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ホイットマ ンか らヴォーン・ウィリアムズ へ

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ホイットマ ンか らヴォーン・ウィリアムズ へ
ホ イ ッ トマ ン か ら ヴ ォー ン ・ウ ィリ ア ム ズ へ
一 複 合 テ クス トの 観 点か ら見 た 『
海 の 交 響 曲 』一(4)
塩田 昇
本論
II.第2楽
章
(承 前)
2.潜 テクス トー デ ィー リアス のSeaDriftを
中心 に
「潮 の ま に まに」の 第1詩OutoftheCradleEndlesslyRocking「
や まぬ 揺 藍 の な か か ら」(Sea-Drift(以
LeavesofGrass(以
下LG)を
下SD)詩
群 第1詩)は
いつ まで も揺 れ
こ の詩 群 の み な らず 、
通 じて も、 名作(「 私 自身 の歌 」「先 頃 ライ ラ ックが
前 庭 に咲 い た とき」 と並 ん で 最 良 の作 とされ るcf.田 中(2005)P.104,P.311)と
れ て い る の で 、SDの
1934)の
知 ら
楽 曲化 を 目指 せ ば 、 デ ィー リア ス(FrederickDelius1862-
した よ うに、こ の第1詩 が 何 よ りもそ の対 象 と され て 当然 で あ った 。しか も、
原 詩 自体 が す で に際 立 った音 楽 性 を 内包 して い る の で あ る。 そ の豊 か な音 楽 性 を ど
の よ うに デ ィー リアス は楽 曲 に引 き出 したか は以 下 当 セ ク シ ョンで 中心 の 問 題 にす
るが 、 楽 曲化 以前 に既 に ホ イ ッ トマ ン原 詩 の詩 テ クス トとして 、 第1詩 はSD詩
群の
先 頭 に置 か れ て 、 詩群 全 体 の 基 調 を決 定 づ け て い るの で あ る。
ホ イ ッ トマ ン自身 の現 実 の悲 恋 体 験(そ
の相 手 が 誰 で あ っ た か 、 異 性 で あ った か
同性 で あ っ たか 、 最 近 の研 究 は ほ とん ど後 者 を支 持cf.EdFolsom(2005)chap.5
だ が 、鈴 木(1986)pp.137ff.は
現 実 の恋 人 が 誰 で あ っ たか の よ うな伝 記 的事 実 は詩
作 品 と して は さほ ど重 大 事 で は な く、 詩作 品 として の 「現 実 」 は詩 入 の心 の 奥 底 に
あ る観 念 的 な恋 人 の イ メー ジや そ の 象 徴(の
雌 鳥)で
あ る とす る)が あ った にせ よ、
あ る い は 恋 愛 体 験 とは 別 種 だ が 、 少 年 期 の 精 密 な 自然 観 察 か ら実 際 に生 まれ た 、
一31一
つがい
番 の 雌 鳥 を 失 っ た 雄 鳥 へ の 同 情 や 共 苦 体 験 を 通 し て に せ よ(鈴
pp.49-50は
彼 に は(宮
木(1986)
沢 賢 治 と通 じる よ うな)自 然 科 学 者 的 観 察 を通 じて の文 学 的
表 現 を 目指 す"PoetofScience"の
面 が あ る と指 摘17))、 現 実 の 生 か ら昇 華 し、 普
遍 的 悲 劇 的 感 情 の高 ま りを形 象 化 して い るの がSD第1、
章 の 歌 詞 テ ク ス トた る当 該 詩(SD第8詩)の
み な らず 、楽 曲 テ ク ス ト上 で もだ が)方
第2詩 で、 そ こか ら第2楽
宗 教 的 省 察 に 向 か う(詩 テ クス ト上 の
向 づ け が 生 じて い る。 こ の 意 味 で 、1.前 テ
クス トで 問題 に した通 時 的 テ クス ト生 成 とは別 に、(共 時 的 な面 で の)問
テ クス ト的
な前 提 として 働 く潜 在 的 テ クス トが 必 要 で あ る。 この 間 テ クス ト的 な 潜 在 す るテ ク
ス トに は、 楽 曲 テ クス トサ イ ドで は、 デ ィー リアス の 当作 品 は 当 然 な が ら、他 の音
楽 作 品 もあ り(例 え ば ワー グ ナ ー の 楽 劇 『トリス タ ンとイ ゾ ル デ』、 こ の作 品 の 影 響
は圧 倒 的 で あ り、現 代 音 楽 の 始 ま りを 問題 とす る時 「トリス タン以 後 、 以 前 」 は音
楽 史 を画 す る分 水 嶺 とな っ て い る;イ ギ リス 人 で あ る が ドイ ツ 人 の 家 系 の デ ィー リ
ア ス は当 然 な が ら、 ウ ィリア ムズ も18歳 の 時 に ミュ ンヘ ンで この 上 演 に接 し天 啓 を
受 け た と回想 して い る;更
に彼 の 音 楽 の 師 で あ り、B.ブ
リテ ンに 半 世 紀 先 立 ちイ ギ
リス 国民 オペ ラ先 駆 を切 っ た ス タ ンフ オー ド(C.V.Stanford1852-1924)は
自他 と
も認 め る ワグ ネ リア ンで バ イロ イ トに も通 ったcf.Day(1972)pp.157ff.'$))、
言 語 テ クス トの サ イ ドで は、原 詩SD第1詩
は 当然 と して 、楽 曲化 の対 象 に は な って
い な いが 、第1詩 の 裏 表 の 関係 に な って い て、そ れ に密 接 なSD第2詩
も含 まれ る(更
に は受 容 的 なテ クス ト関 連 性 まで 考 慮 す れ ば、 他 の 作 家 の詩 作 品(例
マ ンのSDを
一 方、
高 く評価 したD.H.ー ロレ ンス のMOONRISE「
えばホイッ ト
月昇 る」(1917)に
は、 「ト
リス タン」の 影 響 も色 濃 い)も 含 まれ るだ ろ う)。 この ような展 望 に立 っ た と き、 第1、
第2詩 は よ くあ る父 性 原 理 の 母 性 原 理 に対 す る勝 利 に よ る フ ロイ ト的 自我 確 立 を め
ぐる悲 劇 を歌 った エ レ ジー(悲
曲)で は な く、 む しろ 主 客 融 合(こ
の種 の 自己 の 捉
え方 は父 系 的 エ ゴが 問 題 な の で はな く、特 に ホ イ ッ トマ ンの は、 自我 一 個 我 一 霊 我
一 至 高 我 へ 至 る イ ン ド的 な もの で あ る が 、 詳 し くはIV.終
楽 章 で 論 じる)の 生 死 一
如 を象 徴 す る母 な る 海へ 引 き寄せ られ る実 存 的 な根 源 の 悲 劇 性 を形 象 化 した作 品 と
み なす べ き とな ろ う(梶 原(2005)『LG1860年
そ れ らは、Calamus群
版 にお け る 《母 》の 回復 』参 照)。 また 、
も含 め 、 そ の特 殊 な性 志 向 で 特 化 して捕 らえ るべ きで はな く、
一
一32一
そ の特 殊 性 を貫 きなが らも宗 教 的、 政 治 的 普 遍 性 に 向 か うベ ク トル を 有 す る作 品 と
捕 らえ るべ き(Folsom(2005)PP.65--67)と
なる(因 み に彼 に よる と、 ホ イ ッ トマ ン
は明確 に テ クス トの 幾 重 もの 精 錬 を通 して、 公 共 性(カ
ノ ンの正 典 性)を
狙 うテ ク
ス ト意 識 が 高 いpp.68-70、pp.73-75)。
第1、 第2詩 に見 られ る トリス タ ン的特 性 、 海 辺 の 悲 劇 、 海 を渡 っ て くる、 海 を根
源 とす る悲 劇 的 息 吹 、 愛 と死 、 浬 業 、 自己 の 生 の完 成 、 哲 学 的 省 察 、 宗 教 的 諦 観 、
夜 の 波 の つ ぶ や き、 老 婆 の子 守 唄 、 ゆ りか ご=船
、宇 宙 と自己 の 内 面 の魂 、 ブ ラ フ
マ ンの 感 得 等 の 諸 特 徴 。 ウ ィリアム ズ の 第2楽 章 に お け るSD第8詩
らを 明 らか に前 提 と して い る(一
の 楽 曲化 は これ
部 、す で に 前 節1.で 通 時 的 な前 テ クス トの 観 点 か
らで は あ っ た が、 そ の 歌 詞 テ クス トは、 これ らの特 徴 と重 な る イメ ー ジ を表 出 して
い た こ とを確 認 した;楽
曲 テ クス トとの 連 携 で 更 に 次 の3.で 詳 し く分 析)。 特 に 第1
詩 の悲 恋物 語 を当 然 の 前提 と してい る。本 来 な ら、彼 自 ら、そ の 楽 曲化 を試 み た 筈 だ。
それ を、敬 意 を表 しつ つ もデ ィー リアス に まか せ(ウ
ィリアム ズ は イギ リス音 楽 界 に
お け る先 達 と して デ ィー リア ス を尊 敬 して い た し(1935年
の彼 の死 去 の 際 に は埋 葬
式 に 参 列)、 具 体 的 作 曲技 法 の 上 で は 必 ず しもい つ も賛 同 して い た わ け で は な い に
せ よ、 オ ペ ラを 含 む声 楽 作 品 に お い て 、 デ ィー リア ス と共 に 、 少 な くとも 『海 の交
響 曲』 の 時 期 を含 む 初 期 に、 ワー グ ナ ー の 圧 倒 的 影 響 を受 け て い る 共 通 項 が あ る;
む しろ ウ ィリア ム ズ の デ ィー リウ ス に対 す る批 判 が あ る とす れ は 同族 意 識 的 な もの
で あ ろ う19))、そ の先 を当 該 第2楽 章 で 楽 曲 テ ク ス トに形 象 化 したの だ。 事 実 、 ウ ィ
リアム ズ は ホイ ッ トマ ンの 同 じSD詩
の1907年
SD初
群 に基 づ く自作 の 『海 の交 響 曲』 の作 曲 の 途 上
に デ ィー リア ス の前 で 、 一 部 を紹 介 して 演 奏 して い る(デ
演 が1906年
だ か ら、彼 の 『海 の交 響 曲』 は 年 代 的 に もデ ィー リアス の 当該 作
品 を補 完 す る位 置 に あ るcf.Town(2003)inAdams&Wellsp.81)。
デ ィ}リ
ィー リア ス の
そ の 意 味 で、
ア ス の作 品 は、 歌 詞 テ クス ト、 楽 曲 テ クス ト双 方 で 当 該 第2楽 章 の 潜 在 す
るテ ク ス トで あ る(「 潜 在 す るテ クス ト」 と言 うと、 通 常 の ソ シ ュー ル に よる理 解 で
はパ ラデ ィグマ テ ィック な関 係 の テ クス ト群 だ が(丸
ス の楽 曲化 した の はSD詩
山(1881)P.100)、
デ ィー リア
群 の 第1詩 に して 、 そ の 中核 とい う位 置 づ け か ら して ウ ィ
リア ム ズ に よる楽 曲 化 の 上 位 に あ り、 明 確 に(シ
一33一
ン タグ マ テ ィ ックに も)支
配す る
関係 に あ る;更 に ホ イ ッ トマ ン原 詩 で1871年
以 降 はSS(Sea-ShoreMemories)-SD
詩 群 として 、 言 語 テ ク ス トで もは っ き りと連 辞(前
者SDで
は 第1詩 か ら第ll詩
者SSで
は 第1か
ら第7ま で 、 後
まで の 詩 群 の 中 で の シー クエ ンス の横 並 び の 連 辞)を
成 す の で 、 潜 在 す る と言 っ て も、 殆 ど顕 在 に近 い の で あ る;こ の こ との 意 味 も込 め
て本 稿 の 当 セ ク シ ョンを 「潜 在 テ クス ト」 と呼 ばず 「潜 テ クス ト」 と したの だ;因
み
に、 デ ィー リア ス とウ ィリア ム ズ の 当該 作 品 は、 音 韻 論 ・形 態 論 の 喩 え を使 え ば、
実 体 は別 個 だ が 、 機 能 上 は 同 一 の 相 補 分 布 に当 た る と言 え よ う、 つ ま り、 あ た か も
前 者 は 後 者 と、allo一と して は、 様 相 や ス タイ ルが 大 い に異 な って い よう とも、-eme
と して、 あ た か もウ ィ リア ムズ が 作 曲 した か の ような もの との 扱 いが 許 され る とい う
こ とだ ろ う)。 そ の 双 方 の 複 合 テ クス トの 観 点 か らウ ィ リア ム ズ の 第2楽 章 に お け る
楽 曲化 の努 力 に具 体 的 に分 析 を加 え る[次
と して 、SD第1詩
の3.緩 除 楽 章 の アナ リー ゼ で 行 う]前 提
に基 づ くデ ィー リアス作 曲 「『バ リ トン、合 唱、 オ ー ケ ス トラの た
め の 「潮 の まに まに 」』(SeaDrift-forbaritone,chorusandorchestra,1906年
ツ、 エ ッセ ンで 世 界 初 演;シ
ェ フ ィー ル ドで の1908年
ドイ
、 英 国 初 演 後 、 多 くの批 評 家
,によ り彼 の最 上 の作 品 と評 価 が 高 いeg.Town(2003)p.81,Hutchings(1948)p.103,
Jefferson(1972)p57.)を
同 じ複 合 テ クス トの観 点 か ら以 下 、 取 り上 げ る所 以 で あ
る。
こ こで 、 ホ イ ッ トマ ンのSD第1詩(並
び に 第2詩)を
デ ィー リア スの 作 品 の 歌 詞 テ クス トを挙 げ る(印
転 載 す る の は省 略 す るが 、
刷 の 字 体 の 相 違 も含 め 、 歌 詞 テ ク
ス ト自体 に もデ ィー リア ス に よる手 が 加 え られ て い る;更 にChorus/Soloの
の表 示 の 後[]で
示 され た数 字 は筆 者 に よる通 し番 号 〉:
SeaDrift
Chorus[1】
OncePaumanok,
Whenthelilac-scentwasintheairandFifth-monthgrasswasgrowing,
Upthisseashoreinsomebriers,
一34一
区分 け
Two feather'd
And their
guests
nest,
from
Alabama,
and four light-green
two together,
eggs spotted
with
brown,
Solo [2]
And every day the he-bird to and fro near at hand,
And every day the she-bird crouch'd on her nest, silent, with bright eyes,
And every day I, a curious boy, never too close, never disturbing them,
Cautiously peering, absorbing, translating.
Chorus
[3]
Shine! Shine! Shine!
Pour down your warmth, great sun!
While we bask, we two together...
Two together!
Winds blow south or winds blow north,
Day come white or night come black.
Solo [4]
Home, or rivers and mountains from home,
Chorus
[5]
Singing all time, minding no time,
While we two keep together.
Solo [6]
Till of a sudden,
Maybe kill'd, unknown to her mate,
One forenoon the she-bird crouch'd not on the nest,
-35--
Nor returned
Nor ever
that
appeared
And thence
under
the hoarse
Or flitting
from
I saw, I heard
The solitary
Chorus
nor the next,
again.
forward
And at night
Over
afternoon,
all summer
the full of the moon
surging
brier
of the sea,
in calmer
weather,
of the sea,
to brier
at intervals
guest
in the sound
by day,
the remaining
one,
the he-bird,
from Alabama.
[7]
Blow! blow! blow!
Blow up sea-winds along Paumanok's
shore ;
I wait and I wait till you blow my mate to me.
Solo [8]
Yes, when the stars glisten'd,
All night long on the prong of a moss-scallop'd
stake,
Down almost amid the slapping waves,
Sat the lone singer, wonderful, causing tears.
He call'd on his mate,
He pour'd forth the meanings which I of all men know.
Yes my brother I know,
The rest might not, but I have treasur'd every note,
For more than once dimly down to the beach gliding,
Silent, avoiding the moonbeams,
blending myself with the shadows,
Recalling now the obscure shapes, the echoes, the sounds and sights after their sorts.
The white arms out in the breakers tirelessly tossing,
— 36 —
I, with bare feet, a child,
the wind
Listen'd
long
Listen'd
to keep,
to sing,
you,
my brother.
Following
Chorus
wafting
my hair,
and long.
now translating
the notes,
[9]
Soothe! soothe! soothe!
Close on its wave soothes the wave behind,
And again another behind embracing and lapping, every one close,
Solo [10]
But my love soothes not me, not me.
Chorus
[11]
Low hangs the moon, it rose late,
It is lagging-0
I think it is heavy with love, with love.
Solo [12]
0 madly the sea pushes upon the land,
With love, with Jove.
0 night! do I not see my love fluttering out among the breakers?
What is that little black thing I see there in the white?
Loud! loud! loud!
Loud I call to you my love!
High and clear I shoot my voice over the waves,
Surely you must know who is here, is here,
You must know who I am, my love!
-
37 -
Chorus
[13]
0 rising stars!
Perhaps the one I want so much will rise, will rise with some of you.
0 throat! 0 trembling throat!
Sound clearer through the atmosphere!
Pierce the woods, the earth,
Somewhere listening to catch you must be the one I want.
Solo [14]
Shake out carols!
Solitary here, the night's carols!
Carols of lonesome love! death's carols!
Carols under that lagging, yellow, waning moon!
0 under that moon where she droops almost down into the sea!
0 reckless despairing carols.
But soft! sink low!
Soft! let me just murmur,
And do you wait a moment you husky voic'd sea.
For somewhere I believe I heard my mate responding to me,
So faint, I must be still, be still to listen,
But not altogether still, for then she might not come immediately to me.
Hither my love!
Here I am! here!
With this just-sustain'd note I announce myself to you,
This gentle call is for you my love, for you.
Chorus
[15]
Do not be decoy'd elsewhere,
-
38
-
Whatisthewhistleofthewind,itisnotmyvoice,
Thatisthefluttering・,thefluttering・ofthesprの1
Thosearetheshadowsofleaves.
OdaYkness/Oinvain!
Soho[16]
OdaYkness!Oinvain!
Dlamverysickandsorrowful.
0わrowη
肱Jo加
ぬ ε3@麗
εαr`ん ε 醒ooη,droopinguponthesea!
Dtroubledreflectioninthesea!
Othroat!Othrobbingheart!
Andlsinginguselessly,uselesslyallthenight.
Opast!Ohappylzfe!Osongsofjoy!
Intheair,inthewoods,overfields,
Loved!loved!loved!loved!loved!
Butmymatenomote,nomorewithme!
Wetwotogethernomore.
[Delius,Sea-Dr
以 上 の歌 詞 テ クス トはSD第1詩
,fitHickox指
揮CHANDOS…
盤 、BQokletよ
り 転 載]
の原 詩 テ クス トそ の もの で は な い。 そ もそ も原 詩 自
体 が 、 初 期 形 か らデ ィー リア ス が 取 り入 れ た 最 終 形 まで 、 第8詩 程 で は ない が 、 か
な りな 改 変 を経 て い る。 原 詩 テ ク ス トの改 変 ・修 正 を含 め た テ クス ト生 成 につ い て
は詳 し くは鈴 木(1986)pp.7-55が
跡 づ け て い るの で そ ち らに まか せ 、 こ こで は デ ィ
ー一リア ス が 更 に 楽 曲 化 に 当 た って 、 どの よ うに手 を加 えた の か を まず 問 題 に して み
る。 歌 詞 テ クス トにお け る最 大 の 変 更 は字 体 に対 す る そ れ で あ る。 ホ イ ッ トマ ンは
字 体 や 句 読 法 か ら印 刷 ・出 版 過 程 まで含 め て 自己 の創 造 的 詩 作 品 の全 体 とみ な して
い た こ とを考 え る と、 これ は 重 大 な変 更 で あ る。 本 稿 で は表 示 の便 宜 上 、 上 掲 の歌
詞 テ クス トは原 詩 に 見 られ る ロー マ ン体 とイ タ リ ック体 の入 念 な 区 別(こ
一39一
の点 で は
初期 形 か ら最 終 形 まで は一 貫)を 敢 えて復 活 させ て あ る。 とこ ろが 、 デ ィー リアス の
歌 詞 は敢 え て この 区 別 を取 り払 い、イ タリック体 を用 い ず 、ロー マ ン体 で 通 して い る。
これ は原 詩 テ クス トか らの 逸 脱 な の だ ろ うか?否
で あ る。 デ ィー リアス の この 処 理
は確 信 犯 的 で あ り、 実 は単 に歌 詞 の 印刷 上 の 問 題 で は な く、 彼 の楽 曲化 の 根 本 に関
わ る重 大 事 な の だ 。 この意 味 で も彼 は(ウ
ィリア ムズ と同様 に)ホ イ ッ トマ ンに よる
言語 テ クス トと自己 の 楽 曲 テ クス トとの 複 合 テ クス トの再 テ クス トにお い て、新 た な
る創 造 を企 て た の だ。 以 下 、 こ の点 を 中心 に、 歌 詞 テ クス ト沿 って 、 デ ィー リア ス
の創 作 過 程 を追 って み よう。
元 来 、 多 か れ 少 なか れ 音 楽 的 構 成 感 に富 む ホ イ ッ トマ ンの全 詩 の 中 で も、SD第1
詩 程 、明 瞭 にそ れ を示 した作 品 は ない 。例 えば 、1860年 にAWordOutoftheSea「
か らの言 葉 」(後 のSS-SD詩
海
群 の先 頭 に立 つ 必 然 性 を、 しいて は ウ ィリアム ズ を介 し
て 『海 の 交 響 曲』 の 表 題 に 連 な っ て い く意 義 が あ る こ とに留 意 し よ う;1867年
で保 持 され た が71年
版 以 降、 現 行 のOutoftheCradleEndlesslyRocking「
で も揺 れ や まぬ 揺 藍 の なか か ら」 に更 に変 更)の 表 題 に変 え てLG本
れ る前 年 、59年12月24日
Reminiscence「
rockedcadle"で
付 け のTheNewYorkSaturday、Press誌
版ま
いつ ま
体 に取 り入 れ ら
初 出の 、Achild's
あ る子 供 の 回 想 」の 表 題 を冠 す る 初 期 形 で 言 う と、"Outofthe
始 まるPRE-VERSE「
序 誌 」(こ の サ ブ タイ トル は1860年
版LGで
は 削 除 さ れ、 代 わ り に タ イ トル と も詩 行 の 一 部 と も 見 る こ と が で き る
REMINISCENCE「
回 想 」 が 実 質 第1ス タ ンザ と第2ス
タ ンザ(60年
版の番号付 け
で は前 者 な し、後 者 第1ス タ ンザ)の 間 に入 るが 、これ さえ現 行 形 で は削 除)は 以 下 、
明確 な1∼XXXIVの
当 該 詩 は合 計35の
ロー マ 数 字 で 区 分 け され た34の
ス タ ンザ 群(序
詩 を含 め れ ば
ス タ ンザ で 構 成)と 明 瞭 な対 比 を な して い る(因 み に1860-67年
版 で は 各 ス タ ンザ の 間に この ロー マ数 字 の ス タンザ 番 号 を置 くの止 め て、 そ の代 わ り
各 ス タ ンザ の 第1詩 行 の 先 頭 に普 通 の ア ラ ビア 数 字 で1.∼34.の
す;71年
版(Pα ∬α8ε'01η伽)で
ス タ ンザ 番 号 を付
は、 この ア ラ ビァ数 字 の ス タ ンザ 番 号 は、 か つ て
の 序 詩 の 部 分 を1.に して そ こを基 点 として 振 っ て い るの で 、 以 前 の 番 号 よ り1つ づ
つ ず れ て、35.ま で付 け られ て い る上 に、 更 に や っか い な こ とに、 そ れ とは別 に、 ロ
ー マ ン/イ
タリ ック体 の 区 別 、 つ ま り叙 唱/詠
一40一
唱 で 全 体 を大 き く10の 部 分(厳
密 に
は 始 め か ら7つ 目 まで が そ の 基 準 に よ るが 、 最 後 の 長 大 な 詠 唱 の 第7部 の 後 は、 別
基 準 で 更 に3つ の部 分)に
分 け て、 か つ 各 部 聞 、 各 部 に先 行 す る先 頭 中 央 に ス タ ン
ザ 番 号 よ りも大 きな ア ラ ビ ア数 字 を置 い て 区分 け して い るの で注 意;現
行形 はサ ブ
タイ トル も、 以 上 の数 字 も、 詩 本 体 を残 し全 て 削 除)。 しか も、 この 序 詩 は最 初 は各
詩 行Outofで
始 ま り(4回
連 続 して 同 じ処 理 、 更 に3行 お い て も う0度Outで
の で計5回 、前 半 部 で詩 行 の 先 頭 に立 つ)、 後 半 は各 詩 行Fromで
始 める
始 ま る(916行)
とい う均 整 の とれ た構 成 を 示 して い る。 意 味 内 容 か ら言 っ て も、 最 後 の3詩 行 は
"1
...Areminiscencesing."「
思 い 出 の 歌 を(私 は)こ こ に歌 う」 で締 め くくられ るの
で あ る。 この 部 分 に普 通 の 作 曲家 な ら、 高 い調 子 で(原
で はそ れ に相 当す る部 分]の
詩 の 序 詩[最
終 形 の現 行 形
内 容 も、 高揚 した 「時 間、 空 間 、 言 語 」 の次 元 か ら総
括 す る よ うな 「高 い調 子 」 で 詩 テ クス トが 書 か れ てい るの だ か らな お更)、 音 楽 的 な
序 の 部 分 を序 曲(overture)と
して作 曲 してや ろ う と楽 曲化 の触 手 が 動 か され な い筈
はな い の に、 デ ィー リアス は は ぐらか す ように、敢 えて そ れ を避 け る。 オー ケス トラ
に よる前 奏 はあ って も、まっ た く序 曲的 で は ない(後 ほ ど触 れ る ように、そ の前 奏 に、
序 詩 に相 当す る部 分 を全 く楽 曲化 しな か った訳 で は な い巧 妙 な仕 掛 け が 隠 され て い
るが)、 いつ 始 まった と も知 れ な い入 り方 で 、 神 秘 的 に、 た だ し初 期 形 で い う とい き
な り序 詩 の 後 の 第1ス タ ンザ か ら、 コー ラスで 歌 わせ て始 め る。 ウ ィ リア ム ズが 自 ら
作 曲 の 筆 を執 った ら、 この よ うな 開始 は しな か っ た可 能 性 が あ る(こ
こ にデ ィー リ
アス の ウ ィ リア ム ズ とは違 う個 性 が 発 揮 され て い る のだ ろ う;そ れ 自体 で 自立 す るよ
うな劇 性 はな く、 もっ と内省 的 で 精 妙 なの だが 、 よりワー グナ ーの 「トリス タ ン」 的 と
言 って もい い か も知 れ ない;そ の 第1幕 の前 奏 曲(同
じ ワー グナ ー で も楽 劇 以 降 は独
立 の 序 曲 で は な く、 劇 展 開 の 一 部 として 融 合 して い る前 奏 曲(Orchestervorspiel))
を連 想 させ る入 り方 だ が 、 逆 に ウ ィ リァ ム ズ的 で は な い こ とで、 よ りウ ィリアム ズ 的
な とこ ろが 前 面 に 出 た 第1楽 章 の 序 と対 照 的 な、 第2楽 章 の 冒頭 の 神 秘 的 導 入 を敢
えて ウ ィリアム ズに採 らせ ることにつ なが る補 完 性 が あ る とも言 えるcf.Town(2003)
p.8D。
せ っか く原 詩 自体 、 イ タリ ック体 の 使 用 で 、 ア リア 部 分 を明 示 して くれ て い
るの で 、 も しソ リス トと コー ラス の 声 部 の 区別 を用 い る の な ら、 以 上 の 「高 い 調 子 」
の 序 詩 の 部 分 は一 人 称("1"つ
ま り作 者 ホ イ ッ トマ ンが 語 り手 で 回想 を始 め る)で 書
一41一
か れ て い るの だ か ら、 もっ ぱ ら レチ タテ ィー ヴ ォ担 当の ソ リス トに歌 わせ る音 楽 を書
い て しか るべ きだ。 この 常 識 に反 し、デ ィー リア ス は序 詩 の 部 分 を全 部 省 略 す る どこ
ろか(第1詩
全 体 の 後 半 第130詩
行 以 降 は、"Theariasinking"「
詠 唱(ア リア)は 次
第 に消 え て い くが 、」 だ か ら、 デ ィー リア ス が そ こは楽 曲化 しな か っ た必 然性 は あ る
だ ろ うが)、 序 詩 を受 け継 ぎ、 語 り手 の 叙 唱(レ チ タテ ィー ヴ ォ)が 続 い て い る風 の
書 き方 の原 詩 の 詩 テ クス トで、 そ こか ら"OncePaumanock"「
いつか故郷 のポーマ
ノ クで 、」 の 回想 本 体 の ナ レー シ ョンが 始 ま る第1ス タ ンザ(最
終 形 第23詩
行 以 降)
に対 応 す る楽 曲 冒頭 部 をナ レー ター の役 にふ さわ しい ソ ロで 始 め て い な い で、 コー
ラス を もって きて い る。 こ こに既 に、 ソ ロ とコー ラス を叙 唱 と詠 唱 とに 、 あ るい はそ
の逆 に詠 唱 と叙 唱 とい う具 合 に、 明 瞭 に 機 能 上 、振 り分 け る線 を打 ち砕 くよ うなデ
ィー リアス の トリス タ ン的 な新 機 軸 が 発 揮 され て い るの だ。 周 知 の ように、 音 楽 史 で
は ワ ー グ ナ ー の 楽 劇 『トリス タ ンとイ ゾ ル デ 』 は、 ア リア(詠 唱)と
レチ タテ ィー ヴ
ォ(叙 唱)の 区別 を廃 止 し、 無 限旋 律 の 巾 で 劇 を展 開 して い く(更 に調性 を崩壊 させ 、
シェー ンベ ル クの無 調 音 楽 につ なが る)現
代 音 楽 の扉 を 開い て い た の だ 。 この 点 で 、
ワー グ ナー の この 作 品 に啓 示 を受 け、 そ の 影i響に 晒 され た 点 で は 同 じで も、 実 質 的
に 半 分 ドイ ツ 人 で あ り、 当 該 作 品 もベ ル リ ン国 立 歌 劇 場 の 監 督 で あ るMaxvon
Schillingsに 献 呈 した デ ィー リア ス の方 が ワー グ ナ ー 風 作 曲術 を 自家 薬 籠 中 に して
い た の だ ろ う。 ホ イ ッ トマ ン自身 の詠 唱、 叙 唱 理解 は明 らか に 「トリス タ ン以 前 」 の
古 典 的 イ タ リア オペ ラの もの なの だ が 、 詩 内 容 の 意 味 可 能 性 か らす れ ば、 ワー グ ナ
ー 的 処 理 を許 容 す る象 徴 の深 さ と大 きさを原 詩 が 有 して い た とも考 え られ る の であ り
(テ クス ト記 号 論 的 に興 味 深 い の は、 ここで もエ ー コの 言 うように 「生 身 の作 者 の 意
図 」 と 「テ クス トの 意 図」 とを一 緒 くた に しない視 点 の 重 要性 が あ る)、 デ ィー リアス
は こ こか ら、 敢 えて 原 詩 の イ タリック の区 別 を無 視 した の で あ る。 当該 作 品 は この よ
うに冒頭 部 か ら、 イ タリック体 とロー マ ン体 の 字 体 の 区分 を止 揚 しなが ら進 ん で い く
のだ 。 以 下 、 更 に この点 を軸 に、 具 体 的 に分 析 を進 め よ う。
Moderatoetranquillo(中
庸 の 速 度 、 静 か に)の 速 度 ・曲 想 指 示 の も と、4分 の4
拍 子 嬰 ハ 短 調 で 、 か そ け きフ ル ー トの 下 降 音 形 「ミ ドシ ラ ラ ミ ドシ ラ… 」 で始 まる
遠 くの 波 の つ ぶ や きの よ う な 木 管 を 中 心 とす る節 約 した オ ー ケ ス トラ 部(中
一42-一
間で
dolce「 や わ ら か に 」 指 示 の 第21小
節 か らは
『ト リ ス タ ン 』 第1幕
前 奏 曲 の 冒頭 部 の
ト リ ス タ ン憧 憬 の 有 名 な 木 管 に よ る モ チ ー フ を 連 想 の 上 昇 音 形 も 聞 こ え る)は45小
節 続 くが(次
聴?)、
節3.で
分 析 す る よ う に ウ ィ リ ア ム ズ の 第2楽
章 冒 頭 に 対 応)、 一 見(一
曖 昧 模 糊 と し た デ ィ ー リ ア ス 特 有 の 導 入 で あ る20)。 そ し て 、 上 述 の よ う に 、
い つ オ ー ケ ス ト ラ か ら 移 行 し た の か 分 か ら な い 感 じ で 、 コ ー ラ ス で46小
"O
節 目か ら
ncePaumanok,IWhenthelilac-scentwasintheaixandFifth-monthgrasswas
growing,/Upthisseashoreinsamebriers,ITwofeather'dguestsfromAlabama,
twotogether,/Andtheirnest,andfburlight-greeneggsspottedwithbrown"「
か 故 郷 の ポ ー マ ノ ク で 、/ラ
る こ ろ/…
いつ
イ ラ ッ ク の 香 りが あ た り に た だ よ い 五 月 の 草 が 生 い 茂
」 の 歌 声 が 入 る[1]。
詩 人 が 子 供 の 頃 、 ロ ン グ ・ア イ ラ ン ドの 故 郷 の 浜 辺
で 、 番 の 鳥 の 愛 の 巣 を 見 つ け 、 思 い や り を も っ て 観 察 し た 記 憶 を つ む ぎ 出 す の だ(合
唱 の 入 り方 か ら し て 絶 妙 で 、"OncePaumanok...Whenthe"ま
「追 憶 」-1860年
版 で は 第1ス
で は緩 や か に下 降 し
タ ン ザ の 前 にREMINISCENCEの
半 ば 詩 行 とみ な
せ る 語 が 入 っ て い た こ と を 思 い 起 こ そ う一 の 遡 行 を 暗 示 す る が 、 第49小
に 転 じ 、"li-lac"の2つ
2つ+4分
音 符1つ
の 音 節 に は2分
音 符 を 振 り、 更 に 第50-51小
分 を た っ ぷ り"scent"1音
ー ス トば りの 時 間 感 覚 が 嗅 覚 に 移 行 し て
節 か ら上 昇
節 で は2分
音 符
節 に 割 り振 りつ つ 、 再 度 上 昇 さ せ 、 プ ル
、 文 字 通 り、 ラ イ ラ ッ ク が 過 去 の 記 憶 の 中 か
ら匂 い 立 っ て く る 現 場 を 音 化 す る こ と に 成 功 し て い る;な
お ラ イ ラ ッ ク の 香 りを タ イ ト
ル に 含 む 、 も う1つ の ホ イ ッ トマ ン の 代 表 作 「先 頃 ラ イ ラ ッ ク の 花 が 前 庭 に 咲 い た と き 」
もSD詩
群 と 同 じ 追 補 冊 、PassagetoIndiaに
こ こ は 第5詩
ス トの 番 号)ま
行 目(以
入 れ ら れ て い る 連 辞 的 連 な り に 注 意)。
下 、 詩 行 番 号 は 原 詩 の で は な く、 上 掲 デ ィ ー リ ア ス の 歌 詞 テ ク
で コ ー ラ ス[1]だ
し か も 上 述 の よ う に 、 第6詩
が 、 機 能 的 に は 詩 人=語
行"Andeveryday_"「
り手 の ナ レ ー シ ョ ン で あ る 。
そ し て 毎 日」 見 守 っ た と い う く
だ り か ら は 、 ナ レ ー シ ョ ン の ま ま バ リ ト ン の ソ ロ[2]に
入 る の だ 。 こ う い う所 に 、
デ ィ ー リ ア ス ー 流 の ソ ロ と コ ー ラ ス の 融 合 が 見 て 取 れ る 。 詩 行10行
ス[3]の
目か らの コ ー ラ
部 分 は ホ イ ッ トマ ン原 詩 で 最 初 に イ タ リ ッ ク 字 体 に な る 部 分 で 、 明 ら か に ア
リ ァ で 歌 わ れ る こ と を 表 示 す る 。 こ れ が デ ィ ー リア ス で は コ ー ラ ス に ア リ ア が 振 り
分 け ら れ た の は い い と し て 、 コ ー ラ ス は 直 前 の[1]一[2]の
一43一
部 分 で は叙 述 的 な叙 唱 を
受 け も っ て い た の で あ る([2]で
は ソ ロ に 唱 和)。 コ ー ラ ス/ソ
純 に 並 行 す る よ う に 立 て 分 け ら れ て い な い の で あ る 。 確 か に10行
ロ が 詠 唱/叙
唱 と単
目"Shine!Shine!
Shine!"「 輝 け 、 輝 け 、 輝 け つ づ け よ 」 か ら 始 ま る 部 分 は 、 デ ィ ー リ ァ ス で も 伝 統 的
な高い調子 の
「愛 の 賛 歌 」 の 趣 で ア リ ア そ の も で あ る(コ
番 目 の 行 で 、 同0の
単 語 が3回(初
期 形 で は2回)繰
ー ラ ス の ア リ ア 毎 の 第1
り返 さ れ て い る の も 原 詩 の 段 階
か ら ア リ ァ で あ る こ と を 特 徴 付 け て い る)。 と こ ろ が 、 こ の コ ー ラ ス の 〔3〕と 〔5〕の
連 続 す るア リアの 問 に ソ 「
ロ[4]"Home,orriversandmountainsfromhome"「
故郷
か ら 幾 山 河 を 隔 て て い よ う と も 、」 が 分 断 す る 形 で 入 り込 み 、 デ ィ ー リ ア ス の 創 造 的
工 夫(ア
第19行
リ ア の 部 分 と し て も、 空 間 的 に 傭 鰍 す る 叙 述 的 要 素 が あ る か ら か)を 見 せ る 。
目"Tillofasudden,"「
と こ ろ が 突 然 、」 か ら 始 ま る ソ ロ[6]の
部 分 は原詩
で も イ タ リ ッ ク が 終 わ り ロ ー マ ン 体 に 戻 っ て い て 、 二 羽 の 幸 福 の 絶 頂(観
供 の 頃 の 詩 人 の 幸 福 の 共 有 で も あ る)が
察 す る子
突 如 と し て 愛 別 離 苦 の 悲 劇 に 突 き 落 と され
る こ と を 示 す 。 雄 鳥 は 死 ん だ か も し れ な い 雌 鳥 を い つ ま で も諦 め ず 待 ち 続 け る悲 痛
な 情 景 を 叙 述 す る 下 り で あ る(楽
譜 番 号 圃 の 所 で 、 ソ ロ に 振 ら れ た 最 後 の 第29詩
目"ThesolitaryguestfromAlabama."「
の"Alabama"の
初 の3回
語 の 第3、4音
繰 り返 す"Blow!"の
ア ラ バ マ か ら きた い ま は 孤 独 な あ の 客 が 」
節 の"-ba-ma"と
平 行 させ て 、 次 の 合 唱 の ア リア の 最
内 、 早 く も2回 の 繰 り返 し を 同 時 に 合 唱 に 重 ね さ せ て い
る 所 に も 、 デ ィ ー リ ア ス の 精 妙 な 移 行 の 筆 使 い を 見 る こ と が で き る;楽
終 わ り で 、 合 唱 各 パ ー トに2回
行
つ つ 、 更 に2度
音 楽 的 拡 大 処 理)。 そ の 後 の コ ー ラ ス[7]は
譜番 号 囮 の
繰 り返 さ せ て い る の は 、 原 詩 に は な い
原 詩 で も再 び イ タ リ ッ ク の ア リア に 戻 る
の は 、 悲 痛 な 気 持 ち が 、 叙 述 的 な 傍 観 か ら、 雄 鳥 の む な し い 願 い("Blow!Blow!
Blow!/Blowupsea-windsalongPaumanok'sshore;/IwaitandIwaittillyoublow
mymatetome"「
吹 い て 、 吹 い て 、 吹 き ま くれ 、 吹 き す さ べ 海 の 風 よ ポ ー マ ノ ク の
岸 辺 づ た い に、 ぼ くは 待 つ … 、 お 前 が ぼ く の い とお し い ひ と を ぼ くの も と に 吹 き戻
し て く れ る ま で 」)の 心 情 に 入 り こ み 共 感 し て 、 悲 願 の 歌 と な る か ら で あ る 。 続 く ソ
ロ 〔8〕は 原 詩 共 々 、 ロ ー マ ン 体 の 叙 唱 で 、 始 め は 遠 くか ら、 子 供 の 頃 の 詩 人 が 取 り
残 さ れ た 孤 独 な 雄 鳥 の 姿 を 心 配 そ う に 、 観 察 す る 長 い ナ レ ー シ ョ ン だ が("Yes,when
thestarsglisten'd,/Allnightlongontheprongofamoss-scalloped'dstake,/..."「
一44一
ま
こ と 星 の 光 が き ら め く と き に は 、 夜 も す が ら 波 形 に 海 苔 が ま つ わ る 杭 の 先 に 、 … 」)、
そ の 雄 鳥 に 徐 々 に 接 近 し て 、 と う と う 、 そ の 心 情 に 一 体 と な っ て(「 自 分 だ け が 分 か
っ て い る 」ii_,whichIofallmenknow"([8]第6詩
12の 第25-27小
行 目)[ソ
ロ は これ に 対 応 す る
節 で 、 高 揚 し て た っ ぷ り歌 う ア リ ア の 様 相 を 見 せ 始 め る]の
共 鳴 し 、 そ の 内 心 の 悲 痛 な 歌 を 聞 き 取 り([8]第5詩
だ か ら)
行 目"Heca11'donhismade,"
に 対 応 す る と こ ろ で ヴ ァ イ オ リ ン ソ ロ が 雄 鳥 の 鳴 き 声 を 奏 で 始 め る)、 自 分 も 歌 う と
こ ろ に ま で 至 る の だ 。 こ の 後 の コ ー ラ ス[9]以
行 第71か
ら 第129詩
行 ま で)で
下 、 曲 の 最 後 ま で は 、 原 詩(原
詩 詩
はす べ て イ タリ ックに な っ て い る長 大 な ア リアで あ
る が 、 そ の 前 歌 の 機 能 も あ る か ら で あ ろ う 、 デ ィ ー リ ア ス は 既 に こ の ソ ロ[8]か
ら
単 に 叙 唱 と は 割 り切 れ な い 極 め て 独 創 的 な 楽 曲 化 を 試 み て い る の で 更 に 跡 づ け よ
う。
少 年 の 頃 の 詩 人 が 以 上 の 悲 嘆 に くれ る 雄 鳥 に 音 も立 て ず 夜 影 に 紛 れ て 接 近 し て い
く[8]の
第10行
目"Silent,.."か
ら は 益 々 、 ア リ ア 的 に な り、 第11行
目 の"Recallingnow
theobscureshapes,theechoes,thesoundsandsightsaftertheirsorts,"「
お ぼ ろげ
な 物 の 形 を 、 さ ま ざ ま な 反 響 を 、 響 き と 光 景 を 、 ひ とつ ひ と つ 思 い 起 こ し 」 の 下 りに
至 る と 、 ソ ロ の 歌 声 の 高 揚 と 共 に 、 オ0ケ
ス トラ も 豊 麗 に 響 き を 乱 舞 さ せ 、 少 年 の 回
想 は よ り リ ア ル に な っ て い く。 雄 鳥 の 悲 歌 に 共 鳴 し た 少 年 の 心 象 の ソ ロ の 歌 声 は 、 沖
合 い の 波 頭 の 砕 け る 光 景("Thewhitearmsoutinthebreakerstirelesslytossing")
と同 調 し て 、 働 実 の 音 調 ま で 帯 び 、 劇 性 を 強 め る 。 こ こ の デ ィー リ ア ス の 曲 作 りも
練 達 の 極 み だ が 、 楽 譜 番 号 図 の 最 初 の3小
節 の"1...achild,thewindwaftingmy
hair"「 こ ど も の 私 は 、 … 、 髪 を そ よ が せ つ つ 、」 の 所 で は 、 曲 も さ る こ と な が ら 、 ソ
ロ を 受 け 持 つChandos盤
の バ ス ・バ リ ト ンB.Terfelの
歌 い 方 は そ よ ぐ髪 の 毛 、 一 本
一 本 を 潮 風 が 吹 きぬ け る 官 能 性 ま で 表 出 して い て 見 事 で あ る
に は 、 こ の 冒 頭 の3小
long,"に
節 の2-3小
。 と こ ろ で 、 よ り正 確
節 目 で 、 ソ ロ は 次 の 詩 行 の"Listen'dlongand
移 っ て い る の だ が 、 す で に コ ー ラ ス は こ の 第3小
の 最 初 の リ フ レ イ ン"Soothe!soothe!soothe!"「
節 目 で 、 次 の ア リ ア[9]
慰 め て お く れ 、 慰 め て お くれ 、 … 」
を 始 め て い る 。 詠 唱 と叙 唱 、 ソ ロ と コ ー ラ ス が 入 れ 子 細 工 的 に 交 錯 し 、 融 合 し て い
くデ ィ ー リ ア ス の 書 法 な の で あ り、 殆 ど 地 謡 と シ テ の 融 合 の 夢 幻 能 の 趣 き で あ る 。
一45一
こ こ か ら は 仔 細 に 入 る 余 裕 は な い が 、[8]の
終 わ りの3行
と[9]の
始 め の3行
に亘 っ
て 、 ソ ロ と コ ー ラ ス の 歌 う 詩 行 の 単 語 、句 ご と 、文 字 通 り対 位 法 的 に 、交 差 し て い る:
"t
osing,nowtrans-(datingthenotes)"と4度
目 の"soothe!"(原
ら3回 の レ フ レ イ ン に 増 え た 上 、 楽 曲 化 で 更 に 、4回 、5回
you-"の
第1音
節 と こ の"behind"の
第2音
another..."の
前 半 部 つ ま り、(an)-otherよ
続 く"mybother"
節 、brotherの
第2音
節 と"Andagain
り前 の 部 分 、 と い う 具 合 で あ る 。 更 に 合 唱
最 後 の"_andlapping,everyoneclose,"のcloseの
い る 間 に 、 ソ ロ は[10]の
か
と 増 え て い く)、"Follwing
引 き伸 ば し と"(soothes)thewavebehind"のthewave、
のbrotherの
が[9]の
詩 で 初 期 形 の2回
音 節 を 引 き伸 ば し て
最 初 の"Butmylovesoothesnotme,notme"「
ぼ くを 、
こ の ぼ く を 慰 め て くれ る い と し い ひ と は こ こ に は い な い 。」 の 最 初 のButを
歌 い出 し
て い る 。 こ の 時 、 ソ ロ の 機 能 は 、 語 りを 脱 し て 、 雄 鳥 の 内 心 の 歌 に 詩 人 が 葱 依 す る
よ う に 没 入 し て 、 代 わ り に 歌 い 出 し("nowtranslatingthenotes"「
い 変 え つ つ 、」 が 実 現 し た の だ;戻
最 初 の 語Closeは
る が そ の ソ ロ のnotesと
… 私 の 言 葉 に歌
コ ー ラ ス[9]の2行
目の
重 ね ら れ て い た)、 最 後 の 長 大 な ア リ ア に 、 ソ ロ 、 コ ー ラ ス 共 に 突
入 した の だ 。 ソ ロ と コ ー ラ ス は 役 割 を 分 担 し て い な い の で 、 先 ほ ど と 同 じ よ う に 詩
行 の 語 句 の 交 差 、 交 錯 は 続 く:"Butmylovesoothesnot_"のloveの
囮 の 始 ま り)で
、 コ ー ラ ス も[11]の1行
目"Lowhangsthemoon,..."を
い 出 し 、"soothesnot"と"hangsthemoon"が
早 く も歌
所 で コ ー ラ ス の"(it)rose
夜 は 遅 れ ば せ な が ら 昇 っ た 」 と な る;更
の 所 で 、 合 唱 は"(ltIS)lagging,"「
譜番号
重 な り、 内 心 の つ ぶ や き と 同 時 に 心 象
風 景 が 現 出 し 、 続 い て ソ ロ の``(soothesnot)me"の
late,"「(月 は)今
所(楽
に ソ ロ2度
目 の"(not)me"
そ れ は なん た るの ろ ま な月 だ」の心 象 風 景 を重
ね な が ら 、 そ の ま ま 雄 鳥 の 内 心 の つ ぶ や き に 移 行 し て い く(コ
ー ラス が 月 の 心 象 風
景 を 分 担 し た と 思 わ れ て も 、 直 ぐ に 内 心 の つ ぶ や き も 歌 う"-OIthinkitisheavy
withlove"「
そ う だ 、 き っ と 愛 の 、 愛 の 重 荷 を 背 負 っ て い る の だ 。」 の よ う に;こ
コ ー ラ ス の 最 後 の"withlove"の
繰 り返 し の 所 で 、 ソ ロ は[12]の"Qmadlythesea
pushesuponthehand/WithXove,withlove"「
/い
お お 狂 お し く海 が 陸 地 に 打 ち 寄 せ る 、
と し げ に 、 い と し げ に 」を も う 歌 い 始 め る;そ
love,withlove"を
の
し て こ の ソ ロ が こ の2行
目 の"With
切 な さ が 吹 き 出 る よ うな 英 語 の 響 き が 美 し い 印 象 的 上 昇 音 形 の
46-一
iambus(弱
強 調)で
歌 っ た 後 、 合 唱 もこ の 詩 行 を唱 和 す る よ うに繰 り返 す け れ ど、
声 部 の つ なが りで は2行 上 の 同 句 の反 復 で あ る こ とを音 楽 的 に 示 す(こ の 意 味 の 連
関 は訳 出 の違 い に あ る ように、 同 じ英 語 のwithloveの
「い と しげ(に)」
語 句 なが ら 「愛(の 重 荷)」 と
とい う二 義 性 の 問題 なの だ が 、 そ して原 詩 にそ の 関連 性 は潜 在 し
て い る訳 だ が 、音 楽 の 連 辞 が 明 確 に引 き出 した所 だ)。 この よ うに ソ ロ とコー ラ ス は
完 全 に 融 合 して、 音 楽 は 熱 気 を帯 び 始 め て、 ソ ロ が 一 気 に"Onight!doInotsee
myloveflutteringoutamongthebreakers?/WhatisthatlittleblackthingIsee
thereinthewhite?"「
お お 夜 よ、 砕 け散 る波 の あ い だ で 、 羽 ば た くあ れ は、 ぼ くの
い とお しい ひ とで は な い か 、/あ
の 白い 波 間 に 見 え る、 あ の 小 さい 黒 い もの は何 。」
の幻 視 を畳 み掛 け るよ うに歌 う所 に来 る と、後 は直 線 的 に前 半 部 終 結 の クラ イマ ック
ス まで そ の まま突 き進 ん で行 く。 前 の[3][7][9]各
ンを合 唱 が 歌 っ た が(音
楽 的 に は3度 以 上 繰 り返 す こ と も)、 こ こ([12]第5行
で は ソ ロが 最 初 に"Loud!loud!loud!"「
人=雄
々、1行 目の 原 詩3語 の リフ レイ
目)
声 高 く、 声 高 く、 声 高 く」 を繰 り返 し、 詩
鳥 の歌 は、 幻 視 の 戻 っ て来 る雌 鳥 に 向 か って 「我 は こ こ にあ り」(6-10行
目)
と絶 叫 す る に至 る の だ。 この音 楽 的 展 開 か らす れ ば 、 デ ィー リアス が なぜ この 先 の
原 詩 で 言 う と第86-93詩
行 目 まで 省 略 した(こ
な か っ た)の か は納 得 が 行 く。 この[12]の
こ まで は 詩 本 体 の 省 略 は序 詩 を 除 き
最 後 の4行 で大 きな ク ライ マ ックス の 弧
を描 きた か った か らで あ る(因 み に 、海 の か な た に 恋 人 が 戻 っ て くる姿 を幻 視 して
悲 痛 な 叫 び声 を上 げ る くだ りは 、 死 に瀕 した トリス タンが 海 の か な た に 、戻 って く
るイ ゾ ル デ を幻 視 す る 『トリス タン』 第3幕 、 第1場 を思 い 出 させ る;ワ ー グ ナー で
は こ と切 れ た 後 、 彼 女 が 実 際 到 着 して愛 の 死 を絶 唱 して幕 で あ っ た が 、 名 演 出 家
J-PPonnelleに
よる、1981年
のバ イロ イ ト演 出 で は 第3場 幕 切 れ まで、 トリス タンの
幻 視 の まま続 く解 釈 を 許容 す る もの だ った)。
デ ィー リア ス の イ タ リック体 無 視 は、 以 上 の よ うに、 印 刷 上 の こ とで は な く、 詩
テ クス トと楽 曲 テ クス トとの 連 携 の 複 合 テ ク ス ト創 造 の根 本 に関 わ っ て い た の で あ
る21)。
(続 く)
[付 言:デ
ィー リア ス の 当該 作 品 後 半 で も、 以 上 の 巧 み な ソ ロ とコー ラス の融 合 が 、
一47一
更に巧 妙 に詩 テクス トと楽曲 テクス トの絶妙 な案 配に よる 「
光 と影」の交錯 を表 しつ
つ 、な され てい るが 、紙 数 の都 合 上 、そ の 分 析 は次 号 に まわす;な お 前 回 の 本 稿(3)、
前 号p.32に
あ る 「(SD第2詩
翌 年AtlanticMonthly誌
は)1859年
に発 表 され 」は 「1859年 に恐 ら く作 られ て、
に 発 表 さ れ 」 に 、 お 詫 び を 以 っ て 、 訂 正 致 し ま す 。]
注
17)生
命 科 学 者 、 中 村 桂 子(2004)第5章
は 単 にDNAや
遺伝 子 列 に還 元 す る分 子 生 物 学 の 限 界 を超
え て 、 生 命 現 象 の 本 質 に 迫 る に は 、 堤 中 納 言 物 語 の 「虫 愛 つ る 姫 」 に 見 られ る よ う な 文 学 者 に よ
る 生 の 「語 り」 を 重 視 す る 「生 命 誌 」 へ の 方 向 転 換 が 今 、 緊 要 で あ る とす る が 、 賢 治 や ホ イ ッ ト
マ ンの 自 然 科 学 的 態 度["electricself"(SD第2詩
第7詩 行)と 「春 と修 羅 」の 出 だ し の 自 己 把 握 「わ
た く し と い ふ 現 象 は … 有 機 交 流 電 燈 の 」 に 注 意]に
因 み に 、 ホ イ ッ トマ ンのSDに
こ う"は
は そ の よ う な 志 向 性 が あ る の か も知 れ な い 。
お け る"mocking-bird"と
賢 治 の 『セ ロ弾 きの ゴ ー シ ュ』 の"か
っ
鳥 の 種 類 は 別 だ が 、 か た や 血 の に じ む ほ ど悲 痛 に 歌 お う と す る 音 楽 家 、 詩 人 の イ メー ジ
で あ り、 ま た 自然 観 察 の 対 象 で もあ る 点 で の 接 点 が あ る 。c£ 田 中(2005)p.314。
18)た
だ し、 オ ペ ラ好 き の ホ イ ッ トマ ン と い え ど も、 少 な くと も 当 該 詩 の 初 期 形 か ら 最 終 形 の テ ク ス ト
生 成 の 時 代18601881に
『トリ ス タ ン』 に 接 す る 機 会 は あ りえ な か っ た:『 ト リス タ ン』 ミュ ン ヘ
ン で の 世 界 初 演1865年
で の 米 国 初 演1886年
、 ロ ン ド ン で の 英 国 初 演1882年
、 ニ ュ ー ヨー ク 、 メ トロ ポ リ タ ン歌 劇 場
。 しか し 、デ ィー リ ア ス のSeaDrift(1906)は
歌 詞 部 分 も含 め 、明 らか に 「ト
リス タ ン 後 」 で あ る こ と を 再 確 認 し て お こ う。
19)Day(1972)p.161に
よ る と 、 最 初 の ウ ィ リ ア ム ズ の オ ペ ラHughtheDrover(『
演 後 す ぐの1911年
に 作 曲 開 始 、24年 初 演)に
海 の 交 響 曲』 初
こ そ 、 デ ィー リア ス の 作 品 に 対 し て 彼 が 批 判 す る 時
に 使 用 す る 「単 な る 加 算 で あ り、 掛 け 算 に は な っ て い な い 」 とい う コ メ ン トが(他
のFiveMysticalSongs(1911)に
20)実
は 声 楽 が 入 る 前 の45小
もp.119)当
に も同 じこ ろ
て は ま る と指 摘 して い る 。
節 の 節 約 さ れ た オ ー ケ ス トラ 部 は 、 凝 縮 さ れ た 形 で 、 序 詩 の 核 心 部 を
楽 曲 テ ク ス ト化 し た と も み な せ る こ と に 留 意 し よ う。 初 期 形 で 言 う とPRE-VERSEの
トも、 ホ メ ロ ス の 『イ リ ア ス 』 の 冒 頭
Muse女
「ミュ ー ズ よ歌 っ て くれ!」
に 始 ま る 西 洋 詩 の 伝 統 に 則 り、
神 に 呼 び か け る こ と で 、 詩 心 、 歌 心 が 喚 起 さ れ る こ とか ら始 ま る 。 先 ず 第3詩
musicalshuttle"に
歌詞 テクス
注 目 し よ う。 こ れ は 「詩 や 歌 の 織 り地 た るtextureを
行 目の イ`the
紡 ぎ 出す た め の根 源 の稜 」
を 呼 び 出 し て い る の だ 。 こ れ は デ ィー リア ス に とっ て も 本 来 、 音 楽 の 女 神 た る ミュ ー ズ へ の 呼 び
か け で あ っ た 筈 だ 。 彼 も 実 際 、 根 源 の ミュ ー ズ を 呼 び 出 し て 、 当 該 作 品 の 先 ず 、 前 奏 部 分 を 楽 曲
テ ク ス トの 織 り地 と し て 現 出 し た 。 確 か に 、 事 細 か に 原 詩 の 詩 句 を 音 符 化 し た 訳 で は な い が 、 そ
の 根 源 は 確 実 に 楽 曲 化 し て い る 。 第11詩
行 目に 序 詩 の 中 核 が あ り、 そ こ に 注 目 し た 筈 だ 。 こ の 意
味 で 、 デ ィー リア ス は序 詩 の 部 分 の 楽 曲 化 を放 棄 し た の で は な く、 前 奏 部 の 折 り返 しの 中 心 部(第
21小 節)で
「ト リス タ ン の 憧 憬 」 の モ チ ー フ を 模 し た 楽 句 を響 か せ る こ と で 、 ワ ー グ ナ ー が あ の
長 大 な 楽 劇 の 終 結 の 、 万 有 の 息 吹 と 浬 樂 の 融 合 し た 「愛 の 死 」 へ 向 か っ て 無 限 旋 律 を そ こ か ら
始 動 させ た 第1幕 の 前 奏 曲 の 憧 憬 の モ チ ー フ と同 じ、始 動 を 示 し た の で あ る(文 字 通 り、指 導 動 機)。
詩 テ ク ス トの ま さ に 折 り 返 し の こ の 詩 行 に"thosebeginningnotesofyearning[初
i・
期形
sickness]andlove"と
あ る。 鍋 島 ・酒 本 訳 で は 「愛 と慕 情 の さ ま ざ ま な あ の 序 曲 」 で あ る が 、 「憧
憬 の 果 て の 愛 の 死 」の ニ ュ ア ンス で あ る し、 「前 奏 曲 」 と は 以 っ て 非 な る 「序 曲 」は 本 稿(4)の
本
文 の 論 旨 か ら も 全 く適 切 で は な い 。 デ ィ ー リア ス が 「トリ ス タ ン」 動 機 を 引 用 した よ う な 意 味 で 、
音 楽 と 詩(言
葉)の
根 源 た る 「始 ま り の 調 べ 」 な の だ(詩
myriadthence-arous'dwords"と
り返 し後 の 序 詩 第13-14詩
人 の 紡 ぎ 出 す 「無 数 の 言 葉 」"the
「究 極 の 言 葉 」"thewordstronger
...thanany"は
この 詩 行 の 折
行 で や っ と登 場)。 ホ イ ッ トマ ンは 年 代 的 に ワ ー グ ナ ー の 『トリス タ ン』
は 知 りえ な か っ た 。 し か し 、 詩 と音 楽 の 根 源 へ 呼 び か け て 、 そ こへ 耳 を 傾 け 、 根 源 の 響 き を 聞 き
出 し て 、 詩 テ ク ス トを 紡 ぎ 出 した の で あ り、 デ ィー リア ス も ワ ー グ ナ ー を 仲 介 に し て 、 ホ イ ッ トマ
ン と 同 じ種 類 の 響 き を 聞 き出 し て 音 化 し た の で あ る 。 単 純 に 「序 詩 」 を 放 棄 し た の で は な い の で
あ る。
21}印
刷 上 の 字 体 の 相 違 に こ だ わ っ た ホ イ ッ トマ ン も、 そ の 相 違 の 深 化 を ね ら っ た デ ィ ー リア ス も、
作 品 化 した テ ク ス ト創 造 に 関 わ っ て い る とい うテ クス ト感 覚(textuality)で
現 在 進 行 中 のIT社
は 共 通 で あ る 。 し か し、
会 で の ウ ェ ッ ブ 言 語 で は そ の 種 の テ ク ス ト感 覚 は 全 く欠 落 し て い て 、 字 体 の
相 違 な ど は 端 か ら 聞 題 に な ら な い こ と を 、 本 の 編 集 と ウ ェ ッ ブ 作 り、 両 方 を 経 験 し て い る 松 岡 正
剛 が 指 摘 し て い る(『 図 書 』(岩 波 書 店)2007年1月
号p.5)。
ホ イ ッ トマ ンや デ ィー リア ス の 試 み と
ア ナ ー キ ー な ウ ェ ッブ 言 語 を 一 緒 に し て は な ら な い の は 当 然 で あ る 。彼 の 表 現 を借 りれ ば 、 フ ォ ー
マ ル ・ウ ェ ア ー(書
物[並
び に 複 合 テ ク ス ト、 筆 者 注])と
カ ジ ュ ア ル ・ウ ェ ア ー(ウ
ェ ッブ)は
、
思 想 も行 動 様 式 も異 な る 全 くの 別 物 だ と い う こ と で あ る。
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『草 の 葉 』 の 日 本 語 訳 は 基 本 的 に 鍋 島 能 弘 、 坂 本 雅 之 訳 岩 波 文 庫 版(1971)に
楽譜
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Boosey&HawkesMusicPublishersLtd.
CD
FrederickDelius.SeaDrift.ConductedbyRichardHickox.Bass-baritone:BrynTerfelwith
BournemouthSymphonyOrchestraChoirs.ChandosRecordsLtd.(2001).CHAN9214
一50一
よ る)
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