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タンパク質結晶化宇宙実験を成功させるためのサンプル調製

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タンパク質結晶化宇宙実験を成功させるためのサンプル調製
日本マイクログラビティ応用学会誌 Vol. 29 No. 3 2012 (120–124)
IIIIII 特集:利用が拡がる「きぼう」IIIIII
(解説)
タンパク質結晶化宇宙実験を成功させるためのサンプル調製
古林
直樹 1・田仲
広明 2・太田 和敬 3・伊中
浩治 1
Sample Preparation for High Quality Protein Crystallization under
Microgravity
Naoki FURUBAYASHI1, Hiroaki TANAKA2, Kazunori OHTA3 and Koji INAKA1
Abstract
Sample quality is one of the important points for getting high quality protein crystals. Especially, in the case of the
crystallization under microgravity, not only the purity of the sample, but also “uniformity of the sample” is quite important
factor. By using highly purified protein sample, crystal quality could be improved by the protein crystallization
experiments onboard “Kibo” conducted by Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA). According to results of
crystallization by using samples without highly purification under microgravity as scientific control, crystal quality could
not be improved effectively. Structure analysis by using high quality crystals obtained by space experiments reveal more
detailed three-dimensional information of protein structures, water networks, interactions between enzyme and
substrates/inhibitors.
1. はじめに
なぜわざわざタンパク質の結晶化を微小重力下でやる
のか?この疑問に対する答えは極めて単純で,結晶の質
を向上させたいからである.では,なぜ微小重力下で結
晶の質が向上するのか?という質問に対する答えは,こ
の特集でも取り上げられている他の解説文に譲るとして,
微小重力下での結晶化は常に満足できる結果をもたらす
のかといえば,答えは「否」である.微小重力下での実
験に良い結果を期待するのであれば,それなりの準備な
り努力なりが必要なのである.それでは,いかなる努力
が必要なのだろうか.
タンパク質の結晶構造解析に関するここ数年の結果に
は,眼を見張るほど重要で難しい蛋白質を対象にしたも
のが数多くある.Nature や Science といった学術誌の表
紙を飾るような,生物学的に極めて重要なタンパク質の
構造が次々と明らかにされ,さらに構造と機能との相関
関係が明らかにされるにつれ,生命の神秘的なベールが
一枚また一枚とはがされてゆくのは,知的興奮を伴う楽
しい体験である.結晶構造解析に必要な技術の進歩も驚
異的で,特にシンクロトロン放射光を用いた回折データ
取得に関連する技術や,構造解析に必要なアプリケーシ
ョンの進歩は目覚ましく,良質の結晶さえ入手できれば,
一部の例外を除いて構造解析はほぼ間違いなく成功する
と言っても過言ではない.
しかし,このタンパク質の結晶化こそが,極めて厄介
な問題としていまだに多くの構造に関係する研究者を悩
ませているのもまた事実である.すなわち,確実に結晶
を得るための手法の開発は,未解決のまま残されている
問題といえる.構造解析を目的とした結晶化の場合,単
に結晶が得られればよいというものではなく,良質の単
結晶を得ることができなければ,その目的を達成した事
にならない.すなわち,分解能を含む結晶の質の問題,
結晶のクラスター化をどのように避けるかという問題,
結晶のサイズの問題等をクリアーする必要がある.一般
によく用いられている「スクリーニングキット」や「結
晶化ロボット」は,効率よく条件探索を実施するための
手段や道具であって,タンパク質結晶化の根本の問題を
解決できる技術ではない.
我々はここ数年,結晶の質を向上させるために,結晶
化条件の検討だけではなく,「結晶化用サンプルの質」を
いろいろな手法で向上させることにより,結晶の質を向
1 (株)丸和栄養食品 バイオサイエンス事業部 〒639-1123 奈良県大和郡山市筒井町 170 番地の 1
MARUWA Foods and Biosciences, 170-1, Tsutsui-cho, Yamatokoriyama, Nara 639-1123, Japan
2 (株)コンフォーカルサイエンス 〒101-0032 東京都千代田区岩本町 2-12-2 第 2 早川ビル 7F
Confocal Science Inc. 7F 2nd Hayakawa Building, 2-12-2, Iwamoto-cho, Chiyoda-ku, Tokyo 101-0032, Japan
3 (独)宇宙航空研究開発機構 宇宙環境利用センター 〒305-8505 茨城県つくば市千現 2-1-1
Space Environment Utilization Center, Japan Aerospace Exploration Agency, 2-1-1, Sengen, Tsukuba-shi, Ibaraki 305-8505,
Japan
(E-mail: [email protected] )
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タンパク質結晶化宇宙実験を成功させるためのサンプル調製
上させる事を試みてきた.この研究を通じて確認できて
きた事は,単にタンパク質の「いわゆる純度」を向上さ
せるだけでは,結晶化用サンプルとしては不十分な場合
が多いという事実である.そして,サンプルの質を向上
させることにより,先に記載した結晶化に伴ういろいろ
な問題点を解決できることが明らかになってきた.ここ
では,主にタンパク質サンプルの調製に焦点を当て,ど
のようなサンプルを調製すれば結晶化実験で,さらには
微小重力下での結晶化実験で満足できる結果を得られる
のかを,これまでの経験をもとに記してみる事にする.
2. 結晶化用タンパク質サンプル
2.1 タンパク質サンプルに見られる分子の不均一性
それでは,結晶化用タンパク質サンプルの質は,どの
ように定義すればよいのだろうか.一般的にタンパク質
の結晶化に用いられるタンパク質サンプルの純度の指標
として,SDS ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDSPAGE)による分析がある.「SDS-PAGE でシングルバ
ンドを示す」と言う基準は,ひとつの重要な結晶化用サ
ンプルの純度目標でもある.しかし,この基準は結晶化
の際の純度基準としては,絶対的なものではない.これ
は,単なる必要条件の一つであって必要十分条件ではな
いのである.ご存知の通り,SDS-PAGE で得られる結果
は「分子量の異なる不純物」が存在しているか否かを示
す指標でしかない.偶然に同じ分子量を持つ全く別のタ
ンパク質が混ざっていたとしても,SDS-PAGE では見分
けがつかない.また,分子量が数十 kDa の一般的なタン
パク質の場合,数百 Da の分子量の差を PAGE の結果か
ら見分けることは難しい.さらに,SDS-PAGE は完全に
変性させた状態での分子量しか確認できないため,溶液
中において変性していたり多量体を形成しているような
場合に,複合体としての純度が確保できているのか否か
も判断ができないのである.他の基準,たとえば分子の
持つ電荷量や溶液中における会合状態で考えた場合,分
子は均一なのか否か判断する場合,別の純度基準が必要
なのである.
結晶とは,同一の分子が 3 次元的に規則正しく並んだ
状態である.したがって結晶の品質は,この規則性がど
れだけ保持されているかによって左右される.というこ
とは,わずかでも目的のタンパクとは異なるものが入っ
ている場合や,「似て非なる分子」が数多く存在している
ような状態のサンプルからは,高品質な結晶ができるわ
けがないのである.ところがタンパク質分子の場合,こ
の「似て非なる分子」が実に数多く存在する事がわかっ
てきた.
ここで具体的な事例として,SDS-PAGE では完全にシ
ングルバンドを示すタンパク質が,Native-PAGE では数
本のバンドとして観察された麹菌由来アルファアミラー
ゼ ( 別 名 タ カ ア ミ ラ ー ゼ : alpha-amylase from
J. Jpn. Soc. Microgravity Appl. Vol. 29 No. 3 2012
Aspergillus oryzae,以降 TAA と表記)の事例を挙げて
みる 1).ここで言う Native-PAGE とは,界面活性剤も還
元剤も,もちろん加熱処理も加えていない状態で実施す
る電気泳動の事で,タンパク質分子の分子量よりも,分
子の総電荷量に依存して移動度が決まる分析法である.
等電点電気泳動とは原理が異なるものの,よく似た結果
が得られるため,分子の帯電の程度とその均一性を図る
手法として簡便でかつ有効な手段である.
Fig.1 に示したのは,過去に報告された手法 2)を用いて
SDS-PAGE でシングルバンドを示すまでに精製された
TAA サンプルが,高分解能カラムを用いた陰イオン交換
クロマトグラフィーで,溶出条件を最適化する事により,
さらに 3 本のピーク(Fraction1, Fraction2, Fraction3)
に分離され,しかも,各ピークは Native-PAGE でそれ
ぞ れ 少 し ず つ 異 な る 移 動 度 を 示 す 事 例 で あ る . SDSPAGE の結果が示すように,各ピークは同一の分子量を
持つタンパク質で,その酵素活性も同一であった.すな
わち,SDS-PAGE だけでは単一と思われたサンプルが,
電荷が異なると思われる 3 つのフラクションに分離され
たのである.
2.2
粒径分布から見たサンプルの均一性
タンパク質の結晶化は,一部の例外を除いて水溶液中
で起きる.ということは,結晶化実験に用いるタンパク
質溶液は分散状態が均一であることが必要であると考え
られている.言い換えれば,単量体であればすべての分
(a)
(b)
Fig.1 Purification results of TAA. (a) Chromatography
results using Q Sepharose HP column for TAA
protein. The blue and red lines indicate
absorbance for corresponding fraction at 280 and
260 nm, respectively. (b) PAGE results of TAA
purification. Polyacrylamide gel concentration
was 12%.
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古林
子が単量体で,二量体であればすべての分子が二量体で
ある事が必要,と言う事である.一部は単分子で,一部
は二量体で,さらに一部は三量体(多量体)という状態
の溶液では,この条件を満たしているとは言えない.こ
のような事例は,実はかなり多く見受けられる.すなわ
ち,タンパク質サンプルの溶液中における不規則な会合
に起因する,分子の粒径分布の不均一性である.通常,
このようなサンプルから良好な結晶が成長する可能性は
低い.このサンプルの分散状態を定量的に調べる方法と
して,動的光散乱法がよく用いられるが,この方法で得
られたサンプルの粒径分布が,単分散状態である場合は
結晶が得やすく,多分散状態であると結晶が得にくいと
いう経験則がよく成り立つという報告がなされている 3).
したがって,結晶化実験に用いるタンパク質サンプルは,
動的光散乱の結果から分子が単分散状態を示すことが少
なくとも必要であると考えられる.このサンプルの分散
状態と,先に述べた Native 電気泳動の結果との間には
しばしば相関関係が見られ,SDS 電気泳動の結果単一バ
ンドであっても Native 電気泳動では複数バンドが見ら
れる場合には,しばしば溶液散乱の結果から得られる分
子粒径に不均一性が見られることがある.このようなサ
ンプルは,「結晶が得られない」,「結晶化までに時間がか
かる」,「結晶化の低い再現性」,「結晶の分解能が低い」,
「微細結晶しか得られない」などの問題点を持っている
ケースが多く見られる.前項で分離精製した TAA サンプ
ルは,非常に高い粒径分布の均一性を示した.
2.3
直樹,他
Fig.2 Photograph of crystals obtained from highly
purified TAA protein. (a) Crystals obtained
from the original sample. (b) Crystals obtained
from fraction 1 of highly purified TAA sample as
described in Fig.1. (c) Crystals obtained from
fraction 2 of highly purified TAA sample. Thick
lines indicate the size of 0.2mm on the each
photograph.
て起きていることを確認しつつある.学生実験でおなじ
みのニワトリ卵白由来リゾチームのように非常に手軽に
結晶が得られるタンパク質でさえも,同様の手法で分離
精製を実施したところ,最低でも 5 種以上のリゾチーム
フラクションに分離可能で,そのうちのいくつかの成分
は結晶化しなかった.
高均一化サンプルを用いた結晶化
2.1 項で記載したように,分離精製されたフラクショ
ンを分取し結晶化を実施したところ,フラクションごと
にその結果は大きく異なっていた(Fig.2).TAA の結晶
化条件はいくつか報告されているが 2)4)5),硫酸アンモニ
ウムを結晶化試薬として用いた場合では,高度に分離し
なくとも Fig.2(a)に示すような大型できれいな単結晶を
得ることができる.この結晶が示す最高分解能は,約
1.5Å程度である.しかし,結晶化の頻度は比較的低く,
仮に 10 回の結晶化を試みたとして,結晶が得られるの
は 3 回程度であった.
これに対し,Fraction 1 サンプルを用いて結晶化を実
施した場合では,大型の単結晶(最高分解能 1.2Å)が
極めて高い頻度で得られた.さらに,Fraction 2 サンプ
ルからは,外形が異なる柱状クラスター結晶が得られた
(Fig.2(b),最高分解能 1.6Å).そして,Fraction 3 サン
プルからは全く結晶が得られなかった.これらの結果は,
サンプルの高均一化が,結晶の出方だけではなく高品質
化(この場合は分解能の向上と結晶化の頻度)に多大の
影響を与えている事を示す例である.
実はこのような現象は,TAA にだけ起きている稀な現
象ではなく,Recombinant であれ Native 由来であれ,
程度の差こそあるもののほぼすべてのタンパク質におい
J. Jpn. Soc. Microgravity Appl. Vol. 29 No. 3 2012
3. 高均一化サンプルの微小重力下での結晶化
我々は,これらのサンプルの高純度化の効果を検証す
るために,微小重力下における結晶化実験を実施した.
具体的には,宇宙航空研究開発機構(JAXA)が実施す
る国際宇宙ステーション(ISS)のロシアサービスモジ
ュールや日本の実験棟「きぼう」において,タンパク質
結晶生成装置(PCRF)等を利用して実施した「高品質
タンパク質結晶生成プロジェクト」において,高均一化
したサンプルを用いて,微小重力下での結晶化実験を行
った.前述した TAA(直接抽出)やニワトリ卵白由来リ
ゾチーム(直接抽出)のほか,ヒト造血器型プロスタグ
ランジン D2 合成酵素(リコンビナント),マウスリポカ
リン型プロスタグランジン合成酵素(リコンビナント),
グルコースイソメラーゼ(直接抽出),麹菌由来セロビハ
イドロラーゼ(直接抽出)等を用いての結晶化を実施し,
微小重力が結晶化の過程や,その品質に及ぼす影響につ
いて検証してきた.
結晶化の手法は,ISS 内に設置されたインキュベータ
(PCRF 等)で実施するが,マランゴニ対流の影響をさ
けるため,通常地上実験で用いられることが多い蒸気拡
散法ではなく,内径 0.5mm のガラスキャピラリーを用
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タンパク質結晶化宇宙実験を成功させるためのサンプル調製
いた液-液拡散法を用いて実施した 6).タンパク質容器と
結晶化試薬の溶液をセットされたキャピラリーは,あら
かじめ所定の状態にセットされた専用の容器に納められ
て実施された.この専用容器は,ロシアの無人貨物輸送
船プログレスを用いて,カザフスタンにあるロシアのバ
イコヌール宇宙基地から打ち上げられ,ISS まで運ばれ
た.ISS 内では,20℃に温度制御されたインキュベータ
(PCRF 等)にセットされ,約 3 カ月間静置された後,
ロシアのソユーズ宇宙船にて宇宙飛行士とともにバイコ
ヌールに帰還する手順で実施された 7).
得られた結晶を用いて,シンクロトロン放射光施設
SPring-8 での回折実験を実施し,結晶の質の評価を実施
した.その結果,分解能の向上やモザイシティ
(Mosaicity)の低下等,結晶の質を示すパラメーターが
高い頻度で向上する事が見出された 8) 9).その結果とし
て,回折データを数値化した際の様々な統計値が改善さ
れ,最終的には,構造解析の際に得られる電子密度図の
改善が見られたのである.同じサンプルを用いた地上対
照実験で得られた結晶においても,同様の傾向が見られ
たが,微小重力実験で得られた結晶の方が,より高い改
善効果が観察された.また逆に,高均一化しないサンプ
ルを用いた同様の結晶化実験では,このような効果が全
く得られないか,得られてもその程度が低い場合が多か
った.
ニワトリ卵白由来リゾチーム(結晶系 P43212)の場合,
地上結晶の最高分解能は約 1.0Å,モザイシティが 0.55
程度であったものが,宇宙実験では最高分解能 0.89Å,
モザイシティが 0.20 程度に改善した.麹菌由来セロビハ
イドロラーゼの場合,地上結晶の最高分解能は約 1.2Å,
モザイシティが 0.45 程度であったものが,宇宙実験では
最高分解能 0.93Å,モザイシティが 0.20 程度に改善し
た.
また,一部のケースでは,地上実験で頻繁に観察され
るクラスター化が抑制され(Fig.3),単結晶の生成確率
が上昇する効果や,地上で通常得られる晶系とは異なる
結晶が得られたりする事象,さらには Twin の解消 10) な
ども確認された.別の晶系の結晶が得られる事により,
Fig.3 Crystals obtained from highly purified HPGDS
protein. (a) Ground crystals obtained from
the highly purified sample. Only highly
clustered crystals were obtained. (b) Space
crystals that were clear and single crystals
obtained from the highly purified sample.
J. Jpn. Soc. Microgravity Appl. Vol. 29 No. 3 2012
結晶内の分子パッキングのパターンが変わり,それまで
確認できなかった部分構造が確認できた事例や,格子定
数の低下や対称性の向上により,より正確な構造が確認
できた事例など,分解能の向上とは異なる効果も確認さ
れた.
これらの結果は,サンプルの均一性を高めることによ
り,通常の(すなわち地上での)結晶化においても,結
晶の質の改善が期待できる事,さらには微小重力実験を
実施する場合により高い効果が期待できることを意味す
る.逆に,宇宙実験において何らかの効果を期待するの
であれば,サンプルの高均一化を図るべきで,ラフな精
製を施したのみのサンプルを用いて宇宙実験に臨むべき
ではない事を意味している.
4.
高分解能結晶から見えてくる構造
それでは,ここで紹介してきたような「似て非なるタ
ンパク質」は,一体何が(どこが)それぞれ異なってい
るのか?という疑問が当然のように湧いてくるが,残念
なことに,構造解析の結果からは今のところ明瞭な回答
が得られていない.その主たる理由は,たいていの場合,
いくつかに分離されるサンプルのうちの一つのみから単
結晶が得られる場合が多く,「似て非なる分子」の構造比
較が難しいからである.
しかし,いくつかのケースでは,タンパク質に起きて
いる様々な修飾が原因であろうと推測している.糖鎖に
よるもの,リン酸化によるもの,脱アミノ化などなどで
ある.また,大腸菌を用いて発現させたリコンビナント
タンパクの場合,N(アミノ)末端の開始コドン由来の
メチオニン残基のプロセスの不完全性なども確認できて
いる.目的のタンパク質が二量体三量体などを形成する
場合,元の分子の不均一性は,その組み合わせにより非
常に多くの分子種が存在する原因となる.
また,カビ由来タンパク質の場合,糖鎖修飾を受けて
電気泳動のバンドがブロードになるケースが多く見受け
られる.通常,糖鎖修飾を受けたタンパク質は結晶化し
にくい場合が多く,たいていの場合 EndoH などのグル
コシダーゼで糖鎖を処理してから結晶化する場合が多い.
しかし,このような糖鎖処理をしなくても,クロマトグ
ラフィーを駆使して細かい成分に分離精製してやると,
高分解能結晶が得られる場合がある事を,麹菌由来のあ
る酵素(最高分解能 1.0Å)で確認した.つまり,糖鎖
が結合したままであっても,均一性が担保されたサンプ
ルを調製できれば,高分解能結晶になり得る事例と言える.
また,このように丁寧に分離したサンプルを用いた構
造解析の結果,主鎖や側鎖のマルチコンフォーメーショ
ンは言うに及ばず,結合している補酵素や金属イオンの
不均一性なども認識可能になってきている.すなわち,
タンパク質分子の生体内における多様性が,その結晶化
をより困難にしていると考えられるが,より慎重に,よ
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古林
り丁寧にサンプルを分離調製してやることで,これまで
確認する事が難しかったタンパク質分子の持つ本来の構
造を明らかにする道を開いていると言える.
参考文献
1)
2)
3)
4)
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(2012 年 6 月 6 日受理)
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