...

欧州のバイオプラスチックの現状

by user

on
Category: Documents
17

views

Report

Comments

Transcript

欧州のバイオプラスチックの現状
調 査 報 告
ウィーン
欧州のバイオプラスチックの現状
(その 1)
12 月 2 日と 3 日に、ベルギー・Brussels でバイオプラスチックに関する会議(European
Bioplastics Conference)が開催された。主催は欧州バイオプラスチック協会(ドイツ)である。
今回は、欧州バイオプラスチック協会からのバイオプラスチックの現状と展望、そして、
欧州の包装材の業界団体からの包装材と EU の規制に関するについての講演を報告する。
1.バイオプラスチックの 7 つの特徴
~欧州のバイオプラスチックの明るい未来~
Francois de Bie 氏、欧州バイオプラスチック協会(ドイツ)
【欧州バイオプラスチック協会】
欧州バイオプラスチック協会(EuropeanBioplastics)は、1993 年に IBAW としてドイツで設立され、
現在、EU からの約 70 の会員企業の利益を代表する。
農業原料、化学とプラスチック産業に加えて産業ユーザーやリサイクル会社などからの会員企業によ
って、欧州バイオプラスチック協会は成長するバイオプラスチック業界の目的を推進するための会議の
場や触媒として機能する。
1.1 バイオプラスチックについて
バイオベースのプラスチックとは真の循環経済の出発点であり、従来(化石資源ベース)
のプラスチックよりも 50%から 100%の二酸化炭素(CO2)フットプリントが少ない。
(1)
従来のプラスチックとバイオプラスチックとの違い
バイオプラスチックという用語は、それらがバイオベース、生分解性、またはその両方
である限りにおいて、従来のプラスチックと異なるすべての類似材料を包含している。バ
イオベースとは、材料または製品が(部分的に)バイオマス(植物)に由来することを意味する。
バイオプラスチックのために使用されるバイオマスは、トウモロコシ、サトウキビ、また
は、セルロースからのものである。
生分解性という用語は、ある環境下で利用可能な微生物が、水、CO2 とバイオマスのよ
うな天然物質に材料を変換する間の化学プロセス(人工添加物を必要としない)を意味する。
生分解性のプロセスは、周辺環境の状況(場所や温度)、材料自体、そして、装置に依存する。
生分解性は、ある特定の応用(例えば、有機系廃棄物の袋や作業服)で利点を有することがで
きる一部のバイオプラスチック材料特有の性質である。
(2)
バイオプラスチックが利用されている分野
バイオプラスチックはすでに包装、農業、料理、小型家電や自動車の分野で重要な役割
を果たしている。これらの市場において、バイオプラスチック材料はマルチフィルムまた
はケータリング製品のような短期の使用を目的とした製品だけでなく携帯電話のカバーや
自動車の内装部品のような耐久性の必要な製品にも使用されている。
― 1 ―
調査報告 ウィーン
(3)
バイオプラスチックが使われる理由
バイオプラスチックはプラスチックを進化させている。従来のプラスチックと比べてバ
イオベースのプラスチック製品には 2 つの大きな利点がある。バイオプラスチックは、(毎
年)再生性するバイオマスを利用し、カーボンニュートラルの独自の可能性を提供すること
で化石資源を節約に寄与する。また、生分解性は一部の種類のバイオプラスチックに追加
される特性を有している。
(4)
技術と材料
1 年間に 3 億トンも生産されているプラスチックは今日の経済の必需品である。通常、そ
れらは原油製品から生産される。しかし、これまでに使用されてきた多くの材料が再生可
能な資源からも作ることができる。近年では、プラスチック業界の形相が変わり始めた。
数多くのバイオベースのプラスチック材料が開発されており、現在、従来型に対応する実
績の証明された代替製品となっている。プラスチックの約 85%が技術的にバイオベースの
プラスチックに置き換えることが可能である。バイオプラスチックはアプリケーションの
種類ごとに最適化された幅広い機能性を提供し、さらに、環境におよぼす影響を低減でき
る。また、バイオプラスチックは従来のプラスチックの加工技術を用いることで、無数の
製品に加工することができる。加工装置のパラメータは単純にそれぞれのバイオプラスチ
ックの種類の特性に調整する必要がある。
(5)
種類
バイオプラスチックは一種類のポリマーではなく、むしろ、相互から大幅に変化できる
材料の一群である。バイオプラスチックには 3 つのグループがあり、それぞれが独自の特
性を有している(図 1-1 参照)。
①バイオベースまたは一部がバイオベースで非生分解性プラスチック
PE、PP、PET(いわゆる drop-in)
PTT、 TPC-ET(熱可塑性ポリエステルエラストマー)のような機能性ポリマー
②バイオベースで生分解性のプラスチック
PLA(ポリ乳酸)、PHA(ポリヒドロキシアルカン酸)、PBS(ポリブチレンサクシネート)
③化石資源ベースで生分解性のプラスチック
PBAT(ポリブチレンアジベートテレフタレート)
(6)
特性
バイオプラスチックは材料の一群であり、その特性は 1 つの材料から次へと大きく変化
することが可能である。バイオベースまたは一部バイオベースの PE、PET、PVC のよう
な耐久性のあるプラスチックは、それらの従来版と同じ特性を持つ。これらのバイオプラ
スチックは科学的な分析以外では従来の汎用プラスチックと区別することができない。ま
た、それらは現在あるリサイクルシステムで機械的にリサイクルすることもできる。デン
プン系(スターチベースの)プラスチックや PHA のような新種のバイオプラスチックは潜在
的に生分解性である。この機能は、ポリマーの化学構造と関係しており、特定の用途に利
益をもたらすことができる。
― 2 ―
調査報告 ウィーン
バイオベース
生分解性
非生分解性
従来からある
プラスチック
石油ベース
出典:European Bioplastics Conference 講演資料、Francois de Bie 氏、欧州バイオプラスチック協会
図 1-1 バイオプラスチックの種類
さまざまなバイオプラスチック材料の成長に伴い、柔軟性、耐久性、印刷適性、透明性、
遮断性、耐熱性、光沢などのような特性が、大幅に強化されている。
(7)
加工処理
従来のプラスチック加工技術を使用することで、バイオプラスチックを膨大な数の製品
に加工することができる。処理装置のプロセスパラメータは各ポリマーの個々の仕様に調
整する必要がある。最近、ますます多くの団体が、バイオプラスチック材料を製品に転換
している。そのうちのいくつかは、Huhtamaki(フィンランド)や Innovia(英国)などの欧州
バイオマス協会の会員である。
1.2 生分解性プラスチック
生分解性プラスチックは、有機系廃棄物の埋立て処理からの方向転換に役立ち、複合さ
れたプラスチックと有機系廃棄物の流れが避けなれないときに、好ましい選択である。
生分解性プラスチックの種類は、新しい回収(リカバリー)とリサイクル(有機リサイクル)
の方法を提供する。欧州規格の“EN 13432(堆肥可能プラスチック)”のような国際規格(独
立した第三者機関が望ましい)によって堆肥可能であることが認定された場合、これらのプ
ラスチックは産業用堆肥化施設で堆肥にすることができる。
【注意:酸化型プラスチックは生分解性とは異なる】
酸化型プラスチックはバイオプラスチックではない。厳密な区別が“生分解性プラスチック”と“酸
化型分解性または酸化型生分解性”として宣伝されているプラスチックとの間に必要である。後者の製
― 3 ―
調査報告 ウィーン
品は、特定の添加材が追加された従来型のプラスチックから作られている。それらは欧州バイオマス協
会が定義する“バイオプラスチック”の定義に適合しない。市場での用語の混乱を最小限にするため、
欧州バイオプラスチック協会では、可能な限り“堆肥型”という用語の使用を推奨している。また、欧
州バイオマス協会は、酸化型材料や製品を記述するために“酸化分解型”を使用する EU の提案を強く
支持している。
1.3 ブランド
バイオプラスチックの利点はよく理解され、幅広いブランドオーナーから受け入れられ
ている(図 1-2 参照)。
出典:European Bioplastics Conference 講演資料、Francois de Bie 氏、欧州バイオプラスチック協会
図 1-2 バイオプラスチックを積極的に採用するブランド例
1.4 経済および雇用
今日、欧州のバイオ経済部門は、年間に2兆ユーロの売上高を記録し、EUで約2,200万人
の雇用を提供している。現在、約2万3,000人の欧州の人々がバイオプラスチック業界で働
き、2017年までにそれは、約10万人まで成長する可能性がある。
1.5 バイオプラスチックの市場
バイオプラスチックは傑出した成長を示している。世界のバイオプラスチックの生産能
力は、2017年までに400%の成長が予測されており、2013年の160万トンから2018年には
約670万トンにまで増加する(図1-3参照)。
バイオベースのPEやPETのような非生分解性でバイオベースのプラスチックがこの成長
の大部分を占めている。PLA(ポリ乳酸)は、生分解性でバイオベースのプラスチックの分野
における主要な成長要因である。さらに、一部で生産されている再生可能で堆肥化するプ
ラスチックは、新しいEUの「レジ袋の使用削減に関する指令」による恩恵を受ける可能性
が高い。
柔軟および硬質な包装は、依然としてバイオプラスチックにとっての最大の適用分野で
ある。最大の成長は繊維と自動車の用途で見ることができる。通気性を強化したスポーツ
用機能性衣料から燃料系統まで、バイオプラスチックは常に新しい市場に普及している
(図 1-4 参照)。
― 4 ―
生産能力
(×1000 トン)
調査報告 ウィーン
年
生分解性
バイオベース/非生分解性
予測値
合
計
出典:European Bioplastics Conference 講演資料、Francois de Bie 氏、欧州バイオプラスチック協会
生産能力
(×1000 トン)
図 1-3 世界のバイオプラスチックの生産能力の推移
生分解性
バイオベース/非生分解性
(生分解性)
(バイオベース/非生分解性)
1:再生セルロースと生分解性セルロースを含む、2:バイオベース含有量が 30%に達する、
3:耐久性のあるスターチブレンド、Bio-PC、Bio-TPE、Bio-PUR(熱硬化性樹脂を除く)、Bio-PA、PTT
出典:European Bioplastics Conference 講演資料、Francois de Bie 氏、欧州バイオプラスチック協会
図 1-4 市場別にみる世界のバイオプラスチックの生産能力(2013 年)
― 5 ―
調査報告 ウィーン
地域の能力開発を視野に入れ、アジアが主要な生産拠点としての役割を広げていく。現
在、計画されているプロジェクトの大半が、タイ、インド、中国で実施されている。約 75%
のバイオプラスチックが、2018 年までにアジアで生産されることになる。反対に、研究開
発の最前線にいる欧州には、生産能力の約 8%だけが残るだろう。さらに、アメリカやアジ
アのような世界の他の地域は、“市場導入に近づける”ための方法に投資しており、欧州
よりも早い市場展開をもたらす。
新しいバイオプラスチック材料、化合物やマスターバッチ(高濃度の樹脂用着色剤)は毎日
創りだされており、多くの生産設備が操業を開始している。市場開発を進める要因は、内
部と外部の両方である。外的要因がバイオプラスチックを魅力的な選択にしている。これ
は高確率での消費者の受入れを反映している。さらに、気候変動、石油製品の価格上昇の
広範囲な公表効果、そして、化石資源への依存の高まりもバイオプラスチックが好ましく
見えることに寄与している。
内部の観点から、バイオプラスチックは効率的かつ技術的に成熟した材料である。バイ
オプラスチックは環境面での利点とプラスチックが環境におよぼす影響の間のバランスを
改善することができる。ライフサイクルの分析では、バイオプラスチックが従来のプラス
チックに比べて CO2 排出量を大きく低減させることができることを証明している(材料や用
途による)。バイオプラスチックの用途におけるバイオマスの利用の高まりには、“再生可
能と利用可能”の 2 つの明らかな利点がある。
1.6 バイオプラスチックの持続可能性について
バイオプラスチックは食糧や飼料とまったく競合せず、利用可能な世界中の農業エリア
の区分だけを使用している世界中の農業地域の97%が食糧、飼料や牧草地のために使用さ
れており、材料用には、2%が利用され、その内でバイオプラスチック用は0.02%未満であ
る(図1-5参照)。
出典:European Bioplastics Conference 講演資料、Francois de Bie 氏、欧州バイオプラスチック協会
図 1-5 バイオプラスチックのための土地利用の比率(2017 年の予想)
― 6 ―
調査報告 ウィーン
(1)
バイオプラスチックの持続可能性における利点
バイオベースのプラスチックの持続可能性には、環境性、経済性および社会性において
利点がある。
①環境性
バイオベースのプラスチック(以下、バイオプラスチック)は限られた化石資源を節約し、
温室効果ガス排出量を低減させ、その結果として、製品のカーボンフットプリントを低
下させる。バイオプラスチック製品を作るために使用するバイオマスは大気中からの二
酸化炭素を吸収するので、カーボンニュートラルとなる独自の可能性をバイオプラスチ
ックは有している。バイオプラスチックはバイオマスをカスケード利用することによっ
て、資源効率性の向上に大きく貢献することも可能である。
②経済性
バイオプラスチックは経済的に革新性があり、バリューチェーンに沿ってさらなる経
済的に成長する大きな可能性を秘めている。欧州はバイオプラスチックの発展における
トップランナーになれる可能性がある。欧州は研究開発でリードしており、バイオマス
の大規模な生産者でもあるので、研究の知見を工業用途に転換するための進展が必要で
ある。現在、バイオプラスチックは世界のプラスチック市場で 1%にも満たないシェアし
か持たないが、生産能力は拡大している。市場の理解を支持する政策的枠組みが、生産
と変換に向けた経済性のある規模に到達するために必要であり、そうなることで、欧州
の持続可能な経済成長に貢献できる。
③社会性
産業部門の成長に伴い、バイオプラスチックは将来の雇用拡大に寄与する。バイオプ
ラスチックは、経済的に低迷する可能性のある農村地域に収入をもたらすことで、地域
の発展に貢献することができる。また、欧州の経験は、幅広い世代に対して高度に熟練
した雇用の提供を提供するバイオプラスチック業界を中心に成長する可能性がある。
(2)
農業原料の工業利用
EUが気候変動と温室効果ガス(以下、GHG)排出量低減目標において世界のリーダーとし
て認識されたければ、化石燃料から生物学に基づいた経済への移行が必要不可欠である。
材料部門とこの中のプラスチック市場は、バイオプラスチックを通してこの移行に大きく
貢献することができる。バイオプラスチックはバイオベース、生分解性またはその両方か
ら作られる限り、従来(化石資源から)のプラスチックとは異なる材料のグループを構成する。
バイオベースとは、材料または製品が完全または部分的にバイオマス由来であることを意
味する。生分解性とは、環境で有効な微生物が例えば水、二酸化炭素やバイオマス(人工の
添加物を必要としない)のような天然の物質に変換する間の化学的プロセスに関係する。
バイオプラスチックの生産のような工業目的のためのバイオマスの利用には大きな利点
がある。例えば、欧州圏外から主に輸入される限られた化石資源への依存とGHG排出量を
低減させてくれる。カスケード利用(品質や純度を要求されるものから、純度を必要しない
― 7 ―
調査報告 ウィーン
ものに順次利用していく方法)の実施により、バイオプラスチックは資源効率性にも大きく
貢献することができる。
欧州委員会によって欧州のバイオ経済の重要な柱に指名されたことを受けて、近年、バ
イオプラスチック業界は大きな発展を遂げており、さらに大きく成長する可能性を持って
いる。世界全体の生産能力は、2012年の140万トンから、2017年には600万トン以上に成長
することが予測されている。持続的に成長したバイオマスへのアクセスの維持が、この成
長を保証するための鍵である。
我々は、工業用のバイオマスの種類の選択が原料の持続可能性と効率性にのみに依存し
なければならないということである。現在、バイオプラスチックは、主に、食用作物や第1
世代の原料と呼ばれるトウモロコシまたはサトウキビのような炭水化物の豊富な植物から
作られている。そして、第1世代の原料は発育のための土地を少なくでき、最も高い収穫が
得られるので、バイオプラスチックの生産にとって最も効率の良い原料である。その成長
の可能性を満たすためには、バイオプラスチック業界は第1世代のバイオマスへのアクセス
を今もこれからも確実にすることが重要である。当然ながら、バイオプラスチック業界は、
さらなる使用を視野に入れ、セルロースのような非食用作物(第2世代、第3世代の原料)の使
用を研究している。
工業用バイオマスの利用についての議論は、多くの場合で「材料への潜在的食糧や飼料
の変換は倫理的に正当化されるのか?」という問題に関してである。この感情的な議論は
事実を表してはいない。毎年、世界中で十分な食糧が生産されるが、残念ながらその多く
が無駄にされる。世界中の農業エリアの約 97%を食糧、飼料、牧草地が占めており、材料
利用のために飼育されたバイオマスは約 2%だけしかなく、バイオプラスチックは 0.01%
未満しか占めていない。
世界中の農業エリアの 0.01%未満だけが、バイオプラスチック用の原料生産のために使
われている。その使用量の大きな差が、食糧や飼料用と材料使用のためのバイオマスの利
用の間に競争がないことを示している。また、第 1 世代の原料からのバイオプラスチック
は、次世代の原料への移行を容易にする技術である。そのため、工業用途への第 1 世代の
原料を使用することを差別してはならない。
1.7 バイオプラスチックのための支援
バイオプラスチックには、バイオ燃料や石油から作られたプラスチックと対等の公平な
競争の場が必要で、その可能性を完全に発揮するための政策支援は必須である。
欧州には、最高の価値の創出と最も強力な環境上の利点が推進されるのを確実にするた
めに、すべてのバイオベースの産業に対して公平な競争の場が必要である。バイオマスの
エネルギーへの使用と比べて、材料へのバイオマスの使用のための公平な競争の場を確立
することが必要である。欧州レベルの多様な支援策として、補助金、割り当て量、税制措
置などが存在する。これらのすべてが、バイオマスを使用するさまざまな産業に公平に提
供されるかまたは全く提供されないことが必要である。
現在、エネルギー部門は巨大な補助金を受けているのに比べて、バイオプラスチック業
界は何も受けていないので、バイオベースの産業部門の有効性が歪められた状況である。
― 8 ―
調査報告 ウィーン
欧州バイオマス協会は、バイオエコノミーの全ての柱の平等な待遇を支持し、政策的差別
または特定のバイオベースの産業への優遇に厳しく対応している。また、莫大な環境、経
済成長と雇用創出の可能性を検討し、効率的に使用するように EU の政策立案者を促して
いる。さらに、“循環経済パッケージ”は 2015 年の欧州委員会の作業プログラムに留めら
れるべきであり、廃棄物目標の見直しは予定通りに進める必要がある。
(参考資料)
・European Bioplastics Conference 講演資料、Francois de Bie 氏、
欧州バイオプラスチック協会
・欧州バイオプラスチック協会ホームページ、(http://en.european-bioplastics.org/)
― 9 ―
調査報告 ウィーン
2.循環経済とEUの廃棄物の評価
~包装材サプライチェーンからの見通しと提言~
Virginia Janssens 氏、EUROPEN(ベルギー)
2.1
EUROPEN について
(1)
組織の概要
EUROPEN(European Organization for packaging and the Environment の略称)は、特
定の材料やシステムを優遇することなく、包装材と環境に関係する問題に関する欧州の包
装材サプライチェーンの意見を代表する業界団体で、ベルギーを拠点としている。
・1993 年に設立
・48 の法人会員
Corporate Members
・6 ヵ国の業界団体
National Organizations
図 2-1 に、EUROPEN に加盟する団体を分野別に示す。その他、Bihpak(ボスニア・ヘ
ルツェゴビナ)、CICPEN(チェコ)、SLICPEN(スロバキア)、Miljöpack(スウェーデン)、
ARAM(ルーマニア)、RusPEC(ロシア)の包装材と環境に関する業界団体とも協力している。
原料サプライヤー
包装材デザイナー/メーカー
包装材ユーザー/ブランドオーナー
出典:European Bioplastics Conference 講演資料、Virginia Janssens 氏、EUROPEN
図 2-1
(2)
EUROPEN の加盟団体
EUROPEN の目標
EUROPEN の目標として、以下の 3 項目が挙げられる。
①ライフサイクルの考えに基づき、包装材および包装製品の環境性能の向上
②欧州全体の包装材および包装製品の自由な移動の確保
③欧州および各国の包装材と包装廃棄物の規制の調和の推進
また、包装材に関する EUROPEN の理想像として、包装材には下記の 6 項目が必要である。
― 10 ―
調査報告 ウィーン
①環境への影響を最小限にするために、製品と共に全体的に設計されている
②責任を持って(確実に)供給された材料から作られている
③そのライフサイクルを通じて効果的かつ安全であるように設計されている
④性能や費用の面で市場の基準を満たしている
⑤消費者の選択肢および期待に合致している
⑥可能な限り、使用後は効率的に収集かつリサイクルされている
2.2
EUの廃棄物目標の見直し
(1)
EUの循環経済パッケージの一部としての現在の役割と重要なEU資源効率目標
以下に、EUROPEN のホームページに掲載された“使用された包装材に対する拡大生産
者責任(EPR)に関する概況報告書”を記す。
EU の「包装および包装廃棄物指令(94/62/EC)」(以下、PPWD)は、継続的な革新性と環
境面の向上、持続可能な成長と雇用を可能にしながら、長期的かつ効果的な法的枠組みを
提供している。2 つの目標の 1 つとしての“包装材の環境におよぼす影響の低減”では、
PPWD がその採択以降(1994 年)、包装材リサイクルと回収(リカバリー)率の安定した改善
の主要な原動力であり、経済成長と EU 市場に上市される包装材の量の継続的なかい離(デ
ィカップリング)に貢献している。
2014 年 7 月、欧州委員会は資源としての廃棄物の利用を通じた循環経済への移行を奨励
するために、EU のリサイクルと他の廃棄物に関する目標を検討するための提案を発表した。
また、「廃棄物枠組み指令(2008/98/EC)」の最小要件を明確に定義することで、拡大生産者
責任(以下、EPR)制度の透明性と費用対効果を高めることを目指している。
この範囲の活動と緑色の矢印は、生
産者によって設定された使用済み包
装材に対する EPR 制度で一般的に管
理されることを示している。
出典:EUROPEN ホームページ、Factsheet on Extended Producer Responsibility for used packaging
図 2-2 包装材の資源循環のイメージ
― 11 ―
調査報告 ウィーン
(2)EU の廃棄物目標の見直しに対する意見
EU の廃棄物目標の見直しに基づく現在の提案を撤回し、“より野心的な”循環経済パッ
ケージを開発するとした欧州委員会の発表(2014 年 12 月)を考慮して、EUROPEN では
2015 年の早い時期に遅延なく新しい法律の提案を欧州委員会が討議することを要請してい
る。循環経済パッケージは、資源効率と欧州の競争力のための移行を促進し、さらなる包
装廃棄物のリサイクルと回収(リカバリー)を進めるための理想的な機会を提供する。また、
「PPWD」の下、業界の EPR 制度の法的義務の遂行能力を高めるものである。新たな機会
が EU の「PPWD」の見直しと共に待たれている。EUROPEN は循環経済に向けてさらに
進めるための目標を支持し続け、2015 年の新しい提案について欧州委員会と建設的に作業
することも厭わない。将来の EU 法は、欧州の包装材のバリューチェーンにとって域内市
場を保護し、革新性と成長を可能にしながら、明確で、バランスが取れて効果的であるべ
きである。
資源効率性は世界全体の課題と機会であり、次のような項目が挙げられる。
・発展途上国における中間層の消費者の増加(何百万人以上)
・埋立て処分への圧力の高まり
・廃棄物のトレードの増加(欧州域内または域外)
・バリューチェーンと生産者のさらなるグローバル化
・一部の廃棄物流れの本質的な価値の向上
・インターネット販売と新しい市場の機会の増加(包装材の要求や量も増加)
図 2-3 に、2011 年における EU 加盟国の包装廃棄物のリサイクルの状況について示す。
図 2-3 内の赤線(55%)は、現在の「PPWD」の全体のリサイクル目標である。多くの国が、
2011 年時点でリサイクル率の目標を達成しているが、2004 年に EU に加盟したマルタ、ポ
ーランド、2007 年に加盟したルーマニアはかなりの努力が必要である。
また、表 2-1 に、「PPWD」における各対象の現在のリサイクル達成率と 2020 年以降の
目標(2025 年、2030 年は提案値)を示す。木材およびプラスチックのリサイクルについては、
2020 年以降の目標の達成のためにさらなる努力が必要である。
表 2-1 PPWD における包装廃棄物のリサイクルの現状と目標
現在の項目別目標
(%)
欧州委員会が提案する目標
現在のリサイクル率
(%)
2020 年
2025 年
2030 年
紙・厚紙
60
83
85
90
(90)
金属
50
72
70
80
90
ガラス
60
71
70
80
90
木材
15
38
50
65
80
プラスチック
22.5
34
45
60
-
出典:European Bioplastics Conference 講演資料、Virginia Janssens 氏、EUROPEN
― 12 ―
調査報告 ウィーン
目標達成の期限年
出典:European Bioplastics Conference 講演資料、Virginia Janssens 氏、EUROPEN
図 2-3
EU 加盟国の包装廃棄物のリサイクルの状況(2011 年時点)
2.3 廃棄物目標の見直しの一部である拡大生産者責任
(1)
EPRの定義について
欧州委員会が、EUの廃棄物に関する規制の見直し時に提案した拡大生産者責任に対して、
EUROPENでは以下のような改正(下線部)を提案したい。
拡大生産者責任とは、国家のリサイクルおよび回収(リカバリー)目標の達成を助けるため
に、製品のライフサイクルの消費者使用後の状態まで拡大された製品に対する生産者の完
全または部分的な財政そしてまた運営の責任を意味する。
2014 年 7 月 2 日に欧州委員会が提案した「廃棄物枠組み指令(2008/98/EC)」、「包装・
包装廃棄物指令(94/62/EC)」、「埋立て指令(1999/31/EC)」、「使用済み自動車指令
(2000/53/EC)」、「電池・蓄電池指令(2006/66/EC)」、「廃電気・電子機器指令(2012/19/EU)」
の『附属書(Annex)』に関する改正案について、EUROPEN の意見は以下の通りである。
― 13 ―
調査報告 ウィーン
①生産者への潜在的に無制限な費用負担(廃棄物管理全体費用について)の削除すること
→
Annex VII の第 6.1 項の削除
②二次原料の販売からの収入を考慮するための生産者の財政面での寄与に関する規定案
(同第6.2項)は支持する
③それぞれの役割と責任に基づき、全ての関係者に対する財政面の貢献の割り当てを具
体的にすること
④EUの役割と責任が無い場合、使用された包装材に対するEPR制度の実施に関わる全て
の関係者に対する役割と責任に関するEUの包装材特有のガイダンスを策定すること
⑤EU 法における使用された包装材に対する EPR 制度に対する法定最低要件を明確にす
ること
(2)
提案された計算方法について
欧州委員会は解釈の余地が無いように計算方法を改善しようとしており、選別後の埋立
て処分またはエネルギー回収された包装廃棄物はもはやリサイクル率に計上されない。
EU EUROPEN は欧州委員会のこの意図は支持している。しかし、我々の業界の全員が提
案に記載されていることを理解しておらず、影響評価は明確になっていないので、以下の
点を明確にすることを要求している。
新しい計算方法を適用しようとすれば、
・計算のベースラインは何であるのか?
・現在のリサイクル率にどのように影響するのか?
そこで、入口を基準、プロセス中、出口を基準とした場合の 3 つの解釈が可能である。
そして、リサイクル目標を達成するにはどうすればよいのかについては、大半の加盟国で
使用されているツールが拡大生産者責任である。これは、EUROPEN が支援しているもの
である。そのため、EUROPEN は資源循環パッケージの継続を支持すると同時に、これら
の明確化が行われ、EPR によって正しいことが得られることを支持している。
計算方法に対する意見は以下の通りである。
①“全ての選別作業が完了した後、再利用とリサイクルプロセスのための最終準備への
投入”として包装材のリサイクルが測定される点を定義すること
②不純物にために廃棄された材料の意図的な控除(引き算)を削除すること
③影響力の大きな材料の目標に対する現在の複合包装材の集計方法は維持すること
④新しい目標設定の前に、EU加盟国から報告された現在のリサイクル率に対する補足的
な影響評価の実施を欧州議会と欧州理事会に要求すること
⑤EU 加盟国で得られた実践的経験に基づき、5 年ごとに目標の見直しを行うこと
(現在の「PPWD」の第 6 条
第 5 項は維持する)
【補足:提案されたリサイクル率の計算方法について】
現在のリサイクル率の測定は、大幅な損失無しに効果的なリサイクルプロセスに入る包装廃棄物の重
量である。この測定方法は、包装商品の生産者または輸入業者(多くの場合でEPR制度に該当する)がリ
― 14 ―
調査報告 ウィーン
サイクル業者に包装廃棄物を提供する現在の慣行に従ったものである。リサイクル業者は、異なった場
所で発生した廃棄物とこの包装廃棄物を混ぜている。
2014年7月に欧州委員会は、リサイクルされる廃棄物の損失が2%以下でない場合、リサイクルプロセ
ス出口でのリサイクル率の測定を提案している。これは以下のような制約につながる。
・リサイクル市場の国際的側面を考えると、個々の包装廃棄物の流れを追跡し、リサイクルについての
完全に信頼できる正確なデータを得ることは(常に)不可能である
・リサイクル可能な副生成物は、材料の起源を理解することができない他のリサイクル業者に送られる
ので、特定の国からの包装廃棄物にさかのぼることはかなり難しい
・EPR制度ではリサイクルの課程を制御することがほぼ不可能である
彼らは二次原料を提供するある種の業界を拠点とするリサイクル業者に自身の包装廃棄物を売るので、そ
の量と出口の品質について決定できるだけである。そして、彼らはそれらの効果的な収率に基づきリサイ
クル業者を決めるので、実際には、二次原料となるリサイクルプロセスへの投入量の割合となる。つまり、
EPR制度がリサイクルプロセスで失われる材料のレベルをさらに制御することは不可能である。この状況
では、EPR制度はリサイクルプロセスからの処理物が比較的少ない損失を持つリサイクル業者に自身の包
装廃棄物を提供するインセンティブを持っている。効率的なリサイクルプロセスを持つリサイクル業者が
いる一方で、これらのリサイクル業者がプラスチック以外の材料に置き換えるために、質の低いリサイク
ルを行う可能性もある。
表 2-2 に、提案された内容が欧州各国の包装材リサイクル率への影響を検討した結果を示
す。プロセス中および出口を基準にすることで、現在のリサイクル率は大幅に低下する可
能性がある。
表 2-2 各国の包装材のリサイクル率への潜在的影響
国
名
リサイクル率*
2011 年時 (%)
提案された新しい計算方法適用時の
2011 年に達成されたリサイクル率への影響 (%)
解釈 1
解釈 2
解釈 3
(入口を基準)
(プロセス中を基準)
(出口を基準)
ベルギー
82
-2.7
-16.3
-13.6
チェコ
74
-2.2
-15.5
-13.0
フランス
70
-2.2
-14.4
-11.6
ドイツ
81
-2.6
-19.8
-15.5
イタリア
67
-2.1
-14.8
-11.5
ポーランド
46
-1.4
-9.3
-7.7
スペイン
65
-2.1
-14.4
-11.4
スウェーデン
69
-2.1
-14.6
-11.7
英 国
61
-1.9
-12.8
-10.2
【特記】*印は木材を除く全体のリサイクル率(Eurostat)
出典:European Bioplastics Conference 講演資料、Virginia Janssens 氏、EUROPEN
(3)
包装材のデザイン要件
― 15 ―
調査報告 ウィーン
包装材のデザイン要件に関する EUROPEN の意見は以下の通りである。
①必須となるような国ごとの包装材のデザイン要件の設定は控える
②包装材と包装商品のための域内市場を弱体化させる
③事実は国の包装材のデザイン要件との矛盾を生み出す可能性がある
④2 ヵ国以上の加盟国内で包装された製品を生産または供給する事業者の負担となる
⑤既存の EU の調和された必須の要件によってすでに対処された方法が設計されている
図 2-4 に、食品廃棄物の発生抑制のための食品包装材の革新例を示す。幅広い用途に応じ
た機能を有する包装材が使用されており、食品廃棄物の抑制に貢献している。
気密封止(ハーメチック・シール)
通気性ポリマーフィルム
微生物に対するバリア
包装材内部から酸素を除去
調整雰囲気包装技術
小分け包装
保存期間の延長
多様なライフスタイルに対応
出典:European Bioplastics Conference 講演資料、Virginia Janssens 氏、EUROPEN
図 2-4 食品廃棄物の発生抑制のための食品包装材の革新例
2.4 まとめ
EUROPENは、欧州の競争力と持続可能な経済において、資源効率と循環経済を促進す
る目標を支持している。
①EU法における共同責任、明確な役割と責任、拡大生産者責任に対するEUの最小要件
― 16 ―
調査報告 ウィーン
②新たな目標設定の前に、現在あるリサイクル目標に関する新しく提案された計算方法
の意味と影響を明らかにする
③域内市場を弱体化させるような国の必須の包装材のデザイン要件の設定を控える
包装材のサプライチェーンの協力は、包装材と包装された商品のための域内市場におい
て調和された欧州および国家の包装材・包装廃棄物の規制を確実にするために重要である。
(参考資料)
・European Bioplastics Conference 講演資料、Virginia Janssens 氏、EUROPEN
・EUROPEN ホームページ、(www.europen-packaging.eu)
・The effect of the proposed EU packaging waste policy on waste managing practice,
A feasibility study (2014 年 10 月)、Epera
― 17 ―
Fly UP