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尿路結石に対する経皮的腎結石砕石術について

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尿路結石に対する経皮的腎結石砕石術について
尿路結石内視鏡治療の標準化
第二報:尿路結石に対する経皮的腎結石砕石術について
尿路結石内視鏡治療標準化委員会(代表世話人:公文裕巳、棚橋善克)
太田信隆、公文裕巳、棚橋善克、千葉 裕、津川昌也、奴田原紀久雄、長谷川友紀、東 義人、麦谷
荘一、山口秋人、山田 伸
1.はじめに(公文委員、棚橋委員)
2002 年に日本泌尿器科学会、日本 E&E 学会、日本尿路結石症学会の三者が合同で「尿路結石
症診療ガイドライン」(ガイドライン)を作成して、個々の上部尿路結石に対する治療手段の選択基
準を示した。しかし、内視鏡治療を選択すべきとされる、同じような場所の同じような大きさの結石
に対して、経尿道的尿管結石砕石術(TUL; transurethral ureterolithotripsy)、経皮的腎結石砕石術
(PNL; percutaneous nephrolithotripsy)などの内視鏡手術に関しては施設間格差が大きく、本学会と
して標準(基準)となる術式を提示することは意義深いものと考えられる。標準術式を示すことは、
尿路結石内視鏡治療における施設間格差を少なくし、安全性を向上させて医療の質の向上に寄与
するものと考えられる。現在、本学会の尿路結石内視鏡治療標準化委員会では、2002 年 4 月から
尿路結石に対する内視鏡治療の標準化に関する具体的作業に取りかかり、昨年の本学会総会で
標準的症例(尿路の解剖学的異常がなく、尿路感染症等のないもの)における 10mm 以上の下部
尿管結石に対する TUL の標準術式を報告し、本学会の公式ホームページ、さらには本学会雑誌
(Jpn J Endourol ESWL (2003) 16 (3))に特集としてまとめた。
引き続き、本委員会では PNL の標準術式に関する検討を行ない、第 17 回日本 EE 学会総会
(2003 年、福岡)において、PNL 標準症例における標準術式の概要を報告した(表 1)。この機会に、
広く会員よりの意見を組み込むために、これまで委員会で検討してきた事項を含めて学会の HP に
公開する。
[標準術式作成における具体的作業と方針]
TULの場合、尿路結石症診療ガイドラインで TUL が治療法の第一選択として推奨されていた
10mm 以上の下部尿管結石を対象に TUL の標準術式をまとめた。一方、PNL に関しては珊瑚状腎
結石が積極的治療として推奨される結石となる。しかし、専門医取得前後の泌尿器科医を対象とし
ている PNL の標準術式という観点からは必ずしも妥当ではないと考えられ、PNL の標準術式を検
討するための標準症例として水腎症を伴う 30mm 以上の腎結石で、珊瑚状結石でないものに設定
して検討した。
2.PNL の標準術式を示すための標準症例(山田委員)
尿路結石症診療ガイドラインでは腎結石の治療の標準的症例として長径 20mm 以下の腎結石を
挙げ、その積極的治療においては指針として ESWL を第一選択としている。また、ESWL に抵抗する
結石とは単に ESWL によって砕石されないだけでなく、砕石されても砕石片が尿路閉塞を起こし、放
置により腎機能障害を起こしうる結石を指すとし、これらに対しては PNL,TUL などの併用が望まし
いとしている。さらに珊瑚状結石や長径2cm 以上の腎結石、複数個腎結石は 2cm 以下の結石とそ
の治療方針において大きな相違点があるとして別枠で考えられている。これらのことより今回の
PNL の標準症例としては、腎盂内にあり、水腎を伴う長径 30mm の腎結石という、PNL を行うにあた
り穿刺、拡張が難しくなく、複雑ではない標準的な症例とした(図 1)。なお、対象とするのは尿路結
石症診療ガイドラインに準じて、一般的麻酔および手術を受けることが可能な健常成人とし、以下
に該当する症例は除くこととした。
1. 複数結石
2. 感染を伴う結石
3. X 線透過結石
4. 妊婦
5. 高度肥満
6. 尿路の解剖学的異常
7. 単腎
8. 腎機能障害
3.標準術式(津川委員)
標準症例に対する PNL 標準術式検討の第一段階として、各委員がこの標準症例に対して実際に
どのように PNL を行うのかをレポートで提出することからはじめた。その後、さらに検討を重ね本委
員会として PNL の標準術式をまとめ、表 2,3 に示した。なお、TUL に対する標準術式の場合と同様
に「麻酔」、「内視鏡」、「砕石装置」などの項目で複数の選択肢がある場合、委員会として推奨程度
の強いものから表記した。また、内視鏡、尿管閉塞用バルーンカテーテル、砕石装置などについて
は他の委員から別途詳細な解説を加えることとした。
経皮的腎瘻作成時の腎杯穿刺に関しては X 線透視のみではなく、X 線透視を参考に超音波ガイ
ド下に目的とする腎杯を穿刺し、X 線透視下に拡張することを推奨する。腎瘻拡張方法は、テレス
コープ型ダイレーターを用いる方法、ペンシル型ダイレーターを用いる方法(アンプラッツダイレータ
ーを含む)、バルーンダイレーターを用いる方法の 3 つの拡張方法から選択する。ガイドワイヤーは
セーフティーガイドワイヤーとワーキングガイドワイヤーの 2 本を使用することを原則とする(図 2)。
砕石は中心部からではなく、結石の辺縁から砕石を行うことを原則とし、最終的には結石を完全に
摘出することを目標とし、腎瘻カテーテルを留置し PNL を終了する。
(腎瘻作成方法、超音波砕石装置による砕石の実際をビデオで示した)
4.PNL 用腎盂鏡、CCD カメラの選択(太田委員)
1) 腎盂鏡
表 4 に PNL 用腎盂鏡の一覧を示したが、選択に当たっては手術に使用する砕石器具との組み
合わせを考慮しなくてはならない。腎の損傷を最小限とするためには腎盂鏡は細いものほどよ
いと考えられるが砕石器具との組み合わせにより選択の幅は限られてくる。
a) 超音波砕石器との組み合わせ
後述するように超音波砕石器は現在ウルフ、ストルツ、オリンパスから発売されていて砕
石用プローブは尿管鏡用の径 1.5mm および腎盂鏡用の 3.4 または 3.5mm のものがある。
3.5mm のプローブを使用するためには ACMI 社の 19.5Fr および Wolf 社の 20.9Fr のものが
比較的細く、安全であるといえる。超音波砕石器による砕石では砕石片の摘出は吸引を用
いるためこれ以上の太い内視鏡は必要ない。径 1.5mm の尿管鏡用砕石プローベを使用す
る場合は表4のすべての腎盂鏡が使用できるが、砕石効率、吸引力の見地から適応は限ら
れる。
なお、平成 15 年 12 月現在、未発売であるがプローブ径 2mm の超音波砕石器が開発中で
あり、これが発売されればオリンパス社の外径 15.9Fr の腎盂鏡、または武井医科光器社の
16.59Fr の腎盂鏡がより細く安全なものと考えられる。
b) レーザー砕石器との組み合わせ
レーザー砕石器の特徴は硬い結石でも細かく砕石できることであるが、その反面、結石の
すべてを細かく砕石するには手術時間が長くなり煩雑である。そこで次善の策として結石を
ある程度まで砕石し、残りは鉗子で摘出するというのが実際的な方法と考えられる。そのた
め腎盂鏡のサイズは太いものが必要であり、従来からある Fr24 ないし Fr26 のものが適して
いる。手術時間が長くなってもかまわなければ結石を内視鏡から吸引可能な大きさまで細
かくすることも可能であり、その場合は表にあげたすべての内視鏡が使用可能となり、なる
べく細いものが推奨される。
c) 振動式砕石器との組み合わせ
振動式砕石器は比較的安価で砕石力もあるが砕石片はレーザー砕石器に比べるとやや
大きくなる傾向がある。砕石を繰り返しおこない、砕石片を吸引可能な大きさまで細かくする
ことは事実上困難である。そこで振動式砕石器を用いる場合はある程度の大きさまで砕石
し、鉗子で摘出することとなり、そのためには腎への損傷はあるものの Fr24 または Fr26 の
太い腎盂鏡が望ましい。
d) EHL との組み合わせ
EHL は組織の損傷の可能性があることから最近使用頻度は少なくなってきているが、非
接触、無指向性に砕石片を十分細かくすることができる。細径の腎盂鏡を用い、砕石片は
吸引で除去することが可能である。また太径の腎盂鏡では途中で鉗子を用いた摘出をおこ
なってもよい。
なお、平成 15 年 12 月現在、薬事未承認であるがウルフ社のミニチュアネフロスコープは外
径 Fr18 で Fr6 の鉗子チャンネルを持ち、オリンパス社 A37025A 同様、細径で安全性重視の
腎盂鏡と考えられる。
2) CCD カメラ
腎盂鏡を用いた手術では内視鏡接眼部から直接観察することも可能であるが、術者の疲労、
助手との連携、また最近多いレーザー砕石器の使用などを考えると CCD カメラを用いたモニタ
ー下での操作は不可欠である。CCD カメラには色再現性、解像度に優れた 3CCD タイプと軽量、
コンパクトな 1CCD タイプとがある。近年の腹腔鏡手術では3CCD タイプが用いられるが、腎盂
鏡手術では内視鏡の接眼部にカメラを装着して操作をおこなうことから軽量、コンパクトな1
CCD タイプが適している。
腎盂鏡手術に用いられる 1CCD タイプのカメラは表 5 に示すものが発売中であるが、基本性
能に大きな差はないといえる。選択に当たってはオートクレーブ可能であるか否かも選択の基
準となる。
5.尿管閉塞用バルーンカテーテル、穿刺針、ガイドワイヤー、腎瘻カテーテル(奴田原委員)
1) 尿管閉塞用バルーンカテーテル
a) 尿管閉塞用バルーンカテーテルの意義と使用法
尿管閉塞用バルーンカテーテルを用いる意義は以下の3点である。
(1)経皮的に腎杯穿刺を施行するのに先だって、腎盂腎杯を拡張させ、腎杯穿刺を容
易にする。
(2)造影剤や色素を腎盂内に注入することによって、腎杯穿刺自体を容易にし、さらに
穿刺されたことを確認しやすくする。
(3)砕石中に破砕片が尿管内に下降することを防止する。
(1)と(2)は腎杯穿刺までのことで、経尿道的に留置した尿管閉塞用バルーンカテーテルの
バルーンを腎盂尿管移行部ないし上部尿管で拡張させる。バルーンの拡張には適宜薄め
た造影剤を用い、透視下にバルーンの大きさと位置を確認する。バルーンの拡張に際して
は、使用する閉塞用バルーンのバルーン容量をあらかじめ確認し、造影剤を入れすぎない
ようにする。また何回か造影剤を出し入れし、バルーン内部の空気を抜くようにする。
また、すでに水腎症が存在する場合には腎盂拡張を行う必要はなく、腎盂内に造影剤と
色素だけが入ればよい。水腎症の存在しない例でも腎盂内圧はなるべく低く抑えるようにし、
腎盂内圧が長時間高圧になることは避ける。
また砕石が開始されてからは造影剤等の注入を中止し、カテーテルを開放し腎盂内圧が
上がらないようにする。
b) 尿管閉塞バルーンカテーテルの種類
様々なメーカーより発売されている(表 6)。カテーテル(シャフト)の部分が硬いと、尿管を傷
つけるおそれがあるので、選択には細心の注意が必要である。
2) 穿刺針
穿刺針についても、様々なメーカーより様々なものが発売(表 7,8)されており、ここでは普段
使用されているものを推奨すると言うことで、各製品の詳細は省略する。基本的には 21G のも
のを使用すればこれに挿入できるガイドワイヤーは 0.018inch のものになり、18G であれば
0.038inch のガイドワイヤーを用いることになる。はじめ細い針をガイドとして挿入し、それに太い
針をかぶせるタイプもある(京大式三重針、ミティ・ポラック針)。
3) ガイドワイヤー
ガイドワイヤー選択については、(1)穿刺針にあった太さ、(2)結石の脇をすり抜けて尿管ま
で入っていけるか?→J-チップ型、親水性、(3)その際に尿管を損傷しないか?→先端軟性、
(4)筋膜ダイレーター使用時に十分な腰の強さがあるか?→シャフトは半硬性などを考慮する。
実際に、ガイドワイヤーの先端は J-チップ型のものとストレート型のものがあるが、一般には Jチップ型のものが尿管までガイドワイヤーを進めやすい。ガイドワイヤー全体に親水性コーティ
ングを施した製品(Radifocus)は容易に結石の脇をすり抜け尿管内に先端が進みやすいが、抜
けやすいことも事実である。また、尿管を損傷しないためには先端部分は軟性であることが望
まれる。筋膜ダイレーターを使用するに当たってはシャフトの部分は少し硬い方が使用しやすい。
これらを含めて、先端の軟性部のみストレートで親水性にし、シャフトは半硬性にしたものもある。
一般に各メーカーで市販している経皮的腎瘻作成セットでは J-チップ型の先端のみ軟性のガイ
ドワイヤーが装備されていると思われる。手慣れたこのガイドワイヤーをまず使用することを推
奨する。ただし、うまくいかなかったときのために、親水性に富むガイドワイヤーなども準備して
おくことが望まれる(表 8)。
4) 腎瘻カテーテル
術後の腎瘻カテーテル留置の意義は以下の 3 点である。(1)腎実質からの出血の防止→内
視鏡の外径やアンプラッツシースの外径より僅かに細い腎瘻カテーテルの挿入。(2)尿流を確
保し腎機能を保持するとともに、発熱を防止する。(3)再手術に備えて腎瘻の確保する。腎実質
からの出血を予防する意味で腎瘻カテーテルを挿入する場合に、バルーンの部分にふくらみの
ないフラットタイプのバルーンカテーテルは、挿入も容易であり、バルーンを抜去するときに腎瘻
壁を傷つけず再出血を起こすことがなく安全である。ファンネル部分が着脱式のものを用いると、
内視鏡の外套おいたままカテーテルを腎盂内におくことができ、挿入の容易さ、止血効果の両
面で優れている。
尿流の確保において注意すべき点は、バルーンをふくらませすぎて、バルーンカテーテルが
挿入されている腎杯からの尿流を悪くさせることである。この場合には発熱を伴うこともある。
カテーテルの先端に尿管スプリントがついたタイプのものは、再手術時に容易に尿管内にガ
イドワイヤーを誘導できる利点がある(表 9)。
5) 結石抽石用の器具
根本的にはそれぞれの硬性鏡にあわせて作られた硬性の異物鉗子が抽石に最も適している。
この場合ハンドルがバネ式のものであると、結石を保持した後に鉗子から手を離すことができ、
その後の操作がやりやすい。把持の安定性は二つ爪のものより三つ爪の鉗子が優れている。
尿管で使用する際には尿管を拡げる様に三つ爪を開いていき、組織を挟まぬ様に閉じていくこ
とが必要である。硬性鏡で届かない様な腎杯内の結石を捕捉するには、軟性鏡とバスケットカ
テーテルや鉗子が必要になる。この場合用いるバスケットカテーテルはバスケットの先端から硬
性の部分が出てこないゼロチップタイプのものが推奨される。また把持鉗子も腎杯内で組織損
傷を起こしにくい鉗子の先端が丸まったものが推奨される(表 10)。
6.砕石装置(千葉委員)
1) 結石破砕
適応: 結石が内視鏡の太さを越える大きさであれば砕石術が必要となるが、砕石装置(表 11)
とその特徴(表 12)を十分理解して砕石術を行うべきである。
第一選択:硬性鏡がとどく範囲の結石は,超音波砕石を用いる。この方法は,結石の破砕効率
が高く,かつ尿路粘膜に対しもっとも損傷の少ない砕石法である。また,振動棒の内
腔を経て粉砕した結石の破片の吸引・排出も同時に行え砕石片を出来るだけ残さな
いことができるのが大きな利点である。
第二選択:硬性鏡のとどかない位置の結石は,軟性鏡で到達し,電気水圧またはレーザーを用
いて砕石する。
2) 強力超音波による砕石
硬性腎盂鏡で腎杯腎盂内を観察し,結石がみつかったならスコープを結石に近づけ,超音波
振動棒を鉗子チャンネルより挿入する。振動棒がスコープ先端より数 mm 突出する位置で結石
に軽く接触させ,フットスイッチを踏み,振動棒に振動を起こさせる。
結石が大きいうちはプローブを軽く石に接触させる必要があるが,ある程度小さくなると結石
が潅流液の流れにのって自然にプローブに吸いついてくる。
大きな結石を真中より毀すと,結石の小片が腎盂・腎杯内に飛び散ってしまう。したがって,周
辺より少しずつ破砕し,このとき生じた小片をかたづけてから次に進むようにするのがよい。こ
のようにすると,時間的にも,残石なく処置を行ううえでも好都合である。
3) 電気水圧による砕石
水中放電(スパーク)による砕石。内視鏡のレンズは結石と同様にひびがはいりやすので,ス
パークの電極(プローブ)はレンズ面よりおよそ 3-5mm 離して用いる。また,スパークで発生す
る高温での火傷を起こさないようにするため,プローブ先端はなるべく粘膜面から離す必要が
ある。したがって、実際の操作としては,プローブが結石の中心にあたっていることを内視鏡的
に確認しつつ,フットペダルを踏み放電させる。放電中およびその直後は飛び散った結石の粉
末で視野が失われることがあり,結石・プローブ先端・粘膜との位置関係を再確認して砕石を行
う。なお,電気水圧による砕石法を用いる場合の潅流液としては,蒸留水を用いる装置と,生食
と蒸留水の混合液を用いる装置がある。
4) レーザーによる砕石
砕石効率は,電気水圧方式に比べ劣るものの,レーザーを直接照射しても粘膜の障害は電
気水圧方式に比べ少なく,安全性が高い。結石に直接光ファイバーを接触させ,フットペダルを
踏みレーザー光を照射する。また,レーザー光線が目に入ると危険なので,術者の目を保護す
るため使用するレーザーの波長に合わせた特別な保護眼鏡をかける必要がある。ただし,内
視鏡用ビデオカメラを装着して,テレビモニターをみながら操作を行えば,保護眼鏡は不要とな
りわずらわしくない。
a) Ho:YAG レーザー:砕石効率は高いが、レーザーを直接照射した部位の粘膜損傷(火傷・穿
孔)を起こす危険があること、水での減衰が大きいのことから、光ファイバーを結石に接触さ
せ、レーザーを照射する。
b) 色素レーザー:結石での吸収率は高いが尿路粘膜での吸収率が低いので組織障害が起こ
りにくい。ただし、シスチン結石では結石にレーザーが吸収されず、砕石効果がほとんどみ
られない。
5) リソクラストによる砕石(pneumatic lithotripsy など)
結石に軽くプローブを接触させ砕石する。専用の吸引装置を使用することにより砕石片の吸
引も可能である。
粘膜の穿孔に注意する。熱を発生させないので、熱による組織損傷がない。
7.PNL の治療効果判定(麦谷委員)
治療原則は結石の完全摘出を行い、残石なしとすることである。
1) 判定手段
術者が完全に摘出したと思っても残石の可能性はあり、残石の有無を腹部単純写真(KUB)
で確認する。しかし KUB のみでは小さな砕石片の評価や、放射線透過性結石あるいは尿管に
下降した砕石片の評価が困難なことがある。残石の評価を誤れば、結石は増大する可能性が
あり、尿管に下降した砕石片は尿路閉塞を惹起する。
残石評価のためには KUB および超音波断層法(US)を施行すべきである。KUB と US の組み
合わせは、腎結石の治療効果判定には IVP と同様に有用である。また腎瘻造影にて陰影欠損
(残石)がないこと、尿管の通過障害(砕石片)がないことを確認する。いずれにせよ、残石の有
無は KUB のみで評価しないことが肝要である。
KUB と US にて残石を認める場合は、腎瘻から内視鏡を挿入し、直視下にて残石を確認する。
可能ならば超音波砕石・吸引、あるいは鉗子にて摘出することが望ましい。
2) 判定時期と結石治療の考え方
最近の尿路結石に対する治療は、ESWL、TUL、PNL のいずれの方法においても比較的低侵
襲であることから、必要に応じて治療を追加できることが利点といえる。その効果判定時期とし
ては原則術後 1 週間以内が妥当と考えられる。術後 1 週間以内に残石と尿管通過障害の有無
を確認する必要がある。
術後 1 週間以内の KUB と US および腎瘻造影にて残石と尿管通過障害の有無を評価する。
残石を認めれば再度 PNL を行うか、または PNL にこだわらず状況によっては ESWL の併用も
考慮すべきである。
8.EE 時代における PNL の適応症例(東 委員)
腎結石に対する ESWL は、多くの装置が麻酔を不要とし、安全・快適に、経験の浅い研修医でも
たやすく施行できる術式である。(1)未治療の出血性素因を有する患者、(2)妊婦、石灰化を伴う
腎動脈瘤を有する腎の結石、(3)直径 5cm以上の大動脈瘤や症状を有する大動脈瘤の近くの結
石などの禁忌症例と、(4)肥満などのために焦点が届かない結石、(5)尿路通過障害のため排石
が期待できない症例などを除くと、現時点では腎結石のほぼすべてが ESWL の治療対象である。
なお、破砕困難な ESWL 抵抗結石もあり、またストーンストリートを容易に形成すると思われる大き
い結石は、ESWL に慎重でなければならない。
一方、内視鏡の細径化や砕石エネルギーの開発、またビデオシステムの普及などにより得られ
た PNL の治療技術の進歩は喜ばしいことである。しかしながら、麻酔の必要性や、輸血を必要とす
る症例も皆無ではなく、その上に院内感染の対策・予防も講じなければならないという現実的課題
も存在する。さらに、比較的小さい結石で、PNL に最適と思われる症例が、同時に ESWL の理想的
な適応症例でもあり、PNL の手技の複雑さに伴う諸問題を考慮すると、臨床の現場において、PNL
が第一選択として施行される機会が少ないのも事実である。
EE 時代における PNL の適応は表 13 のごとくであり、大きく分けて、(1)ESWL 抵抗結石、(2)
ESWL 禁忌・適応外症例、(3)PNL 優先例に分けられよう。
ESWL を試みたものの、破砕困難な場合もある。PNL や軟性尿管鏡による TUL への治療方針変
更は患者さんになかなか受け入れられないものであるが、2~3回で ESWL の治療効果がまったく
見られなければ、方針変更すべきであろう。
いったん PNL を選択したからには、腎盂に位置する結石は、完全に摘出すべきである。腎杯の奥
深くにはまり込んだ結石に対しては、軟性鏡を用いてアプローチする方法もある。手術所要時間、
出血の程度など、色々な要因を考慮した上で、あえて深追いせず、後日再度 PNL を行っても良い。
あるいは残石を ESWL にゆだねる方法もある。TUL の項目でも述べたことであるが、術者に臨機応
変・柔軟性ある姿勢が必要である。そして自らの力量を超えた症例には、施設間の連携、さらには
super specialist (専門家)の力をお借りする真の勇気が大切である。
9.標準症例におけるクリニカルパス(山口委員)
クリニカルパス(clinical pathway)は 1986 年にアメリカ合衆国看護師 Karen Zander が
DRG/PPS(Diagnosis Related Group/Prospective Payment System) に対応して、医療現場に始め
て導入以来、多くの疾患においてクリニカルパスが導入され、医療の標準化、業務の効率化および
入院期間の短縮に寄与してきている。
日本 Endourology・ESWL 学会の尿路結石内視鏡治療標準化委員会としてTULの標準術式に関
して、クリニカルパスについて合意のうえ報告した。私たちはこのパスを導入して、対象症例の入院
日数が 7.4 日から 4.6 日へ 2.8 日間減少したことを、第 17 回日本 Endourology・ESWL 学会総会に
て報告した。
今回は、標準化委員会で標準症例と規定された 30mm 程度の水腎症を伴う腎盂結石を対象にP
NLのクリニカルパスを示す。しかし、現在までPNLに関するクリニカルパスの文献はなく、今回示
すものは委員会内での暫定案であり、これが最良であるというエビデンスはない。今後、これを基
準により良いクリニカルパス(最終案)が多面的に検証されるものと考えている。
1) クリニカルパスの基本形
入院日数については、相澤らの TURPに対するクリニカルパスを参考に 12 日間を基本とした。
原則的に麻酔下手術なので、入院日は手術前日とする。術翌日にエックス線検査にて治療効
果を判定する。術後 5 日目に腎瘻カテーテルを閉鎖する。術後 7 日目に発熱などの問題がなけ
れば、順行性腎盂造影を行い通過障害のないことを確認する。術後 8 日目に発熱・疼痛などの
問題がなければ腎瘻カテーテルを抜去する。術後 9 日目に退院評価のうえ、術後 10 日目を退
院日とする(図 3)。
短期入院を目指して、術後 8 ないし 9 日目に退院するものは短期変化型とする。術後 7 日目
に残石治療を行い、退院日を術後 11 ないし 14 日目までのものを長期変化型とする。
クリニカルパスは医療スタッフ用と患者用の2種類必要とし、患者用には図やシェーマを利用
して理解しやすいように作成する(図 4)。患者用クリニカルパスを入院時計画書として兼用する
時は、病名等は現時点で考えられるものであり今後検査等を進めていくに従って変わり得るも
のであること、入院期間については現時点で予測されるものであることなどの必要事項を記載
する。また、入院診療計画に同意するか同意しないかの欄を作り、チェックのうえ署名を得る。
処置として剃毛(除毛)は行わない。リスクマネージメントのためにリストバンドを使用する。抗
菌薬の投与は術直前に行うが、あらかじめテストを行っておく。
2) 具体的事項
術前日: 主治医および看護師が患者説明を行う。薬剤師は服薬中の薬剤を確認する。患者へ
入院時診療計画書、患者用クリニカルパスおよび手術同意書を渡し、必要な署名を得
る。
手術当日・術前:術直前に抗菌薬の注射を行う。必要な症例では術前のKUBを撮影する。
手術当日・術後:術後の抗菌薬投与は必須ではないが、術後の抗菌薬の注射を行ってもよい。
術後は数時間バイタルサインをチェックする。尿量および血尿の程度は継続
して観察を行う。摘出した結石は、成分分析に提出する。夕食より食事を開
始する。
術翌日:尿道留置カテーテルを抜去する。術後抗菌薬の投与は必須ではないが、尿路感染の
合併のリスクがある場合には抗菌薬を注射または経口にて投与する。治療評価のた
めにKUB・検血を行う。
術後 2 日目:尿路感染の合併のリスクがある場合には抗菌薬を経口にて投与する。
術後 5 日目:術後 4 日目および 5 日目に発熱・疼痛などの問題がなく、US で水腎がみとめられ
なければ、腎瘻カテーテルを試験的に閉鎖する。
後 7 日目:術後 6 ないし 7 日目に発熱・疼痛がなく、US で水腎がみとめられなければ、順行性
腎盂造影を行い、通過障害がないことを確認する。腎瘻カテーテルは再度閉鎖して
おく。
術後 8 日目:発熱・疼痛がなければ、腎瘻カテーテルを抜去する。
術後 9 日目:自覚症状・他覚所見を勘案して、退院について可能かどうか評価する必要に応じ
て再発予防指導を行う。
術後 10 日目:術後 10 日目が退院日となる。
長期変化型:7 日目の順行性腎盂造影時に、残石や通過障害などの問題があれば、腎盂鏡を
用いて問題を解決する。その後に再評価を行うために退院日は術後 11 ないし 14
日目となる。
10.今後の予定(公文委員、棚橋委員)
今回公開した水腎症を伴う 30mm 以上腎結石に対する PNL の標準術式をもとに、学会会員か
らの意見を組み入れて、TUL,PNL全般に関する汎用性の高い標準術式(実践マニュアル)の完
成を目指す。第 18 回日本 EE 総会(2004 年、岡山)までに完成版の提示をめざし、TUL、PNL とも
に汎用性の高い標準術式(実践マニュアルであり、かつ「べからず集」、「こつと落とし穴」を含む)
を完成させる予定であり、多くの会員からの意見、提案を期待している。
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