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1 生理学実習(第二講座担当分)3・骨格筋の収縮レポート 医学部医学科
生理学実習(第二講座担当分)3・骨格筋の収縮レポート 医学部医学科3年 070600848 矢野 寿 注・完成したレポートに対し高橋 賢先生から指導を受けた.それを踏まえての注意点が赤字で追加してある. [目的] 以下の三項目について観察を行い,骨格筋の収縮について理解を深める. 1.単収縮と強縮 2.骨格筋の長さと張力関係 3.筋疲労 [試料の作製] 1.ウシガエルの腰から後肢にかけてを解剖し,腓腹筋並びにそれを支配する坐骨神経を 神経が筋につながった状態で取り出した.(神経‐筋標本の作製) 2.本実験では神経‐筋標本の実物を確認したら,あとは縫工筋の筋標本で実験を進める ため,こちらも剖出した. 3.縫工筋の生体長を測定した. 4.筋が乾燥しないよう,数分ごとにリンガー液を滴下した. [測定の手法と結果] 1.測定系のキャリブレーション 本実験では筋の張力をトランスデューサーで電圧に変換して記録するため,次のように して電圧‐張力関係を調べた. ⅰ.トランスデューサーに,1個 3.75g である5円玉にひもが付いたものを3個まで順に取 り付けていき,各段階での電圧値を記録した. ⅱ.ⅰのデータは下グラフのようになった. 上グラフのように,5円玉が0個(負荷が 0g重)のときは電圧は 14mV,5円玉が1個 1 (負荷が 3.75g重)のときは 148mV,5円玉が2個(負荷が 7.5g重)のときは 285mV, 5円玉が3個(負荷が 11.25g重)のときは 419mV の電圧が生じた. (こうした電圧はアン プを通した増幅された値だが,負荷と電圧の関係がわかればよいので電圧が相対値でも問 題はない. ) ↑トランスデューサが測定できる上限値を確定しておきたいので,5円玉3個といわず隣 の班から借りてでもそれ以上の電圧が出ないところまで負荷をかけて測定しておくべき. そうでないと,後の実験で強縮の際に最大 60g 重の張力(に相当する電圧)が観察されて いるがこれが筋の張力の最大値なのか測定の限界値なのかがわからない(実際にはおそら く後者と考えられる). ⅲ.上記の負荷と,負荷が0のとき値を0とした電圧の相対値との関係を最小二乗法によ り切片0の条件下で線形近似し,以下のグラフと関係式を得た. 負荷(g重) 測定電圧(mV)生じた電圧(mV) 0 14 0 3.75 148 134 7.5 285 271 11.25 419 405 ↑電圧に負荷が0のときを0とする相対値を用いるのはよいが,その場合でも線形近似の 際に切片0の制限はかけるべきではない.トランスデューサが,負荷が0のときに電圧が 0になるように調整されているわけではないからである. 2.単収縮曲線の記録 以下の実験では単発の刺激を行った. ⅰ.右図のように筋標本をセットした.(実習 書では神経‐筋標本を用いているが,作製に失 敗し望み通りの結果が得られないことが多い ため,本実験では筋標本を直接電気刺激する. ) ⅱ.トランスデューサの位置を徐々に上げてい き,張力が発生した時点で固定した.このとき の筋の長さは 480mm で,これを L0 とした. ⅲ.電気刺激装置の刺激強度を 0V から 0.5V の幅で順に 8.5V まで上げていき,各々の強 度における筋の単収縮曲線を記録した. まず,各強度で2回の単収縮を起こさせ,それを記録していった.記録画面の大きさの 都合で,0~2.5V,2.5~4.5V,4.5~6.5V,6.5~8.5V の各段階に分けて実験並びに記録を 2 進めた. ① 0~2.5V の刺激による単収縮曲線 ト ランスデュ ーサで 測る ことができ るのは 増幅された電圧であり, この 生データは 右図の ようになった. L0=480mm の筋長に おい ても実際の 測定電 圧が0にはならず,平均 51mV を示していた.よ って,この 51mV を負荷 が0のとき,すなわち張力が示されていないときのベース電圧と考えて,以降は電圧に関 しこれを0とした相対値で考えることとする. (後の実験項目4において筋長を伸ばした場 合には筋自身の弾性によりこのベース電圧が上がっていきこれが静止張力を表すことにな るから,ベース電圧を一律に0に据えればよいということではないが,この点については 改めて述べる. ) よって,静止張力のない長さ L0 の筋につき,その活動張力を考えているのだから,測定 された電圧から一律に 51mV を引き,さらにそれを項目1で得られた, (生じた電圧[mV])= 36.019×(負荷(この場合は筋の張力) [g重]) ⇔(筋の張力[g重])=(生じた電圧)/36.019 より,36.019 で割った値が各時間に示された筋の活動張力ということになる. このように値を直して,改めて筋の活動張力を経時的に追ったグラフを描くと次のよう になった. 以降の各段階については,縦軸に筋の活動張力をとった単収縮曲線のみを示す. 3 ①’ 0.5~2.5V の刺激(2回目)による単収縮曲線 上に示した 0.5~2.0V の刺激においては,実験中のこの段階で正確な評価はできないも のの,あまりに強い張力(に換算される高い電圧の値)が見られる印象があったため,同 じ段階をやり直した. ② 2.5~4.5V の刺激による単収縮曲線 ③ 4.5~6.5V の刺激による単収縮曲線 4 ④ 6.5~8.5V の刺激による単収縮曲線 ↑7.0V 以上で張力が落ちていく原因が疲労でないと断言できる材料はないが・・・ 各刺激の程度に応じて得られた張力を,2回の刺激で得られた張力の平均値で示した(縦 軸上の赤色数字) .6.5V から 7V 辺りまでは刺激を強くするにつれて張力も大きくなり,そ れを越えると得られる張力は小さくなるという結果は, 「欲しい結果」に照らしても悪くな いものであった.が,記録画面の都合上,刺激強度を段階ごとに区切って分けて実験した ことで問題が生じた. 刺激強度(V) 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 4 4.5 5 5.5 6 6.5 7 7.5 8 8.5 張力(g重) 0.847 6.43 13.6 15.8 18.1 0.361 1.44 3.79 4.43 5.55 2.53 4.33 5.89 8.23 9.04 3.55 3.79 4.53 5.65 7.52 37.9 40.4 35.2 34.2 31.9 段階ごとに得られた張力を上のように並べて比較してみると(比較できるように各段階 間で刺激強度が一つずつ重複するようにして実験してある) ,極めて大きな値が出てしまっ た 6.5V~8.5V の場合を除いて,同じ刺激強度でも休息の後の初回刺激として与える場合よ りも何度か刺激を与えた後に与える場合の方が強い張力が得られてしまうのである. これはおそらく,実験5で疲労を確認する際にも扱うことだが,刺激を加え続けること で細胞内の Ca2+濃度が増し,一時的に興奮‐収縮連関が強くなった結果であろう. なお,0.5V~2.5V の 1 回目や 6.5V~8.5V の測定において,他よりも全体的に大きい値 が出た理由が判然としない.一般に,電圧を測るというのは誤差が出やすい測定手法だが, 今回の測定では張力を電圧に変換し,再度張力に変換しているだけで,電圧そのものを測 定しているわけではないので,本実習項目4等で神経から活動電位を直に拾った場合のよ うに標本の状態で測定電圧が直接の影響を受けるということはないのである. もっとも,リンガー液をかけた直後の方が強い張力を得られるといったことはあるのか もしれない(それにしても差異が大きすぎる印象があるが…).このことの評価は他の実験 項目の結果と照らし合わせて再度行おう. ↑リンガー液をかけるなど環境の微妙な変化については,筋の収縮の強さに対する影響も 5 さることながら,本実験では筋を電極で直接刺激しているから,その接触部分における抵 抗の大きさに与える影響が著しい.実験各回ごとに得られる張力が大きく変わってしまっ た原因の一つはこれかもしれない. このように段階を分けることによる問題の発生は実験中に気付かれたため,0.5V~8.5V までの強度の刺激を1回ずつ通して与える形式で実験をやり直すこととした. 刺激強度(V) 0.5 張力(g重) 0.81 1 3.66 1.5 9.74 2 14.8 2.5 15.4 3 22.6 3.5 23.8 4 29.4 4.5 35.4 5 37.8 5.5 48.9 6 46.5 6.5 37.8 7 46.4 7.5 46.4 8 45.3 8.5 44.7 今回は煩雑になるためグラフ中への数値の書き込みを避けたが,向かって左から順にグ ラフ中の各山に対応する刺激強度とそれに応じた張力の大きさはグラフ下に添付した通り である. 今回は 5.5V で刺激した場合に最も強い張力が得られ,その大きさは 48.9g重であった. 3.強縮の観察 以下の実験では反復刺激を行った. ⅰ.実習書には,刺激強度を筋が最大の張力を示す強度の2倍にセットするようにあり, 上述の実験2で最後に行った通し実験の結果では 5.5V で刺激したとき最大張力が得られた から,11V ということになる.しかし,本実験では筋を直に刺激していることもあり,あ る程度電圧を抑えた方がうまくいくという指導教官のアドバイスにより刺激強度は 5V で 固定した.一方,筋の長さは L0=480mm で固定した(従って,張力を示す電圧値は 51mV を 0mV とした相対値となる). ⅱ.刺激頻度を 0.5Hz,1.0Hz,2.0Hz,5.0Hz,10Hz,20Hz と増加させていき,各々の 頻度において 20 回程度の刺激を行って筋の張力曲線を記録・作成した. ① 0.5Hz の刺激による収縮曲線 本刺激頻度についてのみ,測定した電圧の生データと相対値に基づきグラフ化した収縮 6 曲線とをともに示す(以下,②~⑥は収縮曲線のみを示す) . ② 1.0Hz の刺激による収縮曲線 7 ③ 2.0Hz の刺激による収縮曲線 ④ 5.0Hz の刺激による収縮曲線 ⑤ 10Hz の刺激による収縮曲線 8 ⑥ 20Hz の刺激による収縮曲線 まず,注意しておかなくてはいけないのは,刺激頻度 10Hz と 20Hz の際の収縮曲線に現 われた強縮中にさらに定期的に強い張力が発生しているかに見える山(グラフ中で赤丸で 囲った)だが,これはアンプか導線が拾ってしまったノイズである.収縮曲線の計上を考 察する際はこれは無視してよい. 刺激頻度が 10Hz の段階では刺激を始めた当初は収縮曲線にギザギザが見られるので, 10Hz は不完全強縮(収縮曲線にギザギザがある状態)と完全強縮(収縮曲線が滑らかな状 態)を起こす刺激頻度のいわば境界線にある刺激頻度なのかもしれない. 5.0Hz ではまだ単収縮が見られていることから,不完全ながら強縮が起こり始めるのは 5.0Hz と 10Hz の間,10Hz でほぼ完全強縮(刺激開始後 0.5 秒ほどは不完全な強縮),20Hz では刺激した瞬間から完全強縮が見られるから,完全強縮が得たければ刺激頻度を 10Hz かそれ以上にすればよいと推測・評価することができる. ↑10Hz かそれ以上で完全強縮が得られるということ自体は正しいが,10Hz と 20Hz の場 合の収縮曲線に表れたちょうど 60g重の長い横軸平行部分は,その大きさの張力が一定時 間持続したのではなく単なる装置の測定限界を示しているだけかもしれない.装置の測定 上限を先に知っておかなければいけない理由はここである. (なお,ノイズは別のチャンネ ルからの入力を拾っているので(刺激電極の電位を飛び飛びに拾った可能性あり),これが 60g重を超える値を示したからといって装置の測定上限値が 60g重以上ということにはな らない.) 4.長さ‐張力関係の解析 以下の実験では,刺激頻度を 10Hz とし,刺激回数を 20 回程度とした. ⅰ.刺激強度は実験3と同じく 5V とした. ⅱ.前回の測定から十分に(5分以上)時間が経ったことを確認した上で,筋長を L0=480mm より 3mm 短くして(これを L-3 のように表記する)刺激を行い,張力を記録した(結果は まとめて後述) . ⅲ.ⅱ.の操作を L-6,L-9,L+3,L+6,L+9,L+12 として繰り返した. 9 ⅳ.上記の結果から,筋長と張力の大きさをプロットした.筋長が L0 より長くなると筋自 体の弾性による静止張力が生じる.L0 時にはベース電圧が 51mV であったから,非刺激時 に 51mV を差し引いてもなお誤差と考えられるより大きい正の値が見られるとすると,こ れが静止張力を示す電圧である.以下では全張力を示す収縮曲線を作成した. ① L-3 時の収縮曲線〔ピーク時全張力は 51g重であった.〕 ↑以降では不完全強縮曲線がほぼ横軸平行になって最大値を示した時の値を「ピーク時全 張力」として拾っているが,それがしたいのなら,もっと長時間刺激したらより強い張力 が出る可能性,逆に刺激の終わりがけに疲労が出て落ちる可能性を考慮して,条件を等し くするため全ての筋長で刺激を与える時間を厳密に同じにするべき(本実験ではそれをや っていないので「ピーク時全張力」として何を拾っているのかが曖昧で,それなら「刺激 開始後何秒後の値」というような形で統一すべき) . 完全強縮が起きる刺激頻度を確かめるための実験3では,10Hz はほぼ完全強縮が見られ たが,その 10Hz に刺激頻度を固定して行った実験4では「理想的な」不完全強縮像が得ら れたのであった. なお,以降の実験グラフではその都度言及しないが,いわゆる不完全収縮曲線の上に定 期的に表れる山(本グラフでのみ赤丸で囲った)はノイズとして入った電圧であり,その 値を除去することなく張力に変換したものであるが,無効な値である. ② L-6 時の収縮曲線〔ピーク時全張力は 31g重であった.〕 10 ③ L-9 時の収縮曲線〔ピーク時全張力は 14g重であった.〕 ④ L+3 時の収縮曲線〔ピーク時全張力は 61g重であった.また,L0 よりも筋を引き延ば しているため,筋の弾性により静止張力が発生しており,それはこれまで負荷0時のベー ス電圧であった 51mV を差し引いてもなお 35.5mV の電圧が非刺激の間を通して観察され るという形で表れている.この電圧の大きさは 0.986g重に相当した. (活動張力)=(全張力)-(静止張力)であるから,活動張力は 60.014g重というこ とになる. 〕 ⑤ L+6 時の収縮曲線〔ピーク時全張力は平均して 52g重であった.また,2.88g重の静止 張力が見られた.活動張力は 49.12g重ということになる. 〕 11 ⑥ L+9 時の収縮曲線〔ピーク時全張力は 31g重であった.また,4.19g重の静止張力が見 られた.活動張力は 26.81g重ということになる. 〕 ⑦ L+12 時の収縮曲線〔本筋長における収縮曲線は収縮中の弛緩が見られない完全収縮を 示すものとなった.ピーク時全張力は 60g重であった.また,6.72g重の静止張力が見ら れた.活動張力は 53.28g重ということになる. 〕 以上の結果をまとめると,下左表のようになった.L0 の場合のデータは条件が一致する ので実験3の⑤を流用した. 筋長 L-9 L-6 L-3 L0 L+3 L+6 L+9 L+12 mm 471 474 477 480 483 486 489 492 筋長のL0に対する 全張力のL0に対する 静止張力のL0全張力に対する 活動張力のL0に対する 全張力 静止張力 活動張力 パーセンテージ パーセンテージ パーセンテージ パーセンテージ % g重 % g重 % g重 % 98.125 14 22.95081967 0 0 14 22.95081967 98.75 31 50.81967213 0 0 31 50.81967213 99.375 51 83.60655738 0 0 51 83.60655738 100 61 100 0 0 61 100 100.625 61 100 0.986 1.616393443 60.014 98.38360656 101.25 52 85.24590164 2.88 4.721311475 49.12 80.52459016 101.875 31 50.81967213 4.19 6.868852459 26.81 43.95081967 102.5 60 98.36065574 6.72 11.01639344 53.28 87.3442623 天下り的に言うと, 「全張力は静止張力の高まりとともに筋長が長くなればなるほど上が っていくが,それは静止張力の発生と高まりのせいであり,筋の収縮による活動張力は生 体長をピークとしてそれよりも長くても短くても小さくなる」という結果が欲しい. 12 試しに外れ値を認めずにグラフ化してみると以下のようになった. 実験1の段階から,実験操作と実験操作に間を空けると得られる張力に5倍を超える到 底誤差とは認めがたい差異が生じることがわかっているので,思い切って L+6 と L+9 の場 合の全張力の測定値を外れ値とみなすと,グラフは以下のようになった. ↑レポート評価の際には特に指摘を受けなかったが,外れ値とみなす際にはもっと明確な 理由とその明示が必要(プレゼン時に全員向けに指導あり) .この場合は,記録が残ってい れば例えばリンガー液をかけたため刺激装置の接触部で抵抗が変わった可能性がある等の 理由付けをするべき.それができない場合は,括弧で括る形でプロット自体は行って曲線 で結ぶ対象からは外すといった一般的ルールに従った記載法で対応すべき. もともと筋長が 480mm と長いので,+12mm に引き伸ばしたとしてもそれほど強く引き 伸ばしているわけではない.通常こうした実験を行う場合は生体長の 140%くらいにまで引 き延ばして大きな静止張力を観察するものであるが,本実験のように「多少」引き伸ばし た段階までの結果としては上グラフは妥当な曲線なのではないだろうか.この後,筋をも っと引き伸ばして実験を行っていたとしたら,活動張力は落ちていくもののより大きな静 止張力によって全張力は大きくなっていく形が得られたはずである. ↑縫工筋はデリケートなので,ほんの数パーセント分筋長を伸ばすだけで上掲グラフのよ 13 うに「望ましい傾向」(活動張力は落ちるが静止張力の伸びにより全張力は伸びる)の兆し を確認することができる.逆に,もっと伸ばして実験した場合はもう一度生体長に戻して 張力を測定し,構造が破壊されて収縮力が損なわれていないかを確認する必要が出てくる. 5.疲労曲線の記録 以下の実験では,筋長を L0=480mm とした(つまり,観察される張力は活動張力のみで ある) . ⅰ.刺激頻度を 1.0Hz として刺激を与え続け,単収縮曲線を記録した. ⅱ.約 5 分間の疲労回復時間をとった後,ⅰの操作を3度繰り返した. 上記作業で得られた単収縮曲線は以下の通りである. ① 1回目 ② 2回目 ↑約5分の疲労回復時間をとったと言っているが,実際には疲労の結果落ちた張力がイン ターバルの後に回復するのを同一記録画面上で見たかったために,実際の疲労回復時間は もっと短かった.そのため,早くも2回目にして疲労の回復が十分ではない傾向が見られ る(次ページの3回目ではもっと顕著) .ちゃんと疲労回復時間をとれば,張力はもっと元 に近いところまで戻るのが一般的らしい. 14 ③ 3回目 上掲の三つのグラフの縦横軸の目盛りのスケールは一致させてあるので, ・いずれの回においても刺激開始後,一時的に張力が強くなり(細胞内に蓄積した Ca2+の ために興奮‐収縮連関が強化されるからだと言われる) ,その後,段々と張力が低下してい くこと, ・5分間の疲労回復時間をおいたものの比較的長時間の刺激により収縮させることを繰り 返していると,回を重ねるごとに得られる張力が下がっていくこと(最大張力は1回目は 30g重,2回目は 22g重,3回目は 17g重となった), が読み取れる. 疲労現象は,膜の興奮性低下,興奮‐収縮連関の能率低下,化学エネルギーを機械的エ ネルギーに変換する効率の低下,エネルギー源の枯渇,乳酸発生による代謝全体の遅延, 等の複合的な原因によると考えられている.ここに挙げられているうち,例えば生じた乳 酸は5分のインターバル中に除去されるとは考えにくいから,段々と得られる張力が下が った原因の一つに挙げることができるだろう. ↑当初明示していなかったが,上記疲労の原因の出典は,東京医科歯科大学システム神経 生理学(生理第一)講座『神経生理テキスト』の項目 10「筋の収縮」 (http://www.tmd.ac.jp/ med/phy1/ptext/muscle.html)である.もっとも,少なくとも哺乳類骨格筋においては, 乳酸による細胞内酸性化は上掲の疲労曲線に表れているような緩徐な張力の低下にはほと んど寄与しないと言われており,ATP の分解によるリン酸濃度の上昇の影響が大きいよう である(『標準生理学』(第5版)p.107-108). 設問 1.筋を静止長より引き伸ばすにつれて活動張力が低下する理由として何が考えられるか. 2.筋長の短いところで収縮張力が低下する理由として何が考えられるか. 回答: まとめて簡潔に回答する. 15 筋はそれ自体に弾性や粘性があるから 引き延ばせばそれによる静止張力を示す が(実験4),それを除いた筋の収縮によ る張力,すなわち活動張力は,右図のよう にミオシンの太い線維がアクチンの細い 線維を手繰り寄せ,Z 板から Z 板までの距 離が短くなることによっている. 筋長の長いときは,アクチンとミオシン フィラメントが重なっている部分がほと んどなくなり,それは力が働く場所が少な くなるということなので結果として力の 発生が少なくなる.逆に,筋長が極端に短 いときは,アクチンフィラメントが中央に 入りすぎて互いに干渉したり,ミオシンフ ィラメントがZ板にぶつかるといった構 造的な障害のために力の発生が少なくな る. 16