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カンピロバクターを中心とした食鳥肉の微生物制御方法の検討

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カンピロバクターを中心とした食鳥肉の微生物制御方法の検討
カンピロバクターを中心とした食鳥肉の微生物制御方法の検討について
全国食品衛生監視員協議会第 48 回関東ブロック研修大会 平成 20 年 8 月 29 日
新潟県長岡食肉衛生検査センター
○佐久間靖子
1 はじめに
カンピロバクターは細菌性食中毒の原因菌として高い割合を占めており、特に市販の食鳥肉から高率に
検出されることから、食鳥処理場では様々なカンピロバクター汚染防止対策がとられてきたが、未だ顕著
な効果が認められていないのが現状である。
そこで、今回食鳥処理場でのと体の冷却・消毒(以下、チラー)方法の改善策として、擦り洗いおよび
超音波による物理的刺激を利用したと体表面に固着するカンピロバクターの除去方法について検討した。
また、カンピロバクターを付着させたまな板を用い、有機物付着の有無による消毒効果の差と効果的な
洗浄・消毒方法についても検討したので併せて報告する。
2 材料及び方法
(1)擦り洗いを併用したチラー槽の活用実験
・検
体:中抜きと体2羽(食鳥処理場より購入。以下、と体 A,B)
・チ ラ ー槽:市販のプラスチック製ケース(W300×D440×H320mm)
・チラー方法:オーバーフロー中にスポンジでと体表面を擦り洗い
(と体 A1分間→と体 B1分間→静置1分間)×3回
↓
オーバーフローで 5 分間静置
↓
50ppm 次亜塩素酸ナトリウム溶液(以下、次亜塩素水)10 分間浸漬
・試
料:チラー前はふきとり 25cm2および皮 10g(左脚外側)
、チラー後は右脚で同様に採取
・試 料 原 液:ふきとり検体はふきとった脱脂綿を滅菌生理食塩水 10ml で振り出し、プレストン培地
90ml を加え、ストマック処理したもの
皮はそのままプレストン培地 90ml を加え、ストマック処理したもの
それぞれの試料原液は、食品衛生検査指針に準じ MPN3 管法(10ml、1ml、0.1ml)でカンピロバクター
属菌数の算定を行った。
(2)超音波チラー槽の活用実験
・検
体:市販鶏肉(モモ肉、ムネ肉)の皮 10g
・チ ラ ー 槽:未 処 置 群…チラー無し
対
照
群…容量 250ml プラスチック容器に 80ppm 次亜塩素水 200ml と検体を入れ、
10 分間浸漬後、同様の容器で 80ppm 次亜塩素水 200ml に 20 分間浸漬
超 音 波 群…容量 250ml プラスチック容器に 80ppm 次亜塩素水 200ml と検体を入れ、
この容器ごと超音波洗浄機{
(US-2、槽容量 2.6L:井内盛栄堂)以下、
超音波槽}に 10 分間浸漬後、同様の容器で 80ppm 次亜塩素水 200ml
に 20 分間浸漬
各処置後の皮は、MPN3 管法にてカンピロバクター属菌数の算定を行った。
(3)まな板の洗浄・消毒実験
ア 実験方法等
供試菌は食鳥処理場監視時のふきとり検査で検出された Campylobacter jejuni を純培養し、滅菌
生理食塩水で McFarland No.4 に調整したものを使用した。
まな板は 15cm×15cm 合成樹脂製で、供試菌を 2ml 滴下し滅菌綿棒で均一に塗り広げたものを使用
した。
各ふきとり検体は滅菌生理食塩水 10ml に振り出し、これを原液として食品衛生検査指針に準じ寒天
直接塗抹法にて CCDA 培地(OXOID)で 42℃48 時間微好気培養後、カンピロバクター属菌数(CFU/cm2)
を測定した。
イ 実験1(消毒のみ)
菌のみを塗布したまな板と、豚の脂を塗った後に菌を塗布したまな板を用いた。それぞれのまな板
に 100ppm 次亜塩素水又は熱湯(80℃前後)を注ぎ 2 分間放置後 25cm2 のふきとりを検体とした。
ウ 実験2(洗浄・消毒)
豚の脂を塗った後に菌を塗布したまな板を用いた。温湯(40℃)掛け流し、温湯を掛け流しながら
たわしで擦る、洗剤をつけたたわしで擦った後に温湯を掛け流す、という洗浄を行い、その直後 25cm2
のふきとりおよび 100ppm 次亜塩素水を注ぎ 2 分間放置後 25cm2 のふきとりを検体とした。
3 結果
(1)擦り洗いを併用したチラー槽の活用実験
・ ふきとり : チラー前のと体 A、B のふきとりでは A 43 MPN/25cm2、B 15 MPN/25cm2であったが、チラ
ー終了後にはどちらも検出限界値以下まで減少した(図 1)
。
・ 皮
: チラー前のと体 A、B の皮では、A 240 MPN/10g、B 93 MPN/10g であったが、チラー終了後
ではどちらも検出限界値未満まで減少した(図 2)
。
MPN/25cm2
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
と体A
43
と体B
MPN/10g
と体A
240
250
と体B
200
150
93
15
100
3
<3
50
0
チラー前
チラー後
図1 擦り洗い効果(ふきとり)
(検出限界値:3)
(2)超音波チラー槽の活用実験
<3
チラー前
チラー後
図2 擦り洗い効果(皮)
(検出限界値:3)
<3
未処置群に比べ超音波群に減少がみられたのは 10 検体中 8 検体(No.1、2、4、5、6、8、9、10)であった。
また、対照群に比べ超音波群に減少がみられたのは 5 検体(No.2、4、5、6、9)であった。
一方、3 検体(No.3、7、8)では対照群に比べ超音波群に増加がみられた(表 1、図 3)
。
表1 超音波チラーの効果
検体No
未処置群
対照群
超音波群
1
>1100
23
43
150
93
120
240
460
150
1100
240
43
23
9.2
9.2
93
75
43
23
<3
240
3.6
75
<3
3.6
43
1100
240
<3
<3
2
3
4
5
6
7
8
9
10
MPN/10g
( MPN/10g)
1200
コントロール
未処置群
群
対照群
1000
800
超音波群
600
400
200
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
図3 超音波チラーの効果
(検出限界値:3)
(検出限界値:3)
(3)まな板の洗浄・消毒実験
ア 実験 1
脂を塗っていないまな板では、次亜塩素水消毒後に菌の残留は認められなかったが、脂を塗ったま
な板では、次亜塩素水及び熱湯消毒後も菌が高濃度に検出された(表 2)
。
イ 実験 2
たわし洗浄を加えなかった工程 C および D において、菌の高濃度残留がみられた(温湯の掛け流し
のみの洗浄:5.8×103CFU/cm2、次亜塩素水処理:2.7×103CFU/cm2)
。
たわし洗浄を加えた工程 E、F、G、H では菌の残留はみられなかった(表 3)
。
( CFU/cm2)
表2 脂の付着による消毒効果の影響(実験 1)
工程
A
B
処理方法
塗布菌量
次亜塩素水(100ppm)
熱湯(80℃)
5
5.7×10
まな板の脂
あり
なし
8.2×10² 検出せず
4.3×10² 4.2×10²
( CFU/cm2)
表3 物理的刺激による洗浄・消毒効果(実験 2)
工程
処理方法
C
D
温湯(40℃)
温湯(40℃)+次亜塩素水(100ppm)
E
F
温湯(40℃)+たわし
温湯(40℃)+たわし+次亜塩素水(100ppm)
G
H
温湯(40℃)+たわし+洗剤
温湯(40℃)+たわし+洗剤+次亜塩素水(100ppm)
塗布菌量 残留菌量
5.8×10³
2.7×10³
2.9×105
検出せず
検出せず
検出せず
検出せず
10
4 考察
安全な食鳥肉を消費者に提供するための重要な課題の一つとして、食鳥に高率に付着しているカンピロ
バクターの菌量を減少させることが挙げられる。
カンピロバクターはと体の毛穴などにバイオフィルムを形成して固着するため、従来のチラー槽での塩
素消毒では顕著な効果が期待されないことが知られており 1)2)、北村らはと体を 400ppm 次亜塩素水に浸漬
しても菌数を減少させることができなかったと報告している3)。
そこで、我々は管内の認定小規模食鳥処理場でのふきとり検査で解体作業が進むにつれカンピロバクタ
ーの検出率が上昇することから、まな板にと体表面が押しつけられる等の物理的な刺激により毛穴が開き、
まな板を介して二次汚染が拡大しているのではないかと推測し、食鳥皮を流水中で擦り洗い後次亜塩素水
に浸漬し、皮に付着しているカンピロバクター数を計測したところ、検出限界値まで減少させることがで
きた。
このことはと体表面をスポンジで擦り洗い流すことで、バイオフィルムが破壊され固着していた菌に次
亜塩素水が十分作用したためではないかと考えた。しかし、この方法は手間と時間がかかるため、食鳥処
理場に導入するには工夫が必要なことが示唆された。
超音波チラー槽の活用実験では、超音波で発生する衝撃波により毛穴深部に固着しているカンピロバク
ターを剥がし出し次亜塩素水で殺菌できないかと考え、記載の超音波槽モデルにより実験を行ったが、通
常のチラー工程以上の効果は得られなかった。
このことは市販鶏肉に付着しているカンピロバクター菌数のばらつきや、衝撃波が浮遊物に対して効き
にくいこと等が影響しているのではないかと考えられ、今後もこれらを考慮した様々なモデルを検討して
いきたい。
まな板の洗浄・消毒実験では、脂の付着しているまな板をそのまま次亜塩素水や熱湯で消毒しても十分
な効果は得られないが、温湯を掛け流しながらたわしで擦り洗いすると、その後に塩素消毒をしなくても
付着菌を除去できることが明らかとなった。
5 まとめ
今回の実験から物理的にしっかりと洗い落とす洗浄作業が衛生管理を行う上で最も重要であると改めて
認識させられた。物理的な洗浄の重要性について、食品業界や消費者に強調していくことが必要と考えら
れる。
食鳥肉のカンピロバクター制御には多様な対策が求められている。今後も食鳥処理場の段階でカンピロ
バクターフリーの鶏肉を提供できるよう検討を重ねていきたい。
参考文献
1) 田中こず恵:ブロイラーのカンピロバクター保菌と鶏肉の汚染状況について.新潟県食品衛生監視員・環境衛生監視員合同研修会(2004)
2)
金井香純:食鳥処理工程の変更によるカンピロバクター制御への効果について.食鳥肉技術研修会(2006)
3) 北村剛:管内食鳥処理場におけるカンピロバクター汚染の実態調査.微生物部会(2007)
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