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19 (3) 千代田区の生態系の特徴 この様な生きものの状況から、千代田

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19 (3) 千代田区の生態系の特徴 この様な生きものの状況から、千代田
(3) 千代田区の生態系の特徴
この様な生きものの状況から、千代田区の生態系の現状については以下のような特徴
が得られました。
①江戸時代からの歴史的遺構に由来する皇居、皇居外苑、北の丸公園、内堀、外堀の
緑道、また限られた自然地形上に残存する清水谷公園や日枝神社の樹林環境は、千
代田区内で特に多様な生物が生育・生息する場として重要な存在となっています。
・全ての分類群において、皇居とその周辺緑地(内堀、北の丸公園を含む)では確
認種数が多く、それらの場所は区内の生物多様性の核となっている。
・内堀や外堀の緑道沿いの土手斜面は、定期的な下刈りによって草原的な環境が維
持されている。外堀の土手斜面では、区内の他の場所では見られない様々な草原
性植物が生育している。
・清水谷公園や日枝神社は、千代田区内で自然地形の上に成立した植生を今に残す
限られた場所であり、自然植生の構成樹種や樹林性の在来植物が安定的に生育し
ている。
・鳥類では、水辺があり緑地が連続する外堀や、樹林が発達した靖国神社において
多くの種が確認された。
・昆虫類では、外堀の緑道や日比谷公園など、緑地の規模がより大きく、環境の多
様性の高い場所ほど種数が多くなる傾向がみられた。
皇居
外堀の緑道沿い斜面
日枝神社
清水谷公園
19
②皇居の周辺に位置する北の丸公園、内堀、皇居に近い日比谷公園や国会前庭などで
は、皇居で生まれ、皇居から飛来していると考えられる生きものも見られます。
・鳥類調査では、皇居に隣接した国会前庭や外堀の緑道などで、皇居から飛来した
と考えられるノスリが確認された。
・昆虫類調査では、日比谷公園でホソミオツネントンボやチョウトンボ、国会前庭
でムスジイトトンボが確認されており、これらの種は皇居が発生源になっている
と考えられる。
③水辺に水生植物が生える堀や池は多様な水辺生物の生息環境となっています。
・昆虫類調査では、水辺にヨシが生える日比谷公園において、重要種のホソミオツ
ネントンボやチョウトンボが確認された。
・底生動物調査では、抽水植物帯が見られる日比谷公園や弁慶濠で多くの種が確認
され、重要種のサワガニやハネナシアメンボ等も確認された。
日比谷公園心字池のヨシ
水生植物が生える弁慶濠
ホソミオツネントンボ(日比谷公園)
サワガニ(弁慶濠)
20
④植生が単調で孤立した緑地では生きものがわずかしか見られません。
・神田児童公園や錦華公園などの区立公園では、確認種数が極めて少なかった。
神田児童公園
錦華公園
⑤小規模な池や、水生植物が生えていない水辺、垂直護岸化された河川には、魚やエ
ビなどの水生生物があまり生息していません。
・錦華公園の小規模な池や、水生植物がみられない日本橋川や神田川では、魚や底
生動物の確認種数が極めて少なかった。
錦華公園の池
21
日本橋川
⑥水辺には外来種やコイなど在来の水生生物の生息を脅かす生きものが多く生息し
ています。
・内堀、外堀、北の丸公園では、外来生物法により特定外来生物に指定されてい
るオオクチバス、ブルーギル、ウシガエルが確認されている。
・特定外来生物ではないものの、区内の主要な水域では、在来種へ悪影響を及ぼ
す外来種であるミシシッピアカミミガメやアメリカザリガニが確認されている。
弁慶濠で捕獲されたオオクチバス
牛ヶ淵で捕獲されたブルーギル
・昆虫類調査では、水域にコイが生息する外堀や清水谷公園などでは、トンボ類
の確認が少なかった。
・底生動物調査では、水域にコイが生息する清水谷公園では、底生動物の確認種
数が少なかった。
⑦公園やお堀などの緑地には、カラス類や野生化したネコ、餌付けされたドバトが
多く見られます。
・日比谷公園や区内の区立公園、弁慶濠には、カラス類や野生化したネコが多く
定着していたほか、ドバトへの餌付けも認められた。
・ネコやドバトに与えた餌を狙ってカラス類が集まるなど、特に公園内では人の
餌付けが特定の動物を誘引・定着させる要因となっている状況が見られる。
ハシブトガラス(日比谷公園)
22
ドバト(日比谷公園)
23
2.3 課題
既存情報や現況把握調査の結果から、千代田区には自然豊かな皇居の森やお堀の水辺
などがある一方、市街地内の身近な場所には生きものが少なく、また在来の生きものが
外来生物などによって脅かされているなどの現状が明らかとなりました。
このほか、この様な生物多様性の現状をだれもが認識し、協力を深め合いながら地域
の生物多様性向上のために行動するうえでは、地域社会を構成する私たち一人ひとりの
意識の向上も必要です。
(1) 千代田区の生態系が抱える課題
①外堀の緑道などに残る豊かな自然の保全
区内には、皇居吹上御苑、皇居東御苑などのほか、外堀の緑道、弁慶濠などに多様
な生きものが生息・生育する豊かな自然が存在することが、これまでの調査で明ら
かとなりました。その豊かな自然を将来の世代に受け継いでいく必要があります。
②生きものの生息の場が少ない市街地の環境
市街地には区立公園や街路樹など小規模な緑地がありますが、多くは植生が単調で、
ごく僅かな、限られた種類の生きものしか生息していない状況です。また、それぞ
れの緑地は孤立しており、生きものが移動し広がっていくような緑地間のつながり
に乏しい状態となっています。
③在来の生きものを脅かす外来生物などの存在
区内の水辺には、オオクチバスやミシシッピアカミミガメ、ウシガエルなどの外来
生物、雑食性のコイなどが多く生息しており、在来の生きものを過度に捕食するな
ど、水辺の生物多様性に影響を及ぼしていることが考えられます。
④水生生物が少ない水辺環境
公園内の池や神田川、日本橋川などでは、水が汚れていたり、生きものの隠れ場所
となる水生植物帯がないことにより、水生生物があまり生息していない状況も見ら
れます。
24
(2) 地域社会や私たち一人ひとりが抱える課題
①生物多様性についての理解や関心の不足
地域戦略に取り組む上では、だれもが生物多様性についての理解や関心を持って行
動することが求められますが、そのような意識はまだ一般的には広く普及していな
いのが現状です。私たちは、日々の生活が様々な生態系サービスによって支えられ
ていることを理解し、一人ひとりが人と自然との関係を見つめ直していかなければ
なりません。
②子どもたちが自然に触れ合う機会と教育啓発の充実
幼いころから自然に触れ合うことは、子どもたちにとってとても大切な体験です。
区内の身近な場所で自然を体験できる場や機会の充実とともに、生物多様性につい
て教育啓発を積極的に行っていくことが必要です。
③主体間の協力・連携の不足
通勤・通学者などの昼間人口が非常に多い千代田区では、居住者や行政だけでなく、
事業者や学校などの協力・連携がとても大きな役割を担います。しかしその様な主
体間の協力・連携の場や機会が不足しています。
④生物多様性に関する情報発信・共有の場の必要性
地域の生物多様性向上に関する取り組みを効果的・効率的に実行するためには、区
や事業者、関係機関などが持つ生物多様性に関する情報を相互に発信・共有してい
くことが求められます。現在そのような情報発信・共有の仕組みはなく、各主体が
広報誌やインターネットなどを用いて個別に行っている状況です。
25
第3章
3.1
基本的な考え方と目標
千代田区生物多様性地域戦略の位置づけ
本戦略は、生物多様性基本法に基づき、生物多様性の保全と持続的維持の観点に立っ
た施策の方向性を示すもので、
(改定)千代田区第 3 次基本計画を上位計画とします。ま
た、他の部門における各種施策の生物多様性の保全および持続的利用に係る事項につい
ては、今後は本戦略の基本的考え方に沿って策定推進されるべきものとします。
千代田区の計画
千代田区生物多様性地域戦略
生 物 多 様 性 基 本 法
(改定)第3次基本計画
都市計画マスタープラン
環境の部門計画
・温暖化対策地域推進計画
・一般廃物処理基本計画等
他の部門計画
・緑の基本計画
・景観形成マスタープラン等
千代田区における生物多様性地域戦略の位置づけ
3.2
対象区域
対象区域は、行政区域である千代田区全域とします。ただし、対象区域外でも千代田
区の生物多様性を考える上で必要な事項については、東京都や周辺の区、国の機関等と
連携・協力し、地域の生物多様性向上の取り組みを推進します。
26
3.3
地域戦略の目標年
長期目標
目標年:2050 年
短期目標
目標年:2020 年
千代田区生物多様性地域戦略では、戦略推進によって達成することを目指す千代田区
の生物多様性の将来像を「長期目標」として設定します。また、長期目標達成のための
段階的な目標として、短期目標を設定します。
生物多様性の保全及び持続可能な利用に関する国の基本計画である「生物多様性国家
戦略 2010」では、その中・長期の目標年を 2050 年、短期的な目標年を 2020 年としてい
ます。また、
「新戦略計画・愛知目標(愛知ターゲット)」の目標年も 2020 年です。千代
田区生物多様性地域戦略では、このような国や国際的な動きと歩調を合わせて目標年次
を設定しました。
3.4
長期目標
千代田区の生物多様性の保全とその取組を進める上では、東京 23 区随一の豊かな自然
を有する皇居の存在はとても重要です。皇居の吹上御苑は、武蔵野の自然の復活を求め
た昭和天皇の希望によって、武蔵野の自然に生育する植物の移植が実施されたという歴
史があります。現在の吹上御苑には、野生種の植物が繁茂し、オオタカやアズマモグラ
が生息するなど、武蔵野の自然を思わせる光景が広がっています。千代田区は国や東京
都、周辺の区と連携して、皇居の豊かな自然環境を核として、その豊かさを周辺地域に
広げ、つなげることで、千代田区全体の生物多様性を向上させます。
このような考え方に基づき、長期目標を以下のように設定します。
長期目標 2050 年までに達成することを目指す千代田区の生物多様性の将来像
““生
生き
きも
もの
の””が
が広
広が
がる
る
「皇居を中心とする豊かな生きもののネットワークが、周辺地域に広が
るとともに、誰もが生物多様性の重要性を理解し、行動している社会」
27
目白台・大塚・白山
東京大学・上野公園
浅草・隅田公園
後楽園
戸山公園
神田川
国技館・両国
隅田川
新宿御苑
皇居
日本橋川
明治神宮
清澄庭園
赤坂御用地
木場公園
青山霊園
浜離宮庭園
麻布台・愛宕神社
生きものネットワークの広がり(将来イメージ)
千代田区のまちづくりは、先人の歩みとまちの歴史や文化などを最大限に活かして進
められてきました。
その結果、千代田区は、日本の中枢機能を担う大手町や永田町エリア、江戸文化・教
育機関・先端技術の集まる神田地区エリア、閑静な住宅街としての佇まいのある麹町エ
リアなど、他の自治体では決して代替できない「代表性」や「多様性」あるいは「象徴
性」を兼ね備えたまちとして発展を続けてきました。
その変化の過程におけるそれぞれの地域が持つ記憶や物語に配慮しながら、今後は、
まちの「新」と「旧」の調和を保ちつつ、生物多様性を向上させるようなまちづくりを
進める必要があります。
こうしたことを踏まえ、長期目標では、皇居・内堀エリアのほか、区が施策を講じる
地域を概ね3つのエリアに区分し、生物多様性の将来像を描きます。
28
~エリア別の生物多様性の将来像~
皇居~内堀エリア
江戸城築城に由来する歴史的遺構を基盤と
して豊かな生物多様性が引きつづき守られ、
生物多様性の源として多様な生きものが周
辺のエリアにも広がり、より多くの人びと
が、豊かな自然に親しみ生物多様性を学ぶ場
として利用しています。
~具体的な取り組みイメージ~
◆国指定の特別史跡に指定されている江戸城や内堀は、歴史的財産として地形、自然環境、
景観を含めた形で引きつづき守られ、多様な生きものを育む豊かな自然環境が保たれて
います。
◆北の丸公園や皇居東御苑に残された良好な自然環境が人びとに広く知られ、住民をはじ
め、学校や環境保全団体などが、自然探勝や環境教育の場として利用しています。
◆内堀では、外来生物などの駆除と水質浄化の成果により、多種多様な在来生物が生息し
ています。
◆水辺の環境が改善され、様々な種類のトンボや、牛ヶ淵のホタルの生息地が周辺に広が
り、ホタルなどの観察ができるようになっています。
商業地域エリア
行政や教育機関、企業の連携によって、にぎ
わいあふれるまち並みの中にまとまりのあ
る生きもの生息拠点が多く形成されており、
生物多様性に関する情報の発信・交流が活発
に行われています。
~具体的な取り組みイメージ~
◆日本橋川、神田川周辺を中心とした水辺緑化、企業や、まとまった規模の開発による緑
化が進み、皇居、駿河台、湯島、上野の森にかけての生態系ネットワーク1が形成されて
います。
◆学校や公共施設に整備されたビオトープがトンボやチョウの生息拠点となっています。
◆神田川、日本橋川の水質が改善され、河川は多様な生きものの生息環境となっています。
◆日本橋川の上を通る首都高速道路はなくなり、生物多様性を回復する環境が整ってきて
います。
1
生態系ネットワーク:複数の生息地が連続し、または飛び石的につながり、それらの間を様々な生きも
のが行き来しながら生息している生態系の状態。
29
住宅街・外濠エリア
区割りの大きなまち並みを活かしてまち中
の緑が維持され続けるとともに、外堀や靖国
神社など規模の大きな緑地との間で、多くの
生きものが行き交う生態系ネットワークが
形成されています。
~具体的な取り組みイメージ~
○企業緑地や街路樹の整備などで、皇居から赤坂御用地へと続く生態系のネットワークが
形成されています。
○学校ビオトープを活用して、観察・研究など環境教育が積極的に行われています。
○国指定の史跡「江戸城外濠跡」は、地形、自然環境、景観を含めた形で保存され、水生
植物帯の創出などにより水辺の生物多様性が高まっています。
○埋没した外堀では水面が復元され、水辺環境の連続性と外堀の水辺景観が回復していま
す。
官公庁・大手企業エリア
各省庁の本庁舎や企業の公開空地を中心に
生物多様性に配慮した緑地が広がり、皇居や
日比谷公園、国会前庭、日枝神社などとの間
に生態系ネットワークが形成されていると
ともに、生物多様性に関する情報の発信・交
流が活発に行われています。
~具体的な取り組みイメージ~
○企業努力によって東京駅周辺には緑地が創出されるとともに、街路樹の質も高まり、皇
居から東京駅、銀座へと生態系のネットワークが形成されています。
○全ての官公庁の建物および敷地の緑化率1が民間施設よりも高い値になっています。
1
緑化率:ある場所の全面積のうち、緑化された場所の面積が占める割合のこと。
30
3.5
短期目標
長期目標の達成に向けて 2020 年までに達成すべき目標(短期目標)を以下のように定
めます。
長期目標
“生きもの”が広がる
“まち”が変わる
~地域の生物多様性を支える場所を守り育てていく~
短期目標1:残された豊かな生物多様性が維持されています。
短期目標2:生きものの生育・生息地となる場所が新たに創出され、生態系
ネットワークが形成され、生きものが身近な存在となっています。
短期目標3:劣化した生育・生息地が改善されています。
“ひと”がつながる
~人びとが生物多様性について共通の理解をもって
連携・協力し、その保全に取り組む~
短期目標4:千代田区で活動する多くの人が、生物多様性の恩恵を理解し、生物多
様性に配慮して生活し、行動しています。
短期目標5:区民、事業者、行政など、あらゆる主体が連携、協働できる仕組みが
できています。
31
第4章
4.1
行動計画
各主体の主な役割
(1)区民(千代田区在住・在勤・在学者)一人ひとりの役割
◆ 生物多様性からの恵みの認識
◆ 生物多様性の保全活動などへの参加
◆ 環境に配慮した生活スタイルへの移行
◆ 子どもたちへの自然の豊かさの伝承
【説明】区民には、日々の生活や活動をとおして、生物多様性からの恵みによって支えら
れていることを認識して、生物多様性の理解を深め、行動することが求められます。
具体的な行動としては、生物多様性の保全活動等への参加、消費者として、環境に配
慮した商品や旬の食材の選択1、生産コストや環境負荷が低い農法で生産された食材の
選択、輸送コストが低い近隣地域で生産された食材の選択などがあります。また、食
べ残しをしない、必要なものだけを買って大切に使う生活スタイルを積極的に取り入
れることや、地域住民として、あるいは保護者として、次の世代を担う子どもたちに
自然の豊かさを伝えるなどが挙げられます。
(2)環境保全団体の役割
◆ 地域の自然教育・体験学習の機会の提供
◆ 地域の生物情報の収集・発信
◆ 環境保全に取り組む人材の育成
【説明】環境保全団体には、各主体と相互に連携しながら、環境保全活動のリーダーとし
て、地域の自然教育や生物多様性に関する体験学習の機会を広く提供し、活動を普及・
推進することが求められます。また、地域の生物や環境に関する情報を積極的に収集・
発信するとともに、環境保全について主体的に行動できる人材を育成することが期待
されます。
1
旬の食材の選択:旬ではない時期に収穫する野菜を作るためには、肥料や温度管理など多くのエネルギ
ーが必要です。旬の食材を購入することで環境への負荷軽減につながります。
32
(3)事業者の役割
◆ 国内外における生物多様性の保全、環境負荷軽減に配慮した事業の推進
◆ 事業地における生物多様性に配慮した取組の推進
◆ 地域の生物多様性の向上や社内外における普及啓発・社員教育への貢献
【説明】事業者には、生物多様性の保全に配慮した原材料の確保や商品の調達・製造・販
売のほか、保有している土地や工場・事業所の敷地での生物多様性の保全やその情報
開示など、生物多様性に配慮した事業活動を推進することが求められます。また、行
政や区民などと相互に連携しながら、地域の生物多様性の向上や普及啓発に貢献する
ことが求められます。
(4)大学・教育機関等の役割
◆ 生物多様性に関する知見の教育・普及
◆ 環境保全活動の積極的な推進
◆ 大学施設等を活用した区民の生物多様性に関する教育啓発
【説明】大学・教育機関等には、生物多様性に関する知見を広く教育・普及するとともに、
環境保全活動を積極的に推進し、地域の生物多様性向上に貢献することが求められま
す。
(5)千代田区の役割
◆ 生物多様性の視点を盛り込んだ施策の推進
◆ 生きもののネットワークを念頭に置いたまちづくりの推進
◆ 生物多様性の向上に関する各主体の行動への支援
◆ 関連する他自治体や国の機関への働きかけ・協力
【説明】千代田区では、施策の推進にあたっては、生物多様性の視点を盛り込むとともに、
生きもののネットワークを念頭に置き、都市の生物多様性に配慮したまちづくりを推
進していきます。また、各主体が役割に応じて行動し、相互に連携して生物多様性の
向上を推進するための支援を積極的に行います。このほか、東京都など関連する他自
治体や国の機関への働きかけ・協力によって、区内外の生物多様性の向上を図ります。
33
(6)東京都の役割
◆ 都心部での生物多様性に配慮した施策・事業の推進
◆ 区、国と連携した生物多様性保全の取組推進、技術的支援・情報提供
◆ 生物多様性に配慮した行動のルールづくり
【説明】東京都では、2012 年に生物多様性地域戦略の位置づけを持つ「緑施策の新展開」
を策定しました。東京都には、この戦略に基づき、都心部での生物多様性に配慮した
緑の保全や創造、道路・河川等の緑化の推進、グリーンロード・ネットワーク1の充実
等が求められます。また、区の取組に対する、技術的支援や情報提供、また、広域自
治体として、特別区(東京都 23 区)同士の連絡調整、生物多様性に配慮した行動のル
ールづくりを行うことが求められます。このほか、千代田区の生物多様性保全上欠く
ことのできない優れた環境である日比谷公園を、自然体験、環境教育の場として提供
し、多くの人々が豊かな自然に触れ合う機会の創出が期待されます。
(7)国の役割
◆ 国の施設等における生物多様性向上に資する取組の推進
◆ 区、都と連携した生物多様性保全の取組推進
◆ 自然体験、環境教育の場の提供
◆ 優れた自然環境の維持・再生
【説明】国が管轄する区内の施設等において、多様性向上に資する取組を推進するととも
に、区や都と連携した取組が求められます。また、千代田区の生物多様性保全上欠く
ことのできない優れた環境である皇居東御苑、北の丸公園等を、自然体験、環境教育
の場として提供し、多くの人々が豊かな自然に触れ合う機会の創出が期待されます。
このほか、皇居及びその周辺の優れた自然環境を維持するとともに、適切な樹林の管
理、外来生物の駆除や生育環境の改善等によって自然環境の再生を進めることが期待
されます。
1
グリーンロード・ネットワーク:皇居や代々木公園などの緑の拠点を、街路樹や河川沿いの緑で結ぶと
いう東京都の緑化施策の一つです。東京都では、2007 年 6 月に「緑の東京 10 年プロジェクト」を策定
し、グリーンロード・ネットワークの形成や新たな緑地の創出などの取組をとおして、
「緑施策」の一層
の強化を図っています。
34
4.2
行動計画とその体系
長期目標
達成年:2050 年
短期目標
達成年:2020 年
行動計画
“まち”が変わる
1 生物多様性が保全されている場所を
守り続けます。
Ⅰ 残された豊
かな生物多様性
が維持されてい
ます。
“生きもの”が
広がる
皇居を中心とす
る豊かな生きも
ののネットワー
クが、周辺地域に
広がるとともに、
誰もが生物多様
性の重要性を理
解し、行動してい
る社会
2 生物多様性の保全活動を続けられる
仕組みをつくります。
Ⅱ 生きものの
生育・生息地と
なる場所が新た
に創出されて、
生態系ネットワークが
形成され、生き
ものが身近な存
在となっていま
す。
3 生きものの生息空間作りを推進しま
す。
4 既存の制度や事業に生物多様性の視
点を取り込みます。
5 身近な生きものとふれあえる場所を
増やします。
6 特定外来生物の対策を実施し、外来
生物やペットの放逐を禁止します。
Ⅲ 劣化した生
育・生息地が改
善されていま
す。
7 国や都、他自治体と連携し、河川・濠
の水質を改善します。
8 野生化した動物の生息数を抑制しま
す。
“人”がつながる
Ⅳ 千代田区で
活動する多くの
人が、生物多様
性の恩恵を理解
し、生活し、行
動しています。
9 生物多様性を意識して、主体的に行動
できる人を育てます。
Ⅴ 区民、事業
者、行政など、
あらゆる主体が
連携、協働でき
る仕組みができ
ています。
10 生物多様性に関する様々な情報・
技術を収集・発信・共有します。
は、特に重視して取り組む事項です。
35
4.3
具体的な行動
短期目標を達成するために、行動計画に沿って各主体に求められる具体的な行動は、
以下のとおりです。
“まち”が変わる
短期目標Ⅰ
残された豊かな生物多様性が維持されています。
行動計画1
生物多様性が保全されている場所を守り続けます。
千代田区の事業
①【緑地の指定】
生物多様性の中核地や、生きものの分布拡大に資する拠点として緑の基本計画などで
指定し、保全します。
→担当部署:景観・都市計画課
環境・温暖化対策課
道路公園課
②【大径木の保存】
生物多様性に寄与する大径木を保存するための制度を構築します。
→担当部署:環境・温暖化対策課
区民・事業者・寺社
・所有している樹林や大径木など、保全地域や保存樹の指定に協力します。
国・東京都
・皇居およびその周辺の優れた自然環境を維持するとともに、適切な樹林の管理、外来生
物の駆除や生育環境の改善等によって自然環境の再生を進めます。
各主体
・周辺地域での建築物、道路等の新改築など、豊かな生物多様性が残された場所に対して
影響を与える可能性のある行為を行う場合は、これを損なわないような配慮をします。
※
で囲まれた事業は、区が率先して取り組む重点プロジェクトです。
36
“まち”が変わる
短期目標Ⅰ
行動計画2
残された豊かな生物多様性が維持されています。
生物多様性の保全活動が続けられる仕組みを作ります。
千代田区の事業
③【アダプトシステムの推進】
アダプトシステムの推進によって、地域団体などによる道路や公園の維持管理を支援
します。
→担当部署:道路公園課
④【生物多様性表彰制度の創設】
個人・事業者等の生物多様性に関する優秀な取組みを表彰します。
→担当部署:環境・温暖化対策課
区民
・アダプトシステムに積極的に参加します。
・緑地や水辺等の保全活動、維持管理活動を積極的に行います。
・区内の生物多様性が保全されている場所を理解し、その保全活動に関わることで、保全
する気持ちを育みます。
事業者
・緑化地を適正に維持管理します。
・区内の生物多様性が保全されている場所を理解し、その保全活動に関わることで、社会
貢献に努めます。
コラム:千代田区のアダプトシステム
アダプトシステムとは、町会、ボランティア
地域商店会などを中心とした地域団体が区と
協定を結び道路、公園等の維持管理を行う千
代田区の制度です。この活動を通して地域の
方々相互の交流が深まり、地域の活性化・イ
メージアップが期待できます。
37
“まち”が変わる
短期目標Ⅱ
生きものの生育・生息地となる場所が新たに創出されて、生態系ネ
ットワークが形成され、生きものが身近な存在となっています。
行動計画3
生きものの生息空間作りを推進します。
千代田区の事業
⑤【生きものに配慮した公園づくりの推進】
区内にある 22 ヶ所の区立公園、25 ヶ所の児童遊園、11 ヶ所の子どもの広場といっ
た公園や、街路樹において、都市緑化植物ガイドラインの「都市緑地向上のための方策」
を活用し、生きものの生息に配慮した緑化を推進します。
→担当部署:道路公園課
⑥【ビオトープづくりの推進】
区内の公園、学校や庁舎等、公共施設において、水辺と草地や樹林が一体型となった
ビオトープ作りを推進します。
→担当部署:道路公園課
子ども施設課
施設経営課
国・東京都
・「緑施策の新展開~生物多様の保全に向けた基本戦略~,2012 年 3 月,東京都」に基
づき、都心部での生物多様性に配慮した緑の保全や創造、道路・河川等の緑化の推進、
グリーンロード・ネットワークの充実を図ります。
区民
・庭や屋上、ベランダ、住居の接道部などを活用し、地域ぐるみで生きものの生息の場を
創出します。例えば、バードバス(鳥が水浴びをしたり水を飲むための台)やプランタ
ーを利用した簡易ビオトープの設置などが挙げられます。
事業者・大学・教育機関等
・生物多様性に配慮した外構、屋上等の緑化や水辺の創出を積極的に行います。
・敷地内に生物多様性に配慮した生きものの生息・生育空間を作ります。
・植栽に際しては、積極的に在来種を導入します。
※
で囲まれた事業は、区が率先して取り組む重点プロジェクトです。
38
行動計画4
既存の制度・事業に生物多様性の視点を取り込みます。
千代田区の事業
⑦【地区計画制度の活用】
地区計画に生物多様性の視点を取り入れます。
→担当部署:景観・都市計画課
麹町地域まちづくり課
神田地域まちづくり課
⑧【基本計画の見直し】
区の基本計画の見直しの際に、積極的に生物多様性の視点を取り入れ、各施策への浸
透を図ります。
→担当部署:企画調整課
⑨【緑の基本計画・緑化推進要綱の改定】
緑の基本計画を改定し、生物多様性の視点による緑化の考え方を盛り込みます。また、
緑化推進要綱を改定し、在来樹種や生きものの生息に適した樹種の使用など、生物多
様性に配慮した緑化の基準を追加します。
→担当部署:景観・都市計画課
環境・温暖化対策課
道路公園課
⑩【緑化助成制度の拡充】
ヒートアイランド対策助成制度を活用し、屋上緑化、壁面緑化、敷地内緑化を行い、
一層の生物多様性に配慮した緑化を拡充します。
→担当部署:環境・温暖化対策課
事業者
・事業方針に生物多様性への取り組みを示します。
・緑化地等を対象とした評価手法(例:SEGES 社会・環境貢献緑地評価システム、JBIB
企業と生物多様性イニシアティブ “土地利用通信簿”など)を積極的に導入し、地域
の生物多様性に貢献します。
行動計画5
多様な生きものとふれあえる場所を増やします。
千代田区の事業
⑪【護岸緑化の推進】
緑地帯や公園等に生きもの観察や散策のための遊歩道を整備し、護岸緑化を推進しま
す。
→担当部署:道路公園課
⑫【生きもの案内板設置事業】
生息・生育する生きもの等、身近な自然を紹介する案内板を設置します。
→担当部署:道路公園課
環境・温暖化対策課
事業者
・緑化地等を一般に公開し、身近な自然を紹介する案内板の設置など、利用者に身近な自然
を紹介し、生物多様性の大切さを伝えます。
39
コラム:SEGES
社会・環境貢献緑地評価システム
SEGES(シージェス)は、財団法人都市緑化機構が
運営する「緑の認定」制度です。SEGES では、企業
などが積極的に保全・維持・活用に取り組む優良な緑
地を評価認定しています。環境省が定める「生物多様
性民間参画ガイドライン」や、国土交通省が定める
「低炭素都市づくりガイドライン」等のなかで、意義
のある制度として位置づけられています。
http://www.seges.jp/index.html
コラム:JBIB
企業と生物多様性イニシアティブ
JBIB(ジェイビブ)は、生物多様性の保全を目指して
積極的に行動する企業の集まりです。JBIB では、生物
多様性保全に取り組む企業のための土地利用指針として
“いきもの共生事業所推進ガイドライン”をまとめて
おり、その中の“土地利用通信簿”では、生物多様性へ
の貢献の程度や取り組みのレベルを 100 点満点で評価
することができます。
http://www.jbib.org/
コラム:生態系と生物多様性の経済学(TEEB)報告書
生態系と生物多様性の経済学(TEEB)報告書は、経済学的
な観点から生物多様性の喪失について世界レベルで研究
された成果を取りまとめたものです。
報告書では、生物多様性の価値評価の事例として、例えば
サンゴ礁は沿岸域や島嶼で生活する約 3,000 万の人々の
食料や収入を支えており、人間にもたらす便益は年間 300
億~1,720 億 US ドルに達するとされています。
報告書ではこうした経済的な価値評価を、生物多様性を主
流化させるためのツールとして活用していくことの重要性
について指摘しています。
40
区内の生物多様性に関する取り組み事例(企業)
東京建物(株)・大成建設(株)
東京建物(株)は、大成建設(株)とともに、
大手町一丁目にて「大手町の森」の創出を計画
しています。 広さは、約 3,600 ㎡ もあり、
「都市の再生による自然の再生」をコンセプト
として、都市の中に本物の森を作ることを目指
しています。
http://pdf.irpocket.com/C8804/kzOO/ruGN/B4aZ.pdf
(株)ニューオータニ
ホテルニューオータニは、エネルギー消費量も多
いことから、企業の社会的責任として、省エネル
ギー化、環境負荷軽減措置を重んじています。
約 5,300 ㎡の屋上緑化地のほか、かつて彦根藩
井伊家の中屋敷であった日本庭園約 40,000 ㎡
を維持管理し、一般に公開しています。同社が有
する弁慶濠の斜面林は、連続する樹林地として規
模が大きく、カブトムシやヤマガラなど、樹林性
の生きものが多く生息しています。
http://www.newotani.co.jp/group/company/eco/index.html?TKY
三井住友海上火災保険(株)
駿河台の自社ビルを、皇居と上野公園を結ぶ中継
拠点と位置付け、屋上緑化、壁面緑化などの緑化
を推進しています。また地域への貢献として、屋
上緑化地に農園を作り、地域住民へ無料で提供し
ているほか、2012 年 5 月には、地域への環境情
報発信などの交流の場として環境サロンを創設し
ました。
http://www.ms-ins.com/company/sustainability/environment/index.html
三菱地所(株)
CSR 活動の一環として、1999 年から環境情報
ひろば「丸の内さえずり館」を設立し、生物多様
性に関する情報を地域に発信しているほか、公開
空地(丸の内パークビルの中庭)の緑化や、今後
は内堀の水質浄化への取り組みを計画する
など、様々な方法で地域に貢献する取り組みを行
っています。
http://www.mec.co.jp/j/csr/environment/biodiversity/index.html
(五十音順)
41
“まち”が変わる
短期目標Ⅲ
劣化した生育・生息地が改善されています。
行動計画6
特定外来生物の対策を実施し、外来生物やペットの放逐を禁止します。
千代田区の事業
⑬【外来種対策の実施】
オオクチバス、ブルーギル等の特定外来生物や、そのほか在来生物の生息・生育を脅
かすミシシッピアカミミガメ、アメリカザリガニ等の外来生物、ペット動物の野外放
逐禁止の周知徹底などを進めます。また、外堀(弁慶濠、牛込濠、新見附濠)などで、
オオクチバス、ブルーギル等の特定外来生物の駆除を、関係機関と協力して進めます。
→担当部署:生活衛生課
道路公園課
参考)環境省では、平成 13 年度より内堀において、ブルーギル、オオクチバス等の駆
除を行っています。
国
・内堀において、オオクチバス、ブルーギル、ウシガエル等の特定外来生物の駆除を進め
ます。
区民
・ペット動物や園芸植物などを野外に放逐、廃棄しません。
行動計画7
他自治体と連携し、河川・濠の水質を改善します。
千代田区の事業
⑭【神田川・日本橋川・内堀・外堀の水質改善】
水質調査による監視を継続するとともに、環境省(内堀)、東京都(外堀および神田川・
日本橋川)、その他関係自治体等とも連携し、汚水流入抑制、水質浄化等、それらの河
川・濠の水質改善に向けた取り組み・働きかけを継続します。
→担当部署:安全生活課
国
・環境省は、平成 27 年以降をめどにアオコの大量発生を防止する目的で、新濠水浄化施
設の整備等の対策を進めます。
東京都
・下水道対策により、降雨時における内堀、外堀への下水道からの越流水の流入を防止し
ます。
・日本橋川、神田川の河床のヘドロを除去するなどして、日本橋川、神田川の水質を浄化
します。
区民・事業者
・排水の汚染を減らします(油汚れを直接流さない、洗剤の使用量を減らす)。
※
で囲まれた事業は、区が率先して取り組む重点プロジェクトです。
42
行動計画8
野生化した動物の生息数を抑制します。
千代田区の事業
⑮【去勢・不妊手術費助成】
公園等区内の緑地に野生化し増えたことで在来生物の生息・生育にも影響を及ぼす
ネコについて、去勢・不妊手術費助成を継続します。
→担当部署:地域保健課
区民
・野生化したネコやドバト、コイなどの、野外に生息する動物に餌を与えません。
・ゴミ出しのルールを守り、またカラス類やドバトの餌となる生ゴミを減らします。
43
コラム:ペットを野外に捨てないで!
ペットとして飼育していた動物を野外に放すことによって、野生動物や人の生活にさまざ
まな問題が起きています。
ネコ
ネコの糞害によって被害を受けている人もいます。千代
田区では、餌付けによって公園などに住みついたネコを
多くみかけます。そういった公園では水辺に住むカワセ
ミを襲ったという事例もあり、少なからず生物多様性に
影響を及ぼしていることがあります。
ミシシッピアカミミガメ
ミシシッピアカミミガメは、アメリカ大陸原産の外来生
物です。日本へは、1950 年代後半からペットとして輸
入され、1960 年代後半から捨てられたり逃げ出したり
したものが野生化しました。現在では、全国の河川や池
沼等に生息しています。在来の淡水性カメ類に比べて産
卵数が多く、水質汚濁の進んだ環境への耐性もあります。
雑食性で、魚類、両生類、甲殻類、水生昆虫、貝類、水
鳥の死骸、他のカメ類の卵を食べるほか、水草や陸上植
物も食べます。在来の淡水カメ類との生息場所や餌をめ
ぐる争いや、卵の捕食のほか、食物となるさまざまな水
生生物が影響を受けています。区内では、皇居、内堀、
外堀、日比谷公園の池などに見られます。
アメリカザリガニ
アメリカザリガニは、北アメリカ南部原産の外来生物で
す。日本へは、1927 年にウシガエルの餌として導入さ
れたのが最初です。食材やペット、理科教材などの利用
で分布を拡大したと考えられています。現在では、全国
の河川、池沼、水田、水路等に生息しています。雑食性
で、水草、水生昆虫などの小動物、小魚、動物の死骸な
どを食べることから、食物となるさまざまな水生生物が
影響を受けています。区内では、皇居、内堀、外堀、日
比谷公園の池などに見られます。
44
コラム:野外の生きものに餌をあげないで!
野外の生きものは、自然の中で自然のままの食べ物を食べて生きています。
野外の生きものにエサを与えると、栄養状態が良くなってその数が増え、他の野生動物と
競合したり、生態系のバランスに影響を及ぼすおそれがあります。また、糞害や人への危
害など、人とのトラブルも発生し、駆除されてしまう場合もあります。
コイ
コイは多くの川や池沼に生息し、また鑑賞用に飼育・放
流されるなど身近な魚として知られています。しかし、
以下のような特徴から、場所によっては他の在来生物の
生息に影響を及ぼすことがあります。
●比較的汚れた水の中でも生息することができる
●寿命が長く大きく育ち、繁殖力が旺盛
●雑食性で、水生昆虫や甲殻類、貝類、水草など水中の
様々な動植物を食べる
コイは水辺ならほとんど場所を問わず生息することがで
き、旺盛に他の動植物を食べて大きく育つため、特に都
市域の公園の池など面積の限られた小規模な水域では、
コイの数が少なくても水辺の生物多様性を大きく低下さ
せるおそれがあるので、注意が必要です。
ドバト
ドバトは野外では、草木の種子や芽などを食べています
が、人々が餌をあげると、その数が増え、人を恐れなく
なって身近なところで糞などの被害が増えます。ドバト
の羽毛や乾燥したフンを吸い込むと、喘息発作を伴う重
いアレルギー症状を起こす可能性があるほか、糞の中の
ダニで皮膚炎を起こすこともあります。
カラス(※)
本来カラスは、樹木で果実や種子、樹皮の中の昆虫など
を食べ、樹上に巣を作って繁殖しています。しかし、都
市では,公園などの樹木に巣を作って,昆虫や種子を食
べる他に,人間が出す生ごみや残飯,ペットフードなど
を利用しています。東京都のカラスの餌は、その2/3
程度が残飯等の生ゴミや人からの給餌であったという報
告があり、カラスが人の生活に強く依存していることが
分かります。カラスによる生活上の 3 大被害はごみ散乱、
攻撃、騒音です。
※カラスと言っているのは、ハシブトガラス、ハシボソガラスを指します。
45
区内の生物多様性に関する取り組み事例(環境省・東京都)
皇居外苑濠移入種対策事業(環境省)
皇居外苑濠(内堀)には、昭和 50 年代よりブルー
ギル、オオクチバスの生息が確認され、以降の調査
により、両種が皇居外苑の 12 の濠のうち 8 濠で確
認され、濠の生態系に大きな影響を及ぼす状況とな
りました。このため環境省では、平成 13 年度から
移入種対策事業を開始し、平成 18 年度からは電気
ショッカーボートによる駆除を導入にしました。こ
の結果、現在では、ブルーギルなどの外来魚の生息
を一定以下に抑制する効果が見られるようになって
きました。
※写真は環境省 HP より引用した。
皇居外苑濠管理方針・水質改善計画(環境省)
皇居外苑濠(内堀)は、我が国の象徴的な場の一部
であるとともに、江戸城の遺構、都心の貴重な水辺
空間といった様々な側面で重要な場となっています
が、水質の悪化によるアオコの大量発生等の問題が
生じています。このため、環境省は 濠の持つ様々な
重要な側面を維持改善していくための方針を作成す
るとともに、水質については、新しい濠水浄化施設
の整備等の対策を行い、都下水からの雨天時越流が
防止される平成 27 年以降をめどにアオコの大量発
生を防止することを目指しています。
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=12346
※図は環境省 HP より引用した。
千鳥ヶ淵再生プラン(環境省)
千鳥ヶ淵は、春のサクラやボート場など一般にも親
しまれている濠ですが、一方で、水質の悪化や今後
のサクラの管理など課題も生じています。このため、
環境省では、今後の外苑濠の水質改善を契機に、総
合的な環境改善のための構想(「千鳥ヶ淵再生プラン
(仮称)」)を策定中です。自然環境、景観・サクラ、
利用・環境教育、水質の各分野について議論を進め ※写真は環境省 HP より引用した。
ているところです。
http://www.env.go.jp/garden/kokyogaien/index.html
下水道対策(東京都)
濠の水質は、降雨時における合流式下水道からの越流水等の流入によって、負荷の蓄積
の影響を受けています。東京都では、合流式下水道の改善に取り組んでおり、2015 年
度までに内堀への雨天時の下水道からの越流を、50mm/時以上の豪雨時を除き防止する
措置を行う予定です。
46
“ひと”がつながる
短期目標Ⅳ
千代田区で活動する多くの人々が、生物多様性の恩恵を理解し、生
活し、行動しています。
行動計画9
生物多様性を意識して、主体的に行動できる人を育てる。
千代田区の事業
⑯【体験学習の充実】
幼稚園、子ども園、小学校、中学校・中等教育学校において、校外学習等を通して、自
然に触れ合う機会を充実し、生物多様性の意味や重要性を指導していきます。
→担当部署:指導課
⑰【生物多様性の普及・啓発の実施】
事業者、環境保全団体、大学等と連携し、観察会やシンポジウム等、生物多様性の普及
啓発に関する各種イベントを積極的に開催し、区民や事業者に向けた普及・啓発を実施
します。
→担当部署:環境・温暖化対策課
区民
・観察会や生物多様性に関するイベントに積極的に参加し、生物多様性の大切さを理解し
行動できるように努めます。
環境保全団体
・観察会や生物多様性に関するイベントを実施し、生物の魅力を広く伝えます。
・行政や教育機関と連携し、地域で主体的に環境保全活動を行える人材を育てます。
事業者
・公開空地等を活用し、観察会や生物多様性に関するイベントを実施します。
・生物多様性について、従業員への普及啓発・教育を行います。
大学・教育機関等の取り組み
・野外で身近な自然に触れ合う機会を増やし、生物多様性への理解と行動を促します。
・生物多様性に関わる教育プログラムを積極的に開発し、生物多様性の重要性について学
ぶ機会を増やします。
・地域の環境保全活動に積極的に参加し、生物多様性に関する助言や指導を行います。
コラム:千代田区さくらサポーター制度・公益信託さくら基金助成事業
千代田区では、千代田区にふさわしい、そして日本を代表するさくら景観を創造、持続す
るために「区の花さくら再生計画」を運営しています。区では、この計画に賛同し、さく
らの健康管理や維持管理に協力してくれる区民や来訪者を広く公募しています。また、さ
くらサポーターに登録しているNPO法人、サークル、団体、企業、個人には、さくらの
再生やさくら振興活動に必要な費用を助成する事業も行っています。
これらの活動を通して、地域に貢献することもできます。
47
区内の生物多様性に関する取り組み事例(環境保全団体など)
NPO 法人 東京セントラルパーク
北の丸公園、内堀等の江戸城周辺の公園や緑地を
「東京セントラルパーク」と位置付け、首都東京
にふさわしい中央公園としていくために設立され
た団体です。 「東京セントラルパークデイウォ
ーク」を毎年開催しているほか、12 のリーディ
ングプロジェクトを推進しています。
http://tokyocentralpark.org/
※写真は東京セントラルパーク HP より引用した。
CES推進協議会
CES(千代田エコシステム)は、千代田区に関わ
る全ての人びとが取り組める区独自の環境マネジ
メントシステムです。CES 推進協議会は、千代田
区に関わる区民、大学、企業、行政などが集まり
協働・協力により CES や区の環境改善を推進す
る組織です。具体的には、区内を散策しながら、
自然観察や歴史散歩などを行う「ウォーキングプ
ラス」や各種環境講座・イベントの開催などを通
して、環境改善の普及啓発に取り組んでいます。※写真は CES 推進協議会 HP より引用した。
http://www.chiyoda-ces.jp/
千代田の野鳥と自然の会
1998 年に発足し、皇居東御苑、北の丸公園、お
堀などをフィールドとして都市の自然を観察して
いる団体です。会では「千代田のツバメ繁殖調査
報告書 1999,2001」や、1998~2003 年の
野鳥観察記録をまとめた「千代田の鳥類-東京都心
の観察記録-,2011」を発行しています。
http://www.chiyoda-birds.net/
法政大学
法政大学では「グリーン・ユニバーシティ」を
キーワードに、環境に関する教育研究や環境改善
の取り組みを通して「持続可能な社会」の実現を
目指しています。学生からの提案で生まれ、その
計画や維持管理にも学生が関わる屋上緑化、キャ
ンパス内の環境配慮ポイントをめぐるエコツアー
の推進などが行われています。
※写真は法政大学環境報告書 2011-12 より引用した。
http://www.hosei.ac.jp/kankyoukenshou/
(五十音順)
48
“ひと”がつながる
短期目標Ⅴ
区民、事業者、行政など、あらゆる主体が連携、協働できる仕組み
ができています。
行動計画10
生物多様性に関する様々な情報・技術を収集・発信・共有します。
千代田区の事業
⑱【主体間の情報ネットワークの構築】
事業者やその他主体と連携・協力し、各主体横断の連絡会等によって、主体間のネッ
トワークを構築します。また、区内の誰もが、区内の生きものの生育・生息情報、事業
者の生物多様性に関する取り組み事例、観察会や環境イベントなどの情報を、発信、共
有、活用できるシステムを構築します。
→担当部署:環境・温暖化対策課
⑲【生きもの情報の収集・管理・活用】
大学・教育機関と連携し、区内の生物情報を収集・管理・蓄積することで、誰もが千
代田区の生物多様性に関する情報を取得できるような環境づくりを目指します。また、
収集・管理した生きもの情報をマップ化するなど、生物多様性に関する地域情報を区
のホームページに掲載し、共有することで、千代田区の生きものの分布や生物多様性
の現状を分かりやすく伝えていきます。
→担当部署:環境・温暖化対策課
⑳【区民参加型モニタリング調査】
区民参加型モニタリング調査を実施し、千代田区の生物多様性の現状と戦略の進捗状
況についてチェックしていきます。
→担当部署:環境・温暖化対策課
区民
・身近な生物情報を発信することで、千代田区の生きものの分布や生物多様性の現状を共
有します。
環境保全団体
・観察会のお知らせや、生物情報など、生物多様性に関する情報を収集し、地域に発信す
ることで、千代田区の生きものの分布や生物多様性の現状を共有します。
事業者
・生物多様性に関する取組情報を積極的に発信することで、生物多様性に関する取組が地
域に広がることを目指します。
大学・教育機関等の取り組み
・多様な生物情報を、区と連携して、収集・管理・蓄積することで、誰もが千代田区の生
物多様性に関する情報を取得できるような環境づくりを目指します。
※
で囲まれた事業は、区が率先して取り組む重点プロジェクトです。
49
第5章
5.1
推進体制と進行管理
推進体制
(1)各主体の連携による推進
本戦略の目標は、行政の力だけでは達成できません。千代田区とともに、千代田区
で生活・活動する区民、環境保全団体、事業者、大学・教育機関などのあらゆる主体
が一丸となって、4.3に示した具体的な行動に取り組むことで、千代田区生物多様
性地域戦略を推進していきます。
また、様々な団体との活動団体連絡会を開催し、活動状況の報告や情報共有をおこ
なっていきます。
(2)庁内の推進体制
①生物多様性に係わる庁内の部署が連携し、各種施策に取り組みます。
②各担当部署は、本戦略の短期目標達成に向け事業計画を作成し、実行していきます。
(3)関係機関との協力・推進体制
国や都、近隣区との連携を強化し、各種施策に取り組みます。
5.2
進行管理
生物多様性地域戦略の進行・管理は、以下のように行います。なお、目標達成の進捗
確認の方法や、モニタリング調査の具体的な手法については、今後具体的に検討してい
きます。
■計画(plan)、実行(do)、評価(check)、改善(act)のプロセスを順に実施します。
■地域戦略の内容は、○年ごとを基本として見直しを行います。
■全庁的に取り組みを推進しながら、外部委員で構成する会議体と、庁内の関連部署で
構成する会議体の2つの会議体を中心として進行管理を行います。
■定期的に自然環境のモニタリング調査を実施し、区内の生物多様性の状況を把握して
いきます。
Do
Plan
計画
・千代田区生物多様性
行動
・施策の実行
・各主体における行動計
地域戦略
・予算の確保・実施体制
改善
画の実施
評価
・施策の見直し
・進捗の確認と公表
・地域戦略の見直し
・進捗の評価
Act
Check
50
計画(plan)
目標を設定して、それを実現するた
めのプロセスを設計(改訂)する
実行(do)
計画を実施し、そのパフォーマンス
を測定する
評価(check)
測定結果を評価し、結果を目標と比
較するなど分析を行う
見直し(act)
プロセスの継続的改善・向上に必要
な措置を実施する
Fly UP