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医療分野における電子タ - 「科学技術振興調整費」等 データベース

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医療分野における電子タ - 「科学技術振興調整費」等 データベース
科学技術連携施策群の効果的・効率的な推進
補完的課題
事後評価
「医療分野における電子タグ利活用実証実験」
責任機関名:東京医科大学
研究代表者名:秋山
昌範
研究期間:平成 17 年度~平成 19 年度
目次
Ⅰ.研究計画の概要
1.研究の目的
2.研究の重要性・緊急性
3.研究計画
4.ミッションステートメント
5.研究全体像
6.研究体制
7.研究運営委員会について
Ⅱ.経費
1.所要経費
2.使用区分
Ⅲ.研究成果
1.研究成果の概要
(1)研究目標と目標に対する結果
(2)ミッションステートメントに対する達成度
(3)当初計画どおりに進捗しなかった理由
(4)研究目標の妥当性について
(5)研究計画・実施体制について
(6)研究成果の発表状況
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(1)サブテーマ1
電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への
影響調査
(2)サブテーマ2
血液のトレーサビリティとプライバシー保護に関する研究
(3)サブテーマ3
医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理に
関する研究
(4)サブテーマ4
医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄など
ライフサイクル管理に関する研究
Ⅳ.実施期間終了後における取組みの継続性・発展性
Ⅴ.自己評価
1.目標達成度
2.情報発信
3.研究計画・実施体制
4.実施期間終了後における取り組みの継続性・発展性
Ⅰ.研究計画の概要
■プログラム名: 科学技術連携施策群の効果的・効率的な推進
■テーマ分類: 3 ユビキタスネットワーク-電子タグ技術等の展開-
■課題分類名: 3 医療分野における電子タグ利活用のための実証実験
■課題名 :医療分野における電子タグ利活用実証実験
■責任機関名: 東京医科大学
■研究代表者名(役職): 秋山 昌範(客員教授)
■研究実施期間: 平成 17 年 12 月~平成 20 年 3 月
■研究総経費: 総額 281.3 百万円 (間接経費込み)
1.研究の目的
電子タグに代表される近年のユビキタスネット技術の進歩、浸透により、日常生活のあらゆる場面に電
子タグが存在し、電子タグからの情報により利用者に利便性と安全・安心を与えることができるようになる
時代は近い。しかしながら、国際・流通系や公共施設での電子タグでの利活用については、実証実験が
重ねられ実用化の段階に入っているが、特に、医療機関内における医薬品利用については全く進んで
いないのが現状である。
医薬品利用については、以下のような課題ゆえに利用が進んでいないと考えられる。
○電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などの医薬品への影響に関する調査が充分に行なわれておら
ず、統一的な管理基準を制定できるまでの情報蓄積が存在しない
○医療機関においては、医療材料に貼付された電子タグに対し、放射線照射や、冷凍・解凍による急
激な温度変化が与えられるが、これらについても統一的な管理基準を制定できるまでの情報蓄積が
存在しない
○医療現場における”患者取り違い”、”適量誤認”、”飲み合わせ”などの医療ミスの防止を目的とした
ユビキタスネット技術の利活用として、患者個人や医療材料の特定や患者情報の伝達があげられる
が、これら高度の個人情報の伝達と情報に対する高度なセキュリティ、プライバシー管理との両立が
困難
○患者の様態、状態、投薬履歴にリアルタイムに対応する情報管理技術が必要
○医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄など、医療機関に納品された後、患者に投与ま
たは廃棄されるまでの一貫したライフサイクル管理が必要
上記課題を解決することにより、医薬品利用への電子タグの適用は一気に進展するものと思われる。
従って、上記課題を総合的、段階的に解決するために実証的研究開発を実施し、3 年程度の長期間の
影響を調査、情報を蓄積することにより、この分野のニーズを顕在化させ、他の分野にも応用可能な知見
を蓄積し、電子タグシステムの更なる普及を目的とする。
2.研究の重要性・緊急性
医療過誤に対する国民の意識は高く、安全・安心な医療への希求は大きい。しかしながら、前項で記
載した課題の解決なしにユビキタスネット技術を医療現場に適用することは新たな医療過誤を誘発する
可能性を含んでいる。これらの課題を、個々の医療機関や組織で解決することは困難な上に、社会的に
統一した管理基準や知見が存在しないと、国民にとっては安心して複数の医療機関にかかることができ
ない状況をも生み出しかねず、国家的・社会的に重要な研究である。また、現在、多くの医療機関で医療
1
過誤が相次いで発生しているのが現状であり、緊急性も非常に高い。
本研究は医療分野、特に医療安全に関わる研究であるため、厚生労働省安全対策課の指導のもとに
研究を進める。また、適用する技術が電子タグ技術などユビキタスネット技術に関連し、本研究で得られ
た知見を他の分野へ応用することも目的としているため、同時に総務省の指導も仰ぐ。研究は、東京医科
大学が中心となり、他の医科大学、病院や電子タグ関連企業が共同研究機関として参画する。
3.研究計画
研究は、以下のサブテーマに関する研究を総合的、段階的に実施し、電子タグの医薬品利用への適
用を阻害している各課題を解決し、必要があれば更なる課題を明確にする手順で研究を進める。
(1)電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響調査
電子タグやそのリーダ装置が発する電磁波や熱などが各種医薬品に与える影響につき、公的機関の
管理基準制定の参考となるべき情報蓄積を行なうことを目標として調査研究を進める。製薬メーカや独立
行政法人 情報通信研究機構などの協力を得ながら、複数の医薬品に対する電磁波の照射による熱変
化の状況等を調査し、情報蓄積を行なうとともに、適宜、調査結果を公開する。
(2)血液のトレーサビリティとプライバシー保護に関する研究
医療現場において、血液は原産者情報の流出に特に配慮が必要な上に、マイナス 40 度以下での保
管と使用前の放射線照射が義務付けられている、といったもっとも厳しい条件が要求されるため、本サブ
テーマにおいては特に血液を対象として医療現場における様々な実際の環境下におき、その過程にお
ける電子タグに関連した情報を収集する。また、血液センターと病院間での情報共有ネットワークの構築
と供血者のプライバシーに配慮した DB 管理と電子タグへの適切な情報の書込み、書換えを行い、実際
の医療現場において電子タグが効果的に利用できるかを確認する。
(3)医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理に関する研究
国内外における医療ミスの防止を目的とした電子タグまたはセンサネットの利活用用途を調査・研究す
るとともに、患者のバイタル情報を収集するセンサノードとセンサノードから伝送される情報を収集、解析
する情報システムを試作し、実証実験を実施する。センサノードからの情報伝送においては、セキュリテ
ィ、プライバシー管理に配慮した技術開発を行なう。
(4)医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などライフサイクル管理
電子タグを用いた医薬品の納品から調製・混注、払い出し、廃棄にわたるライフサイクル管理システム
を試作、実証実験を実施し、調剤業務の効率性、正確性を検証するとともに、実用化に向けた更なる課
題を抽出する。
4.ミッションステートメント
電子タグの医薬品利用への適用を阻害している上述の各課題を解決し、必要があれば更なる課題を
明確にする。具体的には以下のとおりである。
○電子タグやそのリーダ装置が発する電磁波や熱などが各種医薬品に与える影響につき、公的機関
の管理基準制定の参考となるべき情報蓄積を行なう
○電子タグへの放射線照射、冷凍・解凍による急激な温度変化につき管理基準を制定できるまでの
情報蓄積を行なう
2
○医療の安全・安心を実現するためのユビキタスネット技術利用の有効性について、実証実験を通じ
て定量的、定性的評価を実施するとともに、その際に懸念されるセキュリティやプライバシー管理等
の患者情報の管理方式についての技術開発を実施する
○血液センターから医療機関に渡るトレーサビリティシステムを構築、実証実験することにより患者の
様態、状態、投薬履歴にリアルタイムに対応する情報管理を実現
○電子タグを用いた医薬品の納品から調製・混注、払い出し、廃棄にわたるライフサイクル管理システ
ムによる実証実験を通し、調剤業務の効率性、正確性などの定量的、定性的評価と実用化に向け
た課題を抽出する
また、これらの実証実験を通じ、医薬品分野のニーズを顕在化させ、電子タグシステムの更なる普及の
ための他の分野にも応用可能な知見を蓄積する。
3
5.研究全体像
4
6.研究体制
5
実施体制一覧
研 究 項 目
担当機関等
研究担当者
1.電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などに
よる医薬品への影響調査に関する研究
(1) 電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波な
どによる医薬品への影響調査に関する
東京医科歯科大学歯学部附属
◎土屋 文人
病院 薬剤部
研究統括
(2) 電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波な
NTT 東日本関東病院 薬剤部
折井 孝男
㈱日立製作所 情報・通信グループ
真下 祐一
どによる医薬品への影響関連情報収集
(3) 電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波な
どによる医薬品への影響調査
セキュリティ・トレーサビリティ事業部
2.血液トレーサビリティとプライバシー保護に関
する研究
(1) 血液トレーサビリティとプライバシー保護
東京医科大学 医療情報学講座
◎秋山 昌範
㈱CSK システムズ 流通・サービス
島崎 肇
に関する研究統括
(2) 血液トレーサビリティとプライバシー保護
第二グループ 第二開発部
に関する研究の実験実施
3.医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と
情報管理に関する研究
(1) 医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用
と情報管理関連情報収集ならびに実証
東京医科歯科大学
◎田中 博
情報医科学センター
実験
(2) 医療ミス防止を目的とした電子タグ利活
用と情報管理システムに関する実証実験
㈱日立製作所 情報・通信グループ
真下 祐一
セキュリティ・トレーサビリティ事業部
システム構築と実証実験支援
4.医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、
廃棄などライフサイクル管理に関する研究
(1) 医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧 東京医科歯科大学歯学部附属
◎土屋 文人
混合、廃棄などライフサイクル管理に関す 病院 薬剤部
る研究統括
(2) 医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧 NTT 東日本関東病院 薬剤部
折井 孝男
混合、廃棄などライフサイクル管理関連情
報収集ならびに実証実験
(3) 医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧 ㈱日立製作所 情報・通信グループ
混合、廃棄などライフサイクル管理に関す セキュリティ・トレーサビリティ事業部
る実証実験システム構築
◎ 代表者
6
真下 祐一
7.研究運営委員会について
研究運営委員会委員一覧
氏名
所属機関
役職
◎秋山 昌範
東京医科大学医療情報学講座
客員教授
田中 博
東京医科歯科大学情報医科学センター
センター長
土屋 文人
東京医科歯科大学歯学部附属病院薬剤部
部長
落合 慈之
東日本電信電話㈱関東病院
院長
折井 孝男
東日本電信電話㈱関東病院薬剤部
部長
畝田 透
保健医療福祉情報システム工業会
運営幹事
島崎 肇
㈱CSK システムズ 流通・サービス第 2 グループ
部長
第 2 開発部
鈴木 明彦
盛岡赤十字病院検査部
部長
吉田 郁彦
岩手県赤十字血液センター
センター長
名和 肇
東京医科大学医療情報学講座
教授
渡辺 聡一
情報通信研究機構電磁波計測研究センター
研究マネージャー
EMC グループ
田原 康生
総務省情報通信政策局技術政策課研究推進室
室長
真下 祐一
㈱日立製作所 情報・通信グループ
部長
セキュリティ・トレーサビリティ事業部
向井 保
財団法人医療情報システム開発センター
理事長
稲葉 達也
AutoID ラボジャパン
リサーチャー
◎研究運営委員長
7
運営委員会等の開催実績及び議題
(a) 運営委員会
第一回(平成 18 年 01 月 16 日)
於:東京医科大学
議題:医療現場における電子タグの実証実験報告
研究体制:4 つのテーマの概要説明
1) 電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医療品への影響調査
2) 血液のトレーサビリティとプライバシー保護に関する研究
3) 医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理に関する研究
4) 医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などライフサイクルに関する研究
第二回(平成 18 年 03 月 23 日)
於:東京医科大学
議題:医療現場における電子タグの実証実験報告
17 年度の実験成果報告及び 18 年度の研究計画
第三回(平成 18 年 07 月 28 日)
於:CSK システムズ オークオフィス
議題:平成 18 年度業務計画報告及び進捗状況報告
18 年度研究成果進捗報告
第四回(平成 19 年 03 月 12 日)
於:東京医科大学
議題:平成 18 年度業務計画報告及び進捗状況報告
18 年度の研究成果及び 19 年度の研究計画
第五回(平成 19 年 09 月 12 日)
於:住友不動産新宿オークタワー貸会議室
議題:平成 19 年度業務計画報告及び進捗状況報告
19 年度研究成果進捗報告及び今年度の計画
第六回(平成 20 年 02 月 18 日)
於:CSK システムズ オークオフィス
議題:平成 19 年度業務計画報告及び進捗状況報告
最終業務報告及び研究成果報告
(b) 研究運営委員会
該当なし
(c) 研究連絡会
該当なし
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Ⅱ.経費
1.所要経費
(直接経費のみ)
(単位:百万円)
研 究 項 目
1.電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波など
による医薬品への影響調査に関する研究
(1) 電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波
などによる医薬品への影響調査に関
する研究統括
(2) 電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波な
どによる医薬品への影響関連情報収集
(3) 電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波な
どによる医薬品への影響調査
2.血液のトレーサビリティとプライバシー保
護に関する研究
(1) 血液トレーサビリティとプライバシー
保護に関する研究統括
(2) 血液トレーサビリティとプライバシー
保護に関する研究の実験実施
3.医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と
情報管理に関する研究
(1) 医療ミス防止を目的とした電子タグ利
活用と情報管理関連情報収集ならびに
実証実験
(2) 医療ミス防止を目的とした電子タグ利
活用と情報管理システムに関する実証
実験システム構築と実証実験支援
4.医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧
混合、廃棄などライフサイクル管理に関
する研究
(1) 医薬品の分割利用・保管、再利用、
新旧混合、廃棄などライフサイクル管理
に関する研究統括
(2) 医薬品の分割利用・保管、再利用、
新旧混合、廃棄などライフサイクル管
理関連情報収集ならびに実証実験
(3) 医薬品の分割利用・保管、再利用、
新旧混合、廃棄などライフサイクル管
理に関する実証実験システム構築
所 要 経 費
研 究
担当機関等
担当者
所要経費
H17
H18
H19
年度
年度
年度
合計
東京医科歯科大学
土屋文人
0.0
0.4
0.7
1.1
NTT 東日本 関東病院
折井孝男
1.1
0.7
0.0
1.8
(株)日立製作所
真下祐一
0.9
2.8
4.4
8.1
東京医科大学
秋山昌範
0.8
2.9
1.3
5.0
(株)CSK システムズ
島崎肇
14.0
33.5
35.3
82.8
東京医科歯科大学
田中博
2.5
11.3
14.4
28.2
(株)日立製作所
真下祐一
7.8
13.9
13.4
35.1
東京医科歯科大学
土屋文人
0.5
3.0
1.3
4.8
NTT 東日本 関東病院
折井孝男
1.9
5.0
5.1
12.0
(株)日立製作所
真下祐一
9.4
16.3
11.8
37.5
38.9
89.8
87.7
216.4
(合 計)
2.使用区分
人件費
業務実施費
間接経費
計
サブテーマ1
8.0
3.0
3.3
14.3
サブテーマ2
44.2
43.6
26.4
114.2
9
サブテーマ3
16.2
47.1
19.0
82.3
(単位:百万円)
サブテーマ4
計
19.4
87.8
34.9
128.6
16.2
64.9
70.5
281.3
Ⅲ.研究成果
1.研究成果の概要
(1)研究目標と目標に対する結果
①研究開始後 1 年目の目標:
サブテーマ 1:電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響調査に関する研究
目標:・国内外での既実施の実験の有無を調査するとともに、海外における規制、管理基準の調査翌
年度以降の調査計画策定
結果:・電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などの医薬品への影響関連情報の調査
国内外の規制状況の調査、ならびに電子タグの医薬品への適用事例を調査し、さらにその事
例における電子タグやリーダ装置の医薬品への影響に関する対応について調査した。
また、次年度に実施する、電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響調
査の方針をまとめた。
サブテーマ2:血液のトレーサビリティとプライバシー保護に関する研究
目標:・電子タグが輸血業務の個別の各環境に耐える事を確認するため、機器ごとに耐環境試験を行
ない、情報を蓄積・分析
結果:・現場の血液製造・流通業務の調査・分析
岩手県赤十字血液センターの協力のもとに調査、ヒアリングを行い、業務分析結果として業務フ
ローを作成した。耐環境試験で確認すべき環境を抽出した。
・電子タグの単体テスト(耐環境試験)
電子タグがさらされる環境を抽出し、実際の機材を使って電子タグの単体試験を行った。逆に
砕けてしまうので、柔軟な樹脂の方が向くことが判明した。
・血液管理システムの設置
血液管理システムとして、弊社内でプロトタイプシステムとして構築していたものに、本実証実験
の目的のために機能をカスタマイズしたプロトタイプシステムを導入した。主に以下の3点につい
てカスタマイズを施し、岩手県赤十字血液センターに設置した。
①電子タグの利用
RFIDリーダライタを利用できるようにカスタマイズした。
②トレーサビリティとプライバシーの両立
採血番号から製剤番号への書換を製剤時に行うこととした。
③実験の目的を満たすようインフラの整備を行った。
サブテーマ3:医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理に関する研究
目標:・国内外の事例や電子タグ技術、センサネット技術の動向調査
・バイタル情報収集のためのセンサノードの設計
結果:・センサネット技術の医療への適用に関する国内外事例や技術動向の調査
センサネット技術の医療への適用に関する国内外事例や技術動向の調査を実施し、ストレッ
チャー移動中の患者のバイタルデータをモニターするというような医療の実施空間におけるセ
ンサネット技術活用の実験・研究の重要性を確認した。
・センサーネットシステムの仕様検討および設計
本研究で試作するシステムの実現可能性の確認を行い、実現性確認の過程で明らかになった
センサの性能面での課題や表示ユニットの要求仕様をまとめた。さらに次年度の実験に向けて
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より精度の高い実験計画を策定し、実験システム試作のための設計を完了した。
サブテーマ4:医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などライフサイクル管理に関する研究
目標:・国内外の事例や電子タグ技術動向の調査
・電子タグを用いた医薬品の納品から調製・混注、払い出し、廃棄にわたるライフサイクル管理シ
ステムの設計
結果:・国内外における電子タグの医療分野、医薬品管理への適用状況調査
国内外における電子タグの医療分野への適用、医薬品管理への適用状況について調査を実
施し、海外においては医療機関内で医薬品管理に電子タグを適用している事例は存在せず、
国内においても大半が実証実験レベルであることを確認した。
・病院内の業務調査ならびに実験システムの設計
NTT東日本関東病院における業務調査を実施し、病院内の電子タグ適用対象業務を抽出し
た。また、電子タグを有効利用するために、医薬品の利用方法等を保持したナレッジベースの
整備の必要性を確認した。その結果を踏まえ、実証実験システムの基本設計を実施した。
②研究開始後2年目の目標:
サブテーマ1:電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響調査に関する研究
目標:・国内外での既実施の実験の有無を調査するとともに、海外における規制、管理基準の調査を
実施(前年度の継続)
・複数の医薬品に対する電磁波の照射による熱変化の状況等を調査し、情報蓄積を実施
結果:・電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響調査
電子タグの医療機関における導入状況や、電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医
薬品への影響に関する規制状況などを調査した。また電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波な
どによる医薬品への影響調査の一環として、公開されている医療用医薬品情報(医薬品の添付
文書の抜粋)をもとに、保管温度、剤形等で分類整理した。
これらの調査結果を元に、調査対象とする医薬品として、熱に関する保管規定の厳しいものや
懸濁液などの条件を選定し、インスリン製剤をはじめとする調査対象候補を選定し、独立行政
法人 情報通信研究機構協力のもと電気定数測定の調査を実施した。
サブテーマ2:血液のトレーサビリティとプライバシー保護に関する研究
目標:・電子タグを用いた輸血業務の仕組みを実運用として開始する。正常稼動することを確認する運
用試験を実施・完了し、データの蓄積及び分析を開始
結果:・病院側の輸血管理システムを設置
①現場の血液製造・流通業務の調査・分析
盛岡赤十字病院に於いて業務ヒアリングと業務分析を行い、現行業務に実証実験業務を組
み入れた業務フローを作成した。
②岩手県赤十字血液センターのご協力のもとに調査、ヒアリングを行ない、業務分析結果と
して業務フローを作成した。耐環境試験で確認すべき環境を抽出した。この業務フローより
弊社のパッケージソフトに実証実験のための機能を組み込んだ。また、当該実証実験の
テーマであるトレーサビリティの確保とプライバシーの保護を両立させるための仕組みが機
能することを、H17年度に血液センターに設置した血液管理システムと盛岡赤十字病院に設
置した輸血管理システムを実際に接続し、情報のやり取りとセキュリティ確保の仕組みを実
現した。
11
・血液管理システム及び輸血管理システムの接続に向けての評価・分析
実証実験業務が実際に運用可能であることの確認は、実際の業務をモデルに作成したシナリオ
による運用試験を実際に現場の担当者に行っていただいた。
また、血液センターの採血業務から、病院での輸血業務(ベッドサイド)まで一貫した実証実験業
務の流れを実際に運用し、上流から下流まで一貫した業務を行っていただいた。試験結果は業
務シナリオ毎のデータ収集と実際に運用していただいた方の意見を伺い、実験結果をまとめた。
サブテーマ3:医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理に関する研究
目標:・国内外の事例や電子タグ技術、センサネット技術の動向調査(前年度の継続)
・バイタル情報収集のためのセンサノードの試作、机上評価
・セキュリティ、プライバシー管理に配慮した実証実験システムの設計
結果:・センサネットや電子タグの医療への適用事例調査
センサネットや電子タグの医療への適用に関する国内外事例を調査し、欧米において IPS
(Indoor Positioning System: 屋内位置管理システム)の事例が増えていることから、本研究の
先進性と研究方向の妥当性を確認した。
・センサネットシステムの構築とスマートストレッチャーの有用性の評価
エアマット型の呼吸モニタをセンサとするセンサネットシステムであるスマートストレッチャーを本
研究の対象として位置づけ、病院内におけるスマートストレッチャーを用いた手術プロセスの業
務フローを検討することにより、スマートストレッチャーの有効性の事前評価を実施した。また必
要とされる機能(呼吸心拍数計測・無呼吸検知、患者有無検知、患者ID識別、スマートストレッ
チャー位置検知、状態監視・緊急警報)を開発し、センサネットシステムを構築し、スマートスト
レッチャーの有効性の評価を実施した。また、センサネットシステムを構成する無線技術として
は、無線LAN技術とZigBee技術の双方で実装を行い、両技術共に有効であることを確認した。
サブテーマ4:医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などライフサイクル管理に関する研究
目標:・国内外の事例や電子タグ技術動向の調査(前年度の継続)
・電子タグを用いた医薬品の納品から調製・混注、払い出し、廃棄にわたるライフサイクル管理シ
ステムのプロトタイプ開発と実験室内での実証実験
結果:・電子タグの医療機関における導入状況の調査
電子タグの医療機関における導入状況について調査し、医薬品の調剤業務における電子タグ
利用について、本研究の重要性を確認した。
・医薬品情報の調査およびコードの検討
現状の医薬品情報の調査を実施し、電子タグの医薬品管理への適用の際に使用可能か否か
を検討した。さらに、内服薬の一部を対象としてコード等を検討し、データ入力を実施した。
・電子タグを用いたライフサイクル管理システムの設計・開発と有効性の実証
薬剤部内での調剤業務における電子タグを用いたライフサイクル管理システムの設計・開発を
実施した。
抗がん剤と高カロリー輸液の調剤業務において、開発したライフサイクル管理システムによる実
証実験環境を構築し、実際の医薬品に電子タグを貼付した実証実験を実施した。実証実験に
より、調剤業務における電子タグの有効性を実証した。
12
③研究開始後 3 年目の目標:
サブテーマ1:電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響調査に関する研究
目標:・前年度とは異なる複数の医薬品に対する電磁波の照射による熱変化の状況等を調査し、情報
蓄積を実施
結果:・本サブテーマの研究目標に対して一定の成果をあげることができた。具体的には、調査対象と
する医薬品と、電子タグ・リーダの利用シーンを想定した電磁波照射実験モデルを検討・決定し、
シミュレーションによる調査、及び実際の電子タグ・リーダ装置を使用した調査を実施した。その
結果、対象医薬品について、本実験の電磁波照射モデルで電磁波を照射しても保存規定温
度を逸脱するような温度変化は起こらないことが検証できたことである。
また、電子タグの医療機関における導入状況や、電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などに
よる医薬品への影響に関する規制状況などについて、文献、インターネット、学会発表や国際
会議を中心に 3 ヶ年にわたり調査した結果、医療機関への導入においては実証実験にとどまっ
ているものが大半であり、電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響につ
いての調査事例や規制に関しては、国内外で 3 件の研究事例が確認できた。
サブテーマ2:血液のトレーサビリティとプライバシー保護に関する研究
目標:・電子タグを用いた輸血業務の仕組みが現場運用として長期的に耐えうることを確認し、蓄積し
た情報を分析し、結果を知見として取りまとめることで実証実験を完了
結果:・中長期的な運用の確認
H17 年度に導入した血液センターの血液管理システムと H18 年度に導入した病院の輸血管理
システムを使い、電子タグを用いた血液製剤業務・輸血業務の仕組みが、リアルタイムで情報を
共有しながらトレーサビリティとプライバシー保護を両立できることを実際の業務で確認した。こ
の仕組みが現場の運用に耐えうることを中長期的に渡って確認し、情報を蓄積することにより短
期間の運用テストでは発見できない問題の発見やシステムに慣れて来たときに発生する人的ミ
スの防止策を検討し、実運用時の対策を検討した。
・改善案などの蓄積された情報の取りまとめ
耐環境試験で得られた電子タグに関する技術的な情報や、実証実験で得られた運用に関する
改善案などの蓄積された情報をとりまとめ、他の分野にも応用可能な知見を蓄積した。
サブテーマ3:医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理に関する研究
目標:・セキュリティ、プライバシー管理に配慮した実証実験システムの開発と実証実験
・考察、評価とセキュリティ、プライバシー管理に配慮するための電子タグや情報システムに対す
る要件の整理
結果:・医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理に関する研究において、平成 19 年度は、
「病室内の患者ベッドサイドの IT 化による医療ミス防止及び業務サポートの実現」というテーマ
のもと、安全・安心な医療の実現と効率的な医療の提供を目指し、研究を推進してきた。
医療への適用に関する国内外事例や技術動向の調査を実施し、臨床現場での電子タグ技術
や無線ネットワーク技術の統合的活用による医療事故防止の先行研究が、十分なされていな
いことを把握した。
そのことにより、医療現場で利用できる医療ミス防止システムの必要性を再認識し、ユビキタスネッ
ト技術による医療情報空間を実現する要素技術の確立の一環として、対象に病室を含めた空間に
拡大し、病室にいる患者や管理対象物(医薬品、医療用機器、医療用消耗品)の状態を、できるだ
け医療従事者の手をかけることなく把握するインテリジェントカートシステムの開発に至った。
13
本研究で開発したインテリジェントカートシステムを用いて、医療業務に沿った実証実験を行い、
本システムの実現可能性の確認を実施した。また、システムの実現性の確認の過程で明らかに
なった、電子タグの性能面での課題や、セキュリティやプライバシー管理等の問題についての
管理方式についてもあわせて検討し、求められる要件を明確化した。
よって、平成 19 年度の目標に掲げたシステム開発及び実証実験実施において、より精度の高
い実験計画を策定し、実験システム開発及び実現可能性の検証を実施し、十分な成果をあげ
ることができた。
サブテーマ4:医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などライフサイクル管理に関する研究
目標:・電子タグを用いた医薬品の納品から調製・混注、払い出し、廃棄にわたるライフサイクル管理シ
ステムの高度化と実証実験
・考察、評価
結果:・電子タグの医薬品管理への適用に関する国内外の事例調査を継続的に実施し、常に研究の先進
性を確認することにより、研究参加者の意識の向上及び実験の成果に結びつけることができた。
電子タグを用いた医薬品の納品から調製、払出し、施用、廃棄にわたるライフサイクル管理システ
ムの実証実験において、平成 18 年度に実施した NTT 東日本関東病薬剤部内での調製業務に加
え、対象業務を病棟業務まで拡大し、実際に施用した医薬品の調剤から廃棄まで一貫したトレー
ス情報を取得する事に成功した。今回取得した情報をより効果的に利用するためにも粒度の異な
る情報を簡単に扱える、医薬品使用に関するナレッジベースが必須となることも再認識した。
また、今回ライフサイクル管理システムプロトタイプの開発・導入を実施したことで、実際の業務
内における操作性、効果的なユーザーインターフェースの検証を行うことができ、本格導入シス
テムの開発にむけての貴重なノウハウが蓄積できた。
(2)ミッションステートメントに対する達成度
電子タグやそのリーダ装置が発する電磁波や熱などが各種医薬品に与える影響については、シミュ
レーションと実際の照射実験の結果を基に評価し、保存規定温度を逸脱するような温度変化が起こらな
いことを検証できた。
輸血業務をモデルに、血液製剤がさらされる放射線照射、冷凍・解凍による急激な温度変化について
管理基準の参考となるデータを採取した。
医療の安全・安心を実現するためのユビキタスネット技術利用の有効性については、電子タグや各種セ
ンサなどの利活用モデルを検討し、医療従事者に負担が掛かることなく、また患者のプライバシー保護を
考慮したシステムを構築し、医療ミス防止の一助となることを確認した。
血液センターから病院のベッドサイドまでを電子タグとネットワークを用いた一気通貫で管理するトレー
サビリティシステムを構築し、実際の医療現場で運用することにより患者の様態、状態、投薬履歴にリアル
タイムに対応し、また、供血者のプライバシー保護を両立する情報管理を実現した。
納品から調整・混注、払い出し、施用、廃棄にわたる医薬品のライフサイクル管理については、調剤業
務および病棟業務を想定したプロトタイプを導入し、実業務の中で検証した。
上記成果より、当初計画したミッションステートメントに対する達成度は十分なものであると考えられる。
(3)当初計画どおりに進捗しなかった理由
当初の計画どおりに実施
14
(4)研究目標の妥当性について
医薬品に対する電磁波の照射による熱変化について、現状調査や情報蓄積を行うことを目標に掲げ
ており、これに対し国内外の調査、実照射検証を実施した。本研究期間を考慮すると複数の医薬品に対
する検証結果が得られ、妥当な目標設定であった。今後は医薬品だけでなく、医療機器や医療材料へ
の影響確認を実施することが望まれる。
実際の医療現場において、血液はマイナス 40 度以下での保管と放射線照射、4000G の遠心分離など
の最も厳しい条件が要求される。また、供血者に対するプライバシー保護とトレーサビリティ確保の両立を
実現する電子タグの特性を活かした仕組みを用い、電子タグの性能と製剤・輸血業務への応用が有効で
あることをデータや知見を蓄積でき、実際の医療現場において電子タグが効果的に利用できることを証明
する妥当な目標設定であった。
ユビキタスネット技術利用の有効性や医薬品ライフサイクル管理については、実用化を想定した技術
開発と課題の抽出を目標に掲げており、1 医療機関をモデルとした検証という面では妥当な目標設定で
あった。医療分野における IT 導入ならびに電子タグ普及を考えた場合、複数機関での更なる検証、課題
抽出を目標として設定する必要があると思われる。
(5)研究計画・実施体制について
本事業においては、電子タグの利活用による医療の安全・安心を実現することを目指し、実現に向け
たサブテーマを 4 つ設定し、設定したサブテーマがお互いに密接に連携を保ちつつ、事業を推進した。
サブテーマ 1 は電子タグ貼付対象物への電磁波の影響調査の研究、サブテーマ 2 は院外からの院内へ
のトレーサビリティの研究、サブテーマ 3 は電子タグ以外のユビキタスネット技術との連携方式の研究、サ
ブテーマ 4 は医療機関内におけるライフサイクル管理の研究であり、サブテーマ毎の成果を定期的に情
報共有することで、お互いの研究範囲を拡大することや研究を深めることが可能となった。本事業では年
に 2 度運営委員会を実施し、意見収集することで各サブテーマの評価を行ってきた。事業の二年目では
盛岡赤十字病院及び岩手県赤十字血液センターにて、総合科学技術会議科学技術連携群 ユビキタス
ネットワーク連携群 主監 斉藤先生に御見学いただき、重要なアドバイスも頂くことができ、また、事業最
終年度には 2 つのサブテーマで公開見学会を実施することにより、対外的にも事業成果をアピールする
ことができたと思われる。
(6)研究成果の発表状況
1)研究発表件数
原著論文発表
左記以外の
(査読付)
誌面発表
口頭発表
合計
国
内
9件
該当なし
2件
11 件
国
外
6件
該当なし
2件
8件
合
計
15 件
該当なし
4件
19 件
※ 国内の出版社の英文誌は「国内」とする。
※ 国内で開催された国際会議は「国外」とする。
2)特許等出願件数:
該当なし
3)受賞等:
該当なし
15
4)原著論文(査読付)
【国内誌】(国内英文誌を含む)
①秋山昌範、名和 肇、鈴木明彦:「電子タグによるトレーサビリティ確保とプライバシー保護」,医療情報
学27(Suppl):277-280, (2007)
②秋山昌範、土屋文人、Simeon George:「医薬品・医薬材料等のトレーサビリティ」,医療情報学 27
(Suppl):233-234, (2007)
③秋山昌範:医療安全のためのトレーサビリティと経営管理-国際動向を踏まえて-」,医科機器学6
77(6): 372-380, (2007)
④鈴木明彦,高野長邦, 阿部知博, 浅沼宏子, 中島 毅, 秋山昌範:「病院内におけるトレーサビリティ」,
医療情報学 27(Suppl):, (2007)
⑤秋山昌範、名和 肇、鈴木明彦:「血液のトレーサビリティとプライバシー保護に関する研究」,医療情報
学26 (Suppl.): 612-615, (2006)
⑥鈴木明彦,高野長邦, 阿部知博, 浅沼宏子, 中島 毅, 秋山昌範:「一般病院におけるバーコード・電
子タグの利活用の現状」, 医療情報学 26 (Suppl.): 144-145, (2006)
⑦秋山昌範、田中 博 , 土屋文人, 名和 肇:「医療分野における電子タグ利活用のための実証実験」,
医療情報学 26 (Suppl.): 146-149, (2006)
⑧秋山昌範:「物流システム改革による電子カルテシステムの経済的効果-ゼロ在庫を目指すためのユ
ビキタス情報システム-」, 病院設備 48(2): 111-112, (2006)
⑨秋山昌範:「医療安全と経営効率化に効果を生むシステム構築」, IT Vision 11:8-11, (2006)
【国外誌】
①大橋久美子:「Safe Patient Transfer System with Monitoring of Location and Vital signs」, Journal of
Dental and Medical Sciences, Vol.55 No.1: 33-41, (2008)
②Ohashi K, Kurihara Y, Watanabe K, Ohno-Machado L, Tanaka H:「A Smart Stretcher System To
Improve Patient Safety During Transfers」, International Journal of Medical Informatics, submittted,
(2008)
③Orii T, Tsuchiya F, Akiyama M, Ochiai C:「TRACEABILITY SYSTEM FOR DRUGS UTILIZING
ELECTRONIC TAGS IN MEDICAL FIELD -STUDY ON A LIFECYCLE MANAGEMENT SYSTEM
OF DRUGS IN HOSPITALS-」World Congress of Pharmacy and Pharmaceutical Science 2008,
ABSTRACT, 126, (2008)
④Akiyama M:「Risk Management and Measuring Productivity with POAS - Point of Act System. A
Medical Information System as ERP (Enterprise Resource Planning) for Hospital Management」,
Methods Inf Med, 46(6): 686-93,(2007)
⑤Akiyama M, Kondo T.:「Risk management and measuring productivity with POAS--point of act system」,
Medinfo;12(Pt 1): 208-12, (2007)
⑥Akiyama M. :「Risk Management and Measuring Productivity with POAS - Point of Act System -」, 14:
pp321-324, International Federation for Medical and Biological Engineering (IFMBE) Proceedings
ISSN: 1727-1983, ISBN:3-540-36839-6 Springer, Berlin Heidelberg New York. (2006)
5)その他の主な情報発信(一般公開のセミナー、展示会、著書、Web 等)
該当なし
16
2.研究成果:サブテーマ毎の詳細
(1)サブテーマ1:電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響調査に関する研究
(分担研究者名:土屋 文人、所属機関名:国立大学法人 東京医科歯科大学)
1)要旨
電子タグやそのリーダ装置が発する電磁波や熱などが各種医薬品に与える影響に対して、公的機関
の管理基準制定の参考となるべき情報蓄積を行うことを目標として調査研究を進める。製薬企業や独立
行政法人 情報通信研究機構などの協力を得ながら、複数の医薬品に対する電磁波の照射による熱変
化の状況等を調査し、情報の蓄積を行うとともに、適宜、調査結果を公開する。
2)目標と目標に対する結果
ユビキタスネット技術の進歩、浸透により、ビジネスや日常生活のあらゆる場面で電子タグ・リーダが登場
するのは近々間近であるが、これらは最新の技術であり、その歴史は浅いため、医薬品への影響に対する
調査研究はほとんどなされておらず、管理基準を制定できるまでの情報が存在しないのが実情である。こ
のため電子タグ・リーダが発する電磁波などが各種医薬品に与える影響を調査し、その結果を公開するこ
とにより、公的機関による医薬品に対する電子タグ・リーダの管理基準の制定を促すことを目的とする。
本サブテーマの研究目標に対して一定の成果をあげることができた。具体的には、調査対象とする医
薬品と、電子タグ・リーダの利用シーンを想定した電磁波照射実験モデルを検討・決定し、シミュレーショ
ンによる調査、及び実際の電子タグ・リーダ装置を使用した調査を実施した。その結果、対象医薬品につ
いて、本実験の電磁波照射モデルで電磁波を照射しても保存規定温度を逸脱するような温度変化は起
こらないことが検証できたことである。
また、電子タグの医療機関における導入状況や、電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬
品への影響に関する規制状況などについて、文献、インターネット、学会発表や国際会議を中心に 3 ヶ
年にわたり調査した結果、医療機関への導入においては実証実験にとどまっているものが大半であり、電
子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響についての調査事例や規制に関しては、
国内外で 3 件の研究事例が確認できた。
3)研究方法/調査方法
電子タグ・リーダが発する電磁波などが各種医薬品に与える影響を調査し、その結果を公開することに
より、公的機関による医薬品に対する電子タグ・リーダの管理基準の制定を促すことを目的とする。
1.電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響調査に関する研究統括
電子タグやそのリーダ装置が発する電磁波や熱などが各種医薬品に与える影響の調査研究についての研
究統括を実施する。国内外の関連実験、調査に関する情報収集方針の策定、電子タグやそのリーダ装置が
発する電磁波や熱などの医薬品への影響調査に関する調査方針の策定、ならびに研究期間全般にわたり、
研究サブテーマの調査進捗や中間結果をもとに適宜推進方針の修正等のフィードバックを実施する。
調査結果の情報蓄積を行うとともに、適宜、調査結果を公開し、公的機関による医薬品に対する電
子タグやそのリーダ装置の管理基準制定を促す。
2.電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響関連情報収集ならびに調査方
法に関する研究
電子タグやそのリーダ装置が発する電磁波や熱などが各種医薬品に与える影響についての関連情
17
報の収集を実施する。また、電子タグやそのリーダ装置が発する電磁波や熱などの医薬品への影響調
査に関する具体的調査方法を策定し、実際の調査に関して適宜調査指導を実施する。
3.電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響関連情報収集ならびに調査方
法に関する研究
電子タグやそのリーダ装置が発する電磁波や熱などが各種医薬品に与える影響についての関連情
報の収集を、主に技術的観点から実施する。また、独立行政法人 情報通信研究機構の協力を得て、策
定した調査方法に基づき、複数の医薬品、又はその代替品に対して調査を実施しその結果をまとめる。
4)研究結果
1.電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響関連情報収集
1.1 調査方法、調査対象の概要
電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響関連情報収集として、表-1 に示す
対象において事例調査を実施した。
表-1 事例調査対象
事例調査対象
対象
先進的事例の個別調査
国内
国内の先進事例を個別調査。
医療情報関連学会、シンポ
ジウム等の発表、展示、論文
国内
海外
下記学会、シンポジウム等での発表、展示、論文内容を調査。
・第 11 回日本医療情報学会春季学術大会
(平成 19 年 6 月 15 日~16 日)
・第 17 回日本医療薬学会年会
(平成 19 年 9 月 29 日~30 日)
・第 27 回医療情報学連合大会
(平成 19 年 11 月 23 日~25 日)
・HIMSS AsiaPac07 Conference & Exhibition
(平成 19 年 5 月 15 日~18 日)
・12th World Congress on Health(Medical) Informatics
(Medinfo 2007)
(平成 19 年 8 月 20 日~24 日)
・Hospital Management Asia2007(HMA 2007)
(平成 19 年 8 月 29 日~9 月 2 日)
・The World of Health IT Conference & Exhibition 2007
(平成 19 年 10 月 22 日~25 日)
国内
海外
「RFID JOURNAL」、「日経 RFID テクノロジ Express」等か
らインターネット上のニュース記事を抽出。
インターネット上での
ニュース記事
調査方法
1.2 国内外における電子タグの医療への適用状況
国内外における電子タグの医療への適用事例のうち、特に医療安全を目的とした事例を中心に、
表-2 に示す。医療機関における電子タグ導入の目的として、国内においては医療安全や業務の効率
化(院内物流管理を含む)、海外においては業務の効率化(医療機器、患者の位置管理)や医薬品の
偽造防止が中心となっている。また、国内外ともに実証実験が中心であり、実用化されていても医療機
関の一部のみでの導入という状態のものが多い。
また、これらの事例において、電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響を懸
念、調査している事例は、ほとんど存在しない。
18
表-2 電子タグの医療への適用事例
対象
実施機関
実施内容
秋田大学医学部附属病院
電子タグを使用した薬剤誤投与防止システム
秋田大学医学部附属病院
センサ付き高機能電子タグを用いた管理の高
日本電気株式会社
度化実証実験
長崎大学
医学部・歯学部附属病院
日本製薬団体連合会 ほか
社団法人
日本病院薬剤師会 ほか
電子タグを利用した医薬品の院内物流システム
平成 16 年度経済産業省の電子タグ実証実験
医薬品業界における電子タグ実証実験
実用化区分
実用化
実証実験
実証実験
実証実験
平成 17 年度経済産業省の電子タグ実証実験
医薬品業界における電子タグ実証実験(東京大
実証実験
学医学部附属病院薬剤部で実施)
東京大学医学部附属病院
薬剤部
YRP ユビキタスネット
医薬品トレーサビリティ実証実験
実証実験
ワーキング研究所 ほか
日本
東京医科歯科大学歯学部
附属病院
病院内でのタギングを前提とした、民間レベル
三重大学医学部附属病院
の薬剤トレーサビリティ実証実験
実証実験
山梨大学医学部附属病院
京都医療 セ ン タ ー Auto-ID
ラボ
医薬品トレーサビリティ実証実験
横浜市立大学医学部附属病院 電子タグ付き指輪による個人認証システム
福岡市
名古屋掖済会病院
大規模災害時の集団救急作業における電子タ
グ有効性実証実験
電子タグを活用した大規模災害時の傷病者情
報集約システム実証実験
東京慈恵会医科大学附属病院 電子タグを用いたカルテ管理
兵庫県立大学
日本総合研究所
上尾中央総合病院
医療機器管理、薬剤管理、救急医療支援、患
者見守りシステム等
電子タグを使った廃棄物管理システム
19
実証実験
実証実験
実証実験
実証実験
実用化
実証実験
実用化
対象
実施機関
実施内容
電子タグによる医薬品の真贋判別
米ファイザー
実用化
(バイアグラ、セレブレックス)
米セファロン
電子タグによる医薬品の個品追跡システム
実証実験
米 Jacobi Medical Center
電子タグ付リストバンドによる患者管理システム
実証実験
米 Georgetown Univ. Hospital 電子タグ付リストバンドによる輸血管理システム
実証実験
米 Hackensack Medical Univ. 体内埋め込み型 RFID による患者管理システム
実証実験
米 Massachusetts General
電子タグによる輸血管理システム
Hospital
海外
実用化区分
実証実験
米 Baptist Health
電子タグ付リストバンドによる患者管理システム
仏 Hospital La Conception
医療試料(検体)への電子タグ取り付けによる取
ほか
り違え防止
独 Saarbruecken Clinic
電子タグ付リストバンドによる患者管理システム
実用化
独 Univ. Hospital of Jena
電子タグ付リストバンドによる患者管理システム
実用化
英 Portsmouth General Hospital 電子タグによる採血管理
台湾 Chang-Gung Memorial
Hospital
米 Vincent Hospital
ほか 多数
実用化
実用化
実証実験
手術時の患者確認のための電子タグシステム
実証実験
アクティブ電子タグによる患者・医療機器トラッキ
実証実験
ングシステム
実用化
1.3 国内外における電子タグの医薬品への影響に関する研究事例
国内外における電子タグの電磁波などが医薬品に与える影響に関する研究事例について、平成 17
年度から平成 19 年度に調査した研究事例を表-3 に示す。平成 19 年度の調査実施結果として、新た
に、電波が医薬品の品質に及ぼす影響調査の研究事例が確認できた。
表-3 医薬品への影響に関する研究事例
実施機関
YRP ユビキタスネット
ワーキング研究所ほか
米 FDA
(アメリカ食品医薬品局)
研究事例
電子タグシステムが血液製剤に与える影響の調査
電子タグシステムが液体医薬品に与える影響の調査
総務省
(平成 18 年度ユビキタス
ネット技術による高度な 電子タグシステムが医薬品の品質に及ぼす影響の調査
医療安全の 確保・支援
に関する調査研究会)
20
YRP ユビキタスネットワーキング研究所などでは、医薬品の電波照射に対する安全性に問題がない
ことを確かめることを目的として、電波照射後の医薬品の成分変化を調査するために、一定量の電波を
医薬品に照射し、その後の医薬品の変質がないかを確認した結果、各医薬品とも電波照射による医薬
品成分への影響はないと判断した。
アメリカ食品医薬品局(FDA)は、UHF 帯を使用する電子タグシステムのリーダ装置が発する電磁波
がインスリン製剤に与える影響を評価し、その結果、電磁波の影響によりインスリンの温度を数℃上昇さ
せる可能性があることを実証したと発表した。
総務省「平成 18 年度ユビキタスネット技術による高度な医療安全の確保・支援に関する調査研究
会」において、田辺三菱製薬株式会社などで、血漿分画製剤を対象に電波無照射の製品と、照射後
の製品について品質試験を行い、比較評価を実施した。主要な血漿分画製剤である 3 種類の製剤に
対し、3 種類(13.56MHz, 950MHz, 2.45GHz)の周波数帯の電波を 25 分間それぞれ照射した結果、無
照射の医薬品と比較して、品質試験に差を認めなかった。この結果より、電子タグシステムで使用可能
な周波数帯の電波照射は血漿分画製剤の品質に影響を及ぼさないと判断した。1
以上のとおり、国内外における電子タグの医療への適用事例、及び電子タグ・リーダ利用に関わる
電磁波などが医薬品に与える影響に関する研究事例について調査した結果、電子タグの導入につい
ては、実用化している事例は少なく、実証実験にとどまっているものが大半であった。また、電子タグ・リ
ーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響についての調査事例や規制に関して、新たに電
波が医薬品の品質に及ぼす影響調査の研究事例が 1 件確認できた。
2.電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響調査
本調査活動は、東京医科歯科大学が調査対象医薬品及び調査方針の変更を決定し、NTT 東日本
関東病院が具体的な調査計画や調査指導を実施した。日立製作所は、これらの調査方針、調査計画
に基づき、電磁波が医薬品に与える影響についての調査を実施した。
2.1 平成 18 年度までの実施内容
本調査は、平成 17 年度から平成 19 年度の 3 ヶ年で実施した。ここでは、平成 17 年度、平成 18 年
度の実施内容の概要を説明する。
2.1.1 平成 17 年度の実施内容
平成 17 年度は、電子タグ・リーダ装置が発する電磁波が医薬品にどのような影響を与えるかの調査
実施に先立ち、医薬品が製造されてから利用者(患者、一般消費者)に与薬されるまでに、どのような
形態で電子タグ・リーダ装置の電磁波に照射されるかを、医薬品取り扱い業務ごとに分析することによ
り、影響調査のための実験の範囲を規定した。
分析対象とする医薬品取り扱い業務は、医薬品メーカの製品品質検査後の出荷業務から、医薬品
卸及び医療機関/薬局を経て、利用者(患者、一般消費者)へ与薬されるまでと規定し、各業務におい
て、医薬品に対して想定される電子タグ・リーダ装置を利用した業務を分析した。
また、電子タグ・リーダ装置の利用指針の制定に向けた情報蓄積を実施することを目標とし、具体的
な影響調査方針を策定した。
1
東京都病院薬剤師会雑誌(THPA.) vol, 56, No. 5, (2007) 391 より抜粋
21
2.1.2 平成 18 年度の実施内容
平成 18 年度は、電磁波照射による医薬品の温度上昇の状況を調査する方針に従い実験計画を詳
細化し、調査対象医薬品の選定から、医薬品の電気定数の計測までを実施した。
■ 電子タグ・リーダ装置の電磁波照射による医薬品の温度上昇調査手順
1) 調査対象医薬品の決定
2) 電磁波を照射する医薬品の取り扱い業務シーンの決定
3) 使用周波数の決定
4) 電磁波照射時間の決定
5) シミュレーションによる調査
a) 「電気定数」の計測
b) モデル、パラメータの決定
c) シミュレータでの実験
6) 実際の医薬品と電子タグ・リーダ装置を使用した調査
電子タグ・リーダ装置が与える影響に関する調査対象医薬品として、医療用医薬品の熱に関する保
管規定をもとに、以下の 3 品目を選定した。調査対象医薬品を表-4 に示す。
表-4 選定した調査対象医薬品
温度規定
医薬品名
備考
2~8℃
インスリン リスプロ注射液
10℃以下、
インフルエンザ HA ワクチン
凍結を避ける
室温保存
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液
熱(温度)に関する
保管規定の厳しい医薬品
懸濁液
調査対象とした 3 種類の医薬品に加え、温度上昇調査を代替品で実施することも考慮し、生理食塩
液と 5%ブドウ糖注射液の 5 品目について、電気定数の計測を実施した。
電気定数の計測は、独立行政法人 情報通信研究機構において実施した。
調査対象医薬品として選定した 3 種類の医薬品及びブドウ糖注射液、生理食塩液の電気定数を計
測した結果、周波数が 1GHz までの電磁波照射に対しては、温度により多少の変化はあるが、いずれも
比誘電率は約 70~80 で一定であり、純水の比誘電率(εr’=81)と近いことが分かった。
また、比誘電率の特性(εr’、εr”のグラフ)として、インスリン リスプロ注射液はεr”が低く、5%ブド
ウ糖注射液と類似しており、インフルエンザ HA ワクチンと酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液は、生
理食塩液と類似しているといえる。また、インスリン リスプロ注射液、5%ブドウ糖注射液の計測結果は
純水の比誘電率の特性に近いことが分かった。
2.2 平成 19 年度の実施概要
平成 18 年度は、調査対象医薬品に、1GHz までの周波数の電磁波を照射し電気定数を計測した
が、平成 19 年度も、引き続き独立行政法人 情報通信研究機構の協力を得ながら、マイクロ波
(2.45GHz)の電磁波を照射した電気定数の計測を実施し、シミュレーションによる調査や、実際の電子
タグ・リーダ装置を使用した電磁波照射による医薬品の温度上昇調査を実施した。
22
2.3 医薬品への電磁波照射実験モデル
電磁波による医薬品の温度上昇シミュレーション調査や、実際の電子タグ・ リーダ装置を使用した
電磁波照射による医薬品の温度上昇調査の実施にあたり、医薬品への電磁波照射実験方法のモデ
ル化を実施した。モデル化の方法と決定内容を以下に示す。
2.3.1 調査対象医薬品
平成 18 年度に、調査対象医薬品として 3 品目の医薬品を選定し電気定数の計測を実施したが、イ
ンスリン リスプロ注射液は、シリンジにプレフィールドされた特殊な医薬品容器の形状のため調査対象
から除外した。そこで、平成 19 年度は、シミュレーション及び電磁波照射実験のモデル化が比較的容
易なインフルエンザ HA ワクチンと酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液の 2 種類の医薬品に絞り込ん
で調査を実施した。
2.3.2 医薬品の容量
調査対象医薬品を用いたシミュレーション、及び実際の電子タグ・リーダ装置を使用した電磁波照射
実験は、いずれも 1 バイアルに対する電磁波照射の調査を実施するものとした。そのため、調査対象の
医薬品の容量は、それぞれの医薬品の 1 バイアルの包装量とする。調査対象医薬品の 1 バイアルの包
装量を表-5 に示す。
表-5 調査対象医薬品の 1 バイアルの包装量
医薬品名
1 バイアルの包装量
インフルエンザ HA ワクチン
1mL
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液
1mL
2.3.3 医薬品の初期温度
調査対象医薬品に対する電磁波照射時の医薬品の初期温度は、それぞれの医薬品の温度規定内
で、電気定数の計測を実施した温度とするものとした。調査対象医薬品に対する電磁波照射時の医薬
品の初期温度を表-6 に示す。
表-6 電磁波照射時の医薬品の初期温度
医薬品名
温度規定
10℃以下、
インフルエンザ HA ワクチン
凍結を避ける
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液
室温保存
(1℃~30℃)
医薬品の
初期温度
5℃
15℃
2.3.4 医薬品の電気定数と熱定数
調査対象医薬品に対する電磁波照射時の電気定数の計測は、独立行政法人 情報通信研究機構
に依頼して実施した。平成 19 年度は、調査対象医薬品にマイクロ波(2.45GHz)の電磁波を照射した
電気定数を計測した。
また、調査対象医薬品の熱定数の計測も実施した。
調査対象医薬品の電気定数の計測結果を表-7 に、熱定数の計測結果を表-8 に示す。
23
表-7 電磁波照射時の医薬品の電気定数
医薬品の
医薬品名
導電率
誘電率
温度
(S/m)
インフルエンザ HA ワクチン
5℃
78.40
3.34
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液
15℃
73.36
2.84
表-8 医薬品の熱定数
比熱
熱伝導率
(J/(Kg・K))
(W/(m・K))
インフルエンザ HA ワクチン
4,120
0.56
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液
4,075
0.59
医薬品名
2.3.5 医薬品の容器
調査対象医薬品の医薬品容器(バイアル)のモデル化は、3 次元 CAD データを、シミュレーションシ
ステムに取り込むことで実施した。
また、医薬品容器(バイアル)の材質はガラスであったため、一般的に公開されている電気定数、熱
定数を使用した。表-9 に、シミュレーションで使用したガラスの電気定数と熱定数を示す。
表-9 医薬品容器(ガラス)の電気定数と熱定数
誘電率
医薬品容器(ガラス)
4.6
導電率
比熱
熱伝導率
(S/m)
(J/(Kg・K))
(W/(m・K))
700
1.2
0.0023
2.3.6 電子タグ・リーダ装置
実際の電磁波照射実験のために、使用周波数帯が 2.45GHz、送信出力が 0.2W の電子タグ・ リー
ダ装置を準備した。
これに伴い、準備した電子タグ・リーダ装置のアンテナ形状をモデル化し、周波数が 2.45GHz の電
磁波を送信出力 0.2W で照射したシミュレーションを実施することとした。また、同じモデルで、送信出
力を 1.0W、4.0W の電磁波を照射したシミュレーションも実施し、温度上昇のシミュレーション結果を比
較検証することとした。
2.3.7 電磁波の照射距離と照射時間
電磁波の照射距離は、通常の電子タグ・リーダ装置の利用シーンとして、医薬品が包装材(箱)に入
れられて、電子タグ・リーダ装置のアンテナの中心に置かれている状態を想定し、実際に電磁波を発生
するアンテナ基盤から、箱の中の医薬品の底面までの距離を概算し、10mm とした。
また、電磁波の照射時間は、入出荷、調剤、施用等の各業務において電子タグ・リーダ装置を使用
した確認・鑑査を実施する時に、1 回に 10 秒間電磁波が照射されると想定し、業務によって、電磁波の
照射が断続的に数回繰り返されることがあるが、本調査においては 60 秒間の連続照射とした。
24
2.3.8 外気による影響の考慮
実際の医薬品は、熱(温度)に関する保管規定の厳しい医薬品は冷所に保管されており、入出荷、
調剤、施用等の各業務において電子タグ・リーダ装置を使用した確認・鑑査を実施する時に取り出され
て電磁波を照射されることが想定される。
しかし、本調査においては、できるだけ外気の影響を受けず、純粋な電磁波の照射による温度上昇
の傾向を調査するため、表-7 に示した医薬品の初期温度に外気の温度を合わせた状態で電磁波の
照射を実施することとした。これにより、外気の温度差による医薬品の熱への影響はほとんどないものと
してシミュレーション、及び実際の電子タグ・リーダ装置を使用した電磁波照射による医薬品の温度上
昇調査を実施した。
2.4 電磁波照射による医薬品の温度上昇シミュレーション
前項で示した電磁波照射実験モデルに基づき、シミュレーションシステム上で、医薬品と電子タグ・リ
ーダ装置のアンテナをモデル化した結果を図-1 に示す。
図-1 調査対象医薬品のシミュレーションモデル
この医薬品と、電子タグ・リーダ装置のアンテナモデルで、前述した各種パラメータを設定し、電磁波
照射による医薬品の温度上昇シミュレーションを実施した。シミュレーションは、平成 20 年 1 月 30 日か
ら 2 月 6 日に、独立行政法人 情報通信研究機構において実施した。
調査対象医薬品とした 2 種類の医薬品に対する、電磁波照射による医薬品の温度上昇シミュレーシ
ョンの結果を次に示す。
2.4.1 医薬品に電磁波を照射した時の温度分布の計測結果
シミュレーションシステムを使用した、電磁波照射による医薬品の温度上昇を計測するにあたって、
シミュレーションによる温度の計測位置を決める必要があった。そのため、電磁波照射時に、医薬品の
温度上昇が最も顕著な位置を温度分布により明確にした。
調査対象の 2 種類の医薬品に対し、電磁波(2.45GHz, 0.2W)を照射した時の温度分布のシミュレー
ション結果を以下に示す。
25
2.4.1.1 インフルエンザ HA ワクチンに電磁波を照射した時の温度分布
インフルエンザ HA ワクチンに対し、前述したシミュレーションモデルで、電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
照射した時の温度分布シミュレーション結果を図-2 に示す。この時、シミュレーション結果の温度スケ
ールは、医薬品の初期温度である 5.00℃から、+1.00℃の 6.00℃までとした。
図-2 インフルエンザ HA ワクチンに電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
照射した時の温度分布(スケール幅:5.00℃~6.00℃)
上記のシミュレーションの結果、温度スケールを 5.00℃から 6.00℃に設定した状態では、温度分布
にほとんど差がなかったため、温度スケールを 5.00℃から、+0.05℃の 5.05℃までに拡大した。温度ス
ケールを拡大して表示した温度分布を図-3 に示す。
図-3 インフルエンザ HA ワクチンに電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
照射した時の温度分布(スケール幅:5.00℃~5.05℃)
26
2.4.1.2 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に電磁波を照射した時の温度分布
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に対し、前述したシミュレーションモデルで、電磁波(2.45GHz,
0.2W)を照射した時の温度分布シミュレーション結果を図-4 に示す。この時、シミュレーション結果の温
度スケールは、医薬品の初期温度である 15.00℃から、+1.00℃の 16.00℃までとした。
図-4 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
照射した時の温度分布(スケール幅:15.00℃~16.00℃)
上記のシミュレーションの結果、温度スケールを 15℃から 16℃に設定した状態では、温度分布にほ
とんど差がなかったため、温度スケールを 15.00℃から、+0.05℃の 15.05℃までに拡大した。温度スケ
ールを拡大して表示した温度分布を図-5 に示す。
図-5 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
照射した時の温度分布(スケール幅:15.00℃~15.05℃)
上記のシミュレーションによる温度分布の結果より、いずれの医薬品とも、医薬品の中心の最下部が
最も温度上昇が顕著な位置であることが判明した。
2.4.2 医薬品に電磁波を照射した時の温度上昇グラフ
医薬品の温度上昇が最も顕著な位置が医薬品の最下部であったため、医薬品の最下部に温度の
計測ポイントを設定し、調査対象の 2 種類の医薬品に対し、電磁波(2.45GHz, 0.2W)を照射した時の温
度上昇シミュレーションを実施した。
調査対象の 2 種類の医薬品の温度上昇シミュレーション結果を以下に示す。
27
2.4.2.1 インフルエンザ HA ワクチンに電磁波を照射した時の温度上昇グラフ
インフルエンザ HA ワクチンに対し、電磁波(2.45GHz, 0.2W)を 60 秒間連続で照射した時の、計測
ポイントの温度上昇シミュレーション結果を図-6、図-7 に示す。シミュレーション結果の温度スケール
は、図-6 が、5.00℃から、+2.00℃の 7.00℃までのグラフであり、図-7 が、5.00℃から、+0.07℃の 5.07
℃までのグラフである。
図-6 インフルエンザ HA ワクチンに電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
照射した時の温度上昇シミュレーション結果(スケール幅:5.00℃~7.00℃)
図-7 インフルエンザ HA ワクチンに電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
照射した時の温度上昇シミュレーション結果(スケール幅:5.00℃~5.07℃)
インフルエンザ HA ワクチンに対して照射する電磁波の送信出力を 1.0W に変更した時の、計測ポ
28
イントの温度上昇シミュレーション結果を図-8 に示す。シミュレーション結果の温度スケールは、5.00℃
から、+0.35℃の 5.35℃までのグラフである。
図-8 インフルエンザ HA ワクチンに照射する電磁波の送信出力を
1.0W に変更した時の温度上昇シミュレーション結果(スケール幅:5.00℃~5.35℃)
インフルエンザ HA ワクチンに対して照射する電磁波の送信出力を 4.0W に変更した時の、計測ポ
イントの温度上昇シミュレーション結果を図-9 に示す。シミュレーション結果の温度スケールは、5.00℃
から、+1.40℃の 6.40℃までのグラフである。
図-9 インフルエンザ HA ワクチンに照射する電磁波の送信出力を
4.0W に変更した時の温度上昇シミュレーション結果(スケール幅:5.00℃~6.40℃)
29
2.4.2.2 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に電磁波を照射した時の温度上昇グラフ
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に対し、電磁波(2.45GHz, 0.2W)を 60 秒間連続で照射した時
の、計測ポイントの温度上昇シミュレーション結果を図-10、図-11 に示す。シミュレーション結果の温度
スケールは、図-10 が、15.00℃から、+2.00℃の 17.00℃までのグラフであり、図-11 が、15.00℃から、
+0.07℃の 15.07℃までのグラフである。
図-10 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
照射した時の温度上昇シミュレーション結果(スケール幅:15.00℃~17.00℃)
図-11 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
照射した時の温度上昇シミュレーション結果(スケール幅:15.00℃~15.07℃)
30
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に対して照射する電磁波の送信出力を 1.0W に変更した時
の、計測ポイントの温度上昇シミュレーション結果を図-12 に示す。シミュレーション結果の温度スケー
ルは、15.00℃から、+0.30℃の 15.30℃までのグラフである。
図-12 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に照射する電磁波の送信出力を 1.0W に
変更した時の温度上昇シミュレーション結果(スケール幅:15.00℃~15.30℃)
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に対して照射する電磁波の送信出力を 4.0W に変更した時
の、計測ポイントの温度上昇シミュレーション結果を図-13 に示す。シミュレーション結果の温度スケー
ルは、15.00℃から、+1.20℃の 16.20℃までのグラフである。
図-13 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に照射する電磁波の送信出力を 4.0W に
変更した時の温度上昇シミュレーション結果(スケール幅:15.00℃~16.20℃)
31
2.4.3 シミュレーション結果の比較と考察
調査対象医薬品として選定した 2 種類の医薬品に対し、送信出力が 0.2W、1.0W、4.0W で電磁波を
連続照射した時の 60 秒経過時点での温度上昇結果を表-10 に示す。また、送信出力と上昇温度の関
係を表すグラフを図-14 に示す。
表-10 2 種類の医薬品の電磁波による温度上昇シミュレーション結果
医薬品名
初期温度
0.2W 照射
1.0W 照射
4.0W 照射
インフルエンザ HA ワクチン
5℃
+0.049℃
+0.244℃
+0.978℃
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液
15℃
+0.041℃
+0.206℃
+0.823℃
図-14 送信出力と上昇温度の関係グラフ
温度上昇シュミレーション結果
上昇温度(℃)
1
0.8
インフルエンザHAワクチン
0.6
酢酸メチルプレドニゾロン
懸濁注射液
0.4
0.2
0
0
1
2
3
送信出力(W)
4
5
上記の温度上昇シミュレーション結果より、調査対象医薬品として選定した 2 種類の医薬品に対し、
電磁波(2.45GHz, 0.2W)を連続で照射した時の 60 秒経過時点での温度上昇は、いずれも 0.05℃以下
であり、送信出力を 1.0W、4.0W に変更した時の 60 秒経過時点での温度上昇は、いずれも 1℃以下で
あることが分かった。
また、図-14 のグラフより、送信出力と上昇温度は、ほぼ比例していることが分かった。
このシミュレーションにより、送信出力が 0.2W の電子タグ・リーダ装置を使用し、電磁波照射による医
薬品の温度上昇の計測を実施した場合、顕著な温度上昇は起こらないと推測された。
この推測を検証するため、引き続き実際の電子タグ・リーダ装置を使用した電磁波照射による医薬品
の温度上昇調査を実施した。
2.5 実際の電子タグ・リーダ装置を使用した電磁波照射による医薬品の温度上昇調査
調査対象の 2 種類の医薬品に対する、実際の電子タグ・リーダ装置を使用した電磁波照射による温
度上昇調査は、平成 20 年 3 月 4 日から 3 月 7 日に、独立行政法人 情報通信研究機構において実
施した。
32
2.5.1 調査方法
独立行政法人 情報通信研究機構における、実際の電子タグ・リーダ装置を使用した電磁波照射時
の医薬品の温度上昇調査は、以下の条件で実施した。
2.5.1.1 計測環境
独立行政法人 情報通信研究機構内にある恒温恒湿電波暗室にて、室内温度を医薬品の初期温
度に設定し、医薬品や機材をその室内に 12 時間以上保管することで、計測対象の医薬品の温度と室
内温度が安定している状態で電磁波照射を開始した。
ただし、安定した温度の室内に医薬品を 12 時間以上保管しておいても、医薬品の温度が室温と同
じにはならなかったため、3 分以上医薬品の温度が大きく変化しない状態であれば、温度が安定してい
る状態と判断して電磁波照射実験を実施した。
2.5.1.2 医薬品の温度計測位置
シミュレーションの実施により、医薬品の温度上昇が最も顕著な位置が医薬品の最下部であったた
め、医薬品の最下部に温度計を設置して計測を実施した。
2.5.1.3 電子タグ・リーダ装置、医薬品の設置方法
医薬品を電子タグ・リーダ装置のアンテナの中心に置き、使用周波数帯がマイクロ波(2.45GHz)、送
信出力が 0.2W の電子タグ・リーダ装置から電磁波を 60 秒間連続で照射し、医薬品の温度を 0.25 秒
間隔で計測した。
上記の電子タグ・リーダ装置の電磁波照射の状態として、実際の運用を想定し、医薬品の底面に電
子タグを置いて電子タグ・リーダ装置が電子タグ ID を読み取っている状態で計測を実施した。
また、参考データとして、電磁波を照射していない状態での医薬品の温度計測により、大気による温
度のノイズ幅の計測を実施した。
2.5.2 実際の電子タグ・リーダ装置による電磁波照射時の温度上昇調査結果
調査対象の 2 種類の医薬品に対し、実際の電子タグ・リーダ装置を使用した電磁波照射による医薬
品の温度計測結果を以下に示す。
2.5.2.1 インフルエンザ HA ワクチンに電磁波を照射した時の温度計測結果
インフルエンザ HA ワクチンに対し、実際の電子タグ・リーダ装置で電磁波(2.45GHz, 0.2W)を 60 秒
間連続で照射した時の、温度計測結果を図-15 に示す。
33
図-15 インフルエンザ HA ワクチンに電磁波(2.45GHz, 0.2W)を照射した時の温度計測結果
電磁波を照射していない状態でのインフルエンザ HA ワクチンの温度計測により、大気による温度
のノイズ幅を計測した結果を図-16 に示す。
図-16 インフルエンザ HA ワクチンの大気による温度ノイズ幅計測結果
上記のインフルエンザ HA ワクチンの温度計測の結果より、実際の電子タグ・リーダ装置で電磁波
(2.45GHz, 0.2W)を 60 秒間連続で照射した時に、医薬品の顕著な温度上昇は見られなかった。また、
大気による温度のノイズ幅は 0.16℃であり、実際の電子タグ・リーダ装置で電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
60 秒間連続で照射した時の医薬品の温度の振れ幅(温度の最大値-最小値)が 0.17℃であったこと
からも、大気による温度ノイズ以外の温度の変化はなかったといえる。
34
2.5.2.2 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に電磁波を照射した時の温度計測結果
酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に対し、実際の電子タグ・リーダ装置で電磁波(2.45GHz,
0.2W)を 60 秒間連続で照射した時の、温度上昇結果を図-17 に示す。
図-17 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に電磁波(2.45GHz, 0.2W)を照射した時の温度上昇結果
電磁波を照射していない状態での酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液の温度計測により、大気に
よる温度のノイズ幅を計測した結果を図-18 に示す。
図-18 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液の大気による温度ノイズ幅計測結果
35
上記の酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液の温度計測の結果より、実際の電子タグ・リーダ装置で
電磁波(2.45GHz, 0.2W)を 60 秒間連続で照射した時に、医薬品の顕著な温度上昇は見られなかっ
た。また、大気による温度のノイズ幅は 0.20℃であり、実際の電子タグ・リーダ装置で電磁波(2.45GHz,
0.2W)を 60 秒間連続で照射した時の医薬品の温度の振れ幅(温度の最大値-最小値)も 0.20℃であ
ったことからも、大気による温度ノイズ以外の温度の変化はなかったといえる。
調査対象のいずれの医薬品も、60 秒間の電磁波照射による温度上昇が見られなかったため、酢酸
メチルプレドニゾロン懸濁注射液に対し、さらに時間を延長して電磁波の連続照射による温度上昇調
査を実施したが、20 分間(1,200 秒間)連続照射した場合も温度上昇の傾向は見られなかった。参考と
して、電磁波(2.45GHz, 0.2W)を 20 分間(1,200 秒間)連続照射した時の温度計測結果を図-19 に示
す。また、酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に対し、電磁波(2.45GHz, 0.2W)を 20 分間(1,200 秒
間)連続で照射した時の、温度上昇シミュレーション結果を図-20 に示す。
図-19 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
20 分間(1,200 秒間)連続照射した時の温度計測結果
36
図-20 酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射液に電磁波(2.45GHz, 0.2W)を
20 分間(1,200 秒間)照射した時の温度上昇シミュレーション結果
2.5.3 実際の電子タグ・リーダ装置で電磁波を照射した時の医薬品の温度計測結果と考察
実際の電子タグ・リーダ装置で電磁波を照射しての医薬品の温度計測結果より、調査対象医薬品と
して選定した 2 種類の医薬品に対し、電磁波(2.45GHz, 0.2W)を 60 秒間連続で照射した場合、顕著な
温度上昇は見られないことが分かった。
参考として実施した、20 分間(1,200 秒間)の連続照射についても、シミュレーション上は約 0.5℃温
度が上昇する結果であったが、実際の電磁波照射による計測では、顕著な温度上昇が見られなかっ
た。このことにより、実際の電磁波照射において、シミュレーション上では影響を除外した医薬品内の熱
の拡散や、医薬品容器を通しての大気中への放熱などがあったものと推測された。
これらの結果より、調査対象とした医薬品と電子タグ・リーダ装置による電磁波照射実験モデルで
は、電磁波の照射が医薬品に与える温度上昇の速度より、医薬品内外への熱の拡散や放熱の速度の
方が大きく、危惧すべき温度上昇は起こらないことが示唆された。
2.6 まとめ
調査対象の医薬品として選定したインフルエンザ HA ワクチンと酢酸メチルプレドニゾロン懸濁注射
液に対して、シミュレーションによる調査と、実際の電子タグ・リーダ装置を使用した電磁波照射による
温度上昇調査を実施した。
シミュレーションを実施した結果、調査対象の医薬品に対して、電磁波(2.45GHz, 0.2W)を連続で照
射した時の 60 秒経過時点での温度上昇は、いずれも 0.05℃以下という結果が得られた。
また、実際に電子タグ・リーダ装置を使用して電磁波照射時の医薬品の温度上昇調査を実施した結
果、調査対象の医薬品に対して、電磁波(2.45GHz, 0.2W)を 60 秒間連続で照射した場合も、顕著な温
度上昇は見られなかった。
上記の調査結果より、今回調査対象とした医薬品に、今回実施した電磁波照射実験モデルで、電
磁波(2.45GHz, 0.2W)を 60 秒間照射しても、医薬品の保管に関する温度規定を逸脱するような、危惧
すべき温度上昇は起こらないことが検証できた。
37
5)考察・今後の発展等
平成 17 年度から平成 19 年度の 3 ヶ年にわたる本調査の実施により、電子タグ・リーダ装置が発する
電磁波が医薬品に与える温度上昇の影響を調査するための、シミュレーションによる調査と、実際の医
薬品と機材を使用した調査の 2 つの方式を示すことができた。
実際の医薬品と機材を使用した調査方式は、現実の利用環境に合わせた調査が可能であるといえ
る。本調査方式で、純粋な電子タグ・リーダ装置の電磁波による医薬品の温度上昇調査を実施するに
は、医薬品、電子タグ・リーダ装置、温度計測用機材のほか、恒温恒湿電波暗室のような専用の設備
を必要とする。また、実際の温度計測に際して、計測環境の室温や医薬品の温度が安定している状態
で計測を実施する必要があり、1 つの医薬品に対する調査には、半日から数日の時間が必要である。
シミュレーションによる調査方式は、電子タグ・リーダ装置が発する電磁波による、論理的な医薬品の
温度分布や温度上昇傾向の調査が可能であるといえる。本調査方式では、医薬品や電磁波発生装置
である電子タグ・リーダ装置のアンテナなど、シミュレーションモデルに必要な「もの」の形状を比較的高
い精度で製図する必要があり、それぞれの電気定数や熱定数などのパラメータ情報も必要である。し
かし、これらの情報は一般的には開示されていないため、製薬メーカや電子タグ・リーダ装置のメーカ
の協力を得て調査を実施する必要がある。ただし、シミュレーションモデルと電気定数や熱定数などの
パラメータ情報が決まれば、比較的短い時間での計測が可能であり、照射距離や照射時間などの各
種条件を変更しながらのシミュレーションも容易に実施することが可能である。
今後の医療分野における電子タグやリーダ装置の普及に際し、公的機関による管理基準制定を促し
ていくため、本調査の実験方式と実験結果を 1 つの指標とし、様々な利用シーンに応じた電磁波が医薬
品に与える影響の調査を実施し、情報の蓄積と開示を継続していくことが重要であると考えるため、公的
機関や専門機関との連携をさらに深め、医療のユビキタス化に向けて貢献していく予定である。
6)関連特許
該当なし
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
該当なし
38
(2)サブテーマ2:血液トレーサビリティとプライバシー保護に関する研究
(分担研究者名:秋山 昌範 、所属機関名:学校法人 東京医科大学)
1)要旨
輸血業務の現状は、紙の伝票とバーコードを使って血液管理を行っており、仕組みに問題はなく、正し
く稼動し運用されている。しかし、5 年後、10 年後には、現在よりも血液検査や製造にかかる時間を短縮
する技術が開発され、より早いスピードによる対応が求められると予想される。また、医師からのオーダをリ
アルタイムに現場へ反映させる仕組みが要求されると考えられる。これらの要求に応えるためには、より簡
単・迅速に確実なトレーサビリティを確保できることが必要である。一方、輸血などで、採血者や患者に関
する情報がひとたび漏えいした場合、社会からの信頼、人間関係回復、係累への影響など、回復が著し
く困難な状況に陥る可能性がある。そのため、輸血業務ではトレーサビリティを確保しながらも、プライバ
シーの厳重な保護が欠かせないものとなっている。
本研究の目的は、採血された血液が患者へ提供されるまでに関わる医療機関において、血液のトレー
サビリティの確保とプライバシーの保護を可能にする血液の取り扱い管理を実現するため、ネットワーク技
術、電子タグの性能等についての課題を検討・抽出し、さらに血液の取り扱い管理システムの実証に向け
た検討を行うことである。
2)目標と目標に対する結果
血液管理に関するトレーサビリティ確保とプライバシー保護という、相反する要件に対して、電子タグの
利用が解決策のひとつであることを実証することが目的であり、この研究の最終的な目標は、電子タグと
ネットワークを利用した新業務を考案、構築し、実際の病院と血液センターに導入して運用を行い、新し
い血液管理、輸血業務として成り立つことを確認することである。
実験の結果であるが、採血・製剤の管理を行う血液センターでのシステムと、血液請求から輸血実施ま
での業務をオーダ No.で一元管理する病院でのシステムとを合わせて、採血から輸血までの血液一貫管
理システムを、実際の医療現場へ適用して実証実験を行い、評価・検討した。医療現場において、輸血
オーダ(指示)から始まり、輸血投与まで、適宜、所在確認ができる血液製剤のトレーサビリティを実現し
た。さらに、採血時の情報、特に供血者情報や輸血を実施する患者の情報が部外者に漏れない仕組み
を構築したことを検証し、プライバシー保護がなされていることを示した。そして新しい血液管理、輸血業
務が成り立つことを確認した。
実験成果として、今後に向けた課題を抽出し、その対策を示した。さらに、輸血に関わる業務等に対す
る電子タグとそれを用いたシステムについて方向性や展望を示すことができた。
3)研究方法/調査方法
1.モデル業務の検討
平成 17 年度、業務ヒアリングを実施して課題を明らかにし、解決方式を検討した。さらに担当者によ
る検討結果のレビューを通じ、モデル業務を検証した。この実験のキーポイントである電子タグの書換
えや、実証実験専用業務である電子タグの付け替えについても検討を重ね、実験システムを開発する
ための準備を行った。
2.耐環境試験
平成 17 年度、血液センターの実際の設備を使用して血液製剤製造工程の過酷な環境を再現し、電
子タグが製造工程で正常に機能するのか試験を行った。その結果、試験した数種類の電子タグから、プ
レート型樹脂加工を施した PET タイプを実験に耐えうる電子タグとして選定することができた。また、実用
39
の段階において候補のひとつと考えられるラベルタイプについても検討の余地があることが判明した。
3.血液管理一貫システム
平成 18 年度は血液請求から輸血実施までの工程を管理する病院システムを開発した。さらに、血液
センターでの採血から病院のベッドサイドでの輸血実施までを一貫して管理するシステムを構築した。
4.運用試験
4.1 血液センターでの運用試験
血液センターでの運用試験は、平成 18 年 5、6 月と平成 19 年 2、3 月に行った。平成 18 年 5、6 月
の運用試験では血液センターでの運用が可能であることを確認した。また、平成 19 年 2、3 月の運用試
験では病院まで一貫したシステムが運用可能であることを確認した。
4.2 病院での運用試験
病院での運用試験は、血液請求から始まり輸血実施までの運用試験を実施することができた。
ネットワークで血液センターと病院とがつながっていることから、血液センター検査課から病院の製剤
情報を確認できるとともに、血液センターから一旦払い出された血液製剤について、不具合が発見さ
れた時点でリアルタイムに差し止めることができることを確認した。また、輸血実施時に血液製剤情報を
確認し、使用できないことが発見された場合、輸血を差し止めることができることを確認した。
発注、納品において、血液センターに発注データを送信したり、納品データを受信したりすることで
作業時間の短縮ができることも確認できた。
5.実証実験
平成 19 年度は医療現場で中長期間(4 ヶ月間)にわたり実証試験を実施した。その結果、医療現場
において、採血からから始まり、輸血オーダ(指示)による輸血実施まで、適宜、所在確認ができる血液
製剤のトレーサビリティを実現することができた。また、採血時の情報、特に供血者情報や輸血を実施
する患者の情報が部外者に漏れないことを検証し、プライバシー保護がなされていることを確認した。
40
4)研究結果
1.モデル業務の検討
盛岡赤十字病院及び岩手県赤十字血液センターにおいて現状の業務運用を調査し、抽出した課
題に対して対策を検討し、モデル業務として業務フローを作成した。さらに、この業務フローに実証実
験の前提条件などを勘案して、実証実験フローを作成した。
1.1 業務課題のヒアリング
業務運用についてヒアリングした結果、判明した課題として、盛岡赤十字病院では、「転記ミスなど人
的ミスによる障害の懸念」「人が血液製剤の製造番号を目視して識別」「病院内で一部のシステムが個
別に運用(一貫性が確保されない)」が抽出され、一方、岩手県赤十字血液センターでは「病院と血液
センターの情報共有と供血者のプライバシー保護の確保」が挙げられた。
1.2 課題解決の方式検討
病院や血液センターで挙げられた課題を踏まえ、電子タグを利用した新しいモデル業務フローを作
成した。以下は抽出された課題を解決するための対応策である。
■ 盛岡赤十字病院
・システムによる対応
業務の効率化、確実性向上、及び安全性向上を図るために、人的ミスが発生する可能性のある業
務をシステム化することや、運用を整理することなどで対応策を検討した。
・電子タグによる対応
血液バッグをシステムにより識別し管理することを可能にするため、電子タグを利用したシステム化を
検討した。
・一元管理による対応
血液の情報について検査部で一元管理することを検討した。
■ 岩手県赤十字血液センター
・電子タグとネットワークによる対応
ネットワークによって、病院とセンター間でシームレスに情報のやり取りのできるシステム構築を検討
した。そのためには、より強固な仕組みで供血者のプライバシー保護を保持しなければならない。
41
42
凡例:
セキュリティーに
よる情報保護
公開ネットワーク
内部ネットワーク
外部からは採血情報、紐付情
報は参照不可
採血番号
製剤番号
採血番号
内部サーバ
遠心分離、放射線照
射、冷凍保存を経て製
剤としてパッケージさ
れる。
紐付
採血番号
②製剤
採血
献血者、採血の情報
が登録される。電子タ
グには採血番号が書
き込まれている。
ICタグ
①採血
VPN
外部ネットワーク
外部からは製剤情報は参
照可能
製剤番号
製剤
公開サーバ
製剤番号
ICタグ
④出荷
参照遮断
参照可能
Firewall
Firewallによるネット
ワーク分割で保護
検査に合格した製剤
のみ出荷される。出荷
時には製剤番号しか
外部には見えない。
採血番号
製剤番号
ICタグ
パッケージ後、製剤
登録を行い、電子タグ
の採血番号を製剤番
号で上書きする。
上書き
製剤種別
製剤番号
有効期限 '06 03 31
製剤ラベル
③書換
血液センター
公衆回線
情報登録
業務の流れ
Firewall
ネットワーク接続によ
る最新情報の共有
在庫
製剤番号
輸血
輸血サーバ
オーダーをもとに輸
血を実施。実施時に最
新ステータスを確認。
実施記録を保存する。
ICタグ
⑥輸血
セキュリティ保護
製剤番号
発注した製剤がセン
ターから納品され、病
院で使用されるまで在
庫として管理される。
⑤納品
病 院
図-21 ネットワークを使用してトレーサビリティを確保した上で、電子タグを用いてプライベート保護を強化する方式
1.3 新業務運用案作成
盛岡赤十字病院と岩手県赤十字血液センターにおける対策案(新業務運用案)を作成した。
1.3.1 新業務フロー(モデル)
課題対策を踏まえたモデルを病院、血液センターと協力して検討し、以下に示すモデル業務フロー
としてまとめた。
① 盛岡赤十字病院の新業務フロー(モデル)
② 岩手県赤十字血液センターの新業務フロー(モデル)
1.3.2 実証実験における前提事項
実証実験のフィールドは岩手県赤十字血液センターと盛岡赤十字病院になるが、どちらも当然のこ
とながら通常業務を行っている。また通常業務と並行して行えることもあれば、実証実験の時間帯や場
所を全く隔絶して行わなければならない場合もある。従って、実証実験が実施可能となるための前提条
件を想定した。
1.3.2.1 実証実験業務フロー
モデル業務フローに実験の前提条件を取り入れ、実証実験専用の業務なども追加して実証実験業
務フローを作成した。
1.3.3 対策方式の検証
現状の課題に対策を講じた新業務フロー、これに実証実験の前提条件を加味した実証実験業務フ
ロー(2 つのフロー)は最終的に運用試験、実証実験を通じてその有効性を確認することになる。しかし
机上での検証を現場の方々と行うことで事前にその有効性を確認し、その意見を取り入れることで期待
される効果をより早期に確認することができることから、現場の方々によるレビュー・検証を行った。
1.3.4 モデル業務の検証結果
モデル業務の検証結果は以下のとおりである。
① 実証実験システムを構築する際の業務についてはイメージを説明し、理解してもらうことができた。
業務内容についても後述する点を検討すれば実施可能であるとの判断をしてもらった。
② 課題に対する対策は解決されることを確認した。
③ 従来業務にはない採血番号から製剤番号への書換などポイントとなる業務については、実施可能
であるということで確認した。
2.耐環境試験
2.1 電子タグ選定
2.1.1 血液バッグにふさわしい電子タグの種類
耐環境試験に使用する電子タグは、現在国内で最もスタンダードに利用されており、長い通信距離
を必要とせず、ラベル形状に加工しやすく、水分にも影響されにくい「13.56MHz 帯」でパッシブ型の電
43
子タグを選定した。
2.1.2 IC チップについて
IC チップは放射線照射に耐えることや低温域の使用・保管温度に耐えることが要求される。記憶媒
体の種類によって放射線や低温の影響が異なると予想されることから、耐環境試験では以下の 2 種類
の IC チップで試験を行った。
① EPROM (Electronically Erasable and Programmable Read Only Memory)
不揮発性半導体メモリの一種。
検討の結果 PHILIPS:I CODE SLI を使用。
② FeRAM (Ferroelectric Random Access Memory)
強誘電体薄膜材料を記憶素子として用いた不揮発性メモリの一種。
検討の結果富士通:MB89R118 を使用。
2.1.3 電子タグの加工形態及び取付方法について
2.1.3.1 加工形態
耐環境試験においては、加工形態として「ラベル加工」のほかに「プレート型樹脂加工(PET-G)」、
「堅牢型樹脂加工」を対象とした。
2.1.3.2 取付方法
血液バッグへの取付方法については、以下の 2 つの方法を選んだ。
① 血液バッグの本体に電子タグを差し込むポケットを用意し、そこに差し込む方法
② 電子タグの一部に穴をあけ、店舗で衣料品等につけられているタグをとりつける樹脂性のひも等
でぶら下げる。血液バッグへはあらかじめ空いている穴の部分にそのひもを通す方法
2.2 耐環境試験
2.2.1 耐環境試験の目的と確認すべき内容
採血から製剤、患者への輸血に至るまでのプロセスにおいて、電子タグがそれぞれの環境下におい
て使用することが可能であるかを検証する。血液センター及び赤十字病院において、電子タグは下記
の環境に対する耐久性が必要である。
・遠心分離
・放射線照射
・低温保管(マイナス 40℃長期保管、2~6℃保管、ドライアイス同梱搬送)
・温度変化(急速冷凍:マイナス 60℃冷風による凍結[常温→マイナス 40℃]、
・温水浸漬マイナス 40℃→常温])
・耐水性(温水浸漬等)
・落下による衝撃
2.2.2 耐環境試験の実施場所・期間・内容検討
2.2.2.1 実施場所
すべての耐環境試験は岩手県赤十字血液センターで行った。
44
2.2.2.2 実施期間
事前準備期間
:平成 17 年 12 月 ~ 平成 18 年 1 月
耐環境試験実施期間 :平成 18 年 1 月~3 月
2.2.2.3 耐環境試験の内容検討
耐環境試験のために血液製剤を確保できないため、血液の代替品として生理食塩水を使用した。ま
た、対象である 2 種類の IC チップについては、以下の 3 段階のステップを踏んで耐環境試験を実施した。
・2 種類の IC チップのメモリタイプでの比較試験
・血液と生理食塩水との比較試験
・(廃棄予定血液バッグと生理食塩水入りバッグとの比較試験)
・製剤工程から輸血までの各環境での試験
ただし、2.血液と生理食塩水との比較試験、3.製剤工程から輸血までの各環境での試験では、<
EEPROM>PHILIPS:I CODE SLI チップの電子タグに絞って読取り書込み試験を行った。
2.2.3 使用機材・試験方法
耐環境試験で使用する機材、試験方法を示す。
2.2.3.1 電子タグ
使用した電子タグは 13.56MHz のパッシブ型で、内容は以下のとおりである。
① 大日本印刷/ACCUWAVE
IC チップ/ PHILIPS:I CODE SLI
メモリタイプ/ EEPROM
メモリ容量 / 112byte
インレットサイズ / 28×12 mm
② オムロン/ V722-D2KF50E-FTR8-R
IC チップ/富士通:MB89R118
メモリタイプ/ FeRAM
メモリ容量 / 2000byte
インレットサイズ / 50×18 mm
2.2.3.2 リーダライタ
使用したリーダライタの内容は以下のとおりである。
・ウェルキャット/RCT-200-01
本体 / 56.6 × 160 × 39mm
寸法 / 約 215g(バッテリカートリッジ含)
使用温度 / -5 ~ +45℃
対応タグ / my-d、Tag-It HF-I、I・CODE1、I・CODE SLI、
富士通 FerVID family
45
2.2.3.3 血液バッグ
血液バッグはテルモ社製のものを使用した。
・テルモ
400ml 採血用・200ml 採血用
ポリ塩化ビニール製
2.2.3.4 生理食塩水
生理食塩水は川澄化学工業製のものを使用した。
・川澄化学工業
500ml 包装
2.2.3.5 電子タグの装着方法
① ラベル加工型
血液バッグの中央部にラベル型の電子タグを貼り付けている。
② プレート型樹脂加工タイプ、堅牢型樹脂加工タイプ
血液バッグの保管部分中央部にポケットを設け、そこに差し込む方法と、バッグの下部にぶら下げる
方法の 2 種類でテストした。
2.2.3.6 データの読み取り・書き込みの方法
常温環境で、机上に置いた厚み 20cm で 40cm 四方の発泡スチロール上に血液バッグを載せ、貼り
付け面より約 1cm の距離から全ユーザデータ領域への読み取り・書き込みを実施した。
2.2.4 耐環境試験結果
2.2.4.1 2 種類の IC チップのメモリタイプでの比較試験
2 種類の IC チップ、I CODE SLI[EEPROM]、富士通 MB89R118[FeRAM]について比較検討を行っ
た。その結果、通常業務の環境である「常温平常環境」、「放射線(X 線 15Gy 照射、照射は 1 度)」、「超
低温(マイナス 40℃冷凍庫保管、ドライアイス同梱保管)」、「温度変化(マイナス 60℃フリーザーによる
急速冷凍)」、「耐水性(温水浸漬融解)」のいずれの環境においても読み書きの性能に差はなく、いず
れも読み書きが可能であった。
2.2.4.2 血液と生理食塩水との比較試験
「常温平常環境」、「超低温(マイナス 40℃冷凍庫保管、ドライアイス同梱保管)」、「放射線(X 線 15Gy
照射)」、「温水浸漬融解」のいずれの環境でも血液と生理食塩水との読み書きの性能差はなく、いず
れも貼付した電子タグは読み書きが可能であった。
2.2.4.3 製剤工程から輸血までの各環境での試験
製造工程から輸血までの過程で行った耐環境試験の結果は以下のとおりである。
・「遠心分離」で電子タグが破損し、読み書きが不能となるケースが発生した。
・「放射線(X 線 15Gy 照射:2 度)」で、半数の電子タグが書き込み不能となるケースが発生した(読み
取りは可能)。
・放射線(X 線 15Gy 照射:1 度)」、「低温環境(マイナス 40℃冷凍庫保管、ドライアイス同梱保管、冷蔵
庫保管)」、「温度変化・耐水性(マイナス 60℃フリーザーによる急速冷凍)(温水浸漬融解)」、「落
下(常温、冷凍)」の環境では、常温平常環境装着の電子タグと変わらず、いずれも読み書きが可
46
能であった。読み書きは常温環境下で実施した。なお、マイナス 40℃冷凍庫保管している期間が 6
ヶ月、1 年の血液バックは継続して保管する。
・血液センターでは現在、在庫棚卸時にさっと取り出して確認する際、バーコードは霜を拭いて読ん
でいる現状があるが、電子タグは容易に読め、効率化につながるとみられる。
2.3 耐環境試験の評価
これまでの結果から、実運用上ラベル型で十分耐久可能であるといえる。製剤工程では放射線照射
は 1 度限りであり、その範囲であれば使用に問題ないと思われる。
運用試験・実証実験では、センターから病院への搬送の際に、血液センターの生理食塩水バッグか
ら、血液バッグへの電子タグの貼り替えが必要となるため、プレート型樹脂加工タイプをポケットに差し
込む方法で電子タグの実験を行うのが有望であると思われる。
3.血液管理一貫システム
3.1 構築したシステム
3.1.1 血液管理システム
病院内では血液請求から輸血実施までの一連の行為を「血液請求伝票」と「実施指示伝票」で行
い、両方の伝票は血液製剤番号で紐付けされていて、対応付けは目視で行っている。安全性と業務
効率の向上を図るため、オーダ No.をもとに輸血業務の全工程(輸血指示から輸血実施まで)を管理
するシステムを開発した。
病院の血液管理システムは、以下のシステムから構成されている。
3.1.2 輸血オーダ管理システム
輸血オーダ管理システムはナースステーションに置かれた実験専用端末 PC によって操作される。医
師が輸血オーダの「指示出し」、看護師が「指示受け」を行う。また、輸血オーダの進行状況を確認する
ことができる。
「指示出し」では輸血オーダを出し、輸血オーダは輸血管理の基本情報として利用される。「指示受
け」では輸血オーダを確認し、血液在庫管理システムにつなげるために操作される。
輸血オーダ管理システムで管理される輸血オーダ情報は血液在庫管理システム、輸血実施支援シ
ステムにおいても参照され、医師の指示どおり正しく輸血が実施されるよう一元管理されている。
3.1.3 血液在庫管理システム
血液在庫とそのステータスを管理することできめ細かいオペレーションが可能になる。フリーの血液
在庫のタイムリーな把握や、有効期限を確認した上での引当済み在庫の融通オペレーションなどの実
施をサポートする。また、血液センターと情報を共有化し、納品書のデータをもとに納入血液の情報を
登録することで、データの入力を少なくし、ミスや手間を低減することも可能になる。
血液在庫管理システムは検査部に置かれた実験専用端末によって操作される。検査技師が「請求
受付」~「出庫」までを管理する。
3.1.4 輸血実施支援システム
患者のリストバンド、血液バッグの電子タグを読み取ってシステム的な確認を行い、ミスを防止する。
輸血開始、終了を自動的に入力することにより、リアルタイムに経過が分かる。また開始時にチェックす
ることで、リアルタイムに変更情報を確認することができる。看護師は注射業務で稼動している電子カル
テ&オーダシステムに安心感を持っており、輸血業務でも同様のオペレーションが行われることで、患
47
者にも看護師にとっても、より安全な輸血業務が可能になる。
輸血実施支援システムは病棟に置かれた PDA によって操作され、看護師によって実施される輸血
が正しく行われることを支援する。
3.2 血液センターから病院までの「血液管理一貫システム」の構築
平成 17 年度に開発した採血から、製剤、番号書換え、出荷までの血液センターシステムと輸血業務
の全工程を管理する病院の血液管理システムをつなげたシステム、すなわち採血(血液センター)から
輸血(病院のベッドサイド)まで一貫したシステムを構築した。全体構成を以下に示す。
図-22 血液管理一貫システムの全体構成
病院
血液センター
内部用
N/Wセグメント
内部管理
システム
高機密性
情報
外部接続用
N/Wセグメント
外部公開
システム
内部用
N/Wセグメント
採血、製剤製造に関す
る情報を保持
原則外部から非公開
輸血オーダ
管理システム
・献血者情報
・採血情報
・製剤情報
・供給情報
・受発注情報
高機密性
情報
外部接続用
N/Wセグメント
病院の外部接続用セグ
メントからのみアクセス
可能
血液製剤
管理システム
・製剤情報
・受注情報
輸血オーダ、検査、実施
に関する情報を保持
原則外部から非公開
・マスタ系
・輸血オーダ、
・看護支援系
・検査系
センターの外部接続用セ
グメントからのみアクセス
可能
・物流、在庫系
・病院からセンターへ受注登録
・病院からセンターへ製剤最新ステータス照会
・センターから病院へ製剤実施記録照会
3.3 構築したシステムの特徴
電子タグを活用し、血液センターと病院とをつなげて血液管理を行う血液管理一貫システムは、電子
タグの管理 No.を書き換えることによるプライバシー保護を可能にし、オーダ No.や血液製剤番号を用
いてトレーサビリティ機能を確立することによって、安全性、効率性が確保できるこが特徴である。
安全性を確保するために、もう一つ大切な機能としてネットワーク・セキュリティがある。血液センター
から病院までの「血液管理一貫システム」を構築するためには、このネットワーク・セキュリティ機能を備
えていなければならない。システム開発において、ネットワーク・セキュリティ機能について検証を行い、
機能の確認を行っている。
48
4.運用試験
運用試験は、従来から行っている血液管理業務にシステムを導入して(実験)業務を行った場合、業
務運用が可能かどうか現場担当者(医師、看護師、検査技師、血液センター職員)に確認してもらうた
めに行うものである。
なお、運用試験を実施するにあたり、前もって運用シナリオを用意している。
4.1 実施場所・実施時期
岩手県赤十字血液センター:平成 18 年 5 月 30 日~6 月 9 日
盛岡赤十字病院
:平成 19 年 2 月 26 日~3 月 8 日
4.2 前提条件
血液センター及び病院において、運用試験を実施するにあたり、その前提となる条件を以下に示す。
①現行の伝票運用と並行して運用試験用の業務を行う。
②現行システムとの接続は行わない。
③緊急輸血は対象外(手術室、緊急外来を含む)とする。
4.3 運用試験のためのシナリオ策定
運用試験を実施するにあたり、運用シナリオを策定した。運用シナリオのねらいは、システムを導入し
て業務を行った場合、(実験)業務運用が可能かどうかを確認することである。運用シナリオではなるべ
く多くの運用パターンを網羅するために、シナリオの中で対象とする業務を色々組み合わせている。
4.4 運用試験の評価
4.4.1 医療現場の協力による評価
開発したシステムが実際に運用可能かどうか、現場担当者(血液センター職員、検査技師、看護師、
医師)に確認してもらうために運用実験を実施した。評価指標は①正確性(正しく)、②効率性(時間内
で)、③安全性(誤操作の危険性なく)とし、現場担当者の意見(口頭やアンケート)を収集して、その結
果をまとめて評価する。
4.4.2 評価対象
業務の流れに沿ってシステムを運用し、個々の対象業務においてシステムの運用試験を行い、対象
業務ごとに評価する。
岩手県赤十字血液センターでの評価対象業務は、製剤受付(登録)、製剤管理 No.書換、検査結果
登録、製品化、受注受付(登録)、製剤引当、払出し、差止め(遡及)である。
一方、盛岡赤十字病院での評価対象業務は、輸血指示、指示受け、輸血実施、在庫引当、血液発
注、交差適合試験結果登録、病棟払出、指示完了、指示変更、フリー在庫、棚卸、血液廃棄である。
4.4.3 評価結果
業務時間を把握するために所要時間を計測し、対象業務にどのような課題や対策があるのか口頭
やアンケートを通して抽出して、最後に、対象業務において、開発したシステムが運用可能であるのか
(対策を含め)評価している。
4.4.3.1 血液センターでの運用試験
病院と血液センターとの情報共有をシームレスに行いたいという要望と、供血者の個人情報等のプ
49
ライバシー保護への必要性から、血液センターでは供血者の個人情報と血液の製剤情報とを分けて
管理する必要がある。すなわち、ネットワーク技術によって病院と血液センター間でシームレスに情報
のやり取りができるシステムの構築と、血液センター側で個人情報の漏えいを食い止めるような仕組み
が必要である。
以上のような要請を受けて、血液センターで開発したシステムを用い、採血から血液製剤の払出まで
の工程について運用試験を実施した。
4.4.3.2 病院と血液センターでの運用試験
医師の診断をもとに、輸血のために血液請求を行い、患者の血液に適合する血液製剤を手当して、
輸血を実施するまでの工程について、病院で運用試験を実施した。
4.4.3.3 運用試験の結果
運用可能な業務と、課題のある業務が明らかになった。実証実験までに解決する課題の対策案を検
討し実証実験までに解決するめどを立てることができた。特に病院では実業務と並行して実験を行うた
めに運用の周知とトレーニングが重要であると認識した。
5.実証実験
5.1 実証実験について
5.1.1 目的
5.1.1.1 中長期的な運用の確認
血液センターの血液管理システムと病院の輸血管理システムを使い、電子タグを用いた血液製剤業
務・輸血業務の仕組みが、リアルタイムで情報を共有しながらトレーサビリティとプライバシー保護を両
立できることを実際の業務で確認する。
5.1.1.2 改善案などの蓄積された情報の取りまとめ
耐環境試験で得られた電子タグに関する技術的な情報や、実証実験で得られた運用に関する改善
案などの蓄積された情報をとりまとめ、ほかの分野にも応用可能な知見を蓄積する。
5.1.2 概要
これまで 2 年間に渡り開発してきた血液センターでの採血・製剤システム、病院での輸血管理システ
ム等を実験システムとして医療現場に適用させて、平成 19 年 7 月 30 日から 11 月 30 日までの 4 ヶ月
間、実証実験を行った。
50
表-11 実証実験の概要
項
目
説
明
実施時期
平成 19 年 7 月 30 日~11 月 30 日
実施場所
岩手県赤十字血液センター、盛岡赤十字病院
対象部署
実施主体
実施体制
岩手県赤十字血液センター:検査課、製剤課、供給課
盛岡赤十字病院:病棟(消化器内科、総合内科、外科)、検査部
血液センター:製剤課、供給課職員
病院:医師、看護師、検査技師
(株)CSK システムズ
血液製剤に電子タグを貼付して管理し、血液に関わる一連の業務のデータを蓄積
実施方法
することで、問題なく血液管理業務が実施できていることを確認する。なお、実証実
験がスムーズに行われるように運用面で支援体制をとった。
実績件数
・血液製剤数
377
・電子タグ数
951
注)電子タグ数、血液製剤数は対象 3 病棟の実証実験で使用した数量
実験に使用した輸血用血液製剤と電子タグ数は以下のとおりである。
表-12 実験期間内の病院全体及び対象病棟の血液製剤使用本数
実績
想定
病院全体
741
900
対象 3 病棟
561
630
対象 3 病棟の使用率
75.7%
70.0%
表-13 対象 3 病棟での使用血液製剤と実験での使用本数
本数
対象 3 病棟
割合
561
100.0%
実験で使用した数
377
67.2%
緊急のため対象外
184
32.8%
表-14 実験期間中に発生した電子タグ総数と内訳
使用数
合計
内
訳
故障数注2
951
0
271
0
PC(濃厚血小板)
94
0
FFP(貯留中)注1
586
0
MAP
注1)貯留中:血液センターでの製造工程において遠心分離後、
冷凍庫で 6 ヶ月貯留中のもの。
注 2)実験中に発生した電子タグは故障なし。
51
実証実験の対象になった輸血業務について、業務の流れを業務フローで示す。
図-23 輸血業務の業務フロー
医
師
指示
出し
看
護
師
指示
受け
使用
開始
使用
終了
出庫
検
査
技
師
請求
受付
検査
登録
割当
発注・
納品
5.1.3 結果概要
輸血業務に対する実証実験を行った結果、以下の点が分かった。
① 血液製剤のトレーサビリティ
輸血業務は、実際の業務を分析したところ 14 種類のタイプ(以下このタイプをユースケースと呼ぶ)
に分類された。すべてのユースケースに対して、血液製剤がいつ、どこにあり、どのような状態である
か、個々の血液製剤に対して確認できることを実証した。
② プライバシー保護
採血時の採血番号と病院向けの製剤番号の間を紐付ける仕組み(紐付け DB、電子タグの番号書き
換え)を介することで、病院を含めた外部から供血者を特定できない仕組みであることを実証した。
③ 電子タグの耐環境性能
耐環境試験の結果を活用し、運用試験で決めた取り扱いに従って実証実験を行い、電子タグが血
液製剤の環境に耐えることを実証した。
④ 安全性
血液製剤のトレーサビリティを実現することにより、医療安全の向上につながる。
具体的には、以下の点を実現して医療安全の向上を図った。
1)輸血業務では輸血指示がオーダ No.によって一元管理され、事前の指示変更や中止に対し、リア
ルタイムに対応ができる。
2)輸血実施時に患者や血液製剤の取り違えを防ぐことができる。
3)血液製剤の安全情報をリアルタイムに確認することができる。
⑤ 効率性
製剤番号による個品管理を実現させたことにより、血液製剤の在庫削減とともに、廃棄量を減らすこ
52
とが可能になる。さらに業務時間の短縮も可能になる。
血液製剤の出庫業務と輸血実施業務において、伝票記入等従来の作業時間と実験システムの
PDA 等の操作時間を計測した結果、出庫業務については PDA による操作時間の方が少ないことが分
かった。一方、輸血実施業務でも、PDA による操作の作業時間の方が少なくなっており、効率性向上
が期待できる。しかし、輸血学会では 2 人でチェック確認するようになっており、現状 PDA 操作に置き
換えることは認められていない。
5.2 実証実験による検証
5.2.1 検証について
5.2.1.1 検証の考え方
本研究の目的である血液製剤のトレーサビリティと採血者や患者のプライバシー保護について、実
証実験を通じ、医療現場に即したデータから実証的に検証を行う。
医療分野にシステムを導入する場合、導入効果として安全性が第一に求められるとともに、効率性
についても求められる。
安全性については、実験システムが持っている機能によって安全性が実現されるか検証する。
具体的には、①輸血指示に従った輸血 ②患者や血液製剤の取り違え防止 ③輸血実施前に血液
センターへ血液製剤の安全性確認、について検証する。
効率性については、輸血業務における各個別業務について時間計測することによって、システムを
導入することによる業務効率を検証するとともに、血液製剤の在庫削減と廃棄量の減少について考察
する。
5.2.1.2 前提条件
実証実験を実施するにあたり、前提となる条件は以下のとおりである。
①通常業務との二重運用(病院)
病院では正式な記録として伝票が必要であったため、通常業務である伝票業務に、実験業務である
システム操作を追加する二重運用が必要だった。
②実証実験業務との分離(血液センター)
GMP2基準により血液センター内では本物の血液製剤に電子タグをつけることができなかったため、
本物の血液の代わりに、生理食塩水を使用した実験用血液バッグと、本物の血液製剤を分けて扱っ
た。
③現行システムとの非接続(病院・血液センター)
現行のシステムに影響を与えるリスクを回避するため、現行システムとの接続を行わず、独立したシ
ステム環境を構築した。
5.2.2 実験データについて
5.2.2.1 血液製剤の使用状況
血液製剤の使用状況を以下に示す。
2
GMP(Good Manufacturing Practice):医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令(厚生労働
省令第 179 号)
53
①月別、病棟別での製剤使用状況
病院の対象 3 病棟で使用された血液製剤について、月別の使用本数を集計した結果が以下の表で
ある。B3 病棟は外科のため、月ごとに使用本数の変動が大きい。
表-15 月別、病棟別の製剤使用状況
7、8 月
9月
10 月
11 月
計
A4 病棟:消化器内科
23
27
33
26
109
A5 病棟:血液内科
50
44
35
43
172
B3 病棟:外科
106
42
50
82
280
計
179
113
118
151
561
注1)「消化器科かつB3 病棟」のデータは B3 病棟にカウントしている(すべて 10 月)。
注 2)7、8 月については 7/30~8/31 の集計である。
②製剤別使用本数
全病棟での製剤使用本数は以下のとおりである。
図-24 全病棟 製剤別 使用本数
全病棟 (計561製剤)
PC
105個
18.7%
FFP
108個
19.3%
MAP
348個
62.0%
5.2.2.2 輸血状況
輸血状況を以下に示す。
・土曜日も平日並みに輸血がある。
・準夜勤務(17:00 以降)も日中と変わらず輸血がある。
・盛岡赤十字病院では血液製剤(MAP)の在庫保有はなく、納品された当日に使用している。
・フリー在庫は滞留時間が短く、ほぼ 1 日以内に割り当てが完了しているため、在庫ロスのリスクが小
さい。
・出庫から使用終了までの時間経過の分布をみると、7 時間以内がほとんどである。
5.2.3 トレーサビリティ
血液製剤のトレーサビリティとは、採血から始まり、血液製剤製造、輸血指示から患者輸血実施まで
の業務の流れの中で、血液製剤の所在やその状態を個別に特定できる機能のことをいう。
すべての輸血業務は、実証実験を分析した結果、血液製剤業務の経過と輸血指示業務から、ユー
スケースという 14 種類のパターンに分類されることが分かった。従って、実際に医療現場でなされる一
54
連の輸血行為は、いずれかのユースケースに該当することになる。
5.2.3.1 ユースケース
輸血業務の流れを分析すると、通常ケースや、中止に関連するケース、システムで警告が出るケー
ス、今回実験で扱わなかった緊急輸血で事後にデータ入力を行うケースなど、大きく 4 つに分類でき
る。それをさらに細分化してすべての輸血業務が 14 種類のユースケースに分類できることから、各ユー
スケースについて、代表例を輸血指示業務の流れに沿って血液製剤の動きを追跡することにより、血
液製剤のトレーサビリティが実現していることを証明する。
なお、14 種類のユースケースを一覧にまとめると、以下のとおりである。
表-16 ユースケース一覧
分
ケース
類
番号
ユースケース名
説明
1
輸血実施(在庫なし)
在庫がないため発注する
通
2
輸血実施(在庫あり)
在庫があるので発注しない
常
3
割当製剤をフリー在庫に
指示は継続
4
交差適合試験不適
検査 NG を登録して終了
備考
シミュレーション対象
5
指示中止
指示取消
中
6
指示中止による割当解除
指示中止
止
7
血液製剤廃棄
製剤廃棄、指示は継続
8
発注取消
発注取消、指示は継続
9
使用差止(検査結果登録時)
差し止められ使用不可
シミュレーション対象
警
10
使用差止(輸血開始時)
差し止められ使用不可
シミュレーション対象
告
11
出庫時の製剤取り違え
通常ケースに戻る
シミュレーション対象
12
輸血実施時の患者取り違え
通常ケースに戻る
シミュレーション対象
13
輸血実施時の製剤取り違え
通常ケースに戻る
シミュレーション対象
14
サービス時間外使用
サービス時間外使用
事
後
血液製剤の動きと輸血指示業務の指示の経過を合わせて、その特徴から 14 種類のユースケースに
分類したが、個々のユースケースごとに血液製剤の移動を追跡表示すること(グラフ化すること)により、
血液製剤のトレーサビリティが実現していることを示す。
実験データは血液製剤の管理に伴う作業証跡データの羅列である。この数字の羅列が、トレーサビ
リティが取れていることを現している。蓄積されたデータは業務のポイントごとに記録されており、業務が
どう流れてきたのかを表している。各データにより、血液製剤が業務フロー上をどう流れてきたのかが表
現されている。それを一目で分かるように、グラフにして視覚化した。
横軸に時間軸、縦軸に血液製剤の流れと、輸血指示の流れでプロットしたトレースデータを折れ線
グラフで表現できる。トレースデータは血液製剤のグラフと輸血指示のグラフで表現する。
この血液製剤のグラフが「1 本の連続した折れ線グラフで表現できる」ことで、血液のトレーサビリティ
が取れていると判断する。
55
ポイントは以下のとおり。
①業務(工程)に途切れがない。(業務の抜けがない)
②時間の逆転・不整合がない。(正しい手順で業務が行われている)
③製剤番号への書き換えが行われている。(プライバシー保護がされている)
採血された血液が製剤工程を経て製剤番号に書き換えられていることが、線の種類が変わることで
表されている。また、血液製剤が輸血指示に基づいて実施されることが、血液製剤と輸血指示のグラフ
が重なることで表されている。
グラフには 14 の業務パターンごとに特徴がある。このグラフの特徴に実験データをプロットしたグラフ
の特徴が一致すれば、取得したデータが想定した業務パターンに一致し、想定した通りトレーサビリテ
ィが取れたということである。
ここで実験業務について補足するが、実証実験の前提条件より、電子タグの「付け替え」を行うことが
必要であった。
病院では本物の血液バッグに電子タグを取り付けて輸血業務を行うことができたが、血液センターで
は本物の血液バッグに電子タグを取り付けることは GMP 基準により許可されなかった。このため、血液
センターから払出されて病院の管理下に入るまでは本物の血液バッグに電子タグを取り付けることはで
きず、電子タグを生理食塩水入り血液バッグに取り付けて製剤業務を行うこととなった。しかし、この電
子タグは血液センター内で本物の血液バッグと同じ環境と工程を通過し、実験データにはその作業証
跡が残っている。病院では血液センターから本物の血液バッグが納品されたときに、「付け替え」という
工程で本物の血液バッグにこの電子タグを取り付け、引き続き病院の環境と業務を通過させることで実
験データの収集を行うことができた。
電子タグが取り付けられた本物の血液バッグと生理食塩水入り血液バッグの採血日は必ずしも一致
してはいないが、血液センターから病院で使用されるまでの環境を通過し、その工程の作業証跡をす
べて記録した実験データの収集が可能になった。
このような実験業務を行っているため、トレーサビリティを示すグラフでは生理食塩水入り血液バッグ
を操作して読み取ったデータに、本物の血液バッグの採血日を元に補正を加え、病院に入ってくる本
物の血液バッグのデータを連結して表現している。
ここでは 14 種類のユースケースのうち、特に標準的な 1 ユースケースについて、血液製剤が輸血業
務の流れと時間経過を経て、最終業務へ到る道筋を示す。
① ユースケース 1 輸血実施(在庫なし)
ユースケース 1 は「輸血実施(在庫なし)」で、指示出しから輸血実施まで一連の業務をすべて実施
するケースである。該当する血液製剤のフリー在庫が病院の検査部にないため、血液センターへ発注
し、血液製剤を納品している。
56
図-25 ユースケース 1 輸血実施(在庫なし)
病棟
医師
医師
看護師
看護師
1.
医師が患者に輸血を説明し
同意書を取る
2.
検査部
5.
検査技師は血液製剤請求伝票
の到着後、請求を確認して請
求受付をする
医師が血液製剤請求伝票と
注射指示表を記入し、血液
製剤予約の指示を登録する
6.
血液製剤のフリー在庫を
確認する
3.
看護師が指示を確認して
指示受けをする
7.
血液製剤をFAX、電話で血液
センターに発注する
・発注情報の登録
4.
血液製剤請求伝票を
検査部へ届ける
9.
発注した血液製剤を血液セン
ターから受領する
輸血
サーバ
看護師
交差適合試験を実施し、
看護師が血液製剤準備完了
14. 連絡を受け、血液製剤を
検査部に受領に行く
10. 検査結果を登録する
BTDで伝票類の出力を行う
11. 交差適合試験報告書、製剤使
血液製剤照合
看護師
看護師(2名)で血液製剤と
15. 交差適合試験報告書を照合・
確認する
看護師
看護師
検査技師
検査技師
検査技師
検査技師
検査技師
用記録伝票、医事会計伝票
病棟に血液製剤準備完了を
12. 電話連絡する
検査技師
輸血施行
16. 患者リストバンド、
血液製剤出庫
・血液製剤請求伝票の控えを
確認
13. ・血液製剤使用期限・破損の
有無を確認
・看護師と検査技師による押
印と出庫処理
血液製剤を確認して実施
看護師
検査技師
輸血副作用があるか患者観察
17. (15分間)
検査技師
看護師は使用済血液バッグと
18. 血液製剤使用記録伝票を検査
使用済血液バッグと血液製剤
部に返却する
19. 使用記録伝票の受領
血液
センター
サーバ
血液センター
8.
注)図中の番号は個別業務がなされる順番を示している
57
血液製剤の受注および出荷
検査技師
センター
職員
図-26 ユースケース 1 輸血実施(在庫なし) トレーサビリティグラフ
時間の流れ
2007年7月25日
血液製剤
ー
血
液
セ
ン
タ
6:00
12:00
採 採血
血 受渡
6:00
12:00
製 原料
剤 受入
2007年8月1日
18:00
6:00
18:00
検査部にフリー
在庫が存在して
いないため、
血液センター
に発注
採血番号から
製剤番号に書換を
実施した
製剤
出荷
12:00
医師から輸血の
指示が出た
採血室から製剤課へ
原料血液を受け渡した
製剤
登録
供 供給
給 受入
払出
輸血指示
指示 病 病
出し 棟 院
指示
受け
請求
受付 検
査
発注 部
供 血 指
受注 給 液
示
払出
血液センターから
払い出された血液製剤は
輸血指示と紐付けられる
病 検
院 査 納品
部
セ
ン
タ
ー
製
剤
の
流
れ
2007年7月31日
18:00
の
流
れ
在庫
確保
検査
製剤
割当
凡例
出庫
血液センターにおける採血
病 実施
棟 開始
輸血が終了し、
血液製剤が
使用完了
血液センターにおける血液製剤
病院における輸血用血液製剤
輸血指示に関する業務
実施
終了
5.2.3.2 まとめ
実証実験において、輸血指示で発番されたオーダ No.(と紐付けされている製剤 No.)あるいは直接
製剤番号から、血液製剤の所在をリアルタイムに把握することができるとともに、該当する血液製剤の
情報を参照して、患者に輸血実施できる血液製剤であるか否か事前に確認できることを検証した。
具体的には、輸血業務を 14 種類のユースケースに分類し、しかもこの 14 分類が輸血業務のすべて
を現しており、14 のユースケースすべてについて血液製剤を追跡することによって、実験システムでの
トレーサビリティが実現していることを検証した。
58
5.2.4 プライバシー保護
5.2.4.1 背景
現状、血液製剤の識別番号は採血時に割振られていて、血液製剤はこの番号のバーコードを貼付
することによって管理されている。この番号から供血者を特定することはできるが、血液センターでデー
タベースを厳重に管理しているため、関係者以外の第三者がその番号をもとに供血者を特定すること
はできないようになっている。従って、現在供血者のプライバシーは保護されている。
出荷後、血液製剤が検査で不適合となった場合、病院へ連絡するが、多少のタイムラグが生じるた
め、安全性向上を考えると、使用直前に病院から公衆回線のネットワークを介して、血液製剤の安全性
を確認できる仕組みが求められている。
しかし、採血時に割振った番号から、供血者の特定に結びつく恐れがあり、プライバシー保護の観
点から問題がある。
この問題を解決するためには、血液製剤の使用者が問い合わせる番号と採血時の番号を異なるよう
にして、直接採血時の番号にアクセスできないようにする必要がある。そのためには、相互の番号を対
応付ける仕組みを作るとともに、血液製剤の番号を付け替える必要があり、電子タグは書き換え可能で
あることから、この要求に電子タグは応えることができる。
血液に関連した情報の所在と情報のアクセス及び管理の仕組みは、以下のとおりである。
59
図-27 血液センターと病院の情報の流れ
血液センター
血液センター
職員
供血者情報
供血-製剤
紐付け情報
製剤情報
(血液センター内部用)
参照・更新
OK
内部DB
採血番号
製剤番号
上書き
製剤情報
(外部公開用)
外部DB
血液センター
病 院
病院
製剤情報
(病院物流情報)
参照OK
内部DB
医療情報
(輸血オーダー、看護支援)
供血者情報
医療
従事者
参照・更新
OK
外部DB
5.2.4.2 電子タグの導入及び採血と製剤の分割管理
実証実験の実験システムでは、血液センターでの情報が血液センター職員だけがアクセスできる内
部データベース(DB)と病院などの外部から(参照のみ)アクセスできる外部データベース(DB)に分か
れて管理されている。さらに、内部 DB においては採血時の供血者情報と血液製剤の情報を分離して
管理している。供血者情報と血液製剤の情報の間に、相互を関連付ける仕組み(供血―製剤紐付け
情報)があるため、製剤番号から直接供血者情報へたどり着けないようになっている。
60
一方、製剤パックに貼付している電子タグは、供血―製剤紐付け情報を用いて、採血時の番号から
製剤番号へ書き換える仕組みになっている。
このような仕組みをシステムとして構築することによって、供血者のプライバシー保護を実現している。
さらに、ハンディの電子タグリーダ/ライタにより、採血番号等の採血情報を電子タグに登録し、製剤
処理後、製剤情報から採血番号を製剤番号に書き換え(上書き)している様子を以下に示す。
図-28 製剤情報の書換
製剤番号:93M90Z0900
で製剤情報を電子タグに
上書き登録する
5.2.4.3 病院から血液製剤に関する情報をリアルタイムに参照
病院から輸血実施直前に公衆回線のインターネットを介して、血液センターの外部 DB に用意されて
いる製剤情報(外部公開用)を参照し、血液製剤の最新情報を確認できるようになっている。この確認
をした上で輸血を実施できるため、当該血液製剤が検査後不適合となった場合など輸血中止をするこ
とができ、輸血業務の安全性向上につながっている。
5.2.4.4 情報システムセキュリティ
実験システムに対してとられている情報セキュリティの処置について示す。
① 公衆回線のインターネット網を利用して実現
病院と血液センター間では、公衆回線のインターネットを利用している。セキュリティを確保する
ために、病院と血液センター間は暗号化された通信パケットでやり取りしている。
② データのセグメント管理
血液センター内や病院内でセグメントを定め、アクセス制御が可能な範囲、不可能な範囲をあ
らかじめ設定して、セキュリティを確保している。
③ 一般的なシステムセキュリティポリシー
1) 一般的なシステムセキュリティ
JIS では情報システムのセキュリティに対して、「JIS Q 27001:2006 情報技術-セキュリティ技
術-情報セキュリティマネジメントシステム-要求事項」で要求事項が挙げられており、この要求事
項に照らして、本実証実験で適用した。
従って、実証実験で開発・導入した実験システムは、JIS で定めた情報セキュリティの要求事項
61
に対応していることが分かる。
2) 電子タグに関するプライバシー保護
平成 16 年に総務省、経済産業省から「電子タグに関するプライバシー保護に関するガイドライ
ン」が示された。本実証実験ではこのガイドラインに照らし、使用した電子タグに対して適用した。
従って、プライバシー保護の対策を講じることによって、関係者以外の者が、採血者の情報や
患者の情報を見ることも、取り出すこともできないようになっている。
5.2.5 電子タグの耐環境性能
平成 17 年度に耐環境試験を行い、電子タグの形状や取り付け方法を取り決め、平成 18 年度には運
用試験の中で電子タグを取り扱う運用に関して取り決めた。
さらに実証実験の前提条件により、電子タグは病院で生理食塩水入り血液バッグから本物の血液バ
ッグに付け替えを行った。付け替えることで電子タグは血液センターの製剤工程と、病院での医療現場
の環境を継続して通過することができた。
そして平成 19 年度の 4 ヶ月に及ぶ実証実験の環境の中で故障した電子タグは一つもなかったこと
から、電子タグは血液製剤のおかれる環境に耐えうると結論付けられる。
実験で使用した電子タグの数と、故障数に関しては表-13、表-14 を参照
5.2.6 安全性
病院内では、血液請求から輸血実施までの一連の行為を「血液請求伝票」と「実施指示伝票」で行
い、両方の伝票を血液製剤番号で対応付けし、目視で確認している。一方、実験システムでは、輸血
業務において安全性と業務効率の向上を図るため、オーダ No.により一元管理している。
輸血業務においてオーダ No.で一元管理することにより、目視確認等の負荷が軽減されるとともに、
直前の変更や中止の指示に対して即座に対応が可能となり、患者や医療従事者は安全・安心の向上
を得ることができる。
また、輸血を実施する直前の時点で、血液センターへ輸血する血液製剤を確認することができ、患者取
り違えや血液製剤と患者の不適合などを未然に防ぐことにより、安全・安心の向上を得ることができる。
5.2.7 効率性
5.2.7.1 血液製剤管理の効率化
実験システムを導入することによって、血液製剤の個品管理がなされ、在庫を減らす効果が期待で
きる。また、在庫を効率よく管理することで、廃棄する血液製剤を減らすことができる可能性がある。
5.2.7.2 業務時間の短縮
システムの導入を検討する場合、効率性は重要な点であるが、実証実験では実験システムを単独で
運用することができないため、実験システムと従来の伝票による運用とを輸血業務の全工程について
比較することができなかった。
しかし、血液製剤の出庫業務や輸血実施業務の一部において、伝票記入等従来の作業時間と実験
システムの PDA 等の操作時間を計測した。
その結果、出庫業務については PDA による操作時間の方が少ないことが分かった。一方、輸血実
施業務においても、PDA による操作の作業時間の方が少なくなっており、システム導入による効率性向
上が期待できる。
しかし、輸血学会では輸血を実施する際、2 人でチェック確認するようになっており、現状 PDA 操作
に置き換えることは認められていない。輸血実施業務をシステム化(PDA 操作による代替等)するには
62
輸血学会の承認が必要であり、システム化には時間が掛かるかもしれない。
6.まとめ
6.1 結果
6.1.1 トレーサビリティ
輸血業務を 14 種類のユースケースに分類した。どの輸血業務も 14 種類のユースケースのいずれか
に該当する。輸血指示から始まり、輸血実施、中止や廃棄に到るまでの業務の流れにおいて、実証実
験の期間中に発生する輸血業務で使用する血液製剤を追跡し、血液製剤の所在が個々に確認できる
ことを検証し、トレーサビリティが実現していることを確認した。
6.1.2 プライバシー保護
プライバシー保護は、血液センター内で採血時の番号と製剤番号を付替えることで製剤番号から供
血者の情報にたどり着けないようにしたことや、病院等の外部からアクセスできる範囲を制限してアクセ
ス制御することで実現した。
JIS の情報セキュリティに関する要求事項や電子タグに関するプライバシー保護のガイドラインにそっ
て実験システムが構築されていることから、実験システムはプライバシー保護の機能を持っているとい
える。
6.1.3 耐環境性能
平成 17 年度の耐環境試験の結果をもとに、実証実験で使用する電子タグの種類や形状などを定
め、平成 19 年度実証実験を行った。電子タグが 4 ヶ月に及ぶ実証実験の中で血液製剤の環境に耐え
ることを証明した。
6.2 課題
平成 17、18 年度には電子タグを使用した血液管理システムを開発し、平成 19 年度には実証実験で
血液管理システムを実験システムとして採用した。実証実験の結果を踏まえた電子タグや血液管理シ
ステムに対する主な課題は以下のとおりである。このほかにも抽出した課題はあるが、それは添付資料
の課題一覧に示した。
6.2.1 安全確保のための運用ルール
実用の場面では、輸血管理システムが担保できる業務を考慮し、2 名による読み合わせ確認などが
義務付けられている。輸血業務については、今後血液管理システムの導入を考慮した、安全確保のた
めの運用ルールを検討していく必要がある。
6.2.2 電子タグの取り付け方法
実用の場面では、電子タグと血液バッグの耐久性を確保するために、血液バッグの製造工程で電子
タグを埋め込むなどの取り付け方法について検討が必要である。また、取り付け位置の工夫により、電
子タグ同士の干渉の問題も解決しなければならない。
6.2.3 製剤番号のコード体系
今後、血液製剤は国際的に流通することを考え、製剤番号のコード体系は世界標準を採用すること
が望まれる。
63
6.3 期待
電子タグに関してはその利用について様々な期待がある。その一部を以下に示す。
6.3.1 複数電子タグの一括読み込み
今回の実験の中では、個品管理のために一つ一つを読み取るやり方で実験を進めたが、複数の血
液製剤を一度に扱うような場合、まとめて読むなど、効率化が期待できる。
6.3.2 コスト
血液製剤は年間 500 万本強供給されている。(日本赤十字社公開資料より)今回の電子タグ
(13.56MHz 帯)は 500 円/枚程度であるが、年間 500 万個の単位では 100 円/枚程度となり実用化にも
期待がもてる。また、UHF 帯のタグについては今後流通量の増加が予想でき、さらに価格が低く抑えら
れることも期待できる。
6.3.3 記録媒体
実証実験の中では、ID のみを書き込んで個品管理を行ったが、電子タグが記録媒体であるという側
面に注目すると、個品の品質に関する情報を製造や流通の工程で記録していくなど品質管理への活
用が考えられる。うまく活用できれば品質の安定や向上に効果が期待できる。
7.結論
医療分野で電子タグが有効に利用できる業務として、血液流通を本サブテーマでは取り上げた。医療
分野には一般の流通業にはない特殊な要件が存在する。血液という生物(ヒト)由来製品を取り扱う上で
は考慮しなくてはならないプライバシーの問題があり、これは血液のトレーサビリティに対して相反する要
件である。また、血液の製剤工程には電子部品にとって苛酷な環境も存在する。この相反する 2 つの要
件と使用する電子タグの対環境性能の解決すべき問題に対し、課題の抽出と知見の蓄積を行った。
供血者のプライバシーの保護と血液製剤のトレーサビリティという、2 つの相反する要件を両立するた
めに実験で構築した仕組みの概要を振り返る。電子タグはバーコードにはない書き換え可能な機能を
持っており、採血番号から製剤番号にワンアクションで電子的に上書きすることで血液バッグからプライ
バシーにつながる情報を消し去る。一方、血液製剤のトレーサビリティを確保するために、外部から保
護された血液センター内部に採血に関する情報と採血と製剤の紐付け情報を保管し、遡及業務などで
利用できる情報を確保する。こうすることで電子タグの機能とネットワークの技術を活用したこの仕組み
によって相反する 2 つの要件を成立させた。
平成 17 年度に導入した血液センターの血液管理システムと平成 18 年度に導入した病院の輸血管
理システムを使い、リアルタイムで情報を共有しながらトレーサビリティとプライバシー保護を両立できる
仕組みが実際の輸血業務で成り立つことを確認した。さらに、平成 19 年度に実際の医療現場で 4 ヶ月
行われた実証実験により、この仕組みが中長期的に業務運用可能であることを確認し、実際の現場の
意見や運用に関する情報などを得ることができた。
血液製剤の製剤工程で電子タグが直面する厳しい環境には平成 17 年度に電子タグの耐環境試験
を行って厳しい環境で耐えうることを確認した。また、耐環境試験の結果から得た情報を活用すること
により、平成 19 年度における 4 ヶ月の実証実験の中でも電子タグが製剤工程と医療現場の環境に耐え
うることが確認できた。
実証実験で得た情報から考察した結果、電子タグを活用したこの仕組みが実際に医療現場で実現
することで患者や医療従事者の安全・安心を増すことが証明できた。実証実験で整備した血液製剤業
務・輸血業務の仕組みは、病院内はもちろんのこと、備蓄病院を遠隔地の中核にすえた緊急輸血体制
にも適用することが可能であり、さらにユビキタスネット技術を活用して情報共有を図れば、在宅輸血に
64
おいても医療安全や効率性に寄与するものと考えられる。
実証実験を通じて、電子タグに関する技術的な情報や運用に関する改善案などの情報を蓄積・分
析し、結果を知見として取りまとめることができた。こうして医療分野において電子タグが有効利用でき
ることが確認できた。
5)考察・今後の発展等
1.電子タグとシステムの実用化
1.1 電子タグ
電子タグを実用化するためには、電子タグと血液バッグの耐久性を確保するために、血液バッグの
製造工程で電子タグを埋め込むなどの取り付け方法について検討が必要である。また、取り付け位置
の工夫により、電子タグ同士の干渉の問題も解決しなければならない。
電子タグの貼付位置、貼付の仕方、貼付する時期、金属の影響を避ける工夫、あるいは使用した電
子タグの再利用など、電子タグが一連の血液管理業務の中で利用できるようにするためには、実用に
即したガイドラインが必要である。
1.2 血液管理システム
今後は実用化を目指すにあたり、電子カルテと連携、又はその一部として動作させることで、病院内
の医療情報の一元管理を図る。また、既存業務の業務改善を図り、より安全で効率よいよう業務に適合
させることが必要である。適用するケースを多くしてテスト事例を増やし、ノウハウを蓄積して、血液管理
業務への適合性を上げ、医療現場で血液管理システムを使用する医師、看護師、検査技師の方々か
ら、安全性、利便性、効率性などの多くの面で今以上に信頼されるシステムに磨き上げる必要がある。
2.システムの適用
2.1 血液備蓄病院
岩手県赤十字血液センター、盛岡赤十字病院とほかの病院(盛岡以外の中核都市(宮古、大船渡
等)の病院)とをネットワークで結び、中核都市の病院に血液備蓄機能を持たせることによって、緊急輸
血が必要なときの輸血業務の支援と安全性の向上等を図り、岩手県全域にわたりより迅速に血液を供
給することが可能になる。
面積が広く冬季などに交通手段が不自由になる岩手県では備蓄病院という仕組みがある。緊急時
に遠隔地でも血液製剤を迅速に供給するため、緊急用在庫を持ち血液センターの指示で各病院に供
給している。
65
図-29 備蓄病院の仕組み(1)
岩手県
血液センター
地域で4本の
血液在庫
約2時間
備蓄病院
遠隔地域
血液の流通をスムーズにするため血液情報をベッドサイドまで管理し、共有することで地域の血液製
剤の在庫を把握できる。温度管理が確実に行われれば、遠隔地の病院間で血液の融通を可能にし、
備蓄病院で在庫血液を減らすことができる。これにより緊急用在庫の廃棄を減らすことが期待できる。
図-30 備蓄病院の仕組み(2)
岩手県
血液センター
地域で4本の
血液在庫
約2時間
融
通
備蓄病院
融通
遠隔地域
66
① 背景(岩手県の特殊な事情)
岩手県は面積が広く、四国と同じくらいの広さがある。血液センターは岩手県の内陸に位置する盛岡市にあ
る。鉄道網は東北新幹線が岩手県を縦貫しているが、特に沿岸部に向かうには在来線しかなく、在来線は本
数も少なく移動にも時間がかかる。道路網は東北自動車道が岩手県を縦貫しているが、沿岸部へは一般道を
使って山間部を越えることになる。冬季は山間部で特に積雪があり、また低い気温により平野部においても路
面凍結するなど交通事情がさらに悪くなる。
そのような交通事情により血液の供給には、血液センターからの運搬に時間のかかる時期、地域がある。
② 備蓄病院とは
血液センターから運搬したのでは間に合わない可能性のある患者が発生した場合、その地
域にあらかじめ血液が用意されていれば、助かる可能性が増す。
岩手県赤十字血液センターでは、遠隔地域について備蓄病院を指定して、血液センターか
らの搬送が間に合わないと判断した場合に、備蓄病院から血液を搬送できるようにしている。
備蓄病院のある場所は、千厩、岩井、岩佐、北上、遠野、久慈、二戸、宮古、釜石、大船渡で
ある。これら地域の病院で血液をストックしておき、必要に応じて出庫する。
病院は冷蔵庫、冷凍庫の一角を血液センターに提供し、備蓄血液を保管している。血液セン
ターからの連絡により、病院の血液管理担当者は備蓄血液を払い出す。緊急輸血の必要な患
者が発生した場合、受け入れた医療機関から、直接備蓄病院に連絡が来ることはない。備蓄病
院はあくまで血液センターの指示に従って、血液製剤を払い出す。払い出された血液は血液セ
ンターから搬送するよりも短い時間で患者の元に届けられ、通常通り輸血される。
③ 備蓄病院に関する考察
今回の実証実験で用いられた管理方法、すなわち電子タグによる安全管理やネットワークに
よる安全管理は、このような遠隔地での血液管理にも適用可能である。
血液センターから遠隔地で血液が出庫されるときに、あるいは使用されるときに、今回の実験
システムが持つリアルタイムの安全チェック機能は遠隔地でも可能で、輸血の安全性に寄与す
ると考られる。例えば備蓄病院から払い出すときに、安全性をチェックできる電子タグリーダを備
えておけば、そのタイミングで使用できる血液に取り替えることができる。また、使用するときに安
全性がチェックできれば、危険な血液を輸血してしまう事故を未然に防ぐことができる。さらに温
度センサーを備えた電子タグが実用化された場合、血液センターを出た後の温度管理のレベ
ルが高くなり、品質保証につながる。
④ 地域医療連携に寄与
備蓄という考え方は血液を供給する上で現在可能な方法のひとつである。この備蓄に電子タ
グとトレーサビリティの仕組みを導入すれば、地域医療のネットワークを促進することになると考
えられる。例えばトレーサビリティの仕組みは、血液センターから払い出された血液バッグの、払
出先と使用状況が把握できる。必要な地域でどれくらいの血液が集められるのか、短時間で把
握が可能である。速やかに各病院の在庫状況を確認し、一番早く血液を確保できる病院を特
定することも可能となる。
このように地域医療のネットワークを拡大できれば、病院間での血液の転用も可能になる。転
用に関しては現在の血液供給の仕組みの中では管理の問題など、改善しなければならない点
もあるが、トレーサビリティが確保(管理)されていれば、病院間の転用は検討するに値する。
67
2.2 在宅輸血
輸血は患者の容態を見ながら行う必要があるため、病院の病棟で行うことが原則となっている。血液
疾患などで定期的に輸血が必要な患者は、医師の指示により看護師が自宅で輸血を行うことも可能な
場合であっても、通院してもらい輸血を行っている。そして通院が不可能な場合には入院することにな
る。入院期間の短縮や在宅医療が進むなか、輸血に関しても在宅輸血の必要性が高まっている。医師
の指示や患者の確認が可能で、血液製剤の温度管理が十分に行われ、安全な輸血ができれば在宅
での輸血も可能である。
血液製剤の品質を確保するための温度管理や、クロスチェック以後実施までの安全確保が、十分に
行われることが在宅輸血の課題ではあるが、電子タグとネットワークを用いた輸血管理の考え方を拡大
し、病院外での血液の安全性とプライバシーを確保するために携帯電話のネットワークを利用すること
ができれば、在宅輸血は実現可能となる。
例えば、医師の指示に基づく輸血であることが明確となり、輸血チェック用 PDA に接続した携帯電話
のネットワークを使って、輸血の実施内容や、血液の安全性の情報をリアルタイムに確認すれば、在宅
輸血の安全が確保できる。
在宅輸血の可能性は、体の不自由な患者と、僻地における遠隔医療の可能性を広げることへの期
待にもつながると考えられる。
2.3 医療分野及び他分野への展開
電子タグとネットワークを使ったこの仕組みは、実際の医療行為を起点に電子タグを操作すること
で、血液のトレーサビリティが確保できるだけでなく、医療行為そのものの安全(行為の安全・血液製剤
の安全)確認ができ、医療事故防止に役立つ。
血液に関するこの仕組みを医薬品に適用することによって、工程管理や物流管理を可能にするトレ
ーサビリティと、プライバシーのような公開したくない情報の保護を同時に実現できれば、血液を含む医
薬品について流通から医療機関のベットサイドまでの情報共有と情報提供が可能となり、医療行為の
大きな流れのなかでトレーサビリティが可能になってくる。
さらに、この仕組みは共通でコアとなるもの持っているため、医療以外のほかの分野にも応用するこ
とができる。
6)関連特許
該当なし
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
13 件
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
【国内誌】(国内英文誌を含む)
①秋山昌範、名和 肇、鈴木明彦:「電子タグによるトレーサビリティ確保とプライバシー保護」,医療情報
学27(Suppl):277-280, (2007)
68
②秋山昌範、土屋文人、Simeon George:「医薬品・医薬材料等のトレーサビリティ」,医療情報学 27
(Suppl):233-234, (2007)
③秋山昌範:医療安全のためのトレーサビリティと経営管理-国際動向を踏まえて-」,医科機器学6
77(6): 372-380, (2007)
④鈴木明彦,高野長邦, 阿部知博, 浅沼宏子, 中島 毅, 秋山昌範:「病院内におけるトレーサビリティ」,
医療情報学 27(Suppl):, (2007)
⑤秋山昌範、名和 肇、鈴木明彦:「血液のトレーサビリティとプライバシー保護に関する研究」,医療情報
学26 (Suppl.): 612-615, (2006)
⑥鈴木明彦,高野長邦, 阿部知博, 浅沼宏子, 中島 毅, 秋山昌範:「一般病院におけるバーコード・電
子タグの利活用の現状」, 医療情報学 26 (Suppl.): 144-145, (2006)
⑦秋山昌範、田中 博 , 土屋文人, 名和 肇:「医療分野における電子タグ利活用のための実証実験」,
医療情報学 26 (Suppl.): 146-149, (2006)
⑧秋山昌範:「物流システム改革による電子カルテシステムの経済的効果-ゼロ在庫を目指すためのユ
ビキタス情報システム-」, 病院設備 48(2): 111-112, (2006)
⑨秋山昌範:「医療安全と経営効率化に効果を生むシステム構築」, IT Vision 11:8-11, (2006)
【国外誌】
①Orii T, Tsuchiya F, Akiyama M, Ochiai C:「TRACEABILITY SYSTEM FOR DRUGS UTILIZING
ELECTRONIC TAGS IN MEDICAL FIELD -STUDY ON A LIFECYCLE MANAGEMENT SYSTEM
OF DRUGS IN HOSPITALS-」World Congress of Pharmacy and Pharmaceutical Science 2008,
ABSTRACT, 126, (2008)
②Akiyama M:「Risk Management and Measuring Productivity with POAS - Point of Act System. A
Medical Information System as ERP (Enterprise Resource Planning) for Hospital Management」,
Methods Inf Med, 46(6): 686-93,(2007)
③Akiyama M, Kondo T.:「Risk management and measuring productivity with POAS--point of act system」,
Medinfo;12(Pt 1): 208-12, (2007)
④Akiyama M. :「Risk Management and Measuring Productivity with POAS - Point of Act System -」, 14:
pp321-324, International Federation for Medical and Biological Engineering (IFMBE) Proceedings
ISSN: 1727-1983, ISBN:3-540-36839-6 Springer, Berlin Heidelberg New York. (2006)
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
69
(3)サブテーマ3:医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理に関する研究
(分担研究者名:田中 博 、所属機関名:国立大学法人 東京医科歯科大学 )
1)要旨
電子タグやセンサネットワーク技術の医療への適用に関する国内外事例や技術動向について調査し、
その結果を踏まえて実証実験を実施して、ユビキタスネットワーク技術・センサネットワーク技術の利活用
が医療ミスの防止に対して有効であることを実証する。さらに、現場への適用に際し、具体化と工夫を凝ら
すことにより、最適な適用形態や適用方式を探求する。加えて、その際に懸念されるセキュリティやプライ
バシー管理等の患者情報管理に求められる要件を明確にする。
2)目標と目標に対する結果
電子タグ、センサネットなどの医療への適用に関する国内外事例を、文献、インターネット、学会発表
や国際会議を中心に調査した。平成 19 年度の調査に対し、患者安全を目的とした誤投薬防止などの事
例については、電子タグの活用が低調であることがわかった。本実証実験においては、医療ミス防止を対
象としており、本研究の先進性と研究方向の妥当性が確認できた。
病室における看護師、患者、薬剤について、電子タグを活用することで、看護師に負担を与えることな
く、状態を把握する方式の検討を実施した。
まず、東京医科歯科大学は、周波数の異なる電子タグを使用した性能測定実験を実施し、上記方式を
検証の際に使用する電子タグを選定した。日立製作所は、東京医科歯科大学が周波数の異なる電子タ
グを使用した性能測定実験を実施するにあたり、電子タグ性能測定実験の実験環境を整備した。
また、東京医科歯科大学は、医療用カートと選定した電子タグの読み取り装置を組み合わせた実証実
験システム(以降、インテリジェントカートシステムと記述する)を用いて、看護師による与薬(処置)の場面
を実験対象シーンとして、患者間違いや薬剤間違いなどに関する実験方法や評価方法を策定し、実証
実験での検証を実施した。日立製作所は、東京医科歯科大学が策定した機能要件に基づき、インテリジ
ェントカートシステムを構成する各機能(位置情報の認識、個品認識、輸液パックの装填状態の認識、
カート PC による看護師支援機能、処置状態の管理機能)の開発を実施し、インテリジェントカートシステム
を構築した。さらに、インテリジェントカートシステムを用いた実証実験実施にあたり、実施支援及び評価
支援を実施した。その結果、医療ミス防止における有効性を示すことができた。
さらに、バーコードシステムと電子タグを利用したインテリジェントカートシステムを比較し、看護師の業
務負担軽減に関する検証を実施し、患者と看護師と薬剤の確認、いわゆる 3 点確認の認証部分におい
て、業務効率化を示すことができた。
医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理に関する研究において、平成 19 年度は、「病室
内の患者ベッドサイドの IT 化による医療ミス防止及び業務サポートの実現」というテーマのもと、安全・安
心な医療の実現と効率的な医療の提供を目指し、研究を推進してきた。
医療への適用に関する国内外事例や技術動向の調査を実施し、臨床現場での電子タグ技術や無線
ネットワーク技術の統合的活用による医療事故防止の先行研究が、十分なされていないことを把握した。
そのことにより、医療現場で利用できる医療ミス防止システムの必要性を再認識し、ユビキタスネット技
術による医療情報空間を実現する要素技術の確立の一環として、対象に病室を含めた空間に拡大し、病
室にいる患者や管理対象物(医薬品、医療用機器、医療用消耗品)の状態を、できるだけ医療従事者の
手をかけることなく把握するインテリジェントカートシステムの開発に至った。
本研究で開発したインテリジェントカートシステムを用いて、医療業務に沿った実証実験を行い、本シス
テムの実現可能性の確認を実施した。また、システムの実現性の確認の過程で明らかになった、電子タ
70
グの性能面での課題や、セキュリティやプライバシー管理等の問題についての管理方式についてもあわ
せて検討し、求められる要件を明確化した。
よって、平成 19 年度の目標に掲げたシステム開発及び実証実験実施において、より精度の高い実験
計画を策定し、実験システム開発及び実現可能性の検証を実施し、十分な成果をあげることができた。
3)研究方法/調査方法
電子タグの小型化やセンサネット技術の普及など、医療のユビキタス化に向けた IT 技術やユビキタス
ネット技術の進展が著しい。医療分野におけるユビキタスネット技術適用の目的には、医療ミス防止、医
療従事者の業務負担軽減などが挙げられるが、医療の世界での情報は高度な個人情報であり、数多く
の電子タグが無線により患者情報を伝達する世界では、高度なセキュリティとプライバシー管理が必要と
される。
本研究項目では、国内外における医療ミスの防止を目的とした電子タグやセンサネット技術の利活用
用途の調査・研究を実施する。また、医療ミス防止を目的としたユビキタスネット技術、特に電子タグ及び
センサネットワークの利活用の有効性を実証することを目的とした実証実験を実施する。さらに、その際に
懸念されるセキュリティ、プライバシー管理等の患者情報管理に求められる要件を明確化する。
1.医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理関連情報収集ならびに実証実験
医療ミス防止を目的とした電子タグやセンサネット利活用と情報管理に関する研究の研究統括を実
施する。また、電子タグやセンサネットの医療への適用に関する国内外事例調査の実施、開発システ
ムの機能要件の明確化、ならびに開発システムを用いた実証実験を実施し、実用化に向けた検証を行
う。さらに、セキュリティやプライバシーに関して、検討及び調査を実施し、患者情報管理に求められる
要件を明確化する。
2.医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用と情報管理システムに関する実証実験システム構築
と実証実験支援
医療ミス防止を目的とした電子タグやセンサネットの開発システムの機能要件に基づき開発するとと
もに、実証実験システムを構築する。また、実証実験の実施に伴い、技術的支援を実施する。
4)研究結果
1.国内外における電子タグ、センサネットの医療への適用事例調査
1.1 調査方法、調査対象の概要
国内外における電子タグ、センサネットの医療への適用事例調査として表-17 に示す調査対象にお
いて事例調査を実施した。電子タグを医薬品や患者に貼付し、医療ミス防止を図る適用事例について
は、主に「電子タグ・リーダ利用に関わる電磁波などによる医薬品への影響調査に関する研究」ならび
に「医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などのライフサイクル管理に関する研究」にお
ける事例調査で調査したが、本研究においては、電子タグやセンサタグから電子タグの位置情報やセ
ンサの情報を収集、利用する適用事例について調査を行った。
71
表-17 事例調査対象(再掲)
事例調査対象
対象
調査方法
先進的事例の個別調査
国内
国内の先進事例を個別調査。
医療情報関連学会、シンポ
国内
下記学会、シンポジウム等での発表、展示、論文内容
ジウム等の発表、展示、論
海外
を調査。
文
・第 11 回日本医療情報学会春季学術大会
(平成 19 年 6 月 15 日~16 日)
・第 17 回日本医療薬学会年会
(平成 19 年 9 月 29 日~30 日)
・第 27 回医療情報学連合大会
(平成 19 年 11 月 23 日~25 日)
・HIMSS AsiaPac07 Conference & Exhibition
(平成 19 年 5 月 15 日~18 日)
・12th World Congress on Health(Medical) Informatics
(Medinfo 2007)
(平成 19 年 8 月 20 日~24 日)
・Hospital Management Asia2007(HMA 2007)
(平成 19 年 8 月 29 日~9 月 2 日)
・The World of Health IT Conference & Exhibition 2007
(平成 19 年 10 月 22 日~25 日)
インターネット上での
国内
「RFID JOURNAL」、「日経 RFID テクノロジ Express」等
ニュース記事
海外
からインターネット上のニュース記事を抽出。
72
1.2 国内外における電子タグ、センサネットの医療への適用事例
国内外における電子タグの医療現場での応用事例について調査を実施した結果を表-18 に示す。
表-18 電子タグの医療現場での応用例調査結果
医療機関名
内容
秋田大学医学部附属病院
日本電気株式会社と共同で電子タグ(センサ付き高機能電子タグ)を
日本電気株式会社
用いた予兆を主としたインシデント管理を目的とした実証実験。
実験ケースは下記の 5 ケースである。
・ケース 1:注射時の患者取り違え防止
・ケース 2:手術室での患者取り違え防止
・ケース 3:患者の見守り(転倒・急変検知)
・ケース 4:医療機器の所在、状態の管理
・ケース 5:血液製剤の輸送時の温度管理
国立大学法人信州大学医学部附 三井情報と国立大学法人信州大学医学部附属病院、長野県工業技
属病院
術総合センター、ズーにてコンソーシアムを設立し、医療現場での生
産性向上の実現に向け、アクティブ電子タグを用いた研究開発・適用
実証を行う。事業では、アクティブ電子タグを用いた「所在管理・位置
確認システム」を医療現場で安全に活用するための研究開発・適用
実証を実施し、医療現場におけるサービスプロセスの改善を図る。具
体的には、管理が煩雑な貸出し医療機器の 80%を占める人工呼吸
器、輸液ポンプ、シリンジポンプにアクティブ電子タグを装着し、実際
の医療現場において機器の所在管理、探査機能の有効性を検証す
るもの。このため、「貸出し医療機器の所在・移動履歴の集中管理機
能」「モバイル機を用いた特定の医療機器の探査機能(保守点検機
器の探索など)」「定期保守管理など機器管理カルテシステム」につ
いて、適用有効性についてフィールド試験を実施する。
八戸工業高等専門学校
「貸出用器具管理システム」と「手術用器具管理システム」の開発。器
(非医療機関)
具使用期限の管理、器具の現在位置把握。手術用器具の置き忘れ
防止目的。
近江八幡市立総合医療センター 小山株式会社と IBM、電子タグ(セラミック IC タグ)を利用した医療用
リネンレンタルシステムを稼働中。
恩賜財団福井県済生会病院
医薬品・医療材料・医療機器・ドキュメントに対し適用。株式会社エフ
イーシー、野村総合研究所、明祥株式会社、有限会社アプリサイエ
ンス
73
医療機関名
内容
台湾 基隆病院
・CGMH では、電子タグシステムを手術室に導入することにより、患者
Chang-Gung Memorial Hospital
の確認と明確な特定、リアルタイム・データの収集が可能となり、部位
(CGMH)
誤認及び患者誤認手術のリスクが低減され、患者安全手順又は標準
手術手順に確実に準拠できるようになったため、患者の安全が向上
した。電子タグの導入以降、CGMH では手術室における患者 ID 確認
精度 100 パーセントが達成されている。
・新たな電子タグシステムでは、これまでの手術室におけるプロセス
では手動で行われていた多数の機能が自動化されている。このシス
テムでは、手術自体や手術部位だけでなく、薬物治療の安全性確保
のために確認が必要とされる 5 つの項目(患者、薬剤、投薬量、時間
及び経路)の検証も支援されている。
・患者データの検証プロセスを自動化することで、CGMH の医療スタ
ッフは、患者 1 人当たり平均 4.3 分の対応時間削減を実現した。ま
た、データ収集の自動化は、検知されなければ医療ミスにつながる可
能性のある手入力ミスの防止にも貢献している。
・標準手術手順への準拠やリアルタイムの例外アラートが実現したほ
か、口頭確認や患者・薬物・標本の ID データ手入力に関連するミス
を低減できるということが、システム導入の大きな利点。新たな電子タ
グシステムの導入以降、患者の確認に関するミスは起きていないこと
から、これは大きな成果である。
センサネットの医療現場での応用例を調査したが、医療現場での応用例は見つけることができなか
ったものの、医療に近い応用例として健康管理システム(メタボリック健康チェックシステム)の事例を表
-19 に示す。
表-19 センサネットの医療現場での応用例調査結果
医療機関名
内容
株式会社日立製作所
体組成計などの健康機器の計測値を ZigBee 経由で日々収集する試作シス
(非医療機関)
テム「メタボリック健康チェックサービス」をデモ展示している。タニタと共同開
発を進めている ZigBee 搭載の健康機器を使用し、健保向けのサービス実現
に向けた実証実験を行っているという。2007 年 7 月 18 日~20 日に東京ビッ
クサイトでの「ワイヤレスジャパン 2007」にて展示。
74
2.平成 17 年度の実施内容
本実証実験は平成 17 年度から平成 19 年度の 3 ヶ年計画で実施した。ここでは平成 17 年度の実施
内容の概要を説明する。
2.1 実施概要
平成 17 年度は患者をストレッチャーで移送する際に患者の状態が急変し、異常の発見が遅れること
を防止するため、移送中の患者に対して、呼吸及び心拍の状態をモニタリングし、異常時に医療者に
警告するワイヤレス呼吸モニタリングシステムを試作した。このシステムは特に、全身麻酔手術後など、
麻酔の影響により呼吸状態などが不安定な患者の移送時に、状態変化の見逃しによる呼吸停止事故
を回避するために有効である。本システムでは、移動中の呼吸状態を搬送中の医療者だけではなく、
ナースステーションや手術室など、ネットワークを介し、複数の場所で同時に医療者がモニタリングでき
る。平成 17 年度に行った主な内容は次のとおりである。
2.1.1 ワイヤレス呼吸停止アラートシステムの設計
呼吸及び心拍信号を計測するマット型センサ及び計測システムユニットと、得られたデータをワイヤ
レスで伝送し、計測データやアラート表示を行う、伝送・表示ユニットからなるワイヤレス呼吸停止アラー
トシステムを設計した。
2.1.2 基本動作確認のための試作及び基本動作の確認
計測システムユニットは、エアマット、超高感度圧力センサ、アナログ信号処理ボードとデジタル信号
処理ボードからなる計測システムで構成される。エアマットから伝わる生体信号を圧力センサで感知し、
得られた複合信号を周波数帯域別に呼吸・心拍成分に分離し、各成分の計測を行う。本システムはす
でに睡眠パターンの測定や、車の運転時における健康状態の把握に用いられている。この基本技術
を用い、病院内での使用を目的として、ストレッチャーなど移動中での呼吸・心拍モニタリングを可能と
するシステム開発を行った。伝送・表示ユニットは、計測ユニットからの呼吸数、心拍数、呼吸状態デー
タをエージェントプロセッサ BOX(センサステーション)を介してパケット化し、病院内に敷設した無線
LAN に向けて送信する。これを PC などで受信し、呼吸・心拍状態のモニタリング及び無呼吸時のアラ
ートを行うシステムを試作し、基本動作の確認を行った。
2.2 結果
本ストレッチャーシステムに仰臥位で被験者を乗せ、静止時で生体情報の計測を行った。呼吸、心
拍ともに心電計や呼吸計によるリファレンスデータとほぼ同じデータが得られた。また、被験者が 10 秒
程度呼吸を停止すると、即時に呼吸停止を検出し、システム本体のビープ音アラートが鳴り、それと同
時に PC 上でもほぼリアルタイムに呼吸停止アラート画面が表示された。
2.3 課題
停止時での呼吸心拍モニタリングは可能であったが、移動中、特にストレッチャー移送時の振動ノイ
ズの影響を除去し、無呼吸状態の確実な検出及び呼吸数、心拍数の精度向上が必要である。また、ス
トレッチャーで移送している患者名や搬送者(看護師)などの情報等を患者及び搬送者に負担をかけ
ずに取得する必要がある。
75
3.平成 18 年度の実施内容
本実証実験は平成 17 年度から平成 19 年度の 3 ヶ年計画で実施した。ここでは平成 18 年度の実施
内容の概要を説明する。
3.1 実施概要
平成 17 年度は、ストレッチャーによる患者移送時に患者のバイタルデータ(呼吸数、心拍数)をモニ
タする「ワイヤレス呼吸停止アラートシステム」の基本機能を開発した。平成 18 年度は、現場での利用
場面を考慮し、本システムにて実現すべき機能を検討し、開発及び実験を行った。その開発項目を以
下に示す。
3.1.1 エアマット型センサの計測精度向上
ストレッチャー移送時には、バイタル(呼吸・心拍)情報検出の障害となる路面の凹凸・左右への揺れ
・患者の動き等によるノイズが多く発生する。移動時に検出したバイタル信号には、本ノイズ信号が多く
含まれ、バイタル情報の計測は困難である。そのため、上記ノイズによるバイタル信号への影響を軽減
する改良を加える。
3.1.2 電子タグによる患者識別機能の追加
平成 17 年度のシステムにおいては、ストレッチャー上にいる患者を自動的に認識する機能は実装さ
れていない。このため、患者に異常が発生した場合、患者情報を即座に関係者に通知することができ
ない。この対応として、電子タグを利用して、患者 ID を自動的に読み込み、異常が発生した患者の情
報を即座に把握できる機能を追加する。
また、ストレッチャー上に患者が存在しない場合、ノイズ等により無呼吸を誤検知することを防ぐととも
に、患者がストレッチャーに乗った時に患者 ID 用のタグを読み取る合図とするため、離床センサ(スイッ
チ)を使用した患者乗り降り検知機能を追加する。
3.1.3 センサデータ(バイタルデータ、電子タグ)の ZigBee ネットワーク転送
平成 17 年度のシステムとしては、バイタルデータの表示制御ユニットへの転送は無線 LAN を利用し
て実施した。平成 18 年度は、電波送信強度が弱く、電力消費が少ない、アドホック通信が可能、などの
特徴を持つ ZigBee ネットワークが医療現場において有効な技術であることから、その有効性を検証す
るため、システム化する。
3.1.4 ZigBee タグによる患者位置情報の検知
ストレッチャー上の患者に異常が発生した場合、関係者が迅速な対応を行うためには、その患者、
すなわちストレッチャーの位置を知らなければならない。そこで、患者位置情報を把握する位置情報検
知システムを実装する。
3.2 結果
平成 18 年度に開発した項目の実験結果について以下に示す。
3.2.1 生体情報計測実験(アルゴリズムの改良、ノイズ除去)
ストレッチャー移送中の振動の影響を受けながらでも、誤認識なく無呼吸を検知できた。複数回にお
ける実験でも、ほぼ 100%の検出割合を得られており、従来のアルゴリズムでは検出できなかった波形
でも判定が可能となった。
76
3.2.2 呼吸停止警告システムの接続動作実験
患者の氏名及び検知時刻、呼吸数、心拍数、呼吸状態が 15 秒間隔で表示され、呼吸停止時は赤
字の警告画面が表示された。また搬送者がこれらの警告情報をもとに、患者の呼吸停止時など、他の
医療者に連絡して早期に緊急事態に対応できる緊急通報機能が有効であることが分かった。
3.2.3 電子タグによる患者 ID 読み取り実験
電子タグの読み取り時間は、ストレッチャー乗車後、ほぼすべての場合 15 秒以内で認識し、ほぼリアル
タイムでモニタリング画面に表示された。読み取り角度は、リーダに対しタグが垂直に面した場合が最も認
識しやすく、電子タグが腕の上部にある場合は、リーダまでの距離が遠く角度も平行になるため、読み
取りはやや困難であった。2 つの ID を読み取らせた場合では、患者 ID は unknown と表示され、再度
読み取りを促す警告音がなった。その後最初に読み取った被験者の ID を正しく表示した。
3.2.4 ZigBee による位置検知実験
本実験ではリアルタイムに位置情報を取得できた。また、本ロケーションタグの仕様は屋内約 30m 屋
外約 70m(見通し)であることから、十分な仕様であった。また位置検知の精度誤差は±10m 程度であ
った。誤差はあるものの、広い病院内において、およその位置は把握できることは大変有用であり、今
後の利用可能性が示唆された。
ストレッチャーやその他の金属の影響や、設置位置、移動スピードなどにより、検知の精度が変化す
ることから、それらの影響因子を調査する必要がある。
3.2.5 ZigBee ネットワークによる伝送実験
ZigBee モジュールによる、すべてのデータの伝送が可能であった。
まず、離床センサのデータが伝送され、その後電子タグ・リーダで読み取った患者 ID 情報を表示す
ると同時に、15 秒間隔でモニタリング端末にバイタルデータが表示された。
これらの実験結果より、スマートストレッチャーで得られるデータの伝送に ZigBee ネットワークを適用
した場合でも十分利用可能であることが示唆された。
3.3 課題
平成 18 年度の研究では、主に患者運搬用ストレッチャーにセンサ及びネットワーク技術を利用した
システム開発を行った。本研究は、ユビキタス医療の一つの応用事例研究であり、病院内、特に廊下
や病室と病院内の他の場所への移送時の利用から、さらに、最も医療ミスの発生頻度の高い臨床現場
である、病室への応用へと移行し、実験の拡大を図る。よって、前年度の研究成果を踏まえ、今年度は
病室でのセンサ及びネットワークの医療により、医療ミスを防止するシステムの構築を行った。
4.平成 19 年度の実施内容
本実証実験は平成 17 年度から平成 19 年度の 3 ヶ年計画で実施した。ここでは平成 19 年度の実施
内容を説明する。
4.1 実施概要
平成 19 年度は、医療現場におけるヒヤリ・ハット事例3が最も多いとされる看護師による病室での処方
3
ヒヤリ・ハット事例: ヒヤリ・ハット事例とは、患者に被害を及ぼすことはなかったが、日常診療の現場で
“ヒヤリ”としたり、“ハッ”としたりした経験を有する事例のことである。
77
・与薬の場面を想定し、医療ミス防止及び業務負担軽減を目的としたインテリジェントカートシステムを
東京医科歯科大学内の病室に構築し、実証実験を実施した。インテリジェントカートシステムは、電子
タグ(アクティブタグ、パッシブタグ)を使用して、患者、看護師、薬剤のいわゆる 3 点確認を看護師の負
担をかけずに実施できることを目標とした。
オーダ情報とのマッチング不正時(薬剤間違いなど)には、アラートを看護師に通知することで、医療ミス
防止に対する情報提供の有効性を検証した。また、インテリジェントカートシステムを利用した場合と、バー
コードシステムを利用した場合の業務時間とを比較することで、業務負担軽減に対する有効性を検証した。
4.2 実証実験の背景
4.2.1 適用シーン
医療現場におけるヒヤリ・ハット事例が最も多いとされるのは、看護師による病室での「処方・与薬」の
場面であり、その要因としては、「確認及び観察不十分」が約 40%を占めている。
このことから、インテリジェントカートシステムの適用シーンとしては、看護師が病室において処方・与薬を
実施する際の、確認及び観察の部分において電子タグを適用するシーンを想定し、実証実験を実施する。
4.2.2 病室における看護師の業務フロー
病室における看護師の業務フローとしては、注射、採血、点滴を実施する場合について取り上げる。
システム化範囲は病室内での業務とし、ナースステーションでの準備作業は含めない。病室における
看護師の業務の流れは病院により異なるが、本実証実験では、東京医科歯科大学付属病院での業務
フローをもとにした業務の流れを想定する。以下に例として注射における業務フローを示す。本実証実
験では、注射、採血、点滴、混在(注射、点滴)の業務を対象とする。
■ 注射
1) オーダ情報確認(サーバで確認)
2) 準備した注射器をトレイに載せる
3) トレイをカートに載せる
4) 医療用カートを持って入室する
5) 患者確認をする
6) 看護師確認をする
7) オーダ情報確認(カート上の PC で確認)
8) 医療用カートからトレイを取り出す(薬剤確認)
9) アルコール消毒をする
10) トレイから注射器を取り出す
11) 注射をする
12) アルコール綿で圧迫止血
13) 注射針を専用廃棄ボックスに入れる
14) 注射器をトレイに戻す
15) テープを貼る
16) トレイを医療用カートに戻す
17) 与薬完了確認をする(「完了」ボタン押下)
出典: 厚生労働省「リスクマネジメントマニュアル作成指針」
78
4.3 基礎実験
本実証実験で使用する電子タグを選定するために、基礎実験を実施した。基礎実験では、複数の
周波数帯の電子タグを用いて、それぞれ読取性能を測定・評価し、実験で使用する機能に応じて、適
切な電子タグを選定した。
4.3.1 実験日時
平成 19 年 6 月 27 日~平成 19 年 6 月 29 日
4.3.2 実験場所
東京医科歯科大学情報医科学センター2 階 ユビキタスルーム
4.3.3 実施内容
基礎実験では、実験システムの 4 つの機能を実現するために、実証実験で使用する電子タグの選定
(周波数選定)をすることを目的として、読取精度を測定した。
4.3.3.1 入退室管理・位置情報取得実現のための電子タグの選定
以下に示す内容で、読取精度を測定した。
表-20 基礎実験の実施内容(その 1)
#
目的
対象となる電子タグ
1
入退室管理、位置情報取得をするための
アクティブタグ
(300MHz 帯)
2
電子タグの選定
パッシブタグ
(UHF 帯)
主な測定方法としては、以下のとおりである。
1) 看護師と患者を想定して、人に電子タグを貼付して認識可能か測定する。
2) 医療用カートに電子タグを貼付して認識可能か測定する。
3) 病室入口で、入退室をした場合の電子タグの認識可否について測定する。
4) ベッドサイドで停止した場合の電子タグの認識可否について測定する。
5) 読取範囲及び読取距離を測定する。
測定の結果より、パッシブタグ(UHF 帯)は、入退室管理が困難であり、人に貼付した場合に読み取
りが困難であることから、読取精度のよいアクティブタグ(300MHz 帯)を選定した。
4.3.3.2 個品管理実現のための電子タグの選定
以下に示す内容で、読取精度を測定した。
表-21 基礎実験の実施内容(その 2)
#
1
2
3
目的
対象となる電子タグ
パッシブタグ(13.56MHz 帯)
薬剤の個品管理をするための
パッシブタグ(UHF 帯)
電子タグの選定
パッシブタグ(2.45GHz 帯)
79
主な測定方法としては、以下のとおりである。
1) 注射器に電子タグを貼付して読取精度を測定する。
2) 採血管に電子タグを貼付して読取精度を測定する。
3) 輸液パックに電子タグを貼付して読取精度を測定する。
4) 上記の医療材料の中身が、空の場合と充填の場合の読取精度を測定する。
測定の結果より、パッシブタグ(UHF 帯)とパッシブタグ(2.45GHz 帯)は、薬剤(輸液パック等)の水分
の影響で読み取りが困難であることから、読取精度の最もよいパッシブタグ(13.56MHz 帯)を選定した。
4.4 必要とされる機能とシステム動作
4.4.1 実験システムとして必要な機能
インテリジェントカートシステムは、看護師、薬剤、患者の 3 点確認時において、電子タグ(アクティブ
タグ、パッシブタグ)を使用して、看護師に負担を与えることなく医療ミスを防止するシステムである。ア
クティブタグは、看護師、患者、医療用カート、点滴台に貼付して位置と ID の両方を認識する。パッシ
ブタグは注射器、輸液パック、採血管の ID を認識する。これらの位置と ID がネットワークを経由してサ
ーバに通知される。この情報は、電子カルテシステムやオーダリングシステムなどから得られた情報(実
験ではダミーの情報を使用)の整合性を分析して、正しい処置がなされていることを確認、及び記録す
るシステムとなっている。処置のエラーをシステムが検知すると医療用カート上の PC にアラートメッセー
ジが表示され、医療従事者に通知する。また、看護師を支援するために、医療用カートの位置から、看
護師が確認すべき情報を自動的に医療用カート上の PC に表示する。
本実証実験システムでは、実験を実施する上で必要となる以下の機能を実現する。
4.4.1.1 位置情報の認識機能
医療用カート、患者、看護師、及び点滴台の位置を認識する。この機能により、看護師の患者確認
の支援及び患者取り間違いの防止を実現する。この機能を利用して入退室の状態も認識する。
4.4.1.2 個品認識機能
医療処置に用いる 13.56MHz 帯のパッシブタグが貼付されている注射器、採血管、輸液パックなどを
認識する。
4.4.1.3 輸液パックの装填状態の認識機能
点滴台に輸液パックが掛けられたことと外されたことを検知する。この機能により、点滴実施ミス等を
検知可能とする。
4.4.1.4 看護師支援機能
サーバと医療用カート上の PC と通信して、各種情報の入力及び表示するための機能である。
4.4.1.5 処置状態の管理機能
上記 4 つの機能によってとらえた、実験システムで発生する各種の事象を入力として、オーダごとの
状態遷移を把握し記録する。また、看護師の処置が正しく行われように支援する。
4.4.2 システム構成
実験システムの全体イメージを図-31 に示す。
80
図-31 システムイメージ図
:アクティブタ グ
:パッシブタグ
タグがトリ ガ磁 界の中 に進 入したら
位置情報 とタグIDを発 信
病室内のアク ティブタク ゙が
発信した情報の 読み取り
アクティブタグ
トリガ発生器
点滴台 に設置 したアク ティブタグが
位置情報 とタグIDを発 信
受信用アンテナ
サーバ
トリガーアンテナ(磁界発生装置)
オーダーリング
トリガ発生器
受信器
13.5 6MHzリーダアンテナ
PC
トリガアンテナ
13.5 6MHzリーダアンテナ
ベッドサイドエリアで医 療用カー トの
位置情報 とタグIDの 読み取り
トレイ
医療材料 のタ グID
の読み取り
通常は ID を発信しないが、トリガーアンテナ上のトリガー磁界内に入るとタグ ID とそのトリガーエリア
を示すエリア ID を発信する。この機能により、アクティブタグを保持した看護師、患者、点滴台、医療用
カートの位置を認識できる。アクティブタグは次のような動作をする。
1) トリガーアンテナ上に発生した磁界にタグが進入
2) タグは磁界からエリア ID を読み取り、エリア ID とタグ ID を発信
3) タグが発信したデータを、受信用アンテナを介して受信機が読み取る
4) 受信機は受信したデータを、ネットワークを経由してサーバ等に送信
4.4.3 与薬業務に沿ったシステム動作
注射の与薬業務フローにおける想定されるシステム動作を整理すると、次のとおりとなる。
4.4.3.1 ナースステーションでの準備作業
1) PC へのログイン
カート PC と看護師の対応が紐付けし、PC 画面にログイン者氏名を表示する。
2) オーダ情報確認
対象患者の入力することにより、オーダ情報を PC 画面に表示する。
3) 準備した注射器をトレイに載せる
システム動作なし。
4) トレイをカート上の 13.56MHz リーダアンテナの上に載せる
トレイ上の薬剤(個品)が電子タグ・リーダに読み取られることにより、オーダされている情報との
マッチングが行われ、誤りのチェックがされる。
81
4.4.3.2 病室内での作業
1) 医療用カートを持って入室する
看護師及びカートが病室の入り口付近(入退室トリガー)を通過することにより、看護師タグ及び
医療用カートのタグが位置と ID を発信する。サーバ・ソフトウェアが入室を判断し、医療用カート上
の PC の画面を入室した病室の患者一覧に自動的に切り替える。
2) 看護師がカートを患者ベッドサイドに移動させる
看護師タグ及び医療用カートのタグが位置と ID を発信する。サーバ・ソフトウェアが、カート PC
の画面をカートが移動した患者の画面に切り替える。この時、ベッドに正当な患者がいない場合は
警告メッセージを表示する。
3) 患者確認をする
看護師は、PC 上に表示された患者とベッドサイドにいる患者が一致することを確認して、PC か
ら「確認」ボタンをクリックする。これにより、該当患者のオーダ情報が表示される。
4) 看護師確認をする
カート PC にログインしている看護師が、カートが位置しているベッドにいることを確認し、いない
場合は警告メッセージを表示する。
5) オーダ情報確認(医療用カート上の PC で確認)
看護師が PC に表示されているオーダ情報とトレイの注射を目視にて確認する。
6) 医療用カートからトレイを取り出し、13.56MHz リーダアンテナの上に載せる(薬剤確認)
サーバ・ソフトウェアにより、読み取られた個品とオーダ内容のマッチングを行う。個品の ID 不
正、オーダ状態(指示受け)、時間指示、使用期限などチェックし、不正があれば警告メッセージを
表示する。正常であれば、開始時間を記録する。
7) 与薬の開始確認をする(「確認」ボタン押下)
サーバ・ソフトウェアにより、個品の不足を確認する。正常であれば、個品の状態を開始状態に
し、開始時刻を記録する。
8) トレイを医療用カート上の 13.56MHz リーダアンテナに載せる
サーバ・ソフトウェアにより、読み取られた個品とオーダ内容のマッチングを行う。個品の過不
足、オーダ状態(処置中)などをチェックし、不正があれば警告メッセージを表示する。
9) 与薬完了確認をする(「完了」ボタン押下)
サーバ・ソフトウェアにより、個品の不足を確認する。正常であれば、個品の状態を終了にし、終
了時刻を記録する。
10) 医療用カートを持って退室する
看護師及びカートが病室の入り口付近(入退室トリガー)を通過することにより、看護師タグ及び
医療用カートのタグが位置と ID を発信する。サーバ・ソフトウェアが退室を判断し、カート PC の画
面を病棟の患者一覧に自動的に切り替える。
4.4.4 機能ごとのシステム動作
実装された機能のシステム動作について以下に示す。
4.4.4.1 位置情報の取得機能
実験システムでは、入退室(病室)の認識とベッドエリアの位置情報を取得・管理している。
4.4.4.1.1 位置情報(ベッドエリア)の認識
アクティブタグを貼付している看護師、医療用カート、患者、点滴台がベッドエリアのトリガー磁界に入ると、
82
アクティブタグがタグ ID とトリガーエリア ID を発信して、アクティブタグ受信器を経由してサーバに通知される。
アクティブタグがトリガーエリアから抜けた場合はアクティブタグ受信器が検知してサーバに通知する。サーバ
は、これらの情報を逐次処理して位置情報を把握する。
患者、看護師、医療用カートの位置情報を認識することで、どの看護師がどの患者に処置をしようとしている
かを自動的に認識できる。
4.4.4.1.2 入退室(病室)の認識
アクティブタグが病室の外から内の順にトリガー磁界を通過した場合は入室、病室の内から外の順にトリ
ガー磁界を通過した場合は退室とシステムが判断し、情報を記録・保持する。
4.4.4.2 個品認識機能
パッシブタグ(13.56MHz 帯)が貼付されている注射器、採血管、輸液パックが入ったトレイごとに、電 子タ
グ・リーダで複数同時に読み取り、薬剤の個品情報を認識する。認識された情報は、サーバに送信され、オー
ダ情報とのマッチング処理をする。同時に処置の開始時刻及び終了時刻も記録する。
看護師は、処置前及び処置後に医療用カートに設置したリーダアンテナで電子タグを読み取らせ、オー
ダ情報どおりの処置かを確認できる。
4.4.4.3 輸液パックの装填状態の認識機能
輸液パックが点滴台に装填されたことを把握するため、点滴台のフック部分のマイクロスイッチにより、輸液
パックが掛けた状態か外している状態かの把握をする。この情報は、無線 LAN を経由してサーバに通知され
る。これは、点滴台の位置情報を利用して看護師が輸液パックを正しい点滴台に掛けたことを認識するために
必要となる。
4.4.4.4 看護師支援機能
サーバが医療用カート上の PC と通信して、実験システム上のオーダ状態に従って看護師とシステムサイド
とのインタフェースをとる。看護師に伝える情報(患者リスト、患者情報、オーダ情報等)やエラー通知を送信し
て医療用カート上の PC の画面に表示する。また、看護師がマウス及びキーボードからシステムに対して入力
した指示をサーバが受けて処理する。
4.4.4.5 処置状態の管理機能
実証実験システムで発生する各種の事象を入力として、オーダごとの状態遷移を司るための、一種のス
テート・マシンとしての機能である。この機能により、看護師が患者確認、看護師確認、与薬処置(開始、終了、
中止等)が正しく行われることを支援する。
4.4.5 開発内容
インテリジェントカートシステムでは、医療用カート上の PC で動作するクライアント・ソフトウェアとサーバ上で
動作するサーバ・ソフトウェアの開発を行った。以下に各ソフトウェアに実装した機能を示す。
4.4.5.1 クライアント・ソフトウェアの開発機能
クライアント・ソフトウェアは、医療用カート上の PC で稼動させるもので、以下の機能を持つ。
1) ログイン画面の表示
カート ID と看護師 ID とパスワードを入力してログインするための画面を表示する。
83
2) 病棟レイアウト画面の表示
ログインが完了して、病棟内の病室一覧を患者名とともに表示する画面である。各病室の入院
患者に関する情報はサーバから受信する。
3) 表示病室内ベッド画面の表示
医療用カートが入室した病室に入院している患者一覧を表示する画面で、病室にカートが入室
したことが検知されると自動的に表示する。入院患者に関する情報はサーバから受信する。
4) 患者確認画面の表示
患者に対する処置を行うために医療用カートをベッドサイドに位置付けたことが検知されると、
該当ベッドに入院している患者の情報が自動的に表示する。看護師により口頭での患者名確認
と、画面に表示された情報とのマッチング確認のための画面である。
5) オーダ処置リスト画面の表示
患者が確認されると、該当患者に対して出されている処置のオーダ情報一覧が表示される画面
である。オーダに関する情報はサーバから受信する。オーダごとに処置の進行に従って背景色を
替えて、そのオーダがどのステップまで進行しているかを示す。
また、処置前に電子タグを読み取り、オーダ内容を確認するボタン、及び処置後に完了を確認
するボタン、中止するボタンを表示する。
6) 警告画面の表示
患者が確認されると、該当患者に対して出されている処置のオーダ情報一覧が表示される画面
である。オーダに関する情報はサーバから受信する。オーダごとに処置の進行に従って背景色を
替えて、そのオーダがどのステップまで進行しているかを示す。
看護師に対して、不正を通知するための警告画面である。サーバが検知した警告情報を受信
すると表示する。
7) 各種ボタンのクリック処理
ボタンがクリックされた場合に、処置の状態遷移に従って処理を進めるためにサーバにボタン押
下のイベントを通知する。
8) サーバ・ソフトウェアとのデータ通信
サーバとクライアントとの間でデータ及びイベントを送受信するためのソケット通信を行う。実際
にやり取りされるデータはコマンドやパラメータがカンマで区切られた文字ストリームであり、改行ま
でが一つのイメージとなる。
9) 構成定義(コンフィグ)情報の読み込み処理
実行開始時に、サーバとの通信用 IP アドレスとポート番号、オーダ処置の状態に応じた色指定
などの設定を XML 形式のファイルから読み込む。
4.4.5.2 サーバ・ソフトウェアの開発機能
サーバ・ソフトウェアは、ナースステーション又はマシンルームに設置する PC で稼動させるもので、以
下の機能を持つ。
84
1) オーダごとの処置状態の遷移
医療用カート上の PC から入力されるデータとイベント、アクティブタグから受信したタグ情報、電
子タグ・リーダから受信したタグ情報、点滴台センサから受信した ON/OFF イベント、タイマー満了
イベントなどの入力イベントを受け取り、クライアントの状態、患者の状態、オーダごとの処置状態
などの遷移を制御する。いわばインテリジェントカートシステムの中心的な処理を行う。
2) クライアント・ソフトウェアとのデータ通信
クライアントとの間でデータ及びイベントの受信、画面・ボタン表示のためのソケット通信を行う。
3) アクティブタグとの通信
医療用カート、看護師、患者、点滴台に取り付けたアクティブタグから送信される、エリア ID とタ
グ ID に関して、トリガー磁界に入ったことの通知と、出たことの通知を受信機から受信して、それぞ
れの位置情報をメンテナンスする。
4) 電子タグ・リーダとの通信
カート上に設置した電子タグ・リーダで読み取った、注射器、採血管、輸液パックのタグ情報を
受信して、オーダごとの処置状態を遷移する。
5) 点滴台センサスイッチとの通信
点滴台のフックに輸液パックが掛かった時と取り外された時に通知される SNMP トラップ・データ
を受信して、点滴の処置状態を遷移する。
5.平成 19 年度実証実験
5.1 実証実験実施概要
ここでは、実証実験の概要を説明する。
本実証実験では、病室において看護師が患者に処方・与薬を実施する場面を想定し、電子タグを利用して、
医療ミス防止及び業務負担軽減を目的とした検証を行う。
今回の実験では、以下に示す 2 点を目的とした実験を実施した。
5.1.1 医療ミス防止を目的とした実証実験
薬剤の過剰や患者間違いといった、医療ミスの内容として多いものの中で、電子タグの利用により、医療ミス
防止に対する情報提供の有効性を検証する。
5.1.2 業務負担軽減を目的とした実証実験
インテリジェントカートシステムを利用した場合と、バーコードシステムを利用した場合の業務時間とを比較
することで、業務負担軽減に対する有効性を検証する。
5.2 実証実験システム概要
平成 19 年度に試作したインテリジェントカートシステムの概要について説明する。
インテリジェントカートシステムの概要図を図-2 に示す。
85
図-32 インテリジェントカートシステムの概要図
入退室管理
ア クティブ タグ(300MHz帯)
位置情報の取得
サーバ
受信用アンテナ
トリ ガーアン テナ(磁界発生装置)
カート上のPC
パッシブ タグ(13.56MHz帯)
受信器
個品管理
無線LA Nネットワーク
与薬記録
サーバ
13.56MHzリーダ
オーダリング
無線LA Nネットワーク
無線LA Nネットワーク
インテリジェントカートシステムは、医療従事者の確認不十分などの医療ミスを防止する安全対策としてユビ
キタスネット技術を応用したシステムの一つである。医療ミスのヒヤリ・ハットとして収集されたデータによると、
発生場所及び発生場面として多いのは病室における処方・与薬である。この医療ミス防止として、バーコード
を利用したシステムが導入されてきている。インテリジェントシステムは医療ミス防止及び看護師の負担軽減の
両方を目的としたシステムである。
インテリジェントシステムは、電子タグ(アクティブタグ、パッシブタグ)を利用して患者、看護師、薬剤のいわ
ゆる 3 点確認を看護師の負担をかけずに実施できることを目標とする。オーダ情報とのマッチング不正時(薬
剤間違いなど)にはアラートを医療用カート上の PC に通知し、医療ミスを防止する。患者、看護師、医療用
カート及び点滴台の確認は、アクティブタグの ID と位置情報から自動的に認識する。薬剤は、パッシブタグの
ID から認識する。
5.3 実証実験システム機器構成
5.3.1 トリガー関連部分
ベッドエリアのトリガーアンテナは、各ベッドの天井部分、及びベッドマットに設置する。入退室用のトリガー
アンテナは、病室の入口と出口側に設置する(実験では、廊下側に設置できなかったため、病室内に設置し
た)。受信器は、有線 LAN でサーバと接続する。
5.3.2 医療用カート上段部分
カート上段には、クライアント PC、パッシブタグを読み込ませる電子タグアンテナ、そして医療用トレイが配
置されている。クライアント PC は、内蔵の無線 LAN デバイスを経由して通信する。
86
5.3.3 医療用カート下段部分
医療用カート下段部分には、個品読み取り機器及びそれをサーバにデータ転送する機器から構成されて
いる。看護師と患者の確認が行われると、薬剤の電子タグの読み取りが可能になる。読み取った電子タグの ID
は、電子タグ・リーダからセンサステーションによりIPパケット化されて無線LANアダプタ(Ethernetコンバータ)
を経由してサーバに転送される。
5.3.4 点滴台関連機器
点滴台には、アクティブタグ、マイクロスイッチ、センサステーション、無線 LAN アダプタ及びバッテリーから
構成されている。点滴台に輸液パックを掛けたり、外したりしたことを検知し、サーバにその情報が無線 LAN を
経由して通知される。この検知には、マイクロスイッチの ON/OFF をセンサステーションのデジタル入力により
行われ、SNMP トラップ機能によりサーバに通知される。
5.4 実証実験システム構成機器の仕様
5.4.1 無線 LAN アダプタ
実験に使用した「WN-WAG/C」は、複数の LAN 機器をまとめて無線 LAN 化できる、マルチクライアント対応
イーサーネットコンバータである。
・
無線 LAN 仕様: IEEE802.11a/b/g 対応
・
セキュリティ設定: WPA-EAP(TKIP/AES)、WPA-PSK(TKIP/AES)、IEEE802.1x/EAP 認証、
WEP(152/128/64bit)
・
外形寸法:
約 94(W)×135(D)×18(H)mm (横置き時)
・
質量: 約 165g
・
電源: DC 5V (添付 AC アダプタより供給)
・
消費電流(最大) : 1.3A (DC 5V)
・
5.4.2 センサステーション
・
入力電源電圧: AC100V (±10%) 専用 AC アダプタを使用
・
消費電力: 5.0W
・
動作温湿度: 0℃~50℃ 10%~85%RH
・
保存温湿度: -20℃~50℃ 10%~85%RH
・
形状: 150 x 100 x 30 (突起物は除く)
・
質量: 0.5kg
・
5.4.3 電子タグ(アクティブタグ)
・
トリガー受信周波数 90KHz 帯
・
信号搬送波 300MHz 帯
・
信号電波形式 微弱(3m 離れて 500μV/m 以内)
・
コード種別 約 40 億種
・
信号出力時間 約 1m 秒
・
動作温度範囲 -20℃ ~ +60℃
・
防水性 水深 1m 24 時間 テスト
・
5.4.4 電子タグ(アクティブタグ) 受信機
・
受信周波数 300MHz 帯×3
87
・
受信方式 シングルスーパーヘテロダイン方式
・
受信感度 20dBμV 以下
・
電源 50W 以下
・
トリガーアンテナ ループアンテナを走路に設置
・
受信アンテナ ダイポール形又は八木形(受信入力数を敷設)
・
コンピュータとの接続 RS-232C、もしくはイーサネット
・
5.4.5 電子タグ(パッシブタグ)
・
13.56MHz 電磁誘導方式
・
5.4.6 電子タグ(パッシブタグ)用アンテナ
・
共振周波数 13.56MHz ±40kHz
・
交信距離金属面上:MAX 23cm / 空間上:MAX 25cm
・
動作温度 0~55°C (アンテナ単体仕様)
・
動作湿度 30~85%RH (結露なきこと)
・
寸法 324×254×12.5mm (取付け金具なし)
・
質量 990g (取付け金具なし)
・
5.4.7 電子タグ(パッシブタグ)用リーダ
・
ホスト I/F
・
電源電圧
・
消費電流
RS-232C
DC+9V ±10%
通常動作時 typ 375mA
送信停止時 typ 140mA
・
消費電力
4.3W 以下
・
質量
約 580g
・
寸法
180×129.5×42.8mm
5.5 実証実験スケジュール
本実証実験の目的と概要は、以下のとおりである。
表-22 実証実験の目的と実施概要
実験目的
実施概要
医療ミス防止の検証
業務負担軽減の検証
・注射を想定した業務
・点滴を想定した業務
・バーコードシステム
・採血を想定した業務
・混在(注射・点滴)を
との業務時間比較
想定した業務
表-22 の内容の実証実験を、以下に示すとおり段階的に実施した。
5.5.1 医療ミス防止を目的とした実証実験
5.5.1.1 注射・採血を想定した業務
実験日時:平成 19 年 8 月 27 日(月)~平成 19 年 8 月 29 日(水)
実験場所:東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 研究棟Ⅰ 17F 看護実習準備室 1
88
5.5.1.2 点滴・混在を想定した業務
実験日時:平成 19 年 9 月 26 日(水)~平成 19 年 10 月 1 日(月)
実験場所:東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 研究棟Ⅰ 17F 看護実習準備室 1
5.5.2 業務負担軽減を目的とした実証実験
実験日時:平成 19 年 9 月 26 日(水)~平成 19 年 10 月 1 日(月)
実験場所:東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 研究棟Ⅰ 17F 看護実習準備室 1
5.6 実証実験の方法
5.6.1 医療ミス防止を目的とした実証実験
後述する実証実験評価項目をもとに、医療ミス防止のために有効な情報が提供できるかという観点で評価を
実施した。
5.6.2 業務負担軽減を目的とした実証実験
インテリジェントカートシステムを使用した場合と、バーコードシステムを使用した場合の読取確認時におけ
る作業時間をそれぞれ測定し比較することで、業務負担軽減の有効性を検証した。
実験参加者は、東京医科歯科大学付属病院の看護師 6 名を対象とし、実験を実施した。
5.7 実証実験評価項目
インテリジェントカートシステムを利用することで、医療ミス防止及び業務負担軽減に関して、以下に示す評
価項目で検証することにした。
5.7.1 医療ミス防止に関する評価項目
処置の正常パターンの評価を実施し、エラーパターンに関しては、前項で述べたヒヤリ・ハット事例の処方・
与薬における医療ミスの内容をもとに、以下に示す評価項目で検証することにした。
89
表-23 医療ミス防止に関する評価項目一覧
#
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
評価項目
評価内容
正常パターン
アラートが通知されず正常に3点確認が実施できるか。
患者間違い(その1)に対する
本来患者Aに実施すべき処置を、間違えて患者Bに実
情報提供の有効性
施することを防止するためにアラートを通知できるか。
患者間違い(その2)に対する
患者が違うベッドに寝ている場合、看護師にアラートを
情報提供の有効性
通知できるか。
薬剤の過剰に対する
オーダされている薬剤の個数より多く与薬することを防
情報提供の有効性
止するために、看護師にアラートを通知できるか。
薬剤の不足に対する
オーダされている薬剤の個数より少なく与薬することを
情報提供の有効性
防止するために、看護師にアラートを通知できるか。
薬剤間違いに対する
オーダされている薬剤と異なる薬剤が、トレイに混入さ
情報提供の有効性
れている場合に、看護師にアラートを通知できるか。
中止オーダに対する
中止されたオーダ情報が、リアルタイムに反映され、処
情報提供の有効性
置前に情報を通知できるか。
処置忘れに対する
患者への処置後に、ベッドサイドに薬剤を忘れている
情報提供の有効性
場合に、看護師にアラートを通知できるか。
与薬時間帯間違いに対する
オーダされている与薬時間帯と異なる時間に与薬した
情報提供の有効性
場合に、看護師にアラートを通知できるか。
与薬方法誤りに対する
点滴実施の際、与薬方法を誤った場合に、アラートを
情報提供の有効性
通知できるか。
表-23 に示す評価項目を評価する処置については、東京医科歯科大学付属病院での病棟業務調査のもと、
以下に示す処置において、検証を実施することにした。
1) 「注射」の処置
2) 「点滴」の処置
3) 「混在(注射・点滴)」の処置 (以下、混在と記述する)
4) 「採血」の処置
5.7.2 業務負担軽減に関する評価項目
電子タグ又はバーコード使用時における、処置前の患者、看護師、薬剤・医療資材確認4のいわゆる 3 点確
認の時間と、処置後の薬剤・医療資材確認時間の合計を測定し、比較することで、業務負担軽減を検証した。
実験参加者は、東京医科歯科大学付属病院の看護師 6 名を対象とした。対象となる処置業務は、混在及び
採血の処置を対象として検証を実施した。
4
実証実験では、採血の処置における検証を実施したため、採血管(医療資材)を含む薬剤・医療資
材確認とする。
90
5.7.3 実験参加者へのアンケート項目
業務負担軽減を目的とした実験参加者である東京医科歯科大学付属病院の看護師 6 名を対象とし、
本実証実験システムについてアンケートを実施した。
アンケートは、主に以下の項目に関する質問を実施し、各項目ごとに 5 問、計 35 問について実施した。
1) 電子タグの読取精度について
2) システムの操作性について
3) パソコン画面の見やすさについて
4) 医療ミスの減少について
5) システム導入に伴う業務負担について
6) プライバシーの保護について
7) 業務の効率化について(実験で使用したバーコードシステムと電子タグシステムの比較)
91
5.8 実証実験結果
5.8.1 医療ミス防止を目的とした実証実験結果
医療ミス防止を目的とした実証実験は、病室における看護師の処置を対象として検証を実施した。処置対象
業務である、注射、採血、点滴、混在におけるそれぞれの検証結果は以下のとおりである。
5.8.1.1 注射を想定した業務における検証結果
注射を想定した業務における検証結果を表-24 に示す。
表-24 注射を想定した業務における検証結果
#
処置対象業務
評価項目
1 注射
正常パターン
2
患者間違い(その1)に対する
○
情報提供の有効性
3
患者間違い(その2)に対する
情報提供の有効性
4
薬剤の過剰に対する
情報提供の有効性
5
薬剤の不足に対する
情報提供の有効性
6
薬剤間違いに対する
情報提供の有効性
7
中止オーダに対する
情報提供の有効性
8
処置忘れに対する
情報提供の有効性
9
検証結果
与薬時間帯誤りに対する
情報提供の有効性
○
○
○
○
○
○
○
○
検証結果「○」:各評価項目において、インテリジェントカートシステムが処置実施看護師に対してア
ラートを通知することにより、医療ミス防止を未然に防止できるという評価
92
5.8.1.2 採血を想定した業務における検証結果
採血を想定した業務における検証結果を表-25 に示す。
表-25 採血を想定した業務における検証結果
#
処置対象業務
評価項目
1 採血
正常パターン
2
患者間違い(その1)に対する
○
情報提供の有効性
3
患者間違い(その2)に対する
情報提供の有効性
4
採血管の過剰に対する
情報提供の有効性
5
採血管の不足に対する
情報提供の有効性
6
採血管間違いに対する
情報提供の有効性
7
検証結果
処置忘れに対する
情報提供の有効性
○
○
○
○
○
○
検証結果「○」:各評価項目において、インテリジェントカートシステムが処置実施看護師に対してア
ラートを通知することにより、医療ミス防止を未然に防止できるという評価
93
5.8.1.3 点滴を想定した業務における検証結果
点滴を想定した業務における検証結果を表-26 に示す。
表-26 点滴を想定した業務における検証結果
#
処置対象業務
評価項目
1 点滴
正常パターン
2
患者間違い(その1)に対する
○
情報提供の有効性
3
患者間違い(その2)に対する
情報提供の有効性
4
薬剤の過剰に対する
情報提供の有効性
5
薬剤の不足に対する
情報提供の有効性
6
薬剤間違いに対する
情報提供の有効性
7
中止オーダに対する
情報提供の有効性
8
処置忘れに対する
情報提供の有効性
9
与薬時間帯誤りに対する
情報提供の有効性
10
検証結果
与薬方法誤りに対する
情報提供の有効性
○
○
○
○
○
○
○
○
○
検証結果「○」:各評価項目において、インテリジェントカートシステムが処置実施看護師に対してア
ラートを通知することにより、医療ミス防止を未然に防止できるという評価
94
5.8.1.4 混在を想定した業務における検証結果
混在を想定した業務における検証結果を表-27 に示す。
表-27 混在を想定した業務における検証結果
#
処置対象業務
評価項目
1 混在
正常パターン
2
患者間違い(その1)に対する
○
情報提供の有効性
3
患者間違い(その2)に対する
情報提供の有効性
4
薬剤の過剰に対する
情報提供の有効性
5
薬剤の不足に対する
情報提供の有効性
6
薬剤間違いに対する
情報提供の有効性
7
中止オーダに対する
情報提供の有効性
8
処置忘れに対する
情報提供の有効性
9
与薬時間帯誤りに対する
情報提供の有効性
10
検証結果
与薬方法誤りに対する
情報提供の有効性
○
○
○
○
○
○
○
○
○
検証結果「○」:各評価項目において、インテリジェントカートシステムが処置実施看護師に対してア
ラートを通知することにより、医療ミス防止を未然に防止できるという評価
95
5.8.2 業務負担軽減を目的とした実証実験結果
電子タグ又はバーコード使用時における、処置前の患者、看護師、薬剤・医療資材確認(3 点確認)時間と、
処置後の薬剤・医療資材確認時間の合計を測定し、比較した。
対象となる処置業務は、混在及び採血の処置を対象として検証を実施した。
5.8.2.1 混在の処置における確認合計時間比較結果
混在の処置における確認合計時間比較の結果を、図-33 に示す。
図-33 混在処置における確認合計時間比較結果
単位:[秒]
電子タグ
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
バーコード
1人目
2人目
3人目
4人目
5人目
6人目
5.8.2.2 採血の処置における業務時間比較結果
採血の処置における確認合計時間比較の結果を、図-34 に示す。
図-34 採血処置における確認合計時間比較結果
単位:[秒]
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
電子タグ
バーコード
1人目
2人目
3人目
4人目
96
5人目
6人目
5.8.3 実験参加者の意見
実験参加者 6 名にアンケートを実施した結果を示す。アンケートは、主に以下の項目に関する質問を実施し、
各項目ごとに 5 問、計 35 問について実施した。
1) 電子タグの読取精度について
2) システムの操作性について
3) パソコン画面の見やすさについて
4) 医療ミスの減少について
5) システム導入に伴う業務負担について
6) プライバシーの保護について
7) 業務の効率化について(実験で使用したバーコードシステムと電子タグシステムの比較)
例として、1) 電子タグの読取精度についてのアンケート結果を図-35 に示す。
97
図-35 電子タグの読取精度についてのアンケート結果
電子タグの読取精度について
アンケート項目
1 患者・看護師の情報はスムーズに、確
認することができましたか。
アンケート結果
その他
0%
確認することができた
100%
2 薬剤の認識は容易にできましたか。
概ね容易に
できた
容易にできた
50%
3 カートの移動に沿って、パソコン画面が
スムーズに変化しましたか。
50%
スムーズに変化しなかった
17%
スムーズに
概ねスムーズ
変化した
17%
だった
66%
4 エラーメッセージのタイミングは適切でし
たか。
その他
0%
適切だった
100%
5 電子タグの読み取り精度は良好でした
か。
あまり良くない
17%
良好だった
83%
98
5.9 実証実験結果の考察
本実証実験の結果をもとに、医療ミス防止を目的とした実証実験結果の考察、及び業務負担軽減を目的と
した実験結果の考察は以下のとおりである。
5.9.1 医療ミス防止を目的とした実証実験結果の考察
本実証実験のインテリジェントカートシステムの適用シーンとしては、ヒヤリ・ハット事例をもとに、医療ミスの
発生件数の多い、看護師が病室において処方・与薬を実施する際の、確認及び観察の部分において電子タ
グを適用するシーンを想定し、実証実験を実施してきた。
この適用シーンにおいて評価を実施した結果、各評価項目すべてにおいて、アラートを通知することで、情
報提供の有効性を実証することができた。
例えば、病室において患者に処置を実施する際に、処置対象患者ではなく別の患者に処置を実施しようと
した場合、本システムでは処置対象患者に対して、アクティブタグの ID 情報をもとに、処置対象患者とオーダ
情報のマッチングを実施した後オーダ情報を表示しているので、患者間違いの未然防止が可能となる。このこ
とにより、看護師が患者間違いをすることなく処置を実施することに繋がると考えられる。
また、処置対象患者に与薬を実施する際に、薬剤の間違いがあった場合、本システムでは薬剤に貼付した
パッシブタグの ID 情報をもとにオーダ情報とのマッチングを実施しているので、オーダ情報と異なる場合、ア
ラートを看護師に通知することで、薬剤間違の未然防止が可能となる。このことにより、看護師が薬剤間違いを
することなく処置を実施することに繋がると考えられる。
上記の例以外でも、与薬(処置)における医療ミスの内容をもとに作成した評価項目について、情報提供の
有効性を実証できたことで、看護師がミスをすることなく処置を実施することが可能であると考えられる。
さらに、ヒヤリ・ハット事例をもとに、医療ミスの発生件数の多いシーンにおいて検証を実施していることから、
医療ミスの発生件数の減少に繋がり、医療ミス防止に貢献できると考えられる。
5.9.2 業務負担軽減を目的とした実証実験結果の考察
本実証実験のインテリジェントカートシステムとバーコードシステムを比較して、患者、看護師、薬剤・医療資
材の確認部分(いわゆる 3 点確認部分)における合計時間を測定し比較を実施した。その結果、3 点確認部分
の時間において全体平均として 66.6%の時間短縮をすることができた。
患者と看護師の確認時間短縮については、看護師がベッドサイドに移動した際に、アクティブタグで認識す
ることから、バーコードで認識する時間より短縮できたからであると考えられる。
薬剤・医療資材の確認時間短縮については、電子タグはバーコードに比べて、複数同時読み取りが可能で
あることから、過度に操作を意識せずに読み取りが実施できたからだと考えられる。
このことにより、インテリジェントカートシステムを利用したベッドサイドでの3 点確認は、時間的な負担がバー
コードシステムでの 3 点確認に比べて軽減されると考えられる。
5.9.3 実験参加者の意見に対する考察
実験参加者を対象に実施したアンケートの中で、業務の効率化についてのアンケート結果は、全体平均と
して 83.0%の参加者が「効果的だと思う」という回答であった。一方で、システム導入に伴う業務負担について
のアンケート結果は、全体平均として 56.2%の参加者が「業務負担を感じない」という回答であった。
これは本実証実験のインテリジェントカートシステムを導入することで、看護師の多重チェックが軽減され、
業務負担軽減に繋がるからだと考えられる。
このことにより、インテリジェントカートシステムを利用したベッドサイドでの 3 点確認は、心理的な負担が軽減
されると考えられる。
以上のことから、患者、看護師、薬剤・医療資材の確認作業(いわゆる 3点確認作業)において時間的、心理
99
的負担を軽減されることで、看護師の業務負担軽減に貢献できると考えられる。
6.UHF 帯電子タグ読取範囲測定実験
本実証実験では、アクティブタグを利用し、位置情報及び入退室管理を実施してきたが、UHF 帯のパッシブ
タグの利用に関しても検討するために病室における読取範囲測定実験を実施した。
6.1 実施概要
UHF 帯電子タグの読取範囲測定実験の実施概要は以下のとおりである。
6.1.1 実験日時
平成 19 年 12 月 10 日(月)~12 月 12 日(水)
6.1.2 実験場所
東京医科歯科大学 医歯学総合研究科 研究棟Ⅰ 17F 看護実習準備室 1
6.1.3 実験内容
6.1.3.1 実験方法
30cm 間隔のマス目状に床面に印付けを行い、看護師とカートが移動し、電子タグが読み取り可能か測定す
る。
・ 使用電子タグ: UHF 帯
・ アンテナ: 医療用カートの側面・上面に設置
・ リーダ: 医療用カートに積載
・ PC: 医療用カートに積載
・ 電子タグ貼付対象: 看護師 ・ ベッド側面 ・ 出入口天井
・ 測定対象箇所: 出入口 ・ ベッドサイド
・ マス目をイメージした形状による、読取距離測定の実施
今回は、薬剤を貼付対象外とすることから、3 点確認に関しては評価対象外とする。看護師は、胸章部に電
子タグを貼付し、医療用カート上部に設置したリーダアンテナで読み取り、読取範囲を測定する。また、以下の
場所において、30cm 四方で床に印付けを行い、測定を実施する。
1) 病室出入口
出入口の天井に電子タグを数箇所貼付し、医療用カート上部設置したリーダアンテナで読み取
り、読取距離を測定する。
2) ベッドサイド
ベッド側面に電子タグを数箇所貼付し、医療用カート側面に設置したリーダアンテナで読み取
り、読取距離を測定する。
測定パターンは、以下のとおり、「電子タグ貼付枚数」及びカートの進入方向を変えることにより、「リーダアン
テナ方向」に関する条件を設定し、測定を実施する。
1) 電子タグ貼付枚数
ベッド下面 : 1 枚、3 枚、5 枚・・・
ベッド側面 : 1 枚、3 枚、5 枚・・・
※ 電子タグの貼付間隔は、マス目の間隔(30cm)に合わせる。
2) リーダンテナ方向
θ = 0°、45°、90°
100
6.1.3.2 評価方法
評価シートに、読み取れた場合は「○」、読み取れない場合は「×」と記録する。各測定パターン(電子タグ
貼付枚数、リーダンテナ方向の条件)ごとに評価シートを作成する。
「○」印のついた範囲(赤枠部分)を読み取り可能範囲とし、評価を行う。
なお、実験結果は、θ = 0°、45°、90°の 3 方向での読取精度を記録する。
6.2 実験結果
UHF 帯電子タグ読取範囲測定実験の結果を示す。実験の結果は、以下に示すとおり、電子タグの貼付位
置ごとに測定した。
1) 電子タグ貼付位置:ベッド側面
2) 電子タグ貼付位置:ベッド側面足もと
3) ベッドサイド天井
4) ベッドサイド天井足もと
5) 出入口天井
例として、①電子タグ貼付位置:ベッド側面における実験結果を図-36 に示す。
図-36 電子タグ貼付位置:ベッド側面における実験結果
1枚(スペーサーなし)
3枚(スペーサーなし)
1枚(スペーサーあり)
3枚(スペーサーあり)
101
6.3 実験結果の考察
UHF 帯の電子タグの読取範囲の結果としては、電子タグにスペーサーを挿入し貼付した場合、ベッド周り約
1m の範囲において認識可能であることが分かった。スペーサーなしで貼付した場合だと、ベッドの材質の関
係で、金属の影響を受けて、狭い読取範囲となった。病室での運用の際には、スペーサーを利用して貼付す
る方が、読取範囲が広いと考えられる。
一方、出入口での認識に関しては、天井の高さでも十分認識できることが分かった。
本実証実験では、アクティブタグの利用により、位置情報及び入退室管理を実施してきたが、UHF 帯のパッ
シブタグの利用でも、十分可能であると考えられる。
医療現場における電子タグの導入に際しては、今回の読取範囲測定実験のように、電子タグをベッド及び
出入口天井に貼付し、リーダ及びアンテナを移動可能な医療用カートに設置するという運用も今後検討してい
く必要があると考えられる。
7.セキュリティ・プライバシーに関する検討・調査
本研究に関して、本実証実験システムの医療現場への導入及びその後の運用を想定して、セキュリティ・プ
ライバシーの観点から検討・調査した。
7.1 セキュリティに関する検討・調査
本システムは主に病棟内で「ナースステーション~病室」での利用を想定している。また取り扱う内容は電子
カルテレベルで、具体例を挙げると電子カルテの看護支援システムに準ずるレベルであると想定している。電
子カルテの看護支援システムとすると通常は患者基本情報、与薬、処置、その他の医療上の診療データを扱
うことになる。現在の看護支援システムでは医療従事者としては主に看護師を想定し「ナースステーション~病
室」での利用端末としては下記の形態が主体となっているであろう。
1) PC をカートに載せてナースステーションより病室まで看護師が運搬する形態
2) 看護師が携帯の PDA にてナースステーションより病室まで移動する形態
3) 病室に設置済みのベッドサイド端末(STB)を一時的に医療系(電子カルテ側)に切り替える
形態(なお、このケースでは医療従事者が診療に利用する時間以外は患者が TV やビデオ、物品購
入の注文などが行えるようなマルチメディア端末として使っている。)
1)~3)のそれぞれのシステムの電子カルテの看護支援システムサーバ側との通信形態は 1)と 2)が無
線 LAN 経由、3)が有線 LAN である。
今回の本システムは電子カルテの看護支援システムと無線により接続する方式を想定して通信形態
は無線 LAN としたので、1)と 2)の同じ分類に属する。また本システムも PC をカートに載せてナースステ
ーションから病室まで運搬移動することからシステム全体のハードウエア構成的にも 1)に近いといえる。
この接続形態におけるセキュリティについて検討してみた。検討の結果、考慮する必要があるセキュ
リティ項目は次の項目になった。
1) 通信途中経路のセキュリティ、具体的には看護支援システムのサーバとカート上の端末までの間
2) 第三者閲覧のセキュリティ、許可されたスタッフ以外が故意・過失・偶然などにより情報を閲覧して
しまう場合のセキュリティ
3) ユビキタス技術を応用する場合のセキュリティ
102
7.1.1 通信経路のセキュリティ
電子カルテの看護支援システムサーバから端末までのデータ通信は、まず、看護支援システムから無線
LAN のアクセスポイントまでは有線 LAN でデータ交換が行われる。その後無線 LAN のアクセスポイントから端
末までは無線通信によってデータ交換が行われる。現状の電子カルテは有線LANで接続されているので、今
回実証実験で構成したシステムも、形態は同様である。従って、本システムでの看護支援システムサーバから
無線LAN アクセスポイントまでのセキュリティ保護レベルは従前の電子カルテシステムと同等と考えた。次に本
システムの無線 LAN アクセスポイントからカート上の端末までの通信であるが、こちらも従前の電子カルテシス
テムと同様の物理構成なので、同じくセキュリティ保護レベルは同等と考えた。なお、無線 LAN アクセスポイン
トからカート上の PC 端末であるが、基本的に無線として電波を利用しているので電波傍受、許可端末以外の
端末を勝手に接続するなどの意図的なセキュリティを侵害する方法も考えられないこともない。この点につい
て技術的な観点や動向的な観点よりいくつか調査を実施した。
1) SSID (Service Set ID)・ESSID (Extended SSID)
無線 LAN 接続のグループ分けを行う ID。認証にも使用される。最大 32 文字までの英数字が設
定できる。アクセスポイントとクライアントの設定を合致させないと接続できない。逆に設定なしにす
れば誰でも接続可能になるが、フリースポット等の公衆無料接続サービスを提供する場合以外で
は、セキュリティ面から利用されない。
2) WEP(Wired Equivalent Privacy)
無線 LAN 初期の暗号化規格。共有鍵暗号化方式である。脆弱性が指摘され、後述の WPA に
主流は移っている。
3) WPA (Wi-Fi Protected Access)
無線 LAN の暗号化規格の一つ。前述された WEP の脆弱性が改良されている。SSID やキーに
加え、様々な登録項目を作ることで WEP より複雑化している。現在の主流。
4) WPA2 (Wi-Fi Protected Access2)
WPA のセキュリティ強化版。
無線 LAN はその名のとおり無線、すなわち電波によって通信が行われるという特性上、第三者によって通
信内容を傍受される危険性がある。そのため、無線 LAN のアクセスポイントと通信を行う機器間とのセキュリ
ティ対策が必要となる。たとえば、ネットワークキーと呼ばれるパスワードを用いて通信できる機器を限定させ、
それを踏まえて通信する内容を暗号化させる方法、ネットワークカードに割り当てられている MAC アドレスをも
とに通信を許可する機器を限定したりする方法が主である。
暗号化通信におけるセキュリティ技術としては主に WPA や WPA2、IEEE 802.11i が普及している。WPA で
は、AES の採用や、WEP で脆弱性を指摘されていた RC4 方式に改良が加えられた TKIP のほか、RADIUS 認
証サーバを使った認証方式 (IEEE802.1x) がオプションとして付け加えられた。しかしながら、暗号化のみで
は暗号化技術の脆弱性の問題がないとはいえないため、堅牢なセキュリティ対策としては不十分である。
通信機器の限定にネットワークキーによるものと MAC アドレスによるものとの相違点は、前者の場合ではそ
のネットワークキーを知る限りではどの機器でも通信が可能となるのに対し、後者では通信できる機器の MAC
アドレスがアクセスポイントに登録されており、登録されていない MAC アドレスをもつ機器からの通信は拒否
するという点である。
なお、日本においては無線 LAN の通信は電波法で保護されており、通信内容の窃用は電波法に違反する
可能性がある。さらに、クラッキング等の手法により、セキュリティで保護されたネットワークに不正に侵入した場
合は、不正アクセス行為の禁止等に関する法律に違反する場合がある。
しかし、設定ミス等により、又は機器自体にセキュリティ機能が装備されていないため、セキュリティで保護さ
103
れていない無線 LAN も少なからず存在する。そのようなアクセスポイントを、詐欺やサーバ攻撃のための踏み
台として悪用する目的で、車両にアンテナ等を搭載し、セキュリティ保護が掛かっていない無線 LAN の電波を
探知して回り、発見次第、そのアクセスポイントを道路上から悪用する攻撃手法がある。
今回の本システムは病院内であるので公衆無線 LAN ではないが、院外からの人の出入りをすべて完全に
遮断しているわけではないのでその点を考慮し、意図的に PC を持ち込んで許可なく勝手に電子カルテシス
テム系の無線 LAN に接続されることが難しくなるように認証及び暗号化などの措置を取る工夫が必要である。
これらの認証やセキュリティはそれらそれぞれの技術を実現するために特殊なハードウエアが必要であった
り設定・管理が難しくて総合的なシステム保守負担が増大したり、クライアント側の暗号化処理のために非暗号
化のケースに比較して、強力・高価な CPU を要求されることによるハードウエア費用の増大など、いくつか簡
単に行かないことがある。従って、セキュリティを担保するために無限に投資可能な非現実的なケースならばと
もかく、実際は限られた資金の中で、トータルシステムとしての全体像を捉えつつ、すべてを闇雲に実装する
のではなく、投資効果を考慮した上で、本システムの導入想定病院の規模なども勘案しつつセキュリティの実
現を行う必要があると考えられる。
7.1.2 第三者の閲覧に関するセキュリティ
本システムの通信経路の傍受によるセキュリティの検討は前述したとおりである。ここでは、本システムの医
療従事者が利用するカート上の端末に表示される情報の第三者の閲覧に関するセキュリティを検討する。な
お、表示される内容が、例えば患者情報や患者に対する医療行為に関することを想定すると当該患者に対す
るプライバシーの内容に準ずるので、本稿ではセキュリティとプライバシーの両方の保護との観点から一緒に
検討する。本システムのカート上の端末は従前の電子カルテの看護支援システムの端末と同様である。一般
的には看護師などの医療従事者は看護支援システム端末を操作する前に正規利用者認識用の ID とパスワー
ドでその端末及び看護支援システムにログインする。今回の本システムでもこの操作はほぼ同じであり、この
点からこの時点までの本システムのセキュリティ・プライバシー保護レベルは同等といえる。また、ログイン後は
端末の PC 上に患者基本情報や与薬などのプライバシーにも関連した情報が表示されることになる。ここから
本システムの特徴である、医療従事者認識機能や患者認識機能により、より一層のセキュリティとプライバシー
の保護を実現した。
看護支援システムの端末上に表示された重要データの第三者の閲覧はどのような時が想定されるかを検討
した。第三者に閲覧を許してしまいそうなケースを以下のとおり例を挙げる。
1) 正規利用者であっても端末の操作ミスなどにより当該患者以外の患者のデータを表示してしまい、
無関係な第三者に閲覧の可能性を許してしまうケース
2) 看護師が端末を離れる場合にそれまで画面に表示している情報を、表示終了などの処理を行わ
ずに、表示状態のまま端末を離れたことにより第三者の閲覧の可能性を許してしまうケース
上記 2 ケースとも、従前の電子カルテシステムにおいてはシステム上の保護は難しく、運用の教育徹底する
程度のようである。本システムでは運用の徹底は当然のこととして、システム側でも管理保護処理を実装した。
電子タグを利用して医療従事者認識を自動化した。従前の ID 及びパスワードでは ID 及びパスワー
ドが知られてしまうと、その知った者がシステムにログインできてしまい、情報にアクセスする機会を許し
てしまう可能性があるが、本システムはその ID 及びパスワードに加えて、更に電子タグによる看護師認
識を自動化しており、このポイントは利用者である医療従事者の故意や過失の操作ミスなどに依存せ
ず、システム側で医療従事者認識を行うので、より強固な安全性を提供した。
さらに、認識としては、上記許可医療従事者の自動認識に加え、対象患者の認識の自動化、対象患
者の寝ているはずのベッドの、ベッド ID の認識の自動化を実現している。これら 3 項目すべての合致の
104
認証を経なければすべての情報を表示できるプロセスに進めないようになっている。またこれら合致状
態が一旦成立した後、何らかの理由で崩れた場合で有っても、情報の表示を中止するようにセキュリテ
ィ及びプライバシー上考慮してある。すなわち、常にリアルタイムでの認証・保護を行っているので、処
理開始時のみの認証でその後はシステムによる継続認証がないシステムに比較して格段の安全性を
実現できるよう配慮した。今回実現の本システムは例えば下記のようなケースにおいてもセキュリティ・
プライバシーの保護を実現している。
1) 処置対象の患者の患者番号などを間違えて端末を操作し、違う患者の情報を表示してしまった
ために第三者に閲覧を許すケースがなくなる。
2) 入院したばかりの患者が間違えて他人のベッドに寝ており、医療従事者も入院して日が浅い患者
の顔をまだ覚えていないため、ベッドの患者名札を頼りに操作してしまったために、違う患者の情
報を表示し閲覧を許してしまったケースがなくなる。
表-28 セキュリティ及びプライバシー保護についての比較
機能
既存の電子カル
本システム
テシステム
セキュリティ及びプライバ
シー保護上の優位性
ログイン認証
ID 及びパスワード
ID 及びパスワード
同等
患者指定
患者番号入力
電子タグによる自動認証
本システムが優位
患者認識
バーコード
電子タグによる自動認証
本システムが優位
7.1.3 ユビキタス技術を応用する場合のセキュリティ
本システムはユビキタス技術を応用し、医療従事者になるべく意識をさせないで簡単・便利に利用できる観
点からも要素を加えている。
ユビキタス技術は便利であるが、その技術の実際の現場に適用する場合に、なるべく意識させない点が逆
にシステムへの意識の希薄さを誘発しないようにしなければならない。
たとえば、逆の例で、システムを意識すると「端末から離れる場合は、システムの画面を隠さなければならな
い」とした場合、医療従事者の負担は増えるし、ヒューマンエラーによって、この操作が行われない可能性があ
る。本研究では、これら負担軽減も目指している。
ところが、ユビキタス技術はシステムを含め、「意識させない」のであるから、いくつかの必要なオペレーショ
ンのこぼれ(操作忘れなど)が発生する可能性がある。本研究では操作負担の軽減のため患者、看護師、ベッ
ドの位置認証を自動化するあまり、「システムが自動的に認証するだろう」との作業者の先入観などにより、目
視確認がおろそかになったりしないように実際のシステム設計上は考慮する必要があると感じた。ユビキタス
技術を導入することによって、運用も含めたトータルな観点でのシステムのセキュリティやプライバシーの保護
性が低下しては、この点からは逆効果になってしまう。
セキュリティやプライバシー保護の観点から、意識させないけれども希薄性はなくすという、一見矛盾するよ
うではあるけれども、ユビキタス技術の特徴を踏まえた上での更なる研究や実験の継続が、今後より良いシス
テム創出には必要であると考えられる。
7.2 プライバシーに関する検討・調査
プライバシーに関する検討・調査を実施するにあたり、アンケートによる調査を実施し、その結果を参考に、
プライバシーに関する検討を実施した。
東京医科歯科大学の看護学専攻の学部 4 年生(59 名)と大学院生(看護師:7 名)を対象に、本実証実験の
105
映像とともに、実証実験の内容について説明を実施した後、プライバシーに関するアンケートを実施した。アン
ケートの内容は、選択形式と自由記述形式で実施した。アンケートの結果を以下に示す。
7.2.1 アンケート結果(選択回答形式)
選択回答形式の質問に対するアンケート結果を図-37 に示す。
図-37 プライバシーの保護に関するアンケート結果
プライバシ ーの保護について
アンケート項目
1
患者の入退室および院内位置がモ ニタリングされ
ますが、プライバシ ーは保護されていると思いま
すか。
アンケート結果
保護されて
いないと思う
25.8%
保護されていると思う
6.1% 概ね保護されていると思う
7.6%
あまり保護されて
いないと思う
31.8%
2
自分が患者であった場合、このシステムを使用さ
れたいと思いま すか。
使用されたいと
思わない
25.4%
どちらとも言えない
28.8%
使用されたいと思う
4.8% 概ね使用されたいと思う
19.0%
あまり使用されたい
とは思わない
22.2%
3
本システムは暗号化された無線通信を用いま す
が、プライバシ ーは保護されていると思いますか。
保護されていないと思う
7.6%
どちらとも言えな い
28.6%
保護されていると思う
16.7% あまり保護されて
いないと思う
21.2%
どちらとも言えない
30.3%
4
パソコン上に自動的に患者情報が表示
されますが、患者情報は処置が終了し
次第、逐一消去されま す。
プライバシ ーは保護されていると思い
ますか。
概ね保護されていると思う
24.2%
保護されていないと思う
1.6%
あまり保護されていないと思う
8.2%
どちらとも言えない
23.0%
保護されていると思う
32.8% 概ね保護されていると思う
34.4%
106
7.2.2 アンケート結果(自由記述形式)
自由記述形式の質問に対するアンケート結果を以下に示す。
1) 電子タグを用いた患者、医療従事者の入退室及び位置管理についてご意見をお聞かせください。
・ 患者の位置管理は患者の精神的負担になると思う。
・ システムが故障した際についても考慮する必要はある。
・ すべての患者に使用する必要はないと思う。
・ 導入の際に患者に説明が必要だと思う。
・ 通信したデータが外部にもれないか不安である。
・ プライバシーは保護されないと思う。
2) 患者情報はどのように管理されるべきだと思いますか。
・ プライバシーは必要な時にしか見られないように漏えいがないよう、厳重に管理されるべきである。
・ 紙面にも記録を残すべきである。
・ 医療者が必要な情報のみ入手できるようにすべきである。
・ PC の管理を徹底する。
・ プライバシーの保護は必要だが、過度な保護により、必要時に瞬時に情報が得られないと不便で
ある。
3) 本実験で使用した電子タグシステムに関して、プライバシーの観点から、あなたならどのような点
に配慮しますか。
・ プライバシー、個人情報の漏えいに注意する。
・ 十分説明し、患者の同意が得られた場合のみ使用する。
・ 不必要な位置管理(トイレ等)はしない。
・ 必要時以外は画面を見ない。
・ 画面をほかの患者に見られないようにする。
7.2.3 アンケート結果の考察
アンケート対象者は看護従事者であるが、ここで特に注意したい結果としてアンケート項目「1 患者の入退
室及び院内位置がモニタリングされますが、プライバシーは保護されていると思いますか。」の回答が、「保護
されていると思う」、「概ね保護されていると思う」の合計より「保護されていないと思う」、「あまり保護されていな
いと思う」の回答が圧倒的に多かった。これは医療現場で直接患者に対応し、患者のプライバシーに直接触
れる看護従事者がこのような反応を持ったという結果であるといえる。
また次のアンケート項目の結果の「2 自分が患者で有った場合、このシステムを使用されたいと思います
か。」に対する回答も、否定的な「保護されたくないと思う」が多かった。これはアンケート項目1 の回答の「プラ
イバシーが保護されていないと思う」と感じた結果が多かったため、「プライバシーが保護されていないと思う
ので自分には使って欲しくない」となったと推測した。
患者と看護師(医療従事者)の双方が安心してプライバシーの不安を抱かなくてもシステムを利用できるよう
にする必要がある。
システム側での更なるセキュリティやプライバシーの保護を向上するための努力とともに、患者と看護師に
十分な説明を行い、認知を含めた安心してシステムを利用して頂く環境整備の努力も重要であると考えられ
る。
107
7.2.4 プライバシーに関する検討
本システムは病院情報システム(いわゆる電子カルテ)に関連するシステムであるから、取り扱うデータは一
般の個人情報に加えて患者の病歴や既往症など更にプライバシーに十分に配慮する必要がある。
本システムではプライバシーの配慮として、シリンジや輸液パックなどの電子タグ上には患者個人情報や、
前述の病歴データなどは保存せず、単純なコードのみの保存とした。実際の患者個人情報(患者基本)やそ
の他は電子カルテ上のサーバに保存されており、万が一、電子タグが院外に流出した事態や、悪意により
データを読み取られた場合でも、コードと患者情報を結びつける手段がないので患者のプライバシー情報が
流出することはない。
また患者認識用の電子タグについては、上記に加えて患者の位置情報を取得する必要があるが、24 時間
の行動をすべて監視することはプライバシーの観点からは賛否両論があると考える。今回は病室内の患者の
在室不在と、病室内でのベッドとの紐づけに限定した。例えばどの患者が誰と会っているかなど、治療上に不
必要な情報まで入手管理する必要があるかとか、徘徊の場合の管理など、その重要度や必要性と、管理され
る側である患者のプライバシーとのバランスを今後も引き続き慎重に検討していくべきである。
7.3 セキュリティ・プライバシー保護について考慮した製品の調査
例えば、有効な概念として、パスワードによる読み出しが可能な電子タグが有効であると考えられる。
その一例として日立製作所製のセキュア電子タグ「μ-Chip Hibiki」がある。
「μ-Chip Hibiki」の主な機能としては、以下のとおりである。
1) 通信距離制限機能
数 m の通信距離を数十 cm まで短くする5ことができる。本機能により、離れたところからの、電子タグ
情報の不正な読み取りを制限する。
2) ユーザ領域分割機能
ユーザメモリ領域を複数に分割(最大 5 分割)して、それぞれのエリアごとにパスワードによる読み出
し、書き込みの禁止設定が可能である。
エリアごとの読み出し、書き込みの禁止設定により、複数の企業におけるオープン SCM 環境におい
ても、各企業の情報保護が可能となる。
3) 大容量ユーザメモリ
1536bit の大容量ユーザメモリ領域を実装している。企業情報などの ID 以外の情報を格納でき、デ
ータキャリー型の電子タグとして活用できる。
7.4 セキュリティやプライバシー管理などの患者情報管理に求められる要件の明確化
前述の検討・調査をまとめ、以下に示すとおり、セキュリティやプライバシー管理などの患者情報管理に求め
られる要件を明確化した。
1) 通信経路でのセキュリティを確保する。
2) 電子タグには患者のプライバシーに関する情報を記述せず、想定外の電子タグの情報流出に備
える。また、どうしても患者のプライバシーに関する情報を記述する必要がある場合は、パスワード
保護が可能な電子タグを利活用するなど、より一層の工夫を実施する。
3) システム利用の利便性を損なわないように配慮しながら、電子タグの読み取り範囲や通信距離を
可能な限り限定し、悪意も含めた不必要な読み取りや情報漏えい(タグデータ漏えい)の可能性を
低減させる工夫を実施する。
5
高出力型リーダライタ(4WEIRP)で読み取りを実施したとき。
108
4) 患者の位置情報管理などは、常時実施するとなると被管理者側(患者側)の精神的ストレスにもな
りかねないので、治療上必要な範囲であると考える。しかし、患者ごとの病状(例えば、徘徊など)
によっても範囲の程度は異なるので、画一的ではなく、病院の診療科目構成や、病棟のフロアごと
など個々の医療現場の状況を考慮して、決定する必要がある。
5) システムの運用にあたっては、医療従事者のみならず患者や患者の家族も含めた、システムを使
う側と使われる側に対して、セキュリティ及びプライバシーの管理に関して十分認識して頂けるよう
に説明を含めた活動が必要である。
8.総括
平成 19 年度の研究では、前年度までに実施してきた病院内、特に廊下や病室と病院内の他の場所への移
送時におけるセンサネットワーク技術の利用から、さらに、最も医療ミスの発生頻度の高い臨床現場である、病
室への応用へと移行し、実験対象範囲の拡大を図り検証してきた。
病室での検証において、医療現場におけるヒヤリ・ハット事例が最も多いとされる、看護師による処方・与薬
の場面を実験対象シーンとし、医療ミスの内容として最も多い、患者間違い、薬剤間違いなどに関する検証を
実施し、医療ミス防止対策の有効性を示すことができた。
また、医療ミス防止を目的として、バーコードを使用したシステムが導入されてきているが、現在のバーコー
ドを利用した医療ミス防止システムでは常に移動する人や物の状況まで把握することは困難である。そこで、
バーコードシステムと電子タグを利用したインテリジェントカートシステムを比較し、看護師の業務負担軽減に
関する検証を実施し、患者と看護師と薬剤の確認、いわゆる 3 点確認の認証部分において、業務効率化を示
すことができた。
今後は、今年度の研究で明らかになった、セキュリティやプライバシー管理等の患者情報管理に求められる
要件をもとに、病院内での様々な医療安全対策として、ユビキタスネット技術の実導入へ向けて、さらに研究を
進めていく予定である。
109
5)考察・今後の発展等
医療ミス防止を目的とした電子タグ利活用において、今後の実用化に向けて展開するにあたり、システム面
及び運用面の方向性について以下に示す。
1.システム面での方向性
インテリジェントカートシステムは、本研究において実証すべき項目を実現するための部分を主体にした単
体のシステムとなっている。実用においては電子カルテシステムなどの他システムと様々な連携を考慮したシ
ステムとしなければならない。また、本実験システム単体においては、以下の項目について改善することにより、
完成度が高められると考えられる。
・ 電子タグの読取率
電子タグの貼付対象物によっては、電子タグ・リーダでの読み取りが瞬時にできないケースもあり、
看護師の負担にならないように精度の向上が必要である。
・ セキュリティ及びプライバシーの考慮
医療用カート上の PC を操作する看護師は、一時的にでもカートから離れる可能性がある。その場
合は PC の表示及び操作をロックするなどの考慮が必要である。
・ ロギング機能の利便性
看護師の医療行為や位置情報などの各種事象を記録しているが、実用化においてはセキュリティ
を考慮しながら容易に参照できる必要がある。
・ カートの位置によるトリガー発生器の ON/OFF 制御
本実証実験では、トリガー発生器から常に磁界を生成したが、医療用カートが入室したときのみ発
生器をオンにするなどして、必要に応じて ON/OFF するインタフェースを提供する必要がある。
・ 点滴台のスイッチ/リーダ搭載
点滴台には、輸液パックの装填を把握するためのセンサスイッチが付けられているが、スイッチだけ
では正しい輸液パックが装填されているかの把握はできないため、電子タグ・リーダなどを付加する
ことで誤り検知率を高められる。
2.運用面での方向性
本システムでは、各病院の環境に応じて、システムを構築する必要があり、導入の際には、あらかじめ病院
環境や、電子タグの読取精度に影響を及ぼすと考えられる環境因子を前もって調査する必要がある。特に患
者や医療従事者の精神的負担を低減すべく、対象物の管理範囲の妥当性や、妥当性に基づいた運用設計、
例えば柔軟な管理範囲の動的変更などの可能性の検討を行う必要がある。
運用に際しては患者及び医療従事者などのシステム利用者に対して十分な認知が必要であることが判明し
たので、告知方法や認知方法の設計とその実施計画も十分に吟味し、その計画内において、例えば実施後も
定期的にアンケートを実施するなど、運用中の検証も運営計画内に盛り込むなどの配慮を検討した方が良い
と考えられる。
また、各病院により、患者確認や投薬における看護師のワークフローや医療安全に対するポリシーなどが異
なるため、それらに対応させてシステムを調整していく必要がある。
さらに、システム導入にあたり、看護師への教育が重要になり、事前トレーニングなどで、適切な利用方法及
び運用方法を習得してから、実運用する必要がある。
以上のとおり、システム面及び運用面の方向性を検討し、医療の緊急性が高い環境(手術室や ER 等)での
インテリジェント環境の創出、及び病院全体における医療従事者や患者の位置・状態管理を可能とするシステ
ムを導入し、より高度でインテリジェントな医療環境の実現に向けて、医療情報空間の更なる発展を目指す。
110
6)関連特許
該当なし
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
2 報 (筆頭著者:2 報、共著者:該当なし)
2. 上記論文以外による発表
国内誌:該当なし、国外誌:該当なし、書籍出版:該当なし
3. 口頭発表
招待講演:1 回、主催講演:該当なし、応募講演: 3 回
4. 特許出願
出願済み特許:該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
1) Kumiko Ohashi, Yosuke Kurihara, Kajiro Watanabe, Hiroshi Tanaka. 「Safe patient transfer system
with monitoring of location and vital signs.」 Journal of Medical and Dental Sciences; 55(1):1-9, (2008)
2) Ohashi K, Kurihara Y, Watanabe K, Ohno-Machado L, Tanaka H:「A Smart Stretcher System To
Improve Patient Safety During Transfers」, International Journal of Medical Informatics, submittted,
(2008)
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
招待講演
1) 田中博:「What every hospital manager needs to know about ever present information technology」,
Hospital Management Asia2007(HMA 2007), 2007.8.29
主催・応募講演
2) 大橋久美子,「Development of Smart Stretcher Equipped with Continuous Vital Signs Monitoring and
Location Detection 」, オーストラリア,ブリスベン国際会議場,12th World Congress on Health (Medical)
Informatics (Medinfo 2007), 2007.8.21
3) 太田沙紀子, 「電子タグを用いたベッドサイド情報自動認識システムの構築」, 神戸国際会議場・展示
場,第 27 回医療情報学会連合大会(第 8 回日本医療情報学会学術大会), 2007.11.24
4) 太田沙紀子: 「患者ベッドサイドにおける医療行為自動認識システムの構築」筑波大学, 筑波キャン
パス,情報処理学会第 70 回全国大会: 2007.3.14
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
111
(4)サブテーマ4:医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などライフサイクル管理に関する研究
(分担研究者名:土屋 文人 、所属機関名:国立大学法人 東京医科歯科大学 )
1)要旨
医薬品は、製薬企業/卸から医療機関に納品されるまでロット管理、使用期限管理がなされているが、
医療機関に納品、開梱された後は、薬剤師等の医療従事者による人的管理が主体となり、システム的な
管理が充分であるとは言い難いのが実情である。それゆえ、医療機関内において、医薬品の納品から患
者への投与又は廃棄までのライフサイクル管理を効率的かつ確実に実施することが求められている。「医
薬品利用に関するナレッジベース」を整備し、医薬品の個品管理や調剤手順管理、患者への投薬履歴
管理を実現するライフサイクル管理システムを試作、実証実験を実施することで、実用化に向けた更なる
課題を抽出することを目的とする。
2)目標と目標に対する結果
医療機関内において、医薬品の納品から薬剤部門での調製、払出し、病棟での施用、ならびに廃棄ま
での効率的かつ確実なライフサイクル管理を、電子タグを用いて実現することを目的とした実証実験を実
施する。
ライフサイクル管理の設計、開発に関する機能要件や実証実験に関する要件定義を実施するととも
に、研究期間全般にわたり、研究サブテーマの調査進捗や中間結果をもとに適宜推進方針の修正等の
フィードバックを実施する。
電子タグの医薬品管理への適用に関する国内外の事例調査を継続的に実施し、調査結果により、必
要であれば実証実験計画等への軌道修正を実施する。
電子タグの医薬品管理への適用の際には、粒度の異なる情報を簡単に扱える、医薬品使用に関する
ナレッジベースが必要となるため、平成 19 年度は、平成 18 年度実施したコード等の検討を継続し、対象
医薬品を拡大して、検討したコード等による付番を実施するとともに、粒度の異なる情報を管理する基本
的データベースを作成する。
電子タグを用いた医薬品の納品から調製、払出し、施用、廃棄にわたるライフサイクル管理システムの
実証実験において、対象業務を平成 18 年度実施した薬剤部内での調製業務に加え、病棟業務まで拡
大し、実証実験システムを設計・開発するとともに、実際に薬剤部及び病棟に実験環境を構築し、導入実
験を実施する。
電子タグの医療機関における導入状況について、文献、インターネット、学会発表や国際会議を中心
に調査した。その結果、平成 18 年度以前に実施され公開されている実証実験についての更新情報は少
なく、実業務内での検証事例である本研究に類するものは確認できなかった。国際医療情報学会におい
ても、電子タグの活用事例は手術室内の機器等への適用報告はみられるものの、他システムとの連動は
していない。医薬品のトレーサビリティに関しては、主にコストの問題からバーコードを用いた報告がされ
ているが、読み書き、リサイクル、一括読み取り、セキュリティ等の観点において電子タグへの期待は高
い。また、諸外国における発表で感じたことは、徐々にではあるが電子タグが実際の医療現場で使われ
始めていることであった。ただし、病院内等では患者を含めた医療スタッフの理解と協力も必須である。電
子タグの国際標準、国際的に電子タグに利用できる周波数帯の問題等、今後の検討すべき問題も挙げ
られている。
電子タグの医薬品管理への適用の際には、粒度の異なる情報を簡単に扱える、医薬品使用に関する
ナレッジベースが必要となる。平成 18 年度に引き続き、現状の医薬品情報の調査を実施し、電子タグの
112
医薬品管理への適用の際に使用可能か否かを検討した。さらに、内服薬を対象としてコード等による付
番を実施するとともに、粒度の異なる情報を管理する基本的データベースを作成した。
平成 17 年度に策定した計画に基づき、NTT 東日本関東病院は、薬剤部内での調剤業務に加え、病
棟業務における電子タグを用いた業務を支援するライフサイクル管理システムの詳細仕様を定義した。日
立製作所は、NTT 東日本関東病院薬剤部の調剤業務に加え、病棟業務における電子タグを用いたライ
フサイクル管理システムの設計・開発を実施した。
また、NTT 東日本関東病院内の抗がん剤と高カロリー輸液の調剤業務及び病棟業務において、開発
したプロトタイプシステムの導入環境を構築し、電子タグを貼付した医薬品の実業務への適用を実施し
た。日立製作所は、NTT 東日本関東病院薬剤部及び病棟での実業務適用に際し、プロトタイプシステム
の構築と実験時の技術支援を実施した。
結果として、調剤過誤の防止に効果的であり、かつ業務効率が著しく低下しないことから、調剤業務及
び病棟業務における電子タグの有用性が実証できた。
電子タグの医薬品管理への適用に関する国内外の事例調査を継続的に実施し、常に研究の先進性
を確認することにより、研究参加者の意識の向上及び実験の成果に結びつけることができた。
電子タグを用いた医薬品の納品から調製、払出し、施用、廃棄にわたるライフサイクル管理システムの
実証実験において、平成 18 年度に実施した NTT 東日本関東病薬剤部内での調製業務に加え、対象業
務を病棟業務まで拡大し、実際に施用した医薬品の調剤から廃棄まで一貫したトレース情報を取得する
事に成功した。今回取得した情報をより効果的に利用するためにも粒度の異なる情報を簡単に扱える、
医薬品使用に関するナレッジベースが必須となることも再認識した。
また、今回ライフサイクル管理システムプロトタイプの開発・導入を実施したことで、実際の業務内にお
ける操作性、効果的なユーザーインターフェースの検証を行うことができ、本格導入システムの開発にむ
けての貴重なノウハウが蓄積できた。
3)研究方法/調査方法
医療機関内において、医薬品の納品から薬剤部門での調製、払出し、病棟での施用、ならびに廃棄ま
での効率的かつ確実なライフサイクル管理を、電子タグを用いて実現することを目的とした実証実験を実
施する。
電子タグを用いた医薬品の納品から調製、払出し、病棟での施用、ならびに廃棄にわたるライフサイク
ル管理システムを試作、実証実験を実施することにより、調剤業務の効率性、正確性に必要な課題を抽
出することを目標とする。
1.医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などライフサイクル管理に関する研究統括
医薬品の納品から薬剤部門での調製、払出し、病棟での施用、ならびに廃棄までのライフサイクル
管理に関する研究の研究統括を実施する。ライフサイクル管理の設計、開発に関する機能要件や実
証実験に関する要件定義を実施するとともに、研究期間全般にわたり、研究サブテーマの調査進捗や
中間結果をもとに適宜推進方針の修正等のフィードバックを実施する。
2.医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などライフサイクル管理関連情報収集ならび
に実証実験
医薬品の納品から薬剤部門での調製、払出し、病棟での施用、ならびに廃棄までのライフサイクル
管理に関し、国内外の関連情報収集ならびに業務フロー調査を実施するとともに、ライフサイクル管理
のための電子タグシステムによる実証実験を実施することにより、病院業務の効率性、正確性に必要な
113
課題を抽出する。
3.医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などライフサイクル管理に関する実証実験シ
ステム構築と実証実験支援
医薬品の納品から薬剤部門での調製、払出し、病棟での施用、ならびに廃棄までのライフサイクル
管理システムについて、病院業務の効率性、正確性を目的とした電子タグシステムを設計、試作する。
また、実際の医療機関における実証実験に対し、技術的支援を実施する。実証実験の結果を通じ、実
用化に向けた技術的要件を明確にすることを目標とする。
4)研究結果
1.電子タグの医薬品管理への適用に関する国内外の事例調査
1.1 調査対象、調査方法の概要
表-29 に示す調査対象をもとに、電子タグの医薬品管理への適用に関する国内外の事例調査を実
施した。
表-29 事例調査対象(再掲)
事例調査対象
対象
調査方法
先進的事例の個別調査
国内
国内の先進事例を個別調査。
医療情報関連学会、シンポ
国内
下記学会、シンポジウム等での発表、展示、論文内容
ジウム等の発表、展示、論文
海外
を調査。
・第 11 回日本医療情報学会春季学術大会
(平成 19 年 6 月 15 日~16 日)
・第 17 回日本医療薬学会年会
(平成 19 年 9 月 29 日~30 日)
・第 27 回医療情報学連合大会
(平成 19 年 11 月 23 日~25 日)
・HIMSS AsiaPac07 Conference & Exhibition
(平成 19 年 5 月 15 日~18 日)
・12th World Congress on Health(Medical) Informatics
(Medinfo 2007)
(平成 19 年 8 月 20 日~24 日)
・Hospital Management Asia2007(HMA 2007)
(平成 19 年 8 月 29 日~9 月 2 日)
・The World of Health IT Conference & Exhibition 2007
(平成 19 年 10 月 22 日~25 日)
インターネット上での
国内
「RFID JOURNAL」、「日経 RFID テクノロジ Express」等
ニュース記事
海外
からインターネット上のニュース記事を抽出。
114
1.2 国内外における電子タグの医薬品管理の適用状況
国内外における電子タグの医療への適用事例について、特に医療安全を目的とした事例を中心
に、表-30 に再掲する。
表-30 電子タグの医療への適用事例(再掲)
対
実施機関
象
実施内容
秋田大学医学部附属病院
電子タグを使用した薬剤誤投与防止システム
秋田大学医学部附属病院
センサ付き高機能電子タグを用いた管理の高度
日本電気株式会社
化実証実験
長崎大学
医学部・歯学部附属病院
日本製薬団体連合会 ほか
社団法人
日本病院薬剤師会 ほか
電子タグを利用した医薬品の院内物流システム
平成 16 年度経済産業省の電子タグ実証実験
医薬品業界における電子タグ実証実験
実用化区分
実用化
実証実験
実証実験
実証実験
平成 17 年度経済産業省の電子タグ実証実験
医薬品業界における電子タグ実証実験(東京大
実証実験
学医学部附属病院薬剤部で実施)
東京大学医学部附属病院
薬剤部
YRP ユビキタスネット
医薬品トレーサビリティ実証実験
実証実験
ワーキング研究所 ほか
日
本
東京医科歯科大学歯学部
附属病院
病院内でのタギングを前提とした、民間レベルの
三重大学医学部附属病院
薬剤トレーサビリティ実証実験
実証実験
山梨大学医学部附属病院
京都医療センターAuto-ID ラボ
医薬品トレーサビリティ実証実験
実証実験
横浜市立大学医学部附属病院
電子タグ付き指輪による個人認証システム
実証実験
福岡市
名古屋掖済会病院
東京慈恵会医科大学附属病院
兵庫県立大学
日本総合研究所
上尾中央総合病院
大規模災害時の集団救急作業における電子タ
グ有効性実証実験
電子タグを活用した大規模災害時の傷病者情
報集約システム実証実験
電子タグを用いたカルテ管理
医療機器管理、薬剤管理、救急医療支援、患者
見守りシステム等
電子タグを使った廃棄物管理システム
115
実証実験
実証実験
実用化
実証実験
実用化
対
実施機関
象
実施内容
電子タグによる医薬品の真贋判別
米ファイザー
(バイアグラ、セレブレックス)
実用化区分
実用化
米セファロン
電子タグによる医薬品の個品追跡システム
米 Jacobi Medical Center
電子タグ付リストバンドによる患者管理システム
実証実験
米 Georgetown Univ. Hospital
電子タグ付リストバンドによる輸血管理システム
実証実験
米 Hackensack Medical Univ.
体内埋め込み型 RFID による患者管理システム
実証実験
米 Massachusetts General Hospital
電子タグによる輸血管理システム
実証実験
海 米 Baptist Health
電子タグ付リストバンドによる患者管理システム
外 仏 Hospital La Conception
医療試料(検体)への電子タグ取り付けによる取
実証実験
実用化
実用化
ほか
り違え防止
独 Saarbruecken Clinic
電子タグ付リストバンドによる患者管理システム
実用化
独 Univ. Hospital of Jena
電子タグ付リストバンドによる患者管理システム
実用化
英 Portsmouth General Hospital
電子タグによる採血管理
実証実験
手術時の患者確認のための電子タグシステム
実証実験
アクティブ電子タグによる患者・医療機器トラッキ
実証実験
台 湾
Chang-Gung
Memorial
Hospital
米 Vincent Hospital
ほか 多数
ングシステム
実用化
これらの事例のうち、医薬品管理に適用されているものとして、国内については、以下のものが挙げ
られる。
1.2.1 秋田大学医学部附属病院 電子タグを使用した薬剤誤投与防止システム
秋田大学医学部附属病院は、平成 16 年 11 月に電子タグを使った薬剤誤投与防止システムを導入した。与
薬時、看護師が、払出された医薬品、患者の手首に巻かれたリストバンド、看護師のネームカードの裏面に貼
付した 3 つの電子タグ情報を読み取り、オーダ情報との照合を行うことにより、誤投薬防止と実施記録の保持を
実現している。全病棟で一斉導入された。
1.2.2 秋田大学医学部附属病院・日本電気株式会社 センサ付き高機能電子タグを用いた管理の
高度化実証実験
秋田大学医学部附属病院は、平成19 年2 月に、電子タグ(センサ付き高機能電子タグ)を用いた予兆を主と
したインシデント管理を目的とした実証実験を実施した。実験ケースは以下の 5 ケースである。
・ ケース 1:注射時の患者取り違え防止
・ ケース 2:手術室での患者取り違え防止
・ ケース 3:患者の見守り(転倒・急変検知)
・ ケース 4:医療機器の所在、状態の管理
116
・ ケース 5:血液製剤の輸送時の温度管理
1.2.3 長崎大学医学部・歯学部附属病院 電子タグを利用した医薬品の院内物流システム
長崎大学医学部・歯学部附属病院は、平成 17 年 4 月より薬剤部で管理している血液製剤に電子タ
グを貼付して、より安全で効率的な院内物流システムを構築できるかを実証実験した。その結果、ロット
管理の正確性の向上と施用確認情報のデータベース化の手間を軽減できたが、オーダリングシステム
との結合が不可欠という見解に至った。
1.2.4 平成 16 年度経済産業省の医薬品業界における電子タグ実証実験
日本製薬団体連合会などは、経済産業省委託事業の平成 16 年度電子タグ実証実験において、製薬メーカ
からのソースタギングを想定し、医薬品取り扱い業務における電子タグ導入の効果を①作業の効率化、②特
定生物由来製品に係わる情報精度の向上、③医薬品安全性の向上、④環境負荷削減の 4 つの観点で実証
実験を実施した。平成 16 年度は主に製薬メーカ、卸から医療機関に納品される業務プロセスにおいての実証
実験を中心に実施された。
1.2.5 平成 17 年度経済産業省の医薬品業界における電子タグ実証実験
社団法人 日本病院薬剤師会は経済産業省委託事業の平成 17 年度電子タグ実証実験において、医療機
関における電子タグの導入の効果を①医薬品管理精度向上、②混合調製時の投薬過誤防止などの医療安全
性の向上(東京大学医学部附属病院で実施)、③製薬メーカ・卸・医療機関までを含めたサプライチェーン全
体での医薬品在庫の最適化に向けた検討の 3 つの観点で実証実験を実施した。
1.2.6 東京大学医学部附属病院薬剤部 医薬品トレーサビリティ実証実験
東京大学医学部附属病院薬剤部では、平成 16 年 12 月から平成 17 年 3 月にかけて、医薬品の物流の品質
保証、使用の安全における各種情報を伝達できる仕組みや、履歴管理ができる仕組みを構築するため、電子
タグによる血液製剤トレーサビリティ実証実験システムを開発し、実証実験を行った。
1.2.7 病院内でのタギングによる、民間レベルの薬剤トレーサビリティ実証実験
東京医科歯科大学歯学部附属病院、三重大学医学部附属病院、山梨大学医学部附属病院の 3 大学病院
においては、株式会社先端情報工学研究所とともに、病院内でのタギングによる薬剤トレーサビリティの実証
実験を企画したが、諸般の都合により実験は中断された。
1.2.8 京都医療センター 医薬品トレーサビリティ実証実験
京都医療センターなどでは、血液製剤に電子タグを貼付し、製薬メーカから卸、医療機関への物流プロセス、
ならびに医療機関内での院内物流プロセスの効率化の実証実験を実施した。
1.2.9 日本総合研究所・上尾中央総合病院 電子タグを使った廃棄物管理システムの導入
日本総合研究所は、日本総合研究所が主催するコンソーシアムが開発した「次世代型廃棄物マネジメント
システム」を上尾中央総合病院に本格導入した。「次世代型廃棄物マネジメントシステム」は院内の手術室、透
析室、病棟などで排出される医療廃棄物の種類、重量、容器の状態などのデータを、電子タグを利用して抽
出し、分析を可能にするシステムである。
1.2.10 台湾 Chang-Gung Memorial Hospital 手術時の患者確認のための電子タグシステム
台湾 Chang-Gung Memorial Hospital (CGMH) では、電子タグシステムを手術室に導入することにより、患
117
者の確認と明確な特定、リアルタイム・データの収集が可能となり、部位誤認及び患者誤認手術のリスクが低減
され、患者安全手順又は標準手術手順に確実に準拠できるようになったため、患者の安全が向上した。電子
タグの導入以降、CGMH では手術室における患者 ID 確認精度 100 パーセントが達成されている。
新たな電子タグシステムでは、これまでの手術室におけるプロセスでは手動で行われていた多数の機能が
自動化されている。このシステムでは、手術自体や手術部位だけでなく、薬物治療の安全性確保のために確
認が必要とされる 5 つの項目(患者、薬剤、投薬量、時間及び経路)の検証も支援されている。
患者データの検証プロセスを自動化することで、CGMH の医療スタッフは、患者 1 人当たり平均 4.3 分の対
応時間削減を実現した。また、データ収集の自動化は、検知されなければ医療ミスにつながる可能性のある手
入力ミスの防止にも貢献している。
標準手術手順への準拠やリアルタイムの例外アラートが実現したほか、口頭確認や患者・薬物・標本の ID
データ手入力に関連するミスを低減できるということが、システム導入の大きな利点。新たな電子タグシステム
の導入以降、患者の確認に関するミスは起きていないことから、これは大きな成果である。
以上のとおり、適用事例を調査した結果、平成 18 年度以前に実施され公開されている実証実験についての
更新情報は少なく、実業務内での検証事例である本研究に類するものは確認できなかった。国際医療情報学
会においても、電子タグの活用事例は手術室内の機器等への適用報告はみられるものの、他システムとの連
動はしていない。医薬品のトレーサビリティに関しては、主にコストの問題からバーコードを用いた報告がされ
ているが、読み書き、リサイクル、一括読み取り、セキュリティ等の観点において電子タグへの期待は高い。
2.医薬品使用に関するナレッジベースの構築
医療分野における電子タグの利用に際しては、当該医薬品の包装形態等の粒度に合致した医薬品情報が
必要になる。既存の医薬品情報は当該医薬品の一般的な医薬品情報であり、情報の粒度を考慮したものには
なっていないことから、本研究においては、医療機関における医薬品の納品から使用に至るまでの各過程に
おいて必要な医薬品情報の粒度を検討し、どのような医薬品コードが利用可能であるか、また各粒度における
医薬品情報の入手可能性について検討を行った後、基本的なデータベース(DB)を構築した。DB 構築には
医薬品標準コードである HOT 番号を基本とすることで、粒度の異なる医薬品情報を取り扱えることが確認され
た。医薬品情報については添付文書情報を利用することである程度の情報は格納できたが、納品時に利用す
る販売単位の画像情報、医薬品の調製方法等については既存の添付文書 DB や製薬企業の HP を含め入手
できないデータが存在した。これらのことから、医療分野における電子タグ利活用のためには、本研究成果を
基に、国レベルあるいは中立的な機関においてデータベースを構築することの必要性が示された。
2.1 平成 18 年度までの研究実施内容
本研究における平成 18 年度までの研究実施内容の概要を以下に示す。
2.1.1 医薬品の調剤に関わるナレッジの調査
医薬品のライフサイクル管理システムに必要となる医薬品コードに関し、現状調査を実施した。
医薬品コードについては、財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)の医薬品マスタの最新版を
基礎データとし、各コード(薬価基準収載医薬品コード、個別医薬品コード、JAN コード、基準番号(HOT 番号))
の対応状況に関して調査を実施した。
2.1.1.1 医薬品の一般名と製品名の関連状況調査
経験上、1 つの医薬品の一般名に対して複数の製品名が該当するであろうと考えられる 10 品目の内服薬を
調査対象医薬品として選出した。そして、選出した調査対象医薬品の一般名と製品名の関連状況を検討する
118
ため、市販の医薬品データベースを使用して検索を実施した。
調査対象医薬品と、市販の医薬品データベースを使用して検索した結果、ヒットした製品数を表-31 に示
す。
表-31 調査対象医薬品と、市販の医薬品データベースの検索結果
調査対象医薬品(一般名)
検索でヒットした製品数
ジアゼパム
41
ジクロフェナク
90
重質酸化マグネシウム
6
アズレン
75※
塩酸モルヒネ
42
フロセミド
30
1※
ベタメサゾン
硝酸イソソルビド
39
メフェナム酸
17
塩酸ラニチジン
29※
合計
※
370
:検索でヒットしたデータの内、製品名以外の情報(YJ コード等)がすべて空白のものがあり、その
データは除外している。
表-31 に示したとおり、調査の結果、10 品目の医薬品(一般名)に対し、合計 370 の製品が該当する
ことが判明した。
2.1.1.2 医薬品の一般名の複数表記調査
経験上、同じ医薬品に対して複数の一般名が表記されているものがあるため、選出した 10 品目の調査対象
医薬品について、(2)と同様に市販の医薬品データベースを使用して、一般名の表記状況を調査した。
調査結果を表-32 に示す。
119
表-32 市販の医薬品データベースでの一般名表記状況
調査対象医薬品
表記の種類数
ジアゼパム
1
ジクロフェナク
2
重質酸化マグネシウム
2
一般名の表記パターン
「ジアゼパム」
「ジクロフェナク」
「ジクロフェナクナトリウム」
「重質酸化マグネシウム」
「酸化マグネシウム」
「アズレン」
「アズレンスルホン酸ナトリウム」
アズレン
「アズレンスルホン酸ナトリウム・炭酸
4
水素ナトリウム」
「アズレンスルホン酸ナトリウム・L-グ
ルタミン」
塩酸モルヒネ
1
「塩酸モルヒネ」
フロセミド
1
「フロセミド」
ベタメサゾン
1
「ベタメサゾン」
硝酸イソソルビド
1
「硝酸イソソルビド」
メフェナム酸
1
「メフェナム酸」
塩酸ラニチジン
1
「塩酸ラニチジン」
表-32 に示したとおり、調査の結果、同じ医薬品に対し複数の一般名が使用されている状況が明確
になり、アズレンの様に、市販のデータベースで 4 種類もの一般名が使用されているものもあることが判
明した。
2.1.2 基準番号(HOT 番号)による医薬品情報の関連付け方法の検討
医薬品のライフサイクル管理システムに必要となるナレッジベースシステムの構築に向けて、電子タグなど
の IT が支援する業務に応じて、異なる粒度の医薬品情報を関連付け一括管理できる方法の検討を実施した。
粒度の異なる医薬品情報の関連付け方法として、調査対象医薬品をサンプルデータとして、関連付けを行
う方法を検討した。以下に、関連付け方法の検討内容と、調査内容を示す。
2.1.2.1 基礎データの準備
財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)より医薬品マスタの基準番号(HOT 番号)をダウン
ロードし情報の整理をした。
2.1.2.2 薬価基準収載医薬品コード、個別医薬品コードによる対応付け
2.1.2.1 のデータを元に、薬価基準収載医薬品コード、個別医薬品コードをキーに同一の医薬品を対応
付ける作業を実施した。これにより、同一コードで、複数の医薬品が該当するデータを把握することができた。
120
2.1.2.3 各コードによる関連付けの検討
調査対象の基礎データ総数 39,998 件の対応状況の調査として、薬価基準収載医薬品コード、個別医薬品
コード、基準番号(HOT 番号)について、それぞれのコードや番号の関連付けを検討した。その結果、調査対
象医薬品 10 品目について関連していた 370 製品に対してその関係を調査することとした。
2.1.2.4 調査対象 370 製品での関連性調査
370 製品について、対象医薬品の個別医薬品コードを元に医薬品マスタ中のデータと突合せを行い、抽出
したデータの HOT9、HOT11、HOT13 の対応状況を調査した。医薬品マスタとの突合せの結果、医薬品マス
タから抽出できた医薬品の製品数は 345 製品であり、25 品目の製品は、HOT 番号は振られていたものの個別
医薬品コードと薬価基準収載医薬品コードが異なって振られているなどの理由から、個別医薬品コードを元に
した対応抽出処理では医薬品マスタから対応を取ることができなかった。
2.1.2.5 基準番号(HOT 番号)の対応状況調査結果
基準番号(HOT 番号)の対応状況を調査した結果、HOT9 が 464 個、HOT11 が 633 個、HOT13 が 991 個
であった。
以上の結果から、医薬品の成分を基本に考えた場合、「成分そのもの」について与えられる情報、「成分+
剤形」、「成分+剤形+規格」、「成分+剤形+規格+会社名」といったそれぞれのレベルで与えられる情報が
異なるが、現在市販されているデータベースでそれぞれの情報の粒度を一元的に管理できている医薬品コー
ドは存在していないことが確かめられた。現段階においてその粒度の違いを一元管理できる医薬品コードとし
ては基準番号(HOT 番号)があるが、残念ながら成分での粒度については一元管理ができていない。それ以
下の粒度については基準番号(HOT 番号)を基準としてデータベースを作成すればよいことが確認できたこと
になる。
2.2 平成 19 年度研究実施内容
2.2.1 研究の目的
医薬品の臨床における電子タグの利活用を考慮すると、医薬品の納品から患者への使用までの間に存在
するさまざまな過程において、その過程において必要とする医薬品情報が参照できることが求められる。本研
究においてはそれらの過程において必要とされる医薬品情報の粒度を考慮して、系統立った医薬品データ
ベースを作成するための課題を検討し、その解決の方策を求めることとする。
2.2.2 研究方法
臨床において求められる医薬品情報は、それが使用される場面と必要とする者の職種等の違いによって異
なる。(図-38 参照)
これらの粒度の異なる医薬品情報が必要に応じて参照可能とするデータベースを構築するために、我が国
の既存の医薬品コードの適応性を検討する。また、それぞれの過程において必要な医薬品情報の入手可能
性について検討を行う。これらの検討結果を利用して、医薬品分野における電子タグ利用を考慮した、医薬品
情報データベースを構築する。
121
図-38 利用者が必要とする医薬品情報の違い
医師
薬剤師
効能
禁忌情報
副作用情報
など
効能
禁忌情報
副作用情報
処方時には医
薬品を目前に
していないた
め、実は電子
タグはあまり必
要としない
看護師
SPD 関係者等
調剤(混注)上の注意
保存上の注意
(冷所、遮光など)
など
調剤(混注)上の注意
保存上の注意
(冷所、遮光など)
など
保存上の注意
(冷所、遮光など)
など
外観形状
(容器の形、色など)
など
外観形状
(容器の形、色など)
など
外観形状
(容器の形、色など)
など
現状の医薬品情
報は、これらの情
報が中心
実際に医薬品を扱う業務のため、医薬品に貼付さ
れた電子タグが有効活用される
2.2.3 調査及び研究結果
平成 19 年度も平成 18 年度と同様に、財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)より医薬品マス
タの基準番号(HOT 番号)をダウンロードし情報の整理をした。
本年度の最新データは基準番号(HOT 番号)の HOT9 レベルで総数 26,116 件であった。
このうち、個別医薬品コードが重複しているものが 9,823 件確認できた。これはすなわち個別医薬品コード
のみの取り扱いでは製品が一意に決まらないことを意味する。異なる形状や容器の製品が複数対応すること
になり、利用者レベルによっては間違いや事故のもとになる可能性がある。
例えばチモプトール点眼液においてはチモプトールでまとめると表-33 に示すように複数の製品が該当す
る。これらのうち公示名が「チモプトール点眼液」ではなく単に「チモプトール」との表記は経過措置品目である。
この図表からもわかるように個別医薬品コードでは製品が一つに決まらないが基準番号(HOT 番号)をキーに
用いれば製品が一つに決まっていることが分かる。
122
表-33 チモプトール点眼液での例
処方用
薬価基準収載
基準番号
個別医薬品コード
番号
告示名称
規格単位
製造会社
販売会社
医薬品コード
(HOT 番号)
(HOT7)
102094601
1020946 1319702Q1107 1319702Q1107 チモプトール点眼液 0.25%
0.25%1mL
万有製薬
参天製薬
102094601
1020946 1319702Q1026 1319702Q1026 チモプトール 0.25%
0.25%1mL
万有製薬
参天製薬
102094602
1020946 1319702Q1107 1319702Q1107 チモプトール点眼液 0.25%
0.25%1mL
万有製薬
万有製薬
102094602
1020946 1319702Q1026 1319702Q1026 チモプトール 0.25%
0.25%1mL
万有製薬
万有製薬
102100401
1021004 1319702Q2022 1319702Q2022 チモプトール 0.5%
0.5%1mL
万有製薬
参天製薬
102100401
1021004 1319702Q2111 1319702Q2111 チモプトール点眼液 0.5%
0.5%1mL
万有製薬
参天製薬
102100402
1021004 1319702Q2022 1319702Q2022 チモプトール 0.5%
0.5%1mL
万有製薬
万有製薬
102100402
1021004 1319702Q2111 1319702Q2111 チモプトール点眼液 0.5%
0.5%1mL
万有製薬
万有製薬
102106601
1021066 1319702Q3029 1319702Q3029 チモプトール XE0.25%
0.25%1mL
万有製薬
参天製薬
102106601
1021066 1319702Q3037 1319702Q3037 チモプトール XE 点眼液 0.25% 0.25%1mL
万有製薬
参天製薬
102106602
1021066 1319702Q3029 1319702Q3029 チモプトール XE0.25%
0.25%1mL
万有製薬
万有製薬
102106602
1021066 1319702Q3037 1319702Q3037 チモプトール XE 点眼液 0.25% 0.25%1mL
万有製薬
万有製薬
102107301
1021073 1319702Q4033 1319702Q4033 チモプトール XE 点眼液 0.5%
0.5%1mL
万有製薬
参天製薬
102107301
1021073 1319702Q4025 1319702Q4025 チモプトール XE0.5%
0.5%1mL
万有製薬
参天製薬
102107302
1021073 1319702Q4025 1319702Q4025 チモプトール XE0.5%
0.5%1mL
万有製薬
万有製薬
102107302
1021073 1319702Q4033 1319702Q4033 チモプトール XE 点眼液 0.5%
0.5%1mL
万有製薬
万有製薬
なお更に一つの例としてチモプトール点眼液 0.25%について HOT 番号と薬価基準収載医薬品コ
ードと個別医薬品コード、及びその外観を図-39 と図-40 に比較して示す。
図-39 HOT 番号 102094601 のチモプトール点眼液の外観
薬価基準収載医薬品コード:1319702Q1107
個別医薬品コード
:1319702Q1107
HOT 番号
:102094601
123
図-40 HOT 番号102094602のチモプトール点眼液の外観
薬価基準収載医薬品コード:1319702Q1107
個別医薬品コード
:1319702Q1107
HOT 番号
:102094602
我が国において汎用されている医薬品コードには薬価基準収載医薬品コード、個別医薬品コード
(YJJコード)、標準医薬品コード(HOT 番号)、レセ電算コード、JANコード等がある。医薬品分野での
電子タグの利活用を考慮した場合の必要条件としては、医薬品情報が医薬品そのもの、即ち「物」に根
ざしている必要がある。なぜなら、併売品のように同一の販売名でありながら、外観が全く異なる場合
に、「物」を基本とした情報でなければ、画像情報が異なってしまうからである。本節冒頭で列挙した汎
用医薬品コードの中で、「物」に基本を置いたコードは HOT 番号とJANコードのみである。しかしなが
ら、JANコードは販売単位を粒度として付与されているため、納品後の使用形態、即ち調剤包装容器
単位(例アンプル単位)では対応できない。平成 20 年 9 月から注射薬に表示が義務づけられるバーコ
ードでは、GS-1 に準拠したコード体系となっているが、これらの点を考慮した場合、医薬品のライフサ
イクル管理に使用するデータベースの基本となる医薬品コードとしては HOT 番号が最適であった。
HOT 番号は 13 桁レベルではJANコードと、11 桁レベルでは調剤包装容器単位で付されるバーコード
に使用されるコードと 1 対 1 で対応していることから、電子的に一気通貫性を確保することができること
が確認された。
電子タグの利用の際に PDA 等に表示することが望ましい情報として画像情報がある。調剤包装容器
単位の画像情報については、多くの場合、個々製薬企業の HP 等で入手することが可能であった。し
かしながら、販売包装単位での画像については、製薬企業の HP から入手することは全体として困難を
伴うことが多かった。販売包装単位に関する画像情報は、包装変更時のお知らせ画面等においては
入手できる企業が多いが、恒常的に販売包装単位の画像を掲載している企業は少なかった。医療機
関等の場合、当該医薬品の購入後は画像情報を自ら撮影して装備することも可能であるが、本来これ
らの情報は製薬企業から提供されるべきであろう。
画像情報以外の情報の入手可能性についても検討を行ったが、現状の添付文書情報を基本とした
既存の医薬品情報データベースにおいては、注射薬の調製方法等の情報は入手することが困難であ
った。これらは添付文書に調製の仕方が図解されていたりするが、データベースでは反映されていな
かった。電子タグの利活用を考慮した場合、現状で看護師あるいは薬剤師が行っている混合調製の場
面で、これらの情報が参照できることが必要と思われる。現状では医薬品の添付文書、インタビューフ
ォームその他の資料から個別に情報を入手する必要があり、今後、製薬企業から電子的な媒体での情
124
報提供が行われることが必要と思われる。
これらの検討結果を基に、利用場面での粒度を考慮した医薬品情報データベースの一部構築を試
みた。なるべく既存のデータベースを利用しながら、構築する方法をとったが、前述のように、臨床では
必要であるものの、電子媒体として入手困難な情報もあったので、そのような場合には個別にスキャナ
ー等を利用してとりあえず情報として格納することとする。
2.2.4 考察
納品から臨床での使用までの各過程における電子タグの利活用を支援するためには、それぞれの過程に
おいて求められる粒度にあった医薬品情報が的確に参照できることが必要である。しかしながら、電子データ
として入手できる情報には限りがあったことから、今後国レベルあるいは第三者性を有した機関を中心として、
医薬品情報データベースを構築する必要があると思われる。その場合、基本となる情報のメンテナンスは各製
薬企業が行う体制とすることが必要不可欠である。
データベース構築に使用する医薬品コードは HOT 番号が最適である。販売包装単位、調剤包装単位の
コードマッピングは平成 19 年 4 月以降、財団法人医療情報システム開発センター(MEDIS-DC)によって情報
提供が行われることになっている。HOT 番号のコードマッピングも同センターで行われていることから、両者を
利用しつつ、本研究で構築された DB を参考に、全ての医療用医薬品を対象としたデータベース構築が行わ
れることを望むものである。
3.医薬品の分割利用・保管、再利用、新旧混合、廃棄などライフサイクル管理に関する実証実験
本実証実験は、東京医科歯科大学が統括的に実証実験の方針を決定し、NTT 東日本関東病院が適用業
務フローに基づき実証実験システムの詳細仕様をまとめ、電子タグを実際の業務に適用した実証実験を実施
した。日立製作所は、実証実験の方針やシステムの詳細仕様に基づくライフサイクル管理システムの設計開
発と、実証実験における実施時の評価項目の策定等、実証実験の技術協力を担当した。
3.1 平成 18 年度までの実施内容
本実証実験は平成 17 年度から平成 19 年度の 3 ヶ年計画で実施した。ここでは過去 2 年間の実施概要を説
明する。
3.1.1 平成 17 年度実施概要
平成 17 年度は、「電子タグの医薬品管理への適用に関する国内外の事例調査」及び調査結果を参考に
NTT 東日本関東病院の実際の業務内における「実証実験実施方法の策定」を実施した。
NTT 東日本関東病院薬剤部における既存業務の業務システムイメージを図-41 に示す。これをベースに実
証実験を加味した全体システムイメージを図-42 に示す。
実証実験システム全体は、3 つの既存サブシステムと 4 つの新規サブシステムで構成される。今回の実証実
験システムでは、既存のサブシステムの機能領域を変えることなく、医薬品の個品管理を実現するため、4 つ
の新規サブシステムを定義した。
125
図-41 既存業務の業務システムイメージ
126
図-42 全体システムイメージ
3.1.2 平成 18 年度実施概要
平成 17 年度にまとめた“実証実験実施方法”を基盤に平成 18 年度、19 年度の 2 ヶ年で電子タグシステムの
構築と、NTT 東日本関東病院薬剤部における医薬品管理業務について、業務効率向上や安全性向上の観点
から、電子タグ導入による効果が期待できると考えられる「調剤」「施用」「廃棄」の 3 業務を対象として、システ
ムの導入実験を実施した。
NTT 東日本関東病院薬剤部の医薬品管理業務について、平成 18 年度に実施した電子タグ導入実験の目
的を表-34 に示す。
127
表-34 電子タグ導入実験の目的と実施時期
業務名称
電子タグ導入実験の目的
①誤調剤、誤調製の防止
-処方どおりの医薬品が調製されているかの鑑査を電子タグを使用して、正確、
かつ、効率良く実施可能かを検証する。
②処方せんごとに異なる調製後医薬品の個品管理
調剤
-調製後の医薬品に混注されている各医薬品の個別情報(ロット番号、有効期限
等)が管理可能なことを検証する。
③調剤、調製記録保持
-調剤、調製作業の実施者及び作業実施時刻、調製医薬品等、履歴情報が管
理可能なことを検証する。
①廃棄記録保持
廃棄
-不用になった医薬品、調製後の空き容器等の廃棄に関する履歴情報が管理可
能なことを検証する。
平成 18 年度に実施する NTT 東日本関東病院の注射薬調剤業務における電子タグ導入実験の全
体フローを図-43 に示す。
図-43 電子タグを導入しての調剤業務全体フロー概要
128
3.1.2.1 業務の効率性に関する評価
1) 自動鑑査システムを使用した場合、約 15%~20%増加した鑑査業務時間をさらに短縮すること
で、業務実施担当者が負担と感じることなく、実際の業務への適用が可能であることが示唆された。
2) 医薬品への電子タグの貼り付け方法や、電子タグを読み取りやすいリーダの設置方法、その業
務での運用方法を工夫し、可能な限り一括で電子タグを読み取れるようにすることが、業務の効率
を図る上で重要であるといえる。
3.1.2.2 業務の正確性に関する評価
1) 多品目、多数の医薬品が混在し、注射薬の調製(混注)作業が必要な処方件数が多くなるほど、目
視鑑査の前にシステムが自動的に鑑査を行うことにより、医療過誤防止の精度向上が示唆された。
2) 医薬品や関連機材に貼り付けた電子タグを正しく読み取ることが簡単に識別できることが、業務
効率を図る上で重要である。
3.1.2.3 調剤業務における電子タグ利用の有効性に関する考察
NTT 東日本関東病院薬剤部の調剤業務における、抗がん剤や IVH の調製(混注)業務に電子タグを適用し
た実証実験の結果より、患者に投与する医薬品の調製(混注)業務に自動鑑査システムを導入したことによる
業務効率の低下はみられず、業務の正確性(医療過誤防止)の精度は向上することが実証された。
業務の実施方法に合わせ、課題を解決していくことで、調剤業務における電子タグ利用の有効性は非常に
高いといえる。
3.2 平成 19 年度実証実験の概要
平成 18 年度に引き続き、NTT 東日本関東病院における医薬品管理・供給業務において、業務効率
向上や安全性向上の観点から、電子タグ導入による効果が期待できると考えられる「調剤」「施用」「廃
棄」の 3 業務を対象として、電子タグ導入実験を実施した。ここでは、平成 19 年度に実施する実証実験
の範囲と、実験業務フローについて解説する。
3.2.1 対象業務
NTT 東日本関東病院の医薬品管理業務について、平成 18 年度、平成 19 年度に実施する電子タグ導入実
験の目的と実施時期を表-35 に示す。
129
表-35 電子タグ導入実験の目的と実施時期
業務名称
電子タグ導入実験の目的
実験実施時期
①調剤ミス、調製ミスの防止
-処方どおりの医薬品が調製されているかの鑑査
を電子タグを使用して、正確、かつ、効率良く実施
可能かを検証する。
②処方せんごとに異なる調製後医薬品の個品管理
-調製後の医薬品に混注されている各医薬品の
調剤
個別情報(ロット番号、有効期限等)が管理可能な
平成 18 年度、平成 19 年度
ことを検証する。
③調剤、調製記録保持
-調剤、調製作業の実施者及び作業実施時刻、
調製医薬品等、履歴情報が管理可能なことを検証
する。
①患者、処方せんのオーダ情報、調製後医薬品の照合
-患者、オーダ、医薬品が合っているかの照合確
認を電子タグを使用して、正確、かつ、効率良く実
施用
平成 19 年度
施可能かを検証する。
②実施記録保持
-患者への投薬実施者及び投薬実施時刻等、履
歴情報が管理可能なことを検証する。
①廃棄記録保持
廃棄
平成 18 年度(調剤業務内で
-不用になった医薬品、調製後、施用後の空き容 の廃棄の管理)
器等の廃棄に関する履歴情報が管理可能なことを 平成 19 年度(施用後までを範
囲とした廃棄の管理)
検証する。
表-35 に示したとおり、平成 19 年度は、平成 18 年度に実施した調剤業務の管理から施用及び医薬
品の廃棄に至る病棟までに範囲を拡張し、NTT 東日本関東病院の実業務(通常業務)への電子タグ
導入実験を実施するものとした。
これにより、「鑑査業務の正確性(安全性)・効率性」の観点から調製業務における電子タグ利用の有
効性について検証を実施するものである。
3.2.2 実験対象処方せんと電子タグ貼付対象医薬品及び対象病棟
平成 19 年度に実施する NTT 東日本関東病院の調剤及び施用業務における電子タグ導入実験に先立ち、
NTT 東日本関東病院では実験対象とする処方と電子タグ貼付対象医薬品及び対象病棟の選定方針を以下
のように決定した。
誤調製(混注)が重大な医療過誤に発展する可能性のある「抗がん剤」「IVH 輸液」を混合調製する処方
オーダを対象とし、そのオーダに含まれる医薬品に電子タグを貼付するものとする。
オーダが出てから調製後の医薬品を払出すまでの時間が比較的短い外来患者用の処方及び「臨時」「緊
急」の処方せんは対象外とする。
対象病棟は対象とする処方オーダが比較的多い病棟を選定し、実業務(通常業務)にて調剤-施用-廃棄の
一貫した実証実験を実施した。
130
3.2.3 抗がん剤・IVH 取り扱いの通常業務フロー
NTT 東日本関東病院薬剤部における、医師からの処方設計からその医薬品を調製し、使用後に廃棄する
までの業務は、大きく 7 つの作業工程となっている。
通常の NTT 東日本関東病院薬剤部における業務の全体フローを図-44 に示す。
図-44 調剤業務全体フロー概要(通常)
「処方鑑査」は、医師が設計した処方情報を前回までの処方の確認や、薬剤師の観点から見て問題
がないかを確認する業務である。
「取揃え」は、処方情報に従い、患者ごとに処方する医薬品をトレイに取揃える業務と、調製(混注)
が必要な医薬品を調製(混注)室に運び込んで準備及び取揃える業務である。さらに、調製(混注)が
必要な医薬品は、調製(混注)室内で RP(処方件数)ごとに分割され、処方及び施用ラベルと医薬品が
合っているかを確認する調製前の鑑査を実施する。
「調製」は、RP(処方件数)ごとに取揃えた医薬品を処方の指示に従い調製(混注)する業務と、調製
(混注)した医薬品の種類と、調製(混注)する量が処方の指示どおりか確認する業務である。
「払出し」は、RP(処方件数)ごとに調製(混注)した医薬品を再度患者単位にまとめ、処方の指示と
突合し鑑査後、患者用払出カートにセットする業務である。
「払出し」までは、薬剤部にて実施される業務である、以降の業務は医薬品が施用される病棟で実施
される業務である。
「受入」は、薬剤部から払い出された医薬品が当該病棟の処方指示と過不足がないか鑑査し、病棟
に医薬品を受入れる業務である。
「施用」は、患者への与薬を行う業務であり与薬直前に処方指示の最終確認を実施する。
「廃棄」は、施用済みの医薬品もしくは、処方指示の最終確認まで施用された医薬品を処理する業
務である。
3.2.4 抗がん剤・IVH の調製業務に電子タグを導入した実証実験業務フロー
平成19 年度に実施する NTT 東日本関東病院の調剤業務における電子タグ導入実験の全体フローを図-45
に示す。
131
図-45 電子タグを導入しての調剤業務全体フロー概要
取揃え業務では、患者に出された処方に従い、取揃えトレイに医薬品を取揃えていく作業を実施す
る。実証実験業務では、実験対象診療科の処方の取揃え作業は以下のように実施する。
1) 取揃えトレイは、電子タグ付きのトレイを使用し、そのトレイに電子タグ付きの医薬品を取揃える。
2) 取揃え実施者は、自分の電子タグ付き ID カードを取揃え実施記録用のリーダアンテナの上に置く。
3) 1)で取揃えたトレイをリーダアンテナの上に 1 トレイずつ置き、実施記録を取る。
調製前(取揃え)鑑査業務では、患者に出された処方に従い、取揃えた医薬品に誤りがないかの鑑
査を実施する。実証実験業務では、実験対象診療科の調製前(取揃え)鑑査作業を以下のように実施
する。
1) 調製前鑑査実施者は、自分の電子タグ付き ID カードを使用して、調製前鑑査用のシステムにロ
グインする。
2) トレイに取揃えられた医薬品を包装から取り出し、電子タグが包装に仮貼り付けされていたもの
は、医薬品本体に貼りかえる。
3) 調製前鑑査システムの鑑査画面で、鑑査を実施するトレイの処方を選択し、処方医薬品一覧が
表示されたところで、リーダアンテナの上に取揃えトレイを置く。これにより、医薬品に貼り付けられ
た電子タグを読み込ませることで、取揃えた医薬品と数量に誤りがないかを確認する。
4) 現状業務と同様目視による鑑査も実施する。
5) 調製(混注)の単位である RP(処方件数)ごとのトレイに医薬品を分割するが、実験対象の処方に
関しては、電子タグ付きの RP 用トレイを使用する。
調製(混注)業務では、処方の指示内容に従い医薬品の調製(混注)を実施する。実証実験業務で
は、実験対象診療科の調製(混注)作業を以下のように実施する。
1) 調製(混注)実施者は、自分の電子タグ付き ID カードを調製(混注)実施記録用のリーダアンテナ
132
の上に置く。
2) これから調製(混注)を実施するトレイをリーダアンテナの上に 1 トレイずつ置いていき、実施記録
を取る。
調製後鑑査業務では、処方の指示に従い医薬品が調製(混注)されたか否かについて、医薬品と混
注容量の鑑査を実施する。実証実験業務では、実験対象診療科の調製後鑑査作業を以下のように実
施する。
1) 調製後鑑査実施者は、自分の電子タグ付き ID カードを使用して、調製後鑑査用のシステムにロ
グインする。
2) 調製後鑑査システムの鑑査画面で、鑑査を実施するトレイの処方を選択し、医薬品一覧が表示さ
れたところで、リーダアンテナの上に RP トレイを置く。これにより、医薬品に貼り付けられた電子タ
グを読み込ませることで、調製(混注)した医薬品と数量に誤りがないかを確認する。
3) 現状業務と同様目視による鑑査も実施する。
4) 調製(混注)後空になった容器は廃棄し、調製後医薬品は、患者ごとの払出し用のトレイやカート
にセットする。
5) 2)から 4)の鑑査を繰り返し実施し、システムの鑑査画面ですべての処方に対する鑑査が完了すれ
ば、払出した医薬品に過不足がないことが確認でき、払出確認を完了とする。
平成 19 年度に実施する NTT 東日本関東病院の病棟業務における電子タグ導入実験の全体フロー
を図-46 に示す。
図-46 電子タグを導入しての病棟業務全体フロー概要
受入鑑査業務では、処方せんの指示に従い医薬品が病棟に届けられたか、また、患者名称と医薬
品本数の鑑査を実施する。実証実験業務では、実験対象病棟の受入作業を以下のように実施する。
133
1) 受入鑑査実施者は、自分の電子タグ付き ID カードを使用して、病棟鑑査用のシステムにログイン
する。
2) メニュー画面にて受入鑑査業務を選択する。
3) 医薬品を運んできたメッセンジャーは、自分の電子タグ付き ID カードを使用して、メッセンジャー
承認を行う。
4) 受入鑑査画面が表示されたら、鑑査対象すべての医薬品をリーダアンテナの上に置く。これによ
り、医薬品に貼り付けられた電子タグを読み込ませることで、持ち込んだ医薬品が受入対象の患者
のものであることと、数量に誤りがないことを受入鑑査実施者が画面で確認し、鑑査完了とする。
5) 現状業務と同様、目視による鑑査も実施する。
施用前鑑査業務では、処方せんの指示に従い医薬品が患者に施用されているか鑑査を実施する
が、実証実験業務では、実験対象病棟の施用前作業を以下のように実施する。
1) 施用前鑑査実施者は、自分の電子タグ付き ID カードを使用して、病棟鑑査用のシステムにログ
インする。
2) メニュー画面にて施用前鑑査業務を選択する。
3) 施用前鑑査画面で、施用する患者を選択する。
4) 当該患者への施用予定医薬品一覧が表示されたら、医薬品をリーダアンテナの上に置く。これに
より、医薬品に貼り付けられた電子タグを読み込ませることで、施用対象の医薬品であることを確認
し、鑑査完了。もしも、当該医薬品に対し施用中止指示が出ていた場合は、中止登録を実施する。
5) 現状業務と同様、目視による鑑査も実施する。
施用後鑑査業務では、処方の指示に従い医薬品が患者に施用され、施用後廃棄されたかの鑑査を
実施する。実際の業務では、実験対象病棟の施用後作業を以下のように実施する。
1) 施用後鑑査実施者は、自分の電子タグ付き ID カードを使用して、病棟鑑査用のシステムにログ
インする。
2) メニュー画面にて施用後鑑査業務を選択する。
3) 現在施用中の医薬品一覧が表示されたら、施用が終わった医薬品の空容器をリーダアンテナの
上に置く。これにより、医薬品に貼り付けられた電子タグを読み込ませ、施用後の対象医薬品であ
ることを確認し、鑑査完了。もしも、当該医薬品に対し施用中止指示が出ていた場合は、中止登
録を実施する。
4) 鑑査が完了した医薬品容器を現状業務の手順で廃棄する。
3.3 開発内容とシステム構成
3.3.1 開発内容
平成 19 年度に実施する NTT 東日本関東病院の調剤業務における電子タグ活用業務フローに従い、平成
19 年度の実データ測定のためのシステムに追加した機能及び新たに開発した病棟実データ測定のためのシ
ステムの機能構成を図-47 に示す。
134
図-47 電子タグ導入実験業務と開発機能の関係
また、開発した実証実験システムの各開発機能の目的を表-36 に示す。
表-36 開発機能の目的
機能名称
使用する作業
払出し
払出し
目的
・ 薬剤部から当該病棟への医薬品払出しが行われた時
刻と、搬出したメッセンジャーの情報を登録する。
・ 病棟に搬入された医薬品(対象患者と個数)の鑑査を
受入鑑査
受入
(病棟)
行う。
・ 搬送したメッセンジャー、受入鑑査実施者、業務実施時
刻を医薬品単位に登録する。
・ 施用する医薬品が処方と一致していることの鑑査を行
施用前鑑査
施用
(実施前)
う。
・ 施用前鑑査の実施者と、業務実施時刻を当該医薬品
情報に登録する。
・ 廃棄する医薬品が施用後、もしくは施用途中で中止さ
調製後鑑査
廃棄
れた医薬品であることの鑑査を行う。
・ 施用後鑑査の実施者と、業務実施時刻を当該医薬品
の情報として登録する。
表-36 に示したとおり、病棟実データ測定のためのシステムは、データベースを含む各種情報の管理を行う
共通基盤としての「医薬品情報管理」機能と、電子タグを使用した各作業に対応する 4 つの機能で構成してい
る。
平成 18 年度と同様に今回の実証実験の実施においても電子カルテ・オーダリングシステムや、薬剤部門シ
ステム等、NTT 東日本関東病院の既存システムの機能領域は変えることなくそのままとした。既存システムと実
験システムとの連携は、実験システムに必要なデータを既存システムから抽出することのみとする。
135
3.3.2 システム機能概要
ここでは、平成 19 年度に実施する電子タグ導入実験のための実データ測定のためのシステムの機能概要
について説明する。
3.3.2.1 医薬品情報管理機能(平成 18 年度からの継続利用)
医薬品情報管理機能は、医薬品管理データベースと連携して、電子タグ、医薬品、処方せん、薬剤師等の
情報の登録、管理を行う機能と、それぞれの業務プログラムで取得するデータ関連情報の登録、医薬品のス
テータスの更新、業務実施時刻の登録等により、医薬品のライフサイクル管理や業務記録管理を行うものであ
る。
3.3.2.2 医薬品情報関連付け機能(平成 18 年度からの継続利用)
医薬品情報関連付け機能は、納品された医薬品情報を登録する機能と、各医薬品に貼り付けた電子タグを
読み込んで、医薬品情報と電子タグ ID を関連付ける機能を有する。医薬品情報関連付け機能は、以下の手
順で操作を行い、医薬品と医薬品に貼付された電子タグを関連付けるものである。
1) 「納品書 No.」を入力して「検索」を実行することにより、医薬品管理データベースに登録されてい
る医薬品情報を画面に表示する。
2) 関連付けを行う医薬品を画面上より選択し、医薬品に貼付した電子タグを読み込ませる。
3) 医薬品に貼付した電子タグをすべて読み込ませたら、登録ボタンを押すことにより、医薬品と電子
タグの関連付けを確定させデータベースに登録する。
3.3.2.3 調製前鑑査機能(平成 18 年度からの継続利用)
調製前鑑査機能は、医薬品の取揃え(医薬品の種類と個数)が処方せんと一致していることについて鑑査を
実施し、取揃えの実施者、調製前(取揃え)鑑査の実施者と、それぞれの業務実施時刻を登録する機能であ
る。
調製前鑑査機能は、以下の手順で操作を行い、医薬品の取揃え(医薬品の種類と個数)が処方と一致して
いることについて鑑査を実施するものである。
1) 処方情報一覧から鑑査対象の処方を選択することにより、対象処方の取揃え医薬品情報を画面
に表示する。
2) 取揃えた医薬品に貼付した電子タグを読み込ませ、取揃えが処方情報と一致していることを確認
する。
3) すべての医薬品の取揃えを確認したら、鑑査完了ボタンを押すことにより、業務実施記録を登録
する。
3.3.2.4 調製後鑑査機能(平成 18 年度からの継続利用)
調製後鑑査機能は、医薬品の混合調製(医薬品の種類と個数)が処方と一致していることについて鑑査を
実施し、調製の実施者、調製後鑑査の実施者と、それぞれの業務実施時刻を登録する機能である。
調製後鑑査機能は、以下の手順で操作を行うことで、混合調製(医薬品の種類と個数)が処方と一
致していることについて鑑査を実施するものである。
1) 処方情報一覧から鑑査対象の処方を選択することにより、対象処方の調製した医薬品情報を画
面に表示する。
2) 調製した医薬品の電子タグを読み込ませ、調製した医薬品が処方情報と一致していることを確認
する。
3) 処方件数ごとに調製後鑑査を実施し、処方件数ごとに業務実施記録を登録する。
136
3.3.2.5 払出し機能
払出し機能は、薬剤部から病棟への医薬品搬出の実施者(メッセンジャー)と、その業務実施時刻を登録す
る機能である。
以下の手順で操作を行うことで、払出し実施時刻を記録する。
1) 払出し先の病棟と、払出す医薬品種別を選択する。
2) [メッセンジャーを登録する]ボタンを押すことにより、業務実施記録を登録する。
3.3.2.6 受入鑑査機能
受入鑑査機能は、薬剤部から病棟へ搬送された医薬品が、間違いなく鑑査を実施している病棟の
患者への施用予定の医薬品であることと本数に間違いのないことを確認する機能を持つ。
以下の手順で操作を行うことで、搬入された医薬品が病棟患者の処方と一致していることについて
鑑査を実施するものである。
1) 鑑査する医薬品に貼付した電子タグを読み込ませ、受入対象の医薬品であることを確認する。
2) すべての受入対象医薬品を確認した後、登録ボタンを押すことにより業務実施記録を登録する。
3.3.2.7 施用前鑑査機能
施用前鑑査機能は、施用する医薬品が確かに施用予定の医薬品と一致していることについて鑑査
を実施し、施用実施者と施用開始時刻を登録する機能である。
以下の手順で操作を行うことで、施用する医薬品が確かに施用予定の医薬品と一致していることに
ついて鑑査を実施するものである。
1) 鑑査する医薬品に貼付した電子タグを読み込ませ、施用予定の医薬品であることを確認する。
2) 登録ボタンを押すことにより、読み込んだ医薬品は施用開始として登録され、業務実施時刻も登
録する。
3.3.2.8 施用後鑑査機能
施用後鑑査機能は、施用開始された医薬品が施用された後正しく廃棄処理された記録と、その業務実施時
刻を登録する機能である。
以下の手順で操作を行うことで、施用開始された医薬品が正しく廃棄処理された記録と、その業務実
施時刻の登録を実施するものである。
1) 施用が実施された医薬品(施用前鑑査実施済みの医薬品)であることを確認する。
2) 登録ボタンを押すことにより、読み込んだ医薬品を廃棄済みとして登録し、業務実施時刻を登録
する。
3.3.3 システム構成
本実データ測定システムは、データベースサーバと調製後鑑査・払出確認を兼用するサーバ PC 1 台と、処
方データの登録、調製前鑑査、医薬品情報関連付けをそれぞれ実施するクライアント PC 3 台で構成している。
また、NTT 東日本関東病院の既存システムである電子カルテ・オーダリングシステムと注射支援システムは、
実証実験に必要な「医薬品納品データ」や「処方せんデータ」等を抽出するためにのみ使用する。
3.3.4 システム仕様
NTT 東日本関東病院薬剤部における電子タグ導入実データ測定の実施に向け、NTT 東日本関東病院薬
剤部の調製室に実験環境を構築した。ここでは、電子タグ導入実データ測定に使用する機器の詳細仕様を記
載する。
137
3.3.4.1 DB サーバ兼調製後鑑査・払出確認 PC
表-37 サーバ PC 仕様
#
項目
仕様
1 CPU
Intel(R) Pentium(R) 4 3.6GHz
2 メモリ
1.99GB
3 OS
Windows XP Professional Version2002 SP2
4 DBMS
Oracle Database 10g Release 1(10.1.0.2)
5 電 子 タ グ リ ー ダ イ ン タ タカヤ株式会社 TR3SDK
フェースモジュール
3.3.4.2 調製前鑑査 PC/医薬品情報関連付け PC
表-38 クライアント PC 仕様
#
項目
仕様
1 CPU
Intel(R) Celeron(R) M CPU 430 1.73GHz
2 メモリ
504MB
3 OS
Windows XP Home Edition Version2002 SP2
4 電 子 タ グ リ ー ダ イ ン タ タカヤ株式会社 TR3SDK
フェースモジュール
3.3.4.3 電子タグリーダ
表-39 電子タグリーダ/アンテナ仕様
#
項目
仕様
1 分類
ロングレンジリーダ
2 使用周波数
13.56MHz
3 対応電子タグ
ISO15693
4 送信出力
MAX 1W ±20%
5 消費電力
4.7W 以下
6 アンテナ種別
金属対応薄型アンテナ
7 アンテナ交信距離
MAX 23cm
(使用環境、使用する電子タグにより異なる)
3.3.5 使用電子タグ
ここでは、実証実験で使用した電子タグの種類と、基本仕様を記載する。
138
3.3.5.1 医薬品貼り付け用電子タグ
1) 電子タグラベル カードサイズ
表-40 電子タグラベル カードサイズ仕様
#
項目
仕様
1 チップ
Philips I-code/SLI
2 動作周波数
13.56MHz
3 サイズ
86×54mm
4 チップメーカ
大日本印刷(株)
2) 電子タグラベル ミニサイズ
表-41 電子タグラベル ミニサイズ仕様
#
項目
仕様
1 チップ
Philips I-code/SLI
2 動作周波数
13.56MHz
3 サイズ
36×18mm
4 チップメーカ
大日本印刷(株)
3.3.5.2 薬剤師認証用電子タグ
1) 電子タグ(PET-G) カードサイズ
表-42 電子タグ カードサイズ仕様
#
項目
仕様
1 チップ
Philips I-code/SLI
2 動作周波数
13.56MHz
3 サイズ
85.6×54mm
4 チップメーカ
日立化成工業(株)
3.4 実証実験内容
3.4.1 実証実験の狙い
NTT 東日本関東病院の業務における電子タグ導入実データ測定の実施にあたり、本実験の狙いを以下の
ように定義した。
平成 19 年度に実施する NTT 東日本関東病院の業務における電子タグ導入実験では、平成 18 年度に実
施した、薬剤部内の業務である「医薬品の納品検収」「取揃え/調製前鑑査」「調製/調製後鑑査」「払出確認」
の各業務に適用した電子タグを使用した自動鑑査システムを改良することにより、調剤業務における電子タグ
利用の有効性の向上が可能かを検証するとともに、範囲を病棟まで拡大し、病棟内の業務である「受入鑑査」
「施用前鑑査」「施用後鑑査」の各業務にも電子タグを使用した自動鑑査システムを適用することにより、病棟
業務における電子タグ利用の有効性についても検証することを狙いとしている。
139
本実業務でのデータ測定は、NTT 東日本関東病院薬剤部に電子タグを使用した自動鑑査システムを仮設・
運用することで、実際の病院業務での目視鑑査に加え、システムを使用した自動鑑査を実施する。これにより、
実証実験の主眼は以下の 3 点とした。
・ 各鑑査業務における業務効率性の観点での検証
・ 電子タグを使用した自動鑑査による、業務の正確性の観点での検証
・ 「調剤」「調製」「施用」「廃棄」実施の履歴情報が管理可能なことを検証
これらの検証により、電子タグを使用した病院における医薬品ライフサイクル管理の有効性と、導入のため
の課題を導出する。
3.4.2 実施スケジュール
平成 19 年度は、図-48 に示すスケジュールのとおり、4 月から 9 月までに実証実験システムの開発を実施し、
9 月から翌年 3 月に、実証実験の準備、実験、評価を実施した。
図-48 平成 19 年度実施スケジュール
#
大項目
作業項目
平成 19 年
4
1
2
ナレッジベース
医薬品情報の調査
の構築
および情報入力
実験システム
実験システムの検討
5
6
7
8
9
平成 20 年
10
11
12
1
2
3
開発
実験システムの開発
3
実証実験
実験シナリオ作成
院内での実証実験
4
まとめ・評価
実験結果おまとめ・評
価
NTT 東日本関東病院薬剤部での実業務におけるデータ測定は、抗がん剤の調製業務と IVH 輸液
の調製業務について実施し、表-43 に示すとおり、それぞれ 1 週間ずつ 2 回のデータ測定を実施した。
また、第 2 回のデータ測定では、実データの測定状況を外部公開し、総務省、厚生労働省、東京医
科歯科大学、慶応義塾大学などから、12 名が実データの測定状況を見学した。
140
表-43 実証実験の実施日程
第 1 回実証実験
10 月 22 日(月)~10 月 26 日(金)
抗がん剤の調製業務を対象とした実験
10 月 29 日(月)~11 月 2 日(金)
IVH 輸液の調製業務を対象とした実験
第 2 回実証実験
11 月 26 日(月)~12 月 7 日(金)
抗がん剤の調製業務を対象とした実験
外部公開実験
12 月 5 日(水)
抗がん剤の調製業務を対象とした実験の外部公開
3.4.3 実験対象医薬品
平成 19 年度に実施する NTT 東日本関東病院の調剤業務における電子タグ導入実験は、平成 18 年度に
引き続き、誤調製(混注)が重大な医療過誤に発展する可能性のある「抗がん剤」「IVH 輸液」を混合調製する
処方データを対象とする。そのため、電子タグを貼付する医薬品は、抗がん剤及び抗がん剤を混注する輸液、
IVH 輸液及び IVH 輸液と混注する医薬品、のそれぞれ 2 つに分類して準備を行う。
表-44 に、決定した電子タグを貼付する医薬品の分類を示す。
表-44 医薬品の分類
実験の対象
IVH の調製業務
電子タグを貼付する医薬品の種類
IVH 輸液
混注する医薬品
抗がん剤の対象業務
抗がん剤
抗がん剤混注輸液
表-44 に示した分類に従って、NTT 東日本関東病院では実データ測定で使用する医薬品を準備
し、日立製作所では、その実験対象医薬品に電子タグを貼り付けた。
表-45 に、実証実験に向け電子タグを貼付して準備した医薬品の数を示す。
表-45 電子タグを貼付して準備した医薬品の数
医薬品の種類
医薬品の種類(品目)
医薬品の個数(個)
IVH 輸液
5
33
混注する医薬品
3
54
抗がん剤
8
732
抗がん剤混注輸液
6
296
22
1,115
合計
実データ測定対象として電子タグを貼付した医薬品の詳細は、「付録 1.実験対象医薬品の詳細」に
記載する。
表-45 に示したとおり、合計 22 品目で 1,115 個の医薬品に電子タグを貼付して準備を行い、NTT 東
141
日本関東病院薬剤部における実証実験を実施した。
3.4.4 実験対象処方せん
平成 19 年度に実施する NTT 東日本関東病院の調剤業務における電子タグ導入実験は、誤調製(混注)が
重大な医療過誤に発展する可能性のある「抗がん剤」「IVH 輸液」を混合調製する処方を対象とした。
3.4.5 実証実験の実施
ここでは、実証実験業務フローに従い、実際の調剤調製業務に適用して実施した電子タグ導入実験の業務
のながれについて説明する。
3.4.5.1 医薬品への電子タグの貼り付けと、医薬品情報の関連付け業務
医薬品への電子タグの貼り付けと、医薬品情報の関連付け業務では、医薬品に電子タグを貼り付け、貼り付
けた医薬品の電子タグをリーダで読み取ることにより、医薬品情報との関連付けを行う。
3.4.5.2 取揃え業務
取揃え業務では、処方せんの調製指示に従い、取揃えトレイに医薬品を取揃える。医薬品の取揃えが完了
したら、自分の電子タグ付き ID カードと、取揃えトレイの電子タグをリーダに読み取らせることで、業務実施記
録を得る。
3.4.5.3 調製前(取揃え)鑑査業務
調製前(取揃え)鑑査業務では、処方せんの調製指示に従って取揃えられた医薬品に誤りがないかの鑑査
を行う。鑑査対象の処方せんごとに、取揃えトレイの医薬品を電子タグ・リーダに読み取らせ、医薬品の種類と
取揃え数量に誤りがないか画面に表示された内容を確認する。また、画面に表示された医薬品の個数と、実
際にトレイに入っている医薬品が一致するか目視でも鑑査を実施する。
3.4.5.4 調製(混注)業務
調製(混注)業務では、処方せんの調製(混注)指示に従い、医薬品の調製(混注)を実施する。医薬品を調
製(混注)する前に、自分の電子タグ付き ID カードと、調製用トレイの電子タグを電子タグ・リーダに読み取らせ
ることで、業務実施記録を取る。
3.4.5.5 調製後鑑査業務
調製後鑑査業務では、処方せんの調製指示に従って医薬品が調製(混注)されたか、医薬品と混注容量の
鑑査を行う。鑑査対象の処方ごとに、調製トレイの医薬品を電子タグ・リーダに読み取らせ、医薬品の種類と調
製医薬品数量に誤りがないか画面に表示された内容を確認する。また、画面に表示された医薬品の個数と実
際にトレイに入っている医薬品が一致するか、及び医薬品の残量から調製(混注)量に誤りがないか、目視で
も鑑査を実施する。
3.4.5.6 払出し業務
払出し業務では、薬剤部から病棟へ調製した医薬品を搬送する際に、薬剤部からの搬出時間を記録する。
搬出時にメッセンジャーの電子タグ付きIDカードをリーダに読み込ませ、払出し画面にて搬送先の病棟と医薬
品種別を選択した上で登録を実行し、実施記録をとる。
142
3.4.5.7 受入鑑査業務
受入鑑査業務では、処方の施用指示に従って、医薬品が搬入されてきたかの鑑査を行う。
受入対象の医薬品の電子タグをリーダに読み込ませることで、自動鑑査を行い、画面上の患者リストにて医
薬品の本数を確認する。受入鑑査業務を図-49 に示す。
図-49 受入鑑査業務
3.4.5.8 施用前鑑査業務
施用前鑑査業務では、施用しようとしている医薬品が処方せんの施用指示どおりか、鑑査を行う。
施用する医薬品の電子タグをリーダに読み込ませることで、医薬品を施用する患者名と医薬品リストが表示
され、読み込まれた医薬品が明示される。
明示された医薬品が施用予定の医薬品であれば登録を実行し、実施記録をとる。
施用前鑑査業務を図-50 に示す。
図-50 施用前鑑査業務
3.4.5.9 施用後鑑査業務
施用後鑑査業務では、廃棄しようとしている医薬品が、処方せんの施用指示どおりに施用され、施用前鑑査
が正しく行われた医薬品か、鑑査を行う。
廃棄する医薬品の電子タグをリーダに読み込ませることで、施用前鑑査済みリストが表示され、読み込まれ
た医薬品が明示される。
明示された医薬品を確認して登録を行い、実施記録をとる。
143
施用後鑑査業務を図-51 に示す。
図-51 施用後鑑査業務
3.5 実データ測定システムの課題
平成 18 年度に引き続き、NTT 東日本関東病院の業務における電子タグによる実データの測定を実施する
にあたり、平成 18 年度に明確になった課題とその対策及び平成 19 年度の病棟での実データ測定に向けた課
題とその対策を説明する。
3.5.1 平成 18 年度に薬剤部内で明確になった課題への対策
1) 電子タグの貼り付け位置、包装されている医薬品の運用方法、リーダと電子タグの選定等、電子
タグの読取精度及び一括読取性能の向上に向けた検討を実施する。
電子タグの貼り付け位置、とりわけ小型の医薬品に対する電子タグの貼り付け方法を、平成 18 年度
の経験をもとに検討し、取り揃え時に寝かせて使うことの多いアンプル類に関しては、底面にとり
つけていた電子タグを側面に移動し結果を検証した。タグ貼り付け写真を図-52 に示す。
図-52 タグ貼り付け写真
(平成 18 年度)
(平成 19 年度)
2) 取り揃え、調製実施時のトレイ登録作業については、システム画面がないため、本当に電子タグ
が読み取れたのかを利用者が分からない。そのため読み取りの完了を利用者に通知する手段を
検討する。
検討した結果、システムにスピーカーを増設し、読み取り完了時に音声で通知する機能を追加した。
144
3.5.2 平成 19 年度の病棟での実証実験に向けた課題への対策
1) 平成 18 年度の実証実験と同様、実業務に適用した導入実験による検証実施を考えているが、実
際の患者やベッド等に電子タグを貼付して、「医薬品」「看護師」「患者」の 3 点確認(記録)を実施
できるか検討・調整する必要がある。
看護部及び現場看護師と検討した結果、患者への負担、プライバシーの問題等を考慮し、病室
へのシステム持ち込みは実施せず、施用直前と、施用直後の鑑査記録を取得することとした。
2) 平成 18 年度の薬剤部内での実証実験と同様、既存のオーダリングシステムとの密接なデータ連
携は行わない方針であるため、オーダリングシステムからのデータの吸い上げと、病棟での実証
実験システムへのデータ投入の実施方法を検討する。
病棟実験システムで使うデータに関しては、将来的に薬剤部と病棟が同じデータベースをオンラ
インで参照することを想定し構築した。
今回は、薬剤部と病棟にオンライン環境を構築することが困難なため、同じ仕様のデータベース
を薬剤部と病棟とのシステムに各々構築し外部記録装置によるデータのリンクが可能になるようツ
ールを作成して対応した。
3) 病棟における看護師の業務効率の低下や業務に支障をきたさない、精度の高い実験システムの
検討、及びシステムを使用した運用手順を検討する。
現状の病棟業務を妨げないために、実験システム装置は自由に移動可能なカート上に構築する
とともに、移動中に電源コンセントが確保できないケースも想定し、外部バッテリー装置も導入した。
3.6 実証実験結果
3.6.1 病棟実験対象の医薬品
第 1 回、第 2 回の実証実験期間において NTT 東日本関東病院の実証実験対象病棟にて実験対象とした
医薬品を表-46 に示す。
表-46 各期間における病棟実験対象医薬品
実験期間
第 1 回実証実験
第 2 回実証実験
医薬品種別
対象医薬品数
(品目)
第1週
抗がん剤
第2週
IVH
第1週
抗がん剤
83
第2週
抗がん剤
54
合計
81
2
220
第 1 回実証実験において、IVH を対象とした実験を試みたところ、入院患者に対する処方数が少な
かったため、第 2 回実証実験においては第 1 週、第 2 週ともに抗がん剤のみを対象として実験を実施
した。
145
3.6.2 病棟対象実験時間
病棟における従来の業務への影響を考慮し、1 日あたりの実験時間を調整した。第 1 回目は、1 人当たりの
作業負担が軽いと予想される日勤帯のみ実験対象とすることとし、システム操作の習熟度にあわせ徐々に実
験時間を拡張して実施した。期間内の実験対象時間を表-47 に示す。
表-47 各期間における病棟実験対象時間
実験期間
第 1 回実証実験
第 2 回実証実験
実験対象の施用時間帯
第1週
9:00~17:00
第2週
9:00~17:00
第1週
9:00~21:00
第2週
24 時間
3.6.3 実験期間内に指定病棟で使用された医薬品
表-48 に、受入鑑査業務を実施した電子タグ貼り付け医薬品数を示す。
表-48 受入鑑査業務を実施した電子タグ貼り付け医薬品数
実験期間
薬剤部からの
患者の病棟移動に
受入鑑査業務
払出し数
よる減少数
対象数
第 1 回実証実験
83
11
72
第 2 回実証実験
137
35
102
合計
220
46
174
表-49 に、実験対象の時間帯に施用された電子タグ貼り付け医薬品の数を示す。
表-49 施用前鑑査業務の実施対象医薬品数
時間内に
実験期間
第 1 回実証実験
第 2 回実証実験
鑑査
時間外
小計
第1週
38
32
70
第2週
0
2
2
第1週
53
14
67
第2週
35
0
35
126
48
174
合計
146
表-50 に、施用前鑑査業務の実験実施状況を示す。
表-50 施用前鑑査業務の実施状況
実験期間
第 1 回実証実験
第 2 回実証実験
鑑査
手動
実施
鑑査(※)
未鑑査
小計
第1週
31
7
0
38
第2週
0
0
0
0
第1週
33
13
7
53
第2週
26
4
5
35
90
24
12
126
合計
※:施用前鑑査の実施を忘れたが、施用実施後に担当看護師が手動で施用前鑑査を実施
表-51 に、実験対象の時間帯に廃棄された電子タグ貼り付け医薬品の数を示す。
表-51 施用後鑑査業務の実施対象医薬品
時間内に
実験期間
第 1 回実証実験
第 2 回実証実験
鑑査
時間外
小計
第1週
26
44
70
第2週
2
0
2
第1週
48
19
67
第2週
35
0
35
111
63
174
合計
表-52 に、施用後鑑査業務の実験実施状況を示す。
表-52 施用後鑑査業務の実施状況
実験期間
第 1 回実証実験
第 2 回実証実験
鑑査
手動
実施
鑑査(※)
未鑑査
小計
第1週
26
0
0
26
第2週
2
0
0
2
第1週
41
5
2
48
第2週
29
1
5
35
98
6
7
111
合計
※:施用後鑑査の実施を忘れたが、廃棄後に担当看護師が手動で施用後鑑査登録を実施
3.6.4 電子タグを使用した鑑査業務にかかった時間
実データの測定を実施した病棟業務は、現状の業務に加え、医薬品に貼り付けられた電子タグを読み込む
147
ことにより、処方に指示された医薬品と、鑑査対象の医薬品の種類と数量を照合する作業が増えることとなる。
図-16 に、実験システムの業務記録から取得できる受入鑑査の作業時間の意味について説明する。
図-53 受入鑑査の作業時間の意味
実験システムで受
入鑑査を実行す
る。
電子タグ付き医薬
品をアンテナにか
ざす。
医薬品を運搬用カート
から下ろし、鑑査作業
のスペースを確保す
る。病棟(ベッド)移動 実験システムで最
し て い る 患 者 分 の 医 初の電子タグを読
み取った時。
薬品があれば鑑査対
象から除外する。
実験システムで登
録ボタンを押す。
実験システムですべ
ての電子タグを読み
取った時。
目視でも確認し、
医薬品を患者単
位に整理して並べ
る。
狭義の鑑査時間
広義の鑑査時間
実験終了後に、図-53 に示した作業時間の定義に従い、実証実験システムの業務記録から、電子タ
グを使用した自動鑑査業務の実施時間の分析を実施した。
受入鑑査の作業時間を表-53 に示す。
148
表-53 受入鑑査の作業時間
薬品種別
第1回
抗がん剤
IVH
第2回
抗がん剤
データ
取得日
鑑査時間
受入数
狭義
広義
(秒)
(秒)
10/23
11
91
175
10./24
13
107
196
10/25
32
235
346
10/26
14
83
132
10/30
1
0
21
10/31
1
0
15
11/28
16
47
96
11/29
21
83
134
11/30
11
14
39
12/4
6
4
24
12/5
8
15
90
12/6
15
41
133
12/7
6
1
21
受入鑑査は臨時等の特殊な事例をのぞき、原則 1 日 1 回実施される。実験期間内では 11/27 に想
定外の運用のため除外した以外、すべて 1 日 1 回電子タグによる受入鑑査業務を実施した。
次に、日々の受入鑑査業務における電子タグの受入鑑査日別読取平均を図-54 に示す。
149
図-54 受入鑑査 日別読取平均
10
従来の目視鑑査と同様に
1医薬品当りの平均鑑査時間(
秒)
医薬品を1品ずつ読み取っ
た結果
受入医薬品の一括読取を
実施した結果
5
IVH
(受入数1)
0
10/20
10/25
10/30
11/24
11/29
12/04
12/09
実施日
受入鑑査対象の医薬品に貼り付けた電子タグを従来の受入鑑査と同様に 1 つずつ読み取らせた場
合と、一括読み取りで処理した場合では、医薬品の受入数が 1 という特殊な例を除き、一括読み取りで
処理したほうが鑑査時間の短縮となることが確認できた。電子タグの大きさ、貼り付け位置及びアンテ
ナの形状により、更なる短縮も可能と考えられる。
図-55 に、実験システムの業務記録から取得できる、施用前鑑査の作業時間の意味について説明
する。
150
図-55 施用前鑑査の作業時間の意味
実験システムで施
用前鑑査を実行す
る。
患者リストから施用
する患者を選択
患者単位で仕分けら
れた医薬品を担当看
護師が施用準備。
実験システムで登
録ボタンを押す。
実験システムで業
務選択に戻るボタ
ンを押す。
目視でも患者名と
医薬品内容を確
認し病室にて施
用。
実験システムで電子タグを
読み取った時。
狭義の鑑査時間
広義の鑑査時間
図-56 に、実験システムの業務記録から取得できる、施用後鑑査の作業時間の意味について説明
する。
図-56 施用後鑑査の作業時間の意味
実験システムで施
用後鑑査を実行す
る。
実験システムで登
録ボタンを押す。
実験システムで業
務選択に戻るボタ
ンを押す。
施用が完了した医薬
品を病室から回収。
施用済み医薬品
容器を分別廃棄。
実験システムで電子タグを読み
取った時。
狭義の鑑査時間
広義の鑑査時間
実証実験終了後に、図-18、図-19 に示した作業時間の定義に従い、実証実験システムの業務記録
から、電子タグを使用した自動鑑査業務の実施時間の分析を実施した。
施用前鑑査の平均作業時間を表-54 に示す。
151
表-54 施用前鑑査の平均作業時間
狭義の鑑査
広義の鑑査
実施
時間(秒)
時間(秒)
回数
第 1 回平均
38
45
31
第 2 回平均
24
44
59
平均
29
44
90
施用前鑑査の作業時間割合を図-57 に示す。
図-57 施用前鑑査の作業時間割合
40
35
30
25
20
15
10
5
10
秒
未
10 満
秒
20 台
秒
30 台
秒
40 台
秒
50 台
秒
60 台
秒
70 台
秒
80 台
秒
90 台
10 秒 台
0
11 秒 台
0
12 秒 台
0
13 秒 台
0
14 秒 台
0
15 秒 台
0秒
16 台
0
17 秒 台
0
18 秒 台
0
19 秒 台
0
20 秒 台
0
21 秒 台
0秒
台
0
施用後鑑査の平均作業時間を表-55 に示す。
表-55 施用後鑑査の平均作業時間
狭義の鑑査
時間(秒)
広義の鑑査
時間(秒)
実施回数
第 1 回平均
13
14
28
第 2 回平均
11
42
70
平均
12
34
98
152
施用後鑑査の作業時間割合を図-58 に示す。
図-58 施用後鑑査の作業時間割合
秒
40
台
秒
30
20
秒
台
台
秒
10
10
秒
未
満
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
電子タグによる鑑査の作業時間は、施用前鑑査で平均 29 秒、施用後鑑査で平均 12 秒という結果に
なったが、割合で見た場合どちらも平均以下の割合が高く、まれに終了操作を忘れる等の遅延が発生
した。
また、施用前鑑査に関しては、第 1 回と第 2 回実験の間にシステムを一部改良した結果が、電子タグ
鑑査の平均に見受けられる。
改良点は以下のとおりである。
【改良前】
患者一覧画面から患者を選択し処方医薬品一覧を表示させた状態で初めて電子タ
グ付き医薬品の読み取りが可能になる。
【改良後】
患者一覧画面でも電子タグ付き医薬品を読み取れば自動的に医薬品一覧に遷移
し、読み取り完了状態となる。
なお、施用前鑑査及び施用後鑑査においては、一度の鑑査で持ち込まれる電子タグ医薬品の数が
1~2 品目のため、それらの読み取りにかかる時間は 1 秒以内であり、実データ測定中に電子タグ破損
による読み取りエラーの発生件数は 0 件であった。
3.6.5 電子タグを使用した鑑査業務での気づき事項
NTT 東日本関東病院薬剤部での実証実験システムを使用した自動鑑査業務は、それぞれ 2 週間ずつ 2 回
実施した。ここでは、実証実験期間中に、NTT 東日本関東病院薬剤部で、実際の業務遂行上気づいた事項、
及び実データ測定終了後、日立製作所で、業務記録を分析する過程で気づいた事項について記載する。
153
3.6.5.1 受入鑑査業務関連の気づき事項
1) 1 つ 1 つの医薬品の電子タグ読み取りを個別に行っていたため、電子タグとしてのメリットがない
現状の抗がん剤受入時の鑑査は、患者名と患者ごとの医薬品本数が記載されたリストを見なが
ら、1 つ 1 つの医薬品のラベルとの患者名を確認していく作業を行っている。そのため、今回のシ
ステム操作においても当初は 1 つ 1 つの医薬品を確認する際に医薬品についた電子タグの読み
取りを行っていた。
電子タグは、複数医薬品の電子タグを一度に読み取ることが可能なため、まずは、受入鑑査対
象の医薬品を一気に読み込ませ、システムによる鑑査が終わった後、従来の目視鑑査を実施する
ように運用方法を変更した。
結果、システムによる鑑査時間があきらかに短縮された。
2) 患者の病棟移動(転棟、転科)により、受入鑑査リストの患者が鑑査対象外となるケースが発生した
今回のシステムは既存の病院情報システムとオンラインで連動しているわけではないため、厳密
にはリアルタイムな受入鑑査リストとはいえず、直前の病棟移動等には対応しきれないケースも発
生した。
対象外の患者分の医薬品については、電子タグの読み込みを実施せず、測定対象外のデータ
扱いとした。
3.6.5.2 施用前鑑査業務関連の気づき事項
1) 電子タグを読み込ませるタイミングが直感的に分からないということが、操作状況をみて明らかに
なった
従来の鑑査手順をそのまま画面遷移という形で適用したため、患者リストで患者名を確認した後に、
医薬品一覧を表示させて医薬品鑑査を行う作りにしていた。
電子タグはタグ自体がユニークな存在なため、どの時点で読み取らせても、その医薬品のステータス
を表示することが可能なシステムとしてのメリットを生かしていなかった。
実データ測定の第 2 回目には、患者一覧画面の状態で電子タグを読み込ませた場合でも、自動的
に医薬品一覧が表示され、読み込んだ医薬品を明示する仕組みとした。
3.6.5.3 施用前鑑査/施用後鑑査業務共通の気づき事項
1) システムにて施用後鑑査をした後、ログアウトを忘れるケースが何度か見受けられた
今回のシステムでは登録ボタン押下後、画面中央に確認ダイアログが表示され、承認することで登
録完了となる仕組みとしたため、ダイアログを確認した時点で鑑査業務終了の印象を与えている可能
性がある。
今回は、システム担当者のサポートにて対応した、サポート時間外については、ログによる操作状況
の記録にとどめ、ユーザーインターフェース仕様の課題とする。
2) 施用前鑑査、施用後鑑査忘れが何件か発生した
施用後鑑査の方が施用前鑑査より発生件数が少ないことと、システムの配置場所が、医薬品の廃棄
場所の手前の通路であることから、看護師の動線が一つの要因と考えられる。電子タグの貼り付け位置
154
についても、患者への精神的な影響を考慮し、目立たないラベルの裏等としたため、システム鑑査対
象の医薬品かが分かりづらいことも要因と考えられる。
また、システムを通さなくても、通常業務に問題ないことから、単に失念されるケースもあると思われる。
上記に挙げた要因以外にもいくつか要因があると思われるが、通常業務に影響を及ぼす可能性の
ある検証作業は回避し、システム担当者のサポートと操作ログによる動向解析にとどめるものとする。
3) 薬剤部からの払出し数に比べ、病棟にて施用後鑑査までの最終履歴取得品目数が想定より少
なかった。
実験計画当初は、日勤時間帯でも十分な施用数が見込まれることを予想していた。しかしながら、
IVH で 12 時間以上、抗がん剤でも 8 時間以上の施用時間を要するものが多いことから、一つの医薬品
の一貫した履歴を取得する場合、深夜に及ぶシステムの稼働が必要なことが分かった。
第 2 回目以降、システム稼働時間の延長及び 24 時間運用を段階的に実施したところ、最終履歴取
得品目数が増加した。表-56 に、実データ測定期間中の実施時間帯とデータ取得品目数を示す。
表-56 実施時間帯とデータ取得品目数
薬品種別
実施日
実施時間帯
薬 剤 部 払 出 受 入 鑑 査 品 施 用 前 鑑 査 施 用 後 鑑 査 最終履歴取得
し品目数
第1回
抗がん剤
IVH
第2回
抗がん剤
目数
品目数
品目数
品目数
10/23
9:00~17:00
20
11
7
5
4
10/24
9:00~17:00
13
13
8
7
4
10/25
9:00~17:00
32
32
20
12
7
10/26
9:00~17:00
16
14
3
2
2
10/30
9:00~17:00
1
1
0
1
0
10/31
9:00~17:00
1
1
0
1
0
11/27
9:00~21:00
19
19
13
10
7
11/28
9:00~21:00
26
16
10
12
7
11/29
24 時間
24
21
15
19
15
11/30
9:00~21:00
14
11
8
5
5
12/4
24 時間
12
6
6
6
6
12/5
24 時間
12
8
6
6
4
12/6
24 時間
23
15
14
14
13
12/7
24 時間
7
6
4
4
4
220
174
114
104
78
155
3.6.6 電子タグとバーコードによる鑑査業務時間比較
電子タグをバーコードに置き換えた場合、鑑査業務時間にどれくらいの差異が出るかを検証。
ここでは、調製前鑑査を対象に、電子タグによる鑑査とバーコードによる鑑査の鑑査業務時間を比較した結
果を記す。
3.6.6.1 比較方法
調製前鑑査を行う医薬品にそれぞれユニークコードを記録したバーコードを貼り付け、医薬品 10 品目を対
象とした調製前鑑査を実施。
電子タグを用いて医薬品 10 品目を自動鑑査した結果と比較する。
図-59 にバーコード使用した調製前鑑査の様子を示す。
図-59 バーコードを使用した調製前鑑査
3.6.6.2 比較する鑑査業務時間の定義
図-60 に、実験システムの業務記録から取得できる調製前鑑査の作業時間の意味について説明する。
図-60 調製前鑑査の作業時間の意味
実験システムで鑑
査する処方せんを
指定する。
実験システムで鑑
査(確認)完了ボタ
ンを押す。
医薬品を包装から取り
出し、混注後払出す
輸液に施用ラベルを
実験システムで最
貼り付ける。
初の医薬品を読み
取った時。
実験システムですべ
ての医薬品の読み
取りが完了した時。
狭義の鑑査時間
広義の鑑査時間
(1 つの処方せんに対する取揃え医薬品の鑑査時間)
※比較対象とする鑑査時間は、狭義の鑑査時間とする。
156
目視でも確認し、
医薬品を処方件
数ごと(混注単位)
に分ける。
3.6.6.3 比較結果
実データ測定の第 1 回、第 2 回の実施期間において実施された、医薬品 10 品目の調製前鑑査の計測結果
を表-57 に示す。
表-57 電子タグによる狭義の鑑査時間
鑑査時間
#
最初の読み取り
読み取り完了
1
10/22 16:23:12
10/22 16:23:22
10
2
10/23 14:30:36
10/23 14:30:40
3
3
10/24 15:17:08
10/24 15:17:23
15
4
10/25 16:08:27
10/25 16:08:39
12
5
10/25 16:16:14
10/25 16:16:20
6
6
10/25 16:09:58
10/25 16:10:15
18
7
10/25 16:14:45
10/25 16:14:45
1
8
11/26 15:43:26
11/26 15:43:30
4
9
11/27 16:21:25
11/27 16:21:25
1
10
11/29 08:59:12
11/29 08:59:17
6
11
11/29 16:07:47
11/29 16:07:51
4
12
11/29 14:19:16
11/29 14:19:27
11
13
12/03 16:17:44
12/03 16:17:44
1
14
12/05 15:11:35
12/05 15:11:39
4
15
12/06 15:48:21
12/06 15:48:24
3
16
12/06 15:48:03
12/06 15:48:06
3
※:1 秒未満は切り上げ
157
[秒]
バーコードによる医薬品 10 品目の調製前鑑査結果を表-58 に示す。
表-58 バーコードによる狭義の鑑査時間
鑑査時間
#
最初の読み取り
読み取り完了
1
10:47:07
10:48:05
58
2
10:50:06
10:50:38
31
3
10:53:24
10:54:02
38
4
10:55:07
10:55:49
43
5
10:58:15
10:58:42
27
6
10:59:31
10:59:59
27
7
11:01:15
11:01:51
36
8
11:03:21
11:03:50
30
9
11:04:20
11:04:45
26
10
11:05:30
11:06:00
31
11
11:06:46
11:07:04
18
12
11:07:49
11:08:09
20
13
11:09:22
11:10:10
48
14
11:10:39
11:11:05
25
15
11:13:16
11:13:48
32
16
11:14:13
11:14:37
24
17
11:17:09
11:17:43
34
18
11:18:14
11:18:55
41
19
11:20:17
11:20:58
41
20
11:22:19
11:23:09
50
21
11:27:24
11:27:52
28
22
11:28:25
11:28:43
17
[秒]
※:1 秒未満は切り上げ
電子タグとバーコードの鑑査時間差を表-59 に示す。
表-59 鑑査時間の比較
電子タグ
バーコード
最短時間[秒]
1
17
最長時間[秒]
18
58
平均時間[秒]
6
33
158
結果、電子タグを使用した鑑査はバーコードを使用した場合に比べ平均で 1/5 の処理時間となり、
電子タグによる一括読み取りが可能な電子タグの効率性が検証できた。
3.6.7 病棟担当者の意見
NTT 東日本関東病院病棟における 2 回の実証実験の終了後、実際に実データ測定システムを使用した自
動鑑査業務を行った看護師に、電子タグによる自動鑑査業務に関するアンケートを実施した。
ここでは、それぞれの業務担当者ごとに取得したアンケート結果について記載する。
3.6.7.1 受入実施者に対するアンケートとその結果
NTT 東日本関東病院病棟における実証実験について、受入業務実施者に対し行ったアンケートのうち、
メッセンジャーのアンケート結果を表-60 に示す。
表-60 メッセンジャーに対するアンケート結果
(N=2)
質問内容
回答
電子タグを使用した すぐに慣れた
割合(%)
100
業 務 に す ぐ に 慣 れ なかなか慣れなかった
0
ましたか?
0
最後まで慣れなかった
業務効率への影響 現状業務と大差なし
100
は ど の 程 度 で し た 効率は大差ないが、操作手順を忘れるなど、精神的負担が
か?
0
あった
若干効率が落ちた
0
著しく効率が落ちた
0
効率も落ちたし、ミスが発生しやすくなる
0
159
受入鑑査者(看護師)のアンケート結果を表-61 に示す。
表-61 受入鑑査者に対するアンケート結果
(N=3)
質問内容
回答
割合(%)
電 子 タ グ を 使 用 し た すぐに慣れた
67
業務にすぐに慣れま なかなか慣れなかった
33
したか?
最後まで慣れなかった
0
業務効率への影響は 現状業務と大差なし
どの程度でしたか?
67
効率は大差ないが、操作手順を忘れるなど、精神的負担があ
0
った
若干効率が落ちた
0
著しく効率が落ちた
33
効率も落ちたし、ミスが発生しやすくなる
0
鑑査業務の観点で、 目視で鑑査するので、電子タグは必要なし
25
電 子 タ グ は 活 用 で き 受入医薬品数不一致なのか、電子タグが読み込まれなかった
50
ますか?
のかが、なかなか判別できないため、かえって鑑査業務の効率
( 複 数 回 答 項 目 の た が落ちる
め、回答者 3 名(N=3) 目視鑑査する前にシステムが医薬品数の一致/不一致を自動
から 4 件の回答)
識別してくれるので、効率的であり精神的に楽になる
25
システムに頼りすぎ、目視鑑査がおろそかになる可能性がある
0
ので、逆効果
電子タグの読取性能 期待以上(どおり)で、満足できる
33
は、いかがでしたか?
67
期待(理想)ほどの性能はないが、業務で十分使用できると思う
業務で使用できるほどの性能ではないと思う
0
電子タグの実業務への慣れという観点では、受入れ業務実施者の内、搬送と電子タグを読み取らせ
る作業をしているメッセンジャーは、全員が「すぐに慣れた」と回答しているが、鑑査操作を PC 上で行っ
た看護師(1 名)からは「なかなか慣れなかった」という意見が出たことから、操作方法に一部改善の余
地があると考えられる。
業務効率という観点では、さらに顕著になり、「著しく効率が落ちた」という意見が一件だけとはいえ、
看護師側から得られた。どちらの意見でも、電子タグを使用した業務に対する不満はないが、システム
鑑査の運用において若干の不満を感じていることが分かる。
さらに鑑査業務を行った看護師から、業務効率が落ちる点や、従来の鑑査がおろそかになる懸念が
あるとの意見が出ているにもかかわらず、電子タグの読取性能については、業務に適用可能と回答し
ていることも裏付けとなる。
160
3.6.7.2 施用前確認/施用後登録業務実施者に対するアンケートとその結果
NTT 東日本関東病院病棟における実証実験について、施用前確認/施用後登録業務実施者に対して行っ
たアンケート結果を表-62 に示す。
表-62 施用前確認/施用後登録業務実施者に対するアンケート結果
(N=19)
質問内容
回答
割合(%)
電子タグを使用し すぐに慣れた
58
た業務にすぐに慣 なかなか慣れなかった
42
れましたか?
最後まで慣れなかった
0
業 務 効 率 へ の 影 現状業務と大差なし
26
響はどの程度でし 効率は大差ないが、操作手順を忘れるなど、精神的負担があった
26
たか?
若干効率が落ちた
32
著しく効率が落ちた
16
効率も落ちたし、ミスが発生しやすくなる
鑑 査 業 務 の 観 点 目視でも鑑査するので、電子タグは必要なし
で、電子タグは活 システムで施用前確認を実施することにより、これから施用する医薬品
用できますか?
0
4
17
が正しいことを識別してくれるので、効率的であり精神的に楽になる
(複数回答項目の システムで施用前、施用後に電子タグを読み込ませることで、手作
ため、回答者 19 名 業による記録が不要になるのであれば、効率的であり記録ミスなども
(N=19)から 23 件 減る
の回答)
システムに頼りすぎ、目視確認がおろそかになる可能性があるの
57
22
で、逆効果
電子タグの読取性 期待以上(どおり)で、満足できる
37
能は、いかがでし 期待(理想)ほどの性能はないが、業務で十分使用できると思う
63
たか?
業務で使用できるほどの性能ではないと思う
0
この結果から分かるとおり、施用前確認/施用後登録業務実施者の意見として、業務への慣れという
観点では「すぐに慣れた」という回答が 6 割を占めており、「最後まで慣れなかった」という回答はなかっ
たことから、電子タグによる鑑査業務の手順には大きな問題はなかったといえる。
業務効率という観点では、「若干効率が落ちた」との回答が 32%と多いものの、「現状と業務と大差な
し」という回答と「効率は大差ないが、操作手順を忘れるなど、精神的負担があった」という回答がそれ
ぞれ 26%であり、業務効率的には大差ないという意味では、過半数を占めていることから、今回のよう
に従来の業務を行いつつ、追加でシステムによる鑑査操作を行うことに対してのストレスがあったものと
推察され、将来的にシステムによる鑑査に一本化されることで解決していく問題と考えられる。
鑑査、記録業務の観点では、「システムに頼りすぎ、目視確認がおろそかになる可能性があるので、
逆効果」という回答が 5 件あるものの、「システムで施用前確認を実施することにより、これから施用する
医薬品が正しいことを識別してくれるので、効率的であり精神的に楽になる」が 4 件、「システムで施用
前、施用後に電子タグを読み込ませることで、手作業による記録が不要になるのであれば、効率的であ
161
り記録ミスなども減る」が 13 件という回答結果から、システムへの不安はあるものの、業務負担軽減に対
する期待はそれ以上であるということが分かる。
電子タグの読取性能に関しては、「期待以上(どおり)で、満足できる」との回答は 4 割にとどまった
が、「業務で使用できる性能ではない」との回答は皆無であり、十分に実業務で使用できるという評価を
得ることができた。
3.6.8 評価と考察
本実証実験の検証ポイントとしていた、電子タグを使用した自動鑑査システムを適用することによる、各鑑査
業務における業務の効率性の観点及び業務の正確性の観点での評価と履歴情報管理としての観点において
の評価、平成 18 年度及び平成 19 年度の評価結果から導出される、医薬品管理業務における電子タグ利用の
有効性に関する考察について記載する。
3.6.8.1 各鑑査業務における業務効率性に関する評価
本実証実験は通常の実証実験のように、ダミーの医薬品のトレース実験を行うのではなく、NTT 東日本関東
病院における実際の薬剤部業務及び病棟業務を行っている中で実際に施用する医薬品を使い実験システム
の適用を検証した。そのため、従来の業務はすべて通常どおり実施した上で実験システムの操作も行うことに
なり、単純に業務時間の短縮を図るものではない。
このような厳しい条件下で実施したにも関わらず、「(7) 病棟担当者の意見」の「業務効率への影響はどの程
度でしたか?」という設問に対し、「著しく効率が落ちた」との回答は 24 件の回答中 3 件であり、過半数が「業務
効率は大差がないという回答」をしている。
「(4) 電子タグを使用した鑑査業務にかかった時間」の結果においても、施用前鑑査及び施用後鑑査は概
ね十数秒の時間で完了している。今回実験システムの操作練習期間をおかず導入したことと、期間中に一人
当たりの操作回数が数回しかなかったことを考慮すると、継続して操作することによりさらなる鑑査時間の短縮
が見込まれる。
これらのことから、将来業務がシステムに一本化されることで業務効率が向上する可能性があることが推察さ
れる。
また、薬剤部においては、平成 18 年度の課題への対策を施したこともあり、平成 18 年度は「現状業務と大
差なし」との回答が 40%であった調製前鑑査が平成 19 年度では 80%に、33%であった調製後鑑査が 100%
に増加しており、より評価が高いといえる。
3.6.8.2 業務の正確性に関する評価
「平成 18 年度に薬剤部内で明確になった課題への対策」の項でも挙げたいくつかの対策を実施したことに
より、平成 18 年度に発生した実際の業務実施時刻とシステムが取得した業務実施記録の不一致が改善され、
正確性の向上がみられた。
病棟においては「鑑査、記録業務の観点で、電子タグは活用できますか?」というアンケートに対し、「シス
テムで施用前、施用後に電子タグを読み込ませることで、手作業による記録が不要になるのであれば、効率的
であり記録ミスなども減る」という回答が過半数を占めていることから、期待値を含んだ上で、正確性も評価され
ている。
ただし、「施用前鑑査/施用後鑑査業務共通の気づき事項」に挙げたように、システムによる鑑査忘れが発
生していることから、システムをよりシームレスに現在の業務に組み込む工夫や、利用者の医薬品のライフサイ
クル管理システムの有効性に対する認識を高めていくことが重要な課題であることが浮彫りとなった。
162
3.6.8.3 「調剤」「施用」「廃棄」の履歴情報管理に関する評価
平成 19 年度では実験システムの導入範囲を病棟業務まで広げたことにより、図-61 に示すような履歴情報
を自動的に取得できることが検証できた。システムの本格導入の際には、これらの情報を共通のデータベース
内に保存・参照することにより、一貫したライフサイクル管理が可能である。
図-61 実験システムで記録した情報
「実証実験結果」及び「(5) 電子タグを使用した鑑査業務での気づき事項」でも記述したとおり、履歴
情報の取得数は「病棟移動(転棟、転科)」「システム稼働時間外」「鑑査忘れ」という要因により減少す
る。「病棟移動(転棟、転科)」に関しては、システム導入の際は移動先の病棟も履歴取得の対象となる
ため、移動登録及び移動先の病棟での鑑査記録により履歴情報を補完することが可能となる、「システ
ム稼働時間」については、今回検証したように 24 時間のシステム運用とすることで解決する。「鑑査忘
れ」については、「(5) 電子タグを使用した鑑査業務での気づき事項」で記述した要因の立証と対策の
検討が必要ではあるものの、通常業務として確立すれば解決するものも含め、いずれも本格導入にあ
たって解決可能な問題と考える。
3.6.8.4 医薬品管理業務における電子タグ利用の有効性に関する考察
平成 18 年度及び平成 19 年度に NTT 東日本関東病院における薬剤部の調剤業務から病棟の施用業務に
至るまで、電子タグを適用した自動鑑査の実データ測定システムにて測定した結果、業務実施者の負担となる
ほどの業務効率の低下はなく、業務の正確性(医療過誤防止)の精度も向上させることが可能であることと、ラ
イフサイクル管理のために必要な履歴情報を入力操作等の手間をかけずに取得可能なことが実証された。
システムの本格導入にあたっては、業務の移行等の様々な課題があるものの、システムより取得される業務
記録や、医薬品のライフサイクルの記録により、業務担当者配置の適正化や、最適な SPD の検討に有効な情
報が蓄積されるため、情報を適切に分析することで、病院経営の改善に役立つ可能性を持っていると考えるこ
ともできる。
平成 17 年度からの 3 ヶ年の実験を経て、病院内での業務実施方法に合わせ、各種課題を解決していくこと
で、医薬品のライフサイクル管理における電子タグ利用の有効性は非常に高いといえる。
163
5)考察・今後の発展等
本研究の結果、医薬品ライフサイクル管理システムの実用化を見すえて浮かび上がってきた今後の課
題を示す。
1.既存業務との連携
本研究においては、実際に行っている業務の追加作業として、プロトタイプの実験システムを操作
し、結果を検証したが、実用化の際には、既存業務及び既存のシステムとのシームレスな連携方法の
検討が必要となる。
2.ライフサイクル管理対象医薬品の選定
調剤医薬品のみを対象とした場合でも、一度にすべての対象医薬品に電子タグを適用することは難
しい。電子タグのコストと有用性のバランスを考慮した上での対象医薬品候補を選定するノウハウの蓄
積が必要となる。
3.業者間の連携
本研究では、既存の医薬品に様々な条件を考慮して電子タグの最適な貼り付け位置を検証したが、
将来的には医薬品ラベルの最適位置に電子タグを内蔵することが望ましい。
これらの課題を解決していくためには、病院内だけではなく、医薬品メーカや卸、流通業者との連携
や、滅菌処理に耐える低コストの電子タグ開発等の要素技術の開発も必要となってくる。
これらの課題を検討し、病院内における安全、安心のみならず、医療業界の安全、安心、患者及び
医療スタッフの快適性を追及していく。
6)関連特許
該当なし
7)研究成果の発表
(成果発表の概要)
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
1. 原著論文(査読付き)
該当なし
2. 上記論文以外による発表
該当なし
3. 口頭発表
該当なし
4. 特許出願
該当なし
5. 受賞件数
該当なし
164
Ⅳ.実施期間終了後における取組みの継続性・発展性
近い将来、医療分野において電子タグやリーダ装置の普及が想定される。そのためには、電磁波が医
薬品に与える影響について公的機関による管理基準制定が必要となるため、電磁波が利用シーンに応
じて医薬品に与える影響について情報を蓄積・開示していくことが重要になる。
実証実験で整備した血液管理(製剤・輸血)の仕組みは、病院内はもちろんのこと、備蓄病院を中核に
すえた遠隔地の緊急輸血や、ユビキタスネット技術を活用して情報共有を図ることで在宅輸血が実現す
る。さらに、この仕組みを応用すれば医療以外のほかの分野にも適用が可能になる。
医療ミス防止を目的として電子タグを利活用する場面は様々ある。緊急性が高い環境(手術室や ER
等)でインテリジェントな医療情報環境を創出することや、病院全体で医療従事者や患者の位置・状態管
理を可能とする高度でインテリジェントな医療情報環境を実現することができる。
医薬品ライフサイクル管理を実用化するには、①既存業務及び既存のシステムとのシームレスな連携、
②ライフサイクル管理対象医薬品の選定、③医薬品ラベルの最適位置への電子タグの内蔵や低コスト化
のために、病院・医薬品メーカ・卸・流通業者との連携、などが今後必要になる。
電子タグを始めユビキタスネット技術を活用して、先に挙げた点の実用化を推し進めれば、医療に関わ
る様々な場所で、患者をはじめ医療関係者に、安全・安心や効率などの恩恵をもたらすようになる。
本研究の成果については医療安全などの医療現場のニーズを満たせるよう、また医療以外の分野にも
展開していくよう、実証実験終了後も継続的に取組む。
165
Ⅴ.自己評価
1.目標達成度
本研究では、電子タグ・リーダが医薬品へ与える影響、あるいは放射線照射や急激な温度変化が電子
タグへ与える影響に関する情報を蓄積することができた。その結果、電子タグを利用する際、必要となる
管理基準策定のための基礎データを得ることができた。
ユビキタスネット技術、特に電子タグとセンサネットワーク技術を医療分野へ適用したセキュリティ確保、
プライバシー管理、患者の様態・状態・投薬履歴管理ならびに医薬品のライフサイクルを踏まえたトレー
サビリティなど、相反する複数の要件を掲げ、実証実験を実施した。その結果、実証実験を通して、これら
の要件を満たす仕組みを実現させることができた。
実証実験で用いたこれらの仕組みは、電子タグ・PDA(携帯情報端末)を利用した医薬品・血液の取り
扱い業務の標準化を促すような機能を備えている。そのため、最終的に医薬品・血液の取り扱い業務を
一本化し、現場の業務効率向上に資する仕組みとなっている。
本研究で蓄積された情報や様々な知見あるいはノウハウは応用範囲が広く、電子タグを始めユビキタ
スネット技術を利用した仕組みを構築する際に有用で、医療分野はもちろんのこと他分野にも応用可能
である。
電子タグを利用した医薬品や血液製剤のトレーサビリティに関する実証実験から、電子タグが医療安
全や効率向上に寄与することが分かり、電子タグの必要性、有用性を強く認識することとなった。従って
医療分野において電子タグが非常に有効であると結論付けることができ、目標達成度は十分に高いもの
と評価している。
2.情報発信
研究の中では運営委員、オブザーバとして、様々な立場から関係者の皆様に参画いただいている。総
務省、厚生労働省など関係省庁や関連機関の皆様から、主として運営委員会での報告などで幅広い関
係者の皆様に知っていただくことができた。また、連携施策群ユビキタスネットワークタスクフォース(医療
分野について)で実用性について高く評価していただいており、東大名誉教授の斉藤先生にもご意見い
ただいている。さらに、2 つのサブテーマにおいては公開見学会も開催し、研究の重要性をより広く情報
発信することができた
3.研究計画・実施体制
実施体制としては、総務省、厚生労働省他の関係機関からも様々な立場で本研究に参画いただき、協
力体制を整えることができた。このことにより情報発信だけでなく情報提供の面からも、貴重なご意見を含
めご協力いただいた。たとえば、AutoID ラボの稲葉様には今回使った電子タグのコード体系についてア
ドバイスをいただき、実験の考察に関する貴重な意見を頂戴した。実験フィールドを提供していただいた
日本赤十字社、各病院では現場の業務が多忙な中、実験の主旨へのご理解、計画へのご協力をいただ
き、十分な成果を残せる環境を提供していただいた。
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4.実施期間終了後における取り組みの継続性・発展性
本研究は実用化できる可能性において非常に高く評価されており、平成 20 年 3 月に開催された医療
タスクフォースにて、電子タグの有効利用について研究成果の報告を行っている。医療現場から、安全管
理(医療過誤、患者の居場所把握等)や看護師への教育への展開といったニーズが高く、そのニーズに
対するアプリケーション例への本研究の活用が十分に可能であることをご理解いただいた。
アプリケーションの例と本研究成果の活用は下記のとおりである。
・医療過誤の防止:
電子タグを用いて、患者と看護師が点滴台に近づいたとき、どの患者がきて、どの看護師が近づ
いたかを点滴台が自動的に読み取るシステム。手術室に入るときに患者チェックをして、アラームを
出すシステム
⇒「リアルタイムデータ参照」技術を用いて指示ミスや指示の正確な把握が可能
アクティブタグに加速度センサを加えることにより、どこで転んだのかといった情報がリアルに収集で
きるシステム。同様のシステムを医療機器につなげれば機器がどこでぶつけられたのか等の把握
ができる。
・患者の位置把握:
運営委員会でも検討された応用例として病院内での患者所在位置把握に対する病院内からの
ニーズもあった。
・温度管理:
温度センサーを利用して血液輸送時の温度管理を行うことができる。特に遠隔地域への血液供
給に関しては温度管理が重要である。温度センサを応用することで遠隔地域での血液の安全性が
高まる。
⇒トレーサビリティとプライバシー保護の両立技術使用の可能性あり。
このアプリケーション例以外にも、電子タグを血液管理に利用することの実用化についても検討でき
ると考えている。
導入コストなどクリアすべき課題はあるが、このように本研究は今後の展開が大いに期待される研究
成果を挙げていると認識している。
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