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注目のコンサル人 「これが私の生きる道」
2 フロントランナー 注目のコンサル人 「これが私の生きる道」 第1部では、外部の関係者たちからの厳しい指摘が相次いだ。一方で、開発途上国の 現場に深く入り込み、現地カウンターパートをはじめとするプロジェクト関係者たち から強い信頼を勝ち得ている開発コンサルタントたちもいる。ここでは、ユニークな 仕事ぶりで活躍する三人の「コンサルタント道」に迫る。 S TORY-1 石見 和久さん を魅了する石見エンジニアの「コ したが、それでも「将来は国籍に ンサルタント道」とは。 とらわれない“地球人”になろ 夢は地球人 う」と本気で思っていました。 卒業後はしばらくブラブラと過 信じてもらえないかもしれませ ごしていましたが、20歳になっ んが、私は小さい頃から人見知り た時、一念発起して大学に入りま が激しくて、人前で話すのも大嫌 した。専攻は海洋土木。どうせや いでいつも誰かの背中に隠れてい るなら、地球の7割を占める海を 熱い思いを胸にフットワーク軽く るような子どもだったんですよ。 相手に大きなことがやりたかった 飛び回る男―。ミャンマーの港 でも、その一方で、週末に横浜の からです。波の解析と海岸保全を 湾・水運関係者で彼を知らない人 自宅から江の島まで自転車をこい 必死で勉強し、特待生として学費 はいないと言われ、政府関係者や で行っちゃうような自由さという を免除されました。 民間企業からも引っ張りだこの日 か、冒険心は強かったです。 本工営(株)の石見和久さん。人 航空会社でエンジン整備士をし との間に壁を作らない誠実な人柄 ていた父に連れられ、幼い頃から 卒業後、日本工営に入社したの にほれ込んだミャンマー内陸水運 いろいろな国を見る機会があった は、海外で海の仕事ができるから 公社の前総裁は、彼を「ブラザ せいか、漠然と「将来は世界で働 です。国内部門で5年間経験を積 ー」と呼び、一緒に撮った写真を こう」と決めていました。高校時 んだ後、念願の海外部門に異動し 常に持ち歩いているという。周囲 代はあまり熱心に勉強しませんで たのですが、いきなり上司がデン 日本工営(株) コンサルタント海外事業本部 開発事業部 港湾・空港部 ヤンゴン港開発事務所 所長 24 IDJ June 2014 環境の変化にくらいつく 現場 “創” 論 マーク人、同僚がイギリス人とオ ランダ人、部下がベトナム人とい うチームに放り込まれて焦りまし た。なにしろ、ミーティングと言 われ席についても何一つ聞き取れ なかったのですから。国内時代に 設計を担当し、設計技術は身に付 いていましたが、コミュニケーシ ョンが取れずその技術を生かせな かったのは悔しかった。 そこで、その日から3カ月、朝 から夜までその上司から離れず、 英語漬けで生活することに。おか げで、何とか仕事もスムーズに運 ミャンマーにどっぷり浸かること 手権で、大学 いろいろな国で仕事をしましたが、 になるとは思っていませんでした 院1年生の時 べるようになりました。その後、 どこでもだいたい100単語覚えれ けれど(46∼49ページ参照)。 ば会話ができ、300単語覚えれば 「集中は力なり」 電話でも話せると気付いてからは、 には全日本選 手権でそれぞ れ優勝しました。その後、日本代 言葉が怖くなくなりました。ベト こんな私のモットーは、「継続 表として世界を回り、アジア大会 ナム語もインドネシア語もミャン は力なり」ならぬ、「集中は力な で8位入賞を2回果たしました。 マー語も、その方式で最初に集中 り」。集中力には我ながら自信が 3分という制限時間内に3本の して単語を覚え、身に付けたんで あります。幼い時からいったん何 矢を放って65m先の的を射抜く すよ。人間、どんな環境の変化に かに集中し始めるとご飯に呼ばれ には、身体の全神経と感覚を研ぎ さらされても、やる気になれば何 てもまったく気付かない子どもだ 澄まし、風の強さや向き、自分の とか対応できると実感しました。 ったらしいのです。大学時代に勉 心臓の鼓動までも考慮した上で、 環境の変化に伴い、専門性も広 強の傍ら射撃部に入り、ボウガン 撃つべき瞬間を探らなければなり がりました。入社後はしばらく大 射撃に打ち込んだことで、体調や ません。体力はもちろん重要です 学時代の専攻を生かして港湾や海 精神をコントロールし集中力を高 が、身体が疲労してきてからも気 岸関連の事業に携わっていました。 める力がさらに磨かれました。 持ちをどれだけ保てるかという、 2004年12月にスマトラ沖地震津 ボウガン競技とは、弓と銃が一 いうなれば「精神体力」が、この 波が発生したのを機に、翌年から 体となったものを構え、引き金を 競技によって鍛えられたと思いま スリランカに入り、港湾と海岸の 引いて矢を発射して的に当てて得 す。その集中力は、仕事の上でも 知識を踏まえた復旧計画の策定と 点を競うものです。ウイリアム・ 大いに生きています。 防災に関わりましたし、その経験 テルの話にも出てくるので、ご存 が買われて08年5月にサイクロ 知の方も多いのではないでしょう ン「ナルギス」に見舞われたミャ か。はじめは勧誘されるがまま気 コンサルタントと一言で言って ンマーにも入ることになりました。 楽に始めたのですが、次第に熱中 も、国内業務と海外業務は仕事の もっとも、当時は自分がここまで 種類がまったく異なります。海外 し、3年生の時には全日本学生選 コンサルタントという仕事 2014.6 国際開発ジャーナル 25 の場合、案件の形成・提案から、 好奇心に満ち満ちています。 また、出てきた20の成果をお マスタープランの策定、フィージ コンサルタントって、「知らな 客さんに説明する時も、説明次第 ビリティー調査の実施、基本設計 い」「分からない」と言いにくい ではそれが10になってしまうこ や詳細設計、施工監理まで手掛け 立場ですよね。さまざまなことを とがあります。成果を効果的に見 るため、仕事は多岐にわたります。 知っていて、何を聞かれても答え せること。それもマネージャーと しての大事な仕事です。 以前、ベトナムのハイフォン港の を見つけていくためには、常に勉 設計やカイラン港の施工監理にも 強し続けることが必要です。好奇 携わったのですが、その後、背後 心を失ってしまったら、それ以上 地に工業団地ができ、日本にベト 成長できなくなると思います。 私は常々、自分の体は「親」と ナム製品が次々と入ってきたのを 同時に、誠実さも必要です。日 「経験」と「友達」でできている 見た時は嬉しかったですね。こう 本工営は「誠意をもってことにあ と思っています。人の懐に入り込 して一国の経済成長の一端を担え たり、技術を軸に社会に貢献す むのがうまいように見えますか? ることこそが、開発コンサルタン る」という社是を掲げています。 どうでしょうね。確かに、一度関 トとしての醍醐味だと思います。 「技術を軸に」というのはエンジ わりのあった人たちとは長く付き 小さい頃、海外で物乞いの子ども ニア集団として当然のことですが、 合うことが多いですね。でも、自 の姿を見て、「目の前のこの子を 私は特に「誠意をもって」という 分を形成する大切な存在として、 一時しのぎの施しによって助ける 言葉を常に意識しています。われ 友達はちゃんと選びます。 だけではなく、貧困問題を生み出 われが仕事をいただき、成果に満 相手国の人にも、特別なことは さない社会を作りたい」と思った 足してもらえるのは、信頼関係が しません。ミャンマー内陸水運公 のですが、その思いをこうして実 あってこそですから。 社の前総裁が僕を大変気に入って 現できていることが嬉しいです。 私はこれまで、ODA案件のほ くれたのはとても光栄ですが、政 手掛ける範囲が広い分、毎日のよ か、日本や現地の民間企業の案件、 府の高官でも運転手でも、人とし うに大小さまざまなハプニングが 現地政府案件などに関わってきま て同じように誠意をもって接して 起こりますが、それをみんなで解 したが、最近、プロマネや開発事 いるだけです。むしろ相手の立場 決するのも楽しいです。 務所長を務めるようになってから が自分より下の時の方が丁寧に対 開発コンサルタントとして最も は、つくづく「この仕事は1人で 応することを心掛けています。 必要なのは、好奇心ではないでし はできない」と感じます。自分が 判断に迷うことに直面した時も、 「石見流」哲学 ょうか。私は物欲がないんですよ。 どれだけ頑張っても5人分働くこ 最終目標の姿を設定した上で、そ ブランドとかも特段興味ないです とはできません。せいぜい1.5人 のために5年後、3年後、1年後 し。ただ、いつも「見たい」「や 分か、2人分が精一杯でしょうし、 と逆算してあるべき姿を考え、そ りたい」「行ってみたい」という 長続きしないでしょう。でも、人 の時点でベストと思える決断をす の力を合わせれば、 「1+ ることで、いったん下した判断に 1」は3になるかもしれな ついては、反省はしても後悔しな いし、 「1+1+1」は7に いよう心掛けています。エンジニ なるかもしれない。5人集 アとして世界のインフラ開発や防 まれば、その力を20にす 災に携わることで、「地球人にな ることも不可能ではないし、 りたい」というかつての目標を、 サイクロン「ナルギス」で被災した船舶の状況確認調査の合間に ほっと一息 26 IDJ June 2014 それをやることがマネージ 今、こういう形で実現できている ャーの仕事だと思うんです。 ことを嬉しく思っています。