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2006年度優秀サイト発表!トップは東京都品川区

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2006年度優秀サイト発表!トップは東京都品川区
■ NPO便り ■
NPO法人 人間中心設計推進機構
〒150-0045
東京都渋谷区神泉町9-5
(フジタ・インゼックスビル9階 株式会社ノーバス内)
TEL. 03-5489-7471
FAX. 03-5489-7472
URL. http://www.hcdnet.org/
第2回
地方自治体Webサイト ユーザビリティ評価(引越し情報部門)
2006年度優秀サイト発表!トップは東京都品川区
NPO 法人 人間中心設計推進機構
理事
●はじめに
早川 誠二
他
度は経験する事象であり、一定の期間内に転出・
(1)今なぜ地方自治体Webサイトの
転入、生活インフラ、学校や高齢者の諸手続き
など、さまざまな公的情報と接する。こうした
e-Japan施策により開発された行政システム
手続きに必須な情報がWebサイトからストレス
は、調査対象となった166システム中、 8 割強
なく、的確に市民へ提示されることが、公的な
の利用率が 1 %未満といわれている(2005年11
Webサイトが確保すべき利用品質であり、市民
月 8 日付「日本経済新聞 朝刊」
)
。このような状
の利用が見込まれる有益なワンストップサービ
況に陥るのは、利用品質(従来の製造品質とは
スだからこそ、情報の網羅性やわかりやすさの
14
異なる利用者の視点からみた品質)の向上に有
比較が可能と判断した。
19 効な人間中心設計プロセス(以下、
「HCDプロ
自治体チャンネル+
ユーザビリティ評価なのか
平成
年
月号
2 セス」
)を採用せず、結果としてユーザビリティ
の低いシステムを開発してしまうからである。
NPO法人 人間中心設計推進機構(HCD-Net)
●ユーザビリティ評価の方法
(1)Webサイトにおけるユーザビリティとは
そもそもWebサイトというメディアは、
「ペー
では、地方自治体Webサイトの中からユーザ
ジ」という紙メディアの喩えの通り、広報や広
ビリティの優秀なサイトを選定するプロジェク
告の一手段として活用されてきたが、次第にサ
トを通じ、Webシステム開発者に、HCDプロ
イト主催者の持つサービスや情報を提供する手
セスの重要性を伝えることを企画した。地方自
段、すなわち利用者にとっての有用な目的を達
治体Webサイトにおけるユーザビリティとは、
成するための手段や道具といった性質が強調さ
市民が安心して効率よく目的を達成し、高い満
れるようになった。そのためWebサイトを理解
足感を得ることであり、提供される公共サービ
するためには、情報を伝えるための複数のWeb
スが市民の期待通りに受容されることを目指す
ページからなるドキュメントの固まりという側
取組みである。これにはISO9241-11等で定義さ
面と、特定の目的を果たすための画面遷移やソ
れているユーザビリティの理解と、HCDプロ
フトウェア的な機能から成立する、双方向のコ
セス(図表 1 )の実践が有効とされている。
ミュニケーションを前提とする側面を押さえな
ければならない。
(2)引越し情報タスク
に着目した理由
1)
本プロジェクトでは、
「引越し」に限定した
評価を実施した。
「引越し」は多くの市民が一
1)タスクとは、ユーザーがある目的を遂行するために行う一
連の作業を指す。
そのことからWebサイトでは、完成形として
の製品・サービスの品質と同時に、利用品質、
すなわちユーザビリティの向上を図ることの重
要性が早くから指摘されてきている。さらに、
短いサイクルで情報を発信・更新し続けたり、
図表1 人間中心設計プロセス
(HCDプロセス)
図表2 ペルソナ
超多忙な独身ビジネスマン
人間中心設計の
必要性の特定
急に札幌へ転勤が決まった。
赴任までに住宅を決定しなければならず、
時間がない。
利用状況の把握
と明示
要求事項に対す
る設計の評価
システムが特定の
ユーザー及び組織
の要求事項を満足
駐車場?
こたつは
いるのか?
ユーザーと組織の
要求事項の明示
除雪機って
必要?
灯油?
設計による
解決策の作成
ロード
ヒーティング?
資料:NPO法人 人間中心設計推進機構
困ったなあ。
高齢で身障者であるため、不動産を借りられるか不安。
デイサービス・ヘルパーの申請もある。
マンションは?
一軒家は?
保育所・幼稚園・学校・保健所・ショッピングセンター
などが充実し子育てしやすい地域に住みたい。
だが、情報がない。
保育所
幼稚園
病院
バリアフリーかな?
に
結婚と同時
も
マイホーム した∼。
ま
建てちゃい
バリバリ
働くぞ!
保健所
ヘルパーさん
そうやね。
便利な地域に
住みたいなあ
子どもを持つ家族の転勤族
結婚して、新しく家を購入した人
資料:ニヒラ ミズキ
ンタビュー調査
で、常にユーザビリティの向上を管理すること
⑤札幌版引越電子申請サービスコンセプトの
が重要となる。そのため、ユーザビリティの各
立案
種手法を設計・開発プロセスの中に位置付ける
上記プロセス中、調査手順③のインタビュー
メソッドとしてのHCDプロセスは、Webサイト
調査までの情報により、引越しに関わる重要な
構築の前提として今や欠かせない知見となって
イベントをセグメントごとに抽出した結果、以
いる。
下のようなユーザー像が想定された。
ⅰ.超多忙な独身ビジネスマン
(2)ペルソナによるユーザビリティ評価
利用品質を評価するには「ペルソナ」と呼ば
ⅱ.結婚して、新しく家を購入した人
ⅲ.子どもを持つ家族の転勤族
れる、評価用ユーザー像を用いることが有効と
ⅳ.大病をした後、定年退職した高齢者
されている。今回採用したペルソナは「札幌版
ⅴ.初めて札幌へ来た外国人
引越電子支援サービスコンセプト創出プロジェ
今回は、次項に述べるワークショップ参加者
クト」
(文部科学省「知的クラスター創生事業
が、ペルソナ(ⅴを除く)を用いた評価手法を
札幌地域 札幌ITカロッツェリア」の 1 プロジェ
習得した上で、ユーザビリティ評価を実施。各
クト)における、以下のようなプロセスの中で
ペルソナによって評価する項目は異なるので、
抽出・生成された。
各々の立場で評価する。例えば、
「超多忙な独
①札幌市の人口動態データをもとにしたマー
ケティング調査
身ビジネスマン」
(図表 2 )であれば、引越し時
に確認すべき情報として、住民票の移し方、転
②市民アンケート調査
出・転入方法、電気・水道・ガスの移転方法、
③対象となるセグメントごとの利用者へのイ
その土地特有の対策(札幌では灯油の確保など)
、
19 2 月号
④札幌版引越電子申請サービスの要件特定
年
りする特質から、Webサイト運営サイクルの中
15
平成
利用者の文脈に応じた動的な設計が求められた
自治体チャンネル+
大病をした後、定年退職した高齢者
図表3 簡易的なチェックリスト
図表4 ユーザビリティチェックリスト
資料:図表3、4ともに、NPO法人 人間中心設計推進機構
ントの性質からくる情報のわかりやすさとして
先付近の情報があげられる。必須の手続きとし
の「情報アーキテクチャ(Information Archi-
ては、住宅決定、引越し業者の選定・契約、転
tecture)
」
、画面遷移やソフトウェア的な機能か
出・転入届がある。このように手続きは、自治
らの伝わりやすさとしての「インタラクション
16
体にとどまらず、付属した情報が必要となる。
(Interaction)
」
、障害者や高齢者、さまざまな
19 各ペルソナになりきり、諸情報の確認、手続き
環境からの利用しやすさとしての「アクセシビ
の実施がWebサイト上で可能かどうかを体験的
リティ(Accessibility)
」などのポイントを習得
に確認しながら、ユーザビリティの良し悪しを
した。各ユーザビリティ評価手法、Webサイト
評価する。
のユーザビリティ評価傾向、Webサイト運営組
自治体チャンネル+
電話・インターネットの移設、駐車場・引越し
平成
年
月号
2 織においてユーザビリティ手法を実践するため
(3)ワークショップによる審査員の養成
本プロジェクトは、ユーザビリティ評価の重
要性を伝える教育事業とも連携し、評価のため
のメソッドであるHCD手法もそれぞれ確認し
た。
ペルソナ法は、Webサイト構築の早い段階で
の審査員を広く一般から公募した。応募者は、
ユーザー視点からの課題や問題点を発見できる
集合型のワークショップを受講して、Webサイ
メリットを持つ。その本来の効果に加え、多角
トのユーザビリティ評価の基礎知識を習得する。
的な視点からのユーザビリティ評価に有効な手
次に、審査要領を理解した受講者が、一次審査
法であり、Webサイト運営組織がユーザー視点
2)
員としての資格 を得て、地方自治体Webサイ
を簡易に取り入れるツールとしても効果がある。
トの審査にあたった。
ワークショップでは、最初にWebサイトの持
つ特性やメディアとしての特徴を確認し、Web
サイトとしての基本品質のための知識を概観し
た。具体的には、Webサイトにおけるドキュメ
2)本ワークショップを受講し、一次審査を成し遂げた受講者
には、HCD-Netより「地方自治体ホームページ引越しタス
ク編ユーザビリティ評価プロジェクト修了証」を授与する。
HCD-Netがユーザビリティ認定事業を展開する際に、本修
了書にも一定の効力を持たせる計画を立てている。
●審査方法
(1)評価対象サイトの選定と一次審査
(期間2006年10月 4 日∼11月15日)
人口12万人以上の地方自治体(市区レベル)
305サイトから、Webサイトのデザインに気を
配っていると実感できる100の自治体HPをHCD
専門家が選出し、さらにHCD-Net規格化・認定
図表5 東京都品川区のトップページ
(http://www.city.shinagawa.tokyo.jp/)
リスト(図表 3 )
を用いて、引越し手続き情報を
掲載し、かつ一定の使い勝手を確保しているサ
【総合1位:東京都品川区】(図表5) →http://www.city.shinagawa.tokyo.jp/
ビジュアルデザイン、機能性に一貫性があり、
ザビリティ評価審査員ワークショップ(10月 4 、
ステージメニューが常に表示され、わかりやす
17日開催)を受講した30名の審査員が、ユーザ
い。なお、トップメニューで機能別の「手続き」
ビリティチェックリスト(図表 4 )
にもとづき、
の入口と目的別の「ライフステージ」に、
「引越
各サイトに評点を付与し、ペルソナごと、総合
し」がそれぞれあるので混乱する場合があった。
3)
得点 による上位10サイトが抽出された。
高齢者にとっては文字の大きさがどの画面に
おいても変更でき、
「引越し」と「高齢者」の
(2)最終審査
アイコン(入口)が近くにあるため、この2つの
HCD-Net理事会及び規格化・認定事業部運
内容でほとんどの情報の有無がわかる。ビジネ
営委員会メンバーによる最終審査会にて、 7 つ
スマンにとっては、シンプルな構造のため入口
の優秀サイトを選出した。最終審査では一次審
がわかりやすくなっている。ただ、軽自動車、
査結果を検証する方法が採用され、一次審査で
バイクに関する情報はあるが、普通自動車に関
トップ10にランクされたサイトについてエキス
する情報(車庫証明等)がないのが惜しまれる。
パートレビュー
4)
を実施し、トップ 3 の承認、
及びペルソナ別に好成績をあげたサイトを中心
に4つの優秀サイトの選出を行った。
【総合2位:東京都練馬区】(図表6) →http://www.city.nerima.tokyo.jp/
全体的に機能的にできており、情報量のバラ
3)得点化は、各評価項目を標準化したものを集計した。詳細
結果を希望する自治体にはHCD-Net 規格化・認定事業部
にて個別に説明、コンサルティングを実施する予定。
4)ユーザセンタード開発・ユーザビリティ評価等の実務経験、
認知心理学等の専門的知見を十分に有する者が、5名以上
で評価対象についてチェックする手法。
ンスがよい。必要な情報は、項目ごとのチェッ
クボックスをチェックすることで得られるよう
になっている。引越しメニューとは別だが、介
護の入口から入ると高齢者、介護情報がまと
19 2 月号
ワンストップで情報を取得できる。また、
ライフ
年
教育事業部主催、地方自治体Webサイトのユー
17
平成
イトを、30サイト抽出した。そして、HCD-Net
●評価結果
自治体チャンネル+
事業部運営委員会メンバーが簡易的なチェック
図表6 東京都練馬区のトップページ
(http://www.city.nerima.tokyo.jp/)
まっており、その情報量も十分なため、高齢者
にとっては役立つ。退職者がどのような手続き
をしたらよいかの情報が、載っているとよい。
図表7 川崎市麻生区のトップページ
(http://www.city.kawasaki.jp/73/73soumu/)
【東京都八王子市】(図表9)
→ http://www.city.hachioji.tokyo.jp/
人口の流入が多いのか、
「引っ越し」がメ
自治体チャンネル+
ニューのトップにあり、目立つ。文字も大きく
【総合3位:川崎市麻生区】
(図表7)
→http://www.city.kawasaki.jp/73/73soumu/
読みやすくなっているが、必要な情報にたどり
着くまでのステップ数が少なくなるとよい。
必要な情報がほぼ網羅されており、わかりや
【茨城県ひたちなか市】
すい。内容の表示もシンプルで読みやすく、
きめ
19 細かい情報が掲載されている。他のサイトに比
→ http://www.city.hitachinaka.ibaraki.jp/
較し、転勤族からの評価が高い。一部項目が川
「転入」
「転出」
「転居」に関わる情報が充実
平成
18
年
月号
2 崎市のサイトにリンクされ、戸惑うことがある。
している。ただ一方で、情報量が多いため必要
な情報にたどり着くのに苦労する。また、高齢
上記の 3 サイトは、他自治体に比較し、トッ
者のために、文字をもう少し大きくするとよい。
プ画面からの入口のわかりやすさ、必要な情報
の網羅性、情報の見やすさなどがバランスよく
できている。上記の 3 サイト以外にも、今回の
ユーザビリティ評価において高く評価された優
秀なサイトを紹介する。
【東京都港区】(図表10)
→ http://www.city.minato.tokyo.jp/
引越しに関わる条件を入力することで、必要
な手続きの情報が一覧できるのはよい。水道に
関する情報はないが、他は充実している。メ
【仙台市宮城野区】
(図表8)
ニューの階層を少なくする工夫が望まれる。
→http://www.city.sendai.jp/miyagino/soumu/
トップページはわかりやすく、
(仙台市の引
●今後の展開・謝辞
越し手続き情報であるが)必要な情報がほぼ網
今回は、多くの方が利用する自治体のWebサ
羅されている。不足情報としては、車庫証明や
イトの中から「引越し」手続きに着目し、その
退職者関連の情報があげられる。説明が長く、
利用品質を、それぞれのペルソナの立場から評
行間もやや詰まっているが、引越しに関連する
価した。
「引越し」手続きは、自治体のWebサ
情報が 1 ページ内に要領よく整理されており、
イトの中でもさまざまな情報が含まれていると
文字情報だけのページとしてはわかりやすい。
いう意味で、代表的なサービスの一つである。
したがって、自治体が提供する公共サービスが
図表8 仙台市宮城野区のトップページ
(http://www.city.sendai.jp/miyagino/soumu/)
図表9 東京都八王子市のトップページ
(http://www.city.hachioji.tokyo.jp/)
図表10 東京都港区のトップページ
自治体チャンネル+
平成
19
(http://www.city.minato.tokyo.jp/)
年
19 体には開発プロセスに関するインタビューを行
HCD-Netとしては継続的に「引越し」手続きに
い、HCDプロセスとの相違点を確認した上で
関するWebサイトの利用品質について、ユーザ
最終的に報告する。
ビリティ評価を実施する予定である。
本プロジェクトに参画された皆様に感謝申し
今後の課題として、一次審査の精度をさらに
上げるとともに、HCD-Netホームページ上にて
向上させるため、ユーザーごとのタスクシナリ
評価活動報告、運営メンバー、審査員の紹介を
オを作成し、シナリオに沿った評価を検討する。
順次行う予定でいる。
さらに、Webサイトがどのようなプロセスで制
作されたのかも評価項目に加えることを検討し
ている。より納得性の高いユーザビリティ評価
を実施することで、HCDプロセスの重要性を
認識いただき、公共サービスの質を少しでも高
めることに役立てたい。
「引越し」手続きに関
しては、観光案内などと異なり、各自治体にお
いても必要な情報、手続きに大きな差はなく、
わかりやすい標準的なサイトデザインが存在し
てもよいと考えている。認定事業としての観点
から、
「公共サービスの標準サイト構造」
「評価
者のためのスキル標準」といった活動へもつな
げたい。今回、選定された優秀サイトの各自治
以下、本原稿の執筆者を記す。
早川 誠二
(HCD-Net理事/規格化・認定事業部運営委
員長、株式会社リコー)
篠原 稔和
(HCD-Net評議委員、ソシオメディア株式会社)
相沢 直人
(小樽商科大学 平沢尚毅[HCD-Net副理事長]
研究室STOAT)
鱗原 晴彦
(HCD-Net理事長/事務局長、
株式会社U’
eyes
Design)
2 月号
期待通りに使いこなせるかという観点から、
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