...

資料4 実務者レベル検討会報告(PDF形式:0KB)

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

資料4 実務者レベル検討会報告(PDF形式:0KB)
資料4
産業構造審議会 貿易経済協力分科会
インフラ・システム輸出部会
実務者レベル検討会報告
平成 24 年 6 月 15 日
はじめに
中国や東南アジア、あるいはアフリカ、中南米をはじめ、急速に経済成長を遂げている新興
諸国では、インフラ需要が拡大している。この市場に対して、我が国では平成 22 年「産業構造
ビジョン 2010」において、戦略 5 分野の一つとして「インフラ関連/システム輸出」を掲げ推
進している。
こうした中、平成 24 年 4 月に開催された「産業構造審議会貿易経済協力分科会 インフラ・
システム輸出部会」において、日本企業のインフラ・システム輸出に係る競争力強化につき、
あらためて実態の詳細な把握、課題の抽出、今後の対応策を検討するため、
「実務者レベル検討
会」が設置された。
本報告は、実務者レベル検討会において、発電プラント、石油関連プラント、スマートコミ
ュニティ、鉄道の 4 分野を題材として、日本企業の競争力の現状を分析するとともに、今後の
あり方について検討した結果を取り纏めたものである。
第 1 章では、新興国の台頭等によって競争が熾烈化している「機器・設備輸出」と「EPC 型
インフラ輸出」を中心に、我が国のコスト競争力等の現状と課題、そして対応方策について示
す。
第 2 章では、世界人口の都市集中化、さらに資源・エネルギー問題や環境問題を背景に、新
たな市場として拡大している面的開発について、各国が受注機会の獲得に向けた取組を加速し
ている中、我が国の先進事例、韓国及びシンガポールの事例から、面的開発における官民一体
的な取組の必要性について示す。
第 3 章では、我が国ではインフラプロジェクトを全て本邦企業で進める「オールジャパン」
をこれまで課題としてきた面があるが、多様なノウハウが求められる事業投資について、本邦
企業の参画状況、そして欧米・新興国企業の動向を踏まえ、事業投資の促進策や「オールジャ
パン」を過度に意識することなく、第 3 国との連携によって競争力を高める重要性について示
す。
第 4 章では、インフラプロジェクトの大型化や発注国ニーズの多様化、新興国を含めた受注
競争等を背景にビジネス形態の多様化が進んでいる中、我が国のインフラ・システム輸出支援
ツールの現状と課題について示す。
―
目
次
―
はじめに
第 1 章 コスト競争力等の強化 ......................................................... 1
1. コスト競争力の現状 ............................................................. 2
2. コスト競争力の強化策 .......................................................... 14
3. 技術力の強化 .................................................................. 16
4. マーケティング戦略 ............................................................ 19
5. グローバル人材の育成 .......................................................... 20
第 2 章 面的開発における官民一体的な取組の必要性 .................................... 23
1. 日本の取組 .................................................................... 24
2. 韓国の取組 .................................................................... 27
3. シンガポールの取組 ............................................................ 28
4. 欧米の取組 .................................................................... 29
5. 官民一体となった取組の必要性 .................................................. 30
第 3 章 事業投資の促進 .............................................................. 33
1. 事業投資の現状 ................................................................ 33
2. 事業投資の意義 ................................................................ 38
3. 事業投資の促進策 .............................................................. 39
第 4 章 インフラ・システム輸出支援ツールの現状と課題 ................................ 42
1. 海外現地法人を通じた国際ビジネス展開への支援 .................................. 42
2. 現地通貨為替リスクへの支援 .................................................... 44
3. 案件組成・受注活動への支援 .................................................... 46
4. 人材育成への支援 .............................................................. 48
おわりに
実務者レベル検討会 委員名簿
実務者レベル検討会 検討経過
第 1 章 コスト競争力等の強化
インフラ・システム輸出の市場は、新興国における人口増加、経済成長、都市集中化、先進
国におけるインフラの老朽化等を背景に、世界的に需要が拡大し、2011~2030 年の世界全体で
必要な投資額は 24 兆USD(年平均 1 兆 2000 億USD以上)と見込まれている 1。また、ADB
の予測によれば、2010~2020 年のアジア(ADB加盟の開発途上国)のインフラ需要は 8 兆USD
(年平均 7500 億USD)に達すると推計している 2。
この拡大するインフラ市場では、
「産業構造ビジョン 2010」において「個別の設備・機器納
入のみならず、
「システム」としてインフラ関連産業の海外展開を進めることができれば、継続
的な収益獲得とともに、システムとして受注・展開するために必要な高度な技術・ノウハウの
獲得を通じて、我が国産業の高度化、付加価値の増大が期待できる」と掲げられており、ビジ
ネス形態は、従来の機器・設備輸出から EPC、事業投資へと多様化してきている。
本章では、新興国の台頭等によって競争が熾烈化している「機器・設備輸出」と「EPC 型イ
ンフラ輸出」を中心に、我が国のコスト競争力等の現状と課題、そして対応方策について示す。
また、日本の強みをいかした事業投資については、第 3 章において現状と課題、対応方策を示
す。
案件組成
ファイナンス
Engineering
Procurement
Construction
事業投資
機器・設備輸出
【参入企業】商社等
【参入企業】商社、エンジニアリ
ング企業、メーカー企業等
【収益モデル】プロジェクトの事
業権を獲得し、当該事業から収
益を得る
O&M
EPC 型インフラ輸出
【参入企業】商社、エンジニアリング企業、メーカー企業等
【収益モデル】機器・設備の設計・製作・据付けを一貫して請
負、収益を得る
事業投資/インフラ・システム輸出
【参入企業】商社、エンジニアリング企業、銀行、メーカー企業等
【収益モデル】ファイナンス、EPC、O&M の各段階で収益を得る
図表 1-1 インフラ・システム輸出のビジネス形態
1
2
The Global Infrastructure Marketplace: The Next 20 Years, CG/LA Infrastructure, 2011.01
Infrastructure for a Seamless Asia, Asian Development Bank and Asian Development Bank Institute, 2009
1
1. コスト競争力の現状
1.1 本邦企業の競合状況
中国・韓国の台頭
●プラント・エンジニアリング市場において、近年台頭してきているのが中国や韓国等の新興
国企業である。2005 年から 2010 年にかけて、我が国の海外インフラのプラント・エンジニ
アリング受注額が約 200 億 USD/年で横ばいであるのに対して、中国や韓国では 4 倍以上の
成長を遂げている。
(図表 1-2)
●中国は、自国内に巨大なマーケットを有し、自国内でのインフラ開発の経験をいかして、ア
ジアやアフリカのインフラ受注において存在感を示してきている。
(図表 1-3)
●韓国は、自国内の限られたマーケットに危惧し、国家戦略としてインフラ輸出を進め、主に
中東において成果を上げている。
(図表 1-3)
(億USD)
1,400
< 日 本 >
< 韓 国 >
< 中 国 >
1,344
1,262
1,200
1,046
1,000
776
800
660
645
600
462
421
463
400
256
176
200
236
158
167
233
296
254
158
0
2005 2006 2007 2008 2009 2010
2005 2006 2007 2008 2009 2010
2005 2006 2007 2008 2009 2010
※統計上、中国の受注額にのみ建築工事等を含む
図表 1-2 日本・韓国・中国の海外インフラの受注実績
<アジア>
(Rank)
1
3
5
1
2
<中東>
<アフリカ>
1 中国
3
4
日本
2
3
3 中国
韓国
5
3
4
5
5
6
6
7
1 中国
1
2
3
2
1
日本
5
6
7
韓国
韓国
8
9
8
8
11日本
11
2002
2006
2010
2002
2006
2010
2002
2006
図表 1-3 日本・韓国・中国の地域別の海外インフラ受注額ランキング
1
2
プラント・エンジニアリング(PE)輸出多角化支援調査, 日本機械輸出組合
The Top 225 International Contractors 2003,2007,2011, ENR
2
2
2010
発電プラント・石油関連プラント分野
本邦企業の立ち位置と韓国企業の成長
●エンジニアリング企業の海外市場における売上高では、Bechtel(米)
、Saipem(伊)
、Fluor
Corp(米)等の欧米企業に次いで、Samsung Engineering(三星エンジニアリング・韓)や
Daelim Industrial Company(大林産業・韓)等の韓国企業が上位に入っている。
●本邦企業は日揮が 35 位、千代田化工建設が 70 位、東洋エンジニアリングが 76 位に位置し
ている。
図表 1-4 エンジニアリング企業の海外市場における売上高(2010 年)ランキング 1
順位
企業名(国)
売上高
(百万 USD)
うち海外市場分
(百万 USD)
3
Bechtel(米)
19,714
12,500
6
Saipem(伊)
12,107
11,605
7
Fluor Corp.(米)
17,194
11,566
9
Technip(仏)
8,069
7,940
14
KBR(米)
7,648
5,864
22
Petrofac Ltd.(英)
4,354
4,354
28
Foster Wheeler(スイス)
4,068
3,472
34
Samsung Engineering(韓)
4,660
3,070
35
日揮(日)
3,589
3,024
38
Techint Group(伊)
3,095
2,836
41
Daelim Industrial Company(韓)
5,673
2,383
43
CB&I(米)
3,041
2,220
48
GS Engineering and Construction Corporation(韓)
7,043
1,969
70
千代田化工建設(日)
1,284
730※1
76
東洋エンジニアリング(日)
1,205
843※1
※ENR「The Top 225 International Contractors 2010」の中から、ゼネコン等を除く石油化学、発電等のプラント・エンジ
ニアリング分野で国際入札に参加する企業のみを掲載
※1 千代田化建設、東洋エンジニアリングの海外市場分は 22FY に占める海外分から推計
1
The Top 225 International Contractors 2010, ENR
3
韓国企業の強さ
●韓国企業の成長の背景には、世界最大のエネルギー産出地域かつプラント需要地域である中
東地域での台頭が挙げられる。中東における EPC 受注企業の約 47%は韓国企業が占めてお
り、本邦企業だけではなく、欧米企業も厳しい競争下に置かれている。
(図表 1-5、図表 1-6)
●韓国企業が受注した主要プロジェクトをみると、本邦企業も参加し競合の結果敗れている案
件が少なくない。また、韓国企業が参加する案件に対して、本邦企業が参加していない場合
もあり、韓国企業が業界を席巻している。(図表 1-7)
●韓国では、若手の人材を積極的に海外に派遣し、就業経験を積ませることで、海外ビジネス
を担える人材の育成を国として支援しており、こうした人の競争力も、韓国企業の強さの一
つと考えられる。
図表 1-5 中東における石油・ガス分野のEPC受注トップ企業(2010 年度) 1
順位
受注額概算
(百万 USD)
企業名(国)
1
Saipem(伊)
7,300
2
Samsung Engineering(韓)
6,300
3
Daelim Industrial Company(韓)
4,386
4
SK Engineering and Construction(韓)
3,100
5
日揮(日)
3,000
6
Hyundai Engineering and Construction(韓)
2,007
7
GS Engineering and Construction Corporation(韓)
1,973
8
Petrofac(英)
1,115
9
Uhdel Inventa-Fischer(独)
1,100
10
Hyundai Engineering Company(韓)
1,093
UK, 3%
インド, 4%
日本, 4%
UAE, 4%
US,
2%
その他,
10%
韓国, 47%
2010 年度
ドイツ, 4%
イタリア, 17%
クウェート, 5%
図表 1-6 中東における石油・ガス分野のEPC受注国籍
1
2
The Top 225 International Contractors 2010, ENR
MEED 社特別報告, 2011.07
4
2
図表 1-7 韓国が受注した主要プロジェクト(100 億USD以上)における日本との競合状況(2010/2011 年) 1
※赤字:本邦企業
プロジェクト名(国)
金額
(百万 USD)
UAE 原子力発電所(UAE)
CSP 製鋼プラントコンプレックス
(ブラジル)
ラビーク 6 火力発電所
(サウジアラビア)
18,600
4,339
3,389
ディーゼル発電プラント(イラク)
2,951
尿素肥料プラント
(オーストラリア)
2,878
クラヤ複合火力発電所
(サウジアラビア)
Petron RMP-2 プロジェクト
(フィリピン)
LNG 海上浮揚式生産貯蔵出荷設
備 1 基(オランダ)
海上浮揚式生産貯蔵出荷設備
1 基(フランス)
リヤド PP11 民活発電プロジェクト
(サウジアラビア)
シャー・ ガス田開発プロジェクト
(UAE)
Mong Duong 1 発電所(2 基)
(ベトナム)
ラス・アズール海水淡水化
プロジェクト(サウジアラビア)
低硫黄石油&ガス向けパイプ
ライン据付(クウェート)
ガス田開発プロジェクト
(ミャンマー)
2,118
1,970
1,851
1,811
1,581
1,496
1,462
1,460
1,406
1,398
ムジュ 2 火力発電所(ベトナム)
1,276
Sur Independent Power Project
(オマーン)
1,258
トリポリ西蒸気発電所(リビア)
1,236
Shiba ⅡPower Plant
(サウジアラビア)
LNG 海上浮揚式生産貯蔵出荷
設備 1 基(ノルウェー)
海上浮揚式生産貯蔵出荷
設備 2 基(オランダ)
1,231
1,175
1,102
石炭火力発電所(インド)
1,085
Yanbu 2 Power & Water Project
(サウジアラビア)
1,046
1
受注企業
KEPCO
(韓国電力公社)
POSCO Engineering and
Construction(ポスコ建設)
Doosan Heavy Industries
(斗山重工業)
STX Heavy Industries
(STX 重工業)
GS Engineering and Construction
Corporation(GE 建設)
Samsung Corporation
(サムスン物産)
Daelim Industrial Company
(大林産業)
Samsung Heavy Industries
(サムスン重工業)
DSME
(大宇造船海洋)
Hyundai Heavy Industries
(現代重工業)
Samsung Engineering
(サムスンエンジニアリング)
Hyundai Engineering and
Construction(現代建設)
Doosan Heavy Industries
(斗山重工業)
Hyundai Engineering and
Construction(現代建設)
Hyundai Heavy Industries
(現代重工業)
Doosan Heavy Industries
(斗山重工業)
Daewoo Engineering and
Construction(大字建設)
Hyundai Engineering and
Construction(現代建設)
Daelim Industrial Company
(大林産業)
Samsung Heavy Industries
(サムスン重工業)
Hyundai Heavy Industries
(現代重工業)
Doosan Heavy Industries
(斗山重工業)
Hyundai Engineering and
Construction(現代建設)
ENR 2011.01 号, 2010.01 号
5
日本の入札参加企業
GE(米)~日立製作所~日揮~鹿島
丸紅~Doosan(韓)~Hanwha(韓)
住友商事~KEPCO(韓)
Powertec(マレーシア)
~日揮~Saudi Oger(サウジアラビア)
日揮
※Daewoo Engineering and Construction(韓)
の下請けで富士電機が参加
千代田化工~Hyundai Heavy Industries(韓)
日揮~DSME(韓)
本邦企業の受注状況
●中東における発電プロジェクトの受注企業をみると、本邦企業は事業者として総合商社や電
力会社が参入し、その他ベンダーとして主機となるタービンや発電機等を納入している。
●EPC 受注企業をみると、
本邦企業の名は無く、中東において競争力を有する韓国企業
(Doosan
Heavy Industries(斗山重工業)、Hyundai Heavy Industries(現代重工業)、Samsung
Corporation(サムスン物産)
)が名を連ねている。
図表 1-8 中東における発電プロジェクトと受注企業(2010 年度) 1
※赤字:本邦企業
プロジェクト名(国)
受注企業(事業者)
受注企業(EPC)
Brake Nuclear Facility(UAE)
KEPCO(韓)/
Doosan Heavy Industries(韓)
Hassyan Power and Desalination
Plant(UAE)
TAQA(UAE)/丸紅
Yanbu IWPP(サウジアラビア)
Bushehr Nuclear Facility(イラン)
Hanwha
Engineering
Construction(韓)
Atomstroyexport(露)
主機メーカー
東芝【タービン】
Alstom(仏)/SK(韓)
&
Alstom(仏)
日立【ポンプ等】
Ras Al Zour Power & Desalination
(サウジアラビア)
SWCC(サウジアラビア)
Doosan Heavy Industries(韓)/
Al-Arrabu Contracting(サウジ
アラビア)/SepcoⅢ(中)
Ras Laffan-C IWPP(カタール)
Suez(仏)/三井物産/中部電
力 / 四 国 電 力 /QP( カ タ ー
ル)/QEWC(カタール)
Hyundai Engineering &
Construction(韓)
三菱重工【Power】/
三菱電機【発電機】/
Sidem(仏)【Desal】
Rabigh Plant Extension-Phase6
(サウジアラビア)
SEC(サウジアラビア)
Doosan Heavy Industries(韓)
Doosan Heavy Industries(韓)
Shuaiba 3 IPP(サウジアラビア)
ACWA Power
(サウジアラビア)
Alstom(仏)
Alstom(仏)
Shuweihat 2 IWPP(UAE)
Suez(仏)
Samsung Corporation(韓)
Siemens(独)【Power】/Doosan
Heavy Industries(韓)【Desal】
Jizan Economic City Power Plant
(サウジアラビア)
Riyadh PP11(サウジアラビア)
Al Dur Power and Desalination Plant
(バーレーン)
Sur IPP(オマーン)
Shuweihat S3 IPP(UAE)
Salalah IWPP(オマーン)
Shams 1 Concentrared Solar Plant
(UAE)
1
CPI Power Engineering(中)
Suez(仏)/Al-Jomail/双日
Hyundai Heavy Industries(韓)
Suez(仏)
Hyundai Heavy Industries(韓)
丸紅
Daewoo Engineering(韓)
Siemens(独)/
Daewoo Engineering(韓)
住友商事/KEPCO(韓)
Sembcorp(シンガポール)/
Oman Inevestment Corp(オマ
ーン)
Masdar Total Abengoa(UAE,
仏,スペイン)
Top 20 Middle East Power Project
2011 年度版プラント輸出データ便覧, 重化学工業通信社
6
Sepco-Ⅲ(中)
GE(米)
GE(米)【Power】/
Degremont(仏)【Desal】
Siemens(独)
Siemens(独)
GE(米)【Power】/
Hyflux(シンガポール)【Desal】
鉄道分野
本邦企業の立ち位置
●鉄道車両製造企業の売上高をみると、ビッグ 3 と言われる Bombardier(加)
、Alstom(仏)
、
Siemens(独)に、中国の CSR(中国南車)
、CNR(中国北車)が割って入っており、本邦
企業は川崎重工業が7位となっている。
●鉄道部品の一つである信号・制御装置のアジア市場におけるシェアをみると、中国の CRCS
(中国鉄道通信信号)が 25%を占めているが、ここでも Siemens や Bombardier が上位を
占めている。本邦企業は京三製作所が 5%(5 位)を占めている(但し、その大部分は国内向
け)
。
Bombardier(加)
Bombardier
Alstom(仏)
Alstom
CSR(中国南車)
CSR
CNR
CNR(中国北車)
Siemens(独)
Siemens
GE(米)
GE
川崎重工業
Kawasaki
CAF
CAF(スペイン)
EMD
EMD(米)
TMH
TMH(露)
0
1
2
3
4
5
図表 1-9 鉄道車輌製造トップ 10 企業の売上高(2009 年) 1
CRCS(中)
※中国鉄道通信信号
25%
その他
35%
2005~2009 年平均
Siemens(独)
18%
京三製作所(日)
5%
Ansaldo(伊)
7%
Bombardier(加)
10%
図表 1-10 アジア市場における信号・制御装置シェア
1
2
SCI Verkehr FmbH
SCI Verkehr FmbH
7
2
6 (十億ユーロ)
本邦企業の受注状況
●鉄道分野では、電力分野の IPP/IWPP のような事業投資案件が少なく、機器・設備の単体輸
出から車両や信号のシステム、路線建設等が主である。
●事業投資案件では、本邦総合商社がブラジルやオーストラリアにおいてコンソーシアムに参
加している。
●本邦メーカー企業は、車両や信号システム等の各社強みをいかし、時には総合商社と連携し
て受注している。しかしながら、欧米地域ではビッグ 3 の受注が多い。
●その他、本邦デベロッパーやコンサルタントが見受けられるが、その多くは円借款案件であ
ることが特徴である。
図表 1-11 主要プロジェクト(1 億USD以上)と受注企業(2011 年) 1
※赤字:本邦企業
プロジェクト名(国)
広州・地下鉄 5 号線車輌調達
(中国)
金額
【形態】 受注企業
2.1 億 USD
【調達】伊藤忠~CSR(中)
広州・地下鉄 6 号線建設(中国)
2.8 億 USD
【調達】伊藤忠~中国企業
広深高速鉄道建設
(香港)
50 億 USD
(総事業費)
【建設】
五洋建設
前田建設参加JV
Laing O’Rourke(英)参加JV
6 億 USD
【調達】三菱重工~伊藤忠
新交通システム導入(マカオ)
都市交通システム(台湾)
車体傾斜式電車調達(台湾)
南北鉄道橋梁安全性向上事業
(ベトナム)
ブルーライン延伸(タイ)
パープルライン建設(タイ)
ジャカルタMRT南北線
(インドネシア)
ジャワ南線複線化事業(第 3 期)
(インドネシア)
コルカタ東西地下鉄建設
(インド)
貨物新線建設計画(DFC)西回
廊 Phase1(インド)
チェンナイMRT整備事業
(インド)
1
3.6 億 USD
3.7 億 USD
1.4 億 USD
円借(STEP)
18 億 USD
(総額)
30.1 億 USD
(総事業費)
10.5 億 USD
(総事業費)
E/S 0.1 億 USD
本体 2.3 億 USD
12.5 億 USD
(総事業費)
56.2 億 USD
(総事業費)
48.7 億 USD
(総事業費)
備考
リニア地下鉄車輌 192 両
リニア地下鉄車輌 196 両
※三菱電機:車両用電機品受注
五洋建設:トンネル 受注額不明
前田建設参加JV:823A 工区 166
億円、823B 工区 348 億円
Laing O’Rourke(英)参加JV:
810B 工区 2.6 億ユーロ
車輌・システム・メンテナンス
(5 年)
【調達】
川崎重工
Alstom(仏)
CTCI Corporation(台)
【調達】住友商事~日本車輌
136 両
【建設】鉄建建設参加JV
※円借案件
【設計】日本工営参加JV
※円借案件
【コンサル】東急建設
【建設】Sino-Thai(タイ)、
東急~CK(タイ)
東急建設:約 393 億円
東急~CK:約 100 億円
※円借案件
【設計】日本工営参加JV
※円借案件
【コンサル】
日本交通技術参加JV
日本交通技術参加JV:10 億円
※円借案件
電力供給システム
※円借案件
Phase1第 1 期E/S 分 26 億円
※円借案件
Alstom(独):車輌 168 両
日本信号:自動出改札(AFC) 20
億円
※円借案件
【調達】Siemens(独)
【設計】日本工営参加JV
【建設】CCCL(印)、L&T(印)
【調達】Alstom(仏)、日本信号
2012 年版プラント輸出データ便覧, 重化学工業通信社
8
図表 1-11 主要プロジェクト(1 億 USD 以上)と受注企業(2011 年)(続き)
プロジェクト名(国)
バンガロール・メトロ建設事業
(インド)
ムンバイ・メトロ 2 号線(インド)
電気機関車調達(トルコ)
鉄鉱石運搬用電気機関車調達
(南アフリカ)
2 階建て鉄道車輌調達
(米-ニュージャージー)
金額
16.2 億 USD
(総事業費)
26.8 億 USD
(総事業費)
4 億 USD
2.3 億 USD
2 億 USD
【形態】 受注企業
【調達】
三菱商事~三菱電機~Rotem
(韓)~BEML(印)
【調達】
住友商事~Alstom(仏)~
Thales(仏)
【BOT】Reliance(印)他
車輌 32 両
【調達】Bombardier(加)
車輌 100 両
※東芝が車両用電機品受注
※Ansaldo(伊)が川崎重工から
車内信号機を受注
※富士電機がリニアドア駆動装
置等受注
【調達】川崎重工(内定)
2 階建て鉄道車輌調達
(米-イリノイ)
5 億 USD
【調達】住友商事~日本車両
Eagle P3 プロジェクト
(米-コロラド)
20 億 USD
【PPP】DTP(DTP(米)~
Flour(米)~Rotem(韓)他)
モノレール建設(ブラジル)
8.3 億 USD
モノレール 17 号建設(ブラジル)
8.3 億 USD
2.8 億 USD
設計、建設、ファイナンス、40 年
O&M
※三菱電機が Rotem(韓)から電
機品 25 億円受注
【EPC】Scomi(マレーシア)他コ
ンソーシアム
【建設】Scomi(マレーシア)~
CR Almeida(ブラジル)
【調達】Wabtec(米)
【PPP】ViaQuatro
(三井物産参加)
【メンテナンス】Bombardier(加)
~Downer ED(豪)
【調達】Bombardier(加)~
Downer ED(豪)
鉄道車輌調達(豪-西豪州)
1.6 億 USD
Gold Coast Rapid Transit ネット
ワーク(豪)
9.2 億 USD
【PPP】GoldLinQ
(丸紅参加)
2.7 億 USD
5.7 億 USD
【調達】Bombardier(加)
【調達】Bombardier(加)
3.4 億 USD
【調達】Siemens(独)
3.7 億 USD
4.1 億 USD
(Alstom 分)
【調達】Siemens(独)
【調達】
Alstom(独)他コンソーシアム
電車調達(豪-アテレード)
地下鉄信号改修(英-ロンドン)
信号改修プロジェクト(デンマー
ク-コペンハーゲン)
地下鉄車両調達(ポーランド)
路面電車(LRT)建設
(カザフスタン)
BOT の事業権獲得
【調達】三井物産~東芝
55 億 USD
1.6 億 USD
三菱商事~BEML(印):車輌 150
両
住友商事~Thales(仏):信号設備
等
※円借案件
【調達】Rotem(韓)
高架鉄道建設(米-ワシントン)
列車制御システム調達
(ブラジル)
地下鉄 4 号線建設・運営事業
(ブラジル)
鉄道車輌メンテナンス
(豪-西豪州)
備考
※E/S:調査/設計
※各社リリース情報等を基に作成しているため、全案件を網羅していないことに留意
※2011 年為替レート(平均)、豪ドルは 2010 年為替レート(平均)を基に作成
9
コンセッション契約獲得(車両・鉄
道システムの調達、30 年 O&M)
期間 7 年間半
設計、建設、ファイナンス、15 年
O&M
※車両は Bombardier(加)
1.2 機器・設備輸出の現状
発電プラント・石油関連プラント分野
●我が国の機器・設備輸出額の推移をみると、2005 年の 19.8 億USDから 2010 年には 27.1 億
USDへと増加しているが、韓国は 3.9 億USDから 12.3 億USDへと約 3 倍、中国は 3.7USD
から 40.3 億USDへと約 11 倍の成長を見せている。なお、中国においては他分野を含めた全
輸出額のうち、外資系企業の輸出は 54.6%に及ぶことに留意が必要である 1。
●韓国及び中国の 2010 年の輸出先をみると、両国ともにアジアへの輸出が過半数を占める。
特に中国ではインドやインドネシアへの輸出が多い。また、韓国では北米・南米に次いで、
アフリカと中東がそれぞれ 10%程度を占めている。このように、両国ともに、アフリカやイ
ンド、中東等の新興国市場の取り込みを進めており、前述のプラント・エンジニアリング受
注と同様に、機器・設備輸出においても成長している。なお、中国においては、先進国企業
の生産拠点として、外資系企業の輸出も当該輸出拡大に寄与している。
(億USD)
50
< 日 本 >
< 韓 国 >
< 中 国 >
41.7 40.3
35.6
40
27.1
30
19.8
20
17.7
20.9 21.2
23.5
13.1 12.3
13.1
8.8
10
3.9
4.2
3.7
3.7
6.2
0
2005 2006 2007 2008 2009 2010
蒸気・過熱水ボイラー
EU
7%
Oceania
2%
2005 2006 2007 2008 2009 2010
補助機器・復水器
Europe
1%
Middle East
10%
Africa
11%
ガス発生機等
Africa
3%
Middle East
3%
Europe
6%
The Americas
6%
< 韓国 2010 >
輸出先シェア
2005 2006 2007 2008 2009 2010
蒸気タービン部分品
EU
2%
Oceania
0%
< 中国 2010 >
輸出先シェア
Asia
56%
The Americas
6%
Asia
80%
※HS 品目は 8402、8404、8405、8406 を使用。但し、船舶推進用タービンである 840610 は除く。
図表 1-12 発電プラント・石油関連プラント分野における日本・韓国・中国の機器・設備輸出額
1
2
中国海洋統計, 2010
Global Trade Atlas , 2012.05
10
2
鉄道分野
●鉄道分野の我が国の機器・設備輸出額は、機関車または車両の部分品が微増しているが、車
両の変動が大きく、総額では 2005 年の 13.4 億 USD から 2010 年には 6.7 億 USD へと減少
している。他方、韓国は 0.7 億 USD から 6.5 億 USD と約9倍、中国は 5.3 億 USD から 16.8
億 USD へと約 3 倍の成長を見せている。
●この成長の背景には、韓国では Hyundai Rotem(現代ロテム)の海外展開、中国ではビッグ
3 等の技術供与を受けている CSR(中国南車)や CNR(中国北車)の海外展開、欧米企業や
本邦企業の生産拠点の移転が寄与していると考えられる。
●韓国及び中国の 2010 年の輸出先をみると、両国ともにアジアへの輸出が多いが、韓国では
北米・南米、アフリカ、ヨーロッパへの輸出も多い。他方、中国ではアジアに次いで中東や
オセアニアが多い。
(億USD)
20
15
< 日 本 >
< 韓 国 >
< 中 国 >
16.8
13.4
11.9
9.0
8.3
10
10.1
9.3
6.7
6.2
6.5
5.3
5.0
5
0.7
2.1
2.8
6.7
7.7
3.0
0
2005 2006 2007 2008 2009 2010
機関車・客車・貸車等
Oceania
3%
2005 2006 2007 2008 2009 2010
機関車又は車両の部分品
EU
0%
2005 2006 2007 2008 2009 2010
信号等の機器・部分品
EU
7%
Middle East
5%
Africa
3%
Europe
1%
Asia
30%
Asia
33%
Europe
17%
The Americas
16%
< 韓国 2010 >
輸出先シェア
< 中国 2010 >
輸出先シェア
Oceania
17%
Africa
19%
The Americas
6%
Middle East
26%
※HS 品目は 8601、8602、8603、8604、8605、8606、8607、8608 を使用。
図表 1-13 鉄道分野における日本・韓国・中国の機器・設備輸出額
1
Global Trade Atlas, 2012.05
11
1
1.3 コスト競争力の現状
インフラ分野の特性によって競争力や優位性が異なるが、本邦企業の技術力・品質が優れて
いても勝てない、その大きな要因がコスト競争力であることは、インフラ・システム輸出に係
る全ての関係者の共通認識である。
例えば、韓国企業はそのコスト競争力等を武器に受注を伸ばしている。本邦企業が同様に低
価格で応札し、価格面で競争すべきかどうかは、個別案件ごとに地域や技術分野等に応じてケ
ースバイケースで検討すべきであるが、一例として発電プラント・石油関連プラント分野のプ
ロジェクトにおけるバリューチェーン上のコスト競争力について、近年成長が著しい韓国企
業・本邦企業とを比べると以下の現状が挙げられる。
発電プラント・石油関連プラント分野
●火力発電所及び石油関連プラントを例に、本邦企業と韓国企業のコスト競争力について比較
すると、総額では本邦企業より韓国企業が 15~20%安価であるとの見方が多い。
●特に顕著であるのがコンストラクションにおけるコスト競争力であり、韓国企業の強さの一
つに「選択と集中」が挙げられる。これは中東地域のプロジェクトを集中して受注し、建設
部隊を複数のプロジェクトに共通的に活用することで、1 プロジェクト当たりのコスト低減
を図り、さらに資材調達コストの低減や納期短縮によって圧倒的なコスト競争力を得ている
と指摘されている。また、積算においてオーバーヘッドコストやコンティジェンシーコスト
を計上していないため、コスト競争力があるとも指摘されている。
●エンジニアリングについては、高い技術力を要する基本設計は我が国で行い、詳細設計は海
外で行う、あるいはプロジェクト全体を海外拠点で担う等、本邦企業の中にも現地化の動き
がみられる。韓国では自国内に多数のサブコントラクターが存在し、安価な労働力を武器に
コスト競争力を得ているが、本邦企業の現地化の進展に伴い、コスト面での差異は縮まりつ
つある。
●調達については、韓国企業が自前で調達できる場合にはコスト競争力があるものの、ハイエ
ンドモデルは自前での調達が難しく、技術力を有する欧米企業や本邦企業から調達すること
になり、コスト競争力の差異が縮まる。
例えば、火力発電プラントにおける、タービンやボイラー等の主機に関して言えば、要素技
術が必要であるため、韓国企業とのコスト競争力に差異がない。しかしながら、火力発電プ
ラントにおける補機(Balance of Plant)
、石油関連プラントにおける配管等の部材について
は、韓国企業が調達する自国内や現地の安価な製品に対して、本邦企業のコスト競争力は弱
く差異が出ている。
●我が国の優れた技術が相手国ニーズに対してオーバースペックである場合や、イニシャルコ
ストだけではなくライフサイクルコストや安全性を必ずしも適正に評価されていない場合等、
本邦企業の強みがコスト高となっている例がある。
12
関連企業ヒアリングで得られた日韓の価格差に関するコメント
【全体】
●発電プラントに比べて、ダウンストリームの石油化学プラントは汎用品の割合が高い。
●価格構成比は、
「設計(E)
:機器調達(P):建設(C)
」で「2:4:4」程度。
●全体で約 20%程度の差。韓国が本気でとりに来る案件は、利益を削ってでもくるため、さら
に数%の差がつく。
【設計(E)
】
●日本人の人件費と韓国人のエンジニアの給与差は 3 割程度。しかし、日本企業も世界各地に
拠点を有しているため、平均すると、日本企業=70 ドル/時、韓国企業=65 ドル/時程度。
●全体に占める割合は大きくなく、設計分野で大きな差は生じていない。
●韓国は大手を退職した技術者からなる中小企業が数多くあり、国内のエンジニアリソースプ
ールの役割を果たし安価な技術力を提供している。ただし、日系企業もフィリピン等のリソ
ースを利用しているため、平均すると大きな差はない。
【機器調達(P)
】
●韓国は大型案件を獲得しているがゆえの調達力があるが、主要機器の供給は日米欧からの調
達となるため、調達部分で大差はない。一方、汎用品は韓国が韓国サプライヤーから購入す
るときに買い叩く習慣があるのか、日本より約 20%程度安く購入できている模様。
●調達部分の調達元地域別比率は「日:韓:欧:米」=「10:30:40:20」。韓国が韓国企業
から同一国内で調達するほうが若干安価。
●リスクコンティンジェンシーで数%程度の差がついていることもある。
【建設(C)
】
●建設部分がもっとも差がつく。韓国勢は現地に土木工事の下請け部隊を抱えている。工事を
細かく分割して発注し、細かくコントロールすることで厳しく下請けを叩き、コスト削減を
可能としている。なお、過去に日本勢が韓国のサブコンに工事発注をすることで、実質韓国
の工事部隊を育ててきたという経緯もある。
●韓国が使う現地企業もだんだんおかしくなってきているという話もある。
●日本はサブコンに丸投げしているが、韓国は重要な部分は韓国人従業者が現場を渡り歩きな
がら実施。建設機器も自社で購入し減価償却している。韓国の現地サイトマネージャーは成
功報酬制もありマインドの違いも大きい。
●建設部分に関して、日本企業は現地の大手ゼネコンを利用するが、韓国企業は小規模のサブ
コンを組み合わせ、叩きながら利用しており、安価に仕上げている。
【その他】
●欧米勢も韓国とは正面から戦わない方針をとっている企業があると聞く。
13
2. コスト競争力の強化策
現 状
コスト競争力の強化のためには、現地化、生産拠点の海外進出の重要性が高まっている。
発電・石油関連プラント分野では、中国市場において欧米企業(Alstom、Siemens)が合弁
企業を設立しているのに対して、本邦企業はライセンス契約で参入しているものが主となって
いる。インド市場では本邦企業も合弁企業を設立し、インド国内のみならず第 3 国向けの生産
拠点としての役割も期待されている。
鉄道分野では、Bombardier の中国での生産拠点の設立、ビッグ 3 のインドでの生産拠点の
設立と現地生産が進んでいるが、本邦企業の海外進出は進んでいない状況である。
図表 1-14 発電プラント・石油関連プラント分野における主要企業の海外進出の動き
<中国における超々臨界圧(USC)の技術提携の動き>
ボイラー
協力企業(協力形態)
蒸気タービン
発電機
上海電気集団
Alstom(合弁)
Siemens(合弁)
Siemens(合弁)
東方電気集団
バブコック日立(合弁)
日立(ライセンス)
日立(ライセンス)
ハルピン電気集団
三菱重工(ライセンス)
三菱重工/東芝(ライセンス)
<自己調達>
中国企業
<インドにおける重電メーカーの動き>
企業
三菱重工
東芝
日立製作所
Alstom
GE
合弁相手先
設立時期
生産体制
Larsen & Toubro
(L&T)
2007 年 4 月
(ボイラー社)
2007 年 11 月
(タービン社)
L&T MHI ボイラー社(クジャラート州)
2010 年 6 月生産開始
L&T MHI タービン・ジェネレータ車(クジャラート州)
2010 年 6 月生産開始
Jindal South West
(JSW)
2008 年 9 月
新工場(タミルナド州)
2012 年 2 月生産開始
BGR Energy Systems
2010 年 9 月
新工場(タミルナド州)
2013 年生産開始予定
Bharat Heavy Electricals
Limited (BHEL)
Nuclear Power Corporation
of India Limited (NPCIL)
2010 年
※NPCIL がプラント設置、BHEL がタービン製
造、Alstom は技術支援
Triveni Engineering &
Industries Limited
2010 年
バンガロール工場にて製造
※Siemens もクジャラート州のタービン工場等、インド進出を進めている。
14
図表 1-15 鉄道分野における主要企業の海外進出の動き
<中国高速鉄道に関する動き>
車輌
(型式)
協力企業
協力形態
(実施年)
CRH1 型
Bombardier
合弁
(2004)
CRH2 型
川崎重工業
CRH3 型
CRH5 型
中国側企業
内容
南車集団
Bombardier は 、 南 車 集 団 と 折 半 で
Bombardier Sifang Power Transportation
を設立し、車両を製造
技術提携
(2004)
青島四方機車
車両有限公司
川崎重工は、青島四方機車車両有限公
司と技術提携契約を締結し、南車四方に
おいて車両を製造
Siemens
技術提携
(2005)
唐山軌道客車
有限責任公司
Siemens は、唐山軌道客車有限責任公司
と技術提携契約を締結し、長春軌道客車
有限公司及び唐山軌道客車有限責任公
司において車両を製造
Alstom
技術提携
(2004)
中国長春鉄路
公司
Alstom は、中国長春鉄路公司と技術提
携契約を締結し、長春軌道客車有限公司
において車両を製造
<インド市場における生産拠点設立に関する動き>
企業
Bombardier
Alstom
Siemens
インドの都市
設立年
主な製品
Savil
2008
車両、台車等
Vadodara
1999
コンバータ等の電機製品
Chennnai
2010
地下鉄用車体
Coimbatore
1999
電機品
Aurangbad
2010
台車
Nashk
1987
コンバータ等の電機製品
Kalwa
1966
モーター、トランス等の電機品
※本邦企業はインドにおける生産拠点の設立実績は無い
方向性
① 海外進出・現地化の強化
●本邦企業の中にも安価な労働力や社会インフラ(不動産、光熱費、輸送費、法人税等)を求
めて、海外での現地法人化、現地エンジニア育成、現地パートナーとのアライアンスやM&A
を進めている企業があり、熾烈なコスト競争下においてはこの流れが当面続くことが見込ま
れる。また、設計等のコモディティ化した業務は現地や第 3 国で行い、技術のコア部分や研
究開発、大型案件への対応、より上流部分については我が国で行うといった役割分担を進め
ていくことが必要である。このような中、特に、鉄道分野に見られるように、競合企業に比
べて海外進出や現地化が出遅れている場合には、コスト競争力を高めるためにも、より一層
の海外進出や現地化が必要である。
15
② 国内体制の強化
●現地化が進む一方、国内では高齢化や疲弊する地方経済、さらには国内市場の縮小に伴い、
若手人材の経験の蓄積や技術継承が課題となっている。我が国の強みである技術力を維持・
継承するためには、豊富な経験や技術を有する定年退職者をはじめ、女性労働力や地方人材
を活用することで、業界全体の人材層を厚くし、コスト競争に勝ち抜く優位性を発揮してい
く必要がある。
③ 貿易保険の仕組みの見直し
●貿易保険制度については、政府による貿易再保険制度の廃止(貿易再保険特会の廃止)及び
NEXIの全額政府出資の特殊会社化を行うことが決まっているが、制度設計にあたっては、国
の政策との一体性や政府保証等必要な措置を確保し、各国とのイコールフッティングの確保
や我が国企業の国際競争力及び保険利用者の利便性を損なわないことが不可欠である。
3. 技術力の強化
現 状
近年、新興国企業の技術力が高まり、要素技術のコモディティ化かつコスト競争が熾烈にな
っている。例えば、石炭火力発電分野では、発電効率を高める技術革新が進んでいるが、新興
国において主流の亜臨界圧(Sub)や超臨界圧(SC)の市場では、欧米企業に加えて中国や韓
国企業の参入によってコスト競争が激化している。他方、超々臨界圧(USC)や石炭ガス化複
合発電(IGCC)では、本邦企業が機器性能・品質面で優位性を発揮しているが、ライバル国の
追い上げは激しい。
他にも、本邦企業が技術的に優位性を発揮している分野として、例えば、海水淡水化分野が
ある。我が国には、逆浸透膜の開発・製造で競争力のある企業があるが、近年の技術開発を通
じた逆浸透膜の製造コストの低下、地球環境問題への問題意識の高まりから、海水淡水化の採
用技術にかかる世界の潮流は、従来の蒸発法から逆浸透膜法に移行している。こうした状況の
中で、特に湾岸諸国等、水にかかる技術的条件が非常に厳しい中(有機物、油分が多い)で、
逆浸透膜法を本格的に導入するための、水処理システム全体の実証のニーズが非常に高まって
いる。
また、我が国は高い技術力を武器に世界を席巻してきたが、
「技術で勝っても、事業で負ける」
パターンに陥っている例も多いと言われる。
16
〈参入企業 〉
中 国
韓 国
欧 州
日 本
米 国
(上海、ハルビン、東方)
・圧倒的な価格競争力
・SC 市場へ進出
・USC は 600℃級の再
熱 蒸 気 条件 が 可能 だ
が経験が浅い。欧州企
業からの技術供与のた
め第 3 国輸出に制約が
ある
(斗山重工)
・SC 市場へ進出。日欧
よりコスト競争力あり
・USC 市場にも進出。
但し、再熱蒸気条件は
593℃にとどまる。
・大容量機の経験なし
(Siemens、Alstom)
・SC は中国、インドで
の 積 極 的 な 現 地製 造
でコストダウン
・USC は 600℃級を製
造可能
・中国の合弁工場から
第 3 国への輸出を開始
(MHI、日立、東芝、IHI、
富士、Siemens)
・SC はインドにて現地
製造に着手
・USC は世界最高の再
熱蒸気条件 620℃を達
成、豊富な実績により
運転管理技術で優位
(GE、B&W)
・中国の SC/USC 製造
工場から第 3 国市場へ
輸出を計画
・政府と一体で IGCC 推
進
〈技術・
市場動向 〉
超々臨界圧(USC)
日欧が性能で優位だが
競争激化
石炭ガス化(IGCC)
実証化から商業化へ
米・日・欧が先行
超臨界圧(SC)
価格競争の激化
亜臨界圧(Sub)
中国勢が席巻
〈ニーズ 〉
インド
東南アジア・その他:SC/USC へ移行
中国
先進国(米等):SC/USC 等へのリプレース需要有
図表 1-16 石炭火力発電における競争状況
車両部品
信号、通信設備等
【主要企業】
日立製作所、東芝、三菱重機、ナブテスコ
【 技術力 】
●次世代車両用インバータ用デバイスを開発中
●次世代(低騒音、高効率、省メンテナンス)車両用モータ及び
制御装置を開発中
●車両ドア開閉装置、ブレーキ制御装置は中国でも高シェア
【主要企業】
京三製作所、三菱重工業、日本信号
【 技術力 】
●CTC(列車集中制御装置)、ATC(自動列車制御装置)などの
制御装置は海外実績有り
●線路、架線、信号など海外実績有り
台車部品
【主要企業】
日立製作所、東芝、三菱電機
【 技術力 】
●運行管理システム、列車情報システム(無線システム、車内
情報表示等)の技術・実績
運行管理システム等
【主要企業】
住友金属工業、NTN
【 技術力 】
●車輪・車軸の高速鉄道用は世界シェア 30%(トップクラス)、
欧州でも実績が有り
図表 1-17 鉄道分野における我が国の技術力
17
方向性
① 技術力の不断の強化
●我が国の技術力は、世界的に高い評価を受けており、現にインフラ市場においても海外企業
が受注した案件で主要機器・技術については本邦企業が請け負っているケースがある。この
ように、我が国の強みである技術力の世界的地位を維持し、さらには欧米・新興国の追随を
許さない域まで高めることが必要である。例えば、石炭火力発電所における IGCC,鉄道分
野における車輪・車軸、ブレーキ、開閉装置、運行管理システム等の関連部品、逆浸透膜を
利用した海水淡水化システム、宇宙産業における夜間・天候に左右されず観測が可能となる
高性能小型レーダー開発、スマートシティにおけるエネルギーや交通マネジメント、医療、
教育等の各インフラをマネジメントする IT 技術におけるサイバーセキュリティ等が、強化す
べき技術の候補に考えられる。
さらに、この技術力には、発電効率や安全性の向上といったプロダクトイノベーションに加
えて、現地ニーズに合わせた低コスト化やダウングレード(仕様の適正化)
、工程の効率化と
いったプロセスイノベーションも含まれる。例えば、競争が激化する石炭火力発電分野にお
いては、今後新興国での需要拡大が予測される超々臨界圧(USC)について、本邦企業の競
争優位性があるうちに、圧倒的なコストダウンを追及することも戦略の一つである。
このような中、我が国の研究開発費に対する政府負担割合は主要国に対して低いが、成果創
出の結果が不透明かつ長期間を要する研究開発には、政府の継続的な関与が要求される。そ
のため、資本力のある大企業の研究開発だけではなく、
「ものづくり日本」を支える中小企業
を含めて、研究開発のグローバル化や自前主義の限界を踏まえ、戦略的な研究開発が必要で
ある。
② 技術力による市場・収益拡大
●「技術で勝って、事業でも勝つ」ビジネスモデルに転換するためには、技術力を如何に市場・
収益拡大につなげるかが重要である。
そのためには、インフラ市場におけるニーズやビジネスモデルの変化に対応するとともに、
我が国の技術のどこをオープンにし、どの部分をクローズするのかといった知財マネジメン
トが必要である。例えば、電力事業では本邦企業が主要な機器に関する先進技術を有してお
り、欧米企業や新興国企業は本邦企業とのライセンス契約等によって現地生産を進めている。
このような従来の機器・プラント輸出を前提としたビジネスモデルに加えて、インフラは多
様な技術の複合体であることから、本邦企業が有する技術を核として、機器・プラント単体
からシステムへのつながり(インターフェース)を意識し、本邦企業が有利なビジネスモデ
ルを形成する必要がある。
●我が国の高度な技術に基づくサービスを外国法人に積極的に提供することにより市場・収益
の拡大を図ることが重要である一方、それに伴う取引リスクの軽減策をあわせて講ずること
が必要である。法律上、NEXIの貿易保険は、本邦外で外国法人を相手に技術・サービスを提
供した場合にのみ付保の対象とされているが、機器のメンテナンスや衛星打ち上げ等本邦内
において外国法人を相手に技術・サービスを提供することも想定されるため、そうした場合
18
にも付保できるように措置する必要がある。
③ 技術力の実証
●相手国の要人の前で、実際にインフラが動いている姿を見せることは日本の優位性を示す上
でとても有効である。また、再生可能エネルギー等、現地の自然条件等に応じて仕様を調達
する必要がある技術も多い。開発途上国への技術の普及にあたっては、低コスト化も重要な
課題となる。こうした課題を解決する上では、現地で技術の実証を行うことが有効である。
実際に、NEDO等の支援によって数多くの実証実験が行われているが、必ずしも実証実験か
らビジネスへと展開されていない。従って、ビジネスを前提とした実証実験案件の選定、そ
して実証実験からビジネスへと展開するための一貫した支援ツール・体制が必要である。
●広範なネットワークを通じ、技術の面的な広がりと高い PR 効果が期待できる国際機関等を
活用し、現地において技術の実証を行うことも有効である(マイクロ水力プロジェクト、ソ
ーラーランタン等)
。
4. マーケティング戦略
現 状
我が国の優れた技術力は世界的に高い評価を得ているが、インフラ市場において、その技術
力が必ずしも競争優位性を得ているわけではない。特にインフラ需要が拡大している新興国で
は、インフラ整備のスピードやコスト面が重視される傾向にある。
また、欧米では早くから技術開発や市場戦略と併せて標準化戦略を進めており、スマートグ
リッドにおいても中国 SGCC(State Grid Corporation of China:国家電網公司)と米国 GE
が電気自動車の充電 、大容量蓄電システム、変換器等の標準化に向けて提携している。鉄道分
野にみられるように、欧州の規格がデファクトスタンダードとなっており、本邦企業が有する
技術力の優位性が発揮できていない場合がある。
方向性
① 適正な評価環境の整備
●現行の受注に関する評価基準が、イニシャルコストのみに依存している傾向がある中で、イ
ンフラは作ることが目的でなく、永続的に適正なサービスが供給できるように維持管理・運
営されることが目的である。この点に配慮すると、評価基準は、イニシャルコストに加え、
運営時のコスト及び工事遅延リスク、運用に伴う性能低下リスク、環境保全リスク等のリス
ク調整コスト及び維持更新コストを加味した、いわゆるライフサイクルコストでの評価が適
切である。従って、ライフサイクル評価基準の設定方法の開発とその新興国への普及が必要で
ある。
19
② 標準化戦略
●鉄道分野にみられるように、欧州規格のデファクトスタンダードによって、我が国の技術力
の優位性が発揮できていない状況を回避するためには、我が国の技術力をいかしたグローバ
ル戦略と一体となった戦略的な標準化を進めることが必要である。
但し、標準化は最終目標ではなく利益を得るための手段に過ぎず、標準化によって技術流出、
急速な低価格化や利益率の低下を招く恐れがある。そのため、我が国が強みとする要素技術
の標準化だけではなく、インフラ・システム全体を見据えて、標準化による市場・収益拡大
や業界における優位性を確保できる戦略が必要である。
なお、鉄道分野については、具体的には、我が国独自方式の車両・信号等の各サブシステム
が適正に機能するために必要となる事項を協調領域としてオープン化し、国際標準化を推進
する一方、運行やメンテナンスの手法等システムを運用するためのノウハウ等は、競争領域
として特許取得又は営業秘密管理によりクローズ化することが必要である。同時に、国際標
準化の新規獲得には通常数年を要すること、欧州規格のデファクトスタンダード化が進む現
状において、足元の入札案件を受注していくため、欧州規格への適合力強化を図ることが必
要である。前者の取組として、我が国企業の意見を集約する場を官民で設立し、国際標準化
機関に対する働きかけを積極的に行うことが挙げられる。また、後者の取組として、足元に
おいて我が国企業の有する製品(技術やノウハウを含む。)の海外での受注実績や営業実績が
確保されるよう、戦略的に STEP を活用することが挙げられる。売込みにあたっては、各国
における特許・ライセンスの保有状況に十分留意しつつ取組むことが必要である。
③ 「売れるものを作る」への転換
●新興国をはじめとするインフラ・システム輸出市場のボリュームゾーンでは、本邦企業の技
術がオーバースペックだとみなされることが少なくない。技術があっても市場シェアを拡大
できない状況を打破するには、相手国ニーズや世界標準をしっかりとキャッチアップし「売
れるものを作る」ことが必要である。
5. グローバル人材の育成
現 状
我が国の人口減少や市場縮小、円高による輸出産業におけるコスト競争の激化、その一方で
新興国市場の急成長を背景に、本邦企業の海外進出が加速している。しかしながら、本邦企業
の海外進出が必ずしも期待どおりの成果を上げていない。その背景として、本邦企業の海外拠
点の設置・運営にあたっては、
「グローバル化を推進する国内人材の確保・育成」が最大の課題
として指摘されている。
他方、韓国では、アジア通貨危機を契機に成果主義賃金やグローバルな人材採用等の政策転
換が図られた。成果主義賃金は企業だけではなく、大学や政府部門にまで導入された結果、現
在のインフラ市場においても、韓国政府の国際交渉力を高めており、また、企業においてはグ
20
ローバル人材を早くから採用してきたことから、スムーズな現地化やコミュニケーション・交
渉力の獲得を実現し、海外進出で成功を収めている。
図表 1-18 韓国・フランスのインターンシップの取組
背景
目的
実施主体
制度概要
対象者
参加人数
派遣先
運営上の
工夫
成果
今後の方
向性
韓国:グローバル青年リーダー育成事業
フランス:V.I.E プログラム
・急速な高齢化社会による雇用確保のための事業
拡大・海外展開の重要化、未就業の若者の増加
・若者に海外就業機会を提供することで、各自の能
力向上と、自国企業の海外展開への支援にもつな
がる
・韓国産業人力公団 他
・2009 年より実施
・目標:09~13 年の 5 年間で 5 万人
・就業以外も含めた事業全体で、10 万人の海外派
遣が目標
・海外での長期就業を行う「海外就業斡旋」と、2~3
年間の海外就業後に帰国する「海外就業研修」が
ある
・派遣前の研修は同公団が民間事業者等に委託
・年齢:未就業の 29 歳以下の若者
・学歴:無条件
・海外で活躍できる人材の必要、若者の未就業・内
向き志向
・若いビジネスマンの育成を目的
・若者に海外理解と就業経験の機会を提供
・海外展開人材不足の中小企業を人材面で後押し
・UBIFRANCE(フランス企業振興機構)
・2000 年より実施
・フランス企業の海外現地法人等にインターンとして
派遣
・約7万人の候補者の情報を企業に提供
・参加希望者・法人はマッチングサイトで互いを選択
・インターン生は UBIFRANCE が監督、企業との雇
用関係はなく、準公的身分で派遣
・派遣期間は最長5年間、修了時には修了証を発行
・年齢:未就業の 18~29 歳
・国籍:フランス人中心。欧州経済領域加盟国の国
民で公的サービスを受けている者も可
・学歴:無条件(業務内容によって要修士レベル)
・過去 10 年で約 3 万人。約 6,500 人が約 1500 ヵ所
へ派遣中(2010 年)
・活用企業は約 3800 社(うち中小企業 67%)
・約 150 カ国
・マッチングサイト活用で効率的なマッチングを実現
・海外インターンシップ中、参加者は UBIFRANCE に
所属した形となり、UBIFRANCE が個別に支援
・海外就業数、約 1,600 人。(2009 年)
・うち、「海外就業研修」約 1,200 人、「海外就業斡
旋」約 400 人
・中国、日本、アメリカ、UAE、オーストラリア他
・海外就業・研修先の確保のために、同国の公的な
出先機関を積極的に活用。さらに、民間機関にも
インセンティブを与えて活用(採用が決まると 150
万ウォン支給)
・「海外就業研修」修了者の約 65%が、帰国後に就
業
・海外就業は伸びており、また研修修了者の就業実
現につながっているため、今後も継続予定
・海外での就業(研修)先の質と量の確保に注力
・プログラム修了後、約 70%が受入法人の正社員と
して雇用
・フランス企業の国際化の裾野を広げるため中小企
業への認知度の向上・利用拡大の広報活動を強
化
・欧州の当該年齢の若者への就業経験の提供を目
指し、欧州全体へのプログラムの展開も検討
方向性
① 付加価値を生み出すグローバル人材育成
●我が国とは法律や商慣行等が異なる場で市場を開拓し、激化する競争を勝ち抜くためには、
「グローバル人材の育成」が本邦企業の共通課題となっている。韓国やフランスでは政府関
係機関が若手人材の海外インターンシップ等を積極的に支援し、グローバル人材の育成を強
化している。
人材育成は個々の企業努力に負うところもあるが、多くの企業では課題と認識されつつも、
十分な取組が進められていないのが実情である。また、我が国企業のインフラ案件の交渉の
相手方となる政府系機関等とのネットワークも十分ではない。このため、我が国においても、
21
長期的な視野で、相手国の政府機関や現地ローカルパートナーとネットワークを有し、語学
力のみならず交渉力やタフネスを有するグローバル人材の育成に向けて、特に民間企業では
関係構築が困難な相手国の政府機関や企業等への海外インターンシップを支援することが必
要である。こうした取組は、現地に入り込んで案件形成を支援できる我が国若手人材のコン
サルティング能力の向上にもつながることが期待される。
一方、現状において不足しているグローバル人材については、ノウハウを有する外部人材を
M&Aやアライアンスによって積極的に活用することが必要である。
② ゼネラルコンサルタント/プロジェクト・マネージャーの育成
●我が国が案件形成からプロジェクトに関わり、基本仕様や入札基準の作成に関与することに
よって、受注機会の拡大が期待されている。しかしながら、個別技術において優れた技術者
やコンサルタントが存在するが、相手国の要請に対してプロジェクト全体を見据えた提案が
できるゼネラルコンサルタントが不足している。また、プロジェクト実施段階でも円滑な事
業遂行にあたって、プロジェクト・マネージャーの存在が欠かせない。
我が国の産業構造が分業されていることもあり、ゼネラルコンサルタントやプロジェクト・
マネージャーを育成するための機会が限定されている。政府主導のモデルプロジェクト等を
通じたゼネラルコンサルタントやプロジェクト・マネージャーの人材育成が必要である。
22
第 2 章 面的開発における官民一体的な取組の必要性
世界人口の都市集中化、さらに資源・エネルギー問題や環境問題を背景に、環境負荷を低減
する次世代都市に対する新たな需要が発生し、次世代型の都市輸出という新たなビジネスが誕
生した。面的開発は、都市や工業団体の構想・計画から、土地収用・区画整理、電力・上下水
道等の基礎インフラ、そしてスマートグリッド等の付加価値形成まで多様な要素から構成され、
各国が受注機会の獲得に向けた取組を加速している。
我が国は、海外の面的開発における受注競争において競争優位性を発揮するような、最先端
の技術を有しており、また、都市化に伴う様々な問題を乗り越えてきた技術力と経験も有して
いる。
このような中、我が国の先進事例、韓国及びシンガポールの事例から、面的開発における官
民一体的な取組の必要性について示す。
第4層 付加価値サービス
・スマートハウス、スマートビル
・スマート公共サービス(医療、教育など)
・日系工業団地
・クールジャパン(アウトレットなど)
第3層 スマートインフラ
<エネルギー>再生可能エネルギー、ス
マートグリッド、分散電源/電源安定化
<環境> 水処理・再生水、リサイクル
<交通> EV インフラ、ITS
< 第4層 >
< ICT > クラウド、センサーネットワーク
第 2 層 基礎インフラ
< 第3層 >
・電力/ガス
・上下水道
・周辺インフラ
< 第2層 >
・道路交通/通信
第 1 層 不動産開発等
・土地収用
< 第1層 >
・区画整理
・企業誘致
マスタープラン
図表 2-1 面的開発のビジネス領域
23
1. 日本の取組
第3層(スマートインフラ)での取組
我が国では、第 3 層(スマートインフラ)に関する取組が数多く進められており、国内では
「グリーン・イノベーションによる環境・エネルギー大国戦略」に基づき、横浜市、豊田市、
京都府、北九州市の 4 地域において一般住宅やオフィスビルを対象に、太陽光発電や 2 次電池、
電気自動車と充電施設等を組み合わせ、地域でエネルギーを効率的に活用するマネジメントシ
ステムの構築に向けた実証事業が進められている。
国外では、省エネルギー、再生可能エネルギー、スマートコミュニティに関する我が国の優
れた技術・システムの海外展開に資するよう、相手国の自然条件や規制・制度、産業構造等に
応じて柔軟にオーダーメイドし、現地における有効性・優位性を示すとともに、普及に向けて
相手国政府・企業との提携を進めるための支援事業を行っている。具体的には、平成 24 年 6
月 5 日現在、NEDO が交付金を活用し、米国のニューメキシコ州やハワイ州、スペインのマラ
ガ市、フランスのリヨン市の 4 カ所で実証事業が行われている。この他、実証事業の前段階と
して、例えば東南アジア地域ではインドネシア工業団地における電力安定化システム等の導入、
マレーシアにおける低炭素都市の実現に向けたアクションプラン作成支援等が進められている。
その他、横浜市に参画している重電メーカーによる実証成果の中国共青城市への展開、北九
州市での実証実験の実績をいかし、インドネシア・スラバヤ市への北九州市型低炭素・環境都
市モデルの展開、中国天津市におけるコジェネレーションシステム・BEMS 等のエネルギー最
適化事業や再生可能エネルギー・スマートグリッド事業等、既に取組が始まっている。
図表 2-2 海外における実証実験
事業目的
事業内容
インドネシア工業団地における実証事業
マレーシアにおけるアクションプラン策定事業
・工業団地における電圧変動や瞬間停電といっ
た課題を解決するため、電力安定化システム等
を導入し、電力の安定供給を実現する事業。
・低炭素都市の実現に向けた課題(都市全体で
の効率的なエネルギー利用、省エネの徹底)解
決のため、複数の省エネ設備を統合的に運用・
最適利用の実現を目指す事業。
・国営電力公社 PLN が発電・送電設備を提供し、
住友商事(SPC 運営)、富士電機(EMS)等が電
力の統合管理・安定供給を、それぞれ担当。
・PLN との連携による市場規模は、ジャワ島のみ
で 2,400 億円であり、インドネシア全体で 3,600
億円。
・事業終了後は、類似の課題を抱える新設の工
業団地への水平展開を狙う。
想定市場
規模/
事業の
意義
・インドネシア国内の法令に基づき、工業団地内
に第二の小型配電系統を立ち上げることは、本
来不可能。国家間の協力事業とすることで、特
例的に実証。
・技術内容、事業内容の持続可能性を論証。ま
た、 余剰電力の販売や第三者への託送を可
能とする政策形成支援を行い、RE の導入促進
も図る。
24
・日本総研や東芝等がコンソーシアムを形成し、
アクションプラン作成に関与。我が国の技術・シ
ステムが適正に評価されるよう、上流から仕様
や条件を設定する。
・ナジブ首相は、プトラジャヤ及びサイバージャヤ
を「低炭素都市のモデルケース」とし、CO2 を国
全体で 2020 年までに対 GDP 比 40%削減する
と表明。開発規模は、推定1兆円程度。
・2010 年に派遣した官民ミッションの結果、先方
エネルギー・環境技術・水大臣も了解の下、国
家間協力事業として、我が国が、都市開発アク
ションプランを作成することに合意。
・マレーシアからきめ細かい要望や課題を聞き出
しながら、我が国企業が有利な条件・仕様をア
クションプランに規定することにより、国際競争
入札時に有利な立場を獲得。
・省エネ設備や都市全体でのエネルギー統合管
理システム等を納品すべく、同国と協議中。
図表 2-2 海外における実証実験(続き)
ビジネス
モデル
/現地
ニーズ
インドネシア工業団地における実証事業
マレーシアにおけるアクションプラン策定事業
・SPC を組織し、現地エネルギー管理会社・省エ
ネコンサル会社と連携、O&M や ESCO 事業を実
施。
・計画策定段階から関与し、上流から仕様・条件
を設定。現地デベロッパー等の協業によるノウ
ハウ蓄積も図る。
・入居企業(金属加工業、自動車部品業等)5 社
が、通常料金以上の高額料金を支払ってでも、
現行の経済的損失を解消したいと表明。
・現地電力会社と連携し、エネルギー管理システ
ムの導入に関し協議中。上位系統も含めた統
合管理を達成することで、同様の課題を抱える
同国他地域への水平展開を目指す。
第 1 層(不動産開発等)~第 3 層(スマートインフラ)の取組
我が国の面的開発には、マスタープランから関与し、第 1 層(不動産開発等)から第 3 層(ス
マートインフラ)まで視野に入れて動き出している案件がある。
例えば、中国杭州市の郊外新都市、広州南沙開発区、タイ・バンコクの高度産業集積型都市、
ベトナム・ハノイのニュータウン・ハイテクパーク等のスマートコミュニティ開発が挙げられ
る。これら案件では、マスタープランへの関与、コジェネレーションシステム・スマートグリ
ッド等の構築・運用事業を展開し、一部案件では開発への投資まで参画を検討している。
我が国政府の第 1 層(不動産開発等)へのアプローチ
韓国やシンガポールをはじめとする各国政府の動きが加速する中、我が国でも首相・閣僚レ
ベルの協議を通じて、面的開発案件へのアプローチが始まっている。
インドネシア MPA 構想では、2010 年 1 月に両国大臣の間で、「インドネシア経済回廊
(IEDC)
」の実現に向けて協力して進めていくことを合意した。同年 12 月には「首都圏投資
促進特別地域(MPA)
」についての協力覚書が調印された。
インドデリー・ムンバイ構想は、日本からの提案によって実現し、その後のFS調査段階から
本邦企業が連携して関与し、本邦企業によるインフラプロジェクトの受注が期待されている。
また、デリー・ムンバイ間(約 1,500km)の産業動脈として貨物専用鉄道を建設しており、幹
線となる鉄道整備に我が国が関与することで、その後の沿線開発等面的開発への発展が期待さ
れている。
インド南部中核開発拠点構想では、本邦企業の進出先として期待されているチェンナイ、バ
ンガロールを中心とした地域の都市開発・工業団地開発を重点的に支援している。
これらの国は我が国と友好な関係を築いている。インドネシアに対しては円借款供与額をア
ジア通貨危機前の年間 1,000 億円の水準に引き上げており、インドに対しては我が国が最大の
二国間ドナー国かつ円借款最大級の供与国である。このように円借款による支援を集中的に活
用することで、本邦企業のインフラ・システム輸出の促進につながることが期待される。
ミャンマーティラワ工業団地開発構想は、本年 4 月にテイン・セイン大統領の来日時に、協
力覚書きを結び、事業実施可能性調査(FS 調査)を開始した。
なお、第 1 層(不動産開発等)の実施段階では、現地の土地収用等の問題があり、政府間協
議において適切な役割分担を行うことが重要である。
25
図表 2-3 我が国の都市開発・工業団地開発の概要
案件名
インドネシア
MPA 構想
インド
デリー・ムンバイ構想
インド南部
中核開発拠点構想
ミャンマーティラワ
工業団地開発構想
・デリー・ムンバイ間に、
貨物専用鉄道を敷設
概要
・ジャカルタ首都圏を優
先地域として、インフラ
開発に関するマスター
プランを策定し、発電
所、空港、港湾等のイ
ンフラを整備
・ムンバイからバンガロ
ールを経由し、チェン
ナイに至る地域の道
路、港湾、工業団地等
のインフラ整備
・ヤンゴン市近郊の経
済特区に本邦製造業
が進出しやすい拠点と
して、ティラワ港と工業
団地の一体開発
・2010 年 1 月、日尼政
府は「インドネシア経
済回廊」の推進に合意
・2006 年、日印首脳間
で構想推進に合意
・2012 年 1 月、以下の 3
点について、日本政府
とタミルナード州政府
が協議
・2011 年 12 月、ミャンマ
ー政府より経済特区
開発を発表
これまでの
経緯と進捗
インフラ
ニーズ
の背景
官民連携
体制
・2010 年 12 月、MPA 構
想の今後の優先分野
や進め方に関する協
力覚書を締結
・本邦企業で構成され
た MPA 調査団が調査
を実施中
・慢性的な交通渋滞、
貧弱な港湾・空港設備
等インフラの不足が経
済成長の制約要因と
なっている
・周辺に工業団地、発
電所、道路、港湾、住
居等のインフラを民間
投資主体で整備
・2009 年 12 月、地域全
体のマスタープランを
策定
・2010 年 4 月、州政府と
本邦企業が協力覚書
を締結し、FS 調査を開
始
⇒OMEGA プロジェクト
に関する覚書締結
⇒エンノール港周辺の
インフラ整備の取り組
み要請
・2011 年 12 月、野田総
理訪印時に、DMIC 資
金ファシリティへの日
本の貢献を合意
⇒インド南部回廊開発
構想マスタープラン作
成への協力表明
・日系企業の多くがこの
地域に進出
・南部回廊の東端チェ
ンナイには日系企業
286 社が進出してお
り、バンガロールには
181 社が進出
・企業の多くがインフラ
の未整備を事業リスク
として認識
・チェンナイ日本商工会
は、エンノール港整備
等をチェンナイ当局に
対して提言
・JICA 支援のもと、本
邦企業で構成される
MPA 調査団がジャカ
ルタ首都圏の都市ビ
ジョンを策定。また、
2020 年までに達成す
べきインフラ整備の優
先事業を特定し、官民
が連携して事業を促
進
・インド貨物専用鉄道建
設事業(DFC)につい
て、タイド円借款によ
る支援を実施
・日揮・みずほコーポレ
ート銀行・アセンダス
で SPC を結成し、事業
を実施
・既存民間プロジェクト
を、アーリーバードプ
ロジェクトの枠組みに
取り込み、インド側関
係機関の関与や協力
を獲得
・都市開発の上流から
の参画
26
・JETRO による中小企
業の海外進出支援の
実施(現地サポートセ
ンター設置、レンタル
工場・事務サービス機
能の紹介等)
・2012 年 4 月、両国首
脳会談において当該
地域のマスタープラン
策定に関する覚書
・丸紅、住友商事、双
日、日本工営 4 社の企
業連合が FS 調査を実
施中
・交通・電力等のインフ
ラが不十分
・外資系企業が入居で
きる工業団地が未整
備
・しかし、低廉かつ豊富
な労働力のために今
後日系企業の進出が
想定される
・本邦企業 4 社の企業
連合による FS 調査の
実施
・JICA の円借款再開に
より、長期・低利の緩
やかな条件で開発資
金の貸付を実施
2. 韓国の取組
自国内における取組
韓国においては、
「都市輸出」を建設業界の成長戦略の一つに位置づけ(1993 年、海外建設
促進法)
、国を挙げて「韓国型都市」の開発ノウハウの輸出を推進している。そのノウハウを育
んでいる一つが、自国内における U-city 構想である。この U-city は都市建設と情報通信技術が
融合された 21 世紀先端都市モデルであり、2009 年 8 月の時点で、国内 52 地区での建設を推
進中である。
U-city のモデル都市であるドンタンは、2001 年に開発計画が承認され、2003 年より建設が
開始されている。街中にセンサーや CCTV を設置し、収集した情報を基に中央情報管理センタ
ーが駐車場やバス運行、渋滞情報の提供をはじめ、道路状況に応じた信号制御等様々なサービ
スを提供している。
第 1 層(不動産開発等)~第 3 層(スマートインフラ)の都市輸出における取組
自国内の U-city をショーケースとして、
相手国政府関係者の招聘・見学を実施するとともに、
自国での経験をいかして都市輸出を推進している。2010 年 1 月時点で、韓国政府が都市開発の
計画に関与している国は 15 カ国に及んでいる。
この背景には、韓国政府が新興国に対して、自国の経済発展経験に基づく知識・ノウハウを
積極的に提供している「経済発展共有事業(KSP:Knowledge Sharing Program、2004 年開
始)
」が挙げられる。基本的には新興国の要請に基づき、経済発展に必要な解決策をコンサルテ
ィングするものであるが、大都市への人口集中等が問題となっている新興国は、韓国が 1980
年代に展開した新都市開発政策に関心を寄せ、それを学ぼうとしている。韓国はこれを契機に
新興国の要人招聘や U-city 見学等を通じて、都市輸出を積極的に展開している。また、韓国の
都市輸出は、5~10 年程度で都市開発を行うスピード、低コストでの開発、相手国の経済発展
の状況等を踏まえて、IT 等の先端技術といった付加価値を提供することを強みに展開している。
さらに、韓国の都市輸出を支えているのは強固な官民連携である。韓国土地住宅公社は、MOU
締結等による相手国政府との信頼関係の構築、市場分析・戦略策定、都市基本構想プラン策定、
資金調達計画の策定等、民間企業の海外展開を支援している。例えば、サウジアラビア首都の
リヤド近隣では、両国の経済協力モデル事業として約 500ha、1 万戸の住宅事業が進められて
いる。これを推進しているのが韓国土地住宅公社と Hyundai Engineering and Construction
(現代建設)及び SK Engineering and Construction (SK 建設)等で組成されたコンソーシ
アムである。
2009 年には、都市輸出を含む新興国プロジェクトの事業リスクを官民で適切に負担するため、
政府や公社も出資する官民インフラファンド(Global Infrastructure Fund)を設置し、2012
年までに 2 兆ウォンまで拡大される予定である。既に韓国投資信託運用により 2000 億ウォン
のファンド、さらに仏韓連合ファンド(新韓 BNP パリバ資産運用)により 2000 億ウォンのフ
ァンドが造成されている。残りはプロジェクトファンドとして調達する見込みであり、パキス
タンの水力発電事業やトルコのユーラシアトンネル事業への投資が決まっている。さらに、自
国内の年金基金を活用した国富ファンド、韓国産業銀行(KDB)と中東諸国の銀行による KDB
27
インフラファンドの組成を進めている。
特 徴
●大統領・企業トップ等による積極的なトップセールスや、韓流マーケティング(Cool Korea:
コンテンツ産業をはじめとするブランドイメージの確立)
、関係機関間の情報共有及び政策手
段の総合的活用の連携に向けた受注支援協会の設置、国内専門人材の育成・活用等、国をあ
げて戦略的に都市輸出を推進している。
●U-cityをモデル都市として国内に建設し、将来の海外展開のためのショーケースとして積極
的にPRしている。
●都市開発だけでなく、U-cityにみられるような都市管理・サービスの提供、新興国からの人
材育成・技術移転といったニーズへの対応等総合的な開発・支援を実施している。
●韓国土地住宅公社等の政府機関が開発初期段階における資金調達等を支援し、初期リスク管
理とファイナンスを公的主体が担うことにより民間参入の障害を低減している。その後の都
市開発における企画・許認可取得・建設等は民間が担うという官民JV方式等をとっている。
●特定地域に受注を集中させて工事部隊の稼働率を向上する、昼夜問わず労働力を確保するな
どにより、新興国のニーズに合ったスピードや低コストを実現している。
3. シンガポールの取組
第 1 層(不動産開発等)~第 3 層(スマートインフラ)の都市輸出における取組
シンガポールは狭い国土や乏しい資源を背景に、早くから外資企業を積極誘致し、製造業を
育成するとともに、積極的な FTA 戦略と金融自由化によって発展を遂げてきた。インフラ・シ
ステム輸出についても 1980 年代のインドネシアにおける工業団地開発を第一号案件とした、
長期にわたるノウハウ・実績の蓄積に基づき、都市インフラサービス事業を輸出展開している。
初期における都市開発は政府主導であったが、現在は、Ascendas、Keppel、Sembcorp 等の政
府系企業が中心となって事業を実施している。
シンガポールの都市輸出の一つである中国天津エコシティは、2007 年にシンガポールのゴ
ー・チョク・トン上級相(元首相)が中国温家宝首相に対して、共同でエコシティ開発を行う
ことを提案し、同年 11 月にフレームワーク協定が締結された。本プロジェクトは、中国が土地
を現物出資し、シンガポール側は政府が出資する投資会社 Temasek Holdings 及び政府系企業
である Keppel が同額の金銭出資によって JV を設立し、マスターデベロッパーとして推進して
いる。
特 徴
●首相・閣僚による積極的なトップセールス(相手国との共同プロジェクト実施の提案等)
、シ
ンガポール国際水週間の開催等、積極的なPRを行っている。
●初期案件では国が主導的に取り組むことでノウハウ・実績を積み、その後、Ascendas等の政
28
府系企業を中心として、工業団地やサイエンスパーク等の不動産開発(施設の分譲のみなら
ず、交通や住宅等周辺開発も実施)を展開し、官民の連携体制が構築されている。
●政府系投資会社(Temasek Holdings等)によるプロジェクト出資で長期的リスクに対応、マ
スタープラン等上流からの参入による有利な条件での自国企業進出支援(天津エコシティプ
ロジェクト等)
、水・電力・物流等の横断的な受注体制が必要な場合には政府支援による企業
コンソーシアムの形成等、政府による強力な支援を実施している。
4. 欧米の取組
第 3 層(スマートインフラ)における取組
米国においては、雇用創出を前提とした景気刺激策と環境問題を意識した「グリーンニュー
ディール」政策(2009 年~)の下に、環境エネルギー分野だけで 10 年間に 1500 億 USD の国
費を投入し 500 万人の雇用を目指している。既に、スマートグリッド関連の技術開発、実用化
プロジェクト等に巨額の公費を投じ、米国内では多数の実証実験プロジェクトが進行している。
実証実験を通じて全米に設置されたスマートメーターの数は、2010 年 8 月現在で 200 万台に
達している。
他方、欧州では、2005 年にスマートグリッドの実現を目指した欧州テクノロジープラットフ
ォーム「SmartGrids」が設立された。2007 年には温室効果ガス排出量の削減、再生可能エネ
ルギーからの電力供給増加が合意され、2009 年には 2020 年までに全需要家の 80%以上にスマ
ートメーターを導入するという目標も策定されている。こうした欧州全体での目標を実現すべ
く、欧州内の各国で実証実験プロジェクトが数多く立ち上がっている。中でも、再生可能エネ
ルギー導入で先行しているドイツが主導的な役割を果たしており、全土で 13 件ものパイロット
プロジェクトが展開している。また、ドイツ企業 12 社が、北アフリカのサハラ砂漠を舞台とし
た予算総額 4000 億ユーロの大型プロジェクト「DESERTEC」を進めている。これは、サハラ
砂漠において太陽熱発電や太陽光発電を利用して発電を行い、電力を「欧州・地中海高圧電力
送電網」と呼ばれる高圧直流送電網を使って欧州に送電しようというものである。2050 年まで
に欧州の電力需要の約 15%を賄うことを目指している。
第 1 層(不動産開発等)~第 3 層(スマートインフラ)におけるコングロマリットの取組
欧米企業の面的開発への参画の特徴として、世界有数のコングロマリット企業が資本力をい
かして、現地主要パートナーと協働することが挙げられる。その一つが先端エネルギー技術を
駆使してゼロエミッションのエコシティを目指す UAE のマスダールシティである。
マスダールシティは、UAE 政府が出資する Mubadala Development Company(以下、ムバ
ダラ開発)の子会社 Abu Dhabi Future Energy Company が開発を進めている。本開発には世
界有数の企業が多数参画しているが、その中でも GE(米)は 2008 年にムバダラ開発と数十億
USD 規模のグローバル・ビジネスで提携し、現地にクリーン・エネルギー技術センターやグロ
ーバル法人金融会社(3 年間各々40 億 USD を出資する合弁会社)を設立する計画を発表した。
29
さらに、2009 年にはムバダラ開発が GE をパートナーとし、エネルギー効率化や再生可能エ
ネルギーに関する研究等を行うエコマネジネーションの建設計画(最大で 4,000 ㎡)を発表し、
GE の再生可能エネルギー関連製品等の技術を紹介するショーケースとなる予定である。
特 徴
●欧米のインフラ輸出関連企業は、GE(米)のように1 社で事業組成、ファイナンス、EPC、
O&Mまでのバリューチェーンを一貫して行える。そのため、政府のスマートシティ関連政策
の推進やトップセールスも、コアとなる企業1社の支援で済み、事業実現の迅速性が高い。
●IBM(米)では資本力をいかし、世界 100 都市のスマートシティプロジェクトに対して、総
額 5000 万 USD の 技 術 や サ ー ビ ス を 提 供 す る 社 会 貢 献 プ ロ グ ラ ム 「 Smarter Cities
Challenge」を創設し、案件組成段階から関与している。
●欧米では、実証実験段階から既に実用化レベルに達しているプロジェクトがあり、企業は実
績を有するとともに、政府はこれらプロジェクトを広報としてトップセールしている。
●米国は、スマートグリッドを推進することで新たな産業・市場を創出し、雇用機会を拡大す
るだけでなく、米国の技術を国際標準化し、世界をリードすることも狙っている。NIST(国
立標準技術研究所:National Institute of Standards and Technology)やIEEE(米国電気電
子学会:Institute of Electrical and Electronics Engineers)等の標準化団体がスマートグリ
ッド関連技術の国際標準化を目指した検討を進めている。
5. 官民一体となった取組の必要性
以上のとおり、我が国でも面的開発の取組が進められているが、世界ではスピード感ある取
組がなされている。
官民連携で進めている韓国やシンガポールでは、案件組成や資金調達、リスクの役割分担を
明確に行い、政府系企業がマスターデベロッパーとして上流部分に参画している。
他方、欧米では自国の技術力を実証実験段階から実用化へと早い段階で推進し、世界のスタ
ンダードとして市場開拓を図っている。また、コングロマリット企業では資本力をいかして、
現地の主要企業とパートナー関係を築き、マスタープラン策定段階から参画している。
面的開発の需要拡大とともに、政府レベルの動きが活発化している本市場において、我が国
が競争優位性を発揮するためには、より一層官民連携による取組が必要である。また、国内の
製造業等を含む本邦企業が新興国への海外展開を推進し、外需を獲得する動きが活発化してい
る。そのような中、インド、インドネシア等の新興国において、現地ビジネス環境の整備等の
地域開発構想の推進について、我が国政府と相手国政府等との間で合意する等の取組が行われ
ているが、引き続き本邦企業の海外進出を円滑に行えるよう、各国の経済や産業の中心となっ
ている地域を特定し、本邦企業の拠点(中核拠点)として開発することが必要である。
30
方向性
① ビジネスモデルの確立
●第一に、都市開発・工業団地開発ニーズに対して、スマートグリッドや再生可能エネルギー
等の個別技術の提案に陥りがちであるが、相手国の本来のニーズは都市開発におけるトータ
ルデザイン及び都市化に伴う諸問題へのソリューションの提供である。我が国は、これまで
国内で展開してきた新都市開発、大都市問題解決プロジェクト、スマートインダストリアル・
パーク、リサーチ・パーク等の実績をいかした水や交通等の基本的なインフラに加えて、医
療や教育等を勘案した都市デザインが必要である。
●第二に、本邦企業がどこで利益を上げるかである。シンガポールの政府系企業である
Ascendas は、従来から実施してきた不動産開発を発展させて都市開発を展開している。韓国
は、公社主導の下で官民共同による開発が行われている。他方、欧米ではコングロマリット
企業が一手に引き受けている。
都市開発・工業団地開発は、政府による相手国に対するコミットメントや多様な企業の参画
が必要不可欠であるともに、巨額かつ長期のファイナンス、多大なリスクを有する。そのた
め、本邦企業間の一層強固な連携とともに、本邦企業・地方自治体・政府の一体的な取組や
適切な役割分担を構築する必要がある。
●第三に、マスターデベロッパーの不在への対応である。都市開発・工業団地開発は巨額の資
金調達やリスクを伴い、韓国やシンガポール、欧米では豊富な資本力を背景に上流部分を握
っている。我が国にも国内の都市開発を担ってきた政府関係機関やデベロッパー、鉄道を基
軸に面的開発を手がけてきた鉄道事業者等がおり、こうした主体がマスターデベロッパーと
して、マスタープランから参画し、開発に有利な土地の獲得や本邦企業の強みがいかせるプ
ランの作成を行っていくことが必要である。
② 面的開発の組成
●韓国では、将来の産業育成や海外輸出を見据えて推進している U-city をいかし、コロンビア
に U-city 官民合同輸出支援団を派遣する等、他国に対する積極的な PR によって、アゼルバ
イジャン、タンザニア、アルジェリア等の都市開発を受注している。
我が国でも 2010 年から北九州市や横浜市等の 4 都市をモデル都市に選定し、次世代エネル
ギー・社会システムの実証実験が始まっているが、その終了は 2014 年度末である。我が国
も早期に面的開発を完成し、
「百聞は一見にしかず」のPRが必要である。また、国際機関が
有する広範なネットワークを通じて、技術の面的な広がりと高いPR効果が期待できる国際機
関等の活用により、現地において技術の実証を行うことも有効である。
●実績が求められるインフラ市場において、既に各国の受注競争が始まっており、国内外問わ
ず面的開発の実施を通じて、本邦企業の実績獲得が必要である。加えて、個別インフラプロ
ジェクトにおいても、我が国では主に政府系機関がO&Mを担ってきたこともあり、本邦企業
のO&Mノウハウの不足が課題となっている。海外企業のM&Aやアライアンスに加えて、東
北復興を通じた実績・ノウハウの獲得も考えられる。
31
③ 面的開発を支援する政府の機能強化
●我が国では第 3 層(スマートインフラ)における取組が先行して進んでいるが、第 1 層(不
動産開発等)では、土地収用や投資から回収まで長期にわたる巨額の資金調達が必要である
ことから、本邦企業の参画が少ないのが現状である。
面的開発における上流部分(マスターデベロッパー)への本邦企業の参画を促すため、JICA
の海外投融資制度やJBICによる長期資金の供給等長期にわたる資金面での支援が必要 であ
る。
●本邦企業の立地が見込まれる地域全体の発電、水、交通、工業団地・商業施設等の開発を一
体的に推進し、本邦企業の進出ニーズに応じ機動的かつ迅速な対応ができるよう、政策対話
を実施しつつセクターローンやプログラムローンを活用した戦略的円借款プログラムを実施
する必要がある。
●JICA 委託調査等のマスタープラン策定を通じて、官民が広域的な開発に上流段階から一括関
与していく取組を促進することも必要である。なお、JICA による調査の活用にあたっては、
相手国による要請前の準備段階における基礎調査を積極的に活用していくことも重要であり、
また、現地の環境への影響調査等を十分に実施する必要がある。
●韓国やシンガポールに見られるように、我が国においても引き続き積極的なトップセールス
を行うとともに、パッケージ化した戦略的なマーケティングの実施、相手国のニーズに合っ
た総合的な都市開発の展開等、国をあげての都市輸出推進が必要である。
また、都市集中化に伴う諸問題に対しては、我が国の地方自治体が具体的に解決してきた主
体である。その経験をいかして、相手国に対してきめ細やかな対応が期待できることから、政
府とともに都市間が共同した取組が必要である。
●取組が広範であり、政府だけでは効果的支援が困難なため、現地拠点の窓口機関を設け、民
間デベロッパーを始め、自治体やコンサルタントと連携し、政府が総合調整する体制作りが
必要である。
32
第 3 章 事業投資の促進
我が国ではインフラプロジェクトを全て本邦企業で進める「オールジャパン」をこれまで課
題としてきた面があるが、事業投資/インフラ・システム輸出では案件組成、EPC、O&M、そ
してファイナンスと多様なノウハウが求められ、必ずしも我が国及び本邦企業が全てを得意と
してきたわけではない。さらに分野や地域によって、その構図は様々である。現に外国企業主
導のプロジェクトでも、本邦企業が重要な機器を納入し実利を得ているケースは多い。
ここでは、事業投資における本邦企業の参画状況、そして欧米・新興国企業の動向を踏まえ、
事業投資の促進策や「オールジャパン」を過度に意識することなく、第 3 国との連携によって
競争力を高める重要性について示す。
1. 事業投資の現状
市場動向
拡大するインフラ需要に対して、新興国の公的主体のファイナンス能力(当該主体の信用力
に基づく資金調達)だけでは対応することが難しい。また、新興国は人材やノウハウが不足し
ていることから、ファイナンスや O&M 等をパッケージにした事業投資が増えている。
民間資金投資額の推移をみると、アジア通貨危機やリーマンショック等の影響があるものの、
1990 年の 148 億 USD から 2010 年には 1,793 億 USD へと成長している。
(億USD)
2,000
1,793
1,615
1,537
1,541
1,500
1,232
1,101
990
981
1,000
826
688
371 379
500
690
677
507
445
577
666
211
148 155
Energy
Telecom
Transport
図表 3-1 分野別の民間資金投資額
1
PPI Project Database, World Bank and PPIAF, 2012.04
33
Water and sewerage
1
2010
2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1991
1990
0
本邦企業の参画状況
上記の 1990~2010 年に実施された約 11,000 件の事業投資のうち、本邦企業は 173 件
(1.5%)
に参画している。そのうち過半数がエネルギー分野であり、その主なプレイヤーは総合商社や
電力会社である。
図表 3-2 事業投資プロジェクトにおける本邦企業の参画状況
1
分野
総プロジェクト数
(A)
本邦企業参画
プロジェクト数(B)
参画割合(B/A)
Energy
3,318 (29.7%)
107 (61.8%)
3.2%
Telecom
5,445 (48.7%)
45 (26.0%)
0.8%
Transport
1,570 (14.1%)
11 (6.4%)
0.7%
Water and sewerage
841 (7.5%)
10 (5.8%)
1.2%
Total
11,174
173
1.5%
事業投資が先行している電力分野について、主な企業の海外発電資産規模をみると、自国に
おいて電力事業を担ってきた欧米企業(GDF Suez、EDF 等)に次いで、我が国の総合商社が
台頭している。総合商社は従来の機器・設備輸出や EPC、資金調達の知見をいかして早くから
IPP/IWPP に参入している。近年では電力会社やエンジニアリング企業が参入している。
0
20,000
40,000
60,000
80,000
76,899
GDF Suez(仏・英)
主な海外企業
37,176
EDF(仏)
21,192
CLP(香)
18,262
AES(米)
KEPCO(韓)
5,422
主な本邦企業
丸紅(日)
8,680
住友商事(日)
約5,300
三井物産(日)
5,190
三菱商事(日)
4,420
電源開発(日)
3,690
※自国内発電資産含まず
※GDF Suez、EDF、CLP、AES は 2011 年 12 月時点、KEPCO は 2010 年時点
※丸紅、電源開発は 2012 年 3 月時点、住友商事、三井物産、三菱商事は 2011 年 3 月時点
※GDF Suez は 400MW 以上の資産のみ
図表 3-3 主な企業の海外発電資産規模
1
2
持分ベース
(MW)
PPI Project Database, World Bank and PPIAF, 2012.04
各社 Annual Report 等より作成
34
2
本邦企業の参画形態(電力分野)
事業投資は、ファイナンスから EPC、O&M と多様な技術・巨額の資金が必要となることか
ら、コンソーシアムを組成することが多い。
電力分野を例にとると、我が国にはプロジェクトの案件組成から O&M までの各バリューチ
ェーンにおいて、競争力を持った本邦企業が存在している。具体的には、案件組成やプロジェ
クト全体のコーディネートは総合商社、機器・設備及び EPC は重電メーカーやエンジニアリン
グ企業、O&M は電力会社である。
しかしながら、2010 年度の中東における発電プロジェクトと受注企業をみると、
「オールジ
ャパン」のプロジェクトは存在せず、全て多国籍企業によって成り立っている。その理由とし
ては、オールジャパンは高コストに成り易いこと、各プレイヤーの利益相反・利害関係・リス
ク分担の調整が負担であること、オールジャパンで受注に敗れれば、他国コンソーシアムに提
供していれば獲得できた部分的な利益(機器・設備輸出等)も失うこと等が挙げられる。
図表 3-4 中東における発電プロジェクトと受注企業(2010 年度)【再掲】 1
プロジェクト名(国)
受注企業(事業者)
受注企業(EPC)
Brake Nuclear Facility(UAE)
KEPCO(韓)/
Doosan Heavy Industries(韓)
Hassyan Power and Desalination
Plant(UAE)
TAQA(UAE)/丸紅
Yanbu IWPP(サウジアラビア)
Bushehr Nuclear Facility(イラン)
主機メーカー
東芝【タービン】
Alstom(仏)/SK(韓)
Hanwha Engineering &
Construction(韓)
Atomstroyexport(露)
Alstom(仏)
日立【ポンプ等】
Ras Al Zour Power & Desalination
(サウジアラビア)
SWCC(サウジアラビア)
Doosan Heavy Industries(韓)/
Al-Arrabu Contracting(サウジ
アラビア)/SepcoⅢ(中)
Ras Laffan-C IWPP(カタール)
Suez(仏)/三井物産/中部電
力 / 四 国 電 力 /QP( カ タ ー
ル)/QEWC(カタール)
Hyundai Engineering &
Construction(韓)
三菱重工【Power】/
三菱電機【発電機】/
Sidem(仏)【Desal】
Rabigh Plant Extension-Phase6
(サウジアラビア)
SEC(サウジアラビア)
Doosan Heavy Industries(韓)
Doosan Heavy Industries(韓)
Shuaiba 3 IPP(サウジアラビア)
ACWA Power
(サウジアラビア)
Alstom(仏)
Alstom(仏)
Shuweihat 2 IWPP(UAE)
Suez(仏)
Samsung Corporation(韓)
Siemens(独)【Power】/Doosan
Heavy Industries(韓)【Desal】
Jizan Economic City Power Plant
(サウジアラビア)
Riyadh PP11(サウジアラビア)
Al Dur Power and Desalination Plant
(バーレーン)
Sur IPP(オマーン)
Shuweihat S3 IPP(UAE)
Salalah IWPP(オマーン)
Shams 1 Concentrared Solar Plant
(UAE)
1
CPI Power Engineering(中)
Suez(仏)/Al-Jomail/双日
Hyundai Heavy Industries(韓)
Suez(仏)
Hyundai Heavy Industries(韓)
丸紅
Daewoo Engineering(韓)
Siemens(独)/
Daewoo Engineering(韓)
住友商事/KEPCO(韓)
Sembcorp(シンガポール)/
Oman Inevestment Corp(オマ
ーン)
Masdar Total Abengoa(UAE,
仏,スペイン)
Top 20 Middle East Power Project
2011 年度版プラント輸出データ便覧, 重化学工業通信社
35
Sepco-Ⅲ(中)
GE(米)
GE(米)【Power】/
Degremont(仏)【Desal】
Siemens(独)
Siemens(独)
GE(米)【Power】/
Hyflux(シンガポール)【Desal】
本邦企業の参画形態(鉄道分野)
鉄道分野のバリューチェーン上の本邦企業をみると、各バリューチェーンにおいて複数のプ
レイヤーが存在し、さらに車両、電装、信号等の要素技術ごとにプレイヤーが再分化されてい
る。そのため、鉄道分野では機器・設備輸出が主であるが、近年では車両納入に加えて 30 年間
の保守サービスを提供する英国高速鉄道(約 6000 億円)等、事業範囲を拡大することで受注
に成功している例がある。
他方、ビッグ 3 と言われる Bombardier、Alstom、Siemens は、過去において M&A を繰り
返し、鉄道車両を造るだけでなく、変電機器、信号、通信、O&M まで垂直統合されたコング
ロマリット企業である。これらコングロマリット企業は、案件組成から O&M まで 1 社で担え
ることが強みであるが、案件やリスクに応じて現地のコントラクターや O&M 事業者等と連携
し、車両や信号システム等の単体輸出を行っている。
さらに、近年台頭してきている新興国企業は、自国の安価な労働力やビッグ 3 の技術供与を
受けて車両製造を行っており、近年では機器・設備輸出に留まらず、海外の EPC・事業投資へ
と事業拡大を図っている。
また、鉄道事業は Commercially Viable なセクターであるものの資金の回収に長い期間がか
かることが多く相手となる開発途上国政府、公的企業は財政的に芳しいといえない状況も多い。
同分野に関し、JBIC の輸出金融の融資期間の長期化が図られれば日本における裨益の拡大にも
貢献できる。
案件組成/ファイナンス
ス
EPC
O&M
欧米・新興国
Bombardier(加)/Alstom(仏)/Siemens(独)
政府
政府系金融機関・銀行
※
独立系コンサル・シストラ
政府
日本
政府系金融機関・銀行
商社
【新興国企業】
Veolia Transport(仏)/
中国南車(中)
FirstGroup plc LSE(英)/
中国北車(中)
Keolis(仏)
Hyundai Rotem(韓)
【車両】
日立製作所/川崎重工等
【電装・信号】
三菱電機/東芝/日本信号
【ブレーキ・レール・車軸等】
住友金属/新日本製鐵等
JR 東日本/JR 東海/
JR 西日本/JR 九州/
東海電鉄/近鉄/
阪急阪神 HD/東武鉄道/
小田急電鉄/京阪電鉄/
東京メトロ
※フランス国鉄(SNCF)が出資する鉄道コンサル
図表 3-5 鉄道分野のバリューチェーンにおけるプレイヤー比較
36
プロジェクトファイナンスにおける競合状況
我が国はインフラ市場において相対的な地位低下が危惧されているが、プロジェクトファイ
ナンスにおいては世界有数の実績を有している。世界のインフラ共同主幹事ランキングをみる
と、本邦銀行の取扱額は概ね横ばいであるが、リーマンショックによって欧米金融機関のラン
キングが下がり、2011 年にはトップ 5 に本邦銀行 3 行がランクインしている。また、我が国の
輸出信用機関である JBIC・NEXI は、世界 1 位の実績を有している。
図表 3-6 共同主幹事ランキング
<2008>
1
<2011>
(百万USD)
1
RBS(英)
13,197.8
1
State Bank of India(印)
21,631.6
2
BNP Paribas(仏)
11,925.8
2
Mitsubishi UFJ(日)
9,486.1
3
State Bank of India(印)
11,511.5
3
SMBC(日)
8,188.1
4
SMBC(日)
10,297.3
4
Credit Agricole(仏)
6,506.4
5
Calyon(仏)
9,910.8
5
Mizuho Financial(日)
5,797.5
6
Dexia(白)
8,822.5
6
Societe Generale(仏)
5,760.5
7
Mitsubishi UFJ(日)
7,973.0
7
BNP Paribas(仏)
5,390.8
8
West LB(独)
6.943.3
8
Axis Bank(印)
5,216.9
IDBI Bank(印)
5,162.3
9
ING(蘭)
6,576.0
9
10
Fortis(白、蘭)
6,473.0
10 ING(蘭)
4,916.1
11
Santander(西)
6,470.0
11 BBVA(西)
4,810.7
12
SG(仏)
6,417.8
12 ANZ(豪・NZ)
4,703.6
13
BBVA(西)
6,149.3
13 Santander(西)
4,661.3
14
HSBC(英)
5,228.5
14 RBS(英)
4,207.3
5,181.5
15 HSBC(英)
4,090.8
15 Mizuho Financial(日)
図表 3-7 ECA・国際金融機関のプロジェクトファイナンス実績(2011) 2
IDFI
(百万USD)
Direct lending Guarantees Exposure Total
1
JBIC/Nexi(日)
4,009
2,736
6,745
11,325
2
KEXIM/Ksure(韓)
2,313
1,847
4,160
5,748
3
Inter-American Development
Bank
1,849
1,684
3,533
5,447
4
US Ex-Im(米)
3,281
100
3,381
4,590
5
KfW/Hermes/DEG/UFK(独)
2,659
399
3,058
5,720
6
IFC/MIGA/Clean Tech Fund/ICF
1,043
548
1,591
1,938
7
SACE(伊)
769
515
1,284
2,199
8
European Investment Bank
987
-
987
1,012
9
GIEK/Eksportfinan(ノルウェー)
535
200
735
1,623
677
-
677
981
516
141
657
1,472
12 Coface/Proparco/AFD(仏)
231
128
359
596
13 BNDES(ブラジル)
323
-
323
494
14 OPIC(米)
310
-
310
393
15 CAF
300
-
300
300
10 Asian Development Bank
11
1
2
European Bank for
Reconstruction and Development
Project Finance International
Project Finance International
37
2. 事業投資の意義
我が国企業による IPP や IWPP への事業投資がこれまで進んだ結果、投資先である
IPP/IWPP の現地での売上(推計)は、我が国の EPC 受注による売上高に近い水準になってお
り、インフラ・システム輸出の中で重要な一形態となっている。出資者として本邦企業が参加
することが、我が国の機器等の受注に繋がっているかはケースバイケースであるが、当該プロ
ジェクトにおいて直接的に機器輸出に繋がらない場合であっても、オペレーションノウハウの
獲得等、インフラ・システム輸出を推進する上での意義があると考えられる。
また、昨今の円高は、M&A により海外資産の獲得を行うには好ましい条件であるため、積
極的に事業投資を進めるべき環境にあると言える。このため、次項では事業投資の促進策につ
いて述べる。
<海外インフラ受注額>
<事業投資案件の売上高>
(億 USD)
(億 USD)
交通インフラ
受注 32.3 億 USD
エネルギー・石油化学
受注 98.0 億 USD
発電プラント
受注 64.3 億 USD
図表 3-8 海外インフラ受注額及び事業投資案件の売上高(2010 年) 1
1
事業投資による売上高は関係会社発表資料、ヒアリングに基づき推計
38
鉄道
売上高 5 億 USD
(約 420 億円)
水
売上高 15.5 億 USD
(約 1200 億円)
発電プラント
売上高 250 億 USD
(約 2 兆円)
3. 事業投資の促進策
事業投資市場の拡大とともに、インフラプロジェクトの大型化が進み、多国籍コンソーシア
ムの組成が増えている。同時に、官民連携(PPP)型のインフラ案件が増加しており、初期コ
スト回収期間が長い案件への支援できる体制構築が必要である。
また、事業投資には案件組成から EPC、O&M の多岐にわたるノウハウが求められ、有力欧
米企業や以前から事業投資に参入している本邦総合商社、さらに近年台頭してきている新興国
企業ではノウハウの吸収が相次いでいる。
本邦企業としても、ノウハウや資本力を有する海外企業に遅れをとることのないよう、技術
的なノウハウ、援助のストック等の強みを総合的に活用した対応が必要である。同時に、本邦
企業による事業投資を促進する観点から、次のような取組を行うことが必要である。
方向性
① 事業投資支援の強化(JICA/NEXI)
●海外におけるインフラプロジェクトは予測が難しく複雑なリスクを有し、長期かつ巨額の資
金調達が必要である。特に新興国におけるインフラプロジェクトは高い開発効果を有するに
も関わらず、既存の金融機関では対応できない案件も多い。
そのようなプロジェクトに本邦企業が参入し、さらにはその市場に参入・展開するために、
プロジェクトへの出資・融資を行うJICAの海外投融資制度の本格再開が必要である。また、
ホスト国におけるインフラ設備の利用料金収入と事業投下資本費を回収できるレベルとの間
にギャップがある場合、事業採算性を補填する目的で、新興国におけるVGF(Viability Gap
Funding)制度構築支援等の新たな資金支援手法の検討が必要である。
NEXIでは、海外現地金融機関による資金供給に対する付保、社債・プロジェクトボンド等新
たなファイナンススキームによる資金調達への貿易代金貸付保険の付保、
「つなぎ資金」等の
短期融資に対する海外事業資金貸付保険の付保が必要である。
② 融資・保険等の迅速な支援(JBIC/NEXI)
●インフラ輸出市場において本邦企業は、海外企業との熾烈な受注競争下にあり、融資・保険
に係る審査の長期化が、本邦企業のビジネス機会の喪失につながる可能性がある。例えば、
米国においては、2010 年より米国輸出入銀行(USEXIM)が、太陽光発電等の再生可能エ
ネルギープロジェクトのうち 300~1000 万 USD の少額案件については、最短の場合では 2
ヶ月程度の審査期間で融資・保証を行うプログラムを有している。
本邦企業のビジネス機会を確保する観点から、融資・保険に係る審査が可能な限り迅速に行
われることが望ましいことから、JBIC や NEXI においては、必要な体制整備を行いつつ、
直接融資や保険提供の積極的な実施が必要である。
●インフラプロジェクトに係る融資・保険等の審査には、QCD(Quality, Cost and Delivery)
、
FS調査、プロジェクトファイナンス等の多様なノウハウ・能力が求められ、迅速な支援を行
39
うためには、JBICやNEXI等の政府機関における人材育成・体制強化が必要である。
③ M&A支援の強化(JBIC/産業革新機構/NEXI)
●インフラプロジェクトの大型化、またEPCからO&Mを含めた事業投資が増える中、本邦企業
がそのノウハウを取得し、積極的にインフラビジネスに参入するための戦略として、円高メ
リットやファイナンス支援の競争力をいかしたM&Aが増えている。我が国では、2011 年に
1000 億ドル規模の「円高対応緊急基金」を創設し、JBIC及び産業革新機構が連携してM&A
を促しており、またNEXIも海外事業資金貸付保険や海外投資保険によって支援しているが、
引き続き、これらの支援によって、本邦企業の成長産業へ参入や事業・市場拡大を促す必要が
ある。
④ 日本経済への貢献を考慮したファイナンスの実施(JBIC/NEXI)
●多国籍コンソーシアムによる事業投資が拡大する中、我が国の支援ツールの一つである JBIC
の投資金融/NEXI の海外事業資金貸付保険は、事業投資の観点から審査されるため、輸出金
融のように機材の本邦品割合は考慮されていない。外資企業が本邦企業をコンソーシアムに
引き込み、JBIC 融資/NEXI 保険を受ける例が見受けられるが、我が国経済への裨益効果を
一層考慮した判断が必要である。
⑤ 「勝てるコンソーシアム」の組成
●IPP/IWPP の電力分野において本邦商社が確立し、実績をあげている国際コンソーシアムを
ベースとしたビジネスモデルの展開と同様に、鉄道インフラ・システム輸出の分野において
も、国際コンソーシアムをベースとしたビジネスモデルを確立することが必要である。
●国際コンソーシアムの組成にあたっては、インフラ・システム輸出市場におけるバリューチ
ェーンのなかで、本邦企業が優位な立場にあるファイナンスセクター(商社及びメガバンク)
の活用に配慮する必要がある。
●鉄道インフラ・システム輸出市場における「勝てるコンソーシアム」のイメージは、総合商
社等のファイナンスセクターがスポンサーとなり、本邦企業が技術的に優位な立場にある車
両、電装、信号等の要素技術の部分を取り込み、その他の O&M 及びコンサルタンツは国際
コンソーシアムとする。このビジネスモデルは過渡的なもので、将来的には、この部分も本
邦企業が担えるようにし、本邦企業が利益を享受できるようにバリューチェーンの拡大を図
る必要がある。
40
案件組成/ファイナンス
ス
EPC
O&M
現状
・欧州コンサルタントが席巻 ・O&M までを含めて一貫し
し、後の仕様などで本邦企 て担えるビッグ 3 に比べ、
本邦企業の個別技術は優
業が劣勢
・ファイナンスでは我が国が れているが、分業されてお
り、一貫して担えるプレイ
競争優位
ヤーが不在
・本邦企業は海外における
実績がない
・現地事業者・欧米企業の
M&A・アライアンスなどに
よってノウハウ・実績の獲
得が必要
※青色は本邦企業、赤色は第 3 国
政府
政府系金融機関・銀行
案件組成・ファイナンス支援
<コンソーシアム>
総合商社
コンサルタント
EPC コントラクター
マスタープランなど
技術供給
への参画
運行管理システム・車両など、鉄道事
業の主要機器・設備を担う本邦企業
部品供給
長期的には参入
本邦コンサルタント
(日本コンサルタントなど)
現地事業者/豊富な実績
を有する欧米企業
要素技術を有する
本邦企業
長期的には参入
本邦鉄道事業者
図表 3-9 「勝てるコンソーシアム」のイメージ(鉄道分野)
41
第 4 章 インフラ・システム輸出支援ツールの現状と課題
インフラプロジェクトの大型化や発注国ニーズの多様化、新興国を含めた受注競争等を背景
に、本邦企業の海外現地法人設立や M&A、国際コンソーシアムの形成等ビジネス形態の多様
化が進んでいる。また、拡大するインフラ需要に対して、プロジェクトファイナンスやイスラ
ム金融をはじめとする資金調達手法の多様化、さらに資源・資機材価格の高騰や欧米における
不安定な金融市場等、長期かつ巨額なインフラプロジェクトにおける金融リスクが高まってい
る。
このような中、本邦企業の国際競争力の確保やリスクテイクの補完、さらには案件組成や受
注活動に至るまで、我が国のインフラ・システム輸出支援ツールに対してのニーズが変化して
いる。ここでは、本邦企業のインフラ・システム輸出における企業活動の現状に合わせて、支
援ツールの改善・充実の方向性を示す。
1. 海外現地法人を通じた国際ビジネス展開への支援
現 状
海外現地法人による輸出額や国内販売額は、日本からの輸出額に迫る規模に成長しており、
インフラ・システム輸出市場においても海外現地法人等を通じた第 3 国輸出や現地国内販売が
増加している。
その背景には、新興国の市場参入によるコスト競争への対応、インド政府の発電設備の国産
化政策にみられるように、発電設備の製造拠点がインド国内にあるといった入札参加要件への
対応、さらに国際コンソーシアムによる受注が増えていることが挙げられる。
(社)
20,000
< 業 種 別 >
(社)
20,000
15,000
15,000
10,000
10,000
5,000
5,000
0
< 地 域 別 >
0
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
製造業
卸売業
建設業
小売業
情報通信業
サービス業
運輸業
2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
北米
ヨーロッパ
中南米
オセアニア
アジア
アフリカ
中東
※海外現地法人とは、日本側出資比率合計が 10%以上の外国法人、日本側出資比率合計が 50%超の子会社が 50%超の出資を行
っている外国法人、日本側親会社の出資と日本側出資比率合計が 50%超の子会社の出資の合計が 50%超の外国法人をいう。
図表 4-1 海外現地法人企業数
1
海外事業活動基本調査, 経済産業省
42
1
(日本から
の輸出=
100)
(兆円)
120.0
100.0
100.0
90.0
80.0
80.0
60.0
70.0
40.0
60.0
20.0
50.0
0.0
2009
2000
2010
日本からの輸出額
2002
2004
2006
2008
2010
現地法人の第三国向け輸出
(日本からの輸出額=100)
現地法人の第三国向け輸出(日本向けを除く)
現地法人の現地販売(日系企業向け)
現地法人の現地販売(日系企業以外向け)
図表 4-2 日本からの輸出額と現地法人の第 3 国向け輸出額・現地国内販売額
(億USD)
10,000
1
9,299
8,000
7,771
7,530
7,449
2007
2008
2009
6,761
6,176
5,523
6,000
4,646
4,000
3,721
2,000
0
2002
2003
2004
自国内向け
2005
2006
日本国向け
2010
日本以外の第三国向け
※海外現地法人とは、資本金 1 億円以上、従業者 50 人以上の本邦企業が保有する海外現地法人のうち、製造企業、従業者 50 人以
上、本社企業の直接出資分と間接出資分を合わせた出資比率が 50%以上であるものをいう。
図表 4-3 海外現地法人売上高(製造拠点) 2
1
2
海外事業活動基本調査, 経済産業省, 貿易統計, 財務省
海外現地法人四半期調査, 経済産業省
43
対応策の改善・充実の方向性
① 貿易保険の対象範囲の拡大(NEXI)
●海外現地法人等を通じた取引リスクの軽減策としては、現地輸出信用機関(ECA)や民間保
険会社の利用が考えられるが、引受枠が小さい、保険料率が高い、保険会社によるキャンセ
ルリスク等の課題を有している。
他方、我が国の支援ツールの一つである NEXI の貿易保険は、年間約 14 万件、引受金額約 9
兆円(2010 年度)のリスクを引き受けているが、被保険者は、法律上、本邦法人・本邦人に
限定されていることから、近年増加している海外現地法人による第 3 国輸出や現地国内販売
に対して貿易保険を付保できない。
本邦企業のインフラ・システム輸出の促進にあたっては、コスト競争力強化のための現地化
の進展、ビジネス形態の多様化といった実情を踏まえ、企業のニーズを適切に反映できるよ
う保険の対象範囲を設定しつつ、海外現地法人等を通じた取引リスクの軽減策として、NEXI
の貿易保険を活用できるようにすることが必要である。
② 海外現地法人の製造販売に係る支援の積極的実施(JBIC)
●本邦企業の製造拠点の現地化に伴い第 3 国からの調達が増加し、また、海外現地法人による
製造販売(第 3 国への輸出・現地国内販売)が拡大している。こうした状況の下、輸出金融
における現行の本邦調達条件(
「本邦品 3 割ルール」
)の計算に、本邦企業の海外現地法人か
らの調達分をカウントすることや、投資金融を活用した海外現地法人による第 3 国輸出や国
内販売へのファイナンスを行う等、JBIC 融資の積極的かつ柔軟な活用が必要である。
2. 現地通貨為替リスクへの支援
現 状
前述のとおり事業投資市場が拡大し、本邦企業においても EPC 受注から O&M 等を含めた事
業投資が増えている。事業投資では、投資回収期間が長く、収入が現地通貨建てとなることか
ら、為替リスクのヘッジが重要な課題となる。
近年は、アジア諸国等のローカル金融市場が整備されつつあり、本邦金融機関の海外業務展
開が進みつつあるが、インフラ投資のような大きな資金需要を十分に満たす水準には達してお
らず、今後ともアジア諸国の金融市場の整備に協力していくことが必要である。
現状においては、巨額のインフラプロジェクトに必要な資金を現地の本邦金融機関ないし現
地金融機関から調達することは難しく、ハードカレンシーによる調達資金と回収資金に通貨ギ
ャップが生じている。
本邦企業が為替リスクを回避し、当該事業に専念できるよう、現地通貨により償還される部
分については、現地通貨による融資が受けられる融資環境の整備が求められている。
44
図表 4-4 JBICの外貨貸付残高比率(2010 年度) 1
通貨
総額(億円)
比率(%)
USD
56,379
98.21%
SDR
0.097
0.00%
EUR
866
1.51%
ZAR
37
0.06%
THB
16
0.03%
AUD
111
0.19%
対応策の改善・充実の方向性
① 早期の現地通貨建て公的ファイナンスの拡充(JBIC/JICA)
●JBIC が行う現地通貨建て債券発行、日系企業による現地通貨建て債への保証や現地通貨建て
融資について、本邦企業のニーズを踏まえ、本年 4 月 1 日より可能となった通貨スワップに
対する保証の活用も含め、今後一層、ドル以外の現地通貨においても、柔軟かつ迅速な対応
を行う必要がある。
●他方、JICAでは現地通貨建て融資の仕組みがなく、本格再開が予定される海外投融資におい
て現地通貨建て融資の仕組み構築が必要である。
② 貿易保険による対応(NEXI)
●2011 年 4 月、NEXIでは現地通貨建てファイナンスにおける為替リスクへの対応として、貿
易一般保険(2 年以上案件)
、貿易代金貸付保険(2 年以上案件)及び海外事業資金貸付保険
を対象に、外貨建て特約の制度改正を行った。これにより、従来の米ドル、ユーロに加え、
新たに 18 通貨が特約の対象となったところであり、一層の活用が期待される。
●また、法律上、本邦法人・本法人のみが海外事業資金貸付保険の付保対象となっているため、
本法金融機関の海外現地法人や外国金融機関の現地拠点からの資金供給に対しては、同保険
を付保できない。他方、フランス、ドイツ、イタリア、韓国のECAでは、海外現地金融機関
による資金供給に対しても付保を行っており、我が国としても現地通貨建てでの資金供給の
担い手の一つである海外現地金融機関に対しても付保できるようにすることが必要である。
1
JBIC 年次報告書 2011 を基に作成
45
3. 案件組成・受注活動への支援
現 状
我が国のインフラ・システム輸出の推進にあたっては、案件組成段階から関与することの重
要性が指摘されており、政府による相手国との政策協議や受注獲得に向けたトップセールスが
行われ、インドネシア MPA 構想やインドデリー・ムンバイ構想等の成果を上げている。
他方、近年インフラ輸出で成長をみせている韓国やシンガポールでは、国策としてインフラ
輸出を推進しており、コスト競争力だけではなく、技術面や営業力等を高めるとともに、政府
によるトップセールスとバックアップ体制をいかして成長を遂げている。
対応策の改善・充実の方向性
① 確度の高い案件情報収集及び提供
●本邦企業が海外インフラプロジェクトを受注するにあたっては、先ず案件情報を得る必要が
ある。また、その中から確度の高い案件の選別等、本邦企業各々の努力では限界があり、相
手国との政策協議、関係機関や本邦企業との連携、インハウスコンサルタントの派遣を通じ
た相手国に対する具体的な提案等、案件組成・受注活動段階から政府の支援強化が期待され
ている。そのため、政府による相手国との政策協議やトップセールスに加えて、各国の大使
館、JETRO、JBIC、JICA等の現地事務所をいかし、情報収集機能の強化及び一元化を図る
必要がある。
●外務省においては主要な在外公館にインフラ・プロジェクト専門官を指名するとともに、国
際協力の観点から日本大使館や JICA 現地事務所を中心として現地 ODA タスクフォースが立
ち上げられたが、相手国との円滑な協議や有益な情報収集を行うには、日本政府によるファ
イナンス支援を背景として行うことが重要である。
●JETRO が日系企業の声をとりまとめ、相手国のマスタープランへ反映する働きかけ等を行
うため、JETRO と相手国州政府・開発公社等との協力の枠組みを構築していくことが必要
である。また、JETRO におけるインフラコーディネーターの雇用等、インフラプロジェク
トの推進のための現地情報の適切な提供を重点的に実施していくことが重要である。
② 案件組成段階・受注活動における官民連携の強化
●案件組成段階においては、政府間の協議とともに、本邦企業の強みを如何に相手国にアピー
ルできるかが、その後の受注活動での優位性へとつながる。インドネシアMPA構想では、政
府による提案やJICA支援による本邦企業のFS調査が行われており、本邦企業の受注が期待
されている。このように案件組成から受注活動に至るまで、一貫した政府支援と官民連携の
強化が必要である。
●JICA円借款によるプロジェクトでは、その前段階で様々な資金を活用したFS調査を実施す
ることが多く、仕様書の作成支援等によるスペックインが可能であるが、対象国や分野によ
って本邦企業の受注状況が異なる。従って、円借款が、その本来の目的に沿いつつ、インフ
46
ラ・システム輸出の促進に寄与するよう、スペックインに向けた努力を官民で行う必要があ
る。
●PPP インフラ案件では、各国の制度づくりに積極的に関与し、また各国ごとの制度の違いを
体系的に把握し情報提供を行うことが必要であり、JICA 及び関係機関が積極的に協力してい
くことが必要である。
③ 案件形成に向けたFS(実現可能性)調査のフォローアップ
●ファイナンス局面でのスムーズな展開を図り、案件形成からファイナンスまで一貫した提案
を行うため、FS 調査初期段階から公的金融機関、在外勢、関係機関との緊密な連携を実施す
る必要がある。具体的には、FS 調査ごとに第三者アドバイザーをアサインし、客観的な案件
形成を図ると共に、現地での大使館や関係機関とのコーディネートを行う。アドバイザーは
翌年度以降も案件をフォローすることで継続的な案件形成を実施する。また、FS 調査のフォ
ローアップを定期的に行い、限りある政策リソースのメリハリある配分を行うとともに、関
係公的機関(JBIC、JICA、JETRO 等)も含めた FS 進捗報告会(国内外)の実施等を通じ
た情報共有が重要である。
④ 案件組成段階からの売込み強化
●新興国においては、ライフサイクルコストや長期的な効率性よりも、目の前の初期コストに
より判断されがちな側面がある中、我が国の提供するインフラ・システムは、高品質・高効
率であり初期コストが高い傾向にある。これらを踏まえ、分野毎に納期遅延の有無、予定性
能の実現、ランニングコスト、不都合による停止の多寡、メンテナンスコスト等を定量化す
ることで、我が国インフラの優位性を現地大使館、JETRO、民間企業等営業担当者が売り込
みやすい形で明確化し、結果を普及することが必要である。最終的には、それらの活動によ
り、我が国インフラ技術の真の価値の理解促進を図ることが重要である。
●競合先の企業戦略・技術分析、過去の類似案件の受注結果等を調査・分析し強みと弱みにつ
いて整理して売込の戦略を考える必要がある。また、第三者アドバイザーの活用、分野毎の
PR用媒体や日本の優れた技術を現場で示すことで、より効果的な売り込みを実施することが
重要である。
●売込みに当たっては、我が国の優れたインフラの運用状況を実際に見てもらうことが効果的
であり、分野別に見学コースの設計、提供資料の作成などを実施し、受入準備をしておくこ
とが必要である。
47
4. 人材育成への支援
現 状
インフラ受注に向けた各国の競争が厳しさを増す中、中国や韓国は、人材育成を交渉上の有
利な材料として活用している。我が国においても、企業活動の多様化に対応しつつ、受注率を
高めるために、人材育成支援を積極的に実施していく必要がある。
対応策の改善・充実の方向性
① 現地企業との連携強化に向けた人材育成
●受注率を向上するためには、現地企業を含めた諸外国の企業と連携し、生産や設計の現地化
を図り競争力を強化することが必要である。また、新興国における事業参入の条件としてこ
うした対応が求められることもある。こうした中、本邦企業においては、コスト競争力の強
化等に向け、海外における生産、設計拠点の設立の動きが見られ、現地における生産、設計、
管理のために優秀な現地人材を育成する必要が増大している。また、コスト競争力を確保し
つつ現地の市場に即した製品の仕様に適合させるためには、製品のダウングレード化を進め
ることも必要であり、このために現地のニーズを熟知しつつ設計等を実施できる現地人材を
育成することも重要である。
このため、現地企業等との連携に伴い必要となる現地人材の育成や現地大卒人材確保の支援、
非ODA対象国を含む第 3 国を含めた海外における人材育成支援が必要である。その際、企業
OBの組織的な有効活用や、かつて日本で研修を受けた現地人材を有効活用していくことも必
要である。
また、環境分野等では、相手国における制度整備支援に向けた人材育成により、日本のノウ
ハウや経験を伝えていくことで、相手国に我が国の技術を導入しやすい環境を整備すること
も重要である。
② 人材育成を通じた我が国インフラ技術の優位性のPR強化
●我が国企業が発電・石油関連プラント分野において激しい競争に晒されている中、我が国の
インフラ技術の環境性能や高信頼性、運転面での安全性等、初期コスト以外の我が国の強み
が十分に理解され、相手国の仕様に反映されていない。
このため、具体的な案件形成より早い段階から、若手も含めて相手国の政府系企業等の実務
者等を日本に招聘し、視察や研修を行うことにより、相手国における我が国の技術の優位性
に対する理解を促進することが必要である。その際、過去に日本に招聘した研修生やその同
窓会を有効活用していくことも重要である。また、こうした取組を通じて、機器輸出支援に
とどまらず、インフラの運転管理事業の海外展開についても支援していくことが必要である。
48
おわりに
新興国におけるインフラ市場の獲得競争において、日本企業が韓国企業、中国企業との競争
に劣後してきている。日本企業の仕事のやり方が緻密すぎて事業の推進スピードが劣るのに対
して、韓国企業や中国企業は、トップダウンによるスピード感と、自分たちでは足りない能力
を躊躇せずに外国企業から買ってくる営業手法で市場ニーズに即したインフラ提案でインフラ
案件の獲得に邁進し、市場獲得において優位に立っている。
とりわけ韓国企業は、儲かるセグメントを特定し、そこに集中投資を行う戦略を採り、日本
との競争優位を確保してきた。自社で生産できないものは他国企業より調達し、即戦力となる
有能なグローバル人材を高給で外国企業から引き抜き、競争力を高めている。政府部門にあっ
ても成果主義に基づく厳しい圧力にさらされているため、企業への受注サポートも個別企業の
支援を含め充実したものとなっている。
新興国のインフラ市場の変化は激しく、リスクの連続、ちぐはぐの連続である。日本企業は、
バンカブルな事業に、緻密に事業計画を詰め切って事業を実施することを求めるが、なかなか
そういう日本的な手法が通用する場面は少ない。新興国のインフラ市場では、リスク管理能力
をつけ、臨機応変な対応をトップダウンで次々に実施していくことが求められることが多い。
日本企業は、緻密さを維持しつつスピード感を高めるやり方を早急に見つける必要がある。
スピード感を早めるためには、意思決定者に対してリスク管理に関する情報をタイムリーに提
供する機能が必要になる。その機能を発揮するのが「全体像の描けるコンサル」や「リスク管
理、ポリティカルクライシスへの対応ができるコンサル」である。我が国ではこうしたコンサ
ルタント機能が弱いのが現状である。
優秀な人材は、一朝一夕には育たない。韓国では、アジア金融危機後に大挙、アメリカに留
学した人材が多数、インフラビジネスに携わり、同時に競争力向上の原動力となってきた。韓
国では金融機関が弱く、英語に堪能なコンサルタントが活躍する場は、金融界ではなく、新興
国ビジネスとなっている。他方、中国では広大な国内インフラ市場に欧米企業を引き込み、1
号案件を受注させ、その建設の中でノウハウを学んでいる。
人材の育成には 10 年かかり、今から育成した人材が一線に立つのは10年後である。退職者
を含めて現在の人材を最大限に活かし、更に足りない部分は、外国企業・外国人をうまく活用
してやっていかなければならない。幸い、日本に留学、研修で長期滞在をした外国人材が数十
万人規模で新興国にいる。例えば、AOTS(海外技術者研修協会)で研修をして帰国した研修
生は約13万人おり、帰国後、民間企業、政府機関で活躍している。こうした人材を活用する
ことが重要である。
資金面では欧州の金融が混乱する中で、新興国のプロジェクトを実施する際に、JBIC、NEXI
の金融機能は抜きんでた力を持ってきており、構造調整を終えた民間金融機関も豊富な資金力
を確保している。強いファイナンスをうまく利用して、事業投資だけではなく、より多くのイ
ンフラ輸出を実現していくことが必要とされている。
インフラ受注は、国際連携が主となっている。日本のファイナンスの強さ、特定分野での技
術優位性を武器として、如何に多くのインフラプロジェクトに食い込んでいくか、国際連携の
妙が問われている。外国企業の長所と日本企業の長所を合わせ、多数のインフラ案件を受注し
ていくため、官民協力によるプロジェクトの推進が求められている。
インフラ・システム輸出の拡大に向け各国は国を挙げて取り組んでいる。我が国も官民一体
となった総合的な取組の強化が必要とされており、その成果を国民は期待している。
実務者レベル検討会
委員名簿
・市原 健介
独立行政法人日本貿易振興機構 機械・環境産業部長
・翁 百合
株式会社日本総合研究所 理事
・佐々木 経世
イーソリューションズ株式会社 代表取締役社長
・笹俣 弘志
A.T.カーニー株式会社日本オフィス パートナー
・高梨 寿
社団法人海外コンサルティング企業協会 専務理事
・中湊 晃
株式会社三井物産戦略研究所 代表取締役社長
・深川 由起子
早稲田大学政治経済学術院 教授
・藤森 祥弘
一般社団法人国際建設技術協会国際建設技術研究所 所長
・待井 寿郎
株式会社国際協力銀行 経営企画部 業務企画室長
・三科 一郎
日本工営株式会社 参与(グローバル戦略室(社長特命))
・三木 健
独立行政法人日本貿易保険 営業第二部長
・村田 修
独立行政法人国際協力機構 民間連携室長
(五十音順、敬称略)
(事務局)
パシフィックコンサルタンツ株式会社
実務者レベル検討会
検討経過
第 1 回実務者レベル検討会
日時:平成 24 年 4 月 13 日(金)16:00-18:00
場所:経済産業省 17 階 第 2 特別会議室
議題:1. 第 2 回インフラ・システム輸出部会の報告
2. 発電プラントの競争力
3. プラント・エンジニアリング産業の国際競争力(石油化学・エネルギー分野)
第 2 回実務者レベル検討会
日時:平成 24 年 5 月 11 日(金)16:00-18:00
場所:経済産業省 17 階 第 2 特別会議室
議題:1. 第 3 回インフラ・システム輸出部会の報告
2. 面的開発としてのスマートコミュニティ
3. 鉄道分野の我が国企業の競争力と直面する課題
第 3 回実務者レベル検討会
日時:平成 24 年 6 月 1 日(金)16:00-18:00
場所:経済産業省 本館 2 階 西 8 会議室
議題:1. インフラ・システム輸出部会への報告案
Fly UP