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第2回食料・農業・農村基本問題調査会議事録

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第2回食料・農業・農村基本問題調査会議事録
第2回食料・農業・農村基本問題調査会議事録
平成9年5月13日(火)
東条インペリアルパレス
目次
1、開 会
2、農林水産政務次官挨拶
3、意見開陳
1、開会
○会長 それでは、まだお見えにならない方もおいででございますが、定刻になりましたので、こ
れより第2回食料・農業・農村基本問題調査会を開会させていただきます。
御多用中のところ御参集賜りまして、まことにありがとうございます。
本日は、4名の委員が所用で御欠席でございますので、出席委員は16名となります。
会議に先立ちまして、前回所用で御出席いただけませんでした委員を御紹介いたします。 (以
下、略)
2、農林水産政務次官挨拶
○会長 それでは、議事に入らせていただきます。
本日は、農林水産政務次官に御出席いただいておりますので、まず、政務次官から御挨拶をお
願いいたします。よろしくお願いいたします。
○農林水産政務次官 御紹介賜りました衆議院議員、そして政務次官を致しております保利耕輔
でございます。
前回に引き続きまして、第2回目の本調査会に多数御参列をいただいて本当にありがとうござい
ます。心から厚く御礼申し上げます。
また、会長には、大変なお骨折りをちょうだいいたしておりまして、厚く御礼を申し上げるところで
ございます。
さて、この調査会につきましては、今日は服部政務次官も出ておられますが、服部政務次官と私
とで組んで、藤本農林水産大臣をお助け申し上げているという立場であることを申し上げておきた
いと思います。
前回の調査会におきまして、御承知のように、橋本総理大臣から諮問が行われました。皆様方
のお手元にもおありかと思います。その諮問の内容を見てみますと、「食料、農業及び農村に関す
る基本的な政策に関し、必要な改革を図るための方策に関する基本的事項について、貴調査会
の意見を求める」というのが総理大臣の諮問の本文でございます。御承知のように、橋本内閣で
は、行財政改革など六つの改革を掲げて今政治に臨んでいるわけでございますが、その中の位
置づけを考えるとするならば、これは経済構造改革の一つになるのではないかと、私は勝手にそ
んなことを考えておるわけでございます。
さて、私は、この調査会の役割といたしまして、農業、林業、水産業などをめぐりますいろいろな
問題の基本的事項についての方向づけをしていただくというふうに考えておりますが、私自身は、
それともう一つ、と申しますよりも、それの一つ上の概念になるのではないかと思いますけれども、
国民食料というものを、今後日本という国はどういう形で国民に対して保障していくのかということ
をきちんと位置づけなければならないのではないか。つまり、農業、水産業等の産業政策のもとを
なします食料政策についてきちんと固めていくべきではないか、このように私自身考えておるわけ
でございます。その意味で、本調査会の名称の上に「食料」というのがついておりますことは、非常
に大きな意味を持っておると思うわけでございます。
私自身、農林部会長でありますとか、貿易対策委員長でありますとか、そういうような農業にま
つわる仕事をずっとさせていただいておりましたけれども、私自身は、食料政策についてはこのよ
うに考えております。これは私の私見でございますので、お断りを申し上げておきます。「我が国
が、いつ、いかなる状態にあろうとも、必要にして十分、かつ良質な食料を安定的に供給する体制
を維持すること」、これを一つの政治目標と考えております。飢えるということがあってはならない、
そういう体制をどう作っていくのかということが国家の政策として非常に大事であるということをず
っと唱えてまいりましたが、今もその考えに変わりはございません。
こういう安定的に供給する体制というものを、どういう形で維持していくのかということは我々に
投げかけられた非常に大きな問題だと考えておるわけでございまして、この体制を作るために、国
家や政治はどこまで介入すべきかという問題があろうかと思います。国で全部保障して、配給から
何から全部やるんだということではないと私は考えております。同時に、全部民間の、いわゆる自
由放任の経済に任せるんだというわけにもいかない面があるのかなと思っております。その中間
のどの辺に国としての関与の程度があるのかということが、まさに橋本総理から求められておりま
す「必要な改革を図るための方策」につながってくる問題であろうかと思っております。議論がやや
抽象的で大変恐縮でございますけれども、そんなふうに感じておることを申し上げさせていただき
たいと思います。 翻って、今日の状況を見てみますと、一部の例外を除きまして、食料品につい
ては輸入が自由化されております。ただ、検疫を通らなければならないという問題がありまして、
国際間で検疫に対する問題が新たな障害ということで認識されつつあるということも我々は考えな
ければなりませんが、食品の安全性、国民の健康維持という観点から、この問題はおろそかにす
ることはできない問題であると考えております。
さらに、最近カロリーベースその他の自給率が著しく低下してまいりますとともに、国民の間で
は、将来日本の食料というのはどうなるんだろうか、食料供給体制というのは50年、100年先まで
安心して保障されているのだろうかという問題が発生しつつあるように、私には思われるわけでご
ざいます。国会では自給力の強化という決議が過去に何回かされておりますけれども、それは厳
然として現在も残っております。一方で、輸入の自由化体制がどんどん進行してきておる、外国の
農産物がどんどん入ってきておるということであります。
したがいまして、食料の自給と輸入とのバランスというものをどの辺でとるべきなのか。先刻の新
聞を見ておりますと、経済界の一部の方だと思いますけれども、70%ぐらいの自給率は必要だと
いう数字を挙げての御指摘がありました。これは恐らくカロリーべースの自給率だろうと思います
が、70%の自給率をいかにしたら確保することができるのか、あるいはそのためにはどういう政策
が必要なのかということを我々は考えていかなければならない。その前に、70%というのが妥当で
あるのか、妥当でないのか。妥当でないとすれば、80%必要なのか、60%でいいのか。ここら辺の
議論も必要だと思います。これは個々に当たってみませんと何とも言えませんし、品目別に随分
違うのだろうと思いますけれども、そこら辺のきめの細かい議論というのが今後どうしても必要で
はないかと考えております。
私は、過去に自民党の農林水産物貿易対策委員長という仕事をさせていただいて、世界各地で
いろいろな方々と意見を交換してまいりましたけれども、日本をめぐる世界の情勢というのは、貿
易の自由化という名前のもとに大変圧力がかかっておる。特に農林水産業をめぐる外圧というの
は非常に大きいと感じ取ってきましたし、現在もそのように考えております。ここら辺の難しいとこ
ろは、一皮むけば、この貿易の自由化論というのは、商業主義というのがその裏の方に隠れてい
るように、私には思えてしようがないわけであります。食料の確保という国家の非常に重要な課題
を考えるときに、この問題をどう考えていくのかというのは非常に大きな問題ではないかと思って
おります。
私は、貿易対策委員長をしておりましたときにいろいろなことを考えさせていただきましたけれど
も、貿易の自由化というのは、輸出国は貿易の自由化の進展によりまして輸出の機会を得るので
ありますが、輸出の義務は課せられていない。ここは非常に大きなところでございまして、橋本総
理もこのところは、当時政調会長であった時代に、ここのところは保利君納得できるよな、これは
外国によく言っていかなければならんことだよなと、輸出の義務はないわけであります。例えば、
日本がそういうことになることは望みませんけれども、いわゆる支払い能力がなくなった国に対し
て輸出をしてくれるかどうか、輸出してくれないのは理の当然であります。そういうことも我々はよく
考えて、そして議論を続けていかなければならないと思うわけでございます。
このような、いわゆる食料安保、私はこの「食料安保」という言葉は複雑な意味を持っていると思
っておりますけれども、自国の生産を大事にしていこうという考え方は、世界の中でも随分いろい
ろと意見が起こってきている、日本に同調する方々もできているというふうに、あるいはその芽が
できつつあると考えております。この3月にヨーロッパ連合のフィッシュラー農業委員が日本におい
でになりました。私は1月にもブラッセルで彼にお会いしたのですが、日本の言うことはよくわかる
んだということをおっしゃっておりました。
フィッシュラー農業委員は、15カ国でなります欧州連合の農業政策の責任者でございますが、そ
の方の御出身地はオーストリアのチロルであります。山国で育った方であります。その方が、山の
農業、あるいは小さいところ、条件が不利なところの農業の中で育ってきた政治家が、今ヨーロッ
パ連合の農業の最高責任者の地位におられる。そういう方と我々はよく連携を保ちながら、今後
の日本の食料政策というものをどう進めていくべきか、よく御相談を申し上げていく必要があるだ
ろうと思っております。
また、WTOの事務局長でありますルジェロ氏にも何回もお目にかかりましたが、彼は彼なりの
理論を持っております。WTOの事務局長としての立場で申せば、貿易の自由化というのは必要で
あって、これを崩すわけにはいかない。しかし、日本のようないろいろな問題というのは、ルールの
中の自由化で考えていくべきだということを私どもに言っていただいております。では、そのルール
とは一体何だ。自由貿易は前提に置くものの、その中に一定のルールによってある制約をつける
とするならば、どういうルールが必要なのかということについては、日本がこれを主張していかな
ければならないのではないかと考えておるわけでございます。
御挨拶としてはちょっと異例で、少し長々と自論を展開させていただきましたことをおわび申し上
げますが、最後に、食料確保に関する基本的な理念を設立することが、農政、水産行政あるいは
林政の運営のベースになると私は考えております。この食料政策がどうあるべきかということの理
念なしに農政を論じましても、何か基盤が脆弱なような感じがいたしますので、ぜひ先生方にお願
いして、食料政策はどうあるべきかという観点からの議論を展開していただくことを心から念じてお
るものであります。
同時にまた、私どもが外交を続けてまいります場合に、外交政策によって日本の食料を確保す
るという交渉をいろいろ続けてまいります場合も、この食料に対する基本的考え方がぐらぐらして
おりますと日本の腰が弱くなってしまうわけでありまして、そういう意味で、食料政策いかにあるべ
きかということを日本国民全体が持つということが今日非常に望まれていることではないかと考え
ておりますので、つけ加えさせていただきます。
本日は御多用中にお集まりいただきまして御審議いただきます。農林水産省として厚く御礼を申
し上げまして、御挨拶といたします。ありがとうございました。
○会長 ありがとうございました。
ただいま政務次官から食料を中心に本調査会の役割が、まさにこれからの日本の安全と安心
の根本にかかわるということで、単なる数字だけではなくて、理念もぜひここできちんとしてもらい
たいという御要望だったと思います。極めて基本的に大事なことでございます。ありがとうございま
した。
3、意見開陳
○会長 前回は、御承知のように資料の説明に時間をとられて、委員の先生方の御意見を伺う時
間がなかったのですが、今日は資料の説明の方はないんでございまして、前回資料の御請求もあ
りましたが、今日もまた資料の御請求の御要望を出していただいて、次回に整理して事務局の方
から出していただくということにさせていただきたいと思います。 本日は、それぞれのお考えをた
っぷりと、といっても時間はそんなにありませんが、今日は5時まででありまして、意見開陳に2時
間半程度とらせていただくということで、お1人8∼9分、10分だとちょっと足が出るかもしれません
ので、8∼9分ということで、ぜひ時計をごらんになってお話しいただきたいと思います。
それを通しまして、次回以降、どういう問題についてここで集中的にやっていくか、その課題を今
日の皆様方の御意見の中から集約して出していく。次回ももちろん御意見を賜りますが、次回は
ある程度整理された上での御意見ということになりますので、今日は思いのたけを−思いのたけ
を8∼9分というのはちょっと矛盾しておりますが、ともかくそういうことでよろしくお願い申し上げま
す。
では、これから、順番にやってもいいのですが、心の準備のできてない方もおいでかもしれませ
んので、まず手を挙げていただいてお願いしたいと思います。
○委員 私の場合は、現場で農業をやっております農業者として意見を出させていただきたいと思
います。また、会長のお許しがいただけますならば、資料を配布させていただいきたいのですが、
いかがでしょうか。
○会長 どうぞ。
○委員 それでは、事務局の方、配っていただけますでしょうか。貴重な時間でございますので、
まだ配布中でございますけれども、説明に入らせていただきます。
まず、今提出いたしました資料ですが、緑色の広域交流拠点整備に関する調査ということで、こ
れは平成8年度に県の依頼で、私どもの農場30年の歴史を調査し、農業法人の歩みと現状と展
望という形でまとめて、この度完成した報告書でございます。現場の一例ということで御参考にし
ていただければと思いまして、あえて提出させていただきました。
次に、食料・農業・農村基本問題に関する提言ということで、私の場合は農業者でございますし、
現場の人間でございますので、このような形で提案させていただきます。特に私の場合は、過去
30年間、農業法人の経営確立という形で、新しい農業の担い手確保ということが私の大きなテー
マでございましたし、自立した農業経営の確立ということを目標にいたしまして、その体験に基づ
いて意見を申し上げたいと思います。
まず、これからの農業・農村を取り巻く環境ということに対してどう考えているかということです
が、3点でございます。一つは、地球の人口の拡大によりまして、定住再生産を果たす環境保全
社会となること、ということを前提に考えなければいけないと思っております。2点に、したがって、
安心できる食料の確保をいかに果たすかということです。3点目は、そのためには自立した産業と
しての農業の確立をいかにして果たすかということであろうかと思っております。
このような環境変化に対応いたしまして、2030年、世界に迷惑をかけない「農力」のある国づくり
のために、食料・農業・農村の政策にかかわる重要な検討課題として、新しい政策体系という形で
まとめてみました。その要点といたしまして、時間の関係もありますので、ポイントについて説明を
させていただきたいと思います。
まず、食料政策についてですが、現在、自給率が42%ということで、我が国の史上最低の自給
率でございます。人口爆発が起こります2030年まで、私は自給率60%確保を物理的に実現する
戦略を構築すべきであると思っております。
次に、農業政策についてでございます。農業構造の抜本的な改善が必要だと思っております。
現在の農業が国民にわかりにくく、政策効果が鈍化していると言われておりますのは、消費の構
造に対して生産の構造が全く食い違ってしまったことにあると思っております。この課題を解決い
たしますには、消費構造と生産構造を改善して一致させることが重要な課題であると思っておりま
す。したがって、農政の基本を価格政策から経営政策に転換する時代が来たと考えております。
そのためには、わかりにくくなっております農業者概念を整理いたしまして、新たに位置づける構
造改革を必要としていると考えております。
戦後は画一的な専業農家で、それが大きく変貌いたしまして、農業の目的も経営農業と生活農
業に変化し、それらが混在するという多様化した地域農業の構造になっているにもかかわらず、
国民の皆様がこれらすべてを農業者と受けとめられている点に非常に大きな問題があると思って
おります。この複雑な構造を改革するとき、そのすべてを市場原理のみに委ねることは、我が国の
風土、農村社会環境や民族性から、農村・農業が自滅するおそれがあると私は考えております。
政策誘導が必要ではないかと考えております。そこで、農業者概念につきましては、私は、経営形
態概念というものを導入いたしまして、経営生産農業と生活自給農業というように整理して位置づ
けるべきと提案したいのであります。
次には、農業経営体の育成が必要ではないかと考えております。現在の地域農業にはリーダー
がいなくなっているのが現状でございまして、次代のリーダーとなり得る農業法人経営体の育成
が政策急務と思っております。なぜなら、もはや地域農業の担い手がいなくなっております現在、
次代の農業を担う新しい農業経営体として、農業法人の経営を確立・育成し、次代の農業・農村
の担い手としない限り、日本の農業と美しきふるさとを次の時代に持続することができないと考え
るからであります。ただし、最も大切なことは、その農業法人が地域に根をおろした地域社会と密
着した法人でないと、むしろ地域社会を崩壊させるおそれがあるのではないかという経験を持って
おります。
これらの経営体が営む事業でございますが、一次、二次、三次でもない「第六次産業」として位
置づけていったらどうかと考えております。つまり、これからの農業は「一次×二次×三次=六次」
でございます。これを足しても六次になるわけですが、すなわち生命総合産業となるわけです。
「生産×加工×交流・販売」が互いに連鎖・連携した総合事業の形成が必要だと思うのでありま
す。
そこで間違っていただきたくないのは、これがあくまでも掛け算であってほしいということでありま
して、生産である一次がゼロになりますと、すべてゼロになるということでございます。生命産業の
基本は生産にあることを忘れてはならないと思うのであります。したがって、農業が二次、三次産
業と協働・協力して動くことで、初めて六次産業となるということであります。これからますます多様
化していく経営体に市場原理を導入すべきではないかと思っておるわけでございます。したがっ
て、多様化いたします農業に経営形態別の組織化というのも、これから真剣に考えていかなけれ
ばならないと考えております。 農村政策については、まず、農村集落のあり方ですけれども、現
在の集落は高齢化と担い手不足、道路網の整備、情報伝達網が大きく変化いたしまして、現在の
農村地域社会が求めます構造にもはや合わなくなっているのではないかと考えております。農村
集落を再編成して広域営農集団をつくるべきであります。すなわち広域ビジネスファーム集団の形
成を図る必要があると考えております。さらに、周辺市町村も含んだ都市・農村広域交流圏を形成
すべきであります。これを地域交流ビジネスユニットという考え方で、広域的な市町村との連携を
図る時代が来たと思っております。
そこで、中山間地域をどうするかという問題であります。私は、37年間、中山間地域農業・農村に
こだわり続けてまいりました結果たどりついております現状は、農業の複合化、第六次産業の形
成、都市と農村の交流であります。中山間地域抜きに日本列島は考えられないのでございますか
ら、中山間地域は短所ばかりと考えずに、21世紀の夢のある地域と考えるべきではないかと思っ
ておるわけでございます。
この中山間地域にある夢の資源を生かすには、行政、団体、経営体、住民の役割をいかに明確
にして、協力し合っていくかということではないかと思います。さらに、国民が参加した自立と連携
による新しい広域営農集落というものと同時に、美しき近代的生産・生活空間の形成にあると考え
ております。
次は、大都市には農業は不要なのかという点でございます。人間と情報の中枢であります大都
市に、農業の多面的機能を生かしましたオープンな形で農業生産拠点の場が必要な時代が来た
のではないかと考えております。なぜなら、最も食料のことを考えてもらいたいエリアでありまし
て、また、最も生命体感教育の場が必要なエリアであります。また、最もリサイクルシステムの形
成を必要とするエリアであります。また、最も農業の流通・販売・情報を必要とするエリアであるか
らであります。これからの新しい都市づくりに農業が参加すべき時代が来たと思うのであります。
以上、いろいろ述べたわけでございますが、これからの新しい農業・農村づくりに、ゆとりと活力
のある美しい地域を創造していくには、「農力」あるさわやかな定住再生産の社会をつくり上げるこ
とではないかと考えております。自分の食べ物のために責任を持ってつき合っていけば生命は新
しく宿ると思うのであります。理想論ではだめなので、確実論としての施策を推し進めていくことが
「農力」のある国づくりだと思うということであります。
最後に、国際社会につき合っていくためには、「農力」の指標というものを設定する時代が来てい
るのではないかと考えております。2030年、人口の爆発的な拡大、それから大食料難時代という
ものが、先ほどお示しいただきました資料でもうかがえるわけでございますので、「農力」のある国
力というものがジャッジされる、むしろ「農力」で国力がジャッジされる時代が来るのではないかと
考えるわけです。ですから、「農力」というものを発表できるような機関を早急に組織して、情報分
析と未来を予測できる人材育成というものが我が国には必要ではないかと思っております。
情報ネットワークにいたしましても、農業のネットワークの基盤整備も農業界は遅れているような
気がしてなりません。私は百姓ですから、難しい話はわからないのですが、今孫が4人おるわけで
すが、村で一生懸命農業をやっているわけですが、この子たちが宇宙食を食べるような日本であ
ってはならないということを申し上げて、意見になっておらないかもしれませんが、私の報告を終わ
らせていただきます。時間を超過したかもしれませんが、お許しを願いたいと思います。
○会長 ありがとうございました。まさに政務次官がおっしゃった理念を掲げた具体的な御提言
で、この資料は後でゆっくり読ませていただきたいと思っております。
○委員 私は、昭和38年に18歳で嫁いで、それから三十数年農業をしてまいりました。その間に
台風だとか長雨、冷夏、ひょう害、そんなふうなことがたくさんありまして、それを何とか乗り越えて
今日まで来たわけですが、乗り越えるためには1年や2年ではもとには戻らないわけです。昨年
も、桃の畑ですが、収穫直前にひょうが降りましたので、それまでの労力とかが皆無になってしま
ったということを幾度か体験してきました。
それが農家というか、農業者は昔から虐げられてきたものですから、何とかそれを克服していく
のです。何年かかかってそれを克服していくのですが、何で若い農業者が減ってしまったのだろう
かということをよく考えてみますと、そのように割の合わない農業ならば、息子にはさせたくないと
いう親が私の周りにもたくさんございます。そして、もっと快適な、夜遅くまでではなく、私ども果樹
を栽培していますので、もうぼつぼつ4時起きをして桃の畑に行きます。そして、夕方も7時半ぐら
いまで、夜は夜で箱詰めなどがありますので、そのように労働時間も決められていないような農業
へは、息子や娘には職業として、子供たちに胸を張ってやっていけということが言えないという親
がたくさんありました。そして、現在があるような気がします。
私は、昭和38年に結婚したので、基本法とともに農業をしてきたように思います。そして、最近、
地域の方の意見を聞きますと、確かに高度経済の発展とともに、農業者もたくさん恩恵を受けて
生活は確かに豊かになりました。兼業農家も増えて、兼業農家のお母さんたちも大変頑張って農
業をしております。これからもそのように兼業農家は増えていくのではないかと思っています。
私は家族農業をしておりますので、果樹裁培などの場合は、家族で一緒に働くことによって技術
を次の代に譲れるのです。例えばパートを頼んで大型の農業経営をしてみましても、今は桃の木
の地上から30センチの幹の周りを測って、この木には何個成ならせるという時代なのです。パート
を頼んで技術のない者に農業をしてもらうと、桃をたくさん着け過ぎたり、少な過ぎたりで、経営に
合わないわけです。そのようなことから、家族農業で果樹をやっていく場合は2ヘクタール以下、そ
の程度がいいのではないかと思っております。
スイスとかフランスでは、農業者に手厚い保護がされているということを聞いたのですが、ぜひフ
ランスなどで行われている農業者に対しての保護政策などの資料もぜひ欲しいと思います。
そして、先ほども申しましたように、農業というのは本当に天候に左右されます。これまで工業優
先で来たので、私たち農業者は、工業優先の世の中のあおりを受けて農業をしてきたように思い
ます。もう少し農業者の社会的な地位が認められたならば後継者も増えていくのではないかという
気がします。
私どもは1ヘクタールにも満たない農業をしてきましたが、その都度、知恵を絞り、工夫を重ねて
農業をやってきました。それは借地をしてきたのですが、借地の良さというのは、年が来て次代の
後継者がない場合は、そこで返せばいいわけです。例えば私の近所にもございますが、息子が絶
対やるだろうと思って農地を買い求めてやってきたのですが、息子は農業を継がないで、よそのお
宅にお婿さんに行ってしまったということがあったりして、借地の勧めは本当にいいことだなあと。
私どもも子供の成長とともにそういう経営をやってきましたので、そのようなことがこれからも必要
ではないかと思います。
本当に工業製品ではありませんので、何度も申しますが、天候に左右されて、農業者はそれで
頑張っているのですが、ぜひ委員の皆様方に、工業製品ではないので、天候に左右される、頑張
って作ってもそれらしい収入が得られないということをぜひ御理解いただきたいと思います。
以上でございます。
○会長 ありがとうございました。
○委員 この食料・農業・農村、まず、安心して、安定的に食料を供給していく、日本の現在の農
耕地500万ヘクタールの中で、主要食料の米、酪農、畜産、果樹、園芸、そんなもので国内生産に
よる食料をどういう内容と水準でやっていくのか、そして、そのための農業の経営体はどうあるべ
きなのか。先ほどお話がございました農業経営体の中には、持続的家族農業、極めて必要でしょ
う。そして生産法人による経営体、あるいは各都市で行われておる市民菜園、そういうようないろ
いろな経営体があると思いますし、日本列島というのは寒いところから暖かいところがある、多様
な農産物が生産されるわけでございます。
そういう中にありまして、だんだん後継者がない、そして高齢化していく中にあって、農業基盤整備
というのは極めて大事な政策ではないかと思います。今まで例えば3反程度の区画であったもの
を1町歩区画程度にもっていく。そして、40∼50人の営農集団でやっていたものを、3人か5人の
生産法人という格好でやっていくということは可能な問題だと思うわけです。
一方、農村において定住し、快適な生活環境をつくっていくということにおいては、どうしても集落
排水というものに力を入れていかなければならない問題であろうと思うわけであります。
そういう意味におきまして、先ほど集落の再編という御発言がございましたが、そのように片や
優良農地を確保しつつ、日本列島というのは、国土の50%、そこに6%ぐらいの人口で維持してお
る、そんな中から農業がよく言われておる水資源なり国土の保全なり、そうした多面的な役割を果
たしておる。私が申し上げたいのは、これから論議を進めていく上において、そういった基本的な
ことから具体的な論議の展開を進めていくことが必要ではないか。
加えて、農業というものの一つの位置づけがそういう論議の中で出てくると大変いいことだなと。
生命を守っていく、これは防衛があるでしょうし、エネルギーがあるでしょうし、そして食料問題、そ
ういうものの国においての位置づけということが合意を得るようになれば非常にいいことだと思っ
ております。
余り時間がありませんので、次の人に譲りたいと思います。
○会長 ありがとうございました。
○委員 前回も発言したのですが、この調査会の目指すものといいますか、そういう観点で私が
自分自身でもきちんとしておきたいということを含めて話したいと思います。 まず一つは、食料・
農業・農村の基本問題が考える将来の時代というのはいつ頃を考えたらいいのかということです。
21世紀といっても100年もあるわけですから、そんなことはあり得ないとして、2010年なのか、2020
年なのか、30年なのかということをある程度認識した上で議論をしたいということが一つです。
もう一つは、仮に2010年であっても、2020年であっても、とりあえず緊急の焦点になりそうな2000
年問題というのがありまして、日本の米の部分開放を一体どういうふうにするのかという議論を、
その1年前ぐらいから始めなければいけないということだと思うのです。個人的に言ってしまえば、
仮に2010年ということを想定した場合には、これははっきりとはわからないけれども、恐らくは日本
の農産物は、いろいろな条件は付けるとしても、関税化の時代に入っているのではないかという気
がするわけです。これは外交的な交渉があるわけですから、こういった公のところで、例えば事務
当局の方からお話しいただくということは到底無理だろうとは思いますが、そこのところを一体どの
ように理解して、考えて議論をしていったらいいだろうかというのが第一の私のこの委員会での思
いです。
それに加えて、最近疑問を持ち始めていることで、新しい基本法を作るための、新しい改革のた
めの議論の中で考えていきたいと思っておりますことが三つあるのですが、一つは、今まで続けて
きた農産物の価格政策というのは、一体今のままでいいのだろうかということです。米を端的な例
としていいますと、過剰のためにどんどん価格が下がっているわけです。この傾向はさらに続いて
いくと思いますし、自主流通米の価格形成センターの機能を、市場原理を導入すればもっと下がっ
ていく可能性が高い。
そのときに一番打撃を受けるのは、将来とも米を中心にしてやっていこうという農家であって、ほ
かのお勤めから給料をもらっている方々はそれほど打撃を受けることはない。そういうことを考え
れば、今までの価格政策ではなくて、本当に打撃を受ける、しかも、これから米を中心にして、ある
いは農業を担っていこうという人に所得補償をしていくという時代にもう差しかかっているのではな
いかという気がしております。その所得補償は全員を対象にしてやるというのではなくて、あくまで
これからの担い手に対して行うということになるわけですが、そのときの仕分けが果たしてうまくで
きるかどうかということが一つのポイントとしてあると思います。
その補償をするための条件としては、例えば耕地の利用率が高い農家とか、生産調整をしてい
ることが条件であるとか、そういう形でやっていかないと、今の米問題というのは手詰まり状態が
続いてしまうのではないかということが自分自身の疑問にもありまして、それが議論をしてみたい
という一つの点です。
2番目は、構造的な問題ですが、今既に議論されております農地の問題です。この三十何年間
で100万ヘクタール減って、100万ヘクタール造成しているから、結局実質200万ヘクタールというこ
とになるわけですが、この傾向は今のままでいくとどんどん続くのではないか。私は農地はもう減
らさない、何とか歯止めをかけなければいけないと思っているのですが、しかし、今の制度では農
地の減少を食いとめることはできないのではないか。そういうことを別にしておいて、株式会社が
農地を持ってはいけないとか、参入してはいけないという議論をするというのは、ちょっと違うので
はないか。むしろ基本は農地を守っていくということを一つのはっきりした目標にして、そのために
どういう手だてがあるのか、そこに株式会社の問題が入ってくるとすれば、それはそういう文脈で
議論するというのは正しいことではないかという気がしております。
3番目は中山間地域、条件不利地域の問題です。これはもうそろそろ何らかの公的な支援がな
いと、私も全国あちこち知っているわけではありませんが、自治体の努力だけでは限界に来てい
るところがあるわけです。ただし、公的な支援を始めてしまうと、それをずっとやるのかという問題
になって、財政負担の微妙な問題に関わってまいります。その議論をしなければいけないだろうと
いう気がしております。
最後に申し上げたいのは、今の日本の中で、いわゆる都市住民といいますか、そういう人たちの
農業や農村についての理解、関心がかなり低下しているということが最近非常に心配なのです。
総理府などで世論調査をすれば、基本的な食料は日本の国内で作った方がいいとか、そういうと
ころにマルをつける人が結構多いのですが、実態はそんなものではなくて、ああいう調査のときに
はみんな格好のいいところへマルをつけた方がいいという感じでやるのではないかという気がす
るくらい一般的には関心がない。特に農業基本法といっても、普通のサラリーマンでも、消費者で
も全く何の関心もありません。そういうことを今私たちが取り組もうとしている議論を通して少しず
つ修正していきたい。
なぜそういう事態に立ち至ってしまったかというと、これまで何年かのいろいろな農業・農政の動
きの中で、いろいろな立場の人の行動というのが、やっぱり消費者不在の行動が多かったのでは
ないか。つまりああそうか、農業・農政の世界というのはこんなものだという形で何となく関心を失
わせてしまった原因があるのではないかという気がするのです。今度の議論の一つのスタンスと
いうのは、やっぱり消費者不在ではなくて、消費者をまず据えた、消費者と言ったらいいか、国民
と言ってもいいかもしれませんが、そういうスタンスで議論をしたいと思います。
以上ですが、資料の要求をしたいのですが、まず一つは、世界の食料需給の展望、それから日
本の食料需給の見通し、同時に、世界と日本の経済の展望といいますか、これは見通し、成長率
その他いろいろあると思いますけれども、そういったもの。それから、先ほど農地のことを言いまし
たが、一体諸外国で、主として先進国で構わないと思いますが、農地をめぐる、特に株式会社の
参入とか、そういう点についての法制度がどのようになっているのかということを、参考までに次回
以降お出しいただければ大変ありがたいと思います。
以上でございます。
○会長 ありがとうございました。
一つ一つの御提言、これから考えさせていただきます。資料は事務局からなるべく詳細にお出し
願いたいと思います。
それから、レンジは、どれぐらいのところを目標に置くかというのは、歴史家として言うと、30年が
見通せる最大だと思います。国家百年の大計といいますが、国民的合意はまず30年で、そうする
と2025年から2030年、この辺が目標だと思います。それより先は見通せないです、残念ながら。そ
のぐらいでどうでしょうか。皆さん、けしからんとおっしゃられれば訂正しますが、大体そのぐらいの
心づもりで私はおります。
○委員 今日、ここに入ったら非常に妙な違和感を感じたのです。というのは、政務次官を初めお
役所の皆さん方がずらりと並んでいて、何か地方に行った一日内閣で、あるいは何とか公聴会で
すか、そういうものに行って意見陳述をする会のような感じがしたのですが、それは作り方の問題
なのです。
○会長 この間、私がみんな見えるようにというのでこうしてもらったのですが。
○委員 そうではなくて、要するに我々の会長を中心にして、こっちでこういうふうにいて、お役所
の方は別に質問する話ではないから、という非常にテレビ的な発想です。
○会長 向こうに行ってしまうと、また見えなってしまう、見えなくならなければいいですけれども。
○委員 基本法づくりというのがこの会のメインテーマになるということで、その辺りについての感
想ですが、今の基本法は、農業の現実との間で大きなずれを生じて形骸化しているということは
みんな言われているわけです。それは規模拡大とか、そういう政策目標が達成できなかったという
だけでなくて、消費者のニーズとか、国際化時代への対応とか、そういったものへの視点が抜け
落ちているということだろうと思うのです。新基本法が21世紀に耐え得るものであるためには、環
境とか、よく言われる国際協調とか、そういったグローバルな視点が必要になってきて、その議論
は欠かせないだろうと思っているわけです。
その場合、考えたい点は幾つかあると思いますけれども、私が農家でないから思うのではない
かという御指摘を受けるかもしれませんが、巨額な財政支出を伴う保護政策がなければ生きてい
かれないという農業からはどうしても脱却していかなければならない、これはかなり前から言われ
ていることでなかなか実現できない問題でありますけれども、この点はまずはっきりさせておく必
要がある、そういうものを目標にするということをはっきりさせる必要があるだろうと思います。
産業として農業が自立するということも、えらい昔から言われているようですけれども、農業とい
えども市場経済のもとで、効率的な経営を目指すべきであろうと思っております。そのためには、
農家の方が創意工夫を自由に発揮できる、あるいは自由に経営展開できるという経営者や経営
法人といいますか、法人経営が育つような条件整備をしてもらわなければならないだろうし、一
方、農家から見れば、経営者の視点とか、消費者が何を望むか、そういう視点をさらに取り入れて
考えなければならないだろう。そこからは当然安全で良質的な食べ物を供給するということが必要
になってくるだろうと思います。
一方、私たちのような人間とか、あるいは消費者・国民の人々から見れば、農業・農村の多面的
な機能というものを、農業を見直す機運が最近かなり高まってきてはいると思いますが、この点を
もっと重視する必要があるだろうと思います。過疎化が進めば当然のことながら村落がいずれ消
滅するということにもなりかねないわけですから、これからの農業政策では、市場原理を一層働か
せる、促進するという反面で、地域政策の観点も欠かせないだろうと思っております。だから、価格
支持政策をやめるかわりに、よく言われる、EUなどの直接所得補償制度の採用ということをすべ
きであるかどうかということも大きな焦点になってくるだろうと思っております。
ただし、価格支持政策も所得補償も一緒にというのはどんなものかなという疑問を感じるわけで
す。そういう議論をしながら、産業として競争力のある農業、あるいは安全で、質の良い食べ物を
国民に供給して、国民から喜ばれる、やっていらっしゃる農家の方から見てもやりがいのある農業
とか、あるいはよく言われる若者が魅力を感じる農業、そういう農業の実現に役立つような農基法
づくりというものに委員の一人として貢献できればいいなあと思っております。
ただし、新しい基本法づくりと言っても、農業団体の方は熱心なようでありますけれども、一般の
国民の間で、農基法といってもほとんど関心がなくて、国民の間で盛り上がりを欠いていると思う
わけです。何のために農基法を作るのかということ、あるいはそれで本当に日本の農業が強くなる
のか、あるいは消費者がメリットを得られるのかというところがどうもはっきりしていないためだろう
と思っております。
現在ある農業基本法の農政というのは、目標が農工間の所得格差の是正とか大変明確であり
ますし、結果的には失敗に終わったのかもしれませんが、企業も農家からの労働力の供給という
のを望んでいたわけですから、そういう意味で、日本経済全体の要請の中で行われた、そういう点
で農業と他の社会との間で利害がかなり一致している部分があったのではないかと思うわけで
す。
ただし、現在は目標も、あるいはニーズもかなり多様化している。したがって、国民的なコンセン
サスを得るということはなかなか難しいであろうなと思うわけです。それだけにこの調査会では、討
議の経過を公表するとか、一般の方に情報発信して、関心を呼んで、そこで論議を巻き起こしてい
くということが極めて重要であろうと思っております。調査会が開かれれば、事務当局の方からマ
スコミなどに御説明もあるのでしょうけれども、調査会としても、中間報告とか最終答申というもの
に限らないで、その間に基本的な方向を打ち出すとか、節目、節目をとらえて何かまとめて、まと
めた形で表に出す機会を増やすということが論議を呼び起こす起爆剤というとオーバーですが、
そういうものになるようにしたらいかがなものかなと思っております。以上です。
○会長 ありがとうございました。御提言、なるべく努力いたします。
○委員 冒頭で政務次官が、これはもう日本経済のあり方にまで迫るような議論が必要なのでは
ないかと触れられましたけれども、まさにそういうレベルでの議論がどうしても必要ではないかと思
っております。私は、実は水の専門家でございまして、農民でもございませんし、農業をやったこと
もございません。都市の人間でございますが、水の問題に関われば関わるほど、日本の森林、林
業の大事さにまず行き着きます。その森林、林業の大事さという場合にはもちろん中山間地域の
問題が出てきますし、国有林問題、大変な問題で、林政審議会で検討の最中でございますが、そ
の森林の大事さを考えれば考えるほど農業の大事さも、これを見ないと森林一つ語れない、こう
いう関係にございます。
今、運ばれてきたコップの水一滴が、実は日本列島にあっては、森林と農地、つまり林業者と農
業者によって確実につくられている、人間がつくってきたものでございます。簡単に言えば、日本
列島がコンクリートだったら降った雨はどこに行くのか、簡単に言ってしまえばそういうことですが、
何千年の昔から、そうやって手をかけて養ってきた土壌の産物だと、いつもそう思っております。そ
れが今風前の灯のことは御承知のとおりです。
ですから、食料はもとより、そのもとである水の一滴を考えましても、今日本という国は、盛衰の
「盛」か「衰」か、どちらに行くのか、まさにその分かれ目にあるのではないか、いつもそういうことを
思っておりました。まさにその分かれ目のときにこの会議が始まったと思っております。そのぐらい
大事な、基本のところを問わないでは意味がない、根本から討議する必要があるだろうと思ってお
ります。
食料の問題だけ考えましても、私は食料問題の専門家ではございませんけれども、ヨーロッパ諸
国、仮に穀物を輸入しているような国でも、フランスのような輸出国はもちろんですが、オランダの
ように若干は穀物を輸入しているとか、そういうような国でも調べてみますと、万一経済封鎖があ
ったときは配給制にして、国民のカロリーをどこまで落として、そして、1年目は、例えばオランダは
畜産の国ですから、まずは家畜をつぶして食べる。そして畜産をやめて、2年目は穀物を食べて、
3年間でカロリーをどれだけ落として、どれだけ配給制にして、その間に牧草地を麦畑にかえると
か、そのように農地を変えていくという綿密な計画を立てております。そういうようなことを考えます
と、食料の問題一つ考えても本当に寒々とした思いがするのですが、今申し上げたように、水の問
題を考えると、森林も風前の灯、それは農業のいかんにも関わっております。
世界の環境問題、究極の資源は土だと申し上げているのですが、21世紀の資源は水と土だと言
われております。その水も土の産物でございますので、その土というのは日本列島にあっては、こ
のところの地すべりがいい例であるように、放っておけばどんどん失われて、はがれていくもので、
太古の昔から土を養ってきた、これは世界でほかにない、世界の奇跡をやってきたと私言っている
のですが、それが日本列島だったわけです。それはみんな農民がやってきたのが、今手薄になっ
ているわけです。
ですから、そういう大きな視野から見ますと、自分の国の食料というのは、基本的にはまず自分
の国で賄う、これが地球を守るエチケットである、こういう言い方をしております。子供の本などに
はそういう表現で書いております。まさにそのエチケットを守って太古古からつい最近までやってき
たのが日本文化でございまして、これは世界の奇跡であった。「維持可能な開発」という地球環境
問題の合言葉がありますが、それをやってきたのは、一つ土地で1万年近くやってきたのは日本
でございます。高度な文明国ではここしかないわけです。その日本の農業というものを再評価する
必要があるのではないかと思っておりました。
実は、この3月にハーバード大学に呼ばれまして、「日本文化と米」、その中の「日本文化と水」と
いう題名で講演したのですが、なぜ呼ばれたかといいますと、これからの21世紀にかけての世界
のテーマ、一番のテーマは「エコロジー」ではないかと、ハーバード大学では大学を挙げて考えた
そうでございます。大学院全学部あわせましてエコロジーということで集中的にこのテーマで研究
を始めた。その一環としてシンポジウムに呼ばれたわけでございます。
そこで今申し上げたように、日本はとにかく世界の奇跡をやってきたんだと、ところが、今それが
急速に壊れつつあるということをお話ししてきまして、皆さんショックも受けたし、共感もしてくだす
った。そういう意味では過去の日本文化を見直してくださったのですが、一方で、そういうような趨
勢にある。21世紀は、とにかく資源は水と土で、水で戦争が起こるような時代であると、これは国
連も言っていることですが、そして、エコロジーという視点で自国の土地を見ていかなければならな
い、あるいは人間と自然との関係を見ていかなければならないと、環境関係の人たちはみんなそ
ういう視点を持っております。 そのような視点を持ったときに、餌という食料の問題プラス環境と
いうもっと大きな視野から見ましたときに、自然に、しかも土地に拘束される農林漁業というもの
を、工業とも競争させ、外国とも競争させる。シカゴの上まで飛行機で行きますと、ちょっと窓の外
を見れば、これでどうやって競争するんだと、誰でもそのぐらいのことはわかると思うのです。いず
れにせよ、そういう問題ではない視点で、基本的なところを、私たちはこれから農業というものをど
うとらえなければいけないか、その辺の突っ込んだ議論をしていってほしいと思っております。
もう一つは、都市の意識の問題でございますが、これも大問題でございます。私いつも思うので
すが、渇水が起こりますと、渇水のたびに農業用水をくれという声が都市から出てまいります。農
業者の方たちもあまり危機感をお持ちにならない方も最近は増えている。昔は命がけで水を守っ
たのですが、今は蛇口ですから、末端の方たちは黙っていても水が来るものですから安心してい
られるのですが、そうやってじわじわと都市に取り上げられる、そういう流れになっております。
目の前に用水があって、そこを流れているじゃないかということになるのですが、実は、その用水
は端末まで隅々まで行かせなければならない。そして、大事なことは、これは水の専門家が誰も
言ってないので、ここであえて申し上げたいのですが、農業が水を使うこと、それ自体が水を作っ
ているのです。私、川の水や蛇口の水は森林と水田が作ってきたと今まで言ってきましたけれど
も、水田だけではない、農業が水を使うこと自体が水を作ることになるわけです。つまり農業が無く
なったら川の水は無くなっていくのです。地下水が無くなっていくのです。そういう視点が残念なが
ら、今まで水の専門家の間ではなくて、表面で、農業何トン、都市何トンという形でしかとらえてい
ないので、こういう視点がないのは非常に残念ですが、都市の人たちがそういうこともわからなくな
ってしまって、いろいろ声を上げますと、どうしても農業者の側は弱いという形で、水が減っていっ
ています。農業から水を取り上げれば何もできないはずです。しかも、それはつけとして都市の消
費者にも返ってくる、こういう関係にございます。
というようなことがたくさんございますので、一つこれは提案ですが、私など随分地方を歩いてい
るつもりですが、歩く度に発見があって教えられることが多いので、一度現地を、特に水というの
は見る機会がないので、一度できるだけ現地を見るというようなことをこの調査会でやっていただ
けないものだろうか、恐らくいろいろ発見があるのではないかと思いますので、お願いしたいと思
います。
○会長 現地というのはどういう現地ですか。
○委員 どこを選ぶかですが、農地ですけれども、水の張った季節に、どこか農村、山村でもよろ
しゅうございますし、とにかく食料を作っている現場を、できるだけ水との関連があるところで見て
いただければと思います。
○会長 ありがとうございました。
○委員 私は、今回の調査会の委員の御依頼を受けましたときに、率直に申し上げまして、農業
問題は全く素人でございますので、お断りしたわけですが、今度の問題というのは、非常に大きな
国際的な視点を含めた観点から考えていく問題であると。したがって、そういう視点での主張をい
ろいろしてくださるのも重要なのだというようなことを言われまして、最終的にはお引き受けしたわ
けであります。その意味で、農業の問題についてはこれからじっくりと勉強して、特に白紙の状態
から、この問題についての自分の判断を持っていきたいと考えているわけでございます。 ただ、
私も経済界の代表というのでしょうか、代弁という面もあるわけですが、基本的に私自身の物の考
え方としては、これからの社会の中においては、世界の大きな流れというものを考えますと、市場
経済原理というものを基本に物を考えていくことが必要であるし、これは農業といえども例外では
ないように思うわけであります。
ちょっと横道にそれて恐縮ですが、特に1990年以降におきまして世界の大勢というものが非常に
大きく変わった。その要因は、一つはグローバリゼーションの流れというものが非常に大きく強まっ
てまいりました。具体的に言えば、お金とか物とかあるいは情報とか、そういったものが国境の壁
を越えて自由に動き回るような社会になってきたということであります。二つ目の問題としては、
我々が想像していた以上にアジアの国々の発展が目覚ましくなってきておりまして、これは農業製
品だけではなくて、家電製品等々においても日本はとても競争できないような状態が生じていると
いうことを含んでいるわけであります。そして三つ目は、情報化という問題が、まさに情報革命と言
っていいような時代に入ってまいりまして、この面においてもアメリカが独走的な態勢をとったとい
うことが言えると思います。
こんな3点に対して、実は我が国の総合的なシステムというものが十分に適用できない、ある場
合には機能不全に陥っているという問題があって、日本の経済がバブル崩壊後におきまして非常
に揺らいでしまった、あるいは元気がなくなってしまったという状態が生じていると思うわけであり
ます。それは言い方をかえれば、日本の、農業を含めました産業の中での国際競争力、あるいは
生産性というものが非常に劣ってきているということを示しておりますけれども、しかしながら、い
わゆる工業製品などの輸出の分野におきましては、なお力が強いにもかかわらず、流通分野であ
るとか、農業を含めた国内の分野における生産性が非常に低いといったところに大きな原因が生
じているのではないかと思うわけであります。
政務次官からの冒頭のお話は、私にとっては説得的である部分もありますし、やや異論のある
点もあったわけでありますけれども、今度この調査会に参加させていただくという意味で、今回の
「農業白書」を拝見したわけですが、その中には非常に同感を得る点も少なくないわけであります
けれども、どうも先ほど申し上げましたような市場原理とか、あるいは生産性という視点からの分
析なり議論というものが、あるいはあるかもしれませんが、私の拝見した範囲においてはほとんど
見当たらなかったような感じがするわけであります。
私が申し上げたいのは、食料安保論というのもかなり説得的なものではありますけれども、しか
し、それはあくまでも生産効率を上げる、あるいは生産性を上げるということが大前提になっての
話でありまして、幾ら金を投入しても、あるいは一部の新聞の表現を借りれば、補助金づけの農業
政策ということが言われております。私はこれが正しいかどうかわかりませんが、そういう形で、効
率を考えない形で食料の自給率を高めるということは、言うなれば黄門様の印籠のような形で、も
うこれは聖域だから手のつけられない問題である、幾ら金をかけても食料自給率を引き上げてい
くという姿勢は、今の国際的な客観情勢の中から見れば許されないのではないかと思うわけであ
ります。
したがいまして、カロリーベースで見た食料自給率を引き上げなければいけない、どの水準まで
というのは、次官が言われたと同じように、私もどこが正しいのかというのは全くわかりません。こ
れからの検討事項ではないかと思うわけですけれども、そういったものを達成することは私も必要
だと思うわけですが、それに伴うプロセスにおいては、効率性、あるいは市場原理に基づいた対
応ということをもう少し強く意識して、この問題に当たっていくことが必要ではないか、そのような印
象を持っております。
その観点から資料についてお願いしたいわけですが、二つ御依頼したいと思います。
一つは、この36年間に及びます、現在の農業基本法の下における農業政策についての、もちろ
ん良い面がたくさんありますけれども、一方においてはネガティブな側面もあるわけでありますの
で、そういう36年間の我が国の農業政策の功罪につきまして、農林当局から、本当に客観的な形
での分析、評価というものをお出しいただいて、それに基づいて我々が検討するということが必要
ではないか、これが第1点であります。
それから、先ほども申しましたけれども、日本の農業には相当補助金などが入っているし、私は
はっきり言いまして、ウルグアイ・ラウンドの6兆100億といった問題については全く反対でありま
す。しかしながら、補助金行政というのは他の先進国においても大なり小なり行われているわけで
ありまして、横並びで見た場合、他の先進国におけるそのような農業補助金的なものがどうなって
いるのか、もう少し広く言えば、先進国における農業政策というものがどんな状態であるのか、そ
れを我が国との横並びの中で検討することも必要ではないかと思うわけであります。
今申し上げましたような、36年間の現在の農業基本法の下における功罪といった問題、横並び
で見た、他の国の農業政策、特に補助金との関わり合いにおける政策というのがどういう状態に
あるのか、この辺について最初に勉強させていただきたいと思っております。
以上でございます。
○会長 ありがとうございました。まことに納得できる点がございます。
○委員 農業の専門家でないので、ちょっと的を射てない点もあるかと思いますけれども、最初に
政務次官からいかに日本の食を保障するかというお話が出たのですが、確かに、今女性の社会
進出が進んでおりますのも、亭主から経済封鎖にあったときに、いかに一人立ちできるかという、
その辺がないと戦えないということがありまして、やはり最低限生きる食料を自分で持っていると
いうのは非常に大事なことであるというのは私も異論はございません。皆さんおっしゃったように、
農業は、環境保全という面でも非常に大切な役割を担っておりますし、私は農村出身ですので、
景観とか、文化という面に果たす農業の役割、農村の役割というのも非常に大事だと思っておりま
す。
そうは言いながら、では、それをどのように守っていくかというところでは、やはり国民の合意とい
うのがあって、その上で政策が行われなければならないと思っているのですが、今見ていますと、
農業政策というのが、戦後ずっとどちらかというと生産者の声を反映するという形で進められてき
て、消費者がちょっと不信感を抱いて、そっぽを向いてしまっているという状況があるのではない
か。それは今のお話にも出ましたけれども、農林議員と言われる方たちのごり押しで予算が通っ
てしまったという印象を国民が持つ。あるいは米価を決めるときには、圧力団体を持っているとこ
ろの声が非常に大きく反映されて、日本では消費者団体というのは、余り大きな力を持ってこなか
ったというところで、十分にその声が反映されないできてしまったという状況があると思います。
まず、農業が大事である、ではそれをどうすればいいかということを話し合うときには、広く国民
の合意を得るというところで、そういう不信感をまずぬぐっていただくことが大事ではないか。その
ためには、今もお話が出たのですが、私も、補助金というのが、一体どこにどのぐらい払われてい
るのかというのをぜひ知りたいと思います。やはり補助金に使われているのは税金ですので、そう
すると、国内農産物価格というのは、本当は価格プラス、その使われた税金も上乗せして考えな
ければいけないのではないかと思うのです。
さきほど申し上げたように、農業は必要なものである、それを維持するというためには必要な補
助金もあると思うのです。だから、必要な補助金が、必要な人のところに届いていればタックスペ
イヤーは納得すると思うのですが、今の状況は本当にそうなのだろうかと首をかしげてしまう、ガ
ラス張りでない。一体どこにどのぐらい使われているのかよくわからないし、その効果というのが本
当にあるのかどうかというのもよくわからない。だから、もしかしたら惰性でずっと継続しているよう
な補助金があったり、一部の業界とか、声の大きい方たちの圧力でずっと続いているような補助
金ももしかしたらあるのではないかと、私などよくわからないながら不信感を持っているので、ぜひ
その辺りの資料を出していただいて、検討するような機会を与えていただきたいと思っておりま
す。
そういう中で、農業は大事なのですけれども、農業をやっていて頑張った人が報われて、創意工
夫した人が報われて、その結果、安くて、おいしくて、安全なものを食べたいという消費者の要望
が満たされてという、その両方の利害が一致するような形で農業が発展していくにはどういう方法
があるのだろうというのも考えていかなければいけないと思います。
今、スーパーに行くとお米がいっぱい並んでいるのですが、一昔前に比べたら買う方は楽しいで
すよね。いろいろな銘柄があって、値段がいろいろ違って、今日は「あきたこまち」にしてみようかし
らという選び方もできる。そういう選択肢が多くなって、しかも、それが安全で安ければそれにこし
たことはないのですけれども、消費者も納得して、消費者に励まされて生産者の方も頑張って作っ
ていただけるという状況が望ましいと思っております。
あと、土地の問題も、農地は農業をするためにきちんと使われる、都市などで土地を持っていて
大金持ちの方の横を、本当に農業しているのかしらと思いながら通ることもあるのですが、農業地
はきちんと何かを生産するために使うという方策を担保するような方法もぜひお願いしたいと思い
ます。
○会長 ありがとうございました。
○委員 いただいた資料をしっかりと読ませていただきまして、その中に少し抜けているのは何だ
ろうかという斜めの読み方もしてみたわけですが、そのうち気がつきましたのは、技術の問題で
す。この辺が少し手薄なのではないかと思いました。農業基本法の中でも、農業技術の重要さと
いうのはうたわれているのですが、現実には、現場のニーズにあわせた速効性のあるものが開発
されている。それが中心である。それも十分にできているかどうかわかりませんが、そういう状況
だと思うのです。これはこれで非常に大切なことだと思いますが、もう一つ私が申し上げたいの
は、結果が出るには相当時間がかかる。しかしながら、これは基礎的な科学技術として重要なん
だという部分にしっかりと取り組んでもらいたいということであります。
最近、アメリカと日本の情報産業がこれだけ差が開いたというのは、要するに基礎的な知識の
深さが違うと言われておるわけです。どうして深さが違ってくるのか、これはある学者の解説です
けれども、アメリカは理学部を卒業した人が非常に多い、日本は工学部を出た人が大部分であ
る、その比率が、日本の場合には理学1に対して工学が8である、アメリカの場合には理学と工学
の比が1対1だと、そこで技術の深さというものが違ってくるので、日本もこれから創造の時代を迎
えて、理学と工学の比を1対1にすべきであるという意見があるわけであります。
私は、農業の基本になる農学、これは理学と工学の組み合わせででき上がっておると思うので
すが、ぜひひとつ理学的な知識を相当深く掘り下げるということをやってほしいと思うわけです。農
学関係にそんな理学的な知識を掘り下げる部分があるかという御疑問もあろうかと思うのですけ
れども、かつて、アメリカで最後に残る産業は航空宇宙産業と牛の品種改良であろうと言われたぐ
らいに、やはりこの部分には差別化の可能性というのは相当あると思うわけであります。
私どもも日ごろ生研機構、これに大変お世話になっております。生研機構というのは名前が長く
て「生物系特定産業技術研究推進機構」というものですが、これは大変いいと思っております。産・
官・学共同のシステムで、こういうものをますます充実していただきたい。聞くところによりますと、
アメリカでは現在インターネットの重要な部分については政府がサポートしておるということであり
ます。あるいはその開発に当たっては軍事費の一部も使われたと言われるぐらいでして、私は技
術に政府が金を使うことについては外国から文句は出ないだろうと思うわけでございます。
農学関係に必要な理学知識といえば、やはりバイオになるのかもしれませんし、あるいは情報
産業の基礎になっている部分かもしれませんが、こういったものが農業技術とどのように結びつく
のか、結びつかなければいけないのか、21世紀を見た場合に、非常に大事な部分ではないかと
思うわけであります。画期的な生産とか、品質の向上、あるいは環境保全型農業への移行といい
ましても、背景にはこういう部分がうまく働かないとできないのではないか。時間がかかるような問
題にこそ、ぜひひとつ政府が本腰を入れてやってほしいものだと思います。
あと二つほど付け加えたいのですが、一つは、そういう技術を農水省がしっかりと管理するとき
に、そういうことを担当する技術系の人というのはいらっしゃるのでしょうかと言ったら大変失礼で
すけれども、そういう技術系の人が生き生きとしてそういうことに取り組んでいくという制度といいま
すか、そういう部分は非常に大事なのではないでしょうか。例えば技術系を勉強して技官になられ
た方が、おれは次官になりたいといって、法学部に行って勉強したいと言ったら、2∼3年勉強させ
るということもあってもいいのかなと思います。これは余計なことかもしれません。
もう一つ余計なことを言わせてもらいますと、先ほどから補助金の話もいろいろ出ておりますが、
近ごろ企業倒産の際にオンバランスという言葉とオフバランスという言葉があるのです。バランス
シートで見た限りにおいては立派なのですが、バランスシートに載ってない部分を加えますと、オ
フバランスも入れるともう既に債務超過の状況にあったとか、そういうことがあるわけでして、我々
も農業における業績を見る場合には、このオフバランスというのも一緒にした形で見せてもらわな
いと本当のところはわからないのではないかと思います。
余計なことを二つ加えさていただきました。
○会長 ありがとうございました。大変大事な問題で、フランスで農業が豊かだというと、何となく
地味が肥沃なんだろうと思っている人が多いのですが、とんでもないことで、あれは技術の勝利な
のです。中世以来、修道院の技術、都市的技術が加わっているからこそ勝利している、これはアメ
リカもそうですが、おっしゃるように、技術の問題はぜひここで農業技術の振興をどうしたらいいか
考えなければいけないと思います。
○委員 3点ほど申し上げたいと思います。
一つは、我々がここで課題を議論してまいります場合に、農業に関わる問題を市場原理に委ね
るべき部分と、そうでない部分に分けて、市場原理に委ねるべき部分については、できるだけ自由
な創意工夫なり自己責任が働くようにしていく。他方、先ほどからお話が出ておりますように、土地
とか水の保全とか利用、あるいはそれに関わっての地域社会の、特定の条件の下でということに
なると思いますが、地域社会の維持というような、市場原理だけでは律し切れない部分というもの
を分けて議論し、考えていく必要があるのではないか。往々にして、そこが一緒になってしまうの
で、いろいろな意味で議論が錯綜したり、また、国民の理解を得にくいというようになっているとこ
ろがあるのではないかという気がいたしております。
前者の分野で申しますと、統計などを見ますと、平均値で埋もれてしまいますけれども、全国各
地で、単なる生産者から経営者へというような合言葉を旗じるしに、経営の計画を立て、そして自
分でその成果を点検する、そして地域や社会との共存・交流を図りながら、そこで加工とか販売・
流通というところまで取り組んでいこうというような、先ほど六次産業ということをおっしゃいました
けれども、そういった経営が各地で生まれてきております。こういった経営が伸びていけるような環
境条件をもっともっと政策面で整えてあげる。
例えて申しますと、今、農業生産法人の事業要件というのがありまして、こういう仕事をしている
のでなければ生産法人として認めないというわけです。これも加工とか販売などをつけ加えて弾
力化が図られてきておりますけれども、現実に農村を歩いてみますと、特に東北の方などにまいり
ますと、冬は、それこそ町の除雪を請け負うとか、民宿をやるとか、小規模な土木をやるとか、さま
ざまなことをやって1年間の就業の場、そして所得の場を確保しているわけです。
そういう制度面から現場にアプローチするということと同時に、現場のニーズに立って制度をど
のように直していったらもっと活力が出てくるかということ、あるいは農業法人で規模が大きくなり、
また、加工とか販売などにも取り組むということになりますと、経営管理ということがかなり大きな
仕事になりまして、中心となっている方はトラクターに乗るということはやらなくなるのですが、常勤
役員の過半数は農作業に従事しなければならないということになっておりますが、お米の生産費
などでは経営管理労働というのも労働時間の中に算入しているわけですから、その辺ももう少し
現場のニーズに、制度の入れ物の方を合わせていって、活力を伸ばしてあげるということを考える
べきではないかという気がいたしております。
そのことは同時に、農業政策のやり方についても、生産能率、生産性の向上をかなり追求できる
ような、平場の地域の政策と、水とか土地の保全とかということの観点から、また、さまざまな牧歌
的な伝統とかそういうものも含めて、生産能率だけでは追求できないような、また、維持すべき中
山間地域の農業なり集落に対する対策というものは仕分けて考えていく、そういう仕分けが必要
ではないかと思います。
一方で、市場原理なり規制緩和なり進めるべきところは大いに進めながら、他方では、例を挙げ
て言えば、農地というもの、土地というものは人間がつくることができない、再生産できないもので
ありますから、こういうものについては利用の仕方なり何なりについてはきちんとした制度で、秩序
のあるやり方をとっていくということが必要ではないだろうかと思います。そういう意味では、農地
転用の問題というのは、農地法がしょい込んでいる格好になっておりますけれども、ヨーロッパで
すと、非農業的な土地利用と農業的な土地利用を一緒にした、市町村レベルでかなり詳細な土地
利用計画がドイツでもフランスでもあります。そのようなものをできれば、今日国土庁もお見えにな
っておりますけれども、今後の政策の方向として探究していただいて、それと農地法の一筆ごとの
管理や許認可というものと、面的な土地利用の計画というものをうまく結びつけていくようなことが
将来の方向として考えられないかなということを思っております。
第2番目には、この20年ぐらいの農政の国際的な動きの一つとして、「モノからヒトへ」といいます
か、価格支持政策から、地域や農業者の状態に着目した所得政策への動きということがあると思
います。このように動いてきた理由なりモチベーションというのはいろいろあると思うのですが、一
つは、貿易の自由化や経済のボーダレス化で、内外価格差というものを維持しようと思っても、そ
の遮断がなかなか難しくなっている。遮断をしようとしましても、2次加工品、3次加工品という形で
輸入品が入ってまいります。また、人間の食生活自身が加工・流通のコストが非常にかかったも
のに向かってまいりますから、加工・流通産業が国内の農産物を相手にしなくなって外に出ていっ
てしまえば、幾ら価格政策をやっても国内の農業は空洞化してしまうわけです。つまり経済のボー
ダレス化ということが価格政策から所得政策への動きを促進してきたと思います。
もう一つは、農業財政予算の増大、あるいは財政再建とか財政改革の中で価格支持という手段
でやりますと、一番援助を必要とするような地域や農業者以外のところにかなりの受益がいってし
まう。むしろ所得支払いを地域なり農業者に対して選択的に行っていった方が、財政効率がいいと
いうように考えられるようになってきたということがあると思います。そしてまた、環境保全なり食料
安全保障ということが先ほどから出ておりますが、そのために残すべき農地なり、担い手とはどう
いうものかということを判断して、そこに集中的な支援をする方が国民の納得も得やすいということ
があったと思います。
ガット、今はWTOですけれども、こういうところで特定の農産物に直接関連した価格所得政策と
いうのは、生産や貿易を歪めるものになるので、これは削減交渉の対象になる。しかし、生産量と
関連づけられない、例えば条件不利地域の所得補償なり所得対策というものは削減対象外とい
いますか、ガットではグリーンボックスということで俗称されておりましたが、そちらの方に区分され
るということもこういった考え方の延長線にあるのだろうと思います。
また、ヨーロッパなどについて見ますと、税収の中で消費税といいますか、付加価値税の占める
割合が大きくなってまいりますと、農業支持が財政負担型といいますか、納税者負担型か、それと
も消費者負担型かといいましても、余りその違いが大きく感じられなくなっているという税収構造の
違いもあると思います。いずれにしても、国際的にそういうように政策が動いてきているということ
を、これから10年なり20年のタイムスパンで農政を考えます場合に、我々が頭に置いておかなけ
ればいけないことではないかという気がいたします。
3点目に、食品産業、流通・加工でございますが、これは農業と並んで食料供給主体として位置
づけるということをもう政策的に考えるべきところに来ているのではないか。単なる農産物の販売
先、あるいは消費者までのチャネルという考え方を脱して、今や食料消費の構造変化によりまし
て、国民が支払っている食料支出の75%ぐらいは加工・流通の食品産業の方へ行っているわけで
あります。かつては、消費者が払っている食料費のうち4割強ぐらいは、恐らく基本法ができた頃
は農業者の懐にいっていたわけですが、今は恐らく25%ぐらいであると思います。
しかも、農村部の流通形態が大きく変わってきておりまして、かつてのように小規模な出荷団体
から小さな小売店に回っていって台所に行くという形から、御案内のように量販店、外食産業とい
うのが出てきておりまして、野菜の種類によっては生産の6割、7割は台所ではなくて外食産業と
加工産業に行ってしまうというようなものが増えてきているわけであります。
他方、農業経営サイドでも、先ほどの六次産業ではありませんが、農業経営が加工・流通にまで
乗り出してくる。これは付加価値をとろうということのほかに、そういうところに乗り出すことによっ
て、今までは農協に持っていって売りっ放しという話だったのが、自分の作ったものがどのように
評価されるのか、何が消費者に求められているかというニーズをそれによって知ることができる。
それをまた自分の一次生産にフィードバックする、そういう格好で農業経営が加工・流通の方まで
乗り出していくというように非常に多様化してきております。
だから、一次産業、二次産業、三次産業の部分というのが、先ほど六次産業というお話が出まし
たけれども、融合化してきているということがあります。こういった変化に、どうも今のいろいろな制
度なり関係者の意識が追いついていないところがあるような気がしております。それが、近年の青
果物輸入の急増ということに、一次生産と加工・流通とがミスマッチの状態にあるということが輸入
の急増の一因にもなっていると思います。
また、食品産業に関して申しますと、かねてから食品産業の方からは内外価格差が原料につい
て大きくて、小麦粉にしても、砂糖にしても、我々が使う原料は国際価格に比べて極めて高い。し
かも、製品は完全に自由化され、低い関税で非常に厳しい競争にさらされているということがずっ
とあるわけでございます。主として小麦とか砂糖について言われておりますけれども、そういった
内外価格差の問題につきましても、先ほど申しましたように、放置をすれば2次加工品、3次加工
品の輸入で国内需要が満たされていく、あるいは加工・流通産業がどうしても外の方に出ていって
しまうということになるわけでありまして、この際思い切って、先ほど申しましたような価格・所得政
策の手法の見直しなり、あるいはまた砂糖というのは沖縄とか北海道とか、条件不利地域で作ら
れている作物ですので、そういった条件不利地域対策の充実の検討という中で、この内外価格差
問題について、長年の懸案になっておりますけれども、そういうことも改善が図れないか。そういう
ことをやりながら、食品産業を食料供給の主体としてきちんと位置づけていくという時代に来てい
るのではないかと思います。
以上でございます。
○会長 ありがとうございました。基本的な視点の見直しについてお話しいただきました。
○委員 私は、あれも大事だ、これも大事だと思うわけでございますけれども、こういう機会でござ
いますので、比較的総論的な立場から物を言わせていただきたいと思います。また、細かい資料
につきましては、直接事務局の方にお願いしたりする形をとりたいと思います。
大きくは3点ばかり申し上げさせていただきたいと思います。
まず第一は、国民的合意ということは大切ですけれども、今の時代、国民的合意と言ってもなか
なか難しいのではないかと思います。といいますのは、先般新聞を見ておりましたら、日本が国民
に供給している総供給カロリーのうち約20%が廃棄されておるという現実がございます。世界中の
食べ物をかき集めまして、日本人が世界一の飽食をしているというのが実態ではなかろうかと思
います。十分食べて、満足している国民に農業が大事だと、国土が大事だということを言いまして
も、なかなか理解が得にくいのではないかという考えを私は持っております。ただ、ここに御列席
の皆様は非常に御理解があると思いますし、そういう意味でも国民に農業の問題、農村の問題を
訴えることが必要ではないかと思っておるわけでございます。
そうはいいましても、いろいろなアンケート等で返ってまいりますのは、昨年の総理府の農業・農
村についてのアンケートによりましても、82%の方が少々高くても国内で自給を基本とすべきであ
るという回答を出されておりまして、アンケートが頼りない面もあるのですが、飽食しながらも、日
本の国民はかなり農業について御理解を持っておられるということもまた事実でございます。こう
したことを踏まえまして、21世紀に向けた農業・農村の基本理念を作るという時期が参っておるの
ではないかというのが第1点でございます。
第二に、そうした国民の合意がある意味では得られている、あるいは得られつつあるということ
が前提ですけれども、このアンケートは、必ず付随しまして生産性を上げるという努力を前提にし
て日本の農業を守るべしという但書き付きの国民の理解であろうかと思います。そういう意味で
は、先ほどから出ておりますように、市場原理の導入、内外価格差の是正という方向は、農業が
産業の一つである以上避けがたいことではなかろうかと思います。
そのほかに、消費者の視点からいいますと、輸入と備蓄を取りまぜた食料の安定的供給という
ようなこと、食料の安全性を確保してほしいということ、あるいは飢餓問題を持っておる国に対し
て、あるいは食料が不足がちな国に対して、さまざまな食料、技術の援助ということ、国際貢献を
すべきであるというような高邁な国民の考え方もございます。そのためには、国内の基盤整備であ
るとか、担い手の確保というようなことが日本の農業にとっては重要であろうかと思います。
市場原理ということを私言いましたけれども、これは極めて大事なことで、先ほど来、たくさんの
方から日本農業の生産性を上げるべし、国際競争にも耐えるような農業をつくるべしという御意見
がたくさん出ておるわけでございますけれども、確かにそういう努力を一日も日本農業は欠かすこ
とはできないと思いますけれども、そこにはおのずから限界があるのではないかということも同時
に国民に御理解をいただく必要があると思います。
その限界といいますのは、いろいろな点から指摘できるかと思いますけれども、日本が競争の相
手と目してきましたアメリカ農業は約200年余りの歴史があります。ヨーロッパ大陸からアメリカ大
陸に人々が行きまして、非常に広大な、しかも平坦で、まだ200年しか使っておりませんから、非常
に肥沃な大地でございます。こういうところを占拠いたしまして、初めからヨーロッパ向けの輸出産
業として確立されておる。こういうようなところと、日本のような非常に山岳の多い国で、傾斜地も
多く、谷筋、川筋で農業経営をしてきたという国と、一概に比較して競争力といいましても、なかな
か難しかろうと思うわけでございます。
アメリカ農業は、数字だけいいますと180倍、200倍近い規模の差がありますし、ヨーロッパももち
ろんアメリカと比べますと劣位に立っておるわけですが、さらに日本はその劣位にあるということ
で、自然条件、その他の歴史的な条件を考えますと、市場原理の導入といってもおのずから限界
というものが存在する。このことも絶えず努力しながら国民に御理解をいただく必要があるのでは
ないかと思っているわけでございます。
限界のもう一つの理由ですが、今環境問題が論じられておるわけですが、環境問題につきまし
ては、環境を語る場合は経済を抜きにして語る、経済を語る場合は環境を抜きに語ってしまうとい
うミスマッチといいましょうか、トータルな思考がなかなかできないという状況が、私どもを含めまし
て、あるように思うのです。アメリカ農業も、カーターの時代でしょうか、アメリカ農業は略奪型の農
業で、こういう農業を長年続けていくことは不可能であるというレポートを出しておりますし、日本は
日本で、確かに農業が環境を汚染しているという面とともに、環境に対してプラスの役割を果たし
ている、両面があろうかと思います。輸出国は輸出国で大きな環境問題を抱えつつある、輸入国
は輸入国でまた別の環境問題を、農業をつぶすことによって別の環境問題を抱え込む。輸出国も
輸入国も別な形で環境問題を抱えつつあるのではないかという認識をすべきではないかと思いま
す。こういう点から市場原理といってもおのずから限界があるということでございます。
そうした視点から見ますと、大国でありましたイギリスが、今は普通の国になりましたけれども、
かつては日本と同じように、カロリーべースで50%を切るという時代がありました。1930年代です
けれども、第二次大戦後は、農業の多面的な価値というものを認識する中で、農業の自給率とい
うものを高めようということで歴史を動かしてきているわけでございまして、80%、90%というように
戦後次第に自給率を高めたことは皆さん御承知のとおりであろうかと思います。
ドイツにつきましてもほぼ同じような考えで、この国で書かれたものをいろいろ見ておりますと、
大体70∼75%ぐらいは、きちんとした国であれば食料を自給する権利があるという言い方が書物
の中で書かれておりまして、この権利という言い方は、アメリカの農業はさらに安くできるということ
もありまして、自国の農業を守るという姿勢が含まれているのではないかと思いますが、それにし
ても70∼75%程度は食料を自給する権利があるという言い方、日本は既にカロリーだけでも42∼
43%に落ち込んでしまっているわけですから、世界に冠たる輸入大国、輸入貢献国という状況、こ
ういった点についてどのように考えたら良いかということを、私はもう少し自給率を上げるべきでは
ないかと思っておりますけれども、国民に真剣に考えていただくような機会になればいいのではな
いかと思うわけでございます。
第3番目ですが、農村社会の問題です。農業といいましても、持続的に、そこに定住できる農村
社会がなければ担い手も育ちませんし、したがって、農業も育たないということになるわけでござ
いまして、農村社会というものがどのように形成されていくかということが今後の大きな課題ではな
いかと思っております。その点で、私はドイツに1年間留学して研究した結果ですが、日本は、三
全総あたりから分散論が出てまいりますけれども、二全総あたりまでは一極集中はやむを得ない
と、東海道メガロポリスへの集中はやむを得ない、集中することによって日本は荒廃の中から高
度成長を遂げて経済的に立ち直れるんだという基本認識があったように理解しております。
しかし、ドイツは1930年ごろからほぼ同じ道をたどりますけれども、分散論を当初から唱えて、そ
して同じく高度成長を遂げておる。この1点において、ほかのことは大体同じなのですけれども、集
中はやむを得ないんだという考え方と、集中を避けて分散で、しかも高度成長を遂げた、そして都
市と農村の一体的な振興といいましょうか、そういうことをなし遂げた国であるというように私は思
います。
日本は集中もやむを得ないという形で進んできましたので、大都市問題、過疎問題というような
二極の問題が著しく起こっておる、こういう点を是正していく必要がある。特にドイツのような、大都
市は作らない、100万都市はできるだけ作らない、あるいはこれ以上膨らまさない、中小都市と農
村と結合しながら、そこで農民のトータルな生活、あるいは都市民の農村に近い、あるいは自然的
なリズムに近い生活を都市民も満喫していくという世界を作ろうとしておるわけでございます。私
は、こういうドイツの行き方というものを、今後、21世紀は学んでいく必要があるのではないかと思
っております。
私のところの学生の研究ですが、私が今言いましたことを裏付けるような研究論文が出てまいり
ました。たとえ3万ぐらいの小さな都市であっても、車で30∼40分走ったところにパチンコ屋もあり、
商店もあり、あるいはたまにはプロ野球もやってくるというようないろいろな設備を持った都市とい
うものがある地域では、非常に農村も活力もあるし、農業のいろいろな諸指標を検討しましたとき
に活力を持っておる。それ以上離れたところはどうも活力が薄い。そのような地域は約40%に及
ぶという結論を出しまして、くしくもこの40%というのは、日本の中山間地域、農水省が試算されま
した42%とほぼ一致するということで、今五全総が検討されておりますけれども、そういうものと連
動しながら新しい農村づくり、新しい都市づくりということの中で農業問題が解決されていくのでは
ないかと思っております。
あと、農業の基本問題を検討するということであれば欠かせない項目がたくさんございます。ここ
で一々申し上げる時間はございません。こういう問題を考えてほしい、あるいはこういう資料をお
願いしたいということはまた後ほど個人的にお願いしたいと思います。
以上でございます。
○会長 ありがとうございました。
○委員 私は農業のことは余りよくわからないので、若干控えておるわけでございますけれども、
先ほど食品産業の立場というお話が出ましたので、その立場から発言させていただきたいと思い
ます。
内外価格差というお話がありましたけれども、確かに小麦、砂糖、バターと大変差がありまして、
そういうようなところから若干苦しんでいるということもあるわけでございますし、また、往々にして
海外に材料を求めるということもありますので、この辺はどのように対応したらよろしいのか、検討
の余地がたくさんあるのではないかと思います。
それから、食品産業の立場からいたしますと、農業・農村の問題、そういうようなことを一緒に考
えますと、私どもが新しい製品を開発できるような、新しい素材の開発と申しますか、そういうもの
がぜひとも必要なのではないか。先ほどからお話があるのですが、農村における後継者の問題と
いうことがありますが、私どもの業界でも小さなお店は後継者の問題ということで、たくさんそういう
ような問題があります。
どのように対応したかと申しますと、変化への対応ということで、やはり最先端の事業に取り組ん
でいく。そうしますと、新しい事態がそこに発生してきますから、いろいろと難しいこともありますけ
れども、そこに新しい魅力が発生してきて、そこに若い人が積極的に帰ってくるという事態が発生
いたしております。そういう意味で、私は、変化への対応という観点から、農業のあるべき姿という
ことを見直すべきではないだろうかと思います。
論理的に考えますと、こうなってしまうということもあろうかと思いますけれども、現実の私どもの
仕事から見ますと、やはり農業も生きていると思います。いろいろな変化の中にいるはずなので
す。それに一つ一つ丁寧に対応していくことによって、いろいろと良いことが出てくるのではないか
と思います。
最近では冷凍技術というのが大変進んでおりまして、カレーさえも冷凍で加工場に入ってきまし
て、カレーパンを固形のままで包んで焼くという技術が最近進んでおりますし、野菜も冷凍でスティ
ックになって出てきまして、それを包んで焼くということも現実に起きているわけでございます。そう
いう意味では、どんどん技術の変化があるわけでありますので、そういうものに対して対応できる
ような農業のあり方と申しますか、そういうものに対応することによって魅力をつけていくといいま
すか、そういうことが可能なのではないかということを私は感ずるわけでございます。
先日参加いたしましてから、どういうようなことを私自身言うべきなのかといろいろと考えさせてい
ただいておるのですが、これまでの農政というのは、資料から読み取りまして、個々の農家を対象
にした農政ではなかっただろうか。そうではなくて、もう少し人の集団と申しますか、そういうものを
対象とした、個人ではなくて、人が集まった、それを対象にした農政というような農政のあり方があ
るのではないか、そのようなことを強く感じている次第でございます。
以上で終わります。
○会長 ありがとうございました。
○委員 このような機会を設けられまして、基本法の改正というところへ結実させていこうというわ
けですから、その作業は国民的なコンセンサスを得るように、とにかく全力を尽くすべきものだと思
うわけです。
予算について一例を言えば、農業関係の予算というのは非常に無駄が多いかのように国民的
に理解されているのだろうと思います。これを21世紀に入ってもずっと続けていくというのは国民
的な不幸だと思いますから、いずれにしても、この機会にコンセンサスをしっかり作るように努力す
べきものなのだろうと思います。そういう意味では、政務次官が言われたように、「食料」ということ
をキーワードとして強く出して、広宣流布していくということは、戦略的にはいいのではないかとい
う気がいたします。
それと同時に、国民的なコンセンサスを得るという観点では、象徴的になっているのは財政との
関わりの問題もあると思います。財政の方は御承知のとおり、財政構造改革会議が強引にスター
トして、六大改革の一つというか、その先頭を切るような形でぐんぐん動いている。そういうことが
可能になっている、あるいは許されているバックグラウンドというのは御説明するまでもなく、主要
先進国の中で、どう見ても最悪な状態になったというものがありますから、それとの関係で、これ
からの農業基本法に結びつくいろいろな施策なり何なりを議論していくときに、そのバックグラウン
ドは常に踏まえていく必要があるだろうと思います。
財政の話は、予算を作るときの一つ一つの細かい政策との絡みでやればいいじゃないかという
わけにはなかなかいかなくなっているのではないかという気が私はしておりますので、そこのとこ
ろは折々十分踏まえていっていただきたいと思います。
もう一つ、資料をお願いしておきたいのは、私が不勉強なのかもしれませんが、私の記憶では、
平成4年に新政策を農水省として発表された。それから平成6年に農政審議会から国際経済社会
との関わりにおいての位置づけについての報告が出ている。それから、先般研究会が農水省の
方でもたれて、農業基本法の方向づけを、いろいろな論点を整理されたものが出ているということ
ですが、新政策というのは、考えてみると今から5年も前になってしまったのですが、新政策から
最近までの議論がどうつながって、どういうようになっているのか、古証文になっているわけでは
決してないわけでありますから、議論の流れがよくわかるようにフローチャート化して、整理してい
ただけないかという希望を持っております。
もう一つ、農業の議論で、私は昔から、これも私の不勉強なのかもしれませんが、予算との関わ
りでいつも感じていたことですが、どうも農業政策に関しては地方公共団体の顔というのがあまり
見えてこないわけです。私には見えてこないのですが、あまりにも地域性があるから、あるいはそ
ういうことなのかもしれないと思うのですが、ほかの行政分野に比べると、地方公共団体との関係
ということが耳に入ってくる度合いが大変少ない分野だなと。それだけ農水省がしっかりやってい
るということだとは思うのですが、これからは財政問題との絡みでもそうでありますけれども、地域
政策というか、さっき都市と農村という話がありましたが、それと似ているのかもしれませんが、中
央政府と地方政府ということの関わりにおいて、国と地方の役割分担の関係、私は「地方分権」と
いう言葉はあまり好きではないのですが、地方分権という言葉を使わなくてもいいのですが、国と
地方政府との役割分担のようなものはどのように考えていったらいいのかということを一遍議論し
ていただきたい。そこに、結果として効率性の手がかりが出てくる可能性があるのではないかと思
うわけです。
主として財政に絡んだような話だけ申し上げましたけれども、そのほかいろいろ勉強させていた
だきたいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。
○会長 ありがとうございました。
○委員 地方公共団体の話が出ましたが、私は地方公共団体の長ということでこの席に出させて
いただいているわけであります。そういう意味で二、三お願い申し上げたいと思います。
一つは、私自身の経験も絡むのですが、今から36年前、昭和36年に農業基本法ができましたと
きに、私はある大きな農業県の農政課長をやっておりました。農業政策を展開するについての、
昔の戦争でいえば第一線小隊長みたいなことをやっておりまして、そのときに非常に張り切って仕
事をしたことをよく覚えております。
その理由は何かと考えてみますと、基本法が非常にわかりやすかった。バックグラウンドの説明
も、個々の農家にまで非常に浸透しやすい、うまい説明ができるような内容だったと思います。こ
れからも、どんな政策でも大部分の政策というのは、国から県に来て、県から市町村長を説得し
て、特に農業政策であれば、市町村長が農協長なり農業団体長といろいろ相談しながら農家に浸
透を図っていくというプロセスは、これからも相当の期間続くのだろうと思うのです。
そういう意味で、国から出される政策というのはわかりやすくないとなかなか浸透しにくい。ちょっ
と申し上げにくいのですが、新しい食糧法ができたということで、食糧法の中身を見ないでマスコミ
の皆さんも、若い記者は特にそうだったと思いますが、売る自由、作る自由ということだけが先行
してしまっていたわけです。ですから、今の新食糧法と言われる法律の中に「生産調整」という言
葉が法文上載っているということを知っている人はまずいない。ですから、あのようなトラブルも起
きてくるのだろうと思います。
生産調整の大切さというものをきちんと踏まえて今の食糧法ができているということについての
認識ができていないというのは、逆に言いますと、あの法律が難しいというのでしょうか、読みにく
いというのでしょうか、それに比べると食管法というのは非常にわかりやすくて、誰が読んでもすっ
と読めた、わかったわけです。世の中複雑になってきましたから、そう簡単にはいかないかもしれ
ませんが、非常にわかりにくい。ですから、これから議論して、新しい基本法を作るということにな
ると思いますが、ぜひわかりやすくしていただきたいと思うのです。
論議はあくまでも精緻であることが必要だと思いますが、それが取りまとめられて、政策として表
に出るときには、論議は精緻であっても、外に出るときの論理というのは、個々の農家にも、農村
の指導者にもわかりやすい論理でなければ、幾ら立派な法律、制度を作りましてもまず浸透しな
いのではないかというのが、私知事になりまして10年足らずですが、私の実感でございます。くど
いようですが、新しい基本法が36年前にできたときの印象は非常にわかりやすくて、若い農政課
長が、恐らく100回以上各農村を歩いてしゃべっても、個々の農家が若い農政課長の話にうなずい
てくれた、それくらいわかりやすい説明と中身、そして、当時の財政事情もあっただろうと思います
が、財政当局の支援というのがそれをきちんと裏付けてくれたということが、あの基本法が当時に
おいて農村に浸透した理由だろうと思います。
そういう意味で、これからはお願いですが、これから調査会としていろいろ検討を重ね、検討の
範囲を決めていくわけでしょうけれども、同時に、いろいろ検討された検討項目を統一的に、できる
だけわかりやすい形で体系化するということもぜひお願いしたいと思っております。現在の基本法
は、政策項目というのが非常にわかりやすいシナリオのもとに体系化されていたというのが私の
印象でございます。これが政策をわかりやすいものとし、また、農家がそれでついてきたということ
を、私は経験として申し上げるわけであります。そういう意味で、今後検討項目が整理され、項目
ごとに部会で検討が深められると思いますが、適当な時期に、項目相互間の関連づけというのも
大変大事だと思いますので、合同部会みたいなことになるのかよくわかりませんが、御配慮いた
だけたらと思っております。 それが申し上げたいことの一つであります。
もう一つは、土地問題です。農業問題というのはすぐれて土地問題でありまして、農業政策の展
開というのは土地利用制度と深く関わっているわけであります。知事として仕事をやってみます
と、日本の土地利用制度というのは、あってなきがごときものだという気がして仕方がないわけで
あります。確かに都市計画法というのがあります。それは計画的に決められたところだけについて
何がしかの規制らしきものがある。農地法あるいは森林法はそれなりの立場で転用規制とか何か
という形での規制であります。
逆に言いますと、どこかである程度の規模の開発行為が行われますと、私はこれをあえて乱開
発と言っておりますが、知事の仕事の8割と言っていいと思います、私が悩む仕事の8割はいかに
して都市から来る乱開発の要請をけとばすかということに精力を使い果たすわけであります。恐ら
く大部分の知事さんはそうであろうと思います。土地利用についてもっと知事に、例えば環境との
絡みでもう少し裁量権が与えられるとかということが必要だろうと思いますが、農地問題について
もそうでございます。
御存じの方も多いと思いますが、今の都市計画法では、確かに機関委任事務で知事が開発許
可をするということになっておりますが、条文をよく読みますと「許可をしなければならない」と書い
てあります。がけ崩れの心配がないか、水は確保できるか、公道に面しているかどうかというごく
当たり前の要件が幾つかありまして、その要件に該当していれば「許可をしなければならない」と
書いてあります。それを野放しにすれば、全くの乱開発になってしまいますから、申請者にしてみ
れば、県庁の役人は生意気だと言われるかもしれませんが、それこそ脅したり何かしながら、意地
悪行政を展開して、緑を残さなければ許可の期限をもう少し延ばすとか何とかぶつぶつ言いなが
ら、訴えられることもしょっちゅうございますが、訴えられても構わないから頑張れと言っておりま
す。
そういう意味で、外国の場合、特に先進国の場合、美しいまちづくり、地域づくりがなされている
のは、土地利用についての哲学みたいなものがありまして、「計画なければ開発なし」という開発
についての統一的な理念というのがあるわけです。この「計画なければ開発なし」という思想は、
だんだん日本においても学者の方、有識者の方でおっしゃる方が増えてきたことは大変うれしく思
っております。
せんだっても諸井虔さんがやっておられます政府の地方分権推進委員会の、この前出ました答
申の中に、これからの地域づくりに当たっては、「計画なければ開発なし」ということを法律制度と
して確立しなければ、これからの地域づくりなんかできないということを答申の中に書いてございま
した。その答申を読んだときは非常にうれしかったのですが、そういう意味で、この調査会で農村
の地域政策の検討を進めるに当たりましても、この調査会の性格からいきまして、どこまで検討が
可能であるかということは、若干の危惧なしとはしませんが、諸外国におきます「計画なければ開
発なし」というような土地利用制度についての確固たる統一的な理念の構築というものもぜひ視野
に入れて御検討いただければありがたいと思っております。以上でございます。
○会長 ありがとうございました。
○委員 大変素人でございますので、雑駁なことしか、感想的なことしか申し上げられないのです
が、産業人として見てみますと、日本が世界の中の先進国という立場にここ数十年の間になって
きた。その間、企業というものが経済力発展の先導役になって、日本の国力を上げてきたのは事
実だと思うのですけれども、現在、日本の企業というのは岐路に立たされておりまして、ある部分
は世界の競争の中に堂々と立っていけるハイテク企業が生まれた。それに比べて、非常にドメス
ティックな企業は、規制の網の中で保護されてきた、そういうものがここで打ち破られないと21世紀
の日本の経済の活力は取り戻せないということが経済構造改革の一つの問題点として考えられ
ております。私、たまたま規制緩和の委員会の中にいるわけですけれども、日本の産業は、どうし
てもここで構造改革をしないと、21世紀の日本をこれまでのように引っ張っていくことはできないと
いうところに来ていると思います。
翻りまして、同じ産業ではございますけれども、農業というものを考えてみますと、ここ数十年
間、日本の他の経済界が世界に伍していこうという意気込みでやってきたのに比べまして、反対
の形で止まってしまっていたのではないか。言うならば、補助金だとか公共投資だとか価格支持
制度というもの、他の産業が右肩上がりで作り上げた果実の分配を数十年にわたって降る雨のご
とくばらまいてきた結果、実は日本の隅々まで行きましても、都市のサラリーマンよりも所得の多
いという農村地帯ができてきて、ひょっとしたら農村地帯の生活というのは、都市よりも結果的に
は良いものができてしまったのではないか。こういうのが都市の住民から見ると、そういう目で農
業・農村というものを見ているのかもしれないという感じがいたします。
そして、こうして基本問題が生まれてきたというのは、前向きに、世界に伍して動いた他の産業
界と違って、ずっと停滞してきたことによって基本問題が生まれてきた。なぜ今こういう問題が生ま
れてきたのかということに、過去36年の歴史を振り返るということの中に答えの幾ばくかがあるの
ではないかという気がいたします。
私なりに解釈いたしますと、食料・農業・農村という、これは経済政策なのか、社会政策なのか焦
点が定まらない形でいろいろな施策が行われてきた。経済政策と弱者対策のようなものがミックス
されてその時々知恵が絞られてきた結果が、かなり大きな問題として今に引き延ばされてきたの
ではないかというように思われてならないわけであります。したがいまして、21世紀の農業を一つ
の産業分野として見た場合には、社会政策的なことを一応除きまして、できるだけ限界まで経済
政策として農業を、経済合理性でどこまでやれるのか、土地とか限界があるということはあります
けれども、経済合理性の限界を追求したとはとても思えないわけでございますから、ぎりぎりまで
追求した上で、それでも社会政策的な何かを加えなければいけないということであれば、私は国
民の合意はとれなくもないと思います。
今までのような弱者対策と称する、弱者対策であるけれども、これは経済政策だといいながらや
ってきたことには大変矛盾があるのではないかと思います。規制緩和の中で、最近私がぶち当た
ったのは、繭とか生糸の産業に対する対応、生乳の集荷制度等の対応などで少し勉強させてい
ただいたわけですが、今後ともこういう形の農業政策というものを続けることはとても無理だろう
と。そういう意味では、農業に対する政策の考え方の基本に手を入れないと解決できないという気
がいたします。
もう一つ、農村、瑞穂の国の自然保護、緑したたる国土という考え方は確かに理解できるわけで
ありますけれども、それはひょっとしたら農村の自己主張が少し強くなり過ぎているのかもわから
ない。国民の過半を占めている都市住民は、ここ数十年の間ものすごい環境の激変の中で自分
たちの生活の歩みをつくってきたわけであります。比べまして、農業だけが全く変わらない形で生
活環境を維持していくということが前提でないと、21世紀の農業政策は作られないというふうに考
えるとしたら、ひょっとしたらそれは全国民のコンセンサスの得られない形の問題意識ではない
か、そんな感じもするわけでございます。
いずれにいたしましても、農業というものは土地が基本だというように今もお聞きしておりますけ
れども、本当に土地というものを大事にするのであれば、国土の総合計画の中で最も乱開発をや
ったのは公共事業ではなかったかという感じもいたします。そういう面を含めて、総合的な国土計
画の見直しということも含めて農地のことを考えないと、また基本問題を検討したけれども、効果
がなかったということになったり、さらに他の産業との行き方が乖離したりということになったら不幸
が続くような気もいたします。
農業を全く知らない一ビジネスマンの感想ですけれども、これからもう少し勉強させていただきま
して、何か別な発言もできればと願っておりますので、よろしくお願い申し上げたいと思います。
○会長 ありがとうございました。
本日、大変に充実した内容の御意見をちょうだいいたしました。最初に政務次官からお話があり
ましたように、全世界が今転換期で、農業はもちろんですが、工業もこれからどうするか、どういう
道を選択すべきか、大きな岐路に立っていることは事実です。その意味で、明確でわかりやすい
理念、これはぜひこの調査会で明らかにしたいと思います。
その上で、今皆様方おっしゃったように、例えば市場原理と、我々がここで生きていく安心とをど
ういうふうに両立させていくか。これは両方とも必要なものですから、どのように両立させていった
らいいか。あるいは、農業をやる愛情というのが大事で、これは非合理な面かもしれませんが、で
も大事なことでありまして、土に対する愛情がなかったら、その意味では、都市の人にも土に対す
る愛情をどうやって持っていただくか、これは国民的な課題だと思います。
それから技術のお話が出ましたが、確かに今技術全体が低迷しておりますけれども、農業技術
をどうやって振興して伸ばしていくかということは非常に大事なことです。一次、二次、三次産業と
いう区分とは違う見方が確かに必要なときに来ているということも言えると思います。一方では市
場原理も大事ですが、他方では、人間の力では木の葉一枚つくれないのですから、すべて大自然
の恵みなので、その意味では非合理な要素も必ずあるわけで、それもまた大事なわけです。
一つつまらない話をさせていただきますが、1992年にニール・ジョーダンという映画監督が冗談
抜きでつくった映画がありまして、「クライング・ゲーム」という映画で、アカデミー賞にノミネートされ
た映画です。この中に「サソリとカエル」という話が出てきます。これは寓話なのですが、サソリがカ
エルに頼むんです。おれ、泳げないから、おまえの背中に乗せて川向こうまで渡らせてくれと、カエ
ルは断るんです。おまえなんか背中に乗せたら刺すだろうと言って。そうするとサソリが答えるん
です。そんなことするわけない、おまえ刺したらおまえ死んじゃうし、おまえ死んだら、おれも死んじ
ゃうんで、そんなことするわけない。これは合理主義です。なるほどと思って、カエルはサソリを背
中に乗せて川を泳ぎ出した。川の途中に来たら、サソリはカエルを刺した。カエルは沈みながらサ
ソリに聞くわけです。なぜだ、なぜおれを刺すんだと。サソリが答えるんです。これがおれの性なん
だ、生まれつきだからしようがないんだと。
この生まれつきだからしようがないんだということが今国際紛争を引き起こしているわけです。例
えばアイルランド系の人がロンドンで爆弾事件を起こす。安心がないのでやっているわけです。ボ
スニア・ヘルツェゴビナの紛争も、クロアチア人というのは「上から下・左から右」へと十字を切りま
すが、セルビア人は逆で「上から下・右から左」に十字を切るわけです。これは気分が合わないで
すよね。足で歩いている人のそばで、手で歩いている人がいればやはり気分が合わない、安心が
ありませんですよね。
もう一つ、イスラム教徒は御神体が見えないですから、この御神体が見えないのと左から右と右
から左がごちゃまぜになっているのがボスニア・ヘルツェゴビナで、安心がないということが紛争を
引き起こしております。不安心は紛争を引き起こす。安心はお互いに手と手の結び合いを引き起
こす。これは理屈ではありません。今それで国際政治とか国際経済が訳がわからなくなってきてい
るわけです。数字ではなかなか読めなくなってきています。
どこでも文化とか宗教とか伝統というものの意味が大きくなってきているのは事実です。その意
味では、知事にもう少し権限を与えよと、地域の独自性というものを農業政策の場合でも発揮する
時代が来たかなという感じもいたします。そのようにしろと言っているのではないのですが、そうい
う転換期であることは間違いなくて、単なる合理主義だけでもうまくいかないです。ぜひ安心のあ
る、しかし、もっと効率性を高めた農業・農村、その根底になるのは食料です。ぜひこれをここで議
論していただいて、一つの大きなアクションを含んだ調査会にしたいと思っておりますので、何とぞ
よろしくお願いいたします。
来月13日に次回会合がありますが、そのときは今日皆様からお出しいただいた論点を整理しま
して、ある程度の柱立てになるようなものを用意させていただいて、それでいいかどうか、もっと大
事な柱が抜けているとか、そういう議論を次回お願いする。そのための資料を、今日もこれまでの
農水省の功罪というお話がありましたが、農業政策の功罪であれ何であれ、過去どういうふうに動
いてきたか、水の問題もそうですが、これまでどういうふうに動いてきたかという問題をわかりやす
くするような資料、その他、今日出てきたものを御用意いただく、そういうことで次回やらせていた
だければと思っております。
一応食料・農業・農村という三つの部会を設ける。前回御意見がございましたように、横の連絡
のこともぜひ考えさせていただきますが、一応3部会をつくって、食料・農業・農村基本問題調査会
令第4条第2項というのがありまして、「部会に属すべき委員及び専門委員は、会長が指名する」
となっておりますので、最終的には私の方に委員分けを御一任させていただくということで、なるべ
く御希望に沿うようにいたしますが、特定のところに人が集まるのも具合よくありませんので、最終
的にはお任せいただきたいということでございます。よろしゅうございますか。
○会長 ありがとうございました。
それでは、次回は6月13日、午後2時、場所は本日と同じ東条インペリアルパレスを予定してお
りますので、何とぞよろしくお願いいたします。
本日はまことにありがとうございました。
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