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吸着燃焼を利用した揮発性有機化合物センサの開発

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吸着燃焼を利用した揮発性有機化合物センサの開発
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE
Title
吸着燃焼を利用した揮発性有機化合物センサの開発
Author(s)
笹原, 隆彦
Citation
(2005-03-18)
Issue Date
2005-03-18
URL
http://hdl.handle.net/10069/6910
Right
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http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp
第2章 マイクロマシン技術を利用した触媒燃焼式センサ
2−1 緒言
近年、マイクロマシン技術またはMEMS(微小電気機械システム:Micro−Electro−Mechanical
Systems)技術と言われる3次元微細加工技術により超小型のセンサやアクチュエータが多く研
究・実用化されている1)。マイクロマシン技術は2次元加工の半導体集積回路製造技術を基盤と
し、多種の材料を用いた接合やエッチングを組み合わせることにより、3次元の構造体を形成す
ることができる2)。電気回路部品の微細化がICやLSIなどであるのに対し、機械部品の微小化が
マイクロマシンである。これらの小型化技術は知覚、判断、動作の機能をミクロの領域に押し込
むことで、その場で感じた情報を素早く処理し、適切に動作する1つの人工知能を生み出すこと
ができる。マイクロマシン技術を使ったセンサは圧カセンサ3・4)、加速度センサ乳6)、磁気センサ7)、
および流量センサ&9)などの物理量を測定するセンサを中心にして実用化されてきた。やや立ち
後れた感のあった化学センサの研究開発も、最近は分析化学チップ(μ一TAS:Micro TotalAnalysis
Systems)m2)、バイオセンサ13・14)、およびガスセンサなどを中心に活発化してきている。ガスセ
ンサにおいては振動子15)、SAW素子16)、FET17)および半導体18)などの方式のマイクロアレイに
関する研究が多く報告されている1弘21)。その他にもLerc㎞erら22)よるカロリメトリックセンサや
Cuminghamら23)によるSiの屈曲共振プレートを用いた新しい方式のV㏄センサも報告されて
いる。しかし、室内の空気質を測定するのに十分な感度を有するVOCセンサはまだ実現されてい
ない。
そこで本研究では、室内空気中の微量なVOCを高感度に測定できるセンサを開発するために、
シリコンベースのマイクロマシン技術を利用して触媒燃焼式のマイクロガスセンサを開発するこ
とを目的とした。マイクロマシン技術は基板を容易に加工できることから、従来のビーズタイプ
のセンサより熱容量を大幅に低減した触媒燃焼式のガスセンサを作製することによって、十分な
高感度化が期待できる。本章では触媒燃焼式ガスセンサの構造の作製プロセスおよびセンサの可
燃性ガスに対する基本的な特性について述べた。
2−2 実験方法
2−2−1触媒燃焼式センサの作製プロセス
図2−2−1に触媒燃焼式センサの構造の断面図および上面図を示す。Si基板上に作製した触媒燃
焼式センサは熱容量を減らすため、2つのヒータ下部のSiをエッチングによって取り除いた薄膜
ダイアフラム構造とした。また、燃焼触媒としてPd/γ一Al203厚膜をヒータ上に作製した。図2−2−2
(a)および(b)にセンサの作製プロセスの典型的な例を示す。半導体の微細加エプロセスを利用
した工程①∼⑯を通してセンサを作製した。最初に、si(100)基板を酸化炉(DL−8P−373,TEL−
Themlco)にて熱酸化し、600㎜のSiO2膜を成長させた。その後、SiH4とNH3ガスの熱分解を用
いた減圧cvD(DJ−9300,国際電気)により250㎜のsi3N4膜を析出させた。次に、ダイアフラム
15
形状を作製するため、フォトリソグラフィにより基板の裏側にレジストパターンを形成した。こ
こで、フォトリソグラフィエ程は基板にポジ型フォトレジストを塗布’乾燥させた後、予め所望
のパターンに設計・作製されたフォトマスクを通してUV光をアライナ(PLA−501FA,キャノン)
で露光した。この露光された基板を現像処理することによって、レジストのパターンを形成した。
塗布・乾燥および現像にはコーターディベロッパ(CT2000−N,東京エレクトロン)を用いた。な
お、以後の作製プロセスにおけるフォトリソグラフィエ程もすべて同様な手順で行った。
次に、パターニングされたレジスト開ロ部に露出している裏面のSi3N4層をCF4ガスのドライ
エッチング(CDE一皿,徳田製作所)によって除去した後、現れたSiO2層をBHF(バッファードフ
ッ化水素酸)溶液によづて除去し、加熱した硫酸過水(硫酸・過酸化水素混合溶液)に浸してレ
ジストを剥離した。
次に、RFイオンプレーティング装置(SGC−22SA,昭和真空)で30㎜のHfO2膜をイオンア
シスト蒸着し、その上に250㎜のR膜を高速スパッタリング装置(CFS−8EP,徳田製作所)によ
り成膜した。ここで、HfO2膜は基板とPtヒータの間の熱膨張を緩和すること、および密着性を
改善することのために用いられた。さらに、フォトリソグラフィによりPt膜上ヘヒータ形状のレ
ジストパターンを形成し、マイクロエッチシステム(Model1201,Veeco)によりPt膜をArイオン
でエッチングした。その後、残ったレジストをドライアッシング装置(SEP−100D,島田理化工業)
で02プラズマにより除去し、Ptのヒータパターンを形成した。その後、フォトリソグラフィによ
りヒータ保護膜形成のためのレジストパターンを作製し、その上からセラミック保護膜をイオン
アシスト蒸着(SGC−22SA,昭和真空)した。この保護膜としてはPtヒータと触媒層との熱伝導お
よび密着性の観点からアルミナ薄膜を用いた。蒸着後の基板はBHF溶液に漬けることで、ヒータ
保護に必要のない部分の膜をレジストごと遊離するリフトオフ24)をおこなった。
次に、センサ触媒層としてPd/γ一A1203膜および補償層としてγ一Al203膜をスクリーン印刷機
(LS−34TVニューロング精密工業)を用いて印刷し、乾燥させた。その後、ウエハ裏面のシリコ
ンを除去するために25wt%TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液によるsiの異方性
エッチングをおこなった。最後に、印刷したPd/γ一Al203膜およぴγ一A1203膜は空気中700◎Cで1h焼
成することで、膜中の有機ビヒクルを燃焼除去した。焼成後の印刷膜の膜厚は触針式段差測定器
(DektakgOOO,SloanTec㎞ology)で確認した。
焼成された基板は自動ダイシングソー(DAD−2H/6,Disco)を用いて1.6×2.6mmのチップ状に
カットされた。カットされたチップは図2−2−3の外観図に示すような金属ステム(TO−8)にボンディ
ングし、ワイヤーボンダ(MB−2100,日本アビオニクス)によりAuワイヤを接続して評価用素子
とした。
16
董}{郵γ一A璽203鷲総董譲蓼翻鐙
γ一A童ρ3嫉鍵翻総劔騰 欝蓄盤磁継
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翻盆油鍛蓼灘蕊鞭雛欝電
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虹 1
セ き
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蓬 l l l l
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ド ミ
魍
昌
1 一 目 垂
ヒ ま モ ま
駐.4搬搬
2.6搬搬
(鋤写耀v蓋鐙騨
図豊必豊 触媒燃焼式マイク嚢ガスセンサの構造
17
sio2
_∠、、_
①熱酸化
愚難難醗、
・Si3N4
②窒化膜デポ
/
/フォトレジスト
③フオトリソクフフィ
■
、、“蹴■撫“wr r
。『羅
葦灘、1
「贈繍雛薫篇韓灘塞騰無i
筐丁
“欝働認磁灘嘉一■鱗■湘“『■
罵榊…一轟纏盤灘轟一躍置畿猛溢譲轟藍識蔽盤藷撚滋搬議総鰍「鱒一『
『ニニ「孫儲田
④窒化膜エッチング
醒雪 墜響 ㎜㎜讐響
⑤酸化膜エッチング
議
饅婆籔
登
難欝
⑥レジスト剥離
螢
凸
璽
..HfO2
⑦酸化ハフニウム蒸着
■/
驚麟羅麗羅羅 蟹欝興藩翼鷺騰驚羅羅羅㈱ 騰
覇 .
,
.、 墾
Pt
⑧白金スパッタ
■
r
“
『
“麟灘趨
⑨フオトリソグラフィ
/フオトレジスト
まハモま
薩嚢欝 饒毒響盤
図2必2紛触媒燃焼式センサの作製プPセス
i8
⑩白金エツチング
︹︸︷
灘 鰍羅灘麟驚鵬瓢輯源鰍羅酬騨燃礁蝋難融
贈蹄繕猟聯瀬泌隷廻鵬憂獣i繍鵬灘蛭
灘.覇鍵
総
難
⑪レジストアッシング
難.鍵
蒔華鍔
註 濫。田1
/フォトレジスト
⑫フオトリソグラフィ
ーノ
鰍
灘隷、
灘.嚢
離嚢鍵鞍
/Ai203
⑬アルミナ蒸着
/
葦業
羅跳懸鮒・鵬燃縄■羅燃騨・灘無聾脇
“嚇嶺濃
茸凝轟1
競翼聖韓議醸簸
舞書麗耳蒲
鱒脇轄
1
照講蹴・
..一
、一蕪麟露溝灘・
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蟻1譲簿
蝿鵜婁裂
難灘
琳鑑焼耳雛蝿1
心
嚢r一
⑭リフトオフ
.一
_騨__一_
一、、1
−i
緩謹嚢
一_ “ 一
・P宙γ一Al203
⑮スクリーン印刷
甕
/γ一A1203
欝嚢饗灘一
繋
⑯シリコンエッチング
、心編遽墨
麟欝、劉
欝 難劉
難額。響
難聾
灘
撫 繍
難︸岬“劉詳
韓ダ
欝 ⑰触媒焼成
!/ \
騨 。鴛鐘獅 灘i霧・,.1
離欝 嚢劉 縷鐵
図2必2(も)触媒燃焼式センサの作製プロセス
}9
防爆金網
8mm
キャップ
Auワイヤ
センサチップ
\
ステム
葱【コ
ドピン
リードピン
ガラス
ガラス封止
側面図
上面図
図2−2−3 センサパッケージの外観
2−2−2 印刷ペーストおよびセンサ膜の作製
ガスを検知するためのセンサ材料として、可燃性ガスに対する酸化活性が高い貴金属であるPd
触媒25)と、高温に曝されても比較的高い比表面積を維持することができるγ一Al203担体を組み合わ
せた15wt%Pd/γ一Al203を用いた。また、ガスに反応しないリファレンス膜の材料としてγ一Al203を
用いた。γ一Al203は空気中でベーマイト粉末を700。Cで1h加熱することによって得られた。Pd/γ一
Al203はPd(NO3)2を用いた一般的な含浸法によってγ一Al203粉末へPdを担持することで得られた。
この2つの粉末はそれぞれ20wt%の割合で有機ビヒクルに加えられ、24時間ボールミルによっ
て混合した。有機ビヒクルは13㎜olのフタル酸ジn一ブチルと350㎜01α一テルピネオールを
約80◎Cに保持した混合溶液に10gのポリビニルブチラール樹脂(平均重合度700)を溶解するこ
とで調製した。調製された2種のペーストはスクリーン印刷機を用いて印刷し、空気中700◎C,1h
で焼成された。また、焼成後のセンサ膜の形状は走査型電子顕微鏡(s4500,Hitachi)により観察
した。さらに、ペーストは印刷膜と同条件で焼成され、得られた粉体をX線回折装置(R[NT2500VHS,
Rigaku)により測定をおこない、全自動ガス吸着量測定装置(Autosorb−1−C,Quantachrome)によって
BET比表面積を測定した。
2−2−3 ガス感度の測定
ガス感度の測定は図2−2−4に示すような10dm3または50dm3のアクリルチャンバーでおこなわ
れた。室温で気体であるガスサンプルはシリンジでチャンバー中へ注入し、注入量を変えること
で濃度を制御した。室温で液体のガスサンプルはチャンバー中に置かれた小型ヒータ上で液体を
気化させることによって調製し、気化させる液体の量によってガス濃度を制御した。また、測定
を開始するまでに、ファンを回転させて十分にガスを拡散させることでチャンバー内の濃度を均
一に保った。すべての測定は25。C,50%RHの環境下でおこなわれた。
20
図2−2−5にはガス感度測定に用いたブリッジ回路を示す。センサの駆動温度はブリッジ回路の印
加電圧を変えることにより制御し、出力信号はブリッジ回路中のセンサ素子とレファレンス素子
の間に生じる電位差を増幅してモニタした。ガスに対する感度∠Vはガス中での出力0⑨と空気中
での出カピ吻との差∠V一㎎一陥で定義した。センサの駆動は常時通電加熱、または10秒間に0.4
秒だけONするパルス通電加熱をおこなった。
轟
アクリルチャンバー
ガス注入ロ
ファン///
r胤1−r悼
小型ヒータ
一 一 一 一 一 一 一 一 一 一
スリツト
パソコン
排気
電源
センサ
□□
回路基板
図2−2−4
ガスセンサ測定系
十
Output
,. Amp.
i帰…””””’1 R1 −
l Rf l
E
: i VR
体i 認欝醤抗
iSens・ri馬釈=可変抵抗
i Chip i Rf=レファレンス抵抗
R:センサ抵抗
雛 霧
図2−2−5 測定に用いたブリッジ回路
2−2−4 センサの温度
ヒータに印加する電流を直線的に増加させたときのヒータ電圧の変化(LV特性)を半導体パラ
メータアナライザ(HP4156,HewlettPackard)により測定した。印加電流および測定された電圧か
ら抵抗を求め、抵抗は以下の式に従ってセンサ温度に換算された。
R_R25=αR25‘T−25/
21
αは勲の抵抗温度係数、Rは測定された抵抗値、R25は室温における抵抗値、Tはセンサ温度を示
す。ここで。R薄膜の抵抗温度係数はあらかじめ測定によって求められた3董09pp認。Cを用いた。
また、センサ素子の触媒表面の温度分布を測定するために、上記の式によって計算された駆動
温度250∼450。Cの各設定の抵抗値における表面温度分布を赤外線マイクqスコープ(hfねScop¢,
EDOcorp.)により測定した。
2−3 結果と考察
2−34 センサ触媒膜の形態
図2−34に7GO。C焼成後のPd/γ一A亜203触媒層のSEM観察写真を示す。触媒層の焼成中に有機ビ
ヒクルが抜けるときにできたと考えられる5∼紛鶴程度のポアが多く観察されるため、触媒層に
おける粒子の充填密度は比較的低い。また、レファレンス層の密度も触媒層と同様であった。
き篭、.鯉. 欝華 蓬伽
図盆一34 焼成後の灘午萬臨触媒膜の麗醗写真
次に、センサの最終焼成条件の空気中700。C,翫で焼成した後のPd/γ一A量203粉体のXRD分析結
果を図2−3−2に示す。触媒として添加したPdは焼成によってPdOに変化していることがわかった。
また.この粉末サンプルの窒素ガスによるBET吸着表面積の測定結果は約150劔2/gであった。
⑳歌量o
.欝.遷禽護3醸
麟
Oγ一A董ρ3
轡 趨 ○
○○趨Cb
ヘノ
2{》 3{套 畷》 5⑭ 姦窪 7馨 綴》
28/8
図2−3−2 焼成後の麗/γ一A叢ρ3粉体のX灘}パターン
22
2−3−2 センサの熱特性
熱応答性
はじめに、パルス通電加熱したときのセンサの熱応答が十分であるか調べた。図2−3−3に各設定
温度に対するセンサ素子およびレファレンス素子の熱応答特性を示す。ヒータの温度はヒータON
500
4 3 角∠ 1
0 0 0 0
0 0 0 0
9。、2ε窪盆目o↑
,縷・
・駿
一■卜一4500C sens.
一ロー4500C ref=
一▲一4000C sens.
一、△”4000C ref=
、●『3500C sens.
一一〇一3500C ref=
0
0 20 40 60 80 100
Time/ms
図2−3−3 各設定温度に対するセンサ素子およびレファレンス
素子の温度上昇プロファイル
の後、急激に設定温度まで上昇した。すべての設定温度において、定常状態になるまでのセンサ
素子の温度上昇よりレファレンスの温度上昇がわずかに早かった。このときのセンサ素子および
レファレンス素子の膜厚はそれぞれ15.7μmと14.2μmであったことから、この温度上昇の違い
は膜厚の差によるものではなく、材料の放熱特性の違いによると考えられる。表2−3−1には各設定
温度におけるセンサ素子の温度上昇における特性をまとめた。温度上昇率は設定温度の増加と伴
に大きくなり、90%応答時間は設定温度の増加と伴に僅かに短くなった。このように、センサ素
子は薄膜ダイアフラム上に形成されており非常に小さな熱容量であるため、ヒータをONした後、
わずか25ms程度で400。C近い高温まで到達することがわかる。このため、0.4sだけヒータをON
するパルス加熱でセンサは熱的に十分に安定な状態が確保できている。
表2−3−1 センサ素子の温度上昇における特性
Presettemp.
*Response time Rate oftemp.rise
OC
ms
350
400
450
26.3
24.8
22.3
OC/ms
12.3
14.8
18.4
*R.esponse time represent90%response time.
23
電流一温度特性と消費電力
図2−3−4にセンサ素子およびレファレンス素子の電流一温度特性を示す。どちらの素子も印加電
流に対する到達温度はほぼ同じであった。また、表2−3−2には各温度におけるセンサチップの消費
電力を示す。センサチップの消費電力はセンサ素子とレファレンス素子の消費電力を合わせたも
のであるため、各素子の消費電力はこの値の半分となる。センサチップの消費電力は従来のビー
ズタイプのセンサを使用に比べて約1/5程度になっているため、電池による長期間の駆動を見込
むことができる。
n
f
翫㎞
●○
6 5 4 3 ︵∠ 1
0 0 ΩU O O O O
O O O O O O
9。\㊤﹄ε箋&目o﹄
4
鼠
6 8 10 12 14
ApPlie{l current/mA
図2−3−4
センサ素子およびレファレンス素子の電流一温度特性
表2−3−2 各温度におけるセンサチップの消費電力
Presettemp.
︽467
350
400
450
mW
000
OC
Power consumption
触媒層の温度分布
図2−3−5に設定温度が250,350,および450。Cにおけるセンサ触媒膜の表面温度分布を示す。どの
設定温度の場合においても、触媒層の中心温度は設定温度より約180◎C高く、周辺温度は設定温
度より約100。C低かった。このことは各設定温度において測定されるヒータの抵抗値がPtヒータ
上に生じる温度勾配の平均値であることを示唆している。このようにヒータの中心部と周辺部で
は温度に違いが生じており、触媒層上で起こる燃焼反応にもこの温度分布が影響を及ぼすという
ことに注意する必要がある。
24
、翻捻恥坤総董蜘簸
〆
灘藩灘撫 ノ
罫磯量軸聡鐙 鋤2勢軽c 侮)3齢轡c (◎4齢騨c
⑫置ぬ馨鍍鍛置
l l l l
菖⑪類c r7⑭。c 2聖◎嚢c 曝璽⑭@c 53⑬GC 65⑭{}c
図2−3毒
設定温度(の2齢,(紛3鱒,(◎器ぴCにおけるセンサ素子触媒層の表面温度分布
2.3.3 センサ特性
ガスに対する応答性
一般的にビーズタイプのセンサのガスに対する応答速度を測定する場合、小さなチャンバー中
に固定した通電安定状態のセンサに大きな流速でガスを導入することで、ガスの拡散時間の影響
をできるだけ小さくするなどして測定する。ガス拡散の影響を全く無視するためには、予めガス
の充満したチャンバー中でヒータをONすることで応答を評価することが考えられるが、ピーズ
センサのヒータON後の熱応答性が悪く.センサが安定するのに数分∼数十分の時間を要するた
め.ガスに対する応答を精度良く評価することができなかった26).しかし、作製したセンサは熱
容量が非常に小さく.短時闘でON◎FFを繰り返すパルス駆動においても熱応答が完全に安定し
ているため.予めガスの充満したチャンバー中において応答を測定できる。図2争6に設定温度
船0。Cにおいて.センサをパルス駆動させた時の1000ppmイソブタンおよび水素に対する応答を
示す.
⑱、O O
轟、、謬書翻ノ
耗鞠 N\
璽藩765432蓋㊨
⑭⑪◎⑪⑪㊨⑪◎㊨
>\覧惹曇螢趨
一2⑭ ◎ 2鐙 4㊤ 6◎ 霧⑭
丁蜘ε/懸§
図2−3遜 憩馨⑭脚醗のイソブタンおよび水素に対するセンサの応答波形
駆動温度聡ぴC
25
水素およびイソブタンの90%応答時間はどちらも24.6msであり、表2−3−1に示した4000Cにおけ
るセンサの90%熱応答時間とほとんど等しい。パルス駆動におけるガスに対するセンサの応答は
熱応答性(温度上昇時間)にのみ依存しており、その応答速度はミリ秒オーダの非常に速い性能
をもつことがわかった。このようなビーズタイプのセンサの応答と比較して段違いに高い性能は、
高速応答を必要とするガス漏れ源やにおい源探知ロボット27)またはガス流可視化システム28)の
ためのセンサとして非常に有効と考えられる。センサ自体のガスに対する応答はおそらくガスの
反応およびその反応熱を白金ヒータヘ伝導する2つの過程であると考えられるが、それらは合わ
せてもミリ秒以下にしかならないことがこれらの結果から判断できる。
駆動温度依存性
図2−3−7に常時通電加熱駆動したときの1000ppm各種ガスに対する感度の駆動温度依存性を示
す。ガスの燃焼によってセンサ感度が得られ始めるときの温度はガス種によって異なった。この
温度はガスの燃えやすさを表していると考えられ、低温から感度のある水素やCOは燃えやすく、
メタンは燃えにくいと言える。また、どのガスにおいても駆動温度の増加に従って感度が指数関
数的に増加するが、ある温度を超えると一定値を示した。このことは図2−3−8に示した触媒温度
Tsの2つの領域によって光藤が次のように説明している2乳30)。センサ温度Tsが低い場合は、触媒
の発熱が触媒活性と温度に強く依存する反応律速領域であり、RLS(ReactionLimitedSensitivity)と
呼ぶ。RLSは温度の増加と伴に指数関数的に触媒上での反応速度が増加する。しかし、センサ温
度Tsが高くなるとセンサ近傍に形成される気体の粘性境界層から触媒上ヘガス拡散によって到達
する分子数が燃焼反応で消費する分子数に追いつかず、拡散律速状態になるために安定な動作領
域であるDLS(Dif血sionLimitedSensitivity)が成立するとしている。
1
一〇一i−C4Hlo
一●一一H2
一・□・一C2H50H
0.9
・>0.8
\0.7
>
〈0.6
倉o.5
一昌一CH4
一△……CO
一一●一一軸●
ノ
σ’ ロ’一”{ト、、
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1 、□
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響0.4
ロ
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ノノ 〆 .』『
の0.2
ノ
α ♂二・△・・一・・△?11一か、一△
0.1
△∵’=か ..一−
0
100
200 300 400 500
Sensortemperature/oC
図2−3−7
種々のガスに対する感度の駆動温度依存性(1000ppm)
26
倉≧廿咽旨。の
,
,
,
,
DLS
RLS
Temp.
図2−3−8
触媒燃焼式センサの駆動温度と感度の関係
濃度依存性
図2−3−9には常時通電駆動したときの駆動温度400。Cにおける各ガスに対する感度の濃度依存性
を示す。ガス濃度が大きくなるに従ってセンサの感度は上昇する。従来のビーズ型センサの感度
の濃度依存性は比較的高い直線性を示すが、マイクロセンサは薄膜ダイアフラムを通してシリコ
ン基板への熱損失が大きいためか、やや直線性が損なわれていることがわかる。しかし、水素以
外は分子燃焼熱が大きいガスほど高い感度を示した。表2−3−3に各ガス分子の分子燃焼熱を示す。
また、図2−3−10に3000ppmにおける各ガスの感度と分子燃焼熱の関係を示す。このように、マ
イクロセンサは水素を除いて、ガス感度と分子燃焼熱の間に比例関係が成立するという接触燃焼
式の本来の原則を依然として維持していることがわかる。
︽∠ 1 3 5 ︵∠ 5 1 5 >\>罫≡旨。の
0
0
一〇一i−C4Hlo
一●一H2
一ロー・C2H50H
→■…CH4 !●
一・△一・・CO ,”
’
ノ”
倉
ノ’
ノノ .一一一ロ
ノ ー一 一一
ノ ー一□’一
ノノ ’・一 ,.・■
ノ ロノロ ト
●岬,・’ 、’一一
ノゴ母一 ._.・一一畳’
づゴ ロプロ
纂ニゴ見て二一一一一一△
0 1000 2000 3000 4000 5000 6000
Concentration lPPm
図2−3−9
センサ温度400。Cにおける各ガスに対する感度の濃度依存性
27
表2−3−3 ガスの分子燃焼熱31)
分子式
分子燃焼熱
KcaL「mol
」一C4Hlo
633.74
C2H50H
309.17
CH4
191.76
CO
67.64
H2
57.80
2.5
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Heat ofmolecular combustion/kcal mol
図2−3−10 各ガス感度と分子燃焼熱との関係(ガス濃度30000pm、駆動温度4000C)
応答波形
これまで述べたように、このセンサの特性は熱容量が十分小さいことから、ガスに対して高速
応答するだけでなく、従来のビーズ型接触燃焼式センサと同等の感度特性を示した。よって、こ
のマイクロセンサは短い間欠周期のパルスによる駆動をおこなっても、十分なセンサ特性を示す
と考えられた。そこで、10秒間に0.4秒だけ加熱する矩形波を入力し、センサのガスに対する応
答を測定した。図2−3−11には駆動温度400。Cでパルス駆動したときの1000ppmの各ガスに対する
応答波形を示す。イソブタン、水素、およびメタンの応答波形は定常値に達するまでに、センサ
の温度上昇に従って単調増加したのに対し、エタノールおよびCOに対する応答は定常値に達す
るまでにピーク状の波形を示した。特に、エタノールの波形は加熱開始してから約14ms後に400
msの定常状態値の約5倍となる極大値を示した。このようにエタノールの応答波形は室温で気体
28
である可燃性ガスとは明らかに異なる応答波形を示した。また、400msにおける感度は常時通電
駆動したとき、即ち通常の接触燃焼式センサの感度にほとんど等しかった。
2.5
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(a)C2H50H
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Time/ms
図2−3−11 駆動温度4000Cにおける100000mの各ガスに対する応答波形
2−4 第2章まとめ
本章ではマイクロマシン技術を利用して、Si基板上に熱容量の小さな触媒燃焼式のマイクロガ
スセンサを作製した。作製したセンサの膜形態、熱応答、ガスに対する応答などの基本的な特性
を常時通電加熱駆動およぴパルス通電加熱駆動により測定した。
設定温度400。Cにおけるセンサの熱応答は25ms程度であり、ガスに対する応答もそれと同様に
高速であった。センサチップ全体の消費電力は60mWであり、長期間の電池駆動を見込むことが
できる。触媒層は全体で280。Cの温度分布があったが、ガス種に対する感度は分子燃焼熱の序列
と良く一致した。また、COおよびエタノールに対する応答は一般の可燃性ガスに対する応答と異
なるピーク状波形を示した。特に、エタノール波形のピークの極大値は通常の接触燃焼感度であ
る定常状態値の約5倍であった。
このように、エタノールなどの極性の大きな有機ガスはパルス駆動する触媒燃焼式のマイクロ
ガスセンサのピーク状応答を利用することで、非常に高感度に検知できる可能性があることがわ
かった。
29
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