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海外投資の為替リスクとヘッジ手法について
海外投資の為替リスクとヘッジ手法について みずほ銀行 外為営業部 調査役 村松 詩織 歴史的な為替変動を経て 村松調査役 会社 (関連会社) の減資・清算等を実施しない限りは損益計算書上 2012年には1 ドル=70円台であった における損益の認識はされず、 またキャッシュの増減も発生しないた ドル円相場は、 アベノミクス・日銀異次 め、 普段は認識されづらい勘定項目だ。 元緩和・米国量的緩和終了の流れを ところが昨今、 この為調に注目が集まっている。 その理由は図表1 受けて2015年6月5日には125.86円 をご覧いただくとわかりやすいだろう。 これは、 2006年以降のTOPIX の高値をつけるなど、 2年半で約50円 構成銘柄における為調の総計推移を示したものである。2013年度 上昇している。一方、 GPIFの外債投資 にはじめてプラスに転じた為調は、 2014年度には1社あたり平均が 一巡が見えてきたことや、 米国利上げ 約100億円のプラスになるほどに増加している。 この増加分がそのま 開始という大きなイベントを消化するこ ま純資産額増加につながっていることを考えれば、 影響は決して小さ ともあり、今回の円安局面は2015年 くないだろう。 度末には終了し、 来期以降円高回帰を予測するアナリストも出始め こうした大きな計数変動をふまえ、 企業が考慮すべき為調のリスク ている。 は大きく3つに分けられる。 まず、 ①海外投資の出口戦略を検討して 歴史的にも大きく変動した今回の円安相場は、 海外投資を積極 いるケースだ。 この場合には特別損益として連結P/Lにも影響が表 的に展開する企業へ特に大きな影響を与えている。 そこで海外子会 れるため、 円高・円安いずれでもヘッジ対象になる。次に、 ②ROE等 社・関連会社を保有する企業の為替リスクマネジメントの重要性につ の指標悪化を回避するニーズだ。 このケースにおける課題は、 行き いて、 「海外投資を行う企業の為替換算調整勘定」、 「外貨資産・負 過ぎた円安である。単純に考えれば為調の増加はROE改善の阻害 債の差額から生じるP/Lへの影響」、 最後にそれらの 「ヘッジ手法」 と 要因となり得る点には注意が必要だ。最後に、 ③純資産額増加を志 いう切り口から考察したい。 向している企業にとっては、 再度円高相場に戻った際、 ようやくプラ スに転じた為調もまたマイナスへと逆戻りしてしまうことがリスクであろ 為替換算調整勘定増減への対応について う。 そうした企業は現在の良好な環境下でこそ社内におけるヘッジ方 為替換算調整勘定 (以下、 「為調」) は、 海外子会社の財務諸表 針を検討、 将来のリスクをコントロールする必要もあるかもしれない。 について連結決算を行う際、 決算日レート (CR) で換算される資産・ で換算する利益剰余金の 「円貨ベースの差額」 を調整する純資産 P/Lに影響を及ぼす 外貨資産・負債に対するヘッジ 勘定である。 この項目は本業とは関係なく発生するもので、 一般的に 一方、 企業にとってより関心が高い項目は、 「為替差損益」 として 円高であればマイナスに、 円安であればプラスに作用する。海外子 毎期のP/Lに影響を及ぼす外貨資産・負債から生じる為替リスクであ 負債勘定と、 設立時レート (HR) で換算する資本金、 平均レート (AR) 図表1. TOPIX構成銘柄の為替換算調整勘定総計推移 (兆円) 12 (円) 125 120 9 為替換算調整勘定総計 6 USDJPY平均レート 3 0 2007 2008 2009 2010 2011 2012 ▲3 ▲6 2013 単位:社数 為替差益 為替差損 115 2010年度 2014年度 2010年度 2014年度 110 0%~3% 97 248 353 102 3%~5% 20 118 134 25 5%~10% 18 149 131 27 10%~15% 7 73 68 6 95 15%~20% 2 29 42 3 90 20%~30% 4 38 22 5 30%~50% 2 32 33 4 50%~100% 1 14 21 8 100%以上 1 9 17 3 合計 152 710 821 183 2014 100 (年度) ▲9 85 ▲12 80 ▲15 75 (作成) Reutersをもとに外為営業部作成 TOPIX構成銘柄のうち、2015年6月17日までに2014年度決算発表を行った企業のみ集計 20 mizuho global news | 2015 SEP&OCT vol.81 図表2. TOPIX構成銘柄の為替差損益と経常利益の関係 為替差損益÷ 経常利益の割合 105 2006 ろう。 (作成) Bloombergをもとに外為営業部作成 各年度において為替差損益が公表されている企業のみ集計 図表3. ヘッジ手法まとめ 考え方 カテゴリー 具体的なスキーム 為替取引 為替予約※ 通貨スワップ※ 通貨オプション※ 外貨負債 ユーザンス付L/C等を活用した買掛金サイト長期化 外貨借入金※ 債権買取によるオフバラ化 インボイスディスカウント (リミテッドリコース型) フォーフェイティング 債権流動化 銀行借入への切替 親子ローンから子会社による現地借入 外貨負債もしくは 同等の効果を保有 外貨資産の外出し ※為調のヘッジに活用できる商品 (作成) 外為営業部 図表2は、 TOPIX構成銘柄を対象とし、 「企業の経常利益に対す ヘッジ方法の考え方は大きく分けると、 ①外貨資産とマリーさせる る為替差損益の割合」 について、 最も為替差損総額が大きかった 外貨負債 (もしくは同等の経済効果を有する為替取引) を導入する 2010年度と直近決算の2014年度で比較したものである。2014年 方法と、 ②外貨負債に比べて超過している分だけ外貨資産を切り離 度の決算では為替差益を計上した企業が圧倒的に多く、 そのうち経 す方法の2つが考えられる。 それぞれのケースで考えられるスキームに 常利益の10%以上が為替差益であった企業の割合は全体の約2 ついては、 図表3のとおりである。 割にもなる。一方、 2010年度は全く逆であり、 為替差損が経常利益 為替取引を用いた方法の基本的な考え方は、 ヘッジ対象である外 を10%以上減少させた企業が約2割あったことがわかる。 貨資産 (為調含む) との為替差損益を相殺させるために、 外貨負債と 為替差損益がどのような状況で計上されたかは企業によりさまざま 同様の経済効果を為替取引により作り出すのであるが、 具体的には であると思われるが、 大きく分けると、 「商流に基づく外貨売掛債権や 「外貨売り予約 (輸出サイド) 」 と 「直物での外貨買い (輸入サイド) 」 買掛債務」 から発生したケースと、 外貨親子ローンや底溜まりの外貨 を組み合わせ、 それらを期末日当日に決済させるスキームとなる。 預金、 外貨借入のように 「商流に基づかない固定性の債権・債務」 次に、 外貨負債を導入することで外貨資産とのバランスを整える から発生したケースの、 どちらかだと考えられる。 このうち、 期中に決済 方法がある。一般的には円建ての借入の一部を外貨借入にシフトす されるキャッシュフローリスクに対するヘッジの考え方は広く知られて ることが多いが、 外貨買掛金を増加させる方法でも同様の効果を得 いる一方、 期末時点でノーヘッジの外貨資産・負債の差額から生じる ることができる。具体的には仕入先への買掛金サイトを長期化する 「評価差損益」 については、 リスクヘッジを採用する企業はあまり多く のであるが、 その際ユーザンス付L/C等のトレードファイナンスの仕組 ないと感じる。特に、 海外子会社向けの投資が活発になるなかで増 みを活用しながら、 輸出者が許容可能な条件に商流のコーディネート 加した外貨建親子ローンについては、 金額が非常に大きい一方で評 を実施している企業もある。 価差損益に対するリスクヘッジを導入していないケースも多く、 多額 別のアプローチとしては、 そもそも外貨建債権を切り離す方法も考 の為替差損益を生む発生源になっていることがある。 えられる。対象となる債権によって活用できるスキームが異なるが、 売 再び円高相場に向かった場合に、 現在発生している為替差益が 掛債権であればトレードファイナンスの仕組み等を活用し、 オフバラン 為替差損に転じる可能性は高く、 その際にはROEやROAなど、 財務 ス化することも検討可能である。一方親子ローンであれば、 子会社が 面への影響は避けられないであろう。相場がどのように変化しても為 現地において、 資産の通貨建値とマッチングさせた銀行借入にシフト 替差損益を安定化させる取り組みが重要だと考える。 する方法も効果がある。 このように、 ヘッジ手法はさまざまに検討可能であり、 企業の状況 ヘッジ手法 によって取り得る選択肢も多岐にわたる。為調の固定化ニーズや、 最後に、 具体的なヘッジ方法についても触れたい。 ここでは、 「外 年度ごとの為替差損益安定化のニーズがある際には、 最適なヘッジ 貨資産超過」 の状況を想定して記載するが、 外貨負債超過の場合 手法について各お取引部店までお気軽にお問い合わせいただきた には、 資産/負債を逆にして考えていただきたい。 い。 mizuho global news | 2015 SEP&OCT vol.81 2 1