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宅配事業 ソリューション - COOP
シリーズ 宅配事業 ソリューション 個人名チラシによる仮説検証を重ね、 顧客視点のマーチャンダイジングで “お得意さん”を増やしていく にしむらかずのぶ コープこうべ 無店舗事業部めーむ企画 統括 西村和宣 氏 コープこうべでは、特定の条件で抽出した組合員に個人名入りのチラシで商品をおすすめする 仕組みを開発し、2010年3月以降、28本のチラシ配布と結果検証を重ねてきた。その成果を土 台に、今年度から新しい媒体もスタートさせている。一連の取り組みの狙いと手応えについて、 無店舗事業部めーむ企画統括の西村和宣氏にお聞きした。 個人名チラシの狙いは、継続利用の拡大と 仮説検証型組織体質の醸成 個人名チラシの狙いは2つにくくられます。一つは、組合員の購 入データを分析し、特定の組合員をターゲットに商品提案やプロモ ーションを実施することにより、1軒当たりの利用高アップを図る ことです。これは、組合員のライフスタイルに対応した商品の的確 な提案によって、末長く宅配を利用していただけることにつながり ます。 もう一つの狙いは、“経験と勘”に頼る旧来のあり方を脱し、デ ータに基づいた仮説検証型の組織体質を醸成することです。組合員 の購買データを分析し、仮説を立てて検証を重ねていくPDCAを通 じて、商品構成・品ぞろえを科学的に組み立てられる組織に転換し ていこうというわけです。 宅配はメンバーシップ制の事業ではありますが、従来は購買デー タをグロス視点で見ていたため、各世帯の潜在的なニーズの分析や プロモーションに対する実際のレスポンスが把握しづらいという問 題がありました。 私たちは、商品の「よさ・らしさ」の伝え方を差異化し、品ぞろえ のあり方を見直し、1人でも多くの組合員に、いわゆる“ロイヤル 82 西村和宣 氏 ユーザー”−−−私たちは「お得意さん」と呼んでいます−−−になっ ていただくために、ターゲット・マーチャンダイジング(以下「MD」 ) を2010年度より進めてきました。お得意さんをインセンティブなど シリーズ 宅配事業 ソリューション に頼らず、商品の利用を通じて増やしていく取り組みです。そのた めにはもっと組合員の利用実態を個々に見ることが重要です。 現状分析でランク別特徴を把握し、 ランクアップを目標化 そこで、Qlik Viewという検索・抽出ソフトをツールとして導入 し、購買実績のデータベースから特定の条件に合う組合員を抽出し、 個人名チラシをピンポイントで発行して商品提案ができる仕組みを つくりました。 個人名チラシの開始にあたって、まずは宅配の利用状況をランク 別に分析しました。その結果、以下のようなことが分かりました。 ①上位ランクのユーザーで供給高・GPの多くを占めている:上位 6.5%のAランク(月利用高4万円以上)の構成比は、供給高の 22.2%、GPの23.5%、上位28.8%のA・Bランク(月利用高2万円 以上)の構成比は、供給高の60.0%、GPの61.7%にも上っている。 ②各ランクによって、部門別の利用構成比が異なる:上位ランクの 構成比が比較的高い部門は、農産・水産・畜産・住居関連・衣料。 中位以下のランクの構成比が比較的高いのが、食品・菓子。 ③上位ランクと中位ランクの1軒利用点数の差は、部門・大分類に よって異なる:上位Aランクと中位Cランクの1軒利用点数の差が 大きい部門とその点数差は、農産18.0・日配17.9・食品15.2。差が大 きい大分類は、野菜14.5・牛乳5.1・調味料4.9・冷凍食品4.1・日配 3.9・飲料3.9。 ④大分類別の1軒当たり1カ月の利用金額・点数を見ると、各ラン クの組合員の平均的な利用者像(ランク別の目標数値)が分かり、 目指すべき利用者像が見えてくる(資料1)。 これらのデータから読み取れるのは、まず、宅配事業のロイヤル ユーザーとライトユーザーで利用に大きな差がある部門は農産であ るという点です。加えて注視すべきは、金額ベースでの住居関連部 門の差の大きさです。従って、この部門のMDには留意が必要です。 把握した現状を出発点として、ランク別構成比の目標を設定しま した。 生協運営資料 2011.5 83 資料1 ランク別構成比(%)の改善目標 Aランク Bランク Cランク Dランク Eランク 前年実績 6.5 22.3 23.0 32.6 15.6 目標 6.8 22.8 22.7 32.1 15.6 +0.3 +0.5 −0.3 −0.5 ±0 前年差 核商品『めーむのきほん商品』を設定。 「良さ」を伝え、潜在的ニーズを掘り起こす 次に、お得意さんを増やす商品構成・品ぞろえを実現するための 核商品の検討に入りました。 「核商品」を、お得意さん(以下「ロイヤルユーザー」)の利用数 量と供給金額・掲載回数の3つの指標で高位にある商品と定義付け ました(資料2)。「高位」の基準を①ロイヤルユーザーの浸透率 20%以上、または②ロイヤルユーザーの注文金額トップ10、③商品 掲載頻度が高い(毎週)として検索した結果、自生協PB“コープ ス”(以下、「CS」)の牛乳、卵、豆腐、バナナ、米などの商品が抽 出されました。 84 資料2 さらに、以下の商品も検討に加えました。①年間の数量ベースで 上位の商品(一例:CS食パン、ヨーグルト、曲がりキュウリ)、② 重量物配送という宅配のメリットから、ケース利用商品で年間の供 給金額が上位の商品(一例:ミックスキャロット、六甲のおいしい 水)、③利用する観点から価値訴求しやすい商品=差別化商品(一 ひ 例:冷凍バラ挽き肉)。 こうして候補に挙げた商品から絞り込みを行ない、「めーむのき ほん商品」(以下、「きほん商品」)と名付け、09年度下期から組合 員へのおすすめをスタートさせました。 きほん商品を、縦軸「供給金額」・横軸「ロイヤルユーザーとラ イトユーザーの利用率の差」でグラフ化すると、資料3のような分 布になります。ライトユーザーにロイヤルユーザーになってもらう には、供給金額・利用率ともに差の大きい、グラフ右上に位置する 商品を中心に利用していただくことが効果的だと考えました。 狙いは、継続利用のための「きっかけ作り」ですから、個人名チ ラシの配布対象組合員の抽出にあたっては、過去に同様の商品の購入 履歴がある組合員のみを対象とするのではなく、購入履歴が全くない 生協運営資料 2011.5 85 資料3 組合員の潜在的なニーズを発掘するという視点を意識しています。 つまり、未利用の商品の良さをしっかりお伝えし、その後利用し続け ていただくことで、ロイヤルユーザーになってもらうことが重要です。 これまで利用いただけていないのは、商品に対する何らかの不安 や不満があるわけで、そのことを解決するために、職員の商品知識 力向上も不可欠です。 そこで、個人名チラシを配布するだけではなく『めーむのきほん 商品 Pocket Guide』という冊子を作成し、宅配の地域担当者全員 に配付し、それらの商品の学習会を開き、組合員にしっかりおすす めすることのできるスキル向上にも力を入れています。 個人名チラシでピンポイントの仮説検証を 重ね、くらしの文脈を読み解いていく 【成功例1】冷凍肉 配付したチラシは資料4にあるとおりです。冷凍肉は宅配ならで はのカテゴリーなので、個人名チラシで便利さやおいしさ、そして 解凍方法も含めて訴えました。チラシを配付するターゲットは、年 86 資料4 3月4回 精肉分類未利用組合員対象の個人名チラシ (対象組合員の個人名) 生協運営資料 2011.5 87 末年始3カ月に精肉分類未利用のAランク組合員としました。宅配 の利用金額が高いにもかかわらず、年間で最も需要が高まる時期に 精肉を利用していない組合員へおすすめするという内容です。 結果は、チラシ配布数14,877に対し、利用された組合員が733人 で、レスポンス率4.9%と良好でした(通常の D M 等のレスポンス 率は0.2∼2.0%)。とはいえ、全体ボリュームからすれば、対象人数 は大きなものではありません。 しかし、資料5のとおり、チラシを送付した3月4回以降、この チラシに反応した組合員の利用高は明らかに高まっています。ここ が非常に大切なのです。 資料5 1軒受注高の差(円) 週回 反応群(733人) 非反応群(12,972人) 2月3回 6,369 6,500 ▲131 3月1回 5,808 5,940 ▲132 3月2回 6,061 6,082 ▲ 21 3月3回 5,117 5,262 ▲145 3月4回 6,284 5,285 999 3月5回 5,696 5,677 19 4月1回 6,549 6,207 342 4月2回 6,482 5,285 1,197 利用データをさらに細かく見てみると、733人の反応組合員のう ち144人が、豚ばら肉以外の精肉分類も利用し始めていました。 個人名チラシの効果は対象者ボリュームから見れば大きくありま せんが、配布時の瞬間的な成果よりも、このことをきっかけにその 後継続的に利用が向上する効果の積み重ねが何よりも大切です。 【成功例2】米 6月2回「新潟産こしひかり」の年間最安値企画で、前年度米未 利用者のうち、お弁当商材を購入している組合員125,253人に、個 人名チラシを配布しました。結果は、レスポンス率3.4%。配付前 後の4週比較で、1軒当たり受注高は373円アップ、同点数は0.27点 アップとなりました。反応した4,285人のうち、驚いたことにこの 回の利用をきっかけにその後4週連続でお米を利用された人が22人 おられました。 88 差額 このお米は冷めてもおいしいことから、お弁当に最適であるとい う訴求が、利用のきっかけとなりました。また、お弁当を作る家庭 では米の消費量も多く、この切り口は有益なものとなりました。 シリーズ 宅配事業 ソリューション 他方、米については失敗事例もあります。7月1回に「とってお きブレンド米」を低価格で企画しました。対象は前年度米未利用者 19万人余りでしたが、レスポンス率は0.55%にとどまりました。 単に、価格訴求だけではダメで、商品の良さをしっかり伝え、理 解していただくことから継続利用に結びつけるということが鉄則だ と再認識しました。 【成功例3】豆腐 4月1回に、12月3回∼1月2回で「CSなめらか絹とうふ」を 未利用だった30,840人に対し配布しました。紙面にはメニュー提案 を掲載しました。結果のレスポンス率は11.6%でした。抽出対象期 間にはスーパープライス(特売)での取り扱いが2回もあったのです が、その価格でもご利用いただけなかった組合員の内11.6%が、今 回の個人名チラシには反応されたわけです。充填豆腐ならではの日 持ちの良さをうたいつつ、簡便メニュー提案で汎用性を打ち出した ことが、利用に結びつきました。 【成功例4】漬け梅 成功事例4は「漬け梅」です。コープこうべの組合員は平均年齢 が高いことから手作り志向も強いため、漬け梅は重点商品になって います。しかし、商品的にダウントレンドであることも否めません でした。そこで最需要期の5月3回に個人名チラシ41,197枚を投入 しました。下記の組合員をターゲットとして設定しました。①前年 の漬け梅利用者、②漬け梅未利用者のうち以下のいずれかに該当す る人。梅関連商品利用者/梅酒・梅干利用者/らっきょう利用者/ ミックスキャロット利用者(子育て世代で健康志向が高いと推定さ れる層)。 結果は、梅および関連商品9アイテム全体の前年比は、数量116%、 供給高107%。前年差228万4,524円と、大きく伸長しました。伸長 率の最も高かったのは、コープこうべのブランドである、フードプ ランの漬け梅1kgでした。5kgや10kgではなく1kgが伸びた点に トライアル購入の要素がうかがわれます。 この取り組みでは意外な発見がありました。私たちは従来、この ような商品の利用者は毎年利用されている方が大半を占めていると 思い込んでいました。しかし、前年の漬け梅利用者の購入率は31% 生協運営資料 2011.5 89 しかありませんでした。つまり、利用者の約7割が入れ替わってい たのです。漬け梅のような伝統的な商材でも、実は毎年、新規顧客 を開拓することがキーポイントだったのです。 この取り組みで、個人名チラシ配布者の購入率は、非配布者と比 較すると、新規ターゲットにおいては4.0倍(うちミックスキャロ ット利用者は1.7倍)という高い成果を上げました。 【成功例5】セフターエナジー ロイヤルユーザーとライトユーザーの利用金額の差が大きいのは 住居関連部門であると前述しましたが、成功事例5は「CO・OPセ フターエナジー」の新規利用者獲得の取り組みです。 年末需要期の12月2回に、以下のターゲット設定で5万人を抽出 し、個人名チラシを打ちました。前提として春のセフターキャンペ ーンで対象6アイテムを未利用。さらに、①ライバルNB商品は購 入している人、または②冷凍食品を購入する人(人気3アイテムで 抽出)。②は、簡便・時間短縮の志向が、エナジーの訴求ポイント 「すすぎ1回で時間短縮」と重なるのではないかという仮説です。 資料6 12月2回 CO・OPセフターエナジー新規利用者獲得用個人名チラシ 90 資料6のような内容で訴求しました。結果、利用が 資料7のよ シリーズ うに伸長しました。トータルのレスポンス率3.23%、ターゲット別 宅配事業 ソリューション の内訳は資料8のとおりで、ライバルNB商品購入者の反応が、よ り良好でした。 資料7 資料8 CO・OPセフターエナジー個人名別チラシへの反応 配付対象 反応者 反応率 ①ライバルNB商品購入者 18,171 661 3.64% ②冷凍食品(特定3アイテム)購入者 29,483 883 2.99% 2,346 72 3.07% 50,000 1,616 3.23% ①②両方該当者 合計 個人名チラシをスタートさせた10年3月と約1年後の11年2月で ランク別構成比の変化を見ました。 結果 ランク別構成比の改善 Aランク Bランク Cランク Dランク Eランク 10年3月 6.5 22.3 23.0 32.6 15.6 11年2月 7.3 23.9 23.7 31.7 13.4 +0.8 +1.6 +0.7 −0.9 −2.2 差 比較月が異なり企画内容の影響などはありますが、上位のランク の人数構成比を確実に高めることができています。 生協運営資料 2011.5 91 ランクアップを決める商品利用の動態を 分析し、新媒体に具現化していく 以上のような取り組みの成果を踏まえ、次のステップとして、新 媒体導入に向けた分析を始めました。 それは、ライトユーザーがロイヤルユーザーに移行していくに当 たり、どのような商品の利用が増えていくのか、あるいは逆のケー スで、どのような商品の利用が減るのかという分析です。このこと が分かると打ち手がすごく明確になります。 現時点ではモニタリング数がまだ少ない状態ですので、仮説を述 べるにとどめたいと思います。 加入後、ランクアップしていく組合員の利用が一番コンスタント に伸びていくのは野菜類です。購入アイテムを見ると、掲載頻度の 高い定番商品を利用されるなかで、葉物から根菜類、水煮加工品へ 広がっていくという経過をたどっています。 これと対照的に、水産の利用は山あり谷ありで、右肩上がりが不 明確です。分析をしてみて気づいたのですが、宅配の水産の品ぞろ えには週替わりのプロモーション色が強く、毎週掲載されているア イテムがほとんどありません。 水産部門でもコンスタントに利用が伸びるようにするためには、 サケやサバなどの定番商品を毎週掲載して、利用いただく習慣の土 台形成が必要です。そして、定番商品をきっかけにプロモーション にも利用を広げてもらうことが必要です。 また、加入後ランクアップしていく組合員の利用分析から私たち が着目しているのは、下記のようなキーワードを中心とした商品の 利用が高まることです。これらの商品を私たちは「宅配特化型商品」 と名づけています。 ①「簡単調理」 「時間短縮」 レンジ調理、フライパン調理、湯せん調理、包丁要らず、混ぜる だけ、下ごしらえ済み、骨取り済み、油抜き不要、味付け不要、具 材付き、など。 ②「健康感」「ヘルシー志向」 根菜類、穀類、海藻類、植物系たんぱく質、食物繊維、鉄分、低 カロリー、など。 ③「ストック品」「バラ凍結」 買い置きできて、使いたいときに使いたい分だけ。 これらの商品と「きほん商品」を中心として、より宅配で利用で 92 きる商品の良さを理解していただくために、11年4月度から新媒体 として『めーむらいふ』を投入することになりました(資料9)。 この媒体は年間28本を予定しています。この媒体においても仮説検 シリーズ 宅配事業 ソリューション 証型の取り組みを重ね、組合員により一層支持されるMDを構築し ていきたいと考えています。 生協運営資料 2011.5 93 資料9 『めーむらいふ』 創刊号 94 生協運営資料 2011.5 95