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東アジア諸国の税・社会保障負担 に関する調査研究
東アジア諸国の税・社会保障負担 に関する調査研究 報告書 平成 18 年 3 月 財団法人企業活力研究所 株式会社日本総合研究所 1 目 次 Ⅰ.東アジア各国の税制等 1 1.東アジア各国の税制 2.東アジア各国の外資に対する優遇措置 3.東アジア各国の外資に対する規制措置 Ⅱ.東アジア各国の社会保障制度 2 7 12 19 20 30 1.韓国の社会保障制度 2.中国の社会保障制度 Ⅲ.我が国企業の東アジアにおける統括会社の状況 45 1.はじめに:東アジア進出企業における地域統括会社の 設立の意義 2.東アジアに展開している主要企業の状況 2 45 50 Ⅰ.東アジア各国の税制等 1 1.東アジア各国の税制 東アジアの国・地域として、中国、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレー シア、フィリピン及びベトナムをとりあげ、その税制の状況を整理した。 税制について ・企業所得税 基本税率:33%(企業所得税 30%、地方所得税 3%) ・増値税 物品販売・課税役務・及び輸入で生じた付加価値に対して、農産物な ど一部例外を除き基本税率 17% 中国 ・営業税 役務提供に課税される。税率 5% ・関税 全ての輸出入品が対象、内外資共通の税率。 ・個人所得税 個人所得税法に基づき課税。9段階の累進化税方式(5~45%) 個人経営所得税は、5段階の累進課税方式。最高税率 35% ・法人税 1 億ウォン以下:法人税率 13%と住民税率を加えた 143.% 1 億ウォン越 :法人税率 25%と住民税率を加えた 27.5% ・個人所得税 税率は累進課税で 9~36% 韓国 ・付加価値税 個々の財貨やサービス提供に対して課税される(税率 10%) ・源泉税 配当:5%または 10%、利子:10%、ロイヤリティ:10% ・その他 特別消費税、事業所税など ・総合所得税 個人所得税。累進化税制(税率は 6%~40%) 台湾 営利事業所得税 法人税に該当するが、非法人であっても所得金額が 5 万台湾元超で あれば課税される(税率 15%また 25%) ・営業税 2 消費税。台湾内のあらゆる物品の販売、サービス、その付加価値部分 に対して課税される付加価値型営業税は 5%、売上総額方営業税は 5~ 25% ・事業所得税 香港で事業を営む法人の所得に対しては 17.5%、個人及びパートナ ーシップに対しては 15.5%が課税される。 ・給与所得税 諸控除差引後の所得に対して課税。累進課税方式(2~18.5%) ・固定資産税 家賃から修理やメンテナンスのための 20%の控除差引後に 15.5%課税 ・事業登録税 香港 香港の会社、支店、駐在員事務所、個人商店などは商業登記証行進 のために税務所登録費用を支払わなくてはならない。 ・印紙税 不動産の売買契約や賃貸契約書及び株式の売買契約書などに対し て支払うもの 不動産売買契約書:0.75%~3.75% 株式売買契約書:0.225% ・不動産税 固定資産に相当するもの。土地・建物の課税評価額の 5% ・法人所得税 居住法人、非居住法人問わず一律 20% ・個人所得税 非居住者 15% 居住者は累進課税方式(4%~22%) ・物品サービス税 シンガポール 一般消費税として 5% ・源泉課税 配当:二重課税排除方式を採用していて、非居住者への配当金に 対する源泉税はない。 利子、ロイヤリティ支払い:非居住者への支払 15%。日本居住者に対 する支払は 10%に減税 ・法人所得税 損益計算書の税引き前利益に各科目の調整を加算・減算して算出さ タイ れた課税所得に対して、一律 30% ・個人所得税 累進課税方式(5%~37%)、5 万バーツ超の所得に対して課税 3 非居住者に対しては、課税所得額にかかわり無く配当金 10%、その他 15%の源泉税が課せられる。 ・付加価値税 製造から小売に至るまでの各段階で発生する付加価値に対して、個 人・法人を問わず課税される。税率は 10%、輸出についてはゼロ税率。 ・送金税 法人が非居住者宛にする場合に課税される。10%~15% ・法人所得税 居住者、非居住者にかかわらずマレーシア国内源泉所得が課税対象 税率は一律 28%(石油開発事業者は 38%) ・非居住者である社会に対する源泉税 日本、マレーシアの間には、二重課税防止条約のために利子、ロイヤ リティ、技術指導料に対する源泉税率はいづれも 10% ・個人所得税 マレーシア居住者に対する税率は、課税所得 2500 リンギ以下に対す マレーシア る 0%から、課税所得 150000 リンギに対する 28%までの累進課税方式 非居住者に対する税率は一律 28% ・不動産譲渡課税 不動産譲渡益に関しては、保有期間に応じた税率で課税される。 ・間接税 売上税:品目より 5~15%が課税。 サービス税:特定の物品や施設におけるサービスに対して 5%課税 物品税:たばこ、酒類などの特定の物品に対して課税 ・法人所得税 国内法人は全ての所得源泉からの総所得より控除項目を差し引いた 額が純課税所得となる。居住外国人法人では、フィリピンにおける全ての 所得源泉からの課税所得に対して課税される。税率は最高 32% ・個人所得税 フィリピン 累進課税方式(5~33%)課税対象や税率は納税者により異なる。 ・物品税 酒類・タバコ・自動車などフィリピンで製造もしくは生産される物品、ま たは、輸入品に対して適用される。輸入品の場合、物品税は関税の上さ らに課せられる。 ・日比租税条約 両国間では二重課税防止が図られている。 4 ・法人所得税 3 段階の累進所課税方式(10%、15%、30%) ・個人所得税 5 段階の累進課税方式(5%~35%) ・付加価値税(PPN) 奢侈品販売税は、インドネシアの課税地域において奢侈品を製造す る企業がその企業の通常業務として奢侈品を引き渡したとき、または奢 侈品を輸入したときに 1 回限り課税される。税率は 10%~75% インドネシア ・印紙税 3000 ルピアまたは 6000 ルピア ・土地・建物税 10 億ルピア未満の物件は政府公示販売価格の 20%、10 億ルピア以上 はその 40%が課税される。税率は一律 0.5%であるので納付税額は公示 価格の 0.1%または 0.2%になる。 ・源泉税 国内源泉税の基本税率は 6%。非居住者に送金する配当、利子、ロイ ヤリティには 20%の源泉税が課税される。日本、インドネシアの間には、 二重課税防止協定のために源泉税は 10% 5 ・法人所得税 標準税率は 28%、石油・ガス、希少天然資源案件には 32%~50% 特定の要件を満たした投資の場合、5,10,15,20%の優遇税率が一定期 間適用される。 ・付加価値税 税率は 0、5、10%の三段階。標準税率は 10%。輸出品に対しては非課 税。 ・輸出入関税 外資企業が輸入する設備、機械、原材料などは通常免税の対象 ・個人所得 ベトナム 税税率一律 25%(30 日以上ベトナムに滞在する外国人が課税対象) ・特別売上税 たばこ、アルコール、自動車、ガソリンに課税。税率 15~80% ・契約税 外国投資法にも小津和にベトナムで事業を行う外国人・企業に課税さ れる ・天然資源税 石油・ガス、希少金属、貴金属にかかわる事業を行う企業が対象。税 率 1~4% ・土地税(土地使用料) 土地使用権を取得した外国企業や事業協力契約の当事者が課税対 象。 6 2.東アジア各国の外資に対する優遇措置 東アジアの国・地域として、中国、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレー シア、フィリピン及びベトナムをとりあげ、そこにおける外資に対する優遇措置につい て整理した。 外資に対する優遇措置 ・ 外資企業(経営期間 10 年以上の生産型企業)に一律にタックスホリデ ーの恩典供与。 ・ 特定の業種(先進技術企業又は輸出比 70%以上)に対しタックスホリデ ー延長。 中国 ・ 奨励プロジェクト認定企業に対し、総投資額以内の輸入設備に対する 免税。 ・ 国家級開発区以外の地域に進出した生産型企業は、企業所得税率 24%の優遇税率を受けられる。 ・ 各地方政府の優遇策として、地方所得税 3%の減免、土地使用権価格 の割引といった措置を実施している地域もある。 韓国 ・ 外国人投資促進法及び、租税特例制限法による租税減免制度 ・ 外国企業 R&D センターに対する支援 ・ 先端産業投資に対する現金補助制度 ・ 国・公有財産賃貸料減免制度 ・ 外国人投資条例 外国人投資条例は、第一条で台湾領域内における外国人(外国法人) の投資の保障と処理を定めるものと規定している。主な内容は次のとお りである。 投資の形態: ・現金 ・機械設備又は原料 台湾 ・ノウハウ又は特許権 ・投資元本回収金、資本利得、純益、利息、その他の収益 ・ 産業高度化促進条例 台湾の産業の高度化を促進し、経済の健全な発展を図ることを目的 として制定された条例である。 ・主な内容 7 租税の優遇:自動化設備・技術、汚染防止設備・技術等の先進的 設備技術の導入に対して、営利事業所得税を 5%~20%控除するこ とを規定している。(詳細は「税制」にて記述) 工業区:工業区の開発、設置、運営に関する事項を規定している。 ・ 優遇税制 台湾では「産業高度化促進条例」により、外国資本投資促進、産業の 高度化促進のため各種優遇税制を規定している。主な優遇措置は「設 備特別償却」「株主税額控除」噌利事業所得税減免」などであるが、優 遇税制の規定は業種の別等により細かく規定されている。 外資に対する優遇措置は特に無い。 香港 8 外資に対する優遇措置 ・ 経済拡大奨励法による税法上の優遇措置 事前申請の上関係主務大臣の認可を取得することで、下記の優遇措 置を受け入れられる。 a. パイオニア企業 b. 開発および拡張 c. 投資控除 ・ 統括本部に関する優遇措置 2003 年 1 月、EDB はシンガポールに統括機能をもつ企業誘致を一段 と活発化させるため、統括本部(HQ)制度を改定した。シンガポールに統 括機能をもつ企業に適用していた 4 つの統括本部ステータス(「経営統括 本部」「事業統括本部」「製造統括本部」「グローバノレ統括本部」)を国際 シンガポール 統括本部(IHQ)に一本化。また設立間もない企業に対して「地域統括本 部(RHQ)」ステータスを新設した。 a. 地域統括本部(RHQ) b. 国際統括本部(IHQ) ・ その他の優遇措置 a. 研究・開発(R&D)および知的財産管理企業インセンティブ b. FTC(Approved Finance and Treasury Centre c. 認定業者については一定の要件を満たすと減税・免税の特典が付 加される。 ・ 地域別優遇措置 投資奨励が付与された外資への優遇措置については、堅固との所 得・インフラの整備事情によって、国土を 3 つの投資地域に分類し、さら に工業団地の内外に区別し規定されている。 ・ 合弁の基準 製造業は立地ゾーンに関係なく外資が 51%以上 100%まで出資が認め タイ られる。但し、農業、畜産業、水産業、鉱業、サービス業についてはタイ 資本が 51%以上を占める必要がある。尚、ソフトウェア事業、地域統括本 部などについては外資 100%を認めている。 ・ 奨励業種 投資奨励対象業種は 7 分野(①農業、農業製品、②鉱物、金属、セラ ミックス、③軽工業、④金属製晶、機械、運機器の製造、⑤電子工業、電 9 気産業、⑥化学工業、紙、プラスチック、⑦サービス、公共施設)の約 130 業種であるが、脚寺勘口・削除され、地域によっては対象外になることが あるため、BOI に薩忍する必要がある。 ・ 重要業種 BOI では、5つの産業を重要業種に指定し、 その分野の投資誘致を積極的に推進している。 ・ 特別措置 現在の優遇措置は 2000 年 8 月 1 日以降に申請されたプロジェクトか ら適用されており、それ以前の認可分については従来の優遇措置が引 き続き適用される。尚、下記工業団地内でのプロジェクトについては例外 として従来の優遇措置が適用されている。但し奨励業種については現行 規定に従う。 ・ 製造業に対する一般優遇政策 パイオニアステータス 投資税額控除(ITA) 再投資控除(RA) マレーシア ・ 小規模企業に対する優遇措置 ・ ハイテク企業に対する優遇制度 ・ 戦略的プロジェクトに対する優遇制度 ・ 付加価値の高い(25%以上の付加価値基準)自動車部品の生産、デ ザイン、研究開発(R&D)に対する優遇措置 ・ 工作機械、プラスチック射出形成機、材料運搬機械、生産ロボット、自 動車生産装置、梱包機械、及びこれらの機械に対する部品を製造する 企業に対する優遇措置 フィリピン ・ 研究開発に対する優遇制度 ・ 経営統括本部(OHQ)に対する優遇制度 ・ 販売会社 (Trading Company) への優遇制度 ・ 国際調達センター(IPC)に対する優遇措置 ・ BOI 登録企業に対する優遇措置 ・ 特別経済区域(エコゾーン)内の企業に対する優遇措置 ・ スービック湾自由港登録企業に対する優遇措置 ・ クラーク特別経済登録企業に対する優遇措置 ・ 多国籍企業に対する優遇措置 ・ BOT 法に基づく優遇措置 10 ・ 事業開始および事業拡大にかかる設備機器・部品の輸入関税の免 除、または減税 ・ インドネシア ・ 保税地区内の企業(PDKB)の、輸入関税、付加価値税などの免除 インドネシア東部地域(KTI)に立地する企業に対しての優遇措置 ・ 経済統合開発地域(KAPET)に立地する企業に対しての優遇措置 ・ 外国投資法に基づいて設立された外資系企業(PMA 企業)はある条件 の基において、国営銀行から運転資金を借り入れることができる。 ベトナム ・ 特定の要件を満たした投資の場合、5,10,15,20%の優遇税率が一定期 間適用される。 11 3.東アジア各国の外資に対する規制措置 東アジアの国・地域として、中国、韓国、台湾、香港、タイ、シンガポール、マレー シアをとりあげ、そこにおける外国資本に対する規制措置の状況を整理した。 外資に対する規制措置 ・ 合弁または合作形態しか認めない ・ 出資比率の制約がないものと外資出資は認められるが中国側がマジョ リティをとる 2 種類が存在 ・ 外資導入ガイドライン制限類でも出資比率規制がないプロジェクトもある が、逆に出資奨励類であっても自動車やバイク等は出資比率規制 中国 ・ 2000 年 6 月 1 日「外商投資商業領域管理弁法」が施行され、外国企業 の小売、卸売業への投資制限が緩和 ・ 小売、卸売業については 2004 年 12 月より地域制限撤廃と共に外資出 資 100%で設立認可 ・ 「外商投資商業領域管理弁法」は細則が未公布であるため詳細は明ら かでないものもある ・ 外資導入法上、外資規制は業種規制によって遂行 ・ 制限業種以外については届出により自由に投資可能 未開放業種(2 業種) 韓国 ラジオ放送業、テレビ放送業 部分開放業種(27 業種)・・・出資比率規制あり 近海漁業、核燃料加工業、鉱業、衛星放送業、ニュース提供業、投 資信託業、発電・送電業、運送業など ・ 外国人投資条例 外国人投資条例は、第一条で台湾領域内における外国人(外国法人) の投資の保障と処理を定めるものと規定している。主な内容は次のとおり である。 投資の形態: 台湾 ・現金 ・機械設備又は原料 ・ノウハウ又は特許権 ・投資元本回収金、資本利得、純益、利息、その他の収益 ・ 産業高度化促進条例 12 台湾の産業の高度化を促進し、経済の健全な発展を図ることを目的と して制定された条例である。 ・主な内容 租税の優遇:自動化設備・技術、汚染防止設備・技術等の先進的 設備技術の導入に対して、営利事業所得税を 5%~20%控除すること を規定している。(詳細は「税制」にて記述) 工業区:工業区の開発、設置、運営に関する事項を規定している。 ・ 優遇税制 台湾では「産業高度化促進条例」により、外国資本投資促進、産業の 高度化促進のため各種優遇税制を規定している。主な優遇措置は「設備 特別償却」「株主税額控除」噌利事業所得税減免」などであるが、優遇税 制の規定は業種の別等により細かく規定されている。 ・ 優遇税制外資に対する規制措置はまったく無い。 香港 13 外資に対する規制措置 ・ 規制業種 兵器・弾薬製造や公共事業サービス(交通、電気、ガス、水道)、マ スコミ関係(新聞、放送)は外国企業参入が規制、制限 金融、保健業等のいくつかの分野と製造業の一部では事前許可が 必要 ・ シンガポール 出資比率 地場企業と同様の会社法に基づき外資企業設立可能 出資比率に関しては規制が特になく規制業種以外では 100%外資 出資が可能(小売業は個別指導あり) ・ 土地所有規制 シンガポールの土地は国家所有が原則 民間部門の土地所有は 13%、工業団地については 30~60 年のリ ース契約に基づいて使用 ・ 外資比率規制 ・ 合弁会社の外資比率は 49%までとされ、それ以上では会社登録不可 (ただし BOI により認定を受けた会社はこの限りでない) ・ 事業分野規制 2000 年 3 月 4 日に参入規制業種が 63 業種から 43 業種に規制緩 和 ・ 規制業種 リスト 1=参入禁止業種(9 業種) 新聞事業、稲作等 タイ リスト 2=国家安全保障、文化、伝統、天然資源、環境に影響を及 ぼす(13 業種) 参入には内閣の承認、商業大臣の許可が必要 リスト 3=外国人との競争力が不十分な業種(21 業種) 参入には外国人事業委員会の承認、商業登録局長の許可が必要 ・ 外国人就労規制 「外国人職業規正法」により肉体労働等 39 業種での就労を禁止 タイ国内で働く全ての外国人は報酬の有無に関わらず労働許可が 必要 外国人を雇用する事業主は採用、勤務地、解雇について 15 日以 内に報告義務 国産品使用義務 14 ・ 外貨事情が悪化した際に利益送金制限 外資出資比率(製造業部門) 2003 年 6 月以降、輸出比率や業種・品目に関わらず全ての投資 (新規投資、再投資)で無条件で恒久的に 100%外資保有が認可 ・ 2003 年 6 月以前に認可された投資は従来の外資出資比率が適用 企業からの申請に応じて政府は柔軟に対応 外資出資比率(非製造業部門) FIC ガイドラインでは非製造業への外資 100%出資は原則的に認可 されない マレーシア 2003 年 5 月に外資出資比率の上限が引き上げられ、ブミプトラ資本 を 30%以上入れることを条件に、残り最大 70%を外資が保有するこ とが可能 この措置は新規進出企業のみが対象 一部の産業では FIC ガイドライン以外の規制がかかるので全分野で 外資 70%が認められているわけではない 個別業種ごとの規制が不明確 非製造業への直接投資に係る規制は法律ではなくガイドラインに基 づいており、運用基準がなく裁量的に行われている FIC の認可所を取得していない会社に対しては行政的に制限 15 ・ 投資形態 合弁事業 合弁事業の法定資本は総投資資本の 30%以上でなければな らない 特定の案件であれば所轄官庁の承認により 20%以上でよい 100%外資企業(FOE) 合弁事業と同様に法定資本は総投資資本の 30%以上 投資期間中の減資は不可 特定の案件の場合所轄官庁の承認を得れば 20%以上の資本 で可 ベトナム 事業協力契約 ・ 規定は合弁より少なく、どのような事業も可能 投資対象プロジェクト グループ A プロジェクト:首相の認可が必要 グループ B プロジェクト:グループ A 以外、投資許可書が発行 100%外資が原則認められないプロジェクト ・ 通信サービス、交通、観光、文化等 投資認可手続き ・ 外国企業によるベトナムへの直接投資は全て政府の認可が必要 土地使用権 外国人投資家の土地所有は認められておらず、通常 50 年を起源と する土地使用権を取得し土地を賃借する 16 ・ 業種規制 ・ 2000 年 7 月 20 日付大統領令第 96 号の投資規制対象業種に規定 出資規制 インドネシアへの投資はインドネシア企業との合弁(外資 95%ま で)、外資 100%まで共に認可 外資 100%の場合は事業開始後 15 年以内に、持ち株の一部を直 接または市場を通じてインドネシア個人または法人に譲渡すること を義務付け インドネシア 1996 年投資調整庁長官決定により最低資本が規定 最低授権資本は 20 百万ルピア 最低払込資本金は授権資本の 25% 発起人は会社設立申請前に払込資本金の 50%以上払い込む 残額は法務局あて申請後、会社設立認書取得までに払い込 む ・ 外国人雇用規制 外国企業はインドネシア国民に教育・訓練の機会を与えなければな らない 職種を 3 つのカテゴリーに分類して規制 インドネシア人で充足可能で外国人雇用を認めない 一定期間は外国人雇用を認めるが、インドネシア人への転換 を準備しなければならない 一定期間に限り条件なく外国人雇用を認可 外国人雇用者はインドネシア人労働者の技能開発基金として月 100 米ドル/人を支払う ・ 外国企業・外国人の土地所有 土地の所有権は国民にのみ認可 最長 25 年(延長可能)で居住用住宅の所有が認可されたが、インド ネシアに在住しない場合には 1 年以内に譲渡 17 ・ 禁止業種・制限業種 「1991 年外国投資法」の規定に従って、2 年ごとに改定される「外国 投資ネガティブリスト」(Foreign Investment Negative List:FINL)にl 記載される。FINLは「リストA」、「リストB」に分かれている。FINLに 記載されていない分野であれば外国人は 100%まで投資ができる。 リストA:外国人による投資・所有が憲法及び法律により禁止・ 制限される業種 外資禁止業種…マスメディア、医療・会計士・弁護士など の専門職許可を要するサービス業 外資規制業種(外資比率が 20~60%の範囲で制限される 業種)…報道機関、民間就職斡旋業、広告代理業、天然 資源の採掘・開発・利用等 フィリピン リストB 外資規制業種(外資比率が 40%以下に制限される業種) …国家警察、国防省による事前承認を必要とするもの、武 器・弾薬・凶器などの製造・修理、危険薬物の製造販売、 国民の健康及び公序良俗を損ない得る活動、公衆衛生 及び公序良俗を害する恐れのあるもの、国内向け中小企 業など ・ 資本金規制 株式会社に課せられる最低資本の規制 授権資本金額の最低 25%の株式発行 発行株式の最低 25%の払い込み 払込資金金額は 5000 ペソ以上 なお、銀行、小売業、運送業などには別途最低払込資本金が定められてい る 18 Ⅱ.東アジア各国の社会保障制度 19 1.韓国の社会保障制度 (1)概要 韓国の主要な社会保障制度には以下のものがある。 制度名 社会保険制度 公的扶助制度 参照先 国民年金 (2) 医療保険 (3) 雇用保険 (4) 産業災害補償保険(労災保険) (5) 国民基礎生活保障(生活保護) (6)① 一次緊急救護 - 医療保護(低所得者に対する医療給付) (6)② - 社会福祉サービス 老人福祉 制度 家庭・児童福祉 保育事業 障害者福祉 その他 - 公衆衛生 最低賃金制度・最低債権補償制度 このほか、退職金支払いの規定が法令で定められている(法定退職金制度1)ほか、 現行制度と並行して退職給付金制度を新たに導入することを柱とする「労働者退職給付 保障法」が 2005 年 12 月 1 日から施行された2。介護保険制度はない(2008 年導入予定3) が、高齢者のための敬老年金制度がある(後述) 。 勤労基準法第 34 条(使用者は継続勤労年数 1 年に対して 30 日分の平均賃金を退職金と して退職する勤労者に支給することができる制度を設定しなければならない) 2 同法の主な内容は以下のとおり。 ・ 労使合意の下に、確定給付型、確定拠出型又はその組み合わせによる退職給付制度を設 立する。従業員 10 人未満の事業主はこのほかに個人退職勘定を提供することもできる。 ・ 事業主は個人退職勘定または確定拠出型に 1 年あたり年額報酬の 12 分の 1 を、確定給 付型の場合は既存の法定退職金制度と同等の給付を、それぞれ最低限提供しなければな らない。事業主の拠出額は 100%損金算入できる。 ・ 55 歳以上かつ勤続年数 10 年以上で退職した者には、年金給付または一時金給付のいず れかを選択できるようにしなければならない。 ・ 従業員 5 人以上の事業所は 2005 年 12 月、 4 人以下の事業所は 2008 年から適用される。 参考資料:独立行政法人労働政策研究・研修機構「海外労働情報」(http://www.jil.go.jp/ foreign/jihou/2003_12/korea_02.htm) 、Mercer Human Resource Consulting ウェブサイ ト(http://www.mercerhr.jp/summary.jhtml/dynamic/idContent/1168780、http://www. mercerhr.jp/knowledgecenter/reportsummary.jhtml/dynamic/idContent/1203025) 3 増田雅暢「韓国の介護保険の動向」 『月刊介護保険』2005 年 10・11 月号 1 20 (2)年金制度 ①主要な公的年金制度の概要 主要な公的年金制度の概要は以下のとおりである 名称 国民年金 公務員年金 私立学校教職員 軍人年金 年金 施行年度 1988 年 1960 年 1973 年 1960 年 対象者 国内に居住する 18 歳以 国家及び地方公 私立の小・中・ 現役または招集 上 60 歳未満の国民(詳 務員、国公立学 高等学校、短大 され郡に服務す 細後述) 校 教 職 員 、 判 及び大学の教員 る軍人(これ以 事・検事、警察 ( 1978 年 か ら 外の下士官及び 官等 は 事 務 職 も 入 私兵には災害補 る) 保険料率 所金のみ支給) 9%(加入者と雇用者の 15%(加入者と雇用者の折半) 折半、詳細後述) 国庫支援 - 受給条件 全額受給:20 年以上加 20 年以上 退職手当、災害補償給付及び扶助給付 入 それ以外は基本的には 10 年以上加入 受給開始 60 歳(ただし 2013 年 退職直後(ただし 1996 年新規任用者からは 60 歳) 年齢 61 歳、以後 5 年毎に 1 歳ずつ延長し、2033 年 に 65 歳まで延長) 加入者数 1,662.0 万人(うち任意 90.9 万人 21.1 万人 - 2000 に加入する者が 15.3 万 ( 年) 人) 資料:許・角田「韓国の社会保障」p.113 に加筆修正して作成 ②国民年金制度の対象者 国民年金法に基づく国民年金は、国内に居住する 18 歳以上 60 歳未満の国民を加 入対象とする。ただし、以下のものは適用除外である。 ・ 公務員年金、私立学校教職員年金、軍人年金、別定郵便局年金の加入者及び受給者 ・ 上記の配偶者で別途所得がない者 21 ・ 国民年金加入者及び受給権者の配偶者 ・ 国民基礎生活保障法による受給権者 国民年金の導入により、韓国では国民皆年金が達成されている。ただし、実際には任 意加入の対象者が存在する4。強制加入の対象ではない配偶者や、国民年金制度導入時 に高齢だった者について、年金受給権者により生計を立てている場合、「加給年金」が 給付される。このように韓国では年金が家族単位で給付されると捉えることができる5。 また、学生や軍隊服務等のために所得のない 18 歳以上 27 歳未満の者については、 国民年金に加入しつつも、所得のない期間は納付免除期間として、保険料拠出の免除を 受けることができる。 ③国民年金制度の保険料 下記の通りの年金保険料を保健福祉部傘下の国民年金管理公団に支払う。2010 年 以降、2030 年まで 5 年毎に保険料率の値上げを予定している。 区分 年金保険料 事業場加入者 勤労所得の 9%(労使が折半(各 4.5%) ) 地域加入者 総所得の 9% ④国民年金制度の給付 国民年金の給付類型は以下のとおりである。 給付類型 受給要件 受給者数(2000 年度) 老齢年金 ・ 完全給付:20 年以上加入し 60 歳に達した者 482,042 人 ・ その他「減額」 「在職者」 「早期」 「分割」 「特例」 の類型があるほか、様々な例外措置がある 障害年金 ・ 加入期間中の疾病、負傷が完治、あるいは 2 年 24,084 人 以上経過した時点で障害のある者 (障害年金受給者は、老齢年金の受給対象外) 遺族年金 ・ 加入者の死亡(加入期間 1 年未満の者は、加入 118,501 人 中有の疾病・負傷による死亡に限る) ・ 老齢年金、遺族年金(障害 2 級以上)受給者の 死亡 国民年金制度導入時に 60 歳以上だった国民、60 歳まで保険料を支払っても年金受給に必 要な加入期間に満たない者、上述の各種年金加入者の配偶者、等 5 夫婦が離婚する場合は、婚姻期間が 5 年以上あれば、婚姻期間に該当する年金額を夫婦間 で均等分割して受け取ることも可能である。 4 22 給付額は「基本年金額」と「加給年金額」に分けられるが、そのほとんどは基本 年金額である。基本年金額は、必要最低限度の 生活保障と、報酬比例の両者が考慮され算定される。すなわち、全加入者の平均 所得月額を反映する「均等部分」と、加入者の障害平均所得月額を反映する「所得 比例部分」で構成され、加入年数の違いも組み込んで算定する。 23 (3)医療保険制度等 ①加入者 国民皆保険制度となっている。 「国民健康保険法」に基づく国民健康保険は強制加 入であり、保険加入者と被扶養者が加入対象である。加入対象は国民基礎生活保障 制度における医療給付受給権者(医療保護対象者)を除く、国内に居住する全国民 である。低所得者に対する「医療保護制度」 (後述)と国民健康保険とで全国民をカ バーする体系となっている。 国民健康保険の加入者は職場加入者と地域加入者に分けられる。職場加入者の被 扶養者とは、職場加入者の稼得で生計維持する者であり、配偶者と所得のない 19 歳未満あるいは事業者無登録の子ども、直系尊属(配偶者の直系尊属を含む)、直系 卑属(配偶者の直系卑属を含む)およびその配偶者、兄弟・姉妹等、不要要件に該 当する者まで含まれる。 地域保険の加入者は、農漁業の従事者や自営業者である。 国民健康保険の適用人口は約 4,601 万人であり、職場加入者と地域加入者がほぼ 半数ずつである(2001 年 6 月現在)。なお、「医療保護制度」の医療給付の対象は 142 万人(2002 年末)である。 区分 適用人口 22,855,640 人 職場 7,448,845 人 加入者 15,406,795 人 被扶養者 23,164,341 人 地域 (8,201,051 世帯) 46,019,981 人 合計 ②保険料 保険料率の算定方法は職場加入者と地域加入者とでは異なる。 区分 算定方法 職場保険 標準報酬月額6に保険料率(2001 年以降は 3.4%)をかけて算定する。勤労 所得の 2~8%の範囲で自律的に定められ、平均は 3.75%で、労使折半。 公務員・私学 勤労所得の 5.6%(加入者 50%、使用者(学校法人)30%、国 20%) 教職員保険 6 標準報酬月額は職場加入者が当該年度に受け取った報酬総額を勤務月数で除して算定す る。標準報酬月額の等級は 1-100 等級まで設けられており、下限額と上限額とがある。 24 地域保険 所得、財産、生活水準、経済活動参加率等を反映させた負担能力を点数化 し、この「賦課標準所得点数」をもって、世帯単位で保険料を算定 ③給付 保険の給付は以下のものがある。 区分 概要 細目 現物給付 医療機関からの医療サービス提供 療養給付 健康検診 現金給付 加入者および被扶養者の申請により現金で支給される 療養費7 もの 葬祭費 出産費 障害者補装具給付費 本人負担額補償金 現物給付については、医療機関で医療サービスの提供を受ける際に費用の一部を自己 負担する。自己負担の比率は以下のとおりである(ただし、少額の場合は別計算規定が ある)。 区分 自己負担比率 入院 一律 20% 外来 総合病院(診察費+薬代) 45% 一般病院(診療費総額) 40% 医院 30% 薬局調剤料 30% 7 居住地域に医療機関がないなどの理由により、医療サービスの給付を受けられない場合に 給付される 25 (4)雇用保険制度 ①概要 1995 年に施行された雇用保険法では、失業後の生計保障のための「失業給付」が 提供されるとともに、就業斡旋を通じた再就業の促進と勤労者の職業安定のための 「職業能力開発事業」 「雇用安定事業」が実施される。 ②加入対象8 保険の加入対象は全勤労者である。2004 年より日雇い労働者も加入できるように なった(2004 年末現在、全賃金労働者における被保険者比率は 65.2%) 。 失業給付は 2004 年末現在、58.0 万人が受給している。 ③保険料 保険料率に関しては、失業給付の場合は 0.9%9を労使で折半し、それ以外の雇用 安定化事業および職業能力開発事業は事業主が全て費用を負担する。また、2001 年施行の雇用保険法改定により、 「育児休職給付」と「出産前後休暇給付」が雇用保 険から支給されることとなった。 8 9 韓国大使館からの指摘。 韓国大使館からの指摘。 26 (5)産業災害補償保険10 ①概要 1964 年施行の労働災害補償保険法に基づく労災保険の制度である。1995 年から は韓国勤労福祉公団が管理を委託されている。 ②加入対象 2000 年 7 月からは、農業、林業、水産業、および建設業の一部の小規模事業を除 き、従業員 1 人以上のあらゆる事業所に労働災害補償保険が適用されている。 ③保険料 労働災害補償保険の財務基盤確保のため、韓国勤労福祉公団は対象事業所の事業 者から保険料を徴収している。保険料の総額は、労働者に支払われる総賃金に、災 害のリスクと経済活動の類似性に基づいて決定される職種別の保険料率を掛けるこ とで求められる。 全職種を通じた平均保険料率は 1.48%(2004 年)である。 ④給付 給付内容は以下のとおりである。保険給付は当該労働者の平均賃金に基づいて計 算される。ただし平均賃金が、労働大臣の設定・告知した最低額を下回るか、また は最高額を上回る場合には、それぞれ最低額または最高額が当該労働者の平均賃金 とみなされる。 給付の種 給付の水準 類 医療給付 保険給付支払額 (2004 年度) 労働者が 4 日以上治療を受けた場合、健康保険制度の下で定 786,792 められた医療費の範囲内で医療費の全額にあたる医療給付 が支払われる。 休業補償 労働者が治療のために労働できない期間、平均賃金の 70% 給付 (65 歳以上は 65%)にあたる病気休暇給付が支払われる。 障害給付 治療後も労働者に障害が残っている場合には、障害の等級に 954,612 752,288 応じて一時金または年金として障害給付が支払われる。 遺族給付 労働者が災害で死亡した場合には、遺族給付が遺族に支払わ れる。 10 数値は韓国大使館より。 27 260,834 原則として支払は年金の形を取るが、必要な場合には 50% を年金で、残りの 50%を一時金で受け取ることができる。 一時金:平均賃金 1,300 日分。 年金:給付の受取人の数に応じて年間基礎賃金の 47%~ 67%。 傷病補償 2 年間治療を受けた後も傷害または疾病が治らず、その傷害 123,143 または疾病が傷病基準等級に該当する場合には、休業補償の 代わりに傷病補償金が支払われる。 看護給付 治療後に看護を必要とする場合には、看護給付が支払われる 9,433 (1 日約 35,000 ウォン) 。 葬儀費用 葬儀を行う場合には、葬儀費用代として平均賃金 120 日分が 22.311 支払われる。葬儀費用が、労働大臣の設定・告知した最低額 を下回るか、または最高額を上回る場合には、それぞれ最低 額または最高額が葬儀費用として支払われる。 2,859,914 計 28 (6)公的扶助制度 ①国民基礎生活保障制度 現行の国民基礎生活保障制度は「国民基礎生活保障法」 (2000 年施行)に基づき、 中央業務は保健福祉部が、地方業務は行政自治部傘下の一般行政体系で担当してお り、中央と地方が多元的に運営している。 給付対象者(生活保障受給者)は、本人の所得(財産の評価額を含む)が「所得 認定額」を下回り、かつ扶養義務者基準を満たす国民が選定される。 受給者数は全国民の約 3%にあたる 135 万 3,000 人(2002 年末)である。 ②医療保護制度 医療保護とは、1997 年制定の医療保護法に基づき、生活保障受給者等、一定水準 以下の低所得者を対象として国が医療給付をする制度である。 医療保護の対象は 2 通りに分かれる。 区分 医療保護 1 種対象者 医療保護 2 種対象者 対象 一定所得以下の生活保 一定所得以下の生活保障受給柱の自活保 障受給者(居宅・施設)、 護者や、1997 年の通貨危機により一時的 国家功労者、罹災民等 に選定された「限時自活保護者」 給 付 外来診療 無料 無料 内容 無料 一定割合を負担 84.0 万人 74.3 万人 入院診療 対象者数(2001 年) ■要確認事項 ・ 医療保険(国民健康保険)の職場保険の保険料率の算定方法の実状(企業によって 異なると想定される) ・ 今後の改革の方向性(これまでは、公務員、私立学校教職員など特定の職域に限ら れていた制度の対象を拡大し、 「皆保険」とする方向で改革が進められてきた。今後 はどうなる見込みか。特に急速に進む少子高齢化への対応および企業の国際競争力 確保の観点をどう考えているか) ※参考資料: ・ 厚生労働省『2003~2004 年 海外情勢報告(世界の厚生労働 2004) 』 ・ 許棟翰・角田由佳「韓国の社会保障」(広井良典・駒村康平編『アジアの社会保障』 東京大学出版会、2003 年) ・ 韓 国 労 働 省 ( 国 際 安 全 衛 生 セ ン タ ー 訳 )「 韓 国 の 労 働 災 害 補 償 保 険 」 (http://www.jicosh.gr.jp/Japanese/country/korea/law/IACI/IACI.html) 29 2.中国の社会保障制度 (1)概要 中国における社会保障制度は、公務員、企業労働者、農村住民とその職業等に応じて 制度化が図られている。なお、介護保険制度はない。 中国は沿海都市から急速に経済成長が進んだため、農村部から都市部への大きな労働 力移動が生じている。そのため、都市部における勤労者の医療制度と引退後の生活保障 のための年金制度の近代化が重要な政策課題となっている。また、1979 年以降の「一 人っ子政策」により急速に高齢化が進んだ一方で、改革開放政策に伴って人民公社制度 が廃止された影響で、農村部における高齢者の生活保障や医療保障が十分に機能しなく なっている。そのため、農村部を対象とする社会保障制度の構築も求められている。 このように中国は、人口構造の変動(高齢化)、経済発展による農村から都市部への 人口移動および自営から賃金雇用への移行、市場経済への移行に伴う国有企業特有の社 会保障体制の喪失といった変化が急激に生じており、そうした変化に対応した社会保障 制度の再構築が求められている。 「第 10 次 5 か年計画要綱」11においては、以下に述べる保険制度の整備とカバー範 囲の拡大を進めるという方向性が示されている。 中国の社会保障体系 制度 社会保険 参照先 都市部 年金保険 (2) 医療保険 (3) 失業保険 (4) 労働災害保険 (5) 生育保険(出産育児保険) (6) 年金保険 (2) 医療保険 (3) 都市部 最低生活保障制度 (7)① 農村部 農村最低生活保障制度 (7)② 農村部 公的扶助 五保制度 特別困窮基本生活援助制度 「中華人民共和国国民経済・社会発展第十次五カ年計画要綱」(2001 年 3 月、全人代で 承認) 、邦訳は田中修『中国第十次五カ年計画』蒼蒼社、2001 年参照。 11 30 社会福祉 - 社会救済制度(被災者の救済) 社会福祉事業 高齢者福祉 児童福祉 障害者福祉 特別待遇措置(軍人およびその家族が対象) 資料:金子・何「中華人民共和国の社会保障」p.341 に加筆修正して作成 31 - (2)年金保険(養老保険) ①主要な制度の概要 中国では、公的年金を基礎部分としつつ各種私的年金を多層的に整備することに よって、全体として必要な老後所得を保障することとしている。 公的年金制度には以下のものがある。 制度名 対象 都市従業者基本年金 都市企業労働者 公務員年金保険 公務員退職者 農村社会年金保険 農村住民 公的年金を補完するものとして企業補充年金保険(企業年金)、個人積立型年金保 険(民間保険)がある。 農村部ではそもそも公的年金制度が整備されていない。そのため、国民皆年金 とはなっていない。また、都市企業労働者は強制加入することとなっているが、実 際の加入者は必ずしも多くない。 ②都市従業者基本年金制度 都市従業者基本年金については、各省・自治区及び直轄市政府が詳細を決定する こととなっているが、概略以下のとおりとなっている。 管理運営 原則、各省・自治区及び直轄市が行う。 (市が行っている地域もある) 財源 ・ 個人口座(所属企業の申請に基づき社会保険運営機構が管理する銀 (詳細は後述) 行等に開設)に納付する保険料 ・ 社会保障基金(各地域において社会的にプールされる統一社会保険 会計)へ納付する保険料 ・ 政府(各省・自治区・直轄市、中央政府)の補助金(給付等の支出 に対して保険料収入が不足した場合)。2004 年は 544 億元の補助 を行い、そのうち 474 億元は中央財政補助であった。 納付方法 従業員分を含めて企業が口座を開き、社会保険運営機構が委託する銀 行に納付する。 適用対象 当該市区域内にある企業(国有企業、集団企業、株式会社、外資企業、 私営企業、個人商店等全てを含む。公務員や準行政事業単位等は含ま ない)に勤務する都市労働者 給付の要件 ・ 本制度開始後就業し 15 年間保険料を納めることで、退職後基本年 32 金を受給することができる。支給開始年齢は退職時(原則男性は 60 歳、女性は 50 歳(幹部クラスは 55 歳)) 。 ・ 本制度実施前に就業した者で、10 年間保険料を納めた者も受給で きるが、保険料納付期間に応じて基礎年金が減額される。 給付内容(基本年 ・ 個人口座分からの給付:個人口座残高の 120 分の 1 金、月額)12 ・ 社会保障基金から給付される基礎年金:各省区・直轄市の平均賃金 の 20%13 ・ 2003 年、企業は退職者に対して 1 ヶ月平均で 621 元を支給した 加入者数 14 (2004 ・ 1 億 6353 万人(前年より 152 万人増加)で、うち就業者は 1 億 2250 万人、離職退職者は 4103 万人 年) ・ 企業における基本年金保険加入者は、1 億 4679 万人(前年より 797 万人増加) 都市従業者基本年金は個人口座(個人積立、企業・個人が負担)と、社会保障基金 (社会保険方式、企業が負担)の二本立てとなっている。 個人口座の保険料は、企業、従業員本人負担あわせて賃金の 11%を積み立てなけ ればならないこととされている。移行措置が講じられており、最終的には本人負担 8%、企業負担 3%にすることとされている。北京市の場合、毎月、企業が賃金(当 該従業者の前年平均月額賃金)の 3%、本人が 8%を負担する。 社会保障基金分および個人口座分に係る企業負担分は賃金の 20%を超えないも のとされている。北京市の場合、企業が社会保障基金分として賃金の 16%を負担す る。 なお、賃金が当該地域の最低賃金標準より低い場合は、最低賃金標準を元に保険 料が算定される。また、賃金が当該地域の平均賃金の 300%を超える場合は、300% を超える部分については保険料算定の対象外となる。 ②農村部における年金保険 人口の約 70%を占める農村部住民及び農業戸籍者については、基本的に公的年金 12 制度実施前に退職している者は、従来の規定により給付される。また、制度実施前に就 業し、制度実施後に退職した者で、かつ 15 年以上に相当する保険料等を納付したと見なさ れる者は、個人口座分および基礎年金に加えて、過渡的年金等が給付される。旧制度にお いては各国有企業等が実費を拠出し(個人拠出なし)、定額で勤続年数によって引退時の給 与の 60-80%が給付されたが、その額を保証するための仕組みである。 13 国務院が定めた上限が 20%であるが、退職者が多く年金負担が過重の地域は、認可を得 て 20%以上とすることもできる。 14 2003 年末現在は以下のとおり。 ・ 在職者:1 億 1,646 万人(都市部就業者の約 45%程度) ・ 退職者:3,840 万人(都市部退職者の約 90%程度) 33 制度は整備されていない。郷鎮企業(地域社会に基盤を有する企業)が発達した地 域では、郷鎮企業の収益を農村内福祉に活用するシステムを有しているところもあ る。 経済水準が比較的高い農村部では、農村社会年金保険を設置している地域もある 15。具体的な内容は地方によって異なるが、概ね以下の通りである。 管理運営 管理体制は、村単位、郷単位、県単位の場合があり、もっとも多いの が郷単位である。保険基金は県単位で統一管理が行われる。 財源 ・ 保険基金の調達は原則として個人納付による(農村保険管理機構に ある個人口座への個人積立方式)。 ・ 集団補助(郷鎮企業の利潤等の割り当て等)や政府の支援もあるこ とになっているが、実際にそうしている地域は少ない ・ 保険料は毎月 2、4、6、8、10、12、14、16、18、20 元の 10 ラン クを設け、加入者はそのうちから自由に選択することができる(実 態は絶対多数の加入者が最低の 2 元を納めている) 適用対象 郷鎮企業や私営企業従業者も含めた全ての農村住民。任意加入。 保険加入年齢は 20~60 歳、年金受給の開始年齢は 60 歳以上とする 給付内容(基本年 年金月額は個人口座の貯金残高の 120 分の 1 とする。年金の受給には 金、月額)16 10 年(60~69 歳)の保証期間がつく 制度整備状況 全国で 1870 カ所の県(市、区)において程度の異なる農村社会養老保 (2003 年末現在) 険が展開され、累積された基金は 259 億元となった 加 入 者 数 ( 2004 加入者は全国で、5378 万人で、1 年間に 205 万人が年金保険を受け取 年) った ③近年の動向 都市企業労働者に対する老後所得保障については、従来、各企業の責任で給付を 行っていたが、各年ごとの完全な賦課方式を前提としていたため、地域ごと、企業 1991 年に「県級農村社会養老保険基本法案」を発布。 制度実施前に退職している者は、従来の規定により給付される。また、制度実施前に就 業し、制度実施後に退職した者で、かつ 15 年以上に相当する保険料等を納付したと見なさ れる者は、個人口座分および基礎年金に加えて、過渡的年金等が給付される。旧制度にお いては各国有企業等が実費を拠出し(個人拠出なし)、定額で勤続年数によって引退時の給 与の 60-80%が給付されたが、その額を保証するための仕組みである。 15 16 34 ごとに負担のばらつきが生じ、財政力のない企業の退職者は十分な給付を受けるこ とができなくなっていた。 そこで、以下の点などを目的として、全国統一的な新たな年金制度(基本年金制 度)の普及・移行が進められているところである。 ・ WTO 加盟等を背景とする国有企業等の競争力立て直し(過剰な企業負担の軽減)、 ・ 個人負担を含む安定的な拠出財源を背景にした安定的な給付の実現(国有企業の年 金財政の破綻が背景) ・ 国有企業以外の企業に勤務する従業者等の老後保障の確保 35 (3)医療保険 ①主要な制度の概要 公的医療保障制度に該当するものには以下のものがある。 対象者 制度名 参照 都市企業労働者及びその退職者 都市従業者基本医療保険制度 ② 高額医療費補充医療保険 ③ 公務員 公務員医療補助制度 脚注参照17 都市部の困窮者 特定困窮者医療扶助制度 ④ 農村住民 農村合作医療制度 ⑤ 農村協力医療制度 等 ②都市従業者基本医療保険制度 都市従業者基本医療保険制度は個人口座(個人積立、企業と本人が負担)と基本 医療保険基金(社会保険方式、企業が負担)の二本立てとなっている医療保険制度 である。1998 年 12 月公布の「都市部労働者基本医療保険制度の確立に関する国務 院の決定」に基づく。制度概要は以下のとおりである。 管理運営 地級市(各省区の下にある比較的大きな都市) 、地区(場合によっては その下にある市や県でも可)及び北京、天津、上海、重慶市の直轄市 が行う。 具体的な内容は各地域の事情等を考慮して各省区・直轄市が決定する。 財源 ・ 個人口座に納付する保険料:企業は賃金(当該従業者の前年平均月 額賃金)の 1.8%程度、従業員本人は 2%程度を負担(地域により 異なる)18 ・ 基本医療保険基金に納付する保険料:企業が賃金の 4.2%程度を負 担(地域により異なる) ・ 退職者の場合は、本人は保険料を納付せず、企業が負担する一括保 険料から各地域の規定に基づき、一定額を退職者の個人口座に納入 する。 17 国家公務員および公費で医療を享受することのできる部門の人員に対して適用される制 度。従来の公費医療制度の水準を維持するため、基本医療保険制度に加入の上、年 1 度上 乗せ給付する。 18 従業員の年齢によって企業負担の保険料に差異を設ける等の措置を行っている地域もあ る。 36 ・ 賃金が当該地域の平均賃金の 60%より低い場合は、平均賃金を元 に保険料を算定する。また、賃金が当該地域の平均賃金の 300%を 超える場合は、300%を超える部分については保険料算定の対象外 となる。 納付方法 従業員分を含めて企業が口座を開き、社会保険運営機構が委託する銀 行に納付する。 適用対象 都市企業労働者(制度上は強制加入だが、現状では必ずしも全ての都 市企業労働者が加入しているわけではない) ・ 具体的には、企業、公的機関など、当該区域内にある都市部の企業 (国有企業、集団企業、株式会社、外資企業、私営企業等) 、機関、 事業単位、団体等(政府組織含む)に勤務する都市労働者。 ・ 最近では、臨時工などパート形態の労働者も対象にすることとして おり、雇用先及び当該企業との雇用関係が明確な臨時工が加入する ことのみならず、臨時工が単独で個人口座を設置したり、高額医療 費補充医療保険に加入することも認められる。 ・ 各区域内の農村部の郷鎮企業従業者や個人経営体(自営業者)に勤 務する従業者については各省区内政府が実情に応じて決定する。 ・ なお、被扶養者は対象外。 給付内容 個人口座(個人積立)からの給付と基本医療保険基金からの給付の二 本立てとなっている。 ・ 個人口座:外来費用及び薬局における医薬品購入費用並びに入院費 用の一定標準額以下の費用について給付を行う19 ・ 基本医療保険基金:入院費用(急診に係る入院前 7 日分の外来費 用を含む)20およびガンの放射能治療・化学療法、腎臓透析、腎臓 移植後の投薬治療に係る外来費用が対象となる。原則的に入院費用 の一定標準額以上(各地域の年平均賃金の 10%程度)から最高給 付限度額(各地域の平均年間賃金の 4 倍程度)までの費用を給付 する21。3~20%程度の自己負担がある。 加入者数 22 (2004 ・ 1 億 2404 万人(前年比 1502 万人増) 年) ・ うち就業者は 9045 万人、退職者は 3359 万人 19 個人口座の残高が不足した場合は別途、全額本人負担となる。 急診に係る入院前 7 日分の外来費用を含む。 21 交通事故等の賠償責任の対象となる治療や労災保険の対象となる治療等は対象にならな い。 22 2003 年末の加入状況は以下のとおり ・ 在職者 7,975 万人(都市部就業者の約 31%程度) ・ 退職者 2,927 万人(都市部退職者の約 67%程度) 20 37 基本医療保険制度による給付水準は、各地域の経済水準に見合ったものとするこ と及び基金の収支を均衡させることが法令上明記されている。また、医療保険基金 の救済と税金の免除、および医療保険管理部門の経費には国庫負担が充てられ、保 険料率は経済成長の状況によって調整できることとなっている。 基金の最高給付限度額以上の費用については、高額医療費補充医療保険や商業医 療保険等によって対応する。 ③高額医療費補充保険制度 高額医療費補充保険制度は、被保険者の自己負担額が高額になった場合、当該医 療費に係る負担を補充するため、基本医療保険とは別に設けている制度である。企 業の補充医療保険費は給与の総額 4%以内であり、経費から支払われる。管理運営 は市が行うが、近年、本制度を実施する地域が増えている。 以下は北京市の制度概要である。 ・ 労使の保険料で、企業は従業員総賃金の 1%、従業員及び退職者は 財源 月 3 元を負担する ・ 資金に不足を生じた際には、市政府が補填する 適用対象 ・ 基本医療保険に加入している者 給付内容 外来等の費用 年間の外来費用等が 2,000 元を超えた場合、そ の超過額の 50%を給付23。 年間給付上限は 20,000 元。 基金に係る最高給付 最高給付限度額超過額の 70%を給付。 限度額(50,000 元) 年間給付上限は 100,000 元。 を超える入院費用等 ④特定困窮者医療扶助制度 最低生活保障制度対象者や収入が低く基本医療保険制度に加入できない者に対す る医療扶助制度を整備している地域もある。 北京市の場合、条件を満たした生活困窮者に対して、手術費、入院費、高額検査 費について 20~50%割引し、また、重病時の医療費が年間 1,000 元を超えた場合、 年間 10,000 元を限度として医療費の 50%を給付する。 退職者の場合は 1,300 元を超えた場合に、超過額の 70%(70 歳未満)ないし 80%(70 歳以上)を給付する。 23 38 ⑤農村部の医療保障 農村部住民及び農業従事者については、基本的に公的医療保障制度は整備されて いない。一部の地域では、農村合作医療を実施している地域もあるがその割合は少 なく、大部分の農村部では医療費は全額自己負担である。 農村合作医療は、農村集団化の時期に始まった自発的な医療扶助形態であり、医 療費用の相互扶助(共済制度)であるが、人民公社制度の廃止、市場経済化への移 行に伴い、農村合作医療は急速に衰退しており、現在は農村人口比で約 10%程度の 住民しかカバーしていない(沿海部等の比較的経済水準の高い地域では普及が進ん でいる) 。近年、中央政府資金の投入など、農村合作医療の再建に向けた動きが活発 化しつつある。 上記のほか中央政府は、農民の基本医療制度への需要と、農民の病気時の経済負 担を軽減して貧困問題を緩和解決するために、2002 年に新型の農村協力医療制度を 設立した。以下がその概要である。 財源 ・ 政府により組織、指導、援助され、農民が進んで参加して、政府、 共同体、個人から資金を徴収する ・ 徴収した資金は 30.2 億元であり、そのうち地方各財政補助は 11.1 億元で、中央財政による中西部地区への補助は 3.9 億元である。 加入者数(2004 年 ・ 現在は 30 カ所の省、自治区と直轄市内の 310 カ所の県(市)にお 6 月現在) いて試験的に実施。9504 万の農業人口をカバーして、実際に参加 している人数は 6899 万人となっている。 ⑥近年の動向 都市企業労働者に対する医療保障については、従来、各企業の責任で給付を行っ ていたが、以下の観点等から、全国統一的な新たな医療保険制度の普及・移行が進 められているところである。 ・ WTO 加盟等を背景とする国有企業等の競争力立て直し ・ 従業員の個人負担を含めた安定的な拠出財源の確保 ・ 個人口座への拠出や患者負担によるコスト意識の喚起(過剰診療・給付の抑制) ・ 経済発展の程度に見合った公的給付水準への抑制 ・ 国有企業以外の企業形態に勤務する従業者等の医療保障の確保 39 (4)失業保険 1999 年公布の「失業保険条例」に基づく、国有企業(都市企業)を対象とした失 業保険制度がある。 財源 ・ 雇用側は給与総額の 2%、労働者側は本人収入の 1%を失業保険費 として納付 ・ 徴収した失業保険が不足する時には失業保険調整金により調整し て地方財政を補助する 給付内容 ・ 各省・自治区・直轄市政府が当該地での最低給与基準に照らして、 また都市においては住民の最低生活を保障する基準レベルにより 失業保険金基準を確定する 受給資格 以下の基準を満たしていること ・ 失業保険費を 1 年以上納付している ・ 本人の意思によらない退職 ・ 失業登録手続きを行い、再就職の意思があること 受給期限 ・ 納付期間が満 1 年から 5 年未満の場合:最長で 12 カ月 ・ 納付期間が満 5 年から 10 年未満の場合:最長で 18 カ月 ・ 納付期間が 10 年以上の場合:最長で 24 カ月 加 入 者 数 ( 2004 ・ 加入者数 1 億 584 万人(前年より 211 万人増加) 年) ・ 受給者数は全国で 419 万人(前年比で 4 万人増加) 40 (5)労働災害保険 労働者の労災予防、労災補償、労災リハビリを結合させた労災保険制度が設立さ れている。2004 年公布の「労災保険条例」により労災保険のカバー範囲は急速に拡 大した。 財源 ・ 企業が負担する保険料(労働者個人は納付する必要はない) ・ 基金の利子収入 ・ 政府からの補助金 適用対象 ・ 国家機関で働く公務員等(公費医療補助制度による労災補償がなさ れる)を除く全ての企業の労働者・従業員(雇用人のいる個人経営 の商工業者も含む) 給付内容 ・ 労災医療費用(労働能力の喪失した程度から判断して障害補助金、 障害補助、障害看護費を確定) ・ 労働者が死亡した場合は直系親族が葬儀補助金、親族救済金と一時 的な補助金等を得ることができる ・ 労災保険が給付される主な条件は、労働者の労働時間、労働区域、 その作業が原因となって発生した事故による障害であること、ある いは職業病等である 加入者数(2004 年 ・ 労災保険は、全国の統一計画地域においてスタートしたが、2004 末現在) 年末時点で加入者数は 6845 万人となった(前年より 2270 万人増 加) ・ 労災保険の適用となった者は年間 52 万人(前年より 19 万人増) 41 (6)生育保険(出産保険) 生育保険は「企業職工生育保険試行弁法」に基づく制度である。 ・ 加入会社が労働者への給与総額の 1%を保険費として生育保険社 財源 会準備基金に納付(労働者個人は納付しない) 適用対象 ・ 都市企業等に就業する女性労働者(一部の地域では国家機関、事業 部門、社会団体、企業における女性労働者までをカバー) ・ 都市企業以外において就業している女性労働者や無就業の女性及 びその出産児には適用されない 給付内容 ・ 女性企業従業者の育児休業期間中の賃金手当(生育手当金) ・ 出産・育児に関わる医療給付 加 入 者 数 ( 2004 ・ 加入者数は 4384 万人(前年比 729 万人増)24 ・ 受給者数は 46 万人(前年比 10 万人増) 年) (7)公的扶助 ①都市部(最低生活保障制度) 都市部の生活困難者に給付を行う「最低生活保障制度」がある。 「都市住民最低生 活保障条例」に基づき、1999 年 10 月以降、全市及び全県において実施されている。 制度概要は下記の通りである。 管理運営 制度は各地方政府の責任で実施されるが、具体的な管理は県以上の地 方政府の民生部門が担当 財源 財政資金のみで運営。基本的に各地方政府の財政予算で賄い、中央政 府及び省政府からも資金が投入されている(2003 年の財政投入資金 156 億元。うち、中央財源 92 億元)。 適用対象 ・ 収入25が最低生活保障基準未満の都市住民 ・ 最低生活保障基準は各地の生活状況や財政状況等を勘案して、各地 方政府が定める26。概ね各地平均賃金の 20~30%となっており、 なお、2002 年末現在、都市企業就業女性は 4,156 万人に対し、加入者数は 3,488 万人で あった。 25 各家庭成員 1 人当たり平均収入。現金収入及び現物収入を含む。 24 42 2003 年の全国平均は月 155 元である。 給付内容 ・ 最低生活保障基準から収入額を控除した額。2003 年の支給額は 1 か月当たり全国平均 58 元だが、地域によって相当のばらつきがあ る。 ・ 給付額に特別な必要経費等は勘案されず、仮に医療や高等教育等の 支出を要したとしても給付額には反映されない。 受給者数(2003 年 ・ 2,247 万人 末現在) ②農村部 1950 年代に設立された伝統的な救済制度である「五保制度」は、1994 年国務院 発布の「農村五保扶養工作条例(農村における 5 つの保護活動条例)」制定により、 改めて制度化されている。これは農村村民のうち以下の条件に合う高齢者、障害者、 未成年者に対して食事、衣服、住居、医療、葬儀(未成年者には義務教育)の 5 つ の保護を実施するものである。その条件とは、扶養する義務を持つ者がいない場合、 あるいは扶養する義務を持つ者がいても扶養能力が無い場合、労働能力が無い場合、 生活が出来ない場合等である。2003 年末、全国で実際に 5 つの保護を受けた人数 は 254.5 万人となっている このほか、中央政府は条件に適合する農村部には(都市部と同様の) 「農村最低生 活保障制度」を設立するよう奨励しており、その他の地区では「特別困窮基本生活 援助制度」を設立している。2003 年末になって、全国の農村で最低生活保障と特別 困窮生活援助を受けている人数は 1257 万人であり、カバー率は低く27、その給付水 準も低いと言われている。 ■要確認事項 ・ 失業保険の対象者は国有企業の従業員だけか、より広く都市企業の従業員を対象と しているのか 26 主に都市住民の一人あたりの収入と一人あたりの生活消費レベル、前年の物価レベル、 生活消費物価指数、現地において最低生活レベルを維持するために必要な費用、関連する その他の社会保障基準額、衣食住の維持等、基本生活のために必要な物品と未成年の義務 教育費用等、全てを考慮して計算する。同時にまたその土地における経済社会の発展レベ ルや、最低生活保障条件に付合するだけの人数に対して援助できる財政能力があるか、と いった状況も考慮される。 27 農村部における最低生活保障制度の受給者数約 367 万人(2003 年末) 、 「五保制度」等の 伝統的な救済制度の受給者数は 2,288.6 万人(2002 年) 、とする資料もある。 43 ・ 農村部における公的扶助の実態 ・ 今後の改革の方向性(これまでは、都市企業労働者については対象者の拡大と制度 の統一という方向で改革が進められてきたとみられる。今後はどうなる見込みか。 特に今後急速に進む少子高齢化への対応および企業の国際競争力確保の観点をどう 考えているか) ※参考資料: ・ 厚生労働省『2003~2004 年 海外情勢報告(世界の厚生労働 2004) 』 ・ 金子能宏・何立新「中華人民共和国の社会保障」 (広井良典・駒村康平編『アジアの 社会保障』東京大学出版会、2003 年) ・ 王文亮「中国の社会保障」 (大沢真理編著『アジア諸国の福祉戦略』ミネルヴァ書房、 2004 年) ・ 国務院(独立行政法人労働政策研究・研修機構訳)「中国の社会保障状況と政策」 (2004 年、http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2004_11/china_01.htm、 http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2004_11/china_01_01.htm) ・ 独立行政法人労働政策研究・研修機構「『2004 年度労働と社会保障の発展に関する 統計公報』発表される」 (2005 年、http://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2005_6/china_01.htm) 44 Ⅲ.我が国企業の東アジアにおける 統括会社の状況 45 1.はじめに:東アジア進出企業における地域統括会社の設立の意義 (1)この章の目的と背景 ①この章の目的 韓国、台湾、シンガポール、香港といった NIES 諸国の発展に続き、アセアン諸 国の発展と中国の台頭東アジアよって各国間・地域間の経済連携が進み、東アジア 全体が一つの経済圏としてクローズアップされてきた。我が国の企業も東アジア全 体と視野に入れた最適立地戦略のもとに、バリューチェーンの構築とそれに沿った 事業所の再配置を進めている。今後、我が国と東アジアの国・地域との FTA の締結 などを契機として関税や投資規制の撤廃、非関税障壁の解消などが進むことにより、 こうした動きは加速されることが想定される。 我が国の大手製造業は、東アジアに製造拠点、販売拠点として多くの現地法人を 設立してきた。しかしこうした東アジア全体を対象としたグローバル戦略を進める 中で、日本本国の本社を中心とした企業グループ全体の運営から、東アジアにおけ る調達や販売といったマーケットに近接したところで事業をコントロールする必要 が出てきた。欧米の大手企業も同様である。 こうしたことから、東アジア各国に現地法人を進出させてきた我が国や欧米の大手 企業ではアジア地域統括本部を設置する動きが強まっている。アジア統括機能としては、 現地法人の管理や業務提携などの管理、投資や資金調達・運用機能、為替リスク管理、 物流管理機能、資材等の調達機能、マーケティング機能など様々である。現状では分散 して配置されている場合が目立つが、今後の方向としては、これらの海外事業を包括的 に管理・運営するアジア本社としての統括本部の設置や、統括持株会社が増えるものと 見込まれる。 一方、東アジアの国々も、こうした我が国や欧米企業の生産拠点や販売拠点、及 び海外統括本部の誘致を進めており、そのために、税制上の優遇を始めとする各種 の措置を講じている。 この章では、こうした認識の下に、東アジアに大きく展開している我が国の主要 な製造業を対象に、アジア地域における統括会社の設置の動向を把握する。 ②背景 製造業よるアジア地域における地域統括会社の設立が活発化している背景には、 (2)で述べるように、地域統括会社の効果的運用によるさまざまなメリットがあ る。しかしながら、その根本にあるのは、東アジアにおける生産活動が活発化し、 売上や利益のかなりの部分が東アジアから生まれるということである。 46 すなわち、全産業における地域別の売上高をみると、アジアでの売上が非常に大 きく伸びていることが分かる。また、製造業に限ってその生産活動の海外比率をみ ると、海外比率が急速に伸びている中で拡大の大部分をアジアが寄与している。こ のような状況が東アジアにおける地域統括会社設立の動きが活発化している基本的 な理由となっている。 地域別売上高推移 出典:経済産業省 「海外事業活動基本調査結果」 2004 年度実績 製造業の地域別海外生産比率 出典:経済産業省 「海外事業活動基本調査結果」 2004 年度実績 基データは財務省 法人企業統計 47 (2)アジア地域統括会社の意義 グローバルに展開している企業にとって、地域統括会社の意義は次のように整理 することができる。 ①大きな視点からみた地域統括会社の意義 まず、大きな視点からみると、地域統括会社は典型的には自己完結型の「本社」 としての機能を有し、財務、人事、経営企画などの機能によってその地域における 現地法人を統制・調整するものである。また、同時に、その地域全体における調達 活動、生産活動、販売活動、物流活動などを日常の活動を広い視点からコーディネ イトしていく役割も担っている。こうしたことから、地域統括会社の意義を整理す ると、次のようなことがあげられる。 ・東アジア、ヨーロッパなどのリージョナルな視点から海外の現地法人等の活 動を効率的にマネジメントする。 ・リージョナル経済圏のインサイダー企業として企業そのものの現地化を推進 する。 ・国際分業など本国の本社のグローバル戦略とリージョナルな戦略との調整 ②地域統括会社の機能 こうした地域統括会社の意義を具体的な機能に展開すると、次のようなものがあ げられる。 ・経営・業務企画 ・財務(資本、金融、資金移動、税務など) ・総務、人事、教育 ・情報収集 ・マーケティング ・生産管理 ・資材調達、購買 ・物流、保険 ・研究開発 ・技術サポートやアフターケア 地域統括会社はこれらの機能のほとんどを担う場合もあれば、持株会社やファイ ナンス機能、情報やマーケティング、あるいはロジスティクス戦略と具体的な物流 のコントロールなど、部分的に機能を担う場合もある。それは地域統括会社の母体 48 となる現地法人として特性などにも影響されているといえる。 ③地域統括会社のメリット 地域統括会社の意義や機能は以上のように整理することができるが、もう一つ重 要な点は、地域統括会社を効果的に使うことによる本国の本社としてのメリットで ある。こうしたメリットとしては、企業の経営戦略や経営体制に係る部分と、財務 面・資金面に関するものがある。 前者については、企業グループ全体の管理、経営責任やリスク管理の明確化、グ ループ全体の事業の再編成の容易化などのメリットがあげられる。 後者については、税務の効率化や資金調達や資金移動の実現などがあげられる。 また、アジアなどの地域に利益をプールすることによる課税の回避なども重要な視 点となっている。 49 2.東アジアに展開している主要企業の状況 (1)株式会社アドバンテスト ①世界及びアジアにおける事業展開 (株)アドバンテストは半導体試験装置や電子計測器の世界トップメーカーであり、 世界の企業を対象としたビジネスを行っている。そのため、同社の海外販売比率は 非常に高く、2000 年度における同社の海外売上はグループ全体の 7 割に達した。 こうした同社の海外事業を支えるために、重要な市場である米国、欧州、アジアそ れぞれに統括会社が設立され、3 極体制のもとに地域の状況の応じた経営が展開さ れている。 3 極の中でもアジアは移動体通信などへの設備投資の伸びが非常に期待できる市 場であり、韓国、中国の上海や蘇州、台湾の新竹、マレーシアなどアジアの各拠点に 製造と保守のための現地法人を設立し、ユーザー企業に対するサポート体制を構築 している。こうした活動の結果、アジアにおける売上は海外全体の 6~7割を占める までになっている。 ②世界展開に当たっての基本戦略 同社の海外展開にあたっての基本戦略は次のとおりとなっている。 一つは「グローバルアカウント体制」に移行である。これは国ごとの営業体制か ら、世界にある顧客(アカウント)それぞれに対応したグローバルな営業体制に変え てきた。 第二に経営の現地化である。現地の文化をふまえた経営を行うことを目指し、経 営者の現地化も進めている。 第三として、半導体の世界における設備投資リスク、コスト競争の激化、製造プ ロセスの複雑化などへの対応である。そのため、設計、開発、生産、出荷までのト ータルな問題解決型の組織、すなわちワンストップショッピング体制を構築しよう としている。 ③アジア地域における状況 (株)アドバンテストの東アジアにおける現地法人は次の表に示すとおりである。 アジアにおける拠点は販売会社が 2 社、保守サポート会社が 5 社、生産会社が1 社であり、それをシンガポールにある統括会社がコントロールする体制となってい る。 このうち、マレーシアにはアジアで唯一の生産拠点がある。これは現地資本との 50 合弁会社であり、よいパートナーが見つかったことと顧客がマレーシアに多いこと から生産活動を行っている。 国名 都市名 韓国 現地法人名 設立年 Daechi-Dong Advantest Korea Co., Ltd. 上海市 愛徳万測試(上海)(有) ― 蘇州市 愛徳万測試(蘇州)(有) 1997 愛徳萬先進科技(股) 2000 愛徳萬測試(股) 1990 1954 中国 台湾 新竹縣竹北市 シンガ ポール シンガ ポール マレー シア Panang Subang Jaya フィリ Upa Sity ピン Advantest(Singapore) Pte. Ltd. Advantest Asia Pte. Ltd. Advantest Engineering(M)Sdn. Bhd. Advantest (Malaysia) Sdn. Bhd. Advantest Philippines,Inc. 1986 1995 事業 メモリーテスター(半導 体試験装置)及び半導体 チップ用台の製造 及びサポート 半導体試験装置等の販 売・保守 半導体試験装置及び 電子計測器の保守 ATE,DI 製品の販売・保 守 半導体試験装置及び電子 計測器の輸入・販売・保 守 半導体試験装置の製造・ 保守・研究開発 地域統括会社 (アジア地区現地法人の管理) 1995 IC 自動搬送機(ハンドラ ー)の製造 1992 半導体試験装置の保守 1997 半導体試験装置の保守 ④アジア地域における状況 アジア地域における地域統括会社は 1995 年にシンガポールに設立されたアドバ ンテストアジア(ATA)社である。この会社は日本本国のアドバンテスト社の 100% 子会社である。 シンガポールには既に 1986 年に、半導体試験装置や電子計測器などの販売と顧 客に対する直接的なサポートを行うためにアドバンテストシンガポール社が設立さ れていた。同社は 1996 年にシンガポールに本社というべきアドバンテストアジア 社(ATA)が設立され、その 100%子会社となった。上記の表に記載した現地法人 のほか、アドバンテスト社は 2004 年にはタイに保守、サポートを目的としたアド バンテスト タイランド社を設立したが、その資本金 300 万タイバーツは ATA の 100%出資である。 このように、ATA が地域統括会社として、また持株会社としてシンガポール、マ 51 レーシア、台湾、韓国及び中国の子会社をサポートしている。 ATA の機能は次のとおりである。 ・マーケティング機能 ・人材採用と教育機能 ・国際資材調達 ・投資資金管理 ・保守部材センターの運営 52 (2)ローム株式会社 ローム(株)は本調査において取材に応じてもらえた会社の一つである。ここでは、 公開資料と取材結果をもとに同社のアジアにおける企業活動と地域統括会社の状況 を整理する。 ①世界及びアジアにおける事業展開 ローム(株)は集積回路、半導体素子などを中心とした半導体・電子・電気部品の メーカーである。世界各地からアジア地域にエレクトロニクス機器の生産シフトが 進んでいることから、同社ではアジア地域での売上が拡大し、2000 年 3 月期には海 外生産比率は 42%に達し、さらに 2005 年3月期には 56%まで上昇しました。内訳は アジア 47.2%、ヨーロッパ 5.1%、アメリカ 3.8%である。また、我が国の企業の アジア市場での収益は、2003 年度において 557 億円に達し、松下電器産業に次いで 2 位となっている。 こうした同社のアジアにおける事業を支えている現地法人は、中核的な生産拠点 がタイ、フィリピン、中国、マレーシアに展開しており、韓国、中国、香港、台湾、 マレーシア、フィリピンには販売会社が展開している。 なお、中国には転進や大連などに製造現地法人がある他、香港、上海、大連に販 売のための現地法人がある。したがって、同社の東アジアにおける事業はアセアンと 中国の両にらみ体制ということができる。 ②アジア展開法人の管轄体制 ローム株式会社では、東アジアに展開する現地法人、支店、営業所などは、基本 53 的に本社に属する国内の事業部が管理している。こうした体制は、従来から特に変 わったところはない。今後についても、東アジアに展開する事業の管理体制は基本 的に変わらないとしている。また、東アジアにおける事業活動に関する資金調達は ロームグループ内で融通している。 このようにみると、ロームは基本的には、日本本国からの現地法人を直接コント ロール及びサポートする体制をとっているということができる。 ③アジアにおける準地域統括会社の設置 このように、日本本国からの現地法人を直轄する体制ではあるが、同時に東アジ アには統括会社に準じる法人として、シンガポールにローム・エレクトロニクス・ アジア社を設立している。 この準統括会社はローム(株)の 100%子会社として 1995 年に設立されたものであ る。カバーしているのはタイ、マレーシア、フィリピンであり、東アジア全体を担 当しているわけではない。また、その機能は、 「経営・業務企画」及び「財務(資本、 金融、資金移動、税務など) 」 、及び「販売」である。 なお、物流管理機能については、ローム本社が日本にあるロームロジテック社に 物流管理業務を一式委託するという方式となっている。 国名 韓国 都市名 Gurobon-Dong Gasan-Dong 天津 大連市 天津 中国 上海市 大連市 香港 Kowloon 台湾 台北市 Pathumthani タイ Bangkok 現地法人名 ROHM Electronics Korea Corp. ROHM Korea Corp. 羅姆電子(天津)(有) 羅姆電子大連(有) 羅姆華科電子(天 津)(有) ROHM Electronics (Shanghai) Co., Ltd. 羅姆電子貿易(大 連)(有) ROHM Electronics (H.K) CO., Ltd. ROHM Electronics Taiwan Co., Ltd. ROHM Apollo Electronics (Thailand) Co., Ltd. ROHM Electronics (Thailand) Co., Ltd. 54 設立年 事業 1996 電子部品の販売 1972 1993 1993 電子部品の製造 電子部品の製造 電子部品の製造 2000 電子部品の製造 1999 電子部品の販売 2003 電子部品の販売 1974 電子部品の販売 1987 電子部品の販売 1987 電子部品の製造 1996 電子部品の販売 Pathumthani シン ガ ポール Petaling Jaya マレ ー シア Kota Bharu, Kelantan ROHM Integrated Semiconductor (Thailand) Co., Ltd. ROHM Electronics Asia Pte. Ltd. (Investment Division) ROHM Electronics (Malaysia) Sdn. Bhd. 1997 電子部品の製造 1995 アジア地域子会社統 括・管理及び電子部品の 販売 1993 電子部品の販売 1989 電子部品の製造 2000 電子部品の製造 1989 電子部品の製造 1996 電子部品の販売 ROHM-WAKO Electronics (Malaysia) Sdn. Bhd. ROHM Apollo Carmona,Cavite Semiconductor Philippines, Inc. フィ リ Carmona,Cavite ROHM Electronics Philippines, Inc. ROHM Electronics ピン Muntinlupa City (Philippines) Sales Corp. Carmona,Cavite EOHM Mechatech Philippines, Inc. 1993 金型リードフレームの 製造 ④準統括会社をシンガポールに設立した背景 ローム・エレクトロニクス・アジア社がシンガポールに立地している背景には、 そこが金融の中心であること、情報が集まりやすいこと、及び税制面での有利さな どのシンガポールが優れた条件を有していることがあげられる。また、人件費を含 む生産コスト、顧客情報の入手、地政学的なリスク等を総合的に勘案して事業を展 開している。 特に重要と考えられるのは、東アジアにおける現地法人等の活動に関して外貨優 遇措置の観点を重視するのは当然であるとの立場から、投資、税務、その他の関連 制度を最大限に活用できるような取り組みを進めていることである。 なお、税制、投資などからみた各国の外資優遇措置を比較すると、評価できるのは 中国、タイ、マレーシアである。韓国、台湾、シンガポール、香港は評価できるかで きないか、どちらともいえない。 55 ⑤東アジアにおける現地法人の立地選定における企業負担について 海外の現地法人等の進出先を決定する際には、労災、雇用、その他各種の社会保障 に関する企業負担について重要視している。但し、東アジアに進出する場合には、社 会保障に係わる企業負担が進出先の選定に影響を与えたことは特にない。 社会保障負担について各国を比較すると、一応評価できる国・地域として香港、シ ンガポール、タイ、マレーシアがあげられる。どちらともいえない国・地域としては 韓国と台湾があげられる。中国は社会保障負担の面で改善すべき点が多い。 東アジアの国々は社会保障の充実を図っているものの、現状では総労務費に占める 比率はわずかであり、立地に影響を与えるようなものではないとのことである。しか し、法定外福利費が年々増加する傾向にあることが懸念材料となっている。 56 (3)オムロン株式会社 ①世界及びアジアにおける事業展開 オムロン(株)は、制御機器やファクトリーオートメーション、半導体・電子・電 気部品、及び医療分野、セキュリティ分野、アミューズメント分野に係る電気・電 子機器など様々な製品をワールドワイドに製造している。 海外には生産、販売、開発などの機能を展開しており、2005 年時点において 32 箇所、82 の関連会社が展開している。そして、それらをコントロール及びサポート するためにヨーロッパ、アメリカ、アジアパシフィック、及び中華経済圏のそれぞ れに地域統括会社を設置し、世界4極体制で海外事業を展開している。 売上高の国内と海外の比率は、国内 6 割強、海外 4 割弱であり、アジアパシフィ ックと中国は全体の 1 割を占めている。 ②世界各地における地域統括会社の状況とその背景 上述のように、オムロンは世界4極体制を経営ビジョンの柱として打ち出してお り、世界を4つに分け、1988年にオランダに欧州地域統括会社、及びシンガポール にアジア地域統括会社を設立した。1989年にはアメリカに米国地域統括会社を、1996 57 年には中国・上海に中華圏地域統括会社を設立した。また、さらに2000年にはシン ガポールの地域統括会社を改組し、2001年には香港に統括会社を設立している。2001 年には香港に統括会社を設立し、さらに2002年には上海にある中華圏の地域統轄会 社(OMRON(CHINA)CO.,LTD.)を中国事業拡大の拠点としての中国本社に変更した。 このように、オムロンは地域統括会社や地域本社の設立を盛んに行っている。こ うした動きの背景としては、顧客企業や市場と密着した事業展開が必要となってき たことや、納入先企業である日本企業が海外生産を拡大したこと。及び同社の製品 が多岐にわたっていることなどがあり、各地域で独自の新規事業を展開する能力を も持たせることが重要になったためということができる。すなわち、オムロンの言 葉でいうところの「マルチローカル」企業を志向していることの現われである。 ③地域統括会社の状況とその機能 資料によると、オムロンの地域統括会社の機能は次のとおりである。 ・地域最適化戦略の展開 ・地域内事業会社への本社機能全般支援 ・事業インフラ整備と経営ネットワークの構築 ・新規事業探索と新規進出支援 ④中国における地域統括会社の展開 オムロンの中国事業を例にとると、表に示すように多数の現地法人がさまざまな 製品やサービスの生産と販売、及び保守をしている。資料によると、中国では工場 の自動化、電子部品、駅などの交通システム関連、そして健康関連び4カンパニー 体制となっている。また、投資負担と為替リスクを軽減し、世界規模で競争力を高 めることを目的として、華南地区において電子機器の生産受託サービス(EMS) を利用した汎用制御機器の生産を行っている。生産した製品は、当面は中国および アジア諸国への供給が中心である。そうした状況のもとで、対中国戦略を強化する ため中国に京都本社と並ぶ準本社機能を置くことが必要になった。 こうしたカンパニー制がしかれ、準本社としての段階における地域統括会社の機 能としては、オムロングループの本社機能の中国地域における代行とという性格が 強まっている。 国名 都市名 Gasan-Dong 韓国 Sinsa-Dong 現地法人名 OMRON Automotive Electronics Korea OMRON Korea Co., Ltd. 58 設立年 事業 1991 車載機器の生産・販売 1989 制御機器の販売 北京市 北京高騰商業電脳系統 (有) 1994 南京市 南京東大欧姆龍交通信 息系統(有) 1999 1993 大連市 天津市 欧姆龍(大連)(有) 欧姆龍電子部件(深 圳)(有) 欧姆龍工貿(大連)(有) 欧姆龍工貿(天津)(有) 北京市 欧姆龍(中国)(有) 1994 上海市 欧姆龍(中国)集団(有) 1996 上海市 欧姆龍(上海)(有) 1994 上海市 欧姆龍(上海)控制系統 科技(有) 2003 上海市 欧姆龍貿易(上海)(有) 1996 大連市 深圳市 中国 上海市 上海市 上海市 タイ 1989 1994 1993 台北市 台北市 台湾歐姆龍系統(股) 2002 桃園縣 歐姆龍國際科技(股) 1987 Phayathai, Bangkok Ladyao Chatuchak Bangkok OMRON Electronic Components Co., Ltd. 2000 制御機器の製造・販売 OMRON Electronics Co., Ltd. 1995 スイッチ、リレー販売 Kowloon Kowloon 台湾 上海欧姆龍控制電器 2001 1999 OMRON Electronics Components(Hong Kong)Ltd. OMRON Electronics Asia Ltd. OMRON Electronics (HongKong)Ltd. 台湾歐姆龍(股) Kowloon 香港 上海交大欧姆龍軟件 (股) 上海欧姆龍自動化系統 (有) 2001 フ ィ ス カ ル ECR 、 一 般 ECR 及 び 周 辺 機 器 の 製 造・販売・保守 交通道路情報システムの 諮問、設計開発、製造・サ ービス 健康機器の製造・販売 継機器、スイッチ、コネク タ、センサの生産・販売 健康機器の貿易会社 貿易・物流 オムロン製品の販売・技術 コンサルティング及び中 国地域の統括管理 中華経済圏における本社 システム機器(センサ、タイ マ、ブレーカー)等の生産 制御システム機器、部品の 研究開発・製造・販売及び 技術コンサルティング 中国地域での国際貿易、保 税区企業間貿易、貿易コン サルティング ソフトウェアの開発、研究 開発、ローカル事業 プログラマブル・コントロ ーラの生産・販売・修理 制御機器の製造・販売・修 理 59 2001 統括会社 1982 制御機器の販売 2002 1998 生産委託先の管理及び部 品調達 制御機器の販売 システム設計、技術サポー ト、」FA 関連設備の販売 制御機器の製造・販売・開 発 OMRON Asia Pacific Pte. Ltd. シンガポ ール Petaling jaya マレーシ ア Petaling jaya Petaling jaya Petaling jaya フィリピ Subic Bay ン OMRON Business Systems Singapore (Pte.)Ltd. OMRON Electronic Components Pte. Ltd. OMRON Healthcare Singapore Pte. Ltd. OMRON Business Systems Malaysia Sdn. Bhd. OMRON Electronics Sdn. Bhd. OMRON Malaysia Sdn. Bhd. OMRON Technical Service Malaysia Sdn. Bhd. OMRON Mechatronics of the Philippines Corp. 60 1988 アジアパシフィック地域 の統括会社、制御機器の販 売 1984 流通システムの販売 2000 地域統括会社 1997 健康医用機器の販売 1990 流通システムの販売 1991 制御機器・システムの販売 1974 制御機器の製造・販売 2002 メンテナンスサービス 1997 電子・電気機器の部品、コ ンポーネント他の開発・製 造・販売 (4)カルソニックカンセイ株式会社 カルソニックカンセイ(株)はカルソニック社とカンセイ社が合併した会社であり、 自動車の様々な部品や電装品、カーエアコンなどを製造している。かって合併前の 両社は日産自動車の関連会社であったが、合併して後、日産自動車の関連会社政策 の変化などもあり、他の自動車メーカーとの取引関係も強めている。また、日産自 動車と共にコックピットモジュール、フロントエンドモジュールなどモジュール型 生産方式の先駆者でもある。 同社は自動車メーカーの東アジア展開、とくに最近における中国展開に対応する ため、活発な海外進出を進めている。そこで、地域統括会社に焦点を当てつつ、東 アジアにおける事業展開の形態とその背景にある税制や社会保障制度等について取 材調査を行った。 同社の東アジアにおける主な現地法人は次のとおりであり、これに加えて最近新 たに統括会社が設立された。同社の東アジア戦略は中国とそれ以外の東アジアとを 分けていることが特徴であるので、それに沿って整理する。 国名 都市名 現地法人名 韓国 Byungdong-Ri Shinho-Dong CESKOR.Inc. 1996 Calsonic Kansei 2003 Korea Corp. Calsonic Korea Inc. 1989 Moknae-Dong Hodang-Ri 中国 台湾 タイ 上海市 設立年 Daihan Calsonic 1992 Corp. 康 奈 可 汽 車 科 技 ( 上 2003 海)(有) 江蘇省 康奈可科技(無錫)(有) 2003 新竹縣 聯城工業(股) 1987 桃園縣 台北市 健泰工業(股) 永彰機電(股) 1987 1987 苗栗縣 友永(股) 1986 新竹縣 裕器工業(股) 1987 Chonburi Calsonic Kansei(Thailand)Co., Ltd 2001 61 事業 マフラーの製造・販売 自動車用モジュールの製品 の製造・販売 フレキシブルチューブの製 造・販売 カーエアコン・ラジエーター の製造・販売 コックピットモジュール,フ ロントエンドモジュール、エ キゾーストシステムの製造・ 販売 モーターアクチュエーター の製造・販売 自動車用計器及びこれらの 型治工具の製造・販売 マフラーの製造・販売 エアコンシステムの製造・販 売 自動車用熱交換器の製造・販 売 特殊精密合成樹脂製品,自動 車用部品の製造・販売 コーエアコンの製造 Bankok Amphur Muang Chonburi マレーシ Pasir Gudang Johor ア Shah Alam, Selangor Darul Ehsan Calsonic Sales(Thailand)Co.,Lt d Siam Calsonic Co.,Ltd Calsonic Sll Compressors Sdn. Bhd PATCO Malaysia Bhd. 1999 自動車部品の販売・サービス 1996 ラジエーター・マフラーの製 造 カーエアコン用コンプレッ サーの製造・販売 2000 1986 カーエアコンの製造・販売 (4)-1 中国について ①中国における事業活動の全体管理体制 現在、カルソニックカンセイは中国では現地法人を 5 社設立している。その内一 つが今年(2006 年)から稼働する現地法人(上海)が地域統括会社であり、そこが 4 社をコントロールする形となる。 この地域統括会社がコントロール下におく 4 社のうちの1社は上海に本社があり、 その管轄下に3つの製造主体の現地法人がある。これまで上海に置かれていた現地 法人が本社的な機能を有していたが、今年に統括会社が設立されたため、そこが上 海も統括することとなった。したがって、中国における現地法人は二重の管理形態 となる。 日本本社から の 100%出資 地域統括会社(上海) 地域統括会社か らの 100%出資 現地法人 生産会社(上海) 現地法人 現地法人 ②地域統括会社の設立の背景 カルソニックカンセイ社の中国展開は、基本的には日産自動車が中国展開したた めに進出したとのが理由であり、いわば受動的なものであった。しかしそれと平行 して、以前よりコストが安い地域として中国進出を検討していた。その結果、中国 62 ではカントリーリスクが高いということから、実際の状況を確かめるために試行的 にまず1社現地法人を設立したという経緯がある。しかし、中国は広く、地域によ って異なっているため、結局独立した会社をいくつも中国各地につくるということ となった。その結果、日本からそれぞれをコントロールすることが難しくなったた め、統括会社を設立したものである。 また、中国は各地方毎による地域性が強く、総務、法務について面倒な状況が生 じていた。こうしたことから中国全体を一つの統括会社によってコントロールする こととし、そのために地域統括会社をが必要になったことも大きな要因である。 現在、地域統括会社の設立とあわせて中国の現地法人を再編成しているところで ある。ただし、そこから先、実際にどのように展開していくかは未定の部分が多い。 ③設立形態、出資関係 出資形態等についてみると、地域統括会社の資本は 100%日本の本社からの出資 である。また傘下の4法人は統括会社からの出資とする予定となっている。 ④地域統括会社の機能 今回設立した地域統括会社の機能は次のとおりである。 ・経営企画 ・財務 ・総務・人事の一部 ・情報収集 ・営業(マーケティング) ・生産管理の一部(企画) ・購買 ・物流・保険の一部 但し、これらの機能については、日本本国の本社との関係が強く、営業や購買は 日本国内で納入先と交渉し、現地をサポートする形となっていて、日本本社の担当 部門が中心となることには変わりない。 購買についても、サプライヤーがグローバルに展開しているために世界中に部品 を供給することが必要であるため、全体の調整は日本本国の部門で行い、ローカル (中国)で購入しローカル(中国)で使う部品は中国における地域統括会社が行う という分担となっている。 なお、研究開発機能は中国の中の別会社として持つことを考えている。現在のと ころは上海の生産本部の中に分公司としてテクニカルセンターと工場があり、そこ で生産と開発を行っている。研究開発の中心は日本国内であり、ここで先行開発し 63 たものを現地に適用するのが基本方針となっている。 また、中国現地においては、まだ研究開発のための人材は整っていない。将来的 なねらいとしては、研究開発の何割かは中国にシフトすることを想定している。 ⑤財務機能について 財務はグローバル化しているため、全社的な視点からの取り組みは日本国内の本 社部門が行うこととしている。ただ、中国では財務活動が自由にできないため、地 域統括会社が中心になって財務活動を行うことを想定している。 この新しい統括会社は、ここから海外にも出資することができる資格を有するも のであり、実際の事業展開としてそうした可能性を含んでいる。しかし、具体的な 姿はまだ描けていない。中国においては、地域による法制度の運用方針が明らかに おかしいものがあり、どこまで財務活動ができるかは未定のところが多い。 資金調達についてみると、中国における事業に関する資金調達は基本的に日本本 国から供給しており、今後もその方針は変わらないと考えられる。但し現地の日系 の銀行からは借り入れをしている。また短期の資金については、現地のローカル銀 行からも短期借り入れを行っている。地域統括会社はこうした資金調達をスムーズ にする役割も負っている。 中国の事業が拡大すると、将来的には現地において内部留保が生まれてくること が期待される。基本は中国で再投資する方針であるが、そこでキャッシュをどう傘 下の現地法人にまわしていくかが課題となる。しかし、キャッシュを傘下企業で回 すことはそのままではできないため、地域統括会社に期待が掛かっている。中国で は現地法人の資金を移転するためには、 「財務公司」を設立しなければならないこと となっているが、法律的な詳しいことはこれから調べる段階でよくわかっていない。 法律では否定されていないが、妨害はいくらでもできる。実態は大丈夫のようであ る。 ⑥地域統括会社の立地選定要因~特に優遇措置について~ 地域統括会社が置かれた上海は情報が多く、しかも情報が早いところである。地 域統括会社の機能として副次的金融センターとしての位置づけも意識していたこと から、上海が選定された。 また、他の都市との比較でみると、北京は上海における浦東地区や深センにある ような特別区のようなものがなく、優遇措置がない。こうしたことも上海に決めた 理由である。 なお、中国の場合は、実際に適用される優遇措置は進出の再の交渉によって決ま る。但し、地元の政府は優遇措置を適用しても、税制面でそれを否定するようなこ とも行うので、予断は許さない。例えば、中国の税制では企業の所得税は、はじめ 64 の 2 年間は無税であり、これに続く3年間は本来の税率の 50%となっている。しか し、誘致する側の地域としてはこうした優遇措置の上にさらに上乗せ分があり、主 としてこれが交渉ごととなる。 とはいえ、中国においては法律や通達は 1 年の間に2回くらい変わることが多い。 そのため、法律では許されるが実際の許可は得られないなど、さまざま問題が生じ ている。優遇措置についても、実効を得るまでには非常な苦労がある。 ⑦社会保障負担などについて 進出先国・地域における社会保障負担は制度として決まってることであり、日本 でも負担しているものである。中国の場合、企業の社会保障負担は率からすると高 いが、社会保障負担は中国進出の際の前提条件であり、しょうがないと考えている。 また現状では、労務費はまだそれほど高くなっていないことから、競争力を阻害す るようなこともほとんどない。 しかし、いろいろな名目で税金、負担金、寄付金のような負担がたくさんある。 これらは一つ一つは大きな額というわけではないが、面倒なことではある。こうし た負担は実態がわからないことが多く、中国人からウソをつかれている場合もある。 ウソも次第に高度化しているようである。 ⑧その他 ビジネス活動の本拠を上海から広州に移転しようとしたに、州政府や市政府から 仕事をとめられてしまうなどの妨害を受けたことがある。州や都市をまたぐ現地法 人の移転は非常に抵抗が大きい。 こうしたことから、中国では自由な立地選定、自由な企業活動ができない状況に ある。特に事業の再編によってその場所を撤退しようとする場合は、非常に厄介な 問題となっている。そのため、中国に多くの現地法人を設立したあと、事業を再編 しようとするのは困難である。 法律の運用については、手続きの簡素化、スピード化がなされるのならば現行の 法制の下でもよい。しかし、許認可権における透明性に大きな問題がある。瑣末な ことも多いが、積み重なると問題が大きい。こういうビジネス環境のすり合わせが 非常に重要である。 (4)-2 タイ、マレーシアについて ①アセアンにおける事業展開と地域統括会社の設立状況 アセアン地域における地域統括会社とはタイに設立されている。その背景は次の とおりである。 65 これまでアセアン諸国にはマレーシア 2 社、タイ 4 社、インドネシア 1 社の計 7 社の現地法人があった。これらの現地法人は、納入先である自動車メーカーのアジ ア進出の動向に沿って展開したものであり、各地の現地法人がそれぞれ個別に自動 車メーカーへの対応を行ってきた。 しかし、自動車メーカーのアセアン展開の動きが拡大してきたことから、現地法 人が各個ばらばらに対応していたのでは限界に達し、経営効率や生産効率に影響が 出てきた。そのために、2005 年 10 月、タイの 4 社のうち独資で進出した 3 者を統 合し、地域統括会社という位置づけをにした。 統括会社を設立したもう一つの大きな背景は、生産技術と納入形態の変化である。 それはモジュール生産の浸透である。モジュール生産は部品を組み立てた形で納入 する形態であり、様々な部品をモジュールに組み立てるために、調達などが非常に 重要となる。これをタイで行うために地域統括会社を設立したという事情がある。 現在、地域統括会社の設立とあわせて2つの工場を閉鎖し、新しい工場を作ってそ こに集中するという採算の再編成も進めているところである。 ②対象とするエリア タイの統括会社である CKT 社はマレーシアにある現地法人は統括していない。そ れは、マレーシアでは国民車を製造しているプロトン社を顧客とした仕事を行って いるため、事業が独立した形となているためである。しかしながら、現在は過渡期 ということができ、今後はマレーシアにおける日産の仕事が増えてくることが考え られる。そうした事業はタイの統括会社でコントロールするようになっている。 また、インドネシアの事業についてもタイの統括会社でコントロールする方向に ある。 ③地域統括会社の機能 地域統括会社である CKT 社の機能は次のとおりである。 ・財務 ・総務 ・人事 ・情報収集 ・マーケティング ・生産 ・購買 ・物流 このように、研究開発機能は持たないが、それを除くと、本社として全ての機能 66 を有しているといえる。会社を統合したことによって充実した機能を持つことがで きた。 タイの統括会社は同時に生産会社でもあり、生産と購買に機能の重点がある。地 域統括会社として規模が大きくなったため、現地調達の拡大、グローバル調達の拡 大が用意となった。 また、現地法人の統合によって生産と購買の機能が強化されたことにより、海上 保険などについても交渉力が高まった。さらにこうしたことを通じて、最適生産に むけた立地戦略の展開が容易になった。例えば、開発機能は今後も日本で保持する こととしているが、最近は開発の下請けを開発委託などの形で第 3 国で進める動き がある。マレーシアでも一部開発委託を行っているがこうしたことが統括会社でも コントロールできることになる。 なお、現地法人の金融については、現状では日本本国の本社で銀行などと交渉し て借り入れ、本社を通じてアセアンの法人に供給している。また利益については、 現地で再投資していく方向にある。 統括会社は日本人が中心であるが、次第に減らし、労務費負担の削減を目指して いる。 ④背景にある現地の優遇措置などの制度 同社の事業所展開は客先である自動車会社のニーズへの対応が第一であり、必要 なところには出なければならない。しかし、投資に対する優遇措置は立地先を決め る再の大きなファクターとなっている。 例えばタイについてみると、タイ投資委員会(BOI)があり、法人税の免除、設 備に関する輸入関税の軽減、及びタイ以外から部品調達した製造品を輸出した場合 における輸入関税の免除などの優遇を管轄している。カルソニックカンセイ社でも こうした利用可能な優遇措置は最大限に使っており、特に法人税の免除は大きなメ リットとなっている。 また、タイでは外国資本 100%であっても土地所有が可能であり、ロイヤリティ や配当金についても課税されないなど、さまざまな投資奨励政策による優遇措置が ある。こうしたメリットも享受している。 但し、免税といった優遇措置や関税の戻しについては、窓口の担当者の話と実際 の運用とが異なる場合がある。タイの現地法人の合併によって統括会社を設立した ことで交渉が振り出しに戻ってしまったものもある。 なお、タイでは技能者が不足していることが問題である。タイでは投資奨励はし ているが、人を雇用する場合の補助金が出るというようなことはない。 67 参考:タイ投資委員会(BOI)について タイ投資委員会(BOI)は、1977年にタイへの投資促進のため設立された政府機 関で、首相が委員長、主要経済閣僚がメンバーとり、投資政策の策定や重要投資案件の 許可を担っている。 投資政策としては、投資奨励法に基づく奨励業種、条件の決定、変更。投資の基本的な 条件、特典の決定、変更などを行っている。 【海外からの投資奨励の対象となるもの】 ・タイの産業の技術力を高めるもの ・首都圏以外の地方の経済発展に資するもの ・基本的な裾野産業 ・外貨を取得するもの ・インフラの発展に資し、天然資源を保存するもの ・環境問題を減少させるもの なお、タイでは、外国企業であっても製造業であればBOIの認定を受けなくとも事業 を行うことはできる。サービス業も20%以上の付加価値を有するという特定条件の下 一部許可されている。 【投資優遇措置の例】 投資奨励地域は投資受け入れ先の工業団地のある地区の重要度などによって3つ のゾーンに分かれている。 第 1 ゾーン ・法人所得税の3年間の免除(工業団地内) ・輸入関税が10%以上の機械・設備の輸入関税50%の免除 ・輸出用生産に使用される原材料の輸入関税1年間の免除 第2ゾーン ・法人所得税の5年間の免除(工業団地内) ・輸入関税の免除は第 1 ゾーンと同じ 第3ゾーン ・法人所得税の8年間の免除(工業団地内) ・上記8年間の免除期間経過後さらに5年間50%免除。 ・輸送、電力、水道の経費の2倍を10年間控除 ・機械・設備の輸入関税全額免除 ・輸出用生産に使用される原材料の輸入関税5年間の免除 マレーシアもマレーシア工業開発庁(MIDA)があり、タイと同様の優遇措置がある。 カルソニックカンセイ社もそれらのメリットをフルに享受している。特にマレーシア の場合はルックイースト政策により日系メーカーに対して好意的である。 また、2005 年 12 月に日・マレーシア経済連携協定が結ばれることによって、輸入 関税引き下げ効果(マレーシアへの輸入関税が0~5%になった)も出てきて、本来 の姿になったということができる。 68 その他、マレー法はイギリスに準じた法律として整備されていることも、リスク を減じる要素となっている。自動車用コンプレッサーなど品目によってはマレーシ アが同社の世界への製品供給拠点になってきているが、その背景には以上のような 法制度がある。 ⑤社会保障制度及び税制 タイもマレーシアも、給与ベースが低いため、社会保障制度による企業負担は特 に問題にはならない。少なくとも財務面におけるファクターにはなっていない。ま た、社会保障負担についてタイとマレーシアをみると、タイは特に問題はない。マ レーシアも問題はなく、評価することができる。 次に、税制などによる外資優遇措置の評価についてタイとマレーシアを比較する と、タイはどちらともいえないという評価であるが、がマレーシアは評価できる。 特にマレーシアは関税引き下げなどについても経過措置を早くクリアしたことが評 価される大きな理由となっている。これに対してタイの場合は税務的にローカルな 面があることがマイナスになっている。また、現地法人の再編によって株式が動く ことになるが、それに対する制約のあることも問題である。 なお、タイもマレーシアも、日本から設備を送る際に、中古設備については制約 があり、通関に時間がかかるなど、実質的に運ぶことができない。こうした中古設 備の移動に関する制約を解除しないと、アセアンの中での再編成は問題が生じる。 69 (5)アルプス電気株式会社 ①世界及びアジア・中国における事業展開 アルプス電気(株)は家電、音響機器、パソコンなど情報機器のデバイスなど様々 な製品を製造している。また、子会社のアルパインではカーナビゲーション機器を 製造している。アルプス電気は早くから世界規模の適地生産戦略を展開しており、 日本のほか、アメリカ、ヨーロッパ、アセアン、中国などに生産拠点を設けている。 中国には特に力を入れており、1990 年代初期から日系家電メーカーに部品を供給 するために進出を開始した。まず大連、上海、寧波に音響機器などの電気・電子部 品の製造を開始した。現在では、生産を主とした現地法人を多数設立し、生産拠点 の数は 6 箇所を数えるほか、上海に設計部門、香港に資材調達と生産管理の拠点や 輸入拠点を設けている。アルパインも中国にカーナビゲーションの開発と製造の拠 点を設けている。 ⅱ)中国方面の地域統括会社 アルプス電気(株)の中国における統括会社は 1995 年に北京に設立されたアルパ イン中国である。このほか、資材調達拠点として上海に拠点がある。ただし物流面 のコントロールは日本に子会社として設立されたアルプス物流株式会社が世界規模 で行っている。 北京に設置された統括会社はいわゆる傘型会社(投資公司、持ち株会社)である。 これは 1991 年に中国において外資系企業が設立することを認められたものである。 当初は個別のケースごとに認められていたものであるが、1995 年には外国投資を促 進するため、持ち株会社設立に関する暫行規定が公布実施された。アルプス電気の 統括会社設立はこれにあわせて設立された。 機能としては、新規投資、中国に展開している子会社の財務面の支援およびその 他の各種支援などである。 国 都市名 韓国 Jangduk-Dong 上海市 中国 北京市 上海市 現地法人名 Alps Electric Korea Co., Ltd 阿爾卑斯通信器件技術 (上海)(有) 阿爾卑斯(中国)(有) 阿爾卑斯(上海)国際貿 易(有) 70 設立年 事業 1987 電子部品の製造・販売 2002 通信デバイスの設計 1995 中国事業の統括会社 2001 電子部品の輸入・販売 大連市 大連阿爾卑斯電子(有) 1994 電子部品の製造・販売 寧波市 寧波阿爾卑斯電子(有) 1993 電子部品の製造・販売 上海市 上海阿爾卑斯電子(有) 1994 電子部品の製造・販売 天津市 天津阿爾卑斯電子(有) 1995 電子部品の製造・販売 無錫市 無錫阿爾卑斯電子(有) 1995 電子部品の製造・販売 香港 Kowloon 台湾 台北市 Alps Electronics Hong Kong Ltd. 電子部品の販売 Alps Asia Pte. Ltd. 1995 財務管理 1986 電子部品の販売 1999 保険会社 1989 電子部品の製造・販売 Alps Insurance Pte. Ltd. マ レ ー シ Negeri Sembilan ア Darul Khusus の調達 1989 Ltd. ール 電子部品の生産管理、資材 台湾阿爾卑斯(股) Alps Electric (S)Pte. シンガポ 1991 Alps Electric (Malaysia) Sdn. Bhd. 参考:傘型会社について 傘型会社は次のような特徴を有している。 1)投資機能を活かして経営資源の有効活用ができる。 2)傘下企業グループの中で設備や資材の現地調達など経営ノウハウ の共有ができ、効率的なグループ経営が可能となる。 3)中国側の承認を得ることを条件に、グループ内の資金調整や財務 支援が可能となる。 4)税金面のメリットがある。たとえば、子会社の配当は非課税とな る。また、子会社が利益を再投資する場合、納付した所得税はの 40%が還付される。 5)傘型会社の投資先は中国国内に限定されている。 6)3000 万ドルという多額の資本金が求められる。 7)従来は日本本国の親会社の製品の直接輸入販売は認められていな かったが、こうした規制は緩和された。 71