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エネルギーを相互融通するまちづくり - SSCA2.0 スマートコミュニティ協議会
わが街づくり エネルギーを相互融通するまちづくり 西田 壮一 大阪市環境局 環境施策部 エネルギー政策担当 1.はじめに ギーの安定供給とセキュリティの確保に取り組むこ 近年、地球温暖化問題への対応が喫緊の課題とな ととなり、電池関連産業が大阪周辺に集積している り、世界規模で温室効果ガス削減に向けた取組みが というポテンシャルを生かして、技術革新による課 進められている。大阪市においても、持続可能な社 題解決と新たな需要創出により経済活性化につなげ 会を実現するため、地球環境の保全と経済発展の両 ることとし、原子力中心から多様なエネルギー源へ 立を図ることが必要不可欠であると考え、環境・エ の転換を目指して以下の4つの柱でエネルギー政策 ネルギー産業を最重要分野のひとつに位置付けると を進めることとしている。 ともに、2020年を展望し、市民・事業者をはじ 「創エネ」:再生可能エネルギーなどを創り出す め関西圏の他の自治体とも連携・協働して取組みを 「新エネ」:新たなエネルギー源を研究・開発する 進めていくための指針として、2011年3月には、 「蓄エネ」:エネルギーを貯め、供給安定化を図る 「おおさか環境ビジョン」を取りまとめた。(図1- 「省エネ」:エネルギーの効率的利用を図る 1参照) これらの施策を推進し、持続可能なエネルギーセ 一方、昨年3月11日に発生した東日本大震災に キュリティが確保された社会を実現するためには、 よる福島第一原子力発電所事故により、原子力発電 これまでの需要側に立った施策展開ではなく、需要 の安全性の課題とともに、垂直統合型の電力需給構 と供給が一体となった地産地消の地域分散型のエネ 造の脆弱性が顕在化した。大阪市はエネルギーの大 ルギーシステムの構築が必要となる。(図1-2参 消費地であることから市民生活と企業活動の安全・ 照) 安心を守り持続可能な社会を実現するため、エネル 図1-1 おおさか環境ビジョン 今後の方向性 2 都市環境エネルギー 第103号 図1-2 新たなエネルギーシステム 地域分散型のエネルギーシステムの構築、環境未 咲洲コスモスクエア地区は、大阪湾岸の南港エリ 来型の都市構造への転換のため、再生可能エネル アの1つであり、コスモスクエア駅、トレードセン ギーを最大限活用し、一方でエネルギー消費を最小 ター前駅を中心にショッピングモールやオフィスビ 限に抑えていく社会の実現が必要であり、家庭やオ ル、展示場などが立地している。 フィスビルさらにはコミュニティ内でのエネルギー その中で、大阪府市の関連施設であるATC(ア マネジメントへの要求が高まっている。 ジア太平洋トレードセンター)、インテックス大阪、 大阪市では、昨年12月に関西イノベーション国 大阪府咲洲庁舎、地下鉄とニュートラムの乗り継ぎ 際戦略総合特区に指定された咲洲エリアを対象に、 駅となるコスモスクエア駅の4施設を実証事業の舞 再生可能エネルギーを活用しながら、熱・電気など 台として選定した。(図2-1参照) の相互融通によるエネルギー分野の最先端技術の開 発を進め、新たなビジネスチャンスの創出を目指す 2)基本コンセプト こととし、国土交通省の補助を受けて、平成24年 咲洲地区スマートコミュニティ実証事業計画で 3月に咲洲地区スマートコミュニティ実証事業計画 は、以下の3項目を、基本コンセプトとして位置付 を策定した。 けることとした。 ①既成市街地における自立分散型スマートコミュニ 2.実証事業の全体計画とコンセプト ティを中核として、グリーン・イノベーションと 1)対象エリアの立地条件 ライフ・イノベーションをテーマとした“世界に 図2-1 咲洲コスモスクエア地区の対象エリアと4つの施設 都市環境エネルギー 第103号 3 開かれたショーケース”となることを目指して、 3.実証事業計画 咲州コスモスクエア地区において、環境・エネル 1)鉄道インフラ(軌道空間)を利用したエネルギ ーネットワークの構築 ギー関連実証事業を推進する。 ②市民参加・市民目線を重視し、生活現場に密着し 既成市街地におけるエネルギー供給インフラ(電 た体感型ショーケースとなることを目指し、可能 力線・熱導管)の整備には、イニシャルコストや、 な限りの見える化に取り組むこととする。 設置スペースが課題として挙げられるが、本実証事 ③限られたスマートコミュニティエリアにとどまら 業では鉄道インフラ(軌道空間)を活用することに ずに、ビル・マンションなどエリア全体に広がる よりイニシャルコストという課題の解決を図ること “スマート・ムーブメント”をここ咲州コスモス とし、施設や駅等の建物間を自営網(電力線・熱導 管)で接続することにより、地域や施設が保有する クエア地区で推進することとする。 電源、熱源の共有化によりエネルギーの相互融通を 3)計画の概要 行うこととした。(図2-2参照) 咲洲地区スマートコミュニティ実証事業計画にお 図3-1に示すように、建物間を自営網で接続し いては、鉄道インフラ(軌道空間)上に自営網(電 各施設が持つ既存インフラ設備を活用・共有化し、 力線・熱導管)を整備し、施設や駅などを結ぶエネ 各設備の運転台数を最適に制御し、各機器を最高効 ルギーネットワークを構築する。 率で運転制御することによって、地域全体での設備 このエネルギーネットワーク上で、電気や熱の需 効率の最大化が可能となる。 給を最適にコントロールするEMS(エネルギーマ ネジメントシステム)に関連して必要となる技術開 発を進め、電気や熱の相互融通を行うこと、また中 2)複数のビルを対象としたエネルギーマネジメン トシステムの構築 期的目標として、RT(ロボットテクノロジー)、ス 地域内の施設が保有する電源・熱源からのエネル マートモビリティなど新産業の創出にも取組むこと ギーの供給量や各施設で消費するエネルギー量を外 とした。 部のクラウドサーバーから監視し、各施設が保有す ႆᩓ ༏ ༏̓ዅ 図2-2 基本システムのイメージ 4 都市環境エネルギー 第103号 る設備を制御することにより、消費エネルギー総量 の最小化と安定供給を実現するエネルギーマネジメ ントシステムを構築し、様々なエネルギーの消費構 造を持つビル群を最適に制御することができるエネ ルギーマネジメント手法を開発し、相互に接続され た各機器(電源、熱源等)の運転効率の最大化とと もに、地域全体でのエネルギー利用のピークカッ ト・ピークシフトの手法を開発することとした。 3)自立・分散型発電システムの導入 咲洲地区内の既存電源や熱源の利活用を図るとと 図3-2 熱融通による電力削減効果と各施設のエネルギー 消費の最適化 もに、再生可能エネルギーの活用を検討する。 せた排熱利用などの事業を検討することとした。 大阪市域では、日照時間が比較的長く、風速が弱 図3-3に示すように、本実証事業のフィールド いこと、また大都市であるが故に日々大量の廃棄 の1つとして検討を行っているATC(アジア太平 物、下水が排出・処理されていることや市内の河川 洋トレードセンタービル)の地下には、排水枡が設 流量が豊富で海にも面していることから、本市にお 置されており、この排水枡を活用した小型バイオマ ける再生可能エネルギーとしては、市域で利用可能 ス発電の開発を目指している。 量が大きく、関西に生産拠点が集積しているという 特徴を持つ太陽光発電やごみ焼却余熱による発電、 4.実証事業のスケジュール 下水処理場での消化ガス発電など都市エネルギーの 1)事業者協議会の設立 活用、温度差エネルギーの活用などが有望である。 咲洲地区スマートコミュニティ実証事業において は、本年6月に参加事業者の公募を実施、8月には 本実証事業においては、未利用エネルギーである 事業者により咲洲地区スマートコミュニティ協議会 下水を既存の施設で活用することを目指し、下水熱 が設立され、事業者間の調整や大学・研究機関との の利用やバイオマス発電の小型化やバイオガスを貯 連携推進など、実証事業に必要な技術開発・集積と 蔵することによるピークカットシステムの開発など 次世代のエネルギーインフラ及びサービスまでを含 の他、ガス発電と低温吸収式温水発生機と組み合わ めた社会システムの構築を目指し、産学官一体と ⣔⤫㟁ຊ タ タ タ タ ⇕※ Ⓨ㟁 䜾䝸䝑䝗ෆ⼥㏻ 㕲㐨⥙䜲䞁䝣䝷 ᪉ྥ 㟂⤥ ᪉ྥ 㟂⤥ 㟁ຊ⥺ ᪉ྥ㟂⤥ ⇕⟶ 㥐 㕲㐨 Ⓨ㟁 &㥐 ⇕※ 䜾䝸䝑䝗㛫䛾⼥㏻ ྛ䚻䛾ᣢ䛴䚸Ⓨ㟁※䜔⇕※䜢䚸㕲㐨⥙䜲䞁䝣䝷䜢⏝䛔䛶 ඹ᭷䛧䚸ຠ⋡䜢᭱䛩䜛 図3-1 エネルギーインフラ概略図 都市環境エネルギー 第103号 5 図3-3 排水枡を活用したバイオマス発電構想 なって本実証事業を推進している。 5.今後の課題 平成23年度に策定した本実証事業計画は、平成 今まさに3年間のスマートコミュニティ実証事業 24年度から3年間の実証事業とし、詳細調査・準 のスタートをきったところであるが、現実的には、 備フェーズ、システムの開発・導入フェーズ、運 以下のように様々な課題も山積している。 用・改良フェーズと3段階でトータルシステムの実 ・エネルギーの融通のためのインフラ構築 証事業を進めることとした。 ・エネルギーの相互融通施設間における事故・トラ ブルなどの影響を最小限に抑え機能維持する技術 2)スケジュール の確立 ①詳細調査・準備フェーズ(平成24年度) ・エネルギーの長距離伝送による損失への対応 ・咲洲地区の各施設の設備の詳細とエネルギー利用 ・狭いエリアでの系統電力の安定化技術の確立 状況の詳細調査を実施 ・技術開発や実証事業に参画する企業を募り事業性 検討を行うとともに、全体システムの設計や効果 のシミュレーションを行うこととしている。 ・事業化に向けて、資金面や事業性のリスク評価 ・規制緩和(電気事業法、計量法)の実現 (関西イノベーション国際戦略総合特区での規制 の特例措置) ②システムの開発・導入フェーズ(平成25年度) ・新技術の開発と設計した技術とシステムの導入を 6.最後に 進めることとし、同時にエネルギーネットワーク 平成24年9月、咲洲地区スマートコミュニティ の構築をスタートする。 実証事業計画に基づいて実施する事業が環境省の ・鉄道インフラによる複数需要家・エネルギー供給 者間での連携制御技術の開発を行う。 「地球温暖化対策技術開発・実証研究事業」に採択 をいただいた。 ③運用・改良フェーズ(平成26年度) この委託事業は、大阪市立大学が、京都大学、大 ・導入した技術・システムを実際に運用開始し、シ 阪府立大学、大阪市、㈱ダン計画研究所、㈱Afes ステムの検証と改良を行う。 と共同して実施する「既設熱源・電源を自立・分散 化し鉄道網を利用した地域融通エネルギーシステム 6 都市環境エネルギー 第103号 の開発事業」である。この事業においては、施設間 技術の開発を目指している。(図3-4参照) で電気や熱のエネルギーを相互融通するエネルギー 今後、国土交通省・環境省をはじめ、大学や専門 ネットワークのインフラ構築と分散型エネルギーを 的技術者、民間事業者の知識とノウハウの結集によ 需要機器毎に供給することを可能とすることでエネ りこのスマートコミュニティ実証事業を成功させ、 ルギーの利用効率を高めるための要素技術となる、 事業化につなげていきたい。 高電圧系の電力ルーティング技術と熱パケット搬送 図3-4 電力ルーティング技術と熱パケット搬送技術 都市環境エネルギー 第103号 7