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国際競争力復活の方向性 - Nomura Research Institute

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国際競争力復活の方向性 - Nomura Research Institute
12-NRI/p20-33 02.11.16 13:01 ページ 20
特集 日本企業の新しい国際競争力
国際競争力復活の方向性
中 国 市 場 か ら 見 た 日 本 の 製 造 業
御手洗久巳/岸本隆正/原 正一郎/此本臣吾
日本の製造業は、経営・事業構造やグローバル戦略の抜本的な見直しを迫ら
れている。事業の選択と集中を徹底し、また生産システムを再強化し、改めて
世界最強の「もの作り」を可能とする開発・生産基盤の構築を急いでいる。
一方、高成長を続ける中国は、海外製造企業の流入と地場企業の台頭で、新
たな「もの作り大国」として世界の注目を集めている。日本製造業の復活は、
そのような中国の成長活力をいかに巧く内部に取り込み、活用しながら、中国
と共存共栄を図っていけるかにかかっているといっても過言でない。
中国の多様な生産インフラを活用する動きは、急成長する自動車市場に対応
してトヨタ自動車などが本格的な現地生産体制を築きつつある自動車産業や、
電子部品の委託生産、家電の市場立地生産にとどまらない。設備投資が大型化
する携帯電話やノートパソコン等の戦略的な生産拠点の構築、ソフトウェア開
発での提携などが広く行われつつある。日本の製造業の復活に向けた本格化な
取り組みが、今まさに中国を舞台に始まっている。
20
知的資産創造/2002年 12月号
当レポートに掲載されているあらゆる内容の無断転載・複製を禁じます。すべての内容は日本の著作権法及び国際条約により保護されています。
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Ⅰ 「もの作り大国」からの脱落?
自動車の生産では、原価低減と品質向上を
自動車と部品メーカーが一体となって進め
1980年代の日本の製造業は、「もの作り」
る。複雑多岐にわたる技術要件を社内外で綿
で圧倒的な国際競争力を謳歌した。しかし、
密に連携し、創意工夫(カイゼン)を重ね、
1990年代、冷戦構造の崩壊やアジアパワーの
製品に作り込んでいくという、暗黙知を駆使
勃興などを背景としたグローバル市場の拡大
するプロセスは日本が最も得意とするところ
期にありながら、効率的な経営・事業構造と
である。
新たなビジネスモデルを先行して構築した欧
また、機械、材料、電子などのさまざまな
米やアジア企業の台頭に、日本企業の多くは
技術が高度に複合化しているため開発設計の
国際競争力の大幅な減退を余儀なくされた。
奥が深く、新興メーカーは容易に追従できな
毎年、世界各国の国際競争力ランキングを
い。グローバルなブランドや販売・サービス
発表しているスイスの IMD(経営開発国際
ネットワークが必要なため、相当な資本力も
研究所)によれば、日本の評価は年々低下し、
求められる。
2001年は台湾(24位)、マレーシア(26位)、
さらに、燃料電池に代表される環境技術、
韓国(27位)に抜かれて30位となった。一方、
ITS(高度交通情報システム)など次々に登
市場経済化政策のもとで急成長している中国
場してくる新技術への対応も求められる。
は31位となり、潜在市場性とともに「もの作
り」での競争力向上が注目されている。
これまでの「もの作り大国」の本家とし
て、日本企業は生き残りのため、経営体質・
したがって、アジアの追い上げという、日
本の製造業の多くが直面している悩みは、自
動車産業に関するかぎり当面はありえないと
思われる。
事業構造の改革や、中国展開を含むグローバ
ル戦略の本格的な見直しを迫られている。
本稿では、日本の製造業のなかでも勝ち組
と評価される自動車産業、工作機械産業と、
2 開発設計・生産準備の
期間短縮への取り組み
自動車産業の競争力の源泉は、従来の品質
かつては圧倒的な競争力を誇りながら、低迷
向上とコストダウンのさらなる追求に加え
を余儀なくされている電子産業(電機を含
て、環境・情報通信技術への対応力、グロー
む)、半導体産業を取り上げ、各産業の現況
バルな開発生産体制の整備、サービス・金融
と課題を整理しつつ、特に中国要因を活用し
等のバリューチェーン(価値連鎖)の拡大な
た国際競争力復活の可能性や方向性を探る。
ど、多様化している。
さらに、先進自動車メーカー間で激しい競
Ⅱ 中国戦略が要の自動車産業
争が繰り広げられているのが、開発と生産準
備の期間短縮である。できるだけ車台は共通
1 日本でも数少ない勝ち組産業
低迷が続く日本の製造業で、自動車産業は
数少ない「勝ち組」である。
化し、消費者ニーズにきめ細かく対応させて
派生車(同じ車台を利用する姉妹車)を数多
く展開し、シェアの拡大を目指す。また、移
国際競争力復活の方向性
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ろいやすい消費者ニーズに適合させるために
する欧米勢を追撃する体制を整えてきた。
は、企画提案→製品構想→詳細設計→生産準
ここしばらくは、欧州戦略の強化、それ以
備という一連のプロセスを可能なかぎり短く
上に中国戦略をどう成功させるかが、日本の
する。
自動車メーカーにとって最大の関心事になる
このような戦略を実現するには、①設計や
と推測される。
生産準備などの複数のプロセスが同時並行で
進められるような情報システムの整備、②グ
4 本格的なモータリゼーションが
近づく中国市場
ローバルに開発設計拠点を設置し(例えば、
生産規模の大きい日本、北米、アジア)、国
中国では、2005年を目標年次とする第10次
内外の拠点が相互連携して同時並行で開発で
五ヵ年計画において、2005年の自動車生産台
きる業務プロセスの設計――が必要となって
数を310∼320万台、このうち乗用車生産台数
くる。
を110∼120万台としている。中国国務院発展
研究中心などへのインタビューの結果でも、
3 地域的にはアジア、欧州が焦点
表1のように、乗用車のシェアは現状の30%
世界の自動車市場は、おおむね、北米と欧
程度から2015年には60%に達すると予測され
州が3分の1ずつ、残りの3分の1をアジア
ており、これからの自動車市場は乗用車が牽
(日本を含む)とその他地域が占めている。
日本の自動車メーカーは、日本、東南アジ
引することは間違いない。
ところで、日本の自動車市場は1964年に
ア、北米では優位なシェアを築いているが、
100万台を超えてから、66年には200万台、68
欧州、中国では出遅れている。欧州は伝統的
年には300万台と急成長している。中国では、
に小型車中心でコスト競争が厳しく、トヨタ
新車価格の高さに加え、現状では乗用車1台
自動車、ホンダといえども長年攻めあぐねて
の年間維持コストが沿岸都市部の1人当たり
いる。また、中国もいち早く合弁設立で市場
の年間消費額をさえ上回ってしまうなど、本
参入したVW(フォルクスワーゲン)やGM
格的なモータリゼーションにはまだしばらく
(ゼネラル・モーターズ)が高いシェアを築
き、日本勢は後塵を拝している。
時間が必要である。
2008年の北京オリンピック開催の前後か
しかし、ホンダが広州汽車、トヨタ自動車
ら、乗用車が市場成長の牽引役となる本格的
が最大手の第一汽車、日産自動車・ルノーも
なモータリゼーションが始まると予想され
業界大手の東風汽車と包括提携を結び、先行
る。
5 業界再編が加速する
表1 中国の自動車市場の予測
自動車販売台数(万台)
うち乗用車
乗用車のシェア(%)
中国の自動車産業
2000年
2005年
2010年
2015年
209
320
420
590
61
115
210
354
する。中央政府は長年にわたり、産業の競争
29
36
50
60
力を高めるために、メーカー数を削減する政
中国には完成車メーカーが100社以上存在
注)2000年は実績値
出所)中国国務院発展研究中心へのヒアリングより作成
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知的資産創造/2002年 12月号
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策を打ち出している。しかし、各メーカーは、
などの流通サービス面での競争力の確立も同
雇用の受け皿、納税という点で、各社が所在
様に重要である。
する地方政府と密接な関係にあるため、中央
上海に本拠地がある上海汽車工業は、車両
対地方という構図のなかで、必ずしも中央の
の開発と生産はVWおよびGMとの合弁会社
思い通りに業界再編が進んでいるわけではな
それぞれに委ね、自らは経営資源を流通サー
い。
ビスに重点投入する方針を打ち出している。
一方、WTO(世界貿易機関)加盟により、
自動車に関連する市場では、新車販売額より
完成車の輸入税率が2006年7月には25%まで
も、流通サービスに関連した市場規模の方が
引き下げられ(現在の税率は80∼100%)、輸
はるかに大きい。上海という地の利を活かし、
入数量制限も2005年には撤廃されるなど、こ
流通サービスで圧倒的なシェアを確立しよう
れからの国内市場はグローバルな競争にさら
とする上海汽車工業の戦略は、極めて妥当な
されることになる。
ものである。
すでに外資と提携・合弁関係を構築してい
7 日本企業にとって負けが
る上海汽車工業、第一汽車、東風汽車(以上
許されない市場
は3大メーカーと称される)などですら、今
後の競争を深刻に考えている。ましてや外資
今後10年で、中国の乗用車市場は350万台
との関係を持たない中国現地の企業群は、生
に近づく。仮に10%のシェアをとれば、35万
き残りをかけた経営を強いられることになる
台となる。これは東南アジア一国の総市場、
トヨタ自動車の国内生産量の10%に匹敵する
(表2)。
規模である。日本の乗用車市場はここ数年、
6 流通サービス面での
四百数十万台で推移している。中国の乗用車
差別化が鍵を握る
市場は2015年でも現在の日本には及ばない
中国の自動車市場で優位なポジションを築
が、確実にその差は縮まってくる。
くには、整備サービス、ローン、中古車販売
表2
このような成長市場を他国勢に抑えられれ
中国自動車メーカーの生産・販売台数(2001年)
企業名
生産台数(千台)
販売台数(千台)
提携外資
上海汽車工業(集団)
440 (19%)
449 (19%)
VW、GM
第一汽車集団
420 (18%)
407 (17%)
VW、アウディ、GM、スズキ
東風汽車集団
263 (11%)
265 (11%)
日産自動車、シトロエン、現代自動車、
三菱自動車工業
長安汽車(集団)
225 (10%)
230 (10%)
スズキ
ハルビン汽車集団
139 (6%)
142
(6%)
北京汽車工業集団
134 (6%)
137
(6%)
昌河飛機工業
121 (5%)
121
(5%)
金杯汽車
74 (3%)
75
(3%)
天津汽車工業
59 (3%)
80
(3%)
自動車メーカー(103社)総計
2,334(100%)
2,364(100%)
クライスラー、いすゞ自動車
トヨタ自動車、ダイハツ工業
広州汽車(ホンダ)など
注 1)カッコ内はシェア
2)GM:ゼネラル・モーターズ、VW:フォルクスワーゲン
出所)中国政府機械工業局の資料より作成
国際競争力復活の方向性
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ば、日本の自動車産業にとっては大きな問題
が発生することになる。
ば十分に追いつけるはずである。
部品メーカーの育成も重要であるが、開発
例えば、中国でのスケールメリットを活か
力を伴う現地部品メーカーは中国ではまだ少
して、圧倒的なコスト競争力を持つ欧米系メ
ない。この面でも、日本勢は大きな後発参入
ーカーの工場ができれば、そこから日本市場
のハンデを抱えているわけではない。
へ低価格モデルを大量に輸出してくる可能性
競争力上、最も重要と思われる車両の設計
が出てくる。消費者ニーズが似通うアジア近
開発力も、中国最大手の上海大衆(上海汽車
隣市場への輸出も考えられる。
工業とVWの合弁会社)でも設計はドイツ本
また、完成車だけでなく、部品レベルでも
国にほとんど頼っており、中国で行われてい
中国での品質の作り込みが可能となれば、日
る設計は限定的なものにとどまっている。こ
本の強みである部品産業の集積が脅かされる
こでも、今から日本勢が追い上げるのは十分
可能性も出てくる。
に可能である。
逆に、中国で勝ち組となれば、中国市場で
大都市部でのモータリゼーションはすでに
の販売増にとどまらず、中国を、例えば、コ
始まっている。中国全土にその波が広がるま
ストに厳しい小型車分野の生産基地として将
でのあと数年が、自動車メーカー各社に残さ
来的に活用する道が開け、また中国の部品生
れている時間である。その間にどこまで中国
産力をグローバルな競争力の向上に結びつけ
での事業体制を作り込めるか、熾烈な競争が
る可能性も考えられる。
本格的に始まることになるが、後塵を拝して
中国事業が成功するか否かは、中国のみな
らず、当該メーカーのグローバル戦略全体に
きた日本勢にもまだ十分に勝ち目が残されて
いる。
影響を及ぼすことになる。
Ⅲ 国内生産型の工作機械産業
8 中国でも勝ち組入りへ
24
それでは、VWやGMといった欧米系の自
1 世界トップだが、厳しい
動車メーカーに大きく出遅れている日本勢
追い上げにあう日本企業
は、はたして中国市場で勝ち組になれるのだ
日本の工作機械の生産額は、1983年からド
ろうか。筆者らは、先行する欧米勢を、日本
イツ、米国を凌ぎ、現在まで継続的にトップ
勢が比較的短期間で追い抜くことも可能では
を維持している。受注では50%程度を外需に
ないかと考えている。
依存しているが、近年、グローバルに市場が
中国での競争を考えると、まずは流通サー
成熟化していることに加え、米国、台湾、中
ビス網の確立が重要であるが、この領域は本
国などの競合国の生産増加により、日本の生
格的な外資への開放がこれから始まる。その
産は頭打ちとなっている。
ため、先行する欧米勢と日本勢に差はさほど
生産量が増加している国では、低価格機種
ない。現地メーカーも流通サービスの経営レ
の生産が中心で、世界的に低価格化が浸透し
ベルは高くなく、日本勢も今から追いかけれ
つつある。この要因としては、NC(数値制
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御)装置等の部材の低価格化などに加え、ア
ジア市場で低価格機種に対するニーズが増大
したことがあげられる。
企業から調達しているものが多い。
各企業は、低価格部品や材料を調達するた
めに、海外調達先の多様化を検討しているが、
なかなか進んでいないのが現状である。現在
2 日本企業は国内生産を主体に
グローバル供給
日本の工作機械メーカーは、一部、米国、
取引している国内企業と比較して、海外の場
合、品質、納期、コストの面で優れている企
業がまれであることが最大の要因である。
台湾、中国などで、現地市場向けの中小型機
現在、海外から調達している部材は、新製
種を中心に最終組み立てを実施しているケー
品の開発時には、国内企業と協力して開発を
スはあるものの、ほとんど国内で開発・生産
行い、量産段階になった時点で、日系の海外
を行っている。
拠点から調達するケースが多くなっている。
工作機械の生産コストの内訳は、大まかに
いって、原材料費が50∼60%と最も大きく、
人件費15%、設備償却費10%、その他が15∼
4 周辺産業との密接な関係を
背景に、開発も国内が基本
25%である。人件費比率が15%と比較的大き
工作機械メーカーの開発機能は、現状では
く、低減の余地がある。しかし、部品と部品
すべて日本国内にある。納入先は海外もある
を組み合わせる際に高い精度が要求されるた
ため、海外の営業・サービス拠点からのマー
め、一概にアジアなどでエンジニアリングレ
ケティング情報などを参考にしているが、そ
ベルの低い人材を活用するわけにはいかな
の納入先が日本企業の場合も多く、発注情報
い。そのため、海外進出はなかなか進みにく
は日本にある本社から受けることが一般的で
い産業分野である。
あり、国内ニーズを反映させている。
開発する際は、周辺に立地している協力企
3 周辺に立地する関連産業との
密接な関係
業と一体となって取り組み、試行錯誤が繰り
返される。このため、情報交換が不可欠であ
工作機械の部品点数は、2000∼3000点とさ
り、過去から取引関係にあって容易に打ち合
れる。それらの部品を生産する協力工場は、
わせができる企業と協力している。また、こ
大手メーカーの場合、400∼500社程度あり、
れらの企業は、特定の工作機械メーカーと密
多くは、最終組み立てを行う工場周辺に立地
接な協力関係にある場合が多く、競合他社へ
している。
の開発情報の漏洩防止という点にも効果を発
近年、鋳物や板金加工、一部の簡単なユニ
揮している。
ット部品を、中国や台湾などの海外から調達
するケースが出ているが、まだ部品・材料調
達の10%に満たない程度にとどまっている。
鋳物については、中国の地場企業の場合が多
いが、それ以外の部材は海外に進出した日本
5 高速化、高精度化、高機能化を
目指す日本企業
工作機械市場では、低価格ニーズとともに、
依然として高速化、高精度化、高機能化のニ
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ーズも強い。高速化は、加工時間を短縮する
ことにより生産性を向上させ、高精度化は、
6 日本企業の中国展開の可能性
日本企業は、今後も継続的に国内での開発、
精度の高い加工により付加価値の高い製品を
生産体制を維持することに変わりない。しか
製作して製品価格に反映させることができ
し、世界の工場化している中国が、工作機械
る。また高機能化は、複雑な加工を行うこと
の需要地として大きく伸びている。したがっ
や、加工時間の短縮に寄与する。
て、こうした事業機会を確実なものとするた
日本企業のなかには、低価格化に取り組む
めに、日本企業は今後、中国国内で、低価格
企業もあるが、台湾、韓国、中国のメーカー
機種を中心に最終組み立てを増加させる可能
と価格面で競争したとしても勝負にならない
性が強い。
ため、一般的に多くの企業は、高速化、高精
2001年から最終組み立てを開始しているヤ
度化、高機能化を目指し、ハードだけでなく
マザキマザックなど大手工作機械メーカーに
ソフト面も含めた研究開発に積極的に取り組
続いて、今後も他メーカーの中国進出が予想
んでいる。
される。ただし、当面、製品設計・開発、ソ
高速、高精度、高機能という製品性能によ
フトウェア開発、コア部品生産、主要機種の
るもの以外に、サポート体制の充実、提案営
組み立ては、日本国内で優先的に実施される
業の強化が競争力の鍵としてあげられる。特
と予想される。
に、中国や台湾メーカーなどの低価格品との
現地に進出した日本メーカーによると、今
差別化には、サポート体制の充実による効果
年の中国メーカーの工作機械生産高は減少
は大きい。
し、日本メーカーの中国におけるシェアが飛
日本企業はこれまで、つねに高性能な工作
躍的に向上しているようである。マザーマシ
機械を提供し、主要ユーザーである日系や米
ンである工作機械は、悪かろう安かろうでは
国系自動車メーカーなどの海外ユーザーに対
中国市場でも通用しない。高品質な製品を目
するアフターサービス体制の強化に取り組ん
指す日本企業が、中国市場でもシェアを向上
できた。一方、中国や台湾メーカーは、自国
させ始めている現れであるといえる。
内のユーザー向け納入に特化し、海外市場へ
の参入の経験は浅い。
こうしたなかで日本の工作機械メーカーの
このように、急拡大する中国市場で、当面
は日本企業の競争力が強まっていくことが期
待される。
ユーザーの多くは、充実したサービス体制に
期待し、機械の故障による機械停止時間の短
Ⅳ 正念場の電子産業
縮や、新しいツールや加工方法に関する情報
の提供を望んでいる。また、技術研修に対す
る要望も強く、主要メーカーは主要国には技
術研修センターを設置して、ユーザー企業の
オペレーター研修に取り組んでいる。
1 情報通信・電子デバイスでの
低迷
21世紀を迎えて、日本の電子産業(電機を
含む)は正念場に立たされている。
図1に示すように、日本企業は、AV(音
26
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図1 日本企業の主要電子製品生産(国内+海外)とグローバルシェア
400
80
海外企業生産
350
70
日系企業海外生産
日本企業国内生産
日系企業グローバルシェア
300
60
250
生
産
量
︵ 200
百
万
台
︶ 150
50
100
20
50
10
シ
ェ
40 ア
︵
%
︶
30
0
0
1997
2001
カラーテレビ
1997 2001 1997
VTR
2001 1997
電子レンジ
2001 1997
エアコン
2001 1997
冷蔵庫
2001 1997
デスクトップ
パソコン
2001 1997
2001 1997 2001年
ノートパソ インクジェッ
コン
トプリンター
携帯電話
出所)富士キメラ総研の資料などより作成
響・映像)機器やパソコン周辺機器などの供
ャッチアップを余儀なくされている。
給では、円高で低下したコスト競争力を主に
海外生産でカバーし、従来のシェアを辛うじ
て維持している。
2 国際競争力再生に必要な
4つの条件
しかし、1990年代を通じてグローバル市場
今後予想される技術ロードマップを前提に
が著しく成長した情報通信分野では、日本が
すると、日本の電子産業も潜在的には競争力
得意なメカトロニクスや材料技術を多用する
を回復しうる可能性を持つ。しかし、これは
プリンター、DVD(デジタル・ビデオディス
日本の産業社会や企業経営が、現在の危機的
ク)などの一部を除けば、デファクトスタン
状況に適切に対応しうるかどうかに強く依存
ダード(事実上の標準)が支配するパソコン
している。
や、各国の通信事業者の意向に依存する携帯
特に、①事業の選択と集中、② IT(情報
電話などで欧米企業に先行され、いまだにグ
技術)投資を伴う事業構造のスリム化・効率
ローバルシェアを確保できない状況にある。
化、③先端技術開発のための仕組みの構築、
また、白物家電では韓国や中国企業の台頭
さらに、④アジア全体との共存共栄を考慮し
が著しく、さらに、かつて圧倒的な競争力を
ながら、特に中国の成長活力に依存した国際
誇った半導体や LCD(液晶ディスプレイ)な
分業の推進――といった4つが、今後、日本
どの電子デバイスでも、韓国や台湾企業のキ
企業が国際競争力を回復するための必要条件
国際競争力復活の方向性
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といえる。
システムの改革を本格化し、在庫圧縮による
収益性確保を目指している。
3 事業の選択と集中および IT投資
による事業構造の変革
従来の機械加工や組み立て工法などでの高
いエンジニアリング力に加え、3次元CAD
まず、従来の総花的で横並び的な事業展開
(コンピュータ支援設計)やバーチャル設計
から、各社が最も得意とするコア事業に経営
などでの開発工程の武装化、さらに上記のよ
資源を集中する事業構造への改革が不可欠で
うな IT投資に依存した全体最適の発想によ
ある。
る生産システムの再構築によって、弱体化し
日立製作所、NEC、東芝など大手総合電機
企業は、分社・カンパニー制の導入、アライ
たとされる日本企業の製造面からの国際競争
力復活の可能性が強まっている。
アンス(提携)などで組織・事業構造の改革
を図り、オンリーワン企業を目指す体制を整
備しつつある。特に、コア事業の競争優位を
4 先端技術開発による電子産業の
国際競争力確保
確保するため、ソリューション、デバイスな
日本の電子産業の国際競争力にとって、生
どの戦略分野で、新しいビジネスモデルや独
産システムの再構築と同時に、製品や部品の
自の開発・生産基盤の確立を目指している。
ブラックボックス化や海外を圧倒する先端技
しかし、多くの場合まだ十分な成果が見ら
術の開発が欠かせない。ネットワーク、ソフ
れていないのが実態で、コア事業への集中や
トウェア、デバイスなどの電子分野での研究
意思決定システムの改善など、各社とも加速
開発の成果に加えて、現在官民あげて研究開
的な変革が必要とされる。
発が進むバイオやナノテク分野での成果は、
利益体質の確保には、事業構造のスリム
化・効率化が必要である。ソニーや松下電器
実は電子産業の先端部品や製品開発にも大き
く寄与する見込みである。
産業は、事業部制や製造組織を抜本的に見直
バイオやナノテクなどでの研究成果を電子
し、生産物を売るというプロダクトアウトか
関連事業に結びつけるためには、産学の連携
ら、顧客の必要とする製品を作って売るとい
やベンチャービジネスの育成支援が有効であ
うマーケットインへの供給構造の転換を可能
る。1990年代の日本では、技術移転や事業化
とする、製造基盤の強化を図りつつある。
支援の仕組みはうまく機能しなかった。だが
最近の事例としては、ソニーの11の生産子
昨今は、徐々にではあるが、このような仕組
会社を束ねた「ソニーEMCS社」、松下電器
みも改善されており、特に2000年代中盤以降、
産業の事業部製造部門の「ファクトリーセン
先端分野の研究開発の成果が、日本の電子産
ター化」などがある。規模の小さいラインを
業活性化に大きく寄与すると期待される。
少人数で運営するセル生産方式の導入に加え
て、BTO(受注生産)、SCM(サプライチェ
ーン・マネジメント)、e−MP(企業間電子
商取引サイト)など、ITの導入による生産
28
5 技術・資本集積の進むASEAN
との国際分業の深化
1980年代中盤以降、日本企業はASEAN
知的資産創造/2002年 12月号
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12-NRI/p20-33 02.11.16 13:01 ページ 29
(東南アジア諸国連合)に大挙進出し、同地
とを志向している。また、効率的なSCMを
域はAV機器、パソコン周辺機器、電子部品
構築することでスピード経営を実践し、汎
などの多様な製品・部品を供給する一大生産
用・ローエンド製品ながらもグローバル企業
拠点化している。
に成長し始めている。
近年は、部品の現地調達が進み、現地エン
中国の電子関連市場の顕在化と産業集積の
ジニアリング力の向上や日本のエンジニア不
高度化に伴い、日本の電子関連企業は、今後
足などを背景に、AV機器や白物家電などを
中国市場への本格的な参画と、中国の優れた
中心に現地開発機能が一段と拡充される傾向
「もの作り基盤」を活用する戦略的な供給拠
にあり、日本との新たな分業関係が構築され
点化のため、一段とコミットメントを強めざ
つつある。
るをえない。
今後、ASEANと中国との競合がますます
コスト競争が厳しいAV機器や白物家電な
厳しくなるのは間違いない。しかし日本企業
どの分野では、中国企業とのアライアンスに
は、2000年代中盤以降に潜在力の大きな域内
よる相互依存の事業棲み分けが始まってい
共通市場になると思われるAFTA(ASEAN
る。情報通信機器や電子デバイスなどでは、
自由貿易地域)をにらみ、長年蓄積してきた
欧米や韓国、台湾企業との競合を踏まえた、
技術、人材、資本を活用して、中国に対抗で
中国内外市場に対応しうる戦略投資が不可欠
きる広域分業化を推進し始めている。
となっており、また中国で生み出される膨大
なエンジニアリング力の活用も重要度を増し
6 日本企業の国際競争力回復に
不可欠な中国との国際分業
ている。
このため、2001年のWTO加盟以後、日本
中国の電子産業の産業集積は、労働集約的
企業の中国進出は一段と加速化している。成
な華南地域から、資本・知識集約的な上海中
長活力著しい中国との活発な国際分業は、日
心の華東地域、さらに北京周辺のソフトウェ
本国内での事業構造変革や生産システム再構
ア開発拠点へと重層的に広がり、高度化を早
築と相まって、日本企業の国際競争力再生に
めている。現段階では、経済特区中心に進出
多大なメリットをもたらすことになると推測
した外資企業に多くを依存しているが、市場
される。
経済化や多様な情報通信事業機会に対応し、
国際競争力やブランドを確保しつつある中国
Ⅴ 復活なるか半導体産業
資本の家電やソフト関連企業が数多く台頭し
ている。
海爾(ハイアール)などの成長著しい中国
企業の多くは、低価格で入手しやすい成熟技
1 低成長期に入った半導体産業と
日本企業の競争力低下
半導体産業は、2000年までの過去20年間、
術・部品を前提とした製品戦略(オープンア
年率17%の高成長を実現してきたが、2001年
ーキテクチャー戦略)に基づき、信頼性の高
の世界の半導体市場は、前年比32%減の大幅
い製品を速いタイミングで開発、生産するこ
なマイナス成長となった。すべての製品でマ
国際競争力復活の方向性
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イナス成長となり、DRAM(記憶保持動作
かれたが、今や装置メーカーからも見放され
が必要な随時書き込み読み出しメモリー)の
つつある。
急激な価格下落の影響を受け、MOS(金属
酸化膜半導体)メモリー市場がほぼ半減する
という驚異的な結果となった。
最後の生き残りに向けて、日本の半導体産
2002年は回復基調に戻ったが、いつ再び需
業は構造再編に着手している。大手の企業統
給バランスが崩れるかわからない不安定な状
合により、生き残りに向けた再編が進んでい
況が続いており、かつての高成長産業は急激
る。
に成熟産業へと変貌しつつある。
日立製作所と三菱電機は、システムLSI
この半導体不況で、日本の半導体メーカー
(高密度集積回路)事業の統合に向けて「ル
は壊滅的状況に追い込まれ、各社とも1000億
ネサステクノロジ」を設立し、次世代に勝ち
円規模の赤字を計上し、生き残りをかけた構
残るための活動を開始した。これは、ハイエ
造再編に取り組まざるをえない状況にある。
ンドのシステム LSI はいうまでもないが、両
日本の半導体メーカーが全盛期にあった1990
社が業界で1位と2位を占めるマイコン事業
年頃には、半導体売り上げランキングの上位
で協力することにより、世界市場での競争力
10社中、6社が日本企業であり、米国大手の
の強化を図ることを狙いとしている。
モトローラ、インテルよりも日本の大手3社
NECは、日立製作所と共同でDRAM専業
の方が上位にあった。しかし、2001年には、
の「エルピーダメモリ」を設立し、システム
上位10社以内に3社がランキングされるだけ
LSI 分野では分社することで、事業の展開ス
となった。
ピードを速めていこうとしている。NECは、
このような日本の半導体メーカーの衰退
自社の半導体事業を3つのレイヤーに分けて
は、半導体装置メーカーの行動にも表れてい
いる。①テクノロジードライバー(主導技
る。1990年代初頭には、日本を非常に重要な
術)であり、ユーザーのロックイン(囲い
拠点とみていた米系装置メーカーは、「近年、
込み)を志向する「先端技術ソリューショ
装置開発に必要なベンチマークカスタマー
ン」、②顧客別、アプリケーション別のソリ
(指標となる顧客)に日本企業が入らなくな
ューション力をベースとする「システムソリ
ってきた。アジアにおける重要顧客は、韓国
ューション」、③系列の半導体商社などチャ
のサムスン電子、台湾のTSMC(台湾積体電
ネルをベースとする「プラットフォームソリ
路製造)、UMC(聯華電子)、そして中国へ
ューション」――の3つである。
と移っている」と話している。
30
2 再編に動き出す半導体メーカー
また、ソニーと東芝は、次世代に向けた半
先端技術の開発は、依然、日本国内でも続
導体開発を行っており、将来の勝ち組企業と
けられている。しかし、大規模な量産に結び
なるべく、先端レベルの開発を進めている。
つかないものであれば、装置メーカーのビジ
しかし、このような日本企業間の構造再編
ネスにならない。わずか10年前には、装置メ
だけで、21世紀を勝ち抜いていくことができ
ーカーを育てたのは日本企業だという声も聞
るのだろうか。市場はグローバルに広がって
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いる。国内を中心とした革新を続けても、あ
は、台湾の石油化学最大手、台湾プラスティ
まり大きな効果は期待できないのではない
ック(台湾塑膠)の王文洋氏と、江沢民国家
か、といった懸念は依然大きい。
主席の子息とが共同で設立した会社である。
工場の立ち上げと半導体不況が重なったた
3 急速に成長を続ける
中国半導体メーカー
日本が再編を進めているかたわらで、中国
め、立ち上げが遅れているが、SMICに次ぐ
ファウンドリーとして期待されている。
GSMCは現在、第1工場と第2工場を建設
ではファウンドリー(半導体受託生産会社)
中で、段階的に生産能力を拡充する計画であ
が躍進してきている。その最大手がSMIC
るが、フル稼働すれば月産10万枚の工場が誕
(中芯国際集成電路製造)である。同社は、
生する。計画が頓挫するリスクもあるが、バ
TSMC傘下に入った台湾のWSMCの張汝京
ックにある企業の資金力、政治力を考慮すれ
氏が中心となって設立した会社であり、2002
ば、着実に立ち上がってくると考えるべきで
年1月から量産を開始している。
ある。
技術は、台湾で培ったノウハウに加えて、
東芝と富士通からメモリー、シンガポールの
4 高成長市場と設計会社の発達
チャータード・セミコンダクター・マニュフ
中国の半導体の驚異は、ファウンドリーだ
ァクチャリングからロジック(論理回路)の
けではない。高成長が期待される国内市場と
技術を導入している。現在の生産能力は月産
設計会社(ファブレスメーカー、デザインハ
1.5万枚で、すでにフル稼働で生産を行って
ウス)が存在することである。
いる。計画では、1年後にはこの4倍以上に
アジアへの生産シフトが進むなかで、中国
生産が拡大する。日本大手メーカーの先端工
の電子機器産業の成長には目を見張るものが
場の生産能力は、せいぜい月1.5∼3万枚で
ある。世界人口の4分の1を占める巨大市場
あり、後発ながらSMICの追い上げるペース
をバックにしつつ、安価な労働力を提供し、
は驚異的である。
電子機器の生産国として、爆発的な勢いで発
SMICの現在の業務は、米国、台湾のファ
展を遂げている。
ブレス(製造設備を持たない)メーカー並び
このような市場環境で、中国の設計会社は
に技術提携先へのDRAMの供給がメインで
100社を超えており、驚異的なスピードで勢
あるが、着実に収益を上げており、半導体不
力を拡大している。中国人の持つグローバル
況にあえいでいる日本の半導体メーカーとの
な人的チャネルを背景に、欧米の先進的技術
差は歴然としている。2004年には上場を計画
をいち早く導入し、製品化する能力を持って
しており、ここまで成長が持続されれば、中
いる。
国のファウンドリー事業は台湾と並ぶ勢力に
なる。
中国でもう1つ注目すべき企業としては、
GSMC(上海宏力半導体製造)がある。同社
例えば、無線 LAN(ローカルエリア・ネ
ットワーク)技術として注目を集めている規
格「802.11b」(2.4ギガヘルツ帯の電波を使
用)についていえば、日本メーカーが同シス
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テムLSIを発表したのは2002年9月であった
ク単位の回路)を使わせる仕掛けづくりを図
が、中国のファブレスメーカーはすでに春先
ることで、ファミリーを拡充する。
には製品化を行っていた。トータルな製品ラ
同時に、大学に寄付講座を設置し、大学か
インアップでは劣る面もあるが、明らかに世
らのベンチャービジネス化を図ることも得策
界に通じる設計会社が育ちつつある。
と考えられる。
また、中国のファウンドリーに技術供与を
5 高成長市場中国での
勝ち残りのために
行っている日本企業は多いが、日本企業にと
ってファウンドリーは、すでに競合相手では
高成長が期待される中国市場で日本の半導
なく、パートナーである。いち早く技術的な
体メーカーが成功するか否かは、いかに深く
提携を行って、相互の関係を強化してゆくべ
中国の電子産業に浸透できるかにかかわり、
きである。
中国企業とのネットワークづくりが最大のポ
イントとなる。単なる表面的なつきあいでな
く、人的なチャネル、資本のつながりなど、
Ⅵ 中国との共存共栄が
国際競争力復活の鍵
あらゆる方法を尽くして、中国内にインサイ
ダー化する必要がある。
このときのパートナーとして考慮すべきな
中国要因を考慮した日本の製造業の競争力
強化、再生の方向を表3に要約した。
のが、急速に伸びている設計会社(ファブレ
日本企業は、世界トップレベルの開発・生
スメーカー、デザインハウス)である。これ
産基盤の確立に向けて、グローバル展開、経
らの企業にビジネスツールとなる設計プラッ
営・事業構造の改革、さらにIT投資を加速
トフォームを提供し、自社の「 IP(知的資
化させ、国際競争力の復活を目指している。
産)コア」(システムLSI を構成するブロッ
また、日本の製造業がこうした競争戦略を勝
表3 日本の主要製造業における国際競争力強化の方策と中国要因の活用
主要産業
自動車
日本企業の競争力強化方策
●開発設計・生産準備期間の短縮(モジュール化、車台共通化)
●環境技術、情報通信技術への対応
●サービス、金融などのバリューチェーンの拡大
中国要因の活用
●欧米企業追撃のための中国大手とのアライアンス(ホ
ンダと広州汽車、トヨタ自動車と第一汽車、日産自動
車・ルノーと東風汽車)
●流通サービスの強化(整備、ローン、中古販売)
工作機械
電子
半導体
●部材の海外調達(日系企業から中国地場企業などへ)
●生産国としてより、市場顕在化に期待
●ハイエンド(高速、高精度、高機能)市場への対応強化
●低価格製品の現地組み立て
●グローバルサポート体制の充実
●中国企業からの部材調達の拡大
●事業の選択と集中(アライアンス、売却、コア事業化)
●オープンアーキテクチャーでの製品供給戦略の強化
●組織・事業構造の改革(カンパニー制の導入、事業部制の解体など)
●中国大手との戦略的アライアンス(家電など)
●ITの活用(デジタルもの作り、SCM、ブラックボックス化)
●多様な生産インフラの活用(華南、華東、中関村など)
●手組みによる業界再編(日立製作所・三菱電機→システムLSI、マイ
●中国国内へのインサイダー化
コン、日立製作所・NEC→DRAMなど)
●システムLSI 事業のためのIP強化
●ビジネスモデルの再構築
―設計会社(ファブレスメーカー、デザイン会社)や
ファンドリーとのアライアンス
― IPコアを使わせる仕掛けづくり
注)DRAM:記憶保持動作が必要な随時書き込み読み出しメモリー、IP:知的資産、IT:情報技術、LSI:高密度集積回路、SCM:サプライチェーン・マネジメント
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知的資産創造/2002年 12月号
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ち抜くうえで、爆発的な成長期にある中国の
づくりを優先し、企業独自の取り組みを支援
成長活力をどう取り込むかが大きな鍵となっ
する必要がある。また、アジアを含むグロー
ている。
バルな観点に立つ知的所有権や特許など、知
中国では、成長性や潜在性に期待する市場
立地型生産体制の構築や、華南、華東等に広
域化した多様な生産インフラを活用するグロ
ーバル供給拠点の構築など、さまざまな展開
が可能である。このため、日本の製造業は、
的財産にかかわる国、企業レベルでの武装化
に早急に取り組むことが求められる。
著●
者 ――――――――――――――――――――――
●
御手洗久巳(みたらいひさみ)
コンサルティング部門事業企画室、技術・産業コン
中国の成長活力を活用しながら、国際競争力
サルティング部上席コンサルタント
を回復しうる絶好の機会に遭遇しつつあると
専門は電子産業、韓国財閥、途上国の産業振興政策
いえる。
中国依存がますます強まるなかで、機会と
ともにリスクも無限に発生しうる。日本企業
岸本隆正(きしもとたかまさ)
技術・産業コンサルティング部上級コンサルタント
専門は半導体産業、研究開発戦略、特許戦略
は、競争力の根幹をなす差別化技術を確保す
るために、先端技術領域の研究開発に集中し、
原 正一郎(はらしょういちろう)
早急に製品技術の高機能化、モジュール(機
技術・産業コンサルティング部上級コンサルタント
能部品)化、ブラックボックス化などにつな
専門は機械産業、研究開発体制、バイオ事業
げる必要がある。
このため、日本国内において、革新的な先
進技術を孵化させるための産学連携や、ベン
此本臣吾(このもとしんご)
技術・産業コンサルティング部長
専門は自動車・機械産業、中国問題
チャービジネス育成支援などの有効な仕組み
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