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銅薄膜を利用したCPU冷却モジュールの開発に関する研究

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銅薄膜を利用したCPU冷却モジュールの開発に関する研究
埼玉県産業技術総合センター研究報告
第4巻(2006)
銅薄膜を利用したCPU冷却モジュールの開発に関する研究
森田寛之* 1
黒河内昭夫* 2
和田健太朗* 2
長谷川靖洋*** 1
柏木邦宏*** 2
Study on Development of CPU Cooling Module Using Copper Thin Film
MORITA Hiroyuki* 1 ,KUROKOUCHI Akio* 2 ,WADA Kentaro* 2 ,
HASEGAWA Yasuhiro*** 1 ,KASHIWAGI Kunihiro*** 2
抄録
酸 化 銅 は 、P型 半 導 体 で あ り 、 か つ 高 い ゼ ー ベ ッ ク 係 数 を 有 す る こ と が 知 ら れ て い る 。
しかし、酸化銅バルクは非常にもろく抵抗の高い材料であるため、実用化に至っていない。
そこで酸化銅を薄膜にすることで密着性が良好でかつ強度のある薄膜型熱電素子を作製し
た 。 酸 化 銅 薄 膜 の 作 製 条 件 と し て 、 RF電 力 、 成 膜 レ ー ト 及 び 酸 素 導 入 量 等 を パ ラ メ ー タ
として最適化し、ゼーベック係数8.2mV/K、抵抗率2.5Ωmの酸化銅薄膜を作製した。
キ ー ワー ド : 酸化銅,薄膜,ゼーベック係数,抵抗率
1
はじめに
現在、省エネルギー化や環境問題対策の一つと
高いゼーベック係数を持つ酸化銅の薄膜型熱電素
子を作製・評価を行った。
して、熱電素子が注目されている。温度差を与え
ると発電し、電圧を印加すると温度差の発生する
2
熱電素子は、機械的部分がないこと、高精度な温
2.1 酸化銅薄膜の作製
度制御が可能であることから、各分野で応用が期
実験方法
酸化銅作製に当たり、本センターの所有するイ
待されている。しかし、熱電素子の熱電変換効率
オンプレーティング装置(昭和真空㈱製
が低いため、半導体製造用レーザーの温度制御等、
650)を使用した(図 1)。ターゲットに純銅を
限定的に使用されている。その熱電素子の研究に
セットし、電子ビームにより溶融させる。チャン
おいて薄膜型熱電素子が注目されており、熱電素
バー内に酸素プラズマを発生させて純銅を蒸発さ
子を薄膜化・微小化することでLSI等の半導体か
せることにより銅粒子を酸化させて基板上に成膜
ら発生するジュール熱を取り除くことができる 1)。
した。
また、マスキングや積層により様々な構造をとる
ことで、複雑な回路にも適用することができる。
本研究では、安価に入手でき、かつ配線に使用
されている銅に注目し、薄膜型熱電素子として、
*1 電子情報技術部
*2 材料技術部
***1 埼玉大学大学院理工学研究科
***2 東洋大学工学部
SIP-
埼玉県産業技術総合センター研究報告
Quartz
Monitor
第4巻(2006)
銅を混合させて抵抗率低減を目指した。その方法
Substrate
の一つとして、チャンバー内に水素プラズマを発
生させて酸化銅薄膜表面を銅に還元させることを
RF
Coil
Shutter
実施した。
Vacuum
Gage
EB Gun Beam
Material
Ar Gas
N2 Gas
3
実験結果および考察
3.1 ゼーベック係数および抵抗率
Power
Supply
Matching Box
To Pumping System
RF Power
Supply
酸化銅薄膜を作製するに当たり、パラメータと
して、RF 電力、成膜レート及び酸素導入量を振
り、酸化銅の作製し、ゼーベック係数を測定し
た 。 は じ めに 、 RF 電 力 300W 、 酸素 導 入 量 を
図1
イオンプレーティング装置概略図
30ml/min と固定して、成膜レートを 5、15、30Å
/s の各条件で酸化銅薄膜を作製した。その結果、
2.2 酸化銅薄膜の評価
図 3 のように成膜レートが高いとゼーベック係数
作製した酸化銅薄膜を評価するため、ゼーベッ
は低下することがわかった。次に RF 電力をパラ
クテスターを作製した。2 本の熱電対の 1 つに巻
メータとして、成膜レート 5Å/s、酸素導入量を
き付けたニクロム線に通電・加熱することで温度
15ml/min として酸化銅薄膜を作製した。図 4 の
差を発生させた。図 2 のように 2 つの熱電対を酸
結果から、RF 電力 300W で作製した酸化銅薄膜
化銅薄膜に接触させて銅薄膜に発生する熱起電力
が最も高いゼーベック係数をとった。
を電圧計で測定した。測定した温度、熱起電力か
さらに、酸素導入量を 10~30ml/min と変化させ
ら式(1)よりゼーベック係数を算出した。
て、RF300W、成膜レート 5Å/s で作製した。
α=
V
ΔT
……………………………………(1)
図 3~5 の結果から、ゼーベック係数が最も
高い酸化銅薄膜の作製条件は、RF 電力 300W、
α :ゼーベック係数(V/K)
成膜レート 5Å/s、酸素導入量 15ml/min となっ
V :熱起電力(V)
た。導き出した作製条件により作製した酸化銅薄
膜のゼーベック係数は、0.73mV/K と非常に高い
ΔT :温度差(K)
酸化銅薄膜の抵抗率測定は LORESTA-AP(三
菱油化㈱製
MCP-T400)を用いて測定した。
値となった。また、図 6 に示す XRD の結果か
ら、酸素導入量の制御により任意の酸化銅薄膜を
作製することができた。
V
作製した酸化銅薄膜の作製条件の他にもう一つ
温度計
温度計
のパラメータとして基板加熱を与えた。作製条件
を RF 電力 300W、成膜レート 5Å/s、酸素導入量
ニクロム線
15ml/min に固定し、加熱温度を 20(室温)~400
熱電対
℃に変化させて酸化銅薄膜を作製した結果、図 7
酸化銅
図2
ゼーベックテスター概要
となった。300℃に基板を加熱することにより、
ゼーベック係数 0.82mV/K、抵抗率 2.5Ωm の性
能を有する酸化銅薄膜を作製した。
2.3 水素プラズマ処理
酸化銅は金属や半金属に比べて抵抗率が高いの
で、抵抗を低減させるため、キャリアを多く含む
埼玉県産業技術総合センター研究報告
1.2
RF電力
300W
酸素導入量 30ml/min
1
ゼーベック係数[mV/K]
0.08
4
RF電力
300W
成膜レート
5Å/s
酸素導入量 15ml/min
0.06
0.04
0.02
3
0.8
0.6
2
0.4
抵抗率[Ω・m]
Seebeck coefficient(mV/K)
0.1
第4巻(2006)
1
0.2
0
0
0
5
10
15
20
25
30
0
35
0
50
100
Deposition Rate(Å/s)
図3
150
200
250
300
350
400
基板加熱温度[℃]
図7
成膜レート特性
基板加熱特性
3.2 水素プラズマ処理
成膜レート 5Å/s
酸素導入量 15ml/min
0.15
作製した酸化銅薄膜表面をイオンプレーティン
グ装置チャンバー内に設置し、RF電力300W、水素
0.1
を導入して水素プラズマを発生させた。10分間水
素プラズマに暴露させた酸化銅薄膜の表面は、透
0.05
明な茶褐色から銅の金属色に還元された(図8)。
また、抵抗率が5.6×10 -5 Ωmと低減することがで
0
0
100
200
300
400
500
600
RF Power(W)
図4
きた。
RF 電力特性
1
Seebeck coefficient(mV/K)
RF電力 300W
成膜レート 5Å/s
0.8
0.6
0.4
0.2
0
0
5
10
15
20
25
30
35
図8
O2 Flowing(ml/min)
図5
Cu(200)
2
Cu(111)
Cu O(200)
2
酸素導入量特性
4
水素プラズマ処理前(左)と処理後(右)
まとめ
RF電力 300W、成膜レート 5Å/s、酸素導入量
CuO(111)
CuO(002) (-111)
Cu O(111)
Seebeck coefficient(mV/K)
0.2
RF電力 300W
成膜レート 5Å/s
Cu2O+CuO
15ml/minの作製条件により酸化銅薄膜を作製し
た。また、基板を 300℃に加熱することでゼーベ
ック係数 0.82mV/K、抵抗率 2.5Ωmの酸化銅薄膜
酸素導入量:45ml/min
を作製した。また酸化銅薄膜を水素プラズマに暴
Cu2O+CuO
酸素導入量:30ml/min
Cu2O
酸素導入量:15ml/min
Cu
40
図6
2θ[deg]
酸素導入量:0ml/min
50
酸素導入量の変化による XRD 結果
露させることにより、抵抗率が 5.6×10-5Ωmと低
減することが確認できた。
今後、酸化銅薄膜と還元した銅を積層させるこ
とにより、高いゼーベック係数を維持しながら抵
抗率を低減させることを目指す。
埼玉県産業技術総合センター研究報告
謝
辞
本研究は、独立行政法人科学技術振興機構
平
成 17 年度「シーズ育成試験」の支援を受けまし
た。
また、本研究を進めるに当たり、協力していた
だきました埼玉大学の内山弘基氏に感謝の意を表
します。
参考文献
1) (社)日本セラミックス協会・日本熱電学会
:環境調和型新材料シリーズ
日刊工業新聞社, (2005)240
熱電変換材料 ,
第4巻(2006)
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