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24 実測に基づく夏季の樹木による温熱環境改善効果
24 実測に基づく夏季の樹木による温熱環境改善効果 立石 真実 0342023 枦元 裕梨 0342034 1.はじめに 表 1 測定樹木表の概要 近年、都市部におけるヒートアイランド現象が顕在化 L2 し、その緩和手段として樹木の効果が注目されている。 l3 既往の研究では、樹木の蒸散特性1)や樹種の違いによる 樹形;L1:L2 日射遮蔽効果2)についての検討が多く存在する。 本研究では、主として樹木による屋外温熱環境の改善 樹冠形状 種類 1:2 丸 シラカシ アオギリ 3:2 2:3 1:3 丸 1:1 1:2 1:3 逆三角 ケヤキ 樹木D 1:1 1:3 1:4 三角 イチョウ 樹木E 2:3 1:4 1:5 逆三角 ケヤキ 人工遮蔽物 5:2 9:5 7:3 ― l1 図 1 樹木形態 効果に着目し、木陰内外の温熱環境の比較を容易にする l1:l2 1:2 樹木B L1 木陰形状②;l1:l3 l1:l3 1:1 樹木C l2 木陰形状①;l1:l2 L1:L2 樹木A 観点から、樹木単体を対象として測定を実施した。その 結果をもとに、蒸散による冷気生成効果や日射遮蔽効果 について解析した。さらに、SET*の快適域出現頻度など ①木陰内 から、環境改善効果を明らかにした。 2.測定概要 2.1 測定対象樹木の選定 ②木陰外 主として形状の観点から、公園の樹木として代表的な ①②風速計、 グローブ球 日射計 温湿度小型センサー 測定対象を選定するために、熊本市内の主要な公園にあ る約 100 本の樹木の写真を撮影した。それら樹木を図 1 に示す各箇所の長さの比率、目視による樹木の葉密度と 図 4 表面温度測定位置 図 2 測定点の平面図(8 月 20~22 日分) 樹冠形状により分類した。その結果、表 1 に示す 5 本の 180cm 樹木とキノコ型の人工遮蔽物の 6 ヶ所が公園内の樹木形 150cm 表 3 測定概要 測定期間 測定樹木 8月20~22日 樹木A 9月7・8・19・20日 樹木B 9月21・22日 樹木C 9月24日、10月2日 樹木D 10月3・4日 樹木E 10月5日 人工遮蔽物 状として代表的と考えられた。 2.2 木陰内外の温熱環境の測定方法 測定項目と測定器、測定間隔などを表 2 に、測定点の 例を図 2 に示す。測定時間は、樹木による温熱環境改善 グリッド数 グリッド間隔 6×6=36 2m 5×6=30 2m 5×6=30 4m 5×6=30 4m 4×9=36 5m 6×6=36 1.5m 120cm 90cm 60cm 30cm 効果を期待する日中(10 時~16 時)とした。垂直・水平 熱電対 温度分布は図 3 に示す測定ポールを用いた移動計測とし、 図 3 移動計測ポール 図 2 に示す格子の各交点を 30 秒(20 秒計測、10 秒移動) 間隔で移動した。測定範囲は測定時間内に木の陰が存在 する領域全てを含む範囲とした。交点数は気象条件があ まり変化しない 15 分程度で計測が行える数(30~36 点) になるように格子間隔を設定した。表 3 に樹木ごとの交 表 2 測定項目 測定項目 測定器 測定間隔・時刻 測定高さ 垂直・水平温度分布 熱電対 10時、12時、14時、16時 地面から30~180cmまで30cm間隔 温度・湿度 温湿度小型センサー 10秒 地面から120cm 風速 トランジスタ式風速計 10秒 地面から120cm グローブ温度 ベルノン式グローブ球 10秒 地面から120cm 日射量 全天日射計 10秒 地面から120cm 葉,地面の表面温度 放射温度計 10時、12時、14時、16時 図4参照 点数と格子の間隔および測定期間を示す。 37 3.蒸散による葉温低下の確認 接着剤あり 接着剤なし 35 葉温(℃) 測定期間中、樹木 B の同じ枝にある 2 枚の葉のうち、 1 枚の葉の裏表両面に透明な接着剤を塗り、葉の蒸散が 生じない状態とし、通常の葉と表面温度を比較した。測 33 31 29 27 定間隔を表 2、測定点を図 4、測定結果を図 5 に示す。接 25 着剤を塗った葉の温度は通常の葉に比べて木陰内気温に 25 27 29 31 33 木陰内気温(℃) 関係なく 0.3~3.4℃高く、蒸散による葉温低下が確認さ 図 5 蒸散による葉温の低下 れた。 49 35 37 木陰内日射量 木陰内グロ ーブ 温度 4.測定結果 38 600 500 の推移の例(全て 10 分平均値)を示す。葉から水蒸気が発 400 日射量(w/㎡) 図 6 に日射量とグローブ温度、図 7 に絶対湿度と風速 生しているものの絶対湿度は木陰内外でほとんど差はな い。風速では木陰内は木陰外より 0.3m/s、グローブ温度 36 34 32 30 300 28 26 200 は 10℃程度低くなる。木陰内の日射量は約 100w/㎡でほ グローブ温度(℃) 4.1 木陰内外の温熱環境の推移 木陰外日射量 木陰外グロ ーブ 温度 24 100 ぼ一定である。これは 4.4 で述べるように樹冠が直達日 22 0 射の大部分を遮蔽し、木陰内日射のほとんどは拡散成分 20 10:00 であるためと考えられる。 11:00 12:00 13:00 time 14:00 15:00 16:00 図 6 9 月 24 日 日射量とグローブ温度 4.2 垂直・水平温度分布 0.7 0.02 図 8 と図 9 に外部の平均風速が 0.71m/s(図 8)のときと 0.6 木陰外風速 絶対湿度(kg/kg) 1.23m/s(図 9)のときの水平温度分布の比較を示す。風速 が弱い場合は木陰内に相対的に 1.5℃程度温度が低い領 域が現れる。図 8 の下段が樹冠真下、図 8 の上段が地面 付近の温度分布である。 樹冠真下の気温がより低いので、 0.5 木陰外絶対湿度 0.4 0.01 0.3 木陰内絶対湿度 風速(m/s) 0.015 0.2 0.005 木陰内風速 木陰内の温度が低い領域は地面からの蒸発冷却効果と同 0.1 時に葉の蒸散により生成された冷気が降下して形成され 0 0 10:00 ると考えられる。一方図 9 では、低温の領域は不明確と 11:00 12:00 13:00 14:00 15:00 16:00 time 図 7 9 月 24 日 絶対湿度と風速 なる。図 10 に樹冠真下の垂直温度分布を示す。風速が弱 い場合の方が樹冠に近づくにつれて気温が低くなる傾向 37.0 が明確である。 34.5 4.3 葉温と日射量の関係 34.0 樹冠 28.5 1) 既往研究 により葉の蒸散量と日射量に正の相関があ ることが示されている。一方で日射量の増加に伴い葉の 29.0 30.0 吸収日射量も増加し、両者のバランスによって葉温と外 35.0 気温度の差が決まると言える。従って日射量と葉温の関 30.5 係を検討することが重要である。 30.0 図 11~図 14 に C 点(常に日影)と E 点(常に日射有、 33.5 31.0 34.0 図 4 参照)と外気温度の差(表面温度-外気温度)と木陰 外日射量の関係を示す。図 11、図 12 は外気温度として 木陰外気温を、図 13、図 14 では木陰内気温を用いた。 35.0 図 11 より日射量が増加すると温度差が減少し、負の値 29.5 となるが、これは日射量が大きくなると外気温も高くな 34.0 29.0 33.5 る一方で葉温はあまり変化しないためと考えられる。図 12 を見るとE 点は常に日射が当たっているが木陰外気温 34.0 より有為に低い。これに対して、人工遮蔽物は 2~5℃高 28.5 くなる。また、C 点ほどではないが日射量の増加に伴い 図 8 水平温度分布図(8 月 20 図 9 水平温度分布図(9 月 22 日、12 時、風速 1.23m/s、 日 12 時、風速 0.7m/s、 上段:地面から 30cm、 上段:地面から 30cm、 中段:地面から 120cm、 中段:地面から 120cm、 下段:地面から 180cm) 下段:地面から 180cm) 温度差が低下する傾向がある。図 13 を見ると葉の C 点 は日射量に関わらず木陰内気温より若干温度が低いが人 工遮蔽物は高い。図 14 より日射量が 400w/㎡以下のと 50 8月20日 きは日射が当たっているにも関わらず C 点の葉より温度 9月22日 180 が低くなっている。これはこの領域では日射量の増加に 150 120 高さ(cm) 伴う蒸散による葉の冷却量が吸収日射量よりも多いため と推察される。また日射量が 500w/㎡以上の場合、葉温 90 60 も高くなるが、 木陰内気温と同程度であることが分かる。 30 4.4 樹冠の日射遮蔽効果 0 25 図 15 に樹種ごとの木陰内外日射量の差 (木陰外-木陰 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 温度(℃) C点の温度-木陰外気温(℃) 内日射量)すなわち遮蔽日射量と木陰外日射量の関係を 示す。プロットは 10 時、12 時、14 時、16 時の 10 分平 均値であり、近似直線を併記する。ここで、木陰外日射 量をIout(w/㎡)、木陰内日射量をIin(w/㎡)として、日射遮 蔽率α(‐)を以下の式で示す。 α=(Iout-Iin)/ Iout 図 10 垂直温度分布 12 葉 人工遮蔽物 8 4 0 -4 0 200 400 600 800 1000 -8 -12 木陰外日射量(w/㎡) 図 11 C 点の温度―木陰外気温と木陰外日射量の関係 図 15 において、近似直線の傾きがαとなり、人工遮蔽 葉 は葉密度が高く樹冠の長さが十分に得られるため、一般 的な高木であれば樹種にかかわらず、日射を完全に遮る 人工遮蔽物と同等の日射遮蔽効果が得られると言えよう。 5.SET*による木陰内の快適域評価 図 16 に 8 月中旬と 9 月下旬の木陰内外のSET の推移 4 0 -4 0 200 400 600 800 1000 -8 -12 図 12 E 点の温度―木陰外気温と木陰外日射量の関係 5 葉 * 。図 16 より木陰外ではSET の C点の温度-木陰内気温(℃) (10 分平均)を示す 8 木陰外日射量(w/㎡) * 注 1) 人工遮蔽物 12 E点の温度-木陰外気温 (℃) 物と樹木の差や樹種による差は見られない。夏季の樹木 変動が大きいが、木陰内ではほぼ一定安定している。こ れは木陰外日射量の変動が木陰内よりも大きいためであ る。SET*の室内環境としての快適域である 22℃~28℃ (以下条件A)を準用して評価すると、図 16 より 8 月中は 人工遮蔽物 3 1 -1 0 200 400 600 800 1000 -3 -5 木陰内であっても快適域に入らない。ほとんどの時間帯 木陰外日射量(w/㎡) で木陰内温熱環境を許容するには快適域の上限を 32℃ 図 13 C 点の温度―木陰内気温と木陰外日射量の関係 E点の温度-木陰内気温(℃) 程度に設定しなければならない。9 月下旬になると木陰 内は多くの時間帯で条件Aの快適域に入り、樹木による 温熱環境改善により木陰内は高い快適性が確保されると 言える。 ここで、測定期間中、条件 A の範囲となる時間の割合 葉 人工遮蔽物 12 8 4 0 -4 0 200 400 600 800 1000 -8 -12 を「快適率」 、条件 A の範囲外となる時間の割合を「不 木陰外日射量(w/㎡) 図 14 E 点の温度―木陰内気温と木陰外日射量の関係 快率」と定義する。木陰外の不快率と木陰内の快適率の 樹木A 関係を図 17 に、 木陰外の快適率と木陰内の快適率の関係 樹木B 樹木C 樹木D 樹木E 人工遮蔽物 木陰外-木陰内日射量(w/㎡) 900 を図 18 に示す。まず図 17 より、木陰外の不快率が 80% 以下の場合、木陰内は常に快適といえる。また、図 18 より木陰外の快適率が 20%未満であっても、木陰内の快 適率は最大 70%程度期待できる。また、図 18 で木陰外 800 700 600 500 400 300 200 100 0 の快適率が 30%以下のプロットを直線近似するとその傾 0 きは約 3.5 となり、 木陰外よりも 3.5 倍の快適域出現率を 200 400 600 木陰外日射量(w/㎡) 800 1000 図 15 木陰外-木陰内日射量と木陰外日射量の関係 51 期待できることになる。さらに、木陰内外の日平均 SET* 45 の差(木陰外 SET*-木陰内 SET*)を「環境改善量」と 40 し、図 19 に示す。環境改善量の平均値は約 3.5℃であっ 35 た。 図 20 に温熱 4 要素を単独で評価した場合の環境改善 28 8月20日木陰内 8月20日木陰外 9月24日木陰内 9月24日木陰外 32 SET*(℃) 30 量を示す。悪化方向では風速の影響、改善方向では放射 25 22 20 SET*を32℃まで許容した時の快適域 SET*快適域 15 温度が大きく、合計として約 3℃環境が改善されている。 10 6.まとめ 5 0 1)木陰内には相対的に気温の低い領域が形成され、外部 10:00 風速が弱い場合に顕著であった。樹冠に近いほど気温が 11:00 12:00 13:00 time 90 木陰内の快適率(%) 80 2)今回測定した樹木の葉密度・樹冠の長さは、一般的と 考えられるが、いずれの樹冠も直達日射の大部分を遮蔽 していると考えられ、人工遮蔽物と樹木の差や、樹種に よる差は見られなかった。 70 60 50 40 樹木A 樹木B 樹木C 樹木D 樹木E 人工遮蔽物 30 20 10 3)夏季における木陰内の快適性を「快適域出現率」や「環 0 境改善効果」から評価し、特に 9 月下旬においては高い 0 10 20 30 40 50 討課題である。 70 60 50 40 30 20 10 注釈: 屋外環境でのSET*の算出に用いる平均放射温度はグローブ温度 を用いて以下の補正式で算出できる。しかし、樹木下のDSTJの算出 方法には課題があり、上式によるtrを用いたSET*を計算した結果、 実測中実際に体感した樹木下の温熱環境とは異なっていたため、本 研究ではグローブ温度を平均放射温度としてSET*を算出した。 SATg = θ r + DSTJ αo 100 80 木陰内の快適率(%) 蒸散と日射吸収の熱収支を明らかにすることが今後の検 κ t g = SATg − ( SATg − θ g ) αo 90 90 また、日射量が 400w/㎡程度のときに葉温が最も低く、 tr − t g 80 100 が当たっている葉でも外気温度と同程度以下であった。 − αc 70 図17樹木による木陰内快適率と木陰外不快率の関係 4)葉温は日陰であれば外気温度より有為に低く、日射 θr − tg 60 木陰外の不快率(%) 快適性を期待できた。 tr − t g 16:00 100 ると考えられた。 αr = κ × 15:00 図 16 8 月中旬と 9 月下旬の一般的な SET*の推移 低く、蒸散により生成された冷気が樹冠から降下してい SATg − θ g 14:00 樹木A 樹木B 樹木C 樹木D 樹木E 人工遮蔽物 0 0 10 20 30 40 50 60 70 木陰外の快適率(%) 80 90 100 図18樹木による木陰内外の快適率の関係 5 ℃ 木陰外SET*-木陰内SET* 4 3 αr:放射熱伝達率(w/㎡℃) k:グローブ球の熱伝導率(k=6.63w/㎡℃) 2 SATg:グローブ球の相当外気温度(℃) θg:計測のグローブ温度(℃) tr:平均放射温度(℃) 1 0 tg:グローブ球の表面温度(℃) αc:対流熱伝達率(w/㎡℃) θr:外気温度(℃) αo:総合熱伝達率(αo=23.2w/㎡℃) DSTJ:グローブ球の熱収支量(w) 8/20 8/21 9/19 9/20 9/21 9/22 9/24 10/3 10/4 10/5day 図 19 環境改善量(℃) 温度 放射温度 風速 相対湿度 合計 5 4 環境改善量(℃) [参考文献] 1)梅田和彦ら 他 2 名:熱環境の評価における樹木の夏季蒸散量 に関する基礎的研究,日本建築学会環境系論文集,第 601 号, 2006 年 3 月 3 改善 2 1 0 -1 2)吉田伸治ら 他 2 名:樹木の成長,樹種の違いが樹冠の葉面積 -2 密度・光学的深さに及ぼす影響,日本建築学会環境系論文集, -3 第 605 号,2006 年 7 月 悪化 図 20 環境要因ごとの環境改善量の例(9 月 24 日) 52