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三角形の合同条件に関する史的考察

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三角形の合同条件に関する史的考察
Journal Article / 学術雑誌論文
三角形の合同条件に関する史的考察
中西, 正治
Nakanishi, Masaharu
数学教育研究. 1995, 25, p. 87-100.
http://hdl.handle.net/10076/10449
数学教育研究 第 25号 1995
87
三角形 の合同条件 に関す る史的考察
中
西
正
治
(羽曳野市立峰塚中学校 )
(1996年2月 28日受付 )
概 要 :昭 和44年度の学習指導要領 にもとづ く教科書以後,三 角形の合同条件 は単に事実 と して記述 さ
れているのみで,そ の証明はほとん ど示されてない。それ以前 はやや厳密 さに欠け るが ともか くも証
明がなされている。 なぜ このように変わ ってきたのであろうか。
筆者は この問題 を解決す るために,ま ず明治期 におけ る代表 的 な幾何教科書 であ る菊池大麓編纂
『
初等幾何学教科書』,お よび当時我が国に流布 した諸外国の幾何学書を分析 ・検討 してみ ることか ら
始めた。その結果,菊 池は改 良協会の教科書 を参考にす ることによって, ロ ビンソン, ウ ィル ソ ン,
ルジャン ドル,ラ イ トそれぞれの幾何学書を最大公約的 ・間接的 に利用 しているかた ちにな っている
原論』
ことがわか った。つ まり菊池は,当 時の ヨー ロ ッパ の数学教育の情勢 も考慮 し,ユ ー クリッ ド 『
は少 なくとも最良の手本ではないとい うことを理 解 し教育的 な立場 に立 って幾何の教科書を編纂 した
のである。
Elコ 問 題の所在
中学校幾何教育 におけ る論証指導では,三 角形の合同条件 がその基礎的事項の 1つ と して位置
づけ られ ているにもかかわ らず,今 日の多 くの教科書では,こ の三角形の合同条件 は単 に事実 と
して記述 されているのみで,そ の証明はほとん ど示され ていない。
しか し,こ のような状況は昭和44年度の学習指導要領 にもとづ く教科書以後 の ものであ って,
それ以前はやや厳密 さに欠けるが,と もか くも証明がなされ ている。例えば,昭 和33年度 の学習
ー
指導要領のもとで編集 ・作成 された大阪書籍の教科書 『中学 数 学 2』 (昭和357)で は次のペ
ジに示された ように書かれ ている ①。
この証明方法 を見 ると,例 えば三角形 を三角形に重ね るときの重ね方 という点にお いて厳密性
に欠けると筆者 には思われ るのである。
実際′今 日の学校教育で扱われ ている多 くの幾何的内容を初めてまとまった形で取 り上げ,演
繹的論理体系 と して 『原論』 なる書物 (現代の幾何教育 に大 きな影響をもた らしている)を 編纂
したユー ク リッ ドは三角形の合同 ②をかなり厳密に証明 している。
例えば,「 二辺爽角相等の場合」 は 『原論』第 I巻 命題 4で 扱われ ていて,筆 者 が先 に厳密性
に欠け ると指摘 した点を,二 辺爽角相等の場合 に即 していえば,
三角形の合同条件 に関す る史的考察
二 辺 爽 角相 等 の場 合
AB=DE,
Bc=EF,
∠A=∠ D,
:(│)三
CA=FD
∠ B=∠ E,
∠ C=∠ F
角形の合同 I
△ABCと △DEFに おいて,∠ A=∠ D,AB=DE,AC=DFと
る。△DEFを △ABCの 上に移動させ,DEを
A B を D E に , ∠ A を ∠D に , A C を
DE
にそれ ぞれ重ね るとき, B C は
重な
る, な ぜ な ら, も し重 な らなけれ ば , 点 B
す
が E に , 点 C が F に 重 な ってい るの であ る
ABに 重ね,∠ EDF
を ∠BACに 重ね ると,頂 点 Cと Fは 重なる。
A
EFに
E F が 面 積 を囲む こと
か ら, 2 線 分B C と
D
になるが, これ は不 可能 で あ る。 ゆ え にB
B
C E
F
C は E F に 重 な る。
二辺 とそのはさむ角が,そ れぞれ等 しいこつの三角形は,合
同である。
例 l つ ぎの図で,AB〒 AD,AC=AEな
のように公理を も らて記述 され てい るのである。
らば′
△ABC=△ ADE
証
Iぃ
含
で ある。
∠BAC=∠ DAE
∴ AAК =△ ADE
Eに
``:≧
ミ
\
B/′
D
ところで, 「 二辺爽角相等の場合」 の証明方法
に関. し
重
ては, 『 原論』 も大阪書籍 の教科書 も 「
ね合わせの方法」 を用いる点で基本的 に同 じであ
るが: 他 の 2 つ の場合は証明方法 そのものが異 な
ってお り, そ れゆえ に証明の順序 も異 な っている
『中学 数 学 2』 (昭和35年)p.141
「
二 辺爽角相等 の場 合」 をSAS型 ,
のである。
「
三角爽辺相等 の場合」 をA S A 型 , そ して 「
三 辺 相等 の場
合」 をSSS型 と略 記 して,ユ ー ク リッ ド 『原論』 と大阪書籍 の教科 書 『中学 数 学 2 』 を比較対 照
してみ ると次 の ように な る。
SASi型
『原 論 』
大阪書籍
ASA型
①
③
重ね合わせ
S A S 型に帰着
①
②
重ね合わせ
重ね合わせ
SSS型
②
二等辺三角形の利用
③
垂直二等分線の利用
(表 中の数字 は証 明の順序 を示す )
以下,簡 単 に上記の表 について説明を加えよう。
まず 『
重ね合わせの方法」 によってSAS型 を証 明 した後,命 題
原論』第 I巻 では,命 題 4で 「
二等辺三角形の両底角 は等しい」
8に お いて 「
重ね合わせ の方法」を用 いなが らも,最 終的には 「
ことに依拠 してSSS型を証明 しているιさらに,命 題26におけ るASA型 の証 明はSAS型 に帰着 さ
せ ることによってなされ ているのである。
一方,大 阪書籍の教科書では 3つ の場合のいずれの場合も 「
重ね合わせの方法」 を基本 として
いるが,SSS型 の場合は最終的には垂直二等分線を利用す ることによらて証明がなされている。
このような証明の方法 と順序の相違点 は, どのような背景と経過 に 由来す るのであろうか。
89
筆者 は この問題 を明治期 におけ る代 表的 な幾何教科書 であ る菊 池大麓編纂 『初等幾何学 教科書』
,
お よび当時我 が 国 に流布 した諸外 国の幾何学書 を分析 ・検討す ることによ って明 らか に した い と
考 え る。
E2E 菊 池 大麓 編 纂 『
初 等 幾 何 学 教 科 書』 の 検 討
菊池大麓の 『
初等幾何学教科書』は,当 時の文部省普通学務局長服部一三か ら,数 学 の教科課
程を一定 にす る目的のための教科書の編纂を依頼 され,そ の依頼 に応えて編纂 されたものであり,
日本人の手による初め ての本格的な幾何教科書であ った 0。
この教科書は伝統的 なユー クリッ ド流の幾何 に沿 った もので,例 えば 「
二つ の三角形 は合同 で
"な
る言葉を使用せずに,「 ニ ッノ三角形ハ全 ク相等 シ」 と記
ある」 というべ きところを,“合同
述 しているのである。 ただ,本 論文では菊池の教科書 に言及す る場合においても,今 日常用 され
“
"な
ている 合同
る用語を使用す ることにす る。
さて 『
初等幾何学教科書』では,三 角形の合同条件は SAS型
⇒ ASA型 ⇒ SSS型とい う順
序 で扱われ てお り,前 節 で見た大阪書籍の教科書 と同様であ って,菊 池が範 とした伝統的 なユ ー
クリッ ド流の幾何 に沿 っていない。 しかもその証明も多少異なっている。
具体的 には次のよ うになされている。
① 二 辺爽角相等 の場合
定義
底邊
32 三
角形 ′ 何 νノ 邊 ニ テモ 之 二 英 メ
‐
}輝 ス
之 二 封 スル 角 ノ 頂 貼 テ .三角
ィ テ 停
形 ノ 項鮎
邊 Ш
二 等 ンク; 角 A C B ′、 角 D F E 二
等 アク, 角 A B C
r
DEF‐
tt
等ン
卜 務 ス.
定 義 _33.二
,′ 邊 ガ オR等 ノキ 三 角形 チ ニ 等 邊 三
角形 )郡 ス.
:
:
三 角形 D E F ′
二 等 邊 三 角 形 ‐ 於 テ ハ オロ等 ン ヽ 邊
路 チ 特二 其ノ 項 黙
卜 稀 ン, 第 二 邊
ノ爽 ム 角 ノ頂
テ 底 選
卜 和 ス.
定理 9..一,ノ 三 角形 ィ ニ 邊 ガ 夫 々
―,ノ′他 ノ 三
角形 ノ ニ 邊 二 等 シタ
叉 此 =織
ノ 爽1 ム 角 ガ 相等 シケン' ヽ
,
ノ 三 角形・ ハ 全 夕 相等 ジ,雨 シテ 相等
■フ
シキ 角 ハ 夫 々 相等 シキ 邊 二 封 ス.
AB9,DEFハ
ニ, ノ 三 角形 ニ ンテ, A B ′
、 DE=
:1翼
ゝE盆
丈
予ζ
[i企
等 ング, A O ′ 、D F 二
テ
itA“
等 シク, 爽 角 B A O ハ
爽角 E D F ニ
蒻 シ トセョ: ・
『初等幾何学教科書』(明治31年)p.27
菫 テ, A 職
Bこ
上ニ
ハ D踏
' 上 二, = 邊A B ハ
邊 DEノ
′
上二 重
すり, 0 路 卜F 路 卜^ D Ё ノ同シ側 = 在 ″様二置ケ;
‐ レ′
、A B ハ
然
Dl二
等 ンキ テ 以 テ,
.
fEtr,
、E 貼 ′‐
4 1 ′もD E 卜 をジ, B 踏 ′
L= llr f;
ヌ角B A O ハ角E D F 二等シ、デ以テ,
tEI!.
邊 A C ハ邊 D F ノ上二重ナ湾
ヌ ACハ
▲0 ′、D F
斯ク Bハ
DF二
等 シキ テ 以 テ,
I 合 シ, C 露
Eィ
:
′
ヽF 酷
lEgl'
ノ 上 二 重 ナ″;
上二 菫ナ リ
. , 0 ′、F ノ 上 二 菫 ナル チ 以
.>;fr, BC ,. it EI, l a.x;
・
ヽ
三 角形 ABO′ 、三 角形 DШ
然 ソ′
卜 合 ス:
ヽ 夕 和等 ンタ,BCハ
故 二 好 ニ フ′ 三 角形 ′
今
ンタ,角 AOB′
、角 DFE 二
EF二
等
等 ンク,角 ABC ′ 、角 DEF
二 薔 ン・
『
初等幾何学教科書』(明治31年 )p.28
三角形の合同条件に関す る史的考察
② 三 角爽辺相等の場合
問題 15。 二 等 邊 三 角形
′,英 ′ =邊
1直
ノ 頂 角 ■ 二 等 分 ス″ 直線
‐
角 二ヽ二 等 分 ス. 頓 角 ドメ ロ議 二 が,ノ L万
′ 掛 ナ,・
》 バ ■
:
三 角形 A B O テ
三 角形 D E F ノ
■ 鵬 ′ 上 二, 邊 B O ハ 邊 E F ノ
:
・
問題 16。 二等邊三角形 ノ 頂角 テニぎ界 ス″ 直線 ′L
ヽ督 各 屋邊 ノ 雨 爆 │フ ォロ筆 ノキ 距離l
上■ 在″ 出 ′
二 在 ノ. °
トハ Ш
D貼
燿 ν′も B O ′ 、E F
ABc;DEF′
D理
、 ニ フノ 三 角形 こ シテ, 角
二 等 ノタ, 角 ▲ OB ^ 角
BC■
邊 Ш
DFE 二
ト
3
等 ノキ チ 以 テ, 饂 2.
鶏 ′う F 鶏
ハ
ノ 同ン 側 二 在ル 様二 置れ
EL
BO′ o EF 卜 合 シ,0
・
三
定理 10。∵ィ
角形 ノ 三 角 ガ 夫 タ
ー」
′ :他ン 三角形 ノ 三 角 ・
■,等 ンタ ス
此 三 角 ノ 1項難 ノ 間 ノ′邊 ガ 相等 シ
ノ 三 角形 く、全 夕 相 等 シ, 而
タレハ,ニ フ
´
:ンテ 相等ンキ 邊 ハー夫 々 相等 シャ 角 テ
.
封ス
」
上 二 重 子, B 鮎
上 二 重 ナ リ, A 路
′ 上ニ
菫 ナ″:
面 ンテ 角 O B A ハ
B▲ ′ヽEDノ
角 FD二
ヌ 角 BO▲ ハ 角 EFD二
0▲ ′、FD′
故二 BA卜
等 シ ャ テ 以 テ,
観
餃・
ン3
上 二 tナ ノ
`等シキ テ 1以テ,
饂
藤
.L二 2ナ ル;
OAィ
安路 │ ′ ヽE D I F D ノ
奏踏 D ノ
上 二 重 ナ″
故 二 三 角形 ABOハ
ABC′ 、 角
三 角形 DEF 卜
合 ス;
故 二 此 二 ,ノ 三 角形 ′ヽ全 ク ォ日等 ンク,角 BAO′ 、角 EDF
等 ンク, i邑
`DE二
テ 1事レクら▲B′
二 等 ン トセ ョ:
、二 ,ノ 三
燃 ル、′
ヽ 全 ク 和等 シクノテ,第 三
角形 ィ
角 BAC
´
ヽ第三
角 EDF二
等 ンク,邊 AB′ .邊 _DE 二 ,邊 ▲o
′
`
■ T二
等 ジ型 ■■ シ・
`諄ンク,AC′ 、DF二
`事ン.
問題 :1■ 三角形 ′ 一,ノ 角 テ ニ等分 スル lE線 ガ
ン邊 二´垂線 ナン′
ヽ
ヽ二等邊 ナツ.
其 角 i二 封 スノ
,三 角形 ′
『
初等幾何学教科書』(明治31年)p.29
『
初等幾何学教科書』(明治31年 )p.30
③ 三 辺相等 の場合
問題 3 4 . . D な
邊 AB ガ
邊 BOノ
三 角形 A B C ノ
中働
リガ ヽナソハ,角 ADGハ
邊 AO ご
定理 21. ―,ノ 三角形 ノ 三 邊 ガ 夫 々
一,ノ 他 ノ 三 角形 ノ 三 邊 二 等 シケン
ハ, ニ フノ 三 角形 ハ 全 夕 相等 シ;而 シテ
二 封 ス・
相等 シキ 角 ハ 夫 々 相等 シキ 邊
等 ン:
殿.
饉
故二 角 B A C ハ 角 E D E ‐
ン テ 得 ズJ
等 シヵラザノ
即 角 B A G ′、角 E D F 二 等 シ;
角_ A B O ハ角 D Ш
於 ,っ
\
I:、
蕃∫
l B企
ヽ三 角形 A B c , D E F ′
然″ ■′
角 CAB ハ
ンニ B C ′ 、 E F ニ
然ノ
・全 ク 相等 ンタ;
LO.
・
二 等 シク, 角 B C ▲′
ヽ角 「 D 二 等 ユ
BC,DEF′
故 二 三角形 」
ニ フノ 三 角形
ABO,DEF 二
=18LE
鈍角
・
角 FDE 二
三 角形 DEFブ
、全 ク 和 等 シク,
等 シク,角 ABO ′
等 シク, 角 B O A ′、角 E F D ‐
第二 饉明法
鮮 ― 阻口法 ′ 如 夕 菫早ナ, メ ト 盤 定■ 1 1 1 1 ・
後 ノ 定理 チ 要 セザ″ ′ 利益 7,う
、 角 DEF・ ニ
三 角形 JЮ
B識
′ 上 二, 邊 E F ハ
D:鮎
卜′
、BCノ
ノ 上 二 菫 予 ;E路
邊 B C ′ 上 二 重 ナ リ: A ´識
■
ト
反封 ノ 側 二 在 ″ :様二 置 夕;
: 尋 ス Цトニ 等シキ テ テ,
β
以
饂
E.
ン 可 ンe
等 シヵノ
.第 一 旺明法・
テ ニ 邊 :BA,AO′
二 ,′ 三角形 AB9,DEF i於
各 二 邊 ED,DF二
等 シ;
・
僣
『
初等幾何学教科書』(明治31年 )p.47
、
餃・
『
初等幾何学教科書』(明治31年 )p.48
F識
′;
ハ C 識 ′ 上 二 重 ナ′
落 ル E l ト セ ヨ:
D ′テ D ノ
,(丙 日 ′ 如 ク),
若 ン JttD′ガ ー 直線 ナ77キ ′ヽ
角 BAC ′ 、角 BD′C二
即 角 EDF二
等 シ,
I,lL
等 シ:
ン キハ, A D ′ チ 緒 b 付 タ コ ;
若 ン 』 3 D ′が 一 直線 ナラ ザノ
然 ンハ BAハ
BD′ 二 等 シキ チ 以 テ,
個
、角 BD勉 L‐ 等 ン ;
角 .BAD′ ′
'テ
■ 0ムハ の
等 シキ テ 以 テ,
■
n.
lL
EE・
、角 CD′▲ ‐ 等 ン:
角 OAD′ ´
I・1■
ヽ差
故二 ニフノ.角 BAD′,CAD′ ′ 和 (甲 目 ′ 場合)載 ′
νtt BACハ
(乙 日 ノ 場合)ナ ′
′角 BD′C二
和 』レヽ差 ナ′
ニヮ′ 角 BD■ ,CD′Aノ
4等ン:
公
理 丁或バ島
故二 (甲,乙,丙,)何 レノ 場合 二 於 テモ,
二;′ 三角形 ▲BC,DEF二
4B′ 、DE二
角 BAcハ
於 テ,
`諄ンク,ACハ
角 EDF二
DF二
ヽ全 ク オ
雄■ ニフノ 三角形 ィ
日等 ンク;
角 ABё 4、角 DEF二
(等シタi
等 シ:
=,■
等 ンク,
角 AcBハ 角 DIE二 ・
奉 シ,
『
初等幾何学教科書』(明治31年)p.49
『
初等幾何学教科書』 の証明の方法 ・順序を整理す ると,下 に示 したような表 になる。
SAS型
菊
池
①
重ね合わせ
ASA型
②
重ね合わせ
SSS型
③
1 辺と対角の利用 ( 第一證明法)
S A S 型 に帰着 ( 第 二證明法 )
(表 中の数字 は証 明の順序 を示す )
初等幾何学教科書』 の位置を考えれば当然 とも言えるが,
我が国の幾何教育史 におけ る菊池の 『
①
菊池以後の幾何教科 書におけ る三角形の合同条件の指導順序 は, ほ ぼ菊池 と同様である 。
従 って, 何 故 に菊池の 『初等幾何学教科書』が 『原論』 と異なる指導順序を取 ったのかが問題
である。
実は,『 初等幾何学教科書』はその凡例 にも書かれているように英国幾何学教授法改良協会
THE ELEMENTS OF PLANE GEOMETORⅧ
(以下,改 良協会 とする)が 編纂 した幾何学書 『
に依拠 しているのである。実際,証 明の順序,方 法とも全 く同 じである。
SAS型
改 良協会
①
重ね合わせ
ASA型
②
重ね合わせ
SSS型
③
1辺と対角の利用 (第一證明法)
SAS型に帰着 (第 二證明法)
(表中の数字 は証明の順序を示す)
F ⋮ ⋮ ⋮ ︱ ︱ ︱ ︱︱ ︲
三角形の合同条件 に関す る史的考察
さらに凡例 には 「
他 ノ英,佛 ,獨 ノ幾何學書 二参酌 スル所ア リ」 と書かれていることか らも伺
えるように菊池は改良協会の教科書 以外 にも,当 時の我 が国に流布 していた諸外国の幾何学書を
参考 に したと推測 され る。実際に菊池が どの幾何学書を読んでいたかを調べ ることは筆者 には荷
数学教育史』 を参考にし,当 時の我が国に流布 していた諸
が重すぎる。そこで小倉金之助著の 『
外国の幾何学書を調べ ることに した。
E3コ 諸 外 国 の 幾 何 学 書 の 検 討
菊池 の英 国か らの帰 国が 明治 10年の 5月 ,『 初等幾何学教科書』 の完成 が明治21年 を考 え ると
この間 に流布 していた幾 何学書 を読 んでいた可能性 が高い。そ こで この11年間 に絞 って 小 倉 金 之
助著 『数学教育史』 (昭和 13年第 四刷 )を 見 てみ ると,当 時 の諸外 国の教科書 につ い て次 の様 な
ことが書 かれ てい る。
「
明治 10年 (1877)前 後 にお いて, 日本 の中等學校敷學 はア メ リカ,特 に ロ ビ ン ソ ン に よ っ
て支配 され た 。従 て,算 術 は所謂 イギ リス流 の もの で あ り,代 敷 も大膿 に於 て は イ ギ リス
③
流 で あ った 。之 に反 して幾何 はフラ ンス流 で あ ったので あ る。」
「ロ ビンソン流行 の最 高潮 は明治 10年で あ った 。 この年 にイギ リスか ら帰 られ た菊池大麓は,
ロ ビンソンの代 わ りに, ト ドハ ン ター を推薦 した。」①
「さて明治 15-18年 頃 に於 て,原 書 と して最 も多 く採用 され た教科 書 は,
代
数
ト
ドハ ン ター
幾
何
ウ
ィル ソ ン, ラ イ ト
三 角法
ト
ドハ ン ター
な どであ った 。」(め
以上 の ことか らす ると,菊 池 は トドハ ン ター,ウ ィル ソ ン,ラ イ ト (この 3人 は イ ギ リス )の
幾何学書及び明治 10年前後 まで使われ ていた フラ ンス,ア メ リカの幾 何学書 には 目を通 していた
もの と推測 す る。そ こで以下 の 5つ の幾何学書 を検討 して見 ることにす る。
●ル ジ ャン ドル(フ ラ ンス )臨
副MENTS DE GEOR/壺
'oRIE』 (1823)("
●ロ ビンソン(ア メ リカ) 『 ELEM[ENTS OF GEOMETORY PLANE AND SPHERICAL』
(1860)(10)
)
● トドハ ン ター( イギ リス) 『 E u c l i d ' s E l e m e n t(s1』
862)(・
●ウ ィル ソ ン(イ ギ リス)
●ライ ト(イ ギ リス)
『 ELEMENTARY GEOMETORY』
『THE ELEMENTS OF PLANE GEOMETORY』
(1881)(12)
(1885)(13D
これ らの幾何学書の証明順序及びその証明方法を説明す るにあた って, 三 角形の合 同条件 の証
明を便宜上, 以 下のようなタイプに分け る。
重ね合わせの方法」 を基本 と してい るの
タイプ分けの観点 は, 3 つ の場合のいずれの場合も 「
│
93
で,特 徴 となる証 明の方法 の部分の違 いを も って行 う。
○重ね合わせ だけ を利 用 して証 明 してい る ものを 「
重ね合わせ の原理型」
○二辺爽角相等 に帰着 して証 明 してい るものを 「
SAS型 帰着型」
○二 等辺 三 角形 の性質 を利 用 して証 明 してい るものを 「
二 等辺 三 角形利 用型」
○一 辺 とその対角 の関係 を利 用 して証 明 してい るもの を 「
1辺一対 角利 用型」
○垂 直 二 等 分線 の性質 を利用 して証 明 してい るもの を 「
垂 直 二 等 分線利 用型」
と名 付け る。 この呼 び名 に従 って,各 幾何学科 書のSAS型 O ASAtt O SSS型
の タイ プ を ま とめ た
のが以下 の表 で あ る。
SAS型
ルジ ャン ドル
(フラ ンス )
1823年
(出版 した年 )
ロ ビンソン
(ア メ リカ)
1860年
(PREFACEを
書いた年)
トドハ ン ター
(イギ リス)
1862年
書いた年)
(PREFACEを
ウ ィル ソ ン
(イギ リス)
1881年
(出版 した年 )
ラ イ ト
(イ ギ リス)
1885年
(出版 した年 )
ASA型
①
PROPOSITION Ⅶ
重ね合わせ の原理型
②
③
PROPOSITION¬ Ⅷ
重ね合わせ の原理型
PROPOSITION XI
l 辺一対角利用型
①
THEOREM XⅥ
重ね合 わせ の原理型
②
①
THEOREM 5
重ね合 わせ の原理型
②
THEORER/1 2・
重ね合わせ の原理型
③
THEOREM XⅦ
重ね合わせ の原理型
①
PROPOSITION 4
重ね合わせ の原理型
SSS型
③
PROPOSITION 26
S A S 型 帰着型
②
THEOREM 7
重ね合わせ の原理型
①
THEOREM l°
重ね合わせ の原理型
THEOREM XXI
SAS型 帰着型
(折 り返 し)
②
PROPOSITION 8
二等辺三角形利用型
③
THEOREM 15
SAS型 帰着型
(折 り返 し)
③
THEOREM 3・
1 辺一対角禾1 用型
( 表中の数字は証明の順序を示す)
この表か ら伺 えることは
S A S 型 は, 全 て 「
重ね合わせの原理型」
A S A 型 は, ト ドハ ンターのみ 「
S A S 型 帰着型」
それ以外は 「
重ね合わせの原理型」
二等辺三角形利用型」
S S S 型は, ト ドハ ンター のみが 「
ロビンソン, ウ ィルソンが 「
S A S 型帰着型 ( 折り返 し) 」
ルジャン ドル, ライ トが 「
1 辺一対角利用型」
である。
これ までのことを総合的 にみ ると トドハ ンターの幾何学書のみがユー クリッ ド 『原論』 と同 じ
三角形の合同条件に関す る史的考察
で,他 の幾何学書とは違 った形をと っていることがわかる。
(1891年)の 証 明の
THE ELEMENTS OF PLANE GEOMETORY』
改 良協会の幾何学書 『
ー
順序 ・方法を これ らの幾何学書 と比べ ると,そ の内容は トドハ ンタ の幾何学書を除 く最大公約
的 なものであることも分か る。では,
原論』 と同 じ形をとったのか
① な にゆえに トドハ ンターの幾何学書のみ がユー ク リッ ド 『
原論』 と違 った形 をとったのか
② 逆 にいえば,他 の幾何学書 は何故ユー クリッ ド 『
が問題 である。 この疑間 に答え るためにそれぞれの本の書かれた 目的 を調べ てみ ることにする。
E4E 諸 外国の幾何学書の書かれた目的
(1891年 )
●改 良協会 の幾 何学書 『THE ELEMENTS OF PLANE GEOMETORY』
一
司
Aし
Lり
rPREFACEの
KL「
部ゝ
The Association is desirous that it should be clearly understood that
Probably many teacherO will find in this all that they require in a Text Book for
k ,bdng salstted tO Supp取
thdr puメ
ズ剋gI児 噂ュ只ん」二式噂蓼資児妙涙史的し要見し餃χ趣執失′
Still there is,doubtless,room for
other traetises embodying such illustrative and explanatory matter;but the Associa―
tion is of opinion that such traetises shuold rather be thё work of an Association.
( 波線 は筆者 )
ユ ー ク リッ ド原論流 のその ままの扱 い」 では な く, 「 適 当な練 習 問題 」 が あ り, そ れ らの 問
「
必要 な図や説 明そ して発展 問題」 も用 意 され た
題 は生徒 の要求 に応 え られ ていて, そ のため に 「
とい う ことは, 幾 何学 の専 門書 では な く, 生 徒 の理解 を十分 に考慮す るため に書かれ た もの で あ
るとい う ことが 分 か る。
●ル ジ ャン ドル (フ ラ ンス )
(1823年 )
『ЁLEMENTS DE GEOMETORIE』
AVERTISSEMENTの
一部
dementg“
tout ce
e16ments,peut passer sans lnconvenlent les notes,appendices,et
年
qti est imprimO en petits caracteres,comme Otant moins utile ou exigeant une ttude
plus approfondie.1l revlendra ensulte9bi宍
sur蓼
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運
久
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し
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Jc凝
、
要
ユ
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し
(波線 は筆者 )
一
「
少なくとも 番最初の講義 では簡単 な内容に限 って欲 しいと願 っている学生は豊富 な経験 を
注や補遺」 を書 き 「目
持 っていないもしれ ない」。 「も っと深 く研究を しようと思うときに」 「
的を達成 して くれ る」 ように配慮を している。つ まり,学 生の状態を考え,彼 等がよ り深 く学習
できるように構成 してい るとい うことである。
PLANE AND SPHERICAL』
●ロビンソ ン(ア メ リカ)『ELEMENTS OF GEOM[EToRY
(186昨 )
砕
rPREFACEの
K L 「 A し じり 部
In the preparation of this work, the author's previous treatise, ELEMENTS OF
GEC)lM[ETC)RY, has formed the groundwork of construction, But `in adapting the
thematical education in our best lnstitu―
tions, it was found necessary so to alter the plan, and the arrangement of subieCtS,
as to make this assentially a new work.
so that the work is now believed
t o b e a s f u l l a n d c o m p l e t e a s c o u l d b e d e s i r e d i n e l e m e n t a r(y波線
t r は筆者
e a t i s)e 。
2生
[彗
「
in adapting the work to the present advanced state of h/1athematical education」
かれているように, 古 典的 なユー クリッ ド 『原論』 には縛 られず現代の数学教育の発展 した状態
へ沿うようにその著書を適応 しようとしている。その結果, 「 命題 の証明には徹底的 な変更を行
い, た くさんの新 しい命題を紹介 し, 演 習問題の数 を大幅に増や した」 のである。その演習問題
は学力を上げるためであ り。生徒 の理解を確 かめるためでもある。時代 に合わせ た数学教育を し
ようというのである。
● トドハ ン ター (イ ギ リス )『 Euclid's Elements』
PREFACEの
(1862年 )
一部
After the notes will be found an Appendix, consisting of propositions supplemental to those in the Elements of Euclid ; it is hoped that a judicious choice has been
made from the abundant materials which exist for such an Appendix. The propositions selectedare worthy of notice on various grounds : some for their simplicity,
some for their value as geometorical facts, and some as being probrems which may
naturally suggest themselves, but of which the solusions are not very obvious.
三角形の合同条件に関す る史的考察
The work finishes with a collection of exercisese Cleometorical deductions afford a
・・・0・0・・・・。・・・・・。・・・・・・・。・・・・・・・・・・・。・・
perlod of his course; ・
R/1any persons whose duties have rendered them familitt whith the examination
尋St
れon飢 … …
…
…
…
…
0・
Those in the present vollume may be divided into two parts; the first part
contains 440 exercises, which it is hoped will not be found beyond the power of early
students; the second part consists of the remainder, which may be reserved for pra―
( 波線 は筆者 )
ctice at a later stage.
「
幾何学 の演繹法 は,数 学 を学ぶ教 育課程 の初期 の頃 の学生 に と って, も っと も価 値 の あ る科
ー
演繹法」 とい うもの を重視 してい る。 しか
日になる」 と書かれ てい るよ うに, ト ドハ ン タ は 「
し「
初等数学 でた くさんの学生 に演繹法 を教 え ようと試み たが,そ の多 くの者 は失敗 を してい る」
。失敗 を繰 り返 さないため に,そ の教 育方法 と して練習 問題 に工夫 を施 したわけであ る。 練 習 間
題 を 2つ の部 分 にわけ最初 の部 分は初等的 なもので440題の練習 問題 を与 え, も う 1つ の部 分 は
主 に大学 のテ ス トか ら選 んだ もの であ る。
(1881年)
●ウ ィル ソ ン (イ ギ リス)『 ELEMENTARY GEOMETORY』
FOLLOWING THE SYLLABUS OF GEOMETRY PREPARED BY THE
表紙 │こ「
GEOMETRICAL ASSOCIATION」
幾 何学協会 によ っ
と書かれ てい るように, こ の幾 何学書 は 「
て準備 され た幾 何学 の教授 細 目に従 って」作 られ た もの であ る。 従 って そ の 目的 は , 改 良協 会 の
THE ELEMENTS OF PLANE GEOMETORY』
幾 何学書 であ る 『
′と同 じと考 えて よい。
●ライ ト (イ ギ リス )『 THE ELEMENTS OF PLANE GEOMETORY』
一部
PREFACEの
r t( t1 f. l\v LU)-6|15
(1885奪 ⇒
In this work, on the contrary, 4"gg3gJl-5- 3Cb.&gl *ggf $ggl"Jg 9iggggt-Sg
,-inquirY
into their interdePen-
dencebeing postponed, with a view of commencing without delay the all-important
part of the subject- the passagewith absolute certainty, and in the most direct an
d simple manner, from geometrical properties which are obvious to others which are
less obvious, or not at .aIL so.
(波線 は筆者 )
「
生徒がすでに持 っているたくさんの単純な明らかな真の概念を多く使 っている」 と書かれて
97
い るように,厳密 に演 繹的 に作 られ た 『原論』 とは全 く違 って,生 徒 の 「
単 純 な明 らか な真 の概
念」 を重視 し,直 観的 な ことを認め作 られ てい る。
以上 を まとめ てみ ると,
●どの幾何学書 に も共通 して言 え ることは,生 徒 や学 生 のため に練習 問題 にか な りの考 慮 を し工
夫 を凝 らしてい るとい う こと
●その中で も トドハ ン ター が特 に 「
演繹法」 の重要性 を記述 してい ること
がわか る。
トドハ ン ター の幾何学書 には他 の教科書 とは違 った 考 えがあ る こ とが伺 え る 。 した が って,教
と名付 け られ てい るの も納得が い くのであ る。
科書 の題 目が 『Euclid's Elements』
この ことか ら推察す ると,ト ドハ ン ター は特 に 「
演繹法」 の重要性 を意識 したが故 に,「演繹法」
が明確 に使 われ てい るユ ー ク リッ ド 『原論』 にその範 を依 ったので あ ろ う。筆者 は これ が トドハ
ン ター の幾何学書 のみ が ユ ー ク リッ ド 『原論』 と同 じ形 にな った理 由の 1つ では ないか と考 える。
の命題 の証 明の方法 と順番 は 『原論』 と全 く同 じであ る。
実際,『Euclid's Elements』
E5]改
良協会 の幾何学書 とユー ク リッ ド 『
原論』 の比較
ここで三 角形 の単元 の構 成 か ら, 改良協 会 の幾何学書 『T H E E L E M E N T S O F P L A N E
とユ ー ク リッ ド 『原論』 の合 同条件 の取 扱 の違 い を 比較 検 討 す るこ とは , 何故
GEOMETORY』
菊池の 『初等幾何学教 科書』 が 『原論』 と異 なる指導順序 ・方法 を取 った理 由を考 え る 1 つ の示
唆 になるのでは ないか と考 え る。 三 角形 の合 同条件 に関す る両者 の構造 は以下 の よ うに な ってい
る。矢印 は論理 関係 を筆者 が付 けた もの で あ る。
命題 5 二 等辺三角形 の
底 角 は 相 等 しい
↓
命題 7 同 一底 辺 上 に 同
じ側 に 等 しい 辺 を も つ 二
つ の 三 角 形 は つ く られ な
い
命 題 8 ぐ 藤結型
`° )3辺 の
それ ぞ れ 等 じい 二 つ の三
は相
角形
等 しい
と 1辺 を 等
命 題 26 2角
し くす る二 つ の 三 角 形 は
相 等 しい
● 藝輔蓉型
とそ
・ )2角
の 間 の ■ 辺 を 等 し くす
る 2つ の 三 角 形 は 相 等
しい
↓
↓
↓
● 2角 と 等 しい 角 の 1
↓
つ に 対 す る 辺 が 等 しけ ←―↓
れ ば 二 つ の三 角 形 は相
↓
等 しい
↓
↓
↓
↓
一
←
←
命 題 16 三 角 形 の外 角 は 内 対 角 の つ よ り大 き い
↓
命題 15 対 頂 角 は 等 しい
命 題 13 -直
線 上 の 二 つ の 接 角 の 和 は 2 直 角 に 等 しい
三角形の合同条件に関する史的考察
98
↑ ↓
THEOR。 7 二 等 辺三角形 の
底 角 は 相 等 しい。
TttB瑳
ガ警薄事響泄=場=角形習霜
しい
等
角 形 の 2辺 の和 は 第 3辺 よ り大 き い
THEOR.13 三
を それ ぞれ 等 しくす る二 つ の三 角 形 の うち, 等 しい辺 に は さ まれ
THEOR.16 2辺
る角 が 大 き い ほ うが 大 き い対 辺 を もつ
い
護場菫場轟等し
緊
L蠣警警
屋
罰
著
THEOR.6C葉
彗 :纂勲
2角 と そ の 間 の 1辺 を 等 し くす る二 つ の 三 角 形 は 相 等 しい
E 重ね 合 わ せ の 原理 型 コ
上 の図か ら, 以 下 の ことが言 え る。
① ASA型
を扱 うのにユ ー ク リ ッ ド 『原論』 では 「
命題 2 6 ( : 難難理 ) 2 角 と 1 辺 を等 し くす る二
つ の三角形 は相等 しい」 にお いて 「2 角 とそ の 間 の 1 辺 を等 し くす る二 つ の三 角 形 は相 等 しい」
と 「2 角 と等 しい角 の 1 つに対 す る辺が等 しけれ ば 二つ の三 角形 は相等 しい」 の 2 つ を同時 に扱 っ
てい るが, 改 良協会 の幾何学書 は 2 つ を切 り離 して別 々の定理 と して扱 ってい る。
②
『
原論』ではS A S 型
命題 5→ 命題 7→ SSS型
の
/
\
構造 になってお り,SAS型 がASA型 ,
ASA型 ,
SSS型のいずれの証明にも利用 され証明の中心的役割 を果た している。
改良協会の幾何学書ではSAS型
/
定理7→定理 13→定理 16→SAS型 (First Proof)
\
定理7→SAS型 (SecOnd PrOof)
と2通 りの証明方法を行 っているが,ASA型 は独立に証明され ている。
これ らのことか ら筆者は, 以下の ことを考え る。
1つは,改 良協会の幾何学書 は証明の方法が 『原論』 に比 べ それ ほ ど構 造的 にな ってお らず,
あまり演繹的 に扱 っていない。
命題262角 と 1辺
2つ 日は,改 良協会の幾何学書 はSSS型を 2通 りで証明 した り,『 原論』 の 「
を等 しくす る二つの三角形は相等 しい」 を 2つ に分けた りと,よ り分か り易 くしようと努力 して
いる点がうかがわれる。
つ まり, 改 良協会の幾何学書 はユー クリッ ド 『
原論』 に比べ, 教 育的 に構成 され てい ることが
判 る。
99
E6B 結語及び今後の課題
内容及び 目的か ら判 断 して これ までの ことを鑑み , 三 角形 の合 同条件 に限 って図式 に 表 す と以
下の ように なる。
トドハ ン ター ← 『原論』
ル ジ ャン ドル
ロ ビンソン
菊池 ← 改 良協会 ←
ウ ィル ソ ン
ライ ト
ー
す なわ ち, ト ドハ ン ター の幾 何学書 のみ が ユ ク リッ ド 『原論』 と同 じ形 を と ったが , 菊 池 は
トドハ ン ター を推薦 しなが らも, 三 角形 の合 同条件 に限 って言えば, 改 良協会 の幾 何学 書 を参 考
に し トドハ ン ター の幾何学書 には従 わ なか った と言え る。 この ことは, 小 倉金 之助 が 『数 学教 育
一
史』 で述 べ てい る内容 と 致 す る。菊池は改 良協会 の教科書 を参考 にす ることによ って, ロ ビ ン
ソ ン, ウ ィル ソ ン, ル ジ ャン ドル, ラ イ トそれぞれ の幾 何学書 を最大公約 的問接的 に利 用 してい
原論』
た と言え る。 つ ま り菊池 は, 当 時 の ヨー ロ ッパ の数学教 育の情勢 も考慮 し, ユ ー ク リッ ド 『
は少 な くとも最 良の手本 では ない とい う ことを理 解 して いた と考 え る。
筆者 は菊池 の 『初等幾 何学教科書』 が 『原論』 と異 な る指導順序 ・方法 を取 った理 由は以上 の
ような点 にあ った と考 え る。
本論文 の対象 と した時代 は, 明 治 か ら戦前 の国定教書以前 までであ る。 国定教科 書 以 降 につ い
ての研究 は今後 の課題 と した い。
本論文 を書 くにあた って大 阪教 育大学 の狭 間節子先生 に御指導 ・御助 言 をいただ い た こ とに深
く感謝 いた します。
ヽ
三角形 の
付記 本 論文 は, 第 1 9 回近 畿数学教育学 会 ( 1 9 9 6 年2 月 2 4 日京都女子大学 ) に お い て 「
合 同条件 に関 す る史的考察」 と題 して報告 した ものを書 き改めた もので あ る。
[参考文献 ・引用文献]
大阪書籍株式会社 『中学 数 学 2』 (昭和35年)pp.141∼146
この教科書 では 「
まった く重ね合わせ ることのできる図形を合同な図形 という」 と書かれている。
0寺
池田美恵訳 『ユー クリッ ド原論』 (共立出版 1989年初版11刷)p.5
伊東俊太郎 。
阪英孝 。
中村幸四郎
互いに重なり合うものは互いに等 しい」 と書かれ ている。
『原論』には合同の定義 はないが公理 7で 「
「
等 しい」は 「6σ ται」 と表現 されている。
49
初等幾何学教科書』 (明治31年)Op.27∼30,pp.47∼
菊池大麓編纂 『
一巻』p。
ニッノ三
77で「
いない
かし
『
し
は書かれて
「
シ
幾何学講義第
。
この教科書には 全ク相等 」の定義
三角形の合同条件 に関す る史的考察
100
ー
角形 ガ全 ク相等シ トハ ッノ三角形 ノ三 ッノ邊 ガ夫 々他 ノ三 ッノ邊 二等 シク,三 ッノ角 ガ夫 々他 ノ三 ッ
ノ角 二等 シキノ意ナ リ」 と書かれ ている。
SSS型
ASA型
SAS型
坂井英太郎著 (明治38年)
『普通教育 幾 何教科書』
林 鶴 一著 (明治40年)
『
新撰 幾 何学教科書』
①
重ね合わせ
②
重ね合わせ
③
SAS型 に帰着
①
重ね合わせ
②
重ね合わせ
③
垂直二等分線の利用
黒田 稔 著 (大正 9年 )
『幾何学教科書 〔
平面〕』
一
2年 )
(昭和
著
林 鶴
①
重ね合わせ
②
重ね合わせ
③
SAS型 に帰着
①
重ね合わせ
②
重ね合わせ
③
SAS型 に帰着
①
重ね合わせ
②
重ね合わせ
③
SAS型 に帰着
①
重ね合わせ
②
重ね合わせ
③
SAS型 に帰着
②
重ね合わせ
③
重ね合わせ
①
垂直二等分線の利用
①
重ね合わせ
②
重ね合わせ
③
SAS型 に帰着
①
重ね合わせ
②
重ね合わせ
③
SAS型 に帰着
①
重ね合わせ
②
重ね合わせ
③
SAS型 に帰着
『中等教育幾何学教科書』
掛谷 宗 一著 (昭和 2年 )
『新定 平 面幾何学全』
米山 國 蔵著 (昭和 6年 )
『新定平面幾何学教科書』
高須鶴二郎著 (昭和 7年 )
『新制平面幾何学』
国枝 元 治著 (昭和 8年 )
『新編中等教育 幾 何学教科書』
竹内 端 三 著 (昭和 10年)
『改訂新修幾何 平 面 ・
立誰』
津山 三 郎著 (昭和 10年)
『改訂平面幾何学教科書』
(表中の数字 は証明の順序を示す )
HE ELEMENTS OF PLANE GEO‐
T h e C o m m i t t e e a p p o i n t e d b y t h e A s s o c i a t i o nT『
pp.25∼ 28 筆 者 が参 考 に した この幾何学書 は,1891年 に共益商社 に よ って 日本 でreprint
された もので あ る。菊池が明治 21年 (1889年 )に 『初等幾何学教科書』 の初 版 を編 纂 して い る こ とか ら
METORY』
す ると,菊 池 はす でに原書 で読 んで いた と推察 され る。
identically equal」 と表 現 され てい る。
合 同 にあた ることばは 「
数学教 育史』 (岩波書店 昭 和 13年 2刷 )pp。 315∼316
( 6 ) 小倉金之助著 『
( 7 ) (6)のp.316
( 8 ) (6)のp.322
( 9 ) AoM.LEGENDRE『
ЁLЁMENTS DE GEOMЁ
TORIE』
(DOUZIコ ME Ё DITION 1823)
6gaux」 と表現 され てい る。
pp.10∼11,pp.13∼14 合 同 にあた ることばは 「
001 HORATIONeROBINSON,LL.D.FEREMENTSttF GEOMETORY PLANE AND SPHERICA劃
(1868)
と表現 され ている。
equal in all respects」
pp.32∼33,p。36 合 同にあたることばは 「
,F.RoS.『 Euclid's Elements』(1886)
equal」 と表現され ている。
14,pp.28∼
30 合 同 にあたることばは 「
10,pp.13∼
pp.9∼
ぐゆ I.TODHUNTER DeSc。
MoWILSON,M.A.『
α
の」 。
ELEMENTARY GEOMETORY』
(NEW EDITION 1881)
equal in all respects」」
identically equal」または 「
ppe18∼ 22,ppe28∼ 29合 同にあたることばは 「
と表現されている。
αЭ RICHARD PeWRIGHT FTHE ELEMENTS OF PLANE GEOMETORY』
1885)
equal」 と表 現されている。
pp.16∼ 18 合 同にあたることばは 「
(FOURTH EDITION
Fly UP