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盲ろう者の 自立支援サポート 従事者養成 テキスト

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盲ろう者の 自立支援サポート 従事者養成 テキスト
盲ろう者の
自立支援サポート
従事者養成
テキスト
<編集>特定非営利活動法人
兵庫盲ろう者友の会
目
次
はじめに…………………………………………………………………………………… 1
特定非営利活動法人兵庫盲ろう者友の会
理事長 今川裕子
第1章 盲ろう者の生活訓練…………………………………………………………… 2
1. 盲ろう者の生活訓練
1-1 生活訓練の目的
1-2 盲ろう者の生活訓練の現状
1-3 盲ろう者に必要な生活訓練は何か
2. 支援者に求められる技術と知識
2-1 盲ろう障害の理解
2-2 訓練の内容と目的を知っておく
2-3 対人援助技術
3. 盲ろう障害を理解する
3-1 疑似体験
3-2 映像を通して盲ろう者の理解を深める
4. 通所施設での訓練
第2章 訓練の実際………………………………………………………………………… 9
1. コミュニケーション訓練
2. 支援の実際
3. パソコン訓練
3-1 パソコン支援計画の前に
3-2 支援者も体験してみよう!(疑似体験の効用)
3-3 出力方法、入力方法
3-4 盲ろう者に合わせたパソコン設定
3-5 パソコン訓練開始後
3-6 人的ネットワークの活用
3-7 原点は何か
第3章 対人援助技術の理論………………………………………………………………17
1. はじめに
2. 障害の概念
3. 援助プロセス
第4章
訓練計画……………………………………………………………………………23
あとがき………………………………………………………………………………………25
特定非営利活動法人兵庫盲ろう者友の会
盲ろう者の自立支援サポート従事者養成テキスト
編集責任者 平井裕子
はじめに
兵庫盲ろう者友の会は、阪神・淡路大震災の翌年、平成 8 年に設立
しました。設立当初から現在まで行っている事業に、「コミュニケー
ションリハビリ研修会」があります。
(現在は兵庫県立聴覚障害者情
報センター事業として開催)毎週水曜日午後1時から 3 時まで、盲ろ
う者一人ひとりが訓練内容を決めて学習を行なっています。
開始当初は、不安を抱えながら生活している盲ろう者が「とにかく
集まる場所がほしい!」という思いで集まりました。その後、友の会
として学習会や交流会を企画するようになり、盲ろう者も派遣制度を
利用して外出が以前より自由にできるようになりました。
そこで改めて「コミュニケーションリハビリ研修会」を行う目的に
ついて考えることになりました。
今回、独立行政法人福祉医療機構からの助成により、兵庫盲ろう者
友の会として 16 年間行ってきた「コミュニケーションリハビリ研修
会」の内容について整理をし、盲ろう者の生活訓練について考えまし
た。訓練についてのノウハウが少ない中、試行錯誤の繰り返しであり、
さらに内容を深め改善する必要があると思います。しかし、盲ろう者
の生活訓練について整理をし、反省をするきっかけになったこと、課
題を提示できたことには意義があるのではないかと思います。今後、
より充実した生活訓練を行うために、皆様から様々なご意見をいただ
ければ幸いです。
特定非営利活動法人兵庫盲ろう者友の会
理事長
1
今川
裕子
第1章
盲ろう者の生活訓練
1.盲ろう者の生活訓練
1-1 生活訓練の目的
盲ろう者が抱える不便は、主に「移動」、
「他者とのコミュニケーシ
ョン」、
「情報入手」の 3 つに分類されると考えられています。こうし
た不便は、通訳・介助員の派遣制度の充実と共に徐々に軽減されてい
ます。しかし、生活の全てで通訳・介助員の派遣制度を利用できるわ
けではありません。生活訓練を受けて自身の生活の質を向上させるこ
とにより、より快適な生活ができます。
盲ろう者が生活訓練を行うことには様々な意義があります。
①友達との会話や個人情報の管理などプライバシーを守ることが出
来る。
②自分自身でできることが増え、生活に充実感を感じることが出来る。
③会話がスムーズに行えるなどストレスが軽減し、意欲的に社会参加
出来るようになる。
盲ろう者が効果的な訓練を受けることができれば、盲ろう者の自立
と社会参加が進むと期待できます。
1-2 盲ろう者の生活訓練の現状
視覚障害者向けの生活訓練を受ける際、盲ろう者にはいくつかの壁
があります。
①訓練時のコミュニケーション
盲ろう者のコミュニケーション技術を取得している指導者がいない。
長期の訓練に公費派遣制度が利用できないなど、情報保障に課題があ
る。
②訓練を行う際には、盲ろう者の特性をよく理解しておく必要がある。
視覚障害者向けの訓練では、盲ろう者に効果的な訓練を期待できない。
③盲ろう者の生活訓練について整理されていないために、どのような
訓練が必要なのかがわからない。
1-3 盲ろう者に必要な生活訓練
個々の盲ろう者によって様々あります。視覚障害者向けに準備され
2
た生活訓練だけでなく、その盲ろう者の生活を向上させる取り組みを
幅広く捉えてはと思います。以下にいくつか紹介します。
1-3-1 視覚障害者向けに準備された生活訓練など
①歩行訓練・・単独歩行、ガイドを利用しての歩行
必ずガイド者と外出していた全盲ろうの方が、家の周りを単独で散
歩する訓練を受け、近所の人に声をかけてもらえるようになりました。
こうした副次的な効果もあります。
②調理、家事
ろうベースの盲ろう者が、調理の本を読みながら調理を行う際に、
「余熱」の意味がなかなか理解できませんでした。説明とともに、一
緒に体験することで意味が理解できるようになりました。このように、
食材の切り方や火の扱いだけでなく、自分で料理本を読んで料理がで
きることも訓練には必要です。
1-3-2 コミュニケーション訓練
障害が進行すると今まで使っていたコミュニケーションの方法や
情報取得の方法を利用しづらい、またはできなくなります。訓練を行
ない、新しい方法を身につける必要があります。
例)
・視力の低下により接近手話では読み取ることが出来なくなった。触
手話の読み取りの訓練を始めた。
・パソコンの画面を読むことが出来なくなった。点字を学習し点字で
の操作の訓練を始めた。
・筆談が読めなくなったので、手書きの訓練を始めた。
1-3-3 その他
生活訓練の内容を考える際には、その盲ろう者がどのような生活を
送っており、生活の中でどのような不便を感じているかを知る必要が
あります。
例)
①ひとりでタクシーを利用したい・・盲ろう者と相談してタクシー
会社に手書きでの会話が可能なことを伝え、盲ろう者が自宅の住所
と地図を書いたカードを持ってひとりでタクシーを利用すること
が出来るようになった。
②ゆっくりなら点字の触読ができる盲ろう者。会報の交流会の案内
3
のページがわからないために、自分で申し込みができない・・交流
会の案内のページを分け、頭に「行事」と入れることにした。
③ろうベースの盲ろう者のパソコン訓練。漢字の読みがわからない
ので入力できない・・支援者と漢字の読みの確認を行ないながら入
力をした。
①の事例では、通訳・介助員を利用しないでタクシーを利用し、運
転手とコミュニケーションを行うことができるようになりました。そ
うした工夫を考えることも訓練と考えてもいいのではと思います。
②の事例では、読みたいところを探しやすく工夫することで、点字
を読む意欲を高めることができるという意味で、訓練を考える際にと
りあげてほしいことです。
③の事例では、パソコン訓練を行ないながら日本語の訓練も同時に
行うという副次的な効果があった例です。ろう者の中には日本語の苦
手な人もいて、パソコン訓練では苦労を伴います。しかし、盲ろう者
本人はパソコンの訓練を行いながら日本語の訓練もできるので、楽し
んでいます。
このような事例は、盲ろう者と対話をする中で気づいていくことで
はと思います。支援者が盲ろう者の生活のしづらさに気づく感性が必
要です。これについては、後述の「対人援助技術」の項で述べます。
1-4 通所施設での訓練
兵庫県には生活訓練を受けることのできる施設があります。
(「地域
活動支援センター夢ふうせん」
)
毎日、盲ろう者が通所し、職員、ボランティアと共に、日中を過ご
します。盲ろう者の日々の生活を見守りながら、生活能力やコミュニ
ケーション能力の向上を目的とした訓練を行っています。通所盲ろう
者一人ひとりのニーズに合わせたパソコン訓練、指点字訓練、点字訓
練、文章訓練(言語獲得訓練)等です。訓練時間は1日1時間と決め、
訓練後には各自が訓練を振り返り、報告書も作成し、自身が決めた目
標に向かって訓練を続けています。
4
2.支援者に求められる技術と知識
2-1
盲ろう障害の理解
2-1-1 盲ろう独自のコミュニケーション特性の理解
盲ろう者は、その障害を負った経緯や環境によって個々にコミュニ
ケーション手段が違います。様々なコミュニケーションを使いこなせ
なくても特性は知っておく必要があります。さらに、単にコミュニケ
ーション手段の違いだけでなく、その盲ろう者がそのコミュニケーシ
ョン方法を使ってどのように理解をするのかということも訓練の際
には重要なポイントになります。
例)
・長い間、ごく身近な人との簡単な会話だけで生活していたので、身
近な人にしか通じないホームサインを使う。
・盲ろう者が自分なりの解釈で理解していたために、支援者とのズレ
が生じる。
スムーズにコミュニケーションができない、会話する相手が限られ
る、情報量が少ないなどの要因から、盲ろう者独自の言語世界を作る
傾向があり、こちらの意図がなかなか通じない時があります。盲ろう
者をよく観察し、盲ろう者がどのような理解をしているのかを掴む必
要があります。
2-1-2 盲ろう者のニーズ
盲ろう者は自己に対する評価が低く何もできないと考えていたり、
反対に実現が不可能な大きな夢を語ったり、情報量が少なくやりたい
ことがわからないといったことがあります。単純に「やる気がない」
と捉えるのではなく、盲ろう者の気持ちに寄り添いながら訓練を行っ
ていくことが必要です。
2-1-3 盲ろう者の心の問題
盲ろう者は大きなストレスを抱えがちです。性急に訓練を進めると、
盲ろう者が訓練に対する意欲を失うこともあります。盲ろう者の抱え
るストレスに配慮をしながら訓練を進めます。
5
2-2 訓練の内容と目的を知っておく
ある程度の訓練の内容を知っておくことは必要です。内容を簡単に
整理した資料などを作成しておくと便利です。また、点字の規則を知
っておくなど支援者として基本的な知識は日頃から学習しておくこ
とが必要です。
また、指導者の意図を確認しながら支援を行う必要があります。内
容を知っているからといって先に手を出すと、指導者の意図と違う場
合があります。内容を知っておくだけでなく、訓練の目的を知り、指
導者とよく確認を行いながら支援してください。
2-3 対人援助技術
盲ろう者のことを理解することが必要であると述べてきました。し
かし、盲ろう者を長い間支援をしたからといって深く理解できるわけ
ではありません。理解するための方法を知っておくこと、面接時に盲
ろう者自身が自分のニーズについて語ることができるための技法な
ど、対人援助についての知識が必要です。これについては第3章で詳
しく説明します。
3.盲ろう障害を理解する
盲ろう障害を理解するための学習方法を紹介します。言葉での学習
は大切ですが、身につきにくい欠点があります、以下に紹介する方法
と理論学習を組み合わせることで効果的な学習効果を得ることがで
きます。
3-1 盲ろう疑似体験
通訳・介助員の研修会で行っていると思います。疑似体験という限
界はありますが、盲ろうの障害を理解するための有効な方法です。
①盲ろう者が感じている困難について理解する。
②どのような支援を行えば、有効な支援が行うことができるかについ
て知る。
③自らの支援の振り返りを行うとともに、グループ学習を通してお互
いの知識を深め合うことができる。
6
3-2
盲ろう疑似体験のプログラム
①疑似体験のセットを準備する
プログラムの目的によって違います。
全盲ろう:アイマスク、ティッシュと音楽プレーヤー、ヘッドホン、
耳栓
音楽プレーヤーには雑音などを事前に録音しておきます。耳への負担
を軽減するために、耳栓は準備してください。アイマスク装着時には
ティッシュを挟むなど衛生上の配慮をしてください。
弱視ろう:アイマスクの代わりに、シミュレーションゴーグルを装着
します。シミュレーションゴーグルには、白濁、視野狭窄、両者を組
み合わせるなど目的によって選択してください。
②プログラムの構成
ただ、疑似体験セットを着用して体験するだけでは、学習効果はあ
りません。目的を設定し、その目的を達成するためにプログラムを構
成します。研修の対象者がベテランの場合は以下のような目的を設定
してもいいでしょうし、初心者の場合には、盲ろう障害について体験
的に理解するという目的でいいでしょう。
目的例)効果的なサインの入れ方について
事前に、盲ろう者の状態やルールなどを設定しておきます。
・障害の状態:全盲ろう、弱視ろう等
・盲ろう者のコミュニケーション方法
・利用するコミュニケーション方法等
③振り返りシートの記入
盲ろう者役、支援者役で感じたことをそれぞれ記入します。目的に
沿って課題を設定し、シートの項目を作っておきましょう。目的をは
っきり明示しておくことも受講者に目的を意識させるために大切な
ことです。
振り返りシート例)
盲ろう疑似体験
目的:効果的なサインの入れ方
支援者役
①利用したサインと意味
②伝わったか。伝わらなかった原因は何か
7
③困ったこと
盲ろう者役
①支援者からのサインの意味がわかったか
②困ったこと
書き方の注意:感想文ではなく具体的に記入してください。
良い例:サインの書き方が早く読み取れなかった。
悪い例:わかりにくく疲れた。
④グループディスカッション
振り返りシートに記入した内容を元にグループで意見を出し合い
ます。司会、記録、発表者を決めディスカッションを進めます。参加
者全員が意見を出し、時間内に課題を整理できることも支援者に必要
な技術です。
⑤発表
発表には、自分たちが行っていることを言語化し他人に伝える技術
を学習するというもうひとつの効果があります。指導者は、目的にそ
った発表ができているか、受講者が何に気づくことができたか、整理
し発表できたかについて評価を行ない、体験したことを支援に活かす
ことができるようなアドバイスを行ないます。
3-2 映像を通して盲ろう者の理解を深める
映像化には機材の準備や対象者への説明など準備に時間と手間が
かかりますが、大きな学習効果がある方法です。
例)
①訓練の様子を撮り、支援方法の研鑽をする。
②盲ろう者に生活について語ってもらい盲ろう者が抱えている困難
について考える。
映像を使う学習方法の利点はいくつかあります。
①繰り返し見ることができる。確認ができる。
②多人数で、同じ内容を学習することができる。
③同じビデオを利用して様々な学習に利用ができる。
8
④言葉で語るより映像で確認ができるので、より具体的に内容を理解
することができる。
⑤ろうベースの盲ろう者の語りを直接見ることで、特にろうの支援者
にわかりやすい。
映像を利用する際の注意点です。
①ビデオに協力してくれた方に学習の目的など十分な説明を行ない、
利用についての同意を得ておくこと。
②学習以外の目的に利用しないこと。
③学習参加者に、ビデオの内容について、プライバシーに関すること
は他言しないなど、十分に注意することを説明して利用すること。
④支援の方法について良くない点があっても、個人攻撃にならないよ
う十分配慮すること。
第2章
訓練の実際
1.コミュニケーション訓練
コミュニケーションは、情報を得る、会話を行うための大切なツー
ルです。コミュニケーション訓練を行う目的は大きく 2 点あります。
①障害が進行し、利用していたコミュニケーション方法が使えなくな
り、新しいコミュニケーション技術の習得が必要
②交友関係を広げるために新しいコミュニケーション技術が必要
・事例1
弱視ろうの盲ろう者。視力の低下により、弱視手話から触手話に
移行する必要がある。触手話の訓練を始めた。
・事例2
視力低下により墨字を読むことが困難になってきた。点字の学習
を始めた。
・事例3
聴力の低下により音声での会話が困難になってきた。手書きの訓
練を始めた。
・事例4
限られた交友関係のため手話の単語の数が増えない。新しい手話
の学習を始めた。
9
・事例5
日本語が苦手なろうベース盲ろう者。パソコン操作の学習のため、
点字の学習とともに、日本語の学習も始めた。
・事例6
手話を知らない盲ろう者。手話を学習して、たくさんの盲ろう者
と直接話がしたい。
訓練の内容を決める時には、話し合いを行ないながら盲ろう者の意
思を尊重して進めることが大切です。訓練計画については第4章で詳
しく説明します。
2.支援の実際
①サイン
訓練を行っているときは、盲ろう者の両手がふさがり説明が行えま
せん。訓練の流れを止めないタイミングで説明を行ない、両手がふさ
がっている時にはサインで盲ろう者に伝えます。サインを利用すると
きには、サインの意味について確認しておくこと、訓練の妨げになら
ない場所、例えば背中などにサインを入れます。例えば、音声を持つ
盲ろう者が話している時に「聞いています」と相づちを打つときにも、
相づちなのかサインなのか区別しておく必要があります。意識をしな
いで、ただサインを行なう人がいますが、盲ろう者に意味が通じなけ
れば混乱し訓練が進みません。
②充分に待つ
支援者からの情報を受け、その言葉を受け取った後考える時間が必
要です。盲ろう者が考えている時には手を出さず充分に待ちます。例
えば、キーボードを触って形を確認しようとしている時に支援者が手
を出すと、どこを触っているのか、何を考えていたのかわからなくな
ります。盲ろう者がキーボードを確認して、次の指示を要求するまで
待ちましょう。
③盲ろう者をよく観察する
支援者は伝えることに一生懸命になり、盲ろう者の言動を見逃して
しまいがちです。例えば、ある単語が通じないとき、まず盲ろう者が
返答したことが間違っていることを伝え、間をおいてもう一度伝えま
10
す。盲ろう者が返答しているのに、何度も繰り返して伝えた場合、盲
ろう者は自分の返答が間違っているのかがわからず、次の言葉が入っ
たと勘違いします。こうしたズレが重なり混乱します。
④通じにくい時には、方法を変える。
例えば、「ちょちょちょ」という言葉を伝えたいとき、盲ろう者は
「ちょ」と受け止め、なかなか3つ続く言葉であることが理解できな
いとします。その時には、「ちょが3つ続く言葉です」と言い換える
など工夫が必要です。
⑤二人で支援しているときの注意
役割分担をしておきます。通じにくい時に、もう一人の支援者がい
きなり手を出したりすると、盲ろう者は混乱します。
⑥焦らない
つい手を出したり、通じにくい時に焦ったりしがちです。支援の時
にはゆったりとした気持ちで、盲ろう者をよく観察し、必要な支援を
行ってください。あまり手を出さない支援の方が効果的な場合もあり
ます。
⑦楽しんで訓練を行える工夫が必要
・盲ろう者の興味がある教材を使う。
・訓練を組み合わせて、退屈しないようにする。
・ゲームなど遊びを取り入れる。例えば、しりとりで指点字の学習を
するなど。
3.パソコン訓練
3-1.パソコン支援計画の前に
盲ろう者に対してパソコン支援を始めるにあたり、最初に面談でい
ろいろなことを相談しなくてはなりません。ここで、「パソコンを使
って何がしたいか」という最終目標を立て、それに向かっての長期・
短期の計画を立てていくわけですが、この時に、決して先を急いで結
論を出すことはしないでください。
まず、盲ろうに語ってもらい、じっくり聞いてください。何度も面
11
談を繰り返す手間を惜しまず、時間をかけてください。例えば、一見
パソコンとは何の関係もないような話であっても、そこには、盲ろう
者自身の切実な思いや今後の支援へのヒントとなるような事柄が多
く含まれています。ですから、時間をかけるというのは、「ゆったり
と話せる」空間を作るということだと考えていただきたいのです。
この段階で時間をかけることは、その後の支援段階のためにも無駄
ではありません。急ぎすぎて失敗し、かえって回り道をした事例は多
くあるのです。
また、支援者として盲ろう者と信頼関係を築く貴重な時間とも言え
るでしょう。
3-2.支援者も体験してみよう!(疑似体験の効用)
パソコン実習での支援が始まると、支援者側の意思が盲ろう者にス
ムーズに伝わるか、盲ろう者にモチベーションを失わせることなく努
力し続けてもらえるかという大きな課題に向かうことになります。
そこで、支援者もまず「盲ろう状態でのパソコン操作」とは、どん
なものなのか、体験してみることは最初の一歩を踏み出す有効な手段
となります。
<実習>
盲ろう者役(アイマスク・耳栓・ヘッドホン使用)と支援者役のペ
アで
① パソコンの外形を探り、電源を入れて立ち上げる。
② メモ帳ソフトを開く。
③ 簡単な文字入力
④ メモ帳ソフト終了
⑤ パソコンの終了→電源 OFF
この実習は、最後まで終えることが出来なくてもまったく問題はあ
りません。
ここでは、「気づくこと」が大切です。支援者役をすることで、うま
くいかないのは、支援者として、何が足りなかったかを考え、盲ろう
者役を体験することにより、盲ろう者の気持ちを想像できるというこ
とです。この体験が、今後、盲ろう者とともにパソコン学習していく
長い道のりで多いに活きてくるはずです。
ここで現れる問題は、通常の通訳・介助の場合と違い、盲ろう者自
身はパソコン操作のため注意はパソコンに集中し、両手がふさがった
状態の時間が多いので、簡単なサインの取り決めなどの意思の疎通の
12
ための工夫が必要なことや、マウスが使用できない盲ろう者には、シ
ョートカットキーなどのキー操作も必要になることから、支援者自身
もその知識が必要なことなどで、実習体験をするとよくわかると思い
ます。
3-3.出力方法、入力方法
盲ろう者がパソコンを始めるとき、まず考えなくてはならないのが、
パソコン画面に表れた情報をどんな方法で掴むのか、ということです。
一般的に視力に問題のない人のほとんどの情報取得方法は、画面上に
表れる文字や画像などを目で確認することです。そして、目で確認す
ることが難しい多くの視力障害者は、耳で聞くこと(音声出力)を使
用しています。別の方法では、点字を触読する方法(点字出力)があ
ります。また、点字出力しながら画面も見るというような組み合わせ
も考えられます。
目と耳の両方に障害を併せ有する盲ろう者は、その見え方、聞こえ
方は個人個人違っています。また、ご本人が、ろうベースであるか、
盲ベースであるかなど、それまでの人生の経緯、とりまく環境など
様々な要素を加味して、ご本人とよく相談して慎重に決めていくこと
が大切です。
次に、入力方法として、現実的なのは、キーボード操作によるもの
ですが、この場合も大きく分けて、一般と同じくフルキー入力を使う
か、点字入力を使うかの選択肢があります。盲ろう者が使う上で、ど
ちらも一長一短がありますので、これも出力方法と同じく慎重に決め
る必要があります。
【出力方法】
画面
文字を大きさ、色の調整など
拡大ソフトの使用等
ある程度の視力が必要
調整できれば、一般的な利用方法
とあまり変わらない
音声
音声読み上げソフトの使用
点字
点字ディスプレイへの出力
13
音声を聞き取ることができる人
向き
画面を見る必要はないが、点字の
触読が出来ることが前提になる
【入力方法】
フルキー
ローマ字入力、カナ入力
一般的な使い方
キーボード操作の熟練が必要
点字知識のある人向き
点字入力
点字入力ソフトの使用
フルキー操作と比べて、使う
キーが少ない
入力、出力にいずれの方法を選ぶ場合もできる限り、実際にご本人
に見たり、聞いたり、触ったりしてもらい、試してもらうことが最良
の方法です。
3-4.盲ろう者に合わせたパソコン設定
さて、出入力の方法が選択できたら、次は、個人に合わせたパソコ
ン設定になります。
画面を見る場合は、白黒反転画面(ハイコントラスト)にしたり、
文字の大きさ、カーソルの太さ、マウスポインタの変更など、視力障
害者用のソフトをインストールすることも考慮に含め、細やかに調整
してください。
音声を使う人は多くの場合視力障害者用の「音声ソフト」を導入し
ますが、これも声のトーンや読み上げスピードなどが調整できます。
(PC-Talker、Focus Talk for Braille 等)
点字出力を使用する場合、点字ディスプレイ(ピンディス)はどん
なものを使うのかを、盲ろう者自身の生活スタイルなど考慮しながら
選ぶ必要があります。例えば、外出先で大いに利用したい場合、パソ
コンと繋ぐタイプのものではなく、携帯情報端末(ブレイルセンス等)
を利用するという選択肢もあります。
点字ディスプレイとパソコンを接続、出力するには、点字出力ソフ
ト の 導 入 が 必 要 で す 。( PC-Talker の オ プ シ ョ ン ソ フ ト で あ る
BrailleWorks 等)
キーボード入力に関しては、よく使うキーに触ってわかるマークを
つけたり、キーボードの文字がよく見える工夫があれば、スムーズに
進めることができることも多いと思います。
点字入力を使用する場合、注意したいのが、点字入力ができないパ
ソコンがあるということです。これは、実際にパソコンの販売店へ行
14
って確認していただく方法が一番確実です。パソコンを立ち上げ、メ
モ帳をひらいて、点字の6点(S D F J K L のキー)を同時に押して、
すべての文字が表示されれば、点字入力のできるパソコンです。(文
字が並ぶ順は問いません。一度ではなく何度か試してください。)点
字入力にもソフトが必要です。
(PC-Talker の付属ソフト KTOS 等。
KTOS は PC-Talker のインストール時に一緒にインストールし、使
用できますが、単体での販売はありません。
)
このように個人に合った設定に調整していきますが、調整の段階で
必ず盲ろう者に実際に試してもらって、最終判断は盲ろう者自身にし
てもらいます。
この段階では、機器やソフトの購入など金銭を伴う大きな決定もあ
りますので、より慎重に、盲ろう者には情報提供を怠らず、支援者自
身も情報収集に努めてください。
3-5.パソコン訓練開始後
盲ろう者がパソコンを触るようになると操作のミスで何らかのト
ラブルが発生するようになります。支援者としては、そんなトラブル
を回避しスムーズに進めるようにしてあげたいと考えがちですが、こ
れは周りに迷惑をかけるとか、金銭的な損害が発生する、著しく訓練
計画に影響するなどの場合を除き、原則的に支援者として正しくあり
ません。
盲ろう者がパソコンを習得してやりたいことは、インターネットを
使った情報収集、メールでのやり取り、見栄えのよい文書を作ること
など、すべてパソコンというツールを使って他者の力を借りずに自分
自身で行なうことです。最終目標は何であれ、将来は他者の力を借り
ずに自分だけで操作し、トラブルには、当座は盲ろう者自身が対処し
なくてはならないからです。
支援者は必要な手順を伝え、盲ろう者に理解してもらえたら、あと
は見守る。トラブルが起こったら、どんな状態になるか体感してもら
う。盲ろう者自身が何かがおかしいと感じ、解決方法が見つからない、
どうしたらいいのか質問されたとき、初めて、なぜそういった状態に
なったのか、一緒に考えて、解決方法を見いだすというくらいのスタ
ンスでよいと思います。問題が解決したら、また、最初からやり直す、
だめならもう一度、何度も繰り返す。こうしているうちに、同じトラ
ブルが起こっても、盲ろう者自身があわてず冷静に対処できるように
15
なっていることが多いのです。
こうして、小さな課題をひとつずつクリアしながら、ゆっくりと進
んでいくわけですが、時には、課題をなかなかクリアできず、その歩
みが止まってしまうこともあり、また、最終目標への道のりがあまり
に遠く挫折しそうになることも多いと思います。支援の方法や支援計
画の見直しなど、手だてを考えることが必要になります。支援者とし
ては盲ろう者の力を信じ続けてください。
一緒に目の前の課題を乗り越えて盲ろう者とともに喜びあって次
のステップへの推進力としたいものです。
3-6.人的ネットワークの活用
パソコン支援を始めると、これまで述べてきた事項以外にもたくさ
んの問題や想定外の出来事が起こります。例えば、全盲ろうの人がが
パソコンを始めようとすると、点字ディスプレイでの触読以外の方法
は、現段階ではありません。しかし、点字触読できる人はごくわずか
で、ほとんどの人は、まず点字触読できるようにならなければ、パソ
コンへは進めないのです。他にも、支援者がいない地域に住んでいる、
盲ろう者の家族の理解が得られない、経済的な問題、使っていたソフ
トの開発が止まってしまった、支援者の知らないパソコン技術の問題、
特に大きな壁などないはずなのに、なぜかうまくいかないなど、起こ
りうる問題は多種多様です。これらを一人の支援者が引き受けるのは
到底無理な話です。行き詰まってしまったら、視野を広げて回りを見
渡してください。それぞれの分野での協力をいただける人がいるはず
です。支援者として「できないこと」、
「わからないこと」は盲ろう者
にはっきり伝え、時間をもらい、その後のケアについて考えるように
してください。そのためには、日頃から支援のためのネットワーク作
りを心がけているのがよいと思います。
3-7.原点は何か
パソコン支援とは、盲ろう者支援のなかで、特殊なものというイメ
ージを持つ人も多いと思いますが、本質は同じで、むしろ他の支援活
動よりも「支援とはどうあるべきか」をはっきりと問われるものでは
ないかと思います。
「支援者は、先走りしてはいけない。常に盲ろう者と共に歩む。」
16
この原点に立ち戻ることが、大切ではないでしょうか。
※追記
パソコン技術や機器・ソフトに関する情報は、短期間で変化してい
くものなので、ここでは、ほとんど触れておりません。しかし、そう
いったものに関する知識は必要です。情報を収集し、参考資料を用意
し、できる限りの機器やソフトを実際にセッティング、操作しながら、
実習するのが最もわかりやすい方法です。
第3章
対人援助技術の理論
1.はじめに
盲ろう者支援に何故、ソーシャルワーク(社会福祉援助技術)や対
人援助技術が必要なのでしょうか。
ソーシャルワークとは、社会参加に困難な課題、問題を持った対象者
が主体的に生活できるように支援、援助していく援助技術です。
盲ろう者を支援するということは、盲ろう者のことだけを理解すれ
ばいいということではありません。「社会に参加していくことに障害
があるという意味での障害」
、
「失われた機能を回復するだけではなく、
その人の人生を考えたリハビリテーション」なども学習しなければな
りません。
支援者個人の考えで支援するのではなく、そこにはソーシャルワー
クの長い歴史から構築された社会福祉援助技術理論に裏づけされた
ものが不可欠です。
何らかの支援を提供する際、お互いの関係性(信頼関係=ラポール)
や態度で効果が変わる事があります。この信頼関係を意図的に作り出
すための技術が対人援助技術です。
ここでは、社会福祉援助技術の中で実践という意味での対人援助技
術について学びます。
第3章の2では、障害とは何かを考え、3では援助プロセスを考え
ます。
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2.障害の概念
障害の概念は狭義には、身体または精神の機能の低下あるいは身体
の一部の欠損など、医学的な立場から見たものです。障害者基本法第
2条に、「障害者とは、身体障害、知的障害または精神障害があるた
め、継続的に日常生活または社会生活に相当な制限を受けるものをい
う」とあります。ICIDH(国際障害分類)モデルや ICF(国際生活機
能分類)モデル以前は身体的機能に欠陥がある、そのことを障害と言
っていました。
ここで ICIDH(国際障害分類)モデルと ICF(国際生活機能分類)
モデルを比べることで、障害とはなんなのかを考えてみたいと思いま
す。
ICIDH は 1980 年に世界保健機構(WHO)から発表されました。
ICIDH モデル
疾患・変調→機能・形態障害→能力障害→社会的不利
一番左の「疾患・変調」(病気、怪我など)から右となりの「機能・
形態障害」に矢印が伸び、そこから「能力障害」に矢印が行き、さら
にそこから「社会的不利」に矢印が行く。
この3つ(機能・形態障害、能力障害、社会的不利)を併せ持ったも
のの全体が「障害」である、障害にはこの3つの「レベル」があるの
だ、という理論を打ち出しました。
今までは「機能・形態障害」が障害だと考えられていましたが、障
害とはもっと広い意味を持つものだ、ということを打ち出しています。
そして2000年に改正がおこなわれ、障害当事者も加わり、日本を
はじめとする日欧米諸国も加わって、ICF(国際生活機能分類)が出
来上がったのです。
ICF モデル
健康状態
心身機能・身体構造
活動
環境因子
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個人因子
参加
簡単に言えば、マイナス面(出来ない)を注目している ICIDH か
ら、プラス面(どうしたら出来るようになるか)を注目する ICF へ、
ということです。
障害を持った人を見るのではなく、すべての人の、できないことは
何だ、活動、参加の妨げになるのは何だ、何を改善すればその人の障
害がなくなるか、どんな支援があったらできないことが出来るように
なるのか、そんな考え方に変わってきました。
ICF が ICIDH から進化した特徴として「背景因子」
(環境因子と個
人因子)というものを導入したことが挙げられます。
環境というと、スロープとか、障害者用トイレ等、物的なものもあり
ますが、人的な環境、社会意識としての環境、制度的な環境というよ
うに、非常に広く環境というものを捉えています。
物的「環境因子」→建築、道路、交通機関、福祉用具(杖、義肢装具、
車椅子など)
人的「環境因子」→家族、友人、仕事上の仲間、社会的な意識(社会
が障害のある人や高齢者、異人種、出身地をどう見るか、どう扱うか)
差別されていた人種や出身地などは個人の心身機能・構造はまった
く関係ありませんが、社会参加の大きな壁になっていました。これも
ICF では社会参加への障害と考えます。
制度的な「環境因子」は、サービス・制度・政策があります。障害
当事者に対して何らかのサポートをする人は(すなわち、盲ろう者を
支援する人も同じく)
、当事者にとって「環境因子」なのです。
参考文献
『リハビリテーションの思想』 上田敏 医学書院
『ICF の理解と活用』 上田敏 きょうされん
3.援助プロセス
ソーシャルワークは、自己の価値観や福祉を理解した援助者が,専
門的な知識や技術を使って支援する専門的な関わりを言います。その
ため、「利用者の抱える問題」も支援者個人の考え方や経験のみで、
解決に至るプロセスを勝手に決めてはいけません。利用者本人と充分
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な対話を通して,利用者の抱える問題とその構造を共に吟味していき
ます。充分なアセスメントに基づき、支援計画を立てます。そして忘
れてはならないのが、問題を解決するのは利用者本人であるというこ
とです。
ソーシャルワークの援助プロセスとして、以下のような一連の流れ
があります。
①インテーク(初回面接)→②アセスメント(情報収集・事前評価)
→③プランニング(②に基づいて,具体的な支援計画を立てます)→
④インターベンション(具体的サービスの提供と介入)→⑤モニタリ
ング(介入効果の分析・計画に対する点検作業)→⑥エバリュエーシ
ョン(今までの支援過程や内容・効果などについて、検証・確認する
作業・事業評価)→⑦終結
① インテーク
初回面接の場で、利用者の問題は何なのか、どうしたら解決できる
のかと頭をめぐらせてばかりでは、果たして、利用者の目には相談者
はどう映っているのでしょうか?相談者として信頼できる人なのか
どうか、逆に観察されているかもしれません。ここでは、お互いの信
頼関係を作る最初のステップです。それでも確実に、専門的技術をも
って、利用者の発言を促し、利用者自身が自分の置かれた状況や問題
について気づきを深めるよう促していくことが大切です。また、面接
は決められた時間の中で行います。
相手をよく見る。相手の言うことをよく聴く。相手と対等な立場で
あるように心がける。専門的技術と知識を求められていることを自覚
する。また、対人援助の基準となる理論のバイスティックの7原則を
使い、面接において人間関係を築いていきます。
② アセスメント
アセスメントは,問題や病理にすべてを収斂していくような情報収
集ではなく,強さや健全な側面(ストレングス)に重点をかけた事前
評価のことです。組織的に対人援助をする場合、アセスメントシート
が支援の基礎となります。だれが見てもわかる記録の書き方を練習し
たり、アセスメントシートの読み方を学びます。
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<演習>
・参加者各自の※ジェノグラム(家族の図)と※エコマップ(下記資
料)を作ってみます。
・資料(講師作成)のエコマップからそこに描かれた問題を抱えた利
用者と周りの人、環境との関係を文章にしてみます。
※ジェノグラム
原則として3世代程をさかのぼる家族員(血縁ではなくとも同居し
たり、家族との関係が深い人を含む)の家系図を「ジェノグラム」と
言います。ジェノグラムを作成すると家族関係が一目瞭然となり、問
題を整理したり、家族の誰に働きかけたらよいか等の支援策を検討す
るのにも役立ちます。
※エコマップ
支援を要する人や家族と社会資源(関係者や関係機関)との間の関
係性を捉えます。図式化することにより、全体の関係性を簡潔に把握
することができ、各機関の役割を検討するうえでも有効です。
(例)
デイサービス
ケアマネージャー
95
サークル
民生
40
45
委員
65
70
30
大まかな作図ルール
・男性は□、女性は○で表す。
・本人は二重の□や○で表す。
・□や○の中に年齢を記入する。
・亡くなった人は×印や、黒く塗りつぶす。
・カップル関係(夫婦や同棲など)は、原則として男性が左、女性が
右
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・きょうだい関係は、第一子が左。順に右へ。
・離婚は二重斜線、別居は一重斜線で表す。
・同居者は大きく○で囲む
・普通の関係、親しい関係、対立・反発的関係、希薄な関係、権威・
権力的関係、依存的関係などは、線の太さ、点線、波線などを用い
て一目で関係性がわかるようにする。
③ プランニング
②に基づいて,具体的な支援計画を立てます。利用者とともに作成
し、自分がこの計画を遂行する主体なのだと利用者が自覚することが
大切です。
④ インターベンション(具体的サービスの提供と介入)
支援計画に基づいて具体的に支援を行います。
⑤ モニタリング(介入効果の分析・計画に対する点検作業)
計画通りにサービスが提供されているか、また援助の効果測定・判
断を行ないます。場合によっては再アセスメント・プランニングをす
る必要もあるでしょう。
⑥ エバリュエーション(今までの支援過程や内容・効果などについ
て、検証・確認する作業・事業評価)
支援の最終評価をします。個別援助計画は期限を決めてされるもの
ですので、終わりの評価をしなければなりません。問題解決がなされ
た、逆にまったく効果がなかった場合でも終結の作業を行います。
参考文献
対人援助のための相談面接技術 岩間伸之 中央法規
面接法 熊倉伸宏 新興医学出版社
実践が活きる個別支援計画 クリエイツかもがわ
対人援助とコミュニケーション 諏訪秀樹 中央法規
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第4章
訓練計画
点字の勉強がしたい、パソコン操作を学びたいなど盲ろう者の希望
を聞き、盲ろう者と具体的な訓練内容を作ります。ここでは、盲ろう
者が訓練によって生活を変革していくという少し広い視点で考えて
いきたいと思います。様々な機関で利用されている相談援助の展開過
程です。
援助のプロセス(順序通り進むわけではない)
①インテーク(面接)
②アセスメント(事前評価)
③プランニング(援助計画)
④インターベンション(具体的サービスの提供、介入)
⑤モニタリング(介入効果の分析・評価)
⑥エバリュエーション(事後評価)
⑦終結
訓練を希望する盲ろう者と話をします。盲ろう者から話を聞き出す
のではなく、盲ろう者が安心して話ができる配慮を行ってください。
詳しくは第3章対人援助技術で説明しています。盲ろう者と話を進め
る中で盲ろう者自身が最初は気づいていない、または、実現できない
と諦めていることもわかってきます。また、それを妨げている要因に
ついても、整理ができます。
盲ろう者と話をしたことをアセスメントシート(資料1)に記入し
ます。第3章対人援助技術で説明したエコマップなどを利用すると、
実現を妨げている要因や利用できる社会資源が理解しやすいでしょ
う。アセスメントシートやエコマップの利用は、相談内容について整
理ができ、図示することで理解が容易である、訓練に関わる全ての人
たちが状況を把握できるという利点があります。
アセスメントシートには、相談で話した内容を具体的に書きます。
相談者が感じたこと、想像したことを記入しないでください。このア
セスメントシートが訓練計画の重要な資料になります。初心者は記入
が難しいものです。記入の学習をする、項目を作って初心者でも記入
しやすい工夫をするなど地域で使いやすいものを作ってください。
アセスメントシートの記入が終わったら、目標を設定します。この
目標は、生活の大きな目標です。
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例)
・ホームヘルパーを利用しながら一人で生活をする
・理事として仕事をする力を身につける
例えば、「点字の勉強をしたい」という小さな目標から始めると、
「何のために点字を勉強するのか」で、訓練に行き詰まるとやる気を
なくしてしまいます。また、指点字の学習を希望していた盲ろう者が、
盲ろう者団体の理事の仕事を行なうという目標を実現するには、触手
話の学習の方が効果的な場合もあります。
目標が決まったら、短期目標を設定していきます。
例)
・一人で簡単な食事を作る。
・点字を使ってパソコンを操作する。
この目標を実現するための計画を作っていきます。訓練を開始し、
一定期間、例えば6ヶ月ごとに評価を行ない、訓練計画を見直します。
効果があれば、継続するか次のステップに進む。効果がなければ、原
因について分析をし、別な方法を考えます。
訓練計画を作る時には、すべての過程で、必ず盲ろう者と話し合い
を行ない、盲ろう者の意思を尊重することが大切です。特に自分の意
思を積極的に話すことができない盲ろう者に対して、支援者が主導す
ることもあると思います。盲ろう者が訓練過程すべてに主体的に参加
することで、その訓練が盲ろう者の生活を向上させ盲ろう者の自信に
つながっていきます。訓練計画を作る過程で配慮する点です。
①盲ろう者が自分に向き合い、意欲的に訓練を受けることができる
②盲ろう者が訓練を受け成長した自分をイメージすることができる。
③盲ろう者自身が訓練の意味を理解し、希望を出すことができる。
④盲ろう者自身が計画内容に同意し、実現可能な計画を立てる。
⑤訓練の意義や目的について盲ろう者の人生に共感しながら考える。
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あとがき
地域の事情から、担当する人がいない、時間がないなどで、こうし
た取り組みを行なうことは難しいかもしれません。まず、盲ろう者と
話をすることから始めてみてください。一人ひとりの盲ろう者には物
語があり、盲ろう者自身が気づいていない力があります。盲ろう者自
身が自分の力に気付くことが、訓練への意欲につながります。
訓練を担当する人たちで評価を行なうことも大切です。よりよい訓
練計画の提案ができるだけでなく、担当する人たちの資質を向上させ
ることにもつながります。
今回、福祉医療機構から助成を受け、盲ろう者の自立支援サポート
従事者養成事業を開催しました。まだまだ一部の盲ろう者ですが、派
遣を利用して積極的に社会参加を行うようになり、より高い生活を求
めるようになりました。それを実現するためには、盲ろう者自身の訓
練が必要であり、指導者や支援者が効果的な訓練を行う必要がありま
す。今まで支援の方法についての整理したものがなく、兵庫盲ろう者
友の会でも「なんとなく」支援を行ってきました。友の会設立当初か
ら行なってきた「コミュニケーションリハビリ研修会」
(現在は兵庫
県立聴覚障害者情報センター)では、盲ろう者が集まる場所という意
味合いが強く、個別のニーズに応えたものではありませんでした。そ
の反省から 3 年前、個別に聞き取りを行ない、盲ろう者の希望する学
習を行なうようになりました。しかし、支援者側に学習内容の理解が
徹底できず、一部の盲ろう者から不満が出たり、支援者側からも戸惑
う声が出てきました。こうした経緯があり、今回手探りではあります
が養成事業を開催することになりました。
講師陣が目指したものは、訓練に必要な技術について整理すること、
受講者が演習を行い、受講者同士でディスカッションをし、発表を行
なう機会を多く持ち、自分の行なってきた支援について反省をし、整
理をする機会を持っていただくことでした。
内容については、今回の反省を踏まえ、もっと整理が必要と感じて
います。一方、いくつかの効果がありました。受講者の声です。
①盲ろう障害について理解できた。
②今まで自分のやり方を押し付けていたことに気づいた。
③「待つことが必要」など盲ろう者と関わる時の注意について実感す
ることができた。
④自分の考えを書き、発表を行なうことで、わかっていたつもりがわ
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かっていなかったことに気づいた。
通訳・介助員養成講座の講義内容は、指点字や触手話などのコミュ
ニケーション方法、ガイド法など技術学習が中心です。支援を行うと
いうことは、人と人とが関わることであり、その関わりについて学ぶ
ことが非常に大切です。地域での取り組みに、このテキストが少しで
もお役に立てれば幸いです。
特定非営利活動法人 兵庫盲ろう者友の会
盲ろう者の自立支援サポート従事者養成テキスト編集責任者
平井 裕子
【執筆】
第1章1~4
第2章1,2
第2章3
第3章
第4章
平井
平井
西村
山田
平井
裕子
裕子
慶子
育子
裕子
【編集】
平成24年度
盲ろう者の自立支援サポート従事者養成事業実行委員会
平井 裕子
山田 育子
岩崎 順子
西村 慶子
田中 悦子
26
書
名:
発
行:
発行・編集:
盲ろう者の自立支援サポート従事者養成テキスト
平成25年3月28日
特定非営利活動法人 兵庫盲ろう者友の会
〒650-0025
兵庫県神戸市中央区相生町2丁目2-8
新神戸ビル東館44
TEL/FAX (078)341-8822
E.Mail [email protected]
独 立行政法 人
福祉 医療機構 助成事 業
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