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化学物質の環境評価についての最新の研究動向

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化学物質の環境評価についての最新の研究動向
化学物質の環境評価についての最新の研究動向に関する
ワークショップ報告書
2014 年 7 月 1 日
ケイ素化学協会
プ ロ グ ラ ム
シリコーン工業会(SIAJ)の運営により、化学物質の環境評価についての最新の研
究動向に関するワークショップは 2014 年 7 月 1 日に都内で開催された。当ワークシ
ョップのプログラムは以下の通りである。
開会の挨拶
Keiji Kabeta
Vice Chairman, The Society of Silicon Chemistry, Japan
PBT、
、POP 評価における証拠の重み付け
·····
3
·····
4
·····
8
·····
13
·····
19
Keith R Solomon
Centre for Toxicology, School of Environmental Science,
University of Guelph
揮発性環状メチルシロキサン(
)の安全性
揮発性環状メチルシロキサン(cVMS)の安全
)の安全性評価の最新動向につ
いて‐D5
の鳥類研究を含むサイクリクス
いて
の鳥類研究を含むサイクリクスの安全
サイクリクスの安全性
の安全性評価の概観
Kathleen P. Plotzke
Dow Corning Corporation
水生環境の揮発性メチルシロキサン
水生環境の揮発性メチルシロキサン:分析方法の開発及び東京湾流域
メチルシロキサン:分析方法の開発及び東京湾流域
での環境
での環境モニタリングへの
環境モニタリングへの適用
モニタリングへの適用
Yuichi Horii
Center for Environmental Science in Saitama
揮発性メチルシロキサンの長距離移動性
揮発性メチルシロキサンの長距離移動性
Shihe Xu
Dow Corning Corporation
ENVIRONMENTAL RESOURCES MANAGEMENT
1
SILICONE INDUSTRY ASSOCIATION OF JAPAN
生物蓄積
生物蓄積アセスメント
蓄積アセスメントにおける
アセスメントにおけるフガシティ
におけるフガシティレシオ
フガシティレシオ手法の
レシオ手法の活用
手法の活用:コンセ
活用:コンセ
プト、適用
プト、適用及び注意事項
適用及び注意事項
Kent B. Woodburn and David E. Powell
Dow Corning Corporation
·····
25
·····
30
·····
37
D5 の生物蓄積
生物蓄積性
蓄積性とリスク評価におけるアクティビティ
とリスク評価におけるアクティビティ及び
アクティビティ及びフガシティ
及びフガシティ
の活用
Frank A.P.C. Gobas
School of Resource and Environmental Management,
Simon Fraser University
水環境における揮発性環状メチルシロキサン
の環境運命:東
水環境における 揮発性環状メチルシロキサン(cVMS)の環境運命
揮発性環状メチルシロキサン
の環境運命 :東
京湾における cVMS の空間分布、生物
の空間分布、生物蓄積
生物蓄積性
蓄積性、栄養移動、環境リスク
及び長期トレンドに関する評価
David E. Powell and Kent B. Woodburn
Dow Corning Corporation
ENVIRONMENTAL RESOURCES MANAGEMENT
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SILICONE INDUSTRY ASSOCIATION OF JAPAN
開会の挨拶
Keiji Kabeta
SSCJ Office, Tobita Research Labs., Department of Chemistry, Graduate School of Science, Tohoku
University, Sendai, Japan
ケイ素化学協会は 1996 年 6 月、ケイ素化学の更なる発展のために、創立された。東
北大学の飛田教授が会長としてリードされ、現在、450 名の会員を擁している(年会
費| ¥ 2,000)。
ケイ素化学協会は 4 つのミッションを掲げている。
1. 若手研究者の育成
2. 世界特にアジア諸国との国際的連携強化
3. 会員増強および関連分野との積極的交流
4. ケイ素化学リテラシーの普及
上記のミッションを達成すべく、当協会は以下を含むイニシャティブを実施してい
る。
• 年次の二日間にわたる国内シンポジウム
• 隔年のアジアケイ素シンポジウム(ASIS)
• 国際学会への若手研究者の派遣支援
• 奨励賞の表彰
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SILICONE INDUSTRY ASSOCIATION OF JAPAN
PBT、
、POP 評価における証拠の重み付け
Keith R Solomon
Centre for Toxicology, School of Environmental Sciences, University of Guelph, Guelph, Ontario, Canada
イントロダクション
残 留 性 有 機 汚 染 物 質 ( POPs ) や 難 分 解 性 、 生 物 蓄 積 性 及 び 毒 性 を 有 す る 物 質
(PBT)の化学評価には科学的根拠が必要であり、実験方法の強み及び観測結果の適
切性の定量化(点数付けや、証拠の重み付け(Weight of Evidence;WoE))するこ
とで、POPs や PBT の特性を有する化学物質の評価に最も適したデータを選択できる
ようになる。
保護の目的及びエンドポイント
ストックホルム条約、REACH、UNECE-LRT に基づく諸規則の目的はヒト健康及び
環境を保護することである。しかし、保護するという目的は、通常概括的で、定量
化しづらく、政治的な背景がある。そのため、エンドポイント(評価対象とする試
験項目)に必要とされるのは、明確であり、定量化ができ、モデリングができ、そ
して科学的仮説の検証を行えることである。いかなるときにも全ての化学物質の暴
露を防止することは不可能であるため、保護の度合に合わせて評価するエンドポイ
ントが異なる。毒性学において、高度な保護を確保するためには個々のレベルでエ
ンドポイントが評価される。また、生態毒性学では、生存、成長、発生及び繁殖に
関する保護を確保するため個体群レベルでエンドポイントが評価される。POPs や
PBT におけるエンドポイントとは、これらの物質の暴露が閾値に近づく、又は閾値
を越えることによる人体または生体に対する有害作用である。従って、ここでの帰
無仮説は「POPs の化学的性質のコンビネーションは、有害作用を引き起こす閾値に
近づく、又は超えるような暴露につながらない」というものである。
POPs 及び PBT の証拠
化学物質の人または環境への影響を把握する際には、法的証拠ではなく科学的証拠
を評価しなければならない。疫学者である Sir Austin Bradford Hill 及び Sir Richard
Doll は、時系列、特異性、生物的妥当性を含む側面を評価する因果関係の Bradford
Hill ガイドラインを開発した。一連の証拠(Line of evidence)には一つ以上の証拠
(観測、報告、調査)が必要である。また、一つのエンドポイントにいくつかの証
拠がある可能性がある(発達異常や繁殖行動の変化等の実験で検証可能な暴露結
果)。
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一連の証拠は以下のように分類が可能である。
1. 収束的証拠-各々の証拠が独立しており、有害作用の確率は、個々の証拠の
確率の和と比例している。
2. 連結証拠(有害転帰経路)-証拠は従属関係にあり、有害作用の確率は、
個々の証拠の確率の積と比例している。因果関係や原因の評価や生物指標か
ら最終エンドポイントを推定する際に活用される、有害転帰経路(Adverse
outcome pathways;AOPs)は連結した一連の証拠を意味する。
POPs 及び PBT において、リスクは独立している P、B、T の個々の証拠に比例す
る。もう一つの証拠は、辺境にて最終エンドポイント(Apical endpoint)に影響があ
るか否か判断するための長距離移動(long-range transport;LRT)である。しかし、
社会認識や政治が科学をくつがえすケースがあることは留意すべき点である。ある
特定の最終エンドポイントにおいては、P 及び B、そして時には LRT の組み合わせ
が T の閾値を越える暴露に繋がる。連結証拠の場合、もし証拠の連鎖が切断された
のであれば(栄養蓄積係数がない、生物蓄積がない)最終エンドポイントに影響は
ない。しかし次の二つの理由により留意が推奨される。①水生生物と陸上生物の反
応が異なる可能性がある。②評価される化学物質の性質は、異例を判断するため十
分に特徴づけなければならない。下図に P と LRT の連結証拠の例を示す。
図 1:P 及び LRT の連結証拠
証拠の重み付け(WoE)
)
証拠の重み付け(
科学的な調査においてデータのパラドックスが存在する。発表された論文は生のデ
ータが不十分であるため、不完全なものが多い。それらは、標準的なプロトコール
に準拠しておらず、選択バイアスや出版バイアスがかかっている。一方、優れた研
究プラクティス、品質保証、品質管理の下で行われている研究もある。又、莫大な
量の研究とデータは、ある科学的問題において対立する見解の両方を支持するデー
タや結論が得られるということにつながり、再現不可能なデータや偽造データの使
用につながる可能性がある。
「証拠の重み付け」は色んな場面で使用されるが、複数の研究や不特定な研究方法
に対して、比喩的な意味合いで使われることが多い。研究を評価し証拠の重み付け
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を得るよりよいアプローチは、個々の研究を影響のあるあるいは影響のない証拠と
して評価し、透明性のあるかつ理論的なフレームワークを確立することである。こ
のフレームワークは、研究の強みと適切性を評価する方法を含んでいなければなら
ない。証拠の重み付けのプロセスの中には、標準的な評価シートを使う者による初
回レビュー、研究のデータ及び説明が正しいことを確認する独立品質保証、及び鑑
定の点数付け(内部の矛盾、不正確な比較などによる点数の減少、または再分析や
統計学上重要でない場合の対応などによる点数の増加を含む)が含まれる。又、レ
ビューする研究を選択する際に、検索バイアス、選択バイアス、出版バイアスの削
減が必要となる。各研究に対し、強み及び適切性の点数がつけられ、その平均値を
求め、ランク付けすることで証拠の重み付けを相対的に把握できる。下図の通り、
二次元グラフにて表すことができる。
Strength of the methods and procedures
4
Strong evidence
of no adverse
effects
Strong evidence
of adverse
effects
Weak evidence
of no adverse
effects
Weak evidence
of adverse
effects
3
2
1
0
0
1
2
3
Relevance of the response to adverse effects
4
図 2:証拠の重み付けのグラフ
図 2 にて、横軸には有害作用又は結果に対する対応の適切性が示され、縦軸には研
究方法及び過程の強みが示されている。左上、左下、右上、右下に図示された領域
はそれぞれ、有害作用がない有力な証拠がある、有害作用がない証拠が多少ある、
有害作用がある有力な証拠がある、有害作用がある証拠が多少ある、ことを示して
いる。
例:POP・
・PBT としてクロルピリホスを評価
例:
殺虫剤であるクロルピリホスについてたくさんのデータがある。論文等を評価する
ため実用的なアプローチを採用し、また未出版データも Dow AgroSciences より入手
した。実際の環境状況の中で、正規化をしないで行われた、難分解及び生物蓄積に
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関する研究の強みを評価するための枠組みが開発された。pH2 以下等、極端な環境
状況は省略された。複数のデータ数値があった場合、幾何平均が使用された。全て
の調査対象のパラメータ(水の中での半減期、研究室の土中での半減期、野外の土
中での半減期、底質の中での半減期、及び BCF)の幾何平均が EC 1107/2009 の POP
又は PBT の基準に達していなかった。尚、Morris et al., 2014 Environ Toxicol Chem –
early view DOI: 10.1002/etc.2634 によると、カナダ北極圏の植物‐カリブー‐オオカミの
食物連鎖において栄養蓄積は測定できなかった。従って、クロルピリホスは P 及び
B において POP 又は PBT ではない。スバールバルやアラスカのような準辺境
(Semi-remote)及び辺境にてクロルピリホスが確認されたが、大気・雨・雪・水媒
体・陸上媒体・生物相での濃度は低く、水生生物と陸上生物の有害閾値より低濃度
である。
まとめ
POPs や PBTs のリスク評価には科学的証拠の評価および毒性評価が必要である。評
価するためのデータの判断として、欧州の REACH 等の法令は証拠の重み付け
(WoE)を参照している。多くの研究は Good Laboratory Practices(GLP)基準に準
拠して実施されていないため、公開されている論文等の文献の情報を使用する場
合、調和エンドポイントの適切性および関連性について評価しなければならない。
特に、評価を行う上で最も適したデータを選択するため、研究方法の強み及び観測
結果の適切性を定量化する必要がある。データの正しい評価と正しい枠組みを使用
することは、証拠の重み付けは化学物質の POPs や PBT 性質を評価する基準とな
る。
質疑応答
1. 新開発された化学物質に関して情報が乏しい場合、モデルによる予測を証拠の重
み付けに含めてもいいか。
モデルによる予測を証拠の重み付けに含めてもよい。
ただし、モデルが実際のデータを用いて較正していない限り、モデルの適切性は実
際の測定結果より低くなるかもしれない。モデルに使用される化学物質は、較正に
使われる化学物質と大きく異なるかもしれない。もし可能であるならば実際の測定
数値を使うことが望ましい。
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揮発性環状メチルシロキサン(
)の安全性
揮発性環状メチルシロキサン(cVMS)の安全
)の安全性評価の最新
動向について‐D5
の鳥類研究を含むサイクリクス
動向について
の鳥類研究を含むサイクリクスの安全
サイクリクスの安全性
の安全性評
価の概観
Kathleen P. Plotzke
Dow Corning Corporation, Midland, MI, USA
イントロダクション
揮発性環状メチルシロキサン(cVMS)はシロキサンポリマーの製造やコンシューマ
ー用製品等幅広く使用されている。しかし、現在のスクリーニング基準では cVMS
が PBT の性質(難分解性・生物蓄積性・毒性)を有していると推測される。cVMS
の安全性を示すため、cVMS の人及び環境への影響に関する研究が行われた。
Global Silicones Council (GSC)
GSC は、Silicones Environmental, Health and Safety Center of North America (SEHSC)、
Centre Européen des Silicones (CES)、及び Silicone Industry Association of Japan (SIAJ)の
3 つの地域団体から成っており、世界の製造大手が参加している。GSC の目的はシ
リコーンの安全な使用とスチュワードシップを、次の 4 つを通して促進している。
①前述の 3 つの団体の環境、健康および安全の活動のモニタリング;②業界団体、
規制機関や環境・健康および安全に係る国際的団体間のコミュニケーションの積極
的な促進;③シリコーンの環境、健康および安全に関する研究を向上できる機会の
特定及び予測、また業界のプロダクト・スチュワードシップへの貢献の対外発信を
目的としたグローバルなプロジェクトへの参加;④シリコーンの利点及び安全性に
対する公共の理解を深めることを目的としたプロジェクトのスポンサー支援。
揮発性環状メチルシロキサン(
)
揮発性環状メチルシロキサン(cVMS)
cVMS は、低分子量・低水溶性の透明な液体でシロキサンポリマーの製造やトイレ
タリー商品や洗浄剤、家庭用ケア商品等のコンシューマー用製品等幅広く使用され
ている。十分な蒸発率、低表面張力、及び無臭等、cVMS の有益とされる物理的及
び化学的性質は、環境及び人の健康への影響を評価する際の課題でもある。cVMS
の D4、D5 及び D6 の化学構造を以下にまとめる。下表の通り、D4、D5、D6 の順にケ
イ素・酸素結合の数は増えており、水溶性は低くなっている。水溶性の低い cVMS
は水生環境では存在しにくい。
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図 1:cVMS の化学構造
cVMS について、一般的な有害性試験、動物及びヒトに関する薬物動態学、及び薬
物動態モデルに基づく生理学のデータ等、ヒト健康を害さないという研究データ及
びフィールドデータがある。欧州委員会の Scientific Committee on Consumer Safety、
Cosmetic Ingredient Review (CIR) Expert Panel、Health Canada 及び UK Environment
Agency は人に対する cVMS のリスクアセスメントを実施し、全てのアセスメントに
おいて cVMS がヒトにリスクを及ぼさないという結論を下した。
現在のスクリーニング基準及び生物蓄積性の研究では cVMS が PBT 性質を有してい
ると予測している。しかし環境フィールド研究は、その環境中では典型的な PBT 性
質を有しておらず、水環境において生物蓄積を生じることはないと示している。
cVMS の評価は、現行スクリーニング基準では把握できない情報を評価することが
求められている。GSC は、自主的なプロダクト・スチュワードシップ・イニシャテ
ィブを実施しており、そこでは以下の研究を行っている。
− 排出源からの排出削減の研究
− 廃水処理施設からの排出の評価
− 定常状態モデリング
− 長期的なモニタリングプログラム
− 栄養移行の評価
− D5 の鳥類繁殖毒性試験
自主的なプロダクト・スチュワードシップ・イニシャティブ
排出源からの排出削減には次の 3 つの活動が実施された。①モデルを使って、産
業・川下ユーザーからの排出及び運命(fate)を評価する化学物質安全性報告書
(Chemical Safety Report)の作成;②D4 及び D5 の製造・加工・処方に関わる全ての
ユーザーのための、排出管理に関するガイドラインの作成;③D4 又は D5 の廃棄物
取扱い・管理・処理に関するベストプラクティスの普及を促進するべく、加工・処
方施設における川下ユーザーとの協同作業。
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コンシューマー用製品に使用されるため、cVMS は公共下水処理施設に行き着く。
そのため、短期的な排出・暴露の傾向を特定するためのプロジェクト憲章ができ
た。これは、下水処理処理施設への流入水、放流水及びバイオソリッド(バイオ固
形物)を監視し、周辺環境への cVMS の排出・暴露データを抽出するものである。
このような監視は、オスロ(ノルウェー)、東京(日本)、トロント・ハミルトン
(カナダ)、セントポール(ミネソタ州、アメリカ)で行う予定である。流入水/
放流水のデータ収集及び分析方法、バイオソリッド及び流入・排水の分析方法の開
発の研究室間の比較とフィージビリティスタディは既に実施されている。
上記のモデリングイニシャティブでは、全種類の下水処理施設に対応するための
Simple Treat モデルの適合が完結しており、今後モニタリングデータと比較し検証が
実施される。また、定常状態モデルは 4 つの水生環境(オスロ・フィヨルド、オン
タリオ湖、ペピン湖、及び東京湾)で実施された。この結果によると、全ての環境
において、水中の濃度が排出の変化に素早く反応すると予測される。しかし、底質
での濃度は排出の変化に比較的遅く反応する。下図は、春期における東京湾でのモ
デリング実験の結果である(15 の水区域(11 は表層、4 は底層)が対象)。このよ
うなモデルは下水処理施設の場所により、各区域に異なる暴露濃度を指定しないと
いけないため、複雑になることがある。
図 2:東京湾でのモニタリング区域
2011 年より長期モニタリングプログラム(LTMP)が、ぺピン湖(アメリカ)、オ
ンタリオ湖(カナダ)、オスロ・フィヨルド(ノルウェー)にて開始しており、東
京湾(日本)は 2012 年より開始している。モニタリング地点は cVMS のモニタリン
グ実現性や過去のモニタリングデータを基に選択された。LTMP の目的は、プログ
ラム期間中(5 年間)、底質表層や水生生物の cVMS 濃度が安定しているか、それ
とも変化しているかを把握するためである。本プログラムは±6%の年間濃度変化を
測定することを目的としており、データを収集・分析するためのデータベースが作
成された。ぺピン湖、オンタリオ湖、オスロ・フィヨルドにおいて最初の 3 年間の
サンプルデータの収集・分析を行い、東京湾に関しては最初の 2 年間のサンプルデ
ータの収集・分析を行った。現状としてサンプルプログラムは順調であり、当初の
デザインから大きな変更はない。しかし、年間±6%の濃度変化率を観測するという
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目的を果たすため、生物の繰り返し回数を増加させた。5 年間のデータ収集後、全体
的な傾向を分析する。
栄養移行評価のイニシャティブにおいては、底性の遠洋の食物連鎖のモニタリング
がぺピン湖、シャンプレーン湖、及び東京湾で実施された。収集データは、cVMS
の栄養移行に関する公表データと比較されており、この研究によると栄養蓄積係数
(TMF)を算出する際、栄養濃度勾配や移動パターンを考慮しなければならない。
これらを考慮され計算された TMF は、食物連鎖のサンプル全てにおいて 1.0 より低
かった(栄養蓄積ではなく、栄養希釈(trophic dilution))。栄養蓄積の評価では、
スクリーニング基準を満たす可能性がある対象物質が生物蓄積を生じるかを調べ
る。データによると、cVMS の場合、生物蓄積せず希釈される。
D5 の日本ウズラの繁殖毒性試験は、コリンウズラ及びマガモのために開発された
OECD 206 の試験ガイドラインに沿って行われた。この調査は、産卵前の 10 週間は
食料を介する暴露、及びその後の 10 週間にわたる採卵で構成される。日本ウズラは
早くて 6 週間で性成熟に達し、又産卵を効果的に管理するべく光周期の調整が必要
であったため、試験ガイドラインを厳守することがこの研究の課題であった。
OECD206 は、繁殖力に大きな差異があるため、日本ウズラの繁殖能力を証明するこ
とを推奨している。又、最大服用量を 1000ppm とすることを推奨している(これは
だいたい 10%致死濃度の半分の値である)。この調査の予備試験では、D5 の影響の
理解を深めるべく 0、250、500、1000ppm の D5 を餌料に投入した。この 12 週間の調
査では、エンドポイントの評価において統計学上異常な影響は確認できず、又、行
動学上の異常も確認できなかった。最終調査では、各服用量の調査において 18 ペア
(オス、メス一匹ずつ)を対象とした。D5 の暴露は生後 24 日から始まり、0、
250、500、1000ppm 餌料に投入された。親鳥は 2 週間同じケージに入れられ、その
後は隣のケージに移され、一日一回元のケージに入れられる。下記のエンドポイン
トが評価され、22 週間にわたる日本のウズラの繁殖調査では、測定された全てのパ
ラメータにおいて統計学上有意な影響は確認されなかった。
図 3:統計評価されたエンドポイント
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本調査の無影響濃度(No-Observed-Effect Concentration;NOEC)は、1000 mg/kg
(1000 ppm)(1 日 143.5 mg/体重 kg に相当)であり、最小影響濃度(LowestObservable-Effect Concentration;LOEC)は>1000 mg/kg(1000 ppm)である。本調査
の NOEC は、環境中の土壌・底質・魚類のサンプルよりも 10,000 倍高く、環境中の
D5 の安全性を示している。
まとめ
現在のスクリーニング基準及びラボの生物濃縮性の研究は cVMS は PBT 性質を有し
ていると予測する。しかし環境フィールド研究は、環境中では典型的な PBT 性質を
有していないことを示している。又、GSC が行っている自主的なプロダクト・スチ
ュワードシップ・イニシャティブでは、環境中の cVMS の安全性を示している。
質疑応答
1. D4、D5、D6 が揮発性があり水溶性が低いのであるならば、これらの物質の大気
濃度を測定するイニシャティブはあるか。
ある。これらの物質が大気及びその他の媒体でどのような挙動を示すか、測定デー
タがある。
2. シロキサンは、特に BCF(生物濃縮係数)においては一般的な有機化合物と比
べ特別な性質を有するが、多くの機関は評価のために BCF を使用する。これに
ついての見解は。
BCF は生物蓄積の評価のため選択されており、多くの物質に対して適しているが、
シロキサン等においては代謝するため適していない。
3. モニタリングプログラムにおいて、湖の選択の根拠は。
グローバルなデータを採取するべく地域の多様性を考慮した。
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水生環境の揮発性メチル
水生環境の揮発性メチルシロキサン:分析方法の開発及び
メチルシロキサン:分析方法の開発及び
東京湾流域でのモニタリングへの適用
東京湾流域でのモニタリングへの適用
Yuichi Horii
Center for Environmental Science, Saitama, Japan
イントロダクション
環境中の揮発性メチルシロキサン(VMS)の評価はヒト及び環境へのリスクを評価
する上で重要である。しかし、VMS の分析は難しく、水生環境の濃度・分布・動態
に関する情報が限られている。そのため、固相マトリクスや水中の直鎖・環状メチ
ルシロキサンの簡易な分析方法が開発された。
水、底質
水、底質、魚を含む水
底質、魚を含む水生
、魚を含む水生環境サンプルの分析方法
ブランク・コントロールは cVMS の分析を行う上で一番重要な要素である。汚染を
低減するため、全ての製品及び試薬のブランク・レベルを検査した。この結果に基
づき、フルオロカーボン等の低いブランクの物質が、バイアルシール及びセプタム
インレットに使用されることとなった。
このプロジェクトで開発された、水サンプルの分析方法には、抽出、溶出、定量化
の 3 つの要素がある。先ず、未ろ過水サンプルをパージトラップ法(PT 法)にて抽
出される。PT 法は揮発性物質のみの抽出を可能とする。PT 法での抽出後、トラップ
溶媒が取り除かれ、窒素を使って乾燥される。対象化学物質は、ジクロロメタンや
ヘキサンのような有機溶剤とともに溶出され、GC vial にて直接収集され、同定及び
定量化される。
4°C で保存されている水における D5 の安定性試験では、相対濃度は日数とともに低
減することがわかった。15 日後には 20%の VMS が失われた。そのため、このプロ
ジェクトでは、95%以上の化学物質が回収できるよう抽出をサンプリングの 4 日以内
に行った。
固相マトリクスにおいて、従来は、溶剤を振って抽出した後、クリーンアップせず
に直接サンプルをガスクロマトグラフ質量分析計(GC /MS)に注入し分析してい
た。しかし本プロジェクトでは、底質や魚等の固体サンプルの VMS を分析するにあ
たって、溶剤を振とう抽出、及び PT クリーンアップの両方を実施した。PT 法によ
る抽出は、着色成分や鉱油、脂質等の不揮発性画分を除去するために適用された。
このクリーンアップを実施しないと、下図の通り、GC/MS スキャンのクロマトグ
ラムにて干渉が測定される。
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13
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図 1:クリーンアップ有無のクロマトグラムの比較
東京湾流域での濃度レベル
東京湾流域における 7 つの VMS 化合物(D3、D4、D5、D6、L3、L4 及び L5)の濃
度を測定するべく、2 回にわたりサンプリング調査が実施された。1 回目は 2012 年
10 月から 11 月に、東京湾に流入する河川(鶴見川、多摩川、墨田川、荒川、江戸
川、養老川)9 地点で実施された。2 回目のサンプリング調査は、2013 年 4 月に埼玉
にて、荒川、隅田川、中川、そして江戸川の中上流域の 39 地点で実施された。
2012 年に実施された 1 回目のサンプリングにおける、7 つの VMS 化合物の平均濃度
は 130 ng/L であり、32 ng/L から 470 ng/L の幅があった。最大値は下水処理施設
(STPs)の近くで測定された。このサンプリング調査で収集したデータは、20 ng/L
から 400 ng/L の範囲の濃度をもつドイツやフランス、イギリスと同等である。
2013 年に中上流域にて収集したデータにおける、7 つの VMS 化合物の平均濃度は
240 ng/L であり、4.9 ng/L から 1700 ng/L の幅があった。VMS と TOC(全有機炭素)
の濃度には正の相関が確認でき、この結果は、高い KOC の値をもつ VMS 化合物の物
理的及び化学的性質とつじつまが合う。
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14
SILICONE INDUSTRY ASSOCIATION OF JAPAN
VMS Conc vs. TOC
2000
VMS 濃度 (ng/L)
1500
y = 95.051x - 99.596
R² = 0.3827
1000
500
0
0
5
10
TOC (mg/L)
15
図 2:VMS 濃度(ng/L)と TOC (mg/L)の相関関係
日本の水のサンプルでは揮発性環状メチルシロキサン(cVMS)の中で D5 の濃度が
最も高く、D6、D4 の順で濃度が高かった。水サンプルは、河水、海水、排水より採
取した。サンプルによっては、これらの化合物の濃度が非常に低かった。東京湾に
おいても、検出下限値に近い低濃度が測定された。
サンプルにより測定値に差異があったものの、下図の通り、対象化学物質の正の相
関関係が確認できた。これらは、水サンプル中の cVMS が同類のソース(下水処理
場等)からきていることを示している。
図 3:対象物質の相関関係
水生環境の VMS のソース
シロキサン(環状及び直鎖含む)の使用率は 1 人 1 日あたり 307 mg である。シロキ
サンの中では D5 の使用率が一番高く(1 人 1 日あたり 233 mg)、直鎖シロキサン、
D6、そして D4 と次ぐ(Horii and Kannan, Arch Environ Contam Toxicol, 2008, 55, 701710)。
下水処理場は VMS の主要な排出源と考えられる。90%の VMS が大気に排出される
ものの、残りの 10%は廃水処理施設に行き着く。排水処理後、5%が水生環境に廃水
として流出する。いくらかの VMS は、活性汚泥による水処理においてエアレーショ
ンガスとして大気に排出される(Mackay & Cowan-Ellsberry 2011, SETAC NA)。
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15
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環境中の VMS の排出と下水処理場の VMS の除去効率を調査するため、埼玉県でマ
スバランス試験を実施した。大中規模の下水処理場 9 箇所から流入水、一次処理
水、混合槽(曝気槽)、二次沈殿槽、最終排水(河川に放水)、乾燥汚泥、エアレ
ーションガス(大気に放出)のサンプルが採取された。
流入水の VMS の平均濃度は 11,000ng/L であった。曝気槽内では、活性汚泥が VMS
を吸着するため、51,000ng/L まで上昇したものの、その後の二次沈殿槽にて VMS 濃
度は急減した。活性汚泥による処理はおおよその VMS の除去が可能であることを示
している。
図 4:下水処理プロセスにおける 7 つの VMS 化合物の濃度(ng/L)
比率を考慮すると、流入水、一次処理水、混合液は似ており、D5、D6、D4 の順で
比率が高い。二次沈殿槽の水と最終放流水においては曝気槽にて D5 が取り除かれた
ため、D3 と D4 の比率が増加した。又、直鎖 VMS 化合物は構成比率が低い。
下水処理場の VMS の除去効率は 2 つの場所で測定・予測され、二つの方法を採用し
た。一つ目は STP2 での活性汚泥による処理で、二つ目は STP8 におけるオキシデー
ション・ディッチ法(酸化溝法)である。
STP2 での除去効率は 96%(初期量が 100%として)であった。おおよその VMS
(95%)は活性汚泥への吸着により取り除かれた。20%程の VMS はエアレーション
ガスとともに蒸発したが、このほとんどがガスフィルタにて取り除かれている。こ
の下水処理場において、水に年間 20 kg(4.5%)排出し、大気に年間 0.041 kg
(0.009%)排出している。
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16
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図 5:STP2 の VMS のマスバランス(活性汚泥による処理)
STP8(オキシデーションディッチ法)における VMS 除去効率は 98%であった。お
およその VMS(89%)は活性汚泥への吸着により取り除かれた。この予測値は防臭
装置がない下水処理場を想定しているため、蒸発した VMS は大気にそのまま放出さ
れている。この下水処理場では水を介して年間 0.48 kg(2.3%)、大気を介して年間
8.6 kg(42%)の VMS が排出されている。
図 6:STP8 の VMS のマスバランス(オキシデーションディッチ法)
排水の VMS 濃度及び日本の下水処理場での VMS 除去効率は、カナダや欧州(北欧
諸国、ギリシャ、イギリス)と同等である。パーソナル・ケア商品の VMS の混合率
の違いが理由として考えられるが、イギリスにおいて D6 の濃度は比較的高い。
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17
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環境リスク評価
カナダ環境省による PNEC(予測無影響濃度)(D4: 0.2 µg/L, D5: 15 µg/L, and D6: 4.6
µg/L)を使用し、水サンプルに含有する cVMS のハザード比(HQ)が推定された。
HQ = MEC / PNEC
HQ≥1:懸念されるリスク
HQ<1:低リスク
(MEC=測定環境濃度、PNEC=予測無影響濃度)
平均 HQ は 0.11 で、0.0026 から 1.1 の値の幅があった。最高値は下水処理場の排水
で観測された。サンプルは D4(78%)、D5(16%)、D6(5.8%)から成っており、
水の環境リスクを評価する上で D4 が最も重要な要素であることを示している。
質疑応答
1. 化合物に対してどのようにハザード比が定められたのか。
化合物のハザード比は、3 つの物質の個々のハザード比を足して求めた。
2. 半減期は実験データから得たものか。
このデータは文献値を引用した。
将来的には、水生環境中の代謝物質を測定する予定である。
3. リスク評価にて、下水処理場の放流水は高い D4 含有率のためハザード比が高か
った。この廃水のソースは何か。
廃水は都市下水からである。
放流水は、D4 を多く含んでいただけではなく、全ての化合物が多く含まれていた。
しかし、D4 の PNEC は他の化合物より低いため、他 VMS 化合物より比較的高いリ
スクを有している。
4. 検出限界を改善する案は。
一つは抽出量を増やすことである。現在 PT 法を使用しているため、複数のボトルで
同時抽出し、後で一緒にすることが可能である。これにより、抽出量を増やし、水
量を増やし、検出限界を下げることができる。
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18
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揮発性メチルシロキサンの長距離移動性
揮発性メチルシロキサンの長距離移動性
Shihe Xu
Dow Corning Corporation, Midland, MI, USA
イントロダクション
PCB 等 の 残 留 性 有 機 汚 染 物 質 ( POPs ) の 特 徴 と し て 長 距 離 移 動 ( Long-Range
Transport; LRT)の可能性が高いということが挙げられる。VMS は高い長距離移動性
を有していると考えられ、このプレゼンテーションでは、POPs と VMS の長距離移
動性(Long-Range Transport Potential; LRTP)の比較について言及する。
長距離移動性 (LRTP)の定義
の定義
LRTP とは、「放出源から離れた地点における別の環境に移動する可能性とともに、
大気や水、移動性の種を介して長距離にわたり移動する可能性」(United Nations
Environment Programme [UNEP] 2001 Stockholm Convention, Annex D)をいう。これは
媒体を介する移動や、遠隔地域での表面移動・堆積も含む。
図 1:空気を介する長期移動
POPs(残留性有機汚染物質)は難分解性、蓄積性、毒性のある物質で、長距離越境
移動及び堆積する傾向があり、放出源の近く又は遠隔地点において人及び環境に大
きな悪影響を及ぼす可能性がある。
以下に長距離移動の指標を示す:
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19
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移動関連指標(上 4 つ)は化学物質の移動距離についてであり、遠隔地点関連指標
(下 3 つ)は遠隔地域における空気中の物質の堆積についてである。
以下は、UNEP ストックホルム条約の LRTP スクリーニング基準である。移動関連指
標及び遠隔地点関連指標の両方が組み込まれている。
1. 大気中の半減期>2 日、又は;
2. 排出源から離れた懸念される地点での測定濃度、又は;
3. 排出源から離れた地点における環境への移動可能性を示すモニタリングデータ、
又は;
4. 大気を経由した長距離にわたる移動可能性を示す環境中運命の物性、及び/又は
モデル計算結果
多くの人が物質の LRT と堆積を測定する前に最初の基準でやめてしまうが、これは
誤った結果につながってしまう。例えば、VMS 化合物の半減期が 2 日以上であって
も、大気-水の分配係数が POPs の一般的な値の 5、6 桁も大きい場合、遠隔地域に
て人又は環境に大きな悪影響を及ぼす濃度で堆積することはない。
OECD ツールを使用したモデリング
cVMS の LRTP は、一般シナリオ(uniform scenario)及び都市部シナリオにおいて、
OECD Pov(全体環境残留性)及び LRTP スクリーニングツールを使って、ベンチマ
ークの化学物質との比較を通して調査された。両方のシナリオにおいて D4、D5、
D6 について以下がわかった。
− 固有移動距離(CTD;km)が標準 POP 物質とアセトンより短い又は同等、か
つメタノールよりも長い又は同等
− 移 動 効 率 ( TE ; % ) が 、 ア セ ト ン や メ タ ノ ー ル の よ う な 高 生 産 量 物 質
(HPV)及び標準 POPs 物質より著しく低い
尚、両方の指標において、都市部のシナリオの方が測定値が低かった。cVMS 化合
物は、都市部で消費されるパーソナル・ケア商品に使用されているため、一般シナリ
ENVIRONMENTAL RESOURCES MANAGEMENT
20
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オより都市部のシナリオの方がこれらの化合物の排出シナリオに適しているといえ
る。
OEDC ツールは簡単であるため幅広く使用されており、LRTP の相対的な計測が可能
であるとともに、難分解性推測のため化学物質分布も考慮する。しかし、このツー
ルは実際の排出シナリオに基づいておらず、物質の 100%が大気、水、及び/又は土
壌に放出されると仮定しており、この 3 つの放出値の内一番高い値を選択する。そ
のため推測値は相対的にしか評価ができず、ベンチマーク物質と比較することしか
できない。
GloboPOP による VMS の緯度分布のモデル
先ず、VMS の排出状況において 2 点記載する。1 点目は、排出される VMS の多く
は 、 北 半 球 の 3 つ の 地 域 に よ る も の で あ る ( N-temporal, N-subtropical and Ntropical)。2 点目は、VMS の 95%が大気に放出されている(D5 の場合;Xu and
Wania. 2013. Chemosphere 93, 835-843)。
GloboPOP モデルを使用し、年間排出率と D4 及び D5 の大気残留量の比が計算され
た。HCB と、POPs の下限の PCB28 が標準物質として選定された。D4 及び D5 の一
部が北極圏に達するが、南極圏には達さないことがこのモデリングを通して判明し
た。
同様に、上記 4 つの化合物の表面分布と年間排出率の比が求められた。PCB28 と
HCB の表面堆積率は、D4 及び D5 の堆積率より 5 桁高かった。このため、北極圏に
行き着く VMS があるが、北極の表面に堆積する VMS はほとんどない。
春夏に測定された汚染物質の空間分布
春夏に測定された汚染物質の空間分布
D4、D5、α-HCH(α-hexachlorocyclohexane)の空間分布を下図に示す。ここでは、
排出源である都市部の濃度を 1 とし、化合物が移動した田舎地方の濃度を正規化し
ている。
図 2:D4、D5 及びα-HCH の空間分布
ENVIRONMENTAL RESOURCES MANAGEMENT
21
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図 2 によると、遠隔地点でのα-HCH の測定濃度は排出源とあまり変わらない。従っ
て、排出源にてα-HCH に関する吸入問題がある場合、遠隔地点においても同様の問
題が生じる可能性がある。一方、遠隔地点における D4 及び D5 の濃度は急速に減少
している。従って、D4、D5 のような VMS に関する吸入問題は遠隔地点において可
能性が低いと考えられる。
環境暴露において、遠隔の大気中から表面への堆積は重要である。α-HCH に関して
は、土中の濃度が空気中の濃度より 5 桁高いため、環境暴露が高い。この濃度の高
さは土壌-空気の分配係数とつじつまが合う。
遠隔地域における空気-土壌の堆積
空気-土壌の堆積は遠方地点における VMS の環境暴露の重要なメカニズムである。
対流圏(6,000km)の空気と土壌(深さ = 20 cm; ρs = 1.3 g cm-3; foc = 2%)が平衡で
あるモデル環境を仮定した場合、土壌(MS)と空気(MA)の重量配分比は、いかな
る温度でも、以下の数式を用いて計算できる。
MS/MA = ρsfoc(Vs/VA)(KOC/KAW)
25°C の場合、上記数式は以下のものに簡易化される。
log KAW = -6.06 + log KOC
– log (MS/MA)
化合物の log KOC 及び log KAW をグラフ化することにより、その物質の土壌の堆積が
求められる。全ての既存及び新 POPs は、調査条件の下、50%~100%の化合物が土
壌に分配された(例:PFOS)。これは、化合物が遠方地点に達した場合、著しい環
境暴露があることを示している。D4 及び D5 に関しては堆積は 1%以下である。この
差異はそれぞれの物質の分配係数によるものである。
下表は、2 つの深度における D4、D5 及び D6 の分布率に温度がどのような影響を与
えるかを示している。分布率は、土中の質量を土中及び遠隔地域での大気分布の総
質量で割って計算された。
表 1:大気-土中の堆積に与える温度の影響
(出典:Xu, 2011, SETAC Europe Annual mtg.)
ENVIRONMENTAL RESOURCES MANAGEMENT
22
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上表により、低温度でも D4、D5 及び D6 の土壌分配が低いことがわかった。
モデル結果と環境モニタリングデータの比較
春・夏に実施された D5 の環境モニタリングでは、空輸の D5 のごく一部が北極圏に
達することがわかった。様々な温度の平衡分配係数を基に、D5 が実際に土壌に分配
できる濃度を把握するべく、D5 の最小・最大濃度をグラフ化した。モニタリング方
法の検出限界以上の D5 濃度を測定し、予測されていた堆積濃度よりはるかに高かっ
た。大気からの堆積は、遠隔地域での土壌の質量にほとんど影響を与えない。D5 の
土中のフガシティが高いため、D5 は土壌から大気に移動する。
D4 においても同様なデータが得られた。しかし、D4 の濃度は D5 の 10 倍低いため
D4 の土壌のデータは比較的少ない。現行の方法では、D4 及び D5 の大気からの堆積
の予測は観測できなかった。
また、底質-大気の分配も重要である。下図は、2 つの温度下(0°C、20°C)におい
て、大気分布の標高と底質に分布される cVMS の質量分率を示している。
図 3:cVMS の底質-大気の分配
D6 を除き、排出源から離れた測定地域にかけて全ての化合物の質量分率が 1 未満で
ある。
底質に含有される cVMS のモニタリングデータにおいては、D4 の予測堆積濃度は、
無影響濃度(NOEC)と比較し数桁低かった(Midge, Blackworm)。D5 においても
同様の結果であったが、D5 の測定濃度は比較的幅があった。D5 はパーソナル・ケ
ア商品に使用されるため、底質中の D5 の濃度は高かった。
まとめ
ENVIRONMENTAL RESOURCES MANAGEMENT
23
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大気に排出された VMS のごく一部が遠隔地域に行き着く。しかし空気経由の VMS
が地上に堆積することは無視してもよい。遠隔地域で検出可能な VMS は、長距離移
動ではなく地域内で発生していると考えられる。また、VMS 化合物は人及び沿革地
域の環境に害を及ぼすことはないと推測されている。
結論として、空気中での半減期が 2 日以上であることは、長距離移動及び堆積を必
ずしも意味しているわけではない。分配性質の組み合わせは、化学物質が人や環境
に大きな悪影響を与えるかどうか評価する上で重要である。この確固たる科学的評
価により、VMS は POPs として扱われてはならない。
質疑応答
1. 化合物の雨滴や雪への分配はいかなるものか。
雨滴への分配は、高い KAW 値のため少ない。
又、雪への分配も少ない。雪の表面には化合物がある程度付着するが、雪が溶ける
とそれらの化合物は水に留まらず、大気に分配する。
2. この研究で採用された方法は、法規制関係またはスクリーニングの場面において
も使用できるか。
この分析は法規制目的にて使用されるための認可を得ていないが、私の意見だと、
この調査において唯一特別な手法は、都市部の排出シナリオである。このシナリオ
がなくても結論は同じである。
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生物蓄積におけるフガシティ
生物蓄積における フガシティレシオ
フガシティ レシオ手法の
レシオ 手法の活用
手法の 活用:コンセプ
活用 :コンセプ
ト、適用
ト、適用及び注意事項
適用及び注意事項
Kent B. Woodburn and David E. Powell
Dow Corning Corporation, Midland, MI, USA
イントロダクション
2009 年の環境毒物化学学会(SETAC)Pellston Conference では、フガシティレシオ手
法が生物蓄積が発生するかどうかという仮説を検証する、よりフォーマルな手法で
あるため、化学物質管理及び規制(特に生物蓄積ポテンシャルの包括的な評価)の
意思決定において実践的な枠組みであると結論付けた。本プレゼンテーションで
は、この結論の経緯を説明する。
背景:生物蓄積 (“B”)
)
生物蓄積は、生体内に化学物質が蓄積し、潜在的に個体または個体群に悪影響に与
え、更に生態系へ影響を及ぼすかを特定するために研究される。例えば、1960 年代
にアメリカでは、食物網に存在する DDT 代謝物質の蓄積が鳥の卵殻の厚さに影響を
及ぼし、更にその個体種に悪影響を与えた。
毒性学の父として知られる Paracelsus(1493 – 1541)による有名な引用がある:
「ドース(服用量)で毒になる(Dose makes the poison)」。このように、毒性的
な影響を防ぐために生物蓄積に上限を設定し、この上限値をクリティカル・ボデ
ィ・バーデン(Critical Body Burden, CCB)という。規制当局は通常、生物蓄積
(“B”)を生物濃縮係数(>2000 (B)から>5000(vB))を用いて特定する。
以下は、生物蓄積を測定するために用いられる様々な“B”指数である。ただし、規
制当局は生物濃縮係数を使うことが多い。
生物濃縮係数(Bioconcentration Factor, BCF):生体/水
生物蓄積係数(Bioaccumulation Factor, BAF):生体/水+食物
生物相-底質蓄積係数(Biota-Sediment Accumulation Factor, BSAF):
生体/底質
経口濃縮係数(Biomagnification Factor ,BMF):生体/食物
栄養蓄積係数(Trophic Magnification Factor, TMF): 生体/食物網
図 1 のように、フィールド測定は生物蓄積の最も正確な指数である。
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25
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図 1:生物蓄積の評価指数
(出典:Gobas et al., 2009)
フガシティ(
)とは
フガシティ(f)
一般的に、フガシティは「化学的活動」、「化学ポテンシャル」、または「逃散能
(escaping tendency)」として捉えられることが多い。気相の場合、フガシティは「分
圧 」 と し て 考 え ら れ る 場 合 も あ る ( 例 え ば 、 同 一 温 度 条 件 下 、 純 液 体 ( pure
liquid)と平衡状態になる時に発生するガスの圧力)。フガシティは媒体「m」
(Cm)における化学物質濃度と媒体のフガシティ容量(Zm)の比と定義される。
f = Cm/ Z m
フガシティ容量(Zm)は化学物質を可溶化及び吸着する相の容量を表し、相組成、
温度、圧力、及び化学物質の物理的及び化学的性質によって決められる。フガシテ
ィ容量は媒体及びその化合物の性質に基づき計算される。
フガシティレシオ
)とは
フガシティレシオ(
レシオ(F)
生物相におけるフガシティと基準媒体におけるフガシティが等しい時に化学平衡と
なり、フガシティレシオ(F)が「1」となる。生物相と水相の場合、フガシティレ
シオは脂質含量に合わせて調整し、Kow 値に正規化される BCF 値である。
Fbiota/water = BCF * dbiota * Zwater / Zbiota
同様に、Fbiota-sediment の値は Koc/Kow 比に調整したものである。
Fbiota/sediment = BSAFOC/lipid * dlipid * Koc/Kow
ただし、親油性の化学物質(PCBs, polycyclic aromatic hydrocarbons(PAHs)等)
の多くにおいて Koc ≅ Kow であるため、次のようになる。
Fbiota/sediment ≅ BSAFOC/lipid
ENVIRONMENTAL RESOURCES MANAGEMENT
26
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環状及び直鎖シロキサン類物質において、Koc は Kow よりかなり低いため、それに合
わせる BSAF 値の調整が必要である。
フガシティレシオ
フガシティレシオを用いての
レシオを用いての B 指数の見方
指数の見方
フガシティレシオが 1 より大きい場合、生物にある化学物質は暴露媒体より高い化
学的アクティビティを持つ(例えば、生物における化学ポテンシャルが拡大され
る)。又、フガシティレシオが 1 より小さい場合、生物相における化学ポテンシャ
ルが暴露媒体より低い。これは、化学物質が迅速に生体内変換された場合、あるい
は食物網における移動が不十分な場合(例えば、シロキサン類の場合)に発生し、
生物希釈(biodilution)という現象を表す。
脂質-脂質移動において、TMF はおおよそピュア・フガシティレシオである。他の
計測値(BCF、BSAF など)がフガシティレシオに変換することができる。変換する
と一つのグラフ上で表すことができ、生物蓄積を評価することができる。PCB 153
に対し、全てのフガシティレシオが 1 以上であるため、B 指数のフガシティレシオ
が生物蓄積を示している(図 2)。
1000
Line: Median (50%)
Box range: 10% to 90%
PCB 153: F >1, biomagnifying
Fugacity Ratio
100
10
1
Ratio = 1
0.1
0.01
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L a
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M F
図 2:PCB 153 に対するフガシティレシオ
(出典:Burkhard et al. (2012) IEAM 8:17-31)
一方、一般的な代謝率の中間的な Kow(log Kow~5)を持ち、フィールド TMF 値が 1
未満のピレンの B 指数フガシティレシオは生物希釈を示している(図 3)。
ENVIRONMENTAL RESOURCES MANAGEMENT
27
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Fugacity Ratio (fbiota / fmatrix)
103
102
Fugacity Ratio: PCB 153 versus Pyrene
PCB 153: F >1, biomagnifying
101
100
10-1
10-2
10-3
10-4
Pyrene: F <1, not biomagnifying
F
B C
te
te r
a
/w a
/w
is h
is h
f
f
b
b F
b
L a
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L a
L a
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ta /
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M F
図 3:PCB 153 及びピレンにおけるフガシティレシオの比較
(出典:Burkhard et al. (2012) IEAM 8:17-31)
注意事項
生物相フガシティ容量(Zbiota)は(1)「脂質は疎水性有機物質の保管における主要
なフェーズ」と(2)「オクタノールと脂質は同等な保管容量を持つ」を前提とす
る。この仮説は、水、または有機炭素が基準指数とした BCF、BAF、及び BSAF 指
数に影響を与える可能性がある。一部の化合物に対して、この仮説によって Kow 値
と等しい脂質-水の分配値(partition value)を得ることができる。図 4 は D5 にお
ける Klw/Kow と脂質成分の関係を示している。細胞膜脂質の割合が低い時、つま
り、貯蔵脂質が多い時に Kow 値と脂質-水の分配値が一致する。細胞膜脂質の増加
と共に、脂質-水の分配値が減少し、従って 50 倍ものの差が生じる。
図 4. D5 における Klw/Kow と脂質成分の関係
(出典:Seston et al. 2014. IEAM 10: 142-144.)
ENVIRONMENTAL RESOURCES MANAGEMENT
28
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まとめ
最近の研究は、生物蓄積物質の特定にフガシティレシオ手法を用いることを支持し
ている。B 指数は共通の基準で表され、一つの仮説を検証する。実験室における B
指数(例えば、BCF など)は生物蓄積の不確かな指標と認識されるが、フガシティ
レシオは B 指数の有効性を再認識させる一助となりうる。例えば、従来の BCF が
5000 L/kg を超える可能性があるが、低消化作用、或いは低代謝率などによって非生
物蓄積物質(TMF<1)がありうる。そして、フガシティレシオの活用は、証拠の重
み付けや図表によるアプローチを提供することで“B”評価の信頼度を高めることが
できる。
質疑応答
1. それぞれの B 指数の重要性は異なる。フガシティを利用することによってそれ
ぞれの指数に同じ重みを与えることができる。これについてどう思うか。
TMF などのフィールド指数が最も良い指標である。ただし、フガシティレシオ手法
によって、より効果的な実験室用指数を用いることができる。パラメータによって
は、理論的に、「1」より大きなフガシティレシオを得ることはできない(BCF 等)。
従って、TMF などの値も考慮することが重要である。
2. BCF は規制要件に多く使われるが、フガシティレシオが実際にどういうふうに
応用されているか。
現在商業で使用される化学物質には TMF のみ有用である。フガシティレシオは新開
発されたものに利用可能である。BCF は D5 をはじめ、全ての化学物質に適用しない
ため、フガシティレシオはこの場合に活用できる。ストックホルム基準(5000
L/kg)はスクリーニングツールであるが、最終的な指標ではない。
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29
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D5 の生物蓄積
生物蓄積性
蓄積性とリスク評価におけるアクティビティ
とリスク評価におけるアクティビティ及び
アクティビティ及び
フガシティの活用
フガシティの活用
Frank A.P.C. Gobas
School of Resource and Environmental Management,Simon Fraser University, British Columbia, Canada
イントロダクション
化学物質を評価する者は、既存データをよりうまく活用し(「一連の証拠の増
加」)、データの量と質を考慮する必要がある(「証拠の重み付け」)。このプレ
ゼンテーションでは、商業化学物質の生物蓄積性とリスクの評価を高めるため、ア
クティビティ(activity)及びフガシティの熱力学的活用について論じる。
Decamethylcyclopentasiloxane (D5)
D5 は、生物蓄積性及びリスク評価における課題を示す良い例である。カナダにおい
ては全面的な規制審査が行なわれた化学物質でもある D5 について、多くの研究結果
は科学文献で公開されているか、今後公開されると思われる。D5 は日焼け止め、化
粧品などの多くの消費者製品に含まれており、一部製品においては成分の 50%もを
占める。D5 のいくつかの性質を以下に示す:低水溶性(0.00001 mol*m-3)、高い log
Kow(8.03)、高い log Koc(5.17)、高蒸気圧(33.2 Pa)、ならびに高ヘンリー定数
(3.34*106 Pa*m3*mol-1)。
カナダにおける D5 の評価
カナダの国内物質リストに載っている D5 について、同国保健省によりヒト健康面、
環境省により環境面の評価が 3 段階に分けて実施された。第 1 段階では、難分解、
生物蓄積性、固有毒性に対する評価が実施された。第 1 段階後、リスクを評価する
ため、暴露量を毒性と比較するスクリーニングレベルでのリスク評価が実施され
る。リスクを評価した結果、懸念物質として判断された場合、物質は毒性物質リス
トに含まれ、規制の対象となる可能性がある。従って、カナダでは、難分解性
(Persistence - P)、生物蓄積性(Bioaccumulation – B)、毒性(Toxicity – T)ではな
く、リスクが評価の中心となる。
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図 1: 国内物質リストに係る手順
カナダの 1999 年環境保護法(Canadian Environmental Protection Act; CEPA)第 64 項
において、以下の条件又は分量・濃度で環境へ放出又は放出される可能性のある物
質は「毒性」を有するものとして定義されている。
A) 環境に即時的又は長期的な悪影響を及ぼす、又は及ぼす可能性がある;
B) 人の生活が依存している環境に危険を及ぼす、又は及ぼす可能性があ
る;
C) カナダにおける人の生活又は健康に危険を及ぼす、又は及ぼす可能性が
ある。
カナダの環境保護法
2009 年に、カナダ・ガゼット(カナダ政府の官報)にて保健省は、「D5 はカナダで
は人の生活や健康に害を及ぼさない」と発表したが、環境省は「D5 は環境に対し即
時的又は長期的な悪影響を及ぼす、又は及ぼす可能性がある」と発表した。一部の
消費者製品には高濃度の D5 が含まれているにも関わらず、同物質は悪影響を及ぼさ
ないと示した保健省の発表はとても興味深い。しかし環境省は、D5 が消費者製品を
通して環境中に到達した際(低濃度でも)、悪影響を及ぼす、又は及ぼす可能性が
あると示した。2012 年に環境省は、類似データに基づきカナダ・ガゼットにて「D5
は環境へ危険を及ぼさない」と発表した。また、シロキサン D5 諮問委員会は 2011
年に、「D5 の今後の使用は環境に危険を及ぼさない」としたレビューを表明した。
入手可能なデータが変わっていないにも関わらず結論が翻ったことというのは、当
該物質の評価における課題を表している。
生物蓄積
生物蓄積性
蓄積性及びリスクを評価するためのアクティビティ
及びリスクを評価するためのアクティビティ及び
アクティビティ及びフガシティ
及びフガシティ
物質が評価される際、ラボでの実験、モデル、ゲノムミックス、フィールドスタデ
ィー、メタボロミックス、生体内実験、体外実験などの結果を含む、かなりの量の
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データが入手可能である。毒性試験のために評価するパラメーターは、LC50、
NOAEC、EC50 等を含む。また、大気、水、土壌、底質、魚などの複数の媒体から
情報を収集する。このような複雑な評価のアプローチにより、比較可能性、一貫
性、誤りや変動性等の様々な課題に直面する。このため、意思決定のプロセスでは
データの一部しか使用されないことが多い。
フガシティ並びにアクティビティの概念は長きにわたって使われてきたが、この概
念を最初に開発したのは Gilbert N. Lewis(1875-1946)である。医学の分野で有効な
アプローチとされたフガシティのコンセプトは、麻酔学の理解を深めるため J.
Ferguson、H. Meyer 並びに E. Overton により活用された。1981 年に、Don Mackay に
より同概念は、改めて、環境化学及び毒性学の分野に導入された。フガシティ並び
にアクティビティは、利用可能なデータ全てを考慮する枠組みになっており、又デ
ータの適切な統合を可能にする。フガシティアプローチは、D5 のように、気相へと
入る化学物質に適用するのがより好ましく、簡単である。その一方、気相に入ら
ず、水に溶ける物質にとってはアクティビティがより良いアプローチとなる。フガ
シティは、ある物質が表面で放つ分圧であり、物質の濃度を、フガシティ容量
(fugacity capacity)という一つの特性へと標準化する。フガシティ容量は、ある相
がどのぐらいの濃度の化学物質を対応できるか計測するものである。フガシティの
最小値は全ての化学物質にとって 0 であり、最大値は蒸気圧の値に相当する(蒸気
圧より高いフガシティは熱力学的に不可能である)。アクティビティは、化学物質
の濃度を溶解限度で割った数値として定められている。このコンセプトは、土壌、
底質、生物などの固体相にも同じく適用可能である。アクティビティの数値は最小
限の 0 から最大 1(溶解度容量)までの範囲となる。
エネルギーは高温の物体から低温の物体へと移動すると同様、化学物質は高いフガ
シティから低いフガシティへと移動する。従って、化学物質が環境へと放出された
際、希薄化されていくことが多い。しかし、食物連鎖を通して、低いフガシティか
ら高いフガシティへと移動する化学物質もあり、こうした化学物質に関しては、結
果として生物蓄積ならびに生態的蓄積に至る。フガシティ又はアクティビティアプ
ローチの難点は以下の通りである。
A) 溶解度を知る必要がある。溶解度を推定するための方法として SPARC、
ChemiSilico、EpiSuite、ならびにソルバトクロミック予測が挙げられる。
B) 変異因子として、温度、イオン強度、ならびに pH がある。
C) 生体内変化を考慮しなければならない。
D) 生物蓄積を考慮しなければならない。
D5 に対するフガシティ
に対するフガシティアプローチの適用
フガシティアプローチの適用
蒸気圧が高く(33.2 Pa)、明確に定められていることから、D5 にはフガシティアプ
ローチを適用した。生物蓄積性を評価する際、フガシティは、様々な生物や媒体に
適用され、生物濃縮係数(BCF)、生物相-底質蓄積係数(BSAF)、経口濃縮係数
(BMF)などのパラメータを使用して算出される。フガシティレシオが 1 の場合は
熱 力 学 的 平 衡 を 表 し 、 1 未 満 の 場 合 は 生 体 内 変 化 、 成 長 に よ る 希 釈 ( growth
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dilution)、及び/又は急速な排出(rapid excretion)を示し、1 を超える場合は生物蓄積
を表す。
図 2 に、魚を使った様々な実験により測定した D5 及び PCB52 の BCF 値(湿重量
(wet weight basis))のグラフを示す。D5 の様々な研究で測定した BCF 値には変動
があるのがわかる。また、D5 の BCF 値は PCB52 の値に比べて全て低く、より低い
生物蓄積性を表している。しかし、BSAF に関しては、lumbriculus variegatus におい
ては D5 の生物蓄積性のほうが PCB52 に比べて高いことがデータから見られる。
図 2:D5 ならびに PCB52 の BCF 及び BSAF
図 3 からわかるように、これらのデータがフガシティレシオに変換されると、デー
タの不一致が取り除かれ、結果として一貫性及び比較可能性が確保できる。研究で
は、1 未満のフガシティレシオはメタボリズムに起因すると示唆されている。
図 3:フガシティレシオに変換された D5 及び PCB52 の BCF と BSAF
リスク評価 – D5
リスク評価の際、暴露データは毒性データと比較されなければならない。以下の図
は、様々な環境媒体における D5 のフガシティを示している。グラフに示された桁の
範囲からわかるように、フガシティは環境媒体によって変動する。赤線はフガシテ
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ィの最大値(蒸気圧)を示しており、これ以上の数値は熱力学的に不可能である。
比較可能性を確保するため、異なる単位で報告される暴露データならびに毒性値
は、フガシティレシオに変換される。無影響濃度(NOEC)を示す青線は、水への暴
露を扱った様々な研究の毒性データである。同じく無影響濃度を示す茶線は、底質
への暴露を扱った様々な研究の毒性データである。しかし、青線と茶線は二つとも
赤線(蒸気圧)より上に位置するため、これらの数値は環境において不可能だとい
うことがわかる。この一因として、研究において動物が、溶解限度を超える濃度の
暴露にさらされていることが挙げられる。従って、青線と茶線は、システムにおい
て純化学物質が存在する状況でのみ有効となる。
図 4: 様々な環境媒体における D5 のフガシティ
リスク評価 – Di(2-ethylhexyl)phthalate (DEHP)
DEHP は低い水溶性(0.00000637 mol*m-3 )、高い log Kow (7.73)、高い log Koa
(10.53)、ならびに比較的低いヘンリー定数(3.95 Pa*m3*mol-1)を持つ。生体内変
化が可能な性質であるため、元の化合物と代謝産物の両方が考慮されなければなら
ない。また、代謝産物は分離できるため、評価はさらに複雑となる。リスクを評価
す る 際 、 デ ー タ が ど の よ う に 毒 性 学 的 デ ー タ ( in vitro 影 響 、 NOECs 、 及 び
LOAELs)と重なるか見る必要がある。今回の場合、in vitro 影響は内部のフガシティ
と比較され、NOECs ならびに LOAELs は外部のフガシティと比較された。以下に、
フガシティ及びアクティビティ評価の結果を示す。
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図 5: DEHP 及びその代謝産物のフガシティ及びアクティビティ評価
まとめ
現在用いられている化学物質の評価方法において、P、B、T 等の環境特性を明らか
にすることが一部である。このような評価方法は、以下を含む数多くの課題を引き
起こす。データ若しくは「正しい」データの欠如、データの不一致、データの変動
性及び誤り、異なる種類のデータの存在、データの一貫性等。アクティビティとフ
ガシティデータは、生物蓄積性とリスクの評価において次のように貢献する:分析
にて実際に使用するデータの増加、異なる媒体における結果比較の改善、明白な不
一致や誤っている可能性があるデータの除去、in vitro 毒性及びパッシブサンプリン
グデータの包含、ならびに複数の化学物質の累積的リスクを評価するために適用し
うる枠組みの提供。
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質疑応答
1. 排水の D5 が 1 以上だったというのは、排水内の物質が固体若しくは液体として
存在していることを示すのか、それとも有機物質に吸収されているのか(その場
合分析が間違って行なわれたことが考えられるのか)。
データに対し調査した結果、D5 の液体が放出されていたことがわかった。廃水処理
場のデータは、D5 の生産プラントから入手した。
2. 新しい化学物質のための試験モデルに対し何かアドバイスはあるか。
規制当局は、法律により非常に制約されている。しかし、きちんとした、妥当な情
報は、法の記述より優先的に採用されることがある。科学者として、妥当な論理的
根拠を持つことで必要に応じて、法が要求していること以上のことをすることが推
奨される。
3. 様々な実験結果がフガシティと比較できる。確信のあるフガシティ評価を行なう
ためには何回実験を行なう必要があるか。
入手可能なデータをできる限り活用すること。
4. PCB グラフの多くのデータが範囲外にあるが、経験に基づき、これは普通の現
象なのか。
D5 と DEHP では過去に見たことがある。高い Kow を持つ化学物質を適格に評価する
のは非常に難しく、毒性学者やリスク評価を行なう者にとってこれは課題であると
いえる。
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水環境における揮発性環状メチルシロキサンの環境運命:
東京湾における cVMS の空間分布、生物
の空間分布、 生物蓄積
生物 蓄積性
蓄積 性 、栄養移
動、環境リスク及び長期トレンドに関する評価
David E. Powell and Kent B. Woodburn
Dow Corning Corporation, Midland, MI, USA
イントロダクション
cVMS は産業やコンシューマー用製品等、幅広く使用されている。cVMS の使用後の
主要な処理ルートは廃水であり、放流水は日本の水環境への最も重要な cVMS 排出
源 で あ る 。 日 本 ( 日 本 シ リ コ ー ン 工 業 会 ) 、 ヨ ー ロ ッ パ ( European Center for
Silicones)、及び北アメリカ(Silicones Environmental, Health, and Safety Center)は
下水処理場の放流水の影響を受ける水環境も対象とするグローバルモニタリングプ
ログラムを立ち上げた。このプレゼンテーションでは東京湾で入手したデータつい
て発表する。
対象地域
対象となる東京湾エリア内部の面積は 500km2 であり、20 の区間に分けられた。各区
間より、底質表面から深さ 1cm の表層サンプルが採取された。
図 1.調査地(東京湾内部)
化合物の空間分布
2011 年には主要な種を対象としたサンプリングが実施され、8 種類の魚類が採取さ
れたが、2012 年と 2013 年には、5 種類が採取された。
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各魚種の行動範囲又は餌場は、その種の生態系及びサイズによって定められる。つ
まり、大きい生物は大きい餌場を持ち、広い行動範囲を有しており、小さい生物に
関しても同様である。これは、放出源から排出され、異なる濃度勾配を持つ cVMS
化合物にとっては非常に重要な意味を持つ。
2011 年から 2013 年にかけて東京湾で収集された底質サンプルに対して、D4、D5 及
び D6 の底質乾燥重量濃度(dry weight sediment concentrations)の分析を行った。D5
の濃度が一番高く、次いで D4 と D6 となっている。空間分布では、D5 と D6 は比較
的に同等であり、D4 の分布は比較的局所的であった。各化合物の濃度の範囲は幅広
く、最高濃度と最低濃度の間には 10 倍以上の差がある。
生物蓄積
生物蓄積性
蓄積性及び栄養移動
2011 年にサンプルした食物網はコハダやスズキ等の 8 種の魚類が対象であり、これ
らの魚種は外洋性、底生性又は底生-外洋性のいずれかであった。底質及び底生無
脊椎種のサンプルも収集された。
食物網は通常、窒素(15N)又は炭素(13C)の安定同位体を基に特徴づけられる。本
研究では、栄養レベルは各魚種の 15N 値に基づき、決定された。各魚種の 15N 値は、
一般的な富化係数 3.4%を用いて算出された。
栄養蓄積係数(Trophic Magnification Factors;TMFs)を用いたテクニックは化合物の
生物蓄積に関する評価に最適である。下表に、TMFs を計算するために用いる 4 つの
テクニックを示す。
表 1:栄養蓄積係数の計算方法
標準法、ブートストラップ法とベンチマーク法以外、本研究では、ベンチマーク法
と暴露補正法を合わせた「ベンチマーク補正法」を用いた。ベンチマーク法と線形
法及びブートストラップ法の違いは、ベンチマーク法では、ベンチマーク化合物に
よる 15N 濃縮係数(Enrichment Factor)が使用されている。この場合、ポリ塩化ビフェ
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ニル PCB-180 が用いられた。PCB-180 の特性に基づき、ある特定な食物網における
15
N の濃縮値(Enrichment value)を求めるのに TMF の平均値 4.0 を使用した。一方、暴
露補正法は cVMS など濃度が放出特性よって変わるような化合物の TMF の計算に対
して有効である。生物における濃度はこのような放出パターンによって異なり、多
くの場合は、cVMS が底質に存在するため、生物に含有される濃度のみではなく、
濃度は底質濃度に正規化される。その結果、生物に存在する化合物濃度の代わりに
生物相-底質濃縮係数(biota-sediment accumulation factor, BSAF)が用いられる。
東京湾食物網におけるベンチマーク分析による ∆15NEF と傾き値は以下の通りであ
る。
表 2:東京湾食物網における ∆15NEF、傾き値、TL 値、及び TMF 値
標準法による測定では、TMF (PCB-180)が 2.8 となり、当該化合物の予想値を下回っ
ている。ベンチマーク法とベンチマーク補正法では、TMF が期待値である 4.0 とし
た。ベンチマーク補正法によるデータとモデルによるデータは約 70%合致した。
D4、D5、D6 の TMF 値を含む東京湾食物網における分析結果を表 2 に示す。
表 3:東京湾食物網における計算結果
各計算方法による計算された D4、D5、及び D6 の TMF 値は 1.0 を少し下回った。R2
値に関しては、標準法、ブートストラップ法、及びベンチマーク法による結果が低
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かったが、ベンチマーク補正法による R2 値は増加した(特に D5)。これらの結果
は、本研究の対象の cVMS 化合物の TMF 値は 1 以下であることを示しており、この
ような結果は類似した食物網においても観測された。
環境リスク
底生生物に対するリスクアセスメントが実施された。リスク指数(risk quotient, RQ)は
当 該 化 合 物 の 濃 度 の 95 % を 、 底 生 無 脊 椎 種 の 無 影 響 濃 度 (no-observed effect
concentration;NOEC)の 5%で除して算出したのもである。以下の通り、D4、D5 及
び D6 の RQ 値は 1 よりはるかに低くなっている。
表 4.各 cVMS 化合物に対するリスク指数
cVMS 化合物
リスク指数
D4
0.006
D5
0.014
D6
0.0003
cVMS 濃度の長期トレンド
2011 年から 2013 年の間に東京湾で観測された底質含有成分のうち、含水率が去年よ
り上昇し、全有機炭素量(Total Organic Carbon, TOC)が減少した。又、密度が 2012 年
から 2013 年の間に急減した。これらの観測結果は、短期的なトレンドではなく、調
査エリアの不均一性によるランダムサンプリングバイアスを反映している。サンプ
リングバイアスにより濃度の偏りが発生する可能性がある。質量ベースの濃度(ng/g
dw、ng/g ww 又は ng/g OC)は含水率及び全有機炭素量に影響される可能性がある
が、体積濃度(ng/cm3)及び総負担量(kg)はバイアスを最小化することができる。
当該生態系において、化学物質の総負担量の顕著な変化は観測されなかったが、
2011 年から 2013 年の間に測定された D4、D5 及び D6 の乾燥質量濃度は増加した。
同期間採取された魚類サンプルにおいて、各種の生物における D4、D5 及び D6 を含
む全ての cVMS 化合物の顕著なトレンドは観測されなかった。
まとめ
底質表面における cVMS 化合物に対して対数正規分布を利用した。最大濃度は排出
源(下水処理施設)付近の底質にて測定され、汚染源から遠ざかるにつれ、cVMS
の濃度が減少していることが確認された。生物蓄積性及び栄養移動について、均一
の暴露や分布を仮定するのではなく、生態環境及び生物の移動パターンを検討すべ
きである。サンプル食物網における TMF 値は 1.0 以下であり、これは栄養蓄積では
なく栄養希釈(tropic dilution)が発生したということを示している。このような栄養
希釈は、米国 Erie 湖などの類似した生態系サンプルにおいても観測された。無脊髄
動物に対するリスク指数は 0.01 以下であり、東京湾における cVMS リスクが非常に
低いということを示している。又、長期トレンドに関して、底質及び魚類において
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調査期間中大きな変動が見られた。ただし、顕著な上昇又は低下トレンドは発見さ
れなかったため、今回収集されたデータは、東京湾における cVMS が現在又は将来
的に大きな環境懸念事項になる可能性が低いということを示した。
質疑応答
1. 貧酸素状態は底質の濃度に潜在的な影響を与えることがあるか。
ほとんどのサンプル生態系において無酸素状態は観測されなかった。年々収集され
る種類の数が変動する理由がこれかもしれない。
2. 化学物質の分布を判断するため底質のコア部分の深度ごとに区画したか。底質分
布の変化に対してはどういうふうに説明できるか。
底質のコア部分は区画していない。観測期間における底質分布の変化の原因の一つ
としては、2011 年 3 月 11 日の津波の影響だと考えられる。他には、台風や東京湾の
浚渫活動なども原因として考えられる。
3. 今回日本(東京湾)で得られたモニタリングデータと他の国(アメリカ、ヨーロ
ッパなど)のデータと比べると、違いがあるか。
過去の研究は底質及び外洋性環境における生態系に基づいていた。2011 年に分析さ
れた東京湾における食物網は外洋性生物によって構成された。この外洋性食物網に
おける測定結果は、底生-外洋性食物網における cVMS 物質の栄養希釈と一致する
と考えられる。
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本報告書は 2014 年 7 月 1 日に都内にて開催された「化学物質の環境評価についての
最新の研究動向に関するワークショップ」における講演を基に、ケイ素化学協会の
委託により、イー・アール・エム日本株式会社とシリコーン工業会が作成したもので
ある。
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