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新衛丸の荒天時
新衛丸の荒天時、港内操船時の操船性について SES貨物船第 1 船「新衛丸」も平成 19 年 2 月に竣工し、実運航データも蓄積されてき ております。ここでは、新衛丸の実航海データをベースに、新衛丸の荒天時、港内操船時 の操船性についてご紹介します。 1.荒天時性能 グラフ1は、新衛丸のデータ(○印)と、これと比較するためのハンディマックスバル クキャリア(ディーゼル主機)のデータ(△印)をプロットしたものです。更に、電気推 進船の推進電動機のトルクリミットカーブ、ディーゼル主機のトルクリミットカーブ等を 図示しています。 新衛丸のデータは横軸が推進用電動機回転数(1 号機、2 号機の平均を最大回転数で除し て無次元化) 、縦軸が推進用馬力(1 号機、2 号機の合計を最大出力で除して無次元化)と なっています。ハンディマックスバルクキャリアの方は、横軸が主機回転数(最高回転数 で除して無次元化)、縦軸が主機出力(最大出力で除して無次元化)ということで考え方は 同じです。 グラフ1 1 推進用電力/最大出力 B.H.P/MCR 0.9 推進電動機 トルクリミットカーブ 0.8 プロペラ則カーブ 0.7 ディーゼル主機 トルクリミットカーブ 0.6 B.F.7 B.F.8 0.5 B.F.8 B.F.8 0.4 ○:20070801 ●:20070803 ●:20070805 ●:20070808 Max.B.F.5 △:Bulk Carrier(Diesel) 0.3 0.5 0.6 0.7 0.8 R.P.M/最高回転数 0.9 1 計測結果から見ると、新衛丸は定格の約60%出力で運航されており、回転数の変動は 少なくなっています。一方、ハンディマックスの方はディーゼル機関が荒天中において回 転数が低下します。 新衛丸の該当期間中の海象は最大 Beaufort5(台風の影響)、この風力に対応する有義波 高は約2mです。これに対し、ハンディマックスの海象は最大 Beaufort8で、対応する有 義波高は約 5.5mですが、両船の Lpp と波高比で考えると、新衛丸の方が相対的に海象が厳 しいといえます(表1参照)。 △のハンディバルカーのプロットは、B.F.(Beaufort)8 と海象が荒れると、ディーゼル 主機トルクリミット(赤線)に頭を抑えられて、回転数が低下します。これに対し、新衛 丸は、電気推進船の推進電動機トルクリミット(緑線)の内側であれば同一回転に対して トルクを発生することが可能であり、かなり余裕があります。従って、B.F.(Beaufort)5 と海象があれても回転数の低下はみられません。 以上が、新衛丸が荒天でも「粘り」があることを示している理由と考えています。 表1 L B D 有義波高(H) H/L 新衛丸 55m 9.8m 3.5m 約2m 0.036 ハンディーバルカー 160∼190m 27∼32m 16∼18m 約5.5m 0.029∼0.031 なお、荒天時の性能を語る場合には、プロペラレーシングについても触れる必要があり ます。インバータ制御の電気推進船では、推進電動機の回転数を制御していますので、仮 に荒天時にプロペラが空中に出て負荷がゼロに近くなったとしても、インバータが設定さ れた回転数を維持しようと瞬時に制御します。これによって、インバータ制御の電気推進 船では、ディーゼル船でのプロペラレーシングによる過回転での主機トリップの様な事態 は起きないといっても過言ではありません。 図1 プロペラレーシング プロペラが空中に出ると負荷が0となり 在来船ではプロペラが高速で回る 新衛丸はインバータ制御なので 同じ回転数を維持 2.港内操船時性能 次に、港内操船時(低速航行時)の操船性能についてご紹介します。 インバーター制御の電気推進船は港内操船がしやすいと新衛丸、第五日光丸の船長さん が言われてますが、新衛丸のデータを基にグラフ2を作成し、このことの可視化を試みま した。 グラフ2 港内操船時の出力 1 0.9 0.8 BHP/最高出力 0.7 モーター 出力カーブ 0.6 新衛丸 a日 0.5 新衛丸 b日 0.4 0.3 ディーゼル 出力カーブ 0.2 ディーゼル最低回転数 ディーゼル許 容限界カーブ 0.1 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1 回転数/最高回転数 注:ディーゼル許容限界カーブは 85%出力を上限としている。 横軸が回転数(無次元化)、縦軸が推進馬力(無次元化)です。 新衛丸のプロットしたポイントは着桟時の 1 分ごとの回転数と馬力を示しています(二 日分のデータ)。これらのポイントは明らかにデーゼルの出力範囲(赤線)の上であり、同 一回転数でも高トルクゆえの高馬力を出力しているのがわかります(インバーター制御の モーターは-100%∼+100%回転の範囲で 100%定格トルクを発生できる)。電気推進は同一 回転に対するトルクを大きく発生することが可能であり、特に低速、その場回頭等のプロ ペラ荷重度が高い場合にも十分な出力を出すことが可能となります。この点が電気推進と ディーゼル機関推進の大きな違いといえます。 またデーゼルの最低回転数以下でも稼動できることもポイントとなります。これは、デ ーゼル主機では運転できない回転数のところでも運転できることを意味し、その回転でも 舵を利かすことができることを示しています。 このように、港内操船時でも高いトルクを出せ、舵利きが良いことが港内操船性の良さ として実感されているものと考えています。 (了)