...

Pdめっき電気接点の特性

by user

on
Category: Documents
2

views

Report

Comments

Transcript

Pdめっき電気接点の特性
Pd めっき電気接点の特性
Properties of Pd Plated Electronic Contact
鈴木
智
*
谷本守正
Satoshi Suzuki
*
Morimasa Tanimoto
概 要 Pd めっきは,半導体リードフレームでは徐々に採用が拡大されているが,コネクター用
途での Pd − Ni 下地 Au めっき以外は電気接点部品での実用例が少なく,その特性が注目される。電
気接点材料に要求される特性は,基材の物理特性に加え,接触抵抗が長期に渡り安定していること,
半田接続性に優れること,摺動抵抗が小さいことが主で,本報では,環境試験前後の接触抵抗と半田
付け性,及び,摩擦係数を,AuCo めっき,Ag めっき,Ni めっき,Sn めっきと比較した。
1)Ni めっきの表面に厚さ 0.05 µm 以上の Pd めっきを施した材料は,今回の AuCo めっきや Ag め
っき等との比較特性評価で満足しうる結果が得られ,電気接点部品に有効であることが分かっ
た。
2)Pd めっきは,AuCo めっきに比べて半田付け性が,Ag めっきに比べて耐硫化性と摺動特性が,
Sn めっきに比べて耐大気酸化性と摺動特性が,Ni めっきに比べて接触抵抗,耐食性,半田付け
性,摺動特性が優れており,バランスがとれた電気接点であることがわかる。
3)Pd めっきの表面にフラッシュ Au めっきを施すことにより,半田付け性が向上する。
4)摺動を伴う電気接点用途では,固定片側と可動片側のめっき皮膜の組合せで動摩擦係数が異な
り,Ag と Ag の同種の組合せが最も大きくなり,次いで Au と Ag の組合せが大きい。Pd は,い
ずれの組合せでも比較的小さな動摩擦係数が得られており好適である。
5)Pd めっきの特性は,Pd めっき厚により大きく変化するため,用途によってめっき厚の選定を
する必要がある。
イムが長い等の問題があった。Pd めっきは,これらの問題を
1. はじめに
解決できることから使用量が拡大の方向にある 1), 2)。
Pd めっき材は,電気接点部品ではほとんど実用化されてい
電気接点部品の多くは,機械的特性に優れた Cu 合金基材の
表面に,電気接続性,耐食性,半田付け性に優れた Au,Ag,
ないが,電気接点への応用が期待できる材料であり,その特性
Sn,Ni 等のめっき皮膜を形成した材料が用いられている。
を Au めっき材,Ag めっき材,Ni めっき材及び Sn めっき材と
比較した結果について報告する。
これらのめっき製品は,一長一短があり必ずしも要求特性を
満足するものではない。例えば,Ag は初期の接触抵抗及び半
2. 実験
田付け性が安定で操作スイッチに多用されているが,
耐硫化性,
2.1 供試材
耐摩耗性,マイグレーション性に劣り,Sn 及び半田は,端
子・コネクターに多用されているが,耐熱性,耐摩耗性が劣っ
板厚 0.10 mm,幅 30 mm の C5210 条を用い,アルカリ電解脱
ており改善が要求されている。比較的欠点の少ない Au であっ
脂,酸洗のめっき前処理を施した後,表 1 に示しためっき処理
ても価格と半田付け時の脆化問題が指摘されている。
を行い供試材とした。
近年,Cu 系のリードフレーム材料では Pd めっきを施した材
2.2 特性評価方法
2.2.1 接触抵抗測定
料が注目され実用化されている。従来の半導体装置の組立て工
表 2 に示した環境試験を行い,試験前後の接触抵抗を測定し
程は,プレス加工したリードフレーム用材料のインナーリード
部に Ag めっきを施し,ダイボンディング及びワイヤーボンデ
た。
ィング後に樹脂モールドし,リード部に半田めっきを施して製
◆ 測定条件
プローブ :頭部 5R の純 Ag
造していたが,Ag のマイグレーション,Pb の使用,リードタ
*
メタル総合研究所 第一研究部
46
荷重
: 49 mN{5 gf}
電流
: 10 mA
Pd めっき電気接点の特性
一般論文
2.2.2 半田付け性
f1 :左側摩擦力
表 2 に示した環境試験を行い,試験前後の半田付け性(濡れ
f2 :右側摩擦力
P :接触荷重(49 mN)
時間)を測定した。
◆ 測定条件
3. 結果
共晶半田 230 ℃,浸漬速度 25 mm/sec,浸漬深さ 10 mm,浸
漬時間 10 sec,フラックス 25 %ロジン/メタノール
3.1 接触抵抗測定
2.2.3 耐摩耗性
図 2 ∼ 7 に環境試験前後の接触抵抗の測定結果を示した。Ni
それぞれのめっき皮膜の組合せで動摩擦係数の測定を行っ
めっきについては,常態でも接触抵抗が大きいため,他のめっ
た。図 1 に示した Bowden 型低荷重摩耗試験機を用い,プロー
き皮膜とは別に,Ni めっきの環境試験前後の接触抵抗測定結
ブ側を先端 5R に張り出し加工して,プレート側を左右に往復
果を図 7 に示した。
図 2 に常態の接触抵抗測定結果を示した。Ni 以外のめっき皮
移動させてプローブにかかる応力をロードセルによって検出し
膜は 1.5 ∼ 6 mΩ の接触抵抗で,Ag めっきが最も小さくなって
次式により動摩擦係数を求めた。
いる。Pd めっきは,めっき厚が厚いほど接触抵抗のバラツキ
µk = (f1 + f2) /2/P
が小さい傾向にあるものの,0.005 µm の極薄めっきでも 5 mΩ
µk :動摩擦係数
程度の接触抵抗が得られている。Pd めっきの表面に Au フラッ
シュめっきを施した材料は,Pd めっきと同等の接触抵抗であ
表1
る。AuCo めっきは,Pd めっきよりやや接触抵抗が低い傾向に
供試材の種類
Test samples
ある。Sn めっきは,3 ∼ 5 mΩ 程度で貴金属めっきよりやや接
触抵抗が高目である。Ni めっきは,表面に強固な酸化物を形
下地めっき
仕上げめっき
No.
厚さ
種類
(µm)
種類
1 光沢Ni 0.5
Pd
2 光沢Ni 0.5
3 光沢Ni 0.5
4 光沢Ni 0.5
Pd
5 光沢Ni 0.5
Pd
6 光沢Ni 0.5
フラッシュめっき
皮膜硬度 厚さ
Hv
(µm)
種類
厚さ
(µm)
0.005
−
−
Pd
0.01
−
−
Pd
0.02
−
−
0.05
−
−
0.10
−
−
Pd
0.20
−
−
7 光沢Ni 0.5
Pd
0.50
−
−
8 光沢Ni 0.5
Pd
0.02
Au
0.005
9 光沢Ni 0.5
Pd
0.05
Au
0.01
10 光沢Ni 0.5
Pd
0.10
Au
0.02
11 光沢Ni 0.5 Au0.2Co
0.02
−
−
12 光沢Ni 0.5 Au0.2Co
0.05
−
−
13 光沢Ni 0.5 Au0.2Co
280
280
190
0.10
−
−
14 光沢Ni 0.5 Au0.2Co
0.20
−
−
15 光沢Ni 0.5 Au0.2Co
0.50
−
−
16 光沢Ni 0.5 無光沢Ag
90
2.0
−
−
17
−
−
光沢Sn
35
2.0
−
−
18
−
−
光沢Ni
450
2.0
−
−
成していることから接触抵抗が 100 ∼ 1000 mΩ もあり,低荷重
用途では電気接点に使用できない値である。
図 3 に大気加熱後の測定結果を示した。大気加熱によって接
触抵抗が上昇したのは AuCo めっきのみであったが実用上問題
ないレベルである。AuCo 合金中の Co の酸化によるものと考
えられる。
バランサー
ロードセル
荷重
プローブ
移動テーブル
プレート
摺動
図1
Bowden 型低荷重摩耗試験機
Schematic view of Bowden type wear test apparatus
10
試験名
9
環境試験条件
Envionment acceleration test conditions
装置
8
接触抵抗(mΩ)
表2
条件
大気加熱 タバイエス
温度155℃,16時間
ペックエアバス 試験
6
5
4
3
温度105℃,相対湿度100%RH,
気圧1.22×105 Pa,16時間
2
H2S 3 ppm,温度40℃,
相対湿度80%,24時間
0
1
0.
00
5P
d
0.
01
Pd
0.
02
Pd
0.
05
Pd
0.
10
Pd
0.
20
Pd
0.
00 0.50
5A
Pd
u
0. -0.0
01
Au 2Pd
0. 0.05
02
Au Pd
-0
.1
0. Pd
02
Au
0. Co
05
Au
0. Co
10
Au
0. Co
20
Au
0. Co
50
Au
Co
2.
0A
g
2.
0S
n
タバイエス
耐湿試験
ペックPCT
山崎精機製希薄
硫化試験
混合ガス試験機
7
H2S 100 ppb,NO2 200 ppb,
混合ガス 山崎精機製希薄
Cl2 20 ppb,温度30℃,
混合ガス試験機
試験
相対湿度75%,24時間
めっき皮膜
図2
47
常態の接触抵抗
Contact resistance as plated
平成 12 年 7 月
第 106 号
古 河 電 工 時 報
mΩ になっている。Au フラッシュめっきは,Pd めっきを改善
図 4 に耐湿試験後の測定結果を示したが,供試材すべてが常
態と変わらない接触抵抗であった。
する効果が見られている。AuCo めっきは,劣化が小さく,め
図 5 に硫化試験後の測定結果を示した。常態に比べて Ag め
っき厚 0.02 µm でも 10 mΩ 以下である。Ag めっきは,硫化銀
っきの劣化が最も大きく,Sn めっきは劣化が見られない。Pd
を生成しやすいために劣化が大きく最大 40 mΩ の接触抵抗に
めっき,Au フラッシュ Pd めっき,AuCo めっきでは,わずか
なっている。Sn めっきは,劣化が小さい。
に接触抵抗が上昇しているものの 10 mΩ 以下であり劣化が小
Pd めっきの劣化は,Pd そのものの腐食ではなく,めっきピ
ンホールでの Pd と Ni の電食によるもので,Ni がアノード酸化
さい。
図 6 に混合ガス試験後の結果を示した。Pd めっきは,めっ
したためと推定される。
3.2 半田付け性測定結果
ものでは 10 mΩ を越え,0.005 µm では Ag と同レベルの最大 30
図 8 に環境試験前後の半田付け性の測定結果を示した。
45
9
40
8
35
接触抵抗(mΩ)
10
7
6
5
4
3
30
25
20
15
2
10
1
5
0
0
0.
00
5P
d
0.
01
Pd
0.
02
Pd
0.
05
Pd
0.
10
Pd
0.
20
Pd
0.
00 0.50
5A
Pd
u
0. -0.0
01
Au 2Pd
0. 0.05
02
Au Pd
-0
.1
0. Pd
02
Au
0. Co
05
Au
0. Co
10
Au
0. Co
20
Au
0. Co
50
Au
Co
2.
0A
g
2.
0S
n
0.
00
5P
d
0.
01
Pd
0.
02
Pd
0.
05
Pd
0.
10
Pd
0.
20
Pd
0.
00 0.50
5A
Pd
u
0. -0.0
01
Au 2Pd
-0
.
0.
02 05P
Au d
-0
.1
0. Pd
02
Au
0. Co
05
Au
0. Co
10
Au
0. Co
20
Au
0. Co
50
Au
Co
2.
0A
g
2.
0S
n
接触抵抗(mΩ)
き厚の薄いものほど劣化が大きく,めっき厚が 0.05 µm 以下の
めっき皮膜
図3
めっき皮膜
図6
大気加熱後の接触抵抗
Contact resistance after heat aging test
10
混合ガス試験後の接触抵抗
Contact resistance after mixed gas test
10000
9
7
接触抵抗(mΩ)
接触抵抗(mΩ)
8
6
5
4
3
2
1000
100
1
0
0.
00
5P
d
0.
01
Pd
0.
02
Pd
0.
05
Pd
0.
10
Pd
0.
20
Pd
0.
00 0.50
5A
Pd
u
0. -0.0
01
Au 2Pd
0. 0.05
02
Au Pd
-0
.1
0. Pd
02
Au
0. Co
05
Au
0. Co
10
Au
0. Co
20
Au
0. Co
50
Au
Co
2.
0A
g
2.
0S
n
10
常態
大気
硫化
混合ガス
環境試験
めっき皮膜
図4
耐湿
図7
耐湿試験後の接触抵抗
Contact resistance after humidity test
10
Ni めっきの接触抵抗
Contact resistance of Ni plating
12
9
半田濡れ時間(sec)
7
6
5
4
3
2
1
0
8
常態
大気
耐湿
硫化
混合
6
4
2
0.
00
5P
d
0.
01
Pd
0.
02
Pd
0.
05
Pd
0.
10
Pd
0.
20
Pd
0.
00 0.5
5A 0P
d
u
0. -0.
01 02
Au Pd
0. 0.05
02
Au Pd
-0
.1
Pd
2.
0. 0Ni
02
Au
0. Co
05
Au
C
0.
10 o
Au
0. Co
20
Au
0. Co
50
Au
Co
2.
0A
g
2.
0S
n
めっき皮膜
図5
10
0
0.
00
5P
d
0.
01
Pd
0.
02
Pd
0.
05
Pd
0.
10
Pd
0.
20
Pd
0.
00 0.50
5A
Pd
u0
0.
01 .02
Au Pd
0. 0.05
02
Au Pd
-0
.1
0. Pd
02
Au
0. Co
05
Au
0. Co
10
Au
0. Co
20
Au
0. Co
50
Au
Co
2.
0A
g
2.
0S
n
接触抵抗(mΩ)
8
めっき皮膜
硫化試験後の接触抵抗
Contact resistance after H2S test
図8
48
環境試験前後の半田付け性
Solder wettabiliy before and after environment tests
一般論文
Pd めっき電気接点の特性
化し 10 秒でも濡れない。
3.2.1 常態の半田付け性
Pd めっきは,めっき厚 0.005 µm 材が約 4 秒の濡れ時間で,
3.2.5 混合ガス試験後の半田付け性
0.01 µm 以上では約 2 秒の濡れ時間になっている。
Pd めっきは,めっき厚が薄いほど劣化が激しくなっている。
Au フラッシュ Pd めっきは,Pd めっきに比べて濡れ時間が
Pd めっき厚 0.005 µm では 10 秒でも濡れず,0.05 µm 以上のめ
短縮する傾向にあり,Au めっき厚 0.02 µm 材では 1.2 秒程度に
っき厚で 4 秒以下の濡れ時間になる。
Au フラッシュ Pd めっきは,硫化試験と同等の劣化である。
なっている。
Ni めっきは,強固な酸化膜を形成しているため,半田浸漬
AuCo めっきは,0.02 µm のめっき厚でも劣化が見られない。
時間 10 秒でも濡れない。
Ag めっきは,硫化試験と同様に 10 秒でも濡れず,Sn めっき
AuCo めっきは,めっき厚が厚くなるに従い,濡れ時間が長
は,劣化していない。
くなる傾向になっている。Au の半田中への溶解による Co の濃
3.3 耐摩耗性
縮に起因すると推定され,AuCo めっき厚が 0.5 µm 材では 7 秒
3.3.1 同種めっきの動摩擦係数
の濡れ時間になり,半田付けを行う用途での使用は難しいもの
同種めっき皮膜同士の動摩擦係数の測定結果を図 9 に示し
と思われる。
た。
Ag めっきは,濡れ時間が 1 秒程度で,今回試験しためっき
Pd めっきは,0.005 µm 材が µk = 0.3 程度で,めっき厚が厚
皮膜の中で最も優れている。Ag は,半田への溶解速度が速い
くなるに従って上昇の傾向にあり,めっき厚 0.5 µm では µk =
こと,及び Ag の酸化物が 190 ℃以上で分解することがその理
0.35 程度になる。
Au フラッシュ Pd めっきは,Pd めっきとほぼ同じ動摩擦係
由である。
Sn めっきは,濡れ時間が 1.5 秒程度である。
数である。
AuCo めっきは,Pd めっきとは逆の傾向で,めっき厚が厚く
3.2.2 大気加熱後の半田付け性
Pd めっきは,常態よりわずかに半田付け性が劣化している。
なるに従って動摩擦係数が低下する傾向にあり,AuCo めっき
Pd の酸化と Pd めっき層のピンホールでの下地 Ni の酸化による
厚 0.02 µm では µk = 0.5 で,0.5 µm では µk = 0.18 程度になって
劣化と考えられるが,劣化の程度が少ないため,Pd めっき厚
いる。
が 0.01 µm 以上の材料では 3 秒以下の濡れ時間であり,実用上
Ni めっきと Sn めっきは,同レベルの µk = 0.5 であった。
Ag めっきは,凝着摩耗が発生して µk = 1.3 になり,摺動接
は大きな問題にはならないものと考えられる。
Au フラッシュ Pd めっきも,Pd めっきと同様の劣化になっ
点に使用するためにはコンタクトオイルが必須であることが分
ている。
かる。
AuCo めっきは,劣化が大きく,いずれのめっき厚でも濡れ
3.3.2 めっき皮膜の組合せによる動摩擦係数
時間が 4 秒以上であり,AuCo めっき厚 0.50 µm 材では 10 秒で
図 10 にめっき皮膜の組合せによる動摩擦係数の測定結果を
ぎりぎり濡れるレベルである。
示した。
Ag めっきは,酸化するものの,前述のように酸化物が分解
ここで用いためっき皮膜は,めっき厚さ 0.1 µm の Pd,0.02
µm の Au フラッシュを施した 0.1 µm の Pd,0.1 µm の AuCo,
するため,常態と変わらぬ濡れ時間になっている。
Sn めっきは,酸化 Sn の生成により 10 秒以上の濡れ時間にな
Ni めっき,Ag めっき及び Sn めっきである。
っている。
スイッチの可動接点と固定接点を想定して,それぞれのめっ
3.2.3 耐湿試験後の半田付け性
き皮膜を組み合わせて動摩擦係数を測定した。
Pd めっきは,Pd めっき厚が薄いほど劣化が大きくなってい
Pd めっきを固定片側にしたときの動摩擦係数は,Pd,Au フ
る。濡れ時間が 3 秒以下になる Pd めっき厚は 0.05 µm 以上であ
ラッシュ,AuCo との組合せで µk = 0.3 程度,Ni との組合せで
る。
約 0.2,Ag 及び Sn との場合は 0.4 程度であった。
Au フ ラ ッ シ ュ Pd め っ き は , Pd め っ き 厚 0.02 µm 上 の
Au フラッシュめっきは,Pd を固定片側にしたときに比べて,
Au0.005 µm ではフラッシュめっきの効果が見られず,それ以
Ni 及び Ag めっきとの組合せで動摩擦係数が大きくなり,Ag で
外では劣化を抑えることができる。
は µk = 0.7 に達している。
AuCo めっきは,常態に比べて良化しているものが多い。
AuCo めっきを固定片側にしたときは,Au フラッシュめっき
Ag めっきは,全く劣化が見られない。
と同様の傾向で,Ag との組合せにより動摩擦係数が大きくな
Sn めっきは,わずかに劣化し,3 秒程度の濡れ時間になって
っている。
Ni めっきは,同種の組合せで µk = 0.5 程度,その他の組合せ
いる。
では µk = 0.3 ∼ 0.4 になっている。
3.2.4 硫化試験後の半田付け性
Pd めっきは,めっき厚が 0.01 µm 以上で 4 秒以下の濡れ時間
Ag めっきは,同種の組合せが極めて大きな動摩擦係数にな
っているが,その他のめっき皮膜との組合せでは µk = 0.3 程度
になっている。
Au フラッシュ Pd めっきは,Pd めっきに比べて劣化が少な
である。
Sn めっきは,全体的に動摩擦係数が大きく,すべての組合
い。
AuCo めっきは,めっき厚の増大により劣化の傾向にあるが,
せで µk = 0.4 以上になっている。
めっき厚 0.50 µm でも 3.5 秒程度の濡れ時間である。
Ag めっきは,硫化銀の生成によって半田付け性が著しく劣
49
平成 12 年 7 月
1.4
1.4
Pd
F-Au(下地0.1 Pd)
Au-Co
Ni
Sn
Ag
1.0
0.8
可動片側
0.1Pd
0.02Au-F
0.1AuCo
2.0Ni
2.0Ag
2.0Sn
1.2
動摩擦係数( µ k)
動摩擦係数( µ k)
1.2
0.6
0.4
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.2
0.0
0.001
0.0
0.01
0.1
1
0.1Pd
10
0.02Au-F
0.1AuCo
2.0Ni
2.0Ag
2.0Sn
固定片側めっき皮膜
めっき厚(µm)
図9
第 106 号
古 河 電 工 時 報
図 10 めっき皮膜の組み合わせによる動摩擦係数
Dynamic friction coefficients among various plating
combinations
同種めっき皮膜同士の動摩擦係数
Dynamic self friction coefficients of the platings
(3)Pd めっきの表面にフラッシュ Au めっきを施すことによ
4. おわりに
り,半田付け性が向上する。
(4)摺動を伴う電気接点用途では,固定片側と可動片側のめ
電気接点材料に要求される特性は,基材の物理特性に加え,
接触抵抗が長期に渡り安定していること,半田接続性に優れる
っき皮膜の組合せで動摩擦係数が異なり,Ag と Ag の同種
こと,摺動抵抗が小さいことが主で,本報では,環境試験前後
の組合せが最も大きくなり,次いで Au と Ag の組合せが大
の接触抵抗と半田付け性,及び,摩擦係数の測定を行って Pd
きい。Pd は,いずれの組合せでも比較的小さな動摩擦係
めっきの評価を行った。要約すると次のようになる。
数が得られており,摺動用途に適する。
(1)Pd めっきは,Ni めっきの表面に厚さ 0.005 µm の極薄め
(5)Pd めっきの特性は,Pd めっき厚により大きく変化する
ため,用途によってめっき厚の選定をする必要がある。
っきを施すだけで,Ni めっきの諸特性を改善でき,比較
的使用環境が良好なエリアでは採用が可能である。
参考文献
(2)Pd めっきは,AuCo めっきに比べて半田付け性が,Ag
1) 森,谷,栗原,宇野,森川:古河電工時報,No.100,(1997),
111 − 116
2) 宇 野 , 栗 原 , 谷 , 森 , 森 川 : 伸 銅 技 術 研 究 会 誌 , 3 6 巻 ,
(1997)
,94 − 100
めっきに比べて耐硫化性と摺動特性が,Sn めっきに比べ
て耐大気酸化性と摺動特性が,Ni めっきに比べて接触抵
抗,耐食性,半田付け性,摺動特性が優れており,バラン
スがとれた電気接点であることがわかる。
50
Fly UP