...

アルカテル535

by user

on
Category: Documents
2

views

Report

Comments

Transcript

アルカテル535
No.92 2008.11
11
11/2008
2008
No.92
2008年11月号 第8巻第11号/毎月26日発行 通巻92号 ISSN 1349-3663
p2.8
新しい情報ネットワーク基盤の商用化と
研究開発の動向
p3.20
真のバルクGaN単結晶の必要性と研究開発動向
ライフサイエンス分野
p4
米国N I H の革新的でハイリスクな
生物医学研究への支援
ナノテク・材料分野
赤外線エネルギーを吸収する
ナノアンテナ電磁波集電装置
情報通信分野
p5
装着型自立支援ロボットの量産開始
社会基盤分野
p7
電化促進における震災時安全対策 2008
No.92
11
今月も「科学技術動向」をお届けします。
科学技術動向研究センターは、約 2000 名の産官学から成る科学技術
人材のネットワークを持ち、科学技術政策において重要な情報あるいは
意見の収集を行い、また科学技術予測に関する活動も続けております。
月刊「科学技術動向」は、科学技術動向研究センターの情報発信手段
の一つとして、2001 年 4 月以来、毎月、編集・発行を行っています。意
識レベルの高い科学技術関係者の方々、すなわち、科学技術全般に関し
て広く興味を示し、また科学技術政策にも関心をお持ちの方々に読んで
いただけるものを目指しております。「トピックス」では最近の科学技術
および政策から注目される話題をとりあげ、また、「レポート」では各国
の動向や今後の方向性などを加えてさらに詳しく論じています。これら
は、科学技術動向研究センターの多くの分野のスタッフが学際的な討議
を重ねた上で執筆しています。「レポート」については、季刊の英語版の
形で海外への情報発信も行っています。
今後とも、科学技術動向研究センターの活動に有効なご意見を読者の
皆様からお寄せいただけることを期待しております。
文部科学省科学技術政策研究所
科学技術動向研究センター センター長
奥和田 久美
このレポートについてのご意見、お問い合わせは、下記のメールアドレスまたは電話
番号までお願いいたします。
なお、科学技術動向のバックナンバーは、下記の URL にアクセスいただき「科学技術
動向・月報一覧」でご覧いただけます。
文部科学省科学技術政策研究所
科学技術動向研究センター
【連絡先】〒100-0013 東京都千代田区霞が関3-2-2 中央合同庁舎第7号館東館16F
【電 話】03-3581-0605【FAX】03-3503-3996
【 U R L 】http://www.nistep.go.jp
【 E-mail】[email protected]
Science & Technology Trends November 2008
1
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 月号
科学技術動向
本文は p.8 へ
概 要
新しい情報ネットワーク基盤の商用化と研究開発の動向
電話は 19 世紀後半に発明され、
「回線交換方式」と呼ばれる技術を基にして電話網を構成す
ることで、重要な社会基盤としての役割を演じてきた。一方、テレビなどの放送網は、約 100 年
前の無線通信の発明に端を発し、映像伝送の技術を核として今日に至っている。電話網の「回線
交換方式」に対し 1960 年代初頭に「パケット交換」と呼ばれる方式が発明されインターネット
が誕生した。この方式は、本来文字などのデータ通信を実現する目的で開発されたが、インター
ネットの発達に伴い、多様な通信を提供できるようになっている。特に、電話網が担ってきた音
声通話とテレビ放送が担ってきた映像伝送という機能が、このパケット交換方式の上で実施でき
るようになったことから、電気通信に対する市場のニーズは通話からデータへと大きく変化し、
本来電話のために整備されてきた社会基盤である電話網は大きな変貌を遂げつつある。
先進国の通信事業者および情報通信政策の担当者は、衰退しつつある音声通話の市場に代わ
り、情報通信基盤を「NGN」
( Next Generation Network、次世代ネットワーク)に関心を持っ
ている。これは、IP (Internet Protocol、インターネットプロトコル ) と呼ばれる技術によって通
信網を統一的に運用するというネットワークである。IP とは、インターネットのパケット交換方式
における核となる技術である。先進国各国は、NGN に関する数多くの実験的運用を実施しており、
日本でも 2008 年 3 月から世界に先駆けて商用サービスを開始している。
一方、これまで放送網や通信網が経てきた発展の経緯に捕らわれず、社会インフラとしてある
べきネットワークを検討する新世代ネットワークの研究が進んでいる。これを NGN と区別するた
めに
「NWGN」
(New Generation Network、
新世代ネットワーク)
と呼んでいる。
NWGNでは、
ネッ
トワークインフラをより長期的な観点で捉え、IP の発展形を検討の中心に据えつつ、ユビキタスネッ
トワーク環境で想定される少量かつ高頻度の通信需要などへの対応も検討している。
本稿では、まず世界的な標準化の動向を踏まえ、各国の NGN に関する取り組みを述べる。
つぎに、より長期的な展望に立って進められている NWGN のアーキテクチャに関する研究プロ
ジェクトの概要を、米国・欧州・日本に関して紹介している。
今後の情報ネットワークのあり方を議論するために必要なことは、エンジニアのエキスパートの
見識を問うことばかりでなく、広く他のエキスパートの知見を取り入れることである。ネットワー
クが他分野の研究開発に及ぼす影響の検討や幅広い分野のイノベーションを生み出す豊かな土壌
となりうるような工夫が求められる。
技術進化と NGN と NWGN の関係概念図
放送網
アナログ信号
デジタルテレビ放送
デジタル
信号処理
パケット交換方式
動画像配信
継続
インターネット動画配信
セキュリティ/QoS
インターネット
パケット交換方式
NWGN
オープン
音声通話
クローズド
インターネット電話
QoS
電話網
回線交換方式
デジタル電話
パケット交換方式
NGN
アナログ信号
1960
1990
2008
年
科学技術動向研究センターにて作成
2
科学技術動向
本文は p.20 へ
概 要
真のバルク GaN 単結晶の必要性と研究開発動向
窒化ガリウム(GaN)系半導体は、現在、発光ダイオードやレーザダイオードなどとして
実用に供されており、我々の日常生活に密接に関わっている。発光ダイオードとしては、
携帯電話を始め液晶ディスプレイのバックライトなどに、またレーザダイオードとしては、
ブルーレイディスク用光源としてハイビジョン映像の録画再生に用いられている。今後の
GaN 系デバイスの高性能化により、一般照明用途やインバーターなどのトランジスタ用
途などへも応用展開され、大きな省エネルギーにつながるとの試算もある。
GaN 系半導体の結晶は、基板としてサファイアや炭化ケイ素(SiC)
の異種材料を用いて、
その上に結晶成長させることにより得られている。しかし、結晶成長させる材料と基板材
料が異なることから結晶欠陥が多数発生し、出力や寿命などのデバイス性能に悪影響を与
えている。さらにこの異種材料の基板と成長した GaN の結晶面方位の関係から、自発分
極が発生して、発光効率向上の阻害要因となっている。
今後、大きな性能向上を図るうえでは、これまでの異種基板を用いた結晶成長技術では
限界がある。限界を超えるためには、結晶欠陥が少なく任意の結晶面を切り出すことが可
能な「真のバルク GaN 単結晶」が切望されているが、結晶成長技術が確立していない。主
導権争いにおいて残り少ない基板材料であるとも言える GaN の結晶成長技術において、
日本が研究開発の主導権を握れるかどうかは、今後、GaN 系半導体デバイス技術全体に
対して重要な意味をもつと考えられる。
㧳㨍㧺ߦ߅ߌࠆࡋ࠹ࡠࠛࡇ࠲ࠠࠪࡖ࡞ߣࡎࡕࠛࡇ࠲ࠠࠪࡖ࡞ߩ⚿᥏ᚑ㐳
GaN におけるヘテロエピタキシャルとホモエピタキシャルの結晶成長
䊓䊁䊨䉣䊏䉺䉨䉲䊞䊦
䉺䉟䊒㪘
ォ૏
㪞㪸㪥♽⭯⤑
䊖䊝䉣䊏䉺䉨䉲䊞䊦
䉺䉟䊒㪙
ォ૏
䉺䉟䊒㪚
㪞㪸㪥♽ෘ⤑
ォ૏
䉺䉟䊒㪛
㪞㪸㪥♽
ෘ⤑ၮ᧼
ᭂᕈ㕙 (0001)
᦭ᭂᕈ㕙
㩿㪇㪇㪇㪈㪀
ήᭂᕈ㕙 (1100)
ၮ᧼
䋨䉰䊐䉜䉟䉝㪃㩷㪪㫀㪚䈭䈬䋩
ၮ᧼
䋨䉰䊐䉜䉟䉝㪃㩷㪞㪸㪘㫊䈭䈬䋩
䊙䉴䉪䋨㪪㫀㪦㪉䈭䈬䋩
೸㔌
䉁䈢䈲⎇⏴
䋨䉰䊐
ၮ᧼
䉜䉟䉝
㪃㩷㪞㪸㪘
㫊䈭䈬
䋩
છᗧ䈱㕙䉕ಾ಴䈚䈩
ၮ᧼䈮૶↪
㪞㪸㪥♽⭯⤑
㪞㪸㪥ၮ᧼
㐳⍴ᚲ
䊶ᄢ㕙Ⓧ䌾䉟䊮䉼䉪䊤䉴
䊶⚿᥏ᰳ㒱䋨ォ૏䋩䋺
䌾㪈㪇㪐㪺㫄㪄㪉
䊶᦭ᭂᕈ䋺㪚㩿㪇㪇㪇㪈㪀㕙䈮
䉋䉎⥄⊒ಽᭂ
䉝䊒䊥 ㄭ⚡ᄖ䌾✛⦡㪣㪜㪛
䉬䊷䉲䊢 ⊕⦡㪣㪜㪛䋨ᡆૃ⊕⦡䋩
䊮
䊶ᄢ㕙Ⓧ䌾䉟䊮䉼䉪䊤䉴
䊶⚿᥏ᰳ㒱䋨ォ૏䋩䋺
䌾㪈㪇㪎㪺㫄㪄㪉
䊶᦭ᭂᕈ䋺㪚㩿㪇㪇㪇㪈㪀㕙䈮
䉋䉎⥄⊒ಽᭂ
䊶ᄢ㕙Ⓧ䌾䉟䊮䉼䉪䊤䉴
䊶⚿᥏ᰳ㒱䋨ォ૏䋩䋺
䌾㪈㪇㪌㪺㫄㪄㪉
䊶᦭ᭂᕈ䋺㪚㩿㪇㪇㪇㪈㪀㕙䈮䉋
䉎⥄⊒ಽᭂ
䊶㜞䉮䉴䊃
䊶㜞ຠ⾰
䊶છᗧᭂᕈ㕙
䊶⚿᥏䉰䉟䉵䋺㫄㫄䉥䊷䉻䊷
㕍⚡⦡㪣㪛䋨ૐ䊌䊪䊷䋩
㕍⚡䌾㕍⦡㪣㪛
ᧂታ⃻
科学技術動向研究センターにて作成
⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
Science & Technology Trends November 2008
3
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 月号
ライフサイエンス分野
TOPICS
Life Science
米国における最大の医学・生物学研究の支援機関であり、生物医学系国立研究所でもある
NIH は、2008 年 9 月 9 日、研究者主導による大胆で創造性に富む研究育成のためのグラント、
T-R01(Transformative R01) の新設を発表した。従来からある研究グラントでは、ハイリスクで革新
的な研究が申請されにくい可能性があるため、申請書様式の変更や新しいピアレビュープロセスを試
行する。今後 5 年間で 2.5 億 US ドル以上を出資する予定である。ハイリスクで革新的な研究への支
援は米国 NSF でも検討されているが、今回、NIH から先に具体的なグラントが発表されたことになる。
トピックス
1 米国 NIH の革新的でハイリスクな生物医学研究への支援
米国の医学および生物学研究の最大の支援機関で
あり、同時に最大の生物医学系国立研究所でもある
NIH は、研究者主導による大胆で創造性に富む研究
を 育 成 す る た め に、T-R01 (Transformative R01)
という研究グラントを新設することを、2008 年 9 月
9 日に発表した。予算規模は今後 5 年間に 2.5 億 US
ドル以上と予定されている。
米国 NIH には、従来から R01 という研究者主導の
研究を支援する研究グラントがあったが、R01 グラ
ントの仕組みやピアレビューによる評価では、多くの
ハイリスクで革新的な研究の申請書が提出されない
可能性があるとして、このたび T-R01 が新設された。
T-R01 では、以下の 3 点が従来の R01 と異なる。
① T-R01 で募集されるのは、生物医学や行動科学の
広い範囲において大きなインパクトをもつ可能性が
ある革新的・ハイリスク・オリジナルな研究であり、
従来研究とは全く異なる研究であり、新しいパラダイ
ムを生み出しうる研究である。研究で明らかにしよう
とする目的は、従来の R01 では複数設定されていた
が、T-R01 では原則 1 つとされている。
② T-R01 申請書の研究計画の項目に 8 ページの制限
を設けた。制限範囲内で、研究の革新性・新規性・研
究により生じると思われるインパクトおよび T-R01
への適合性を示す必要がある。従来の R01 の申請書
では 25 ページまで記載可能であり、研究の背景・詳
細な研究方法・予備実験の結果などが記載されていた。
③ T-R01 申請書の採択において、従来の NIH のピア
レビュープロセスとは異なる新しいプロセスを試行
する。NIH 研究グラントの内の 70% のピアレビュー
を運営している NIH Center for Scientific Review
によって、従来とは異なるプロセスで施行される予定
である。
この T-R01 の研究グラントは、生物学・行動学・
臨床・社会学・物理学・化学・コンピュータサイエンス・
工学・数理科学などを含む NIH のミッションに対応
する全ての研究分野の研究者からの応募が期待され
ている。若手に限らず、どのレベルの研究者でも応
募可能であり、個人でもチームでも申請できる。NIH
の規約に照らして問題がなければ、外国人研究者や海
外研究機関からの応募も可能である。研究テーマの例
としては、NIH の戦略プランニングプロセスを通じ
て抽出された特に必要だと考えられる研究領域から、
次のようなものが示されている。行動の変化の科学・
タンパクの捕捉・ミトコンドリアにおける機能的な変
異・複雑な三次元の細胞モデル・急性の疼痛から慢性
疼痛への変移・ファーマコゲノミクス。
T-R01 は、2008 年 12 月 29 日 か ら 2009 年 1 月
29 日まで募集が行われ、採択の決定は 2009 年 9 月
末の予定である。研究期間は 5 年間で、1 年間最大
2500 万ドルまで出資される。採択予定件数は 60 件
とされている。採択決定時には、採択されたテーマと
ともに、新しいピアレビュープロセスについても明ら
かにされるものと考えられる。
ハイリスクで革新的な研究への支援については、
米国 NSF で「トランスフォーマティブ・リサー
チ(TR)
」と名付けられ、2004 年から委員会が設け
られて先行的に検討されてきた。現在、NSF でも
EAGER(EArly-concept Grants for Exploratory
Research)
というグラントを設けることが検討され
ているが、今回、NIH から先に具体的なグラントが
発表されたことになる。
参 考
1) NIH Announces New Transformative R01 Funding Program, NIH News (September 9, 2008)
2) Transformative R01 Program:http://nihroadmap.nih.gov/T-R01/
3) NIH Center for Scientific Review:http://cms.csr.nih.gov/
4) “Enhancing Support of Transformative Research at the National Science Foundation”:
http://www.nsf.gov/nsb/documents/2007/tr_report.pdf
4
TOPICS
情報通信分野
Information & Communication
2008 年 10 月 7 日、サイバーダイン株式会社は自立支援用のロボットスーツ (ROBOT SUIT®) を量
産し、大和ハウス工業株式会社を通じて介護・福祉施設向けにリース販売を開始すると発表した。同
社は、筑波大学大学院の山海嘉之教授らの研究成果である自立支援ロボットの開発と量産を目的にし
た大学発ベンチャー企業である。年間 500 台規模での世界初の自立支援ロボットの量産となる。今
TM
で、両足用と片足用との 2 種類がある。人間の脳が筋骨格系を
回販売されるのは下半身用の
「HAL 」
動かそうとする時に流れる微弱な生体電位信号に応じて関節部のモータにトルクを与え、装着者の動
作支援を行う。
トピックス
1)
2 装着型自立支援ロボットの量産開始
サイバーダイン株式会社 (CEO:山海嘉之筑波大学
大学院教授)
は、2008 年 10 月7 日に、自立支援用のロ
TM
を量産し、大
ボットスーツ (ROBOT SUIT®)「HAL 」
2)
和ハウス工業株式会社を通じて 介護・福祉施設向けに
リース販売を開始すると発表した。サイバーダイン株式
会社は、山海嘉之教授らの研究成果である装着型自立
支援ロボットの開発と量産を目的に 2004 年 6 月に設立
された大学発ベンチャー企業である。生産設備や試験・
訓練室を含む研究開発センターがこの度竣工し、年間
500 台規模でロボットスーツ (ROBOT SUIT®) の生産
を開始する。これは、世界初の装着型自立支援ロボット
の量産となる。
全身に装着するタイプも開発されているが、今回リー
ス販売されるのは下半身用のもので(図表参照)
、両足用
と片足用との 2 種類がある。重量は、両足用が 10kg、
片足用が 6kg で、これにバッテリー重量の 1kg が加わ
る。リチウムポリマーのバッテリーを用い、60 分の充電
で 60 ~ 90 分の稼働が可能である。サイズは、身長に
合わせて 1.5cm 単位で微調整ができる。
販売対象は介護・福祉施設のみで、個人への販売は予
定していない。リース期間は 5 年間で、保守メンテナン
ス料や訓練費用を含めて、両足用が月額 22 万円、片足
用が月額 15 万円となる。また、採寸や身体機能のチェ
ックを行い、ある程度のカスタマイズをする必要がある
1)
ため、ホームページ での個別相談にも応じている。
このロボットスーツ (ROBOT SUIT®) は、人間の脳
が筋骨格系を動かそうとする時に流れる微弱な生体電
位信号を皮膚表面に貼った電極パッドで検出し、増幅後
にコントロールボックス内のコンピューターで信号を解析
し、その信号に応じて関節部のモータにトルクを与えて、
装着者の動作支援を行う。筋肉や骨の動きを利用してい
るのではなく、脳からの伝達信号を検出しているため、
筋肉が動きだすより一瞬早くロボットを動かすことがで
き、自分で筋肉を動かせない人もサポートすることができ
る。この様な随意的制御機構に加え、人の基本動作を
パターン化し、そのパターンに合わせて自らが制御する自
立的な制御機能も持っており、これらの組み合わせで安
定なパワーアシストを実現している。
装着時に受ける違和感を最小限におさえるためには、
人間の行動様式などの知識も重要となる。したがって、
行動科学、脳神経科学、生理学、心理学など様々な分野
が複合した包括的な学問体系が必要であり、山海嘉之教
授は、このような領域を「サイバニクス」
と名付けている。
なお、山海嘉之教授は、科学技術政策研究所が毎年
選定している「ナイスステップな研究者」として 2007 年
3)
に紹介されている 。
リース販売される両足用のロボットスーツ
(ROBOT SUIT®)「HALTM」
出典:©Prof. Sankai CYBERDYNE Inc. /
University of Tsukuba
参 考
1) サイバーダイン株式会社ホームページ:http://www.cyberdyne.jp/index.html
2) 大和ハウス工業株式会社ニュースリリース:http://www.daiwahouse.co.jp/release/20081006220554.html
3) 科学技術政策研究所プレス発表:http://www.nistep.go.jp/notice/nt071226.pdf
Science & Technology Trends November 2008
5
࿖ࠛࡀ࡞ࠡ࡯⋭࡮ࠕࠗ࠳ࡎ࿖┙⎇ⓥᚲߩ⎇ⓥ⠪ࠄߪ‫ߦ࠽࠹ࡦࠕࡁ࠽ޔ‬㑐ߔࠆ⸘▚ᯏࡕ࠺࡞ࠍ↪޿ߡ‫ޔ‬㊄࡮ࡑࡦࠟ
㌃ߥߤߩ᭽‫᧚ߥޘ‬ᢱߩ⿒ᄖ✢ᵄ㐳㗔ၞߩࠛࡀ࡞ࠡ࡯ๆ෼᜼േࠍࠪࡒࡘ࡟࡯࡚ࠪࡦߒ‫ޔ‬
⹜૞ߒߚ࠽ࡁࠕࡦ࠹࠽㈩೉
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 月号
ᵄ㓸㔚ⵝ⟎ߢ‫ޔ‬ታ㓙ߦ ߣ޿߁㜞޿ࠛࡀ࡞ࠡ࡯ๆ෼₸ࠍ⏕⹺ߒߚ‫⹜ޕ‬૞ⵝ⟎ߢߪ‫ࡦࠦ࡝ࠪޔ‬ၮ᧼਄ߩᨵࠄ߆޿
਄ߦᒻᚑߐࠇߚ࠽ࡁࠕࡦ࠹࠽߇‫⿒ޔ‬ᄖ✢ߦࠃࠅᲤ⑽ᢙళ࿁ᝄേߒ‫ޔ‬੤ᵹ㔚ᵹ߇⊒↢ߔࠆ‫੹ޕ‬ᓟ‫ޔ‬㜞๟ᵄᢛᵹེߥ
ナノテク・材料分野
NanoTechnology & Materials
TOPICS
⎇ⓥ㐿⊒ࠍⴕߥ߁ᔅⷐ߇޽ࠆ߇‫࠽࠹ࡦࠕࡁ࠽ߥ߁ࠃߩߎޔ‬㈩೉㔚⏛ᵄ㓸㔚ⵝ⟎ߦࠃࠅ‫ޔ‬ᄥ㓁㔚ᳰࠃࠅ቟ଔߢ㜞ല
米国エネルギー省・アイダホ国立研究所の研究者らは、ナノアンテナに関する計算機モデルを用い
ᄥ㓁శࠛࡀ࡞ࠡ࡯ๆ෼ࠪࠬ࠹ࡓࠍᒻᚑߢ߈ࠆน⢻ᕈ߇޽ࠆ‫ޕ‬
て、金・マンガン・銅などの様々な材料の赤外線波長領域のエネルギー吸収挙動をシミュレーション
し、
試作したナノアンテナ配列電磁波集電装置で、
実際に 80% という高いエネルギー吸収率を確認した。
試作装置では、柔らかい材料表面に形成されたシリコン基板上のナノアンテナ配列が、赤外線により
毎秒数兆回振動する交流電流が発生する原理を応用して太陽光の赤外線エネルギーを収集する。今後、
テラヘルツ領域の交流を直流に変換する超高周波整流器などの研究開発を行なう必要があるが、この
ようなナノアンテナ配列電磁波集電装置により、太陽電池より安価で高効率な太陽光エネルギー吸収
システムを形成できる可能性がある。
⿒ᄖ✢ࠛࡀ࡞ࠡ࡯ࠍๆ෼ߔࠆ࠽ࡁࠕࡦ࠹࠽㔚⏛ᵄ㓸㔚ⵝ⟎
3
䈱⚂㪈㪇㪇㪇㩷 ಽ䈱㪈㩷
એਅ䈮䈜䉎ᔅⷐ䈏䈅䉎䇯䈖䉏䉌䈱⺖㗴䉕స
☨࿖䉣䊈䊦䉩䊷⋭䊶䉝䉟䉻䊖࿖┙⎇ⓥᚲ䈱⎇ⓥ⠪䉌䈲䇮
トピックス
赤外線エネルギーを吸収するナ
ノアンテナ電磁波集電装置
䉝䊮䊁䊅䈮㑐䈜䉎⸘▚ᯏ䊝䊂䊦䉕↪䈇䈩䇮㊄䊶䊙䊮䉧
᦯䈪䈐䉏䈳䇮䈖䈱䊅䊉䉝䊮䊁䊅㈩೉㔚⏛ᵄ㓸㔚ⵝ⟎䈲䇮ᄥ
᡼኿₸
米国エネルギー省・アイダホ国立研究所の研究者ら
列電磁波集電装置は、太陽電池より安価で、より高効
㓁㔚ᳰ䉋䉍቟ଔ䈪䇮䉋䉍㜞ല₸䈭ᄥ㓁శ䉣䊈䊦䉩䊷ๆ෼䉲䉴
㌃䈭䈬䈱᭽䇱䈭᧚ᢱ䈱⿒ᄖ✢ᵄ㐳㗔ၞ䈱䉣䊈䊦䉩䊷ๆ
は、ナノアンテナに関する計算機モデルを用いて、金・
率な太陽光エネルギー吸収システムとなる可能性を有す
䊁䊛䈫䈭䉎น⢻ᕈ䉕᦭䈜䉎䇯࿾⃿਄䈱ᄙ䈒䈱‛૕䈲䇮ᣣਛ䈮
േ䉕䉲䊚䊠䊧䊷䉲䊢䊮䈚䇮⹜૞䈚䈢䊅䊉䉝䊮䊁䊅䈪ታ㓙
マンガン・銅などの様々な材料の赤外線波長領域のエネ
る。地球上の多くの物体は、日中に太陽からエネルギー
䈇䊈䊦䉩䊷ๆ෼₸䉕⏕⹺䈚䈢䇯䊙䉟䉪䊨ᵄ䈱䉋䈉䈭ૐ䈇
ルギー吸収挙動をシミュレーションし、試作したナノア ᄥ㓁䈎䉌䉣䊈䊦䉩䊷䉕ๆ෼䈚䇮ᄛ㑆䈮ᾲ䉕⿒ᄖ✢䈫䈚䈩ㅪ
を吸収し、夜間に熱を赤外線として連続的に放射してい
ンテナで実際に高いエネルギー吸収率を確認した。マイ ⛯⊛䈮᡼኿䈚䈩䈇䉎䇯䉁䈢䇮↥ᬺ⇇䈱䈜䈼䈩䈱䊒䊨䉶䉴䈲
る。また、産業界のすべてのプロセスは排熱として大量
ᢙ㗔ၞ䈱㔚⏛ᵄ䉣䊈䊦䉩䊷䉕㓸䉄䉎䉝䊮䊁䊅䈲䈖䉏䉁
クロ波のような低い周波数領域の電磁波エネルギーを集
の赤外線を発生させている。これらは豊富なエネルギー
ឃᾲ䈫䈚䈩ᄢ㊂䈱⿒ᄖ✢䉕⊒↢䈘䈞䈩䈇䉎䇯䈖䉏䉌䈲⼾ን䈭
䉅㐿⊒䈘䉏䈩䈇䉎䈏䇮⿒ᄖ✢ᵄ㐳㗔ၞ䋨㪫㪟㫑ᵄ䋩䈪䈲ᬌ
めるアンテナはこれまでにも開発されているが、赤外線
源とも言えるが、現状ではこれらは使用されていない。
䉣䊈䊦䉩䊷Ḯ䈫䉅⸒䈋䉎䈏䇮⃻⁁䈪䈲䈖䉏䉌䈲૶↪䈘䉏䈩
䉏䈩䈇䈭䈎䈦䈢䇯㩷
波長領域(THz 波)
では検討されていなかった。
図表 1 入射光経路からみたナノアンテナ配列電磁波集電装置
研究チームでは、計算機シミュレーションの結果、䈇䈭䈇䇯㩷
ⓥ䉼䊷䊛䈪䈲䇮⸘▚ᯏ䉲䊚䊠䊧䊷䉲䊢䊮䈱⚿ᨐ䇮䊅䊉䉝
ナノアンテナが、その材料の種類と寸法形状次第で、
㩷
䊅䈏䇮䈠䈱᧚ᢱ䈱⒳㘃䈫ኸᴺᒻ⁁ᰴ╙䈪䇮⿒ᄖ✢ᵄ㐳
౉኿శ
赤外線波長領域のエネルギーの 90%を捕獲する可能
䊅䊉䉝䊮䊁䊅
䈱䉣䊈䊦䉩䊷䈱㪐㪇䋦䉕᝝₪䈜䉎น⢻ᕈ䉕⷗಴䈚䈩䈇
性を見出していた。このほど、試作したナノアンテナ配 ࿑㪈㩷 ౉኿శ⚻〝䈎䉌䉂䈢䊅䊉䉝䊮䊁䊅㈩೉㔚⏛ᵄ㓸㔚ⵝ⟎
౉኿శ
列電磁波集電装置(図表 1)を用いた実験で、赤外線
䈖䈱䈾䈬䇮⹜૞䈚䈢䊅䊉䉝䊮䊁䊅㈩೉㔚⏛ᵄ㓸㔚ⵝ⟎
శቇ⊛ห⺞ⓨᵢ
波長領域のエネルギーの 80%以上を吸収できるという
䋩䉕↪䈇䈢ታ㛎䈪䇮⿒ᄖ✢ᵄ㐳㗔ၞ䈱䉣䊈䊦䉩䊷䈱
䉲䊥䉮䊮ၮ᧼(෻኿㏜䋩
శቇ⊛ห⺞ⓨᵢ
結果を得た(図表 2)。ナノアンテナは、特定の波長を
䉲䊥䉮䊮ၮ᧼(෻኿㏜䋩
䋦એ਄䉕ๆ෼䈪䈐䉎䈫䈇䈉⚿ᨐ䉕ᓧ䈢䋨࿑㪉䋩䇯䊅䊉䉝䊮䊁
捕獲するように、その形状と寸法を調整できるため、
㩷
参考文献を基に科学技術動向研究センターにて作成
䇮․ቯ䈱ᵄ㐳䉕᝝₪䈜䉎䉋䈉䈮䇮䈠䈱ᒻ⁁䈫ኸᴺ䉕⺞ᢛ
太陽光スペクトルのように幅広い波長域でもエネルギ
図表 2 赤外線領域におけるエネルギー吸収検証の例
ーを捕獲できる可能性がある。
࿑ ⿒ᄖ✢㗔ၞߦ߅ߌࠆࠛࡀ࡞ࠡ࡯ๆ෼ᬌ⸽ߩ଀
䉎䈢䉄䇮ᄥ㓁శ䉴䊕䉪䊃䊦䈱䉋䈉䈮᏷ᐢ䈇ᵄ㐳ၞ䈪䉅䉣
研究チームは、既存の半導体製造プロセスを応用し
㪈㪅㪇
䉩䊷䉕᝝₪䈪䈐䉎น⢻ᕈ䈏䈅䉎䇯㩷
て、ナノアンテナ・パターンを有するシリコンウェハを作
ታ㛎䉴䊕䉪䊃䊦
ⓥ䉼䊷䊛䈲䇮ᣢሽ䈱ඨዉ૕⵾ㅧ䊒䊨䉶䉴䉕ᔕ↪䈚䈩䇮
製した。アンテナ配列は、柔らかいポリエチレンシート
㪇㪅㪏
の上に浮き彫り加工されている。アンテナ部分は金でで
䉝䊮䊁䊅䊶䊌䉺䊷䊮䉕᦭䈜䉎䉲䊥䉮䊮䉡䉢䊊䉕૞⵾䈚䈢䇯
きており、厚さが約 1000 原子層のナノワイヤーが正方
㪇㪅㪍
䊁䊅㈩೉䈲䇮ᨵ䉌䈎䈇䊘䊥䉣䉼䊧䊮䉲䊷䊃䈱ጀ䈱਄䈮
形のスパイラル構造にパターン加工されている。スパイ
⸳⸘䉴䊕䉪䊃䊦
ᓂ䉍ടᎿ䈘䉏䈩䈇䉎䇯䉝䊮䊁䊅ㇱಽ䈲㊄䈪䈪䈐䈩䈍䉍䇮
ラル構造の一辺は約 5μm で、直径 20cm の領域に約
100 億個のアンテナが形成されている。赤外線により、
㪇㪇ේሶጀ䈱䊅䊉䊪䉟䊟䊷䈏ᱜᣇᒻ䈱䉴䊌䉟䊤䊦᭴ㅧ䈮
㪇㪅㪋
㪌
㪈㪇
㪈㪌
各アンテナが毎秒数兆回振動し、交流電流が発生する。
䊷䊮ടᎿ䈘䉏䈩䈇䉎䇯䉴䊌䉟䊤䊦᭴ㅧ䈱৻ㄝ䈲⚂㪌㱘㫄
ᵄ㐳䋨㱘㫄䋩
今後、この吸収エネルギーを電気エネルギーとして取
᡼኿₸㧦㤥૕㧔౉኿ߔࠆᾲ᡼኿ࠍ޽ࠄࠁࠆᵄ㐳ߦᷰߞߡቢో
⋥ᓘ㪈㪌㪺㫄㩷り出すために、直流に変換する特別な整流器などの研
䈱㗔ၞ䈮⚂㪈㪇㩷 ం୘䈱䉝䊮䊁䊅䈏ᒻᚑ䈘䉏䈩
放射率:黒体(入射する熱放射をあらゆる波長に渡っ
て完全に吸収・放出できる物体)を基準とした理想
究開発が必要となる。通常の整流器では、このような高 ߦๆ෼࡮᡼಴ߢ߈ࠆ‛૕㧕ࠍၮḰߣߒߚℂᗐ⊛ߥో᡼኿ࠛࡀ
䇯⿒ᄖ✢䈮䉋䉍䇮ฦ䉝䊮䊁䊅䈏Ფ⑽ᢙళ࿁ᝄേ䈚䇮੤ᵹ
的な全放射エネルギーと物体が放射するエネルギー
い周波数を取り扱うことはできないうえ、整流器の寸法 ࡞ࠡ࡯ߣ‛૕߇᡼኿ߔࠆࠛࡀ࡞ࠡ࡯ߣߩᲧ₸
との比率
䈏⊒↢䈜䉎䇯㩷
を現在の商用装置の約 1000 分の 1 以下にする必要があ
ᓟ䇮䈖䈱ๆ෼䉣䊈䊦䉩䊷䉕㔚᳇䉣䊈䊦䉩䊷䈫䈚䈩ข䉍಴
参考文献を基に科学技術動向研究センターにて作成
る。これらの課題を克服できれば、このナノアンテナ配
䉄䈮䇮⋥ᵹ䈮ᄌ឵䈜䉎․೎䈭ᢛᵹེ䈭䈬䈱⎇ⓥ㐿⊒䈏
参 考
ෳ⠨
䈫䈭䉎䇯ㅢᏱ䈱ᢛᵹེ䈪䈲䇮䈖䈱䉋䈉䈭㜞䈇๟ᵄᢙ䉕ข
&--QVVGTGVCN2TQIUQHVJGPF+PVN%QPHGTGPEG
1) D. K. Kotter, et al., Progs. of the 2nd Intl. Conference on Energy Sustainability ASME, ES2008-54016
QP'PGTI[5WUVCKPCDKNKV[#5/''5
䈉䈖䈫䈲䈪䈐䈭䈇䈉䈋䇮ᢛᵹེ䈱ኸᴺ䉕⃻࿷䈱໡↪ⵝ⟎
6
Infrastructure
TOPICS
社会基盤分野
高齢化社会が進み、省エネ電化機器が普及していく中で、震災発生・停電復旧時の電気器具安全対
策技術の開発が必要になってくる。2008 年 10 月、東京電力(株)とアドソル日進(株)は共同で、地震
発生時に自動的に電気器具への通電を止める電源遮断システムを開発した。今回開発されたシステム
は、地震発生・停電復旧時に火災発生のリスクを伴う器具のみの通電を遮断するもので、価格も廉価
であるため、普及させやすい。通電再開には利用開始スイッチを入れる必要があることから、停電復
旧時の二次的火災発生も防止できる。このような技術を普及させるために、高齢者世帯などへの助成
措置、火災発生リスクのある電気器具本体への機能の内蔵、緊急地震速報との連携といった施策の検
討が必要である。
トピックス
4 電化促進における震災時安全対策
我が国では今後、高齢化社会が進み、日常生活で
の利便性・安全性の観点から、電化が進展していく
ものと考えられる。また、温室効果ガス排出量を大
幅に削減するためには、電気利用機器の導入・利用
による電化の促進が極めて重要な手段になるとの提
1)
言もある 。
電化推進のためには、家庭などで使用される電気
器具、それ自体の安全性を高めることが重要である。
さらに、地震など災害発生時は勿論、停電復旧時の
安全対策技術を開発することが、必要になってくる。
2)
例えば、
2007 年に東京都が策定した地域防災計画
では、震災時の火災による死亡者数を半減すること
が減災目標として掲げられている。対策の中で、地
震発生時や停電復旧時の電気器具からの出火防止も
挙げられ、必要な装置の開発が求められていた。す
でに、地震発生時に通電を遮断するブレーカは開発
されているが高価であり、さらに照明や医療機器な
ど必要とされる機器への通電も遮断されることなど
の課題があるため、現状では十分に普及していない。
2008 年 10 月 8 日、東京電力(株)と、無線システ
ムメーカーであるアドソル日進(株)は、地震発生時
に自動的に電気器具への通電を止める電源遮断シス
3)
テムを共同で開発したと発表した 。
今回開発されたシステムは、震度 5 強程度の揺
れを感知すると、電源から電気器具への通電を自動
的に遮断するもので、価格も廉価であり、普及しや
すいと考えられる。通電再開には、子機の利用開始
スイッチを入れる必要があることから、停電復旧時
の二次的火災発生も防止できる。具体的には、揺れ
を感知すると停止信号を無線で発信し、内蔵照明を
点灯する親機と、無線信号を受信して、ブザー音と
ともにコンセントからの通電を遮断する子機から成
る。地震発生時や停電復旧時に火災発生のリスクを
伴う電気器具、例えば、電気ストーブやヒータ類、
アイロンなどを、子機を経由してコンセントに差し
込めばよく、特別な工事などは不要である。また、
遮断対象は、子機を差し込んだコンセントからの通
電のみで、震災時でも必要な機器の使用に支障をき
たすことはない(図表)
。
この安全対策技術を普及させるために、特に高齢
者世帯などへの助成措置、さらに将来的には、火災
発生リスクのある電気器具本体への子機機能の内
蔵、緊急地震速報との連携といった施策の検討が必
要である。
電源遮断システム概念図
親機
(感震センサー)
地震を感知して子機に電源遮断を通知し、
音声とランプでお知らせします。
子機
(電源遮断装置)
子機
(電源遮断装置)
親機から電源遮断の通知を受信すると
コンセントの電源を遮断し、ブザー音
とランプでお知らせします。
出典:参考文献 3)
参 考
1) 電中研ニュース、No.450(2008 年 10 月)
:http://criepi.denken.or.jp/research/news/pdf/den450.pdf
2) 東京都地域防災計画:http://www.bousai.metro.tokyo.jp/japanese/tmg/plan-sinsai.html
3) 東京電力プレスリリース:http://www.tepco.co.jp/cc/press/08100802-j.html
Science & Technology Trends November 2008
7
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 月号
科学技術動向研究
新しい情報ネットワーク基盤の
商用化と研究開発の動向
藤井 章博 山田 肇
客員研究官 客員研究官
1
はじめに
1-1
通信基盤のインターネット
プロトコルへの統合という潮流
る
「データ通信」
、それからテレビ
放送が担ってきた
「映像伝送」とい
う機能は、これまで、まったく異
なるインフラによって提供されて
きた。さらに、電話網には、有線
の固定電話と無線の携帯電話が存
在する。すなわち、
現在の情報ネッ
トワークという社会基盤は、一つ
に統合された社会基盤ではなく、
それぞれ異なる設計思想と技術体
系に基づいて発展してきた寄り合
い所帯であると言える。
インターネットで利用されてい
るパケット交換方式を用いること
で、異なる生い立ちからなる通信
基盤を統一的に運用しようという
議論がなされている。上述した 4
種類の通信形態をまとめると次の
ようになる。
電 話 は 19 世 紀 後 半 に 発 明 さ
れ、
「回線交換方式」と呼ばれる技
術を基にして電話網を構成するこ
とで、重要な社会基盤としての役
割を演じてきた。一方、テレビな
どの放送網は、約 100 年前の無線
通信の発明に端を発し、映像伝送
の技術を核として今日に至ってい
る。電話網の
「回線交換方式」に対
し 1960 年代初頭に
「パケット交
換」と呼ばれる方式が発明されイ
ンターネットが誕生した。この技
術は、本来文字などのデータ通信
を実現する目的で開発されたもの
で、情報をパケットと呼ばれる細 (1)電子メールや Web 情報の伝送
かい単位に分割し、それぞれにあ
などのデータ通信。
(インター
て先アドレスを付与して伝送する
ネット上でパケット交換方式
方式である。このようにすること
により提供されている。
)
で、通信網を柔軟かつ効率的に利 (2)固定電話網による通話。
(現在、
用することができる。
大部分は従来の回線交換技術
インターネット関連技術の発達
に基づいて運用されている。
に伴い、このパケット交換方式で、
一部「インターネット電話」と
音声や高精細な映像を含む多様な
してパケット交換網でも実現
通信サービスを提供できるように
している。)
なっている。しかし、電話網によ (3)放送網による映像や音声の配
る音声通話とインターネットによ
信。
(基本的には放送網のイン
8
フラによって提供されており、
一部の映像配信などが新しい
サービスとしてインターネッ
ト上で提供されつつある。
(4)携帯電話網による移動体通信。
(音声は電話網の技術による。
また、電子メールやウェブ閲
覧などはパケット交換の技術
を利用している。
)
このようにタイプの異なる通信
を実現するために、パケット交換
を利用して統一的に通信基盤を運
用しようとしているのが「NGN
(Next Generation Network、次世
代ネットワーク)
」
である。
本来電話のために整備されてき
た社会基盤である電話網は、大き
な変貌を遂げつつある。インター
ネットにおけるパケット交換方式
の 核 と な る の は、
「IP(Internet
Protocol、インターネットプロト
コル)
」と呼ばれる方式である。IP
は、 イ ン タ ー ネ ッ ト に お け る パ
ケットの構造やネットワーク上の
住所にあたるアドレスを規定した
りするなど、インターネットのパ
ケット通信における基本的な要素
技術である。すなわち IP による
ネットワークの統一的な運用が
NGN の本質である。
固定電話網や移動体通信網とい
㧞㧜㧜㧤ᐕ㧟᦬‫ޔ‬ᣣᧄߪ਎⇇ߦవ㚟ߌߡ‫ ߩߎޔ‬NGN ߩ໡↪ࠨ࡯ࡆࠬࠍ㐿ᆎߒߡ޿ࠆ‫ޕ‬
㑐ㅪߔࠆࡆࠫࡀࠬߩേะࠍਥዉߒߡ޿ࠆߩߪ‫ޔ‬ᣣᧄߢߪᣣᧄ㔚ା㔚⹤ᩣᑼળ␠㧔એਅ
新しい情報ネットワーク基盤の商用化と研究開発の動向
‫ޟ‬NTT‫ޠ‬㧕‫⧷ޔ‬࿖ߦ߅޿ߡߪࡉ࡝࠹ࠖ࠶ࠪࡘ࡮࠹࡟ࠦࡓ␠㧔British Telecom. એਅ‫ޟ‬BT‫ޠ‬㧕
ߥߤߩᄢⷙᮨㅢା੐ᬺ⠪ߢ޽ࠆ‫ޕ‬
う既存の通信基盤をパケット交換 図表 1 NGN サービスの一例(NTT)
方式である IP に統合することに
ౕ૕⊛䈭䉰䊷䊎䉴ౝኈ㩷
䉰䊷䊎䉴ಽ㘃㩷
20
࿑
よって、映像配信を含む多様な通
㩷
ຠ⾰㩷
⴫
㧝
信サービス機能を統一的に提供で
శ䊑䊨䊷䊄䊋䊮䊄䉰䊷䊎䉴㩷
Ꮺၞ଻㓚䈍䉋䈶㩷
ᚭᑪะ䈔䋨䋱䋰䋰㪤㪹㫇㫊㪀㩷
きるようになる。これによって、
䊔䉴䊃䉣䊐䉤䊷䊃㩷
㓸ว૑ቛะ䈔䋨䋱䋰䋰㪤㪹㫇㫊䋩㩷
今までに無い新たなサービスが登
੐ᬺᚲะ䈔䋨䋱㪞㪹㫇㫊䋩㩷
場する可能性をも広げることにつ
㪠㪧 㔚⹤㩷
Ꮺၞ଻㓚㩷
䈵䈎䉍㔚⹤㩷
䊁䊧䊎㔚⹤㩷
ながる。また、通信網が IP に統
㪭㪧㪥㩷
Ꮺၞ଻㓚㩷
䋨዁᧪ឭଏ੍ቯ䋩㩷
合されることで、音声通話サービ
䋨઒ᗐ⑳⸳✂䋩㩷
䊔䉴䊃䉣䊐䉤䊷䊃㩷
㪭㪧㪥㩷
スを提供するための設備の維持管
䉮䊮䊁䊮䉿㈩ା䉃䈔䉰䊷䊎䉴㩷
Ꮺၞ଻㓚㩷
䊡䊆䉨䊞䉴䊃㩷
理コストが削減できると言われて
㩷
䊙䊦䉼䉨䊞䉴䊃㩷
いる。
䊔䉴䊃䉣䊐䉤䊷䊃㩷
䊡䊆䉨䊞䉴䊃㩷
そこで、先進国の通信事業者お
䊙䊦䉼䉨䊞䉴䊃㩷
よび情報通信政策の担当者は、衰
䉟䊷䉰䊈䉾䊃䉰䊷䊎䉴㩷
䊔䉴䊃䉣䊐䉤䊷䊃㩷
䉟䊷䉰䊈䉾䊃㩷
退しつつある音声通話の市場に代
NGN ࠨ࡯ࡆࠬߩ৻଀㧔NTT㧕㧔ෳ⠨[㧥]ࠍෳ⠨ߦ⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߢ૞ᚑ㧕
わり、通信基盤を IP で統一的に
参考文献 9) を基に科学技術動向研究センターにて作成
運用する
「NGN」に関心を持って
NGN ࠨ࡯ࡆࠬߩ৻଀ߣߒߡ‫߫߃଀ޔ‬リーミング
NTT ߪ‫ޔ‬ડᬺ߿ኅᐸߢశࡈࠔࠗࡃߩዉ౉
スを開始している。利用者からみ
いる。先進国各国は、NGN に関໡↪ߩ
(情報配信)はすでに実
ࠍ೨ឭߣߒߡ‫ޔ‬࿑⴫㧝ߦ␜ߔࠃ߁ߥࠨ࡯ࡆࠬࠍ㐿ᆎߒߡ޿ࠆ‫ޕ‬೑↪⠪߆ࠄߺࠆߣ‫ࠄࠇߎޔ‬
する数多くの実験的運用を実施し ると、これらの商用サービスは、 現されているが、さらに帯域保障
ߩ໡↪ࠨ࡯ࡆࠬߪ‫ޔ‬ᐢᏪၞߢ޽ࠆߣ޿߁೑ὐ߇޽ࠅ‫ޔ‬㜞♖⚦ߥᤋ௝ᖱႎߩવㅍ߇น⢻ߣߥ
広帯域であるという利点があり、 を実現できれば、インターネット
ており、日本でも 2008 年403 月か
ࠆ‫ޔߦࠄߐޕ‬ᤋ௝ᖱႎߦ߅޿ߡߪ‫ޔ‬ㅢାߩ‫ޟ‬ຠ⾰଻⸽‫߇ޠ‬㊀ⷐߢ޽ࠆ‫৻ޔߪࠇߎޕ‬ቯᤨ㑆
ら世界に先駆けて商用サービスを 高精細な映像情報の伝送が可能と というインフラが、放送網の役割
開始している。
「NGN」
という用語 なる。さらに、映像情報において を代替できる可能性を意味する。
「品質保証」が重要であ ただし、テレビ番組などを扱う放
は、一部の通信事業者が自己の新 は、通信の
4
サービスの宣伝文句にも利用して る。これは、一定時間内に利用で 送事業者の側からみれば、既得権
「帯域 を失うことにつながりかねないた
おり、特定のサービスパッケージ きるパケットの量を保障する
という機能を提供できるか否 め慎重な対応にならざるを得ない
のような印象を受ける。しかし、 保障」
伝送路設備を提供しない事業者に かに依存する。
のが現状である。実際には、今後
とっても、通信網の IP 化は避け インターネットは、本来の設計 しばらくの間、通信網という社会
「ベ 基盤は、これまで放送網が担って
て通れない潮流であり、様々な対 思想に基づく基本的な構造が、
9、10)
。
ストエフォート」( 最大努力に基づ きた役割と補完関係を保ちつつ発
応が始まっている
く非保障型)
と呼ばれるネットワー 展すると考えられる。現在、日本
クであり、利用できる通信帯域の を始めとし各国で、通信事業者や
保障は本来苦手としてきた。例え 放送事業者、さらにはコンテンツ
ば、テレビ放送のような映像情報 制作の側に位置する事業者が、こ
NGN サービスの開始 をインターネットを通じて配信す のように新たに生まれつつあるア
る場合、この帯域保障がなされな プリケーション分野でビジネス上
2008 年 3 月、日本は世界に先 いと、連続して一定量の情報を送 の覇権を取るべく競合している。
駆けて、この NGN の商用サービ 信できない場合も出てくる。そう
スを開始している。関連するビジ なると、本来は高品質であるべき
ネスの動向を主導しているのは、 テレビ映像が乱れ、コマ落ちする
日本では日本電信電話株式会社
(以 といった問題が起きる。こうした
下
「NTT」
)
、英国においてはブリ 現象は、映像情報を質の悪いイン
通信基盤のさらなる発展を
ティッシュ・テレコム社
(British ターネット上のアクセスにより閲
目指して
Telecom. 以下
「BT」
)などの大規模 覧する際に経験することである。
通信事業者である。
帯 域 保 障 を 実 現 す る こ と は、 より長期的な視点から、新しい
商用の NGN サービスの一例と 2011 年に導入されようとしてい ネットワーク構成を研究・開発して
して、例えば NTT は、企業や家 る放送のデジタル化との関連にお いこうという動きも近年活発になっ
庭で光ファイバーの導入を前提と いて重要視すべき点である。放送 ている。すなわち、すでに商用的
して、図表 1 に示すようなサービ コンテンツをデジタル化したスト に提供される NGN よりさらに未来
1-2
1-3
Science & Technology Trends November 2008
9
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 月号
に目を向け、通信網という社会基盤
のありかたを根本から議論すること
が始まっている。こうした新しい
ネットワークを、NGN と区別する
ために
「NWGN(New Generation
Network、新世代ネットワーク)
」
と呼ぶ。NWGN は、基本的には IP
を中心に検討されているが、必ずし
も IP にとらわれないまったく新し
い通信基盤の構想である。
NWGN の検討は各国の情報通
信技術における研究開発の最重要
課 題 の 一 つ と な っ て い る。 米 国
の GENI(Global Environment
for Network Innovations) や欧州
の
「Euro‐NGI」などがその例であ
り、本稿で後述する。日本は、総
(以下
務省と(独)情報通信研究機構
「NiCT」
)が実施している
「新世代
ネットワークアーキテクチャ設計
プロジェクト ( 通称
「AKARI プロ
ジェクト」) がそれにあたる 16)。
NGN や NWGN のような新しい
情報ネットワークに関する研究開
発においては、前述したように本
来異なる発達を遂げてきた通信網
とその上で提供される多様なサー
ビスを統一的に支援できるインフ
ラを構築することが課題となる。
図表 2 にこのサービスの統一の過
程の概観を示す。
図表 2 には、
放送網・インターネッ
ト・電話網が NGN と NWGN に至
る関係を概念的に表している。放
送網や電話網とインターネットと
の関係で節目となる要素として重
要なものが 2 つ挙げられる。イン
ターネット電話
(VoIP:Voice over
Internet Protocol)
とインターネット
上での動画配信である。それぞれ、
インターネット上に、従来の電話網
の機能と放送網の機能を導入する
ものである。現在
「NGN サービス」
と銘打って導入されようとしてい
る機能は、既存の通信事業者によっ
て推進される見込みである。すな
わち、電話・データ通信・放送の
三重奏は NGN の枠組みの中で QoS
(Quality of Service、サービス品質)
の保証やセキュリティ機能の強化
を IP の世界に導入することによっ
て進展する。
このような NGN の実用化と並行
して、今後は、NWGN の研究が進
むであろう。NWGN では、ネット
ワークインフラをより長期的な観点
で捉え、IP をさらに進化させること
などを検討の中心としながら、ユビ
キタスネットワーク環境が実現する
場合に想定される少量の情報で頻度
の大きな通信などへの対応なども視
野に入れて検討している。
パケット交換方式を取るイン
ターネットは、誰でも通信網に参
加できるという、いわゆる
「オープ
ン」
なネットワークとして発達して
きた。一方、電話網は国策企業に
よって
「クローズド」な環境で発達
し て き た と 言 え る。NGN は、 特
定の通信事業者が提供するクロー
ズドなサービスと言える。一方、
NWGN では、インターネットが本
来持っており、これまでの発展の
原動力となってきたオープンな環
境を活用しようとしている。
次章以下では、IP 技術を核とし
て通信インフラに本質的な変化を
もたらしつつある技術の潮流につ
いて述べる。2 章で ITU - T を中
心に各国の通信ベンダーが参画し
て進められている商用の NGN につ
いて概説し、3 章でより長期的な展
望を持って進められている NWGN
の研究開発について述べる。
図表 2 技術進化と NGN と NWGN の関係概念図
放送網
アナログ信号
デジタルテレビ放送
デジタル
信号処理
パケット交換方式
動画像配信
継続
インターネット動画配信
セキュリティ/QoS
インターネット
パケット交換方式
NWGN
オープン
音声通話
クローズド
インターネット電話
QoS
電話網
回線交換方式
デジタル電話
パケット交換方式
NGN
アナログ信号
1960
1990
2008
年
科学技術動向研究センターにて作成
10
新しい情報ネットワーク基盤の商用化と研究開発の動向
2
商用 NGN の動向
2-1
の台頭に呼応して、国内の通信事
業者の事業戦略にも変化が出てき
た。電話サービスのためのネット
通信に対するニーズの変化と ワークについては、必要最低限の
通信事業者の対応 維持・管理を行うのにとどめ、設
備更新といった投資を控えるよう
通信に対する先進諸国の市場の になった。それを反映して、交換
ニーズは 1990 年代後半から大き 機の市場規模が急激に減少してい
く変化し始めた。通話からデータ る。情報通信ネットワーク産業協
へというのが大きな変化である。 会の調べによれば、交換機の国内
総務省の情報通信統計データベー 生産総額は 2007 年には 1427 億円
スによれば、固定系、移動系
(携帯 で、2005 年の 2009 億円から二年
電話)
・IP 電話のすべての合計で、 間で 29%も減少した。しかし減少
通話回数・通話時間共に減少の傾 したとはいえ、音声通話には依然と
向が顕著である。2000 年度には総 して大きなニーズが存在する。そこ
通話回数が 1448 億回、総通話時 で VoIP を利用して通話もインター
間が 70.3 億時間であったものが、 ネット上で行うようにして、電話と
2005 年 度 に は 1211 億 回、43.6 インターネットのネットワークを
億時間になり、それぞれ 16%と 統合しようという考えが生まれて
38%の減少である。この結果、
「金 きた。それが NGN であった。
のなる木」だったはずの通話
(電話
サービス)
は、通信事業者にとって
重荷となり始めている。
同データベースによると、この一
方で、ブロードバンド契約者による
NGN の起源
トラヒック総量の推計値は、2004
年 9 月には 269 ギガビット / 秒で 1990 年代後半に、先進諸国の多
あ っ た も の が、2008 年 5 月 に は くの通信事業者は NGN の可能性
880 ギガビット / 秒と 3 倍以上の に気付き研究を始めた。この NGN
伸びを見せている。
ブロードバンド・ を実際に利用しようと積極的に動
インターネットを用いたテキスト・ き出したのは、第三世代携帯電話
画像・音楽・映像などの配信サー の標準化を進めたグループであっ
ビスも急激に成長している。IP を た。そこではまず、移動体通信に
利用して音声信号を送信する VoIP おける IP の導入の可能性の検討、
(Voice over Internet Protocol)と呼 特に、利用者の移動に伴うアドレ
ばれる技術も登場し、音声通話もイ スの運用方法などについての検討
ンターネット上で送受信できるよ がなされた 11)。こうした検討作業
うになった。この結果、電話とイン は、新しい移動体通信の規格とし
ターネットを分けて提供する必然 て結実していくことになる。第三
性は薄れてきた。さらに、NGN の 世代携帯電話の国際標準は 2000
枠組みで構想されている帯域保障の 年代に入ってすぐに利用可能に
機能が VoIP に付加されれば、料金 なった。しかし、第三世代の世界
に応じて会話の音質や遅延時間の有 普及は遅れており、第二世代の携
無を制御することが可能となろう。 帯電話のほうが世界的に広まり続
通信に関する新たな市場ニーズ けている。GSM Association がま
2-2
と め た 2008 年 9 月 22 日 付 の 速
報値によると、携帯電話の利用者
は世界中に 38 億 406 万人で、そ
のうち、
古い第二世代 GSM(Global
System for Mobile)の利用者が 30
億 5913 万人と 8 割を占め、しか
もその利用者はこの一年半で 8 億
人以上も増加している。
特にアジア・南アメリカ・アフ
リカ・東ヨーロッパで利用者を増
やしている。これらの地域には固
定電話が少なく、そこに初めての
通信手段を敷設しようとするとき、
電話線を引くよりもコストが安い。
これが、GSM が選択され急増して
いる原因である。
第二世代は、第三世代と比べる
と投資額が三分の一で済む。第三
世代移動通信を普及させるには、
こ の 差 を 縮 め る 必 要 が あ る。 こ
のための切り札の一つとして提案
されたのが、コア・ネットワーク
をインターネット技術で組み立て
て投資額を節約する、という考え
方であった。インターネット用の
通信機器は、比較的に安価に供給
できるため、音声の移動体通信に
もこれを利用しようとするもので
あ る。 こ の こ と を ネ ッ ト ワ ー ク
のオール IP 化と呼ぶ。このよう
な取り組みが活発化した経緯から
IMS(IP Multimedia Subsystem、
IP マルチメディア・サブシステム)
という国際標準が策定された。こ
れが NGN の起源といえよう。
IMS で は、 音 声 を 含 め た マ ル
チメディアセッションの制御プロ
ト コ ル と し て IP を 利 用 す る SIP
(Session Initiation Protocol)
が 採 用 さ れ た。 ウ ェ ブ サ イ ト を
閲 覧 す る よ う な 場 合 に は、URL
(Uniform Resource Locator)と
いう半角 30 文字程度のリクエス
トを送ると、大量のテキストや画
像などが返信されてくる。これに
Science & Technology Trends November 2008
11
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 月号
対して通話の場合には、通話元と
通話先は、送信するデータ量とい
う観点で対等な関係になる。その
ように対等な関係を持つ二者の間
でのデータの送受信をスムーズに
行うために開発されたプロトコル
が SIP で あ る。 こ う し た 技 術 に
よって携帯電話においても通信網
の IP 化に向かっている。
2-3
NGN の国際標準化
NGN を実現するための通信規
格 等 は、 国 際 標 準 化 機 関 で あ る
ITU-T を中心に、各国の通信事業
者が参画し、これらのサービスを
提供するために商用的な観点で検
討されている。図表 3 はこの規格
において NGN に求められている
主要な特徴的機能である。
第三世代携帯電話の標準化を
主 導 し て き た 機 関 で あ る ETSI
(European Telecommunications
Standards Institute)は、移動通信
系でのオール IP 化を、固定網にも
拡張しようと動き出した。それが
TISPAN(Telecommunications
and Internet converged Services
and Protocols for Advanced
Networking)という通信規格に関
する勧告である。
TISPAN に 関 わ る 標 準 化 活 動
で成果を挙げ始めた ETSI は、そ
の 成 果 を ITU-T(International
Telecommunication
Union Telecommunication
Standardization Sector)に持ち
込み、NGN として国際標準化に乗
り出した。2004 年 10 月に開催さ
れた ITU-T の総会では、NGN の
標準化が最重要課題として位置づ
けられ、その後の国際的な議論の
起点となった。
最 初 の ITU-T 勧 告 は「General
overview of NGN」と題し、通称
「Y.2001」と呼ばれている。2004
12
図表 3 NGN の主な特徴
特 徴
1
IP によるオール・パケット型のネットワーク
2
ブロードバンドの能力、多様なラストワンマイル技術のサポート
3
トランスポート(伝達網)とサービスの分離
4
制御機能とサービスとを完全に分離
5
6
7
音声を始め、映像やデータなどの多様なマルチメディア・サービスを、積み木の
ように提供
同一のサービスは、ネットワークにどうつないでも、いつでも同一のサービスと
感じられるようにする仕組み
ネットワークの品質やユーザーの持つ端末機器に応じて、エンド・ツー・エンド
でサービス品質(QoS)を保証
8
加入者を特定して、IP アドレスや、IP 網でのルーティングを与える仕組み
9
既存ネットワークとの相互運用性を確保
10
多様なサービスプロバイダーに対して制約のない自在なアクセスが可能
11
ユビキタスなアクセスなど、高度なモビリティを実現
12
固定網と移動網に対応して、シームレスな通信を提供
13
緊急時の対応、プライバシーやセキュリティの確保といった、規制などへの準拠
ITU-T の勧告などを基に科学技術動向研究センターにて作成
年 12 月に発行されたこの勧告で
は NGN の 枠 組 み や ア ー キ テ ク
チャ・モデルが定義されている。
この勧告によると、NGN は次の
ように定義されている。
「NGN とは、電気通信サービス
を提供することを目的として、広
帯域でしかも QoS(サービス品質)
の制御が可能な、いろいろなトラ
ンスポート技術を活用したパケッ
ト・ ベ ー ス の ネ ッ ト ワ ー ク で あ
る。NGN は、サービス関連の機
能がトランスポート関連の技術と
独立しているが、お互いに連携し
てサービスの提供がなされるネッ
ト ワ ー ク で あ る。 ま た NGN で
は、利用者はいろいろなサービス
プロバイダーを選択することがで
き、自由にアクセスできるように
なる。さらに,汎用的なモビリティ
をサポートするため、ユーザーに
対して一貫性のある、ユビキタス
なサービスを提供することができ
る。」
こ の 定 義 は、 や や 抽 象 的 で あ
る。IP への統合が NGN の本質で
あることには変わりないが、この
ITU-T の「定義」は、各国の通信事
業者の置かれている異なる状況を
配慮し、含みをもたせてあるとい
える。
2-4
NGN に関わる実験の状況
NGN について先進各国では数
多くの試験的な運用が実施されて
きた。この状況は多くの資料に取
り ま と め ら れ て い る が、OECD
(Organisation for Economic
Co-operation and Development)
が整理したものを図表 4 として掲
載する 1)。NGN 実験を実施してい
る国は、オーストリア・カナダ・フィ
ンランド・フランス・ドイツ・イ
タリア・日本・韓国・ポーランド・
英国・米国と分散している。これ
に象徴されるように NGN はすで
に先進国共通の話題になっており、
日本が特に先行しているわけでは
ない。また図表 4 からは、通信機
器メーカーがパートナーとして協
力している姿も読み取れる。
NGN 実験は二種類に分けられる。
第一は通信ネットワーク自体を構築
する実験で、サービス品質について
検証するなどというのもこの分類に
入る。他方は NGN でのサービスに
ついての実験で、フィンランドのエ
リザコミュニケーション社、韓国の
KT 社、米国のクエスト社などが後
者に取り組んでいることがわかる。
㧝㧝᦬ภ࡟ࡐ࡯࠻(╙ 9 Ⓜ㧕
2-5
新しい情報ネットワーク基盤の商用化と研究開発の動向
ጊ↰⡸‫⮮ޔ‬੗┨ඳ
ᐔᚑ 20 ᐕ 11 ᦬ 10 ᣣ
図表 4 各国における NGN 関連の実験状況
欧米における NGN の
導入状況
英国では、2001 年に国内の通信
基盤に関するビジョンである
「UK
Online : the broadband future」
が公
2)
表された 。2004 年 9 月にはブレ
ア首相
(当時)が
「2008 年までに希
望する全ての家庭にブロードバン
ドを提供する」
と表明した。欧州諸
国の中では比較的ブロードバンド
化に力を入れていると言える。通
信事業者として BT が電話網の完
全 IP 化を表明するとともに、
ブロー
ドバンド化に注力している。 BT は、
今までサービスごとに個別にネッ
トワークを構築してきた。その数
は 16 にも達する。将来的には、こ
れをブロードバンドの IP 網に統一
する予定である。同社が構築する
㧝㧝᦬ภ࡟ࡐ࡯࠻(╙ 9 Ⓜ㧕
次世代ネットワークは 21CN と呼
ばれている 3)。投資総額は 100 億
ㅢା੐ᬺ⠪㩷
䋨࿖ฬ䋩㩷
䊁䊧䉮䊛㩷
䉥䊷䉴䊃䊥䊷㩷
䋨䉥䊷䉴䊃䊥䉝䋩㩷
䊔䊦䉦䊅䉻㩷
䋨䉦䊅䉻䋩㩷
䊁䊥䉝䉸䊈䊤㩷
䋨䊐䉞䊮䊤䊮䊄䋩㩷
䉣䊥䉱㩷
䉮䊚䊠䊆䉬䊷䉲䊢䊮䉵㩷
䋨䊐䉞䊮䊤䊮䊄䋩㩷
㩷
㩷
䊐䊤䊮䉴䊁䊧䉮䊛㩷
䋨䊐䊤䊮䉴䋩㩷
䊄䉟䉿䊁䊧䉮䊛㩷
䋨䊄䉟䉿䋩㩷
䊁䊧䉮䊛䉟䉺䊥䉝㩷
䋨䉟䉺䊥䉝䋩㩷
㩷
㪥㪫㪫㩷
䋨ᣣᧄ䋩㩷
㩷
㪢㪫㩷
䋨㖧࿖䋩㩷
䊘䊷䊤䊮䊄ㅢା㩷
䋨䊘䊷䊤䊮䊄䋩㩷
㪙㪫㩷
䋨⧷࿖䋩㩷
䉪䉣䉴䊃㩷
䋨☨࿖䋩㩷
䊌䊷䊃䊅䊷ડᬺ㩷
ታᣉ䈚䈢ታ㛎䈱⁁ᴫ㩷
㪉 ᐕ㑆䈮䉒䈢䉎Ḱ஻ታ㛎㩷
㩷
䇸䉟䊉䊔䊷䉲䊢䊮䉶䊮䉺䊷䇹䉕䈲䈛䉄䈫䈜䉎⎇ⓥ
㐿⊒䉶䊮䉺䊷䈱ㆇ༡㩷
㪥㪞㪥 䈫䊒䊤䉾䊃䊐䉤䊷䊛䉕㐿⊒ᷣ䉂㩷
䊉䊷䊁䊦㩷
䊁䊦䊤䊗㩷
㪥㪞㪥 䈱䉝䊷䉨䊁䉪䉼䊞䈫䊒䊨䊃䉮䊦䈱⎇ⓥ㩷
㪥㪞㪥 䈫ᣂ䈚䈇ㅢା䉰䊷䊎䉴⎇ⓥ㐿⊒䊒䊨䉳䉢
䉪䊃䈱㐿ᆎ㩷
㪥㪞㪥 ታ㛎䈱ផㅴ㩷
ㅢାຠ⾰䋨㪨㫆㪪䋩䈱䊝䊆䉺䊥䊮䉫䉲䉴䊁䊛䈱㩷
㐿⊒㩷
࿕ቯ䈫⒖േ䉕⋧੕ㆇ↪䈜䉎 㪥㪞㪥 䉝䊷䉨䊁䉪㩷
䉼䊞䈱㐿⊒㩷
㪥㪞㪥 䉝䊷䉨䊁䉪䉼䊞䈱㐿⊒ᷣ䉂㩷
䊌䉟䊨䉾䊃䊒䊨䉳䉢䉪䊃䈱᭴▽㩷
㩷
㩷
䊁䊧䉮䊛䉟䉺䊥䉝⎇ⓥᚲ䈱㐿⸳㩷
㩷
䊧䉹䊅䊮䊃䉮䊚䊠䊆䉬䊷䉲䊢䊮䊈䉾䊃䊪䊷䉪
䋨㪩㪜㪥㪘䋩䉕ਛᔃ䈫䈚䈢⎇ⓥ㐿⊒䊒䊨䉫䊤䊛䈱㩷
ផㅴ㩷
㪥㪞㪥 䊁䉴䊃䊔䉾䊄䈱᭴▽㩷
䉸䊐䊃䉴䉟䉾䉼㐿⊒䊒䊨䉳䉢䉪䊃䈱⊒⿷㩷
䉝䊒䊥䉬䊷䉲䊢䊮䉰䊷䊎䉴䉕⹜㛎䈜䉎䊒䊤䉾䊃㩷
䊐䉤䊷䊛䈱㐿ᆎ㩷
㪥㪞㪥 ⎇ⓥ㐿⊒䊒䊨䉳䉢䉪䊃䈱㐿ᆎ㩷
㩷
䊐䊤䊮䉴䊁䊧䉮䊛㩷
ᛛⴚ䈫䉶䊷䊦䉴䈱ኻᔕ㑐ଥ䈱⏕┙㩷
䉲䉴䉮㩷
㩷
㩷
䉲䊷䊜䊮䉴㩷
䉝䊦䉦䊁䊦㩷
䉝䊦䉦䊁䊦䇮䉲䊷䊜䊮䉴㩷
䊦䊷䉶䊮䊃㩷
㪣㪞㩷
䉟䊮䊁䊦䊶䉮䊥䉝㩷
䊑䊨䊷䊄䊋䊮䊄䊎䉳䊈䉴䈫䈚䈩䈱䊙䊦䉼䊜䊂䉞䉝 䉲䉴䉮㩷
䉰䊷䊎䉴䈱㐿⊒㩷
ጊ↰⡸‫⮮ޔ‬੗┨ඳ
1)
࿑⴫㧠 ฦ࿖ߦ߅ߌࠆ NGN
㑐ㅪߩታ㛎⁁ᴫ㧔OECD
ߩขࠅ߹ߣ߼ߦࠃࠆ
[1]㧕
参考文献
を基に科学技術動向研究センターにて作成
ᐔᚑ
20 ᐕ 11 ᦬ 10
ᣣ
図表 5 KPN におけるオール IP 化の目標と達成状況
㧞㧚㧡 ᰷☨ߦ߅ߌࠆ NGN ߩዉ౉⁁ᴫ
⧷࿖ߢߪ‫ޔ‬2001 ᐕߦ࿖ౝߩㅢାၮ⋚ߦ㑐ߔࠆࡆ࡚ࠫࡦߢ޽ࠆ‫ޟ‬UK Online: the
broadband future‫[ߚࠇߐ⴫౏߇ޠ‬2]‫ޕ‬2004 ᐕ 9 ᦬ߦߪࡉ࡟ࠕ㚂⋧߇‫ޟ‬2008 ᐕ߹ߢߦᏗᦸ
ߔࠆోߡߩኅᐸߦࡉࡠ࡯࠼ࡃࡦ࠼ࠍឭଏߔࠆ‫⴫ߣޠ‬᣿ߒߚ‫ޕ‬᰷Ꮊ⻉࿖ߩਛߢߪᲧセ⊛ࡉࡠ
࡯࠼ࡃࡦ࠼ൻߦജࠍ౉ࠇߡ޿ࠆߣ⸒߃ࠆ‫ޕ‬ㅢା੐ᬺ⠪ߣߒߡ BT ߇㔚⹤✂ߩቢో IP ൻࠍ⴫
10
᣿ߔࠆߣߣ߽ߦ‫࠼ࡦࡃ࠼࡯ࡠࡉޔ‬ൻߦᵈജߒߡ޿ࠆ㨫BT ߪ‫ߦߣߏࠬࡆ࡯ࠨߢ߹੹ޔ‬୘೎ߦ
ࡀ࠶࠻ࡢ࡯ࠢࠍ᭴▽ߒߡ߈ߚ‫ߩߘޕ‬ᢙߪ 16 ߦ߽㆐ߔࠆ‫ޕ‬዁᧪⊛ߦߪ‫ࡃ࠼࡯ࡠࡉࠍࠇߎޔ‬
10
出典:参考文献 4、5)(2006 年度末の業績発表資料による )
࿑⴫㧡
KPN ߦ߅ߌࠆࠝ࡯࡞ IP ൻߩ⋡ᮡߣ㆐ᚑ⁁ᴫ
Science & Technology Trends November 2008
(2006 ᐕᐲᧃߩᬺ❣⊒⴫⾗ᢱߦࠃࠆ[4][5])
13
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 月号
ポンド
(2 兆 5 千億円程度)である
という。この 21CN 計画に基づい
て、南ウェールズ地方からネット
ワークの IP 化が開始された。BT
の計画では、2007 年から 2011 年
の 4 年間にわたって、毎週 11 万
5 千の利用者を切り替えていく。
5500 の加入者線交換機は 100 のメ
トロノードに接続され、さらにそ
れが 14 箇所でコア・ネットワーク
に結ばれるようになっている。
同様の動きはフランスやドイツ、
イタリアにもあるが、特にオラン
ダの動きは NGN とはどうあるべ
きかを考える上で象徴的である。
次に、比較的先進的なオランダの
状況について図表 5 をもとに述べ
る。同国の通信事業者 KPN 社では、
すでにネットワークのオール IP 化
が開始されている。この計画には、
道路に置かれたキャビネットと呼
ばれる接続点までを光ファイバー
で接続することも含まれ、キャビ
ネ ッ ト の 総 数 は 28000 で、 投 資
総 額 は 9 億 ユ ー ロ で あ る。NGN
化によってもたらされる運用経費
の節減は総額で 8.5 億ユーロと計
算されており、投資効果としてつ
じつまが合う金額である。また、
2007 年から KPN は、新規の顧客
に対してできる限り光ファイバー
接続を提供するという方針をとっ
ている 2)。NGN の実現には新たな
設備投資が必要である。その増分
は、長期的には運用経費の節減と
して回収できる。このようなロジッ
クに立って KPN は NGN 化を進め
ている。
米国の動きは欧州に比較すると
総じて遅い。しかし、いくつかの
通信事業者はブロードバンドを通
じてテレビ放送を提供する IPTV
のサービスに乗り出している。ケー
ブルテレビよりも多数のチャンネ
ル、デジタル録画機能、ウェブ経
由でのデジタル録画の制御などが
「売り」
になっている。
映像配信と言ったサービスまで
提供するか、それとも NGN と言
14
う通信環境を提供するにとどめる
か、と言ったビジネスモデルにつ
いては、各国の通信事業者で対応
が分かれている。現在は利用者の
反応を見ながら最適なビジネスモ
デルを作り出していくという模索
の時期にある。
2-6
アジアにおける NGN の
導入状況
アジアで最も熱心に NGN に取
り組んでいる国は韓国である。韓
国では NGN は、BcN(Broadband
convergence Network、ネットワー
クのブロードバンド化)
と呼ばれて
いる。ブロードバンドインフラ整
備に関する政策として、2004 年に
「u-Korea 推進戦略」が公表され、
通信・放送・インターネットの間
でシームレスなインフラとして広
域統合網 BcN を構築し、2010 年
までに 2000 万人の加入者への接
続を可能にするという目標が掲げ
られた。
この u-Korea 推進戦略に描かれ
た計画は挑戦的である。ADSL の
1000 倍の速度
(10 メガビット / 秒
を 10 ギガビット / 秒にする)が目
標とされ、光ファイバーによって
それを実現しようとしている。こ
のように韓国が NGN に力を入れ
るのは、最先端のインターネット
技術を一早く手に入れることに
よって、情報通信の世界市場で優
位に立とうという思惑からである。
韓国では、NGN 関連技術の市場
規模は世界全体で 1800 億ドル / 年
にいたると試算されている。すな
わちネットワーク関連市場全体の
5 割を越すまでに成長すると想定
している。
ま た、 韓 国 は ITU-T に お け る
NGN の標準化に対して数多くの
寄書を出している。筆者の一人が、
Telecommunications Technology
Association を 2007 年秋に訪問し
た際、関係者に直接聞いたところ
によると、次のような談話を得た。
「韓国政府は多くのプロジェクト
に資金を出しているが、その成果
評価の指標の一つが、どの程度国
際標準化に貢献したか、である。
この評価指標があるために、韓国
の企業は ITU-T にたくさん寄書を
出している。2005 年には 114 件
を提出して、そのうち 102 件が受
け 入 れ ら れ た。2006 年 に は 150
件の提出で、146 件が受け入れら
れている。2007 年にはさらに増え
るはずである。
」
すなわち、政府からの資金提供
の成果として国際標準への貢献度
を積極的に評価するということで
ある。NGN の国際標準化では欧州
が主導権を握っている状況にある。
こうした状況を背景とすると、韓
国の関係者からのこうした説明は
興味深い。
次に、中国では固定通信事業者
による総投資額は、2005 年時点で
年額 254 億ドルである。この投資
によって NGN の整備が進められ
ている。平行して移動通信網でも
IP 化が進展中である。中国でのビ
ジネスに、外資の通信機器メーカー
などが積極的に乗り出している。
また国際海底ケーブルの敷設に関
しても外資との協力が進んでいる。
香 港 の 標 準 化 団 体
(Telecommunications Standards
Advisory Committee)の コ メ ン ト
も NGN の 推 進 に 積 極 的 で あ る。
「NGN は、従来の公共電話網と接
続され、徐々に公共電話網の機能
を代替する。長期的に見れば、従
来の公共電話網は完全に消え去ら
なければならない」
とのレポートを
6)
公表している 。
シンガポールにおける移動系
の 次 世 代 ネ ッ ト ワ ー ク は、Next
Generation National Infocomm
Infrastructure(Next Gen NII)と
呼称される。シンガポール政府は、
2006 年に概念設計の提案募集を開
新しい情報ネットワーク基盤の商用化と研究開発の動向
始した 7)。Next Gen NII は、当面
100 メガビット / 秒、その先には
1 ギガビット / 秒で利用者を接続
するという挑戦的なものであった。
この高速接続は、当然のことなが
ら、高精細のテレビ放送などの映
像通信をもサポートすることを想
定したものである。投資総額は 12
億 US ドルと計算されている。
インド政府は 2005 年の段階で
NGN の必要性に気づき、それを促
3
す政策を取り始めた。NGN は通信
事業者だけでなく、消費者、特に過
疎地の消費者に大きな影響を与え
ると政府は推測している。2006 年
には規制当局が、次のような点を強
調したレポートを発表している 8)。
「政府は、NGN でのサービス
(音
声、データ、映像)
が全国規模で一
つの免許で実施できるようにした
いと考えている。このことに合わ
せて、過疎地の中小通信事業者が、
その地域での NGN サービスの免
許を得ることができるようにする。
相互接続やアンバンドリングの促
進によって、全国規模と過疎地の
サービスが両立するというのが、
規制当局の考えである。
」
また
「過疎
地に NGN を普及させるため電波
免許の条件を緩和する」
との方針を
打ち出した。
トワークの管理に関して、これま
でのインターネットには無いク
ローズドな要素を入れなければな
ら な い。 イ ン タ ー ネ ッ ト は、 こ
れまでオープンな環境で多岐にわ
たって発展したといえる。NWGN
では、これまで培われた多様なア
プリケーションを包含でき、さら
なる進歩にも柔軟に対応できなけ
ればならない。このような一見相
反する要求に対応するネットワー
クでは、それを構成する各種基盤
技術の選択が柔軟に行え、単純な
構造の元で統合できるという特性
を備える必要がある。以下では、
こうした NWGN の研究開発への
取り組みの動向を述べる。
トワーク設計図を作成すること」
で
ある。以下 AKARI プロジェクト
の文書を参考にその設計思想の概
要を述べる。
まず AKARI プロジェクトでは、
ネットワークの設計にあたって、
「現在のしがらみに捕われずに、白
紙から理想を追い求める。
」として
いる。これは、本稿の冒頭に述べ
た電話・データ通信・放送がこれ
まで経てきた歴史的発展の経緯に
捕らわれないで、社会インフラと
してあるべきネットワークのグラ
ンドデザインを検討する、という
ことである。図表 6 に AKARI プ
ロジェクトが掲げる研究目標を列
挙する。
これらの研究の目的は、
「ネット
ワークアーキテクチャ」を設計す
ることに帰着される。
「アーキテク
チャ」
とは元来、建築学の用語であ
り
「ネットワークの基本的な構造」
というほどの意味である。AKARI
では、理想とするアーキテクチャ
は、次の三つの原則に基づいて構
成されるべきであるとしている。
NWGN 研究の動向
3-1
NWGN の基本的な考え方
これまで述べた NGN の構想が
既存の通信事業の発展の上に描か
れているのに対して、今後各国が
推進する NWGN の研究では、まっ
たく新しいネットワークアーキテ
クチャを研究するとしている。こ
れまで放送網や通信網が経てきた
発展の経緯に捕らわれず、白紙か
らあるべきネットワークの理想を
追い求める。その後で現在からの
移行を考えるという立場をとると
している 16)。
新しいネットワークアーキテク
チャを研究する上で最も重要な課
題は、ネットワークのセキュリティ
である。現在のインターネットは、
その本質的な設計思想においてセ
キュリティ上の脆弱性を内在して
いる。このことは、ネットワーク
がオープンな状況で発展してきた
ことに起因する。NWGN では、こ
うした脆弱性を極力排することで、
安全・安心な社会基盤となる。こ
のためには、ネットワーク上の住
所に対応するアドレスに関する技
術体系の見直しや通信主体が移動
することに関するより進んだ対応
などが必要となる。その際、ネッ
3-2
日本の AKARI プロジェクト
AKARI(Architecture Design
project that illuminates the path to
the New Generation Network) プ ロ
ジェクトは、NiCT が 2007 年より
実施している研究プロジェクトで (1) KISS (Keep It Simple, Stupid)
ある 16)。このプロジェクトの目的 (2)持続的な進化可能原則
は、
「2015 年に新世代ネットワー (3)現実結合原則
クを実現することを目指し、その
ためのネットワークアーキテク こうした考え方は、後述する海
チャを確立し、それに基づいたネッ 外の NWGN 研究プロジェクトに
Science & Technology Trends November 2008
15
科 学 技 術 動 向 2008 年㧝㧝᦬ภ࡟ࡐ࡯࠻(╙
11 月号
おいても重視されており、同様の
方向性のもとで研究が進められて
いる。情報ネットワークの現状を
前提とし、今後の発展を展望すれ
ば、欠くべからざる要因と思われ
る。それぞれについて中身を説明
する。
9 Ⓜ㧕
ጊ↰⡸‫⮮ޔ‬੗┨
ᐔᚑ 20 ᐕ 11 ᦬ 10
図表 6 AKARI プロジェクトの研究目標
㩿㪈㪀䊕䉺䊎䉾䊃⚖䊋䉾䉪䊗䊷䊮䇮㪈㪇㪞㩷㪝㪫㪫㪟䇮㪼㪄㪪㪺㫀㪼㫅㪺㪼㩷
㩿㪉㪀㪈㪇㪇㪇 ం䊂䊋䉟䉴䍂㪤㪉㪤䇮㪈㪇㪇 ਁ᡼ㅍዪ㩷
㩿㪊㪀┹੎ේℂ䈫䊡䊷䉱ᜰะ㩷
㩿㪋㪀㗬䉏䉎䋨ක≮䇮੤ㅢ䇮✕ᕆ䋩䇮㪐㪐㪅㪐㪐㩼䋨䊐䉤䊷䊅䉟䊮䋩㩷
㩿㪌㪀቟ో৻቟ᔃ㩿䊒䊤䉟䊋䉲䊷䍂㊄Ⲣ䍂㘩ຠㅊ〔䍂ἴኂ㪀㩷
㩿㪍㪀⼾䈎䈭␠ળ䍂㓚ኂ⠪䍂㜞㦂ൻ␠ળ䇮䊨䊮䉫䊁䊷䊦㩷
(1) KISS 原則
(Keep It Simple, Stupid)
㩿㪎㪀࿾⃿ⅣႺ䍃ੱ㑆␠ળ䊝䊆䉺䊥䊮䉫㩷
㩿㪏㪀ㅢା᡼ㅍⲢว䍂㪮㪼㪹㪉㪅㪇㩷
“Keep It Simple, Stupid”とは、
㩿㪐㪀⚻ᷣ⊛䉟䊮䉶䊮䊁䉞䊒㩿䊎䉳䊈䉴䍃䉮䉴䊃䊝䊂䊦㪀㩷
インターネット開発の黎明期にあ
㩿㪈㪇㪀䉣䉮䊨䉳䊷䍂ᜬ⛯␠ળ㩷
る開発プロジェクトのリーダが部
㩿㪈㪈㪀ੱ㘃䈱น⢻ᕈ䍂䊡䊆䊋䊷䉰䊦䉮䊚䊠䊆䉬䊷䉲䊢䊮
下に指示した言葉であると言われ
[16]
ている。ネットワークを構成する
ࡊࡠࠫࠚࠢ࠻ߩ⎇ⓥ⋡ᮡ
࿑⴫㧢 AKARI
参考文献 16)
を基に科学技術動向研究センターにて作成
ルータなどの機器の仕様が複雑化
すると、
特定技術をもとにベンダー クチャでは、ネットワークが進化し 会のそれとが乖離してしまうこと
ߎࠇࠄߩ⎇ⓥߩ⋡⊛ߪ‫ߦߣߎࠆߔ⸘⸳ࠍޠࡖ࠴ࠢ࠹ࠠ࡯ࠕࠢ࡯ࡢ࠻࠶ࡀޟޔ‬Ꮻ⌕ߐࠇࠆ
が市場を囲い込むということが生 発展するために必要な持続可能な によって生じると言える。端的な
‫ߪߣޠࡖ࠴ࠢ࠹ࠠ࡯ࠕޟ‬ర᧪‫ޔ‬ᑪ▽ቇߩ↪⺆ߢ޽ࠅ‫ߩࠢ࡯ࡢ࠻࠶ࡀޟ‬ၮᧄ⊛ߥ᭴ㅧ‫޿ߣޠ‬
じかねない。この言葉の意味は技 ネットワークを設計することが必 事例は、不正な電子メールの送信
߁߶ߤߩᗧ๧ߢ޽ࠆ‫ޕ‬#-#4+ ߢߪ‫ޔ‬ℂᗐߣߔࠆࠕ࡯ࠠ࠹ࠢ࠴ࡖߪ‫ޔ‬ᰴߩਃߟේೣߦၮߠ޿
術仕様を極力簡潔に保つことで、 要となろう。ネットワークはシンプ 元を偽造することができ、犯人を
ߡ᭴ᚑߐࠇࠆߴ߈ߢ޽ࠆߣߒߡ޿ࠆ‫ޕ‬
ネットワーク環境の構築のために
ルな構造にし、エンドノードやエッ 特定しにくくなっているというこ
「オープンな参加」の可能性を保障
ジノードにおいてサービスの多様 とである。また、アドレスの運用
するという考え方を表している。
性を確保することが重要である。
」
と 管理の観点から、近い将来に利用
㧔㧝㧕-+55
-GGR+V5KORNG5VWRKF
多様性や拡張性、さらには信頼性
されている。また、
「これまでのイ が拡大すると考えられるセンサー
㧔㧞㧕ᜬ⛯⊛ߥㅴൻน⢻ේೣ
を増すためにも、KISS 原則はネッ ンターネットにおいてもこの原則 ネットワークの構築において、物
10
㧔㧟㧕⃻ታ⚿วේೣ
トワーク全体にすべてに通じる大 が保たれてきた。アドレスの体系を 理アドレッシングと論理アドレッ
原則でなければならない。ネット 共有しつつ、その一部分である自ら シングの分離が必要になる。特定
ߎ߁ߒߚ⠨߃ᣇߪ‫ޔ‬ᓟㅀߔࠆᶏᄖߩ
09)0 ⎇ⓥࡊࡠࠫࠚࠢ࠻ߦ߅޿ߡ߽㊀ⷞߐࠇߡ߅ࠅ
の場所で大量のアドレスが利用さ
ワークが提供する機能の高度化を
が構築するネットワークは独自に
ห᭽ߩᣇะᕈߩ߽ߣߢ⎇ⓥ߇ㅴ߼ࠄࠇߡ޿ࠆ‫ޕ‬ᖱႎࡀ࠶࠻ࡢ࡯ࠢߩ⃻⁁ߦ೨ឭߣߒ‫੹ޔ‬ᓟ
狙えばアーキテクチャの複雑化を 運営できたことが多様な発展を生 れ、利用期間が短期であるような
ߩ⊒ዷࠍዷᦸߔࠇ߫‫ޔ‬
ᰳߊߴ߆ࠄߑࠆⷐ࿃ߣᕁࠊࠇࠆ‫ޕ‬
ߘࠇߙࠇߦߟ޿ߡਛりࠍ⺑᣿ߔࠆ‫ޕ‬
場合が想定される。このとき、多
招きかねない。この原則は、安易
みだす柔軟な環境を提供してきた
な複雑化を戒めている。AKARI
プ と言える。新しいネットワーク環境 数の通信デバイスの認証やトレー
ロジェクトでは、この原則を堅持
においても斬新なアプリケーショ
-GGR+V5KORNG5VWRKF サビリティの要求を満たす必要が
-+55ේೣ
するために、
「エンド・ツー・エン ンの開発が促されるような拡張性 ある。そこで、「物理アドレッシ
ド」
、
「結晶合成」
、
「共通レイヤの原 のあるアーキテクチャであるべき ングと論理アドレッシングの分
̌-GGRKV5KORNG5VWRKF̍ߣߪ‫࠻࠶ࡀ࡯࠲ࡦࠗޔ‬㐿⊒ߩ㤡᣿ᦼߦ޽ࠆ㐿⊒ࡊࡠࠫࠚࠢ
離」、「双方向認証の実現」、
「追跡
理」
と呼ばれる研究開発上の原理的 だ。
」
とも書かれている。
࠻ߩ࡝࡯࠳߇ㇱਅߦᜰ␜ߒߚ⸒⪲ߢ޽ࠆߣ⸒ࠊࠇߡ޿ࠆ‫ࠍࠢ࡯ࡢ࠻࠶ࡀޕ‬᭴ᚑߔࠆ࡞࡯࠲
考え方を導入するとされている。
AKARI プロジェクトでは、
「自己 可能性の付与」が重要な研究課題
20
ߥߤߩᯏེߩ઀᭽߇ⶄ㔀ൻߔࠆߣ‫․ޔ‬ቯᛛⴚࠍ߽ߣߦࡌࡦ࠳࡯߇Ꮢ႐ࠍ࿐޿ㄟ߻ߣ޿߁ߎ
組織型ネットワークの設計」
、
「ロバ であるとされている。
ߣ߇↢ߓ߆ߨߥ޿‫ߩ⪲⸒ߩߎޕ‬ᗧ๧ߪᛛⴚ઀᭽ࠍᭂജ◲ẖߦ଻ߟߎߣߢ‫ࠢ࡯ࡢ࠻࠶ࡀޔ‬Ⅳ
(2) 持続的な進化可能原則
ストな大規模ネットワークの構築」
、
インターネットが商用に利用さ
「トポロジが変動するネットワーク
Ⴚߩ᭴▽ߩߚ߼ߦ‫ߥࡦࡊ࡯ࠝޟ‬ෳട‫ߩޠ‬น⢻ᕈࠍ଻㓚ߔࠆߣ޿߁⠨߃ᣇࠍ⴫ߒߡ޿ࠆ‫ޕ‬
れるようになった 1990 年代前半以
のための制御」
「スケーラブルな分
ᄙ᭽ᕈ߿᜛ᒛᕈ‫ޔ‬
ߐࠄߦߪା㗬ᕈࠍჇߔߚ߼ߦ߽‫ޔ‬
-+55ේೣߪࡀ࠶࠻ࡢ࡯ࠢో૕ߦߔߴ
降に登場したアプリケーションの 散型制御」
「オープン性」
といった観
ߡߦㅢߓࠆᄢේೣߢߥߌࠇ߫ߥࠄߥ޿‫߇ࠢ࡯ࡢ࠻࠶ࡀޕ‬ឭଏߔࠆᯏ⢻ߩ㜞ᐲൻࠍ⁓߃߫ࠕ
多様性の豊かさを振り返ると、こ 点からこの原則に則った開発を進
米国の GENI プロジェクト
࡯ࠠ࠹ࠢ࠴ࡖߩⶄ㔀ൻࠍ᜗߈߆ߨߥ޿‫ߩߎޕ‬ේೣߪ‫ޔ‬቟ᤃߥⶄ㔀ൻࠍᚓ߼ߡ޿ࠆ‫ޕ‬#-#4
の原則の重要性はよく理解できる。 めるとされている。
‫ޠ࠼ࡦࠛ࡮࡯࠷࡮࠼ࡦࠛޟ‬
‫⚿ޟ‬᥏วᚑ‫ޔޠ‬
GENI(Global
Environment ‫ޔ‬
for
例えば携帯電話での Webࡊࡠࠫࠚࠢ࠻ߢߪ‫ߩߎޔ‬ේೣࠍၷᜬߔࠆߚ߼ߦ‫ޔ‬
ページの
‫౒ޟ‬ㅢ࡟ࠗࡗߩේℂ‫ߣޠ‬๭߫ࠇࠆ⎇ⓥ㐿⊒਄ߩේℂ⊛⠨߃ᣇࠍዉ౉ߔࠆߣߐࠇߡ޿ࠆ‫ޕ‬
(3) 現実結合原則
Network Innovations) は、米国
閲覧などは、携帯電話が登場した当
初は想定されていなかったアプリ 現在のインターネットにおける NSF(National Science Foundation)
技術的課題の多くは、ネットワー が研究資金を出資し、次世代ネッ
ケーションである。
AKARI プロジェクトの文書によ クアドレス空間上に存在する「エ トワークとその応用について大規
ると
「新世代ネットワークアーキテ ン テ ィ テ ィ( 通 信 者 )」と 現 実 社 模な研究を実施するプロジェクト
3-3
16
1
新しい情報ネットワーク基盤の商用化と研究開発の動向
である 14)。2007 年秋からの 5 年 ポーネントを実装する
「仮想化」が (Next Generation Internet)と
間で 4 億ドル規模の研究資金を次 できること。これにより広範囲で 呼ばれるプロジェクトが、2003
㧝㧝᦬ภ࡟ࡐ࡯࠻(╙ 9 Ⓜ㧕
世代情報ネットワークの研究に投 連続性のある運用を想定した実験 年 よ り 実 施 さ れ、 後 継 の FP7
ጊ↰⡸‫⮮ޔ‬੗┨ඳ
資する。
が可能となる。③末端の端末やユー の 枠 内 で も Euro-FGI(Future
ᐔᚑ 20 ᐕ 11 ᦬ 10 ᣣ
約 1 年半にわたる実施計画に関 ザーが
「シームレス」に実験に参加 Generation Internet)という名前
する議論を集約し、2007 年 4 月 できること。実運用段階の実装を で継続して実施されている 15)。
ࠬ࠹ࡓⷐ᳞↪ઙ‫ޠ‬
‫ޟ‬ᯏ⢻⸳⸘‫ޟޠ‬ታⵝ⸘↹‫࠻ࠢࠚࠫࡠࡊޟࠆߥࠄ߆ߤߥޠ‬ታⴕࡊ࡜ࡦ‫౏߇ޠ‬
25 日付で
「研究計画」
「システム要 実現することで、漸進的な改善が このプロジェクトには、欧州の
㐿ߐࠇ‫ޔ‬หᐕ㧥᦬ߦߪ㧡ᐕ㑆ߩ⎇ⓥࡊࡠࠫࠚࠢ࠻߇㐿ᆎߐࠇߚ‫ޕ‬GENI
ߢߪ‫ޔ࡯ࠨࡦ࠮ޔ‬
求用件」
「機能設計」
「実装計画」
な 可能となる。④コンポーネントは 主要研究機関が国を超えて参画し
శࠛ࡟ࠢ࠻ࡠ࠾ࠢࠬ‫ޔࡊ࠶࠴ࡦࠝࡓ࠹ࠬࠪޔ‬ᄢⷙᮨ㜞ㅦṶ▚‫ޔ‬ᄢⷙᮨ࠺࡯࠲ࡌ࡯ࠬ‫ޔ‬ᣂࠕ
どからなる
「プロジェクト実行プ
「モジュラー型」の構造を持ち、新 ている。Euro-NGI の計画書によ
ラン」
が公開され、同年
9 月には 5 しい技術の追加削除を柔軟に行え ると、図表 7 に掲げる 10 の目標
࡞ࠧ࡝࠭ࡓ╬ߩ⎇ⓥ࡮㐿⊒ࠍㅢߓߡᖱႎࡀ࠶࠻ࡢ࡯ࠢߩ዁᧪௝ࠍᣢሽߩࠗࡦ࠲࡯ࡀ࠶࠻ߩ
設定のもとで実施されている。
年間の研究プロジェクトが開始さ
ること。これはダイナミックな運
ᨒ⚵ߺߦᝒࠊࠇߥ޿ߢ⎇ⓥߔࠆ‫ޔߚ߹ޕ‬GENI
ߩ‛ℂጀߪ‫ޔ‬ή✢✂╬ࠍ฽߻ᄙ᭽ߥࡀ࠶࠻
研究プロジェクトのマネージメ
れた。GENI では、センサー、光
用に耐えるためである。
ࡢ࡯ࠢᯏེ߆ࠄ᭴ᚑߐࠇࠆ‫৻ޕ‬ᣇ‫▤ߩࠕࠛ࠙࠻ࡈ࠰ߪߢࡦ࡚ࠪ࡯ࠤ࡝ࡊࠕޔ‬ℂᯏ᭴ߩ߽ߣ
エレクトロニクス、システムオン GENI プロジェクト立案の中心的 ントの観点から、欧州の最大の課
ߢࡀ࠶࠻ࡢ࡯ࠢࠍ೑↪ߔࠆታ㛎߇⋧੕ㆇ↪ߢ߈ࠆࠃ߁ߦߔࠆ‫ࠍࠇߎޕ‬น⢻ߣߔࠆߚ߼ߦ‫ޔ‬
チップ、大規模高速演算、大規模 な役割を演じたのは、NSF におけ 題 は、 領 域 内 の 研 究 活 動 を 無 駄
ታ㛎߿⎇ⓥ㐿⊒ࠍⴕ߁ࠨࡉࡊࡠࠫࠚࠢ࠻ߦ㑐ߒߡ‫ޔ‬ᰴߩ྾ߟߩࠠ࡯ࡢ࡯࠼߇㊀ⷐߢ޽ࠆ‫ޕ‬
データベース、新アルゴリズム等 る CISE (Computer & Information なく総合的に展開し、研究成果の
Ԙࠨࡉࡊࡠࠫࠚࠢ࠻ߩࠦࡦࡐ࡯ࡀࡦ࠻ߪ‫ࠢ࡯ࡢ࠻࠶ࡀࠆߥ߆޿ޔ‬ⅣႺߦ߽ኻᔕߢ߈ࠆࠃ߁‫ࡊޟ‬
の研究・開発を通じて情報ネット Science and Engineering) と呼ば 集 約 を 図 る こ と で あ る。 こ の た
10
ࡠࠣ࡜ࡓน⢻‫ޕߣߎࠆ޽ߢޠ‬ԙⶄᢙߩࠦࡦࡐ࡯ࡀ࠶࠻ࠍታⵝߔࠆ‫ޟ‬઒ᗐൻ‫ࠇߎޕߣߎࠆ߈ߢ߇ޠ‬
ワークの将来像を既存のインター
れる部局であった。ここは、計算 めに「仮想的な研究中心 (Virtual
ߦࠃࠅᐢ▸࿐ߢㅪ⛯ᕈߩ޽ࠆㆇ↪ࠍᗐቯߒߚታ㛎߇น⢻ߣߥࠆ‫ޕ‬
Ԛᧃ┵ߩ┵ᧃ߿࡙࡯ࠩ࡯߇
‫ࠪޟ‬
of Excellence)」を構築し、
ネットの枠組みに捉われないで研 機科学、通信工学、情報科学、情 Center
そこに各地の研究で得られた知識
究する。また、GENI
の物理層は、
報工学の振興を目的としている。
࡯ࡓ࡟ࠬ‫ޠ‬
ߦታ㛎ߦෳടߢ߈ࠆߎߣ‫ޕ‬
ታㆇ↪Ბ㓏ߩታⵝࠍታ⃻ߔࠆߎߣߢ‫ޔ‬
ẋㅴ⊛ߥᡷༀ߇น⢻
の集約を図ろうとしている。その
無線網等を含む多様なネットワー
CISE
のもとで、情報ネットワーク
ߣߥࠆ‫ޕ‬ԛࠦࡦࡐ࡯ࡀࡦ࠻ߪ‫ߩޠဳ࡯࡜ࡘࠫࡕޟ‬᭴ㅧࠍᜬߜ‫ޔ‬ᣂߒ޿ᛛⴚߩㅊട೥㒰ࠍᨵエߦⴕ
ク機器から構成される。一方、ア
と分散システムの学者らがワーク ために遠隔地域間の会議システ
߃ࠆߎߣ‫ߥࠢ࠶ࡒ࠽ࠗ࠳ߪࠇߎޕ‬ㆇ↪ߦ⠴߃ࠆߚ߼ߢ޽ࠆ‫ޕ‬
プリケーションではソフトウエア ショップを重ねて議論を行ってきた。 ムや Web を介した専門家向けの
)'0+ ࡊ ࡠ ࠫࠚ ࠢ ࠻ ┙᩺ߩ ਛ ᔃ ⊛ߥᓎ ഀ ࠍ Ṷߓߚ ߩ ߪ ‫ ޔ‬05( ߦ ߅ ߌ ࠆ %+5'
%QORWVGT チャットルームの開設などを駆使
の管理機構のもとでネットワーク
+PHQTOCVKQP5EKGPEGCPF'PIKPGGTKPIߣ๭߫ࠇࠆㇱዪߢ޽ߞߚ‫▚⸘ޔߪߎߎޕ‬ᯏ⑼ቇ‫ޔ‬ㅢାᎿ
して効果的な研究者のネットワー
を利用する実験が相互運用できる
ቇ‫ޔ‬ᖱႎ⑼ቇ‫ޔ‬ᖱႎᎿቇߩᝄ⥝ࠍ⋡⊛ߣߒߡ޿ࠆ‫ޕ‬%+5'ߩ߽ߣߢ‫ޔ‬ᖱႎࡀ࠶࠻ࡢ࡯ࠢߣಽᢔࠪࠬ
ク形成と知識の共有化を図ってい
ようにする。これを可能とするた
࠹ࡓߩቇ⠪ࠄ߇ࡢ࡯࡚ࠢࠪ࠶ࡊࠍ㊀ߨߡ⼏⺰ࠍⴕߞߡ߈ߚ‫ޕ‬
る。もちろん実際に会う交流の重
めに、実験や研究開発を行うサブ
プロジェクトに関して、次の四つ
欧州の Euro-NGI プロジェクト 要性が忘れられているわけではな
20
く、博士課程の学生指導を異なる
㧟㧚㧟 ᰷Ꮊߩ Euro-NGI ࡊࡠࠫࠚࠢ࠻
のキーワードが重要である。
①サブプロジェクトのコンポー 欧 州 で は、 科 学 技 術 基 本 計 画 研究機関に所属する教授が指導す
にあたる FP6 (6thFP6
Framework
るなど、大学院レベルの研究にお
ネントは、いかなるネットワーク
᰷Ꮊߢߪ‫⑼ޔ‬ቇᛛⴚၮᧄ⸘↹ߦ޽ߚࠆ
(6th Framework
Programme) ߩਥⷐࡊࡠࠫ
環境にも対応できるよう
「プログラ Programme) の 主 要 プ ロ ジ ェ いて相互交流が実行されている。
ࠚࠢ࠻ߩ৻ߟߣߒߡ‫ޔ‬Euro-NGI㧔Next Generation Internet㧕 ߣ๭߫ࠇࠆࡊࡠࠫࠚࠢ࠻
ム可能」
であること。②複数のコン ク ト の 一 つ と し て、Euro-NGI
3-4
߇‫ޔ‬2003 ᐕࠃࠅታᣉߐࠇ‫ޔ‬FP7 ߩᨒౝߢ߽ Euro-FGI㧔Future Generation Internet㧕ߣ
޿߁ฬ೨ߢ⛮⛯ߒߡታᣉߐࠇߡ޿ࠆ‫ޕ‬
図表
7 Euro-NGI 計画書による目標設定
[15]
㪈䋩᰷Ꮊ䈪ㅴⴕਛ䈱⎇ⓥ䈎䉌ᓧ䉌䉏䉎⍮⷗䈱⫾Ⓧ䉕⛔ว⊛䈮▤ℂ䊶ផㅴ䈜䉎䇯㩷
㪉䋩ෳടฦ࿖䈱ද⺞䈱䉅䈫䈪ᒝജ䈮⎇ⓥ䉕ផㅴ䈜䉎䇯㩷
㪊䋩⎇ⓥᚻᴺ䉇ታ㛎䈱䈢䉄䈱䊒䊤䉾䊃䊐䉤䊷䊛䇮䉿䊷䊦䈭䈬䉕౒᦭䈜䉎䇯㩷
㪋䋩⎇ⓥળ䈱㗫❥䈭㐿௅䇯㩷
㪌䋩⍮⼂䊙䊈䊷䉳䊜䊮䊃╬䉕ዉ౉䈚䇮⎇ⓥ⠪㑆䈱ᖱႎ੤឵䉕ᡰេ䈜䉎䇯㩷
㪍䋩ඳ჻⺖⒟ቇ↢䈫⎇ⓥ⠪䈱ᵹേᕈ䈱⏕଻䇯㩷
㪎䋩᰷Ꮊ౒ㅢ䈱ᄢቇ㒮䈱⸳⟎䇯㩷
㪏䋩䉰䊙䊷䉴䉪䊷䊦䉕ㅢ䈛䈢⧯ᚻ⎇ⓥ⠪䈱⢒ᚑ䈫ᖱႎ੤឵䇯㩷
㪐䋩ఝ䉏䈢⎇ⓥᚑᨐ䈱౏㐿䈫ᖱႎ⊒ା䇯㩷
㪈㪇䋩↥ᬺ⇇䈫䈱දജ૕೙䈱ᒝൻ䇯
㧔ᢥ₂[15]ࠍෳᾖߒߡ⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ
࿑⴫㧣 Euro㧙NGI ⸘↹ᦠߦࠃࠆ⋡ᮡ⸳ቯ
参考文献 15)を基に科学技術動向研究センターにて作成
࠲࡯ߦߡᗧ⸶㧕
Science & Technology Trends November 2008
17
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 月号
4
むすび
次世代のネットワークの研究開
発に関する課題を検討するため
に、もう一度、図表 6 に挙げた日
本の AKARI プロジェクトの研究
目標をみてみると、純粋に技術的
な研究目標と考えられるものはせ
いぜい(1)と(2)であり、大半は制
度上の改革や市場における競合に
よって洗練されることが想定され
るような中身である。
本稿では、通信分野の次の技術
進化を牽引するのは、技術の観点
からは、ネットワークの IP 化で
ある点を述べてきた。しかし、IP
化へのもっとも強いニーズを持っ
ているのは、インフラへの投資を
最適化したいと考える通信事業者
である。利用者にとっては、広帯
域化や帯域保障などが宣伝されて
いるが、一般ユーザーにとっては
IP 化へ移行することの利点が分か
りにくいというのが実際のところ
である。
図表 6 中の非技術要因によっ
て左右される目標((3) ~ (11))は、
現実社会でのアプリケーションに
強く関係がある。これらの研究目
標を達成するためには政策上の意
思決定やビジネスとしての市場性
の検討などのアプローチが不可欠
と思われる。
例えば、
(8)
の
「通信放送融合」
と
言う問題を取り上げて見れば、帯域
保障された通信サービスが適正な
価格で提供されれば、インターネッ
トが現在のテレビの機能を代替で
きるばかりではなく、新たなサービ
スやビジネスが成立する可能性が
ある。通信放送融合は、技術的な課
題というよりは政策課題である。
インターネットと言う社会基盤
はすでに多くのグローバル企業を
生み出してきた。今後、帯域保障や
ユビキタスという視点が加わるこ
とで使用者の利便性が増すだけで
なく、現時点では想像し得ない新た
な産業を生み出す可能性もある。
今後の情報ネットワークのあり
方を議論するために必要なことは、
エンジニアのエキスパートの知見
を問うばかりでなく、広く他分野の
専門化の見識を求めることが必要
である。多くの分野におけるイノ
ベーションは、ネットワークとい
う社会基盤抜きには考えられない。
そこで、NWGN が他分野の研究開
発に及ぼす影響の検討や、幅広い分
野のイノベーションを生み出す基
盤の役割を担うための方策を議論
することが求められる。
謝 辞
本稿をまとめるにあたり、品川
萬里科学技術政策研究所科学技術
動向研究センター客員研究官には、
貴重なご討論と関連資料の提供を
いただきました。ここに記して感
謝の意を表したいと存じます。
参考文献
1) Working Party on Telecommunication and Information Services Policies,“Next Generation Network Development in
OECD Countries,”OECD (2005):http://www.oecd.org/dataoecd/58/11/34696726.pdf
2) UK Cabinet Office,“UK Online: the broadband future,”
:http://www.connectingsw.net/uploads/ukonline_1.pdf
3)
“What is 21CN?,”
:http://www.btplc.com/21CN/Whatis21CN/index.htm
4)
KPN,“4th Quarter Results, 2006,”
:http://www.kpn.com/upload/1863237_9475_1170923304042-KPNQ406a.pdf
5 ) KPN,“Annual Report 2006,”:http://www.kpn.com/upload/1786687_9475_1173767749534-KPN_Annual_
Report_and_Form_20-F_2006.pdf
6)
Telecommunications Standards Advisory Committee,“Overview of Next Generation Network,”
:http://www.ofta.
gov.hk/en/ad-comm/tsac/ts-paper/ts2005p13.pdf
7)
Computer World,“Next Gen NII,”
:http://www.computerworld.com.my/ShowPage.aspx?pagetype=2&articleid=361
4&pubid=3&issueid=86
8)
Telecom Regulatory Authority of India.:http://www.trai.gov.in/
9)
「NGN」
の五里霧中、
週刊ダイヤモンド
(2008年3月1日)
10)
NTT技術ジャーナル:http://www.ngs-forum.jp/library/journal.html
11)
清貞智会、
山田肇
「移動通信システムの研究開発動向」
科学技術動向、
No.1、
2001年4月号
12)
小笠原敦
「ブロードバンド時代の次世代コンテンツ配信技術」
科学技術動向、
No.31、
2003年10月号
13)
藤井章博
「インターネットルータの技術動向―次世代通信インフラの整備に向けて―」
科学技術動向、
No.33、
2003年 12月号
18
国際標準化活動の活用
し、標準化活動の過程で参加者の 08) 電子情報技術産業協会、「2004 年
取引交渉のツールのひとつに国 中に「将来パテントプールを組織
情報端末関連機器の世界・日本
新しい情報ネットワーク基盤の商用化と研究開発の動向
標準化活動がある。しかし、国 化する可能性がある」との共通理
市場規模および需要予測」2005
標準化活動に単に参加している 解が醸成されていけば、調整が容
年3月
14) GENI
(Global Environment Network Innovations)ウェブサイト:http://www.geni.net/
けでは不十分である。我が国企 易になる可能性がある。我が国企 09) 日本記録メディア工業会、「記録
15)
Euro-NGI ウェブサイト:http://www.eurongi.org/
は、仲間を増やし、また自社の 業は、将来を見通した上で、必要
メディアビジネスを牽引する記
16)
AKARI プロジェクトウェブサイト:http://akari-project.nict.go.jp/
術と特許が標準の中に組み込ま な場合にはパテントプールの形成
録型 DVD」2004 年 11 月
るように積極的に働きかける必 に向けて、他国の諸企業に積極的 10) 産業構造審議会・知的財産政策
がある。公正取引委員会のガイ に働きかけていくべきである。
部会特許制度小委員会・特許戦
ライン原案には「一部の参加者
略計画関連問題ワーキンググル
、規格の策定手続を不当に利用 参考文献
ープ、
「特許発明の円滑な使用に係
ることにより、規格を自らにと 01) 知的財産戦略本部、「知的財産の
る諸問題について」2004 年 11 月
て有利(又は特定の事業者にと
「国際標準を担う人材
創造、保護及び活用に関する推 11) 黒川利明、
て不利)な内容とする」のは問
育成について」
『科学技術動向』
進計画」2003 年7月
との表現があった。しかし意見 02) 山田肇、「技術経営:未来をイノ
2005 年6月
執 筆 者
募の過程で、
事業者団体から「参
ベートする」NTT 出版(2005 年
各社が自らの保有する技術が規
4月)
に採用しようと働きかけをする 03) 公正取引委員会、「標準化に伴う
執 筆 者
とは当然の行為である」との指
パテントプールの形成等に関す
があり、
「自らにとって有利な
る独占禁止法上の考え方」2005
容とする」との表現は削除され
年6月
いる。
04) 特許庁、
「平成 16 年度特許出願
国際標準化活動は政治的交渉で
技術動向調査報告書 プラズマ
って、技術の優劣を判断する場
ディスプレイパネルの構造と製
はない。したがって、企業は交
造方法」2005 年3月
客員研究官
山田 肇
■用語説明■
東洋大学経済学部
ANSI
藤井 章博
American National Standards Institute
CDMA
DVD
EC
ETF
SO
TU-T
客員研究官
Code Division Multiple Access
法政大学 理工学部 応用情報工学科 准教授
Digital Versatile Disc
◎
International Electrotechnical Commission
工学博士。分散コンピューティングと通信プ
Internet Engineering Task Force
ロトコルの研究に従事した後、電子商取引シ
International Organization for Standardization
ステムの構築プロジェクトを実施。現在、情
報通信技術のイノベーションが経営や政策に
International Telecommunication
Union Telecommunication
与える影響に興味を持つ。
Standardization Sector
Moving Picture Experts Group
MPEG
蘋
山田 肇
客員研究官
慶應大学大学院工学研究科修士課程修了。
同大学より工学博士号。マサチューセッツ
東洋大学
経済学部 社会経済システム学科 教授
工科大学より技術経営修士号。NTT にて
◎
研究直接業務を推進後、研究戦略立案など
慶應大学大学院工学研究科修士課程修了。
のマネジメント業務に従事。2001 年よ
り東洋大学経済学部教授。
同大学より工学博士号。マサチューセッツ工
科大学より技術経営修士号。NTT にて研究
直接業務を推進後、研究戦略立案などのマ
ネジメント業務に従事。2002 年より東洋大
学経済学部教授。
3CIENCE4ECHNOLOGY4RENDS/CTOBER
Science & Technology Trends November 2008
19
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 号
科学技術動向研究
真のバルク GaN 単結晶の
必要性と研究開発動向
皿山 正二
客員研究官
1
はじめに
現在、シリコン
(Si)半導体デバ
イスは、パーソナルコンピューター
(PC)
・テレビ
(TV)
・携帯電話な
どの各種家電製品や自動車などの
民生品を始め、電車・工場制御機
器などの産業分野まで、幅広くほ
とんど全ての電子機器に搭載され
ている。Si 半導体は MOS 型トラ
ンジスタやバイポーラトランジス
タなどとして、主にメモリや CPU
(中央演算処理装置)などの電子デ
バイスとして用いられている。
一方、ガリウムヒ素
(GaAs)注 1)
やインジウムリン
(InP)注 1)に 代
表される化合物半導体は直接遷移
型であることから発光デバイスに
適しており、半導体レーザ
(LD:
Laser Diode)や 発 光 ダ イ オ ー ド
(LED: Light Emitting Diode)な ど
の光デバイスに応用されている。
LD は光通信や CD
(コンパクトディ
スク)
・DVD などの光ディスクに、
また LED は近赤外波長域での家電
製品などのリモコンや表示用赤色
LED などの身近な製品に使われて
いる。化合物半導体の別の特徴と
して、高キャリア移動度や低リー
ク電流・低容量があり、高周波ト
ランジスタとしても携帯電話や衛
星放送受信機などにも広く応用さ
れている。また、炭化ケイ素
(SiC)
などは高出力デバイスにも応用さ
れている。
化合物半導体のなかでも、窒化ガ
リウム
(GaN)を中心とする GaN 系
半導体 注2)材料は直接遷移型のワイ
ドバンドギャップ半導体であるこ
とから、Si や GaAs などの半導体
材料では実現できない紫外~青色
~緑色の発光デバイスや高速大電
力トランジスタに適した半導体で
ある。Si や GaAs などの半導体は
1940 年 代 か ら 1970 年 代 に か け
て盛んに研究開発がなされて実用
化に結びついた経緯があるのに対
し、GaN 系半導体は結晶成長の困
難さから研究開発に長い時間を要
し、なかなか実用化されなかった。
GaN 系半導体は 1993 年に初めて
青色 LED(pn 接合型)が商品化さ
れ、その後、白色 LED や青紫 LD
などが実用化された。現在、白色
LED は携帯電話を始め種々の液晶
ディスプレイのバックライトや懐
中電灯・自動車のヘッドライトと
して実用化されており、今後は市
場の大きな一般照明などにも展開
されようとしている。また、紫外
~青色 LED は光触媒用光源として
脱臭装置などに、青色~緑色 LED
は交通用信号機や各種インジケー
タなどに用いられている。LD とし
ては青紫色 LD がブルーレイディ
スク用光源として実用化されてお
り、ハイビジョン映像の録画再生
に用いられている。また、電子デ
バイスとしては、将来の携帯電話
基地局用の高速高出力トランジス
タやハイブリッドカーのインバー
ター用スイッチングデバイスなど
で実用化を目指した開発が活発に
行われている。このように GaN 系
半導体デバイスは、我々の日常生
活に必要不可欠なデバイスとなっ
てきている。
注1:本稿では、GaAs系とは、GaAsとAlAsの混晶半導体であるAlGaAs、あるいはInGaAsなどを含む。また、InP系も同様
に混晶半導体を含む。
注2:GaNは、Ⅲ族窒化物半導体のひとつ。本稿では、AlNやInNのⅢ族窒化物半導体およびそれらの混晶半導体も含めて
GaN系半導体と表現し、これらの材料を用いたデバイスをGaN系半導体デバイスと表現している。
20
真のバルク GaN 単結晶の必要性と研究開発動向
(独)科学技術振興機構が作成した
「電子情報通信分野 科学技術・研
究開発の国際比較 2008 年版」1) に
よると、日本の GaN 系半導体デバ
イスは、海外に比較して研究・技術・
産業のいずれも、
“非常に進展”あ
るいは
“進んでいる”と評価されて
いる。しかし、近年のトレンドと
しては
“現状維持”であり、海外の
うちでも特に中国・韓国・台湾は
“上
昇傾向”
とされており、これらの国
の追い上げにあっている。
2
基板材料としては、Si 半導体お
よび GaAs・InP などの化合物半導
体に関しては、日本がトップシェア
を握っており、国際競争力を有して
いる。しかし、SiC のみは米国が主
導権を握っている。一方、本稿で詳
しく述べるように、GaN について
は基板材料の製造技術が確立してい
ない。半導体基板材料において、そ
の製造技術が確立していない残り
少ない材料である GaN の結晶成長
技術で主導権を握ることは、今後の
GaN 系半導体デバイス技術全体に対
して重要な意味をもつと考えられる。
本稿では、GaN 系半導体デバイ
スにおいて GaN の
「真のバルク単
結晶」
を研究開発する必要性と、そ
の研究開発の現状および課題を述べ
る。本稿でいう
「真のバルク単結晶」
とは、Si・GaAs・InP ではすでに得
られているような、結晶欠陥(転位)
が少なく、任意の結晶面を切り
出すことが可能なバルク結晶を
意味する。
GaN 系半導体におけるヘテロエピタキシャル技術の限界と
バルク結晶の必要性
2-1
GaN 系半導体の適応領域
GaN 系半導体材料の研究開発の
歴史は古く、GaAs など他の化合物
半導体と同様に、1960 年代から気
相成長法による結晶成長の研究開
発が行われた。そして、同分野に
おける科学的ブレークスルーの二
大トピックスと言える 1986 年の
低温バッファ層 2) による結晶性の
向上と 1989 年の p 型伝導の発見 3)
とを経て、1993 年の青色発光ダイ
オードの上市に至った。2 つの科学
的ブレークスルーは、いずれも名
古屋大学
(当時)の赤崎勇教授らに
よって成された成果である。その
後、気相成長法による結晶成長技
術開発が大きく進み、LED や LD
を中心に実用化され、現在は我々
の日常生活に密接に関わっている。
GaN 系半導体と他の半導体との物
性比較と、その物性を活かしたデ
バイスについて図表 1 に示す。
発光デバイスとしては、直接遷
移型であることとバンドギャッ
プが広いことから、紫外~可視域
の発光デバイスが実現している。
GaN、AlN、InN の混晶を組み合
わせることで、紫外から赤外域の
発光デバイスが実現される可能性
もある。これを具体的に図示する
と 図 表 2 の よ う に な る。GaN 系
半導体の発光デバイスとしてのポ
テンシャルは、紫外域の 200nm
から光ファイバーで用いられる
1500nm 近 く ま で の 波 長 域 と な
る。このうち、現在、研究開発レ
ベルの発光デバイスとして、LED
で 210 ~ 550nm、LD で 342 ~
488nm の波長域がそれぞれ実現さ
れている。市販されているもので
は、LED で 365 ~ 520nm、LD
で 400 ~ 450nm の波長域である。
しかし、残りの波長領域はポテン
シャルはあるものの実用的には未
࿑⴫㧝 ฦ⒳ඨዉ૕᧚ᢱߩ‛ᕈ୯ߣ GaN ♽ඨዉ૕ߩ․ᓽ
図表 1 各種半導体材料の物性値と GaN 系半導体の特徴
ඨዉ૕᧚ᢱ
㪪㫀
㪪㫀㪚㩷
㩿㪋㪟㪀
䉻䉟䊟
䊝䊮䊄
㪞㪸㪘㫊
㸉ᣖ⓸ൻ‛䋨㪞㪸㪥♽䋩ඨዉ૕
㪞㪸㪥
㪘㫃㪥
㪠㫅㪥
ㆫ⒖ဳ
㑆ធ
㑆ធ
㑆ធ
⋥ធ
⋥ធ
⋥ធ
⋥ធ
䊋䊮䊄䉩䊞䉾䊒
䋨㪼㪭䋩
㪈㪅㪈
㪊㪅㪊
㪌㪅㪌
㪈㪅㪋
㪊㪅㪋
㪍㪅㪉
㪇㪅㪍䌾
㪇㪅㪎
㔚ሶ⒖േᐲ
㩿㪺㫄㪉㩷㪭㪄㪈㩷㫊㪄㪈㪀
㪈㪌㪇㪇
㪈㪇㪇㪇
㪈㪏㪇㪇
㪏㪌㪇㪇
㪈㪉㪇㪇
㪄
㪋㪇㪇㪇
⛘✼⎕უ㔚⇇
㩿㪤㪭㩷㪺㫄㪄㪈㪀
㪇㪅㪊
㪊㪅㪇
㪋㪅㪇
㪇㪅㪋
㪊㪅㪊
㪄
㪉㪅㪇
㘻๺㔚ሶㅦᐲ
㩿㪈㪇㪎㪺㫄㩷㫊㪄㪈㪀
㪈㪅㪇
㪉㪅㪇
㪉㪅㪌
㪉㪅㪇
㪉㪅㪌
㪉㪅㪇
㪋㪅㪉
ᾲવዉ₸
㩿㪮㩷㪺㫄㪄㪈㩷㪢㪄㪈㪀
㪈㪅㪌
㪋㪅㪐
㪉㪇㪅㪐
㪇㪅㪌
㪉㪅㪈
㪉㪅㪐
㪇㪅㪏
․ᓽ䉕ᵴ䈎䈚䈢䊂䊋䉟䉴
䊶⚡ᄖ䌾นⷞ䌾⿒ᄖၞ䈱⊒శ䊂䊋䉟䉴
䊶䊌䊪䊷䊃䊤䊮䉳䉴䉺
䊶㜞๟ᵄ䊃䊤䊮䉳䉴䉺
参考文献 3)を基に科学技術動向研究センターにて作成
ෳ⠨ᢥ₂
3)ࠍరߦ⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
Science & Technology Trends November 2008
21
ߘࠇߙࠇታ⃻ߐࠇߡ޿ࠆ‫ޕ‬Ꮢ⽼ߐࠇߡ޿ࠆ߽ߩߢߪ‫ޔ‬LED ߢ 365㨪520nm‫ޔ‬LD ߢ 400㨪
450nm ߩᵄ㐳ၞߢ޽ࠆ‫ޔߒ߆ߒޕ‬ᱷࠅߩᵄ㐳㗔ၞߪࡐ࠹ࡦࠪࡖ࡞ߪ޽ࠆ߽ߩߩታ↪⊛ߦߪ
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 号
ᧂ〯㗔ၞߢ޽ࠅ‫ޔ‬ᱷࠅߩᵄ㐳ၞ߽೑↪ߔࠆߚ߼ߦߪ੹ᓟߩᛛⴚ㕟ᣂ߇ᔅⷐߢ޽ࠆ‫ޕ‬
10
࿑⴫㧞 ⊒శ࠺ࡃࠗࠬߣߒߡߩㆡ↪ᵄ㐳
踏領域であり、残りの波長域も利 図表 2 発光デバイスとしての適用波長
用するためには今後の技術革新が
必要である。
LD
一方、図表 1 によると GaN 系半
導体は、その電子移動度・絶縁破
GaN♽
LED
壊電界・飽和電子速度・熱伝導率
において優れており、高周波高出
力トランジスタ用材料としても大
GaAs♽
䈠䈱ઁ䈱
きな可能性がある。図表 3 に各種
InP♽
ൻว‛ඨዉ૕
半導体の電子デバイスとしての適
応領域を示す。GaN 系半導体は他
200
400
600
800
1000
1200
1400
の半導体材料では実現できない高
ᵄ㐳䋨nm䋩
周波高出力領域でのポテンシャル
をもつ。
⊒శ䊂䊋䉟䉴䈫䈚䈩ℂ⺰⊛䈮ታ⃻น⢻䈭ᵄ㐳㗔ၞ
また、GaN 系半導体は、GaAs
⎇ⓥ㐿⊒䊧䊔䊦䈪ታ⃻䈚䈩䈇䉎ᵄ㐳㗔ၞ
に含まれる As のような有害物質
䈜䈪䈮Ꮢ⽼䈘䉏䈩䈇䉎ᵄ㐳㗔ၞ
を含有しないため、環境親和性も
⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
科学技術動向研究センターにて作成
高い。Ga と N は元素枯渇の懸念
15
৻ᣇ‫ޔ‬࿑⴫ 1 ߆ࠄ GaN ♽ඨዉ૕ߪ‫ߩߘޔ‬㔚ሶ⒖േᐲ࡮⛘✼⎕უ㔚⇇࡮㘻๺㔚ሶㅦᐲ࡮
が無く、これも将来のデバイス材
࿑⴫㧟
㜞๟ᵄ࡮㜞಴ജ㔚ሶ࠺ࡃࠗࠬߣߒߡߩㆡᔕ㗔ၞ
ᾲવዉ₸ߦ߅޿ߡ‫ޔ‬㜞๟ᵄ㜞಴ജ࠻࡜ࡦࠫࠬ࠲ߣߒߡ߽น⢻ᕈ߇޽ࠆ‫ޕ‬࿑⴫
3 ߦฦ⒳ඨዉ
図表
3 高周波・高出力電子デバイスとしての適応領域
料として有望な点である。
૕ߩ㔚ሶ࠺ࡃࠗࠬߣߒߡߩㆡᔕ㗔ၞࠍ␜ߔ‫ޕ‬GaN ♽ඨዉ૕ߪઁߩඨዉ૕᧚ᢱߢߪታ⃻಴᧪
㪈㪇㪇㪇
ߥ޿㜞๟ᵄ㜞಴ജ㗔ၞߢߩࡐ࠹ࡦࠪࡖ࡞ࠍ߽ߟ‫ޕ‬
߹ߚ‫ޔ‬GaN ♽ඨዉ૕ߪ‫ޔ‬GaAs ߦ฽߹ࠇࠆ As ߩࠃ߁ߥ᦭ኂ‛⾰ࠍ฽᦭ߒߥ޿ߚ߼‫ޔ‬Ⅳ
Ⴚⷫ๺ᕈ߽㜞޿‫ޕ‬Ga ߣ N㪪㫀㪚
ߪర⚛ᨗᷢߩ ᔨ߇ήߊ‫߽ࠇߎޔ‬዁᧪ߩ࠺ࡃࠗࠬ᧚ᢱߣߒߡ᦭ᦸ
20
ヘテロエピタキシャルの
適応アプリケーションと
その限界
ߥὐߢ޽ࠆ‫ ޕ‬㪈㪇㪇
Si・SiC・GaAs・InP は、いずれ
もバルク結晶が存在し、結晶をエ
ピタキシャル成長 注 3)させる場合
にはそれぞれ Si 基板・SiC 基板・
GaAs 基板・InP 基板が用いられ
て い る。 こ の よ う に 同 材 料 の 基
板を用いた結晶成長を
「ホモエピ
タキシャル成長」と言う。しかし、
GaN 系半導体ではバルク結晶が得
られていないために、デバイス作
5
製のための結晶成長の際には異種
材料の基板が用いられている。こ
のことが、GaN 系半導体が優れ
たポテンシャルを発揮できない大
きな壁となっている。現在、GaN
系半導体デバイスは、サファイア
(Al2O3)や SiC の基板上に GaN 系
半導体薄膜を結晶成長させること
により作製されている。このよう
な異種
(ヘテロ)材料の基板上にエ
ピタキシャル成長させる結晶成長
22
ᐔဋ಴ജ㔚ജ 䋨㪮䋩
2-2
㪞㪸㪥
4/19
㪈㪇
㪪㫀
㪈
㪞㪸㪘㫊
㪇㪅㪈
㪇㪅㪈
㪈
㪈㪇
㪈㪇㪇
േ૞๟ᵄᢙ䋨㪞㪟㫑䋩
㪠㫅㪧
㪈㪇㪇㪇
科学技術動向研究センターにて作成
⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
を、
「ヘテロエピタキシャル成長」 力や寿命などのデバイス性能に悪
と 呼 ん で い る。 図 表 4 に、GaN 影響を与える 5、6)。また、異種基
࿑⴫㧠
GaN ߦ߅ߌࠆࠛࡇ࠲ࠠࠪࡖ࡞⚿᥏ᚑ㐳ߣߘߩࠕࡊ࡝ࠤ࡯࡚ࠪࡦ
板との結晶面方位の関係から自発
系半導体結晶の形成方法におけ
る、各種のヘテロエピタキシャル 分極が発生し、発光効率向上の阻
䊓䊁䊨䉣䊏䉺䉨䉲䊞䊦
䊖䊝䉣䊏䉺䉨䉲䊞䊦
成長とホモエピタキシャル成長の 害要因になる。
䉺䉟䊒㪘
䉺䉟䊒㪙
䉺䉟䊒㪚
䉺䉟䊒㪛
違いを示す。
㪞㪸㪥♽
ᭂᕈ㕙 (0001)
᦭ᭂᕈ㕙
㩿㪇㪇㪇㪈㪀
㪞㪸㪥♽ෘ⤑
㪞㪸㪥♽⭯⤑
ォ૏
ォ૏
ෘ⤑ၮ᧼
ォ૏
ヘテロエピタキシャル成長した
注3:
エピタキシャル(epitaxial)
ήᭂᕈ㕙 (1100)
結晶には、結晶欠陥
(転位)や有極
は、結晶軸が揃って上方向に結晶
ၮ᧼
ၮ᧼
೸㔌
䋨䉰䊐䉜䉟䉝㪃㩷㪞㪸㪘㫊䈭䈬䋩
成長すること。
epiは
「その上」、taxy
䋨䉰䊐䉜䉟䉝㪃㩷㪪㫀㪚䈭䈬䋩
性面の問題がある。まず、結晶成
䉁䈢䈲⎇⏴
䊙䉴䉪䋨㪪㫀㪦㪉䈭䈬䋩
䋨はギリシャ語の
䉰䊐䉜 ၮ᧼
「整列した」
という
છᗧ䈱㕙䉕ಾ಴䈚䈩
䉟䉝㪃㩷㪞
長する材料と基板材料が異なるこ
㪸㪘㫊䈭
ၮ᧼䈮૶↪
䈬
䋩
意味がある。エピタキシャルをエピ
とから、熱膨張係数差と格子定数
(epi)と略すこともある。 㪞㪸㪥♽⭯⤑
差により転位が多数発生し 4)、出
㪞㪸㪥ၮ᧼
㐳⍴ᚲ
䊶ᄢ㕙Ⓧ䌾䉟䊮䉼䉪䊤䉴
䊶⚿᥏ᰳ㒱䋨ォ૏䋩䋺
䌾㪈㪇㪐㪺㫄㪄㪉
䊶ᄢ㕙Ⓧ䌾䉟䊮䉼䉪䊤䉴
䊶⚿᥏ᰳ㒱䋨ォ૏䋩䋺
䌾㪈㪇㪎㪺㫄㪄㪉
䊶ᄢ㕙Ⓧ䌾䉟䊮䉼䉪䊤䉴
䊶⚿᥏ᰳ㒱䋨ォ૏䋩䋺
䌾㪈㪇㪌㪺㫄㪄㪉
䊶㜞ຠ⾰
䊶છᗧᭂᕈ㕙
䊶⚿᥏䉰䉟䉵䋺㫄㫄䉥䊷䉻䊷
真のバルク GaN 単結晶の必要性と研究開発動向
࿑⴫㧠 GaN ߦ߅ߌࠆࠛࡇ࠲ࠠࠪࡖ࡞⚿᥏ᚑ㐳ߣߘߩࠕࡊ࡝ࠤ࡯࡚ࠪࡦ
図表 4 GaN におけるエピタキシャル結晶成長とそのアプリケーション
䊓䊁䊨䉣䊏䉺䉨䉲䊞䊦
䉺䉟䊒㪘
ォ૏
䊖䊝䉣䊏䉺䉨䉲䊞䊦
䉺䉟䊒㪙
㪞㪸㪥♽⭯⤑
ォ૏
䉺䉟䊒㪚
㪞㪸㪥♽ෘ⤑
ォ૏
䉺䉟䊒㪛
㪞㪸㪥♽
ෘ⤑ၮ᧼
ᭂᕈ㕙 (0001)
᦭ᭂᕈ㕙
㩿㪇㪇㪇㪈㪀
ήᭂᕈ㕙 (1100)
ၮ᧼
䋨䉰䊐䉜䉟䉝㪃㩷㪞㪸㪘㫊䈭䈬䋩
ၮ᧼
䋨䉰䊐䉜䉟䉝㪃㩷㪪㫀㪚䈭䈬䋩
䊙䉴䉪䋨㪪㫀㪦㪉䈭䈬䋩
೸㔌
䉁䈢䈲⎇⏴
ၮ᧼
䋨䉰䊐
䉜䉟䉝
㪃㩷㪞㪸㪘
㫊䈭 䈬
䋩
છᗧ䈱㕙䉕ಾ಴䈚䈩
ၮ᧼䈮૶↪
㪞㪸㪥♽⭯⤑
㪞㪸㪥ၮ᧼
㐳⍴ᚲ
䊶ᄢ㕙Ⓧ䌾䉟䊮䉼䉪䊤䉴
䊶⚿᥏ᰳ㒱䋨ォ૏䋩䋺
䌾㪈㪇㪐㪺㫄㪄㪉
䊶᦭ᭂᕈ䋺㪚㩿㪇㪇㪇㪈㪀㕙䈮
䉋䉎⥄⊒ಽᭂ
䉝䊒䊥 ㄭ⚡ᄖ䌾✛⦡㪣㪜㪛
䉬䊷䉲䊢 ⊕⦡㪣㪜㪛䋨ᡆૃ⊕⦡䋩
䊮
䊶ᄢ㕙Ⓧ䌾䉟䊮䉼䉪䊤䉴
䊶⚿᥏ᰳ㒱䋨ォ૏䋩䋺
䌾㪈㪇㪎㪺㫄㪄㪉
䊶᦭ᭂᕈ䋺㪚㩿㪇㪇㪇㪈㪀㕙䈮
䉋䉎⥄⊒ಽᭂ
䊶ᄢ㕙Ⓧ䌾䉟䊮䉼䉪䊤䉴
䊶⚿᥏ᰳ㒱䋨ォ૏䋩䋺
䌾㪈㪇㪌㪺㫄㪄㪉
䊶᦭ᭂᕈ䋺㪚㩿㪇㪇㪇㪈㪀㕙䈮䉋
䉎⥄⊒ಽᭂ
䊶㜞䉮䉴䊃
䊶㜞ຠ⾰
䊶છᗧᭂᕈ㕙
䊶⚿᥏䉰䉟䉵䋺㫄㫄䉥䊷䉻䊷
㕍⚡⦡㪣㪛䋨ૐ䊌䊪䊷䋩
㕍⚡䌾㕍⦡㪣㪛
ᧂታ⃻
科学技術動向研究センターにて作成
⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
LED に実用化されている GaN
結 晶 は、 サ フ ァ イ ア 基 板 や SiC
基 板 上 で、 有 機 金 属 気 相 成 長
(MOVPE: Metal Organic Vapor
Phase Epitaxy)
法により、1000℃
以上の温度で数 µm 膜厚の GaN
系薄膜を成長させたものである
(図
表 4 のタイプ A)
。しかし、基板
と GaN 系材料の格子定数差と熱膨
張係数差により、109cm-2 以上の
高密度の転位発生が避けられない。
したがって、タイプ A の結晶では、
紫外域への波長領域の拡大・高出
力化・LD 化などの展開を図るこ
とができなかった。そこで、ヘテ
ロエピタキシャル成長による転位
密度低減の研究開発が行われ、サ
ファイア基板上に GaN 結晶を気相
成 長 VPE (Vapor Phase Epitaxy)
法により横方向選択成長
(ELO:
Epitaxial Lateral Overgrowth)さ
せて転位密度を 107cm-2 台に低減
させることができた 7)(図表 4 の
タイプ B)
。その後、このタイプ
B を発展させて、GaAs 基板 8) や
サ フ ァ イ ア 基 板 上 に 数 100µm
の GaN 厚膜を結晶成長させた後
に、GaN 結晶を基板剥離すること
により、転位密度が 105cm-2 前後
の GaN 厚膜基板を得ることもで
。こ
きた 8、9)(図表 4 のタイプ C)
のタイプ C では局所的に 105cm-2
以下の転位密度を実現している成
3/5
果もある 10)。その低転位領域幅は
500µm 前後と限定されているが、
それでもタイプ C を基板として用
いてブルーレイディスク用の青紫
色
(405nm)LD が実用化されてい
る。この応用では、LD の活性層
(発光領域)
が数 µm 幅と狭く、そ
れをタイプ C 基板の低転位領域に
アライメントさせることで LD が
作製できるからである。しかし、
LED やトランジスタのように mm
オーダーのサイズを必要とする応
用には不十分である。なお、VPE
法でのタイプ B とタイプ C は日本
発の技術であり、現在、青紫色 LD
用基板としては日本企業がトップ
シェアを有している。
一方、基板との格子定数差の関係
から、通常のヘテロエピタキシャル
成長面は、
結晶面方位が (0001) 面
(C
面)
となる。この C 面は極性を有す
る結晶面であるために、自発分極が
生じる。自発分極が生じると、デバ
イスに注入したキャリアが効率良
く発光やトランジスタ動作に寄与
しないという問題が生じる。この
ような観点から言えば、根本的に
ヘテロエピタキシャル成長の結晶
には性能向上の限界がある。
日本の化合物半導体基板メー
カーである住友電気工業(株)や日立
電線(株)は、タイプ C の厚膜 GaN
基板を量産あるいはサンプル出荷
している 8、9)。このうち、住友電
気工業(株)製の GaN 基板は青紫色
LD 用基板として実用化されてい
る。GaAs 基板上にピットを作り
ながら転位を集約する方式により、
数 100µm 幅の低転位密度領域を
作ることに成功しており 10)、基板
サイズも 2 インチを実現している。
一方、日立電線(株)の方式では基
Science & Technology Trends November 2008
23
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 号
板剥離方法に特徴があり、サファ
イア基板上に GaN 薄膜を MOVPE
法により結晶成長させ、その上に
チタン
(Ti)薄膜を蒸着した後にさ
ら に GaN 厚 膜 を 数 100µm 気 相
成長させる。そうすることで、Ti
膜の付近でボイドが発生し、取り
出した際にこのボイド部分が熱剥
離して、GaN 厚膜基板が形成でき
る。転位は平均的に 106cm-2 前後
であるが、この方式では基板サイ
ズφ 3 インチのものが得られてい
る。しかし、いずれにしても、得
られた結晶の主面の面方位は C 面
(0001) であるため極性があり、ま
だ結晶品質やコストについても課
題が残る。特にコストについては、
タイプ C は犠牲となる基板が必要
なことから、φ 2 インチサイズ 1 枚
で数10~100万円の高価格になる。
このように、現時点ではいずれ
の基板メーカーも実現性の高い気
相成長法を用いているが、
「真のバ
ルク単結晶」
を実現できているわけ
ではない。前述したように、Si や
GaAs は転位フリーの完全結晶が
得られており、任意の面を切り出
して基板として用いることができ
ることから、その上にホモエピタ
キシャル成長させて、種々の応用
を実現できる。したがって将来的
には GaN においても、転位フリー
(図表 4
の
「真のバルク単結晶注 4)」
のタイプ D)
の実現が待たれる。
2-3
「真のバルク単結晶」実現による
アプリケーションの拡張と
その社会的インパクト
GaN 系半導体で
「真のバルク単
結晶」が実現することで、図表 5
に示すデバイス特性の向上とアプ
リケーションの拡がりが期待でき
る。
GaN 系半導体で
「真のバルク単
結晶」が実現した場合、LED およ
び LD のような発光デバイスにお
いては、欠陥密度低減と無極性面
の活用により、高出力化・高効率
化・波長領域の拡大が期待できる。
LED を用いた照明では、高効率化・
高演色性による一般照明器具とし
ての普及とともに、新規な特殊照
明の開拓も考えられる。現在、液
晶ディスプレイのバックライトな
ど一部の照明用途に用いられてい
る白色 LED が高効率化・低コス
ト化することで、白熱電球・蛍光灯・
ハロゲンランプなどの一般照明や
特殊照明が本格的に LED 照明に
置き換わる可能性がある。LED 照
明の普及による省エネルギー効果
(年間電力削減効果)
は約 20% にも
達するとの試算もある注 5)。
LD としては、ブルーレイディ
スク用光源として青紫色
(405nm)
数 10 ~ 200mW 程度の光出力の
ものが市販されている。これは前
述したように、タイプ C の有極性
基板の局所的に転位密度が小さい
領域に活性層をアライメントする
ことで、レーザ寿命を確保してい
る。将来、タイプ D の基板が実
現すれば、高品質で転位の分布や
バラツキを考慮せずに LD 構造を
製作することができるため、性能
向上と低コスト化を両立させるこ
とができる。さらには、無極性面
を用いることで長波長化も可能と
なり、緑色(> 500nm)LD 実現
にも寄与できる。現在、緑色レー
࿑⴫㧡 ⌀ߩࡃ࡞ࠢන⚿᥏㧔࠲ࠗࡊ D㧕߇ታ⃻ߔࠆߎߣߢ᜛߇ࠆࠕࡊ࡝ࠤ࡯࡚ࠪࡦ
図表 5 真のバルク単結晶(タイプ D)が実現することで拡がるアプリケーション
䊂䊋䉟䉴
․ᕈะ਄
᜛䈏䉎䉝䊒䊥䉬䊷䉲䊢䊮
␠ળ⊛䉟䊮䊌䉪䊃䋺⋭䉣䊈ലᨐ
䋨 䋩ౝ䈲㪚㪦㪉೥ᷫ㊂
㪣㪜㪛
㜞಴ജൻ
ᵄ㐳㗔ၞ䈱᜛ᄢ
䊶⍴ᵄ㐳ൻ
䊶㐳ᵄ㐳ൻ
䊶ᾖ᣿䋨䊘䉴䊃ⰯశἮ䇮䊊䊨䉭䊮䈭䈬 㪣㪜㪛ᾖ᣿䈮䉋䉎೥ᷫ㔚ജ㪈㪈㪀
৻⥸ᾖ᣿䌾․ᱶᾖ᣿䋩䈱㜞ല₸
䊶㪉㪇㪉㪇ᐕ䋺㪈㪉㪋ం㫂㪮㪿㪆ᐕ䋨㪍㪏㪍ਁ㫋㪆ᐕ䋩
ൻ䇮㜞Ṷ⦡ᕈ
䊶㪉㪇㪊㪇ᐕ䋺㪈㪏㪎ం㫂㪮㪿㪆ᐕ䋨㪈㪇㪊㪐ਁ㫋㪆ᐕ䋩
䊶శ⸅ᇦ
䊶ක≮䋨Ვ⩶䋩↪ㅜ
㪣㪛
ห਄
䊶శ䊂䉞䉴䉪䋨ᰴ਎ઍ㪛㪭㪛䋩䈱㜞ㅦ
ᦠ䈐ㄟ䉂
䊶䊧䊷䉱䊂䉞䉴䊒䊧䉟
㹢៤Ꮺ䊒䊨䉳䉢䉪䉺䊷
䊧䊷䉱㪫㪭
䊧䊷䉱㪫㪭䈮䉋䉎೥ᷫ㔚ജ
䊶㪉㪇㪈㪉ᐕ䋺㪈㪋㪌ం㫂㪮㪿㪆ᐕ䋨㪏㪇㪉ਁ㫋㪆ᐕ䋩
㔚ሶ䊂
䊋䉟䉴
ᮮဳ䊃䊤䊮䉳䉴䉺䋨㪝㪜㪫䋩
䊶ᄢ಴ജൻ䋨䌾㪈㪇㪇㪮䋩
䊶㜞๟ᵄൻ
❑ဳ䊂䊋䉟䉴
䋨㪠㪞㪙㪫䇮䉰䉟䊥䉴䉺䈭䈬䋩
䊶ૐᛶ᛫ൻ
䊶䊉䊷䊙䊥䊷䉥䊐
䊶㜞ㅦᄢ಴ജ䊃䊤䊮䉳䉴䉺㹢⒖േ૕
ㅢା䈱㜞ㅦൻ䇮ᄢኈ㊂ൻ䇮ၮ࿾ዪ
䉲䉴䊁䊛䈱ዊဳൻ䇮ૐᶖ⾌㔚ജൻ
䊶䊌䊪䊷䊃䊤䊮䉳䉴䉺㹢䉟䊮䊋䊷䉺䈱
㜞ല₸ൻ䈮䉋䉎↥ᬺ↪ᯏ᪾䇮䊊䉟
䊑䊥䉾䊄䉦䊷䇮㔚᳇⥄േゞ䈱㜞ല
₸ൻ
㪞㪸㪥䊂䊋䉟䉴䈮䉋䉎೥ᷫ㔚ജ㪈㪈㪀
៤Ꮺ㔚⹤ၮ࿾ዪㅍฃାჇ᏷ེ
䋫᳢↪䉟䊮䊋䊷䉺䊷
䊶㪉㪇㪉㪇ᐕ䋺㪐㪏ం㫂㪮㪿㪆ᐕ䋨㪌㪋㪈ਁ㫋㪆ᐕ䋩
䊶㪉㪇㪊㪇ᐕ䋺㪉㪇㪉ం㫂㪮㪿㪆ᐕ䋨㪈㪈㪉㪈ਁ㫋㪆ᐕ䋩
科学技術動向研究センターにて作成
5
⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
24
真のバルク GaN 単結晶の必要性と研究開発動向
ザ は 第 二 高 調 波(SHG:Second
Harmonic Generation)を 用 い た
波長変換デバイスが一般的である
が、小型化・低コスト化に課題が
残 っ て い る。 こ こ で も、GaN 系
デバイスで緑色 LD が実現するこ
とで、携帯プロジェクターやレー
ザ TV などの小型化・低コスト化
が可能となる。また、現在 TV の
主力となりつつある液晶 TV やプ
ラズマ TV では大画面化が進展し
ており、それに伴い消費電力が増
大している。低価格のレーザ TV
が実現すれば、大画面化しても同
サイズの液晶 TV やプラズマ TV
に比較してエネルギー消費は 1/2
~ 1/3 となり 13)、大画面化と省
エネルギー化の両立が可能とな
る。(下記コラム参照)
電子デバイスにおいて、現在は
タイプ A で横型デバイス注 6)であ
る HFET(Hetero-junction Field
Effect Transistor)が作製されて、
GHz までの高周波デバイスとして
携帯電話などの移動体通信基地局
用として実用化されている。しか
し今後、さらなる移動体通信速度
の高速化・大容量化のために、大
出 力 で ミ リ 波 帯(30 ~ 100GHz)
に対応したトランジスタが必要と
なる。図表 3 に示したように材料
物性からは GaN が最も適してい
るはずであり 11)、システムの小型
化・低消費電力化につながる。一
方、縦型デバイス 注 6)は、Si デバ
イスのインバーターが産業用途や
ハイブリッドカーに用いられてい
るが、これらも、将来は GaN 系
デバイスに置き換えることで、シ
ステムの高効率化が図れ、その結
果、省エネルギーや自動車の燃費
向上が実現すると考えられてい
る。GaN 系電子デバイスを携帯
電話基地局の送信機用増幅器と産
業用インバーターに応用した場合
の省エネルギーによる削減電力量
は、約 100 億 kWh/ 年(2020 年)
と試算されている 11)。
以上のように、GaN 系半導体は
発光デバイスや電子デバイス
(トラ
ンジスタ)
として、省エネルギーや
地球温室効果ガス排出削減に貢献
する鍵となりうる材料である。
コラム「レーザ TV による大画面化と省エネルギー化の両立」
現在市販されている TV はプラズマと液晶が一般的であり、大画面化が進んでいる。このうち、
50 インチ以上の大画面 TV は 2012 年にはプラズマ約 1,260 万台、液晶約 2,040 万台との試算があ
る 14)。50 ~ 55 インチクラスのプラズマ TV や液晶 TV の消費電力は 500W 前後(パナソニック社
TH-50PZ800:585W、ソニー社 KDL-55XR1:480W)であり、平均的な TV 視聴時間を 1 日当たり 4 時
間 15) とすると、50 インチ以上の TV の年間総消費電力量は 251 億 kWh となる。これがレーザ TV の
ような 200W の低消費電力の TV に置き換えられた場合には、年間 154 億 kWh の省エネルギーとなる。
これは日本の一般家庭における年間消費電力量 5,650kWh16) で換算すると約 273 万世帯分に相当する。
また高演色性もレーザ TV の特徴である。
注4:GaNにおいてはタイプCをバルク結晶と呼んでいる場合もある。本稿では、転位フリーあるいはヘテロエピタキシャ
ル技術では実現できない低転位密度(≦103cm-2)で、かつ、任意の結晶面を切り出すことができるバルク結晶を「真のバ
ルク単結晶」と呼んでいる。
注5:2030年に屋内照明のLED普及率が約30%となった場合に、省エネルギー効果(年間電力削減効果)としては、2005
年の照明器具を使用した場合の約20%にあたる200億kWhを削減できるとの予測がある12)。
注6:トランジスタで言う横型と縦型は、それぞれキャリア(電子・正孔)が横方向・縦方向に移動して動作することを
意味する。
3
真のバルク単結晶成長技術の現状と課題
3-1
真のバルク GaN 単結晶の
技術動向
ここで述べる
「真のバルク GaN
単結晶」
とは、前述したように転位
フリー、ないしはヘテロエピタキ
シャル技術では実現できない低転
位密度
(≦ 103cm-2)で、かつ任意
の結晶面を切り出すことができる
GaN 系バルク結晶の基板材料を目
指すものである。
「真のバルク GaN 単結晶」
を目指
すとは言っても、結晶成長の元と
Science & Technology Trends November 2008
25
5
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 号
なる種としては、やはり基板や種 れはタイプ C の基板上に、塩化ガ 臨界から亜臨界のアンモニア
(400
結晶を用いる場合が多い
(後述の自 リウムガスとアンモニアガスから ~ 500 ℃、1000 ~ 4000 気 圧 )中
発核成長の場合を除く)
。結晶成長 気相で結晶成長を行い、厚み方向
に GaN 原料を溶解させて再結晶
࿑⴫㧡 ⌀ߩࡃ࡞ࠢන⚿᥏㧔࠲ࠗࡊ
D㧕߇ታ⃻ߔࠆߎߣߢ᜛߇ࠆࠕࡊ࡝ࠤ࡯࡚ࠪࡦ
の元となる種として基板を使うか、 に任意結晶面を切り出すことがで 化させる方法である 22)。タイプ C
䊂䊋䉟䉴
․ᕈะ਄
᜛䈏䉎䉝䊒䊥䉬䊷䉲䊢䊮
␠ળ⊛䉟䊮䊌䉪䊃䋺⋭䉣䊈ലᨐ
の基板上に酸性鉱化剤を用いて数
種結晶を利用するかによって、方
きる程度まで膜厚を増やすという
䋨 䋩ౝ䈲㪚㪦㪉೥ᷫ㊂
式としてはエピタキシャルバルク 方法である。この方法では、均一 10µm23)、アルカリ性鉱化剤を用
㪈㪈㪀
㪣㪜㪛
㜞಴ജൻ
䊶ᾖ᣿䋨䊘䉴䊃ⰯశἮ䇮䊊䊨䉭䊮䈭䈬
いて㪣㪜㪛ᾖ᣿䈮䉋䉎೥ᷫ㔚ജ
5mm 程度の結晶を成長させ
(エピバルクと略す)
方式とバルク に高品質な結晶成長を行うことは
৻⥸ᾖ᣿䌾․ᱶᾖ᣿䋩䈱㜞ല₸
24)
ᵄ㐳㗔ၞ䈱᜛ᄢ
䊶㪉㪇㪉㪇ᐕ䋺㪈㪉㪋ం㫂㪮㪿㪆ᐕ䋨㪍㪏㪍ਁ㫋㪆ᐕ䋩
がある。フラックス
方式に大別される。それぞれの方
難しく、厚み方向に□
10mm の たとの報告
ൻ䇮㜞Ṷ⦡ᕈ
䊶⍴ᵄ㐳ൻ
䊶㪉㪇㪊㪇ᐕ䋺㪈㪏㪎ం㫂㪮㪿㪆ᐕ䋨㪈㪇㪊㪐ਁ㫋㪆ᐕ䋩
(Li)
・カリウム
(K)
・
式のうちに気相成長法と液相成長
無極性面
(m 面)が得られたとの報 法はリチウム
䊶శ⸅ᇦ
18)
(Na)などのアルカリ金
法がある。 䊶㐳ᵄ㐳ൻ
告もあるが 、高品質で大面積の ナトリウム
䊶ක≮䋨Ვ⩶䋩↪ㅜ
これまでにバルク GaN 単結晶 基板は得られていない。元の基板 属と Ga からなる 800℃前後の混合
㪣㪛
ห਄
䊶శ䊂䉞䉴䉪䋨ᰴ਎ઍ㪛㪭㪛䋩䈱㜞ㅦ 融液に数
䊧䊷䉱㪫㪭䈮䉋䉎೥ᷫ㔚ജ
がヘテロエピタキシャル技術で作
10 気圧の窒素を溶解させ
の成長方法として、気相・液相の
ᦠ䈐ㄟ䉂
䊶㪉㪇㪈㪉ᐕ䋺㪈㪋㪌ం㫂㪮㪿㪆ᐕ䋨㪏㪇㪉ਁ㫋㪆ᐕ䋩
両方の研究開発が行われてきた 製されていることから、転位密度 て GaN 結晶を成長させる方法であ
䊶䊧䊷䉱䊂䉞䉴䊒䊧䉟
り 25、26)、主に Na を用いているこ
が、どちらの方法でも
「真のバル も 105cm-2 程度である。
㹢៤Ꮺ䊒䊨䉳䉢䉪䉺䊷
ク GaN 単結晶」
は実現していない。 エピバルク方式の液相成長とし とから Na フラックス法とも呼ばれ
䊧䊷䉱㪫㪭
(アモノ る。フラックス法ではφ 2 インチ
研 究 開 発 の 困 難 さ は、GaN の 窒 ては、高圧溶液法・安熱法
㔚ሶ䊂
ᮮဳ䊃䊤䊮䉳䉴䉺䋨㪝㪜㪫䋩
䊶㜞ㅦᄢ಴ജ䊃䊤䊮䉳䉴䉺㹢⒖േ૕ 㪞㪸㪥䊂䊋䉟䉴䈮䉋䉎೥ᷫ㔚ജ㪈㪈㪀
17)
・フラッ の基板上でエピバルクを得ようと
素かい離圧が高いために 、Si・ サーマル法とも言われる)
䊋䉟䉴
ㅢା䈱㜞ㅦൻ䇮ᄢኈ㊂ൻ䇮ၮ࿾ዪ ៤Ꮺ㔚⹤ၮ࿾ዪㅍฃାჇ᏷ེ
䊶ᄢ಴ജൻ䋨䌾㪈㪇㪇㪮䋩
GaAs・InP のように融液として存 クス法がある。高圧溶液法は高温
する研究開発が行われ 27)、3mm 程
䉲䉴䊁䊛䈱ዊဳൻ䇮ૐᶖ⾌㔚ജൻ
䊶㜞๟ᵄൻ
䋫᳢↪䉟䊮䊋䊷䉺䊷
在し難いことに起因する。しかし、 (1600℃)
の Ga 融液中に超高圧
(1 度の厚さまで結晶成長させること
䊶䊌䊪䊷䊃䊤䊮䉳䉴䉺㹢䉟䊮䊋䊷䉺䈱
❑ဳ䊂䊋䉟䉴
䊶㪉㪇㪉㪇ᐕ䋺㪐㪏ం㫂㪮㪿㪆ᐕ䋨㪌㪋㪈ਁ㫋㪆ᐕ䋩
にエピバ
これを解決すべく、よりよい基板 ~ 2 万気圧)
の窒素を溶解させ GaN ができている。図表 7(a)
㜞ല₸ൻ䈮䉋䉎↥ᬺ↪ᯏ᪾䇮䊊䉟
䋨㪠㪞㪙㪫䇮䉰䉟䊥䉴䉺䈭䈬䋩
䊶㪉㪇㪊㪇ᐕ䋺㪉㪇㪉ం㫂㪮㪿㪆ᐕ䋨㪈㪈㪉㪈ਁ㫋㪆ᐕ䋩
19、20)
䊑䊥䉾䊄䉦䊷䇮㔚᳇⥄േゞ䈱㜞ല
。基 ルク方式の Na フラックス法で実現
材料を目指して図表
6 のように国 を成長させる方法である
䊶ૐᛶ᛫ൻ
₸ൻ
板上に数 100µm の厚みを成長さ したφ 2 インチサイズの結晶の例
内外で活発に研究開発が行われて
䊶䊉䊷䊙䊥䊷䉥䊐
せたとの報告 21) があるが、厚さ を示す。転位密度も 105cm-2 程度と、
いる。
他の方法に比較すれば結晶欠陥は
エピバルク方式の気相成長で 方向に切り出せる程度の結晶サイ
⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
は、VPE 法が用いられている。こ ズは実現していない。安熱法は超 少ない。これは厚膜エピ成長過程に
࿑⴫㧢
ࡃ࡞ࠢ
GaN ၮ᧼ߩ㐿⊒േะ
図表
6 バルク
GaN 基板の開発動向
․ᓽ
⁁ᴫ
ర䈫䈭䉎ၮ᧼䈲䉺䉟䊒㪚䋨䉰䊐䉜䉟䉝䉇㪞㪸㪘㫊䈭䈬䈱ၮ
᧼਄䈮᳇⋧䈮䉋䉍ㆬᛯᚑ㐳䋬ෘ⤑ൻ䈚䈩ォ૏ኒᐲ
㪈㪇㪍㪺㫄㪄㪉บ䋩䈪䈅䉍䇮ෘ䉂ᣇะ䈮ಾ䉍಴䈜䈖䈫䈪䇮
䂔㪈㪇㫄㫄⒟ᐲ䈱㪞㪸㪥ၮ᧼䈏ታ⃻
䉺䉟䊒㪚䈱ᰴ਎ઍ㪛㪭㪛↪
㪞㪸㪥ၮ᧼䈲ᣣᧄડᬺ䈏
䊃䉾䊒䉲䉢䉝䈪䈅䉍䇮䉣䊏
䊋䊦䉪䈲㐿⊒ਛ
㜞࿶ṁᶧᴺ
㶎㪈㪀㩷㪈䌾㪉ਁ᳇࿶㪃㩷㪈㪍㪇㪇㷄䈱㜞᷷㜞࿶ਅ䈪㊄ዻ㪞㪸ਛ
䈮⓸⚛䉕ṁ⸃䈘䈞䇮ၮ᧼਄䈮䉣䊏䉺䉨䉲䊞䊦ᚑ㐳䇯
ෘ䉂ᣇะ䈮䈲ᢙ㪈㪇㪇㫫㫄㪈㪏㪀
㶎㪉㪀䊘䊷䊤䊮䊄䈏䉥䊥䉳
䊅䊦䈪䈅䉍䇮⃻࿷䈪䉅ᦨ
䉅ㅴ䉖䈪䈇䉎
቟ᾲᴺ
㶎㪊㪀㩷⿥⥃⇇⧯䈚䈒䈲੝⥃⇇䈱㪥㪟
も
㪊䋨㪋㪇㪇䌾㪌㪇㪇㷄䇮ᢙ
ජ᳇࿶䈱᷷ᐲ࿶ജ䋩䋩䈮㪞㪸㪥ේᢱ䉕ṁ⸃䋬ౣ⚿᥏ൻ
䈘䈞䉎䇯ෘ䉂ᣇะ䈮䈲ᢙ㪈㪇㫫㫄䌾ᢙ㫄㫄
☨࿖䈪䈲䉝䊦䉦䊥ᕈ㋶
ൻ೷䇮ᣣᧄ䈪䈲㉄ᕈ㋶
ൻ೷䈪䈠䉏䈡䉏⎇ⓥ
䊐䊤䉾䉪䉴ᴺ
㶎㪋㪀㩷㪥㪸䉇㪢䈭䈬䈱䉝䊦䉦䊥㊄ዻ䈫㪞㪸䈱㊄ዻⲢᶧ䈮᳇
⋧䈎䉌⓸⚛䋨࿶ജ㪓㪈㪇㪇᳇࿶䋩䉕ṁ⸃䈘䈞᷷ᐲ㪏㪇㪇㷄೨
ᓟ䈪㪞㪸㪥⚿᥏䉕ᚑ㐳䈘䈞䉎䇯ෘ䉂ᣇะ䈲ᢙ㫄㫄
ᣣᧄ䈱䉥䊥䉳䊅䊦䈪ᦨ
䉅ㅴ䉖䈪䈇䉎
᳇⋧วᚑ
㪈㪉㪇㪇㷄એ਄䈱㜞᷷ਅ䈪㊄ዻ㪞㪸䈱⫳᳇䈫㪥㪟㪊㪃㩷㪥㪉䈎䉌
㪞㪸㪥䉕ᚑ㐳䈘䈞䉎䇯⚿᥏䉰䉟䉵䋾㪈㫄㫄
⎇ⓥ䊐䉢䊷䉵䈪䈅䉍䇮ㄭ
ᐕ䈲ૐ⺞
᣹⪇ᴺ
㪞㪸㪥☳ᧃ䉕㪈㪌㪇㪇㷄೨ᓟ䈪᣹⪇䈘䈞䋬ૐ᷷ㇱ䈱⒳⚿
᥏䈮⚿᥏ᚑ㐳䈘䈞䉎䇯⚿᥏䉰䉟䉵䋼㪈㫄㫄
Ⲣᶧᚑ㐳
㪍ਁ᳇࿶㪃㩷㪉㪉㪇㪇㷄એ਄䈱㜞᷷㜞⓸⚛࿶ജൻ䈪ᓢ಄䈚䇮 Ⲣᶧ䈱ሽ࿷䉕⏕⹺಴᧪
でき
㪈㪇㪇㫫㫄⒟ᐲ䈱㪞㪸㪥⚿᥏䈏ᚑ㐳
䈢Ბ㓏䈪䇮⎇ⓥ䊐䉢䊷䉵
ᚑ㐳ᴺ
ᣇᑼ
䉣䊏䊋䊦䉪ᣇᑼ
䋨ၮ᧼䈫䈚䈩䉺䉟䊒㪚䉕↪
䈇䈩ෘ⤑ᚑ㐳䈘䈞䉎䋩
䉣䊏
ᚑ㐳
᳇
⋧
㪭㪧㪜㩷㩿㪭㪸㫇㫆㫉㩷㪧㪿㪸㫊㪼㩷
㪜㫇㫀㫋㪸㫏㫐㪀
ᶧ
⋧
ṁᶧ
ᚑ㐳
ၮ᧼
䊋䊦䉪ᣇᑼ
䋨ਅ࿑䈱⒳⚿᥏䉕↪䈇䉎
႐ว䈫䇮↪䈇䈭䈇⥄⊒ᩭ
ᚑ㐳䈱႐ว䈏䈅䉎䇯䋩
᳇
⋧
ᶧ
⋧
ṁᶧ
ᚑ㐳
種結晶
⒳⚿᥏
㜞࿶ṁᶧᴺ
㶎㪈㪀㩷䈫ห᭽䈱ᣇᴺ䈪ၮ᧼䉕↪䈇䈝⥄⊒ᩭᚑ㐳䈪
㫄㫄䉥䊷䉻䊷䈱⚿᥏䈏ᚑ㐳
㶎㪉㪀䈫ห᭽
቟ᾲᴺ
㶎㪊㪀䈫ห᭽䈱ᣇᴺ䈪ၮ᧼䉕↪䈇䈝⥄⊒ᩭᚑ㐳䇮⒳
⚿᥏ᚑ㐳䈪䇮㪈㪇㪇㫫㫄䌾㪈䉟䊮䉼䈱㪞㪸㪥⚿᥏䈏ᚑ㐳
䊘䊷䊤䊮䊄ડᬺ䈏㜞ຠ
⾰㪈䉟䊮䉼⚿᥏䉕ታ⃻
䊐䊤䉾䉪䉴ᴺ
㶎㪋㪀䈫ห᭽䈱ᚻᴺ䈪ၮ᧼䉕↪䈇䈝⥄⊒ᩭᚑ㐳䇮⒳
⚿᥏ᚑ㐳䈪ᢙ㫄㫄䈱㪞㪸㪥⚿᥏䈏ᚑ㐳
ᣣᧄ䈱ᄢቇ䇮ડᬺ䈪⎇
ⓥ㐿⊒䈏ⴕ䉒䉏䈩䈇䉎
科学技術動向研究センターにて作成
⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
26
⚿᥏ᚑ㐳䈪䇮100µm䌾1䉟䊮䉼䈱GaN⚿᥏䈏ᚑ㐳䇯
⾰1䉟䊮䉼⚿᥏䉕ታ⃻
㶎4)䈫ห᭽䈱ᚻᴺ䈪ၮ᧼䉕↪䈇䈝⥄⊒ᩭᚑ㐳䇮⒳
⚿᥏ᚑ㐳䈪ᢙmm䈱GaN⚿᥏䈏ᚑ㐳䇯
ᣣᧄ䈱ᄢቇ䇮ડᬺ䈪⎇
ⓥ㐿⊒䈏ⴕ䉒䉏䈩䈇䉎䇯
࿑⴫7䇭GaN⚿᥏䈱౮⌀䋨Na䊐䊤䉾䉪䉴ᴺ䋩
䊐䊤䉾䉪䉴ᴺ
⒳⚿᥏
(a) ࠛࡇࡃ࡞ࠢᣇᑼ㧦ᄢ㒋ᄢቇ ᫪⎇ⓥቶឭଏ
⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
真のバルク GaN 単結晶の必要性と研究開発動向
(b) ࡃ࡞ࠢᣇᑼ㧦㧔ᩣ㧕࡝ࠦ࡯ឭଏ
⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
図表 7 GaN 結晶の写真(Na フラックス法)
࿑⴫7䇭GaN⚿᥏䈱౮⌀䋨Na䊐䊤䉾䉪䉴ᴺ䋩
(a)
(a)エピバルク方式
ࠛࡇࡃ࡞ࠢᣇᑼ㧦ᄢ㒋ᄢቇ ᫪⎇ⓥቶឭଏ
(a)
(b)
(b)ࡃ࡞ࠢᣇᑼ㧦㧔ᩣ㧕࡝ࠦ࡯ឭଏ
バルク方式
(b)
(a)
(b)
1mm/div 1mm/div
2 inch䋨25.4mm䋩
2 inch䋨25.4mm䋩
5
5
㧠㧚ᛛⴚ⊛⺖㗴⸃᳿ߦะߌߚฦ࿖ߩขࠅ⚵ߺ
㧠㧚ᛛⴚ⊛⺖㗴⸃᳿ߦะߌߚฦ࿖ߩขࠅ⚵ߺ
おいて、転位の横方向への曲がりや
合体が起こっていることに因ると
考えられている。
バルク方式にも気相成長と液相
成長があり、気相成長には気相合成
法・昇華法がある。気相合成法は
1200℃以上の高温下で、Ga蒸気と
アンモニアや窒素ガスから GaN を
直接合成する方法である 28)。昇華
法は GaN 原料を昇華させ、低温領
域の種結晶に成長させる方法であ
るが 29)、得られる結晶サイズは小
さい。気相合成や昇華法は、その結
晶成長の難しさから近年研究の進
展という意味では低調である。
バルク方式の液相成長には融液
成長と溶液成長がある。GaN は窒
素のかい離圧が高く、融液としては
6 万気圧、2200℃以上の高温高窒
素圧下でのみ融液として存在する
4
出典:(a) 大阪大学森研究室、(b)(株)
リコー
30)
12/19
。これは
ことが確認されている
実用的な温度圧力条件では無いた
12/19
め、研究開発は活発ではない。した
がって、バルク方式の液相成長では
主に溶液成長が研究開発されてい
る。バルク方式の溶液成長にも高圧
溶液法・フラックス法・安熱法があ
る。3 つの溶液成長は基本的にはエ
ピバルクと同様であるが、自発核成
長注 7)や種結晶成長から結晶成長さ
せる点がエピバルクと異なる点で
ある。図表 7 (b) は自発核成長によ
る結晶の例である。
高圧溶液法では、
自発核成長により mm オーダーの
板状結晶
(厚さ数 10µm)が得られ
ているだけで、実用化には至ってい
ない。安熱法では、酸性鉱化剤を用
いて自発核成長で数 100µm の針
状結晶が、またアルカリ性鉱化剤を
用いて 1 インチのウェハ状結晶が
成長できている 31)。フラックス法
では自発核成長や種結晶成長によ
り、mm オーダーの高品質の柱状
結晶が成長しており 26)、るつぼサ
イズを大きくすることによる結晶
サイズの拡大も確認されている。
いずれにせよ、バルク方式では結
晶サイズが数 100µm から数 mm
と実用的な大きさが得られていな
い。転位は観察されず極めて高品質
であるが、無極性面を得るために高
品質を維持しつつ、六角柱状結晶の
径方向と軸方向に結晶を切り出す
ことが可能な程度までの結晶サイ
ズの拡大が必要である。
注7: 種結晶や基板が無い状態
から核発生し、結晶成長が起こる
こと。
技術的課題解決に向けた各国の取り組み
4-1
(1) 高効率電光変換化合物半導
体開発プロジェクト
日本で行われた
産学官研究開発プロジェクト
高効率電光変換化合物半導体開
発プロジェクト(通称「21 世紀あ
かりプロジェクト」)は、1998 ~
2003 年度に(独)新エネルギー・産
業技術総合開発機構(NEDO)が支
援して進められた 32)。このプロ
ジェクトでは、照明用 LED 実現
を目指し、高効率の近紫外 LED・
蛍光体・基板用結晶成長技術など
の研究開発が進められた。この中
Science & Technology Trends November 2008
27
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 号
で前述の高圧溶液法が山口大学や られた(図表 7(a))
。ここで用いら
(株)ジャパンエナジーによって研 れた基板も前述の (2) と同様に、
究開発された。成果として、自発 φ 2 インチの VPE 法で成長した
核成長により 10mm サイズの板 GaN 基 板( タ イ プ C)で あ り、 そ
状結晶で転位密度は 103cm-2 以下 の基板上に Na フラックス法によ
の高品質結晶が得られた。結晶の り 3mm までの膜厚で GaN 結晶
主面の面方位は C 面 (0001) であ を成長させることができた。この
り、有極性面である。
方式では、得られた結晶の転位密
しかし、結晶の厚さが数 10µm 度が 105cm-2 で、基板の転位密度
であるため工業的にハンドリング (108cm-2)より低減している。こ
することが困難であり、また、設 れはフラックス法による結晶成長
備的にも大型であったため、実用 過 程 に お い て、 図 表 4 タ イ プ B
の ELO のような転位の曲げ・合
化するまでに至らなかった。
体がマスク無しでも生じているた
(2) 次世代照明をもたらす半導 めである。成長速度も 30µm/h
体基板結晶製造技術
程度と溶液成長の中でも最も速い
科学技術振興調整費のマッチン 値が得られている。結晶の主面の
グファンドを活用して、2004 ~ 面方位は C 面 (0001) であり、有
2006 年度に、東北大学と三菱化学 極性面である。現在、大阪大学の
(株)が中心となり、エピバルク方式 研究者が中心となった合同会社フ
の安熱法を中心とした GaN バルク ロンティアアライアンスから、こ
結晶の研究開発が進められた 23)。 の技術により作られたサンプル結
本プロジェクトでは、φ 2 インチ 晶が提供されている。さらに実用
のタイプ C の GaN 結晶を基板と 化を進めるためには、成長速度増
して数 10µm の膜厚の GaN 結晶 大や長時間安定成長させることが
をエピタキシャル成長させること できる大規模装置の開発などが必
ができた。成長速度は約 1µm/h 要である。
であった。
しかし、結晶の主面の面方位は C
面 (0001) であり、有極性面である。
また、転位密度は基板
(106 ~ 8cm-2)
と同等あるいはそれよりも増加し
その他の日本の
ており、実用化には至っていない。
研究開発動向
これまでの安熱法では、エピバルク
方式での真のバルク結晶の要件で (4) 民間企業における研究開発
(1)~(3)
ある、高品質
(転位低減)
と任意の結 国内の民間企業では、
晶面を切り出すことができるサイ で言及した(株)ジャパンエナジー、
三菱化学(株)、豊田合成(株)、日本
ズの両立は実現していない。
ガイシ(株)の他、(株)リコーも Na
(3) 高効率 UV 発光素子用半導 フラックス法での研究開発を行っ
体開発
ている 26)。(株)ジャパンエナジー
2004 ~ 2006 年度の NEDO プ と(株)リコーは、自発核成長により
ロジェクトとして、高効率 UV 発 高品質
(低転位密度)結晶を成長さ
光素子用半導体開発が進められ、 せることができており、特に、(株)
大阪大学・豊田合成(株)・日本ガ リコーの Na フラックス法では無
イ シ(株)が、Na フ ラ ッ ク ス 法 に 色透明の柱状結晶で m 面
(柱状の
よるエピバルク方式の研究開発を 側面)が得られている
(図表 7(b))
。
33)
実施した 。その結果、φ 2 イン しかし、いずれも結晶サイズはま
チサイズで転位密度 105cm-2 が得 だ不十分である。特に高圧溶液法
4-2
28
では結晶厚みが薄くデバイスを作
製することができない。一方、Na
フラックス法で得られている結晶
も mm オーダーであり、デバイス
を量産するにはさらなる結晶の拡
大が望まれる。
4-3
海外の研究開発動向
(5) 米国のMURI(Multi University
Research Initiative)
プロジェ
クト
2001 ~ 2003 年にノースカロラ
イナ大学が中心となり、
“Growth
of Bulk Wide Bandgap Nitrides
and Wafering”を目的としたプロ
ジェクトが行われた。このプロジェ
クトではバルク GaN 結晶成長とし
て、気相合成法・安熱法・フラッ
クス法がそれぞれ研究開発された。
実用化に至ったという情報は得ら
れていない。
(6) 米国のカリフォルニア大学
サンタバーバラ校
(UCSB)
の研究
UCSB にある Solid State Lighting
and Display Center(SSLDC)
におい
て、安熱法により 82 日間で 5mm
サイズの結晶が得られた 24)。前述
の (2) や (3) と 同 様 に、 タ イ プ C
の VPE GaN 基板を用いたエピバ
ルク方式によるものである。結晶
が着色していることと X 線回折
の結果から結晶品質は高くないと
判断されるが、安熱法で初めてバ
ルク体のものが得られたことは評
価できる。この方式は鉱化剤と呼
ばれる溶解度を高める材料にアル
カリ性のものを使用している。ア
ルカリ性鉱化剤を使うと GaN は
負の溶解度
(温度が低いほど溶解
度が高くなること)を示す。一方、
日本の (2) の研究では酸性鉱化剤
を使用しており、GaN は正の溶解
度を示す。
真のバルク GaN 単結晶の必要性と研究開発動向
(7) ポーランドの研究開発
あり、実用化に至っていない。
高圧溶液法は、元々はポーランド また、安熱法については、ポー
の HPRC(High Pressure Research ランドのアンモノ社が研究開発を
Center)にて開発された方式である。 行っており、2007 年にはアルカ
高品質な GaN 結晶が得られている リ性鉱化剤を用いた安熱法により、
が、サイズ ・装置設備などの問題が φ1 インチの高品質結晶が得られた
との発表があった 31)。ただし、成
長速度・再現性・工業性などは不明
である。安熱法は日米欧にてそれぞ
れ研究が行われているが、現在のと
ころ、このポーランドの研究が最も進
んでいると言える。
࿑⴫7䇭GaN⚿᥏䈱౮⌀䋨Na䊐䊤䉾䉪䉴ᴺ䋩
5
(a)「真のバルク
ࠛࡇࡃ࡞ࠢᣇᑼ㧦ᄢ㒋ᄢቇ
᫪⎇ⓥቶឭଏ
(b) ࡃ࡞ࠢᣇᑼ㧦㧔ᩣ㧕࡝ࠦ࡯ឭଏ
GaN 単結晶成長」のための研究開発の課題
(a)
「真のバルク GaN 単結晶成長」
の 技術や結晶成長条件の確立にはま た、(3) で示したように産学官プ
ための研究開発課題として、デバ だブレークスルーと時間を要する。 ロジェクトとして実施されてお
イスニーズから抽出される要件を 「 真 の バ ル ク GaN 単 結 晶 」の り、すでにサンプル出荷も行って
主な結晶成長方式ごとにまとめた 実 現 に は、 ま ず は 転 位 密 度 < いる段階にある。現在、さらなる
ものが図表8である。
主な要件とは、 103cm-2 の高品質の達成と、任意 転位密度の低減と任意極性面を維
基板としてのサイズ≧φ 2 インチ、 の結晶面を切り出すことができる 持した上でのサイズの大型化を目
、任意 かどうかが最大の要件であり、こ 指 し、 研 究 開 発 が 進 め ら れ て い
高品質
(転位密度< 103cm-2)
極性面
(有極性でも無極性でも切り れらを達成した上で、2 インチ以 る。一方、バルク方式の安熱法と
出すことが可能な面)
である。
上のサイズを実現することが大き フラックス法は、どちらもこれま
各機関の研究開発により、各方 な目標となる。図表 8 をみると、 で産学官プロジェクトとしては実
1mm/div
式の技術的メリットとデメリット 品質と任意極性面の要件を満たす 施されていない。安熱法は、海外、
が明らかになりつつある。気相成 ものあるいは満たす可能性がある 特にポーランドで高品質、大型化
長(VPE)法は成長速度が速く(数 ものとしては、エピバルク方式で の研究が進展しており、知財も海
2 inch䋨25.4mm䋩
100µm/h)
、 こ の 技 術 に 関 し て はフラックス法、バルク方式では 外が主導している。これに対して、
⑼ቇᛛⴚേะ⎇ⓥ࠮ࡦ࠲࡯ߦߡ૞ᚑ
は、 今 後 も 民 間 主 導 で 技 術 の 改 安熱法とフラックス法である。こ
フラックス法は 1997 年に東北大
善がなされていくものと考えられ のうち、エピバルク方式のフラッ 学山根久典教授が見出した技術で
る。これに対して液相成長(溶液 クス法は、基板よりも低い転位密 あり、現在でも日本で活発に研究
成長)法は高品質な結晶が得られ 度で作製することが可能である点 開発が行われている。フラックス
る見込みがあるが、成長速度が遅 が他のエピバルクと異なる点であ 法の基本となる特許は、エピバル
く(数µm/h ~数 10µm/h)
、装置 り、高品質化の見込みがある。ま ク方式とバルク方式とに共通で、
(b)
5
ࡃ࡞ࠢ
GaN ⚿᥏ᚑ㐳ᣇᑼߩ߹ߣ߼
図表࿑⴫㧤
8 バルク GaN
単結晶成長方式のまとめ
ᣇᑼ
ⷐઙ䋨ታ↪䈱䈢䉄䈱䊂䊋䉟䉴஥䈎䉌䈱䊆䊷䉵䋩
䷧专丏个䷮
䉰䉟䉵
㻢㱢㪉䉟䊮䉼
ຠ⾰䋨ォ૏ኒᐲ䋩
㪓㪈㪇㪊㪺㫄㪄㪉
છᗧᭂᕈ㕙
㪭㪧㪜
䂦䋨㪈㪇㫄㫄ⷺ⒟ᐲ䋩
㬍䋨ዪᚲ⊛䈮䈲ૐᰳ㒱ኒᐲൻ
䈚䈩䈇䉎䈏䇮䊓䊁䊨䉣䊏䉺䉨
䉲䊞䊦䈱㒢⇇䋩
䂾䋨ᢿ㕙ᣇะ䈮ಾ䉍಴䈜䈖䈫䈪
㫄㕙ၮ᧼䈏ᓧ䉌䉏䈩䈇䉎䈏䇮
ෘ䈘䈏⺖㗴䋩
㜞࿶ṁᶧᴺ
㬍䋨ෘ䈘䌾㪈㪇㪇㫫㫄䋩
䋿䋨ၮ᧼䈫ห⒟ᐲ䋩
㬍䋨ෘ䈘䈏⺖㗴䋩
䂦䋨ෘ䈘䌾㪌㫄㫄䋩
㬍䋨ၮ᧼䉋䉍ᄙ䈇㻢㪈㪇㪌㪺㫄㪄㪉䋩
䂦䋨ෘ䈘䈏⺖㗴䋩
䂦䋨ෘ䈘䌾㪊㫄㫄䋩
䂦䋨䌾㪈㪇㪌㪺㫄㪄㪉䋻ዪᚲ⊛䈮䈲ᦝ䈮
䂦䋨ෘ䈘䈏⺖㗴䋩
቟ᾲᴺ
䊐䊤䉾䉪䉴ᴺ
ૐ䈇䋩
丏个䷮
㜞࿶ṁᶧᴺ
㬍䋨ᢙ㪈㪇㫫㫄⭯᧼⁁䋩
䂾
㬍䋨㪚㕙䈱᦭ᭂᕈ㕙䈏ਥ㕙䈱
ᚑ㐳䋩
቟ᾲᴺ
䂦䋨䉝䊦䉦䊥ᕈ㋶ൻ೷䈪
㱢㪈䉟䊮䉼䉕ታ⃻䋩
䂾
䋿䋨᦭ᭂᕈ㪚㕙䈪㱢㪈䉟䊮䉼䈏
ᓧ䉌䉏䈩䈇䉎䈏䇮ෘ䈘ਇ᣿䋩
䊐䊤䉾䉪䉴ᴺ
䂦䋨䌾ᢙ㫄㫄䋩
䂾
䂾
科学技術動向研究センターにて作成
Science & Technology Trends November 2008
29
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 号
日本企業が所有している。また周
辺特許についても日本の企業や大
学が取得している。
よって日本は、当面、エピバル
ク方式・バルク方式のいずれにお
いても、フラックス法による結晶
成長方法を開発・活用することに
より、実用的な「真のバルク GaN
6
単結晶」実現を目指すべきである
と考えられる。
いずれにしても実用化のために
は、最終的には結晶サイズの大型
化が鍵である。高品質な結晶から
出発してそれをデバイス作製のた
めに必要となるφ 2 ~ 4 インチ
まで大型化するには、装置開発も
合わせて推進することも求められ
る。産学官連携での役割分担とし
て、官のコーディネートのもとで、
大学が結晶成長メカニズムの解明
を行い、企業が結晶成長装置のデ
ザインから結晶成長プロセス開発
を行うという研究スタイルが望ま
しいと考えられる。
GaN の結晶成長技術に関して
は、 気 相 成 長(VPE)法 は 成 長 速
度が最も速く、この技術開発に関
しては、今後も民間主導で技術改
善がなされていくものと考えられ
る。しかし、より高品質な「真の
バルク単結晶」が得られるはずの
液相成長法は基礎的な研究段階に
あり、もう一段のブレークスルー
と時間を要する。したがって、今
後は、大学が結晶成長メカニズム
の解明を行い、企業が結晶成長装
置のデザインから結晶成長プロセ
ス 開 発 を 行 い、 官 が そ れ を コ ー
ディネートするような役割分担に
よる産学官連携を組むことによ
り、「真のバルク GaN 単結晶」の
研究開発を推進することが望まれ
る。我が国が他国に先駆けて早期
に「真のバルク GaN 単結晶」を実
現することで、将来的にも GaN
系半導体デバイス分野で日本の国
際競争力を維持発展させることが
できると考えられる。
おわりに
GaN 系半導体デバイスは、日
本で過去 2 回の科学的ブレーク
スルーを成し遂げ、それが今日の
実用化につながっており、日本発
の半導体デバイスと言っても過言
ではない。結晶成長の技術開発に
より、単に高機能をもつデバイス
が実現するのみならず、省エネル
ギーを通じて地球温暖化防止にも
大きく寄与することができる。
Si・GaAs・InP はいずれも高品
質のバルク結晶が存在し、それを
元に基板が作製され、その基板上
にデバイスを作製することができ
る。しかし、GaN は高品質のバル
ク結晶、すなわち、
「真のバルク
単結晶」が存在せず、そのために
GaN が本来有しているポテンシャ
ルを十分に活かしきれていない。
謝辞
GaN 系デバイスのパイオニア
であり、低温バッファ層・p 型化
のブレークスルー技術を研究開発
された名城大学天野浩教授には、
研究黎明期のお話を伺いました。
大阪大学森勇介教授および(株)リ
コーからは GaN 結晶の写真提供
を頂きました。(財)新機能素子協
会と(財)金属系材料研究開発セン
ターからは調査資料の説明を頂き
ました。御協力を頂いた皆様に厚
く御礼申し上げます。
参考文献
1) 「電子情報通信分野 科学技術・研究開発の国際比較 2008 年版」
、
(独)
科学技術振興機構 研究開発戦略センター(2008 年 2 月)
2) H. Amano, N. Sawaki, I. Akasaki and Y. Toyoda: App. Phys. Lett. 48, 353 (1986)
3) H. Amano, M. Kito, K. Hiramatsu and I. Akasaki: Jpn. J. App. Phys. 28, L2112 (1989)
4) S. D. Lester et al.: High dislocation densities in high efficiency GaN based light-emitting diodes, App. Phys Lett.,
66, 1294 (1995)
5) 天野浩:短波長可視・紫外発光デバイス開発と半導体ヘテロエピタキシー、応用物理、71、1329 (2002)
6) 竹谷元伸他:GaN 系半導体レーザにおける転位密度と信頼性の関係、秋季第 63 回応用物理学会関係連合講演会予稿集、
27a-YH-11 (2002)
7) A. Usui et al.: Thick GaN Epitaxial Growth with Low Dislocation Density by Hydride Vapor Phase Epitaxy,
Jpn. J. Appl. Phys., 36, L899 (1997)
8) K. Motoki et al: Preparation of Large Freestanding GaN Substrates by Hydride Vapor Phase Epitaxy Using
GaAs as a Starting Substrate, Jpn. J. Appl. Phys., 40, L140 (2001)
30
真のバルク GaN 単結晶の必要性と研究開発動向
9) Y. Ohshima et al.: Preparation of Freestanding GaN Wafers by Hydride Vapor Phase Epitaxy with VoidAssisted Separation,Jpn. J. Appl. Phys., 42, L1 (2003)
10) 元木その他:Advanced-DEEP 法による低転位 GaN 結晶、日本学術振興会第 161 委員会第 54 回研究会資料、5 (2007)
11) 平成 18 年度窒化物系化合物半導体に係る技術戦略マップに関する報告書、(社)日本機械工業連合会、(財)金属系材
料研究開発センター(2007)
12) 第 72 回総合科学技術会議 議事 3、最近の科学技術の動向「最新発光ダイオードが照らす明るい未来」
(2007 年 12 月)
;
平成 18 年度窒化物系化合物半導体に係る技術戦略マップ作成に関する調査報告書、(社)日本機械工業連合会・(財)
金属系材料研究開発センター(2007 年 3 月)
13) Laser Focus World Japan, 2008. 8, P. 34
14) SID 2008, BC-4, iSuppli, The TV Market and its Impact on the Display Business (2008)
15) NHK 放送文化研究所、2005 年国民生活時間調査報告書(2006 年 2 月)
16) (財)電力中央研究所、(改訂)「オール電化住宅は地球温暖化防止に寄与するのか?」への疑問:http://criepi.denken.
or.jp/pieceeco/data/071001.pdf
17) J. Karpinski,J. Jun and S. Porowski: Equilibrium pressure of N2 over GaN and high pressure solution growth
of GaN, J. Cryst. Growth, 66, 1 (1984)
18) K. Fujito et al.: High-Quality Nonpolar m-Plane GaN Substrate Grown by HVPE, ICNS07 I1 (2007)
19) S. Porowski and I. Grzegory: Thermodynamical properties of III-V nitrides and crystal growth of GaN at high
N2 pressure,J. Cryst. Growth, 178, 174 (1997)
20) T. Inoue,Y. Seki,O. Oda: Growth of Bulk GaN Single Crystals by the Pressure-Controlled Solution Growth
Method,The 1st Asian Conference on Crystal Growth and Crystal Technology, T-B-12, 341 (2000)
21) I. Grzegory et al.: Seeded growth of GaN at high N2 pressure on (0001) polar surfaces of GaN single crystalline
substrates, Materials Science in Semiconductor Processing, 4, 535 (2001)
22) D. R. Ketchum and J. W. Kolis: Crystal growth of gallium nitride in supercritical ammonia, J. Cryst. Growth,
222, 431 (2001)
23) 「次世代照明をもたらす半導体基板結晶製造技術」報告書、東北大学多元物質科学研究所、三菱化学(2008 年 2 月)
24) T. Hashimoto et al.: Growth of Bulk GaN Crystals by the Basic Ammonothermal Method, Jpn. J. Appl. Phys., 46,
L889 (2007)
25) H. Yamane et al.: Preparation of GaN Single Crystals Using a Na Flux,Chem. Mater.,9,(1997),413.
26) S. Sarayama and H. Iwata: High Quality Crystal Growth of Gallium Nitride by Flux Method, Ricoh Technical
Report, 30, 9(2004)
27) F. Kawamura et al.: Growth of a Two-Inch GaN Single Crystal Substrate Using the Na Flux Method, Jpn. J.
Appl. Phys., 45, L1136 (2006)
28) H. Shin et al.: Growth and decomposition of bulk GaN: role of the ammonia/nitrogen ratio, J. Cryst. Growth,
236, 529 (2002)
29) S. Kurai et al.: Homoepitaxial Growth of GaN on Thick GaN Substrates Prepared by Sublimation Method,
Proceedings of TWN’95, Nagoya, B-6 (1995)
30) W. Utumi et al.: Congruent melting of gallium nitride at 6 GPa and its application to single-crystal growth,
Nature Materials, 2, 735 (2003)
31) R. Doradzinski et al.: Excellent crystallinity of truly bulk ammonothermal GaN,5th International Workshop
on Bulk Nitride Semiconductors (2007)
32) 高効率電光変換化合物半導体開発
(21 世紀のあかり計画)
成果報告書、
(財)
金属系材料研究開発センター(2003 年 3 月)
33) 「高効率 UV 発光素子用半導体開発プロジェクト」報告書、(独)新エネルギー・産業技術総合開発機構 ナノテクノロ
ジー・材料技術開発部(2008)
Science & Technology Trends November 2008
31
科 学 技 術 動 向 2008 年 11 号
執 筆 者
皿山 正二
客員研究官
(株)リコー 研究開発本部 東北研究所
主幹研究員
◎
(株)
リコーにて GaAs、GaN などの化合物
半導体材料・デバイスの研究開発に従事。
新規材料・デバイス技術で環境技術貢献
を目指している。MOT・技術戦略とその
実践に興味を持つ。研究開発は楽しさと
ストレスの両立がキーと考え、努力して
いる。
32
No.92 2008.11
11
11/2008
2008
No.92
2008年11月号 第8巻第11号/毎月26日発行 通巻92号 ISSN 1349-3663
p2.8
新しい情報ネットワーク基盤の商用化と
研究開発の動向
p3.20
真のバルクGaN単結晶の必要性と研究開発動向
ライフサイエンス分野
p4
米国N I H の革新的でハイリスクな
生物医学研究への支援
ナノテク・材料分野
赤外線エネルギーを吸収する
ナノアンテナ電磁波集電装置
情報通信分野
p5
装着型自立支援ロボットの量産開始
社会基盤分野
p7
電化促進における震災時安全対策 
Fly UP