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安東幼保園の成果と課題について
資料5 安東幼保園の成果と課題について 平成 26 年3月 教育委員会事務局・子ども未来局 静岡市立安東幼保園 幼保一元化の実践研究園として、平成17年4月開園。 幼稚園と保育園を合築したもので、 「幼保園」は総称。(認定こども園ではない。) 定員:幼稚園(短時間部門)180人 保育園(長時間部門 )60人 運営:保育園の部分も含め、教育委員会事務局の所管。 長時間部門の入所者の決定、保育料の徴収に関することは市長部局が所管。 職員:幼稚園長(小中学校長級)が全体を管理、教頭及び短時間部門の職員は幼稚園 教諭、長時間部門の職員は子ども未来局(保育課)からの派遣保育士と教育委 員会採用の保育補助員。 施設:自園調理施設を備え、運営委託方式で給食を実施。 1 はじめに 安東幼保園は、幼稚園児も保育園児もともに「就学前教育(保育)を受ける子ども」 と捉え直し、幼稚園と保育園のそれぞれの良さを取り入れた教育(保育)の実現を図 ることを目的として開園し、9年が経過した。 同じ敷地内に幼稚園(短時間部門)と保育園(長時間部門)が合築された施設であ ることから、教育と保育の一体的提供が可能であり、保護者の就労状況等に変化があ っても児童は同じ園で過ごすことができるといったメリットがある。一方で、幼稚園 と保育園にはそれぞれの「文化」、 「保育観」があり、根拠法令や監督官庁も異なるた め、開園当初より様々な課題もあったが、現場の努力に支えられ現在に至っている。 日々の実践や研究等を通し、教育・保育内容が磨かれ、また、長時間部門の機能拡大 や、幼稚園児の長時間部門での一時預かり等の運営変更がなされるなど、成果もあが っている。 こうした安東幼保園の成果と課題については、これを明らかにすることにより、平 成 27 年度に予定している市立幼稚園・保育園の幼保連携型認定こども園への移行に 生かしていく必要がある。 2 教育・保育活動 (1)教育課程の統一、実践記録の書式の統一など 安東幼保園の開園に向けた準備作業の中で、教育課程や実践記録の書式等の統一 が図られ、その後、 「幼児教育研究委員会」 (幼保一元化や幼児教育の総合的な推進 方法を検討するために設置した庁内組織。教育委員会事務局職員、保育課職員、幼 1 稚園教諭、保育士等により構成)における毎年の検証を通して、教育課程や活動内 容の見直しが進められた。 この成果は、平成 20 年の保育所保育指針の改訂(幼稚園教育要領と整合性を図 る改訂)に伴い市立保育園の保育課程を定める際に、具体的事例として活用された。 (2)コアタイムの活動(共通利用時間における一体的な教育活動) 幼稚園(短時間部門)と保育園(長時間部門)の職員が「子どもの育ちに何が大 切か」を話し合い、幼稚園は教育的要素、保育園は養護的要素と、今まで大切にし てきた部分を融合させながら活動を組み立ててきた。 その成果として、子どもの育ちにもよい表れが見られるようになっている。幼稚 園児、保育園児の区別なく一緒に活動する「おひさまタイム」や様々な行事の中で、 互いの育ちが融合し、夢中になって遊ぶことから、友達との深いかかわりが生まれ、 互いに支え合いながら自らの意思で新しいことに挑戦していく力が育ってきてい ると評価している。 【課題】安東幼保園では、幼稚園を基本として長時間部門の児童も含めた教育課程 をつくっていった経緯があり、また、3歳以上児のみを受け入れていることから、 0歳児から5歳児までの発達・育ちを見通した教育・保育課程にはなっていない。 また、コアタイムについても、幼稚園は“教育時間”として捉え、保育園は一日 の流れの中の一コマとして捉える傾向があるなど、その捉え方は完全には統一され ていない。保育園は幼稚園の考える教育的視点を積極的に取り入れ、幼稚園は家庭 ともつながる子どもの生活リズムに考慮し、一日の流れの中でコアタイムを捉える ことを考えていくことが求められる。 3 職員の意識 (1)幼稚園教諭と保育士の意識の変化 安東幼保園の開園を契機として設置された庁内組織「幼児教育研究委員会」では、 幼保園における教育(保育)活動の検証や幼稚園教諭と保育士による意見交換等が 行われた。その結果、幼保園職員や幼児教育研究会委員においては、「幼稚園、保 育園では、共通するところがたくさんある。共通点を積極的に見出して、互いの良 いところを学び合っていくことが重要」との共通認識を持つことができ、一元化に ついての認識が深まった。 (2)安東から各園へ~さらなる交流の動き~ これを市立各園の職員にも広げていこうと、平成 22 年度からは、市立幼稚園・ 保育園各園の職員による相互参観による交流研修が始まった。これにより職員間の 交流が図られ、共通理解が進んだ。 交流研修に参加した幼稚園教諭、保育士からは、次のような感想が寄せられると 2 ともに、互いの取組みを取り入れる試みが広がった。 (幼稚園教諭) ・保育園の食育に対する取組みをもとに、畑の活用の見直しや季節感を感じられ る野菜の栽培をした。 ・保護者との関わりについて、これまでは「養護の部分は家庭の責任」と考え、 保護者に依頼してきたが、保育園の取組みを見て、見直しが必要かと感じた。 ・保育園の安全確保や危機管理について学ぶことが多い。 ・特別支援の対応について、保育園のようなきめ細かい対応を学ぶ機会があると よいと思う。 ・互いに学び合ったり、相談し合ったりすることは大切。 (保育士) ・保育指針が変わり、保育課程をつくる際に、教育分野について安東の教育課程 が非常に参考になった。 ・あそびの豊かさ、環境構成の豊かさ、指導案のわかりやすい書き方等を知るこ とができた。 ・幼稚園での短い時間の中での環境の生かし方や導入の工夫を学びたい。 ・小学校との接続を視野に入れた取組に学ぶことが多い。 ・話し合いの機会をもらい幼保の距離が近くなった。 交流研修の意見交換会等においては、 「幼稚園、保育園とも“目指す子どもの姿”は 共通である。 」「就学前教育として目指すところは、ともに“将来を見据えた人間形成 の基礎を培うこと”である。」ことを確認することができた。 【課題】教育課程を具体的に実施していく幼稚園、保育園の職員の子どもの育ちに 関する見方、保護者・家庭への支援のあり方に関する考え方について、さらに統 合を図っていく必要がある。 4 保護者への対応 (1)保育園保護者の負担の軽減 安東幼保園は、教育委員会が運営し、3歳以上児のみを対象とする園であること から、保育園部分については、保育園というより「幼稚園の中の長時間部門」とい った色彩が濃い。 実際に、一般の保育園よりも、弁当の頻度が高い、PTA 活動等保護者参加の行 事が多いなど、長時間部門の保護者にとっては負担が大きい面があるが、こうした ことについては、次のような対応をとっている。 ・ 特に長時間部門については、事前説明を十分に行い、入所していただいている。 3 ・ 参観会、保護者面談については、短時間部門と長時間部門で実施方法を変え、 参加しやすい方法にしている。 ・ PTA 活動等保護者参加の行事については、長時間部門の保護者も参加しやす い工夫(早期に日程を決めて知らせる等)や短時間部門の保護者の理解を得て、 無理のないような形で行うようにしている。 (2)保護者のニーズへの対応 開園当初は、長時間部門の保護者のニーズに応えきれない部分があったが、平成 20 年度から、延長保育や障害児の受入を実施するなど、改善を図ってきた。 また、平成 22 年からは、短時間部門の児童の長時間部門での一時預かりを実施 するなど、幼保連携による改善を実施した。 (3)幼稚園保護者と保育園保護者の意識 幼稚園保護者と保育園保護者は、家庭状況やニーズなどに違いがあるが、園職員 の働きかけにより、相互理解が図られている。 平成22年度に実施したアンケートでは、次のような意見が寄せられた。 ◇ 幼保園の良い点 (幼稚園保護者) ・いろいろな生活をしている人がいることが理解できる。 ・いろいろな子どもたちと関わることができる。 ・長時間部門と短時間部門の間の異動が可能で、子どもへの影響を少なくできる。 ・一時預かりをしてもらえる。 ・短時間、長時間の良いところを取り入れてくれていて、子どもたちにもその良さ が伝わっている。 ・発達障害に理解がある。 ・働いているお母さん、働いていないお母さんなど区別なく育つのは望ましいこと (保育園保護者) ・人数が多い活動を楽しめる時間と、長時間のみの少人数だからこそ目の行き届く 保育の両方を受けられる。 ・幼稚園の教育的な面を得ることができる。 ・保育園では味わえない幼稚園とのつながりがあってよい。 ・子どもと過ごす行事が多かったり、他の父母と話す機会があってよい。 ◆ 改善してほしい点 (幼稚園保護者) ・年中、年長の短時間のクラス人数を減らしてほしい。 ・短時間、長時間の保護者同士がお互いのメリットをもっと理解しあっていかなく てはならない。 ・短時間、長時間を合同にしたクラス編成にしてほしい。 4 ・保護者に具体的に安東幼保園と他の園との違いをもっとアピールしてほしい (保育園保護者) ・短時間、長時間を合同にしたクラス編成にしてほしい。 ・短時間、長時間双方の保護者に負担が少ない PTA 活動にしてほしい。 ・幼保一体化の良さを先進園として誇れるよう、保護者も一緒になって学んでいき たい。 【課題】保護者の意見は多様であり、それぞれの立場から様々な声が聴かれる。保護者 に対しては、疑問や不安などを丁寧に聞き取り、十分な話し合いを行いながら、長時 間、短時間双方の保護者の交流や関係づくりを図り、より良い園になるよう、実践と 改善を積み上げていくことが求められる。 5 研修・研究体制 安東幼保園が、教育委員会の所管であることや幼稚園をベースに出発した経緯もあ り、研修・研究については、幼稚園寄りの体制でスタートした。具体的には、毎週水 曜日の午後を研修日と位置づけ、担任は全員参加を原則とした。幼稚園教諭にとって は、養護の視点から自分の保育を振り返るよい機会となったが、保育士にとっては、 担任する児童を保育補助員に委ねて、自分は研修に参加することには抵抗感があった。 両者が研修の必要性を理解していたが、実施時間等には課題があった。さらに、お互 いの「保育観」の違いや、研修会に対する考え方の違いもあり、同一歩調をとること が難しい場面もあった。 そこで、研修・研究体制については、毎年見直しを行い、徐々に改善を図っていっ た。全員参加の研修会を精選し、学年(歳児別)の研修会を増やしたり、担任保育士 が参加しやすいように、会議の時間を調整したりした。また、普段の会話の中で、子 どもの表れや活動のねらいについての意見交換を意識することで、研修・研究時間の 効率化を図った。現在は、幼稚園教諭も保育士も参加しやすく、必要性やメリットが 感じられる研修・研究体制に近づいた。 【課題】幼稚園、保育園とも長い歴史の中で培われた「文化」 、 「保育観」があり、職 員にはそうした違いを認識した上で、すり合わせていく力量が求められる。研修会 の持ち方については、各職員の業務の状況等に配慮し、今後もさらに工夫していく 必要がある。 6 運営事務 (1)幼稚園職員と保育園職員の人事・給与制度上の問題 幼稚園教諭は、教育職であり、時間外分は基本給に含まれているが、保育園職員 5 は、一般職であり、時間外勤務手当がつく。勤務時間の定めも異なっており、こう した人事・給与制度上の違いが、園運営において職員の調和を阻む壁となってきた。 根拠法令等の違いによるものであり、抜本的な解決は難しいが、「身分や処遇の異 なる職員が、子どもたちのために手を取り合うことの大切さ」を意識し、互いが働 きやすい環境づくりをめざし、調整を重ね現在に至っている。何とか折り合いを付 けながらやってきたが、それぞれに譲れない部分や納得しきれない部分があること は事実である。 (2)監督官庁や根拠法令が違うことによる事務の複雑さ 国等への報告等は各法令に基づき、文部科学省と厚生労働省それぞれに対し行う 必要があるため、作成すべき書類が膨大であり、事務の煩雑さは否めない。 【課題】職員の身分・処遇の統一と事務処理の簡素化が大きな課題である。 7 総括 子どもの表れについては、教育課程を同じにすることで、短時間保育の児童と長時間 保育の児童の互いの育ちが融合し、いい影響を与え合っているということができる。 様々な立場や家庭環境の子どもが、同じ活動を通しかかわり合い、支え合えることは、 小学校以降の学びに結びつくものであり、大きな成果と考えることができる。 保護者についても、就労状況等が変わっても転園をしなくてすむことはメリットであ り、安心して子育てに取り組むことができると考える。 一方、幼稚園と保育園の所管が文部科学省と厚生労働省に分かれ、根拠法令等も異な ることによる職員の身分・処遇の違い及び事務処理の違いについては、現場や地方行政 の努力では解決できないものであり、業務の多重化・複雑化となり、現在に至るまで現 場職員の負担となり、融合を阻む大きな要因ともなっている。 こうした課題については、平成 27 年度からの子ども・子育て支援新制度で、幼保連 携型認定こども園が内閣府の所管となり、事務手続きが統一され、職員の身分が「保育 教諭」として統一されることで解消できるものと考える。 また、長年にわたる職場環境の違いから、互いが常識と思う部分が違っていることに よる「保育観」の違いについては、今後国から示される幼保連携型認定こども園保育要 領に基づき新しい教育・保育課程を共に創り上げていくことで、違いを認めながらも歩 み寄ることができるものと考える。 平成 27 年度当初は、混乱が予想されるが、 『子どもの最善の利益』を目指し共に活動 する中で、互いの保育観が融合され、新たな価値観が生み出されることを期待している。 6