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天下りにおける影響力均等化説の再検討 慶應義塾大学 法学部政治学科

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天下りにおける影響力均等化説の再検討 慶應義塾大学 法学部政治学科
天下りにおける影響力均等化説の再検討
慶應義塾大学 法学部政治学科
大山耕輔研究会 第 12 期
はじめに―本論の要旨―
行政学を学ぶ過程の中でウェーバーに始まる官僚制の研究は大変メジャーなものになっ
ている。その中で、日本における官僚制に焦点を当てたとき、私たちが特に関心を抱いた
のは天下りであった。その大きな一因となったのが天下りの功罪である。なぜなら、天下
りの功罪について多くの先行研究が為されており、これだけ「功」と「罪」についての議
論が紛糾しているテーマは、他に例を見ないほどだという印象を受けたからである。私た
ちの問題意識はここに端を発しており、それでは「功」と「罪」にはどのようなものがあ
るのだろう、また、果たしてそれら先行研究は現代においても同じく当てはまるのだろう
か、という疑問を抱いた。そして、本研究においては、天下り研究の一環の中で天下りの
メリットを述べる際に用いられる「影響力均等化説」について取り扱った。それは、上記
のような問題意識を踏まえての着想である。ケント・カルダーが唱えたことで知られるこ
の仮説には、曹圭哲氏が否定的意見を示したこともあり、確実にメリットを持ちうるのか、
ということに関しては現時点では是とも非ともいいが対状況であった。
私たちは、この仮説の最大の問題点を「データの古さ」に絞った。後に詳述するが、影
響力均等化説はデータ範囲が 80 年代までしかなく、現代でも同じように有用だと言い切っ
てしまっていいのか、ということに関しては、疑問符をつけざるを得ない状況だったので
ある。それゆえに、私たちは興信録や四季報などに依拠して、最新のデータを収集するこ
とにした。そして、それらのデータを分析することによって、本当に影響力均等化説が実
証性を持つのかについて分析していきたい。また、現段階で天下りにどのような変化が見
られるのかについても、併せて記述したい。
第 1 章.問題の所在
1-1 社会的背景
まず「天下り」自体を見直すために、歴史的な見地に立って官僚のルーツを辿ってみる。
武家政治から、近代化への道に乗り出した明治政府の実務を担ったのは、西洋の学問に通
じた新知識人であった。伊藤博文が海外から戻って国会を開設してから、日本では官僚主
導の国づくりが行われてきた。戦後、GHQ の支配下においても官僚機構は公務員制度と名
前を変えて引き継がれてきた。キャリア官僚はかつて最高学府から人が集まり国のために
奉仕するという仕事であり、一生を約束された仕事として国民からあこがれの存在として
君臨していた。
しかし、1996 年「橋本行革」以降行政のスリム化が叫ばれ始めることとなる。霞が関を
舞台にした不祥事、天下り問題などの浮上により国民の公務員に対する不信感が募り、改
革機運を後押しした。世論調査でも、4 割超だった官僚への「信頼度」はここ十数年で半減
し 2 割を割り込む1。また、衆院調査局によると 07 年 4 月時点で、天下りした国家公務員
は 4696 法人に 26632 人いた2とされている。これほどまでに、天下りの問題は肥大化して
いるのである。
「定年まで働ける環境をつくり、国家公務員の天下りのあっせんは全面的に禁止する」、
これは民主党が 2009 年に行われた第 45 回衆議院議員総選挙において、マニュフェストに
掲げた文言である。かつての自民党政権下より、長きに渡って官僚の天下りはマスコミ、
そして国民世論から問題視され、糾弾され続けてきた。さらに「国家公務員制度に関する
特別世論調査」3の結果によると、成人の 7 割超が国家公務員制度における天下りシステム
を問題視していることが明らかになっている。それは選挙においても如実に顕在化してお
り、政党の天下りに対する姿勢が肯定的か否定的かによって有権者の投票は大きく左右さ
れているといえるだろう。
そして 2009 年 8 月の衆議院議員選挙において「天下り根絶」のマニフェストを全面的に
押し出した民主党が大勝したように、大多数の国民は天下りに対して否定的な立場をとっ
ていることが伺える。そのような中で民主党は、政権獲得後天下りの根絶へ本腰を入れる
ことについていわば国民との間で“約束”を交わして広い支持を得、ついに政権与党へと
上り詰めたのであった。
ところが自民党との政権交替から 3 年を経た現在に至ってもなお、民主党は国民との“約
束”を果たせていないでいる。それどころかむしろ、民主党はすでに 2009 年 10 月時点に
おいて「官僚 OB が斡旋(あっせん)するのは天下りではない、と強弁し」ており、もは
や「民主党の公約は、政権交代から 2 カ月ももたなかった」と、元経済産業省の古賀茂明
は指摘する4(2012)。すなわち、我が国における天下りは依然として存在し続けているの
が現状であるとされる。
1-2 問題意識
天下りは、それに関係する個人・組織の間に癒着を生じさせ非正当的な利益の動きが生
じること、またそのための受け皿作りに無駄な税金を投入する必要性があり、財政を圧迫
すること等の理由から批判的に捉えられる国内の風潮がある。しかし一方で、その存在意
義を論じたのが真渕(『行政学』2009)である。後に第 3 章で詳述するのでここではその名
称を列挙するに留めておくが、真渕は①賃金補償説、②能力活用説、③ネットワーク説、
④官庁活性化説、⑤影響力均等化説の5仮説をまとめ、天下りの存在価値についてメリッ
トの側面から説明した。このように、我が国における天下りの実態については賛否の両論
1
3
朝日新聞グローブ『公務員の使い方/仕え方』
Asahi.com 『天下り、わたり』2009.4.20
2007 年内閣府調べ
4
『週刊朝日(2012 年 9 月 7 日号)』「元経産官僚が語る
2
天下り根絶できない民主党政権の実
態」http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20120831-00000001-sasahi-pol
が存在しており、その是非は濃霧に包まれた状況にあると言っても過言ではない。
なぜ、天下りが存在するのか。天下りが存在するメカニズムを探らなければその是非を問
うことすらできない。天下りについて諸説ある中に、天下りは企業の影響力を均等化する
ために機能として存在しているという考え方が存在する。しかし私たちは天下りの実態と
してこの説は正しくないと考えた。天下りの実態を解明するための一歩目として、本論文
の執筆を行った。
社会的背景で述べたような現状に対して、我々は天下りの実態を解明し、その現在位置
を示す必要性があると考えた。そこで、本稿では真渕の主張する 5 仮説の内、特に影響力
均等化説について言及し、その真偽を明らかにする。
影響力均等化説とは、ある業界の最大手以外の企業が天下り官僚の受け入れによって、
そうしなければ得られなかったような影響力・発言力を手にする、という天下りのメリッ
トを論じた仮説の一つであり、そのために業界内の最大手以外、特に中下位にランクする
企業が進んで元官僚を受け入れる。従来この説はケント・カルダーによって提唱され、こ
れに対する反駁を曹圭哲が行う形で議論が展開されてきた。その詳細はやはり第 3 章に譲
るが、カルダーの主張した影響力均等化説はそのデータの瑕疵性故に、曹によってその正
当性を否定され今に至っている。では、そもそもなぜ5つの説の中でも本仮説を選択する
のか。それはこの両者の議論の中に、2 点留意すべき点が認められるためである。それは第
一にカルダーの示したデータは 1985 年前後のものであり、今現在とのギャップが少なから
ず存在するため、我が国の現の実情を説明するには新たなデータを用いる必要性があるこ
と。そして第二点目は、カルダーに対する批判を展開した曹は彼自身の新たなデータを用
いたのではないということである。
かくして、我が国における天下りの全体像を解き明かすための第一歩として、影響力均
等化説は果たして天下りの存在意義を説明するに足りうる理論であるのか、という問題意
識を出発点に本稿の研究・執筆にあたることとなった。よって私たちの研究目的は、影響
力均等化説の実証性に関して明らかにすることである。
第 2 章. 概念の整理
2-1 概説
本論文で影響力均等化説の真偽を問うために天下りの定義を明確にする必要がある。一
般的な天下りとは何か、天下りの歴史的変遷を説明した上で本論文における天下りを定義
する。
一般的に天下りとは、国家公務員総合職(旧一種)試験に合格した幹部職員が定年前に
早期退職し、民間企業や公益法人や独立行政法人に役員として再就職するケースを指す。
(今泉.2009.地方行政)官僚は定年まで省庁に勤務し続けることはまずない。早期勧奨退職
慣行といわれる慣習が存在し、一定以上の勤続年数に達すると官僚は官庁組織から「肩た
たき」をされ事実上の勧奨退職がなされるからだ。早期勧奨退職慣行により天下りが行わ
れるのには、先述した真渕勝の 5 つの天下りのメリットがその動機付けの説明となるだろ
う。
「肩たたき」をされた場合退職後の再就職先は勤務先省庁により決定され、勤務時に関
わっていた事業系統へ天下りをする傾向があるが自身による主体的な選択をすることはな
い。官僚は勤続 10 年程度まではポストに差はつかず横並びで昇進していくが、課長級以上
になるとポストの数が限定されてくる。
(ここで稲継先生の二重の駒形モデルを出す)日本
の官僚は早期勧奨退職慣行をベースに、アップオアアウト方式によって競争に敗れた者が
天下りをし、競争に勝利した者は昇進していくという限られたポストをめぐる昇進競争を
行う。事務方トップの事務次官は 1 名しか選出されず、事務次官を輩出した時点でその同
僚の年代は全員天下りする。このように天下りにより民間企業や公益法人や独立行政法人
の天下り先組織に人材資源が配分される。
2-2 天下りの歴史的変遷
戦後は昭和 30 年代に入るまで、高級官吏の退職年齢は比較的若い。この原因が早期勧奨
退職慣行だ。戦後間もなくならば局長クラスで 40 代後半、事務次官クラスで50代前半と
かなり若い年齢で退職している例が多く見られた。近年天下りの受け皿として注目されて
いる特殊法人や公益法人は、その数は初めから多かったわけではない。高度経済成長期を
迎えた昭和30年代からその数は増え始め、1956 年に 39 団体だったものが 1966 年には
108 団体に達した。これはさまざまな社会資本整備が目的であり、日本道路公団や日本住宅
公団などインフラ系の団体が多く増えたことに起因する。
その後、設立目的を超えて自己増殖したり非効率的な経営に終始するようになったこれ
ら特殊法人は、整理縮小が目指されるようになるが、それは 1980 年代の話だ。
1967 年には佐藤内閣のもとで方針が決定された。それが“スクラップアンドビルド”方式
である。
「行政機構改革の目標として、各省庁で一局削減する」としたトップダウンの行革
方針は、混乱を生みつつも中央省庁内の組織拡大に歯止めをかけることになる。
また 1969 年「行政機関の職員の定員に関する法律案」、つまり総定員法が成立した。各
省庁の常勤職員数の最高限度を法律で定めたことで、ポストを増やすことができなくなっ
た。これによって新規業務は特殊法人に丸投げしてしまうやり方が政府で目立ち始める。
増加し、新規業務を請け負い、存在感を増していく特殊法人。1960 年代後半のこれらの改
革によって、官僚の天下り先は特殊法人に向かうという土壌が成立した。2001 年以降は独
立行政法人が生まれ天下りの受け入れ先としても注目を浴びるが、民主党に政権交代して
以降事業仕分けなどで規模の縮小を余儀なくされている。リクルート事件以降の自民党政
権時代は多くの天下り規制が行われ次第に天下り人数が縮小してきているが、民主党政権
交代以降は天下り対策は事実上打ち止めになっている。
以上を踏まえて、私たちは天下りの定義を、中野雅至が『天下りの研究』の中で述べた
定義に同じくするのが最も適当と考える。つまり、天下りとは「中央官庁の場合、すべて
の公務員の在職中の出向、退職後の再就職を程度の強弱を問わず斡旋する」ことだ、とい
うものである。中野曰く、天下りとは「押し付ける組織」
「押し付けられる組織」
「組織の
介在の程度」
「在職中の人事異動か退職後の再就職か」
「人事の対象者」という 5 つの項目
によって成立している。この 5 つを最も包括的に表現すると、先述した中野の定義になる。
中野の定義における「斡旋」の有無は、その強弱を問わないとはいえ、他の研究者の定義
と中野の定義とに一線を画するものであると考えられ、私たちも「斡旋」の重要性を認め、
中野の定義に沿うことにする。
第 3 章.先行研究
ここで、天下り研究に存在している多くの先行研究の中で、『行政学』(真淵.2009)に記
載されている 5 つの天下りのメリットに関して詳細に記述しておく。
3-1.官庁活性化説
天下りの官庁にもたらす機能については、猪木武徳が意見を述べている。
「定年前からの
退職を慣行とすることによって若年層の官僚の昇任を早め(すなわち若い者への権限移譲)、
官僚組織の活性化が図られている」と指摘している5。さらにこの機能は、以下二つの効果
をもつと考えられる。第一に、組織効率が上がり、情勢の変化に対応しやすくなるという
こと。そして第二に、スムーズな昇進制度によって官僚にインセンティブを与えられると
いうことである。
キャリア官僚のやる気を引き出すためには、スムーズな昇進が必要であるという議論に
は一定の説得力があると考えられるが、実際はこの議論は一面的だ、という言説もある。
受け入れ側の事情、つまり突然現れた者に高いポストをとられてしまう、生え抜き職員の
モラールへのマイナス効果が考慮に入れられていない、ということが指摘されている6。
3-2.賃金補償説
天下りには公共部門と民間部門との間に存在する長い間の賃金格差を補償する機能があ
る、という説である。
東京大学 2007 年学部卒業者の企業と中央官庁(キャリア組)と民間企業就職者との給与
比較を行う。2007 年の中央省庁キャリア組の30歳モデル年収が 589 万円であるのに対し
て、三井物産で働く者は 1002 万円。三菱商事で働く者は 962 万円。三菱東京 UFJ 銀行で
働く者は 709 万円。NTT データで働く者は 628 万円、という結果であった。このようにキ
ャリア組の給料は民間企業に比べて相対的に低い7。
賃金補償説は、低い賃金と激しい労働の間にあるこのギャップを埋める役割を果たすの
が天下りであると主張する。
5『人的資源から見た戦後日本の官僚組織と特殊法人』猪木武徳、1993
6『天下りの研究』真渕勝、2009、P63、3-4-1
7『天下りの研究』真渕勝、2009、P64、表
3-4
猪木武徳も、
『学校と工場』の中で天下りを「遅れて支払われた報酬」である、と主張し
ている。また、官僚制組織において退職してしまったとしても、天下り先に関しても退職
前の職位に応じてランク付けがなされている。
どこの天下り先も同じような報酬、というわけではないのだ。つまり、天下りにおいて
どのポストへ配属されるかは、省庁在任中の官僚の努力によるところが大きいため現役官
僚にとってのモチベーション維持にもつながる。官僚として在任している間に努力するほ
ど、天下り先でのポストも高い地位が保証され、高い報酬が期待されるのである。
3-3.能力活用説
能力活用説とは、国家の優秀で貴重な人材である官僚らの能力を公務員として止めるこ
となく、多方面においてフルに活用することで最終的には国益の増強につなげたいとする
ものである。
元経済産業省の幹部官僚で、退職し、現在大学教授として働いている長谷川榮一氏は、
「憲
法上、国民には勤労の権利と義務があり、一個人の退職後の勤労そのものまでは禁じるこ
とができない。したがって、退職した公務員は、一人の私人となって自ら就職活動すれば
よい」と考え、再就職のための就職活動を行った。彼はその経験を通して、民間企業が元
公務員に求めるものとは何かを知ったという。それは、幹部公務員経験者の行政経験や、
そこで得た知見、人脈、内外経済社会の見方、海外経験などであった。
一方、池田隆年氏は実際に公務員の研修にも集約されている、ゼネラリストとスペシャリスト
の役割を統合したエキスパートとしての専門的能力に魅力があると指摘する。このような専門
性能力の開発体系も、活用が期待される能力だと考えられる。
ここで、能力活用説を体現する人物として藤岡眞佐夫氏について述べておく。藤岡眞佐
夫は 1977 年に三十年間務めた大蔵省を退官し、その後日本輸出入銀行の理事に就任した。
つまり、典型的な天下りを行ったわけであるが、彼は再就職先で確かな実績を残し、文字
通り「能力を活用した」のであった。藤岡が天下った日本輸出入銀行は、当時日本で最も
大きな政府機関でこそあれ、人もいないし予算もなかったため国際的なセミナーやシンポ
ジウムをオーガナイズすることはできずにいた。そこに米州開銀からラテンアメリカ・シ
ンポジウムの開催が申し込まれ、藤岡はこれを引き受ける。結果としてはこれを成功裏に
終わらせたことで高い評価を勝ち取り、翌年にはアジア・シンポジウムが開かれるまでに
なり、日本輸出入銀行だけでなく、我が国の国家としての世界における地位を向上させた
のであった。そのほかにも藤岡はアジア開発銀行の総裁になるなどの活躍をしていること
からも、まさに能力活用説の根拠ともなり得る。
以上のことから、公務員の能力とは、中央省庁の公務を経て培われた経験値と、専門性
が深く、民間においても応用可能な知識だと考えられる機能をもっていると捉えられる。
そしてこれらの機能は、天下りというシステムを通じて民間企業に浸透するため、天下り
を有益なものとするのが「能力活用説」である。
3-4.ネットワーク説
「ネットワーク説」は、官僚 OB が天下ることにより、公共部門と民間部門との相互浸透
力が増加され、官民の協調を高めるという主張である。天下り役員と非天下り役員が、日
本の企業において仕事を社内仕事と渉外仕事に分けたとき、どちらの仕事により臨んでい
るかを調査すると、日本の企業に雇用されている天下り役員は非天下り役員より渉外仕事
に就いている場合がはるかに多いという結果になる。また、どのように役立つのかを調査
した結果、「行政機関から契約・許認可の獲得に役立つ」、
「外部情報獲得に役立つ」
、
「行政
機関からとの意見交換に役立つ」、
「不利な行政措置や指導を避けられる」といった意見が
多くあった8。つまり天下りをした官僚 OB は経営術や社内問題の解決などよりは、渉外や関
連省庁との調整役としての仕事が期待されているといえ、これは日本の企業にとって天下
りは社内仕事のためではなく、政府や他の外部環境へのアクセスを容易にするために雇用
されているということの裏付けであるといえる。特に監督官庁との強い結びつきや連携が
必要となる業界(例えば通信業界と郵政省のような関係)では、官僚 OB を役員に迎え入れ
ることで、新規にビジネスを展開する場合などにおいてよりスムーズに事業を進められる
といえる。
しかし、
「ネットワーク説」には弊害もある。官民癒着・官製談合である。官製談合とは、
国や地方自治体による事業などの発注のさいに行われる競争入札において、公務員が談合
に関与して、不公平な形で落札業者が決まるしくみのことをいう。このケースとしては、
天下りした官僚 OB と建設会社の関係が代表的な例として挙げられる。公共事業などの受注
と引き換えに天下りの受け入れを必要とするという仕組みである。建設会社にとって天下
りを受け入れることで公共事業の工事を受注できるのであれば短期で見れば非常に利益的
であり、また受注する金額と天下り役人の給料を比較しても明らかに収支ではプラスにな
る。しかし、このような官製談合を続けていると官需に依存する企業体質が染み付く上に、
場合によっては違法な手段で仕事を得るところまで突き進むことも起こりえ、長期的に見
れば、企業にとって天下りを受け入れることが必ずしもプラスに作用するとは限らない。
それでも公共事業関連で官製談合が絶えない理由としては、やはり受注事業が多額である
ことが挙げられる。
3-5.ケント・E・カルダーによる影響力均等化説
カルダーは、『レヴァイアサン』第 5 号(1989 年秋) 「平等化とエリートの役割-政府と
企業の関係における調整・仲介者としての官僚出身者-」の中で、天下りの政治経済「平
等化」機能を、以下のような論理展開の下主張した。
フェファーやサランシック等先の研究者が指摘しているように、およそどんな組織も完
全に自律的に存在することはできない。多くの組織は自らが必要とするものの多くを政府
8
『日本の天下りネットワークと政府―企業関係』曹圭哲、1993、筑波法政
機関、私企業、大学といった他の組織に依存している。とりわけ、過去半世紀以上にわた
って各国政府の民間に対するサービスと公的規制が増大したことにより、私的グループと
その外的環境を構成する公的機関との相互依存関係は深まったと考えられる。ニューディ
ールの到来によりアメリカ、そしてヨーロッパや第三世界の多くの国々においてもみられ
るようになったこの動きは、例外なく日本でも確認できる。
3-5-1.日本の政治過程における「平等化」
日本では、戦時動員体制に入った 1930 年代、
民間部門に対する政府関与の範囲と程度は、
増大していった。その関与は、規制、許認可、価格設定機関としての関与である。戦後大
幅に緩和されたものの、日本における民間の企業活動に対する公的規制範囲は、国際的基
準から見て決して小さいとは言えない。そのような中で、日本の民間企業組織が、政府に
対して影響力を持ち続け、また国の規制策を予想できないことから生じるリスクを減らす
ためには、政府と相互依存関係を確保する必要があった。そしてその関係をうまく利用し
顕著な成功を収めているのは、海外では大企業であるのに対して、日本では準大手以下の
中堅企業である場合が多い。
日本において、政治が果たす平等化機能は、占領時代に見られる農地改革・教育改革、
労働組合の承認、財閥解体、また 1950・60 年代にかけておこなわれた米価維持政策や地域
産業開発計画、地方交付税など貧困農村地帯に対する巨額の資金再分配などに見られる。
こうした政策は社会的資源の配分を拡大するものであり、政治の介入がなければ実現でき
るものではないだろう。政治による平等化機能と見て取れる例として、全日空の一件が挙
げられる。全日空は、日本航空との競争において政府の支持を得るため、政治家にわいろ
を贈ったとされている。だが、こうした腐敗した政治的行為でさえ、政府との関係が薄い
企業が政府筋の中心サークルに接近する手立てとなるため、結果的に平等化として作用す
ると考えられるのだ。このように小さな組織は、自らのコスト上の競争力・収益性の低さ
や広範な人的ネットワークの欠如を、政治的手段を用いて資源分配プロセスに精力的に関
与していくことで、カバーしようと努めてきた。
3-5-2.「天下り」と政治環境の操作
前項で述べたような、自らを取り巻く政治環境を操作し、予見可能なものにしようとす
る企業努力が明確に見て取れるのが天下りである。ここでは、第一に、「天下り」が、全体
としては日本の政治経済にどのような影響を与えているのか、第二に、「天下り」は、企業
が外部環境を操作するのにどのように役立っているか、を明確にする。これら二つの問い
に答えるにあたって、以下のことをはっきりさせたい。それは第一に、官僚出身者はどこ
に再就職するのか、次に、新しい職場で彼らはどんな仕事をするのか、ということである。
3-5-2-1.日本の官僚の「天下り」先
まず、官僚出身者はどこに再就職するのか、すなわち官僚の「天下り」先について、見
てみたい。日本における天下り官僚の多くは、日本の上位 500 社ほどの企業に再就職する。
また一方で、準大手、中規模企業を代表とした業界組織、中小企業関連公共団体、国会議
員に再就職する者もいる。国の経済にとって重要な部門、銀行や建設、通信分野では小規
模企業に多数の官僚出身者が直接天下りし、政府の政策に何らかの影響力を持つことを助
けている。こうした部門はすべて政府との提携が企業にとって使命を制するような分野で
もある。つまり天下り官僚は、準大手中堅企業に再就職すると同時に中小企業の利益も代
表しているのである。
日本のトップ 500 の企業についてみると、天下りは、グループの中で比較的弱いコネク
ションしか持たない企業を、不釣り合いなほど国の経済政策決定過程に接近させ、影響力
を拡大強化しているのである。表Ⅰを見てほしい。表Ⅰでは、大手銀行、証券会社、商社
の経営陣における官僚出身者についてまとめてある。これを見ると、日本の最大手の銀行
証券会社、商社の経営陣のトップには、官僚出身者が 1 人もいないか、極めて少数しかい
ない。しかし、商社の項目を見ると、下位 3 社である伊藤忠、丸紅、住友商事はトップに
官僚出身者を迎えている。
表Ⅰ 日本の大手銀行、証券会社、商社の経営陣
における官僚出身者(1985 年)
A.都市銀行
取締役員
数
官僚出身者数
1.第一観業銀行
37
0
2.富士銀行
37
0
3.住友銀行
39
0
4.三菱銀行
38
0
1.野村証券
44
0
2.日興証券
43
0
3.大和証券
41
0
4.山一証券
41
0
1.三菱商事
53
0
2.三井物産
53
1
3.伊藤忠商事
50
1
4.丸紅
45
2
5.住友商事
47
1
B.証券会社
C.商社
資料:「会社職員録」,1979 年。「日本紳士録」,1979
年。「人事興信録」,1979 年。「企業系列総覧」,1986
年,東洋経済新報社。
表Ⅱ 三菱、三井グループにおける主要企業のトッ
プマネージメントに占める官僚出身者数
企業名
取締役員
数
大蔵・通
産省出身
者数
A.三菱グループ(金曜会)
1.三菱銀行
38
0
2.三菱商事
53
0
3.三菱重工業
42
0
4.三菱化成
33
0
5.三菱電機
32
6.東京海上火災保険
30
0
7.明治生命保険
23
0
8.日本郵船
26
0
9.キリンビール
28
0
10.三菱製紙
19
0
11.三菱地所
26
12.三菱製鋼
33
0
13.三菱信託銀行
19
0
1(通産
省)
2(大蔵
省)
B.三井グループ(二木会)
1(通産
1.三井物産
53
2.三井銀行
28
0
3.三井建設
34
0
4.三井金属鉱業
20
0
5.三井鉱山
20
0
6.東レ
30
0
7.東洋エンジニアリン
グ
8.大正火災海上保険
30
26
省)
1(通産
省)
0
9.三井ハイテック
18
0
10.三井東圧化学
25
0
11.三井生命保険
18
0
12.大阪商船三井船舶
22
0
13.三井不動産
22
14.三井造船
28
15.三井埠頭
12
0
16.三井石油化学工業
29
0
17.三井製糖
10
0
18.三井信託銀行
10
0
19.三井倉庫
15
0
1(大蔵
省)
1(通産
省)
資料:「会社職員録」,1986 年。「日本紳士録」,1986
年。「人事興信録」,1986 年。「企業系列総覧」,1986
年。
また、表Ⅱを見ると、日本最大の産業グループである三菱グループの傘下の企業は 7 分
の 1、続く住友グループのうち 3 分の 1 経営陣に官僚出身者を迎えているに過ぎない。つま
り、金融関連以外の企業経営陣には官僚出身者は少ないのである。
以上の事実から、官僚出身者の天下り先は、その業界トップの企業と比べて政府との結
びつきが比較的弱い、中規模あるいはそれより規模の大きな、ただし最大手ではない企業
だといえる。この天下りについては以下のようないくつかの特徴が存在する。
1 つ目は、東京以外の地域に本社を持つ企業への天下りが比較的高いことである。地方の
企業が、東京を拠点とする企業に対してその地位を高めることは、経済・政治的権力の地
理的分散化の促進につながる。1950 年代以降鉄鋼などの分野において、地方を拠点とする
企業が官僚出身者を多数採用するようになり、60 年代には日本経済の国際化に伴ってさら
に促進された。中央の官僚機構と疎遠であったこれらの企業にとって政府の助力の必要性
は高かったのだ。
2 つ目は、官僚出身者が、経営陣にエリート大学出身者が比較的少ない企業に向かう傾向
があることだ。表Ⅲにあるようにトップ経営陣に東大卒があまりいない企業は天下りに強
く依存する傾向がある。それは取引などでの潜在的弱点を補填するためであると考えられ
る。これらのことから天下りは、日本のビジネス界の学歴配分を平等化する役割を果たし
ているといえる。
表Ⅲ 日本の大企業経営陣の最終学歴
企業名
A.都市銀行
取締役
官僚出身者を
員の天
除いた東大卒
下り率
の割合
(%)
(%)
1.第一勧業銀行
0.0
32.3
2.富士銀行
0.0
65.7
3.住友銀行
0.0
44.1
4.三菱銀行
0.0
60.0
1.三菱商事
0.0
22.0
2.三井物産
2.1
36.4
3.丸紅
7.1
15.4
4.伊藤忠商事
8.3
13.6
1.新日鉄
4.2
60.4
2.NKK(日本鋼管)
5.1
51.4
3.住友金属
0.0
38.2
4.川崎製鉄
6.1
43.8
1.日本石油
0.0
40.0
2.昭和シェル
4.0
12.0
3.丸善石油
9.1
11.1
4.三菱石油
0.0
29.2
1.松下電器
8.0
4.3
2.三洋電機
7.1
0.0
3.ソニー
6.5
24.1
4.パイオニア
5.9
12.5
10.0
40.7
2.日本電気
3.2
38.7
3.東芝
6.7
39.3
4.日立
0.0
44.8
B.商社
C.鉄鋼
D.石油精製
E.家電
F.コンピュータ・情報機器
1.富士通
資料:「会社職員録」,1987 年。「日本紳士録」,1986
年。
3 つ目は、多くの官僚が、超一流ではないにしても比較的大きな企業に天下りすることで
ある。トップ以外の企業は市場占拠率などの面でトップを凌駕しようとしており、官僚の
力を必要としているためだろう。つまり、企業規模による政府・官界との結びつきも平等
化する役割を持っているのだ。
4 つ目は、官僚出身者の公企業への移動、政界への進出が、先述した民間部門に対する天
下りの平等化作用を補強する傾向があることだ。これは、行政資源配分に関して、業界上
位の企業と比較して不利な立場に置かれているグループの政府との関係を緊密化するため
である。政界進出については、退職後中央政界に入る官僚の多くが後進地域を代表してい
ることから、有権者が自分の地域に利益をもたらし、平等化してくれることを期待してい
ることがよくわかる。
また、公企業体への天下りは、民間企業への天下りが果たす平等化機能以上に、過疎地
域や零細企業において重要な意味を持つ。天下りが多い公団・公企業体は政府、官公庁と
の結びつきが弱い中小産業部門の政治力を高め、中央との関係を促進する役目を担ってい
る。公企業体組織の政治的意義については表Ⅳが示している。
表Ⅳ 日本の主要公共企業体とその分野別分
類(1985)
法
公共企業の型
人
数
1.地域開発関連
官僚出
身者数
10
60
9
43
8
42
4.建設関連
5
(38)
5.農業振興
8
34
6.特定産業助成
7
32
(2)
(7)
(b)造船
(2)
(7)
(c)自転車
(1)
(6)
(d)軽自動車
(1)
(6)
(e)機械
(1)
(4)
(f)航空機
(1)
(2)
7.運輸関連
4
(30)
8.ハイテク関連
5
(21)
2.中小企業助成関連
3.海外関連(輸出振興、文化
交流、海外援助等)
(内訳)(a)石炭
資料:政労協,『「天下り」白
書』,1985 年,20-23 頁。
注:地域開発関連には「地域振興整備公団」へ
天下りした 13 人(1985 年)を含むが、その多く
は石炭産業助成に関与している。1974 年発足
した地域振興整備公団は 1962 年の炭鉱地域
復旧公団を引き継いだものである。
3-5-2-2.民間部門における官僚出身者の様々な役割
次に、天下り後、官僚出身者が天下り先の企業で果たしている役割を具体的に検討した
い。まず 1 つ目に、天下り先への情報提供が挙げられる。日本では、政治決定過程は秘密
主義的・個人的色彩を帯びる傾向にあるため、高い情報収集能力をもつ官僚出身者が企業
において果たす役割は大きいといえる。2 つ目に、保障的機能がある。官僚出身者は、特定
の企業に対し、万一の場合、政府・省庁からなんらかの諮問と補償を期待しうることを約
束できるのだ。さらに 3 つ目に、急激な経済成長により生じる、政府の指導・規制パター
ンと経済的実体との摩擦を調整する機能が挙げられる。
業界トップの企業であれば、先に挙げた 3 つの機能は、自身の競争力・収益力・広範な
ネットワークをもって果たすことができる。しかし、より小さな企業がこれらの機能を十
分に果たし、トップ企業と競争していくためは、官僚出身者の力をもってするのが有効な
のである。
3-5-3. 結論
日本において、天下りが頻繁になされるのは、規模が比較的小さく東京にその本社をも
たない、しかも大企業系列傘下ではなく、トップ経営陣に東大卒の割合が少ない企業に対
してである。また、受け入れ先企業での官僚出身者たちの任務の中でもっとも重要なのは、
情報収集と中央との密接な関係を取り結ぶことである。さらに、許認可や投資保証、政府
機関の契約事項等に関してなされる中央の決定が、はっきりと、しかも確実に天下り先に
有利に展開されるように政府・省庁へ働きかける役割も果たしている。
以上のように、日本のエリート官僚は、企業が様々な仕方で政治的・経済的外部環境の
変化を操作し得るように援助することにより、まさに「平等化」の機能を果たしているの
である。
3-6. 曹圭哲によるカルダー批判
このようなカルダーによる影響力均等化説に対して、曹圭哲はこの仮説は実証されない
と考える。「日本の政府・企業関係と政府動員のオズモスティックネットワーカーとしての
天下り」(1996)において彼はカルダーの呈した影響力均等化説の脆弱性を指摘している。
まず、彼は、カルダーが自らの仮説を成り立たせるために 2 つの条件を満たさなければ
ならないと考える。「第 1 に、大企業より中小企業に天下り者が多くあることを証明するこ
と。第 2 に、天下り者によって該当企業の省庁へのアクセス能力が高くなることを実証す
ること。」である。両条件の中の一方だけが証明されても、カルダーの仮説は成り立たず、
仮に、後者だけが満たされたとしても、天下りは主に省庁と大企業間で行われる慣行であ
るとすれば、仮説は逆転されると考えたのである。しかし、カルダーはどちらの条件を満
たすことにも失敗していると曹は考える。すなわち、カルダーの主張とは逆に、日本では
天下り者は主に大企業に再就職をしていて、また、カルダーは天下り者の果たす役割につ
いて何も実証していないという。カルダーが提示したデータは極めて限定的なものであり、
また、そのデータに対する彼の観察は偏っていると曹は考えた。このようなカルダー批判
は以下 4 つの指摘された根拠に基づいている。
まず、1 つ目の根拠は、カルダーは仮説の客観的な証明のために優先的に前提されるべき
である、企業の規模を決める基準を明確にしていないという指摘である。カルダーは「平
等化とエリートの役割」において「500 大企業の間では官僚は比較的小規模の企業へ天下る」
と述べている。しかし、彼がもし売上高を基準にした上位 500 位までを大規模の企業とす
るなら、彼の指摘は適切ではない。日本の 1988 年度売上高の第 1 位から第 35 位までの最
大手・大手企業は 13 位と 17 位を除いて全企業が役員として元官僚を持っているのである。
企業の規模を決めるいずれの基準を適用してもさほど変わらない結果が出るはずだと指摘
している。
次に、2 つ目の根拠は、カルダーのデータの偏りについての指摘である。たとえば、家電
業界 4 位の三菱電気が元通産相大臣の若杉和夫を常務として採用していることは、大手企
業へは天下りがないという彼の仮説に違反しているが、
「こうした例外も平等化仮説を覆す
ものではない。三菱電気は日本の電気・家電メーカーとしては第 4 位に過ぎず、エレクロ
ニクスの分野では、日立、東芝、松下といった、より伝統のある企業が築き上げてきた既
存体制の後塵を拝している」としている。曹は、業界第 4 位という企業を最大手、大手、
中小企業のどの部類に入るかは、カルダーに任せるとしながらも、業界第 1 位から 3 位の
松下、日立、東芝が元高級官僚を役員として持っている事実を見落としていると指摘した。
また、カルダーは、通産官僚の林信太郎のスーパー業界への天下り先が最大手のダイエー
ではなく、2 番目に大きいジャスコであることに注目している。しかし、当時最大手のダイ
エーには森口八郎という通産官僚が天下っているという事実もカルダーは見落としている
のである。
3 つ目の根拠は、カルダーは数字に対する評価において十分な客観性を注いでいないとい
う指摘である。曹は以下のような 2 つの例を挙げて説明した。まず 1 つ目は、カルダーが
大手企業への天下りが少ないことを証明するにあたり、
「過去 20 年間通産省と大蔵省から
三菱と三井グループへ天下った事務次官は山下英明(三井物産)1 人しかいない」と指摘した
ことだ。しかし、曹によると過去 20 年間銀行以外の民間企業へ天下った大蔵省の事務次官
は 1 人もおらず、ほとんどは公団、公庫などの特殊法人へ天下っているし、商社に天下っ
た通産省の事務次官は山下が 1 人である。また、両省の事務次官の民間企業への天下り先
を見ても、カルダーの仮説とは逆に、最大手-大手企業中心になっている。よって、両省
の元事務次官を 1 人持っていることを「わずか 1 人に過ぎない」というのは適切な評価で
はないと曹は考えた。次に 2 つ目の例は、カルダーによる「上位 40 の最大手企業の中では
5 社だけが、3~4 人以上の天下り役員をもっている」との指摘だ。ここでは、ほとんどの日
本の民間企業が 3~4 人以上の天下り役員をもっていると前提されているようである。しか
し曹によると、事実はそうではない。すなわち、日本の上場会社の中で 1 人でも天下り役
員を持っている企業は全上場会社の 1.9%(1988 年)に過ぎず、この 1.9%は最大手・大手企
業に集中しているのだ。また、この 1.9%の中でも 2 人以上の天下り役員をもっている企業
は建設業を除けばほとんどない。このような事実の上では、カルダーの言うとおり上位 40
の最大手企業のうち、5 社の企業が 3~4 人以上の天下り役員をもっているとしたら、それは
むしろ日本の退職官僚は最大手企業へ天下っていることを証明するもっとも良い証拠のひ
とつになると曹は述べる。
4 つ目の根拠は、安易な資料の引用がなされているという指摘である。曹によるとカルダ
ーは、「不平等なデータ解釈と不平等な資料引用」に頼って「平等仮説」の立証を試みてい
ると考えられる。元の資料である政労協の『天下り白書』には 98 の特殊法人が掲載されて
いるところを、はっきりしない基準に基づいて 64 社の公企業を選び出した例にも見られる
ように、カルダーは、元の資料の中で連続しているページの内容を不平等に引用している
傾向にあると曹は指摘する。
以上のような根拠の元、曹はカルダーの影響力均等化説の実証性に疑問を呈した。
3-7.比較
カルダーの主張は、天下りを政治経済全体の中に位置づけようとした点では先進的とい
えるが、その基準の不明確性、データや数字の使用における不正確性、安易な資料引用に
対する批判としては、曹の主張に妥当性があるといえる。また、カルダーの論文およびそ
の根拠となるデータは、1980 年代ごろの高度経済成長期のものである。そのため、その頃
とは政治・経済ともに大きく変わった現代社会における天下りに、そのままそれをあては
めるのは、不可能だと考えられる。よって、「影響力均等化説」は実証性に欠けると判断す
る。
第 4 章.仮説の設定
4-1.分析の対象
この論文において、「影響力均等化説」に着眼している理由は以下の通りである。
「影響
力均等化説」を根拠づけたカルダーのデータは、1980 年代ごろの高度経済成長期のもので
あるため、政治・経済ともに大きく変わった現代社会における天下りにそのまま当てはめ
ることは適さない。また、曹圭哲の批判にもあるように、彼が集めたデータには矛盾点が
多く、信憑性に乏しい。そのため、私たちは独自の手法で収集した新たなデータを根拠と
して、影響力均等化説を打破することを目指し、天下りに対する学術的な評価の精度を高
めたい。このことは、天下りの実態を明らかにする上で有用であるといえよう。
4-2.仮説の提示
ここで、これまで論じてきた議論をまとめ、天下りの実態を明らかにする本論文が検証
したい仮説を示すと、以下の通りとなる。
日本における天下りは、大企業と中小企業の平等化を図る機能を果たしているといえな
い。
(天下りの目的は、大企業と中小企業の平等化ではない。)
これを仮説として設定する。平等化機能とは、カルダーが述べる影響力の均等化が行われ
ることによって、大企業と中堅企業の釣り合いが取れるようになることを言う。
次章よりこの仮説を実際に検証していく。企業の規模を決める基準を明確にした上で、
中小企業よりも大企業への天下り者が多いこと、同じ企業への天下りが多いこと、を証明
することで、私たちが結論づけたい天下りの実態が目にみえてくるだろう。
第 5 章.検証
5-1 概念の操作化
「日本における天下りは、大企業と中小企業の平等化を図る機能を果たしているといえ
ない」という前章の仮説を実証していくため、具体的な指標を用いて示す。
この仮説は、影響力均等仮説に対する反証仮説である。したがって、影響力均等化説に
ならって操作的定義を設定する。
「天下り」とは、官庁に五年以上勤務した人間が民間企業に再就職することとする。民
間企業ではない独立行政法人や特殊法人などは含まない。
また、
「大企業、中堅企業」といった規模の違いは、それぞれの企業の年代を考慮した資
本金、従業員数、業界という尺度で測っていくことにする。
つまり、「官庁に五年以上勤務した人間が、資本金と従業員数と業界と年代から設定した
大企業に再就職している」かどうかということを調べていくことで検証していきたい。
また、本稿における「中小企業」とは、中小企業基本法に記載されている条件を適用す
る。以下抜粋。
中小企業者の範囲及び用語の定義
第二章
この法律に基づいて講ずる国の施策の対象とする中小企業者は、おおむね次の各
号に掲げるものとし、その範囲は、これらの施策が次条の基本理念の実現を図るため効率
的に実施されるように施策ごとに定めるものとする。
一
資本金の額又は出資の総額が三億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が三百
人以下の会社及び個人であつて、製造業、建設業、運輸業その他の業種(次号から第四号
までに掲げる業種を除く。
)に属する事業を主たる事業として営むもの
二
資本金の額又は出資の総額が一億円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百人
以下の会社及び個人であつて、卸売業に属する事業を主たる事業として営むもの
三
資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が百
人以下の会社及び個人であつて、サービス業に属する事業を主たる事業として営むもの
四
資本金の額又は出資の総額が五千万円以下の会社並びに常時使用する従業員の数が五
十人以下の会社及び個人であつて、小売業に属する事業を主たる事業として営むもの
5-2 検証方法
これまでも述べてきたように、カルダーが「影響力均等化説」を主張するために用いた
データには、矛盾点が多くあり信憑性に乏しい。また、彼が収集したデータは 1980 年代頃
の高度経済成長期のものでるため、その後政治的・経済的に大きく変化した現在の日本に
そのまま当てはめて考えることはできない。そこで、私たちは独自の方法でデータを収集・
分析し、自分たちが立てた仮説を検証していきたい。
以下、私たちが仮説検証のために用いたデータの出典の概要と、そのデータの利用方法
について説明していく。
5-2-1『人事興信録』(人事興信所)
官僚・大手企業役員・芸術家など、社会的地位のある人物の個人情報を掲載した紳士録
の一つ。私たちは、第31版・第36版・第41版・第45版から、それぞれ 1981 年・1991
年・2001 年・2009 年のデータを集めた。天下りが日本の社会において問題視され始めたの
は 1990 年代であったため、その前段階である 80 年代から現在に至るまでを、検証対象と
した。また、
『人事興信録』に掲載されているデータ量はあまりに膨大であるため、扱うデ
ータは 10 年間隔とした。なお、2009 年のデータを掲載した第 45 版が、現時点での最新版
である。
私たちは『人事興信録』を使用して、中央省庁から民間企業へ天下りしている人物を見
つけ出す作業を行った。具体的には、人物名・入省先・入省した年・省庁における最終ポ
スト・天下り先の企業名・天下りをした年・天下り先で最初に就いたポストを調べ出した。
なお、「渡り」を行っている人物については、渡り先の情報についても記録した。1 件目の
天下り先が民間企業以外の組織(財団法人や、社団法人など)であったとしても、そのの
ちに民間企業に再就職している場合は、調査の対象内としている。
次に、『人事興信録』から調べ出した天下り先の企業の規模を測るため、以下の資料を用
いた。
5-2-2『会社四季報』(東洋経済新報社)
日本国内の上場企業について、様々な情報を網羅した企業データブック。四半期ごとに
刊行される。
5-2-3『会社職員録』(ダイヤモンド社)
各企業の詳細な会社情報を掲載している。「全上場会社版」と「非上場会社版」が刊行さ
れている。
上記 2 種類の資料を用いて、私たちは、天下り先企業の資本金と従業員数、及びその企
業が分類される業界を調べた。なお、各データは、
『人事興信録』で調べた情報に基づき、
天下りが行われた年に最も近い時期に刊行された資料から集めた。
『会社四季報』、
『会社職員録』のいずれにも会社情報が掲載されていない企業について
は、各企業のホームページ等を参照し、データ収集を行った。
私たちは以上の作業を通じて、天下り先となっていた各企業の規模を、定量的に比較す
ることを可能とした。
次項では、収集したデータについての詳細な説明を行っていく。
5-3 データの説明
本研究では、次項で詳細を説明するデータを用いたデータ研究によって先述の仮説を検
証する。
データ研究を進める理由としては、本研究においては、事例研究・統計研究は本研究の
仮説を検証するのに適しておらず、私たちが独自の方法で収集・分析したデータにより仮
説を検証していくことが最適であると判断したためである。
事例研究は、特定の個人や集団を1つのサンプルとして取り上げ、そのサンプルについ
て詳細な資料・文献を収集して、そのサンプルが変化していくプロセスについて分析・検
証する方法である。しかし、本研究では特定の1つのサンプルに焦点を当て、その変化の
プロセスを分析・検証していくのではなく、次項で説明するデータを用いて天下りした人
物の天下り先・渡り先についてのデータを収集し、天下り先となっていた各企業の規模を、
定量的に比較することで仮説について分析・検証することが望ましい。
また、本研究は先述したように、カルダーが 1980 年代頃の高度成長期に収集したデータ
により主張した「影響力均等仮説」の真偽を検証するものであるが、カルダーが分析をし
ていない 1980 年台以降、天下りをした人物の天下り先・渡り先を検証するためのデータは
統計的なデータは存在していない。そのため、統計研究として統計資料を元に本研究を行
うことは困難であり、次項で詳しく説明をする私たちが独自の方法で収集・分析したデー
タを用いて、先述した仮説を検証していくことが最適の検証方法であるといえるだろう。
最後に、私たちが行っているデータ研究の大まかな流れを説明する。私たちは 1981・91・
00・09 年度の人事興信録から民間企業に天下りしている官僚たちのデータを収集し、その
データに出現した企業名をピックアップした。そして会社四季報等を用いて各企業の資本
金と従業員数を調べ、企業間の規模を定量的に比較できるようにした。このように操作で
きる数値にしたことによって、カルダーに対して曹氏が抱いている二つの疑問、つまり「第
1 に、大企業より中小企業に天下り者が多くあることを証明すること。第 2 に、天下り者に
よって該当企業の省庁へのアクセス能力が高くなることを実証すること」の解答を得よう
と考えている。
5-4 検証結果
5-4-1 散布図の作成
私たちは各業界ごとに 1966~75 年、1976~85 年、1986~95 年、1996~2005 年の 4 つ
に分けて散布図を作成した。これは官僚の天下り先企業が各年代の各業界の中でどの程度
の企業規模であったかを可視化できるようにするためである。併せて、各年代の業界第一
位の企業も図中に記載しており、業界第一位と天下り先企業の企業規模を比較しやすくし
ている。なお、縦軸は従業員数(単位:人)、横軸は資本金(単位:百万円)をとっている。
散布図は論文最後に添付しているので、そちらを参照のこと。
5-4-2 分類分け
作成した散布図をその形状により、二極化型・小規模型・拡散型の3つの型に分類した。
この3つの型に当てはまらないものはその他として除外した。分類は以下の通りである。
1.二極化型
医薬品:1966~75(医薬品-図 1)
ガラスセメント:1976~85(ガラスセメント-図 2)
化学:1966~75(化学-図 1), 1976~85(化学-図 2), 1996~(化学-図 4)
銀行:1996~(銀行-図 4)
建設:1996~(建設-図 4)
証券:1976~85(証券-図 2), 1996~(証券-図 4)
食料品:1966~75(食料品-図 1), 1986~95(食料品-図-3), 1996~(食料品-図 4)
生命保険:1976~85(生命保険-図 2), 1996~(生命保険-図 4)
通信:1976~85(通信-図 2), 1986~95(通信-図 3)
非鉄:1966~75(非鉄-図 1), 1986~95(非鉄-図 3)
不動産:1976~85(不動産-図 2), 1986~95(不動産-図 3)
輸送用機器:1986~95,(輸送用機器-図 3)
陸運:1966~75(陸運-図 1), 1976~85(陸運-図 2)
その他製造:1976~85(その他製造-図 2), 1986~95(その他製造-図 3)
2.小規模型
医薬品:1976~85(医薬品-図 2), 1996~(医薬品-図 4)
ガラスセメント:1966~70(ガラスセメント-図 1)
銀行:1966~75(銀行-図 1)
金属製品:1966~75(金属製品-図 1), 1976~85(金属製品-図 2)
サービス:1986~95(サービス-図 3), 1996~(サービス-図 4)
石油石炭:1966~75(石油石炭-図 1), 1976~85(石油石炭-図 2), 1986~95(石油石炭-図 3),
1996~(石油石炭-図 4)
輸送用機器:1996~(輸送用機器-図 4)
3.拡散型
卸売:1966~75(卸売-図 1), 1976~85(卸売-図 2)
化学:1986~95(化学-図 3)
ガス:1996~(ガス-図 4)
金属製品:1986~95(金属製品-図 3)
空運:1966~75(空運-図 1), 1976~85(空運-図 2), 1986~95(空運-図 3)
建設:1966~75(建設-図 1), 1976~85(建設-図 2), 1986~95(建設-図 3)
鉱業:1976~85(鉱業-図 2), 1986~95(鉱業-図 3)
小売:1976~85(小売-図 2), 1986~95(小売-図 3)
食料品:1976~85(食料品-図 2)
証券:1966~75(証券-図 1), 1986~95(証券-図 3)
精密機器:1966~75(精密機器-図 1)
生命保険:1986~95(生命保険-図 3)
損害保険:1976~85(損害保険-図 2), 1986~95(損害保険-図 3)
通信:1966~75(通信-図 1)
鉄鋼:1966~75(鉄鋼-図 1), 1976~85(鉄鋼-図 2), 1986~95(鉄鋼-図 3) , 1996~(鉄鋼-図 4)
電気:1966~75(電気-図 1), 1976~85(電気-図 2), 1986~95(電気-図 3) , 1996~(電気-図 4)
電気機器:1966~75(電気機器-図 1) , 1996~(電気機器-図 4)
輸送用機器:1976~85(輸送用機器-図 2)
その他製造:1966~75(その他製造-図 1)
各分類ごとに共通する傾向は殆ど見られないが、拡散型に関しては鉄鋼業界・電気業界
等のように、各年代を通じて散布図の形状が変化しない傾向が見受けられる。
5-4-3 変遷
次に、作成・分類した散布図を元に各業界における変遷を見ていく。ここでは、最も特
徴が顕著に表出している9つの業界を検証する。
卸売業界であるが、1976 年から 85 年にかけての天下り件数、1996 年以降の天下り件数
が少なくなっている。
1986 年から 95 年を除いて業界1位への天下りは行われていない
が、各年代を通して、いわゆる五大商社(三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、住友商事、丸
紅)に天下りが集中している。また、年代ごとに業界1位が変化している。1975 年までは大
蔵官僚の天下りが多数を占めていたが、1985 年にかけて大蔵官僚の割合が減少、商工省(後
の通商産業省)の割合が増加、1986 年以降は通産官僚が半数を占めている。(卸売-表
-1-1,1-2,2-1,2-2,3-1,3-2,4-1,4-2)
ここから考えられることとしては、1976~85 年の業界1位である三菱商事に、その前の
年代から 1 名(外務官僚、大使)天下っている。同様に、1986~95 年の業界1位である住友商
事に、その前の年代から 1 名(外務官僚、大使)が天下っており、1996 年以降の業界 1 位で
ある三井物産にはその前の年代から 1 名(通産省、審議官)天下っている。すなわち、中小企
業と大手企業の影響力均等化ではなく、五大商社間での影響力均等化が行われていると考
えられる。また、1975 年までは大蔵官僚の天下りが多数をしめていたが、上記から分かる
ように実際に影響力を持っていたのは外務官僚であろう。
空運業界でも、1976 年から 85 年にかけての天下り件数、1996 年以降の天下り件数が少
なくなっている。各年代全てにおいて業界1位である日本航空への天下りが行われており、
その他の天下り先企業では1位である日本航空と規模の差が大きい。また、中小企業への
天下りは行われていない。天下り先の出身官庁は、1966 年から 75 年にかけては逓信省が 4
割を占めているが、1976 年以降は運輸省が半数もしくは半数近くを占めている。(空運-表
-1-1,1-2,2-1,2-2,3-1,3-2,4-1,4-2)
鉄鋼業界ではその盛衰に伴い、1966 年から 75 年にかけての天下り件数が最も多く、そ
れ以降では大きく件数が落ち込んでいる。各年代において業界 1 位の新日本製鉄への天下
りが行われているとともに、大手企業への天下りも多数行われている。特に、1995 年まで
川崎製鉄・神戸製鋼所・日本鋼管・住友金属工業が大手群を形成していることが分かる。(鉄
鋼-図-1,2,3)しかし 1995 年以降になると、このような大手群は見受けることが出来なくなる。
出身官庁については、商工省(後の通商産業省)出身の官僚が全年代を通じて半数近くもしく
は半数以上を占めている。 (鉄鋼-表-1-1,1-2,2-1,2-2,3-1,3-2,4-1,4-2)
業界1位の企業と共に、大手群の企業への天下りが等しく行われている例である。大手
企業と中小企業を均等化するための天下りではなく、業界 1 位と大手群の企業の業界地図
を維持するために天下りが行われていると考えられる。
不動産業界でも、1966 年から 75 年にかけての天下り件数が最も多く、それ以降は 1986
年から 95 年にかけて再び増加するものの、1996 年以降は大きく落ち込んでいる。1966 年
から 75 年にかけて、1986 年から 95 年にかけて業界1位の三井不動産への天下りが行われ
ており、1995 年までは三井・三菱両旧財閥系の企業への天下りが多数見受けられる。また、
各年代を通して大手企業・中小企業への天下りも多数行われており、特に中小企業への天
下りが継続して行われていることは特徴的である。1966 年から 85 年にかけては大蔵官僚
が天下りの多数を占めているが、1986 年以降は運輸省がおよそ 3 割を占めるように変化し
ている。(不動産-表-1-1,1-2,2-1,2-2,3-1,3-2,4-1,4-2)
業界 1 位への天下りが恒常的でないこと、大手企業から中小企業まで幅広く天下りが行
われていることから、不動産業界では影響力均等化のために天下りをしているのではない
と考えられる。
電気業界では、天下り件数に関しては、1990 年が 17 件で最多となっているが各年代ほ
ぼ横ばい傾向である。また、1966~75 年を除く各年代では業界一位の東京電力への天下り
が行われており恒常化している。中小企業に天下りは見られなかったが、各年代とも地方
電力会社への天下りが行われており恒常化している。また特に電源開発への天下りが各年
代とも多く、特に 1980 年代、90 年代に多く見られる。電源開発は比較的大手企業の中で
も規模が小さいため、これは影響力均等化なのか、それともただ単に天下り先ポストとし
て恒常化しているだけなのか判断は難しい。官僚は全体的に商工省(通産省)出身が多い。
(電
気 図‐1、図‐2、図-3,図-4 参照)
通信業界の天下り件数に関しては、1986~95 年の 62 件が最多だがそれ以降減少してい
る。平均件数は 43 件である。1970 年代、1980 年代において業界一位の国際電信電話に天
下りが行われている。ただし、各年代とも地方テレビ局・ラジオ局への天下りが多く、影
響力均等化と考えることもできる。通信 図-3 では最大手とそれ以外の企業に 2 極化して
天下りしていることが顕著に表れている。但し年代が進むにつれ、地方テレビ局・ラジオ
局への天下り数は減少している。1990,2000 年代では、1985 年に日本電信電話が民営化
したために勢力図が変わった。業界 1 位の日本電信電話への天下りが多数みられる。電電
公社の名残として郵政省・大蔵省の天下りポストとして定着している可能性がある。地方
テレビ局への天下りがほとんどなくなった代わりに NTT への天下りが恒常化していると考
えられる。(通信図-1,2,3,4 参照)
建設業界の天下り件数に関しては、70 年代に 34 人だったのが、80 年代、90 年代には
135 件、123 年と爆発的に増加している。2000 年代になってからは 63 件と半減している。
これはバブル経済とその崩壊が影響しているのかもしれない。また、70 年代を除くほかの
すべての年代では業界一位企業への天下りがあるが、件数としては 1~3 人とごくわずかで
ある。天下り先になっている企業は、どの年代もほとんど変化ない。中小企業への天下り
数も各年代 1~7 人と少ない。また、天下り先の企業規模には非常にばらつきがあり、広範
囲に天下りが行われていることがわかる。さらに官僚の出身省庁としては、建設省が圧倒
的に多く、1980 年代以降のデータでは、建設業界に天下りした官僚のうち、約 3 分の1が
建設省出身である。
銀行業界の天下り件数は、70 年代に 41 件だったが、80 年には 80 件と 2 倍に達してい
る。90 年代まで横ばいだが、2000 年代になって 20 件まで落ち込み、ピーク時の 4 分の 1
程度に大きく減少した。また、70 年代を除くすべての年代で業界一位の銀行へは 1 名ずつ
天下りしている。中小企業への天下りは 70,80 年代には各 1~2 人ほどみられるが、90 年
代以降は全くない。官僚の出身省庁は大蔵省が各年代で 62%~90%と非常に多くの割合を
占めている。ただ、80、90 年代は通産省、外務省、運輸省などほかにも様々な省庁から若
干名の官僚が天下りしている。全体的に銀行の規模の散布にはばらつきがみられる。(銀行
図-1,2,3,4,参照)
金属製品業界への天下り件数は他業界と比較して、各年代、各 2~10 件と少ない。また
すべての年代を通して中小企業への天下り、業界一位企業への天下り先は全くなかった。
各年代で官僚が天下りしている企業は様々であり、同じ企業への天下りが恒常化している
ことはなさそうだ。官僚の出身省庁に関しても、様々であまり特徴がないが、強いて言う
ならば商工省、内務省、建設省、通産省出身が複数みられる。一番天下り件数が多かった
のは 1976~85 年の 10 件であったがその後 1986 年以降は半減して 5 件にとどまっている。
丁度 1983,87、90 年に第一、二、三臨時行政会改革推進審議会が発足しており、それらは
官僚機構の監視が最大の役目であった。そのような影響からも天下り件数は時代とともに
減少していると考えることもできる。
5-4-4 各年代の天下りの傾向
70 年代においては、75 年以前は大蔵省・鉄道省・商工省・逓信省からの天下りが多い。
例えば輸送用機器業界では 75 年以前は大蔵省・鉄道省・商工省で天下り全体の 7 割をしめ、
陸運業界では運輸省・鉄道省・逓信省の、通信業界では逓信省の、鉄鋼業界では商工省・
大蔵省・通産省の天下りの割合が高い。76 年以降では一転、通産省・運輸層・建設省・郵
政省の4省からの天下りが目立つ。例えば輸送用機器業界では 75 年以前とは一転通産省が
6割を占めるようになり、非鉄業界では通産省が、陸運業界では運輸省が、鉄鋼業界では
通産省が、金属製品業界では建設省が、通信では郵政省が、建設業界では建設省・運輸省
が、それぞれ天下り数を増加させている。したがって、70 年代では前半に大蔵省・鉄道省・
商工省・逓信省が、後半に通産省・運輸層・建設省・郵政省が力を持っていたといえる。
80 年代では、85 年までは大蔵省・逓信省・商工省・商工省への天下り傾向がみられる。
商社・不動産・損害保険の各業界においては大蔵省の、空輸業界や電気機器業界では逓信
省の、鉱業業界では商工省の天下りが増えている。85 年以降は通産省・運輸省の2省庁か
らの天下りが圧倒的である。特に通産省は、電気機器・商社・鉱業・損害保険・電気・化
学の各業界において天下り数1位になっている。不動産業界と空輸業界では、運輸省から
の天下りが増加している。80 年代は前半に大蔵省・逓信省・商工省・商工省が、通産省・
運輸省が強い影響力を持っていたといえる。
90 年代においては、通産省・大蔵省・厚生省からの天下りがあり、95 年を境にその天下
り傾向を強めているといえる。石油石炭業界ではそれ以前から通産省の天下りの割合が高
かったが、特に 96 年以降は6割以上を占めている。また銀行業界においてもそれ以前から
存在した大蔵省への天下りは 96 年以降 9 割へとさらに増加している。
90 年代から 00 年代にかけて、全体的に天下り数が減っているという傾向がみられる。例
えば不動産業界では 96 年以降天下り数が激減しており、また輸送用機器業界では 96 年以
降は通産省への天下り傾向は変わらないもののその数は減少している。しかし、依然とし
て天下り自体は存在している。
第 6 章 考察
本章においては業界別、年代別の天下り先企業の類型化が行われた。これらのデータを
もとに、カルダーの影響力均等化説の考察を進める。カルダーは自身の著書『平等化とエ
リートの役割』において以下のように述べている。
「国の経済にとって重要な部門、銀行や建設、通信関連分野では、小規模企業に多数の官
僚出身者が直接天下りし、政府の政策に対して何らかの影響力を保持することを助けてい
る。
」
まず初めに、この引用を踏まえてカルダーが本文中で指摘する銀行、建設、通信関連分
野について検証する。
銀行業界は、70年代を除く全ての年代において、その当時業界一位の銀行に天下る官
僚はいたが、その割合は非常に低く、多くの官僚は地方銀行等へ天下りしている。しかし、
銀行という業種はその性質上、大規模企業と中小企業の境界線を設定すること自体が困難
であるため一概に地方銀行を中小企業に分類することはできない。よって銀行業界におけ
るカルダーの影響力均等化説はグレーゾーンである。
建設業界は、70年代を除く全ての年代において、その当時業界一位の建設会社に天下
る官僚はいたが、割合は極めて低い。また、全体的な傾向としては従業員数と資本金の少
ない小規模企業に天下る官僚が集中している。このため、建設業界をカルダーの影響力均
等化説と結びつけて考えることは可能である。
通信関連分野は、1985年に日本電信電話(後の NTT)が民営化して以降、通信業界
における天下り先ポストにも変化が見られ、業界一位の日本電信電話への天下りが多数を
占めるようになった。このため、通信関連分野におけるカルダーの影響力均等化説は否定
される。
以上三つの業界の考察より、通信関連分野などの例を見てみるに、影響力均等化説の普
遍的妥当性は肯定しがたいものであると考えられる。しかし、これだけでは完全に影響力
均等化説を否定することは困難である。なぜなら、影響力均等化説を完全に否定できる根
拠は現段階では通信関連分野でしか見いだせていないからである。そこで、さらに別の側
面、つまり第五章で言及した「小規模型」業界(資本金と従業員数が比較的小規模な企業
に天下りするケースの多い業界)からの検証を試みる。以下では第五章で類型化された「小
規模型」の業界の金属、サービス、医薬品、ガラスセメント、石油石炭業界を影響力均等
化説の候補として検証する。
金属業界は、そもそも他の業種と比較すると相対的に天下り件数は少ないが、全ての年
代を通してその当時の業界一位の企業に天下りしている事例は見つからなかった。とはい
え、中小企業基本法が定める中小企業に天下る事例も一例しか見つからず多くは財閥系の
三井、三菱グループに天下る場合が多い。このため、金属分野におけるカルダーの影響力
均等化説は否定される。
サービス業界は、コンサル、旅行代理店、広告代理店などさまざまな業種が混ざりあっ
ているため影響力均等化説を検証すること自体が不可能である。企業規模の異なる業種が
多く混在している状況下で、安易に規模の比較だけですべてを決定することはできない。
医薬品業界に天下る件数が他の業種と比較すると極めて少なく傾向を図るのに十分なデ
ータ量ではないため、サービス業界と同様影響力均等化説を検証すること自体不可能であ
る。
ガラスセメント業界は、1980 年代まではわずかながら天下り事例が見受けられたが 1990
年代以降、ガラスセメント業界へ天下りしたケースは見受けられなかったため、検証する
こと自体が不可能である。
石油石炭業界は、全ての年代を通じてその当時業界一位に天下るケースは見受けられな
かった。その反面、中小企業基本法で定める中小企業へ天下る事例は複数見受けられ、こ
れらの企業を見てみると業界 1 位の企業と比べると規模がだいぶ小さく、官僚が規模の小
さい企業に天下りすることで、企業差を縮めているとはいえなくはない。よって石油石炭
業界とカルダーの均等化説を結びつけることは可能である。
以上五つの業界のうち、影響力均等化説を完全に否定できる根拠は金属業界からのみ見出
せた。
先述した八つの業界に関して、完全にカルダーの影響力均等化説を否定できたケースは
通信関連分野と金属分野の二例、天下り事例などが少ないため影響力均等化説を検証する
ことができないグレーゾーンは銀行、サービス、医薬品、ガラスセメントの四例、そして
カルダーの影響力均等化説が見受けられたのが建設業界、石油石炭業界の二例であった。
また、カルダーの指摘する国の経済にとって重要な部門、すなわち銀行や建設、通信関連
分野、さらには金属、サービス、医薬品、ガラスセメント、石油石炭などの「小規模型」
業界以外の業界も検証したところ商社、空運、鉄鋼、通信、不動産、電気業界などでもカ
ルダーの影響力均等化説は見受けられなかった。その一例として商社を取り上げる。商社
の場合、その当時の業界一位のもとへ天下るケースは複数あるが、中小企業基本法で定め
る中小企業へ天下るケースはほとんどない。また、トップの座を奪い合う五大商社への天
下りが大半であるため、影響力均等化説は否定される。
このように、建設業界、石油石炭業界などはカルダーの影響力均等化説と結びつけるこ
とは可能であったが全体的な傾向としては多くの業界においてカルダーの影響力均等化説
と結びつくケースは少なかった。そもそもカルダーの影響力均等化説は高度経済成長期に
唱えられた説であり、現代の日本におけるこの説はもはや説得力を持たないと考えられる。
このため、必ずしもカルダーの影響力均等化説があらゆる時代、あらゆる業界において普
遍性を帯びるわけではないという事が分かった。
第7章
結論
本論文は天下りのメリットのひとつといわれている影響力均等化説について実証し明ら
かにすることを目的としている。この影響力均等化説に対する批判として、曹圭哲が述べ
ているのは「大企業よりも中小企業への天下りが多いことが証明されていない」というも
のが挙げられているが、これを実証することでこの説が必ずしも正しくないということが
実証された。検証結果は建設、銀行、金属業界においては中小企業に多くの天下りが見ら
れており影響力均等化説を示す結果を出しているが、その他多くの業界においてはこれを
示しておらずこの説が正しくないという結果が示された。
しかしながら、ここではいくつかの問題点が指摘されよう。数点を挙げ、今後の課題と
したい。
まず一つ目に、影響力均等化説という天下り自体のメリットについて論じているにも関
わらず、データ収集の制約上、四季報・人事興信録に記載されている事例に限定しなけれ
ばならなかったため、天下りの一部傾向にしか焦点を当てることが出来なかったことであ
る。
二つ目に散布図作成の際に業界一位という区分けを売り上げで行ったのにもかかわらず、
企業規模の規定は中小企業基本法に従い資本金と従業員数で比較したことである。これに
よる微妙な差異の可能性は否定できない。しかし、どちらも法令で規定されていることで
あるため、今回はそのどちらもに遵守することを決定した。
また、先述の通り大企業・中小企業という分け方も法基準に従ったため、実際の企業規
模が反映されているとは言いがたく制度上の議論に終始してしまったことがあげられる。
そのため実際のいわゆる「大企業」
「中堅企業」と呼ばれるより細かい区分については鑑み
る事が出来なかった。
以上のような点は、この論文の改善点としてあげられるだろう。しかし、それらを鑑み
ても影響力均等化説の実証性研究という本稿本来の目的に関しては一定の成果を上げるこ
とが出来たと考えている。
<散布図一覧>
1966~75
医薬品
12000
(2)
従業員数(人)
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
5000
10000
15000
20000
資本金(百万円)
1976~85
医薬品
12000
(0)
従業員数(人)
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
5000
10000
15000
資本金(百万円)
20000
25000
30000
1986~95 医薬品
12000
(0)
従業員数(人)
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
10000
20000
30000
40000
50000
60000
資本金(百万円)
1996~
医薬品
9000
(0)
8000
従業員数(人)
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
10000
20000
30000
40000
資本金(百万円)
50000
60000
70000
1966~75
卸売
12000
従業員数(人)
10000
8000
(3)
6000
4000
2000
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
35000
資本金(百万円)
1976~85
卸売
12000
従業員数(人)
10000
(0)
8000
(2)
6000
(2)
4000
2000
0
0
10000
20000
30000
資本金(百万円)
40000
50000
60000
1986~95
卸売
10000
(3)
9000
従業員数(人)
8000
(3)
7000
(3)
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
50000
100000
150000
200000
250000
資本金(百万円)
1996~
卸売
8000
(0)
7000
従業員数(人)
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
50000
100000
150000
資本金(百万円)
200000
250000
1966~75
海運
6000
(0)
従業員数(人)
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
35000
資本金(百万円)
1976~85
海運
4000
3500
(0)
従業員数(人)
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
資本金(百万円)
30000
35000
40000
45000
1986~95
海運
1800
(0)
1600
従業員数(人)
1400
1200
1000
800
600
400
200
0
0
10000
20000
30000
40000
50000
60000
70000
80000
資本金(百万円)
1966~75
化学
16000
14000
(0)
従業員数(人)
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
10000
20000
30000
資本金(百万円)
40000
50000
1976~85
化学
16000
従業員数(人)
14000
12000
10000
(0)
8000
6000
4000
2000
0
0
10000
20000
30000
40000
50000
60000
資本金(百万円)
1986~95
化学
16,000
従業員数(人)
14,000
12,000
10,000
(0)
8,000
6,000
4,000
2,000
0
0
20000
40000
60000
資本金(百万円)
80000
100000
120000
1996~
化学
10000
9000
(0)
従業員数(人)
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
50000
100000
150000
200000
資本金(百万円)
1966~75 ガス
12000
(1)
従業員数(人)
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
10000
20000
資本金(百万円)
30000
40000
50000
1976~85
ガス
14000
(1)
12000
従業員数(人)
10000
8000
6000
4000
2000
0
10450
10500
10550
10600
10650
10700
10750
10800
10850
資本金(百万円)
1996~ ガス
14000
(1)
12000
従業員数(人)
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
50000
資本金(百万円)
100000
150000
1966~75
ガラス・セメント
12000
10000
(0)
従業員数(人)
8000
6000
4000
2000
0
0
2,000
4,000
6,000
8,000
10,000
12,000
資本金(百万円)
1976~85
ガラス・セメント
10000
(2)
9000
従業員数(人)
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
20000
40000
60000
資本金(百万円)
80000
100000
1966~75
サービス
3000
(0)
従業員数(人)
2500
2000
1500
1000
500
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
6000
7000
資本金(百万円)
1976~85
サービス
7000
(0)
従業員数(人)
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
1000
2000
3000
4000
資本金(百万円)
5000
1986~95
サービス
3500
従業員数(人)
3000
2500
2000
(2)
1500
1000
(0)
500
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
資本金(百万円)
1996~
サービス
10000
9000
(0)
従業員数(人)
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
(2)
0
0
20000
40000
60000
80000
100000 120000 140000 160000
資本金(百万円)
1966~75 機械
40000
35000
従業員数(人)
30000
25000
20000
15000
10000
5000
0
0
5000
10000 15000 20000 25000 30000 35000 40000 45000
資本金(百万円)
1976~85
機械
30000
従業員数(人)
25000
20000
(0)
15000
10000
5000
0
0
10000
20000
30000
40000
資本金(百万円)
50000
60000
70000
1996~
機械
16000
(0)
14000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
10000 20000 30000 40000 50000 60000 70000 80000 90000
資本金(百万円)
1966~75
金属製品
90000
80000
(0)
70000
従業員数(人)
従業員数(人)
12000
60000
50000
40000
30000
20000
10000
0
0
50000
100000
150000
資本金(百万円)
200000
250000
1976~85 金属製品
7000
6000
(0)
従業員数(人)
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
資本金(百万円)
1986~96
金属製品
9000
8000
(0)
従業員数(人)
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
20000
40000
60000
資本金(百万円)
80000
1996~
金属製品
12000
(0)
10000
従業員数(人)
8000
6000
4000
2000
0
0
50000
100000
150000
200000
250000
300000
資本金(百万円)
1966~75
銀行
16000
(0)
14000
従業員数(人)
12000
10000
8000
(2)
6000
4000
2000
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
資本金(百万円)
30000
35000
40000
1976~85
銀行
25000
(1)
20000
従業員数(人)
(5)
15000
10000
(4)
(2)
5000
(4)
(2)
(2)
0
0
20000
40000
60000
80000
100000
120000
資本金(百万円)
1986~95
銀行
30000
従業員数(人)
25000
(2)
20000
(1)
15000
10000
(7)
(2)
5000
0
0
100000
200000
300000
資本金(百万円)
400000
500000
600000
1996~
銀行
20000
(1)
18000
16000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
100000 200000 300000 400000 500000 600000 700000 800000 900000
資本金(百万円)
1966~75
14000
空運
12000
(4)
10000
従業員数(人)
従業員数(人)
14000
8000
6000
4000
(3)
(2)
2000
0
0
5000
10000
15000
20000
資本金(百万円)
25000
30000
35000
1976~85
25000
空運
従業員数(人)
20000
(2)
15000
10000
5000
(2)
0
0
10000
20000
30000
40000
50000
60000
70000
資本金(百万円)
1986~95
25000
空運
(2)
従業員数(人)
20000
15000
(2)
10000
5000
(3)
0
0
50000
100000
資本金(百万円)
150000
200000
1996~
空運
25000
従業員数(人)
20000
(1)
15000
10000
(2)
5000
0
0
50000
100000
150000
200000
資本金(百万円)
1966~75
建設
9000
8000
従業員数(人)
7000
(0)
6000
(2)
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
5000
10000
資本金(百万円)
15000
20000
1976~85
建設
14000
(2)
12000
従業員数(人)
10000
(6)
8000
(2)
6000
(3)
4000
(2)
(4)
2000
(3)(2)(2)
(2)(2)(5)
(3)
(2)(2)(2)
(2)
(3)
(2)
(3)
(5)
(2)
0
0
20000
40000
60000
80000
資本金(百万円)
1986~95
建設
14000
従業員数(人)
12000
(2)
10000
(1)
(3)
8000
6000
(2)
(5)
(2)
4000
(2)
(3)
(3)
(8)
(5)
(2)
(3)
(2)
(4)
(2)(2)
(3)
(3)
(2)
2000
0
0
10000 20000 30000 40000 50000 60000 70000 80000 90000
資本金(百万円)
1996~
建設
20000
(4)
18000
従業員数(人)
16000
14000
12000
(3)
(2)
10000
8000
6000
(4)
4000
(4)
(2)
(2)
(2)
2000
0
0
50000
100000
150000
200000
250000
資本金(百万円)
1966~75
鉱業
14000
(1)
12000
従業員数(人)
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
5000
10000
15000
資本金(百万円)
20000
25000
1976~85
鉱業
2500
(1)
2000
従業員数(人)
(2)
1500
(2)
1000
500
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
25000
30000
資本金(百万円)
1986~95
鉱業
2500
従業員数(人)
2000
1500
(0)
1000
500
0
0
5000
10000
15000
資本金(百万円)
20000
1996~
鉱業
1400
(0)
1200
従業員数(人)
1000
800
600
400
200
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
35000
資本金(百万円)
1966~75
小売
500
450
400
従業員数(人)
350
300
250
200
150
100
50
0
0
5000
10000
15000
資本金(百万円)
20000
25000
30000
1976~85
小売
20000
(0)
18000
従業員数(人)
16000
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
資本金(百万円)
1986~95
小売
18000
(2)
16000
従業員数(人)
14000
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
資本金(百万円)
30000
35000
40000
1996~
小売
16000
14000
(1)
従業員数(人)
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
10000
20000
30000
40000
50000
資本金(百万円)
★証券
60000
70000
80000
1966~75
食料品
12000
従業員数(人)
10000
(0)
8000
6000
4000
2000
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
資本金(百万円)
1976~85
食料品
9000
8000
(0)
7000
従業員数(人)
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
5000
10000
15000
20000
資本金(百万円)
25000
30000
35000
1986~95
食料品
9000
8000
(0)
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
20000
40000
60000
80000
100000
120000
資本金(百万円)
1996~
食料品
25000
20000
従業員数(人)
従業員数(人)
7000
(2)
15000
10000
5000
0
0
20000
40000
60000
資本金(百万円)
80000
100000
120000
1966~75
生命保険
16000
14000
12000
従業員数(人)
(0)
(2)
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
5000000
10000000
15000000
保有契約高(百万円)
1976~85
生命保険
18000
16000
(1)
従業員数(人)
14000
12000
10000
8000
6000
(2)
4000
2000
0
0
500000
1000000
保険料等収入(百万円)
1500000
2000000
1986~95
生命保険
100000
(3)
90000
(2)
従業員数(人)
80000
(2)
70000
60000
50000
40000
30000
20000
10000
0
0
1000000
2000000
3000000
4000000
5000000
6000000
保険料等収入(百万円)
1996~
生命保険
80000
(1)
70000
従業員数(人)
60000
50000
40000
30000
20000
10000
(2)
0
0
1000000 2000000 3000000 4000000 5000000 6000000 7000000
保険料等収入(百万円)
1966~75
精密機器
16000
14000
従業員数(人)
12000
10000
8000
6000
4000
(0)
2000
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
資本金(百万円)
1986~95
精密機器
16000
従業員数(人)
15500
(2)
15000
14500
14000
13500
(0)
13000
0
20000
40000
60000
資本金(百万円)
80000
100000
1966~75
石油石炭
3500
(0)
従業員数(人)
3000
2500
2000
1500
1000
500
(2)
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
資本金(百万円)
1976~85
石油石炭
3500
(0)
3000
従業員数(人)
2500
2000
1500
1000
500
0
0
10000
20000
資本金(百万円)
30000
40000
1986~95
石油石炭
3000
(0)
従業員数(人)
2500
2000
1500
1000
500
0
0
20000
40000
60000
80000
100000
120000
140000
資本金(百万円)
1996~ 石油石炭
3000
(0)
従業員数(人)
2500
2000
1500
(2)
1000
500
0
0
50000
100000
資本金(百万円)
150000
1966~75 倉庫
2500
(0)
従業員数(人)
2000
1500
1000
500
0
0
500
1000
1500
2000
資本金(百万円)
1976~85 倉庫
300
(0)
従業員数(人)
250
200
150
100
50
0
0
500
1000
1500
資本金(百万円)
2000
2500
3000
1966~75
損害保険
4500
4000
従業員数(人)
3500
(0)
3000
2500
2000
1500
1000
500
(2)
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
16000
資本金(百万円)
1976~85
損害保険
8000
(0)
7000
従業員数(人)
6000
5000
(2)
4000
(2)
3000
(2)
2000
1000
(2)
0
0
10000
20000
30000
資本金(百万円)
40000
50000
1986~95
損害保険
14000
従業員数(人)
12000
(7)
10000
8000
(2)
(6)
6000
4000
2000
0
0
20000
40000
60000
80000
100000
120000
資本金(百万円)
1996~
損害保険
16000
14000
(3)
従業員数(人)
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
20000
40000
60000
資本金(百万円)
80000
100000
120000
1966~75
通信
5000
4500
(1)
4000
従業員数(人)
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
0
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
7000
資本金(百万円)
1976~85
通信
7000
6000
(3)
従業員数(人)
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
2000
4000
6000
8000
10000
資本金(百万円)
12000
14000
16000
18000
1986~95
通信
300000
(7)
従業員数(人)
250000
200000
150000
100000
50000
0
(3)
(5)
0
100000 200000 300000 400000 500000 600000 700000 800000 900000
資本金(百万円)
1996~
通信
40000
35000
従業員数(人)
30000
25000
20000
15000
(2)
10000
(2)
5000
(2)
(6)
0
0
200000
400000
600000
資本金(百万円)
800000
1000000
1966~75
鉄鋼
90000
80000
(4)
従業員数(人)
70000
60000
50000
(2)
40000
(2)
30000
(2)
20000
10000
0
0
50000
100000
150000
200000
250000
資本金(百万円)
1976~85
鉄鋼
80000
(2)
70000
従業員数(人)
60000
50000
40000
(3)
30000
20000
10000
0
0
50000
100000
150000
200000
資本金(百万円)
250000
300000
350000
1986~95
鉄鋼
60000
(4)
従業員数(人)
50000
40000
30000
(2)
20000
(2)
10000
0
0
50000 100000 150000 200000 250000 300000 350000 400000 450000
資本金(百万円)
1996~
鉄鋼
25000
従業員数(人)
20000
(1)
15000
10000
5000
0
0
50000 100000 150000 200000 250000 300000 350000 400000 450000
資本金(百万円)
1966~75
電気
40000
(0)
35000
従業員数(人)
30000
25000
20000
15000
(2)
10000
5000
0
0
50000
100000
150000
200000
250000
資本金(百万円)
1976~85
電気
45000
(1)
40000
従業員数(人)
35000
30000
25000
20000
15000
10000
5000
(6)
0
0
100000
200000
300000
資本金(百万円)
400000
500000
600000
1986~95
電気
45000
40000
(3)
従業員数(人)
35000
30000
25000
20000
15000
10000
(2)
5000
(6)
0
0
100000
200000
300000
400000
500000
600000
700000
資本金(百万円)
1996~
電気
45,000
(2)
40,000
従業員数(人)
35,000
30,000
25,000
(4)
20,000
15,000
(2)
10,000
5,000
(4)
0
0
100000 200000 300000 400000 500000 600000 700000 800000
資本金(百万円)
1966~75
電気機器
60000
(2)
従業員数(人)
50000
40000
(8)
30000
20000
10000
(3)
0
0
10000
20000
30000
40000
50000
60000
資本金(百万円)
1976~85
電気機器
80000
70000
従業員数(人)
60000
50000
40000
(1)
30000
20000
(5)
10000
0
0
50000
100000
150000
200000
資本金(百万円)
250000
300000
1986~95
電気機器
450000
400000
従業員数(人)
350000
300000
250000
200000
150000
100000
(0)
50000
0
0
50000
100000
150000
200000
250000
300000
350000
資本金(百万円)
1996~
電気機器
70000
従業員数(人)
60000
50000
(1)
40000
30000
20000
10000
0
0
100000
200000
300000
資本金(百万円)
400000
500000
1966~75 非鉄
12000
従業員数(人)
10000
(2)
8000
6000
4000
2000
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
資本金(百万円)
1976~85
非鉄
12000
従業員数(人)
10000
8000
6000
(2)
4000
2000
0
0
5000
10000
15000
資本金(百万円)
20000
25000
1986~95
非鉄
8000
7000
従業員数(人)
6000
(0)
5000
4000
3000
2000
1000
0
0
10000
20000
30000
40000
50000
60000
70000
80000
90000
資本金(百万円)
1996~
非鉄
16000
従業員数(人)
14000
(0)
12000
10000
8000
6000
4000
2000
0
0
20000
40000
60000
80000
資本金(百万円)
100000
120000
1966~75
不動産
25000
(2)
従業員数(人)
20000
15000
10000
5000
(7)
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
30000
35000
資本金(百万円)
1976~85
不動産
2000
(4)
1800
従業員数(人)
1600
1400
1200
1000
(0)
800
600
(3)
400
200
0
0
10000 20000 30000 40000 50000 60000 70000 80000 90000
資本金(百万円)
1986~95
不動産
1400
(4)
従業員数(人)
1200
1000
800
(4)
600
400
200
0
0
20000
40000
60000
80000
100000
120000
資本金(百万円)
1966~75
輸送用機器
45000
40000
(2)
従業員数(人)
35000
30000
(
2)
25000
20000
15000
10000
5000
4)
(
0
0
50000
100000
150000
200000
資本金(百万円)
250000
300000
140000
1976~85
輸送用機器
50000
2)
45000
(
従業員数(人)
40000
35000
30000
25000
20000
15000
10000
(
5000
2)
2)
0
0
(
10000 20000 30000 40000 50000 60000 70000 80000 90000
資本金(百万円)
1986~95
輸送用機器
80000
70000
(2)
従業員数(人)
60000
50000
40000
30000
(2)
20000
(2)
10000
0
0
50000
100000
150000
200000
資本金(百万円)
250000
300000
1996~
輸送用機器
80000
70000
(0)
従業員数(人)
60000
50000
40000
30000
20000
(2)
10000
0
0
100000
200000
300000
400000
500000
600000
資本金(百万円)
1966~75
陸運
80000
(2)
70000
従業員数(人)
60000
50000
40000
30000
20000
10000
(4)
(2)
0
0
5000
10000
15000
20000
25000
資本金(百万円)
30000
35000
40000
45000
1976~85
陸運
70000
(2)
60000
従業員数(人)
50000
40000
30000
20000
10000
(2)
0
0
10000
20000
30000
40000
50000
60000
資本金(百万円)
1986~95
陸運
90000
(2)
80000
従業員数(人)
70000
60000
50000
(1)
40000
30000
20000
10000
(2)
(2)
0
0
50000
100000
150000
資本金(百万円)
200000
250000
1996~
120000
陸運
従業員数(人)
100000
80000
(1)
60000
40000
20000
0
0
50000
100000
150000
資本金(百万円)
★その他製造
200000
250000
[後注]←要作業
<第3章 参考文献>
[1官庁活性化説]
『行政学』(真渕勝(2009)有斐閣)
「特集 天下り禁止、どうなる中央官庁 組織の新陳代謝、人件費抑制が課題--「定年まで
勤務できる環境」必要に」
(今泉勝 地方行政 (10106 号), 12-15, 2009-11-30 時事通信社)
『日本の官僚人事システム』(稲継裕昭(1996)東洋経済新報社)
『「天下り」の研究』
(川村祐三(1994)世界 / 岩波書店)
『官僚の天下りがもたらす費用』
(小林克也(2000)研究年報経済学 / 東北大学経済学会)
「国家公務員の昇進管理について」
(中島幸子(1984)季刊人事行政 28 号)
『人的資源から見た戦後日本の官僚組織と特殊法人』(猪木武徳(1993)山川出版社)
[4ネットワーク説]
『日本の天下りネットワークと政府―企業関係』(曹圭哲、1993 年、筑波法政)
『予算編成過程における林野庁技術官僚の行動分析』
(竹本豊、2010 年、
林業経済研究 vol.56
No.2)
『「天下り」とは何か』(中野雅至、2009 年、講談社現代新書)
『行政学』(真渕勝、2009 年、有斐閣)
「第二電電――「分業」で機動力発揮、戦略分野に人材を傾斜配分」
(1995/01/23 日本経済
新聞 朝刊 13 ページ)
「DDI社長に日沖昭氏昇格、さよなら郵政出身社長――競争時代トップ像変化。」
(1998/04/09 日経産業新聞 24 ページ)
「救済目的は本末転倒、NTT再編後の基金構想、DDIの奥山社長が反発。」
(1998/06/19 日本経済新聞 朝刊 11ページ)
「特集――年金消失、AIJの闇、社保庁人脈、受託に駆使、中小基金の弱み突く。」
(2012/07/10 日本経済新聞 朝刊 7ページ)
「金融庁、社保庁OBに警告へ、年金基金にAIJ紹介。」(2012/04/27 日本経済新聞
夕刊 3ページ)
「公取委、国交省に改善要求、官製談合、OBも戒め――天下りと受注連動」(2007/03/09
日本経済新聞 朝刊 42ページ)
「倒産ゼネコンの管財人にまで納まる天下り問題体質」舘沢貢次『政界』2002年12月号
『AERA』2005 年 6 月 13 日号
[7比較]
ケント・E・カルダー(菅原聖喜)「平等化とエリートの役割り-政府と企業の関係におけ
る調整・仲介者としての官僚出身者-」
、木鐸社『レヴァイアサン』5 号、1989 年秋
曹圭哲「日本の政府・企業関係と政府動員のオズモスティックネットワーカーとしての天
下り」1996
[各章筆者]
1章 宮嶋、新垣、仲道、日笠
2章 清水
3章 松原、矢田、家亀
4章 今野、中嶋
5章 宮本、大芝、西畑、御園生、吉田、高木、眞野、落合、山田
6章 小野
7章 室川、田村
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