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報告書
G12-03 中学校外国語(英語) 音読への関心を高める学習指導の工夫 倉敷市立玉島西中学校 松 教諭 本 泰 子 研究の概要 本研究では,生徒の音読への関心を高めるための指導方法の工夫について探った。その結果,英 文をチャンクに分けて自分なりに意味のかたまりを考えながら音読できるよう学習活動を構成し, 生徒が音読に慣れ,音読の楽しさや面白さを感じることができるよう工夫することが,生徒の音読 への関心を高めることにつながる支援になるという手ごたえを得た。 キーワード 中学校英語,音読,関心,チャンク,Read and Look-up Ⅰ 主題設定の理由 日本では,英語の授業の中で音読が広く行われている。音読の効用に関しては,数多くの研究が い なされており,例えば,土屋(2004)は,音韻のシステムの獲得,語彙の蓄積,文法の自動化を挙 げて,音読がこれらをスピーキング活動に発展させる可能性を持っていると述べている。このよう に,音読については,その意義が高く評価されている。 しかし,音読には様々な効用が期待されているにもかかわらず,授業の中で行われている音読へ の生徒の関心は低い。新里(1989)は,「意味もなく機械的に実行している」「生徒はこの作業に 退屈している」と授業における音読の問題点を指摘している1) 。音読が機械的に行われ,一つの作 業として受け取られ,形骸化した活動に陥ってしまう傾向にあるなら,音読の効用を期待すること は難しい。 これまでの授業を自らの実践を基に振り返ると,音読に楽しく取り組めるよう心がけてきたが, はじめは楽しく音読することができていても,英文が長くなったり,音読を繰り返し練習したりし ているうちに,英文の意味を考えることなく機械的に音声にするだけの状況が見られることが多か った。そのため,英文の意味を反映して音読をさせること,単調な作業にならず自分なりの工夫が できるようにして生徒の音読への関心を高めることが課題となっていた。 そこで,本研究では,自分なりに意味のかたまりを考え音読に生かすという方法で,生徒が音読 に慣れ,音読を楽しみ,音読が面白いと感じることができるようにし,音読への関心を高めるため の学習指導の方法を探りたいと考え,本主題を設定した。 Ⅱ 研究の目的 中学校英語の指導において,自分なりに意味のかたまりを考えながら音読できるよう学習活動を 構成し,音読への関心を高めるための学習指導の方法を探る。 Ⅲ 研究の内容 村野井(2004)は音読は理解活動から産出活動の橋渡し的な役割を果たすもので,多様な音読活 動をすることによって第二言語を運用する際に必須な基礎が固められると述べている。しかし,こ れまでの自らの授業を振り返ると,生徒の音読への関心を高めることができず,多様な音読活動を 行っても,その効果が十分得られなかった。 入学当初の生徒は,短い英文の意味を理解し,英語の音声に新鮮な響きを感じながら,楽しく音 読に取り組むことができていた。授業で音読練習をした内容を自分なりにアレンジして,友達に披 - 89 - 露する姿も見られ,音読に関心を持った生徒の様子がうかがえた。ところが,学習する英文が長く なってくると,英文を見ただけで苦手意識を持ち,読むことの困難を克服してまで音読しようとす る姿が見られなくなるという傾向があった。そこで,生徒が音読に関心を持ち,その関心を高めて いくような学習指導の工夫が必要であると考えた。 1 実態調査 生徒の音読の状態と,音読に対する意識を把握するために,教科書の既習ページを使った音読 テストと音読についての意識調査を行った(対象:選択教科外国語 第2学年 履修者35名,実 施日:平成19年6月5日)。 生徒の音読の実態を把握する調査では,音読に区切りや強勢(ストレス)が表れている生徒は 少なく,音読の技能は必ずしも高いとはいえなかった。また,生徒の音読の様子から感じられた かいり 印象も,読んでいる内容と音声が乖離しており,内容が伝わってくるようなものではなかった。 音読に対する意識調査においては,「音読は楽しいですか」という設問に対して肯定的な回答を した生徒が多かったものの,みんなで一斉に音読することに比べると,全員に聞こえるように一 人で読むことには多くの生徒が抵抗感を持っていた。音読の様子も合わせて考えると音読に不慣 れで,音読そのものが楽しい,面白いと感じている生徒は少ないと思われる。そのため,音読そ のものを楽しい,面白いと感じることができるための指導方法の工夫が必要であると考えた。 2 音読への関心を高める工夫 生徒の音読への関心が高まらない一つの原因として,英文の意味が十分に理解できていない状 況で音読しているため,機械的な音読の繰り返しになってしまうことが考えられる。英文の意味 を十分理解した上で音読することが望ましいが,読み取りに重点を置きすぎると,読み取る力が 十分でない生徒は,音読を苦痛に感じることになる。そこで,意味をある程度意識しながらも, 音読の楽しさを味わうことができるように,チャンクを意識した音読指導の工夫に着目した。チ ャンクとは意味のかたまりのことで,土屋(2004)は,チャンクは言葉を発するときにひと息に 出す語のかたまりで,一つのチャンクは読む人によって,句・節・文とその長さが変わるもので あると述べている。また,チャンクを意識した音読をすることについて,田中ら(2006)は,文 単位で音読する場合とチャンクを意識した音読の違いを紹介している。文単位で音読する場合は, 先に文の意味を確認しておいて,音読の段階では音の連鎖に意識が向けられるが,チャンクを意 識した音読では,それぞれの断片を意味付けしながらポーズを置くようになると述べている。 チャンクの特性を中学校における音読活動に当てはめて考えてみると,まず,文字の連鎖が短 くなり,英文が読みやすくなる。これは長い英文に苦手意識を持っている生徒にとって,大きな 利点である。次に,前後を分断してチャンクに集中できることで,音と意味とが対応した音読が できる。さらに,チャンクの中の大切な 語を強く読み,それ以外の部分を速く弱 く読むことで,英語のリズムを出せるよ うになり,その経験が積み重なると,音 読に自信を持つようになると考える。 これまでの授業では,スラッシュリー ディングを行うことはあったが,意味を 理解するために英文を分解することが主 要目的であり,音読には直結していなか った。また,教師が適当な所でポーズを 入れて練習してはいたが,生徒にとって は,息継ぎのためのポーズであり,音を 追って読むという音読に変わりはなかっ 図1 生徒の関心の高まりと具体的な姿 た。 - 90 - そこで,生徒の音読への関心が高まる姿を図1のように想定し,「音読に慣れる」「音読を楽 しむ」「音読を面白いと感じる」と段階的に音読への関心を高めていくために,チャンクの特性 を生かした指導方法を次のように工夫することにした。 (1) チャンクを意識するための指導の工夫 音読への関心を高めるためのはじめの段階として,音 読に慣れることができるように,チャンクに意識が向く 工夫をする。この段階でのチャンクを意識した音読(以 下「チャンク読み」という。)は,英文の短いかたまり に意識を集中できるため,長い英文の音読に苦手意識を 持つ生徒の負担を軽くできる。 図2 チャンクカード チャンクを意識させるための一手段として,大切な語 (キーとなる情報を持っている語)を核としたチャンクをカードに書いたチャンクカードを活用 して,音読指導を行う(図2)。実態調査での生徒の音読は棒読みに近く,区切りやストレスに は注意を払っていない。チャンクを意識し,自分の音読の中に生かしていくためには,まず,チ ャンクは意味のかたまりであり,その中には大切な語があることを理解する必要がある。そして, 大切な語とそれ以外の語で読む強さや速さを変えることによって音読にリズムが生まれるという ことを体験させることが大切である。この段階の指導では,教師が分けたチャンクをチャンクカ ードで示す。 (2) チャンクを意識した音読をするためのRead and Look-up(リードアンドルックアップ) Read and Look-upは“Read.”で黙読し“Look up.”で文字から目を離して音読する練習法で あり,音読から暗唱への手段として認識されているが,本実践では,チャンクごとに文字から目 を離すことで,よりチャンクに対する意識を高めるという目的で行う。前後の情報を分断する表 現断片であるというチャンクの特性を生かして,Read and Look-upという音読の練習方法を位置 付け,チャンクを意識して音読することに慣れたり,チャンク分けした文を意味を考えて音読す ることを楽しんだりする場面で活用する。 (3) 自分なりに英文をチャンクに分けて音読する活動 チャンクは,読む人によって長さが変わるものである。意味のかたまり,という大前提はある ものの,音読をすることを念頭に分けるとき,意味だけでなく自分の読みやすさということも加 わり,チャンクの大きさが変わってくる。自分で意味を考えながらチャンクを分け,音読プラン を作って音読することで,自分で考えたチャンクを反映させて音読することが面白いと感じるこ とができると考える。 3 授業実践Ⅰ 選択教科外国語(第2学年 履修者35名)において,「チャンク読みで音読に慣れ,音読を楽 しむ」をねらいとして授業実践をした(平成19年6月~7月 全4単位時間)。 (1) 指導計画と授業の展開 授業実践Ⅰでは,生徒がチャンクを意識して音読することに慣れたり,チャンク分けした文を 意味を考えて音読を楽しんだりすることができるよう授業を構成した。音読練習に時間を割くた めに,題材は教科書の既習プログラムの本文(1単位時間に1セクション)とした。この授業で は,まず最初に,生徒に音読の効用を「話すこと」につながるものと説明し,そのためには自分 が何を言っているのかを意識することが大切であると伝え,図3に示す指導計画と1単位時間の 授業の展開により実践した。 (2) 学習指導の工夫 ア チャンクカードによる音読 大切な語を赤で示したチャンクカードを用いて,生徒が英文の中の一つ一つのチャンクの大き さがイメージできるようにしたり,大切な語を強くゆっくり読むように指導したりする。 - 91 - 題 材 実践Ⅰ 第1時 SUNSHINE ENGLISH COURSE 2 PROGRAM1 §1 1.Warm up 前時の復習 ここに 2.本時のめあて確認 フォーカス 3.テキストの内容理解 4.テキストの音読 new words(新出単語の確認) 音読練習,発表 など 5.本時のまとめ チャンクカードによるチャンク読みの導入 第2時 SUNSHINE ENGLISH COURSE 2 PROGRAM1 §2 大切な語を強く読むチャンク読み 第3時 SUNSHINE ENGLISH COURSE 2 PROGRAM1 §3 チャンクごとの Read and Look-up 第4時 PROGRAM1 のまとめ チャンクごとの Read and Look-up 図3 授業の展開 指導計画と1単位時間の授業展開 イ Read and Look-upの段階的練習 チャンク読みを十分した後,チャンク読みを生かしたRead and Look-upに移行する。練習法に 徐々に慣れていくことができるように,全員が一度に行う一斉練習,相手を見付けて互いに音読 を聞き合うペア練習,クラスのみんなの前での発表という流れで,段階的な練習を進める。また, 音読練習後の発表時に,NET( Native English Teacher )による評価を行うことを予告し, 目標を持った練習ができるようにする。 (3) 実践Ⅰの結果と考察 ア チャンクカードを活用した音読 チャンクカードを使ってチャンクとその中にある大切な語を意識した音読の練習をすることで, 生徒の音読の声が大きくなった。チャンクの中の大切な語を強調した音読をすることで,音読に リズムが生まれ,音読しやすくなった結果であると考える。また,チャンクカードを活用したチ ャンク読みによってできるようになったこととして,多数の生徒が文の中で強弱をつけることを 挙げていた。全体的に,赤文字の大切な語を強くゆっくり読むことはできるが,そのほかの部分 を弱く速く読むことができにくく,音読としては強弱をはっきりつけられていない面もあった。 しかし,意識の部分で生徒が自分の音読が変わってきていると感じていることがうかがえる。 イ Read and Look-upの段階的練習 一斉練習でのRead and Look-upでは,どの生徒もチャンク ごとに顔を上げてしっかりLook-upができていた。練習後, 互いの音読を聞き合う活動を行った(図4)。この活動の中 で, 「友達にこう読んだ方がいいよというアドバイスをもら えて良かった」という感想を持った。互いの音読について感 じたことを伝え合い,自分の音読に生かす姿も見られた。 ペア練習後の発表では,生徒はチャンクの切れ目とチャン クの中の大切な語が分かるようにポーズや強弱を意識的に付 図4 ペアワークをする生徒 けた音読ができ,音読が終わるごとに聞いていた生徒から拍 い 手が起きた。しかし,この段階で,萎縮して声の出せなかった生徒もいたため,一斉読みやペア 練習で正しく読めていたことを紹介し,励ました。前回発表したときに比べて,区切りやストレ スがよく分かったことを伝えると,授業後の感想には「発表をするごとに声も大きくなっていっ たので良かったです」と,チャンクを意識して音読することに慣れ,自分の音読が変わってきて いることを自覚したことが分かる記述をしていた。 授業実践Ⅰの前の実態調査では,全員に聞こえるように一人で音読することが好きと回答した 生徒は,極端に少なかった。しかし,実践後の調査では授業の中でがんばったこととして,クラ スのみんなの前で音読発表したことについて多数の生徒が挙げていた。これは,段階的に練習を 進めたことで,一人で音読することに対する感じ方が変わったものであると考えられる。 - 92 - また,実践授業を通して,35名中31名の生徒がチャンクカードを活用した音読に慣れたと回答 した。感想には「授業で使ったプリントを家で毎日5回読んでいる」「他の文でもやってみた」 という記述もあり,チャンクカードを活用しての音読や段階的に進めたチャンクごとのRead and Look-up によって,生徒はチャンクを意識した音読に慣れ,意味を意識して読むことの楽しさを 感じ始めたと考える。 4 授業実践Ⅱ 選択教科外国語(第2学年 履修者35名)において,「自分で分けたチャンクで,音読を楽し み,面白さを感じる」をねらいとして授業実践をした(平成19年11月 全4単位時間)。 (1) 指導計画と授業の展開 授業実践Ⅱでは,生徒が自分でチャンクを分けて音読することで,チャンク分けした文の意味 を考えて音読することを楽しんだり,自分で考えたチャンクを反映させて音読を練習して音読を 面白いと感じたりすることができるようにした。題材は授業実践Ⅰと同様,教科書の既習プログ ラムの本文とした。生徒が自分でチャンクを分けて音読する指導の流れの一部を表1に示す。 表1 チャンク分けの学習指導案(一部抜粋) 目 標 ○チャンクを意識した音読ができる。 ○意味付けをしてチャンクを分けることができる。 学 習 活 動 指導・支援上の配慮事項 4.音読練習 (3)目標文(3文)の ・なぜそこで分けたかをメモし,意識的に意味付けをするよう指示する。 チャンク分け活動 ・作業が進まない生徒には「これは一息で読めるかな」「迷っているときは,かたまりごとに 1.個人でチャンク分け(黒) 意味を考えて,ヒントにあるように音読してみたら」などの質問や助言をして支援する。 2.ペアで話し合い ・自分のチャンク分けを互いに説明し合って再検討してみること,無理に一つにまとめる必要 (話し合い後のチャンク がないことを伝える。 分けを,赤で記入) ・消極的なペアに参加して,話し合いのきっかけをつくる。 3.発表 ・違いがあるところの意味付けを確認して,基本的なルールはあるが,人によって音読すると きの分け方はいろいろあることを伝える。 (4)Read and Look-up ・チャンクごとに目線を上げることで,相手にどこで分けているか伝わるように読むことを指 示する。 (5)発表 ・教師がその場で一人一人の音読の良いところをほめる。 ・チャンク分けと実際の音読が違う場合は,理由を尋ねて,チャンク分けの意識を高める。 (2) 学習指導の工夫 授業実践Ⅰでは,生徒は意味のかたまりとしてのチャンクの働きやチャンクが大切な語を核に していることを大まかに把握した状態である。生徒が自分でチャンクに分けることができるよう, 次のような指導の工夫を行う。 ア ワークシートでのチャンク分け ◇Hi Yuki, ◇ ( ) チャンク分けを支援するワーク ◆Are you ready for your trip? ◆ ( ) ◇ ( ) ◇ ( ) シートを作成した。意図的にチャ ◆ ( ) ◆ ( ) ◇ ( ) ンク分けができるようにしたもの ◆ ( ) ◇ ( ) ◇But don't worry. から生徒自身が自由に考えてチャ ◆ ( ) ◆You will enjoy your stay here. ◇ ( ) ンク分けができるようにしたもの ◇ ( ) ◆ ( ) ◆ ( ) へと,段階的に変えた(図5)。 ◇We're looking forward to your stay. ◇ ( ) ◆See you soon, ◆ ( ) また,生徒の授業中の発言や授業 ◇Andrew ◇ ( ) を振り返って持った感想を「チャ 今までの授業でみんなが気付いたことより... ンク分けのヒント」として載せて ○日本語の文節と同じだと思う。日本語にしてみて,意味の切れ目で分かれる。 ○声に出して読んでみたら分かる。違うところだと何か変な感じがする。 いくことで,それぞれのチャンク ○inやwithの前で切れることが多い。→でも,そうじゃないときもある。 ○andの前で切れることが多い→でもそうじゃないときもある。 分けについての発見を共有できる ようにした。 図5 ワークシート PROGRAM 3-3 Read and look-upにチャレンジ! Hi Yuki, チャンク分けにチャレンジ! ① やあ,由紀。 Are you ready for your trip? 旅行の準備はできた? This winter is very cold and it often rains. We have to wear a sweater and a coat. worry. But don't You will enjoy your stay here. You can watch Aussie football ande many winter sports. ② We're looking forward to your stay. See you soon, でも心配しないで。 Andrew こちらで楽しく過ごせるよ。 次の3つの文をチャンクに分けてみよう! (1)1回目は自分で(黒) (2)2回目は友達と相談して(赤) ①This winter is very cold and it often rains. あなたの滞在を楽しみにしてるよ。 ②We have to wear a sweater and a coat. ③You can watch Aussie football and many winter sports. またね。 アンドリュー 今までの授業でみんなが気づいたことより・・・ ○in やwith の前で切れることが多い。 ○and の前で切れることが多い。 ○日本語の文節と同じだと思う。日本語にしてみて,意味の切れ目で分かれる ○声に出して読んでみたらわかる。違うところだと何か変な感じがする。 - 93 - (1) 1 2 (2) 1 2 (3) 1 2 イ 意味付けを確認するためのペアワーク 生徒が個人でチャンク分けをした後,ペアになってそれぞれのチャンク分けを説明し,話し合 いをする。自分のチャンク分けについて相手に説明することで,チャンクに分けた自分の考えを はっきりさせることができ,友達との共通点や相違点を発見することで,チャンク分けの観点を 確認したり,新たな観点を持ったりすることができると考えた。 ウ チャンク分けの観点を共有するための発表 ペアで話し合ったことを,クラスで発表する場を設け,チャンク分けの考えを互いに参考にで きるようにした。ここでは,机間指導でアドバイスをした生徒を中心に指名することで,その生 徒がどこで迷ったのかを全体にフィードバックして,チャンク分けの過程が分かるようにした。 (3) 実践Ⅱの結果と考察 ア ワークシートでのチャンク分け 活動の様子を見ると,多くの生徒がワークシートを使って自分なりに意味のかたまりを考え, チャンク分けをすることができていた。第1時目と第2時目は教師とのやりとり(表2)の中で チャンクに分ける生徒もいたが,少しずつ自分でチャンク分けをすることができるようになって いった。 表2 チャンク分け活動での教師と生徒のやりとりの一部 S1 : わかんね~,これでええ? T : (小さく分けすぎる傾向を見て,全体に)チャンクは意味のかたまりと T : それでいいよ。 S1 いうくらいだから,あまり細切れにするとかたまりじゃなくなるね。 : やったぁ!じゃぁこっちは? S2 : (ワークシートのヒントを見たら自分が分けたより少なかったので) T : 四つに分けるとしたらそれでOK S1 三つだとしたらどれをとる? : ここ...? T : そうそう。 S1 : おぉ,わけわかるしッ! えっ?おれ切れ目2個入れた。これ違うん? 違うん? T : 間違いじゃないよ。三つに分けるとしたらそこだね。 S2 : やったぁ! T : 声に出して読んで,そこを切るか切らないか考えてみて。 第2時 第1時 イ 意味付けを確認するためのペアワーク ペアワークでは,自分の分けたチャンクについて説明したり話し合ったりする中で,「意味で 考えたらここのような気がしたけど,読んでみたら何か違和感がある」とチャンクに分ける場所 を自分で考え直す生徒や,自信が持てず友達の意見に合わせてチャンク分けをし直す生徒など, 様々な生徒の様子が見られた。チャンク分けをした直後に,チャンク分けに対する感じ方を調査 すると,チャンク分けそのものを楽しく感じており,さらに難しい英文でもやってみたいという 意欲を示している(表3)。 ウ チャンク分けの観点を共有するための発表 チャンク分けの観点を共有するための発表ペアで話し合ったことを,クラスで発表する場を設 け,チャンク分けの考えを互いに参考にできるようにした(図6・7)。個人やペアでのチャン ク分けの考え方が全体のものとなり,チャンクへの理解が更に深まったと考える。 授業実践Ⅱの活動を通して,自分の分けたチャンクにこだわりを持ち,大事にした生徒A・B について,その様子を述べる。 表3 チャンク分け活動直後の調査 ( 人) はい いいえ チャンク分けが楽しい (N=33) 29 4 もっと難しい文でやって みたい (N=33) 24 9 図6 チャンク分け発表(1) - 94 - 図7 チャンク分け発表(2) 生徒Aは,ペアワークで,相手のチャンク分けの場所やその理由を聞き,自分のチャンク分け に対しての意見を受けたが,自分のチャンク分けに自信を持っているようで,相手の意見でチャ ンク分けの場所を変えることはなかった。生徒Aは常に意味のかたまりと読みやすさを考え合わ せてチャンク分けをしていたが,どちらかというと音に意識が向いていた。自分の分けたチャン クを基に音読を始めると,チャンク分けによって読みやすくなった英文を大きな声で音読してい た。音読の雰囲気が変わったと感想に書いていたので,どのように変わったかを尋ねると,「大 きな声が出せるようになった」と答えた。 生徒Bは,ペアワークでいつも積極的に自分が分けたチャンクについて説明し,相手を納得さ せていた。この生徒は授業実践Ⅰでは声の大きさや,区切りやストレスの付け方から判断して, 音読に積極的に取り組んでいるとは思えなかったが,初めて自分でチャンク分けをしたときに, 「日本語の文節と似てる」と発言するなど,チャンク分けについて多くの発見をした。チャンク 分けは意味をじっくり考えて行い,一度チャンクに分けたら,一つ一つのチャンクが分かるよう にポーズをとって音読した。 クラス全体では,生徒Bのように自分で分けたチャンク通りに 表4 音読練習直後の調査 ポーズや強弱を付けて音読するようにしていた生徒が多く,チャ 自分で分けたチャンクと先生が ンク分けが音読に結び付いていたといえる。音読練習直後の調査 分けたチャンクでは,どちらで 練習するのがよいか(対象33名) では,自分で分けたチャンクで音読練習をすることに対して肯定 「自分がよい」と答えた生徒 24名 的に受け止めていた(表4)。 (その理由) これらのことから,生徒は自分でチャンクを分けて音読練習を ・自分でやる方が楽しい することで,チャンクごとの意味を考えて音読したり,自分で考 ・やりがいがある えたチャンクを反映させて音読したりして,音読の楽しさや面白 ・できるようになってうれしいから ・意味が頭に入りやすい さを感じながら練習に取り組んだことがうかがえる。自分なりに 「先生がよい」と答えた生徒 9名 音読プランを作って音読することへの喜びが見えた。しかし,チ (その理由) ャンク分けに不安を抱き,教師によるチャンク分けで音読する方 ・先生の方が正確だから がよいと回答した生徒もいた。継続的なチャンク分け活動で,音 ・得意ではないから 読に自信を持って臨めるようにする必要がある。 5 事後調査 表5 音読に対する意識 実践後の生徒の音読の状態と,チャンクに分けた音読に対する (人) 意識を把握するために,音読についての意識調査と教科書の既習 音読は楽しい 実践前 実践後 ですか (N=35) (N=32) ページの音読テストを行った(対象:選択教科外国語 第2学年 楽しい 2 9 実施日:平成19年12月4日)。 まあまあ楽しい 24 19 ア 意識調査 音読についての意識調査では,事後のアンケートによりチャン 表6 チャンク読みに対する ク読みについての意識を中心に調査した。 意識調査(1) (人) 「音読は楽しいか」という問いに対して「楽しい」「まあまあ 自分でチャンクに分けて音読をする 楽しい」と回答した生徒の総数は,事前調査と大きな違いはなか ことは好きですか (N=32) ったが,「楽しい」と回答した生徒が2名から9名へと増えてい 好き・まあまあ好き 24 る(表5)。また,チャンクに分けての音読が好きと回答した生 あまり好きでない・好きでない 8 徒は24名で(表6),「自分でここだと思った所で区切って読ん でみて,日本語に直してみて,おかしくないかどうかみるのが好 表7 チャンク読みに対する 意識調査(2) きだから」「自分の力でやる方が身につくし,楽しいから」と理 (人) 由を述べている。チャンクに分けて読むことによる読みやすさに チャンクに分けて音読すると読み ついては,29名の生徒が肯定的な回答をしている(表7)。実践 やすくなると思いますか (N=32) 思う・まあまあ思う 29 後の感想からも,生徒が自分で分けるチャンク読みを通して音読 あまり思わない・思わない 3 の楽しさや面白さを感じることができたと考えられる(表8)。 - 95 - 表8 実践後の生徒の感想 ○ 音読の時に区切りがつけられるようになって,ビックリしました。 ○ ただ読むことだけより,チャンクに分けてそれを読むことのほうが頭に残ると思う。 ○ チャンクに分けてからだと意味を理解した上で音読ができると思うし,どこで切って読むのかがわかるので読 みやすくなったと思う。 ○ 自分で分けたりするのが楽しいしおもしろい。 ○ 今までは何も考えずに単語をひっつけて読んでいたけど,今はしっかりと間をとって読めるようになりました。 ○ チャンク分けをしたら今までの音読練習よりかなり読みやすくなった。 ○ 音読をするとき,チャンク分けができると相手に伝わりやすい。 イ 音読テスト 授業の様子や意識調査から生徒の音読に対する意識の変容が見られたが,それが音読にどのよ うに表れるのかを把握するために,事前調査と同じテキストを使って音読のテストを行った。 35名中33名の生徒が自分でチャンク分けをして音読することができた。また,分けたチャンク を音読に反映させていることが分かるように音読のできた生徒は14名だった。チャンクに分けた ことをすべてではなくても,いくつかの区切りを意識して音読に反映させたことは,自分なりに 音読で表現しようとする意欲が表れたものと考える。 授業実践Ⅱの結果で取り上げた,生徒A,Bについては,授業の中でそれぞれが大切にしてき たこと,感じていたことがそのまま音読テストに表現されていた。チャンク分けでは読みやすさ を優先していた生徒Aは,事前のテストではやや自信のなさが見られたが,このテストでは,チ ャンク読みで声が大きくなったと感想に書いたとおり,堂々と大きな声で読むことができた。意 味を大切にしてチャンクを分けていた生徒Bは,音読テストでも,チャンク分けしたものを忠実 に音読した。はっきり読むこと,チャンクを意識して相手に伝わるように読むことを心がけてい ることが分かる音読だった。 Ⅳ 成果と課題 本研究では,生徒の音読への関心を高めるための指導の工夫について探った。その結果,英文を チャンクに分けて自分なりに意味のかたまりを考えながら音読できるよう学習活動を構成すること で,生徒はチャンクを意識して音読をすること,チャンクに分けた文の意味を考えて音読すること, 自分で考えたチャンクを反映して音読することへと対象を変えながら,関心を高めていくことがで きた。そして,生徒が音読に慣れ,音読の楽しさや面白さを感じることができるよう工夫すること が,生徒の音読への関心を高めることにつながる支援になるという手ごたえを得た。しかし,自分 でチャンクを分けることに不安を感じる生徒や,正しさを求める生徒もいるため,チャンク分けを 生かした指導を3年間を見越して授業の中に位置付ける必要がある。 今回の授業実践では,生徒の音読への関心を高めることを目指して取り組んだが,チャンク読み は情意面で音読に効果をもたらすことだけでなく,音読に面白さを感じることで技能面の高まりが 見られる生徒もいた。今後は本研究を踏まえて,チャンク読みの効果を技能面でも探っていきたい。 ○引用文献 1)新里眞男(1991)「音読の意義と指導法」『若林俊輔教授還暦記念論文集 英語授業学の視点』三省堂 p.131 ○参考文献 ・ 土屋澄男(2004)「英語コミュニケーションの基礎を作る音読指導」研究社 ・ 村野井仁(2006)「第二言語習得研究から見た効果的な英語学習法・指導法」大修館書店 ・ 田中茂範,佐藤芳明,阿部一(2006)「英語感覚が身につく実践的指導 - 96 - コアとチャンクの活用法」大修館書店