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221KB - JICA
ISSN 1347-9156
JBICI
Working Paper
日本企業からみたロシアの W T O 加盟問題
開発金融研究所
主任研究員
NO. 12
2003 年 9 月
国際協力銀行 開発金融研究所
JBIC Institute (JBICI)
井本友文
本 Working Paper は、当研究所における調査研究の
成果を内部の執 務 参 考 に 供 す る と と も に 一 般 の
方々にも紹介するために刊行するもので、本書の内
容は国際協力銀行の公式見解ではありません。
開発金融研究所
日本企業からみたロシアの W T O 加盟問題
2003 年 9 月
井本 友文
国際協力銀行 開発金融研究所
〒100―8144 東京都千代田区大手町一丁目 4 番 1 号
Tel: 03-5218-9720
Fax: 03-5218-9846
E-mail: [email protected]
日本企業からみたロシアの WTO 加盟問題
はじめに
第1章 日ロの貿易・投資関係
1.貿易特化係数でみた日ロの貿易
2.日本の対ロシア直接投資
3.日本企業からみた対ロシア貿易・投資の問題点
第2章 ロシアの WTO へのアクセス
1.WTO 協定の概要
2.WTO の原則
3.投資に関する規定
4.ロシアの WTO 加盟手続きの状況
5.ロシア産業界の声
6.日本企業の声
第3章
ケーススタディ‐自動車産業‐
1.ロシアの乗用車市場規模
2.関税および海外直接投資
3.日ロの自動車業界のスタンス
おわりに
1
はじめに
自由貿易に委ねていれば、各国が比較優位を持った産業に特化するようにな
り、その結果世界全体の資源配分の効率性が保証されるだけでなく、各国も鎖
国状態よりは高い経済厚生を実現することができる。これはリカード以来の自
由貿易論の立場であり、WTO でもこの理念は貫かれている。
海外直接投資に関しては、外国企業の参入が一時的または長期的に制限され
ると、自国企業は有利なポジションを築くことができる。しかし、保護政策が時
限的であることが重要な意味を持っている。これは、いずれ保護政策が撤廃さ
れるであろうことを想定し、自国企業は速いスピードで設備投資を行おうとす
るからである。もし仮に保護政策が長期化するとわかっていれば、無理をしてま
で速いスピードで資本蓄積をしようとする理由はない。
戦後日本の保護政策の重要な点は、それが時限的であったことといわれる1。
GATT の正規メンバーとなるためには、輸入数量制限を撤廃しなくてはならなか
ったからで、このような保護撤廃路線が政府の既定のものであったため、民間
企業の側では保護の長期化を期待することは難しかった。
本稿は、既に WTO への加盟手続きに入っているロシアの交渉の状況および保
護撤廃後をにらんで動きが出ているロシアの自動車産業を、日本企業の視点か
ら考察したものである。2003 年 1 月の小泉首相訪ロの際には、日本はロシアの
WTO 加盟に必要となる知識および経験の移転の可能性を検討することとして
おり、日本政府および本邦企業の期待は大きいからである。
なお、WTO ではモノの貿易のみにとどまらず、農業への補助金、サービス業の
貿易・投資、製造業の直接投資、さらには環境問題、労働問題などへと視野が
拡大してきている。ロシアの WTO 加盟交渉においても、農業補助金の問題、エ
ネルギーの内外価格差の問題2、さらに金融・保険などのサービス分野の開放問
題が大きな争点となっているが、本稿は「モノの貿易に関する」WTO の規定と日
ロの貿易・投資との関連に限定している。
1伊藤元重『戦略的通商政策と通商問題』岩井克人、伊藤元重編「現代の経済理論」東京大
学出版会、1994 年 3 月、P143 など。
直接 WTO 協定に触れるものではないが、ロシアの電力およびガスの国内価格は OECD
平均の 5 分の1以下であり、ロシア国内での肥料、鉄鋼やアルミニウムなどの生産は他国
に比べて有利である。この内外価格差問題に関しては、Specific Commitment として加盟
条件に加えられている(ロシア政府は難色を示している)
。
2
2
第1章
日ロの貿易・投資関係
1.貿易特化係数でみた日ロの貿易
日本とロシアとの貿易関係は特化が顕著である。
日本からの輸出は、重電関連機器(ボイラー、タービン、圧縮機など)、電子
機器(半導体、集積回路などの電子機器および電子製品)、機械類(自動車、家
電、工作機械、医療機器など)および鋼管などが多い。2002 年の標準国際貿易
分類(SITC3)統計では、SITC の 7 類(鉄鋼製品など)、8 類(機械類など)お
よび 9 類(電子機器など)の工業製品輸出が 1,046 億円で、ロシア向け輸出総
額 1,182 億円の約 9 割を占めている。
他方、日本は、ロシアから白金、ニッケル、アルミニウム、石炭、原油など
の貴金属、非鉄金属、希少金属およびエネルギー資源(SITC2 類と 7 類)、魚介
類などの水産食品(同0類)、農産品(同 1 類)、および木材、合板(同4類)
などを輸入している。農林水産資源や鉱物資源の輸入が多く、同年の輸入額は
3,982 億円で、ロシアからの輸入総額 4,098 億円の 97%を占めている。
このように、日本からは工業製品が輸出され、ロシアからは農林水産資源、
エネルギー、鉱物資源などが輸入される垂直的な関係が続いている。これを貿
易の特化係数4でみると、図表1のとおりである。SITC1桁分類の第 3 類と第 6
類を除くと、その他は輸出または輸入に偏った関係であることがわかる。そし
て、1995 年から 2002 年にかけての 7 年間、特化係数の変化も小さい。
なお、3 類と 6 類では、2002 年の貿易量(輸出と輸入の合計)がそれぞれ 52
億円および 6 億円と金額では小さいが、輸出額と輸入額がほぼ均衡している。
3 類関連では、日本から農薬(殺虫剤、除草剤など)、化粧品、医薬品および
ゴム、セメントへの添加剤、可塑剤などが輸出され、ロシアからは肥料、化粧
品材料、香料および同じくゴム、セメントの添加剤、可塑剤などが日本に入っ
てきている。すなわち、農業、化粧品、ゴム・セメント工業での相互関係が深
いことが窺える。
また、6 類(繊維製品5が多く含まれる)の取引額はさらに小さく、輸出・輸
入合計で 6 億円であるが、なかでも、日ロ間でカーテン、ベッド用品、繊維袋
Standard International Trade Classification の略。統計は、財務省編「日本貿易月報」
日本関税協会、2003 年4月による。
4 特化係数は各年の、
{
(日本の輸出―日本の輸入)/(同輸出入の合計)}
。プラス1に近い
ほど、日本の輸出特化。マイナス1に近いほどロシアの輸出特化。ゼロに近いほど両国間
で貿易が均衡しており、いわゆる水平貿易に近くなる。
5繊維(天然・合成繊維の「糸」
)は SITC5 類に多く分類される。2002 年、日本の輸出 6 億
円に対してロシアからの輸入は 3 億円である。
3
3
(コンテナ)などが相互にほぼ同額の輸出入(輸出入合計 1,800 万円程度)が
あり、繊維製品に関しては 7 年間での貿易の水平化が顕著であった。
図表1 日ロの貿易特化係数
1.00
0.50
0.00
0類
1類
2類
3類
4類
5類
6類
7類
8類
9類
-0.50
-1.00
1995年
-1.50
2002年
(出所)財務省編「日本貿易月報」日本関税協会、2003 年4月より作成。
2.日本の対ロシア直接投資
ロシアの他国からの直接投資受入額は、1999 年末までの累計額が 199 億ドル
(人口一人当たり 135 ドル)で、これは同じく体制移行国のハンガリーおよび
ポーランドの実績、それぞれ 198 億ドル(同 1,967 ドル)、204 億ドル(同 527
ドル)に比べて小さい6。また、2001 年 1 月までの直接投資受入累計額の国別の
シェアは、米国が 41%、ドイツ 9%、オランダ 9%、英国 7%、スウェーデン 5%
の順で、その後に日本がフランスと同じく 2%で続いている7。
6 Paul G. Hare, Russia and the world Trade Organization, Working Paper Series,
RECEP, July 2002, P.12.
7 A.M.ウスペンスキー『ロシアの証券市場と企業投資の現状』
「調査月報」ロシア東欧貿易
会、2002 年 2 月、P.49(出典はロシア国家統計委員会)
。なお、この統計にはサハリン沖で
4
日本企業のロシア向け直接投資件数は、1991 年に 34 件(うちモスクワ 28 件)
とピークを迎えたが、2000 年には 3 件に減っている。1989 年から 2000 年まで
の日系現地法人の設立数は 186 件で、2000 年末現在での稼動件数は 73 件と半
数以下に減っている8。2000 年末現在、稼動している企業数 73 件を業種別にみ
ると、小売・卸売業が 29 件、情報サービス、飲食業、ホテル、自動車修理など
のサービス業が 18 件と全体の 6 割強となっている。なお、自動車、家電、OA
機器、タイヤ、医薬品など、売れ筋の日本製品の販売子会社や代理店はほとん
どモスクワに集中している。
日本以外の国からの投資にもこの傾向があり、
「手っ取り早く、資本の回転の
速い、食品工業や商業・外食産業に集中している。これに管理9を加えると、金
額面でもシェアにおいても、鉱工業および燃料産業を超えている。」10
製造業では合計 17 社が合弁などの形態で稼動中である。
17 社の内訳は、1987 年に最初の合弁を行った Igirma-Tairiku 社をはじめ
T.M.Baikal 社(両社ともにシベリアのイルクーツク)などの木材製品関連企業
が 9 社。また、サンクトペテルブルグでデジタル電話交換機を製造する NEC
Neva 社および半導体・トランジスタを製造する Hitachi Svetrana Power
Electronics 社の電子機器 2 社。バシコルトスタンで地震計を生産する OYO-Geo
Impulse 社、イワノボ州で建設機械用部材を生産する Kraneks International
社の精密・一般機械 2 社。そのほか、金属製品製造3社、および 1999 年に米国
RJR ナビスコ社の海外部門売却を受け、JT(欧州子会社)が引き受けたタバコ
会社が稼動している。
また、過去の投資実績をみると、極東地域に漁業と水産食品加工業の 12 件の
直接投資があった。しかし、1994 年の漁獲割当制度の変更で、合弁企業への割
当保証がなくなり、すべて撤退を余儀なくされている。
の石油採掘事業(サハリンⅡプロジェクト)や旭硝子のガラス製造事業など、オランダの
子会社経由の日本企業の投資が含まれていない。逆に、統計ではオランダから直接投資の
金額が大きくなっているのはこうした背景があるものと考えられる。
8 中居孝文『日本企業の対ロシア進出状況』
「経済速報」ロシア東欧貿易会、2001 年 11 月
15 日、No.1210。
9 ロシアの統計では、
「管理」の範疇に、会計、法律等の会社(事務所)
、設計、生産技術関
連の会社(事務所)など、各種のマネジメント、コンサルタント業を入れている。
10 梅津和郎
『ロシアの WTO 加盟条件』
「名古屋学院大学論集」名古屋学院大学総合研究所、
社会科学編、Vol.38、No.2、2001 年、P73。
5
3.日本企業からみた対ロシア貿易・投資の問題点
ロシアの WTO 加盟が実現すると、関税の引下げによる貿易拡大や投資環境の
改善が期待できるので、日本企業は歓迎しており、日本政府との二国間の交渉
の行方を見守っている。しかし同時に、日・ロ貿易では関税や書類などの貿易
手続きの複雑さや、ロシアに進出した際の諸規制などの非関税障壁が多いこと
が貿易および対ロ投資に携わる実務経験者から伝えられている。また、多くの
制度が度々変わるなど、ルールの不安定性が実務上の「予見」を不可能にして
おり、対ロ商談上の大きな障害になっているといわれる。
このような実務面で日本企業が直面する問題点については、2000 年 6 月(発
表は同年 8 月)に経団連がアンケート調査を実施している(図表2)。本アンケ
ートに回答した経団連の日本ロシア経済委員会会員企業 29 社によれば、全般に、
法制度・税制の未整備についての不満が多く、
「運用基準が不明確で恣意的」
、
「当
局の指示どおり納税すると赤字になる」、「窓口が最新税法を把握していない」、
「大統領令で法制度の急変がある」、「制度の変更がたびたび起きる」などの問
題点が指摘されている。
分野別にみると、貿易では上記の税制に関連して、
「税関等の窓口ごとに解釈
が異なる」
、
「通関に時間がかかり過ぎる」、
「商品の GOST(ロシア独自の工業規
格)審査の問題点」などがあげられている。投資環境に関しては、
「外資に関す
る優遇が不足」しているうえに、
「企業財務に関するデータに信憑性がない」、
「国
際会計基準に合致していない」、
「ロシアの工業規格の国際基準との不整合」、
「通
信システムの未整備」、「不安定な電力供給」などのハードおよびソフト面の経
済インフラの問題や、その他、
「煩雑なビザ取得手続き」、
「治安の悪さ」などが
列挙されている。また、金融機関との関係は、
「外貨への換金、送金に関する中
央銀行の規制」、
「銀行取引費用」、
「ロシア企業の資金調達不足11」などがあげら
れており、今後、信頼できる金融機関との取引関係の構築にも時間がかかると
みられる。
筆者が商社やメーカーにヒアリングした際にも、税関や地方自治体などの行
政の窓口では諸規則の内容およびその度重なる改訂を把握していないロシア側
の担当者が多いことへの不満が寄せられた。
11
ロシアの銀行・企業間関係では、資金が輸出指向の資源・エネルギー産業に集中し、金
属加工業、機械産業などの国内市場指向型の産業には十分な資金が回っていない(第 3 章、
図表7および図表8参照)
。
6
図表2
ロシアとビジネスを推進する上で最も大きな障害(複数回答可)
①法制度・税制の未整備
22 社
②ロシア企業の資金不足
16 社
③法律、税制など規則の運用
12 社
④未整傭の金融・銀行制度
12 社
⑤ロシア人のビジネス感覚(市場経済)
11 社
⑥中央と地方との関係
6社
⑦旧ソ連時代の貿易債権
6社
⑧ロシアに対する日本側の理解不足
6社
⑨当局の不当な介入
5社
⑩マフィアの介入
5社
(注)アンケート調査の実施は 2000 年 6 月。
以上は日本企業からみた問題点であるが、視点を変えて、ロシア企業はどの
ような障害に直面しているのであろうか。
OECD が 2001 年に実施したロシア企業 303 社(イルクーツク、ツーラ、ウドム
ルチの地方3都市)に対するアンケート、
「どの当局(control organizations)
との関係で問題があったか」という問いに対する回答の結果は図表3のとおり
である。
ロシア国内では各種の検査が多く、アンケートでは、少なくとも月に1回の
検査をそれぞれの当局から受けることになるという。そして、ロシア企業から
は、
「企業が負う義務についての情報開示がなく」
、その結果、
「一人の意地悪な
12
検査官(a nasty inspector)が企業の運命を不幸にできる 」とさえ言われて
いる。
12
OECD, Economic Surveys-Russian Federation, OECD PUBLICATIONS Volume 2002/5,
2002.5.,p.89.
7
図表3
ロシア企業と行政当局との間の問題点
①税務署検査
31%
②消防署の検査
30%
③衛生関連当局の検査
24%
④州の貿易検査
20%
⑤問題が起きても受け付けない
19%
⑥地方当局の監督、技術検査
10%
⑦州のエネルギー検査
8%
⑧税警察(Tax Police)
8%
⑨警察支部
8%
⑩年金検査
5%
(出所)OECD, op.cit.,p.89.
8
第2章
ロシアの WTO へのアクセス
1.WTO
1.WTO 協定の概要
7 年半のウルグァイラウンド13の結果、1995 年 1 月に WTO 協定が発効、世
界貿易機関(The World Trade Organization, WTO)が国際機関14として設立さ
れた。
WTO の目的は GATT を踏襲したものであるが、サービス貿易・投資、環境、
世界の資源利用、開発途上国の開発ニーズに応じた貿易量の確保、などがウル
グァイラウンドの議論を踏まえて追加されている。そして、従来の GATT
(General Agreement on Tariffs and Trade, 1947 年 10 月、GATT1947)の協
定は「GATT1994」として WTO 設立協定の附属書の一部を構成する形式をとっ
ている。その附属書は四つに大きく分けられており、紛争解決に係る規則及び
手続きに関する了解(附属書2)、貿易政策検討制度(レヴュー・メカニズム)
(附属書3)、複数国間貿易協定(附属書4)の三つと、物品の貿易に関する多
角的貿易協定(附属書1‐A)、サービスの貿易に関する一般協定(General
Agreement on Trade in Services, GATS)(附属書1‐B)および知的所有権の
貿 易 関 連 の 側 面 に 関 す る 協 定 ( Agreement on Trade-Related Aspects of
(附属書1‐C)の3協定が附属書1を構
Intellectual Property Rights, TRIPS)
成している。
なお、物品の貿易に関する多角的貿易協定(附属書 1‐A)のなかには、
「GATT1994」のみならず、
「農業に関する協定」、
「貿易に関連する投資措置に
関する協定(Trade Related Investment Measures, TRIM)」、
「セーフガードに
関する協定」などが含まれている。
本稿で焦点を当てる日本企業の対ロシア向け貿易と投資の観点からは、貿易
関税の問題と日本企業の対ロシア向け直接投資を規定する GATT1994 および
TRIM 協定が重要である。
ウルグァイラウンドの成果の一例としては、1995 年から 99 年の間で鉱工業品の関税率
を少なくとも平均 33%引き下げることとなり、日本の平均関税率は 1.5%、米国および EU
はともに 3.6%程度になったこと、また、サービス業の海外直接投資を協定の対象とするこ
とができたことなど、新たな分野を切り開いていることがあげられる(参考:中村洋一編
著「WTO が貿易を変える」東洋経済新報社、1994 年 9 月、P17 など)
。
14 「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO 協定本体)
」第 4 条にて最高意思決定
機関は加盟国の「閣僚会議」とされる。その下に実質的な問題処理および紛争処理を担当
する「一般理事会」が設けられ、さらにその下には、「物品の貿易に関する理事会」、
「サー
ビス貿易に関する理事会」および「貿易関連知的財産権に関する理事会」の3理事会が設
置されている。
13
9
ただし、TRIM では海外直接投資の保護(協定)15にまで踏み込んだものでは
なく、あくまでも「貿易に関連する投資措置」として禁止事項をリストアップ
したものであることを念頭に置かなくてはならない。すなわち、投資の受入国
がローカルコンテンツを要求すること、為替規制を通じた輸入制限を行うこと、
輸出・国内販売の制限や、輸出入均衡させるように要求することなどの問題の
ある措置の一部を列挙し、禁止する形になっている。
2.WTO
2.WTO の原則
WTO の原則としては、無差別の原則が重要である。その一つは、貿易相手国
間では差別しないという「最恵国待遇(Most-Favored-Nation Treatment)」で
ある。たとえば、二国間交渉の結果により関税の引下げを約束した場合であっ
ても、その引き下げられた税率は交渉相手国のみならず、他の WTO 加盟国にも
適用されなくてはならないという、GATT1994 の第 1 条に規定される基本的な
原則である。
無差別原則の二つ目は、「内国民待遇(National Treatment)」である。物の
貿易における内国民待遇は、関税線を越えて国内市場に入った産品については、
国内産の同種の産品と差別してはならないというもので、GATT1994 第 3 条に
規定されている。
ただし、新たに加えられることになったサービスの貿易に関する一般協定で
は、サービス産業全体を一般的に規定するものではなく、参加国が特定のサー
ビス分野毎に市場アクセス、内国民待遇の自由化措置の内容を約束表に記載す
ることになっている。そして、約束表に定める条件および制限に従い、他国の
サービスの提供者に対し、自国のサービスおよびサービスの提供者に与える待
遇よりも不利な待遇を与えることを禁止する旨を約束することになっている。
このように、モノとは違って、サービスに関するものや、TRIM にあるように
直接投資に関しては、個々の分野や措置を対象とした限定的な規律となってい
る。
無差別と並んで重要な原則である数量制限は、一般的に廃止することが
GATT1994 の第 11 条に定められている。しかし、この点でもサービスについて
は、モノとは違い、投資を受け入れる国が、規制する事業所や業者の数を量的
規制措置として約束表に記載し、それ以外の分野での量的規制ができないとい
う規定の方法をとっている。
15
日・ロ間には、投資保護協定が締結されている(第 3 章参照)
。
10
3.投資に関する規定
ウルグァイラウンドが新規に海外直接投資に関する TRIM および GATS にお
けるサービス業の直接投資16の分野を切り開いたが、今後の継続交渉事項が多く
残されており、新ラウンド17でのさらなる進展が期待される。
TRIM に関する交渉での各国の立場は、大別して資本輸出国の観点から厳格
な投資規律の実現を目指す先進国と、開発政策の自由を確保すべく、投資ルー
ルの策定には反対しないものの、緩やかな規律を望む開発途上国とに分かれた。
日本、米国、EC は協定には幅広い投資関連事項を含むべきとの立場をとったが、
これに対し、インド、エジプト、フィリピンなどからは反対が多く交渉は難航
したようである。
その結果、TRIM 協定では基本的には GATT1994 の第 3 条(内国民待遇)と
第 11 条(数量制限の禁止)の解釈を明確化したものにとどまった。協定の概要
をみると、規律対象は「物品の貿易に関する投資措置(TRIM)」に限るとされ、
WTO 加盟国は GATT1994 第 3 条及び第 11 条に違反するいかなる TRIM もと
ってはならないと規定された。そして、禁止の例示項目としては、①ローカル・
コンテント要求、②輸出入均衡要求、③輸入制限、④輸出制限、⑤為替制限を
通じた貿易制限の 5 項目が明記された。
なお、TRIM を WTO 物品貿易理事会に通報することが義務づけられ、WTO
協定発効後、先進国は 2 年以内、途上国は 5 年以内、後発途上国は 7 年以内の
経過期間中に撤廃しなければならない。
4.ロシアの WTO 加盟手続きの状況
WTO への加盟手順は、①加盟申請、②一般理事会の指示による作業部会の設
置、③加盟交渉、④作業部会による加盟協定文書の採択、⑤閣僚理事会または
一般理事会による加盟承認、この順に手続きを踏んでいき、最後には加盟申請
国による批准、そして WTO 事務局が申請国から協定の受諾通知書を受領して
30 日後に発効する。
ロシアの加盟に関する作業部会は 1993 年 6 月に設置されており、2003 年 7
月までに 20 回開催された。すなわち、現在は③の加盟交渉の段階であり、多国
間交渉と関心国との二国間交渉が行われている。
16
GATS ではサービス産業における直接投資を新たに含めることとなったので、この点は
GATS がモノの分野よりも先行していると評価されている。阿部克則『貿易と投資』小野彰
編著「転換期のWTO」東洋経済新報社、2003 年 3 月、P.121。
17 第 4 回閣僚会議(2001 年 11 月、ドーハにて開催)にちなみ、Doha Development Round
とも称される。
11
一方、ロシア国内では、貿易関連法を WTO 協定に整合させる作業が進められ
ているわけであるが、
「輸出入許可に関する法律」、
「関税法」、
「基準・認証、衛
生植物検疫に関する法律」、「外貨管理法」、「通関に関する法律」、「外国貿易活
動の国家規則について」など、2003 年内には 20 の法案を修正・承認しなけれ
ばならない。少なくともロシア政府が期待したほどには議会での審議が順調に
進んでいない模様である18。
関税交渉は、おもに二国間で進められ、関税交渉の結果は、合計約 11,000 品
目の物品について WTO 加盟後に約束する輸入関税の上限(譲許税率)を列記し
た関税譲許表にまとめられる。現在、約 1,000 品目を残すのみとなっており、
交渉参加国全体との間で約9割の品目について合意済みということになる。
日本は 1998 年 3 月に欧米に先駆けて交渉を開始している。日本政府は、経団
連や個々の企業から多岐にわたる交渉分野での意見を聴取し、これらの意見を
交渉に反映させている。たとえば、2003 年7月に行われた日・ロの二国間協議
では、日本側から、モノの分野では、自動車(多くの時間が割かれた)、化学品、
電気・電子機器、タイヤ関税など(GATT1994 関連)、サービス分野ではコンピ
ューター・サービス、金融、流通、観光および電気通信など幅広い分野(GATS
関連)について問題提起がなされている。
また、同年同月の作業部会(多国間協議)では、知的財産権の確保(TRIPS
関連)、農業補助金、エネルギーの内外価格差問題、輸出代金のルーブルへの強
制交換制度19の撤廃問題、さらに TBT(Technical Barrier to Trade、非関税障
壁)などの分野で貿易・投資の拡大に向かった枠組作りが協議されている。
上記のロシア国内法の整備とともに、とくに経済貿易発展省が WTO 加盟交渉
の細部についてロシア産業界との調整を進めているが、推進派の政府関係者と
保護政策の引き伸ばしを求める産業界との調整は途上である。現在のロシア政
府は、1998 年に起きた、財政危機、国債価格の暴落、そして通貨危機という一
連の苦い経験を克服したばかりであり、民間の活力に期待しつつ財政負担を少
なくする政策を採っている。そのため、たとえば第 3 章で紹介する自動車産業
の構造改革計画においても、産業界が試算する所要資金 400 億ドル以上に対し
て、政府からの助成予算が 200 億ドル程度と約半分しかカバーしていないよう
に、産業界には十分の「アメ」を見せることができないようである。したがっ
て、輸入関税による保護を求める産業界との調整を行いつつも、WTO 加盟交渉
の場でも、具体的な交渉完了の期日を定めず、ロシアで生産されるものについ
18金野雄五『ロシアの
「調査月報」ロシア東欧貿易会、2002
WTO 加盟交渉の現状と展望』
年10 月、P.7。
輸出により得た外貨の一定比率(従来の 50%が、2003 年 7 月から 25%に緩和された)
を強制的にルーブルに交換させる制度。
19
12
ては3∼7年の経過期間を設けること、譲許税率が現行税率より下がらないよ
うにすること、などのスタンスを採らざるを得ない。このために、加盟交渉の
進捗のペースは速くならないとみられている20。
なお、ロシアはベラルーシや中央アジア諸国などの旧ソ連圏の国々(CIS 諸
国)のいくつかとはそれぞれ二国間の関税同盟を結んでいるが、日本や欧米と
は二国間の関税同盟や自由貿易協定(Free Trade Agreement, FTA21)を結ぶ方
向にはなく、現状では WTO や APEC などの多国間協議の場を通じた貿易・投
資の自由化政策を進める方向にある。
5.ロシア産業界の声
ロシアの産業界の WTO 加盟に関する意見については、ロシア商品生産者同盟
がアンケート調査を行っている。アンケートに回答した 506 社のうち 364 社
(72%)が 2006 年以降の加盟を支持、2004 年までの早期加盟支持が 80 社(16%)
であった22。このアンケートからも推察できるが、ロシアの産業界には推進派が
少なく、多くは加盟に慎重な姿勢をとっている。一般的にいえば、ロシアの資
源・エネルギー関連業界は輸出による収益を後ろ盾に金融界との関係も深いが、
他方、多くの製造業は国際競争力に欠け、設備投資のための資金調達も容易で
はないために保護撤廃には時間が必要とされる。
たとえば、GAZ(ゴーリキー自動車工場)社を有するバーザブィエレメント
社は、国内自動車産業の保護を求める立場をとり、早期の WTO 加盟には慎重な
姿勢を崩していない。また、自動車の原材料を生産する鉄鋼・銑鉄産業23は、同
製品の輸入が急増する可能性が強いことで、セヴェルスターリ社(ロシアの粗
鋼生産第2位)も同様に慎重姿勢を崩していない。これら2社は政治的な影響
力をもつビジネスグループ(新興財閥とか金融・産業グループと呼ばれていた
が、最近では、Integrated business Group, IBG と新しい呼び方をする)を率
いる会社であり、中古車の輸入関税引上を求めて政府に対するロビー活動を積
極的に行ったことが伝えられている24。
20金野雄五、前掲書、P.8。
FTA や関税同盟に関しては、WTO/GATT1994 の第 24 条で、「貿易拡大効果」がある
場合に認められる。
22 遠藤寿一『ロシアの WTO 加盟問題』
「えーじぇっく れぽーと」Vol.30、北陸環日本海
経済交流促進協議会、2002 年 11 月、P.10.
23 ロシアは、傾向として、中間財としての鉄鋼・銑鉄を輸出し、高付加価値の鋼管やロール
を輸入に依存してきた。現在は付加価値が高いロールに移ってきており、EU や米国との協
議の焦点は鉄鋼製品の生産に際して、ロシアが国内の安い燃料コスト(内外価格差が大き
い)のメリットを享受していることにある。
24坂口泉『ロシア乗用車市場における明と暗』
「調査月報」ロシア東欧貿易会、2003 年 4 月
号、P.6。
21
13
しかし、石油産業(上位 11 社でロシア原油生産の約 90%、石油精製の 80%
を占める)は、立場が違う。ロシアの石油産業の場合は、協調減産による価格
維持政策ではなく、安定供給にもとづく世界シェアの拡大を進めていくことを
基本戦略としているからである。そのトップ企業ルークオイルは、積極的にバ
ルカン諸国およびギリシアに投資を行ない、精油所やガソリンスタンドの事業
を拡張している。第2位のユーコスは、東シベリアの油田開発を通じて中国に
輸出機会の拡大を進めている。このように、石油産業は国際的な統合を進めて
いる以上、対外的に自由化を要請せざるを得ないので、WTO への早期加盟を歓
迎している。
また、インターロス財閥傘下のノリリスクニッケルは、希少金属プラチナと
パナジュウムの独占企業であり、その主要輸出市場はアメリカであるが、同社
は、国際競争力もあり、WTO 早期加盟を支持している25。
このように、産業界にはそれぞれの利害があって慎重派が多いようではあるが、
石油産業のように推進派もいる。プーチン政権(なかでも、グレフ経済貿易発
展相が中心となっている)にとっては、これら IBG のロビー活動と議会26との
調整が大きな課題となっている。
6.日本企業の声
第 1 章で取り上げた経団連のアンケートでは日本企業から、多くの実務上の
問題点が指摘されている。その中には、ロシア企業のビジネス感覚、官僚の汚
職、治安の悪さにかかるもの、中央政府と地方政府の連携不足、当局の不当な
介入など、定義が難しく、また内政に関わる問題もあり、これらは、実証する
ことが難しい問題である。しかし、日ロの貿易投資に携わる実務者の本音はこ
こにあり、ロシアの WTO 早期加盟を期待しつつも、貿易・投資の手続きなどの
実務面での円滑化がなくては実態の改善にはならないことを指摘している。と
くに、法・税制面での不安定性や窓口での規則の運用の不徹底・急変による非
関税障害は、
「予見不能であることから安定した取引ができない」
(2000 年、経
団連実施のアンケート)としている。
その他、日本企業からは、書類作成コスト、書類提出に要するコスト、審査・
検査にかかるコスト、指定された物資・サービスを利用するためのコスト、ま
た手続に時間を費やすために発生するコストとして、停留する貨物の蔵置料、
代金回収遅延に伴う資金コスト、納期の遅延・不透明性により有利な売買条件
25
この項は、梅津和郎『WTO 加盟をめぐるロシア新興財閥の動向』
「世界経済評論」世界
経済研究協会、2002 年6月、P8 を参照した。
今年 11 月にはロシア下院の選挙、来週にはロシア大統領選挙を控え、国内は政治の季節
に入るために調整には時間がかかると考えられる。
26
14
を締結できないなどの逸失利益が多いとされる。
このような実務面での問題点は、1996 年の第一回シンガポール WTO 閣僚会
議以来、
「貿易円滑化(trade facilitation)」というテーマで以下の点などが具体
的に指摘されているようである。また、GATT1994 第 10 条には、貿易円滑化に
関連する規定を一部含むが、実務上の問題点を解決できるような協定とはなっ
ておらず、この規律の強化作業には未だ入っていない。
①
通関手続他の公的機関の国境での貿易手続き規則(輸入ライセンシ
ング手続き等)
②
貿易決済等の民間手続も含めた貿易手続全般
③
技術的な基準・認証手続
④
港湾施設、汚職防止等
GATT1994 第 10 条は、貿易を行う上でどうのような規則、関税率が適用され
るか、どのような手続が必要かなどについて貿易従事者が事前に情報を入手で
きるよう貿易規則の公表及び施行について定めている。すなわち、貿易規則や
手続きの透明性を重要視している。また、産品の販売、分配、輸送、保険、倉
入れ、検査、展示、加工、混合その他の使用に影響を及ぼすものは、外国政府、
貿易業者等が知ることができるような方法により、直ちに公表しなければなら
ないとしている。さらに、貿易関係者の取引に直接影響を与える可能性のある
規則については公表前の実施を禁止している。
しかし、貿易実務に携わるものの「予見性」を高めるうえでは、第 10 条では
未だ規律が弱い。とくに日ロ間での貿易・投資の今後の発展を考えていく上で
は、規律の強化策についての議論を WTO の場でも、たとえば APEC27(ロシア
もメンバーである)同様に進めていくべき事項と考えられる。
なお、同 10 条では、問題が生じた場合には、関税事項に関する行政上の措置
をすみやかに審査し、是正するため、行政から独立した司法裁判所、調停裁判
所または行政裁判所が訴訟手続を進めることになっている。この点は、ロシア
が WTO に加盟することで、国際法による仲裁などがスムースになることを確保
していることになる28。
APEC(Asia Pacific Economic Cooperation、アジア太平洋経済協力閣僚会議)では、
1994 年ボゴールでの首脳会議以降毎年議題に取り上げ、議論がなされている。例えば、
APEC(1997)では貿易円滑化は、モノの移動に関する手続、人の移動に関する手続、基
準・認証手続を対象としており、以降 APEC で貿易円滑化と言えばこれからが対象範囲と
なっている。松平忠承『貿易円滑化』「貿易と関税」日本関税協会、2002 年 1 月、P.13。
28経団連が実施したアンケートでは、日本企業から、企業間の紛争にかかる調停を素早く行
う窓口が必要との声もあがっており、さらに具体的には、モスクワと極東に政府・民間が
一任できるような仲裁機関の設置が期待されている。
27
15
第3章
ケーススタディ‐自動車産業‐
ロシアの輸入関税の加重平均は 10.92%(2002 年)であり、ウルグァイラウ
ンド終了後の先進国平均が4%程度であることから、決して高いレベルにはな
いという評価である29。しかし、乗用車の輸入の場合には排気量税と輸入関税
(25%)のうち、いずれか高いほうが適用されるほか、付加価値税も課税され
るなど、ロシアの関税の中では最高税率のひとつとなっている。
1.ロシアの乗用車市場規模
普及台数と割賦販売
2000 年末時点でロシアの乗用車登録台数(自家用および商用)は約 2,539 万
台で、全体の半数を国産車(AvtoVAZ)が占めている。また、全体の約半数が
製造後 10 年以上経過した古い車であることから、ロシアでの中産階級の平均所
得30から推察すると車が未だ貴重品であり、簡単に買い換えられないことを窺わ
せる。
ただし、ようやく割賦販売が伸びてきており、全体の 20%程度(2002 年)の
取引は平均融資額約 10,000 ドルの割賦販売によるものとみられている31。割賦
販売の条件としては、①頭金 30%、②ドル建ての場合、利息は 12∼15%程度(ル
ーブル建では約 30%)、③割賦期間は最高 3 年、その他、保険加入の義務などが
一般的である。
ロシアでの乗用車販売
2002 年のロシアの乗用車市場規模(販売ベース)約 150 万台の内訳をみると、
国産新車が約 98 万台でトップのシェア、輸入中古車が 45 万台、輸入新車が約
11 万台と続く。近年の好景気を反映して、自動車市場も拡大しているようであ
るが、国産車と輸入車のシェアをみると、国産新車に関しては、台数ベースで
Alexis V. Belianin, Protectionism, Restructuring, and the Optimum strategy for
Russia’s Accession to the WTO, Working Paper Series, RECEP, September 2002, P.2.
30個人所得に関しては、ロシアの「エキスパート」誌では、中産階級以上のクラスを、2001
年の時点では家族1人当りの月収を 100 ドル(モスクワは 150 ドル)
、2002 年は同 150 ド
ル(モスクワは 200 ドル)以上と定義している。2002 年に「エキスパート」誌が行ったア
ンケートでは、ロシアのミドルクラス以上の世帯数は約 1,000 万∼1,100 万世帯、全人口約
1 億 4,000 万人のうち約 3,000 万人が当てはまる。これらのクラスの1世帯当り年間平均は
10,500 ドルで、家族1人当りは月に約 300 ドルである。このミドル以上のクラスが国民所
得の 58%−64%を得ている結果となっている。
31坂口泉
前掲書、P15。
29
16
は 2000 年の約 8 割のシェアから 64%に落ちており、輸入車に押されている(図
表4)。
国産新車の販売が低下した主要因には、1998 年の通貨危機後のルーブル切下
げ効果が希薄化して国産車の割安感がなくなってきたこと、中古車の輸入が増
加したこと、および国産車の質の向上、モデルチェンジ、新型車の投入がなか
ったことがあげられる。
なお、金額ベースでは国産新車(平均販売価格 4,200 ドル)37%、ロシア国
内で組み立てられた外国車(同約 20,000 ドル)が 1%、輸入新車(同 20,000
ドル)が 22%、輸入中古車(同 9,000 ドル)が 40%となっている32。
図表4
ロシアの自動車市場規模
自動車市場の規模
2000
乗用車
1,218,000
1,499,000
1,535,000
国産新車
967,000
1,024,000
981,000
63.9
輸入新車
72,000
94,000
106,000
6.9
輸入中古車
179,000
381,000
448,000
29.2
199,500
196,400
203,000
国産新車
189,000
176,000
173,000
85.2
輸入新車
10,300
19,400
5,000
2.5
輸入中古車
200
1,000
25,000
12.3
57,200
62,700
73,500
国産新車
54,000
57,000
66,000
89.8
輸入新車
1,000
800
1,500
2.0
輸入中古車
2,200
4,900
6,000
8.2
トラック
バス
(出所)坂口泉
2001
2002
2002 年のシェア
前掲書、P3(出典は『イズベスチャ』紙、2003 年 3 月 19 日)。
国産新車
国産の新車に関しては、AvtoVAZ(ボルガ自動車工場)製の乗用車が最大の
シェアを持ち、同車種が ZMA(軽自動車生産工場)、SeAZ(セルプホフ自動車
工場)、Roslada(スィズラン組立工場)、IzhMash-Avto(イジェフスク自動車
工場)においても組み立てられており、これらを合わせると、AvtoVAZ 車が全
体の 8 割を超える。販売価格帯はオカ(VAZ‐1111)と呼ばれる 750cc の軽自
動車の約 2,300 ドル(エンジンが約 700 ドルで供給されている)から、最新車
種(1997 年から量産)VAZ‐2110 の約 6,000 ドルまで 4,000 ドルの開きがある。
32坂口泉
前掲書、P3(出典は『コメルサント』紙、2002 年 12 月 4 日)。
17
売れ筋は VAZ‐2106、2107 で価格は 3,200 ドルから 3,500 ドルである。
その他が GAZ(ゴーリキー自動車工場)のヴォルガ車(4,900 ドル以上)、UAZ
(ウリヤノフスク自動車工場)四輪駆動車(約 3,500 ドル)などで、全体の2
割弱を占める状況にある。
輸入新車
2002 年の輸入新車は 10 万 6,000 台であった。台数全体の内訳をみると、欧
州各国からの輸入車(シュコダ、ルノー、VW、プジョー、BMW、ボルボ、メ
ルセデスの順)が 38%と大きいが、日本車(トヨタ、三菱、日産、ホンダ、ス
ズキの順)が 26%を占めており存在感を高めている。その他では、韓国車(大
宇、現代、起亜の順)16%、米国車(フォード)6%の順となっている(図表5)。
また、2002 年の販売上位 20 車種(売れ筋で合計約 6 万台)の内訳をみると、
約 4 割が欧州車で、以下韓国車 26%、日本車 21%、米国車 11%の順である。
輸入新車の販売価格帯は 8,000 ドルから 15,000 ドルに集中していることから、
比較的安い韓国車(大宇、現代、起亜の順)の売れ行きが目立つ。
図表5
主要メーカー別新車販売状況 (単位:台)
メーカー名
大字
1998
1999
2000
2001
2002
16,315
15,092
13,600
9,950
12,418
シェコダ
6,737
1,897
2,924
8,391
9,407
トヨタ
5,979
4093
2,307
4,461
8,630
三菱
2,883
4,183
3,836
6,004
8,167
日産
7,292
4,098
2,536
5,286
8,029
ルノー
3,162
1,146
3,002
5,606
8,337
VW
4,536
3,479
3,473
7,254
7,972
メルセデス・ベンツ
1,361
1,650
2,292
3,806
2,441
949
700
1,301
2,636
3,790
プジョー
1,337
604
1,428
4,246
6,984
フォード
5,070
1,175
1,357
4,142
6,669
ボルボ
1,296
826
917
2,402
2,929
ホンダ
1,550
1,100
615
837
1,340
スズキ
ー
ー
ー
1,220
1,912
現代
ー
ー
ー
2,205
5,755
合計
約7万
約5万
約5万
約8万
約11万
BMW
(出所)坂口泉
前掲書、P.10。
18
輸入中古車
2002 年のロシアの中古車輸入は 44 万 8,000 台(3 年未満の中古車が 12%、3
∼7 年未満が 42%、7 年以上が 46%)であった。そのうち、約 9 割が個人によ
るもので、残り 1 割が法人によるものである。個人輸入・転売の形が多くとら
れている模様である。個人輸入形態が多いのは、排気量による輸入関税と関税
手数料のみで、付加価値税(20%)と物品税が免除されることによるものとみ
られる。
また、輸入の約 4 割は極東の税関を経由したものであるが、そのほとんどは
日本車で、ロシア全体でも輸入中古車の 5 割が日本車である。2001 年から 2002
年にかけて、モスクワで販売される中古車は 5,000 ドルから 10,000 ドルの価格
帯が多く、極東地域では製造後 3∼7 年の中古車が多かった。
日本から極東への輸出は、北海道や日本海沿海のロシア貿易専門ディーラー
が取り扱っており、個人向け輸出を中心に 2002 年まではおよそ 4,000 ドル∼
6,000 ドルの販売価格帯といわれていた。しかし、2003 年になってからは中古
車のグレードアップがみられており、極東で販売される中古車は従来の 1996∼
1998 年モデルから 2002 年モデルへと代わって来ている。販売価格帯も 8,000
ドルから 1 万ドルへとなってきており、購入者の所得が徐々に増加しているこ
とが窺える。
2.関税および海外直接投資
輸入関税
ロシア政府は WTO 加盟の手続き中ではありながらも、GAZ などの産業界の
ロビー活動により、
中古車についての輸入関税を 2002 年 10 月から引き上げた。
新車としての販売後 7 年を経た(7 年おち)中古車については、個人向けの貿
易の場合は 2,500cc 未満の車の場合、輸入関税が排気量1cc 当たり 0.85 ユーロ
であったものが2ユーロへと約 2.4 倍になった。また、法人向けでは、それまで
総排気量 1,501cc~1,800cc 未満の輸入関税が同1cc 当たり 0.45 ユーロであった
ものが 1.6 ユーロと、約 3.5 倍になった。
また、3∼7 年おちの中古車についても、2003 年 7 月からは、個人向けについ
てのみ、総排気量 1,501cc~1,800cc 未満の輸入関税が1cc 当たり 0.85 ユーロで
あったものが 1.5 ユーロと 76%の引き上げになった33。なお、法人向けについ
ては引き上げられず、同クラスで1cc 当たり 0.45 ユーロのままであるが、法人
33
輸入新車は同クラスで1cc 当たり 1.25 ユーロの輸入関税(排気量税)
。
19
向けについては、この排気量税(車両価格の 25%の輸入関税との対比で高いほ
うが適用される)、付加価値税34(20%)、関税手数料(価格の 0.15%)および
物品税(90∼150 馬力未満で 13 ルーブル/馬力、150 馬力以上では 129 ルーブ
ル/馬力)が追加されるので割高となっている35。
海外直接投資
現在、フォードと GM が 2003 年からロシアで乗用車合計、約 5 万台強の生
産を行う予定となっている(図表6)。
フォードの場合、1,600cc クラスのフォーカス車を 2003 年には約 1 万 5,000
台生産する予定である。このフォーカス車は、1 台 1 万 2,000 ドルで販売されて
いるが、輸入のフォーカス車に比べて、3,000 ドル安くなるために、6 ヶ月先ま
で予約で埋まっている状況にある。
GM は、AvtoVAZ と 41.5%ずつ出資、欧州復興開発銀行(EBRD)からも 17%
の出資を得ている。2003 年は四輪駆動の Chevy Niva 車(8,500 ドル)を 3 万
6,000 台、生産する予定である。
その他では、BMW、起亜および現代の車種をロシアの二つの会社がアッセン
ブル生産(8,000 台弱)している36。
フォードに関しては、1999 年のロシア政府との投資協定により、2007 年か
らはローカルコンテンツを 50%以上にすることを条件に税制上の恩典を得てい
る。しかし、部品だけに限定すると 5%程度しか調達できず、現地の人件費やエ
ネルギー代金を含めないと2割に達しないといわれている。この投資協定は明
らかに WTO 協定の TRIM に抵触するものであるため、加盟手続きに入ったロ
付加価値税は国家歳入の 43%(2001 年)を占める。次いで、物品税、関税、企業利潤
税がそれぞれ 13∼15%、個人所得税は 3%である。なお、付加価値税は 2004 年 1 月から
18%に下げられる。
35 「1998 年製の Mercedes S320 の法人輸入の場合、諸税は 14,880 ドルとなるが、個人輸
入は同 7,200 ドルとなる。
」ロシア東欧貿易会のメールマガジンによる(出典は「コメルサ
ント」誌、2003 年 6 月 24 日)
。
34
36
生産状況
AVTOTOR(2工場)
備考
所在地
BMW 車 2,240 台 起亜車の価格帯、11,000 ドル カリニングラ
起亜車 4,120 台 以上
ード
TagAZ(タガンログ自動 現代車 1,200 台 新興財閥「ドンインベスト」 タガンログ
車工場)
自社車 300 台
が出資。約 300 台の新車種の
生産など。
20
シアが、今後の自動車産業への直接投資に対してどのような対応を行うか留意
を要する。
なお、現在ロシアで生産されている部品は、サイドガラス、フェンダー、バ
ッテリーカバー、バッテリー金具、アンテナ、ウィンド・ウォッシャー・コン
テナ、ウィンド・ウォッシャー液、エンジン用フィルタ、ゴムカーペット、シ
ート布地などである37。
3.日ロの自動車業界のスタンス
第2章で紹介したように、GAZ 社を有するバーザブィエレメント社は、産業
保護を求める立場をとり、早期の WTO 加盟には慎重な姿勢を崩していない。市
場開放を行えば、自動車産業は壊滅するとの危惧を持っているようである。し
かし、一方では産業の保護を求めつつも、他方では WTO 加盟後をにらんだ動き
が出ている。
ロシアの自動車産業界は、ロシアのハードと日本および欧米のソフトとの融
合が可能であるとして、日本や欧米の経営、生産管理、デザイン・設計などの
技術の導入には熱心である。AvtoVAZ と GM の提携は、この先端を行く例であ
る。また、この点では GAZ も欧米や日本の技術に目を向けており、数多くのコ
ンタクトを行っている。
ロシアのハード面での強みは、たとえば、AvtoVAZ のオカのように、エンジ
ンを 700 ドルで供給できるといったことであり、これは安い労働力と蓄積され
ている冶金、鉄鋼生産技術などが背景にあると推察できる。もとよりロシアに
は、基礎技術では秀でたところがあり、高品質の素材を生産できるメリットを
競争力として生かす方法があると思われる。
また、このところ国産車のモデルチェンジ、新型車の投入がないようである
が、自動車産業に産業資金が回っていないことも原因の一つである(脚注38およ
び図表7、図表 8 参照)。今後は、GAZ のように国内のアルミニウム関連グルー
プの支援を得るケースや、AvtoVAZ のように GM との合弁が参考となって、資
金調達面では内外の資本との連携を進めざるを得ないと考えられる39。
37坂口泉
38
前掲書、P.27。
ロシアの大手銀行の貸付先は輸出産業向けが 8 割である。その中でも石油、ガスおよび
非鉄金属産業への融資残高が 75%である(図表7)。国内市場指向産業から見ると、小規模
の銀行からの借入れが 75%となっており、そのうち、自動車産業などの機械製造および金
属加工業はそれぞれ 73%を小規模の銀行から借入れている(図表8)
。
39自動車産業に関して、ロシア政府は、2010 年には 228 万台の国内生産体制とすべく近代
化計画(投下予算目標、約2兆円)を持っているが、
「構造改革全体で 300 億ドル以上、製
品の品質改良で同年までに 100 億ドル以上が必要との見解もあり、国産主力企業(VAZ,
21
一方、日本の自動車工業会は、2003 年 6 月、今後の WTO の新ラウンドでは自
動車・自動車部品の関税撤廃に向けて交渉するように政府に要望書を提出して
いる。日本の要望の背景は、日本の自動車の輸入関税は、乗用車・商用車とも
に撤廃しているものの、米国では乗用車が 2.5%、商用車が 25%、EUでもそ
れぞれ 10%と高関税のままとなっているからで40、直接ロシアに対した要望では
ないが、欧米の今後の対応はロシアとの交渉も左右するものとなる。
なお、現在のところ、WTO 作業部会でのロシアとの自動車関税交渉について
は、ロシア側が、WTO 加盟後も 6 年間は現行の関税率(車両価格の 25%)に
ついて、最大 35%まで引き上げるオプションも留保したいとしているため、交
渉の妥結には時間がかかりそうである。
今後の日本企業のロシアへの直接投資の可能性については、あるメーカーは、
「現状では輸出、現地でのストック拡大・販売管理により、乗用車の販売量を
いかに増やすかに主眼を置いている」。さらに、直接投資については、「ロシア
に限らず、現地生産が販売量拡大のために有利と判断できれば直接投資も考え
なくてはならず、そのためには現地生産のリスクについて、常に消費者の動向
や投資環境などの調査を続けている」としている。すなわち、現状のままで販
売が拡大可能であれば、現地生産を行う必要はないということにもなる。
この考え方は、直接投資を考える企業全般に当てはまると考えられる。海外
に進出し、進出国で生産・販売を行う場合は、輸入製品との競合が避けられず、
関税での保護がアドバンテージとなるが、進出先国が WTO に加盟すると、関税
の引下げが見込まれるので、保護がなくなり現地生産よりも従来どおりの輸出
の方がメリットを享受できるかもしれない。しかし、他方では TRIM 協定によ
り、進出先国からのローカルコンテンツ要求、輸出要求などを否定できること
から、進出先国の WTO 加盟は現地生産を企画する企業にとってはプラス材料と
なる41。
したがって、日本企業がロシアでの現地生産かそれとも輸出継続かの判断を
行うにあたっては、ロシア側からの明確なメッセージと情報が必要になろう。
ロシア政府が、WTO 加盟とともにどのような投資誘致策(免税措置など)を提
GAZ, UAZ, KamAZ, PAZ)の 2001 年売上合計約 50 億ドル、税前利益約 5 億ドル強といっ
た数値や、1998∼2001 年での自動車部門での投資累計が3億ドルに満たないことから考え
ると、自力で必要とされる資金を調達することは非現実的とされる」
。酒井明司『ロシアの
WTO 加盟とその産業への効果』
「調査月報」
、ロシア東欧貿易会、2002 年 10 月、P.30。
40 2002 年、
日本からの輸出車両に課せられた関税は米国向けが 1,219 億円、EU 向けが 1,141
億円に達し、日本メーカーにとっては大きなハンディともなっている。
41 日・ロ間には 2000 年 5 月に発効した、
「投資の促進及び保護に関する協定」が既に存在
し、この第 16 条で、ローカルコンテンツおよび輸出入に関する制限や均衡要求はできない
ことになっている。
22
案できるのか、また、第 2 章で日本企業の本音として紹介した日ロ間の貿易・
投資における、円滑化、透明性の確保、予見性の確保などの実務面での問題を
ロシア側が今後いかに改善できるのか、などに左右される。
図表6
ロシアの乗用車生産状況
2002 年の生産
価格帯
備考
ロシア企業
703,000 4,000 ドル未満 3 割。 GM との合弁あり
Avto-VAZ(ボルガ自動車工場)VAZ
−2107 などのセダン、ワゴン、ハ
4,000 ドル∼5,000 ドル
ッチバック
未満 3 割。5,000 ドル以
上 4 割。
GAZ ( ゴ ー リ キ ー 自 動 車 工 場 )
65,600 4,900 ドル∼ 7,200 ドル PAZ(パブロバ自動車
工場、バス生産)と
GAZ-3102,GAZ-3110
共
に
Bazavoj
Element(アルミニウ
ム製造会社)の傘下
UAZ(ウリヤノフスク自動車工場)
33,600 3,500 ドル(四輪駆動) Severstalj(鉄鋼最
大手)の傘下に
IzhMash-Avto(イジェフスク自動
65,800 3,000 ドル(自社製オダ)
車工場)VAZ の組立
SeAZ(セルプホフ自動車工場)オ
∼3,200 ドル(VAZ)
19,400 2,300 ドル(オカ)
カ(VAZ-1111、750cc)
ZMA(KamAZ)
(カマズ自動車工場、
38,700 2,300 ドル(オカ)
軽自動車部門)オカ
その他
8,100
外資系企業
GM
Chevy Niva(四輪駆動) 36000(2003 年)
8,500 ドル
EBRD が 17%出資
Ford
フォーカス(1,600cc) 15000(2003 年)
12,000 ド ル ( 輸 入 は レニングラード
15,000 ドル)
合計
985,000 平均 3,000∼5,000 ドル
輸入新車 106,000、 輸入新車(中級)8,000
輸入中古車 448,000 ∼10,000 ドル
(注)BMW、起亜および現代の車種を二つの会社が 3 工場で組み立てている。
23
図表 7
銀行の産業別貸付先(2002 年 4 月現在、単位:%)
大手銀行 小規模銀行 外資系銀行
輸出産業
79.0
34.9
60.5
74.6
20.0
40.8
4.4
14.5
19.7
4.6
33.4
11.7
機械製造、金属加工業
2.5
16.9
6.2
食品業
1.0
6.9
5.6
その他
1.1
9.6
−
16.4
32.1
27.8
商業、飲食業
5.9
8.6
14.0
建設業
5.2
5.6
1.7
その他
5.3
17.9
12.0
100.0
100.0
100.0
石油、ガス、非鉄金属関連企業
鉄鋼、化学、木材・製紙業
国内市場指向産業
その他
合計
(注)ズベルバンクと対外経済活動銀行を除く。
(出所)Центр развития,Что банки могут дать экономике?, 2002.6 (発展センター「銀
行は経済に何を与えることができるか」2002 年 6 月)
図表 8
各産業部門の借入状況(2002 年 4 月現在、単位:%)
大手銀行 小規模銀行 外資系銀行
合計
非金融部門の借入
41.4
49.7
8.9
100.0
輸出産業
67.1
19.8
13.4
100.0
石油、ガス、非鉄金属関連企業
75.7
13.5
10.8
100.0
鉄鋼、化学、木材・製紙業
23.0
50.3
26.7
100.0
15.3
74.5
10.2
100.0
機械製造、金属加工業
16.4
73.2
10.4
100.0
食品業
14.2
65.3
20.5
100.0
その他
14.3
85.7
-
100.0
36.5
47.4
16.1
100.0
商業、飲食業
38.7
37.5
23.8
100.0
建設業
55.7
39.5
4.8
100.0
その他
25.9
58.7
15.4
100.0
non-classified
29.4
67.3
3.4
100.0
国内市場指向産業
その他
(注)ズベルバンクと対外経済活動銀行を除く。
(出所)同上
24
おわりに
プーチン大統領は、2002 年の年次教書発表の際に、最重要課題四項目の中で
WTO へ早期加盟を実現するべきであることを強調しており、日本政府も 2003
年 1 月の小泉首相訪ロの際には、6 分野からなる「日ロ行動計画」に署名、その
中の貿易経済分野における協力関連では、日本はロシアの WTO 加盟に必要とな
る知識および経験の移転の可能性を検討することとしている。
本稿の最初に、日本の戦後の産業保護政策が時限的であったことがその後の
経済発展にとって重要であったことを述べた。総じてロシアの産業界は WTO 加
盟については慎重であるが、加盟を最終的には受け入れざるをえず、現在は今
後の自由化の進展をにらんで「構造改革」努力を行っている段階と考えてよい
であろう。
ロシアの場合、WTO 加盟の最大のメリットは、日本や欧米からの製造業の直
接投資の増大にあるといわれる。ロシアは資源・エネルギーに恵まれているた
めに、これらの輸出に経済が依存し、消費物資を輸入に頼っていると言っても
過言ではない。このようなタイプの経済では、往々にして、産業資金が資源・
エネルギーなどの輸出産業中心に流れ、国内市場指向の製造業には生産性を高
めるための投資やイノベイティブな投資に資金が回っていかない面があるから
である。さらに、海外からの直接投資は資金調達(流入)面のみに限らず、経
営、生産管理、製品設計、マーケティングなどの技術・経営ノウハウの移転によ
る外部効果も大きいからである。
他方、日本企業の多くは、ロシアの WTO 加盟交渉に際して、同時に、貿易・
投資の手続きなど、実務面においての「予見」性を高めることを求めている。
WTO の規定では「貿易円滑化」を目的とした GATT1994、第 10 条が関係する
が、第 10 条の規定だけでは実務上の問題点をカバーしきれていないからである。
たとえば、具体的に問題点を明文化している TRIM のような形式で詳細なルー
ル作りを行い、規律強化を図る必要があるのではないだろうか。
経団連は 2001 年 11 月のドーハ WTO 閣僚会議に先立ち、
「新ラウンドの立ち
42
上げに向けて」 と題し、「わが国産業界の優先交渉 7 項目」の第 7 番目に、貿
易円滑化を取り上げている。そのなかでは、
「貿易円滑化に関する基本的ルール
の策定作業の開始について加盟国が合意することを強く望む。このルールは、
ビジネス界の貿易関係手続きに関する負担を軽減すること及び各国政府の行政
効率を向上させることを目的とし、関税手続きを含む貿易手続きを幅広く対象
とし、関連する GATT/WTO 協定に含まれる透明性、正当性、予見可能性、最
小規制、無差別等の基本原則に基づいたものとすべきである。ルール策定にあ
42経済団体連合会『新ラウンド交渉の立ち上げに向けて』
「貿易と関税」日本関税協会、2001
年 11 月、P.28。
25
たっては、他の国際機関等の成果も参考としていくべきである。」と要望してい
る43。
以上
2001 年のドーハ閣僚会議では、
「通過貨物や貿易手続き等の迅速化」に関し、第5回閣
僚会議(2003 年 9 月、カンクンにて開催)の後に交渉が行われることに合意するとの宣言
が出されている。
43
26
参考文献
阿部克則『貿易と投資』小野彰編著「転換期のWTO」東洋経済新報社、2003 年 3 月
伊藤元重『戦略的通商政策と通商問題』岩井克人、伊藤元重編「現代の経済理論」東京大
学出版会、1994 年 3 月
A.M.ウスペンスキー『ロシアの証券市場と企業投資の現状』
「調査月報」ロシア東欧貿易会、
2002 年 2 月
梅津和郎『ロシアの WTO 加盟条件』「名古屋学院大学論集」名古屋学院大学総合研究所、
社会科学編、Vol.38、No.2、2001 年
梅津和郎『 WTO 加盟をめぐるロシア新興財閥の動向』
「世界経済評論」世界経済研究協会、
2002 年6月
遠藤寿一『ロシアの WTO 加盟問題』「えーじぇっく
れぽーと」Vol.30、北陸環日本海経
済交流促進協議会、2002 年 11 月
経済団体連合会『新ラウンド交渉の立ち上げに向けて』
「貿易と関税」日本関税協会、2001
年 11 月
金野雄五『ロシアの WTO 加盟交渉の現状と展望』「調査月報」ロシア東欧貿易会、2002
年10 月
酒井明司『ロシアの WTO 加盟とその産業への効果』
「調査月報」
、ロシア東欧貿易会、2002
年 10 月
坂口泉『ロシア乗用車市場における明と暗』「調査月報」ロシア東欧貿易会、2003 年 4 月
号
中居孝文『日本企業の対ロシア進出状況』
「経済速報」ロシア東欧貿易会、2001 年 11 月 15
日
中村洋一編著「WTO が貿易を変える」東洋経済新報社、1994 年 9 月
松平忠承『貿易円滑化』「貿易と関税」日本関税協会、2002 年 1 月
Alexis V. Belianin, Protectionism, Restructuring, and the Optimum strategy for Russia’s
Accession to the WTO, Working Paper Series, RECEP, September 2002
Paul G. Hare, Russia and the world Trade Organization, Working Paper Series, RECEP,
July 2002
OECD, Economic Surveys-Russian Federation, OECD PUBLICATIONS Volume 2002/5, 2002.5
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