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有り - 公益財団法人 立石科学技術振興財団
様式6(国際交流助成・派遣 報告書) (1 /3 ) 研究者海外派遣 報告書 平成 20 年 財団法人 6 月 24 日 立石科学技術振興財団 御中 (助成金受領者) 所属機関 職 名 氏 名 東京大学・先端科学技術研究センター ──────────────── 准教授 ────────────── 矢 入 健 久 印 ────────────── 1.派遣先研究集会名/機関名 IEEE International Conference on Robotics and Automation (通称ICRA) 2.出張期間 平成 20 年 5 月 20 日 ~ 平成 20 年 5 月 25 日 3.出張目的及び日程・内容(国際会議の重要性・規模・分野・参加人数・ 参加国・会議の状況・自分の発表論文の状況と反応・その他をアピールして下さい。写真等の資料を添付し てください。) IEEE International Conference on Robotics and Automation (通称 ICRA)は、ロボット 工学およびオートメーション工学に関する国際会議であり、同研究分野においては姉妹会議 であるIEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems (通称 IR OS)と並んで規模の大きい研究集会である。また、規模が大きいだけでなく、発表研究のレベ ルが高いことでも有名であり、同分野では文字通り「権威」とも言える会議である。ICRAの 公式発表によれば、今年の同会議には、世界47カ国から1478件もの論文が投稿され、厳正な ピアレビューの結果、661件が採録されたとのことである。 本年のICRAは、米国カリフォルニア州のパサデナで5月19日~23日の日程で開催された。 ロサンゼルス近郊の高級住宅街であるパサデナは、NASA のJet Propulsion Laboratory (JP L)や、名門University of Southern California (USC)がある学研都市としても有名である。 筆者がこの街を訪れるのは3年ぶり2回目であったが、今回の訪問時は街の至る所に植えられ ているジャカランダという木が青紫色の花を咲かせており、美しい町並みをますます華やか な彩りを与えていた。また、余談になるが、南カリフォルニアというと乾いた気候のイメー ジがあるが、今回は雨に見舞われることが度々あり、折り畳み傘を持ち物リストから外した 平成20年度前期国際交流助成 (財)立石科学技術振興財団 (2 /3 ) ことをつくづく後悔したのであった。 さて、今回、貴財団の渡航支援を受けて著者が発表したのは、「移動ロボット地図作成」 (Mobile Robot Mapping)と呼ばれる研究に関するものである。知能ロボット研究においてこ の分野の歴史は比較的古く、20年以上に渡って世界中の研究者がしのぎを削ってきた分野で ある。特に、2000年代に入ってからはSLAM (Simultaneous Localization and Mapping : 自 己位置と地図の同時推定問題・技術のことを指す)に関する研究が盛んに行われ、近年では理 論的にも実用的にも成熟の段階に入った感がある。今回のICRAでもSLAMやLocalization, Ma ppingなどの単語がタイトルに入ったセッション・発表が数多くあり、SLAM関連の発表が別の セッションで同時に行われることも多々あり、どの発表を聴講するか悩むほどであった。 ところで、このようにSLAM研究全盛の時代において、著者が発表した研究 (“Bearing-on ly Mapping by Sequential Triangulation and Multi-Dimensional Scaling”)は、ある意味 で「一石投じる」ものであったと(図々しくも)自負している。というのは、従来のSLAM研 究の基本的なアプローチは、物体位置およびロボットの位置・姿勢を未知数としたときにロ ボットのセンサーから得られる距離や角度などの観測データからそれらの未知数の値を直接 的に推定しようとするものであったのに対し、著者らの提案手法は、観測データからまず「物 体間(あるいは物体-ロボット間)の相対距離」を連続三角測量によって推定した後に各物 体の位置(および各時刻のロボット位置)を推定するという2段階の手続きを踏む点でそれと は一線を画すものであるからである。このような2段階アプローチは、一見すると回りくどい ように思われるが、実は以下の2点で極めて合理的であると言える。(1)物体やロボットの 位置座標や姿勢は座標系の取り方によって変わってしまうのに対して、それらの間の相対距 離は座標系に依存せず不変である。(2)物体間の相対距離を要素とする距離行列が得られ れば、多次元尺度構成法(multi-dimensional scaling : MDS)と呼ばれる既存かつ信頼性の高 い手法・アルゴリズム群を利用することができる。 ただし、今回の地図作成問題の場合、 物体間相対距離の一部が欠損している状況を扱わなければならないという問題があったため、 既存のMDS手法をそのまま用いるのではなく、二つの方法で独自に拡張した上で適用した。大 雑把に言えば、それら二つの方法とは、「欠損値を推定値によって埋める方法」と「欠損値 を無視して既知の相対距離のみで推定する方法」である。興味深いことに、これらに種類の 方法は相補的な関係にあり、データが少ない段階では前者を用い、データがある程度増えた 段階で後者に切り替えるという戦略を用いたときに最良の性能が得られるという実験結果が 平成20年度前期国際交流助成 (財)立石科学技術振興財団 (3 /3 ) 得られた。また、地図作成手段として比較した場合、既存のSLAM手法ではロボットの自己位 置推定が必ず必要であるのに対して提案手法ではそれが必ずしも必要でない点、物体間の相 対的な位置関係に関して事前情報が得られる場合にそれを有効かつ効率的に利用できる点な どの特長を有している。ところで、実はこの提案手法は、平成15年度に貴財団より助成を 受けて実施した「人間とロボットの協調的環境空間モデル構築に関する研究」において著者 らが開発した「同時可視性に基づく物体位置推定法」の一部のアイデアを応用したものであ ることを申し添えておく。 さて、会議の話に戻ると、ICRAでは原則的に全ての採録論文が口頭で発表されるのである が、今回の会議では、さらに希望者は口頭発表に加えてポスターでも発表する機会が与えら れた。当然、著者はこの機会を利用した。ポスター発表は会議初日の夕刻に一斉に行われ、 会場はディスカッションを求める研究者の熱気で包まれていた。著者も同じ分野に興味を持 つ様々な国の研究者たちと忌憚の無い議論や有益な情報交換を行うことができ、極めて有意 義な時間を過ごすことができた。一方、口頭発表は会議二日目の午前中のセッション(セッシ ョン名 : Range-Only and Bearing-Only Mapping)に行われた。同セッションでは計6件の発 表が行われたがいずれも非常にレベルの高い研究であり、著者もその中に加わることができ たことは純粋に喜ばしく感じられた。また、このセッションでは立ち見の聴講者も多く見ら れ、この分野がいかに多くの注目を受けているかを改めて実感したのであった。肝心の発表 も自分としては非常に満足できる出来であり、聴衆の反応も上々であった(と思う)。発表 後には聴衆から3件ほど質問があり、乏しい英語力ながらも誠意を持って回答した。 以上、ICRAでの研究発表について報告させて頂いたが、最後にあらためて、今回の渡航の 機会を与えて下さった貴財団に対して心からの御礼を申し上げて結びの言葉とさせて頂く次 第である。 平成20年度前期国際交流助成 (財)立石科学技術振興財団