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中年鍛錬者のエベレスト・トレッキングに おける心拍反応について
-283ー 中年鍛錬者のエベレスト・トレッキングに おける心拍反応について 平松 携 目的 中・高年齢の登山者多くなってきた。それは交通の便利き、簡単な装 備、自然環境を求める、健康っくり等が気楽に山行となっている。近頃、 さらに自然のスケールの大きさに惹かれ、また、海外旅行経費の安さか ら気楽にしかも簡単に海外の高山にトレッキングが可能になってきた。 本研究でとりあげるヒマラヤは、海外のトレッキングで人気が高い秘境 の山の一つである。 高所トレッキングは、低圧・低酸素環境により身体に様々な影響を及 ぼし、その点を把握してトレッキングを実施しなければならない。特に 中高年齢者は環境適応能力が低下し、低圧・低酸素環境における身体へ の影響は重大な問題である。中島 1)は、ヒマラヤ・シシャパンマ峰 ( 8, 027 m) 登山時の生理順応変化を報告している。それによると登山者の中に 眼低出血、胃潰蕩、十二腸潰蕩があったことを報告している O さらに中 島ら勺土、ヒマラヤ登山すなわち、低酸素状態における酸素補給装置の 有効性を述べている。また、西菌ら叶土、高峰の登頂のためには高所登 山経験による自己の耐高度能力の把握が重要で、あることを報告してい る。高所登山中の生体反応、特に循環系を把握するうえで、心拍数は非 常に有効な手段である。これまで、著者らは中高年齢者の様々な高度に おける心拍数を測定してきた 4ふ町, 8,9)。そして、心拍数の変動は、鍛錬 度、標高、傾斜、体調等の様々な要因に影響されることを報告した。一 一 一2 8 4一 一 方、奥村ら 10,11)は、ヒマラヤの R obujePeakE a s iの BC ( 5 , 200m)で 、 登山中の高度と平均心拍数との相関を報告している。また、山本山 チヨ一ヨユ一 ( ω 8, 201m) の B C 但 ( 5 , 叩 7 oom) における安静時心心拍数を高 d 所登山家、シェルパ及び著者を比較して、高所登山家及びシェルパの方 が筆者より心拍数が低いことを報告している。このように、高度は心拍 数に大きく影響を及ぼす。しかしこれまでの報告は安静状態を中心に 報告され、 トレッキングの運動中における心拍応答を比較した研究はな い。運動時は低圧・低酸素環境において、より酸素を取り込まなければ ならない状況になり、適応能力の低下している中高年齢者の生体には大 きな負担である。しかし、 トレッキングでは、登山、下り坂等を避ける はできない。また、高所における運動は、いかに疲労を少なくし、楽し く過ごせるかがトレッキングの成功に大きな鍵を握る。それ故、 トレッ キング時、特に低圧・低酸素環境と運動時の心拍反応との関係を見るこ とは非常に意義深いことである。 そこで本研究では、エベレスト・トレッキングで、標高(標高 5 m、 標 高3 , 6 5 0m、標高5 , 000m、標高 5 , 200m) の異なる数カ所において、 睡眠時、安静時、歩行時、台の昇降運動時の心拍数の変動から中年齢鍛 練者の高所トレッキングの基礎的資料を得ることを目的とした。 2 方法 ( 1 ) トレッキング経路 日本発→上海→西都→ラサ→ギャンツェ→シェーカル→ロンブク→ベ ースキャンブ ( BC ) →シェーカル→シ方、ツエ→ラサ→西都→上海→日 本着 ( 2 ) 被験者の特徴 トレッキング者は 5入であるがその中の一人を被験者とした。被験者 1歳の男性で、身長 1 6 4 c m、体重 6 0 k gで、ある。少年・青年時代にスポ は5 ーツ経験がある。 4 0齢から歩行や登山を始め、夏山の富士山には 1 1年連 一-285一 続で登山するなど歩行運動などを日常生活に積極的に取り入れている者 である。なお、被験者と験者が同一人である。 ( 3 ) 心拍数の測定方法と測定時間 心拍数の測定は、胸部双極誘導法により導出し、心拍メモリー装置(竹 井機器製)により 1分間値を連続記録した。行動中の心拍数は、睡眠時、 歩行時、台の昇降運動の 3項目とした。また、心拍数の測定I J 頂は、歩行 時、台の昇降運動時、睡眠時とした。 ①歩行時:歩行前 5分間は座位安静とした。歩行は平地歩行として、 1秒 間 に 2歩 の テ ン ポ で 歩 行 す る よ う に テ ー プ レ コ ー ダ に 記 録 し 0 分間歩行した。歩行後は 1 5 て、イヤホーンでテンポを聞きながら 1 分間座位安静とした。また、ロンプクでは、平地がなくやや傾斜ぎ みで道らしき道がなく石や岩が散乱したガラ場とした。なお、歩行 の歩幅は規定せず自由とした。 ②台の昇降運動時:台昇降運動前 5分間は座位安静とした。台の高き は2 5 c mとして、 2秒間に 1田のテンポで台を昇降するようにテープ レコーダに記録して、イヤホーンでテンポを聞きながら 3分間連続 台の昇降運動をした。台の昇降運動後は 1 5 分間座位安静とした。 ③睡眠時:睡眠に入ってから覚醒時前までとした。 なお、低庄・低酸素環境(チベットのラサ、ロンブク、 BC) と日本 出発前と帰国後の気温差や湿度差を少なくなるように、台の昇降運動及 び睡眠の心拍数の測定は、冷房、除湿の室内において測定した。 ( 4 ) 測定場所、標高及び測定日 トレッキングの場所と標高等は、図 1の通りである。測定場所は、 A 地 点 ( 日 本 出 国 前 、 標 高 5 m、 1 9 9 5年 7月2 7日 ) 、 B地点(中国チベッ , 650m、 1 9 9 5年 8月 4日 ) 、 C地点(ロンブク、標 ト自治区ラサ、標高 3 高5 , 000m、1 9 9 5年 8月 9日 ) 、 D地 点 (BC、標高 5 , 200m、 8月1 0日 ) 、 E地点、(下山時のラサ、標高 3 ,650m、 1 9 9 5年 8月 1 4日 ) 、 F地点、(帰 国後、標高 5 m、 1 9 9 5年 8月1 6日)の 6回測定した。また、 A地点と F 一一 286標高 (m) 6 0 0 0 ベースキャンプ5200m D地点 C地占 " 、 5 0 0 0 ロンプク 5000m/ Lラサ 3 .650m ノ ラサ 3 .650m 4 0 0 0 ¥ ......l=l.地古.~園田------一一一一一一一一一一一一一司、:..1<'愉占 U 3 0 0 0 叩 J. . . . ~I ......日 ....-~J. 、、 t - ・ 2 0 0 0 出国前 j 1 0 0 0 A地点 5m . . , : i 帰国後 ¥ 5 F地点 i m r. 吋 ・ ・ & . . . . . . . . . . . . . 7 / 2 78 / 1 8 / 3 8 / 5 8 / 7 8 / 9 8 / 1 1 8 / 1 3 8 / 1 58 / 1 7 ーは飛行機による移動 図 1 トレ y キング行程と標高 地点は日本国内の同一地点とした。 ( 5 ) 測定時の標高、気圧、気温、湿度、天気の気象状況 VOCET社製)により、 標高、気圧の測定は VERTECHALPINE(A 気温、湿度の測定はテγ タル温湿度計 CTH-170 型(カスタム社製) により測定した。 表 1 測定時の気象状況 場 所 A地点(出国前) 測定日 1 9 9 5 . 7 . 2 7 標高 (m) 気圧(阻 H g ) 気温 ( ' C ) 湿度(%) 天気 5 7 6 2 2 1(室内) 5 5 晴れ 4 8 7 1 9 (室内) 5 5 曇り 5 4 3 時れ 1 6 3 3 晴れ 2 1(室内) 5 0 靖れ 2 3 (室内) 4 8 晴れ B地点(ラサ) 1 9 9 5 . 8 .4 C地点(ロンブク) 1 9 9 5 . 8 .9 D地点(エベレスト BC) 1995.8.10 , 0 0 0 5 4 1 0 , 2 0 0 5 3 9 5 E地点(ラサ) 1 9 9 5 . 8 . 1 4 3 , 6 5 0 4 9 2 F地点(帰国後) 1 9 9 5 . 8 . 1 6 5 7 6 1 注 3 . 6 5 0 A.F地点の睡眠時及び台の昇降運動の測定は冷房の室内て・行った。 また歩行の測定は屋外て"行った。 一 287一 1 4 0 噌1よ υ ハリハり O白 山 nHU 白U (令¥牢)緩牢, d、 'BA 6 0 5 10 15 20 25 30 時間(分) 図 2 歩行中の心拍数の変動 測定時の天気状況は、表 1の通りである。 ( 6 ) 健康診査 健康診査は、出国前に医師の診断を受け、異常所見はなかった事を確 認した。帰国後に医師の診断を受けた。 3 結果 ( 1 ) 歩行時の心拍数 B地点及び、 D地点において心拍数は測定できなかった。 図 2は各測定地点における歩行時の心拍数の変動を示したものであ 表 2 歩行時の心拍数 安静時 歩行後 歩行時 平均 SD 最局 5 8 . 0 1 .6 C地 点 8 9 . 4 DJ 也l I . E地点 8 3 . 2 F地 点 7 6 . 3 A地 点 B士也点 (拍/分) 平均 SD 最高 平均 SD 最両 6 0 8 4 . 3 1 .6 8 6 6 0 . 3 4 . 9 7 2 1 .8 9 2 1 2 9 . 8 7 . 2 1 4 0 9 2 . 4 1L5 1 2 7 0 . 5 2 . 0 8 4 7 9 1 0 2 . 7 9 2 . 9 1 .3 3 . 8 1 0 5 9 8 7 5 . 1 7 6 . 3 1 0 . 3 2 . 4 1 0 3 8 1 一-2 8 8一 ー UJJ 1 4 0 1 2 0 4 司 主100 J八氏ユr 業 話 牢 80 ' ー コ 6 0 40 5 O 1 0 1 5 時間(分) 2 5 2 0 図 3 台の昇降運動の心拍数の変動 る。表 2には座位安静時、歩行時及び歩行後の心拍数の平均値、標準偏 差、最高値をまとめた。歩行時心拍数をみると、平均値では、 C地点、 E地点、 F地点、 A地点の順に高い値を示した。標高の高い C地点が最 も高い心拍数を示した。また、 A地点と F地点は同じ場所であるが F地 点の方が 1 8拍/分も高い値を示した。 ( 2 ) 台の昇降運動の心拍数 D地点において心拍数は測定できなかった。図 3は各測定地点におけ る台の昇降運動の心拍数の変動を示したものである。表 3は台の昇降運 表 3 台の昇降運動の心拍数 安静時 A地点 Bt 也点 C地点 (拍/分) 歩行後 歩行時 平均 SD 最高 平均 6 7 . 4 8 5 . 8 9 2 . 0 6 . 4 1 .8 0 . 7 7 2 SD 平均 SD 8 9 9 3 9 8 . 7 1 1 8 . 3 1 3 5 . 7 4 . 0 4 .7 3 . 2 1 0 3 1 2 2 1 3 8 6 0 . 1 9 0 . 3 9 3 . 2 5 . 0 6 . 8 7 . 9 7 5 1 1 0 1 1 8 8 2 . 8 7 7 .2 2 . 2 0 . 8 8 6 7 8 1 1 8 . 3 3 . 8 1 0 6 .7 4 . 9 1 2 1 1 1 0 8 0 . 9 8 0 . 1 5 . 2 6 . 7 9 6 1 0 0 最品 最高 D地点 Et 也点 F地点 一 一2 8 9一 一 1 1 0 1 0 0 (令¥牢)総叩苫、 9 0 I 也点 8 0 7 0 6 0 5 0 4 0 3 0 O 5 5 0 200 2 5 0 3 1 0 0 1 0 0 3 5 0 4 0 0 時間(分) 図 4 睡眠中の心拍数の変動 動前の座位安静時、 台の昇降運動時及び台の昇降運動後の心拍数の平均 値、標準偏差、最高値をまとめた。 台の昇降運動時の平均値を見ると、 C地点、 B地点、 E地点、 F地点及び A地点のI J 頂に高い値を示した。標 高の高い C地点は 1 3 0拍/分以上の心拍数を示した。 A:l'也点より C: l ' 也 点 は3 7.0拍/分も高い値を示した。 また、 A地点と F地点は同じ標高の場 . 0拍/分も高い値を示した。 所であるが F地点の方が8 ( 3 ) 睡眠時の J心拍数 C地点において心拍数は測定できなかった。睡眠時間を見ると、 A : t l s 点は 2 57 分 、 B地点 3 7 1 分 、 E地 点 3 0 4分 、 F地 点 2 9 1分 で 78 分 、 D地点 4 t 也 あった。図 4は睡眠中の心拍数の変動を見たものである σ しかし、 D: 表 4 睡眠時の心拍数 A地点 B地点 Cf 也点 D地点 E地点 F地点 (拍/分) 平均 SD 最低 4 8 . 1 8 5 . 5 4 . 3 5 . 5 4 0 7 7 6 2 1 0 3 8 0 . 5 6 3 . 5 6 5 .7 5 . 9 5 . 0 3 . 0 6 9 5 3 5 9 9 9 7 4 7 4 最品 一2 9 0一 ー 点の睡眠時聞が長いため B地点と同じ時間とし、残り時間は図 4で省略 した。表 4は睡眠時の心拍数の平均値、標準偏差、最低値及び最高値を まとめた。睡眠時の平均心拍数を見ると、 B地点、 D地点、 F地点、 E 地点、 A地点の順に高い値を示した。 A地点の睡眠時心拍数が最も低い 値を示し、 B地点が最も高い値であった。その差は 3 7 . 4 拍/分もあった。 標高の最も高い D地点よりも標高の低い B地点が高い値を示した。その 差は 5 . 0拍/分あった。最低心拍数を見ると、 A地点と B地点との差は 3 7拍/分もあった。同地点の A地点よりも F地点が1 9拍/分も高い値を 示した。 4 考察 歩行中の平均心拍数を A地点(標高 5m) とC地点(標高 5 .000m) を比較してみると、 A地点の平均心拍数が8 4 . 3 拍/分(最高心拍数 8 6拍 /分)であるのに対し、 C地点が最も心拍数が高く平均心拍数が1 2 9 . 8 拍/分(最高心拍数 1 4 0拍/分)とかなり負担が大きい。標高500mの西 都から標高 3 , 650mのラサまで一挙に 2時聞の短時間で標高差3 , 150mも 登高している。その 2時間後に高山病と思われる頭痛の症状が生じてい る。これは低酸素症では血液中の 0 2 含有量が低下し、組織細胞の機能 が障害されたためである 14)。したがって血液中の O2を補うために心拍 数は増加したことになる。 1回の登行高度は 500m以内であれば何の変 化を起こさず、恒常性を維持するが、急激に1, 400mも登高するとこの バランスが崩れたためと考えられる。航空医学などの立場から生体は、 4 , 000mを安全限界、 6 , 000mを危険限界と呼んでいるが、登山の場合に は、さらにこれに時間的要因が附加される 15) B地点において一段と頭 痛が激しくなり食欲が落ち不眠に近い状態など高山病と思える状態とな る。さらに標高をあげてのトレッキングに不安を抱き、 2日後にチベッ ト高山病防治センターで医師の診断を受けた後トレッキングを続ける。 C地点の歩行時平均心拍数が1 2 9 . 8拍/分というのは、著者の富士山 8 一 一2 9 1一 ー 合目から頂上の登山時(標高 3 , 5 0 0m -3, 700m) 平均心拍数が 1 3 0 . 4拍 / 分4)とほぼ同じ運動負荷に相当する。しかし、同じ平均心拍数であっ ても富士山登山の場合は、高山病にかからない状態では、呼吸が苦しく なれば休憩すると激しい呼吸は回復し生体は楽になる。しかし、標高 5 , 000mになれば低圧・低酸素環境で高山病の状態(こめかみを押しつ けたような頭痛、脱力感、疲労感、倦怠感、食欲不振、軽い下痢など) では無気力の歩行である。低圧・低酸素環境での歩行運動は運動を中止 しでも身体的にも楽にはならない。このように低圧・低酸素環境の運動 は、身体的負荷から生じる高山病で心理的にも重い負担となっている。 A地点の歩行時心拍数を基準にすると、 C地点は1.5 倍の負担になる。 同様に A地点の歩行前の安静時心拍数を基準にすると、 C地点は1.5 倍 、 E地点は1.4 倍の負担になる。平地の運動負担と低圧・低酸素環境の運 動負担の比較を万木1町立、平地で RMR3の運動をすると、最高心拍数 は8 4拍/分であるが、標高 4 , 000mで同じ運動をすると最高心拍数は 1 0 3 拍/分まで増加する事を示している。さらに万木はこの心拍数は平地で RMR6の仕事に相当すると報告している。したがって万木の報告と本 研究は、約 4 , 000mの高度で、の心拍数の増加でほぼ同様で、あると考えら れる。 台の昇降運動に用いる台の高さは、文部省のスポーツテストの踏み台 5 c mで、あるが低圧・低酸素環境のために、身 昇降運動の台の高さは男子 3 体に受ける負担を考慮、して台の高さを 2 5 c mとしている。 A地点(標高 5 m)の台の昇降運動時の平均心拍数を基準にすると、 C地点(標高5 , 0 0 0 m) は1.4 倍 、 B地点及び E地点から1.2 倍の負担になる。このことは、 低圧・低酸素環境で強い運動をすると体内の酸素需要が高まると同時 に、環境空気からの酸素供給能が低下するので、必要な酸素を摂取する ために、二重の負担がかかることになるためで、ある問。台の昇降運動中 の最高心拍数から運動終了 3分後の心拍数の差は、 A地点 4 3拍/分、 B 地点 2 9拍/分、 C地点 4 4拍/分、 E地点 4 3、 F地点 3 2拍/分である。飛 -292行機で急、登した B地点(標高 3 , 6 5 0m) での回復が最も遅いことは、 B 地点で強い頭痛を訴えた時およびチベット高山病防治センターで受診し た時と一致している。この時点でまだ低圧・低酸素環境に馴化していな い状態といえよう。 睡眠時の心拍数を見ると、 A地点(標高 5m) の平均心拍数は 4 8 .1 拍 /分、最低心拍数は 4 0拍/分ともに低いが最も高いのは B地点(標高 3 , 6 5 0m)の平均心拍数は 8 5 . 5拍/分、最低心拍数は 7 7 拍/分である o A地点と B地点との睡眠時心拍数の差は、平均心拍数は 3 7 . 4 拍/分、最 低心拍数は 3 7拍/分にもなる。しかし、 B地点より D地点の方が標高が 高いのもかかわらず心拍数は平均心拍数は 4拍/分、最低心拍数は 8拍 /分と低いことは、低圧・低酸素環境に 8日間生活して高地順化しつつ あるようにみえる。 B地点(ラサ)と 1 2日後の E地点(ラサ)は同場所 であるが、睡眠時平均心拍数の差は E地点が2 2拍/分と低い。さらに睡 眠時の最低心拍数は、 B地点の 7 7拍/分から 1 2日後の E地点は 53拍/分 まで減少している o この様に 2 4拍/分も減少していることは、低圧・低 酸素環境に馴化しつつあると考えられる。高地恩1化の期間について勝 u f tの研究を引用している。それによる 田l剖は、登山生理学の著書で L , 100mで 2週間、 5 , 800mで 2- 3週 間 、 標 高 6 , 7 0 0mで 3-4 と標高 4 週間としている。勝田の高地恩1化の期間と本研究の睡眠時心拍数から馴 佑の期間がほぽ同じといえよ 7 0 B地点において、睡眠は浅く頭痛で熟 睡していない。山本川は、高所障害は、睡眠中に悪化しやすいと報告し ている。また中島 動中に酸素を補給したと報告している。この様に低圧・低酸素環境にお いての睡眠は、生体を安定に保つうえで重要である。 日本出発前の A地点(標高 5m) と帰国後の F地点(標高 5m) の平 均心拍数を比較すると、 A地点より F地点が歩行時、台の昇降運動時、 そして睡眠中とも高い数値を示している。 E地点(標高3 , 650m) にお いて高地馴化しつつあるならば F地点の日本で平均心拍数が減少すると -293考えられる。しかし平均心拍数が増加している。平均心拍数が増加して いることについて、 B Cから下山した E地点(ラサ)で心身共に疲労し ている状態でホテルで外出をひかえ休養をとっていること。帰国後の F 地点において、測定中の深夜から猛烈な下痢を生じたことが考えられる が推測の域をでない。猛烈な下痢といっ生体に異常を生じた時や疲労か ら心拍数にどの様に影響があるかは、今回の結果からでは考察できず、 今後の研究に委ねなければならない。 この様に、登山経験者でしかも現在なおも登山活動者であっても身体 機能の低下をきたしている 5 0歳代になると、低圧・低酸素環境(標高 5 , 000m級)のトレッキングは、かなりの生体に負担がかかることが心 拍数の変動から示唆きれた。 5 まとめ エベレストの低圧・低酸素環境におけるトレッキング(ラサ 3 , 650m、ロンブク 標高 標高5 , 000m、 B C 標高5 , 200m)の心拍反応を、 歩行運動、台の昇降運動、睡眠の心拍数から検討を加えた。得られた結 果及び考察は次の通りである o ( 1 ) 歩行時及び台の昇降運動時の平均心拍数は、標高の高いロンブク(標 高5 , o o o m )が最も高い値を示した。 ( 2 ) 台の昇降運動の 3分間後の心拍数の回復は、平地から急激に登高し たラサ(標高 3 , 650m)が標高の高い BC(標高 5 , 200m) より遅かった。 ( 3 ) 睡眠時平均心拍数は、平地から急激に登高したラサ(標高 3, 650m) が8 5 . 5 拍/分で高い値を示した。 ( 4 ) 低圧・低酸素環境(標高 3, 6 5 0m -5,200m) に 1 2日間生活すると高 地馴化しつつあることが睡眠時心拍数から推測できた。 ( 5 ) 日本出発前より帰国後(トレッキング後)の心拍数が歩行時、台の 昇降運動及び睡眠時が高い値を示した。 0歳代になると、登山 このことから、身体機能の低下をきたしている 5 経験者でしかも現在なおも登山活動者であっても低圧・低酸素環境(標 , 000m級)のトレッキングは、かなりの生体に負担がかかることが 高5 心拍数の変動から示唆された。 謝辞 本稿を終えるに当たり、エベレスト・トレッキングの隊長役の広島大 学生物生産学部教授吉田 繁先生には、 トレッキングの機会をいただい たうえにご指導を賜り深く感謝をいたします。また、同行の札幌市役所 山岳会の高橋邦臣氏、佐々木裕氏、百瀬彰氏に登山・生活指導をい ただき厚くお札を申し上げます。また、広島大学総合科学部生体行動コ ース助教授山崎昌庚先生、大学院生の村木里志きんに論文のご指導を賜 り深く感謝いたします。 ( 1 9 9 6 . 4 .1 9 ) 引用・参考文献 1)中島道郎(19 9 0 )6 0歳のシシャパンマ峰 ( 8, 0 2 7m)登頂報告記一 6 0歳)登山家ヒマラヤ 8 , 000mを登頂 高齢者 ( 、臨床スポーツ医 2 0 1 1 2 0 6 . 学 7側 :1 2)中島道郎・出水 明 ( 1 9 9 2 ) ヒマラヤ登山における酸素補給の意義 2 8 4 と 節 約 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,-異常環境の生理と栄養」、光生館:1 31 . 1 5 ) 勝 田 茂 ( 19 7 2 ) ,-登山生理学」、治遥書院:3 4 . 1 9 8 0 ) 前掲示:1 7 2 . 1 6 ) 万木良平 ( 1 7 ) 万木良平 ( 1 9 8 0 ) 前掲示:1 6 6 . 1 9 7 2 ) 前掲示:1 4 . 1 8 )勝 田 茂 (