとがん』を読んで,記者とい
う第三者の視点から出来事をとらえ,新聞記
事に書き換える。
第 9
三
次
◆第一次
『大造じいさんとがん』を読み,読み取った
出来事や中心人物の気持ち,中心人物に対する
自分の考え等を新聞にまとめる言語活動を設定
した。物語の中では,一年の経過が一場面に描
かれているため,出来事を捉えて新聞を書きや
すいと考えた。また,読み取った物語の「山場」
が,新聞の「トップ記事」と重なると考え,新
聞を選んだ。
学習のはじめに,教師の作成した新聞(サッ
カーワールドカップの日本戦3試合を1枚にし
たもの)を児童に提示し,学習のゴールのイメ
ージをもたせた。記事は5つと決め,新聞の割
り付けをさせた。その後全文を読み登場人物や
あらすじを簡単に読み取った上で,どの場面が
トップ記事になりそうかをクラスで話し合い,
3の場面と決めた。その際,新聞を書くために
は,場面の様子や人物関係,登場人物の心情を
正確に読みとることが必要であると確認した。
◆指導過程(全9時間)
時
学習活動
第 1 ○「大造じいさんとがん」を読ん
一
で新聞を書くという学習のゴー
次 2
ルを知り,学習計画を立てる。
・物語の登場人物,場面構成を確
認する。
・新聞の割り付けをする。
第 3 ○叙述に基づいて中心人物の相互
二 4
関係や心情を読み取り,場面の
次 5
出来事を新聞記事にまとめる。
◆第二次
物語を場面ごとに,(1)作戦の内容(2)
がんの行動(3)大造じいさんの気持ち,とい
う観点で読み取った。そこで読み取ったことを
交流し合い,黒板に残しておき,記事を書くこ
とに抵抗がある児童にも無理なく活動ができる
よう配慮した。授業の後半は,読み取りを生か
して一人一人新聞記事を書いていった。その際,
一目で大造じいさんの気持ちやその場面の出来
事がわかるような見出しが良いこと,記事内容
が本文の書き写しにならないよう自分なりの要
約をすること,文章に大造じいさんの気持ちを
入れることを伝えた。
トップ記事である三の場面では,読み取りを
した後に大造じいさんの視点からの見出しと,
残雪の視点からの見出しの2種類を考えさせた。
見出しの交流もすることで,より深く読み取る
ことができた。
図3
児童の新聞
図4
児童の新聞
インタビュー記事
〈三の場面(トップ記事)の見出し一例〉
○大造じいさんの視点から
・仲間を思う心に 思わず銃を下ろす
・大造じいさん 仲間を助ける姿に…
○残雪の視点から
・頭領としての仲間への思い
・さすが残雪 最後まで堂々たる態度
◆第三次
完成した新聞を読み合い,登場人物の気持ち
や出来事がよく表れている見出しや,わかりや
すく書けている記事を選んで,紹介し合った。
〈児童の感想〉
・新聞が少しずつ埋まって完成していくのが,
達成感があって楽しくできた。
・見出しの付け方がみんな違って,気持ちがよ
くわかる言葉を選んでいる人が多かった。
◆授業後の考察
学習のはじめにゴールを示したこと,始めに
割り付けとトップ記事を決めたことで,これか
ら物語を何のために読み取るのか,明確な目的
をもつことができた。そして,記事を書くため
に,場面の出来事や主人公の気持ちを意欲的に
読み取る姿が見られた。一方で,新聞は事実を
伝えるため,読み取った「気持ち」を記事に反
映させるのが難しかった。気持ちが反映される
のは見出しの言葉であるため,そこに重点を置
いて交流をさせたら良かった。
(3)6年生での実践
①単元名
『「ぼく」の回想録を作って,友だちと交流
しよう』
②教材名『きつねの窓』
③付けたい力
・優れた叙述に着目しながら読み,想像したこ
とや考えたことをまとめる。(読むこと)
・回想録に書いた考えを発表し合い,自分の考
えを広げたり,深めたりする。(読むこと)
④単元を貫く言語活動
『きつねの窓』を読んで考えたことを回想録
としてまとめ,小グループで交流会をする。
◆指導過程(全7時間)
時
学習活動
第 1 〇ファンタジーの特性を確認する。
一
○単元のめあてを知り,学習計画を
次
立てる。
・教師のモデルを見る。
・交流会に向け学習計画を立てる。
第 2 ○『きつねの窓』の登場人物を確か
め,あらすじをとらえる。
二
〇物語の「入口・出口」を読み,
次
構成をとらえる。
○不思議な世界を体験した「ぼく」
の心情や,その変化について話し
3
合い,回想録にまとめる。
4
5 ・母ぎつねを見た時
・少女を見た時
・昔の家を見た時
6 ○窓に映ったもののそれぞれのも
つ意味を話し合い,「ぼく」の今
現在について考え,回想録にまと
める。
第 7 ○完成した回想録をもとに,小グル
三
ープで交流する。
次
○交流を終えた感想をノートに書
いて,まとめをする。
◆ 第一次
本単元で は『きつね の 窓』を読 ん で,「ぼく 」
になりき っ て一つ一 つ の出来事 を 振り返り ,
『「ぼく 」 は今~回 想 録~』と し てまとめ , 交
流し合う と いう言語 活 動を設定 し た。ここ で い
う「回想 録 」とは, 過 去の出来 事 について 「 ぼ
く」にな り きって振 り 返り,記 述 したもの と す
る。非現 実 の世界を 体 験した後 の 「ぼく」 が ,
それまで の「ぼく」と 何 が変わっ た のかとい う ,
この物語 の 面白さを 読 み取って い く手立て と し
たい。こ の 物語の面 白 さは,非 現 実の世界 の 出
来事を通 し て「ぼく 」 の心情が 変 化し,考 え 方
や生き方 が 変わって い くところ で ある。ま た ,
物語は一 貫 して回想 の かたちで 描 かれてい る 。
そうした 物 語の特徴 か ら,回想 録 という形 を 言
語活動に 選 んだ。
今回も,はじめに教師のモデル(大造じい
さんは今)を提示し,回想録のイメージをも
たせ,学習の計画を立てた。
そして,6時間目に今現在の主人公がどうな
っているのか,イメージマップを広げて考えさ
せた。自分の考えの根拠を叙述から挙げさせ,
物語からかけ離れた想像にならないよう配慮し
た。それをもとに,今の主人公について想像し
たことをまとめさせた。
図6
叙述を根拠に広げた
イメージマップ
◆第二次
不思議な世界を体験した主人公が,その後ど
のように変わっていったのか,その場面ごとの
主人公の気持ちを詳しく読み取り,回想録を書
いていった。窓に映った一つ一つの挿絵を回想
録に貼らせて,それぞれの意味を話し合わせた。
3~5時間目までは,授業の前半にその時の主
人公の気持ち,主人公が今になってその出来事
を回想した気持ちをそれぞれ話し合い,後半に
回想録にまとめていった。
図7
図5
児童の回想録
児童の回想録
◆第三次
読み取ってまとめた回想録をもとに,想像し
た主人公の今について交流し合った。書かれて
いる内容や表現を想像力豊かに読んで自分の考
えをまとめる力に加え,友だちの考えを聞いて
自分の考えを広げたり深めたりする力を付ける
ことをねらった。物語の世界や叙述に基づいて
考えることを伝えていたので,児童は,なぜそ
のように考えたのか,教科書を使ってきちんと
友だちに説明できていた。
②児童の変化
児童はめあてに向かって教材を読んでいく
図8
過程の中で,登場人物の心情の変化や情景の想
交流の様子
像を広げ,読み取ることができていた。また,
目的をもって学習したことで,児童は主体的に
読み,考えを率直に表現する楽しさを感じ,作
〈児童の感想〉
品ができあがった達成感を感じていた。
「 早く続
・物語にはいろいろな考える視点があるとわか
きがやりたい」
「Aさんの考え,すごく面白かっ
り,みんなの考えを聞くのが楽しかった。
た」という声が,授業が終わっても自然に聞こ
・物語の言葉一つ一つに意味があることが分か
えてきたことが成果であると感じている。
ったので,次回からファンタジーを読む時は,
単元を貫いて言語活動を設定したことが,叙
言葉を大切にして読んでいきたい。
述を基に想像して主体的に読むことの手だてと
して有効であったといえる。
◆授業後の考察
回想の形で描かれている物語の特徴を生かし
(2)実践の課題
て,言語活動が設定できたと感じている。単元
第三次「学習経験を基に表現する活動」につ
のゴールに向かって大きな枠組で読むことの意
いては,今回は学んだことを活用するところま
義が実感できた実践であった。物語には書かれ
ではいかず,自分の作品を交流し,考えを深め
ていない主人公の今を考えることで,ファンタ
ることにとどまった。第二次で学んだことを生
ジーの解釈の広さ,面白さを児童も実感できた
かす時間を単元に取り入れることができなかっ
だろう。その際,想像が物語からかけ離れたも
たので,今後もさらに実践を続けていきたい。
のにならないように,
「叙述を元にする」ことを
意識させて読むことが,目標を達成する上でも
5 おわりに
重要であると感じた。
実践に取り組む中で,教師が常に教材に向き
合い,研究する姿勢をもつことが大切であると
4 実践のまとめ
いうことを実感した。児童に付けたい力に加え
(1)実践の成果
て,教師側がその物語の面白さや特徴をよく教
②単元を貫く言語活動の単元構想
材研究し,その物語の特徴が生かせる言語活動
を選ぶと良い。それが,子どもたちに必要な学
第一次「学習課題の設定」では,教師のモデ
習を導き出し,効果的な学習へつながっていく
ルを見せることが大切であった。まずは「やっ
のではないだろうか。今後も,自分が感じる国
てみたい」
「伝えたい」という意欲をもたせるこ
語の学習の面白さを大切にし,研究を続けてい
とが,目的をもって学習に取り組む主体的な学
きたい。
習活動につながると考えられる。
第二次「教材文を読む活動」については,言
【参考文献】
語活動のゴールを毎時間意識させることで,意
1)文部科学省(2011)『言語活動の充実に関す
欲や主体的に学ぶ姿勢が持続した。
る指導事例集~思考力,判断力,表現力等
また,日記,新聞,回想録ともに,初めは自
の育成に向けて~小学校版』
分が書いたことの理由を聞かれると「何となく」
2)水戸部修治(2013)
『特集「単元を貫く言語
「理由を聞かれると難しい」と説明がつけられ
活動」授業づくり徹底解説&実践事例24』
ない児童がいた。毎時間取り組む度に,「『悲し
い』と思ったのはどのような表現からか」など
のように,叙述に着目させ心情や場面の様子を
想像させるように声をかけた。さらに,似た内
容を書いている児童同士で話し合い,友だちの
考えを聞かせることで,自分とは違う叙述から
も心情を考えることができるのだと気付き,本
文の文章表現一つ一つを意識するようになった。
言語活動を行うために文章の表現を何度も読む,
という姿勢をとることが,文章に親しむことに
つながるとわかった。
【実践記録】
小学校外国語活動において「意味のある」活動を目指して
~タスクを取り入れた活動の試み~
船橋市立小栗原小学校
1
はじめに
平成 23 年度の小学校学習指導要領の全面
実施により、小学校第 5 学年及び第 6 学年に
外国語活動が新設され、すべての小学校で外
国語活動が実施されることになった。
船橋市は、平成18年度に英語特区となり、
それ以来、市独自のカリキュラムに沿って、
1年生から 4 年生までは週に 1 回 20 分の、
5・6年生には週1回 45 分の英語科の授業
が行われている。また、年間を通して全小学
校に毎週 ALT(AssistantLanguageTeacher)
と、隔週で JC(JapaneseCoordinator)が派
遣されている。実際、JC が市のカリキュラム
に沿ってレッスンプランを作成し、ALT が指
導の中心となっている場合がほとんどである。
市のカリキュラムでも、実際の授業でもゲ
ーム的なアクティビティが中心である。その
ような活動は、盛り上がり、児童もとても楽
しいと感じている。もちろん、何のためのア
クティビティか目的に合致していれば、効果
的な活動である。しかし、高学年においては、
児童の知的好奇心を満たすような、また、主
体的な活動が望まれるようになる。学習指導
要領(2010)でも、以下のように示されてい
る。
外国語活動では、単に児童が喜ぶような楽し
い活動を行えばよいというものではない。児
童が使える外国語を駆使し、さまざまな相手
と互いの思いを伝え合い、コミュニケーショ
ンを図ることの楽しさを実際に体験するこ
とが大切である。
そこで、高学年の児童にもっと、
「意味のあ
る」活動をさせたいと考えた。「意味のある」
活動とは、
「 児童が目的を持って主体的に英語
を使う活動、また、既習の知識や経験を活か
した創造性のある」活動と位置づけた。タス
クを取り入れた活動は、特定の目標に向かっ
て行う課題解決的な言語活動であり、目標が
教諭
熊木
千佳子
あることや、コミュニケーションを図る場を
設けることが、
「意味のある」活動につながっ
ていくのではないかと考えた。
本記録は、平成 24 年度長期研修の内容を
土台に、その後の実践をまとめたものである。
2
実践の方法
タスクを取り入れた活動を、市のカリキュ
ラムの中の発展的な活動として設定した。
「タスク」とは、元々コンピューター用語
で作業などの意味である。
『 英語教育用語辞典』
(1999)によると、「特定の目的を達成する
ために行う作業や活動。外国語教育において
は、言語習得を目的として行う課題や作業。」
となっている。Willis(2003)は、
「タスクと
いうのは、常に、コミュニケーションを行う
目的を持って英語を使う活動」であると定義
している。髙島(2007)は、日本の小学校で
英語を扱う場合、欧米諸国とは、言語環境が
根本的に異なるため、日本の学習環境に合わ
せたものにする方法を探ればよい、と考えた。
それが「タスクを志向した活動
(Task-Oriented Activity :TOA)」と呼ばれ、
以下のように定義した。プロジェクト型とい
う名前で、多くの学校でも実践されている。
(1)言語を用いて課題解決をする目標がある。
(2)2人以上による情報の授受・交換を行う。
(3)話し手と聞き手に情報(量)の差がある。
(4)指定されたモデル・ダイアローグなどに
従って活動する。
本研究での「タスクを取り入れた活動」と
は、この TOA の(1)~(3)の考え方には、類
似しているが、(4)については異なる。それ
は、船橋市の児童は、1年生から英語科の授
業を経験していること、また、児童の創造性
を活かした活動を目指すことから、指定され
たモデル・ダイアローグに従うのではなく、
児童に表現の自由を与えることにした。そこ
で、Willis and Willis(2007)の「タスク中
心教授法」の条件をいくつか取り上げ、授業
を組み立てる際の拠り所とした。その条件は
以下の通りである。
① 教師は学習者が興味をもつような、なおか
つ実生活に即したタスクを決める。
② 学習者はタスクを達成するために言葉を
たくさん使う(ただし、母語を使うことは
許される)。
③ 学習者は教師のコントロールを受けずに
自由に表現できる。
④ 意味とコミュニケーションに重点をおい
た言語使用を心がける。
この 4 条件を満たす活動を、本実践での「タ
スクを取り入れた活動」とし、実践を試みた。
対象は、第 5 学年児童である。学級担任(本
実践者)が指導の中心(T1)となり、ALT
や JC は T2・3となって授業を行った。
作りをする上で、言語材料はできるだけ限定
しておいた方が場面設定をし易いことから、
上記のように精選した。
オ 単元の実際(全4時間)
◆第1時 スキット作りをすることを知らせ
る。体の具合を表す表現の導入をする。
3、4年生で習った体の部分を表す表現の
復習を導入にした。導入は、知っていること
から始める方がよいのと、体の具合を表す表
現に、体の部分を表す表現が含まれるからで
ある。
担任と ALT によるモデルスキットを見せ、
スキット作りのイメージをつかませた。スキ
ットの台本(資料1)と、次時に配布するワ
ークシートの内容は同じにした。
HRT:Ouch!
ALT:What’s
3 実践の具体的内容
(1)スキット作り
ア 単元名 「体の具合はどうですか?」
イ 時期
平成 26 年 6 月
ウ 単元について
この単元は、市のカリキュラムの unit3で
扱っている内容である。単元のねらいは、体
の具合を表す表現に慣れ親しむことである。
「英語でスキットを作る」というタスクを達
成することで、英語で表現する楽しさも体験
できると考えた。
先に述べた、Willis and Willis(2007)の
考え方に照らし合わせ、次のような手立てを
取った。
① スキット作りという児童の興味や関心を
引くタスクを設定する。
② 小グループでの活動とし、話し合いは日本
語を使い、英語表現は指導者に質問させる。
③ 定型表現を与えるがそれにとらわれず自
由に表現してよい。
④ 自分の言いたい内容を伝えることを優先
させる。
エ 言語材料
I have a
headache/stomachache/toothache.
My・・・hurts.
What’s wrong?
Get well soon.
市のカリキュラムでは、12 個の表現が出て
くるが、発音が難しいこと、また、スキット
H:I
A:Lie
have
wrong?
a
headache.
down、please.
H:Thank
Get
well
soon.
you.
[資料1]モデルスキットの台本
スキット作りをすることを知らせ、作る時
のきまりを説明した。
・グループ(4人程度)で作る。
・1 人 1 フレーズは台詞を言う。
体の具合を表す表現の導入をした。フラッ
シュカードを使い、ALT の発音をよく聞かせ
た。歌「I Feel terrible」も聞かせた。第
1時なので、声に出して言うことよりも、何
度も繰り返し聞かせることに重点を置いた。
最後に、5マスビンゴをした。これも、リ
スニングが中心のアクティビティである。
児童からは、「楽しかった。」という感想が
ほとんどであった。
「 体の具合を表す表現がよ
くわかった。」「新しいことが覚えられてよか
った。」という感想があった。
◆第2時 スキット作りをする。
体の具合を表す表現の練習をした。スキッ
ト作りのために練習するという目的のある練
習である。
スキット作りをする過程で、知りたい語句
がある時の訊き方を知らせた。
How do you say・・・in English?
児童は、実際にこの表現を使ってスキットに
入れたい表現を英語で何というか質問してい
た。
ワークシート(資料2)を配布し、スキッ
ト作りの説明を行った。
・習った表現(言語材料参照)の中から1つ
選び、場面設定をすること。ワークシート
の中の2・5・6の表現は必ず入れる。
・日本語で考えてよい。わからない表現は担
任や ALT に質問する。
・習っていない表現を使ってもよいが、友達
にわかるようにする。ジェスチャーや小道
具は有効である。
どうしたの?
★スキットをグループで作ってみよう。
まずは、台本を作ってみよう。次の表現を使ってみよ
う。
(自分たちで他にアイデアがある場合は使わなくても
いいです。)
どんな場面か
1
Ouch!
しろい。」「英語の授業でこんなことをしたの
は初めてで楽しかった。」という感想があった。
◆第3時 スキットの練習をする。
体の具合を表す表現の練習をした。
グループで練習をする前に、自然なやり取
りになるように、相槌を入れる、ジェスチャ
ーをつける、気持ちを込めて台詞を言うなど
の注意点を説明した。
グループごとにスキットの練習をした。発
音に自信のない児童もいたので、その都度、
何度も聞かせてから言うということを繰り返
した。
児童からは、
「 英語がうまく言えた。」など、
達成感を感じられる感想があがった。第1時
の時に、「英語がわからなくてつまらなかっ
た。」という感想を持っていた K さんが、
「英
語がわかった。」と感想に書いていた。
◆第4時 スキットの発表会をする。
グループごとに、スキットを発表した。ど
のグループも、非常にオリジナリティにあふ
れ、発表する児童も聞いている児童も楽しん
でいた。
2人の男がすれ違いざまにぶつかる。
痛い!
K:Oh!
2
What’s wrong?
3
I have a headache.
どうしたの?
頭が痛いのです。
N:Ouch!
K:Sorry.
1人は行ってしまい、もう1人は倒れて頭を押さ
4
Lie down、 please.
横になってください。
えている。
N:Ouch!
5
Get well soon.
お大事に。
別の通行人が気づく。
R:What’s
6
Thank you.
ありがとう。
N:My
head
R:Let’s
[資料2]ワークシート
この後、グループごとにスキット作りをし
た。児童は色々なアイデアを出し合い、こち
らから提示した定型文通りのスキットをつく
るグループは1つもなかった。海でくらげに
さされた場面を想定したグループは、くらげ
を英語で何と言うかを聞くなどしていた。児
童は、
「言いたい」と思ったら、習っていなく
てもその言葉を使おうとする。ワークシート
には、日本語で書いたり、英語を片仮名で書
いたりしていた。質問された時は、英語で書
き、耳から覚えるよう何度も繰り返しそのフ
レーズを聞かせるようにした。
児童からは、
「 新しい言葉を覚えられておも
wrong?
go
hurts.
to
the
hospital.
病院で。
K:Next
person
please.
けが人が入ってくる。
K:What’s
wrong?
N:My
head
S:Lie
down.
K:Get
well
hurts.
soon.
[資料3]児童が考えた台本
[資料4]資料3のグループの発表
授業後の感想では、97%の児童が、スキッ
ト作りの授業が楽しかったと答えていた(資
料4)。感想では、
「 英語がうまく言えた。」と、
達成感を味わっている児童や、「またやりた
い。」と思っている児童が多く見られた。前時
にも取り上げた K さんは、感想に「最初はあ
んまりわからなかったけど、スキットをやっ
て少しずつ英語がわかってきました。」と書い
ていた。4時間という短い単元の中で、変容
が見られたのは大きな成果であった。
[資料5]授業後の感想
ALT からは、「スキット作りは全員参加型
のアクティビティである。」「児童の発想がと
ても独創的だった」という感想を得た。同じ
く JC も児童の発想の豊かさに驚いていた。
(2)クイズ大会
ア 単元名 「クイズ大会をしよう」
イ 時期
平成 27 年 3 月
ウ 単元について
この単元は、市のカリキュラムにはない単
元であるが、年度の最後のまとめとして、ま
た、発展的な活動を位置づけた。文部科学省
から出されている「Hi、friends!1」の中で
も扱われている内容である。
今までの既習事項を使って、グループでク
イズを考え、それをみんなに出題するという
タスクである。
エ 言語材料
発展的な活動であるため、新しい言語材料
は扱わなかった。既習の言語を使う場という
設定である。ただ、ある程度の定形表現は必
要であると考え、以下の表現は提示した。
What’s this?
Who am I?
I’m~. I have~. I like~.
The answer is~.
That’s right. Close. Sorry.
オ 単元の実際(全4時間)
◆第1時 クイズ大会をすることを知らせる。
担任や ALT がクイズを出し、それに答え
させた。「Hi、friends!1」の P26 にあるク
イズを導入に使った。児童はクイズが好きな
ので、楽しんで答えていた。クイズ大会をす
ることを知らせ、計画や方法を説明した。
・グループ(4人程度)で3問作る。
・一人1フレーズは言う。
・できあがったクイズをみんなに出題する。
今回取り上げる3ヒントクイズを実際に出
題した。What’s this?、That’s right.な
ど出題に使うフレーズの発音を確認した。
◆第2時 グループごとにクイズを作る。
ワークシート(資料5)を配布し、3ヒン
トクイズの作り方を説明した。
・答えは物や人にする。
・答えを先に決めて、その後ヒントを考える。
前回のスキット作りと同様で、日本語で考え
てよいことや、知りたい表現は質問すること
なども説明した。
タスクを取り入れた活動は2回目なので、
スムーズに活動に入っていた。答えに選んだ
ものは、消しゴム、筆箱といった物、ゴリラ
や豚といった動物もあったが、ふなっしーや
マイケル・ジャクソンなど固有名詞を選んだ
グループが多かった。わかりやすいヒントを
考え、英語の表現がわからない時も、進んで
担任や ALT に質問していた。ワークシートに
は、ヒントや答えを片仮名で書き込んでいた。
英語で書き込んでいる児童もいた。担任や
ALT が支援をする際に、英語らしい発音にす
るために、児童が考えた表現を何度も繰り返
し聞かせた。
3ヒントクイズをしよう!
★クイズをグループで3問作ってみよう。
答えは食べ物や動物にするといいよ。
1
What’s this?
これは何でしょう?/
2
Hint No.1
It’s (
3
).
色や大きさなど
Hint No.3
It’s (
5
色や大きさなど
Hint No.2
It’s (
4
).
). そのほかのヒント
The answer is (
答えは
).
です。
[資料6]ワークシート
◆第3時 クイズを出題する。
グループごとにクイズを出題した。前回の
スキット作りとは違い、聞いている児童も参
加できるので、出題する側、答える側の両方
が楽しんでいた。
Who am I?
Hint
No 1 .
I
am
dancer
and
singer.
Hint No2. I am dead.
Hint No3. I can do moonwalk.
The
answer
うになったことは何ですか。」という問いに、
スキット作りと同様に「英語で話せた。」とい
うのもあったが、
「英語っぽく話せた。」
「知ら
ない英語もわかるようになった。」というのも
あった。自ら発音に気をつけて話そうという
意識が生まれていることや、自分でクイズを
考えたり、他のグループのクイズを聞いたり
することで、新しい語彙が増えていることが
わかった。全体を通しての感想では、
「たくさ
んのことを英語で話せるようになった。」「み
んな楽しんでやっていた。」「クイズ大会が1
番楽しかった。」などというものが挙げられた。
楽しみながら、さらに達成感を味わうことが
できる活動であった。
is
Michel
Jakson.
[資料7]児童が考えたクイズ
[資料8]クイズ大会
授業語の感想では、この「クイズ大会をし
よう」の授業が「楽しかった」と87%の児
童が答えていた。
「がんばったこと、できるよ
4 実践のまとめ
(1)成果
①児童は、与えられた言葉ではなく自分の言
いたい言葉を言う、主体的な活動となった。
②児童は、スキットを作る、クイズ大会をす
るという目的を持った活動であった。
③児童は自分達で創りだすことに楽しみを感
じていた。
④児童の発想がとても豊かで創造的な活動で
あった。
⑤スキットやクイズを作り、それを発表する
ことにより、児童は達成感を味わい、英語
を話すことに対する自信へとつながった。
⑥児童が非常に楽しんで活動していた。ゲー
ムのようなアクティビティの楽しさとはま
た違う、児童の知的好奇心を満たすような
楽しさであった。
以上のことから、タスクを取り入れた活動
は、高学年の児童にとって効果的であること
がわかった。
(2)課題
①第1時で、タスクの説明するために、モデ
ルスキットを見せるなど、十分な準備が必
要である。
②グループは4、5人の小グループの方がよ
いのだが、グループ数が増えると、十分な
支援をすることが困難である。
③児童は、言いたいことを英語にしようとす
るので、教師に語彙力が求められる。
④片仮名で書いたものを言ったり、発音練習
が十分でないまま話したりするので、英語
らしい発音にならないことがある。
タスクを取り入れた活動は、担任のみ、ALT
のみで活動するのは不可能と言ってよい。グ
ループ編成は、児童の実態をよく知っている
担任がやるべきであるし、児童の不安を取り
除いたり、励ましたりできるのは担任である。
また、発音や語彙の面では ALT の力が不可欠
である。担任と ALT と連携して授業をするこ
とが理想であろう。
5
おわりに
2020 年より、小学校の英語教育は、3 年生
が週 1 から2コマ、5 年生からは教科として
週 3 コマ程度になる。船橋市は、1年生から
授業が行われているので、3 年生から始める
ことには抵抗はないであろう。しかし、コマ
数が増えることで、指導者は必然的に担任と
なるであろう。私個人の意見としては、英語
は専門性が高いので、授業は英語専科がする
方がよいと思っているのだが、文部科学省で
はそれについては明言していないので、担任
が授業をすることになるであろう。小学校の
担任は、日々、何教科も工夫して授業を行っ
ている。きっと、その経験とアイデアを駆使
して、すばらしい英語の授業を作っていくの
ではないかと思う。私が試みた「意味のある」
活動も、専科ではない一担任として実践した
ものであるので、多くの学級担任に今後、一
つの英語の授業のアイデアとして選択肢の一
つに加えてもらえればと思う。
【参考文献】
・文部科学省(2010)『小学校学習指導要領解
説 外国語活動編』東京:東洋館出版社
・白畑知彦・冨田祐一・村野井仁・若林茂則
(1999)『英語教育用語辞典』東京:大修館
書店
・東野裕子・高島英幸(2007)『小学校におけ
るプロジェクト型英語活動の実践と評価』
東京:高陵社書店
・ Willis 、 J.(1996). A framework for
task-based learning. : Pearson Education
Limited.[青木昭六(監訳)
(2003)
『タスク
が開く新しい英語教育―英語教師のための
実践ハンドブック』東京:開隆堂]
・ Willis 、 D & Willis 、 J.(2007) Doing
task-based teaching. Oxford: Oxford
University Press.
【実践記録】
書く力の向上を目指した実践記録
―短作文の取り組みによる効果ついて―
船橋市立三咲小学校
1 はじめに
書く力は、これからの人生において重要であ
ることは、明らかである。なぜなら、 日常生活
は、書く機会にあふれているからだ。誰かに手
紙を書く。ノートに自分の意見を書く。夏休み
の宿題では、読書感想文や日記を書く。また、
今日のあらゆる試験には、小論文や自己 PR を
書くなど、書く力が重要であることは、まちが
いないことである。
私は今年度、昨年度の5年生から持ち上がり、
6年生の担任をしている。私が担任している学
級内では、書くことに対して、消極的な姿勢の
児童が多くいた。そこで、4月下旬に書くこと
が好きかどうか、簡単な意識アンケートを学級
内で取ってみた。
〔表 1 意識アンケートの結果〕4 月下旬実施
書くことは好きですか
好き
やや
普通
やや
嫌い
好き
嫌い
3人
3人
4人
13人
8人
男子17名 女子14名 計31名
このアンケート結果は予想以上だった。学級
の多くの児童が、書くことに対して、苦手意識
を持っていることがわかった。また、どのよう
な理由から書くことが嫌いなのかを調べるため
のアンケートをとることにした。結果は、以下
のようになった。
【書くことが嫌いな理由】
・自分の考えが持てない→5人
・構成の書き方がいまいちわからない→4人
・書くことが恥ずかしい→21人
・たくさん書かされるイメージがある→7人
・面倒くさい→16人
・ぴったりの言葉が出てこない→15人
「ぴったりの言葉が出てこない」というのは、
児童の語彙力が低いことの表れだと感じる。た
しかに、5年生の時は「おもしろかった」
「よか
った」
「楽しかった」という述語ばかりの作文を
書いてしまう子が多かった。日々の学習の中で、
教諭
中村 博明
漢字辞典を用いた新出語句調べと新出語句を使
った例文作りは定期的に行ってきたが、作文に
なると、どうしても「おもしろかった」
「よかっ
た」
「楽しかった」が増えてしまうという現状が
あった。
また、書くことが嫌いな理由で一番多かった
のは「恥ずかしい」という意見だった。これは、
書くことに対しての自信がないということにつ
ながっていると考える。逆に、自信をつけさせ
れば、もっと書ける児童が多くなるはずだと考
えた。
6年生は年末にかけて、卒業文集を書くこと
になる。卒業文集は自分の宝物になることだろ
う。その大切な卒業文集を書くまでに、書くこ
とに対して一人でも多くの児童に自信を持って
取り組ませたい。
野口芳宏氏は著書「子どもは授業で鍛える」
の中で、次のように述べている。
歩くように、呼吸をするように、自然に、
平気で文章が書けるようにするためには、
とにもかくにも「多作」を奨励するのが得
策である。(野口芳宏 子どもは授業で鍛え
るシリーズ12 2005年 184ページ)
アンケートにも多くあった「書くことが恥ず
かしい」という意見も、書く機会を増やし、書
く作業に慣れさせることによって、改善される
のではないかと考えた。そこで、学級内で6月
から短作文に取り組むことにした。6月から9
月下旬までの約3か月間、この短作文の取り組
みを、計16回行った。この期間は、とにかく
児童に書く機会を持たせるようにした。
本実践記録では、短作文の取り組みによって、
どの程度、児童の書く力が向上したのかを記録
していきたい。
2 実践の方法
(1)短作文の取り組みについて
週に2回程度、出されたお題に対して、200
字程度の短作文を書く機会を設ける。
本校では、火・木・金曜日の週に3回、朝の会
終了後から1時間目が始まるまでの15分を活
用して、学力の向上に努める時間がある。この
時間を活用して、本学級では短作文に取り組ま
せることにした。児童には、お題を見ていきな
り書くのではなく、短時間で良いので、必ず簡
単な構想を考えるように指導した。また、目安
となる時間配分についても紹介した。
-短作文の目安となる時間配分-
① 構想(2~3分)
② 書く(10分)
③ 見直し(2~3分)
早く書こうと焦るのではなく、短い時間であ
っても、必ず構想を考えることを習慣化させよ
うと考えた。
(2)短作文用紙について
短作文用紙は、20 文字 10 行の 200 文字まで
書けるものとな
っている。
15 分 間 で は
200 字程度が適
していると考え
たからだ。紙の
大きさはファイ
リングしやすい
B5 サイズにし
た。
〔図1 短作文用紙〕
短作文用紙は事前に穴をあけておき、自分の
作品が返されるごとに、綴り紐でまとめさせた。
そこに画用紙で表紙を作り、最終的には自分の
短作文作品集になるという見通しを持たせるよ
うにした。
〔図2 短作文集の表紙〕
3 実践を効果的に行うための工夫
学力が向上していく上での土台となるものは、
学習に対する「やる気」である。その「やる気」
を引き出すためには、
「ほめる」ことが大切であ
ると考える。野口芳宏氏は学習意欲を高めるた
めに「1子どもをほめる 2伸びを自覚させ、成
長をともによろこぶ」(野口芳宏 子どもは授業
で鍛える 2005年 64ページ)ことの2点
が大切であると述べている。児童に書く機会を
多く持たせて終わりではなく、短作文の取り組
みを効果的に行うための工夫として、以下の3
点に留意するようにした。
(1)お題について
短作文のお題は「児童が興味を持ちやすいも
の」「身近で親近感のあるもの」「楽しく書ける
もの」の3点を重点にして考えた。とくに、短
作文に取り組み始めた6月から7月上旬にかけ
てのお題の内容は、楽しく書きやすい想像作文
を中心とした。7月上旬からのお題については、
意見文、推薦文などを織り交ぜるようにした。
○想像作文のお題例
・
「開店前から大行列!いったい、どんなお店で
しょう?」
・「住んでみたいな、こんな家」
・「世界中の人が喜ぶ薬を発明!どんな薬?」
○意見文のお題例
・
「夏休みに遊びに行くなら、やっぱり海がいい。
山がいい。」
・
「家族で出かけるなら、温泉がいい。遊園地が
いい。」
○推薦文のお題例
・「こんなときに飲む、こんな飲み物が最高」
・「おすすめ!この本は、ぜひ読むべき!」
○感想文のお題例
・「日光修学旅行で一番思い出に残ったこと」
・「最後の音楽会で頑張れたこと」
○比喩を使って文を書こう(用紙に短文をたく
さん書かせた)
○動作で気持ちを表そう(心情描写)
・夜、病院のトイレに一人で行くとき
・山頂から、きれいな朝日を見たとき
・徒競走で、もうすぐ自分の出番になるとき
(2)児童をほめる機会を必ず持つ
前述したように、学力の土台となるものは、
学習に対する「やる気」である。その「やる気」
を引き出すためには、
「ほめる」ことが大切であ
ると考える。そのため、児童が書いた短作文に
ついて、必ずほめる機会を持つことを意識した。
個別に児童をほめることを基本とし、その他に、
空いた時間を見つけては、児童の短作文の中か
ら良かった作品を、1度に5つ程度、みんなの
前で紹介するようにした。紹介する作品の選択
基準として①「ユニークな発想で書かれている
もの」②「文章表現が上手なもの」③「内容が
まとまっているもの」とし、どれか1つでもで
きていれば良いと考えた。とくに③の「内容が
まとまっているもの」については、200字程
度の短作文なので、書くことが苦手な児童でも
達成しやすいものとなっている。紹介の仕方は、
「ユニークな発想で書かれているもの」
「 文章表
現が上手なもの」ができている書くことが得意
な児童の作品を3点、「内容がまとまっている」
を達成した書くことに苦手意識を持っている児
童の作品を2点選ぶようにした。
(3)時間と文字数を意識させ、自分の成長を実感
させる
作文は、早く書くことがいい作品とは限らな
い。逆に早く書くことを意識しすぎて、構成が
できていない作品、内容がわかりづらい作品は
よい作品とはいえない。しかし、ここでは書く
力の向上を実感させるためにも、時間とその中
で書けた文字数を毎回カウントさせ、数値化す
ることにした。そうすることで、自分が書けた、
書けなかったがより明確になると考えたからだ。
また、時間内で少ししか書けなくても、次の機
会に前回より少しでも多く書けたときは、自分
の成長を実感することができる。また、時間内
でぴったりと書ける回数が、以前より増えた場
合も同じだ。また、数値化することによって、
実践による成果があったのか、よりはっきりと
わかると考えた。
4 成果と課題
(1)実践の評価の流れについて
短作文の取り組みによって、児童の書く力がど
の程度向上したかの評価を、下記のとおり、前
期の3つの学習単元で行うことにした。
【実践の評価の流れ】
① 短作文に取り組む前の実態把握
単元名 薫風・「迷う」 4月下旬~5月上旬
単元のめあて
自分に重ねながら随筆を読み、それを参考に、
経験したことを文章に書く。
※この単元を評価の1回目とした。まだ短作文
に取り組んでいない状態なので、現時点での児
童の書く力の実態把握と位置づけた。
② 短作文に取り組んでの中間評価
単元名 春はあけぼの 6月末
単元のめあて
「枕草子」の文章にふれ、リズムや響きを味
わいながら音読し、
「 枕草子」ふうの文章を書く。
③ 短作文の取り組みによる最終評価
単元名 随筆を書こう 9月下旬
単元のめあて
自分のものの見方や考え方を深め、表現を工
夫して書く。
この3つの単元は、学習内容の系統がつなが
っている。とくに、1回目の薫風・
「迷う」と3
回目の随筆を書こうでは、ともに「随筆」とい
う文章スタイルである。その比較から、短作文
の効果の評価を出したいと考えた。
また、各単元では、構成の時間と書く時間を
ともに40分間に設定した。そして、書く活動
が終了した後、その時間内に句読点を含め、何
文字書くことができたのかを児童に数えさせる
ようにした。
(2)実践の評価
①実態把握
4月下旬~5月上旬
単元名 薫風・「迷い」による実態把握
-随筆を読んで、経験をもとにして書こう-
※構成を書く際に指導したこと
はじめに、書くときのポイントとして「いつ・
どのような体験か」また「そのことに対しての
感想や考え」の2点を明確にすることを指導し
た。次に「ぎんなんのにおい」という題材で、
例文を紹介した。今回は書く題材を①風②かお
り③におい④迷いの4つに焦点化した。この中
から題材を選び、構成を考えさせるようにした。
構成の確認として、
「はじめ」は読み手の興味が
わくように書くこと、
「中」では、出来事を詳し
く書くこと、
「終わり」で自分の考えを書くこと
を指導した。
【構成までの時間確保 40分】
〔図3 児童の書いた短作文の作品〕
―経験をもとにして書こう―
〔表2 40分間で書き終えた結果の文字数〕
100字未満
[全然書けなかった児童]
4人
[13%]
100字~200字未満
【この9人の内、150字未満
は8人だった】
9人
[29%]
200字~300字未満
11人
[35%]
300字以上
7人
[23%]
計31名
初めて随筆を書くことになるので、あまり書
き慣れていないことも理由の1つとして挙げら
れる。しかし、構成の時間と書く時間を約40
分間確保したことを考えると、書けた文字数は
全体として少なく感じる。実際に随筆を書いて
いるときの様子を見ていたところ、なかなか思
うように書けない児童が多くいた。100字未
満の児童は、題材と体験については何とか時間
内に書けたが、構成の段階から遅れが見られた。
これが書けないことに大きく影響している。
6月から 7 月までの短作文の取り組み例
②中間評価
7月
単元名「枕草子」による中間調査
ここでは、自分流の枕草子を書かせた。
※構成の際に指導したこと
春・夏・秋・冬の四季の中で、自分の頭に浮
かんだことを児童にたくさん発表させ、板書し
た。みんなで出し合った意見を元にして、自分
の書きたい題材を決めさせた。今回の構成を考
える時間は30分間で終わった。
【構成までの時間確保 30分】
自分流の枕草子を書こう
〔表3 40分間で書き終えた結果の文字数〕
100字未満
[全然書けなかった児童]
0人
[0%]
100字~200字未満
9人
[30%]
200字~300字未満
11人
[37%]
300字以上
10人
[33%]
計30名[1名欠席]
この単元に取り組むまでに、約1ヶ月間で計
6回の短作文に取り組んだ。中間評価で大きな
成果として表れたことが、全然書けなかった児
童がいなくなったという点である。その理由と
して、3点のことが考えられる。まず、短作文
の取り組みを通し、書くことに対して慣れてき
たことである。次に、実態把握のときと違い、
題材が自分にあったものが自由に決められたと
いうことも考えられる。最後に、春・夏・秋・
冬の4つに分けられており、1つ1つの題材が
短くて書きやすいということである。
短作文の取り組みによって、書くことに対し
て、以前よりは前向きな姿勢になってきている
と感じた。嬉しいことに、
「 次の短作文のお題は、
○○にしたい!」と短作文の題材を、児童から
考えてくることが何回かでてきた。
7月から9月下旬までの短作文の取り組み例
〔図4 児童の書いた短作文の作品〕
③最終評価 9月下旬
単元名「随筆を書こう」
※構成の際に指導したこと
はじめに、書く題材を決めさせた。題材は「感
動したこと」「努力したこと」「成長を実感した
こと」など、教科書に記載されている内容を参
考にさせた。次に、選んだ事柄をとおして、自
分自身のものの見方や感じ方を考えさせ、読み
手に伝えたいことを決めさせた。それができた
児童から、構成を考えさせた。この流れは、教
科書の随筆の書き方の例をもとにしている。
【構成までの時間確保 40分】
随筆を書こう
〔表4 40分間で書き終えた結果の文字数〕
100字未満
0人
[全然書けなかった児童]
[0%]
2人
100字~200字未満
[7%]
3人
200字~300字未満
[10%]
14人
300字~400字未満
[45%]
6人
400字~500字未満
[19%]
500字以上
6人
[19%]
計31名
この単元が、短作文の取り組みの最終評価と
なる。これまでに、短作文の取り組みを計16
回行った。以前と比べると、書き始めとともに、
鉛筆がすらすらと進む児童の姿が多く見られた。
そして何よりも、40分間で書けた一人当たり
の文字数が、格段に増えている。また、時間内
に原稿用紙1枚程度以上書けた児童の割合は8
0%を超えることができた。
短作文の取り組みを通し、構成を考えること、
書くことに対して児童が慣れ始め、自信が以前
より持てていることを実感した。
また、児童の作品を読んでみたところ、書け
た文字数が増えたこと以外に、大きな変容がも
う1つあった。それは「はじめ」の部分で、擬
音語や会話文を入れるなど、表現の工夫をした
作品が見られるようになったことだ。これは、
短作文の良い作品を紹介していく中で、工夫し
た文章表現を多く知ることができたからではな
いかと考える。
(3)成果のまとめ
これまでに記述した通り、実態把握から最終
評価の結果を比較したところ、短作文の定期的
な取り組みにより、児童の書く力が向上したこ
とがわかる。また、実践後の意識調査を行い、
4月に行った事前アンケートと比較してみた。
結果は、次の表の通りである。
書くことに対する児童の意識の変容
〔表 1
好き
3人
4 月下旬実施の意識アンケートの結果〕
書くことは好きですか
やや
普通
やや
嫌い
好き
嫌い
3人
4人
13人
8人
〔表5 10月実施の意識アンケートの結果〕
書くことは好きですか
好き
やや
普通
やや
嫌い
好き
嫌い
7人
10人
6人
6人
2人
「やや嫌い」
「嫌い」と答えた児童は男子の割
合が多かった。しかし、意識調査からも、書く
ことに対して前向き姿勢の児童が増えたことが
わかる。また「書くことに対して以前より自信
が持てたか」という質問には、22人(約70%)
の児童が「持てた」と答えた。また、事前アン
ケートに多かった「書くことが恥ずかしい」と
答えた児童の人数は、実践後のアンケートでは、
21人から6人にまで減っていた。
自信が持てた理由として多かったのは、
「 構想
を考えることが習慣化できた」
「 考えが早く思い
浮かぶようになった」
「書くことに慣れて、抵抗
が減った」という3点であった。この結果から、
短作文はスモールステップとして、6年生の児
童に達成感を感じさせるための効果的な手段で
あると考えられる。
次に、児童一人ひとりの文字数の増加を調べた
ところ、短作文の取り組みによる成果が大きく
見られたのは、最初の意識調査で書くことが「や
や嫌い」と答えた児童の層と、実態把握の時の
書けた文字数が「100字~200字未満」だ
った児童の層であった。短作文のメリットとし
て「今日は意見文を書こう」
「今日は比喩を使っ
て文章を書こう」など、書くときのポイントが
明確でわかりやすい。この短作文のメリットが、
前述した2つの層の児童には効果的だったので
はないかと考える。
短作文の成果
・書く作業に慣れ、構成や考えを、早く思い浮
かぶようになる。
・短作文は、1回ごとに、その時の書くポイン
トを明確にできる。
・ポイントを明確にすることにより、苦手な児
童も書きやすくなる。
・書くことに対しての自信が持ちやすくなる。
・良い作品の紹介を通し、文章表現を工夫した
書き方をたくさん知ることができる。
(4)実践の課題
①児童の作品紹介のやり方について
今回の実践では、児童が書いた作品を担任が
紹介するという方法だった。そこから発展させ、
良い作品を紹介するときに、口頭で伝えるだけ
ではなく、短作文を二つ程度拡大掲示し、どう
いうところが上手なのか、自分たちで考えさせ
る方法も行えば良かったと思う。自分たちで、
短作文の良かった点を考えさせることによって、
グループで作文の推敲を行うときにも、その力
が発揮されるのではないかと考えた。
②短作文の題材設定について
「学習指導要領解説 国語編(平成20年8月
告示)」の80ページには、高学年の書くことの
目標について、下記のように記載されている。
目的や意図に応じ、考えたことなどを文章全
体の構成の効果を考えて文章に書く能力を身
に付けさせるとともに、適切に書こうとする
態度を育てる。
低学年で自分の経験したことや想像して考え
たことなどから書いたり、中学年で目的をも
って調べたことを書いたりした経験を生かし
て、高学年ではまとまった考えを書くことへ
と発展させている。
今回の実践では、書くことを楽しんで、自信
を持ってほしいことから、想像作文をはじめに
多く取り入れたが、学習指導要領に記載されて
いる高学年としての目標は、まとまった考えを
書くということである。
短作文の取り組みを学校全体で取り組めるよ
うであれば、各学年の実態と指導要領に記載さ
れている目標に沿ったお題にし、継続的に指導
を続けていくことによって、より良い発展につ
ながるのではないかと考える。
5 おわりに
11月に国語の授業で行った「1年生に物語
を書こう」の単元では、改めて短作文に取り組
んでよかったと実感した。児童がいきいきと書
く活動を楽しんでいた。自由に想像して物語を
作れることも、書きやすい1つの理由だが、書
くことに自信を持って、取り組めていた。物語
文の作品は、1000文字を超える作品が、9
点もあった。また、この単元が終わった後、改
めて書くことが好きになったかどうかを31名
に聞いたところ、
「好きになった」と答えた児童
が12名(39%)、
「少し好きになった」と答え
た児童は11名(35%)いた。2つを合わせる
と、クラス全体の約74%という結果である。
本実践を通し、児童の書く力が向上したこと、
また、書くことを好きになり、書くことに対し
ての自信を持たせられたことを、担任として嬉
しく思う。これから、いよいよ卒業文集の取り
組み入る予定だ。はじめにも書いたが、卒業文
集が児童一人一人にとって、かけがえのない宝
物になってほしいと願い、これからも日々の学
習指導を続けていこうと新たに決意する。
[参考文献]
野口芳宏(2005年)「子どもは授業で鍛える
シリーズ」明治図書
文部科学省(2008年)「小学校学習指導要領
解説 国語編 平成20年8月」東洋館出版社
【研究論文】
体育の授業における見学者の学び
船橋市立三咲小学校
1
知識を広めること」である。社会科見学という
佐藤
脩平
を明らかにする。
はじめに
「見学」とは、広辞苑によれば、
「実地を見て
教諭
(2) 課題に対して理論的に考察を行う。
(3) 学級において実践的研究を行い、見学者
の学びについて再考する。
言葉がこの言葉を理解する上でよい例となるで
あろう。これを踏まえると、体育の授業におけ
る見学は、体育の授業で行われる実技の活動を
5
研究の結果と考察
見て、その実技の知識を深めることであると考
(1) 先行研究の検討
えられる。このような学びが実際の現場で行わ
体育の授業に関する研究が数多くある中で、
れているのか、またどのように行われるべきか
見学者に着目した研究はほとんど見られない。
を考察することは、体育において実技だけでは
その中で見学者に注目したものには、運動学習
ない学びを提示することにもなるだろう。
における視覚の役割を示したもの1、見学の法的
本論文において「見学者」とは、けが、風邪
根拠について示したもの2、見学者を減らす実践
等の事情により、短期的に体育の授業において
を示したもの3、などがある。見学の法的根拠に
実技ができない児童、と定義する。
ついて述べている杉山は、体育の授業は「運動
の実践いわゆる『実技』が中心となる」と述べ、
2
研究の目的
その特別な措置として「見学」があるという。
本研究の目的は、体育の授業における見学者
すなわち、体育で学ぶべき内容は、実技の中に
の学びを明らかにすることである。その際、見
多く含まれているということである。学習指導
る活動に着目し、見学者の授業参加に対する考
要領4からも、実技の内容が重要であることは明
察を行う。また、実践を通して、見学者の学び
らかである。杉山はこのことを踏まえた上で、
に対する考察を深めていく。
「見学」の学習効果に言及している。彼によれ
ば、「見学」は「運動の実践を見て,学習すべき
3
研究の仮説
ことの理解を深める」ことになり、
「技能を習得
(1) 体育の授業において、実技を行う児童の
する上で非常に重要」である。しかし、杉山の
学びと見学者の学びには質的な差異が
主張はこれまでにとどまっており、
「見学」が技
あるだろう。
能の習得にどのような役割を果たしているのか
(2) その質的な差異が少なくなれば、見学者
の学びは実技を行えなくとも体育の授
業における学びと言えるだろう。
は示していない。
直接、見学に触れている研究ではないが、体
育において友達の運動を見て学ぶ実践に「学び
合い活動」がある。
「学び合い活動」について簡
4
研究内容・方法
(1) 見学者に関する先行研究を検討し、課題
潔に言えば、グループでの学習において友達の
運動に対して「いいね!」
「ドンマイ!」などの
声かけを行ったり、アドバイスしたりする活動
これがわれわれの知覚の働きであるという。
である。このような活動では、見学者も活動に
運動を見る場面で言えば、例えば、開脚前転を
参加し、文字通り見て学ぶことができている。
見る際、全体像を見てできている、できてない
すなわち、「学びあい活動」により、「ただ見て
が判断される。
「できている」の中でも、上手い
いる」のではなく、
「アドバイスするために見て
下手が判断できる場合もあるだろう。この場合、
いる」のである。
初めに見本となる運動を見たときに、どんな運
以上のことから、これまでの見学者の学びで
動が開脚前転なのかを把握しているから見るこ
は、見学することが実技の代替として扱われな
とができるのである。すなわち、何かを「見る」
ければならず、そのためには「ただ見る」ので
ためには、区別し同定するための視点を獲得し
はなく、
「アドバイスをするために見る」ことが
なければならない。このことを踏まえ、先ほど
必要なのである。
の「運動を見て、アドバイスをする」という言
では、見学者は「アドバイスをするために見
葉によって、何も見ることができない児童がい
る」という活動を通して何を学んでいるのであ
るのは、見るための視点がないためであるとい
ろうか。次に見学者の学びの質について考えて
えよう。逆に言えば、アドバイスできる児童は、
いく。
何を見ればよいかが分かっており、どこができ
ていないのかを見ることができるのである。
(2)見学者の学びの検討
本節では、見学者が「見る」ことを通して何
を学んでいるのかについて考えていく。
アドバイスができない児童にとっては、体育
の授業で示される技能のポイントが見る視点の
獲得の大きな役割を担っていると言えよう。例
見学者に「運動を見て、友達にアドバイスす
えば、開脚跳びで「両足で踏み切る」ことや走
る」ように言った場合、アドバイスができる児
り幅跳びで「体を大きく反らす」ことなどがあ
童とできない児童とがいる。この違いとして、
る。これらのポイントは教師が示す場合もあれ
何を見るべきか分かっている児童と分からない
ば、子どもたちが運動をする中で出てきたポイ
児童との差があると考えられる。何を見るかと
ントである場合もある。どちらにしても、これ
いうことにおいて大切なのは、視点を獲得する
らのポイントは、子どもたちが技能を高める上
ということである。山鳥によれば、ものを見る
で必要なものとして示されている。「できない」
際、それを区別し同定しているのだという5。
児童がこのポイントを参考に自分の運動を改善
していくのである。ただ、このポイントは運動
草を知らない人、草に興味のない人が見る
をしている児童だけのものではない。この技能
と、草は見えていますが、それぞれの草が
のポイントが「見る」ための視点にもなってい
それぞれ違う形をしていることには気が付
るのである。これまで、見る視点を持っていな
きません(それぞれを区別出来ません)。少
かった児童は、体育の学習を通して、ポイント
し注意を集めてしばらく眺めていると、そ
を学び、これを踏まえ、友達の運動を見ること
れぞれの形が違うことが見えてきます。そ
ができる。すると、これまでただ漠然と見てい
うすると、たとえばクローバーに気が付く
た運動をより詳細に見ることができるようにな
でしょう。…中略…区別し、さらに同定出
る。先ほどの開脚前転の例でいえば、漠然とで
来たのです。
きている、できていないという判断から、どこ
ができていないかを判断できるようになるだろ
う。手を着く位置、タイミング、ひざの伸び、
滝沢の「身体的思考」がある。
「身体的思考」と
体の前傾など様々な技能のポイントから見るこ
は、
「みずからが物や人との関わりを具体的にし、
とができる。
実践するための思考」6のことである。例えば、
以上のことを踏まえると、これまでの「アド
われわれは卵、豆腐、ボールを握るときにそれ
バイスをするために見る」という見学者の学び
ぞれ握り方を変えている。この無意識のうちに
は、技能の視点の獲得であったと言えよう。課
握り方や力の入れ方を変えていることこそ、身
題となる運動のポイントを知ることにより、友
体が卵や豆腐、ボールとの関係の中で運動を調
達にアドバイスできるようになるのである。し
節していることなのである。つまり、動くこと
かし、本当にそれが見学者の学びなのだろうか。
で実技者の身体は変化しているのである。
私がこのような疑問を持った理由は、先に示し
できない児童と見学者の違いとして、できな
た、見学が実技の代替として扱われなければな
い児童は示されたポイントを自分なりに解釈し
らないという点からである。すなわち、見学者
ながら運動を行っていることが挙げられる。例
は見学することによって、できる限り実技をし
えば、伸膝前転において「手を膝の横に着く」
た時と同等の学びが保証されていなければなら
というポイントがある。できない児童もこのポ
ないのである。運動のポイントを知ることは、
イントを理解し、その点に着目し、運動を見る
確かに見学することによって身に付けた学びで
ことができるだろう。ただ、自分が実際に動く
あろう。しかし、実技を行っている児童は、実
となるとできないのである。そのため、
「手を膝
際に動くことによって、ポイントを学ぶ以上の
の横に着く」には、どうすればいいのかを一生
ことを学んでいるだろう。そこで、次に実技を
懸命考えて、練習するのである。そのとき、あ
行っている児童の学びについて考えていく。
あでもない、こうでもないと考えたその運動に
対する思考は、実技者ならではの学びとなるで
(3)実技を行う児童の学び
体育の授業の中で示される運動のポイントは、
あろう。
以上のことから、実技者は技能のポイントを
先に述べたように実技を行う児童(以下、実技
学ぶだけでなく、動くことによって自分の運動
者とする)が運動を改善していくために示され
に還元しているのである。これこそ実技者が行
るものである。もちろん、見学者と同様に視点
っている体育の授業での学びであり、これまで
を獲得していると言えよう。しかし、実技者は
見学者の学びとして着目されていない視点であ
実際に運動を行っているのであり、そこから学
ろう。そして、「見学が実技の代替として扱う」
ぶことは多くある。一番の大きな学びは運動が
ために必要な視点であろう。すなわち、技能の
できるようになることであろう。できるように
ポイントを知識として学ぶだけでなく、自分の
なるために、運動をし、考えるのである。
運動に還元される学びが必要となるのである。
では、できるようにならなかった児童は、見
では、この「自分の運動に還元される学び」
学者と同じ学び、すなわち、視点の獲得しかし
とはどのような学びなのかについて次に考察し
ていないのだろうか。言うまでもなく、違うだ
ていく。
ろう。なぜなら、できない児童も仮にできない
運動だとしても、課題となる運動を行っている
からである。これが見学者との大きな違いであ
る。動いていることの重要性を示唆する論考に、
(4)自分の運動に還元される学び
見学者の学びの新たな視点として、
「自分の運
動に還元する学び」を提示した。この学びを見
学者が行っていくためにはどのようにすればい
①単元名 「三咲陸上 2015」
(C 陸上運動:ハー
いのだろうか。実技者は、実際に運動を行って
ドル走)
いるからこそ、自分の運動に還元しようと思考
②対象
をするのである。一方で、見学者は実際に運動
17 名、計 34 名)
をするわけではない。実際に運動をしていない
③時期
見学者が「自分の運動に還元する学び」を行う
④単元について
三咲小学校 5 年 4 組(男子 17 名、女子
平成 27 年 9 月(8 時間扱い)
ためにどうすればいいのだろうか。このことに
本学習では、リズムよく飛び越えることを単
ついて考えるとき、運動学者マイネルの「運動
元全体のめあてとした。そのためにねらい1か
共感」という概念が参考になる。彼によれば、
らねらい2に発展していく形で授業を展開した。
運動を見ている際に「運動を視覚だけでとらえ、
ねらい1は「ハードル走のポイントを見つけよ
あるいは“客観的”に記録していたときに可能
う」である。ハードル走の運動場面をコマ分け
であったより、運動というものを観察者にはる
した掲示物とワークシートを作成し、そこに気
かに深く理解させる」7という。 簡潔に言えば、
づいたことを記入していくことにした。その際、
見学者が実技者の運動を見ることで、自分が運
なるべく自分の感覚を言葉にするよう伝え、
「~
動を行っているかのように共感し、自分の感覚
な感じ」や「~なイメージで」などと表記させ
として捉えるということである。例えば、実技
るようにした。これを踏まえ、めあて2「自分
者の運動を見て、
「今の伸膝前転は足が曲がって
の課題を見つけて、インタビューしよう」では、
いたな。もっとぐっと踏ん張る感じだな」と、
友達同士の運動を見て、自分の運動を改善して
考えることである。これにより、「膝を伸ばす」
いくようにした。ねらい1でポイントを示すこ
というポイントを友達にアドバイスし、そのポ
とにより、見る視点を提示した。
イントを知識として身に付けるだけでなく、自
らが運動をした時の感覚として伸膝前転を捉え
ることができるであろう。このとき行われてい
ることは、実技者が自分の運動を動画で撮り、
見ているときに行われていることに近いだろう。
すなわち、実技者は自分の運動を見たとき、実
際に動いた感覚を照らし合わせながら、
「もっと
こうした方がいいな」と考えるはずである。見
学者は、実際に動くことはできないが、実技者
が運動を行っているときの感覚に共感し、自分
写真1:めあて1で見つけたポイント
だったらどう動くかを考えるのである。これが
さらにインタビューゾーンを設けることで、
実技者に近い学びであり、自らの運動に還元さ
上手い児童がどのような感じで走っていけるの
れる学びであると言えよう。
かを聞けるようにし、それを自分が動くときの
では、実際に授業を行ってみたとき、このよ
うな見学者の学びは現れるのだろうか。次に検
証授業の実践を報告したい。
ポイントとして活用できるようにした。
⑤実践結果と考察
リズムよく走り越えるというめあてにおいて、
児童からは様々なポイントが出てきた。写真1
(5)検証授業の実践
にもあるように、めあて1で見つけたポイント
は以下の通りである。
・腰のあたりを曲げる
1.遠くからふみきる
2.外側にまげる
3.足はまっすぐ
4.ハードルの近くに着地
5.次の一歩を大きく
6.頭を低く
の6項目である。大きくこの6項目に集約する
ことができた。児童のワークシートの中には、
「手を伸ばす」
「手をパーにする」
「体を曲げる」
などの前傾姿勢に関する記述、
「ミニハードルで
は、リズムよく飛べる」
「勢いをつけて走る」な
どの走り方に関する記述、
「近くで跳ぶと足が曲
がる」「近くで跳ぶと高くなってしまう」「着地
写真2:児童のワークシートの書き込み①
のとき、足がドンとついて次の一歩が難しくな
多くの児童がポイントを意識しながら走るこ
る」などの走り越えることに関する記述が見ら
とができた。以上のような記述は、自らの感じ
れた。これらの記述も自らが運動した際に出て
を言葉に表現したものである。これまで考察し
きたポイントである。
てきたように、学習者は、視点の獲得にとどま
これらを踏まえ、行っためあて2では、ポイ
ントを具体的に自分の動いた感じとして捉えた
記述が増えてきた。以下に、例を示す。
らず、自らが動くときの感じに還元しながら運
動を行っていたと言えよう。
一方で、本単元を通して見学者は1~3名い
1.
・軽く飛ぶ感じ
た。そのうち、2名の記述はポイントの繰り返
・膝を高くする
しになっていた。例えば、
「足をまっすぐ伸ばし
・つま先で蹴る
た方がいい」のような記述である。これでも、
・大きな音が出るくらい地面をふむ
ハードル走のポイントをよく押さえ、学習する
2.
・後ろの足は地面と平行に
ことができている。しかし、今回われわれが目
3.
・足を前に伸ばすイメージ
指してきたのは、
「自らの運動に還元される学び」
・手を足につけるイメージ
である。先の見学者のうち、1名が「みんなを
・手は前に出すイメージ
見ていると、手をたくさんふると勢いがつくこ
・走っている姿勢から越えるときに伸ばす
とが分かりました。」「跳ぶとき、前の足と手が
・だんだん伸ばす感じ
くっつくようにしたらいいと思います。
」と具体
・かけ抜けるイメージ
的な記述をしていたのである。これは、実技者
4.・両足で着地しない
・ハードルの上で足を下に向ける(着地の
準備)
の記述の中にあったように、勢いをつけるため
には、どうしたらいいのかを具体的に考えた記
述や、頭を低くするためにどうすればよいのか
5.・止まらないで走り抜ける
を考えた記述であると言える。そして、これは
6.・頭をひざにつけるイメージ
友達の運動を見て、
「自分だったら…」を考える
・すり抜けコースがあると思って
ことができた結果であろう。
できていたのかが、本論文では明確に示すこと
ができなかった。また、その際、実技者に共感す
ることの難しさや、それを言葉として表現するこ
との難しさが明らかになったと考える。
【主要参考文献】
1.麓信義,佐藤光毅「運動学習における『見た』
効果-一般論と事例研究」
『体育の科学』第 38
号(10)pp.750-756(1988)
2.杉山重利「体育における見学の法的根拠」
『体
写真3:児童のワークシートの書き込み②
育の科学』第 38 号(10)pp.771-773(1988)
3.三浦孝仁,鈴木久雄,高橋香代「見学者を減らす
6
研究のまとめ(成果と課題)
(1) 成果
本研究では、これまで見学者が学んでいたと
実践-個人個人に適した体育指導を目指して-」
『体育の科学』第 38 号(10)pp.781-784(1988)
4.小学校学習指導要領解説
いわれていた内容を見直し、改めてどのような
5.山鳥重「『わかる』とはどういうことか―認識
学びが行われてきたかについて考察を進めてき
の脳科学」ちくま新書,pp.29-30,(2002)
た。これによって、これまでの見学者の学びは、
6.滝沢文雄「運動実践における言語の役割とそ
運動を知識として捉える学びであることが明ら
の限界」
『体育・スポーツ哲学研究』31
(1),p.79,
かとなった。その一方で、見学は実技の代替と
(2009)
して扱われなければならないことから、実技者
の学びについても考察し、新たな視点として、
「自らの運動に還元される学び」を提示した。
その際、重要となるのは、見学者の運動共感で
あり、実技者の動きを見て、自らが動いている
感じとして見ることが必要なのであった。これ
らのことを踏まえ、検証授業を行ってみると、
考察を進めてきたように、実技者の学びが明ら
かとなった。その一方で、数は少ないものの、
見学者が自らの動きに還元した記述が見られた。
これまでの考察で明らかとなったのは、自ら
の感じを言葉で表現するということであり、そ
れを共有するということである。学習者が学ん
だ感じはもちろん、それが見学者の学びにもつ
ながるのである。
(2) 課題
事例が少なかったことも影響しているが、見
学者がどの程度、自らの運動に還元することが
7 . K. マ イ ネ ル 『 ス ポ ー ツ 運 動 学 』 大 修 館 書
店,p.129,(1981)
【実践記録】
子供を変える生徒指導の取り組み
共通理解・視覚化と参画のシステムづくり
船橋市立法典小学校 教諭 田中 基紀
1 はじめに
今年度,
校務分掌で生徒指導主任を任された。
これまで生徒指導部会にも属したことが無かっ
たため,生徒指導とはどんなものなのか,どの
ように学校全体の生徒指導をどのように推進し
ていけばよいのかという不安があった。そんな
時,ベテランの生徒指導主任経験者から「あれ
もこれもやろうとすると時間が足りない,しか
しこれだけと絞ってできる仕事でもない。大切
なのは共通理解だよ。
一人でやろうとしないで,
たくさんの人を巻き込んで,進めて行くといい
よ。
」と助言された。
学校で行われている教育活動は最終的には子
供達のためである。生徒指導の機能もまた,子
供達のためにあると考え,職員の共通理解のも
とで子供達の意識を変えていくような生徒指導
をしたいという気持ちになった。そこで生徒指
導について簡単ではあるが調べてみると,生徒
指導という言葉に囲まれる教育活動の範囲はと
ても広く,言い換えれば教育活動のすべての場
面が生徒指導に関係している。
生徒指導について国立教育政策研究所の生徒
指導・進路指導研究センターの発行「生徒指導
リーフ“生徒指導って,何?”
」には以下のよう
に記されている。
生徒指導とは,社会の中で自分らしく生きる
ことができる大人へと児童生徒が育つよう
に,その成長・発達を促したり支えたりする
意図でなされる働きかけの総称
このことから生徒指導は児童生徒の社会性と
自己実現力の育成を目的に行われるものであり,
特定された場面がない。上述したように全ての
教育活動のなかで行われるものであると言える。
また『小学校学習指導要領解説 総則編』(平
成 20 年 8 月告示)の「第三章教育課程の編成及
び実施 3 学級経営と生徒指導の充実」には以下
のように記されている。
生徒指導は,全職員の共通理解を図り,学校
全体として協力して進めることが大切であ
る。
ここで言われている学校全体という言葉から,
生徒指導は職員と児童生徒によって協力して行
われることも大切であると言える。
また,職員においてもトップダウンで行う活
動だけではなく,ボトムアップで意見や提案を
挙げて,活動に繋げていけるような環境が必要
である。このことについては,多くの学校現場
で設置されている生徒指導部会という組織で行
われている。本校でも月に 1 度開かれる生徒指
導部会で各学年の担任代表者と専科教師の参加
のもとで,活発な意見交換が行われ,学校の取
り組みに反映されている。
そして,児童生徒においては教師側からのト
ップダウンで行う活動に参加するだけではなく,
児童生徒が主体的に学校の生徒指導的な活動に
関わる機会を設けること,そして児童生徒自身
が学校のため,児童生徒のためにできることを
考え,行動していくことが大切であるという意
識を持つことが求められている。
生徒指導主任という立場から,職員の共通理
解の深まりと児童生徒の意識を変え,行動を変
えるシステムづくりに課題を設定し,その手立
てとして,指導内容の視覚化と職員・児童(以
下小学校での実践のため,児童生徒ではなく児
童と表記する)の参画をテーマとして設定する
ことにした。この論文は本校で今年度実践した
取り組みを記録したものである。
2 実践の方法
(1)職員の共通理解を図るための手立てとして
児童ファイルの作成と支援体制の構築を行
った。
(2)学校全体の取り組みの実現のため,啓発掲
示の作成,
児童活動部会との連携によるいじ
めをなくすキャンペーンを行った。
どちらの取り組みも視覚化と参画を意識する
ことで,機能的な生徒指導体制づくりをめざし
たものである。
3 実践の具体的内容
(1) 児童ファイル
①概要
本校は児童数 1,200 名を超える児童が在籍し
学級数も 39 学級ある。学年によっては 200 名
を超える児童がおり,児童の氏名と顔を一致さ
せることも困難である。まして児童一人ひとり
の支援に関する事項を記憶することは不可能と
言ってもよい。
そこで資料 1 のような児童ファイルを作成し
た。
①概要
本校にも,特別な支援を要する児童が多数お
り,時として担任 1 人で対応することが難しい
場面も少なくない。その際に専科の授業で TT
指導中の職員がその対応の手助けをするシステ
ムを作った。
資料 1 児童ファイル表紙
このファイルは,常時職員室に設置され職員
であればいつでも見ることができるようにして
いる。児童支援の際に該当学級や該当児童の必
要な情報を確認することができる。いつでも見
ることができるというところに視覚化の視点を
取り入れている。
例年,顔写真のみのファイルを作ってはいた
ものの実用的ではなかったため,今年度より資
料 2 児童ファイルの中身のように顔写真ファイ
ルの右側のページに個別支援の一覧表を掲載す
ることにした。
特別支援,生徒指導,教育相談といった経営
部会の情報やアレルギーなどの情報を記載し,
活用することができる。
②職員の反応
資料 3 各教室に設置されたグリーンカード
グリーンカード(資料 3)は,各学級に配られ,
助けがほしい時に,担任が児童を通してカード
を職員室に届けることで待機している職員が手
助けに向かうというものである。
また,自教室での手助けだけではなく,職員
室などへ取り出し指導も行うことができる。
担任と専科の TT で行う授業の際,週に1度
の当番時間を設定し,職員室で待機するように
なっている。
また,どの時間に誰が待機しているのかが分
かるように資料 4 のような一覧を職員に配付し,
更に職員室にも掲示している。
資料 2 児童ファイルの中身
○このファイルがあることで他学年の児童の把
握ができ,学年を超えたトラブルがあった際
にとても役に立った。
○学級支援に入る際にファイルを確認したこと
で,給食指導中のアレルギー児童について把
握することができよかった。
(2) 共同支援体制「グリーンカード」
資料 4 グリーンカード当番表
②職員の反応
○学級に個別支援が必要な児童がおり,その児
童に対応することで,学級の指導が滞ってし
まうことがあった。グリーンカードを使うこ
とで学級の指導も行うことができるし,支援
対象の児童も安心して預けることができるの
で助かっている。
学級担任(若年層女性教師)
○多くの職員で当番制にしていることで,誰か
に負担が集中することが防げるので良いと思
う。学校全体で助け合うという意識が高まる
ように思う。
学級担任(男性教師)
(3) 啓発掲示
①概要
本校は児童数が多いこともあってか,廊下や
階段の歩行が煩雑になっているという職員から
の意見が生徒指導部会に挙げられ,対策を考え
ることになった。
その際に全校に廊下歩行や階段歩行の注意を
呼びかけるのではなく,誰が見ても同じように
分かるような視覚化された掲示を行うことが効
果的であると考え,啓発掲示を行った。
ア廊下歩行の啓発看板の設置
資料 5 廊下歩行の啓発看板
資料 5 の看板を校舎内の児童の利用が集中す
る廊下 8 カ所に設置した。
この看板の設置においても,指導の共通理解
を図るために,多くの職員で作成を行った。
イ 階段の啓発掲示
資料 6 廊下歩行の啓発看板を作る職員
資料 7 階段掲示の作業をする職員
この啓発掲示は階段に右側通行を意識させる
掲示を校舎内全ての階段に行った。こちらも指
導の共通理解を図るために,階段を学年,専科
教師に分担し学級担任,専科教師の全員で作業
に取り組んだ。
②職員の反応
〈廊下歩行〉
○自分も制作に携わって,子供達へ指導する際
の気持ちがこれまでと変わった。
学級担任(男性教師)
○この看板が廊下にあることで,先生がいなく
ても子供達が自分の目で見て,右側を意識し
て歩くようになっているので,設置して良か
った。
学級担任(男性教師)
○みんなで取り組んだので,負担と言うよりは
楽しみながら作業ができたので良かった。
学級担任(女性教師)
〈階段掲示〉
○右側歩行を意識させる 12 文字を学年の児童
から募集し,子供達の考えたフレーズが掲示
されて,子供達の意識も変わったと思う。
学級担任(女性教師)
○校舎内全ての階段に様々な掲示があり,子供
達も意識して見るようになった。これが右側
歩行に繋がるといい。
学級担任(女性教師)
(4) 児童活動部会と連携したいじめをなくす
キャンペーン
①概要
いじめをなくす目的のキャンペーンは生徒
指導の取り組みとしてこれまでも行ってきた
が,それは教師側(学校側)が行うアンケート
や面談であり,児童が受動的に行うものであっ
た。
そこで児童活動部会と連携し,児童の参画を
目的とした活動を行った。
今年度は「笑顔 100%大作戦」という活動を
行った。これは,全校児童からいじめをなくす
標語を集め校内に掲示する活動といじめにつ
いて考える時間を持ち,いじめに関する書籍の
読み聞かせを行うものである。
この取り組みは計画委員会で計画立案を行
い,代表委員会を通して学校全体に広がってい
った。計画の内容は,各学級でいじめについて
考える時間を持ち,いじめをなくす標語を児童
主導で作るものである。学級から挙げられた標
語は児童会で検討され学校総意の標語が作ら
れる。児童が主体的に学校からいじめをなくそ
うという意識を広げていくというところに参
画の意味がある。
読み聞かせについても,高学年児童が兄弟学
級へ行って,読み聞かせを行うことで高学年児
童にも低学年児童にも教師から言われるもの
ではく,児童が行う取り組みであるという意識
を持たせることができる。
4 児童の変容
3 に記載した取り組みのなかで,啓発掲示と
児童会と連携したいじめをなくすためのキャ
ンペーン「笑顔 100%大作戦」について児童に
アンケートを実施した。アンケートは 6 学年児
童 192 名に配付し,184 名から回答を得た。
(1) 啓発掲示の設置に関する児童の変容
廊下の看板や階段の掲示を見て,設置する前と
現在ではあなたの意識は変わりましたか。
あまり変わ
少し
変わら
変わった
変わった っていない
ない
85 人
71 人
24 人
4人
約 46.2% 約 38.6%
約 13%
約 4%
※小数点以下 1 桁で表しているため合計が
99.8%になっている。
アンケートの結果をみると,啓発掲示が設置
されたことで,廊下や階段の歩行の意識が変わ
ったという児童がおよそ 85%いる。アンケー
トではその理由についての記載もしたが,視覚
化したことによる,効果を挙げている児童が多
い。
また,あまり変わらない,変わらないと答え
た児童の中には以前から気を付けていたので,
特別変わったことはないといった理由を挙げ
る児童もいた。以下に児童の理由を抜粋する。
〈児童が記載した理由〉
○階段歩行をする時に,以前はなにも貼ってい
なかったけれど,今は短い言葉で右側通行と
貼ってあるので,意識できる。
○廊下の真ん中に置いてあって,すぐに目に入
り,意識ができた。自分も標語を作ったから
より意識できた。
○設置されてから,常に“右側”という言葉が
目に入ってくるから意識が変わった。
○以前は何もなかったので,特に考えることな
く,ただただ歩いていたのが,廊下の看板や
階段の掲示が設置されたあとは,階段・廊下
を使うたびに掲示が目立つところにあるの
で,忘れずに右側を歩かなければいけないと
いう意識に変わった。
○目に入るところにあるから,気を付けようと
いう意識になった。
△あまり掲示を気にしていないから。
△守っていない人もいるから。
△あまり目に入ってこないから。
指導内容の視覚化によって,意識が変わった
と答える児童が約 85%もいると言うことから,
視覚化することの効果が絶大であることは明
白である。
口頭での指導と看板や掲示の設置の両方か
らのアプローチが大切であることは,変わって
いないと答えた児童の理由からも推察できる。
(2)児童会と連携したいじめをなくすためのキ
ャンペーンについての児童の意識
この取り組みは,今年度初めて行ったもので
あるため,取り組みについて自由記載方式でア
ンケートを行い,その内容から児童の意識の変
容を考える。
〈
「笑顔 100%大作戦」について〉
①標語をつくっている時に気持ちについて
○いじめはとても辛いし,苦しいから少しでも
学校からいじめがなくなればいいと思いな
がら作った。
○どうすれば学校からいじめがなくなるのか
を考えながら,いじめをなくしたいという思
いを込めて作った。
○自分たちの作った標語が,いじめに関わって
いる人の心に届いて欲しいと思って作った。
○どうしたら,いじめをしている人をなくし,
楽しい時間を作れるのか,自分には何ができ
るのか考えながら作った。
○いじめられた経験があるから,他の人が苦し
い思いをして欲しくないと思いながら,真剣
に標語を考えた。
△この学校にはまだいじめがあるのだと残念
な気持ちになった。
②自分たちが作った標語が校内に掲示される
ことについて
○自分達の思いや考えを学校全体に分かって
欲しい,伝わって欲しいと思っていたので,
良い機会だと思う。
○自分達で作ったものだから,意識が高まると
思う。
○自分達で作った標語が掲示されるのだから
自分達で気をつけていかなければという思
いになった。
○学校をよりよくする活動だから,みんなでや
れて良いと思う。
○自分達で作っているのが分かっているので,
児童みんながいじめをなくそうと思ってい
るという意識になると思う。
○自分達の手で学校からいじめをなくしたい。
△最終的には個人の意識の問題だと思う。でも
掲示はいじめを考える良いきっかけになる
と思った。
児童の記載した内容から「笑顔 100%大作戦」
で行ったいじめをなくすための標語づくりの
活動では,主体的に学校のいじめについて考え
ることができたと考える。ここに載せていない
意見でも,この取り組みに対して全面否定をし
ている児童は 1 人もいなかった。
また,自分達が作った標語が校内で掲示され
ることについて,自分達が作ったものだからと
いう前置きを記載している児童が多数いた。こ
のことから,学校全体のことが他人事ではなく,
自分もその一員であるという意識が高まった
ように考えられる。
くという参画の形がとれたことで,より自分達
で学校を良くしていこうという意識が高まり,
主体的に活動する場面が増えた。
[課題]
今年度初めて取り組んだ活動が多かったた
め,児童ファイルやグリーンカードの準備に時
間がかかってしまった。
また,ファイルに記載する内容が学級によっ
て多かったり,少なかったりするので,記載内
容の統一が課題となった。
廊下や階段の啓発掲示については,経年劣化
に対する対策を考える必要がある。
児童会と連携したいじめをなくすためのキ
ャンペーンでは,標語の作成において学級での
活動に差異があったため,全校児童が同じよう
に取り組める,話し合いの場の設定などの工夫
が求められる。
5 実践のまとめ
共通理解,視覚化と参画という視点で 4 つの
取り組みを行った。
・児童ファイル(共通理解)
・グリーンカード(共通理解)
・廊下と階段の啓発掲示(視覚化)
・児童会と連携したいじめをなくすためのキ
ャンペーン(児童の参画)
[成果]
どの取り組みにも視覚化の視点を入れて取
り組みを行ったことで,共通理解を深める事が
できた。
児童ファイルでは,いつでも職員室で確認す
ることができるため,様々な場面で利用される
様子が見受けられた。また,ファイルに支援の
方法を記載する欄を設けたことで,より児童理
解に役立った。
グリーンカードの取り組みでは,職員全体が
その仕組みを理解し,支えあい協力し合う雰囲
気が生まれ,困ったときには「グリーンカード」
という意識が高まっている。
廊下・階段の啓発掲示では,職員の共通理解
が深まったことで,児童への指導に一貫性が生
まれ,担当学年以外の学年への指導も活発に行
われている様子が多く見受けられる。具体的に
は廊下や階段の歩行について,走ったり,飛び
越したりする児童への声掛けが「右側を静かに
歩きます。
」といった具合に掲示に書かれた言
葉で,どの児童にも声がかけやすくなった。
児童会と連携したいじめをなくすためのキ
ャンペーンでは,児童が学校でのいじめをなく
すための活動を計画し,自分達で取り組んでい
6 おわりに
今回,生徒指導という広い指導領域の中で,
積極的生徒指導と呼ばれる問題行動を起こさ
ないように事前に行う指導にテーマを絞って
取り組んだ。
この研究にあたり参考にした本『ゼロから学
べる生徒指導』の中に「子どもはルールよりム
ードに従う。
」という言葉があった。これは,
まさしく積極的生徒指導におけるテーマであ
る。
ルールでトップダウン的に児童を縛ってし
まうよりも,職員と児童みんなで学校運営に参
画し,良い学校のムードを作っていくことが大
切であり,もっとも効果がある。
そのために指導の視覚化と児童の参画とい
う手段は大変有効であることが分かった。
今年度取り組んできた活動では,様々な成果
を得ることができた。こうした成果は今後も継
続していきたい。また,現時点で見えてきた課
題についても,活動の継続を前提にして改善を
図っていきたい。PDCA のサイクルを継続し
ていくことで,新たな成果と課題を得ることが
でき,より効果的な生徒指導へと繋がっていく
と考えるからだ。
最後に,今年度行ってきた活動は,職員の理
解と協力のもとで行うことができたというこ
とは言うまでもない。
「1 はじめに」でも記し
たように,すべての教育活動は子供達のために
あるということを共通理解した職員集団であ
ることが,生徒指導を効果的に進めていく前提
にあるということも,今年度の活動の中でわか
ったことである。
今後も,生徒指導主任として,子供達のため
に生徒指導について考え,行動していくという
意志を記してこの論文を終える。
【参考文献】
・
『生徒指導提要』
文部科学省 教育図書株式会社
初版第 17 刷発行 平成 27 年 6 月 1 日
・
『生徒指導 10 の原理・100 の原則』
~気になる子にも指導が通る 110 のメゾット~
安部秀行 学事出版株式会社
第 8 版発行 2014 年 3 月 1 日
・
『ゼロから学べる生徒指導』
~若い教師のための子ども理解入門~
長瀬拓也編著 藤原久雄発行
明治図書出版株式会社
初版第 3 刷刊 2015 年 5 月
【実践記録】
児童が生き生きと活躍する発表作りをめざして
~ 創 作 音 楽 劇 を 通 し て ~
船橋市立芝山東小学校
1
はじめに
本実践記録は、小学校知的障害特別支援学級
での生活単元学習の活動記録である。
本学級の児童は、学校行事や近隣学校との合
同行事等で発表会に出演する機会が多くある。
本学級では生活単元学習の中で発表会単元とし
て活動を設定している。発表会単元では、当日
に向けて見通しをもって練習に取り組み、本番
で練習の成果を発揮することで達成感や満足感
を味わってほしいと考えている。さらに、友達
との共同制作を通して自他肯定感を高めてほし
いと考える。自他肯定感とは、自分だけでなく
友達も「価値のある人間 」、 「大切な存在」と
感じ肯定できる感情のことである。自他肯定感
を高めることにより、相手を思いやる気持ちや
集団活動への意欲、集団のために貢献したい気
持ちを高めることができると考える。
そこで、より一人一人が活躍し、自他肯定感
を高めながら活動できる手立てとして、創作音
楽劇を設定した。創作音楽劇では、児童の様子
やできることに合わせて、台詞や、歌、動きを
設定することができる。既存の歌や劇では歌い
こなせなかったり、台詞を覚えきれなかったり
することもあるが、創作音楽劇では、児童の様
子に応じてそれらを設定できるため、児童がよ
り自分の力を発揮して活躍できる状況作りをす
ることができる。さらに、本学級の児童数が少
ないという特性を利用して、一人一人にスポッ
トが当たるようなストーリー等を作ることもで
きる。重要な役を与えられ、大勢の前で発表す
る経験を通して、自身の価値を実感し、自信を
もって活動しようとする態度を育めるのではな
いかと考えた。
これらの思いを基に創作音楽劇を設定し、よ
り児童が生き生きと活躍できる発表会単元の実
践に取り組んだ。
2 実践の方法
(1) 本学級の実態把握
発表会単元では、練習が活動の主となるが、
本学級の児童は、漠然とした練習や、目的が分
かりにくく見通しのもてない練習は苦手なこと
が多い。「合同練習日 」
、 「リハーサル 」
、
教諭
吉川
泰斗
「本番」などと、次の目標となる日を短い期間
で設定することで、意欲的に取り組むことがで
きるようになる児童が多い。
歌うことが好きで、発語や日常会話の少ない
児童でも音楽に合わせて歌うことで自信をもっ
て大きな声を出す姿が見られた。また、発表の
形態が好きな児童も多い。友達や保護者の前で
発表することを楽しみにする姿が多く見られた。
歌や動きなどは、一定期間をかけて継続して
練習することで習得することができる。
これらの実態をふまえて、発表会で、より児
童が生き生きと活動できるように音楽劇を創作
するようにした。
(2) 音楽劇の創作
①創作音楽劇の効果
音楽劇を創作するにあたっては、児童がより
生き生きと活躍できるように次のような教育的
効果をねらうこととした。
ア 音楽による自発的・主体的な活動
音楽を用いることで、児童は歌詞や台詞をよ
り簡単に覚えることができる。また、移動や台
詞を言うタイミングなども、音楽と一緒に覚え
ることができるようになる。これにより、児童
は劇全体の流れを音楽と一緒に覚えることがで
き、より少ない支援で、自発的・主体的に活動
できるようになる。音楽に合わせて歌を歌った
り、演技をしたりすることは、何もない状態よ
りも児童の安心感にもなり、余裕と自信をもっ
て生き生きと活躍することができるようになる。
イ 自己肯定感と自他肯定感の向上
創作音楽劇であることで、児童は「自分達だ
けの発表」であることに価値を感じることがで
きる。自分達にしかできない劇の練習と発表を
行うことで、自身にも価値を感じ、自身の肯定
感を高めることができる。また創作音楽劇では、
児童の様子に応じて個々の活躍できる場面を設
定しやすいため、どの児童の活躍もより伝わり
やすく表現することができる。友達の活躍する
姿を見ることで、友達への肯定感も高めること
ができる。
さらに、オリジナル性の高い作品を一緒に作
り上げる過程を通して、仲間との一体感を高め
る効果もねらっている。
②創作の留意点
ア 音楽作り
音楽作りにあたっては、児童の様子に合わせ
て、その子が発音しやすい言葉や、歌いやすい
音域等を考慮するようにした。
【図1】楽譜1
【図 1 】の楽譜は、発語の少ない児童のため
に創作した物である。発音できる音も限られて
いたため、児童の発音しやすい音のみで歌詞を
作るようにした。児童のリズム感の良さが生か
せるように、同じ高さの音をリズム遊びのよう
に発音できるように創作した。「文字役」とい
う役を設定することにより、歌詞の少なさに違
和感がでないようにした。
【図3】の楽譜は、歌唱や歌詞を覚えること
が得意な児童のために創作した物である。16
小節とやや長めの曲とし、歌を歌うことでスト
ーリーが進行するように歌詞をつけた。児童の
歌唱力をより生かすことができるようにした。
このように、音楽作りにあたっては歌う児童
に合わせて、曲の長さ、音域、リズム、メロデ
ィ、歌詞に配慮するようにした。児童のできる
ことや得意なことを生かして、より力を存分に
発揮できるような音楽を作るようにした。
イ 動き作り
劇中の動きは、教師による直接的な支援では
なく、児童がより自分から動きやすいように、
歌に合わせて芝居をするようにしたり、動くタ
イミングに合わせてピアノや楽器で効果音を入
れたりするようにした。
【図2】楽譜2
【図2】の楽譜は、6年生の男子が一人で歌
う曲として創作した物である。児童は、変声期
に差し掛かっており、高い音程の曲を歌うこと
が難しい様子が見られた。そこで、低い音程を
中心に構成するようにした。さらに、より楽し
んで歌えるように本人の好みに合わせて、旋律
的なメロディで曲を作るようにした。
【図3】楽譜3
【図4】 楽譜4
【図4】の楽譜は、お菓子役と食べ物役とな
った児童達が、どちらが強いかを綱引きで戦っ
て決めようとする場面用に創作した物である。
お菓子役と食べ物役がパート 1 とパート 2 に分
かれ、掛け合いをしながら歌うようにし、自分
が歌う時に合わせて綱を引く動きをつけるよう
にした。児童が、綱引きを始めるタイミングや、
綱を引く動き、かけ声をかけて決着をつける動
きなどを音楽と一緒に覚え、自分から動くこと
ができるようにした。
【図8】衣装のかぶり物を自分で作る
【図5】舞台上を大きく動く動き
児童が舞台を大きく動きながら戦う場面〔図
5〕では、教師がピアノで BGM を演奏するよ
うにし、 BGM が流れている間は、動きを続け
るようにした。また動く位置が分かりやすいよ
うに目印として背景の小道具を置くなどするよ
うにした。これにより、児童は音楽を聴きなが
ら目印を見て、教師からの直接的な支援ではな
く、自分から動きができるようにした。また同
様に、児童の登場の場面や、立ち上がる場面な
ど、次の動きのきっかけとなるようにピアノで
効果音を入れたり、次の曲の前奏を弾いたりす
るようにした。
ウ 小道具作り
衣装や背景などの小道具も大切な劇の要素と
なる。劇で使用する小道具は自分達で作るよう
にし、自分の手で作り上げた達成感を感じられ
るようにした。
【図6】手形を使って木の背景を描く
【図7】完成した背景
(3) 支援の手立て
発表会単元では、劇の練習が主な活動を占め
ることとなる。練習の際は次のような支援の手
立てを行った。
① デモ音源作り
創作音楽劇は、児童が初めて触れる音楽とな
るため、児童が音楽を聴いて学べるように、伴
奏と教師の歌声を録音したデモ音源を作るよう
にした。児童は、デモ音源を繰り返し聴いたり、
音源と一緒に歌ったりするようにした。またデ
モ音源は、音楽だけなく台詞の声も録音したり、
動きの分の空白の時間も入れたりして、劇一本
分のデモ音源となるようにした。これにより、
児童はデモ音源を聴くことで、台詞や動きのタ
イミングなども合わせて覚えられるようにした。
② 通し練習
「この歌の次はこの動き、この動きの次はど
の場所に移動する」などと、劇の流れをパター
ン化して覚えやすくするように、毎回劇の始め
から終わりまでを通して練習するようにした。
一連の動きとして覚えることで、より児童が自
分から活動しやすいようにした。一定の部分だ
けを取り出しての練習や、やり直しをしたりす
ることは、児童の混乱にもつながるため、でき
るだけ行わないようにした。
③ 練習への見通し
児童によっては、目的や終わりの分かりにく
い活動への参加が難しい様子が見られた。そこ
で、練習に見通しをもてるように、毎時間の始
めには、その日の練習ポイントや何回練習を行
うかをあらかじめ伝えるようにした。「顔をあ
げて歌えるようになる」などの具体的なその日
の練習目標や、「何回やったら終わり」と活動
の終着点を明示するようにした。
また、練習日程の中に「他校との合同練習
日」
、 「保護者に見てもらう日 」
、 「交流学級
の児童に見せる日」などと、発表会当日以外に
も節目となる行事を盛り込むようにした。これ
により、短い期間で次は何に向けて練習するか
を分かりやすくし、より意欲的に練習活動に取
り組めるようにした。
④ 段階的な練習
練習は、次のような段階を追って行うように
した。
ア 台本を使っての読み合わせ
練習は、歌や台詞、動きの書いた台本を読み
ながらデモ音源を聴くところから始めるように
した。
【図9】台本を使った読み合わせ
デモ音源を聴いて自分の台詞や歌が分かって
きたら、徐々に音源に合わせて台詞を言ったり
歌を歌ったりするようにした。この段階では、
児童は椅子に座って台本を読むようにし、歌や
台詞に集中できるようにした。
【図10】児童の使用した台本
台本には、自分で台詞を言う児童の名前を記
入したり、自分の台詞や歌にマーカーで印をつ
けたりして、読みやすくなるようにした。
イ
動き合わせ
読み合わせがスムーズにできるようになって
きたら、動きをつける練習を行うようにした。
この際もデモ音源を使用することで、音楽と台
詞と動きを関連づけながら練習できるようにし
た。
【図11】動きをつける練習
この段階の練習を繰り返し、台本を見なくて
も音楽、台詞、動きを合わせられるようになっ
てきたら、デモ音源ではなく、教師がピアノ伴
奏を弾いて練習をするようにした。児童の歌い
始めをやや遅めのテンポにして歌い出しやすい
ようにしたり、一人で台詞が言えた時は大いに
褒めたりして、児童が練習の中で自信をつけら
れるようにした。
ウ 衣装、小道具を使っての練習
最後に、衣装や小道具を使っての練習を繰り
返すようにした。衣装や小道具を使うことで劇
に雰囲気が出て、児童はより劇作りを楽しんで
取り組むことができた。単元後半に衣装や小道
具を使うようにすることで、単元の最後まで意
欲的に活動できるようにした。
⑤ 録画、録音
児童が劇の流れを覚えてきたら、児童の様子
や歌声を録画、録音するようにした。児童は、
練習の中から自分のできばえを振り返ったり、
感想をもったりすることは難しい。そこで、記
録した映像や音声を使って客観的に振り返られ
るようにした。振り返りの際には、児童から感
想を聞いたり、教師が良いところや直した方が
良いところをコメントしたりするようにした。
具体的な映像を見て課題を知ることで、次の練
習へ動機付けとなるようにした。
さらに、児童の歌声や台詞を録音した、児童
によるデモ音源を作成するようにした。単元終
盤ではこの児童によるデモ音源を使いながら練
習をすることで、より自分達の手で劇を作る気
持ちを高められるようにした。 CD から自分や
友達の声が聴こえてくる感覚は、直接聴くもの
とは異なり、集中して意識を向けられるように
デモ音源に合わせて繰り返し読み合わせをす
ることで、児童は短い時間で歌や台詞を覚える
ことができた。自分の歌や台詞だけでなく、友
達の歌や台詞も一緒に覚えることができ、友達
が台詞を忘れている時には、小さい声で台詞を
言って教えてあげる様子も見られた。また、デ
モ音源に合わせて練習することで、教師の口調
や抑揚を真似て台詞を言えるようになった児童
もいた。単元開始時から、練習活動以外の時間
にも歌を口ずさむ様子が見られ、単元中は、音
楽劇作りを活動の中心にして学校生活を楽しむ
様子が見られた。
動きを合わせる練習では、始めは自信のなさ
から台詞が言えなくなったり、歌えなくなった
りする様子が多く見られた。デモ音源を使った
り、教師が一緒に歌ったりすることで、児童の
負担やプレッシャーを軽減し、動きに専念でき
るようにした。繰り返し練習する中で、教師の
声かけや合図がなくても自分で動けるようにな
ってくると自信がつき、自然と歌や台詞の声も
大きくしていくことができた。動きや歌に慣れ
てきた児童には、実態に応じて新たに歌に振り
付けをつけたり、芝居を増やしたりするように
した。これにより、児童は次の課題ができ、最
後まで意欲をもって活動することができた。こ
のように児童の様子に応じて発展させやすいこ
とも創作劇の利点である。
劇が大まかに形になってきたら、毎回録画、
録音をするようにした。始めは録画、録音をす
ることで緊張感が増し、動きを忘れたり声が出
なくなったりする児童の様子があった。録画し
た映像でその様子を自分で見ることで自分の失
【図12】通常学級との共同制作
敗を認め、次は成功させようと、より努力する
(4) 学校行事での発表
様子が見られた。自分の姿を自分で見ることが、
本単元の実践は、学校行事での発表をもって
教師から指導されるよりも効果的な支援となっ
締めくくる。より発表に集中できるように、学
た場面であった。また、何度も録画することで
校行事では本学級の発表をプログラムの一番初
緊張感をもって発表することや、誰かに見られ
めに行うようにした。
ることに少しずつ慣れることができ、落ち着い
発表後も、単元での自分の努力を振り返られ
て発表できるようになっていった。
るように本番の映像を DVD にして、児童と一
単元終盤では、児童全員が自分の動きや全体
緒に見るようにした。また、 DVD は保護者に
の流れを覚え、自分達だけでステージ上で発表
も配布し家庭でも児童の努力を共感してもらえ
ができるようになった。劇の中で、自分の役割
るようにした。
を果たす責任感や、役を任せられる喜びを感じ、
生き生きと活躍する姿が見られた。また、友達
3 実践の経過と結果
と一緒に動く場面で、友達に声をかけて動きを
(1) 単元中の児童の様子
教えたり、友達が台詞を忘れた時に隣で小さい
単元の始めにデモ音源を使いながら創作劇を
児童に紹介すると、全く新しい劇に興味をもち、 声で教えてあげたりする様子が見られるように
なった。友達と一緒に音楽劇を成功させようと
自分達専用の歌があることを喜ぶ様子が多く見
する姿が多くみられるようになった。
られた。意欲をもって練習活動を始めることが
できた。
なる。自分の活躍だけでなく、友達の活躍も見
たり聴いたりして感じることで、自分と同じよ
うに友達の力を認め自他肯定感を高められるよ
うにした。自他肯定感を高めることで、より友
達と一緒に活動することを楽しみ、協力して取
り組む態度を育んでほしい。
⑥ 通常学級との交流及び共同学習として
劇を通して通常学級との交流及び共同学習が
できるように、劇の盛り上がる場面の歌を通常
学級の児童と一緒に歌を歌うようにした。
本学級の児童には、多くの友達と一緒に歌う
ことで劇が盛り上がり、大人数で歌うことの楽
しさを味わえるようにした。
通常学級の児童には、本学級の児童が創作劇
の中で自分の役割を果たそうとする努力を認め、
本学級の児童への理解を深められるようにした。
共に一つの作品を作ることで、通常学級と特
別支援学級の垣根を越えた一体感を感じてほし
いと願っている。
(2) 単元後の児童の様子
発表会単元では、その子に合わせた台詞や音
楽を用意することで、どの児童も人前で台詞を
言ったり歌を歌ったりする経験をすることがで
きた。それまで発語が少なかったり、人前に出
る時は誰かに頼りがちだったりした児童も、状
況作りをすることで、成功体験を積むことがで
きた。この成功体験が自信につながり、発語が
増えたり、通常学級の友達の前で大きな声で手
紙を読めるようになったりと、人前でも生き生
きと活動する姿が多く見られるようになった。
自分達だけの創作音楽劇を一緒に作り上げた
ことで、学級の一体感を強めることができた。
単元中は、一人いないだけでも劇が成立しなく
なることから、友達の大切さをより感じること
ができた。欠席や学年行事がなく、全員で一緒
に活動できる時は、「今日はみんなでできる
ね。
」 などと喜び合う様子が見られた。劇作り
の活動を通して、自然と友達を思いやる気持ち
を育むことができた。また、劇には一人一人に
役割があったことで、友達の活躍が目に見えて
分かり、お互いを認め合うことができた。
普段、活躍が伝わりにくい特別支援学級の児
童も、創作音楽劇を通して一人一人にスポット
を当てることで、通常学級の児童にも分かりや
すく児童の活躍を伝えることができた。通常学
級の児童から、「上手だったね 。
」 などと声を
かけられる姿も見られた。通常学級の児童も、
いつ練習したのか、特別支援学級ではどんな学
習をしているのかなどと、特別支援学級に興味
をもち、休み時間に遊びに来るなど、交流の機
会を増やすことができた。
発表会を成功させた体験から、次の発表会に
も期待感をもって楽しみにしている姿が見られ
た。「次は、○○の役がしたい。」
、「こんなス
トーリーがいい 。
」 などと、自分で配役やスト
ーリーを考えて教師に提案してくる児童もいた。
また、過去に行った創作音楽劇の音楽を思い出
して歌ったり、話題に出したりする児童も多く
いた。
創作音楽劇での楽しかった思い出が、次の発
表会への期待感や意欲につながってほしいと願
っている。
4
今後の課題
創作音楽劇は、発表会単元で児童が生き生き
と活躍するための支援の手立ての一つである。
発表には、合奏、群読、ダンスなど様々な形態
がある。創作音楽劇のみならず、様々な形態で
の発表を児童が体験できるようにすることが今
後の課題である。
その際、創作音楽劇と同様に、児童の様子に
応じて課題と役割を設定し、自他肯定感を高め
られる練習、発表にしていくことが重要である
と考える。様々な形態を通して、児童が生き生
きと活躍する発表作りをこれからも目指してい
きたい。
5
おわりに
発表会単元は、製品作り単元や調理単元のよ
うに明確な出来上がりがあるものではない。発
表会単元は、特別支援学級の児童にとって、活
動の成功が分かりにくい単元である。しかし、
どの単元においても、児童にとっての活動の成
功とは、児童が達成感を感じることができたか
どうかではないかと思う。これは、特別支援学
級だけでなく通常学級にも共通していることだ
ろう。
発表会本番を終えて、「自分は一生懸命頑張
った 。
」 と、児童が達成感を感じられたかどう
かを大切にしたい。本番だけでなく、単元全体
を振り返って一生懸命頑張れた自分を誇りに思
い、自分に自信をつけてほしい。どの児童も達
成感を感じ、成功体験を積み重ねていけるよう、
細かい目標の設定、見通しのある活動、「でき
た。
」 を実感できる状況作りを心がけたい。そ
して、教師も共に達成感を感じ、児童の活躍を
大いに褒め、成功を喜び合える学級を目指した
い。
【参考文献】
・文部科学省『特別支援学校学習指導要領解
説 総則等編 平成21年6月』
・文部科学省『小学校学習指導要領解説 音
楽編 平成20年8月』
・中坪晃一・名古屋恒彦 監修、山形県立米
沢養護学校 著(2008)『テーマのあ
る学校生活づくり』コレール社
・山田俊之(2013)『特別支援学級 de
ボディパーカッション』明治図書
【研究論文】
田喜野井小学校健康教育の研究
-心も体も元気な児童の育成を通して-
船橋市立田喜野井小学校
1
はじめに
健康教育については、小・中・高等学校現
行学習指導要領総則(平成20年3月告示)
の中で以下のように記されている。
学校における体育・健康に関する指導は、
児童生徒の発達段階を考慮して、学校の教
育活動全体を通じて適切に行うものとす
る。特に、学校における食育の推進並びに
体力の向上に関する指導、安全に関する指
導及び心身の健康の保持増進に関する指導
については、体育(保健体育)科の時間は
もとより技術・家庭科、特別活動などにお
いてもそれぞれの特質に応じて適切に行う
よう努めることとする。また、それらの指
導を通して、家庭や地域社会との連携を図
りながら、日常生活において適切な体育・
健康に関する指導の実践を促し、生涯を通
じて健康・安全で活力ある生活を送るため
の基礎が培われるよう配慮しなければなら
ない。
このように、健康教育の必然性が明示され
た今、学校教育でどのように取り組めばよい
のかが、問われている。本校は平成24年度
に船橋市教育員会から健康教育の研究校とし
て指定された。私は研究主任として3年間、
健康教育の推進のためにどうすればよいか考
えた。
2
研究の目的
本校の実態として、手洗い・うがい、歯磨き、
入浴など衛生的な習慣は身についている児童が
多い。しかし、睡眠時間やテレビ・ゲームをす
る時間などが適当ではなく、不規則な生活を送
っている児童もいる。年齢が上がるにつれて、
望ましい生活習慣が徐々に崩れていくことや、
友達との人間関係に悩んでいる児童が少ないこ
とがわかった。それは、年齢が上がるにつれて、
自我が芽生え、友達や親や教師のアドバイスを
受け入れにくくなり、少しずつ崩れていくので
はないかと考える。つまり、健康になるための
教諭
田中邦治
目的や方法の理解が浅い結果、持続性がないの
ではないかと考えた。そこで、健康教育を進め
る上で、健康に対する目的意識を持つことが
大切であると考えた。何のために健康になる
のかを児童自身が考えることである。その原
動力は、
「夢や目標をもち、実現することを目
指すこと」だと考えた。このことを「かがや
く自分」と名付けた。心の健康として、
「豊か
な感性をもち、自他を大切にする気持ちをも
つこと」、体の健康として「健康な体について
知り、たくましい体をもつこと」とした。
3
研究の方法
心と体が健康な児童を育成するために、
WHO(世界保健機関)が提唱しているライフ
スキルを活用することにした。WHO はライ
フスキルを、
「 日常生活で生じるさまざまな問
題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処
するために必要な社会的心理能力」であり、
「身体的、社会的健康を増進する上で重要な
役割を果たしている」と述べている。千葉県
の健康教育の推進の中でもライフスキルの育
成を重要課題としてあげている。ライフスキ
ルはいくつかあるが、本校では、児童の健康
に対する課題の解決に役立つこと、学習の中
で身に付けやすいこと、の理由から3つの力
を育てたい力とした。それは、
「自己認識スキ
ル」
「共感スキル」
「意思決定スキル」である。
本校では、自己認識スキルを「自己を認識す
る力」、共感スキルは、他の人の考え方や主張
を自分も同じように感じたり、理解したりす
る力なので、「他者を理解する力」、意思決定
スキルは「意思を決定する力」と名付け、共
通理解を図った。
そして、学習の中で3つの力を育てるため
の手立てとして、伝え合う活動を設定する。
学習指導要領では、伝え合う活動は、人間と
人間との関係の中で、互いの立場や考えを尊
重し、言語を通して適切に表現したり正確に
理解したりする活動であり、子供たちが社会
の中で、生きる力を育む上で、重要であると
している。そのためにまず、自分なりの考え
をもち、相手や場に応じて的確に、しかも豊
かに表現しようと意識する。さらに自分の考
えや思いを伝える中で、自分のこれからの行
動を決定し、実践していくと考えられる。伝
え合う活動の質を高める言語活動の基盤とな
ることと、豊かな感性も高められると考え、
国語科を土台とし、健康に直接的に関わる体
育、保健学習、保健指導、食に関する指導に
も重点を置いて教科活動を行うようにした。
また、教科外でも行事や児童会活動、朝活動、
休み時間、給食の時間など教育活動全体を通
して、健康教育の推進を図ることにした。
その手立てとして、授業で、
「 伝え合う活動」
を意図的に取り入れ、3つの力を育てる学習
活動を行う。その中で、「自己を認識する力」
「他者を理解する力」
「意思を決定する力」の
3つの力が身につくように表1のプロセスを
考案した。そして、伝え合う活動の具体的な
内容(図1)を設定し、学習の中で、活用し
ていくこととした。児童の実態調査としては、
心の健康の要素でもあるセルフエスティーム
(自己肯定感)、セルフエフィカシー(自己効
力感)をチェックする「キラキラたきのいっ
子チェク表」を定期的に実施し、児童の変容
を見る。また、体の健康として、千葉県教育
委員会が策定した「いきいきちばっこ生活習
慣チェック表」を参考にして学校独自のチェ
ック表「いきいきたきのいっ子生活習慣チェ
ック表」を作成した。定期的に生活面を振り
返り、体の健康について意識させ、変容を見
ることとした。これは、保護者にも見てもら
い、児童への励ましの言葉や家庭で取り組ん
でいくことを書いてもらうことにした。
【表1 3つの育てたい力】
自己を認識
自分自身、自分の性格、自分
する力
の長所と短所などを知り、自
分の行動を規定している要因
について認識した上で、自分
を前向きに肯定する力
他者を理解
自分がよく知らない状況に置
する力
かれている人の生き方であっ
ても、それを心に思い描き、
共感、理解することで、良好
な人間関係を築く力
意思を決定
いくつかの選択肢の中から良
する力
と考えられるものを選択し、
これからの生活で、どのよう
な考、どのように行動するか
を決める力
【表2
3つの力が身につくためのプロセス】
〈自己を認識する力〉
① 自分の長所と短所を見つめ直す。
② 自分の考えや課題をもつ。
③ 課題解決のために友達と話し合う。
④ 友達とお互いに認め合い、自分を肯定する。
⑤ 自分ががんばればできそうなことを考え
る。
〈他者を理解する力〉
① 課題について、友達と話し合い、同じ所や
違いに気づく。
② 相手の考えに共感的・肯定的な姿勢をもつ。
③ 友達と考えたことを全体に発表する。
④ 周りの人と共に高め合う意識をもつ。
〈意思を決定する力〉
① 自分の課題をはっきりとさせる
② 課題解決のための選択肢をできるだけ多く
考える。
③ 意思決定に関わる情報を収集する。
(教師か
らの専門的な知識や友達からの考え等)
④ 選択肢の中で、良い点と悪い点を考える。
⑤ 自分がより良い生活を送るためには、どの
選択肢がよいか意思決定する。
⑥ 選択した行動を続けるために必要なことを
考える。
【図1
本校が取り組む伝え合う力】
4
研究授業実践
(1)自己を認識する力
「5年生保健 心の健康」
ここでは、
「不安や悩みへの対処法」を学習
した。
① 分の長所や短所を見つめ直す
導入では、いくつかの生活場面の中で不安
を感じ、悩むような場面をあげて、その時の
自分の気持ちについて考えさせた。ここでも、
自分と向き合えるように時間を確保した。そ
の後、発表させると、前時と同じように不安
に感じる児童もいれば、前向きな気持ちにな
る児童もいた。ここで、不安は誰にでもある
こと、また、友達が自分と同じように感じた
り、人によって感じた方が違うことに気づか
せ、それを認め合うようにした。また、理由
を述べさせることで、自分の性格や今までの
経験が心の感じ方に影響を与えていることを
おさえた。導入の場面で、不安な気持ちにな
る児童が多かったことから、
「 不安や悩みがあ
るとき、どんな対処法があるのか」という学
習問題を立てた。
②自分の考えや課題をもつ
テーマとして「金曜日に友達とけんかをし
てしまい、そのまま家に帰ったが、心がもや
もやしている。その時、自分は家でどのよう
に過ごすか」とした。考えやすいように、教
師の対処法の例を挙げた。その後、自分でじ
っくりと考えさせた。自分の性格や今までの
生活を振り返り、どの方法がよいかを考える
ように声をかけた。
③課題解決のために友達と話し合う
短冊状に切った紙を配り、自分の考えを書
かせ、グループで伝え合う活動を行った。そ
こでは、必ず理由を述べるようにした。様々
な方法があり、自分と同じ方法でも理由が違
っているのもあったようであった。どのグル
ープも活発な意見交換がなされていた。
【資料1】
課題について話
し合っている児
童の様子
④友達とお互いに認め合い、自分を肯定する
共感や認め合う声をかけ合い、自己表現し
やすい場を作っていた。そして、全体の場で、
グループで出た方法について、代表の児童に
発表させた。きちんと理由を述べて発表する
ことができていた。
「 自分の好きなことをして、
気持ちをすっきりさせる」
「 お家の人に相談す
る」
「けんかの原因を考えて、自分が悪いと思
ったら、あやまることを考える」というなど、
たくさんあげられた。
⑤自分ががんばればできそうなことを考える
話し合いの中から、不安や悩みの対処法は、
様々な方法があることを知り、自分に合った
方法を選び、生活に役立てていくという、考
えにまとまった。
【資料2】対処法を書いたワークシート
(2)他者を理解する力
「6年生体育 ハンドボール」
①課題について、友達と話し合い、同じ所や
違いに気づく。
まずゲームをしてみて、チームのプレーに
ついて自分はどう思うのかを明確にし、それ
を踏まえて友達の意見を聞くようにし、お互
いの考えを知った。
②相手の考えに共感的・肯定的な姿勢をも
つ。
お互いに声をかけ合うこと、友達の良か
ったところやできていないところについて
アドバイスをし合うことを意識して学習を
進めた。
【資料3】
自分たちのプ
レーについて
話し合ってい
る様子
③友達と考えたことを全体に発表する。
体育では、チームで考えたことをまとめ、
次のゲームで体現していく。そして、他の
チームに考えを提案した。
④周りの人と共に高め合う意識をもつ。
次時の学習に向けて課題を確認した。
(3)意思を決定する力
「3年生保健 よい睡眠」
①自分の課題をはっきりとさせる
はじめに教師側で考えた事例を見せて、な
かなか起きられない原因を学級全体で考え、
おすすめを考えることにした。日常生活に、
問題点が少ない児童は、この場で実体験から
おすすめを発表できる場とした。
②問題解決のための選択肢をできるだけ多く
あげる。
寝る時刻が遅くなり、朝なかなか起きられな
い事態とした。児童からは、
「帰宅後、ゴロゴロ
としている時間をなくすと良い」
「 テレビやゲー
ムの時間が長い」「寝る前にゲームをしている」
など、改善方法が多く挙げられた。
③意思決定に関わる情報を収集する。
( 教師か
らの専門的な知識や友達からの考え等)
養護教諭から睡眠に関する最新情報を聞いた。
今まで学習をしたことのある内容よりも若干専
門的な内容にした。
【資料4】
養護教諭による劇
化しながらの説明
④選択肢の中で、良い点と悪い点を考える。
自分の課題に戻り、睡眠をとるためにできそ
うなことを考え、それについて実行する良い点
と悪い点を考えた。
⑤自分がより良い生活を送るためには、どの
選択肢がよいか意思決定する。
良い点ばかりではなく悪い点もあり、それ
らをふまえた上で葛藤の中から自分が確実に
できることかを深く考えるように声をかけた。
選択肢は2つ挙げて、より自分が実践できそ
うな方を選び印をつけた。児童が考えた選択
肢は、「ゲームをしている時間を少し減らす」
「学校から帰ってきたらまず宿題をする」「2
時間見ていたテレビを 1 時間にする」などが
発表された。
【資料5】
児童が考えた自分の
行動を書いたワーク
シート
⑥選択した行動を続けるために必要なことを
考える。
自分の考えた作戦を実行し、これからもより
良い生活をしようというまとめにした。
事後では、作戦の取り組みを振り返ること、
作戦自体に対する評価をして、維持をしたり変
更したりすることをした。ほとんどの児童が無
理な作戦を考えていなかったようで、作戦の変
更をした児童は少なかった。
本校では、各教科や単元の特性に合わせて
3つの力を育成するためにねらいを決めて、
健康教育の年間計画を立てた。
5
学校行事や日常的での取り組み
(1)朝運動
児童体育委員会が主体となり、毎日、朝の5
分間走る取り組みをしている。
「 がんばりカード」
を作成して、参加を呼び掛けている。自由参加
だが、多くの子どもたちが積極的に参加をして
いる。教師も一緒になって走ることで、さらに
意欲が増している。
【資料7】
朝運動の様子
(2)「体力ふなばしナンバーワン!」の参加
体育の授業や休み時間の中で、学級や学年単位
で取り組んでいる。
【資料8】
6年生の「長縄みん
なでジャンプ」の様
子
(3) 児童保健委員会による朝会での発表
保健委員会の児童が全校朝会で、健康な生活
を送るための発表を定期的に行っている。スラ
イドや劇、クイズなどで説明するので、とても
わかりやすく、児童が興味深く聞いている。
【資料9】
生活習慣病の予防
についての発表
(4)給食後の歯みがきの奨励
給食後に「歯みがきタイム」を設け、音楽
を流し、全校で歯みがきに取り組んでいる。
また、優秀なクラスを放送で発表することで、
意欲付けをしている。
【資料10】
低学年の歯磨きの
様子
(5)栄養士による紙芝居
食育の授業後に「苦手な食べ物を少しずつ
食べよう」というテーマで、紙芝居を学校栄
養士にしている。効果は絶大で、給食を残す
児童が減っている。
【資料11】
1年生に紙芝居をする栄養士と残すことなく、
きれいに食べられた給食
6
家庭との連携
(1)学校保健委員会の開催
学校保健委員会を開き、学校医や外部から
講師を招聘し、保護者や地域の方々と教職員
で、健康な生活について話し合っている。
【資料12】
生活習慣病や病気の予防
についての講習の様子
(2)家庭教育食育セミナー
「保護者と教師の会」
( PTA活動)が主催し、
家庭での食育についてセミナーを開いた。講
師として本校の栄養士を招き、バランスの良
い食事のメニュー作りや調理の仕方の工夫な
どを教えてもらい、参加者で実際に作り、食
べた。学校と家庭が連携して食について考え
る良い機会となった。
【資料13】
開催されたセミナ
ーの様子
(3)いきいきたきのいっ子チェック表の活
用
「いきいきたきのいっ子チェック表」を定期
的に家庭に持ち帰らせ、保護者からの励まし
の言葉を記入してもらった。児童自身の振り
返りを保護者が目にすることで、家庭での生
活を家 族と ともに 考え ること がで きる良 い
機会となったと考えられる。
また、保健だよりや給食だよりを毎月発行
したり、学校での保健や食育に関する学習で、
家庭での協力を呼びかけたり、継続した実践
活動を促すワークシートを配布したことで、
健康教育に関して、興味や関心をもってもら
えた。
【資料14】
児童のいきいき
たきのいっ子チ
ェック表の記入
と保護者からの
言葉
7
結果
(1)児童のアンケートより
自分が書いた目標をファイリングしたり、年
間を通して、掲示をすることで、自分自身で確
認、意識することができた。
はい
「かがやく自分」に近づけたと感じる児童
89
いいえ
11
0
【資料14
20
40
60
80
100
かがやく自分に近づいたと感いる児童】
また、3つの力で、必要なことで「はい」
「まあまあ」と答えた児童が約90%いる。
特に「自分と友達の良いところを知っている」
という項目は高い。普段の生活においても自
己認識だけでなく、友達のことを認め、良好
な人間関係を築こうという姿勢が見られる。
そして、自分の生活をより良くしていこうと
いう意識が芽生えてきた。
自分を良くしようと思いますか。
はい
まあまあ
いいえ
0
【資料15
50
100
自己を認識する力に関するアンケート】
友達の考えを認め、お互いのために役立てよう
と思いますか。
はい
まあまあ
0
50
【資料16
いいえ
100
他者を理解する力に関するアンケート】
生活を良くするための行動を決めることができ
8
まとめ
学習の中で、常に3つの力を意識して取り
組んできた。3つの力が学習を通して健康に
対する知識が付いてきた。その手立てとして、
「伝え合う活動」を行ったことは非常に効果
的だった。生活習慣も少しずつ改善され、高
学年でも大きくくずれることもありませんで
した。定期的に自分の生活を振り返ることに
より、課題や問題意識をもって、健康につい
て考えることができたためだと考えられる。
ますか。
9
はい
まあまあ
いいえ
0
50
【資料17
100
意思を決定する力に関するアンケート】
おわりに
健康教育は、小学校で終わりではない。小
学校では、
「 自分の生活には健康が必要である」
と感じ、実践していく方法を学ぶことが大切
である。児童にとっては、これからが本当の
健康教育の実践なってくるだろう。今回の研
究でその素地は作ることができたのではない
かと考える。
[参考文献]
・高橋浩之「健康教育への招待」1996 年 大
修館書店
・WHO「ライフスキル教育プログラム」1997
年 大修館書店
・文部科学省「小学校学習指導要領」2010 年
【資料18 セルフエスティームチェック表】
また、セルフエスティーム(自己肯定感)
の高まりが見られた。学習の中で自分の良さ
を感じ、目標に向かって努力しようという思
いが高まり、自分や友達を肯定的に受け止め
ることができるようになってたと考えられる。
セルフエスティーム(自己肯定感)
H25
7
H26
6
42
51
39
0
20
低い(%)
【資料19
55
40
60
中程度(%)
80
100
高い(%)
セルフエスティームチェック表】
【実践記録】
生徒の学ぶ意欲を高めるための授業づくり
-ICTを活用した授業改善を通して-
船橋市立法田中学校
1
はじめに
次期学習指導要領への議論が始まり、今の
子どもたちには、生産年齢人口の減少、グロ
ーバル化、絶え間ない技術革新の社会の中で、
他者と協働しながら価値の創造に挑み未来を
切り開く力が求められる。そのためには、学
びの質や深まりを重視しつつ、課題の発見と
解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(ア
クティブラーニング)が注目されている。そ
の指導に向けて教員は言語活動や探究活動、
体験活動、ICTを活用した指導方法の充実
を図っていかなければならない。
本校は市の情報教育の研究指定校から、本
年度奨励校として研究をさらに継続、伸長さ
せている。ICTの特徴を生かすことで生徒
の学びが広がり、授業の質の向上へとつなが
る。本研究では、ICTを活用した効果的な
学習方法を研究しつつ、それが生徒の学ぶ意
欲の向上にどうつながるか検証していく。
2
実践の方法
向上を図るべき学力とは、単なる知識や技
能に留まらず、学ぶ意欲や自ら学んで主体的
に判断・行動してよりよい問題解決ができる
資質・能力等を含めた力の育成である。周知
の通り、知識や技能と思考力・判断力・表現
力や学ぶ意欲は、本来相互にかかわりあいな
がら補強し合っていくものである。そのため、
学力の向上を図るには、両者を総合的かつ全
体的にバランスよく身に付けさせる視点が重
要である。その中でも「生徒の学ぶ意欲」に
視点を向けていきたい。ICTを活用するこ
とにより、
「生徒の学ぶ意欲」がどのように変
容するのかを、国語科・総合的な学習の時間
で授業実践を行う。
3
実践の具体的内容
(1)国語科の実践
①随筆の味わい『枕草子』
(2年生)
ア 授業形態 一斉授業
教諭
飯沼
樹里
イ
ウ
エ
オ
使用の目的 動機付け
活用する人 教員
ICT活用の場面 導入
ICT機器 タブレット端末、プロジェ
クター、スクリーン
本単元の1時間目
に、古典に対しての
興味・関心を高める
ために、平安時代の
人々の生活の様子の
写真や動画を流し、
また、清少納言に
関する絵や写真を写
[図1]授業風景
し出す。
(図1)
②『夏の葬列』
(2年生)
ア 授業形態
一斉授業
イ 使用の目的 教員の説明資料
ウ 活用する人 教員
エ ICT活用の場面 展開
オ ICT機器 電子黒板、パソコン
本単元の第二場面
で、主人公の様子を
鮮明にイメージする
ために、戦時下で銃
撃の中を逃げる主人
公が身を隠した芋畑
の写真を電子黒板に
写し出す。
(図2)
[図2] 授業風景
③『竹取物語』
(1年生)
ア 授業形態
一斉授業
イ 使用の目的 教員の説明資料
ウ 活用する人 教員
エ ICTの活用場面 展開
オ ICT機器 実物投影機(図3)
、スクリ
ーン、プロジェクター
本単元の1時間目に
冒頭を学級全員で音読
する際に、冒頭の文章
を実物投影機でスクリ
ーンに写し出し、それ
を見ながら音読する。 [図3] 実物投影機
④『河童と蛙』
(1年生)
ア 授業形態
一斉授業
イ 使用の目的 振り返り
ウ 活用する人 教員
エ ICTの活用場面 展開・まとめ
オ ICT機器 タブレット端末、電子黒板
本単元の最後の授業で、
詩の群読の発表会を行い
(図4)その様子を、タ
ブレット端末の動画の録
画機能で教員が記録し、
(図5)発表後、タブレ
ット端末を電子黒板につ
なぎ、録画したものを見
[図4]群読の発表
て振り返りをする。
(図6)
の様子
[図5]教員が録画して
ている様子
[図6]録画を見
いる様子
⑤『暗やみの向こう側』
(1年生)
ア 授業形態 一斉授業
イ 使用の目的 学習者の説明資料
ウ 活用する人 学習者
エ ICTの活用場面 展開
オ ICT機器 電子黒板、パソコン
本単元のまとめとして「読み」を深めるた
めにグループごとに音読発表会を行い、音読
の際の工夫点を説明するために、電子黒板の
デジタル教科書を使う。電子黒板に本文を大
きく写し出し、ペン機能を使い本文に線を引
いたり、文字を書いたりしてわかりやすく工
夫点の説明をする。
(図7・8)
[図7]ペン機能を使って
説明している様子
[図8]ペン機能を
使った本文
⑥読書への案内『夢を跳ぶ』(2年生)
ア 授業形態 一斉授業
イ 使用の目的 学習者の説明資料
ウ
エ
オ
活用する人 学習者
ICTの活用場面 展開
ICT機器 実物投影機、スクリーン
プロジェクター、タブレッ
ト端末
本単元のまとめとして、実物投影機を使っ
て自分が調べたことを発表する。
(図9)各自
が本文の内容で興味・関心をもった事柄につ
いて図書室の本や雑誌、タブレット端末を使
いインターネット等で調べ、それをレポート
にまとめる。まとめたものをわかりやすく発
表するために、実物投影機を
使って発表のための資料を拡大する。テーマ
料を拡大する。テーマと
しては、
「パラリン
ピック」
「バリアフ
リー」「義足」「障が
い者のスポーツ」等
多岐にわたる。
[図9]発表の様子
⑦旅への思い―芭蕉と『奥の細道』(3年生)
ア 授業形態 一斉授業・グループ学習
イ 使用の目的 学習者の説明資料
ウ 活用する人 学習者
エ ICTの活用場面 展開
オ ICT機器 タブレット端末、電子黒板
本単元のまとめとして『奥の細道』の俳句
の中から、グループごとに興味をもった一句
に関して、語句の意味や大意、書かれた背景
等をインターネットや本等の様々な方法で調
べ、調べた内容をタブレット端末のプレゼン
テーションソフトにまとめ、発表をする。
3人か4人のグループを作り、各グループ
に1台タブレット端末を配布する。タブレッ
ト端末は、インターネットが使えるだけでな
く、プレゼンテーションソフトの機能も使え
るので1台あれば作業を進めることができる。
〔図10〕グループでの話し合いの様子
発表は、グループごとにタブレット端末を
電子黒板につないで資料を写し出して行う。
(図11)言葉だけでなく、写真や絵をいれ
てわかりやすくまとめ、資料の色遣いやアニ
メーションにも工夫をする。
(図12)発表資
料に合わせて、発表者は説明をする。
[図11]発表の様子
まとめ、発表する。地域調査に行く際は、タ
ブレット端末をグループで1台持っていき、
写真や動画で記録を撮ってくる。
(図14)
地域調査後、パソコン室のパソコンを使い、
グループごとに、プレゼンテーションソフト
を使って地域調査の結果をまとめる。
(図15)
わかりやすい発表を意識しながら、文字の色
遣いやアニメーションの使い方(図16)に
工夫をし、写真やインタビュー動画の貼り付
け(図17)も行う。
◆生徒の作成した資料の一部
[図14]地域調査の
様子
[図15]資料作りをし
ている様子
◆生徒が作成した資料の一部
[図12]生徒の資料
(2)総合的な学習の時間の実践(1年生)
①防災学習(1時間目)
ア 授業形態
一斉授業
イ 使用の目的 動機付け
ウ 活用する人 教員
エ ICTの活用場面 導入
オ ICT機器 パソコン、プロジェクター、
スクリーン
防災学習の1時間目
に、防災に対する意識
を高めるために、東日
本大震災の時、被害が
大きかった福島県の街
や学校の様子等の写真
や映像を見る。
(図13) [図13]授業風景
• 不安なお年寄りや障害者の心
のサポートをする(話し相手に
なったりする)
• 人手が足りないとき施設の人
の手助けをする
[図16]文字や色遣いに工夫をした資料
~私たちにできること~
[図17]動画を貼り付けた資料
②防災学習(地域調査とまとめ)
ア 授業形態 一斉授業・グループ学習
イ 使用の目的 学習者の説明資料
ウ 活用する人 学習者
エ ICTの活用場面 展開
オ ICT機器 パソコン、電子黒板、タブ
レット端末
地域の防災について調べるという目的で、
グループごとに、地域にあるお店や公共施設
に行き、東日本大震災の時の被害の状況や大
きな地震が起こった時にどのような防災対策
をしているかをプレゼンテーションソフトに
発表は、電子黒板にプレゼンテーションソ
フトで作成した資料を写し出して行う。わか
りやすく説明するために、電子黒板の拡大機
能やペン機能を必要に応じて使いながら、発
表をする。例えば、調査先の場所の地図を拡
大し、さらにペン機能を使って印をつける。
(図18)また、特に伝えたい言葉に線を引
き言葉を目立たせたり、インタビュー動画や
写真、イラストを効果的に使ったりして発表
をする。
[図18]ペン機能と拡大機能を使っ
て発表している様子
4
実践の結果
(1)国語科の実践についての生徒の感想
①『枕草子』
(2年生)
・今までの古典の授業では、教科書や便覧の
写真を見て当時の人々の暮らしについて説
明を受けていたが、スクリーンに写真を大
きく写し出して説明されたことで、とても
見やすく、わかりやすかった。
・教科書や便覧にはない資料も写し出してく
れたので、興味をもつことができた。
②『夏の葬列』
(2年生)
・芋畑を見たことがなかったので、実際の写
真を見ることができてよかった。主人公が
いる状況のイメージがわいた。
③『竹取物語』
(1年生)
・音読する時に、顔をあげてスクリーンを見
ながらできたので、大きな声を出すことが
できた。
④『河童と蛙』
(1年生)
・群読の発表を録画したものをすぐに見るこ
とができて、思っていたより声が小さかっ
たし、早口になっていたことがわかった。
・他のクラスの発表も動画で見られたのでた
めになってよかった。楽しかった。
⑤『暗やみの向こう側』
(1年生)
・電子黒板を使って本文に直接線を引き、文
字を書くことができたので、音読の際の工
夫点を説明しやすかった。
・ペン機能はとても簡単に使えた。
⑥『夢を跳ぶ』
(2年生)
・模造紙に書いて発表するより、実物投影機
で資料を拡大して発表した方が、大事なと
ころを拡大して説明できたので、発表しや
すかった。
・実物投影機で写し出された資料は見やすか
ったので、他の人の発表も興味深く聞けた。
⑦『奥の細道』
(3年生)
・古典は好きではなかったが、資料作りにI
CT機器(タブレット端末)を使うことが
でき、日頃から使っている機器だったので、
意欲的に取り組めた。他のグループの発表
も興味をもって聞けた。
・文字を書いたり絵を描いたりすることが苦
手なので、パソコンを使ってまとめができ
て良かった。他の人の発表資料も見やすか
った。
・どの班も、写真やイラスト、文字の色遣い、
レイアウトなどに工夫があり、発表を聞い
ていて楽しかったし、わかりやすかった。
(2)総合的な学習の時間の実践についての生
徒の感想
①防災学習(1時間目)
・東日本大震災後の福島県の学校の様子を見
て、衝撃を受けた。防災に対して真剣に考
えていこうと思った。
・地域の防災対策はどうなっているのか気に
なった。
②防災学習(地域調査とまとめ)
・パソコンを使っての資料づくりは、とても
楽しかった。今までやっていた新聞等の手
書きでの資料作りに比べて、作業がはかど
っていたと思う。
・お店の人の生の声を聞いてもらうために、
インタビュー動画を流すことができたのが
よかった。みんなにもお店の人の考えが伝
わったと思う。
・タブレット端末は手軽に使え、動画も写真
も簡単に撮ることができたので、地域調査
もスムーズにできた。
・今回の学習はとてもやりがいがあり楽しか
ったので、またICTを使った調べ学習や
発表をやりたいと思った。
(3)アンケート結果
ICTを活用することで、授業に対
する興味・関心が高まりましたか
変わら
ない
18%
高まっ
た
82%
授業後に、実践を行った各学級で実施した
アンケート結果である。国語科の実践、総合
的な学習の時間の実践をひとまとめにしたも
のである。ほとんどの生徒が、授業に対して
「興味・関心が高まった」と答えていた。I
CTを活用した効果があったことがわかった。
しかし、
「変わらない」と答えた生徒が18%
いたことも結果として受け止めなければなら
ない。
5
実践の成果と課題
(1)成果
平成25年度~27年度までの生徒の変容
を授業後のアンケートという形でまとめた。
(左から平成25年度・26年度・27年度)
①ICTを活用した授業は
楽しいですか
(%)
100
80
60
40
20
0
楽しい
普通
楽しくない
②ICTの活用は内容理解
に役立ったと感じますか
100
80
60
40
20
0
感じる
どちらかと
感じない
いうと感じる
③今後もICTを活用した
授業を受けたいですか
100
80
60
40
20
0
楽しい
普通
楽しくない
受けたい
どちらでも
受けたく
よい
ない
どのアンケート結果も、ICTの活用によ
る効果が非常に高いことを示しており、IC
Tを活用した授業を生徒たちが楽しく感じ、
そのような授業を望んでいることがわかった。
今まで授業に意欲がもてず積極的に参加して
いなかった生徒が、大きく提示された写真や
動画を見ることで興味をもち、もっと「見て
みたい」
「知りたい」と感じ、集中して授業に
取り組むようになった。また、授業に積極的
に参加していた生徒が、ICTを活用して自
分の考えを可視化し、わかりやすく発表する
ことができた時に、より一層授業を楽しいと
感じていた。よって、ICTの活用は、学習
意欲の向上につながっていると考えられる。
さらに、学習意欲は様々な「身につけたい力」
とかかわりあっているので、学習意欲が高ま
ることで、知識や技能と思考力・判断力・表
現力が身につくことにつながり、最終的には、
学力向上にもつながっていくと考えられる。
また、課題の発見と解決に向けて主体的・協
働的な学ぶ学習(アクティブラーニング)が
注目されている中、ICTを活用することで、
それぞれの課題を機器の画面に写し出すこと
で共有が容易になり、グループ活動が進みや
すくなることや、調べ学習など主体的に課題
を解決するための学習にICTが効果的であ
るなど、協働学習や課題探究学習にも適して
いるといえる。また、ICTを活用すること
で、自分の考えを多様な方法で表現すること
が可能になるので、表現の幅が広がり、効果
的に考えを伝えることができる。よって、言
語活動の充実にもつながると考えられる。
生徒たちが、自分の能力を発揮し、自信を
もって学んでいくためにも、生徒にとって興
味・関心が高く、身近なものであるICTを
活用し、その中で協働学習を充実させていく
ことが、今後はさらに必要になってくると考
える。教員側が、
「学習のねらい」を達成する
ために、ICTを効果的に活用した授業設計
をどう行っていくかが問われてくる。
(2)課題
研究をしている中で、教員も生徒もICT
を使うことが授業の目的のようになってしま
い、使っているだけで満足し、本来の授業の
目的を果たせていないことがあった。ICT
を授業の目的にしてしまうと、教員のひとり
よがりや生徒も遊び感覚で使用してしまうお
それがある。生徒がICTにだけ目を奪われ
る授業デザインやICTに頼りすぎて「読・
書」がおろそかになるようでは、学力は向上
しない。また、教員がICTに頼ってばかり
で、自分の言葉で生徒と向き合う授業をしな
くなるという危惧もあり、ICTの発展が、
授業力向上に対してマイナスになってしまう
ことも考えられる。しかし、ICTの活用が
もたらす授業力向上の効果に視点を向けて取
り組むことが大切である。そのためには、
「I
CTはあくまでもツールであって目的ではな
い」ということを大前提に授業を組み立てて
いかなければならない。
「学習のねらい」と「め
ざす生徒像」を明確にもち、ICTの特性を
よく理解することが大切である。どのように
ICTを活用すれば「学習のねらい」の達成
に近づけるかを常に考え、授業設計をする必
要があると考える。
6
おわりに
私が教員になりたての頃は、ICTを活用
している先輩教員はほとんどおらず、私もそ
の必要性を感じていなかった。先輩教員に、
「教員はチョーク1本で、生徒に語って聞か
せられる授業力を身に付けていなければいけ
ない」と指導を受けたことがあった。私も実
際そう思うし、そうなりたいと思っている。
しかし、時代の流れや生徒の実態を考えると、
ICTの活用には効果があり、無視できない
現状がある。今まではホワイトボードや付箋
紙、ワークシート等で、課題の共有や自分の
考えを発表してきたが、ICTを活用するこ
とで、動画を流すことができたり、文字や画
像を拡大したり、直接書き込みができたりと、
紙媒体では不可能だったことが可能になった。
確かに、ICTがなくても授業はできる。だ
からこそ、まずは、学習活動で「育てたい生
徒の姿」を明確にし、生徒がその姿に行き着
くためにはどのような指導や支援をすること
が最適であるかを常に考えることが大切であ
る。その際ICTの活用が効果的であるなら
ば活用し、生徒の学ぶ意欲を高めながら、学
力向上のために授業力をつけていきたいと考
えている。今後もさらに研究を重ね、確かな
授業力を身に付けた教員になりたい。
【参考文献】
・田邊克彦「授業におけるICT活用ガイド
ブック~理科編~」神奈川県立総合教育セ
ンター、2008 年
・文部科学省「中学校学習指導要領解説 国
語編 平成20年度9月」東洋館出版社、
2008 年
・船橋市立法田中学校「平成25年度船橋市
教育委員会情報教育研究指定校 研究紀要」
2013 年
・船橋市立法田中学校「平成26年度船橋市
教育委員会情報教育研究指定校 研究紀要」
2014 年
・文部科学省「学校教育 学校教育の情報化
の推進」
(http://jouhouka.mext.go.jp/school/#)
【教材・教具の開発】
地中海性気候をとらえる教具開発
~イタリアのドリンクメニューを通して~
船橋市立御滝中学校 教諭 伊勢﨑 済
1 問題の所在
世界には様々な自然環境のもとで,人々が
生活している。雪と氷の中でのくらし,寒暖
の差が激しい土地でのくらし,雨のほとんど
降らない乾燥した地域でのくらし,常夏の島
でのくらしなど,日本とは違う様々な気候の
特徴がある。寒帯では、一年の平均気温が一
番低い。冷帯は、気温の寒暖差が激しい。乾
燥帯では、降水量がほとんどない。熱帯では、
一年を通して気温が高いなど雨温図からそ
の気候の特徴をおさえることができる。
しかし、その地域のくらしを理解するうえ
で,雨温図の読み取りだけでは不足である。
とりわけ、温帯の雨温図の読み取りを行う際、
中学校の地理では、温帯には地中海性気候、
温暖湿潤気候、西岸海洋性気候といった三種
類の気候が扱われ、雨温図だけで,見分けを
付けることは難しい。そこで、教科書は,雨
温図だけではなく、その地域の特色について,
いろいろな視点からの情報を提供している。
だが、特色をつかむ過程で、世界地理の学
習の場合、いろいろなことをまとめていくと、
行ったことのない場所がほとんどであるた
め,言葉だけの羅列や暗記中心になってしま
う可能性がある。
2 研究の目的
本研究の目的は,イタリアの地中海性気候
の特徴をとらえる教具開発と,その教具を用
いた授業によって得られる成果と課題を明
らかにすることにある。
3 研究の方法
本研究は,地中海性気候の特徴を捉える教
具開発を行い,教具を用いた授業実践を船橋
市立御滝中学校1年生6クラスで実施した。
なお,本研究は,事前アンケート,事後ア
ンケート,実際の授業の生徒の様子や発言等
をもとに,まとめている。
4 教具開発
本研究では,
『世界各地の人々の生活と環
境』の『温暖な土地にくらす人々』に関する
授業内容を理解させる教具開発を行った。東
京書籍の教科書は,この単元では,イタリア
にくらす人々の生活を取りあげ,温帯の生活
についてふれている。筆者は,日本とイタリ
アは同じ温帯に属しながらも,雨温図を見る
と,降水量に違いがあり,イタリアの地中海
性気候を理解させることが,日本とイタリア
の気候の違いを理解させることにつながる
と考えた。そこで,地中海性気候を理解させ
ることを目的にして,下記の三点に着目して,
教具開発を行った。
一点目は,社会科への興味が低い生徒や学
力差のある生徒に対しても興味をもてる教
具になっていることである。生徒自身が「こ
れについて学んでみたい」
「一体これは何だ
ろうか」など興味をかき立て,主体的に学ぶ
姿勢を作り上げる必要がある。
二点目は,生徒に提供する教具の中に,生
徒の思考を揺さぶる内容が含まれているこ
とである。北氏(2015年)は,生徒の思
考が揺さぶられるときとは,「資料の事実と
既有の知識や見方とのあいだにずれがある
とき」と述べている。
三点目は,地中海性気候を理解するうえで,
生徒のイメージに残りやすい事象を取り扱
うことである。イタリアの雨温図を見て,6,
7月にかけて暑く乾燥し,12月~2月にか
けて比較的降水量が多くなるのが地中海性
気候であると生徒に教えても,イメージしに
くい。そこで,地中海性気候を理解するうえ
で,イタリアでくらす人々の生活に根ざした
ものが,教具の中に盛り込まれるとイメージ
がしやすいものになると考える。大山(20
13年)は,地域の特色を理解するために,
食文化に着目する重要性を下記のように述
べている。
特定の地域の食文化は,その地域の位置,
地形,気候,水利,農業,水産業,商業,
交通など複数の要素が関連して生み出され
ているものであり,生徒にとっても,ご当
地グルメなどの形で親しまれている。
(大山
喜裕 社会科教育平成25年11月号『社
会を見る目 ゆさぶるビッグ教材56』7
4ページ)
上記から,イタリアでつくられる農作物の
ぶどうに着目して地域的特色である地中海
性気候についてとらえていく。
上記で述べた三つの着目点から,イタリア
のドリンクメニューを教具として開発した。
実際に開発したものは,すべてイタリア語で
書かれており,このメニューを一目見ただけ
では,生徒は,何について書かれているかわ
からないものになっている。実際に作成した
メニューは以下のとおりである。
Lista delle bevande
ドリンクメニュー
Acqua…€3.7
水
Cappuccin…€2.0
カプチーノ
Vino rosso…€0.5
赤ワイン
Vino bianco…€0.5
白ワイン
※生徒に見せたメニューには,日本
語を載せていない。
図1 授業で配ったメニュー
生徒には,イタリアのドリンクメニューで
あることは伝えず,何について書かれている
か考えさせることで,興味・関心をかき立て
る状況をつくるようにした。ドリンクメニュ
ーであることに気づくヒントとして,
「Acqua」,「Cappuccin」と書いたものを載せ
た。なお,「Acqua」は「水」,「Cappuccin」と
は「カプチーノ」である。イタリア語のメニュ
ーは英語に似ているので,ある程度の予想は
立てられると考える。なお,このメニューの
値段は,イタリアのバール(カフェ)の値段
を参考に筆者が値段を決めている。
また,「€」と数字から何かの値段や価格で
あるという予想も立つ。このような点から,
ドリンクメニューであることに気づかせた
い。生徒が何かのドリンクメニューと予想を
立てたら,「水がこのメニューの中で一番高
いことになるけど大丈夫?」と揺さぶりをか
ける。日本で暮らす生徒は,水が高いという
発想がなく,思考がゆさぶられると考える。
水が高いということは,水が貴重である。つ
まり,年間を通して,降水量が比較的少ない
からこそ,水の値段が高くなるという発想に
つながる。
また,
「Vino rosso」が「赤ワイン」,
「Vino bianco」が「白ワイン」と読み取るこ
とは難しいが,このメニューの中で一番安い
値段であることには気づく。ワインの原料の
ぶどうがイタリアではたくさんとれて,値段
が安いという考えにつながる。
また,ぶどうという農作物が育つ生育環境
を通して,夏の時期に暑く乾燥し,冬の時期
に比較的雨が多く降る地中海性気候の特徴
を説明することもできる。
5 授業の実際
授業では,最初,教科書等は使用しないこ
とを生徒に告げる。イタリア語で書いたドリ
ンクメニューを班に一枚配付して、そこに何
が書かれているかを班で話し合いをする。話
し合いの時間は約10分とった。ただし、生
徒には、メニューであることやイタリア語で
書いてあることは伏せておく。メニューには、
『 lista delle bevande acqua … € 3.7 、
cappuccin…€2.0、vino rosso…€0.5、vino
bianco…€0.5』と記載してある。紙を配った
際に、生徒には、何が書かれているか根拠を
もって、考えることを前提に話し合いを行わ
せた。生徒は、何語で書かれているかわから
ず、
「英語じゃない!」と発言し,戸惑う様
子が見受けられたが、
「Lista」と言う文字か
ら、何かのリストであることを推測したり、
「acqua」という文字から「アクアは水では
ないか」と考えたりした。
また、
「€」の後ろに数字が載っていること
から,何人かの生徒は「何かの料金が記載さ
れているのではないか」と判断した。
・Vino rosso と Vino Bianco は同じ種
類のもの
2班
3班
図2 グループで予想を立てている様子
また、
「Cappuccin」を「カップチン」
,
「カ
プチン」と何度も発音していくうちに「カプ
チーノ」と判断した班は、何かのメニューで
あることに気づいた。
生徒が、アクアとカプチーノを読み取り、
ドリンクメニューではないかと予想を立て
始めたときに、授業者は「どうしてカプチー
ノよりも水の値段が高いの?」と発問した。
生徒 K は「水の方が高いわけがない」
、生徒
A は「外国は水道水が飲めないから水が高く
なっている、ものすごく高いミネラルウォー
ター!」
、生徒 O は「水が少ないから値段が
高い」
、などの意見が出た。生徒 O には,ビ
ノロッソやビノビアンコが安い理由も聞い
てみると、「ビノロッソとビノビアンコが何
かわからないけど、たくさんあるから値段が
安い」という意見を述べた。
他のクラスの班の意見では、
「€」を「ドル」
と答える班があったり、
「どこかの国の消費
税」のリストと答えたりする班もあった。い
ずれも根拠を説明することができない状態
であった。全班とも記載してある単語を無意
識に音読する中で、
「acqua」を「アクア」と
読み,「水」と推測したが、ドリンクメニュ
ーと自信をもって答えることができない班
が多かった。
各班の話し合いの後、班ごとに発表を行っ
た。下記は各班の発表内容である。
班名
1班
班の意見
・Lista delle bevande は店の名前
・品物の名前が載っている
4班
5班
6班
・Lista delle bevande は店の名前
・商品名が載っている
・読み方は,アクア,カプチーノ,ビ
ノロッソ,ビノビアンコ
・ビノビアンコはパスタ
・何かのメニュー
・アクアとカプチーノは飲み物
・€は値段
・水がカプチーノよりも高いのは,貴
重だから,恵みの水
・何かのメニュー
・Lista delle bevande はカフェの名
前
・読み方はアキュア,カプチーノ,ビ
ノロッソ,ビノビアンコ
・すべてコーヒーの種類
・€は値段
・€は値段
・店の名前が載っている
・アクアは水,カプチーノはコーヒー,
いずれも飲み物
・パスタでボンゴレビアンコ,ボンゴ
レロッソと聞いたことがあるから,
ビアンコは白で,ロッソは赤。白と
赤がつく飲み物はワインしかない
・メニュー
・アクアは水
・カプチーノはコーヒー
・€はお金の単位
表1 各班の発表内容
各班の発表が終わると,授業者から正解を
告げ,5班が完璧な解答をした。教室の中で,
歓声があがった。
次の発問として「なぜ、このメニューの中
で水が一番高いのか(ペットボトル約400
円)
」と生徒に問いかけると、
「水が貴重だか
ら」と答える生徒が何人か出てきた。その答
えが正しいか根拠を探すために、ローマの雨
温図を提示し、読み取りを行った。多くの生
徒は、年間降水量が少ないことに気付き、水
が貴重であることを読み取った。
そして、
「Vino rosso」
「Vino bianco」は「赤
ワイン」
「白ワイン」であることを改めて伝
え、
「なぜこんなにワインが安いのか(それ
ぞれグラスワイン約60円)
」と聞くと、
「ぶ
どうがたくさん取れるから」と答える生徒が
多くいた。実際にぶどうがたくさんとれるか
確認するために,教科書に載っている辺り一
面に広がるぶどう畑の様子や,ワインやぶど
うジュースを食卓に並べているイタリアの
人々の様子を見せた。そこで,
「ぶどうが沢
山採れる気候とはどのような気候なのか」と
問いかけ,イタリアの雨温図から気候の特徴
を読み取らせた。6,7月の雨の量が少なく、
気温も上がり暑く乾燥する気候に気づくこ
とができた。
6 研究の成果
本研究の成果は、以下の三点である。
一点目は,イタリア語で書かれたドリンク
メニューを読み解き,多くの生徒がメニュー
に興味をもったことである。生徒達は,何語
で書かれているかわからないメニューに書
かれた文字を音読する中で,「アキュア」か
ら「アクア」
,
「カップチン」から「カプチー
ノ」と言い換え,聞いたことのある言葉に変
換作業をしていた。ふだん,英語以外の言語
を学習する機会がないので,生徒達全員が知
らない言語という前提が,生徒の興味をかき
立てたのではないかと考える。
二点目は、発問のタイミングを遅らせて,
生徒達の思考を再構築し,意見を活発に言う
状況を作り出せたことである。
「カプチーノ
より水の方が高いわけがない」と発言した生
徒 K は、水よりもカプチーノの価格が高いと
いう既有の知識や見方にとらわれ、授業者の
言い分に納得してしまったと考える。
また、生徒 A は、外国では水道水が飲めな
いという根拠をもとに、水が高くなる理由を
述べている。生徒 O の発言は、水そのものが
少ないから、水自体に価値があるという考え
方をしている。生徒 A と生徒 O は,ドリン
クメニューの中で水の値段が一番高いとい
う資料の事実と,水が一番高い状況は日本で
はあり得ないという見方のずれについて,根
拠をもって説明している。
三点目は,ぶどうという農作物を扱うと,
地中海性気候の特徴を捉えやすくなったこ
とである。事後アンケートで,イタリアのロ
ーマの雨温図の読み取りを行い,32人中1
3名が地中海性気候について正しく説明で
きた。
また,
「ぶどうが育つ気候とはどのような
気候ですか」という質問項目については,雨
温図から地中海性気候の読み取りができな
かった生徒でも,
「夏の時期に気温が上がり,
乾燥する」といた趣旨の地中海性気候の特徴
を捉えた解答をすることができた。上記から,
ぶどうが育つ環境を理解することが,地中海
性気候を理解するうえで補助的な役割を果
たしていると考える。
地中海性気候についての説明は,教科書で
は「温帯の中でも,地中海の周りに広がって
いるこのような気候を地中海性気候といい
ます。」と記載されている。この記述では、
地中海周辺にしか地中海性気候は見られな
いような印象をもってしまう可能性が高い。
ぶどうという農作物に着目して地中海性気
候をとらえることで,地中海周辺でなくても、
「ぶどうがたくさん採れる地域は地中海性
気候ではないだろうか」と予想を立てること
ができると考える。北アメリカ州の学習で,
ロサンゼルスの雨温図の読みとったとき、地
中海性気候の特徴を示していたことから,
「ぶどうがたくさん採れる」と生徒達が発言
し,まだ学習していない地域のくらしについ
ても既習知識を活かし,応用する様子が見ら
れた。
アンケート項目
正解者数
① 雨温図を見て,気候の特徴を 13/32
読み取りなさい。
② ぶどうが育つ気候とはどの 22/32
ような気候ですか。
表2 事後アンケート項目の一部
7 研究の課題
本研究の課題は,習ったことのない言語を
資料として取り扱う難しさである。イタリア
語を解読させたことによって,根拠のない解
読をしてしまう班があった。授業実践を行っ
た6クラスの中で正解のドリンクメニュー
と導き出した班は,全体の約3分の2である。
しかし,それ以外の班は,
「税金について記
載されたもの」や「公共料金の価格」
,
「公共
交通機関の運賃」などがあった。読み解かせ
る最初の段階のヒントとして,店のメニュー
であることを伝え,生徒の思考の範囲をある
程度制限することで大きく脱線してしまう
ケースが避けられたと考える。
【参考文献】
・北俊夫『知識の構造図を生かす問題解決的
な授業づくり 社会科指導の見える化=
発問・板書の事例研究』明治図書(201
5年)
・社会科教育平成27年11月号『どう磨
く?社会科授業デザインと実践力』明治図
書(2015年)
・社会科教育平成25年11月号『社会を見
る目 ゆさぶるビッグ教材56』明治図書
(2013年)
・佐伯胖『
「学ぶ」ということの意味』岩波
書店(1995年)
・柴田義松,山崎準二『教育原論 第二版』
学文社(2009年)
【実践記録】
数学的な表現力を高めるための授業実践
-図形の証明の学習を通して-
船橋市立二宮中学校
1
はじめに
学習指導要領の中学校数学科の目標として、
「数学的活動を通して、数量や図形などに関
する基礎的な概念や原理・法則についての理
解を深め、数学的な表現や処理の仕方を習得
し、事象を数理的に考察し表現する能力を高
めるとともに、数学的活動の楽しさや数学の
よさを実感し、それらを活用して考えたり判
断したりしようとする態度を育てる」と示さ
れている。
本校の研究主題は「自ら考え、豊かに表現
できる生徒の育成」であり、表現力の育成に
ついて重点的に取り組んでいる。また、数学
科の研究主題は「言語活動が充実するための
学習活動の研究」として、数学の授業におい
ても言語活動を充実させ、数学の理解を深め
ていく取り組みを進めている。
その中でも特に、図形の証明の学習を進め
る場面で表現力が重要になってくると考える。
証明以外の学習の中でも、言葉や数や式など
を使って説明するような場面はあるが、証明
では、推論の過程を正確に分かりやすく表現
することが指導のねらいとしてあるように、
特に重要であると考える。説明をする際には、
精錬された内容で伝えることが重要になって
くる。
そのために、思考の過程を整理し、
「見える
化」できるようにしたものが、今回の授業の
実践で取り入れた「証明補助プリント」であ
る。このプリントを活用することで、生徒の
思考力や表現力がどのように向上したのか研
究を進めることにした。
(1)生徒の実態
本校3年生の図形の学習を進める前の、意
識調査の結果が以下の(表1)である。
この調査によると、数学が好きであると答
えた生徒は約半数なのに対して、得意である
と答えた生徒は3割程度にとどまっている。
好きだとは思うが、苦手だと感じている生徒
が多いことがわかる。この理由として、途中
までは考えることができたのに、答えを導き
出すことができなかったことや、最初に何を
教諭
竹之内
裕美
すればいいかわからないことなどが、生徒か
らの理由としてあがった。特に文章問題など、
今まで学習した内容を発展させて考える場面
で、何から考え始めたらいいのか分からない
ことや、どのように進めればいいのか見通し
が持てないことで、苦手意識を強く感じてい
るようであった。
また、数学の学習に対して努力をしている
と答えた生徒は約7割である。このことから、
数学がもっとできるようになりたいと感じて
いる生徒が多いことがわかる。苦手意識を強
く感じてしまう部分を緩和して、少しでも得
意だと感じることのできる生徒を増やしたい。
〔表1〕意識調査の結果
2 実践の方法
(1)証明補助プリントを活用する授業につい
て
中学校の数学科の学習内容では、第2学年
で「図形の合同」、第3学年で「図形の相似」
の単元で、図形に関する証明を学習していく。
この証明の学習の場面で、
「 証明補助プリント」
を使って授業を進めていく。
(2)証明補助プリントを使った授業の流れに
ついて
図形についての証明する場面で、生徒が頭
の中で思考する流れを見えるように書き出せ
る手だてとして、
「証明補助プリント」を活用
する。(図1)
が把握できるようにする。そして、三角形の
対応する辺や角を全て抜き出し、記入をする。
等しいことが言えるかの○×を書き、その理
由について図形の性質などを記入していく。
最後に等しい理由を選択し、利用できる合同
条件を確認する。
〔図1〕
このプリントは、上から順に記入すること
で、実際に証明の問題を解決するまでの思考
を整理し、段階を追って文章で見えるように
するためのプリントである。実際に、図形の
合同を証明する問題に取り組んだ生徒のノー
トが、(図2)と(図3)である。
まず、実際に黒板で図を説明しながら提示
し、生徒にも同様の方法で作図をさせる。等
しい長さで作図した線分を確認しながら、問
題文を提示していく。
〔図3〕
このプリントを記入することで、生徒個人
が証明で苦手としている部分を、それぞれの
ポイント「①合同な三角形を見つけることが
できたか ②対応する辺や角がわかっている
か ③等しいものがどれかとその理由がわか
るか ④三角形の合同条件を的確に選択でき
たか ⑤証明をかくことができたか」で分け
て考えることができるので、何をできるよう
になればいいのか明確に示すことができる。
その他の問題と生徒が記入した補助プリント
は、(図4)である。
〔図2〕
(図3)には、生徒が作図した図形と同様
に作図することができる図形がかかれている。
まずは、問題文から仮定と結論を抜き出して、
プリントに記入をする。次に、合同に見える
三角形を記入する。このとき、プリントにあ
る図形を利用し、合同に見える三角形に色を
つけさせることで、すぐに三角形の位置関係
〔図4〕
〔図5〕
証明の文章を書く際には、
(図5)のように
見開きでノートを活用して記入をしていく。
等しいことが言える理由で○がついているも
のを選択し、順番に理由を記入していけば、
証明の文章を組み立てることができる。ノー
トを見開きで使うことで、必要な理由を矢印
で示して確認しながらかくことができる。
以上が、授業1時間の流れである。
3 実践の経過と結果
(1)図形の合同証明での活用について
第2学年での証明補助プリントを使った授
業で、次の内容が問題点として挙げられた。
・授業1時間に証明の問題を1つしか扱わな
いのは演習量が少ないのではないか
・作図の場面を毎回取り入れると、時間がか
かってしまうことと、ノート内に似たよう
な図が2つ存在してしまうので、必要ない
のではないか
・証明補助プリントを使わなくても、問題を
進めることができる生徒への、追加の課題
が必要なのではないか
〔図6〕
これにより、作図に使っていた時間が短縮
されたので、授業の1時間の流れを、
「①全体
で補助プリントを使用して、例題として相似
の証明をする、②例題と似た形の証明問題を
練習問題として、自力解決用に提示する、③
練習問題の証明の流れを確認する」という形
に変えて取り組むことにした。
また、ノートを見開き1ページで活用でき
るようにもした。生徒が実際に書いたノート
が、次の(図7)と(図8)である。 相似
な図形の対応する辺や角を、細かくプリント
の図形に書き込めるようになっている。
以上のことを踏まえて、第3学年での相似
の単元では、1時間の授業の流れを改善させ
た。
(2)図形の相似証明での活用について
相似の証明では、作図をすることが難しい
図形もあるため、作図はせずに補助プリント
に問題文と図形を示す形式にしてみた。
( 図6)
〔図7〕
練習問題プリントは、プリント右側の中央
部に貼られている。証明補助プリントの上側
部分だけを抜き出したものである。自力で解
くことが難しい生徒でも、仮定と結論だけは
枠を残し、抜き出してかけるようにした。
〔図8〕
また、今回は発展問題のプリントを用意し
た。問題が終わってしまった生徒が、残った
時間で取り組むことができるようにした。
4 実践のまとめ(成果と課題)
(1)証明補助プリントの自力解決の状況
実際に、生徒は自力で証明補助プリントを
どれだけ埋めることができるのか調査した。
調査の項目は、
「 ①図をかく、②仮定、③結論、
④合同(相似)に見える三角形⑤対応する辺
と角、⑥等しいと言えるか○×、⑦等しい理
由、⑧合同条件」
(ただし、相似に関しては①
図をかくことに関しての項目はない)として
いる。(図9)
証明補助プリントの自力解決の割合
(2)生徒の意識調査の結果
中学3年生の4月と11月に、証明補助プ
リントを使った授業をうけた生徒に対して意
識調査をした。11月の調査は、相似の証明
の学習が終了した時点で調査を行ったもので
ある。
「証明の問題は得意ですか?」という問
いの結果が(図10)と(図11)である。
4月の意識調査
いいえ
43%
100%
80%
60%
はい
6%
どちらか
といえば
はい
23%
どちらか
といえば
いいえ
28%
40%
20%
0%
がほとんどであることがわかる。その中でも、
自力解決の割合が一番低いのが⑦等しい理由
の部分であった。証明の文章の記述ができな
い理由として、等しい理由を書くことができ
ないことが大きな要因として考えられる。等
しい理由を説明するには、図形の性質を覚え
て、その性質を適切に使えることが重要であ
る。図形の性質を何度も学び直す機会を設け
たり、使うことのできる性質をあらかじめ確
認して提示しておくことで、証明ができない
場面を少なくすることができるのではないだ
ろうか。
対策として、証明の際には使用できる図形
の性質を書き出したマグネットプレートを用
意した。黒板の端に今まで学習した図形の性
質を提示することで、
「 どんな性質があったか
全て思い出す」ことができない生徒に、
「何の
性質が使えるか選択する」ための支援をする
ことができる。これにより、証明補助プリン
トを記入する際のつまずきを減らすことがで
きるのではないかと考える。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
合同 77% 87% 94% 94% 88% 78% 72% 82%
相似 0% 82% 93% 94% 87% 74% 69% 85%
〔図9〕
この割合を見てみると、補助プリントの各
項目を自力で記入することができている生徒
〔図10〕調査数129名
合同であることを証明する文章を、
どこまで書くことができますか?
11月の意識調査
はい
6%
いいえ
34%
どちらか
といえば
いいえ
34%
どちらか
といえば
はい
26%
⑤
7%
④
14%
①
53%
③
14%
②
12%
〔図12〕調査数125名
〔図11〕調査数125名
この結果を見ると、
「いいえ」と答えた生徒
が43%から34%に減少しており、証明に
対する苦手意識を減らすことができたと考え
る。また、
「どちらかといえばはい」と答えた
生徒も、23%から26%に僅かではあるが
増加していた。授業が進むにつれて、授業の
内容もより発展的な内容になるが、それを考
慮しても苦手意識がなくなったと感じている
生徒が増えた結果となった。
(3)証明補助プリントの生徒の活用状況
11月のアンケートでは、合同や相似を証
明する文章をどこまで書くことができるか調
査した。調査の項目は、
「①問題文だけで証明
ができる、②証明補助プリントを記入すれば、
証明補助プリントを見なくても証明ができる、
③証明補助プリントを見ながら、証明するこ
とができる、④証明補助プリントを見ながら、
途中まで証明をすることができる、⑤証明の
文章がまったくかけない」の5つの段階に分
けて行った。その結果が次の(図12)と(図
13)である。
①のように、証明補助プリントを使わなく
ても証明することができる生徒は、半数近く
いる。しかし、②~④の生徒は証明補助プリ
ントを利用すれば、証明の問題を進めること
ができる生徒であり、合わせると4割程度い
る。この4割の生徒は証明補助プリントを必
要としており、プリントが無ければ問題を進
めることが困難であったと予想される。
また、①のような生徒であっても、補助プ
リントを活用していたことで証明の文章を書
く流れが理解でき、プリントを使わなくても
問題を解決できるようになった生徒もいた。
相似であることを証明する文章を、
どこまで書くことができますか?
④
15%
⑤
6%
①
49%
③
14%
②
16%
〔図13〕調査数125名
(4)証明補助プリントの効果
同時に11月の調査では、生徒に「証明補
助プリントを使った授業の感想」を自由記述
でアンケートを行った。その感想に書かれて
いた内容が以下の通りである。
〔②~④と答えた生徒〕
・難しい問題も、頭が整理されて自力で解
くことができることがあった
・口頭で説明されるよりも、わかりやすい
・証明の文章を、途中まででも理解して書
くことができた
・合同のときはプリントがなくてもできた
けど、相似のときはプリントがないとで
きなかった
・自力では解けないけれども、プリントを
使うと少しは解けるようになった
・余分なことまで書いたり、考えてしまう
ことがあったりしたけれども、整理して
書くことができるようになった
⑤と答えた生徒は、証明補助プリントを使
っても証明の文章を書くことができなかった
生徒である。しかし、プリントを活用するこ
とで問題の答え合わせの解説の理解に繋がっ
たという感想があった。解き方が「わかった」
という安心感が、苦手意識の軽減に繋がった
のではないかと考える。
②~④の生徒は、証明補助プリントが必要
であると感じている生徒である。生徒の感想
を見てみると、自力で問題を進めるために活
用したという生徒が多かった。また、考えを
〔その他の意見〕
整理することができたという感想も多く見ら
・応用プリントがあり、難しい問題にも挑戦
れた。
「 何から証明を書き始めていいのかわか
できたので良かった
らなくて、証明に対して苦手意識を感じてい
・相似の作図もしてみたかった
たが、最初に考えるべきことがわかり、順番
・証明が得意な人と苦手な人に合わせて、証
に考えることができて理解することができた」
明補助プリントを活用しない場合があって
という意見もあった。見通しを持って問題を
もいいと思った
進めることができたことで安心感が生まれ、
・わかりやすいけど、時間がかかる
苦手意識を軽減することができたのではない
だろうか。
また、証明補助プリントを活用していない
証明補助プリントの形式は、まだ改善の余
と答えた①や⑤のような生徒でも、次のよう
地がある。生徒の思考がより深まるように、
な感想があった。
試行錯誤していきたい。
〔①と答えた生徒〕
・わかりやすく、ノートがまとめられた
・1つ1つ丁寧に確認することができる。
確実さがあり、安心して問題に取り組む
ことができた
・三角形や角について、対応順に書くこと
を意識することができた
・プリントがなくても証明できるが、プリ
ントを利用して考えることで取り組むス
ピードが早くなったと感じる
①と答えた生徒は、証明補助プリントがな
くても問題に取り組むことができているが、
プリントを活用することでさらに理解が深ま
ったと感じている。実際に、
「無駄を省いて要
点をまとめて考えて書くことができるように
なった」と答えている生徒もいる。また、補
助プリントでの授業を進めているうちに、プ
リントが無くても考えをまとめることができ
るようになった生徒もいる。
〔⑤と答えた生徒〕
・難しかったけど、プリントを使うとわか
りやすいと感じたし、そのあとの解説も
理解することができた
5
おわりに
私自身が証明の学習は、学習する生徒の立
場としても指導する教師の立場としても、難
解な部分であると感じていた。それは、証明
の文章を書くまでにここの頭の中で思考して
いる、みえない部分が多くあるからやりにく
さを感じていたのではないだろうか。今回の
プリントを活用することで、思考を「見える
化」し、全体で共有することで理解を深める
ことに繋がったと感じている。結果として、
証明ができて得意だと感じている生徒にも良
い影響を与える部分があった。これからも、
どんな立場の生徒でもわかる授業の研究を進
めていきたい。
【参考文献】
・文部科学省、
『中学校学習指導要領解説
学編』(平成20年9月)
数
【実践記録】
自立活動におけるソーシャルスキルトレーニングの実践
―「ほかほか」と「ちくちく」を通して―
船橋市立船橋特別支援学校小学部
1
教諭
塩田
亜沙美
教諭
永井
美紀
はじめに
本校は知的障害特別支援学校である。
3
実践における仮説
今年度から道徳教育を推進し、学習活動
「ほかほか」
「ちくちく」を行動評価と
においては道徳的観点を意識して盛り込
するキーワードとして使用し、自己評価
むなど、学校全体で取り組んでいる。し
チェックシートや絵本、ワークシート等
かし、挨拶やマナー、友達と協力して活
で学習することで、自己肯定感を高めた
動を行うなどは学習のねらいの一つには
り、他者の気持ちを理解しようとしたり
なっているものの、道徳そのものを焦点
する態度を育むことができるだろう。
化した学習は実施していない。
加えて、近年入学する児童の中には、
4
対象の子供について
軽度の知的障害や広汎性発達障害等、障
本学級は、4年生の男子5名女子1名
害種も多様になり、その割合も増える傾
の計6名である。その中に軽度知的障害
向にある。そしてそれらの児童が抱える
や発達障害等のある児童も在籍している。
課題の一つとして挙げられるのが、集団
特に言葉でのコミュニケーションを中心
活動の中で順番が待てなかったり、他者
に行っている男子2名(以下A君、B君)
の気持ちの理解が難しいためトラブルに
を取り上げる。
なったりといったソーシャルスキルの獲
2名に共通している点は、日常生活で
得の難しさである。それは家庭や学校だ
の朝や帰りの支度、着替えや排泄等は教
けではなく就労の場面等、生涯にわたり
師の支援なしで行うことができることで
困り感を抱えることになりやすいという
ある。言語面では、「大根」「カレーライ
実情がある。
ス」等の食べ物や料理、「靴」「鉛筆」等
の学校にある身近な物等についての名詞
2
実践の目的
以上のようなことから、小学部の段階
や、「走る」「片づける」等の動詞も理解
している。また「昨日は○○さんと遊ん
においても、教育活動やその内容も個々
だ。」「△日は□□に出かけるんだ。」等、
の状況に合わせて丁寧に取り組む必要が
日付や時間における状況把握も交えて、
あると考えた。そこで、本学校の教育課
3語文程度で教師に伝える様子が見られ
程にある自立活動の中の学習項目の一つ
る。
である「人間関係の形成」に着目し、本
主題を設定した。
一方、異なる点は、A君は自分の興味・
関心のあることが多く、なんでも意欲を
もって行おうとする反面、やりたい気持
形態で全7回の授業を計画して一緒に取
ちを抑えられず、大声で「ぼくもやりた
り組む。
い。」と言う場面も見られる。教師は「順
「ほかほか」
「ちくちく」という言葉の
番だよ。
」と言って順番を待つように伝え、 持つイメージは、児童にとって身近な物
タイマー等の補助具や約束等で見通しを
や表情、行動に置き換えやすい。
「ほかほ
もてるようにしてきたことから、トラブ
か」は太陽のように温かく、笑顔になる
ルは少しずつ減ってはきている。しかし、
ような嬉しくなる言葉として使用する。
形式的な会話に終始していがちな様子も
「ちくちく」は学級に棘のあるボールを
あり、「貸して。」とは言うものの、友達
ちくちくボールと呼び、それが当たると
の了承を得ずおもちゃを奪い、感情が高
「痛い」とイメージできることから、心
ぶると、「おまえ」「ばか」などと言葉づ
に刺さる悲しい言葉として使用する。
かいも乱暴になるという場面も多々見ら
上記を踏まえて、本学級では4月から
れる。そのため、周囲の友達の気持ちを
挨拶や「ありがとう」が言えた時は「ほ
理解する視点を育てる必要性を感じた。
かほか」言葉として評価し、呼び捨てや
B君は、できることに関してはてきぱ
「おまえ」などの乱暴な言葉づかいをし
きと進める力がある反面、周囲の様子に
た時は「ちくちく」
」言葉として指導して
気をとられ、自分のやるべきことが時間
きた。また、言語面だけではなく行動面
内に終わらないこともある。教師が自分
も含めて、友達を手伝う姿を「ほかほか」
、
のことを先に行うよう伝えると、
「○○君
勝手におもちゃを取る姿を「ちくちく」
もやってない。
」などと批判するような言
として、イメージがもてるようにその場
動も見られる。また、自分から新しいこ
で評価して伝えてきた。
とに取り組む際に消極的な様子が見られ
さらに、今回の学習では、想像力や語
る。特に手先を使った細かい制作活動や
彙力を高めるゲームも取り入れる。名詞
読字や書字などの認知面の活動が苦手な
や動詞、形容詞といった言語を学び、児
傾向にある。そのため、何事も時間をか
童がより豊かにコミュニケーションをと
けて丁寧に取り組み、「自分はできる。」
り、具体的に自分の行動を振り返ること
という自己肯定感を高める必要性を感じ
ができるように楽しく取り組む工夫をす
た。
る。
上記のような課題から、子供自身の身
それらを通して自己肯定感を高めたり
に沁みこむような授業作りを、ソーシャ
他者理解の視点を育てたりすることにつ
ルスキルトレーニング(以下SSTとす
ながるのではないかと考えた。
る)を通して行う。
○学習計画(全7回)1回25分
5
実践の方法
「ほかほか」
「ちくちく」という2種類
良いところさがし①(学校編)
第
推理クイズ①
の言葉をキーワードに、自立活動の時間
一
良いところさがし②(宿泊編)
を中心に、2名を抽出し学習するという
段
推理クイズ②
階
良いところさがし③(相互編)
14
給食を完食する
○
○
推理クイズ③
15
給食を片づける
○
○
絵本①/ワークシート①
16
歯磨きをする
○
○
第
おはなしすごろく①
17
先生にクレヨンや紙を「貸
○
○
二
絵本②/ワークシート②
段
おはなしすごろく②
18
友達に帰りの挨拶をする
○
○
階
絵本③/ワークシート③
19
先生に帰りの挨拶をする
○
○
して」と言う
おはなしすごろく③
1回目の「良いところさがし」では、
第
自分で探そう!
イラスト入りのチェックシートを使用し
三
ワークシートを使用して「ほかほ
て、子供がすでにできている項目を中心
段
か」と「ちくちく」に分類してみ
にリストを作成し、児童が赤いシールを
階
よう!
貼り、自己評価を行った。
授業のまとまりを大きく3段階に分け
て、毎時間2種類の課題に取り組む。そ
①結果
赤いシール(【表1】では○印で表記)
の実践を通して見えてきた結果や課題に
がたくさん貼ってあることで、自分がい
ついて考察する。
ろいろなことができるのだということを
視覚で実感でき、互いに笑顔で見せ合う
6
実践の結果と考察
様子が見られた。結果について教師は「で
(1)第一段階について
きることが多いのは、ほかほかなんだよ。
」
【表1
などと称賛し、自分に良いイメージをも
良いところさがし①(学校編)】
項目
A
B
てるようにすると、B君が「もっとやり
君
君
たい!」などと言うようになった。
1
友達に朝の挨拶を言う
○
○
一方、13番目の項目に関して「貸し
2
先生に朝の挨拶を言う
○
○
て」という言葉が出るという点で児童が
3
荷物整理をする
○
○
「できた」と評価しているが、「できた」
4
運動着に着替える
○
○
の基準が曖昧なこともあり、その後の行
5
雑巾で廊下を拭く
○
○
動でトラブルを起こしているという具体
6
水筒を開けて飲める
○
○
的な様子まで振り返って評価をするよう
7
朝の会で自分の役割を行う
○
○
伝えるのが難しかった。
8
運動でボール投げる
○
○
また、項目を読んでシールを貼る場面
9
運動で自分の周回数を走る
○
○
では、読むことが得意なA君は、B君の
10
肌着を着替える
○
○
状況に関わらず勝手に読み進めてシール
11
課題に取り組む
○
○
を貼っていた。
12
自分の係活動に取り組む
○
○
13
おもちゃを友達に貸す
○
○
【表2
良いところさがし②(宿泊編)】
項目
A
B
君
君
1
荷物を背負って電車に乗る
○
○
から緑シールだ。」といった言葉が聞かれ
2
電車で静かに座る
○
○
た。また、1回目の課題であったA君の
3
牧場に友達と手をつなぎ歩く
○
○
行動面では、順番にチェックシートを読
4
お弁当やおやつを完食する
△
○
み合い、相手を待ちながら一緒に進める
5
部屋で布団にシーツを敷く
△
△
ことを事前に確認してから行うことにし
6
夕食を完食する
○
○
たところ、B 君を待つ様子が見られるよ
7
歯磨きをする
○
○
うになった。
8
キャンプファイアーでダンスを
○
○
てきているが、どちらかというと状況理
する
9
お風呂で体を洗う
半面、相互評価の視点は少しずつ育っ
○
○
解の得意なB君の発言が目立った。A君
は、状況理解がやや曖昧で、B君の発言
10
夜は一人で寝る
○
○
11
朝は自分でおきる
△
○
12
朝食を完食する
○
○
13
調理では野菜や肉を切る
○
○
14
カレーとサラダを完食する
○
○
15
食べた食器を片づける
○
○
16
出し物では曲に合わせてダン
○
○
に促されるようにしてシールを貼る様子
が見られた。このことからA君にはより
具体的な場面で自己評価するための支援
が必要であると考えた。
【表3
良いところさがし③(お互い編)
】
項目
スをする
17
退所式で自然の家の人に挨拶
○
○
A君
B君
への
への
評価
評価
1
友達に朝の挨拶を言う
○
○
2
荷物整理をする
○
○
3
運動着に着替える
○
○
4
運動では最後まで走る
○
○
5
畑の大根に水を撒く
○
○
6
係活動を自分で行う
○
○
7
自分で課題を進める
△
○
きた」と「先生と一緒に取り組んででき
8
給食を完食する
○
△
た」に分けて、言葉の意味に具体性を持
9
歩いて体育館に行く
△
△
たせた。また、シールの色も赤と緑(【表
10
Tスローの順番を守る
△
○
2】では赤を○印、緑を△印で表記)に
11
帰りの荷物整理をする
○
○
分けて、より深く自己評価をするように
12
友達や先生に帰りの挨
○
○
をする
18
電車で静かに座って乗る
△
○
2回目では、宿泊先での活動の様子を
録画した映像を見ながらお互いに頑張っ
たところ様子等を振り返った。1回目の
「良いところさがし」での課題から、曖
昧だった「できた」の基準を、
「一人でで
した。
②結果
拶をする
3回目の「良いところさがし」では、
2人は同じ部屋に宿泊したこともあり、 A君の状況理解を深められるように、朝
の会や給食時等、お互いの様子がわかる
お互いの様子についても指摘し合い、B
君からは「布団のシーツは先生とやった
場面を具体的に取り上げたチェックシー
トを用意して相互評価を行った。
③結果
総合評価の場面で教師は「A君はかる
たの枚数では勝ちだね。でも最後までき
お互いが「今日、Aくんは挨拶をして
ちんと先生の話を聞いて取り組んだB君
いた」
「B君も体育館に行く時は走ってい
もほかほかだね。」と相互の良い点を取り
た」などと活発に意見を言い合いながら、
上げた。そうすることで、B君も前回の
評価をすることが増えた。チェックシー
ような行動をとらず、納得して終えるこ
トを見せ合う場面では、貼られたシール
とができた。
の色を見て自分でも納得し、嬉しそうに
する姿が見られた。
④第一段階の推理クイズの結果
(2)第2段階について
絵本や絵本の場面に近いワークシート
後半の学習では、他者理解には相手の
を見せて、その場面が「ほかほか」なの
気持ちを想像する力を育む必要があると
か「ちくちく」なのかを、対話を通して
考え、絵かるたで推理クイズをした。1
分類した。
回目は、ランダムに8枚の絵かるたを置
①結果
いて「長い首を持った動物はどれ」
「冷た
1回目は、ノンタンの絵本を題材に取
くて甘いものはどれ」等と問いかけたと
り組んだ。笑顔でぶらんこに乗って遊ん
ころ、語彙力が豊富なA君が優位であっ
でいるノンタンが、友達から「かして」
た。3回中3回ともA君の勝ちであり、
と言われて「いやだ」と言っている場面
「僕の勝ちだ!」と言って喜ぶ姿が見ら
を見て、二人共「ほかほか」な場面だと
れた。反対に、B君にとっては悔しいと
答えた。また、その後に提示した同様の
いう気持ちのみが残り、A君に向かって、
場面のワークシートについても「ほかほ
「バンバン」と言い、手で鉄砲を模して
か」であると答えた。
打つ真似をした。この活動の様子から、
この原因は、
「ほかほか」という言葉の
2人が絵かるたを取った枚数にのみ注目
イメージを、嬉しそうにしている表情と
していることがわかった。そして、その
して捉えていたことが考えられる。
原因が「良いところさがし」の評価でシ
実際ワークシートでぶらんこに乗る男
ールの数の多さがそのまま自己肯定感の
の子の表情も笑顔であった。このことか
価値基準として定着してしまったことに
ら、行動をしている当事者だけではなく
もあるのではないかと考えられた。
周囲の友達の表情や反応に着目するよう
そこで、2回目からは絵かるたを、食
な促し方をする必要を感じた。
べ物、乗り物、身の回りの物等に分類し、
そこで、2回目の絵本では、より登場
教師の話を最後まで聞かないとわからな
人物の表情と場面がよりマッチングして
いようにして取り組んだ。その結果、絵
容易に捉えられるように、アンパンマン
かるたの枚数としては、依然A君が優位
の絵本で分類を行うことにした。2人は、
ではあったが、その中で2回のお手付き
アンパンマンがしょくぱんまんを助ける
もあった。
場面は「ほかほか」
、ばいきんまんがしょ
くぱんまんを困らせる場面を「ちくちく」
に「ほかほか」
「ちくちく」の観点がわか
と答えていた。その後の意地悪をして泣
るようになってきたという実感を得た。
いている場面のワークシートでも、2人
は「ちくちく」と答えていた。
7
まとめ
3回目の絵本では、1回目に読んだノ
本実践を通して、2人の行動や言動の
ンタンにもう一度戻り、再度場面の分類
変容から「ほかほか」
「ちくちく」のイメ
を試みた。二人共ノンタンの表情ではな
ージが少しずつ入っていく実感を得た。A
く、周囲の友達の怒っている表情に注目
君は周囲を見て、友達と一緒に移動した
して答えることができた。同様のワーク
り、友達の行動を待ったりするようにな
シートでも、B君は「待っている人が怒
った。B君は「今の言葉はチクチクだっ
っている」と状況も含めて、教師に説明
た」と自分の言動を振り返る様子が見ら
することもできた。
れた。よって仮説における今回の取り組
②おはなしすごろくの結果
みは有効であったと考えられる。またそ
後半の学習では、形容詞の反対語、動
の際、絵本やワークシート、「ほかほか」
作語、友達の良いところの3つを表記し
「ちくちく」ボード等の視覚支援を使用
た16マスのすごろくを用意した。その
したことも、その効果を高めたと考える。
中で児童は止まったマスで要求されてい
今後も引き続き取り組み、学校生活の中
ることを言葉で伝える学習に取り組んだ。 で、自己肯定感を高め、他者理解の視点
3回の学習を通して、いずれも意欲的
を深めていきたい。
に取り組んでいたが、
「友達のほかほか探
し」は難しかったため、
「ほかほか」に分
【参考文献】
類されたボードのイラストを見て、その
・小島
道生著『みんなですぐできるプ
友達に当てはまる「ほかほか」な場面を
ログラム30
探すことを行った。
「自尊感情」を育てる授業・支援アイ
【表4「ほかほか」
「ちくちく」場面分類】
ディア」
』学研教育出版
「ほかほか」
「ちくちく」
・物を貸す
・物を取り合う
・落とし物を拾う ・友達をたたく
・走る友達を応援 ・名前を呼び捨てす
する
る
(3)第3段階について
まとめの学習として様々な場面のワー
・田中
発達障害のある子の
2013年
和代・岩佐亜紀著「高機能自閉
症・アスペルガー障害・ADHD・L
Dの子のSSTの進め方」黎明書房
2008年
・キヨノ
サチコ著「ノンタンぶらんこ
のせて」偕成社
・やなせ
1976年
たかし著『アンパンマンアニ
クシートを見て「ほかほか」「ちくちく」
メえほん3「アンパンマンとしょくぱ
の分類を行った。2人は[表4の]6つの場
んまん』フレーベル館
面を見て同じ答えを出した。またその理
由を説明しようとする姿も見られ、双方
1988年
平成27年度
教育研究論文
審査員長・担当課
審査員長
日本女子大学
教授
坂田
仰
審査担当課(班・室)代表審査員
船橋市教育委員会指導課
主幹・課長補佐
尾楠欣也
船橋市教育委員会学務課
課長補佐
礒野
船橋市教育委員会保健体育課
課長補佐
高橋和宏
船橋市総合教育センター研究研修班
主幹
小市昌夫
船橋市総合教育センター研究研修班
主幹
増戸隆之
船橋市総合教育センター教育支援室
室長
亀田智久
船橋市総合教育センター情報教育班
副主幹
中薹和浩
船橋市総合教育センター研究研修班
副主幹
小暮勝雄
護
研究報告
第81集
J1ー 0 1
27ー10
平成27年度
発行年月
発 行 者
発 行 所
教育研究論文
船教セー730
第51集
平成28年3月
船橋市総合教育センター
所長 秋元 大輔
船橋市総合教育センター
〒273ー0863
TEL
船橋市東町834番地
047-422-7730
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