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高齢者虐待対応 マニュアル

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高齢者虐待対応 マニュアル
高齢者虐待対応
マニュアル
平成 28 年度4月改訂版
大阪市福祉局生活福祉部地域福祉課相談支援グループ
はじめに
平成 18 年4月に「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関す
る法律」が施行され 10 年が経過しました。
大阪市は他の市町村同様、高齢者人口が増加しております。都市化の進行に
より、高齢者世帯に占める単身世帯の割合が突出して高い自治体でもあり、同
居ではない者による虐待の通報も多く、また、現場ではセルフネグレクトへの
対応にも追われています。
本市の統計から、成人した子が親の年金等収入を頼りに暮らす事例が多いこ
とが明らかとなり、傷病や障がい、貧困をはじめとするさまざまな問題を内包
する高齢者虐待事例への対応は困難を極めています。
高齢者虐待防止の取り組みは、高齢者を虐待という権利侵害から守り、尊厳
を保持しながら安定した生活を送ることができるように支援するものです。そ
のためには、関係機関が連携し、高齢者に対する虐待を未然に防止し、早期に
発見し、迅速で適切な対応を行うとともに、虐待を受けた高齢者が安定した生
活を送れるようになるまで、切れ目のない支援を行うことが必要です。
保健福祉センターや地域包括支援センターにおいて高齢者虐待にいち早く気
づき、適切に対応するための手引きとして、平成 20 年に「認知症と高齢者虐待
に関する研究会」にご協力いただき「高齢者虐待対応マニュアル」を発行しま
した。
平成 23 年3月、厚生労働省助成事業・老人保健健康増進等事業として社団法
人日本社会福祉士会が「市町村・地域包括支援センター・都道府県のための養
護者による高齢者虐待対応の手引き」を公表したことを受け、本市の虐待対応
について再度検討を加え、平成 23 年度改訂版を発行しました。今回は第 2 章に
「高齢者向け賃貸住宅」の従事者による高齢者虐待への対応の新設、第 3 章「養
介護施設従事者等による高齢者虐待対応のながれ」の改訂、統計等の差し替え
を行いました。
保健福祉センター及び地域包括支援センターの担当者の方々に活用していた
だき、このマニュアルが高齢者虐待防止の取り組みの一助となれば幸いです。
高齢者虐待対応マニュアル
平成 28 年度
4 月改訂版
目次
○第1章
Ⅰ
高齢者虐待の基礎 ···················································· Ⅰ−01
高齢者虐待の定義························································ Ⅰ−02
1
養護者による高齢者虐待················································ Ⅰ−02
2
養介護施設従事者等による高齢者虐待 ···································· Ⅰ−06
Ⅱ
大阪市の高齢者虐待の実態················································ Ⅰ−07
Ⅲ
高齢者虐待防止に向けた基本的視点 ········································ Ⅰ−11
Ⅳ
高齢者虐待対応の留意点·················································· 1−12
○第2章
養護者による高齢者虐待への対応 ······································· Ⅱ−01
Ⅰ
対応する機関の役割······················································ Ⅱ−02
Ⅱ
養護者による高齢者虐待対応のながれ ······································ Ⅱ−04
Ⅲ
初動期 ································································· Ⅱ−05
1
相談・通報・届出の受理················································ Ⅱ−05
2
事実確認 ····························································· Ⅱ−06
3
4
Ⅳ
ア
関係者・関係機関からの情報収集 ·································· Ⅱ−07
イ
家庭訪問等 ······················································· Ⅱ−08
ウ
面接時の留意点···················································· Ⅱ−08
エ
事実確認で得た情報の整理·········································· Ⅱ−09
サービス利用調整会議·················································· Ⅱ−09
ア
参加メンバー······················································ Ⅱ−10
イ
虐待かどうかの判断················································ Ⅱ−11
ウ
緊急性の判断······················································ Ⅱ−11
エ
支援方針の決定···················································· Ⅱ−12
初動期各項···························································· Ⅱ−14
ア
生命又は身体に重大な危険が生じている場合 ·························· Ⅱ−14
イ
分離保護·························································· Ⅱ−16
ウ
立入調査·························································· Ⅱ−21
エ
緊急一時保護······················································ Ⅱ−24
対応期 ································································· Ⅱ−28
1
情報収集と虐待発生要因分析············································ Ⅱ−28
2
対応計画の策定························································ Ⅱ−29
3
対応状況のモニタリング················································ Ⅱ−33
4
Ⅴ
対応期各項 ··························································· Ⅱ−34
ア
専門相談·························································· Ⅱ−34
イ
成年後見制度······················································ Ⅱ−36
終結期 ································································· Ⅱ−38
ア
終結の判断
イ
事例検証会議······················································ Ⅱ−39
○第2章の2
Ⅰ
················································ Ⅱ−38
「高齢者向け賃貸住宅」の従事者による高齢者虐待への対応············ Ⅱ-2−1
いわゆる「高齢者向け賃貸住宅」への対応 ·································· Ⅱ-2−2
1
定義 ································································· Ⅱ-2−3
2
相談・通報・届出の受理················································ Ⅱ-2−3
3
相談・通報・届出内容の共有············································ Ⅱ-2−4
4
事実確認 ····························································· Ⅱ-2−5
5
虐待の判断と支援方針の決定············································ Ⅱ-2−7
6
モニタリングと終結···················································· Ⅱ-2−8
7
月報報告について······················································ Ⅱ-2−9
○第3章
Ⅰ
養介護施設従事者等による高齢者虐待への対応···························· Ⅲ−01
養介護施設従事者等による高齢者虐待対応のながれ ························· Ⅲ−02
○第4章
高齢者虐待の解釈のために ············································· Ⅳ−01
Ⅰ
高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律の解釈 ····· Ⅳ−02
Ⅱ
認知症と高齢者虐待 ······················································ Ⅳ−36
Ⅲ
高齢者虐待防止連絡会議 ·················································· Ⅳ−38
Ⅳ
疑義照会 ································································ Ⅳ−39
○第5章
Ⅰ
参考資料・帳票 ······················································· ⅴ−01
参考資料 ······························································· ⅴ−02
資料 01 障害老人の日常生活自立度(寝たきり度)判定基準 ··············· ⅴ−02
資料 02 認知症高齢者の日常生活自立度判定基準 ························· ⅴ−03
資料 03 介護保険料について ··········································· ⅴ−05
資料 04 高齢者虐待発見チェックリスト ································· ⅴ−06
資料 05 高齢者虐待用語集 ············································· ⅴ−08
資料 06 親等図 ······················································· ⅴ−14
Ⅱ
帳票 ·································································· ⅴ−15
マニュアル表記
表記
正式名称等
高齢者虐待防止法
高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関す
る法律(平成 17 年 11 月9日法律第 124 号)
※「法第○条」
「第○条」の表記は、本法を指す
厚労省マニュアル
「市町村・都道府県における高齢者虐待への対応と養護者
支援について」平成 18 年4月厚生労働省老健局発出
社会福祉士会手引き
「市町村・地域包括支援センター・都道府県のための養護
者による高齢者虐待対応の手引き」平成 23 年3月社団法
人日本社会福祉士会作成
第1章
高齢者虐待の基礎
Ⅰ‐1
Ⅰ
高齢者虐待の定義
高齢者虐待とは、高齢者が他者からの不適切な扱いにより権利利益を侵害される状態や
生命、身体、財産が損なわれるような状態におかれることをいいます。
「高齢者」とは
高齢者虐待防止法では、「高齢者」を「65 歳以上の者」としています。(第2条第1項)
一方、法附則2に、「高齢者以外の者であって精神上又は身体上の理由により養護を必
要とするものに対する虐待の防止等のための制度については、速やかに検討が加えられ、
その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。」と明記し、65 歳未満(高齢者
以外)の養護が必要な者への適切な対応が必要であるとしています。
65 歳以上の者への虐待対応はもとより、65 歳未満の者についても、本法の趣旨に則り必
要に応じて対応を行うこととします。
第4章‐Ⅰ
第2条第1∼3項
高齢者虐待の大別
高齢者虐待防止法では、高齢者虐待を「養護者による高齢者虐待」と「養介護施設従事
者等による高齢者虐待」に大別しています。(第2条第2項)
大阪市では、「養護者による高齢者虐待」を保健福祉センター及び地域包括支援センタ
ー(ブランチも含む)が、「養介護施設従事者等による高齢者虐待」を福祉局高齢者施策
部介護保険課が担当します。
1
養護者による高齢者虐待
養護者とは
養護者とは、「高齢者を現に養護する者」と規定されています。(第2条第2項)
Ⅰ‐2
金銭の管理、食事や介護などの世話、自宅や自室の鍵の管理など高齢者の生活に必要な
行為を管理したり、提供している者をいい、同居であるか、血縁関係にあるかは問いませ
ん。
養護者による高齢者虐待の類型
○ 身体的虐待
① 暴力的行為で、痛みを与えたり、身体にあざや外傷を与える行為。
・平手打ちをする。つねる。殴る。蹴る。やけど、打撲をさせる。
・刃物や器物で外傷を与える。
など
② 本人に向けられた危険な行為や身体に何らかの影響を与える行為。
・本人に向けて物を壊したり、投げつけたりする。
・本人に向けて刃物を近づけたり、振り回したりする。
など
※「暴行とは人に向かって不法なる物理的勢力を発揮することで、その物理力が人の身体に接触
することは必要ではない。例えば、人に向かって石を投げ又は棒を打ち下ろせば、仮に石や棒が
相手方の身体に触れないでも暴行は成立する」(東京高裁判決昭和 25 年6月 10 日・昭和 24 年
(を新)2684 傷害被告事件)
上記判例のとおり、身体的虐待における暴力的行為とは、刑法上の「暴行」と同様、高齢者の
身体に接触しなくても、高齢者に向かって危険な行為や身体に何らかの影響を与える行為があれ
ば、身体的虐待と認定することができます。
③ 本人の利益にならない強制による行為によって痛みを与えたり、代替方法があるにもか
かわらず高齢者を乱暴に取り扱う行為。
・医学的判断に基づかない痛みを伴うようなリハビリを強要する。
・移動させるときに無理に引きずる。無理やり食事を口に入れる。
など
④ 身体拘束及び外部との接触を意図的、継続的に遮断する行為。
・身体を拘束し、自分で動くことを制限する(ベッドに縛り付ける。ベッドに柵を付ける。つな
ぎ服を着せる。意図的に薬を過剰に服用させて、動きを抑制する。)。
・外から鍵をかけて閉じ込める。中から鍵をかけて長時間家の中に入れない。
Ⅰ‐3
など
○ 介護・世話の放棄・放任
① 意図的であるか、結果的であるかを問わず、介護や生活の世話を行っている者が、その
提供を放棄または放任し、高齢者の生活環境や、高齢者自身の身体・精神的状態を悪化
させていること。
・入浴しておらず、異臭がする、髪や爪が伸び放題だったり、皮膚や衣類、寝具が汚れている。
・水分や食事を十分に与えられていないことで、空腹状態が長時間にわたって続いたり、脱水症
状や栄養失調の状態にある。
・室内にごみを放置する、冷暖房を使わせないなど、劣悪な住環境の中で生活させる。
など
② 専門的判断や治療、ケアが必要にもかかわらず、高齢者が必要とする医療・介護保険サ
ービスなどを、周囲が納得できる理由なく制限したり使わせない、放置する。
・徘徊や病気の状態を放置する。
・虐待対応従事者が、医療機関への受診や専門的ケアが必要と説明しているにもかかわらず、無
視する。
・本来は入院や治療が必要にもかかわらず、強引に病院や施設等から連れ帰る。
など
③ 同居人等が高齢者虐待の行為を放置する。
・孫が高齢者に対して行う暴力や暴言行為を養護者が放置する。
など
○ 心理的虐待
脅しや侮辱などの言語や威圧的な態度、無視、嫌がらせ等によって、精神的苦痛を与え
ること。
・老化現象やそれに伴う言動などを嘲笑したり、それを人前で話すなどにより、高齢者に恥をか
かせる(排泄の失敗、食べこぼしなど)。
・怒鳴る、ののしる、悪口を言う。
・侮蔑を込めて、子どものように扱う。
・排泄交換や片づけをしやすいという目的で、本人の尊厳を無視してトイレに行けるのにおむつ
をあてたり、食事の全介助をする。
・台所や洗濯機を使わせないなど、生活に必要な道具の使用を制限する。
・家族や親族、友人等との団らんから排除する。
Ⅰ‐4
など
○ 性的虐待
本人との間で合意が形成されていないあらゆる形態の性的な行為またはその強要。
・排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置する。
・排泄や着替えの介助がしやすいという目的で、下半身を裸にしたり、下着のままで放置する。
・人前で排泄行為をさせる、オムツ交換をする。
・性器を写真に撮る。スケッチをする。
・キス、性器への接触、セックスを強要する。
・わいせつな映像や写真を見せる。
・自慰行為を見せる。
など
○ 経済的虐待
本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限する
こと。
・日常生活に必要な金銭を渡さない、使わせない。
・本人の自宅等を本人に無断で売却する。
・年金や預貯金を無断で使用する。
・入院や受診、介護保険サービスなどに必要な費用を支払わない。
など
社会福祉士会手引き
Ⅰ‐5
第 1 章1−2
2
養介護施設従事者等による高齢者虐待
養介護施設従事者等とは
養介護施設
老人福祉法
老人福祉施設
による規定
有料老人ホーム
介護老人福祉施設
介護保険法
による規定
介護老人保健施設
介護療養型医療施設
地域密着型介護老人福祉施設
地域包括支援センター
養介護施設従
養介護事業
事者等
老人居宅生活支援事業
「養介護施
居宅サービス事業
地域密着型サービス事業
居宅介護支援事業
介護予防サービス事業
地域密着型介護予防サービス事業
設」又は「養
介護事業」の
業務に従事す
る者
介護予防支援事業
厚労省マニュアルⅠ−1−2
養介護施設従事者等による高齢者虐待の類型
○ 第2条第5項まとめ
類型
身体的虐待
介護・世話の
放棄・放任
心理的虐待
性的虐待
経済的虐待
条文
高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護
すべき職務上の義務を著しく怠ること。
高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心
理的外傷を与える言動を行うこと。
高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせる
こと。
高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益
を得ること。
Ⅰ‐6
Ⅱ
大阪市の高齢者虐待の実態
(1)
高齢者虐待の相談・通報・届出受理の状況
1200
1000
800
600
400
200
0
通報等件数
平成
19年
度
416
平成
20年
度
491
平成
21年
度
461
平成
22年
度
534
平成
23年
度
720
平成
24年
度
752
平成
25年
度
1038
平成
26年
度
839
虐待と判断した件数
287
355
340
376
430
431
485
397
高齢者虐待の相談・通報・届出件数は統計をはじめた平成 18 年以降、概ね増加傾向にあ
ります。高齢者人口が年々増加していること、通報等を受け付ける地域包括支援センター
が増加したこと等が増加の要因であると考えています。
(2)
高齢者虐待の類型別発生状況
250
228人
(55.7%)
200
157人
(38.4%)
150
89
(21.8%)
100
93
(22.7%)
50
2
(0.5%)
0
身体的虐待
心理的虐待
経済的虐待
介護等放棄
性的虐待
※調査対象年度内に虐待と判断された事例における被虐待者の実人数 409 人についての割合
Ⅰ‐7
高齢者虐待の類型別状況については、身体的虐待が 55.7%を占め最も多くなっています。
次いで心理的虐待、経済的虐待の順となっています。複数の類型が同時に発生する事例が
散見されます。
(3)
被虐待者の状況
被虐待者の性別をみると、77%が女性で、圧倒的
男性,
23%
に女性が被虐待者になりやすいことがわかります。
大阪市の高齢者人口の男女比(男:女=1:1.32)
を加味しても女性が被害を受けやすい傾向にありま
女性,
77%
す。
60.0
100
50.0
80
40.0
60
30.0
40
20.0
20
10.0
0
件数(人)
発生率(人口10万人対)
65歳∼
69歳
70歳∼
74歳
75歳∼
79歳
80歳∼
84歳
85歳∼
89歳
90歳以
上
51
61
87
98
69
43
10.0
13.1
23.3
36.9
46.2
52.5
0.0
被虐待者を年齢別にみると、75 歳∼84 歳の被虐待者が最も多いことがわかります。(棒
グラフ)。また、年齢別の発生率(年齢別高齢者人口を分母とする)をみると、年齢が上
がるほど、虐待のリスクが高まることが確認されます。(折れ線グラフ)
Ⅰ‐8
︵発生率 ︶
︵件数︶
120
400.0
70
350.0
60
300.0
50
250.0
40
200.0
30
150.0
20
100.0
10
50.0
0
件数
要支
援1
要支
援2
要介
護1
要介
護2
要介
護3
要介
護4
要介
護5
21
31
75
70
66
39
35
0.0
発生率(人口10万対) 81.1 133.4 347.3 352.2 343.9 350.8 336.1
※発生率は、要介護度別の要介護認定者数、人口 10 万人対の割合
被虐待者の介護度については、要支援より要介護の高齢者が虐待の被害を受けやすいこ
とが分かりますが、要介護度(1∼5)の高低と発生状況に相関は見られませんでした。
最後に、被虐待者の世帯状況ですが、虐待者のみと同居している世帯が最も多く、全体
の 48%を占めていました。また、同居の子の状況を調査すると、「未婚の子と同居」が「子
夫婦と同居」の世帯の 3.2 倍となっていました。
その他・不明
1%
虐待者と別居
27%
虐待者とのみ
同居
48%
虐待者及び他
家族と同居
24%
Ⅰ‐9
︵発生率 ︶
︵件数︶
80
(4)
虐待者の状況
その他
16%
妻
6%
子
61%
夫
17%
息子
39%
娘
22%
※虐待者の総数(重複あり)に対する割合
虐待者は、息子が圧倒的に多く、全体の 39%を占めています。
女性の高齢者・その未婚の息子とで構成される世帯で、虐待の発生リスクが高くなるこ
とがわかります。
Ⅰ‐10
Ⅲ
高齢者虐待防止に向けた基本的視点
1
発生予防から虐待を受けた高齢者の生活の安定までの継続的な支援
高齢者虐待の発生予防から、虐待を受けた高齢者が安定した生活を送れるよう
になるまでの各段階において、
「高齢者の権利擁護」を理念とした切れ目ない支援
が必要です。
2
高齢者自身の意思の尊重
高齢者虐待は「成人と成人」との人間関係で発生することがほとんどであり、
「被
害者と加害者」という構図に基づく対応ではなく、高齢者自身の意思を尊重した
対応を行うことが必要です。
3
虐待を未然に防ぐための積極的なアプローチ
高齢者虐待では、虐待を未然に防止することが最も重要な課題であり、そのた
めには家庭内における権利意識の啓発、認知症等に対する正しい理解や介護知識
の周知、介護保険制度等の利用促進などによる養護者の負担軽減を図ることが必
要です。
また、近隣から孤立している高齢者のいる世帯などに対し、関係者による働き
かけを通じてリスク要因を低減させるなど、高齢者虐待を未然に防ぐための積極
的な取り組みが必要です。
4
虐待の早期発見・早期対応
高齢者虐待対応は、問題が深刻化する前に発見し高齢者や養護者・家族に対す
る支援を開始することが重要であり、民生委員などの地域組織との協力連携、市
民への高齢者虐待予防に関する啓発、保健医療福祉関係機関等との連携体制を構
築し、虐待を未然に防ぎ、虐待が起きても早期に発見し対応することが必要です。
Ⅰ‐11
5
高齢者とともに養護者支援を検討する
虐待している養護者を加害者として捉えるのではなく、介護疲れなど養護者自身
が何らかの支援を必要としている場合も少なくありません。虐待の背景にあるさま
ざまな問題を理解し、高齢者や養護者のみの問題として捉えるのではなく、家族全
体の状況からその家族が抱えている問題を理解し、高齢者や養護者・家族に対する
支援を行います。
高齢者虐待防止法に養護者支援を盛り込んでいる法の趣旨は、「養護者支援」が養護者によ
る虐待防止と深く関連している点を重要視しているからです。
よって、「高齢者の権利利益の擁護に資する」ことの目的のために養護者支援が必要である
と判断した場合には養護者支援を積極的に行います。しかし、逆の解釈をすれば、虐待要因の
解消及び生活環境整備に養護者支援が何ら関係ない場合は、あえて養護者支援は行わないとい
うことです。
高齢者虐待対応担当者は、「養護者に対する支援」の必要性を判断し、必要な場合は、精神
保健福祉相談員、生活保護現業員、医療機関等関連部署・機関につないでいくこととなります。
法第1条
Ⅳ
高齢者虐待対応の留意点
1
虐待に対する「自覚」は問わない
目的
財団法人医療経済研究機構の実施した平成 15 年の調査では、虐待を自覚してい
ない虐待者は半数以上を占めており、また虐待を受けている高齢者でも3割は虐
待を受けているという自覚がありませんでした。高齢者本人や養護者の虐待に関
する自覚の有無にかかわらず、客観的に高齢者の権利が侵害されていると確認で
きる場合には、虐待の疑いがあると考えて対応すべきです。
2
高齢者の安全確保を優先する
入院や分離保護などの緊急保護が必要な場合には、養護者との信頼関係を築く
ことができなくても高齢者の安全確保を最優先する必要があります。
Ⅰ‐12
高齢者虐待の対応の目的は「権利侵害状態」から高齢者を救出することであり、
...............
平時の対応とは明らかに違うことを意識する必要があります。場合によっては、
............
高齢者本人の意思に反して権限行使をします。
3
常に迅速な対応を意識する
発生から時間が経過するにしたがって虐待が深刻化することが予想されるため、
通報や届出等があった場合には迅速に対応します。(原則として 48 時間以内を目
安として事実確認を行います。)
4
必ず組織的に対応する
高齢者虐待の事例に対しては、担当者一人の判断で行うことは避け、組織的に
対応を行うことが必要です。高齢者の安全確認や事実確認の調査では、担当者一
人への過度の負担を避け、また客観性を確保する等の視点から、複数の職員で対
応することを原則とします。
5
関係機関と連携して援助する
複合的な問題を抱える事例に対しては、問題への対応機能を有した機関との連
携が不可欠です。事例に対する援助方針やキーパーソン、各機関の役割分担、連
絡体制等を定めて援助内容を決定するとともに、対応状況のモニタリング時期を
定めて援助内容の評価や再調整を行います。
6
適切に権限を行使する
保健福祉センターは高齢者の安全を最優先に考え、必要がある場合には、老人
福祉法の規定による措置や成年後見の市長審判請求、高齢者虐待防止法に基づく
立入調査や面会制限など、適切に権限を行使します。
第4章‐Ⅳ‐Q5
Ⅰ‐13
不作為責任
Fly UP