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第5章 - 経済産業省

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第5章 - 経済産業省
第5章 「新エネルギー活用型余暇創造」による地域活性化アプローチ
第1節 「新エネルギー活用型余暇創造」とは
本調査研究では、新エネルギーを核やきっかけとして観光交流や余暇が創造され、地域
活性化効果を生み出すという余暇創造の手法を「新エネルギー活用型余暇創造」と名づけ
た。ここでは、その概念を提示する。なお、ここでいう「余暇創造」とは、単なる余暇活
動の一種ではなく、現在はまだ萌芽的であるが将来的な発展が期待される新しいタイプの
余暇や活動を生み出していく、アクション性に注目するということである。
「新エネルギー活用型余暇創造」は、以下の基本的特徴(これらは相互に関連したもの
である)を持つものとして定義できる。
1.新エネルギーの活用
新エネルギーを活用し、事業の「核」や「きっかけ」にした取り組み
2.地域の余暇創造
地域における観光交流や余暇の創造・活性化にかかわる取り組み
3.地域活性化手法
地域資源の活用、地場産業の活性化、人の交流の創造などを通じて地域に新しい多様
な「循環」を創造し、その持続的発展に寄与する取り組み
4.新エネルギーの普及・促進
地域における取り組みの定着と、住民の理解・受容・参加を促進し、結果として新エ
ネルギーの普及促進に資するもの
1.新エネルギーの活用
「新エネルギー活用型余暇創造」と他の余暇創造・地域活性化手法を区別する第一の特
徴は、何らかの形で新エネルギーを活用している点である。
新エネルギーの導入のされ方としては、新エネルギーの導入そのものを目的として他の
活用機会を生み出さないようなケース、または個人や事業所が地域とまったく独立した形
で導入するようなケースも少なからず存在する。しかしながら、以下でも見るように新エ
ネルギーは単なるエネルギー源としての価値にとどまらず、
「地域の財産」といわれるよう
に、地域の多様でたくさんの豊かさをもたらすポテンシャルを持ったエネルギーである。
何らかの形で地域とのつながりや地域の活性化を意識した取り組み・事業として導入され
145
ることが、新エネルギーのポテンシャルを活かす導入形態であると考えられる。
このような意味で、新エネルギーを活用=新エネルギー利用を事業の核や、きっかけと
する取り組みに注目したい。
2.地域の余暇創造
「新エネルギー活用型余暇創造」は、一種の地域活性化の取り組み手法であるといえる
が、特に地域における何らかの余暇創造とかかわる取り組みである点が特徴である。
余暇創造の中身は様々であるが、こうした取り組みが結果的に集客資源となって地域の
観光交流を活性化する、新エネルギーが新しい楽しみ方を生み出す、新エネルギーの導入
によって地域の余暇施設が活性化する、地域の人々の余暇・自由時間活動の充実に何らか
の形で寄与する、といったものをイメージすることができる。
3.地域活性化
新エネルギーへの取り組みは、地域に活力(エネルギー)を与える取り組みである。「新
エネルギー活用型余暇創造」は、多面的な地域活性化効果をもたらすものであり、地域の
余暇の活性化もその効果の一つである。
◆地域資源の活用
「新エネルギー活用型余暇創造」は、地域資源を活用することを通じて地域活性化を生
み出す。そもそも新エネルギーの多くは、太陽光、風、水、森林、雪など各地域に賦存す
る自然資源を活用したものである。そのほか事業化することにより、地域の人や既存の余
暇資源など、様々な地域資源が活用される。
また、風や雪などは、かつて地域におけるやっかいものと位置づけられたものであるが、
新エネルギー活用という発想を取り入れることにより、逆に豊かなプラスの地域資源に転
化するという付加価値創造も可能になる。
◆「循環」の創造
こうした地域資源の活用により、地域にさまざまな「循環」を創造するという形で活性
化が進むことが特長である。例えば森林資源の一つである間伐材をバイオマスエネルギー
として余暇施設で利用することにより、森林の再生、森林産業の活性化と雇用創出、余暇
産業の創造と観光客などの人的交流の活性化など、多面的な循環が生まれる。循環が「活
力」になる。
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◆内発的な活性化
こうした地域資源の活用や地域循環の創造という「新エネルギー活用型余暇創造」の取
り組み手法は、程度の差はあれ内発的な発展の性質を帯びることになる。外部からの大規
模・短期間・独立型の資本投下により、もともと地域に無かった要素を無理に導入しても、
結果的に地域に定着・持続しない。全国画一的な開発を招いたかつてのバブル型レジャー
開発とは異なり、新エネルギーはもともと地域にあった資源の活用による地域風土との適
合性や地域特性の発揮、地域における多面的な循環の創造、エネルギーの性質にもとづく
適度な事業規模などにより、地道で華やかさはないが内発的な開発を志向するものとなる。
◆持続的な地域発展
こうした内発的・適正規模で無理の無い地域活性化の在り方、新エネルギーという環境
に優しいエネルギーの活用という点など、「新エネルギー活用型余暇創造」は結果的に持続
的な地域発展のあり方を志向するものといえる。新エネルギーを楽しむことを通じて、訪
れる都会人に持続的社会の姿を見せ、その価値に気づかせるという一種の哲学性を持つ。
4.新エネルギーの普及・促進
「新エネルギー活用型余暇創造」手法の特徴は、「余暇創造=楽しさ」に着目することに
より、新エネルギーへの取り組みに対する人々の親しみやすさや参加しやすさを生み出す
こと、そして余暇創造等を通じた地域活性化の促進等の効果により事業が推進されれば、
結果的に新エネルギーの地域への受容、普及の機会を拡大することができるという点であ
る。
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第2節 「新エネルギー活用型余暇創造」に関わる需要サイドの整理
以下では、需要サイドからの検討として、余暇・観光に関わる近年の動向などを整理し
た上で、
「新エネルギー活用型余暇創造」に関わるニーズおよびターゲットを明らかにする。
1.「新エネルギー活用型余暇創造」の背景となる観光・余暇潮流
(1)バブル崩壊後の余暇潮流
この10年間の日本人の余暇生活は、バブル崩壊以降の経済の低迷の影響を大きく受け、余
暇活動・余暇消費ともむしろ減少する傾向が目立っている。
「レジャー白書」(社会経済生産性本部;各年版)の調査によれば、余暇市場の規模は
平成8年には90兆円に達したのをピークに減少基調となり、平成14年には約83兆円まで縮小
している。
統計上の労働時間は平成以降大幅に減少し、平成元年には総実労働時間が2,111時間あっ
たものが、平成14年では1,837時間と、270時間以上短縮している。しかしながら「レジャー
白書」の調査によれば、これとはまったく逆に余暇時間が「減った」という人が増加を続
けており、広い意味で日本人の「ゆとり」感の喪失を表していると読むことができる。
バブル崩壊後の10年間は、総じて余暇活動の参加人口は減少傾向で推移している。特に
減少傾向が目立ったのは「ゴルフ」「スキー」など金銭多消費型のレジャーである。
一方、ここ数年順調に参加人口を伸ばしてきている種目としては「パソコン」「園芸」
「テレビゲーム」などの「日常・身近型」、「自分磨き型」の活動である。余暇消費の面
から見ると、これらはいずれも活動1回あたりの単価が低いため、繰り返し何回も参加で
きるタイプの活動であることがわかる。
(2)多様化・個人化する余暇活動
余暇消費および余暇活動の実態は、厳しい材料ばかりが目立つ状況ではあるが、一方で
期待できる動きもないわけではない。たしかにバブルははじけたが、この10年余りで人々
の「余暇慣れ」は確実に進んだと見られる。たとえば調査対象となる種目数は次第に増加
してきているが、これは「横並び」型のマス・レジャーから、個々人が自分の好みや趣向
に応じた活動をする「多様化」の方向へと成熟化していることを示している。
実際、「温浴施設」などこれまで調査対象としてこなかった新しい余暇活動24種目につ
いて試みに需要調査をしたところ、その消費規模はおよそ4兆円余り(既存の余暇市場の5
∼6%に相当)に達する無視できない規模と推計されている。ますます多様化し、変化を続
ける余暇動向の先に、新しい消費や市場の動き見いだすことが求められているといえよう。
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(3)新しい「レジャー価値観」
経済・社会基盤が大きく変化する中で、私たちの生活価値観や行動も大きく変化しはじ
めており、これに伴って従来型のレジャー活動にくくられない新しいタイプのレジャー活
動も登場し始めている。
「レジャー白書 2003」では、国民対象アンケート調査結果をもとに、
近年の「レジャー価値観」のキーワードを、「自分磨き」
「癒し」「交流」
「社会性」として
とりまとめ、それぞれに関わる新しい余暇活動を整理した。
①「自然」「健康」にかかわる欲求
日々の慌ただしい時間環境の中で、精神的なくつろぎに対する欲求(
「いやし欲求」)
が強まり、そのことが「自然と親しむ時間」「健康の維持や増進のための時間」などに対
する欲求を強めている。
情報化の進展やエネルギー投入量の増大が社会の時間速度を加速化し、仕事を含め、
日々の生活に速さと効率が強く求められるようになっている。こうした慌ただしく喧噪な
日々の生活が私たちの肉体的・精神的ストレスを強めている。こうした環境の中で、自由
時間には精神的な解放を求めて「心」をいやしたり、体に優しい環境・低刺激の環境を求
めるなど「体」のいやしが求められるようになる。余暇も例外ではなく、従来のような刺
激や気晴らしを求める余暇だけでなく、のんびり・ゆったりと過ごす、「いやし」欲求を
充たすような余暇が求められるようになっている。
こうした欲求に対応する新しい余暇活動の例としては、「温浴施設」「マッサージサー
ビス」
「エステティック・ホームエステ」
「自宅での快適入浴」、
「ウォーキング」「観葉植
物の手入れ」「ガーデニング」「ペット」などが挙げられる。
②「能力向上」=「自分への投資」にかかわる欲求
経済社会の大きな変動と先行き不安に対する対応として、自由時間を「自分の能力向
上や学習のための時間」に費やすなど、自分への投資やまなびに関する欲求(「自分への
投資」欲求)が強まっている。
景気の低迷、そのもとでの雇用不安や生活不安が拡がっている。終身雇用や年功序列
(賃金)の体系が弱まる中で、これまでのような会社への強い帰属意識が揺らぎ、個人
個人が自身の考え方や生活設計をもたざるを得ない状況が生まれている。また、国際化・
情報化がますます進む中で語学や情報処理・伝達能力が求められる機会が増えている。
こうした環境変化を反映して資格取得や語学の習得などの「技」への投資、自分の健康
や体力などの「体」への投資、さらには、見知らぬものへの関心・体験や知識・美など
への関心を強める「心」への投資など、
「自分への投資」が盛んになっていると考えられ
る。
こうした欲求に対応する新しい余暇活動例としては、「パソコン教室・スクール」「専
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門家の同行するテーマ旅行」などが挙げられる。
③「交流」にかかわる欲求
従来型の会社仲間や地縁的つき合いの希薄化が進むなかで、趣味などを通じた新し
い人々との交流への欲求(新たな「まじわり」欲求)が強まっている。
個々人が自分の能力や責任をもって「自立(自律)
」することを求められる環境の中で、
従来の会社中心のつきあいや地縁中心の生活枠組みから一歩抜け出て、趣味やテーマ、
共通の問題意識や価値観をもつ人々の間で、新たな「まじわり」欲求が強くなる。他方、
国際化・情報化が進み、インターネットや電子メール、携帯電話などの新しいメディア
が普及し、これらを活用した新しい交流も生まれている。
こうした欲求に対応する新しい余暇活動の例としては、「携帯電話でのやりとり」「街
頭パフォーマンスへの参加・鑑賞」
「自然や街なみなどの観察」などが挙げられる。
④「地域活動」にかかわる欲求
自分が住む身近な地域の問題や環境問題などへの関心が強まり、自由時間活動が徐々
に「社会性」を帯びる中で、
「地域活動やボランティアのための時間」などへの関心・欲
求が強まっている。
少子・高齢化の進展やコミュニティー機能の劣化、地球環境問題の深刻化、地域経済
の疲弊といった一連の経済・社会問題の顕在化が、知らず知らずのうちに私たちの意識
下に浸透する。このような背景のもとで、③で示したような多様な人々の交流を通じた
余暇活動が結果として社会性を帯びてくる。いわゆる「社会性余暇」と呼ばれる活動で
ある。実際、これらは、義務に駆られてはじめるというよりは、活動の面白さや、多様
な考え方をもった人々とのふれあいの楽しさといった要素がきっかけになる。
こうした欲求に対応する新しい余暇活動の例としては、「地域の祭りの企画や参加」
「ま
ちづくり活動の企画や参加」「フリーマーケット・バザーへの出展」「貸し農園」などを挙
げることができる。
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2.観光に関わる新しい潮流
こうしたレジャー面の価値観や行動の変化は、従来型の「観光」にも大きな影響を及ぼ
している。
近年は従来の団体ベースの物見遊山型の旅が飽きられ、テーマ性や交流を重視する小グ
ループや家族などによる「生活交流型の旅」が求められるようになっている。具体的には、
①旅先での「生活」
(場所を変えた日常生活体験)の重視、②個々人の趣味をベースにした
強いテーマ性、③旅先の地域の人々との直接的な交流、④経済性(適正価格=リーゾナブ
ル)の重視、⑤自ら企画し実行する(代理店に依存しない)といった特色をもった「旅」
である(図表5−1参照)
。
図表5−1 これからの旅の形
これまでの観光
これからの旅
旅の形
非日常型
生活体験型(異日常型)
旅の目的
名所・旧跡、物見遊山型
テーマ性の強い旅
地域との関係
観光地が地域と乖離、囲い込み
地域の生活エリアを含めた交流
旅の経済性
一点豪華型
リーゾナブルなDIY型
集客
エージェントに依存
地域が自ら情報発信・集客
その背景には、自身のテーマを大切にし、さまざまな体験を通じて自らの「知」を磨く
観察・学習系の旅に対するニーズの高まりがある。例えば欧州や米国などでは、70 年代以
降、地域の歴史的文化財を観察し学ぶ「ヘリティージツーリズム」が盛んであるが、こう
した流れは 90 年代以降、わが国においても徐々に強まっているとみることができる。
こうした時代の新たなニーズに応えるためには、地域は、既存の観光資源などに安住す
ることなく、自ら新しい交流資源を発掘し磨き上げ、生活の場としての面白さや魅力度を
高めることが重要となる。
「楽しさ」「面白さ」のない地域には他所の人々も魅力を感じな
い。換言すれば、楽しさ・面白さを感じることができる地域を創造することが、新たな産
業の創造につながり、さらには他地域との観光交流を含めた多様な産業の創出につながっ
ていく。
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3.「新エネルギー活用型余暇創造」に関わる余暇ニーズの整理
(1)自然・環境志向の余暇ニーズ
「自然・環境志向」の余暇ニーズは、新エネルギー自体が環境調和型のエネルギーであ
り、持続的観光地の形成に寄与すること、エネルギーの賦存状況が自然資源の豊富な地域
と重なっていることなどから、
「新エネルギー活用型余暇創造」の特徴をもっとも活かせる
という主要な余暇ニーズであると考えられる。具体的な活動例としては、テーマ性のある
観光の一種としてのエコツアーやエコツーリズムなどが注目される。
地域サイドから見ても、新しい「観光地」の魅力づくりや他地域との差別化・付加価値
化等が求められている中で、「自然」「環境」が重要な次世代型観光・レジャー資源のシン
ボルになるものと思われる。人々の環境意識の高まりとともに、
「環境対応」の遅れた観光
地やレジャー施設は、21 世紀には他地域とのきびしい集客競争に取り残されることが懸念
される。
一方で、いままで「観光地」でなかった(著名な観光資源がなかった)普通の地域でも、
「新エネルギー活用型余暇創造」の視点からさまざまな地域資源を開拓・活用することに
より、新たな「観光・交流の場」として注目されるようになるケースも考えられる。
(2)「癒し・健康」志向の余暇ニーズ
序章でも見たように、ゆとり感が損なわれている中、自由時間に「癒し・やすらぎ」を
求める過ごし方へのニーズが拡大している。
「癒し・やすらぎ」の要素は、先に見た自然環
境を志向する余暇ニーズや、これから検討する「農」「食」を意識した余暇ニーズ等とも関
連するニーズである。
都市生活者に顕著なこれらのニーズに対し、新エネルギー事業は自然環境の豊かな「地
方の立地メリットを持っており、都市住民の訪問先・観光余暇資源として大きなポテンシ
ャルを持っているといえる。またライフスタイル面でも、「スローライフ」や日本の伝統的
生活文化等へのあこがれがみられる。
(3)「農」を楽しむ余暇
「レジャー白書」において、この 10 年間で最も参加人口の伸びた種目の一つが「園芸・
庭いじり」である点に象徴されるように、
「農」を楽しみ、活かす観光・交流、レジャー(ア
グリレジャー)は、すでに一大分野を形成している。市民農園などの都市部におけるニー
ズは強まっており、高年層の人々も積極的に参加している。
「農」と「観光・余暇」のジョイントの中からは、「グリーンツーリズム」や週末の田舎
152
暮らし、スローフードなど、都市農村交流をテーマとする新しい楽しみやライフスタイル
が生み出されている。
特に自然エネルギーの賦存量が大きい地方の多くは、農業を基幹産業とする地域でもあ
ることから、優れた農産物や農村田園景観、農にかかわる文化的伝統を維持しているケー
スが多く、これらは新エネルギー事業の実施地域においても重要な観光・交流資源になる
ものと考えられる。また具体的には、特にバイオマスなど農業と新エネルギーを組み合わ
せることで、地場産業の活性化や循環型地域社会を実現する取り組みも始まっている。
このように「新エネルギー活用型余暇創造」は、さまざまな面で「農」と関わるポテン
シャルを持っていると考えられる。
◆「食」を楽しむ余暇へのニーズ
「農」を楽しむ余暇と密接な関係にあるのが、「食」を楽しむ余暇である。特に近年注目
されるものとしては、「スローフード」という概念や、そこから発展した「スローライフ」
などの楽しみ方が幅広い支持層を集めつつあるという点である。
「スローフード」は、伝統
的な食文化や地域の食材を使った料理や会食を楽しむといった概念であるが、地場産の食
材の提供や、レストラン等における地場産品を活かした料理・地域の伝統食メニューの開
発など、さまざまな面でスローフードと関わる取り組みが考えられる。また環境学習の方
面では、太陽エネルギーを利用した「エコクッキング」のような取り組みも行われている。
「食」は、地方への観光の際の主要な楽しみの一つとなっており、「新エネルギー活用型
余暇創造」の中でも積極的なメニューの開発・組み込みに取り組みたい分野である。
(4)「学ぶことを楽しむ」余暇へのニーズ
従来「教育・学習」は、
「余暇生活」や「労働生活」と切り離され、忍耐・苦痛をともな
うものというイメージで捉えられていたが、
「生涯学習」などの考え方の普及とともに、次
第に柔軟に捉えられるようになってきた。
近年では、エンターテイメントとエデュケーションを合成した「エデュテイメント」と
いった用語も登場し、学ぶことを楽しむという考え方が広がりつつある。
観光の側面においても、従来型の観光(大量集客・画一テーマ・集団)から、個人旅行
化の方向にニーズがシフトしつつあり、これとともに「テーマ性」の強い観光への志向が
高まりつつある。特に「自然・環境」は、今後最も期待される観光の「テーマ」の一つで
あり、エコツーリズムや自然体験学習などが注目され、人気を呼んでいることから、
「新エ
ネルギー活用型余暇創造」における余暇の契機として、
「学習」は大きな意味をもつと考え
られる。
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(5)地域・社会参加型余暇へのニーズ
余暇や自由時間の過ごし方の一つとして近年関心が高まっているものに、地域活動やボ
ランティア活動・NPO 活動などがある。
「レジャー白書」ではかつて「社会性余暇」とい
う概念で、こうしたニーズの広がりを把握したことがある。自由時間における充実した過
ごし方への欲求や、地域の人々との交流へのニーズが拡大の背景にあるものと考えられる。
「新エネルギー活用型余暇創造」においても、こうした地域・社会参加型余暇とのさま
ざまな接点が考えられる。森林ボランティアのような制度と組み合わせるケースも考えら
れよう。また、
「自然エネルギーは地域の財産」という視点から、地域住民が主体となって
市民発電所を設立するといったケースも現れており、新しい参加の仕方として注目される。
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4.「新エネルギー活用型余暇創造」のターゲット
上記のような余暇ニーズをベースに、「新エネルギー活用型余暇創造」のターゲットとし
て以下のような人々を想定することができる。
(1)都市住民
前述のような自然環境志向、農村で過ごす余暇などへの志向が高く、観光客として事例
への訪問が期待されるのは都市部住民である。今後の都市−農村交流のひとつの手法とし
て、
「新エネルギー活用型余暇創造」を考えることができると思われる。
特に、こうした山間部等の地域を訪問する顧客は、ある程度余暇慣れ・旅慣れをし、従
来型の観光・余暇にあきたらなくなって、新しい観光地を探しているような人々が大きな
ターゲットになると考えられる。こうした人々に応えられるテーマ性のある旅のメニュー
や地域のストーリーを魅力的に提示できることが重要である。
(2)地域住民
都市住民とならんで重要なターゲットは、新エネルギー活用型余暇創造の事業が営まれ
る当該地域の住民である。
何よりも地域住民に期待されるのは、リピーターとしての役割であろう。同じ地域や施
設に何度も通えるためには、車で1時間圏内といった一定の時間距離の近さとともに、遊
びにかかる費用の安さ、飽きのこないメニューやシーズン毎のイベントの開催といった条
件や対応が必要になる。地元の人も楽しんでいない、近寄らないような観光・余暇施設で
は、外部の人の集客はなおさら覚束ない。
(3)高齢者・中高年層
近年の中高年の登山ブームなどに見られるように、中高年は余暇における強い自然志向
やアウトドア志向を持っている層である。
特に定年後の世代はある程度の自由時間と資産を持つ人々であることから、これからの
観光や旅行の主要なターゲットに位置づけられている。
こうした人々は、自由時間を使った学びに対する高い志向性を持つ場合が多い。また、
原風景として「農」を楽しむ余暇に対するノスタルジーをもっている。ちなみに「菜の花
プロジェクト」の事例では、中高年層がイベントの主要な客層を占めていた。また食べ物
についてもファーストフードのようなものではなく、安心できる食材をつかった質の高い
料理等への志向を有すると考えられることから、
「食」を楽しむ余暇への関心も高いと思わ
155
れる。
このように、高齢者・中高年層は、先に触れた「新エネルギー活用型余暇創造」に関わ
るさまざまな余暇ニーズと深く関わることから、主たるターゲットの一つと考えることが
できる。
(4)ファミリー
ファミリー層は、もともとオートキャンプなどの形で自然に親しむ形のアウトドア活動
に対する志向性を持っている。
自然との接触要素や自然をテーマにした受け皿の多い「新エネルギー活用型余暇創造」
は、ファミリー層にとっても格好の訪問先になると考えられる。例えば近年親子のふれあ
いの機会として、親子で参加する自然体験プログラムなどが人気であるが、こうした体験
プログラムの一つとして「新エネルギー活用型余暇創造」の事例の活用手法を考えること
が可能である。
子どもを連れての多人数での参加となるため、一人当たりの単価の低い、比較的費用の
かからないメニューや楽しみ方の提供が求められる。
(5)学生
とりわけ「環境学習」という形での新エネルギーとの関わり方を考えた場合、最大の顧
客は学生になると考えられる。エネルギーや環境問題に関する科学教育という面のみなら
ず、地域社会への多面的な波及効果を有する「新エネルギー活用型余暇創造」の事例は、
総合的学習の時間や修学旅行等の訪問先としてもたいへん大きなポテンシャルを持ってい
る。
156
第3節 「新エネルギー活用型余暇創造」の事業類型
「新エネルギー活用型余暇創造」の事業は、新エネルギー関連要素、観光・余暇「受け
皿」要素などの多様な構成要素から成り立っており、要素の組み合わせの仕方、関係の形
態や効果のあり方にも多様なものが考えられる。
しかしながら、実際に取り組まれている事例では、構成要素の関係形態などに実現しや
すい一定の傾向が見られる。事例調査結果等をもとに主な事業類型を整理すると、以下の
ようになる。
1.施設型モデル
2.地域複合活性化モデル
3.ソフト型モデル
4.環境学習型モデル
1.施設型モデル
新エネルギー施設と観光・余暇・学習等の「受け皿」施設を事業的に関係づけ、
「受け皿」
施設のエネルギー源として新エネルギーを活用するなどの取り組みを行い、全体として新
たな観光・余暇需要を創出するモデル。
実際には既存の観光・レジャー施設の「テコ入れ」として新エネルギー施設を導入する
ケース(例:深浦町など)
、新規に新エネルギー施設を設置する際に、受け皿施設を併設す
るケース(えりも町など)などのパターンがあり、事業性の評価のあり方などが違ってく
る。また、事業主体の違い(公的施設/民間施設)
、受け皿施設の違い(単体施設/複合施
設)などのケースの違いがある。
既存事例も多く、今後の主たる事業モデルの一つになると考えられる。
図表5−2 施設型モデルの代表的事例
事業主体
民間事業
単体受け皿
鹿児島県錦江高原ホテル
複合受け皿
三井グリーンランド★
花巻スイミングスクール
自治体事業
えりも町★
青森県深浦町
大分県前津江村
★:事例ヒアリング調査対象外の事例
157
2.地域複合活性化モデル
エコツーリズムなど地域資源(自然資源や農業資源)を活かした交流型地域づくり
を推進する地域内で新エネルギーを導入し、地域全体・事業全体として相互補完的・シナ
ジー的に観光・レジャー需要を創出するケース。
投資としては、地域全体で複数の施設が複合的に整備される必要がある。このため、短
期間での整備は難しく、継続的な投資が必要になる。また、既存施設との連携や活用も必
要になる。地域全体として相乗効果が期待できる。
地域複合活性化モデルの代表的事例としては、岩手県葛巻町、新潟県安塚町などを挙げ
ることができる。
3.ソフト型モデル
受け皿として、特別なハード施設ではなく、新エネルギーのエネルギー資源の活用等に
よるイベント等によって集客を図る事例。青森県横浜町の「菜の花プロジェクト」などが
その代表例。エネルギー資源作物である菜の花自体をテーマに様々なイベントを仕掛け、
地域への集客を図る。
イベント等のあり方によっては、ハード利用型に対して投資金額をかなり小さく抑える
ことも可能になる。ただし、やはり受け皿となる施設は存在していた方が地域への波及効
果は大きい。横浜町においても、イベントを集客の核としつつ、
「菜の花プラザ」という物
産館(道の駅)を併設して複合効果を挙げている。
4.環境学習型モデル
自然公園やエコパークのような施設で、太陽光・風力・バイオマスなどの施設を設置し、
新エネルギーの学習ができるようにしたケース。海外の著名事例として、イギリスの CAT、
オーストラリアの CERES を挙げることができおる。
多くの場合「学習目的」の施設となるため、施設規模や発電容量等は比較的小さい場合
も多く、新エネルギー導入目標達成への量的な寄与度合いは必ずしも大きくない。施設に
よっては、施設内の全エネルギーを新エネルギーでまかなうといった「自給 100%」
、
「循環
型」の体験施設へと発展させているケースもある。
今後の環境学習系の需要の伸びはある程度期待できると考えられるが、いわゆるテーマ
パークとして事業環境を考えた場合、大規模な投資事業は難しいと思われる
代表的事例としては、山梨県の富士エコパークビレッジ、福岡県の北九州環境ミュージ
アム、熊本県の三井グリーンランドなどを挙げることができる。
158
第4節 新エネルギー活用型余暇創造による地域活性化アプローチ
今回の調査研究では、
「新エネルギー活用型余暇創造→地域活性化→地域への新エネルギ
ー受容の拡大」を一つの目的としている。本節では特に「地域活性化」をテーマとする新
エネルギー活用型レジャー事業の事業化推進について扱うこととする。
1.地域活性化の基本的考え方
(1)検討対象地域の事業的環境
「新エネルギー活用型余暇創造」手法による地域活性化を想定する地域としては、地域
資源として何らかの自然エネルギーを豊富に持っている(=賦存量の多い)地域が主たる
対象地域になると考えられる。
こうした地域は豊かな自然環境の残された山間部・島嶼部や農山漁村といった場所が多
く該当すると思われるが、こうした地域社会はある程度下記のような共通の特徴があては
まるものと考えられる。
◆過疎化・人口減少
第一に人口構造の面では過疎化・人口減少および高齢化の進んでいる地域である。実際
調査対象事例の多くにこうした特徴があてはまり、
「交流人口」の拡大を打ち出している地
域がいくつか見られた。
◆農林水産業が基幹
第二に、こうした地域では地域の基幹産業が農林水産業などの第一次産業であるケース
が多いが、人口減少や高齢化の影響により、産業が疲弊しつつあるケースが少なくない。
一方で、一次産業の生産物および加工物に付加価値をつけることに成功した地域は、地場
産業が成長して一定の経済的役割を果たしている場合も見られた。
◆観光・余暇の資源と制約条件
第三に、観光・レジャーの資源として、豊かな自然環境が観光資源となっている点や、
農山村の生活分野や歴史・民俗資源などの観光・レジャー資源が豊富といった特徴もある。
しかし、裏返せば大都市圏から遠隔地にあるため背景人口が少なく、またアクセスが悪い
等の理由により、集客に限界がある。
さらに、山間部等の場合冬季の積雪等のため集客シーズンが夏場に偏ってしまうといっ
た条件もある。
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(2)地域活性化の基本戦略
前述のような条件下で、地域活性化の戦略として考えられるのは以下のようなアプロー
チである。
①「交流人口」の拡大
ヒアリング調査でも見られたが、定住人口の拡大が期待しにくい地方社会の場合、地
域資源を活用していかに「交流人口」を増やすかが一つの対応の方向となっている。
「新エネルギー活用型余暇創造」の取り組みや、さまざまな地域資源の活用を通じた
交流人口の拡大を、活性化戦略の柱と考える。
②「多面的波及効果」の創造
地方の経済社会状況は、農業も地場産業も個別産業分野だけで振興策を生みだして行
くのは困難な状況。いっぽう新エネルギー施設も、単体では大きな事業的効果を期待し
にくい。
複合的取り組みにより、多面的波及効果を創造していくことが、
「新エネルギー活用型
余暇創造」の強みである。地域内の農業、林業、商工業、観光業、さまざまなサービス
業を一体としてとらえた地域産業の連関の中で考えていくことは大きなチャンスと考え
られる。
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2.事業化戦略
(1)地域への多面的波及効果の創造へのアプローチ
「新エネルギー活用型余暇創造」の効果としてもっともインパクトがあり、また期待が
大きいのが「地域への多面的な波及効果」である。以下では、
「観光・レジャー面」
「新エ
ネルギーの多面的利用」
「産業面の複合化・クラスター化」などの側面から、
「新エネルギ
ー活用型余暇創造」の手法により、いかに地域への多面的波及効果を創造するかについて
検討する。
①観光・レジャー面の循環・ネットワーク化
観光・レジャーによる集客・交流活性化の面から、地域の人的な交流・ネットワーク化
を図る方向が考えられる。地域における観光・余暇資源は多様であり、多面的な入り口を
設けることにより、幅広い集客を得る。
◆既存余暇・観光資源の発掘とネットワーク化
「新エネルギー活用型余暇創造」の事例と、周辺や地域内の既存余暇・観光資源とのネ
ットワーク化により、相乗的な集客効果をねらう。
具体的な例としては、地域の余暇関連集客資源の代表である「温泉」とのジョイントな
どは効果的な一つの方法である。「風力発電施設のあるところに温泉あり」と言われること
もあり、風力の賦存量の多い地域には温泉が多い。また、温泉の排熱を利用した施設暖房
やハウス栽培などをあわせて実施することにより、農業面等への多面的な波及効果を得る
ことができる。観光資源としても集客力の高い「温泉」と新エネルギー関連事業・施設の
ジョイントによる観光交流推進は、集客拡大の早道と考えられる。
[事例] 青森県深浦町
青森県深浦町の「ウェスパ椿山」の近隣には、全国的に有名な秘湯「不老不死温泉」
があり、遠方からの集客力もある。両施設とも温泉施設と風車を持つことから回遊効
果も発生し、双方ともに活性化している。
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◆「新エネルギー見学客」の誘導機会の拡大
自治体アンケート調査結果によれば、新エネルギー事例では、見学客・視察の受け入れ
への対応を行っているところは少なくない。しかしながら、視察は新エネルギーサイトの
見学のみで終わってしまい、せっかくの地域への経済効果等の機会を喪失しているケース
も少なくない。新エネルギーサイドで意識して「受け皿」となる地域施設やソフトを提案・
紹介することにより、エネルギーの見学・視察客から観光波及効果を得ることが可能にな
ると思われる。
[事例] 岩手県葛巻町
年間数千人におよぶ新エネルギー施設の見学者向けルートの中に、レストラン、物販
施設、宿泊施設を効果的に設定。地場産品の販売や地場食材を使った料理・ワイン等
を提供。地域への経済効果の還元につなげている。
◆地域間の連携・ネットワーク化
「新エネルギー活用型余暇創造」の事例は、主に単独の自治体や地域内での事業展開を
想定したものである。しかしながら、周辺地域との広域連携により付加価値を創造する可
能性も存在する。
具体的な対応としては、新エネルギーと観光・レジャーの循環自体を都市部と地方の事
例対象地域との間で形成してしまうという方法が考えられる。例えば、都市部で発生した
ホテル等の生ゴミ(堆肥、メタン発酵資源等)を定期的に農村地域に運び、農村地域では
これら資源を活かした酪農や農産物加工等により、交流のメニューを充実させて当該関係
都市部から集客する、といった展開である。
また、周辺地域を含めた新エネルギー資源自体の連携により、関連地域に集客資源を生
み出すといった対応も考えられよう。
[事例] オロロンライン(北海道)
北海道小樽∼留萌∼稚内の観光ルート「オロロンライン」上には、北海道沿岸の強風
を利用した風力発電施設が数多く立ち並び、ドライブや観光バスのルート上から眺め
る風車が一つの観光景観アイテムを形成している。こうした施設を関連自治体等が意
識的に「資源」ととらえ、アピールすることにより、地域間の連携による活性化効果
が高まるものと考えられる。
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②地域における新エネルギーのハイブリッド活用、多面的取り組み
地域内での複数種類の新エネルギー事業を効果的に組み合わせ、複合的活性化効果をね
らう取り組み。たとえば木質バイオマス、風力、中小水力などの新エネルギー資源は、同
じ地域内に存在する場合も少なくないが、これらを複合的に利用することにより「クリー
ンエネルギー100%自給を目指す町」といった目標設定やアピールが可能になる。
特にハイブリッド利用によって、自然エネルギー利用の安定性を高めることができる。
例えば太陽光発電は昼間のみ、風力発電は風の吹いている時間帯のみの発電となり、エネ
ルギー供給が自然条件に左右される不安定さが問題であるが、例えば木質バイオマスを同
時に導入することで、夜間や無風時のエネルギー供給が可能になり、安定的なエネルギー
利用が可能になる。
また、こうした地域の自然エネルギーの活用とともに、環境に配慮したクリーンエネル
ギー自動車の導入を促進するといった取り組みも考えられる。
③産業面の複合化・クラスター化
個別のエネルギー導入、余暇創造、地域活性化だけを考えるのではなく、地域内の一次
産業(農業、林業、水産業等)、二次産業(地場産品加工業等)
、三次産業(商業、観光業、
レジャー産業およびさまざまな関連サービス業等)を一体としてとらえた地域産業連関や
産業クラスターの創造により、地域への多面的波及効果は拡大する。
特に、検討対象地域の基幹産業は農業であることが多いこと、また「農」の多面的機能
が注目されていることなどから、「農」の活性化にかかわる産業クラスターの創造がもっと
も重要であると考えられる。
図表5−3 多面的機能と観光・交流での対応例
機能
対応例
「食の安全」
・無農薬栽培の地場産物をスローフードとして提供
「国土保全機能」
・棚田の保全と観光資源化
「環境保全機能」
・水源林の涵養にかかわる森林ボランティア
「ゆとり空間機能」 ・農村景観のアピール
「教育機能」
・自然環境や循環システムなどの体験学習
「文化継承機能」
・伝統の技術や食文化を活かしたメニューの提供
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[事例] 岩手県葛巻町
畜産バイオマスを利用した発電・資源循環を行い、畜産加工食品を観光客等に提供
する。町の基幹産業である畜産業を、観光・交流・余暇の流れに組み込んだ例。
[事例] 新潟県安塚町
雪冷熱貯蔵による付加価値をつけた米などの農産物や貯蔵酒等を、物産館で観光客
向けに販売。
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(2)事業の「マネジメント」にかかわるアプローチ
①事業コンセプト面
調査事例では、
「雪」や「風」などかつて「やっかいもの」といわれ、地方の不利条件と
されていたものを逆手にとり、地域活性化に成功している。
「新エネルギー」と「余暇創造」
をうまく組み合わせる事業構想により、地域におけるマイナス条件をプラスに転換する価
値創造を図る。「大都市でないからこそ、うまくいく」「大型観光地でないから、うまくい
く」といったいわば「逆転の発想」を一つの発想の契機としていく。
②参加・交流・集客の仕組みづくり
「新エネルギー活用型余暇創造」における重要な点は、まず地域の人が楽しんで訪れる
場所にするという点である。遠隔地からの訪問客よりも、地元地域からのリピーターが主
要な顧客層を形成すると考えられる。
一方、都市部における「ファン」づくりも、効果的な手法になる。
[事例] 岩手県葛巻町
主要な集客源となっている盛岡市内にアンテナショップを設置し、地場産のワインと
食材を楽しめる。平日・日常における町の魅力発信・情報発信空間となっており、物
販とともに地元への観光集客にも寄与している。
[事例] 広島県芸北町
小水力発電施設の近くの渓流に、都市農村交流の事業「こもれ日の館」を設置。すべ
ての電力を供給している。広島市内を中心に 40 名程度の会員が、森林を利用した山菜
狩り、キャンプ、まつりなどの楽しみを求めて高い頻度で訪問。人気制度で参加希望
者が多く、地域における効果的なリピーター創造例となっている。
その他、学習関係では学校等を対象とするある程度まとまった顧客の獲得が見込まれる。
「環境学習」「自然体験」等をテーマとするメニューを開発し、周辺地域の学校の総合的学
習の時間のプログラムに組み込んだり、修学旅行の拠点としてアピールするなどの手法が
考えられる。
③事業規模と持続性
現在の地方の経済社会が置かれた厳しい環境下では、地方では大規模投資・短期回収と
いった都市型の事業手法が成り立ちにくく、無理な大規模投資型(バブル型)地域開発の
失敗例が各地で見られる一方、レジャー・観光・新エネルギー・農業等への長期堅実投資
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の蓄積の結果として成功したいくつかの調査対象事例を確認することができた。
地域の資源を活かし、外部からの大規模投資等に依存しないいわば「身の丈にあった事
業」が、持続性の要因であると考えられる。様々な分野・種類の補助事業を誘致し、時間
をかけて地域開発を進める、長期的な事業育成、投資回収の在り方を考えることが重要と
考えられる。
④地域における事業推進の枠組みづくり
事例調査結果でも明らかになったが、自治体の事業であっても経営感覚に優れた
推進役となるリーダーの存在が、事業成功の大きな要因となっていた。
現在の地域におけるエネルギー行政と観光・余暇行政は効果的な連携がとれておらず、
縦割り的になっているケースも少なくない。
「新エネルギー」と「余暇創造」の意義をとも
に理解し、事業を推進できる地域の「トータルコーディネーター」の発掘・育成が重要に
なってくると考えられる。
[事例] 新潟県安塚町
雪資源の活用にかかわる業務を中心とする「雪だるま財団」を設置。外部から招聘さ
れた専門家や地域人材等によるスタッフは「スノーマン」と呼ばれ、雪冷熱エネルギ
ーの活用ほか「雪」をテーマとする地域づくりに活躍している。
また、余暇創造の点からは、観光客に対して「新エネルギー活用型余暇創造」にかかわ
る説明や、地域の魅力紹介にかかわる地域の「インタープリター」の育成と事業への組み
込みが効果的であると思われる。具体的には地域の人によるボランティア観光ガイドなど
が考えられるが、訪問客へのホスピタリティと同時に、地域にかかわるさまざまな情報発
信などの役割を果たし、
「余暇創造」面での重要な推進役になるものと考えられる。観光・
レジャー・学習関連の地域のNPO等との連携のあり方も、あわせて検討することが求め
られる。
⑤事業の影響評価
上記のような課題のほかに、事業推進にあたって留意すべき点として、事業の周辺地域
への影響に関する事前評価についても注意が必要である。
例えば風力発電の場合、環境・景観面などから国立公園内等での設置の是非について議
論が進められており、こうした立地ケースについては事業計画段階から慎重な対応が求め
られる。新エネルギー施設は環境にやさしい施設である反面、貴重な自然環境を残す地域
における施設建設等が発生するため、十分な検討が求められる。
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[事例] 広島県芸北町
同町は釣りの盛んな地域であり、小水力発電の取水堰の設置に際しては慎重な検討が
行われた。結果として、取水堰には魚種に応じて構造の異なる数種類の魚道が設置さ
れ、環境影響を最小限にとどめることに成功した。こうした設備は、見学時の環境学
習の素材としても活用が可能である。
⑥まちづくりのコンセプト
事例調査を通じて見られたことは、成功している事例の多くは「まちづくり」のコンセ
プトがしっかりしている事例であるという点である。単に新エネルギーの事業がうまくい
っているというよりは、その前提にしっかりした「まちづくり」のコンセプトやプランが
あり、その中で新エネルギーおよび地域の交流活性化等のとりくみがしっかり位置づけら
れていることである。また、こうしたコンセプトが住民にしっかり共有されているという
ことも、関連事業の推進の上でたいへん重要である。事例調査でも見られたが、風力発電
施設等ができたことで、住民自身が地域に誇りを持つ効果が認められる。こうした事業を
きっかけに、住民自身が意識を高め、地域の課題を共有し、事業に参加することを通じて、
事業活性化がより効果的に図られるものと考えられる。
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