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杉の活用による林業再生

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杉の活用による林業再生
CONTENTS
1 はじめに ∼シナリオを描く∼
5 杉の個性を活かす技術
2 誰のための森林大国か
6 都会人に伝える
3 「東濃桧」の産地は今
7 主導権を取り戻す
4 大きくなった「杉の子」
8 地方の自立を支える
はじめに ∼シナリオを描く∼
9 世界に貢献する
10 おわりに
必ずしも連動するとは限らない。例えば、
強引な間伐の結果、
林地に膨大な残材が放置され、
これが山仕事の邪魔になり、
災害リスクを高め、
温室効果ガスの発生源となっている。さ
温暖化対策の切り札として、恵まれたわが国の森林資
らに、間伐材の供給が増えることで山元価格(注3)はさらに
源が改めて注目されている。京都議定書で森林吸収による
下落し(図表3)、
林業関係者の混迷はむしろ深まっている。
温室効果ガスの削減効果が認められたことで、
間伐(注1)等
「衣食住」のうち「衣」と「食」の分野では、国産素材に
の森林整備は進んだ。昨年末に発表された「森林・林業
対するブランド・イメージが確立しているが、
「住」の分野で
(注2)
自給率50%を目指し
は必ずしもそうではない。むしろ現状は、
外材に押されて国
て安定供給体制を構築するとしており、
自給率はやや回復
産材本来の良さを消費者のみならず林業関係者も見失っ
傾向にある
(図表2)。
ているように感じる。この現状を脱して、
消費者側から国産
しかしながら、森林吸収による温室効果ガス削減や、
自
材、特に最も多い杉材を指定して使うようになるシナリオを
給率の向上といった政策目標の達成と、林業の再生とが
描くことができないか。本稿では、国産材活用の可能性に
再生プラン
(図表1)」では、用材
ついて技術と手順の両面から杉材を主体に探り、
その効
図表1
森林・林業再生プランの要旨
直ちに取り組み
果を試算した。消費者の関心の広がりに期待したい。
安定供給体制の構築
今年度検討
路網整備の徹底
(10年で欧州並に)
計画的施業
図表2
作業路網整備
3
(千m )
120,000
用材需要量と用材自給率の推移(丸太換算)
用材需要量
うち国産材
うち外材
用材自給率(右軸)(%)
100
90
人材育成
施業集約化
搬出間伐化
安定供給化
日本版
フォレスター
100,000
80
70
80,000
60
予算集中化
事業体強化
加工流通の改革
(大規模・効率化)
50
60,000
40
40,000
30
20
20,000
10
用材自給率50% 低炭素社会実現
出所:林野庁「森林・林業再生プラン」より共立総合研究所にて作成
0
1955
1965
1975
1985
1995
2005
2007
出所:林野庁「平成21年木材需給表」より共立総合研究所にて作成
2009
0
わが国の森林資源量の推移
図表5
誰のための森林大国か
人工林蓄積
3
(億m )
30
2,527
2,517
日本は世界的な森林大国と言われている。確かに、先
天然林蓄積
2,526
2,515
25
は悪くないが、
森林の中身は劣化が顕著だ。長年にわたる
(万ha)
3,000
26.5 2,510
2,512
2,500
23.4
今なお森
進国の中では高い森林率(注4)を維持しているし、
(図表4,5)。ただ数字として
林蓄積(注5)は増え続けている
森林面積(右軸)
18.9
20
15
13.9
13.2
15.0
17.0
15.9
17.8
2,000
1,500
13.6
木材価格の低迷は、
林業の担い手減少と高齢化を助長し
(図表6)、間伐材のような低付加価値材の活用の途を狭
めた。その結果、間伐や下草刈り、枝打ちなどの育成的な
10
1,000
8.0
5.6
5
500
山仕事があまり行われなくなり、放置された森林の荒廃が
0
静かに進んでいる。
一方、温室効果ガス吸収源として計算できるとして、近
年間伐に関して多額の予算が計上され、各地で一斉に
間伐作業がなされた(図表7)。
しかしながら、
木材需要が
図表3
1976
1966
1986
1995
2002
2007
出所:平成22年版「森林・林業白書」
図表6
林業就業者数及び高齢化率の推移
林業就業者数
(万人)
30
高齢化率/林業(右軸)
高齢化率/全産業(右軸)(%)
30
26%
26.2
長期的な山元価格推移
25
25
スギ
3
(円/m )
50,000
ヒノキ
0
マツ
20.6
20
20
17.9
16.5
40,000
10.8
14.0
15
15
30,000
6.7
10
20,000
1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2009
G20諸国の森林率比較
0
1965
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
5
0
図表7
間伐の実施状況
(万ha)
60
(%)
80
70
4.7
10
出所:総務省「国勢調査」
出所:林野庁「木材価格統計調査」
図表4
9%
5
10,000
0
8.6
68.2
55
55
52
60
50
50
40
45
30
40
37
20
36
37
38
35
33
34
35
10
30
0
日
本
韓
国
ブ
ラ
ジ
ル
イ
ン
ド
ネ
シ
ア
ロ
シ
ア
イ
タ
リ
ア
メ
キ
シ
コ
カ
ナ
ダ
ア
メ
リ
カ
ド
イ
ツ
フ
ラ
ン
ス
イ
ン
ド
オ
ー
ス
ト
ラ
リ
ア
中
国
ト
ル
コ
ア
ル
ゼ
ン
チ
ン
出所:
FAO「The Global Forest Resources 2005」より共立総合研究所にて作成
(但し、
サウジアラビア、南アフリカ、EUはデータなし)
英
国
29
25
20
1999
2000
2001
2002
出所:平成22年版「森林・林業白書」
2003
2004
2005
2006
2007
2008
低迷する中で間伐材の使い道も限定され、
大半は「切り捨
が不十分だとして延長を重ねて30年。2005年に「効果なし」
て間伐」として、
そのまま林地に放置されている。膨大な林
と判定されて中止となるまでに、
投じられた国費は1兆円を
地残材は、
その後の山仕事の邪魔となるばかりか、
腐食が
超える。
しかし、松枯れは根絶できず(図表9)、
白砂青松
進んでかえって温室効果ガスの発生源となり、
大雨時に流
の景観や松茸を育むアカマツの美林の多くが失われ、農
下して災害を拡大させることもある。結局、
「切り捨て間伐」は、
薬に汚染された山林と農薬に強くなった原因昆虫が残った。
長い目で見れば山村にも都市にも利益をもたらさない。
近年問題化している広葉樹の「ナラ枯れ」に至っては、対
こうした反省に立ち、
山から木材を運び出すための道の
策すら定まらずに被害が拡大している
(図表10)。
整備などにより、林業の生産性を高めようというのが、
冒頭
の「森林・林業再生プラン」だ。欧州の林業先進国に比して、
作業効率が上
日本の林内路網密度(注6)ははるかに小さく、
図表9
松くい虫被害発生材積の推移
3
(千m )
2,500
2,433
がらない(図表8)。これを今後10年間で一気に挽回して、
欧州諸国並みにしようというのがその骨子だ。
2,000
しかし、
欧州諸国に比べてはるかに山が険しく、
雨も2∼
3倍は降る日本で、
やみくもに林道・作業道の整備をすれば
1,467
1,500
どうなるか。擁壁や土盛りなどの建設コストや毎年の補修
維持コストが桁違いにかさむうえ、何度も蛇行が必要な道
づくりのために多量の伐採が必要になる。10年で林内路
1,140 1,126
1,000
811
809
網密度を欧州並みにするという目標に向けて、
全国の山林
733
689
644
619
626
2006
2007
2008
で繰り広げられる林道・作業道の建設が、
膨大な負の遺産
500
とならないか懸念される。
というのも、
これまでの山林行政では、
何度も負の遺産を
積み上げてきた歴史があるからだ。例えば、
松枯れ病対策。
原因昆虫駆除のため、
法律まで作って全国で農薬の空中
散布を繰り返してきた。5年間で集中的に行うはずが、
効果
図表8
林内路網密度の比較
(m/ha)
120
林道等
0
1977
1979
1982
1987
1992
1997
2004
図表10 ナラ枯れ被害発生面積の推移
(千ha)
2.0
作業道等
2005
出所:平成22年版「森林・林業白書」
1.9
1.8
1.6
1.4
100
1.4
64
80
1.2
1.2
1.2
1.0
1.0
1.0
44
60
0.8
0.8
0.6
40
54
20
4
0.4
0.4
0.4
1999
2000
2001
0.4
45
0.2
13
0
日本
出所:平成22年版「森林・林業白書」
オーストリア
ドイツ
0
2002
出所:平成22年版「森林・林業白書」
2003
2004
2005
2006
2007
2008
昨年まで集中的に行われた間伐も、効果が無いわけで
が困難なほど国産材の商品性を高めることが必要だ。次
はないが、
伐採した後の活用が考慮されておらず、
膨大な
いで、
その商品性の高さを突破口として、
それをユーザー
林地残材という負の遺産を生んだ。それだけに急速な作
側に直接働きかける仕組みが求められる。次章以降で、
現
業路整備が、
とりかえしのつかない負の遺産とならないか、
場の状況を踏まえながら、
国産材の商品性を高め、
ユーザー
慎重に検討する必要がある。
に直接働きかけるためのシナリオを提案したい。
失敗の原因で共通している点は、
長期的な視点の欠如
だ。林業再生の納得感あるシナリオを示さず、場当たり的
「東濃桧」の産地は今
な対策に終始している。例えば、
昭和40年代、
安い外材に
市場を席捲されるという不安の声を無視し、
自由化後の
とう のう ひのき
シナリオも示さずに、
外材輸入の完全自由化に踏み切った。
「東濃桧」は、岐阜県から長野県にかけて産出される
果たして不安は的中し、
雪崩を打って流入する外材の前に、
桧であり、
今なお全国を代表する建材の産地ブランドの1つ
日本林業は現在に至るまで縮小傾向が止まらない。松枯
である。江戸時代から伊勢神宮などの普請に使われ、外
れ病対策でも選択肢は多数あったが、地域ごとの実情も
材が建材の主流となっても、柱や梁に特化してブランド力
考慮せず、画一的に農薬を散布した。間伐では環境対
を保ってきた。
策の美名のもとに、漫然と誰の利益にもならない林地残
そんな「東濃桧」でも、
国産材価格の低迷とは無縁では
材の山を築いた。
ない(図表11,12)。少子化や住宅寿命の伸びによる住宅
質の劣化が進む日本の森林再生には、
森林と向き合う人々
着工件数減少に加え、
生活の洋風化による和室の減少が
の営み、
すなわち林業再生が不可欠だ。そして、
林業再生
追い打ちをかけている。和室が減少すると「東濃桧」の見
には、国産材が外材の後塵を拝している状況を根本から
せ場も少なくなり、需要は減少している。林業再生のヒント
変えなければならない。そのためには、
まず、
外材では追随
を探るため、
まずは逆風吹き荒れるブランド産地の現状と
図表11 ある東濃桧産地市場の実績推移
売上
(百万円)
900
57,681
図表12 ある東濃桧産地市場の樹種別単価推移
平均単価(右軸)
3
(円/m )
3
(円/m )
60,000
時期
ヒノキ
スギ
アカマツ
1997年度
56,864
17,659
26,143
1998年度
48,711
14,473
30,739
1999年度
49,534
14,806
27,056
2000年度
51,235
14,763
27,758
2001年度
41,308
11,891
19,022
2002年度
34,678
10,614
18,243
2003年度
32,121
13,309
19,283
2004年度
30,560
12,036
19,020
:
:
:
:
2010年6月
17,126
12,455
8,477
798
800
50,000
700
40,000
600
500
25,927
30,000
400
292
300
20,000
200
10,000
100
0
1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
出所:当該市場の業務資料
出所:当該市場の業務資料
動きを追ってみた。
生した灰の産廃処理を余儀なくされる。第三は、高温乾
先日、東濃桧の主産地である岐阜県白川町を訪れた。
燥の宿命。木材の精油分が揮発し、
自然乾燥と比べると
全般的に山がやや険しく、作業路網の密度は全国平均
香りや色つやが劣る。そのため、
乾きやすい桧を主体に取
レベルである。民有林がほとんど(99%)であるため、
行政
り扱ってデメリットを抑えつつ、
測定器等を導入して品質表
主導の森林管理がしにくく、
荒廃している山も多い。樹種も
示の一層の充実等に努め、品質保証材の安定供給に力
桧ばかりではなく、杉や広葉樹(天然林)
もかなり混在して
を入れている。
いる。
「東濃桧」の主産地といえども、
決して条件的に恵ま
また白川町では、
今年度から間伐材の全量活用を掲げ、
れているわけではない。
伐採した木の運搬の助成を強化している。木材をA、
B、
C
白川町には、
「森の発電所」というバイオマス発電と木
の3区分に分け、
A材を製材用に、
B材を集成材、
合板等の
材乾燥の複合施設がある。同施設は、林地残材、建築廃
加工用に、C材をチップ、発電燃料等に使い分ける。多量
材などを受け入れ、
チップ化してボイラーで燃やして蒸気
のB材、C材を必要とする合板工場の稼働開始も併せて、
を発生させ、
これを木材乾燥と発電に使う。木材乾燥機
通常処分に困るB材、C材の活用が充実している点が、
白
は高温蒸気乾燥であるため、比較的短期間で含水率を
川町の強みだと言う。
希望水準に仕上げることができ、施設全体で使う電力は、
これに対し、隣接する東白川村では、森林管理の第三
バイオマス発電で賄える。そして、
燃料であるバイオマスは、
者認証でブランド化を図っている。現在わが国には、森
(注7)
」であるため、温室効
いわゆる「カーボンニュートラル
林管理の第三者認証としてFSCとSGECの2つがあるが、
果ガスを発生させずに施設全体を運営していることになる。
管理すべき項目に大差はない。しかし、特に高い管理水
先進的なこの施設にも課題がある。第一に、燃料となる
準にある森林を世界共通の尺度で認証するFSCと、一
木質資材の確保。林地残材等の搬入費用の一部を町が
定の管理水準にある森林を国内基準で認証するSGEC
助成しているが、全量を助成することは難しいため、処分
料がもらえる建築廃材を処理している。第二に、多量の灰
の発生。建築資材を産廃として受け入れているため、発
図表13 わが国の森林認証面積の推移
FSC認証林
(千ha)
900
SGEC認証林
803
800
710
727
700
手入れされた明るい森林
600
500
400
337
270
300
329
278
279
2007
2008
278
205
178
200
205
100
0
12
15
15
1
5
2000
2001
2002
2003
2004
出所:平成22年版「森林・林業白書」
2005
2006
2009
放置され密生して暗い森林
という目的の違いもあって、
レベルはFSCの方がかなり高
の負担が大きく長続きしない。軽トラが通れる幅2mの作
い。最近は、
取得しやすいSGECに勢いがあるが(図表13)、
業道をこまめに造った方が、森も私たちも長持ちする」と、
東白川村はよりブランド価値の高いFSC認証を取得した。
同町の森林組合は森に優しい管理方法に自信を見せる。
着手した8年前から、管理負担に見合うメリットがなく厳
現在1/3程度の認証林を、
数年後には村内全域に広げる
しい運営が続き、
何度も事業廃止を考えたが、
昨年から風
計画だ。
向きが変わってきた。環境志向の高い消費者や企業に、
白川町では、
バイオマス発電施設等の先端的設備を積
FSC認証材に関する認知と支持が広がり、
認証材が安定
極的に導入して、
木材供給能力を高めてきた。一方、
東白
的に取引されるようになったからだ。
「大型機械が通れる
川村では、
持続可能な林業を追求しており、
FSC認証材を
幅4mの作業道では、
造成と維持に費用がかさむ上、
森へ
通して認知と支持が広がりつつある。
大きくなった「杉の子」
前章で、
今なお柱や梁では圧倒的なブランド力を有する
「東濃桧」の産地でさえ、
生き残りをかけた岐路にある現状
を見た。では、
そうしたブランド力を持たない一般の産地で
「お山の杉の子」
作 詞:吉田テフ子/サトウハチロー(補詞)
森の発電所
作 曲:佐々木すぐる
著作権:詞は無信託、
曲はコロムビアミュージックエンタテインメント株式会社に専属
1.
昔々の その昔
椎(しい)の木林(ばやし)の すぐそばに
小さなお山が あったとさ あったとさ
丸々坊主の 禿山(はげやま)は
いつでもみんなの 笑いもの
「これこれ杉の子 起きなさい」
お日さま にこにこ 声かけた 声かけた
建設中の合板工場
(2、3、4番省略)
5.
大きな杉は 何になる
お舟の帆柱(ほばしら) 梯子段(はしごだん)
とんとん大工さん たてる家(うち) たてる家
本箱 お机 下駄 足駄(あしだ)
おいしいお弁当 食べる箸(はし)
鉛筆 筆入(ふでいれ) そのほかに
たのしや まだまだ 役に立つ 役に立つ
(6番省略)
間伐材も人気が高い東白川村の認証材
はどうなっているのだろうか。
365万haあり、現状のままでいけば10年後には680万haへ
日本の人工林の約半分は杉であり、杉は多くの林業
と増加する
(図表15)。年率にして8.6%という勢いで増加
者にとって最も身近であるとともに、
日本の風土に最も合う
する「大きくなった杉の子」を、
いかに使いこなすかが林業
樹種でもある。北海道から九州まで、桧が苦手な湿気の
再生の試金石になる。
多い沢筋でもよく育ち、
まっすぐ速く成長するので建材に
すなわち、
樹齢45年以上の人工林の年間増加量は、
森
向く。酒樽や味噌樽に使われるとおり、適切に乾燥させ
林蓄積を考慮すれば平均的な木造住宅4百万戸分の806
れば耐水性が高く強度も大きい。だからこそ、1950∼60
万m3と見込まれる(注8)。一方、
わが国の木造住宅着工件数
年代を中心に各地で杉が競って植えられた。日本の山に
は年間50万戸程度であるから、
供給余力は十分にある(注9)。
杉が多いのは、
日本人が好んで杉を植えてきたからに他
次章で杉材活用が進まない原因と、
それを解消する手段
ならない。
を探っていく。
「お山の杉の子」という童謡には、
はげ山に植えられた
杉の子が大きく育ち、住宅資材はもとより、船や家具、文具、
杉の個性を活かす技術
日用品などに幅広く使われ、大いに「役に立つ」ストーリー
が描かれている。しかし今、
日常生活の中で杉の美しい
木目やおだやかな芳香に触れる機会は少ない。文具や日
では、
どうして杉は活用されなくなったのか。
用品はともかく、杉は住宅素材としても存在感が薄くなり、
杉はもともと個性の強い樹種で、育つ場所の条件など
挙句の果てに花粉症の元凶扱いされている。杉材は今
によるばらつきが大きい。中でも活用を阻害する要因とな
3
や外材と比べても最も安く、丸太価格でも1m あたり1万円
程度で、伐採や運搬の作業賃すら確保できない水準だ
(図表14)。
図表15 わが国の人工林の樹齢構成
(万ha)
180
…樹齢45年以上の割合
165
こうした杉の存在感低下は、林業低迷の主要な要因の
158
160
1つであり、杉の活用なしに林業再生は難しい。用材利用
150
に適した樹齢45年以上の杉を主体とする人工林は現在
140
図表14 最近5年間の丸太価格推移
3
(円/m )
35,000
スギ
ヒノキ
ベイツガ
ベイマツ
北洋カラマツ
北洋エゾマツ
120
114
100
92
30,000
87
80
25,000
現在 35%
59
20,000
60
10年後 60%
15,000
40
35
34
10,000
27
23
17
20
5,000
0
20
17
9
2005
2006
2007
出所:林野庁「木材価格統計調査」
2008
2009
2010
0
0
∼
4
14
11
5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 65 70 75 80 (樹齢)
∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ 以
9 14 19 24 29 34 39 44 49 54 59 64 69 74 79 上
出所:平成22年版「森林・林業白書」より共立総合研究所にて作成
り得るのは、乾燥のばらつきだ。乾燥が不十分であったり、
大きいと考えている。また、葉枯らし乾燥に力を入れるの
むらがあったりすると、材が変形する原因となるため敬遠
は、
「山元からの一貫生産という強みを生かし、他社が
される。
まねのできないストーリーを提供するため」と、同社は語っ
戦後に欧米から人工乾燥技術が導入されるまでは、林
ている。
地から工務店に至る様々な現場で、合計数年かけて自然
乾燥する中で、
ばらつきが矯正できた。芸術性が認められ
(2)最新の技術 ∼真の低温乾燥技術∼
る個性的な木が、銘木と呼ばれて高く評価されるなど、本
天然乾燥は、
強い杉の個性を殺さずに活用する点で望
来木の個性はマイナス要素とは限らない。
しかし、人工乾
ましいが、膨大な時間と手間がかかる。人工乾燥は、天然
燥が主流になると、
杉の強い個性が間尺に合わなくなって
乾燥と比較すれば圧倒的に速く、
安定しているが、
木の良
きた。そこで、
ここでは乾燥技術に注目して杉の活用を広
さを損なう面がある。
げる可能性を考えていく。
人工乾燥にはいろいろな方式があるが、
どれも一長一
(1)旧来の技術
森林面積で全国第5位の岐阜県には、
「東濃桧」
とともに
たる
おけ
コラム 「樽」と「桶」
「長良杉」
というブランドがある。その長良杉の産地で、
旧来
・ ・
の乾燥技術を重視して杉の良さを活かす取り組みが行わ
樽と桶は、いずれも円形の底板の周囲に板を並べ、
たが
れている。
で締めて水が漏れないよう作る点では同じだが、
「樽は板目
郡上市にある鷲見製材では、従来からの自然乾燥を一
板、桶は柾目板」を使うという点が違う。板目板は年輪が板
歩進め、
昨年から「葉枯らし乾燥」に取り組んでいる。これは、
の面に平行な板で、液体がしみ出たり蒸発したりしにくい。
伐採後一定期間、
そのまま林地に置くことで、
枝葉を通した
また、柾目板は年輪が板の面に直角に通っている板で、水
蒸散効果も活かして乾燥を速める方法だ。この方法には
や湿気を吸収しやすい。これは、
「液体を貯めるのが樽、出し
伐採技術や手間に加え、
山元と流通事業者との強固な信
入れするのが桶」という用途の違いを反映している。樽は液
頼関係が必要であり、
協力してくれる山元を地道に開拓し
体を常に入れておくので側板は徐々に膨張する。この点、
ている。
板目板の方が膨張率が大きいので、たがが効いて側板同
自然乾燥では、機械乾燥と比べて香りや色つやが良く、
士が密着し、
さらに漏れにくくなる。一方、柾目板は吸湿性に
カンナやノミを使った大工仕事もしやすい。費用や手間
富むので、寿司桶やお櫃に向くし、風呂桶も柾目板の方が
が余計にかかるが、注文住宅の施工まで行う同社の場
肌触りがよい。
合、素材の良さをPRする機会が多いのでメリットの方が
素材としては、香りが穏やかで抗菌性も高い杉は、酒樽、
いた め
まさ め
・ ・
味噌樽、寿司桶などの食品容器として広く使われ、
より香り
や耐水性が強い桧は、風呂桶や風呂椅子などに使われる。
用 途 に 合わせ
て素 材や 加 工
法を吟味し、適
材適所で何でも
木で作った木工
職人の知恵には、
驚かされること
が多い。
畑に進出する杉の木
樽(左)
と桶(右)
短があるうえ、仕上がりの風合いはいずれも天然乾燥に
をする、
いわば天然のワックスである。
しかし、一定温度以
はるかに及ばない( 図表16 )。いかに乾燥効率を上げな
上で人工乾燥させると、
精油分が揮散してしまうので木材
がら、木材へのダメージを少なくするかという研究が各地
が無防備となる。特に輸入材は、高温の人工乾燥によっ
で続く中、東京の町工場生まれの乾燥機「愛工房」が今、
て精油分がほとんど失われるため、何ヶ月も続く野積み期
静かなブームを起こしつつある。動作温度、乾燥能力、動
間を耐えるべく、念入りに薬剤処理される。一方、愛工房
力など、
いずれも従来の常識とかけ離れていて、
にわかに
の乾燥材には、精油分が残っているため薬剤処理が不
は信じがたい。筆者もこの目で確かめるべく、開発者のも
要だ。人体に有害な、
化学合成の防虫、
防水、
防腐剤をたっ
とを訪ねた。
ぷり含ませた木材と、何も処理せず、香りや色つやのよい
まず、乾燥温度がきわめて低い。乾燥効率を上げるた
木材と、
どちらの家に住みたいか、
と問われれば答えは明
め蒸気乾燥では100∼120℃程度が主流となっているが、
らかだろう。
愛工房はあえて45℃を上回らない仕組みとしている。こ
愛工房は、
常識を超えた低温運転にもかかわらず、
乾燥
れは、木材中の酵素を死滅させず、精油分の揮散を防ぐ
時間が短いことも特長の1つだ。乾燥時間の短さで定評が
ためである。実際、愛工房で乾燥させた材木は生き生き
ある高温蒸気式の乾燥機と比べても、
2∼3日短い。
さらに、
としており、香り、色、つや、肌触りなど、誰でも五感ではっ
精油分が出ないので、
通常は1回乾燥するごとに必要な清
きり違いがわかる。
掃が不要であり、運転中も出し入れ自由であるなど、使い
この精油分は、木が自分を守るための大切な成分で、
勝手も極めて良い。
防虫、防水、防腐効果が極めて高く、人の体にも良い働き
清掃不要で、
超低温運転であるため、
乾燥時間が短く、
図表16 木材の乾燥方法による違い
方式
乾 燥 温 度(℃)
蒸気乾燥
1 0 0∼1 2 0
電気乾燥
7 0∼9 0
8 0∼1 0 0
5 0∼7 0
愛工房
天然乾燥
4 0∼4 5
自然 状 態
湿度
ほぼ1 0 0 %
5 0∼9 0%
ほぼ1 0 0 %
自然 状 態
送 風 風力
大
小
中
なし
動力源
ボイラー( 重 油 )
電力
電力
なし
乾燥時間
4∼7日
6∼8日
5∼8日
7∼1 0日
2∼4日
1∼3 年
建 設 費( 百 万 円 )
6 0∼8 0
4 0∼6 0
4 0∼5 0
3 0∼4 0
1 0∼2 0
なし
運 転 費( 千 円 /月)
1 0 0∼1 5 0
5 0∼1 0 0
1 0 0∼1 5 0
5 0∼1 0 0
30
なし
精 油 分の残 留
極小
小
ほぼ0
極小
大
大
(注)運転費はフル稼働の場合
出所:共立総合研究所にて作成
東京の下町にある愛工房の研究施設
愛工房の内部
乾きにくい杉の芯材も良く乾く
当然運転コストも安い。1日フル稼働させても、電気代は
この点、
開発者である伊藤氏の頑固一徹な姿勢は心強い。
1,000円程度、1ヶ月でも3万円程度だ。これに対して、通
常の高温乾燥機は重油を燃やしており、
フル運転すれば1ヶ
月の燃料代は10万円を軽く上回る。
(3)開発者のポリシー
都会人に伝える
前項で紹介したポリシーの他に、
開発者の伊藤氏は、
愛
広告宣伝にお金をかけていない愛工房であるが、開発
工房設置先選定の判断材料として、
実はもうひとつの条件
の舞台裏を描いた「奇跡の杉」が出版されたことで、少し
を挙げた。それは、消費者との直接的な関係を築いてい
ずつ世に知られるようになった。そして昨年12月、
「ワールド・
るか、
という点だ。愛工房を導入して木材の付加価値を上
ビジネス・サテライト」という全国ネットの経済番組で詳しく
げても、消費者に認知されなければ注文に結びつかない。
紹介されたことで、一気に注目度が高まった。視察希望が
そのため、伊藤氏は消費者が実際に体感したうえで選択
あまりに多いため、
少人数の見学・視察は断り、
納入に際し
してもらう姿勢を重視している。
てのポリシーを事務所に掲示して、
相容れない取引を最初
既に、山林での体験活動は全国で行われているが、森
から排除している
(図表17)。
林の大切さを学ぶ内容がほとんどで、国産材活用の推進
開発者の伊藤氏は、
「国産材、
とりわけ杉の活用を進
力としては弱い。世論調査でも、
森林への意識は高いのに
めるために開発したのであり、
それ以外の目的での使用
を断じて認めない」と語っている。厳しすぎるようだが、緩
めてしまうとすぐに海外に持ち出され、輸入材の乾燥に
使われるのが明らかなためだ。確かに、輸入材が圧倒
コラム 木に優しい技術が生む
環境技術の連鎖
的に幅を利かせている
石油代替品として、バイオエタノールが注目されている。
木材流通の実情を考え
植物の主要構成物であるセルロースとリグニンのうち、
セル
れば、相当な管理をしな
ロースを発酵させて精製するので、バイオエタノールの生産
ければ、技術流出の懸
にはさとうきびなどリグニンが少ない素材が使われる。この点、
念は高い。
リグニンの塊である木は、注目されていなかった。
逆に、国産材の乾燥
しかし、パルプ製造という別分野の研究から、木質リグ
のみに使うというポリシー
ニン活用の可能性が出てきた。ある種の原料チップを使
を開発者が守り通すこと
えば、従来の半分以下の温度と水でパルプが製造でき、
さ
ができれば、
愛工房は国
らに廃液中のリグニンも、鉄より数倍強い芯材、
または強力
産材の付加価値向上に
な接着剤として活用できることがわかってきた。そして、木
向けた強い味方となる。
開発者の伊藤氏と愛工房
図表17 愛工房の設置条件
【木製木材乾燥装置「愛工房」納入先について】
下記の条件先には、原則としてお断りします。
1.
輸入木材を取り扱っている
にやさしい乾燥方法で作った木材が原料チップの素材とし
て不可欠だという。
木に優しい乾燥技術が、環境負荷が非常に少ないパル
プの製法や、従来産廃処理されていたリグニンの活用技術
へとつながっていく点が興味深い。加えてこの技術連鎖は、
2.
高温乾燥装置を設置、稼動している
これまで使い道がなかった林地残材や間伐材を素材化でき
3.
薫煙乾燥装置を設置、稼動している
る点でも優れている。
4.
導入に際し補助金、助成金等を予定している
日本発のイノベーションの連鎖が、
日本の山を宝の山に
5.
導入後のフル稼働が見込めない
変えていく日が来るかもしれない。
※愛工房開発者である伊藤氏が作成
(図表18)、
木材生産への期待度は低下している
(図表19)。
(1)
「適材適所の会」
このため、森林の重要性を単に地球環境の問題としてだ
適材適所の会は、東京、埼玉、千葉の工務店の勉強会
けでなく、
家族の生活環境である家の素材の問題としても
が愛工房との出会いを経て発展したもので、
国産材、特に
考えさせるような体験活動が望まれる。以下で、
参考となる
杉の活用を進めるための活動を推進している。最も力を
事例を挙げる。
入れているのは「木育」である。要望があればメンバーが
もく いく
かんな
どこへでも出向き、鉋屑や板材、杉のおもちゃなどを持参し、
図表18 森林に関する国民の意識
そう思う
五感を使って杉の良さを実感してもらう。本物の木のある
そうは思わない
わからない
暮らしが、
ストレス社会に生きる都会人にこそ必要だと訴え
森
林
へ
の
親
し
み
を
感
じ
る
か
農
山
村
で
滞
在
し
た
い
か
木
造
住
宅
を
選
び
た
い
か
91.5
2007年 5月
8.4
0.1
ている。
適材適所の会では、
1∼2ヶ月に一度、
愛工房を借りて体
88.0
2003年 12月
11.1
0.9
験会を開催している。45℃で低温蒸気乾燥を行う愛工房は、
さしずめ森林浴を兼ねたミストサウナであり、
いつまでも入っ
75.9
2007年 5月
23.0
1.1
ていたいほど心地よい。人間も心地よいのだから、
木材も大
切な精油分を温存しつつ、
心地よく発汗して乾燥するとい
56.8
2003年 12月
40.2
3.0
うことが実感できる。この体験会は、
全く宣伝していないの
に口コミで申込みが殺到し、
毎回すぐ定員オーバーとなる。
83.4
2007年 5月
14.4
2.2
そして、
体験者の中から、
愛工房で乾燥させた杉材を指定
して注文する人がかなり出てきているという。
80.4
2003年 12月
12.8
6.8
(2)
「TSドライウッドシステム協同組合」
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
(%)
出所:内閣府「森林と生活に関する世論調査」
TSドライウッドシステムの作業場は、
天竜杉の集散地とし
みさくぼ
て有名な浜松市天竜区水窪地区にある。最寄りの高速道
路ICからでも車で1時間半ほど要し、決して恵まれた立地
コラム 割り箸は本当に「悪」なのか
最近「マイ箸」を持ち歩いて、割り箸を使わないようにする
ではない。
しかし、
本物の山の営みを体験できると好評で、
図表19 森林に対する国民の期待
運動が広がりつつある。確かに、割り箸は使い捨てであるし、
現在は大半が中国からの輸入であるのも事実である。
しかし、
山仕事の現場を見ればわかるとおり、間伐材の需要が減り、
(順位)
1
治山治水
木材生産
大気浄化・騒音緩和
水資源涵養
野生動物生息
リクリエーション
特用林産物(きのこ等)
野外教育
地球温暖化防止
2
採算が取れる使い道がないため伐採しても山から下ろすこ
とすらできないのが現実だ。その点、割り箸の素材は間伐材
や端材で十分である。国産の割り箸を使うことは、国産材の
用途を増やして林業を下支えすることになる。もちろん、木
製の割り箸はカーボンニュートラルなので、地球温暖化を助
長することもなく、割り箸を使うことは未活用バイオマスの有
効利用に他ならない。そう考えれば、少なくとも国産の割り
箸は、単純に環境に悪いと決めつけることはできないと思うが、
いかがであろうか。
3
4
5
6
7
8
9
10
1976
1980
1986
1989
1993
出所:内閣府「森林と生活に関する世論調査」
1996
1999
2003
2007
毎年1,000名程度がこの山深い地にやってくる。
全国から見学者が続々と訪れている。移住者も多く、
出身
TSドライウッドシステムは、
立ち行かなくなった製材所を引
地と無関係に移り住む「Iターン」者が135名を数え、全村
き継ぐために、
地元の林業関係者の出資で6年前にできた。
民の1割を超えている。
発足に当たり、木の良さを殺す高温乾燥をやめて天然乾
小木曽村長は、19年前の就任時「消防団が維持でき
燥に戻し、葉枯らし乾燥や新月伐採(コラム参照)
を全面
ない」と聞き、人を呼び込もうと決意した。これといった産
的に復活させた。
業もなく、観光スポットもない中で、91%の森林率を誇る
一連の天然乾燥には長い年月を要し、膨大な木材が
杉の森を売り込むしかないと悟り、下流の安城市へ売り
森や倉庫で出番の時を待っている。製材所近くの広大な
込みに行った。矢作川を通じたつながりを訴え、全国で
倉庫には、太い柱や梁が所狭しと山積みされており、杉の
初めて自治体間での森林整備協定を結ぶとともに、近隣
強い芳香とともに見る者を圧倒する。来訪者による口コミ
市町村の工務店、
設計事務所を回って地元の木の活用を
に加えて、
共感する建築家や工務店を組織化して認知度
呼びかけた。さらに、
いち早く企業の社会貢献活動に着
を広げており、
受注も増加傾向にある。
目し、
8年前のアイシン精機を皮切りに、
現在アイシングループ
TSドライウッドシステムは、木材の生産履歴表示でも最
5社と「企業の森」協定を結んでいる。こうして、安定的
先端にある。伐採時情報(日付、時間、天候、緯度、経度、
な収入源と交流基盤を作る一方、積極的に見学者や交
標高、
所有者、
外観、
倒木方向等)の他、
乾燥方法や期間、
流イベントを受け入れて、地道に根羽村ファンを増やし
入荷日、
製材日等がバーコードで管理され、
常に参照できる。
ている。
ここまで徹底してやれば、
信頼感はなお高まるであろう。
また、
定住人口を増やすため、
お金をかけて東京でIター
ン説明会を定期的に開催し、実績を上げている。例えば、
(3)
「長野県根羽村」
名古屋の有名ホテルの若手シェフをスカウトするなど、
優秀
長野県の南端に位置する人口約1,200人の根羽村には、
原木段階からのバーコード管理
な若手人材を呼び込み、
村内の施設運営や交流企画など
女性オペレーターによる手際よい製材
コラム 月の満ち欠けと木
静かに出番を待つ天然乾燥材
では月が新月から満月へと満ちる期間を避けて伐採すると
いう「新月伐採」を採用している。最近は忘れられていたが、
葉枯らし乾燥では、伐採した木をあえて枝葉を除去せず、
葉枯らし乾燥が復活すると、新月伐採の有無で虫食い被害
最低でも半年は林地に置いておく。これは、葉からの蒸散に
に明らかな差が生じることがわかり、改めて徹底するようにな
よる乾燥効果を高める一方、病虫害のリスクも高める。この
った。山仕事には、科学的な解明はされていないが、事実と
リスクを避けるため、伐採期(秋の彼岸から春の彼岸まで)
して結果に差が出る慣行がいくつかある。新月伐採もその1
や倒木方向を定めている。さらに、TSドライウッドシステム
つである。
を任せている。村内で働く、村内で所帯を持つ、消防団に
主導権を取り戻す
入る、
の3つをクリアすれば、根羽杉の新築住宅を提供し、
村役場並みの待遇で雇用する等の条件も、移住者にとっ
(1)本流に乗るには
ては魅力的だ。
根羽村の杉はいわゆる市場出荷はせず、すべて製材
ここで言う
「本流に乗る」とは、木造住宅を建設しようと
した上で施工業者か施主に直接出荷される。だから利益
する人が、国産材を交えた選択肢の中から素材としての
が確保でき、森林組合の経営も順調だ。杉しかない村が、
木材を選ぶことが一般化する状況を指す。
もちろん地場
杉の魅力をユーザーに直接伝える努力を重ねて、順調に
の中小工務店を中心に、既に国産材の積極的な活用を
杉材の受注を増やしている。
進めている事例は多い。
しかし、本流に乗るには、消費者
からの積極的な支持が望まれる。そのためには、消費者
が他の素材と比較・吟味したうえで、
自ら国産材を選べる
ような環境整備が必要であろう。
例えば、
全国規模の住宅メーカーのカタログに、
いろいろ
な素材が詳しく紹介され、
その中から選ぶようになるイメージ
である。
もちろん、乾燥方法の見直しなどによって、木の精
油分を活かした素材として国産材のイメージアップを図る
ことが前提となる。イメージアップには技術面だけでなく、
直接消費者に国産材の良さを実感させる林業者の取り
根羽村にある樹齢1800年の「月瀬の大杉」
根羽村の小木曽村長と筆者
組みも欠かせない。 最近、他の資源と同様に、中国が木材輸入を著増させ
ており
(図表20)、近い将来木材需給が逼迫するという見
方がある。長年下がり続けていた杉材の価格もやや下げ
止まってきたようだが(図表21)、
相場依存では安定しないし、
利益確保も不透明だ。地道ではあるが、国産材の商品性
図表20 中国の産業用丸太輸入量の推移
総輸入量
3
(百万m )
40
丸太から一貫製材する根羽村の製材所
うちロシア
33.7
35
30.9
30
25.9
27.0
27.6
25
23.3
20
18.5
18.2
16.3
15.7
15
14.3
14.1
2002
2003
11.9
10
7.4
8.7
7.3
5.9
4.3
5
0.9
0
根羽杉を使ったモデルルーム
1997
1.6
1998
1999
2000
2001
出所:
FAO「FAOSTAT
(2010年3月)」
2004
2005
2006
の向上や、
消費者に国産材の良さを直接伝える努力によっ
地方の自立を支える
て、
消費者の支持を広げていくことが重要だろう。
(2)本流に乗ったら
わが国には用材利用に適している樹齢45年以上の木
仮に、国内で着工される木造住宅の建材の5割に国産
が人工林全体の35%を占めており、
このまま10年経過す
材が採用されるようになった場合、
国産材の市場規模がど
れば60%に達する
(P9図表15)。つまり利用可能な木は豊
の程度広がるか試算してみる。現時点で国産材を利用し
富にある。
しかし、伐採して山から下ろす費用すら出ない
ている木造住宅の割合を木材自給率並みの25%と仮定
ほど価格が低迷しているため、所有者としては出荷したく
すると、
これは市場規模を倍増させるシナリオである。
てもできない。当然、
メンテナンスの費用を捻出することはま
木造住宅の新設着工戸数を、
図表22より年50万戸とす
まならず、十分な手入れができない。コストを考えれば、山
ると、
国産材を使用する住宅は、
算式1の①より125千戸増
林保有はストックとしてもフローとしても経済的にマイナスで
(注10)
加する。一戸あたりの建物価格を25百万円
、木材価
ある。水源涵養や防災等の必要上、
多大な財政投入をして、
格の割合を15%(注11)とすると、算式1の②より市場規模は
森林を維持管理し続けているのが現状だ。
4,687億円増加する。
しかし、
住宅新築や増改築の際、
素材としての木材の産
地、乾燥方法を含む情報を吟味するようになれば、
状況が
算式1
国産材市場規模拡大の試算
変わってくる。すなわち、
正しく管理、乾燥させた国産材の
① 500,000戸×(50%−25%)=125,000戸
(木造住宅着工件数と国産材増加比率の積算)
良さが認知され、
住む人が健康面を考えて選ぶことができ
② 25百万円×15%×125,000≒4,687億円
る時代になれば、
山の木の価値が変わってくる。山の木の
(1戸あたり木材価格と国産材住宅増加数の積算)
価値が変われば、
森の価値や豊かな森林を有する地方の
出所:共立総合研究所にて作成
価値も変わる可能性がある。そうした状況の変化により、
林
すなわち、
新設木造住宅に使用される建材のうち、
国産
業の担い手である山元側の事業環境がどの程度好転す
材の使用割合を倍増させて50%に引き上げることで、
市場
る可能性があるかを、以下で順次試算してみる。ただし、
規模が5千億円弱拡大すると見込まれる。関連産業への
山元側で消費者側からのニーズに直接対応できる体制が
波及効果も期待でき、
国産材の使用促進は産地の活性化
整備されていることを前提として試算する。
に大いに資するといえよう。
現在の杉材1m 当たりの丸太価格は1万円程度であり
3
図表21 長期的な丸太価格推移
3
(円/m )
80,000
スギ中丸太
ヒノキ中丸太
図表22 新設住宅着工戸数の推移
ベイツガ丸太
着工総数
(千戸)
1,400
うち木造
木造率
54.6%
1,290
1,236
70,000
1,060
1,200
47.5%
43.9%
60,000
(%)
60
47.2%
1,093
50
43.3%
1,000
40
50,000
788
800
40,000
30
600
542
559
504
30,000
430
20
400
20,000
10
200
10,000
0
516
1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2009
出所:林野庁「木材価格統計調査」
0
2005
2006
出所:国土交通省「住宅着工統計」
2007
2008
2009
0
( P16図表21 )、2万円程度要する伐採と運搬費用すら
3
賄えないのが現状だ。
しかし、製材品出荷なら1m 当たり4
図表23 長期的な製材品価格推移
万円程度あり
(図表23)、
伐採や運搬に加え、
製材費や育
140,000
成費も賄える可能性がある。
120,000
3
杉材1m 当たりの製材費は、
仕上げ精度や素材等による
100,000
が15千円∼20千円程度と言われている。一方、
用材に適し
80,000
た樹齢45年以上にする育成費は1ha当たり248万円であり
(図表24)、
これと1ha当たりの森林蓄積256m /ha(注12)
3
スギ正角
3
(円/m )
160,000
ヒノキ正角
ベイツガ正角
60,000
40,000
20,000
3
から、1m 当たりの育成費は9,688円となる
(算式2の①)。
よって製材品出荷であれば、
助成金に頼らずとも育成から
0
1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2009
出所:林野庁「木材価格統計調査」
製材までのコストを控除した収支がプラスとなる可能性が
図表24 スギ人工林の造成に要する費用
ある
(図表25)。
算式2
費用累計(右軸)
(万円/ha)
120
育成費、森林の資産価値の試算
期間費用(左軸)
(万円/ha)
300
102
3
① 248(万円/ha)÷256(m /ha)≒9,688円/ha
100
3
(森林育成費の単位をhaからm に換算)
3
3
② 10,000(円/m )×256(m /ha)=2,560千円/ha
195
80
3
(収支差の単位をm からhaに換算)
205
217
228
237
243
248
250
200
168
2
151
2
③ 2,560(千円/ha)×100(ha/km )=2.56億円/km
2
60
150
49
(収支差の単位をhaからkm に換算)
102
出所:共立総合研究所にて作成
40
3
1km2の杉の
仮にこの収支差を10,000円/mとして(注13)、
20
森林の資産価値を試算すると、算式2の②③より2.56億円
0
となる。これなら林業や森林管理も採算的に自立できる可
コラム 狙われる日本の水源林
100
27
17
10
0∼4
5∼9
12
11
9
50
6
5
0
10∼14 15∼19 20∼24 25∼29 30∼34 35∼39 40∼44 45以上
(樹齢)
出所:農林水産省「平成18年度林業経営統計調査報告」
向かっているという見方がある。ロシアの輸出制限等により
木材需給逼迫の可能性が高まる中、国内では見向きもされ
長引く経済の低迷で、全国的に地価が下げ止まらない中、
ない山林が、海外投資家には買い得に映るかもしれない。
静かに森林売買が広がりを見せている。国土交通省によれば、
木材や山林の大規模な購入打診は三重県、長野県、山梨県、
5ha以上の土地売買届出受理件数は、2000年頃は年800
大分県で報告されており、筆者は岐阜県でも耳にした。資
件程度であったが、2008年までの3年間は年1,100∼1,200
金の出所は不明であるが、九州南部では、400haもの山が
件へと増加している。この結果、大規模売買された土地面
全て伐採され、裸山となって放置されている事例もある。また、
積は、1999年の14,000haから2008年には32,000haへと倍
複数の外資飲料メーカーは近年山林取得の動きを強めて
増した。5ha以上の土地取引はほとんど森林と考えられる。
いる。
この背景は何か。
山林は農地と違って売買の事前規制がなく、
また地下水
オイルマネーに加え、経済成長著しい新興国のマネーな
利用の規制も緩い。こうしたわが国の法制度の弱点の是
どが、世界の天然資源の囲い込みに動いている。石油、鉄、
正も急務であるが、
日本国民の生命線である水源林は自分
銅、石炭などの鉱物資源のみならず、農地なども買いあさっ
で守るという意識も必要だろう。東京都は、本年3月、約
ている。この流れが、良質の水と木材を生む日本の山林に
4,000haに及ぶ水源林の買収を宣言した。
能性が高まり、国としても、森林の維持管理のための膨大
であるが、
実際には間伐分も含めて製材分の3倍以上は伐
な税金投入が軽減できるメリットがある。
採する。従って、本件で必要な伐採量は、算式3の①より
なお、
それなら山元側はすべて製材品で出荷すればいい
3
88,851千mとなり、
必要な伐採面積は、
1ha当たりの森林蓄
3
と思われるかもしれないが、残念ながら消費者側との結び
算式3の②より347千haとなる。
積256m /haを用いると、
つきが弱いため、
現状では困難である。回り道のようだが、
一方、政府は京都議定書の目標達成のため、1,300万
まず国産材の良さを活かす生産方法と、
消費者側のニーズ
トンの温室効果ガスの森林吸収を計画し、
そのため合計
を直接受け止めて対応する仕組みを再構築する必要があ
330万haの間伐が必要と試算している。これを逆算すれば、
るだろう。
算式3の③から1haあたりの温室効果ガスの森林吸収効
果は3.94トンと算出される。
従って、
本件の森林吸収効果は、
算式3の④より、
137万
世界に貢献する
トンと算出される。
国内の森林の活用が進めば、
副次的効果として温室効
算式3
国産材活用推進による森林吸収増進の算式
3
3
① 59,234千(m )÷2×3=88,851千m
果ガスの排出が抑制される。この効果を、
平成20年の木材
(木材総輸入量の半分を3倍して伐採量を算出)
輸入実績(図表26)の半分が国産材に切り替わったと仮
② 88,851千(m )÷256(m /ha)=347千ha
定し、
以下の2つの面から試算する。
3
3
(伐採量を森林蓄積で除して伐採面積を算出)
③ 1,300万(トン)÷330万(ha)≒3.94トン/ha
(吸収量を面積で除して1haあたりの吸収量を算出)
④ 3.94(トン/ha)×347千(ha)≒137万トン
(1)伐採による森林吸収の増進
(1haあたりの吸収量に面積を乗じて吸収量を算出)
伐採すると林地内の過密状態が緩和され、
残りの木の肥
出所:共立総合研究所にて作成
3
育が促進される。図表26より、
木材総輸入量は59,234千m
図表27 木材輸送短縮による温室効果ガス削減
3
(注14)
(注15)
輸入量の 輸入量の
CO2排出
海上輸送
ウッド
ウッド
半分
半分
距離
原単位 マイレージCO2
マイレージ
(丸太換算)
(製品換算) 3
(km) (千m3・km)(kg/m・km) (トン)
3
3
(千m ) (千m )
図表25 杉材を製材品出荷した場合の収支(1m 当たり)
① 製材品価格 41,700円(図表23)
② 育成費用 9,688円(算式2の①)
米国
3,145
2,003
8,000 16,024,372
0.01095
175,467
④ 製材・乾燥費用 15,000∼20,000円(現在の相場)
カナダ
3,829
2,439
8,000 19,510,036
0.01095
213,635
⑤ 収支差 ▲2,988∼2,012円(①−②−③−④)
マレーシア
2,480
1,579
4,000
6,317,766
0.01095
69,180
インドネシア
1,210
770
4,000
3,081,806
0.01095
33,746
その他南洋材
127
81
4,000
322,322
0.01095
3,529
ロシア
1,898
1,209
2,000
2,417,415
0.01095
26,471
ヨーロッパ
2,162
1,377
20,000 27,543,880
0.01095
301,605
オーストラリア
4,993
3,181
7,000 22,263,787
0.01095
243,788
ニュージーランド
1,488
948
7,500
7,106,531
0.01095
77,817
チリ
2,525
1,608
12,000 19,297,278
0.01095
211,305
中国
1,078
687
1,373,372
0.01095
15,038
その他外材
4,685
2,984
15,000 44,765,175
0.01095
490,179
29,616
18,865
− 170,023,740
− 1,861,760
③ 伐採・運搬費用 15,000円(現在の相場)
出所:共立総合研究所にて作成
3
図表26 木材輸入国と輸入量(平成20年、丸太換算《千m 》)
米国 6,291
その他外材
9,370
中国 2,156
チリ 5,049
カナダ
7,657
米材
その他材
輸入材計
59,234
南洋材
ニュージーランド
2,975
北洋材
欧州材
オーストラリア
9,986
マレーシア
4,959
インドネシア 2,419
その他南洋材 253
ロシア 3,795
計
ヨーロッパ 4,324
出所:財務省「貿易統計」、林野庁「木材需給表」
2,000
※丸太から製品へは針葉樹の換算率0.637を一律に適用した
出所:共立総合研究所にて作成
(2)木材輸送短縮化による
温室効果ガスの発生抑制
これは、国産材活用に伴う副次的な効果であるが、
こう
した定量的な効果が森林整備事業の推進力となったり、
外材から国産材へ切り替えると、
木材輸送に伴うエネル
消費者の共感を広げたりする可能性もある。森林と個人
ギーが減る分、
温室効果ガスの発生を抑制できる。全量を
の健康面との結びつきに気づかせる努力とともに、
環境面
船便、製品輸入とし、海上輸送分のみに効果を限定して、
の効用も併せてアピールしたい。
P18図表26をもとに試算したところ、186万トン程度の削減
効果となった(P18図表27)。
おわりに
以上から、
全体の削減効果は年305万トンとなるが(算式
4の①)、
これは京都議定書における基準年(1990年)の
排出量の0.23%に相当する。仮に、
これを排出権取引で
杉材は今や世界で最も安い建材とも言われていて、
その
購入する場合、現在の相場(1,000∼2,000円/トン)から
安さゆえに、
近時生産量回復の兆しが出ている
(図表28)。
単価を1,500円/トンとすると、
45.7億円程度を要する
(算式
しかし、杉の素材価格や産出額は低迷しており、
この状況
4の②)。
に甘んじていては伐採も手入れも困難な多くの林業現場
の窮状を改善する道は開けない。林業の再生なしには、
森
算式4 輸送短縮による温室効果ガス削減等の算式
① 137(万トン)+168(万トン)=305万トン
林の再生もありえないのであるから、
林業者が適正利潤を
(森林の吸収効果と輸送距離短縮効果の和が全体の削減量)
得られる仕組みの確立が急がれる。
② 305(万トン)×1,500(円/トン)=45.7億円
これまで、
筆者は農業の問題を研究してきたが、
市場価
(削減量に取引単価を乗じて排出権購入額を算出)
格の低迷、担い手の減少と高齢化、消費者との接点の弱
出所:共立総合研究所にて作成
さなど、課題の構造は極めて似ている。農業は最近、消費
者からの関心の高まりという追い風を受けて、消費者との
接点の拡充に熱心な生産者が出現し、全体として活気が
コラム 材となってなお強くなる木
出てきつつある。課題の構造が似ているならば、林業でも
同様の展開ができないか。
奈良県法隆寺にある五重塔は、現存する世界最古の木
そういう視点で改めて林業の現状を見ると、
本来の木の
造建築である。塔の芯柱として使われているのは推定樹齢
良さを活かした乾燥技術や、山元と消費者側との直接的
2,000年以上と言われる、直径2m、高さ35mの巨大な桧で
な関係づくりなど、様々な突破口が見えてきた。乾燥技術
ある。建築されてから起算して約1,400年、桧が芽吹いてか
らでは3,400年もの風雪に耐え、現在でも全く強度に問題は
ない。乾燥を適切に行った材木は、少なくとも伐採までの樹
図表28 スギの素材生産量・素材価格・産出額の推移
3
(千m )
10,000
スギ生産量
スギ素材価格(右軸)
スギ産出額(右軸) (円/m3、千万円)
25,000
齢相当期間は、
むしろ強度が増していくという。例えば、樹
齢200年で伐採された木は、製材・乾燥後も200年間はより
9,000
20,000
8,000
15,000
7,000
10,000
強くなる。ということは、法隆寺の五重塔はまだまだ強くなる
ということだ。修復の際に少し鉋をかけたら、良い香りがした
ということなので、精油分がしっかり残っているのだろう。
高温乾燥などで精油分が失われると、すぐに腐ったり、
シ
ロアリに食われてしまう。精油分があれば、木は材となっても
なお生命力を失わない。できるだけ精油分を残しながら木を
活用することが、
いかに大切であるかが良くわかる。
6,000
1995
1997
1999
2001
2003
2005
※スギ素材価格は、中丸太(径14∼22cm、長さ3.65∼4.00m)の価格
出所:農林水産省「木材需給報告書」
「木材価格」
2007
5,000
の違いは誰でも体感できるし、
山元との関係ができれば、
自
分の住環境に森の安らぎを取り入れたいと誰しも憧れるだ
ろう。これらの動きを加速して、
森林を地球環境という他人
事の世界としてではなく、
自分や家族の健康を左右する居
住環境の問題として認識してもらうことが大切だ。
外材は、
ほぼ100%機械乾燥しているため精油分が失
われており、
防虫剤、
防腐剤処理が半ば前提となっている。
だから国産材を精油分を保って乾燥できれば、
外材と比べ
て明らかな優位性を出せる。これを出発点として健康面へ
の効果を広くアピールして実感させたい。例えば、
杉の香り
は気分を落ち着かせる癒し効果が高く、
桧の香りは気分を
(注4)森林率とは、
ある地域が森林に覆われている割合。国、県、市など、
行政区分ごとに調査される。
(注5)森林蓄積とは、
単位面積あたりどれほど森林の量があるかを示す
3
尺度。わが国では、
1haあたりの森林量(m )
で示されることが多い。
(注6)林内路網密度とは、林地の単位面積あたりにどれほど森林管理
用の作業道の総延長があるかを示す尺度。大きいほど作業効
率が良くなるが、地形や気候による影響も大きく、一概には比較
できない。わが国では、1haあたりの作業道延長(m)で示される
ことが多い。
(注7)
カーボンニュートラルとは、
もともと植物は大気中のCO2を光合成
によって吸収・固定化していることから、植物由来燃料が放出す
るCO2を温室効果ガスの増大として計上しないという考え。この
考えによれば、木質エネルギー源はすべて、燃焼時の温室効果
ガス発生は0とみなされる。
( 注8 )樹齢45年以上経過した人工林は、放置すれば今後10年で365
高揚させる効果が高い。仕事部屋の内装には桧が向いて
万haから680万haへと315万ha増加が見込まれる
(P9図表15)。
いるが、寝室や居間の内装にはむしろ杉の方が向いてい
を乗じると
これに、人工林の森林蓄積の平均値( 256m /ha )
3
3
ると言えよう。そうしたきめ細かな情報を提供して、消費者
に直接手に取ってもらい、五感で感じて選んでもらう工夫
最後に、
これまで述べてきた林業再生への提案をまとめ
てみた(図表29)。乾燥技術を起点に、消費者と新たな共
通認識を構築することで、健康素材としての国産材、特に
乾燥面が課題であった杉材の活用が進むと確信している。
図表29 林業再生への提案
精油分の残留程度を計測・指標化する
精油分の人体への効能を明らかにする
乾燥方法、精油分の表示を呼びかける
国産材普及の民間全国組織をつくる
手順面
3
3
3
ある。
(806百万m÷10÷20m /戸≒4百万戸)
( 注9 )非木造住宅を含めた住宅着工件数全体でも年間百万戸程度
が大切だ。
技術面
また1戸当たりの木材使
806百万mとなる。これは10年分であり、
用量を20mとすると、1年当たりの人工林増加は約4百万戸分で
なので、
とても適齢期の木を使いきれないとの心配は無用である。
なぜなら、国産材の素材としての良さが浸透することで、様々な
用途開発が期待できるからだ。例えば、
リフォーム、内装、家具、
寝具の素材に加えて、P12のコラムのパルプ、
リグニンの素材とし
ても有望だ。
もちろん、林地でそのまま太らせても価値が上がる。
国産材の良さが見直されて需要が増えることで、森林に人手が
入って整備が進む点が重要である。
(注10)住宅金融支援機構「平成21年度フラット35利用者調査報告」
によれば、平成21年度中の注文住宅の平均建設費は2,889万
円である。これを参考に、注文住宅以外を含めた住宅全体の平
均建設費を25百万円とした。
( 注11 )木造住宅の建設費における木材価格の割合に関する統計は
住宅構造材・内装材として消費者にPRする
無い。建設業界では10∼20%程度と言われていることから、
ここ
消費者団体・地方自治体と連携強化する
では15%とした。
地方の工務店・設計事務所と連携強化する
大手・中堅事業者へ導入を働きかける
出所:共立総合研究所にて作成
3
(注12)P4図表5から、
わが国の人工林全体には26.5億m の森林が蓄
積されている。一方、最新版の「森林・林業白書」によれば、
わが
国の人工林は10,347千haであるから、人工林の森林蓄積は
3
3
3
(26.5億m÷10,347千ha≒256m /ha)
256m /haと算出される。
3
(注13)P18図表25から、山元から製材品出荷した場合の収支は、1m
あたり▲3∼2千円程度である。本稿では、国産材の優位性を回
( 注1 )人工林では、真っ直ぐに育てるために密集して植林し、
その後
間引くように伐採を繰り返すが、
この伐採を間伐という。間伐をし
ないと根が衰えて木の成長が止まり、森林が暗くなって下草が
生えず、水源涵養力、土壌保全力も低下する。 ( 注2 )用材とは、
きのこ類栽培用と薪炭用を除いたすべての用途に使
われる木材のことであり、最近では木材全体の98%程度を占め
ている。
( 注3 )山元価格とは、伐採前の立木状態での立木の販売価格。一般
的には、丸太価格から伐採・搬出費用等を控除して算出するが、
復させるシナリオを描くものであるから、
若干プラス幅を広げ、
10千
3
3
円/mとした。なお、過去には20千円/mを上回る時期もあった。
(注14)ウッドマイレージとは、木材の輸送量に輸送距離を乗じたもので、
木材輸送の環境負荷の程度を表す。ウッドマイルズ研究会では
これを商標登録して、
フードマイレージと同様に国産の資材活用
を呼びかけている。
(注15)ウッドマイレージCO 2とは、
ウッドマイレージに輸送手段ごとのCO 2
排出係数(CO 2 排出原単位)
を乗じたもので、木材輸送によって
発生するCO 2の量を示している。
放置された山林などでは、
伐採・搬出費用が丸太価格を上回って、
山元価格がつかないことも多い。
(2010.7.26)共立総合研究所 調査部 笠井 博政
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